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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1366355
審判番号 不服2020-1092  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-27 
確定日 2020-10-06 
事件の表示 特願2016- 39924「粉末試料の観察方法およびその作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月 7日出願公開、特開2017-156226、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年3月2日の出願であって、令和元年5月16日付けで拒絶理由が通知され、同年6月27日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月12日付けで拒絶査定されたところ、令和2年1月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和元年11月12日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1?2に係る発明は、以下の引用文献2?3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
特に、本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献3に記載された発明、及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
2.特表2013-142624号公報
3.特開2014-66586号公報

第3 本願発明
本願の請求項1?2に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」?「本願発明2」という。)は、令和2年1月27日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
粉末を構成する粒子の断面を観察する方法において、
試料載台に設けられた凹みに金属粉末のみを入れた上で、当該凹みからはみ出た金属粉末に対してイオンビームにて擦り切り加工を行うことにより表出した粒子の断面をSEM観察し、粒子同士の凝集具合を把握する、粉末試料の観察方法。
【請求項2】
粉末を構成する粒子の断面をSEM観察し、粒子同士の凝集具合を把握するためのSEM観察用粉末試料を作製する方法において、
試料載台に設けられた凹みに金属粉末のみを入れた上で、当該凹みからはみ出た金属粉末に対してイオンビームにて擦り切り加工を行うことにより粒子の断面を表出させる、SEM観察用粉末試料の作製方法。」

第4 引用文献の記載事項、引用発明

1 引用文献3について

(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下同様。)。

(3-ア)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、オージェ電子分光分析法によって絶縁性粉末試料の元素分析を行うための分析試料調製方法及びその分析方法に関する。」

(3-イ)
「【0007】
ところで、上述したオージェ電子分光分析法と各種の断面加工技術を併用することで、試料の断面部分の分析が可能である。
【0008】
しかしながら、オージェ電子分光分析法は、電子線をプローブとして用いるため、試料が絶縁性の場合には帯電現象を起こすという問題がある。試料に照射された電子は、試料が導電物である場合には金属製の試料ホルダーを通して系外へ流れ出るが、試料が絶縁性である場合には試料表面に照射電子や電子線照射によって生じた2次電子が溜まり、試料表面がマイナスに帯電する。特に、絶縁性粉末試料における粉末断面を分析したい場合、従来法では試料を樹脂中に埋め込んでクロスセクションポリッシャーや研磨等を用いて断面加工を行った後に分析を行うが、このオージェ電子分光分析法では、試料が絶縁性であるだけでなく周囲の樹脂も絶縁性であるため、測定領域内の余分な電子が測定領域外に逃げず、帯電現象を抑制することが非常に困難となる。」

(3-ウ)
「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、絶縁性の粉末試料を分析対象としたオージェ電子分光分析に際して、帯電現象を抑制して正確な分析を可能にする分析試料調製方法及び分析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本件発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、絶縁性粉末の周囲に導電助剤を存在させることによって、測定領域内の余分な電子を効率よく試料外に逃して帯電を解消できることを見出し、本発明を完成させるに至った。」

(3-エ)
「【0024】
<1.オージェ電子分光分析法に用いる分析試料の調製方法> 本実施の形態に係る分析試料調製方法は、オージェ電子分光分析法によって試料の元素分析を行うための分析試料の調製方法であって、絶縁性であり且つ粉末の試料(以下、「絶縁性粉末」という。)を分析対象とする試料の調製方法である。
【0025】
具体的に、この分析試料調製方法は、分析対象となる絶縁性粉末と導電助剤との混合を行い、混合によって得られた混合物を金属製の粉末ホルダーに充填し、混合物に対して断面加工を行うことにより分析断面を形成することを特徴とする。」

(3-オ)
「【0038】
図2は、絶縁性粉末20と導電助剤21とを混合して得られた混合物22を粉末ホルダー10に充填させたときの状態を示す模式図である。なお、図2(A)が混合物22を粉末ホルダー10に充填させた状態の斜視図であり、図2(B)が粉末充填部11に充填された混合物22を通過する垂直断面図である。
【0039】
(断面加工(分析断面の形成))
上述のようにして粉末ホルダーに絶縁性粉末と導電助剤との混合物を充填すると、次に、その混合物に対して断面加工を施して、オージェ電子分光分析による電子線の照射面となる分析断面を形成し、分析試料とする。
【0040】
混合物に対して施す断面加工方法としては、特に限定されないが、クロスセクションポリッシャーにより行うことが好ましい。
【0041】
クロスセクションポリッシャー法(CP法)は、試料に遮蔽板を密着させて遮蔽板から出ている部分をアルゴンイオンのスパッタリングで削ることによって断面を作成する方法である。このクロスセクションポリッシャーによれば、よりきれいな鏡面仕上げが可能となって分析精度を高めることができるとともに、特に、本実施の形態のように絶縁性粉末と導電助剤との異なる材料が混在している混合物に対して、効果的に断面加工を行うことができるという点で好ましい。
【0042】
図3は、粉末ホルダー10に充填させた絶縁性粉末20と導電助剤21との混合物22を断面加工して得られた分析試料30の模式図である。なお、図3(A)が分析試料30の斜視図であり、図3(B)が断面加工した混合物22を通過する垂直断面図である。」

(3-カ)
「【0046】
<2.オージェ電子分光分析法による分析方法>
次に、オージェ電子分光分析法による分析方法について説明する。本実施の形態に係るオージェ電子分光分析法による分析方法では、上述のようにして調製された分析試料を用いることを特徴とする。すなわち、分析対象となる絶縁性粉末と導電助剤とを混合し、混合して得られた混合物を金属製の粉末ホルダーに充填し、その混合物に対して断面加工を行うことにより分析断面を形成して得られた分析試料を用いて元素分析を行う。」

(3-キ)
図2


(3-ク)
図3


(2)上記(3-ア)?(3-ク)の記載を踏まえれば、上記引用文献3には、以下の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のため、引用発明3の認定に使用した引用文献3の段落番号等を、付記してある。
「a)オージェ電子分光分析法によって絶縁性粉末試料の断面部分の元素分析を行う方法であって、【0001】【0007】
b)分析対象となる絶縁性粉末と導電助剤との混合物を金属製の粉末ホルダーに充填し、混合物に対してアルゴンイオンのスパッタリングで削ることによって断面を作成する方法であるクロスセクションポリッシャーにより断面加工を行うことにより分析断面を形成する、【0025】【0040】【0041】
c)上記方法。」

2 引用文献2について

(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。

(2-ア)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、試料作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題、エネルギー問題等の理由で、電気自動車が注目されている。この電気自動車のバッテリーとしてリチウムイオン電池の開発が進められている。リチウム(Li)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等を含むリチウムイオン電池粉体材料の断面の観察や元素分析は、リチウムイオン電池の開発を進めるうえで、重要である。リチウムイオン電池粉体材料の分析手法として、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy)は、リチウムのような軽い元素も分析できるため有効である。また、SEM(Scanning Electron Microscope)観察は、粉体の形状の観察に有効である。」

(2-イ)
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した粉体を樹脂等に固定して断面加工を行う方法を用いて、リチウム粉体を含む試料の試料作製を行った場合、固定用の樹脂にリチウムが吸収されたり、拡散してしまったりする場合があった。そのため、この方法を用いて断面加工された試料の観察や元素分析を行っても、存在するはずのリチウムが観察されなかったり、検出されなかったりする場合があった。さらに、試料が樹脂に固定されているため、分析や観察を行う際に照射される電子線等によって、試料が帯電(チャージアップ)してしまう場合があった。
【0006】
このように、リチウム粉体を含む試料では、観察や元素分析に適した断面を作製することが困難であった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、リチウム粉体を含む試料に対して、観察や元素分析に適した断面を作製することができる試料作製方法を提供することができる。」

(2-ウ)
「【0009】
このような試料作製方法によれば、コロイド粒子を含む固定剤を用いることにより、当該固定剤が、試料が充填された窪み内に、浸透することを抑制することができる。そして、イオンビームによって、固定剤に触れた試料を除去して、固定剤の影響の少ない試料(例えば、固定剤に触れていない試料)の断面を得ることができる。したがって、試料に対する固定剤の影響を低減することができ、観察や元素分析に適したリチウム粉体の断面を得ることができる。さらに、このような試料作製方法によれば、基体が高い電気伝導度を有するため、測定や観察時に、試料の帯電(チャージアップ)を抑制することができる。」

(2-エ)
「【0023】
次に、図2に示すように、リチウム粉体を含む試料Sを基体10に設けられた窪み12に充填する。試料Sは、リチウム粉体を含む。なお、ここでは、リチウム粉体という文言を、リチウム単体の粉体のみではなく、リチウム化合物の粉体を含む意味で用いている。試料Sに含まれるリチウム粉体の粒径は、例えば、0.1?200μm程度である。試料Sは、リチウム以外の物資を含んでいてもよい。試料Sは、例えば、リチウムの他に、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等を含むリチウムイオン電池材料の粉体であってもよい。試料Sの充填は、基体10の側面11に置かれた試料Sを、薬包紙等で、窪み12に埋めることにより行うことができる。試料Sは、窪み12が完全に埋まるように充填される。
【0024】
次に、図3に示すように、窪み12に充填された試料Sを覆うように、コロイド粒子を含む固定剤を塗布する。これにより、充填された試料S上に蓋20を形成することができる。固定剤としては、例えば、コロイダルグラファイトを用いることができる。コロイダルグラファイトは、グラファイト粉末(例えば、直径1μm以下)を水やアルコール等の溶媒中に分散したものである。すなわち、コロイダルグラファイトは、グラファイト(炭素)粉末と、水またはアルコールと、で構成されている。
【0025】
図4は、固定剤20aを塗布する工程を説明するための図である。なお、図4は、基体10の窪み12を模式的に示す断面図である。ここでは、固定剤20aとしてコロイダルグラファイトを用いた場合について説明する。本工程は、具体的には、まず、固定剤20a(コロイダルグラファイト)を、窪み12に充填された試料Sを覆うように塗布する。図示の例では、固定剤20aは、充填された試料S上および基体10の側面11上に塗布されている。次に、固定剤20aの溶媒(水またはアルコール)を蒸発させる。これにより、図3に示すように、窪み12に充填された試料Sを覆う蓋20を形成することができる。固定剤20aがコロイダルグラファイトの場合、蓋20の材質は、グラファイト(炭素)である。
【0026】
ここで、固定剤20aはコロイド粒子(グラファイト)を含む。そのため、図4に示すように、固定剤20aを試料S上に塗布すると、コロイド粒子が繋がって、窪み12の開口付近に層(グラファイトの層)が形成される。そのため、固定剤20a(水またはアルコール等の溶媒を含む)が試料Sの粒子間を浸透しづらくなる。したがって、試料Sが充填された窪み12内に、固定剤20aが浸透することを抑制できる。これにより、窪み12に充填された試料Sのうち、窪み12の開口付近の試料Sに固定剤20aが触れたとしても、その他の領域にある試料Sに固定剤20aが触れることを抑制することができる。図示の例では、固定剤20aは、充填された試料Sの表面から1?2層程度、浸透している。また、試料Sの粒子と窪み12の内面13,14とが接触している領域は、試料Sの粒子同士が接触している領域と比べて隙間ができやすい。そのため、窪み12の内面13,14近傍では、固定剤20aは、より窪み12の奥(試料Sの表面から5?10層)まで浸透する。」

(2-オ)
「【0027】
次に、図5に示すように、窪み12に充填された試料SにイオンビームBを照射して、リチウム粉体の断面を形成する。本工程は、例えば、クロスセクションポリッシャー装置(以下「CP装置」ともいう)100を用いて行われる。」

(2-カ)
「【0029】
本工程では、窪み12の開口付近の試料Sが削れてなくなるように、イオンビームBで基体10、蓋20、および試料Sを削る。また、本工程では、蓋20の一部が窪み12上に残るようにイオンビームBを照射する。
【0030】
図6および図7は、イオンビームBを照射した後の基体10および試料Sの状態を示す図である。なお、図7は、図2に対応している。
【0031】
図6および図7に示すように、イオンビームBにより基体10の一部、蓋20の一部、および試料Sの一部が削れて、窪み12に充填された試料Sが露出している。そして、図7に示すように、試料Sを構成するリチウム粉体の一部には、断面が形成される。本工程において、窪み12の開口付近の試料SをイオンビームBで削って除去することにより、固定剤20aに触れた試料Sを除去して、固定剤20aの影響の少ない試料S(例えば、固定剤に触れていない試料)の断面を得ることができる。また、本工程において、図6に示すように、蓋20の一部を窪み12上に残すことにより、試料Sを窪み12から落ちにくくすることができる。また、図7に示すように、窪み12の内面13,14には、蓋20の一部が残る。この内面13,14に残った蓋20の一部は、窪み12に充填された試料Sの粒子を押圧し、試料Sの粒子が窪み12の外に落ちないように保持する。そのため、試料Sを窪み12から落ちにくくすることができる。」

(2-キ)
「【0035】
本実施形態によれば、基体10の材質は、ベリリウム、ホウ素、炭素の少なくとも1つである。ベリリウム、ホウ素、炭素は、リチウムのオージェピークが検出されるエネルギー帯(30?55eV)付近にオージェピークを有さない。したがって、本実施形態に係る試料作製方法で作製したリチウム粉体の断面をオージェ電子分光法で分析した場合に、基体10の成分が検出されたとしてもリチウムのオージェピークと重ならず、その影響が少ない。そのため、オージェ電子分光法において、精度が高く、解釈の容易な測定が可能となる。
【0036】
さらに、ベリリウム、ホウ素、炭素は、高い電気伝導度を有するため、オージェ電子分光法での測定時やSEM観察時に、試料Sのチャージアップを抑制することができる。また、ベリリウム、ホウ素、炭素は、高い熱伝導度を有するため、オージェ電子分光法での測定時やSEM観察時に、試料Sに発生する熱を、逃がすことができる。」

(2-ク)
図4


(2-ケ)
図5


(2-コ)
図6


(2-サ)
図7


(2)上記(2-ア)?(2-サ)の記載を踏まえれば、上記引用文献2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のため、引用発明2の認定に使用した引用文献2の段落番号等を、付記してある。
「a)リチウム粉体を含む試料に対して、リチウム粉体の断面を作製し観察する方法であって、【0007】【0009】
b)基体10に設けられた窪み12に、リチウム粉体を含む試料Sを充填し、【0023】
c)窪み12に充填された試料Sを覆うように、充填された試料S上および基体10の側面11上に固定剤を塗布し、固定剤を、充填された試料Sの表面から1?2層程度、浸透させ、次に、固定剤の溶媒(水またはアルコール)を蒸発させることにより窪み12に充填された試料Sを覆う蓋20を形成し、【0024】【0025】【0026】
d)窪み12に充填された試料SにイオンビームBを照射して、窪み12の開口付近の試料Sが削れてなくなるように、イオンビームBで基体10、蓋20、および試料Sを削り、蓋20の一部を窪み12上に残すことにより、または、窪み12の内面13,14に、蓋20の一部が残ることにより、試料Sを窪み12から落ちにくくし、リチウム粉体の断面を形成し、【0027】【0029】【0031】
e)SEM観察する【0036】
f)上記方法。」

第5 対比・判断

1 本願発明1について

(1)本願発明1と引用発明3とを対比する。
ア 試料の分析方法について1
(ア)引用発明3の「a)」「絶縁性粉末試料」が多数の粒子から構成されることは自明である。
また、引用発明3の「a)オージェ電子分光分析法によって絶縁性粉末試料の断面部分の元素分析を行う方法」は、「b)」「形成」した「分析断面を」「元素分析」をとおして観察しているといえる。
(イ)そうすると、引用発明3の「a)オージェ電子分光分析法によって絶縁性粉末試料の断面部分の元素分析を行う方法」と、
本願発明1の「粉末を構成する粒子の断面を観察する方法」とは、
「粉末を構成する粒子の断面を観察する方法」で一致する。

イ 試料を凹部に入れる工程につて
(ア)引用発明3の「b)」「金属製の粉末ホルダー」は、「分析対象となる絶縁性粉末と導電助剤との混合物を」「充填」するものであるから、本願発明1の「凹み」が「設けられた」「試料載台」に相当する。
(イ)また、引用発明3の「b)分析対象となる絶縁性粉末と導電助剤との混合物」と、本願発明1の「金属粉末のみ」とは、「断面を作成する試料」で共通する。
(ウ)そうすると、引用発明3の「b)分析対象となる絶縁性粉末と導電助剤との混合物を金属製の粉末ホルダーに充填」することと、
本願発明1の「試料載台に設けられた凹みに金属粉末のみを入れ」ることとは、
「試料載台に設けられた凹みに断面を作成する試料を入れ」る点で共通する。

ウ 試料の断面を加工する工程につて
(ア)引用文献3の断面作成前の図2、断面作成後の図3から、断面作成前の金属製の粉末ホルダーの縁と作成後の試料の断面が同一平面上にあることが見てとれる。
そうすると、引用発明3の「b)分析対象となる絶縁性粉末と導電助剤との混合物を金属製の粉末ホルダーに充填し、混合物に対してアルゴンイオンのスパッタリングで削ることによって断面を作成する方法であるクロスセクションポリッシャーにより断面加工を行うことにより」「形成」する「分析断面」は、「金属製の粉末ホルダー」に対して「分析対象となる絶縁性粉末と導電助剤との混合物」を、擦り切り一杯の状態になるように「金属製の粉末ホルダー」からはみ出した部分を削っているといえる。

(イ)そうすると、上記イを踏まえれば、引用発明3の「b)」「混合物に対してアルゴンイオンのスパッタリングで削ることによって断面を作成する方法であるクロスセクションポリッシャーにより断面加工を行うことにより」「形成」する「分析断面」と、
本願発明1の「当該凹みからはみ出た金属粉末に対してイオンビームにて擦り切り加工を行うことにより表出した粒子の断面」とは、
「当該凹みからはみ出た断面を作成する試料に対してイオンビームにて擦り切り加工を行うことにより表出した粒子の断面」で共通する。

エ 試料の分析方法について2
(ア)上記アを踏まえれば、引用発明3の「c)上記方法。」と、
本願発明1の「表出した粒子の断面をSEM観察し、粒子同士の凝集具合を把握する、粉末試料の観察方法」とは、
「表出した粒子の断面を観察する方法」で共通する。

(2)よって、本願発明1と引用発明3とは、
「粉末を構成する粒子の断面を観察する方法において、
試料載台に設けられた凹みに断面を作成する試料を入れた上で、当該凹みからはみ出た断面を作成する試料に対してイオンビームにて擦り切り加工を行うことにより表出した粒子の断面を観察する方法」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
粉末を構成する粒子の断面の観察が、本願発明1では、「金属粉末のみ」を「SEM観察し、粒子同士の凝集具合を把握する」「観察」であるのに対して、引用発明3では、「絶縁性粉末と導電助剤との混合物」を「オージェ電子分光分析法に」より「元素分析」をとおしての「観察」である点。

(3)相違点についての判断
ア 相違点について検討する。
引用文献2には、「窪み12に充填されたリチウム単体の粉体を含む試料SにイオンビームBを照射して、リチウム粉体の断面を形成」し「SEM観察する」ことが記載されている。
しかし、引用発明3は、絶縁性の粉末試料の断面部分を分析対象としたオージェ電子分光分析に際して、帯電現象を抑制して正確な分析を可能にすることを課題とし、絶縁性粉末の周囲に導電助剤を存在させることによって、測定領域内の余分な電子を効率よく試料外に逃して帯電を解消するものである。
そうすると、引用発明の絶縁性の粉末試料を「オージェ電子分光分析法に」よる「元素分析」をとおして「観察」することから、帯電現象を抑制する必要がなく上記課題が存在しない「金属粉末のみ」を「SEM観察し、粒子同士の凝集具合を把握する」「観察」とすることには、動機付けがあるとはいえない。

イ したがって、引用発明3及び引用文献2の記載事項から、当業者であっても上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想起し得たとはいえない。

ウ したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明3及び引用文献2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本願発明1と引用発明2とを対比する。

ア 試料の分析方法について1

(ア)引用発明2の「a)リチウム粉体」、「リチウム粉体を含む試料」は、共に本願発明1の「粉末」に相当する。
そして、引用発明2の「a)」「リチウム粉体の断面」は、粉体が多数の粒子からなることは自明であるから、補正発明1の「粉末を構成する粒子の断面」に相当する。

(イ)したがって、引用発明2の「a)リチウム粉体を含む試料に対して、リチウム粉体の断面を作製し観察する方法」は、本願発明1の「粉末を構成する粒子の断面を観察する方法」に相当する。

イ 試料を凹部に入れる工程につて
(ア)引用発明2の「b)基体10」及び「基体10に設けられた窪み12」は、それぞれ、本願発明1の「試料載台」及び「試料載台に設けられた凹み」に相当する。

(イ)また、リチウムは原子番号3のアルカリ金属元素の一種であるから、金属といえるので、引用発明2の「b)」「リチウム粉体を含む試料S」は、金属単体の粉体を含む試料Sといえる。
さらに、引用発明2は、「b)基体10に設けられた窪み12に、リチウム粉体を含む試料Sを充填し」ているものであるから、「窪み12」には、「リチウム粉体を含む試料S」をいれているといえる。

(ウ)そうすると、引用発明2の「b)」「リチウム粉体を含む試料S」と、本願発明1の「金属粉末のみ」とは、「試料」で共通する。

(エ)以上より、引用発明2の「(b)基体10に設けられた窪み12に、リチウム粉体を含む試料Sを充填し」、「c)窪み12に充填された試料Sを覆うように、充填された試料S上および基体10の側面11上に固定剤を塗布し、固定剤を、充填された試料Sの表面から1?2層程度、浸透させ、次に、固定剤の溶媒(水またはアルコール)を蒸発させることにより窪み12に充填された試料Sを覆う蓋20を形成」することと、
本願発明1の「試料載台に設けられた凹みに金属粉末のみを入れ」ることとは、
「試料載台に設けられた凹みに試料を入れ」る点で共通する。

ウ 試料の断面を加工する工程につて
(ア)引用発明2の「d)」「リチウム粉体の断面」は、「窪み12に充填された試料SにイオンビームBを照射して、窪み12の開口付近の試料Sが削れてなくなるように、イオンビームBで基体10、蓋20、および試料Sを削り、蓋20の一部を窪み12上に残すことにより、または、窪み12の内面13,14に、蓋20の一部が残ることにより、試料Sを窪み12から落ちにくくし、」「形成」するものであり、その「基体10」も表面付近が削られた後の断面である。
そして、「b)」「リチウム粉体を含む試料S」の断面に粉体粒子の断面が表出することは自明である。

(イ)そうすると、引用発明2の「d)窪み12に充填された試料SにイオンビームBを照射して、窪み12の開口付近の試料Sが削れてなくなるように、イオンビームBで基体10、蓋20、および試料Sを削り、蓋20の一部を窪み12上に残すことにより、または、窪み12の内面13,14に、蓋20の一部が残ることにより、試料Sを窪み12から落ちにくくし、」「形成」する「リチウム粉体の断面」と、
本願発明1の「当該凹みからはみ出た金属粉末に対してイオンビームにて擦り切り加工を行うことにより表出した粒子の断面」とは、
「当該凹みに充填した試料に対してイオンビームにて断面加工を行うことにより表出した粒子の断面」で共通する。

エ 試料の分析方法について2
(ア)引用発明2の「d)」「形成し」た「リチウム粉体の断面」を「e)SEM観察する」ことと、
本願発明1の「粒子の断面をSEM観察し、粒子同士の凝集具合を把握する」こととは、「粒子の断面をSEM観察」する点で共通する。

(5)よって、本願発明1と引用発明2とは、
「粉末を構成する粒子の断面を観察する方法において、
試料載台に設けられた凹みに試料を入れた上で、当該凹みに充填した試料に対してイオンビームにて断面加工を行うことにより表出した粒子の断面をSEM観察する、粉末試料の観察方法。」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本願発明1では、「凹みに金属粉末のみを入れ」るのに対して、引用発明2では、「窪み12に、リチウム粉体を含む試料Sを充填し、窪み12に充填された試料Sを覆うように、充填された試料S上および基体10の側面11上に固定剤を塗布し、固定剤を、充填された試料Sの表面から1?2層程度、浸透させ、次に、固定剤の溶媒(水またはアルコール)を蒸発させることにより窪み12に充填された試料Sを覆う蓋20を形成」する点。

(相違点2)
断面加工について、本願発明1では、「凹みからはみ出た金属粉末に対して」「擦り切り加工を行う」のに対して、引用発明2では、「イオンビームBで基体10、蓋20、および試料Sを削り、蓋20の一部を窪み12上に残すことにより、または、窪み12の内面13,14に、蓋20の一部が残ることにより、試料Sを窪み12から落ちにくく」する点。

(相違点3)
粒子の断面をSEM観察することについて、本願発明1では、「粒子同士の凝集具合を把握する」のに対して、引用発明2では、観察内容を特定していない点。

(6)相違点についての判断
ア 相違点1について検討する。
引用文献3には、「分析対象となる絶縁性粉末と導電助剤との混合物を金属製の粉末ホルダーに充填」することは記載されているが、「凹みに金属粉末のみを入れ」ることは記載されていない。
仮に、「凹みに金属粉末のみを入れ」ることが記載された引用文献があるとしても、引用発明2は、「窪み12に、リチウム粉体を含む試料Sを充填し」、その次に「窪み12に充填された試料Sを覆うように、充填された試料S上および基体10の側面11上に固定剤を塗布し、固定剤を、充填された試料Sの表面から1?2層程度、浸透させ、次に、固定剤の溶媒(水またはアルコール)を蒸発させることにより窪み12に充填された試料Sを覆う蓋20を形成し」、「イオンビームBで基体10、蓋20、および試料Sを削り、蓋20の一部を窪み12上に残すことにより、または、窪み12の内面13,14に、蓋20の一部が残ることにより、試料Sを窪み12から落ちにくく」するという効果を期待するものであるから、窪みに入れる対象として、試料である「金属粉末のみ」とすると、窪みに入った金属粉末を覆う蓋が形成されず、蓋の一部が残ることによる、試料を窪みから落ちにくくするという効果が期待できなくなるので、窪みに入れる対象として、試料である「金属粉末のみ」とすることには、阻害要因がある。

イ してみると、引用発明2及び引用文献3の記載事項から、当業者であっても上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想起し得たとはいえない。

ウ したがって、本願発明1は、相違点2、3を検討するまでもなく、当業者であっても引用発明2及び引用文献3の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(7)小括
以上より、本願発明1は、当業者であっても引用発明2及び引用文献3の記載事項に基づいて、または引用発明3及び引用文献2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の粉末試料の作製方法を特定した粉末試料の観察方法の発明を、粉末試料の観察方法を特定した粉末試料の作製方法の発明に組み換えて構成した発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明2及び引用文献3の記載事項に基づいて、または引用発明3及び引用文献2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1?2は「凹みに金属粉末のみを入れた上で、」「SEM観察し、粒子同士の凝集具合を把握する」という特定事項を有するものとなっており、当業者であっても、原査定において引用された引用文献2?3に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-09-16 
出願番号 特願2016-39924(P2016-39924)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 野田 華代  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 信田 昌男
森 竜介
発明の名称 粉末試料の観察方法およびその作製方法  
代理人 阿仁屋 節雄  

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