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審決分類 審判 一部無効 利害関係、当事者適格、請求の利益  A61F
管理番号 1366348
審判番号 無効2018-800040  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-04-18 
確定日 2020-09-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第3277180号発明「二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 本件審判の概要
(1)本件特許
本件特許第3277180号(以下、「本件特許」という。)は、平成13年5月29日(優先権主張 平成12年10月3日 日本国)を出願日とする出願であって、平成14年2月8日に設定登録がなされたものである。

(2)請求の趣旨
請求人は、本件審判請求書において、本件特許の「請求項1、2、4及び5に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めている。

(3)答弁の趣旨
被請求人は、答弁書において、「本件審判を却下する」、「審判費用は、請求人の負担とする」との審決を求めている。

第2 手続の経緯
本件無効審判の請求に係る手続の経緯は、以下のとおりである。
平成30年4月18日 審判請求書(以下、「請求書」という。)
平成30年7月12日 審判事件答弁書(以下、「答弁書1」という。)
平成30年8月22日 審判事件弁駁書(以下、「弁駁書」という。)
平成30年10月19日 審判事件答弁書(2)(「以下、「答弁書2」という。)
なお、特許法第145条第1項ただし書の規定により、審判長は職権で書面審理によるものとした。

第3 無効理由と証拠
(1)請求人の主張する無効理由と証拠
請求人の主張する無効理由及び証拠は以下のとおりである。甲第1号証?甲第10号証は請求書に添付して提出され、甲第11号証?甲第14号証は弁駁書に添付して提出されたものである。なお、甲第11?14号証は、請求人適格に関する証拠である。
無効理由1 特許法第29条第1項第2号(同法第123条第1項第2号)
無効理由2 特許法第29条第2項(同法第123条第1項第2号)
(証拠)
甲第1号証:特願2000-303797号 特許願、明細書及び図面
甲第2号証:被請求人のウェブサイトを印刷した書面
甲第3号証:平成26年(ワ)第25485号損害賠償等請求反訴事件における反訴原告ら第5準備書面(抜粋)
甲第4号証の1:平成24年(ネ)第10010号不当利得返還、損害賠償等請求控訴事件、平成24年(ネ)第10017号附帯控訴事件における平成25年3月25日判決(抜粋)
甲第4号証の2:松浦賢の陳述書
甲第5号証:登録実用新案第3050392号公報
甲第6号証:実願平5-12228号(実開平6-61225号)のCD-ROM
甲第7号証:「カワイイ! 2000年11月号」第5巻第13号通巻61号、(株)主婦の友社、平成12年10月2日、126頁
甲第8号証:米国特許第3645835号明細書及び抄訳
甲第9号証:実公昭51-1987号公報
甲第10号証:東京高裁平成14年(行ケ)第539号 平成15年10月8日判決
甲第11号証:中山信弘外編「新・注解特許法第2版[下巻]」(株)青林書院、2017年10月5日第2版第1刷発行、2523頁
甲第12号証:平成30年(ワ)第4329号損害賠償等請求事件における訴状
甲第13号証:平成30年(ワ)第4329号損害賠償等請求事件における訴えの追加的変更の申立書
甲第14号証:「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/chitekizaisan.html

(2)被請求人の証拠
被請求人の証拠は以下のとおりである。乙第1号証?乙第3号証は答弁書1に添付して提出され、乙第4号証?乙第16号証の2は答弁書2に添付して提出されたものである。なお、以下の証拠は、いずれも請求人適格に関する証拠である。
(証拠)
乙第1号証:東京高判昭和54年11月28日(昭和52(行ケ)127号)
乙第2号証:東京高判昭和55年12月23日(昭和55(行ケ)42号)
乙第3号証:平成29年8月21日、請求人と被請求人との間で締結された和解契約書
乙第4号証:竹田稔外著「知的財産権訴訟要論(特許編)」(財)発明推進協会、2017年12月18日第7版発行、541?547頁
乙第5号証:秋山幹男外著「コンメンタール民事訴訟法3(審決注:この「3」はローマ数字の表記である。)[第2版]」、(株)日本評論社、2018年1月20日第2版第1刷発行、12頁
乙第6号証:辻居幸一著「特許の実施許諾契約等をめぐる問題点」(知的財産法の理論と実務第1巻[特許法[1]](審決注:この「1」はローマ数字の表記である。)、新日本法規出版(株)、平成19年6月21日発行)389?401頁
乙第7号証:茶園成樹著「通常実施権者による意匠登録の無効審判の請求」(判例ライセンス法:山下和則先生還暦記念論文集)、(社)発明協会、平成12年1月25日初版発行、421?434頁
乙第8号証:判例・裁判例(最判昭和61年4月22日・昭和58年(行ツ)31号)、判例タイムズNo.617(1986年12月1日)、79?86頁
乙第9号証:判例・裁判例(東京高判昭和58年3月30日・昭和57年(行ケ)133号)
乙第10号証:判例・裁判例(東京高判平成14年1月31日・平成13年(行ケ)146号)
乙第11号証:塩野宏著「行政法2(審決注:この「2」はローマ数字の表記である。)[第5版補訂版]」、有斐閣、2013年3月15日第5版補訂版第1刷発行、184?187頁
乙第12号証:判例・裁判例(最判昭和52年6月20日・昭和48年(オ)1113号)、判例タイムズNo.349、192?204頁
乙第13号証:判例・裁判例(東京高判平成9年7月31日・平成6年(ネ)3182号等)、判例タイムズNo.961(1998年3月25日)103?116頁
乙第14号証の1及び2:判例・裁判例(1につき、最判平成10年12月18日・平成9年(オ)2156号、判例タイムズNo.992(1999年4月1日)98?102頁、2につき、最判平成10年12月18日・平成6年(オ)2415号、判例タイムズNo.992(1999年4月1日)94?98頁)
乙第15号証の1?12(審決注:この「1?12」は1?12の個々の数字を丸囲み表記したものである。):被請求人からの通告書(1)?(4)及びファクシミリ送信文書並びに請求人の回答書又は御連絡と題する書面等並びに本件和解契約書ドラフト
乙第16号証の1及び2:1につき平成30年(ワ)第4329号損害賠償等請求事件における平成30年3月5日付け答弁書、2につき同事件における平成30年4月12日付け被告第1準備書面

第4 本案前の抗弁(請求人適格)に係る当事者の主張等
本件審判においては、特許法第123条第2項に規定する要件である請求人適格が争われているところ、当該請求人適格についての被請求人、請求人の主張の概要は以下のとおりである。

1.被請求人の主張の概要
平成29年8月21日に、請求人及び被請求人との間で、本件特許権が有効に成立していることを認め、無効審判の請求によりその効力を争ってはならないこと等を内容とする和解(以下、「本件和解契約」という。)が成立した(前記乙第3号証の和解契約書の第1条第2条参照)。よって、請求人は、本件審判請求につき利害関係を有さず、請求人適格を欠く。

2.請求人の主張の概要
(1)請求人は、本件特許権について被請求人と訴訟関係(東京地方裁判所 平成30年(ワ)第4329号 損害賠償等請求事件)にあるから、本件無効審判請求につき利害関係を有する。

(2)特許庁は、不争義務に基づく抗弁について判断すべきでないから、本件和解契約によって、本件審判請求を制限されることはない。

(3)本件審判請求は、本件和解契約の不争義務による制限を受ける対象ではない。

(4)本件和解契約による不争義務は、独占禁止法、及び、特許法の規定を勘案すれば、公序良俗に反し無効である。

第5 請求人適格についての当審の判断
本件審判事件については、本件審判の審判請求人が特許法第123条第2項の利害関係人に該当するか(請求人適格)について争われているため、まずこの点について検討する。

1.本件和解契約書(乙第3号証)の記載内容
(1)「株式会社アーツブレインズ(以下「甲」という。)と、株式会社フィートジャパン(以下「乙1」という。)、株式会社センティリオン(以下、「乙2」といい、乙1とあわせて「乙会社ら」と総称する。)、及び小林正則(以下、「乙3」といい、乙会社らとあわせて「乙ら」と総称する。)は、次のとおり和解した(以下「本契約書」という。)。」(1頁1?5行)

(2)「1 乙らは、甲に対し、甲の有する特許第3277180号に係る特許権(以下「本件特許権」という。)が有効に成立していることを認める。」 (1頁6?7行)

(3)「2 乙らは、自ら又は第三者を通じて、無効審判の請求又はその他の方法により本件特許権の効力を争ってはならない。ただし、甲が特許侵害を理由として乙らに対し訴訟提起した場合に、当該訴訟における抗弁として本件特許権の無効を主張することはこの限りではない。」(1頁8?11行)

(4)「3 乙らは、乙3が代表取締役を務める乙会社らが下記のJANコードで特定される商品(以下「本件商品」という。)について、別紙の通り販売したことを認め、平成29年8月31日までに販売を中止するものとする。」、「記」、「「ディファイNo.1ウルトラファイバー」シリーズ(クリア60本入 4573125480102)(ヌーディ60本入 4573125480119)」、「「FD(マイクロ)ブリッジファイバー」シリーズ(クリア1.4mm 100本入 4573125480010)(クリア1.6mm 100本入 4573125480027)(クリア1.8mm 100本入 4573125480034)(ヌーディ1.4mm 100本入 4573125480058)」、「「リュクススーパーファイバー」シリーズ(クリア1.4mm 100本入 4589585580016)(クリア1.6mm 100本入 4589585580023)(クリア1.8mm 100本入 4589585580030)」(1頁12?最下行)

(5)「4 平成29年9月1日以降、乙ら又は乙らが支配もしくは役職員を務める会社(以下「乙関係会社」という。)並びに乙会社ら及び乙関係会社の役職員(以下、乙関係会社とあわせて「乙関係者」と総称する。)は、本件商品若しくは特許第3277180号の権利範囲に属する二重瞼形成用テープ又は本件特許権の侵害品の製造、譲渡、輸出、輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出を自ら行わず、または第三者をしてこれを行わせないものとし、乙らは、乙関係者がかかる義務を遵守することを保証する。」(2頁1?7行)

(6)「6 乙らは、甲及び乙ら間の本件商品にかかる紛争解決のための和解金として、甲に対し、連帯して、第3項の乙らによる本件商品の販売による利益額に相当する4500万円の支払義務を負うことを認め・・・」(2頁12?14行)

(7)「本契約の成立の証として、本契約書2通を作成し、甲及び乙ら代理人が記名押印のうえ、各1通を保有する。」、「平成29年8月21日」、「甲 東京都渋谷区神宮前1-15-2 株式会社アーツブレインズ 代表取締役 谷山次郎」、・・・、「乙1 東京都渋谷区桜丘町26番1号 セルリアンタワー15階 株式会社フィートジャパン 代表取締役 小林正則」(4頁1?15行)

2.請求人適格について
特許無効審判は、「利害関係人」に限り請求することができる(特許法第123条第2項)。
これを本件について見ると、請求人は被請求人との間で本件特許について訴訟関係にあるとはいえ(東京地方裁判所 平成30年(ワ)第4329号 損害賠償等請求事件、甲第12号証、甲第13号証)、請求人と被請求人との間においては、本件特許無効審判の審決時前において、すでに本件和解契約が締結され、上記第5の1.(2)で摘記した本件和解契約書の第2条本文の規定からすると、本件和解契約締結時である平成29年8月21日以降、請求人は、本件特許について特許無効審判を請求しない旨の合意が成立しているといえる。そうすると、本件審決の時点において、請求人は、特許無効審判の請求により、本件特許権の効力を争う地位を有しないから、特許法第123条2項に規定する「利害関係人」であるとはいえない。
したがって、請求人は上記「利害関係人」であるとはいえないにもかかわらず、本件特許無効審判を請求したのであるから、本件請求は特許法123条第2項の規定に違反し不適法なものである。そして、当該不適法な審判の請求は、その補正ができないものであるから、無効理由について判断するまでもなく、特許法第135条の規定により、却下すべきものである。

3.請求人の主張について
(1)請求人は、弁駁書の第5の1において、「特許庁においては,不争義務に基づく抗弁について,特許の有効性自体の判断に影響しない契約関係の問題であるので,判断しないという実務を採用している(甲第11号証:新・注解特許法第2版[下巻]2523頁)。」、「よって,被請求人の不争義務に基づく抗弁は,主張自体失当である。」と主張する。
しかしながら、特許庁が契約関係の問題については判断できないとされる直接の法令上の根拠はない。
ゆえに、被請求人の不争義務に基づく抗弁が主張自体失当とはいえず、上記請求人の主張は採用できない。

(2)また、請求人は、弁駁書の第5の2において、「本件和解契約書において,不争条項を置いた趣旨は,上記の本件和解契約書の締結経緯からすれば,あくまで「過去製品」(当審注:ここでの「過去製品」とは、上記第5の1.(4)で摘記した本件和解契約書の第3条に列挙された「本件商品」と同一である。)に関する本件特許権侵害の紛争を解決することを目的とするものであって,「過去製品」とは別の製品について被請求人が本件特許権を行使する場合においてまでも,請求人が本件特許の有効性を争う利益を放棄したものではない。」、「したがって,本件和解契約書の不争条項の効力は,被請求人が請求人に対し本件製品(過去製品とは別の製品)について本件特許権を行使すること(関連訴訟)に対抗して,請求人が本件無効審判を請求する場合には及ばないと解するのが,当事者の合理的意思に合致する。」と主張する。
ここで、請求人が主張する「本件和解契約書の締結経緯」とは、同じく弁駁書の第5の2に挙げられている次のものである。
ア.「請求人は,過去に,・・・「過去製品」・・・を販売していた(乙3)。」
イ.「請求人の上記販売行為を知った被請求人は,請求人に対し,過去製品は本件特許に係る発明の技術的範囲に属し,請求人による上記販売行為は本件特許権の侵害に当たるので,上記販売行為の中止を求める旨通告した。」
ウ.「そこで,請求人は,本件特許の有効性に問題があると考えていたが,無用な紛争を1日も早く終息したいため,これに応じることとし,上記販売行為を中止して,4500万円の和解金を支払うこと等を条件として,本件和解契約書を締結した(乙3)。」
エ.「そして,本件和解契約書には,被請求人を「甲」,請求人を「乙1」として,「2 乙らは,自ら又は第三者を通じて,無効審判の請求又はその他の方法により本件特許権の効力を争ってはならない。ただし,甲が特許侵害を理由として乙らに対し訴訟提起した場合に,当該訴訟における抗弁として本件特許権の無効を主張することはこの限りではない。」という条項(2条)が盛り込まれた(以下「不争条項」という。)。」
オ.「このように,請求人と被請求人において請求人が当時販売していた過去製品に関する本件特許権の侵害の有無をめぐる紛争があったところ,請求人が紛争の早期解決のために,被請求人の主張を受け入れ,過去製品の販売を中止し,被請求人に和解金4500万円を支払う内容の和解をし,その旨の本件和解契約書を締結するに至ったのである。」
上記「本件和解契約書の締結経緯」について検討すると、本件和解契約書について、第2条において上記不争条項が記載されており、また第3条において請求人は「過去製品」(「本件商品」)の販売を中止するものとされているから、上記ア.、イ.、及びエ.の事実については合理的に推認することができる。しかしながら、上記ウ.及びオ.に関し、請求人が本件特許の有効性に問題があると考えていたことについては、本件和解契約書の記載から推認することができず、むしろ本件和解契約書の第1条で、請求人が本件特許権自体が有効に成立していることを認めていることと整合しない。また、請求人が本件特許の有効性に問題があると考えていたことが、事実であったことを示す証拠も見当たらない。また、上記ウ.及びオ.に関し、請求人が無用な紛争を1日も早く終息したいため、すなわち、紛争の早期解決のため本件和解契約書を締結したということについても、本件和解契約書の記載から推認することはできず、また、このことが事実であったことを示す証拠も見当たらない。
一方、本件和解契約書の第2条本文及び同条ただし書の記載からすると、請求人と被請求人は、本件特許の有効性に疑義がある場合、特許無効審判等により本件特許権の効力を争うのではなく、例外的に特許侵害訴訟において無効の抗弁でのみ本件特許権の効力を争うという紛争解決方法が明示的に定められているといえるところ、同条ただし書の例外は、本件和解契約締結後の将来の紛争に備えて、限定的ではあるものの請求人が本件特許権の効力を争う余地を定めた条項と解される。この本件和解契約締結後の将来の紛争は、過去製品を対象とするのみならず、過去製品とは別の製品を対象としても生じるおそれがある。そうすると、同条本文は、このただし書の例外に対する原則として、請求人が過去製品のみならず過去製品とは別の製品を対象とする将来の紛争においても、本件特許権の効力を特許無効審判等によっては、争わないことを定めていると解するのが合理的であるといえる。
また、この第2条において、「過去製品」のみを対象とするといった限定が付されていないことからすれば、第2条本文において定められている本件特許権の効力を特許無効審判等によっては争わないとする対象は、「過去製品」のみならず、「過去製品」とは別の製品も含まれると解するのに、一定の合理性があるといえる。
また、本件和解契約書の第1条によると、請求人は、対象を「過去製品」に限定せずに、本件特許が有効に成立していることを認めており、本件特許権の効力について対象を限定せずに請求人と被請求人との間で争いがないことが確認されたといえるところ、上記第1条に続く第2条の不争条項の趣旨は、この確認に対する当事者の合理的期待を担保することにあるといえる。
また、本件和解契約書の第4条には、請求人は「過去製品」(「本件商品」)のみならず「特許第3277180号の権利範囲に属する二重瞼形成用テープ又は本件特許権」の侵害行為をしない旨が規定されているから、本件和解契約が「過去製品」に関する特許権侵害の紛争を解決するのみならず、本件特許権が及ぶ製品(「過去製品」とは別の製品)全てについて特許権侵害の紛争を予防することを目的とするものであることは合理的に推認できる。
しかるに、以上の本件和解契約書の締結経緯及び本件和解契約の各条項を総合すると、第2条の不争条項を置くことにより、請求人は、「過去製品」のみならず、「過去製品」とは別の製品についても、特許無効審判等によっては、将来にわたって本件特許権の効力を争う地位を有しないものと解される。
ゆえに、上記請求人の主張を採用することはできない。

(3)請求人は、弁駁書の第5の3において、「公正取引委員会作成の「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成19年9月28日公表,平成28年1月21日改正。甲第14号証)(審決注、以下、「独占禁止法上の指針」という。)によれば,特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対し特許権の有効性について争わない義務(不争義務)を課すことは,無効にされるべき権利が存続し、当該権利に係る技術の利用が制限されることから、公正競争阻害性を有するものとして不公正な取引方法に該当する場合もあるとされている(独占禁止法19条,2条9項,不公正な取引方法(一般指定)12項)(審決注、以下、「特許ライセンス契約における指針」という。)。」、「本件和解契約書は,4500万円を支払うことを条件に(6条),過去に請求人が販売した過去製品につき被請求人が本件特許権の権利行使しない旨を規定する点において,一種のライセンス契約である。仮に本件和解契約書がライセンス契約そのものではないとしても,本件特許権に抵触する行為に関し,金銭の支払等一定の条件の下で権利行使を控えるという点ではライセンス契約と変わらないのであり,公正取引委員会の上記指針(甲第14号証)の規定は本件和解契約書にも同じく妥当する。」、「また,特許法は,本来特許を受けられない技術が特許として存続し続けることは公益上望ましくなく,そのような事態を可及的に許容しない姿勢に立つ。そのような姿勢は,特許無効審判は、特許権の消滅後においても、請求することができること(特許法第123条3項),無効とされた特許権は初めから存在しなかったものとみなすこと(特許法125条),無効とされるべき特許は特許侵害訴訟において行使することができないこと(特許法104条の3)等の規定に見て取れる。」、「さらに,請求人が,被請求人から本件特許権を新たに行使されたにもかかわらず,本件和解契約書に不争条項が存在することのみを理由に本件特許の無効審判を請求できないとすると,被請求人においては,本件特許の無効審判を請求されるというリスクなくして,請求人が販売する本件製品をはじめとするあらゆる種類の二重瞼形成用テープに対して本件特許権を行使できるのに対し,他方で,請求人においては,本件特許の無効審判を請求する手段を一切奪われるため,被請求人による本件特許の自由な行使をおそれ,二重瞼形成用テープを販売することを躊躇せざるを得なくなる。その結果,本来無効となるべき特許により二重瞼形成用テープに係る市場において公正な競争が阻害され,まさに独占禁止法上違法な状態が発生するところとなる。かかる事態は,本来,特許法も予定するところではなく,特許法の制度趣旨からしても許容されるべきものではない。」、「以上のような独占禁止法や特許法の規定を勘案すれば,仮に,本件和解契約書の不争条項が,本件無効審判請求を制限するものであるとするならば,公序良俗に反し無効である。」と主張する。
しかしながら、上記独占禁止法上の指針の第1の2(2)(注4)には、「以下では、ある技術の利用を他の者に許諾することをライセンス・・・という。」と記載されている。これを本件和解契約についてみると、特許権者たる被請求人が請求人に対し、本件特許権の利用を許諾する旨を内容とするものではないから、ライセンス契約であるとはいえない。ゆえに、適用される対象がライセンス契約であることを前提とする、「独占禁止法上の指針」の上記「特許ライセンス契約における指針」は、本件和解契約に直に妥当するとはいえない。また、被請求人は、本件特許権をその範囲で行使できるにすぎず、請求人が販売するあらゆる種類の二重瞼形成用テープに対して本件特許権を行使できるわけではない。一方で、請求人は、特許侵害訴訟における抗弁として本件特許の無効を主張することができるのであるから、本件特許に無効理由があるにもかかわらず本件特許に係る技術を利用できないという状態に陥るとは必ずしもいえない。そうすると、本件和解契約書の不争条項は、独占禁止法に鑑みて公序良俗に反し無効であるとまではいえない。
さらに、特許無効審判においては、「利害関係人」に限り請求することができるところ(特許法第123条第2項)、審判の請求は審決が確定するまでは取り下げることができ(答弁書の提出があった後でも相手方の承諾があれば取り下げることができる。)(同法第155条第1項、第2項)、審判においては請求人が申し立てない請求の趣旨については審理することができない(同法第153条第3項)とされる等、当事者の意思が尊重されている。また、不争条項に拘束されるのは、あくまでも当該条項を含む契約を締結した当事者に限定され、それ以外の「利害関係人」は、特許無効審判を請求することができるから、公益性が失われるとまではいえない。そうすると、当事者である請求人と被請求人の間で締結された本件和解契約書の不争条項は、特許法に鑑みて公序良俗に反し無効であるとまではいえない。
したがって、上記請求人の主張を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本件審判請求は、特許法第123条第2項の規定に違反するものであって、その補正をすることができないものであるから、同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-22 
結審通知日 2019-02-27 
審決日 2019-03-12 
出願番号 特願2001-160951(P2001-160951)
審決分類 P 1 123・ 02- X (A61F)
最終処分 審決却下  
前審関与審査官 今村 玲英子  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 西藤 直人
久保 克彦
登録日 2002-02-08 
登録番号 特許第3277180号(P3277180)
発明の名称 二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法  
代理人 伊藤 温  
代理人 平田 慎二  
代理人 木村 剛大  
代理人 小林 幸夫  
代理人 金木 章郎  
代理人 神田 秀斗  
代理人 弓削田 博  
代理人 森田 寛幸  
代理人 林 直生樹  

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