• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1366359
審判番号 不服2018-14838  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-07 
確定日 2020-09-17 
事件の表示 特願2015- 32852「デクスメデトミジン注射液を充填したプレフィルドシリンジ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 1日出願公開、特開2016-154598〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年2月23日の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成30年 5月17日付け:拒絶理由通知
平成30年 7月20日:意見書及び手続補正書
平成30年 8月 8日付け:拒絶査定
平成30年11月 7日:審判請求、同時に手続補正書
令和 1年11月28日付け:拒絶理由通知
令和 2年 1月22日:意見書及び手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「シリンジバレルと、
前記シリンジバレルの先端を密封する封止キャップと、
プランジャと、
前記シリンジバレル内に収納され、前記シリンジバレル内を液密に摺動可能なガスケットと、
前記シリンジバレル内に収納された、デクスメデトミジン濃度1μg/mL?10μg/mLであり、pHが5?6であるデクスメデトミジン注射液とを含み、
前記デクスメデトミジン注射液は添加剤として塩化ナトリウムを含み、
前記ガスケットは、前記デクスメデトミジン注射液と接する部位に50μm?200μmの厚みでフッ素樹脂層を含み、該フッ素樹脂層を構成する全成分中、60質量%?100質量%の割合でフッ素樹脂が含有されていることを特徴とするデクスメデトミジン注射液を充填したプレフィルドシリンジ。」

第3 拒絶の理由
当審が通知した令和1年11月28日付け拒絶理由の理由1は、次の理由を含むものである。
本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明、並びに、引用文献2に記載された事項及び引用文献3に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特表2014-508746号公報
引用文献2:特表2014-532664号公報
引用文献3:特表2011-519347号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1には、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
「【0010】
本発明は、一部には、患者に投与する前に再生または希釈する必要のない、予め混合された製剤として調製されたデキスメデトミジンが、長期に渡る保存後において安定性および活性を維持しているという発見に基くものである。従って、このような予め混合された製剤は、コスト高の問題、不便さの問題を解決し、また患者に投与する前の、濃厚なデキスメデトミジン製剤の再生または希釈に関連する可能性のある、汚染または過剰投与の危険性を回避する。(後略)」

「【0014】
本明細書において使用する用語「プレミックス[(premix)または(premixture)]」とは、患者に投与する前に再生または希釈する必要のない、医薬製剤を意味する。例えば、デキスメデトミジンの予め混合されていない製剤とは対照的に、ここに提供される前記予め混合された組成物は、例えば臨床医、病院看護師、介護者、患者または任意の他の個人による希釈操作なしに、患者に投与するのに適している。幾つかの態様において、本発明の組成物は、「使用準備済みの(ready to use)」組成物として調合することができ、この使用準備済みの組成物とは、希釈することなしに患者に投与するのに適した、予め混合された組成物を意味する。例えば、幾つかの態様において、本発明の組成物は、封止された入れ物または容器から該組成物を取出した際に、「使用準備済みの」ものである。幾つかの態様において、本発明の組成物は、「一回使用投薬量(single use dosage)」として調合されることができ、これは、入れ物または容器内の製剤当たり一回分の服用量として、封止された入れ物または容器内に配置されている、予め混合された組成物と呼ばれる。」

「【0032】
幾つかの非-限定的な態様において、前記の入れ物または容器は、ガラスバイアル(例えば、フリントガラスバイアルビンを含むが、これに限定されない)、アンプル、例えばPVC(ポリ塩化ビニル)容器、ビスIV(VisIVTM)プラスチック容器(IL州、レークフォレスト(Lake Forest)のホスピラ(Hospira)社製)、およびCR3エラストマーコポリエステルエーテル容器(IL州、レークフォレストのホスピラ社製)を含むが、これらに限定されない、プラスチック製可撓性容器、CZ樹脂容器、ポリプロピレン容器および注射器等を含むが、これらに限定されない。(後略)」

「【0044】
実施例1:本発明の予め混合したデキスメデトミジン組成物用の包装部品の選択:
0.9%のNaCl溶液中の、4μg/mLの予め混合したデキスメデトミジン組成物用の適当な主包装部品を確認するために、ガラスバイアルビン、アンプル、プラスチック製可撓性容器[CR3エラストマーコポリエステルエーテル容器(IL州、レークフォレスト(Lake Forest)のホスピラ(Hospira)社製)]、PVCおよびビスIV(VisIVTM)プラスチック容器(IL州、レークフォレストのホスピラ社製)、およびアンシル(Ansyr(登録商標))シリンジ(IL州、レークフォレストのホスピラ社製)を含む様々な構成部品において、安定性の研究を行った。予め混合したデキスメデトミジン組成物の一バッチを、0.9%のNaCl溶液中で、4μg/mLなる該プレミックス濃度にて調製した。この溶液を、容量20mLのアンプル、容量50mLのガラスバイアルビン、容量100mLのPVC製可撓性容器、容量100mLのCR3エラストマーコポリエステルエーテル製可撓性容器(IL州、レークフォレストのホスピラ社製)、容量50mLのビスIVプラスチック(IL州、レークフォレストのホスピラ社製)可撓性容器、および容量10mLのアンシルシリンジ(IL州、レークフォレストのホスピラ社製)に満たし、これら全ての構成部品をオートクレーブ処理した。これら滅菌サンプルのpHおよび効力(HPLC法を用いて決定)を測定した。促進テスト条件下(40℃/75%RH)における、該オートクレーブ処理したサンプルの安定性をも、5ヶ月間という期間に渡り評価した(表1)。
【0045】
効力は、HPLC法を用いて評価した。滅菌後の効力値は73?88%なる範囲内にあった。該溶液のpH値は、4.7?6.2なる範囲にあり、6.0なる製造中の結果を与えた。周囲条件下で2週間保存したサンプルを、pH、効力および関連物質についてストした。該2週間保存後のサンプルの効力を、0時間における結果と考えた。というのは、上記4μg/mLの製剤が、室温にて、二週間を越えて安定性を維持していたからである。(後略)
【0046】
促進テスト条件下(40℃/75%RH)における、前記オートクレーブ処理されたサンプルの安定性をも、5か月という期間に渡り評価した(表1)。促進テスト条件下にて5か月間保存した後、ガラス製アンプルおよびバイアルビン内の該予め混合したデキスメデトミジン組成物の効力値は、約98%に維持されており、一方で前記シリンジ内の該組成物の効力値は、約90%であることが分かった。PVCおよびCR3エラストマーコポリエステルエーテルバッグ(IL州、レークフォレストのホスピラ社製)においては、該初期効力値の減少後、更なる効力値の低下は、上記5ヶ月間のテスト中何ら観測されなかった。
【0047】
【表1】

NT:テストせず。


「【0075】
実施例6:ガラスバイアルビンに対するストッパーの選択:
本実施例の目的は、以下の3種を紹介することである。即ち、プレセデックス(Precedex(登録商標))(デキスメデトミジン塩酸塩(IL州、レークフォレストのホスピラ社製))プレミックス注射液4μg/mL:20mL、50mLおよび100mL。プレセデックス濃厚注射液100μg/mLは、ウエスト4416テフロン-被覆エラストマーストッパーを備えた、容量2mLのガラスバイアルビンに詰められて、一般的に市販されている(PA州、ライオンビルのウエストファーマシューティカルサービスズ社製)。
【0076】
未被覆の輸液ストッパーを評価した。28mmのヘルベット(Helvoet) 5330ラバーストッパー(NJ州、ペンソーケンのヘルベットファーマダットワイラーUSA社製)、EDPMラバーストッパー(WI州、フランクスビルのEPSI社製)およびウエスト4432エラストマーストッパー(ウエストファーマシューティカルサービスズ社製)を検討した。実行可能性テストに際して、効力およびストッパーの抽出性物質の減少を観測した。該被覆ストッパーの性能を、ウエスト(West) 4588/40フルロテック(FluroTec(登録商標))エラストマーストッパー(PA州、ライオンビルのウエストファーマシューティカルサービスズ社製)に関する実行可能性テストによって、未被覆のストッパー(ウエスト4432およびヘルベット5330)の性能と比較した。その結果は、未被覆のストッパーに対する、被覆ストッパーを使用した場合の明らかな利点を示した。効力は、該被覆ストッパーについて、安定状態に維持された。従って、プレセデックス注射液に対しては、一般的な製品を模倣し、かつあらゆる薬物吸着を回避するために、被覆ストッパーの使用を目論んだ。
【0077】
ヘルベット(Helvoet) FM 259/0オムニフレックスプラス(OmniflexPlus(登録商標))フルオロポリマー被覆ラバーストッパー(NJ州、ペンソーケンのヘルベットファーマダットワイラーUSA社製)を評価した。化学的な適合性に関するテストが有利であり、オートクレーブ処理した際に、効力またはpHにおける変化は全く観測されず、また有意な量の不純物の存在も検出されなかった。(中略)全てのテストは、これらのストッパーが、使用可能であることを示した。
【0078】
実施可能性、安定性に関する研究は、4μg/mLのプレセデックス注射液を含むバッチを調製し、ヘルベットオムニフレックスプラスストッパーを備えた50mLのバイアルビンに充填し、次いでオートクレーブ処理することにより行った。サンプルを、促進条件(40℃/75%相対湿度、転倒状態で)および長期条件(25℃/60%相対湿度)下で保存した。初期のテストは、効力における低下を示さず、pHにおける変動を示さず、また事実上測定可能な不純物の存在を示さなかった。40℃にて転倒状態で保存されたサンプルの1ヵ月に及ぶ安定性テストは、効力における僅かな低下(2%)を示した。この効力低下傾向は、前記促進条件下で2カ月に渡り継続され、効力における更なる2%の低下をもたらした。前記促進条件下での3カ月に渡る保存の後、該効力は、上記2ヶ月間保存後の値と比較して不変の値に維持されていたが、このことは、効力値が安定化されたことを示す。最初の3ヶ月間の保存中の、効力の低下における同様な傾向が、長期の安定性テスト条件(25℃/60%相対湿度)に対しても観測されたが、その低下の割合(%)は低かった。該長期に渡る安定性テスト条件下での3ヵ月に及ぶ保存中の、効力における低下の全割合は1.1%であった。促進および長期条件下で保存されたサンプルに関する、4および5ヶ月後における安定性テストの結果、効力値は殆ど安定しており、効力値が僅かに低下するに過ぎないことが確認された。1ヶ月間の不純物検出テスト中に、全体として該薬物ピークの0.5%を越える、多数の小さな不純物ピークが観測された。プラセボバッチを調製して、これらのピークが、前記ストッパーまたは該薬物に関連するものであるか否かを確認した。その結果は、不純物が該ストッパーに関連するものであることを示した。」

(2)上記記載から、次の事項が認められる。
ア 段落【0044】の「予め混合したデキスメデトミジン組成物の一バッチを、0.9%のNaCl溶液中で、4μg/mLなる該プレミックス濃度にて調製した。」という記載から、予め混合したデキスメデトミジン組成物の溶液は、添加剤としてNaClを含むといえる。

イ 段落【0044】の「予め混合したデキスメデトミジン組成物の一バッチを、・・・アンシルシリンジ(IL州、レークフォレストのホスピラ社製)に満たし」という記載から、注射液は、予め混合したデキスメデトミジン組成物の溶液といえる。また、段落【0045】の「周囲条件下で2週間保存したサンプルを、pH、効力および関連物質についてストした。該2週間保存後のサンプルの効力を、0時間における結果と考えた。」という記載(なお、「スト」は「テスト」の明らかな誤記と認める。)、及び、【表1】から、予め混合したデキスメデトミジン組成物の溶液について、アンシルシリンジ内で周囲条件下で2週間保存後のpHは5.5であるといえる。

ウ シリンジは、一般的に、シリンジバレルと、プランジャと、前記シリンジバレル内に収納され、前記シリンジバレル内を液密に摺動可能なガスケットとを含み、注射液は、前記シリンジバレル内に収納されるものといえるから、段落【0044】に記載されたアンシルシリンジにおいても、シリンジバレルと、プランジャと、前記シリンジバレル内に収納され、前記シリンジバレル内を液密に摺動可能なガスケットとを含み、注射液は、前記シリンジバレル内に収納されるものといえる。

エ 段落【0014】の「本発明の組成物は、「一回使用投薬量(single use dosage)」として調合されることができ、これは、入れ物または容器内の製剤当たり一回分の服用量として、封止された入れ物または容器内に配置されている、予め混合された組成物と呼ばれる。」という記載、段落【0032】の「前記の入れ物または容器は、・・・注射器等を含む」という記載からみて、段落【0044】に記載されたアンシルシリンジは、予め混合したデキスメデトミジン組成物の溶液を、シリンジ内の製剤当たり一回分の服用量として、封止されたシリンジ内に配置しているといえる。

オ 段落【0044】の「オートクレーブ処理したサンプルの安定性をも、5ヶ月間という期間に渡り評価した」という記載、【表1】の「5ヶ月/40℃」の欄の記載等からみて、アンシルシリンジについて、5ヶ月間という期間に渡り、予め混合したデキスメデトミジン組成物の安定性を評価したことが記載されているといえる。

カ 段落【0078】に記載の「ヘルベットオムニフレックスプラスストッパー」は、段落【0077】に記載の「ヘルベット(Helvoet) FM 259/0オムニフレックスプラス(OmniflexPlus(登録商標))フルオロポリマー被覆ラバーストッパー」であるといえ、当該ストッパーは、「フルオロポリマー」という記載からもわかるとおり、フッ素樹脂層で被覆されたストッパーであるといえる。また、被覆ストッパーは、段落【0076】に記載のとおり、「あらゆる薬物吸着を回避するため」に使用が目論まれるものであるから、被覆された前記フッ素樹脂層は、注射液と接する部位に形成されることは明らかである。また、段落【0078】の「実施可能性、安定性に関する研究」は、促進条件として「転倒状態」でテストしていることからみても、当該フッ素樹脂層は注射液と接する部位に形成されたものであることがわかる。

キ 段落【0078】に記載の「プレセデックス注射液」は、段落【0075】の「プレセデックス(Precedex(登録商標))(デキスメデトミジン塩酸塩(IL州、レークフォレストのホスピラ社製))プレミックス注射液4μg/mL」という記載から、「デキスメデトミジン注射液」といえる。そして、段落【0078】の「実施可能性、安定性に関する研究は、4μg/mLのプレセデックス注射液を含むバッチを調製し、ヘルベットオムニフレックスプラスストッパーを備えた50mLのバイアルビンに充填し、次いでオートクレーブ処理することにより行った。(中略)促進および長期条件下で保存されたサンプルに関する、4および5ヶ月後における安定性テストの結果、効力値は殆ど安定しており、効力値が僅かに低下するに過ぎないことが確認された。」という記載を踏まえると、デキスメデトミジン注射液を収容し、ヘルベットオムニフレックスプラスストッパーを備えたバイアルビンにおいて、段落【0010】に記載のとおり、予め混合された製剤として調製されたデキスメデトミジンが、長期に渡る保存後において安定性および活性を維持しているといえる。

(3)上記(1)の段落【0014】、【0032】、【0044】?【0047】、【表1】、及び、上記(2)のア?オを踏まえると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「シリンジバレルと、
プランジャと、
前記シリンジバレル内に収納され、前記シリンジバレル内を液密に摺動可能なガスケットと、
前記シリンジバレル内に収納された、4μg/mLなるプレミックス濃度であり、周囲条件下で2週間保存後のpHが5.5である、予め混合したデキスメデトミジン組成物の溶液とを含み、
前記予め混合したデキスメデトミジン組成物の溶液は添加剤としてNaClを含み、
前記予め混合したデキスメデトミジン組成物の溶液を、シリンジ内の製剤当たり一回分の服用量として、封止されたシリンジ内に配置したアンシルシリンジ。」

(4)上記(1)の段落【0010】、【0075】?【0078】、及び、上記(2)のカ、キを踏まえると、引用文献1には、次の事項(以下「引用文献1に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。
「デキスメデトミジン注射液を収容したバイアルビンにおいて、該注射液と接する部位がオムニフレックスプラス(OmniflexPlus(登録商標))のフッ素樹脂で被覆されたストッパーを用いることで、予め混合された製剤として調製されたデキスメデトミジンが、長期に渡る保存後において安定性および活性を維持できること。」

2 引用文献2
引用文献2には、次の記載がある。
「【0019】
(前略)所定の実施態様では、皮下投与デバイスは、ガラスバレルと、プランジャーストッパーを有するプランジャーロッドと、針(ニードル)とを具備するプレフィルドシリンジである。(中略)所定の実施態様では、ゴム製プランジャーストッパーは、4023/50ゴム及びFluroTec(登録商標)エチレン-テトラフルオロエチレン(ETFE)コーティングを含む。(後略)」

3 引用文献3
引用文献3には、次の記載がある。
「【0087】
「プレフィルドシリンジ」とは、容器がシリンジであり、組成物が患者に対する組成物の投与の前にシリンジ内に入れられ、かつシリンジにシリンジクロージャー、例えば、限定はされないもののプランジャーによって蓋がされる、組成物、例えば治療用組成物のための容器のことを指す。ある態様において、組成物は製造用充填施設においてシリンジ内に入れられる。ある態様において、シリンジは、シリンジ内に組成物を入れる前に洗浄され、滅菌される。ある態様において、プレフィルドシリンジは、患者に対する組成物の投与の前に、組成物を少なくとも1日、または少なくとも7日、または少なくとも14日、または少なくとも1ヶ月、または少なくとも6ヶ月、または少なくとも1年、または少なくとも2年にわたって含む。ある態様において、プレフィルドシリンジは貯蔵および/または輸送の条件にさらされる。」

「【0089】
「潤滑剤」とは、表面コーティング剤として適用された時に、可動部分の間の摩擦を減らす材料のことを指す。いくつかの例示的な潤滑剤には、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン(Teflon(登録商標))およびTriboGlide(登録商標)(TriboFilm Research, Inc., Raleigh, NC)が非限定的に含まれる。ストッパーのいくつかの例示的なコーティング剤には、Omniflex(Helvoet Pharma, Inc., Pennsauken,NJ)、Nanoskin(Helvovetストッパー[配合物FM457]上にプラズマコーティングされたパーフルオロポリエーテル[PFPE]、TriboFilm, Raleigh, NC製)およびFlurotec(登録商標)(Daikyo Seiko, Ltd., Sumida-Ku, Tokyo)が非限定的に含まれる。」

4 文献4
本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、Gregory Sacha1, et al., “Pre-filled syringes: a review of the history, manufacturing and challenges”, 2015/01, Pharmaceutical Development and Technology, Vol.20, No.1, pp.1-11(以下「文献4」という。)には、次の記載がある。
「Syringes are composed of the barrel, piston, plunger rod, needle and tip cap or needle shield, and a variety of options exist for each of these components (Figure 1).(当審訳:注射器はバレル、ピストン、プランジャロッド、針、及び、先端キャップ又は針シールドから構成され、様々なオプションがこれら構成要素の各々に対して存在する(図1)。)」(「History of the pre-filled syringe」の第2ページ右欄第29?31行)

「Hospira has the PP Ansyr(登録商標) syringe system that is a container option in their One-to-One(登録商標) contract manufacturing business and used for their line of pre-filled emergency medication syringes.(当審訳:ホスピラは、ワントゥワン(登録商標)契約製造事業における容器オプションであり、プレフィルド緊急医療シリンジのラインに使用されるポリプロピレンアンシル(登録商標)シリンジシステムを有する。)」(「History of the pre-filled syringe」の第4ページ左欄第16?18行)



Figure2. Photograph of Luer lock tip and cap.(当審訳:図2 ルアーロック先端及びキャップの写真)」(図2)





5 文献5
本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、国際公開第2009/082034号(以下「文献5」という。)には、次の記載がある。
「本発明におけるゴム成形品は、ゴム栓、注射器シリンジ用ガスケット、ノズルキャップ、シリンダーキャップ、中栓等であることが好ましく、(後略)」(第5ページ第14?16行)

「上記のようなプラスチック(熱可塑性エラストマー)やゴムを素材とするシール用ゴム成形品の表面の、少なくとも保存する薬液と直接接触する可能性のある部分は、不活性で最も安全性が高い材料製とする必要がある。
この材料は、フッ素樹脂フィルムが最適であり、(後略)」(第8ページ第13?16行)

「上記フッ素樹脂フィルムは、本発明において、厚さ10?200μmが好ましく、用途によりこの範囲で適宜選定すればよく、例えば医療用ゴム栓用としては30?100μm程度が好ましい。実生産においては10?100μmの範囲が薄膜の空隙率が低く、製品不良率が少ない。
薄すぎると、フィルム自体の製造が困難であるのみならず、本発明のゴム成形品本体への積層加工における取扱い限界を超え、厚すぎると、本発明のシール用ゴム成形品の密封性を損なう可能性がある。」(第10ページ第24行?第11ページ第8行)

6 文献6
本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開昭63-97173号公報(以下「文献6」という。)には、次の記載がある。
「本発明は第1図に示すように、ゴム弾性体滑栓基材5とその表面にTFEフイルムを積層したTFEラミネート部7からなる滑栓3において、該TFEラミネート部7が薬液8との接触部分のみならず、注射器本体外筒1の内面との摺動部全面に設けられていることを特徴とし、これにより充分な摺動性と耐薬品性が確保され、従来品のようなシリコーンオイル塗布を要せず、医薬品の品質低下を防止できるものである。」(第2ページ右上欄第20行?左下欄第8行)

「又、積層するTFEフイルムの厚みは厚ければ厚い程加工性は良好なるもその硬さ故にそのシール性は損なわれるので、0.01μ以上200μ以下が好ましく、特に100μ以下が良好であつた。」(第3ページ右上欄第8?12行)

7 文献7
本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2004-305307号公報(以下「文献7」という。)には、次の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】
一般に、注射器は、シリンダと、このシリンダ内に進退自在に挿入されるプランジャと、このプランジャの先端部に冠着されてシリンダ内周面を摺動するパッキンとで構成されている。そして、上記パッキンは、従来、ゴム製のものが用いられていた。
【0003】
しかしながら、ゴム製のパッキンでは、ゴムに含有されている加硫剤等の成分が注射器内の薬液に溶出するという問題点があった。そのような薬液が人体に注射されると、人体に悪影響を及ぼすことになる。そこで、ゴム製のパッキンの外面を、薬液に安定なテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(以下、「ETFE」と略す)からなるフィルムで積層したものが提案されている(特許文献1参照)。」

「【0021】
上記ETFEフィルム1の形成材料としては、上記ETFEのみでもよいし、ETFEと他のフッ素樹脂との混合物でもよいし、ETFEとフッ素樹脂以外の樹脂との混合物でもよい。(後略)」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
引用発明の「デキスメデトミジン」は、本願発明の「デクスメデトミジン」に相当し、以下同様に、「4μg/mLなるプレミックス濃度であり」は「デクスメデトミジン濃度1μg/mL?10μg/mLであり」に、「周囲条件下で2週間保存後のpHが5.5である」は「pHが5?6である」に、「予め混合したデキスメデトミジン組成物の溶液」は「デクスメデトミジン注射液」に、「NaCl」は「塩化ナトリウム」に、それぞれ相当する。
また、注射液を、シリンジ内の製剤当たり一回分の服用量として、封止されたシリンジ内に配置したシリンジであって、長期保存を意図したものはプレフィルドシリンジといえるところ、引用発明のアンシルシリンジは、第4の1(2)オのとおり、5ヶ月間という期間に渡って保存されることを想定したものであるといえるので、引用発明の「前記予め混合したデキスメデトミジン組成物の溶液を、シリンジ内の製剤当たり一回分の服用量として、封止されたシリンジ内に配置したアンシルシリンジ」は、本願発明の「デクスメデトミジン注射液を充填したプレフィルドシリンジ」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、以下の【一致点】で一致し、【相違点1】及び【相違点2】で相違する。
【一致点】
「シリンジバレルと、
プランジャと、
前記シリンジバレル内に収納され、前記シリンジバレル内を液密に摺動可能なガスケットと、
前記シリンジバレル内に収納された、デクスメデトミジン濃度1μg/mL?10μg/mLであり、pHが5?6であるデクスメデトミジン注射液とを含み、
前記デクスメデトミジン注射液は添加剤として塩化ナトリウムを含む、デクスメデトミジン注射液を充填したプレフィルドシリンジ。」

【相違点1】
本願発明では、シリンジバレルの先端を密封する封止キャップを含むのに対し、引用発明では、そのような構成を有するか明らかでない点。

【相違点2】
ガスケットについて、本願発明では、デクスメデトミジン注射液と接する部位に50μm?200μmの厚みでフッ素樹脂層を含み、該フッ素樹脂層を構成する全成分中、60質量%?100質量%の割合でフッ素樹脂が含有されているのに対し、引用発明では、そのような構成を有するか明らかでない点。

第6 判断
上記相違点1及び2について、検討する。
1 相違点1について
ルアーロックタイプのプレフィルドシリンジにおいて、シリンジバレルの先端を密封する封止キャップを含めることは、周知の技術(必要であれば、文献4の第2ページ右欄第29?31行、図2の見出しを参照。)である。さらに、アンシルシリンジはルアーロックタイプのシリンジとして周知の技術(文献4の第4ページ左欄第16?18行、表4を参照。)である。以上を踏まえると、引用発明のアンシルシリンジにおいて、シリンジバレルの先端を密封する封止キャップを含めることは、当業者が容易になし得たことである。

2 相違点2について
ア 引用発明のアンシルシリンジは予め混合したデキスメデトミジン組成物の溶液を収納したものであり、プレフィルドシリンジであることから、シリンジ内での当該溶液の長期安定性が求められることは明らかであるところ、上記第4の1(4)のとおり、引用文献1には、デキスメデトミジン注射液を収容したバイアルビンにおいて、該注射液と接する部位がオムニフレックスプラス(OmniflexPlus(登録商標))のフッ素樹脂で被覆されたストッパーを用いることで、予め混合された製剤として調製されたデキスメデトミジンが、長期に渡る保存後において安定性および活性を維持できることが記載されている。
ここで、バイアルビンのストッパーとシリンジのガスケットはいずれも容器クロージャーであって、収納する溶液と接触するものであり、収納されたデキスメデトミジン溶液の長期安定性という共通の課題を有するものであり、また、フッ素樹脂層を設けたガスケットをプレフィルドシリンジにおいて使用することも一般的に行われている(引用文献2の段落【0019】、引用文献3の段落【0087】、【0089】を参照。)ことから、引用発明のガスケットにおいて、オムニフレックスプラス(OmniflexPlus(登録商標))のフッ素樹脂で被覆するよう想起することは、当業者にとって何ら困難性はない。
また、シリンジにおいて、ガスケットに起因した注射液の品質低下を防止することを目的として、ガスケットの注射液と接する部位にフッ素樹脂層を設けることは、周知の技術(文献5の第8ページ第13?16行、文献6の第2ページ右上欄第20行?左下欄第8行、文献7の段落【0003】を参照。)であり、フッ素樹脂層を設けたガスケットをプレフィルドシリンジにおいて使用することも一般的に行われている(引用文献2の段落【0019】、引用文献3の段落【0087】、【0089】を参照。)ことを踏まえても、引用発明のガスケットにおいて、フッ素樹脂で被覆するよう想起することは、当業者にとって何ら困難性はない。
そして、ガスケットに含めるフッ素樹脂層の厚みを10μm?200μmとすることは、製造容易性や密封性等を考慮して一般的に行われているといえる(文献5の第10ページ第24行?第11ページ第8行、文献6の第3ページ右上欄第8?12行を参照。)ところ、本願発明の詳細な説明において、実施例として、フッ素樹脂層の厚みについての具体的な実験等をしておらず、下限値を50μmとすることに臨界的意義を見いだせない。
してみると、引用発明において、ガスケットに含めるフッ素樹脂層を含めるに際し、その厚みを50μm?200μmとすることは、製造容易性や密封性等を考慮して、当業者が適宜なし得たことである。
また、フッ素樹脂層はその名称からフッ素樹脂が主成分といえるところ、本願発明の詳細な説明に照らしても、該フッ素樹脂層を構成する全成分中のフッ素樹脂の割合の下限値を60質量%とすることに、臨界的意義を見いだせない。しかも、フッ素樹脂のみからなるフッ素樹脂層を含むシリンジガスケットは周知の技術である(文献7の段落【0021】を参照。)。
してみると、引用発明において、ガスケットに含めるフッ素樹脂層を含めるに際し、該フッ素樹脂層を構成する全成分中のフッ素樹脂の割合を60質量%?100質量%とすることは、単なる設計事項にすぎない。

3 本願発明の効果について
本願発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献1?3に記載された事項、及び、周知の技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

4 小括
本願発明は、引用発明、引用文献1?3に記載された事項、及び、周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、令和2年1月22日付けの意見書において、
「なお付言しますと、引用文献1の実施例6に、フッ素系樹脂を用いたストッパーを適用した容器として用いたガラスバイアルビンは、通常、自立して配置され、液体の上面とストッパーとの間に隙間があるものが一般的です。つまり、引用文献1には、シリンジにおいて、ガスケットにおけるフッ素系樹脂のストッパーを用い、このようなシリンジに、デキスメデトミジン含有溶液を実際に充填して、この溶液をストッパーと接触させ続けた形態は、記載されていません。
そして、なにより、引用文献1においては、デキスメデトミジン含有溶液がストッパーと接触し続けることによる不純物、特に、不溶性微粒子の生成についての課題/問題提起は何ら記載されていません。
これに対して、本願発明は、シリンジのように、デクスメデトミジン注射液を密閉状態で、つまり、ガスケットの被覆物と注射液とが常に接触した形態で保存された場合に、不純物、特に不溶性微粒子が発生することを、明確な課題として取り上げています。上述したように、このような課題は、本願と同じデキスメデトミジン含有溶液を用いた引用文献1には何ら記載されておらず、本願発明において新たに見出した、デクスメデトミジン注射液における特有の新たな技術課題です。
そして、このような不溶性微粒子の発生を回避するために、先端部のみ、つまり、常にデクスメデトミジン注射液と接触している特定の部分においてフッ素樹脂を被覆することによって、不溶性微粒子の発生を含む、注射液自体の保存安定性を明確に向上している結果を明確に表しています。」と主張する。

イ 上記主張について検討する。
引用文献1の段落【0077】には、ヘルベット(Helvoet)FM 259/0オムニフレックスプラス(OmniflexPlus(登録商標))フルオロポリマー被覆ラバーストッパーを評価したところ、全てのテストは、該ストッパーが使用可能であることを示したことが記載される一方、段落【0078】には、4μg/mLのプレセデックス注射液を含むバッチ(デキスメデトミジン含有溶液)を調製し、ヘルベットオムニフレックスプラスストッパーを備えた50mLのバイアルビンに充填し、次いでオートクレーブ処理したものについて、初期のテストは、事実上測定可能な不純物の存在を示さなかったが、1ヶ月間の不純物検出テスト中に、全体として該薬物ピークの0.5%を越える、多数の小さな不純物ピークが観測されたこと、不純物が該ストッパーに関連するものであることが記載されている。
ここで、ストッパーに関連する不純物は、該ストッパーと注射液との境界を通って該注射液に浸出することは、技術常識に照らして明らかである。そして、フッ素樹脂が不活性で安全性が高い材料であることを考慮すると、引用発明のガスケットにおいて、フッ素樹脂で被覆されたことにより、未被覆の場合と比べて不純物の発生が抑制されたであろうことは、当業者であれば、容易に推測できるといえる。
また、確かにバイアルビンとシリンジとでは、ストッパー又はガスケットと収納される液体との接触の頻度が異なるといえるが、しかしながら、液体とストッパーとの接触の頻度がより少ないバイアルビンにおいて、接触に起因する課題があるのであれば、ガスケットと注射液との接触が多いとされるシリンジにおいても同様な課題があること(むしろその課題はより顕在化し得ること)は、当業者であれば容易に推測できるといえる。このことは、実施可能性、安定性に関する研究において、促進条件として、転倒状態、すなわち、溶液と常に接触した状態を採用している(段落【0078】を参照。)ことからも示唆されているといえる。
してみると、引用文献1においては、デキスメデトミジン含有溶液がストッパーと接触し続けることによる不純物の生成についての課題/問題提起は明記されていないものの、当業者であれば、シリンジにおいても同様な課題が存在すること、ガスケットのデキスメデトミジン含有溶液と接する部位にフッ素樹脂層を含めることで当該課題が解決されることを、容易に理解できるといえる。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明、引用文献1?3に記載された事項、及び、周知の技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-06-30 
結審通知日 2020-07-07 
審決日 2020-07-28 
出願番号 特願2015-32852(P2015-32852)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 芝井 隆  
特許庁審判長 芦原 康裕
特許庁審判官 関谷 一夫
和田 将彦
発明の名称 デクスメデトミジン注射液を充填したプレフィルドシリンジ  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ