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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1366361
審判番号 不服2019-1651  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-06 
確定日 2020-09-17 
事件の表示 特願2015-180451「光学フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月14日出願公開、特開2016- 6543〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成26年8月7日(先の出願に基づく優先権主張 平成25年8月9日、同年9月10日、平成26年1月31日)に出願した特願2014-161215号の一部を平成27年9月14日に新たな特許出願としたものであって、平成29年7月14日に手続補正がされ、平成30年3月26日付けで拒絶理由が通知され、同年5月31日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年10月29日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成31年2月6日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
その後、令和元年11月29日に上申書が提出され、令和2年1月7日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年3月13日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされた。

2 本件発明
本願の請求項1?8に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりの発明であって、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、次のとおりのものである。
「基材上に光配向膜を介して形成された第一の位相差層と、前記第一の位相差層の上に配向膜を介して形成された第二の位相差層とを有する光学フィルムであって、
第一の位相差層の厚さが3μm以下であり、
第二の位相差層の厚さが3μm以下であり、
第二の位相差層が式(3)で表される光学特性を有し、
第一の位相差層が式(1)、式(2)及び式(4)で表される光学特性を有し、
該光学フィルムが式(1)及び式(2)で表される光学特性を有し、
前記第一の位相差層と第二の位相差層のいずれもが1以上の重合性液晶を重合させることにより形成されるコーティング層であり、第一の位相差層が1つの位相差層からなる光学フィルム。
Re(450)/Re(550)≦1.00 (1)
1.00≦Re(650)/Re(550) (2)
nx≒ny<nz (3)
100nm<Re(550)<160nm (4)
(式中、Re(λ)は波長λnmの光に対する面内位相差値を表す。nxは、位相差層が形成する屈折率楕円体において、フィルム平面に対して平行な方向の主屈折率を表す。nyは、位相差層が形成する屈折率楕円体において、フィルム平面に対して平行であり、且つ、該nxの方向に対して直交する方向の屈折率を表す。nzは、位相差層が形成する屈折率楕円体において、フィルム平面に対して垂直な方向の屈折率を表す。)」

3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、本件補正前の請求項1?33に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、当審拒絶理由に引用された文献は以下のとおりであり、引用文献18を主引用文献として、その他の文献を周知技術を示す文献として使用している。
引用文献2 :特開2006-163343号公報
引用文献3 :特開2007-188033号公報
引用文献5 :特開2002-40258号公報
引用文献8 :特開平6-242434号公報
引用文献13:特開2004-77720号公報
引用文献14:特開2004-77813号公報
引用文献15:特開2004-126538号公報
引用文献18:特開2007-93864号公報
引用文献19:特開2010-102829号公報
引用文献20:特開2012-17361号公報
引用文献21:特開2008-296539号公報
引用文献22:特開2011-178828号公報
引用文献23:特開2005-281704号公報
引用文献24:特開2005-92066号公報
引用文献25:特開2011-242723号公報
引用文献27:特開2007-79201号公報
引用文献28:特開2006-215221号公報

4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
(1)引用文献18の記載事項
当審拒絶理由に主引用文献として引用され、先の出願前の平成19年4月12日に頒布された刊行物である引用文献18(特開2007-93864号公報)には、以下の記載事項がある。
なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。以下の文献についても同様である。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差板、偏光板および偏光板に関する。特に本発明は、反射型液晶表示装置、半透過型液晶表示装置、透過型液晶表示装置、GH-LCD、PS変換素子、光ディスクの書き込み用のピックアップ、輝度向上膜または反射防止膜に利用されるλ/4板として有効な位相差板に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、配向欠陥が生じたり、配向時にはじきが出てしまうなどの問題が発生した。さらに、垂直配向性を付与するためにポリマーを修飾したり、あるいは特殊なモノマーを用いてポリマーを合成することが必要となり、結果として配向膜が高価になってしまうことから、工業的にはより安価な配向膜を用いてディスコティック液晶性化合物を実質的に垂直に配向させる技術が求められていた。また、位相差板を液晶表示装置に用いる際、ディスコティック液晶性化合物が実質的に垂直配向した層のみからなる位相差板では、それぞれの液晶モードで最適になるように三次元方向の屈折率異方性を発現させることが困難であり、三次元方向の屈折率異方性を任意に制御できる技術が求められていた。
【0005】
この光学特性を任意に制御する方法の一つとして、ディスコティック液晶性化合物や棒状液晶性化合物を含む光学異方性層を積層させる方法がある。この方法は、フィルム平面方向のレタデーションを、ディスコティック液晶性化合物の円盤面がフィルム面に対して実質的に垂直になるように配向させることや棒状液晶性化合物の長軸方向をフィルム面に対して平行に配向させることにより調整し、さらに棒状液晶化合物を垂直配向させることによりフィルム面に対して垂直方向のレタデーションをその厚みから調整して最適なレタデーションになるように作成する。これによって、最適なλ/4膜を形成させることができる。しかし、この方法で形成された積層させた光学異方性層を含むフィルムは、フィルム表面の傷やフィルム層に粘着剤による光学異方性層の界面を境に膜剥がれが生じやすくなるという密着が悪くなる問題があった。
【0006】
本発明は前記諸問題に鑑みなされたものであって、液晶表示装置の表示特性の改善に寄与し、生産性の著しく向上した位相差板一体型偏光板を提供し、さらに、視野角の拡大された液晶表示装置やバックライト利用効率の向上された液晶表示装置を提供することを目的とする。さらに、それら目的のための液晶性化合物を含有した光学異方性層を多層化したλ/4板として有効な位相差板の密着を改良することを目的とする。
【0007】
本願発明の目的は、下記手段により達成された。
1. 支持体上に少なくとも一種の液晶性化合物を含有する光学異方性層を少なくとも2層形成してなり、該少なくとも2層の光学異方性層を該支持体側から順次光重合させて固定化させることによって製造される位相差板において、
前記光学異方性層のうち支持体側の層を光重合させた後の重合率が10?90%であることを特徴とする位相差板。
2. 前記重合率が20?80%であることを特徴とする上記1記載の位相差板。
3. 支持体上に少なくとも一種の液晶性化合物を含有する光学異方性層を少なくとも2層形成してなり、該少なくとも2層の光学異方性層を該支持体側から順次光重合させて固定化させることによって製造される位相差板において、
前記光学異方性層のうち支持体側の層を光重合させた後の表面の重合率が1?50%であることを特徴とする位相差板。

(中略)

【発明の効果】
【0008】
本発明の位相差板は、液晶表示装置の表示特性の改善に寄与し、生産性の著しく向上した位相差板一体型の偏光板を提供することができ、視野角の拡大された液晶表示装置やバックライト利用効率の向上された液晶表示装置を提供することができるものであり、λ/4板として有効で、密着性が改良されたものである。
また、本発明によれば、生産性の著しく向上した位相差板一体型の偏光板、及び視野角の拡大された液晶表示装置やバックライト利用効率の向上された液晶表示装置を提供することができる。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の位相差板について詳細に説明する。

(中略)

【0012】
本明細書において、Re、Rthは各々、ある波長λnmにおける面内のレタデーションおよび厚さ方向のレタデーションを表す。

(中略)

【0013】
[位相差板]
本発明においては、位相差板についての発明が2つあるが、まず、第1の位相差板の発明(請求項1記載の発明)について説明する。
本発明の位相差板は、支持体上に少なくとも一種の液晶性化合物を含有する光学異方性層を少なくとも2層形成してなり、該少なくとも2層の光学異方性層を該支持体側から順次光重合させて固定化させることによって製造されるものである。
前記光学異方性層のうち支持体側の層を光重合させた後の重合率が10?90%であり、20?80%であることが好ましく、30?80%であることがさらに好ましい。
前記重合率が、10%未満であると液晶性化合物の固定が不十分となり配向不良となってλ/4板としての性能が得られなくなり、90%を超えるとその上に塗布される光学異方性層との密着性を改良することができなくなる。

(中略)

【0015】
次に第2の位相差板の発明について説明する。
第2の位相差板の発明は、支持体上に少なくとも一種の液晶性化合物を含有する光学異方性層を少なくとも2層形成してなり、該少なくとも2層の光学異方性層を該支持体側から順次光重合させて固定化させることによって製造される位相差板において、前記光学異方性層のうち支持体側の層を光重合させた後の表面の重合率が通常の重合率に比べて低い、1?50%であり、3?30%が好ましい。これは、上層に塗布される光学異方性層との密着性を確保するためである。
上記重合率が1%未満であると、表面の液晶性化合物の固定が不十分となり配向不良の原因となってλ/4板としての性能が得られなくなり、50%を超えると、その上に塗布される光学異方性層との密着性を改良することができなくなる。

(中略)

【0017】
前記位相差板は、面内のレタデーション値、厚み方向のレタデーション値をそれぞれRe、Rthとし、Nzを下記式(1)のように定義したときに、Nzが0より小さい、具体的にはNzは-5?-0.1であることが好ましく、-4.5?-0.2であることがより好ましく、-4?-0.3であることがさらに好ましく、-4?-1.0であることが最も好ましい。
Nz=0.5+Rth/Re (1)
該位相差板平面の法線方向から測定したレタデーションの値をRe(0)とし、該位相差板の遅相軸を傾斜軸として、該位相差板を40°傾けて測定したレタデーションの値をRe(40)、該位相差板を前記傾斜方向と反対側に40°傾けて測定したレタデーションの値をRe(-40)としたとき、Re(0)、Re(40)、Re(-40)の3点の測定値および該位相差板の厚さと平均屈折率から、厚さ方向の屈折率(Rth)が算出することができる。
【0018】
本発明の位相差板は、Reが50?200nmであることが好ましく、70?180nmであるのがより好ましく、80?160nmであるのがさらに好ましく、90?160nmであるのが最も好ましい。上記範囲内にあることで、λ/4板として好適に用いることができる。また、前記Re(40)とRe(-40)が実質的に等しいことが好ましい。Re(40)とRe(-40)との差は、0nmであるのがより好ましいが、測定誤差等を考慮して、本明細書ではその差が4nmの範囲を実質的に等しいというものとする。
【0019】
本発明の位相差板は、波長が大きくなるにしたがってReも大きくなる広帯域性を有することも好ましい。例えば、広帯域性を発現させるため、実質的に1/2波長のReを有する層と実質的に1/4波長のReを有する層を、それらの遅相軸が交差するように積層する技術が特開2000-284126号公報などに開示されている。また、変性ポリカーボネートフィルムを延伸することで広帯域性を発現させる技術が国際公開第00/26705号パンフレットなどに開示されている。これら技術により所望のReを有する広帯域位相差板を作製し、さらに液晶性化合物を含む光学異方性層を積層することにより上記式(1)を満たすように三次元方向の屈折率を制御することができる。
また、Rthは-1000?-20nmであることが好ましく、-800?-30nmであることがより好ましく、-600?-40nmであることがさらに好ましく、-300?-100nmであることが特に好ましい。
【0020】
[液晶性化合物を含む光学異方性層]
本発明の位相差板に用いられる光学異方性層の構成材料について説明する。
本発明において前記光学異方性層は2層以上用いられるが各層の構成材料は同じでも異なっていても良く、前記光学異方性層は必須成分としての液晶性化合物、及び必要に応じて用いられる垂直配向促進剤とを重合開始剤を用いて重合させることにより得られるものを用いることができる。例えば、低分子液晶性化合物を液晶状態においてネマチック配向に形成後、光架橋や熱架橋によって固定化して得られる光学異方性層や、高分子液晶性化合物を液晶状態においてネマチック配向に形成後、冷却することによって当該配向を固定化して得られる光学異方性層を用いることもできる。
本発明において用いられる液晶性化合物としては、上述の好ましい上記光学的特性を満たすものであれば液晶性化合物の種類については特に制限されないが重合性の液晶性化合物が好ましく用いられる。重合性の液晶性化合物を用いることにより他の重合性化合物を用いることなく光学異方性層を形成することができる。なお本発明では、光学異方性層は、該液晶性化合物が重合等によって固定されて形成された層であり、層となった後はもはや液晶性を示す必要はない。重合性の液晶性化合物は、多官能性重合性液晶でもよいし、単官能性重合性液晶性化合物でもよい。また、液晶性化合物は、ディスコティック液晶性化合物でもよいし、棒状液晶性化合物でもよい。
【0021】
本発明の位相差板は、二層以上の光学異方性層の積層体を含有する。二層以上の光学異方性層を積層することで、三次元方向の屈折率異方性を任意に制御するのが、より容易になる。例えば、2層の積層体とする場合には、Reを所望の値にするために第1の光学異方性層を形成し、Rthを調整するために第2の光学異方性層を形成することにより、上記式(1)を満たす位相差板を作製することができる。そして、本発明においては、下層の光学異方性層をReを所望の値にするための上記の第1の光学異方性層とするのが好ましい。
【0022】
前記第1の光学異方性層に用いられる液晶性化合物は、ディスコティック液晶性化合物でもよいし、棒状液晶性化合物でもよい。位相差板が上記式(1)を満たせば液晶性化合物の配向状態は、垂直配向、水平配向、ハイブリッド配向、傾斜配向いずれでもよい。視野角依存性が対称である位相差板を作製するためには、ディスコティック液晶性化合物の円盤面がフィルム面(光学異方性層面)に対して実質的に垂直であるか、または、棒状液晶性化合物の長軸がフィルム面(光学異方性層面)に対して実質的に水平であることが好ましい。ディスコティック液晶性化合物が実質的に垂直とは、フィルム面(光学異方性層面)とディスコティック液晶性化合物の円盤面とのなす角度が70°?90°の範囲内であることを意味する。円盤面の平均傾斜角がこの範囲内になるように傾斜配向させてもよいし、傾斜角が徐々に変化するハイブリッド配向させてもよい。傾斜配向またはハイブリッド配向の場合でも、平均傾斜角は70°?90°であることが好ましく、80°?90°がより好ましく、85°?90°がさらに好ましい。棒状液晶性化合物が実質的に水平とは、フィルム面(光学異方性層面)と棒状液晶性化合物のダイレクターとのなす角度が0°?20°の範囲内であることを意味する。棒状液晶性化合物の平均傾斜角がこの範囲内になるように傾斜配向させてもよいし、傾斜角が徐々に変化するようにハイブリッド配向させてもよい。傾斜配向またはハイブリッド配向の場合でも、平均傾斜角は0°?20°であることが好ましく、0°?10°がより好ましく、0°?5°がさらに好ましい。
【0023】
前記第2の光学異方性層に用いられる液晶性化合物は、ディスコティック液晶性化合物でもよいし、棒状液晶性化合物でもよい。位相差板が上記式(1)を満たせば液晶性化合物の配向状態は、垂直配向、水平配向、ハイブリッド配向、傾斜配向いずれでもよい。位相板のRthの制御には、棒状液晶性化合物を用いることが好ましく、棒状液晶性化合物の長軸がフィルム面(光学異方性層面)に対して実質的に垂直であることがさらに好ましい。棒状液晶性化合物が実質的に垂直とは、フィルム面(光学異方性層面)と棒状液晶性化合物のダイレクターとのなす角度が70°?90°の範囲内であることを意味する。平均傾斜角がこの範囲内になるように傾斜配向させてもよいし、傾斜角が徐々に変化するようにハイブリッド配向させてもよい。傾斜配向またはハイブリッド配向の場合でも、棒状液晶性化合物の平均傾斜角は70°?90°であることが好ましく、80°?90°がより好ましく、85°?90°がさらに好ましい。
【0024】
前記光学異方性層は、棒状液晶性化合物又はディスコティック液晶性化合物等の液晶性化合物と、所望により、下記の重合開始剤や空気界面配向剤や他の添加剤を含む塗布液を、支持体上に塗布することで形成することができる。支持体上に配向膜を形成し、該配向膜表面に前記塗布液を塗布して形成することが好ましい。
【0025】
すなわち、本発明においては、前記少なくとも2層の光学異方性層が、いずれもディスコティック液晶性化合物または棒状液晶性化合物のいずれかを少なくとも一種含有することが好ましい。
また、前記少なくとも2層の光学異方性層が、ディスコティック液晶性化合物を少なくとも1種含有する光学異方性層と棒状液晶性化合物を少なくとも1種含有する光学異方性層とにより構成されている構成とすることもできる。
また、本発明においては、前記少なくとも2層の光学異方性層が、ディスコティック液晶性化合物を含有する光学異方性層と、棒状液晶性化合物を含有する光学異方性層とにより構成されており、前記ディスコティック液晶性化合物の円盤面が前記ディスコティック液晶性化合物を含有する光学異方性層面に対して実質的に垂直になるように配向状態が固定化されており、前記棒状液晶性化合物の長軸方向が前記棒状液晶性化合物を含有する光学異方性層面に対して実質的に垂直になるように配向状態が固定化されている構成とすることもできる。
また、本発明においては、前記少なくとも2層の光学異方性層が、いずれも棒状液晶性化合物を含有する光学異方性層であり、前記棒状液晶性化合物の長軸方向が光学異方性層面に対して実質的に平行になるように配向状態が固定化されている層と光学異方性層面に対して実質的に垂直になるように配向状態が固定化されている構成とすることもできる。

(中略)

【0028】
[棒状液晶性化合物]
本発明で液晶性化合物として用いられる棒状液晶性化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。棒状液晶性化合物は、重合により固定可能なように、重合性基を有するのが好ましい。液晶性化合物には活性光線や電子線、熱などによって重合や架橋反応を起こしうる部分構造を有するものが好適に用いられる。その部分構造の個数は好ましくは1?6個、より好ましくは1?3個である。重合性棒状液晶性化合物としては、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586号公報、同95/24455号公報、同97/00600号公報、同98/23580号公報、同98/52905号公報、特開平1-272551号公報、同6-16616号公報、同7-110469号公報、同11-80081号公報、および特開2001-328973号公報などに記載の化合物を用いることができる。
【0029】
[垂直配向促進剤]
本発明においては、ディスコティック液晶性化合物や棒状液晶性化合物を均一に垂直配向させるために、前記光学異方性層の支持体側の界面側(配向膜を支持体上に設ける場合には「配向膜界面側」でもある。)および支持体と反対側の界面(以下、この界面を「空気界面」と称する場合がある)側において液晶性化合物を垂直に配向制御することが好ましい。この目的のために、垂直配向促進剤を用いるのが好ましい。

(中略)

【0030】
[配向膜界面側垂直配向剤]
本発明に使用可能な配向膜界面側垂直配向剤としては、下記式(I)で表されるピリジニウム誘導体(ピリジニウム塩)が好適に用いられる。該ピリジニウム誘導体の少なくとも1種を前記液晶性組成物に添加することによって、ディスコティック液晶性化合物の分子を配向膜近傍で実質的に垂直に配向させることができる。

(中略)

【0048】
以下に、式(I)および/または(Ia)で表される化合物の具体例を示す。ここで、Meはメチル基を表す。

(中略)

【0050】
【化4】


(中略)

【0055】
[空気界面側垂直配向剤]
本発明に使用可能な空気界面側垂直配向剤としては、フルオロ脂肪族基と、カルボキシル基(-COOH)、スルホ基(-SO_(3)H)、ホスホノキシ基{-OP(=O)(OH)_(2)}およびそれらの塩からなる群より選ばれる1種以上の親水性基とを含有するフルオロ脂肪族基含有ポリマー(以下、「フッ素系ポリマー」という)、又は一般式(III)で表される含フッ素化合物が好適に用いられる。

(中略)

【0096】
以下に、フッ素系ポリマーとして本発明に好ましく用いられる具体例を示すが、本発明はこれらの具体例によってなんら限定されるものではない。ここで式中の数値(a、b、c、d等の数値)は、それぞれ各モノマーの組成比を示す質量百分率であり、MwはGPCにより測定されたPEO換算の質量平均分子量である。

(中略)

【0100】
【化22】


(中略)

【0131】
[水平配向剤]
本発明において、棒状液晶性化合物液晶を水平配向させるために、液晶性化合物の分子を水平配向させるのに寄与する下記一般式(IV)?(VI)で表される化合物の少なくとも一種を含有するのが好ましい。なお、本発明で「水平配向」とは、液晶層の水平面に対して液晶性化合物の長軸方向が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、液晶性化合物の長軸方向の円盤面と水平面とのなす傾斜角が10度未満の配向を意味するものとする。傾斜角は5度以下が好ましく、3度以下がより好ましく、2度以下がさらに好ましく、1度以下が最も好ましい。前記傾斜角は0度であってもよい。

(中略)

【0165】
前記一般式(IV)、(V)又は(VI)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明に用いられる化合物はこれらに限定されるものではない。下記の具体例中、No.I-1?39は一般式(IV)、No.I-40?50は一般式(V)、No.I-51?59は一般式(VI)で表される化合物の例である。
【0166】
【化37】


(中略)

【0179】
[支持体]
本発明の位相差板は、支持体上に少なくとも一種の液晶性化合物を含有する光学異方性層を少なくとも2層形成してなり、該少なくとも2層の光学異方性層を該支持体側から順次光重合させて固定化させることによって製造される。支持体は、光学異方性層を固定化してしまえば、その役割を果たすため、位相差板において必ずしも必須のものではない。例えば、支持体として金属支持体を用いて、2層の光学異方性層を形成後、金属支持体から離すことによって、支持体を持たない位相差板とすることもできる。本発明の位相差板は、支持体として透明フィルム(透明支持体)を用い、該透明支持体上に液晶性組成物を塗布して光学異方性層を形成してなる、自己支持性のある位相差板であることが好ましい。
【0180】
支持体としては、波長分散が小さいポリマーフィルムを用いることが好ましい。支持体は、さらに、光学異方性が小さいことが好ましい。支持体は光透過率が80%以上であること(透明支持体)が好ましい。波長分散が小さいとは、具体的には、Re(400)/Re(700)の比が1.2未満であることが好ましい。
【0181】
位相差板が上記式(1)を満たすよう調整するために、光学異方性のある支持体を用いてもよい。本発明の位相差板に用いられる支持体は、Reが0?20nmで、Rthが-100nm?100nmであることが好ましく、Reが0?10nmで、Rthが-100nm?20nmであることがさらに好ましい。
【0182】
ポリマーの例には、セルロースエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートおよび環状ポリオレフィンが含まれる。この中でも、セルロースエステルが好ましく、セルロースアセテートがより好ましい。環状ポリオレフィンとしては、特公平2-9619号公報に記載のテトラシクロドデセン類の開環重合体またはテトラシクロドデセン類とノルボルネン類の開環共重合体を水素添加反応させて得られた重合体を構成成分とするポリマー、商品名としてはアートン(JSR製)や、ゼオネックス、ゼオノア(日本ゼオン製)のシリーズから使用することができる。ポリマーフィルムは、ソルベントキャスト法により形成することが好ましい。

(中略)

【0188】
[配向膜]
本発明の位相差板は、配向膜を有してもよい。すなわち、支持体上に配向膜を設けて、該配向膜の表面に前記液晶性組成物を塗布して、液晶性化合物の分子を配向させてもよい。配向膜は、液晶性化合物の配向方向を規定する機能を有するため、本発明の好ましい態様を実現する上で利用するのが好ましい。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たすため、本発明の構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを支持体上に転写して本発明の位相差板を作製することも可能である。
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、またはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例えば、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。

(中略)

【0209】
本発明の位相差板および偏光板は前記用途に限らず、その他の種々の用途に供することが出来る。例えば、ホスト-ゲスト型液晶表示装置、タッチパネル、エレクトロルミネッセンス(EL)素子などの反射防止膜、反射型偏光板などに用いることができる。」

ウ 「【実施例】
【0210】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0211】
[実施例1]
<セルロースアセテートフィルムの作製>
(セルロースアセテート溶液の調製)
下記の組成に示す各成分をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液Aを調製した。
【0212】
(セルロースアセテート溶液Aの組成)
アセチル置換度2.94のセルロースアセテート 100.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 402.0質量部
メタノール(第2溶媒) 60.0質量部
【0213】
(マット剤溶液の調製)
平均粒径16nmのシリカ粒子(AEROSIL R972、日本アエロジル(株)製)を20質量部、メタノール80質量部を30分間よく攪拌混合してシリカ粒子分散液とした。この分散液を下記の組成に示す各成分とともに分散機に投入し、さらに30分以上攪拌して各成分を溶解し、マット剤溶液を調製した。
【0214】
(マット剤溶液組成)
平均粒径16nmのシリカ粒子分散液 10.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 76.3質量部
メタノール(第2溶媒) 3.4質量部
セルロースアセテート溶液A 10.3質量部
【0215】
(添加剤溶液の調製)
下記組成に示す各成分をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0216】
(添加剤溶液組成)
下記の光学異方性低下剤 49.3質量部
下記の波長分散調整剤 4.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 58.4質量部
メタノール(第2溶媒) 8.7質量部
セルロースアセテート溶液A 12.8質量部
【0217】
光学異方性低下剤
【0218】
【化42】

【0219】
波長分散調整剤
【0220】
【化43】

【0221】
(セルロースアセテートフィルムの作製)
上記セルロースアセテート溶液Aを94.6質量部、マット剤溶液を1.3質量部、添加剤溶液4.1質量部のそれぞれを濾過後に混合し、バンド流延機を用いて流延した。上記組成で光学異方性低下剤および波長分散調整剤のセルロースアセテートに対する質量比はそれぞれ12%、1.2%であった。残留溶剤量30%でフィルムをバンドから剥離し、140℃で40分間乾燥させ、厚さ80μmの長尺状のセルロースアセテートフィルムを製造した。得られたフィルムの面内レタデーション(Re)は1nm(遅相軸はフィルム長手方向と垂直な方向)、厚み方向のレタデーション(Rth)は-1nmであった。
【0222】
<位相差板1-1bの作製>
(配向膜の形成)
上記作製したセルロースアセテートフィルムの表面をケン化後、下記組成の配向膜塗布液を#14のワイヤーバーで連続的に塗布した。60℃の温風で60秒、さらに100℃の温風で120秒乾燥し、膜を形成した。次に、形成した膜にフィルムの長手方向に対して45°の方向に連続的にラビング処理を施して配向膜を形成した。
【0223】
(配向膜塗布液の組成)
下記の変性ポリビニルアルコール 10質量部
水 371質量部
メタノール 119質量部
グルタルアルデヒド 0.5質量部
【0224】
変性ポリビニルアルコール
【0225】
【化44】


(中略)

【0226】
(第1の光学異方性層の形成)
下記の組成のディスコティック液晶性化合物を含む光学異方性層塗布液を上記作製した配向膜上に#3.6のワイヤーバーで連続的に塗布した。塗布液の溶媒の乾燥及びディスコティック液晶性化合物の配向熟成のために、100℃の温風で30秒、さらに130℃の温風で60秒間加熱した。続いて、UV照射(UV強度:1.8kW、照射量:350mJ/m^(2))により液晶性化合物の配向を固定化し支持体側の光学異方性層である第1の光学異方性層を形成し、位相差板1-1aを作製した。このときの重合率を表1に示す。

(中略)

【0230】
自動複屈折率計(KOBRA-21ADH、王子計測機器(株)社製)を用いて、上記作製した位相差板1-1aの589nmにおけるRe(0)、Re(40)およびRe(-40)を測定し、Rth、および、Nzを求めた(表3)。これらの結果からディスコティック液晶性化合物の円盤面のフィルム面に対する平均傾斜角は90°であり、ディスコティック液晶性化合物がフィルム面に対して垂直に配向していることが確認できた。また、遅相軸の方向は配向膜のラビング方向と平行であり、支持体の長手方向となす角は45°であった。
【0231】
(第2の光学異方性層の形成)
上記作製した位相差板1-1aの第1の光学異方性層の上に、下記組成の棒状液晶性化合物を含む光学異方性層塗布液を配向膜上に#3.0のワイヤーバーで連続的に塗布した。塗布液の溶媒の乾燥及び棒状液晶性化合物の配向熟成のために、90℃の温風で60秒間加熱した。続いて、UV照射(UV強度:1.8kW、照射量:350mJ/m^(2))により液晶性化合物の配向を固定化し第2の光学異方性層を形成した。続いて、光学異方性層が形成された面の反対側のセルロースアセテートフィルム表面を連続的にケン化処理し、位相差板1-1bを作製した。
【0232】
(第2の光学異方性層塗布液の組成)
下記の棒状液晶性化合物A 100質量部
光重合開始剤 3質量部
(イルガキュアー907、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 1質量部
フッ素系ポリマー P-22 0.2質量部
下記のフッ素系ポリマー(D) 0.2質量部
ピリジニム塩I-12 2質量部
メタノール 30質量部
メチルエチルケトン 168質量部
【0233】
棒状液晶性化合物A
【0234】
【化46】

【0235】
フッ素系ポリマー(D)
【0236】
【化47】


(中略)

【0244】
[実施例2]
<位相差板2-1bの作製>
(第1の光学異方性層の形成)
上記作製した長尺状のセルロースアセテートフィルムの表面をケン化処理し、実施例1と同様に連続的に配向膜を形成し、長手方向に対し45°の方向にラビング処理を施した。その配向膜上に、下記の組成の棒状液晶性化合物を含む塗布液を配向膜上に#2.0のワイヤーバーで連続的に塗布した。塗布液の溶媒の乾燥及び棒状液晶性化合物の配向熟成のために、90℃の温風で60秒間加熱した。続いて、UV照射(UV強度:1.8kW、照射量:350mJ/m^(2))により液晶性化合物の配向を固定化し支持体側の光学異方性層である第1の光学異方性層を形成し、位相差板2-1aを作製した。第1の光学異方性層のみが形成されている位相差板2-1aについても589nmにおけるRe(0)、Re(40)およびRe(-40)を測定し、Rth、および、Nzを求めた。結果を表3に示す。
【0245】
(第1の光学異方性層塗布液の組成)
上記棒状液晶性化合物A 100質量部
光重合開始剤 3質量部
(イルガキュアー907、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 1質量部
下記のフッ素系ポリマー(F) 0.4質量部
前記の水平配向剤(G)I-13 0.2質量部
メチルエチルケトン 194質量部
【0246】
フッ素系ポリマー(F)
【0247】
【化48】

【0248】
実施例1と同様に、位相差板2-1aの589nmにおけるRe(0)、Re(40)およびRe(-40)を測定し、Rth、および、Nzを求めた。結果を表3に示す。これらの結果から棒状液晶性化合物の長軸のフィルム面に対する平均傾斜角は0°であり、棒状液晶性化合物がフィルム面に対して水平に配向していることが確認できた。また、遅相軸の方向は配向膜のラビング方向と平行であり、支持体の長手方向となす角は45°であった。
【0249】
(第2の光学異方性層の形成)
上記作製した位相差板2-1aの第1の光学異方性層の上に、第1光学異方性層の場合と同様にして配向膜を形成した。続いて、その配向膜上に、#3.4のワイヤーバーを使用する以外は実施例1で第2の光学異方性層を形成したときと同様にして、第2の光学異方性を形成した。続いて、光学異方性層が形成された面の反対側のセルロースアセテートフィルム表面を連続的にケン化処理し、位相差板2-1bを作製した。
【0250】
上記と同様にして、位相差板2-1bの589nmにおけるRe(0)、Re(40)およびRe(-40)を測定し、Rth、および、Nzを求めた。結果を表3に示す。これらの結果から、棒状液晶がフィルム面(光学異方性層面)に対して水平に配向している第1の光学異方性層の上に、棒状液晶性化合物がフィルム面(光学異方性層面)に対して垂直に配向している第2の光学異方性層が形成されたことが確認できた。また、遅相軸の方向は配向膜のラビング方向と平行であり、支持体の長手方向となす角は45°であった。
【0251】
第1の光学異方性層の形成において、UV強度と照射量を調整して表2に示したように重合率が異なる試料2-2a?2-8aを作成した。第1の光学異方性層のみが形成されている位相差板2-2a?2-8aについても589nmにおけるRe(0)、Re(40)およびRe(-40)を測定し、Rth、および、Nzを求めたところ、試料1-1aと同等の結果であった。第2の光学異方性層を上記と同様にして、作成した試料2-2b?2-8bについて密着の評価を行った。
【0252】
【表2】

【0253】
【表3】

【0254】
[実施例3]
<偏光板1および2の作製>
ヨウ素水溶液中で連続して染色した厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムを搬送方向に5倍延伸し、乾燥して長尺の偏光膜を得た。この偏光膜の一方の面に、上記作製した位相差板1-1bの光学異方性層が形成されていない面を、他方の面に視野角拡大フィルム(WVFILM ワイドビューA WV SA 128)を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて連続して貼り合わせ、長尺の偏光板1を作製した。偏光膜の吸収軸はフィルム長手方向に対して平行であり、ワイドビューフィルムの遅相軸はフィルム長手方向と直交していた。偏光膜の吸収軸と位相差板1-1bの遅相軸とがなす角は45.0°であった。
同様にして、位相差板2-1bを用いて、それぞれ偏光板2を作製した。いずれも偏光膜の吸収軸はフィルム長手方向に対して平行であり、ワイドビューフィルムの遅相軸はフィルム長手方向と直交していた。偏光膜の吸収軸と位相差板2-1bのそれぞれの遅相軸
とのなす角はいずれも45.0°であった。
【0255】
[実施例4]
<偏光板3および4の作製>
特開2003-337221号公報の実施例に記載の方法と同様にして、長尺状のコレステリック液晶フィルムを作製した。上記作製した偏光板1のワイドビューフィルムと反対側の面に、コレステリック液晶性フィルムを連続的に貼り合せ、長尺状の偏光板3を作製した。
同様にして、偏光板2とコレステリック液晶性フィルムをそれぞれ連続的に貼り合せ、長尺状の偏光板4を作製した。」

(2)引用文献18に記載された発明
前記(1)の記載事項ウに基づけば、引用文献18には、「位相差板2-1b」の発明として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「長尺状のセルロースアセテートフィルムの表面をケン化処理し、連続的に配向膜を形成し、長手方向に対し45°の方向にラビング処理を施し、その配向膜上に、下記の第1の光学異方性層塗布液を配向膜上に#2.0のワイヤーバーで連続的に塗布し、塗布液の溶媒の乾燥及び棒状液晶性化合物の配向熟成のために、90℃の温風で60秒間加熱し、続いて、UV照射(UV強度:1.8kW、照射量:350mJ/m^(2))により液晶性化合物の配向を固定化し支持体側の光学異方性層である第1の光学異方性層を形成し、位相差板2-1aを作製し、
上記作製した位相差板2-1aの第1の光学異方性層の上に、配向膜を形成し、続いて、その配向膜上に、下記の第2の光学異方性層塗布液を配向膜上に#3.4のワイヤーバーで連続的に塗布し、塗布液の溶媒の乾燥及び棒状液晶性化合物の配向熟成のために、90℃の温風で60秒間加熱し、続いて、UV照射(UV強度:1.8kW、照射量:350mJ/m^(2))により液晶性化合物の配向を固定化し第2の光学異方性層を形成し、続いて、光学異方性層が形成された面の反対側のセルロースアセテートフィルム表面を連続的にケン化処理して作製した、
棒状液晶がフィルム面(光学異方性層面)に対して水平に配向している第1の光学異方性層の上に、棒状液晶性化合物がフィルム面(光学異方性層面)に対して垂直に配向している第2の光学異方性層が形成された、位相差板2-1b。

(第1の光学異方性層塗布液の組成)
棒状液晶性化合物A 100質量部

光重合開始剤 3質量部
(イルガキュアー907、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 1質量部
フッ素系ポリマー(F) 0.4質量部

水平配向剤(G)I-13 0.2質量部
R^(1)及びR^(2)が「OCH_(12)H_(25)」、Xが「NH」である下記化合物

メチルエチルケトン 194質量部

(第2の光学異方性層塗布液の組成)
棒状液晶性化合物A 100質量部

光重合開始剤 3質量部
(イルガキュアー907、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 1質量部
フッ素系ポリマー P-22 0.2質量部

フッ素系ポリマー(D) 0.2質量部

ピリジニム塩I-12 2質量部

メタノール 30質量部
メチルエチルケトン 168質量部」

(3)引用文献5の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、先の出願前の平成14年2月6日に頒布された刊行物である引用文献5(特開2002-40258号公報)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0033】本実施形態の位相差板を円偏光板(λ/4板)の用途に供する場合は、波長450nm?650nmまでの広い範囲で、少なくとも波長450nm、550nm及び650nmにおいて、(レターデーション(Re)/波長)の値が0.2?0.3であること、換言すれば、波長550nmにおけるレターデーション(Re)の値が、110nm?165nmであり、波長の長さと正の相関を有することが必要である。より好ましくは、少なくとも波長450nm、550nm及び650nmにおいて、(レターデーション(Re)/波長)の値が0.23?0.27であり、さらに好ましくは、0.24?0.26である。」

イ 「【0035】本実施形態の位相差板では、前記正の材料と前記負の材料との混合物(材料が樹脂である場合はポリマーブレンド)からなる層は、各々の材料の分子配向が同一方向となっている。前記正の材料と負の材料の分子配向を一致させると、遅相軸は自ずと直交し、各々の材料が単独で示すレターデーションの波長分散は互いに軽減し、可視光全域の入射光に対して、ほぼ均一な位相差特性を与える位相差板を提供することができる。従って、本発明の位相差板は、広帯域(可視光域)の光に対して均一な位相差特性を与えることができるとともに、作製に際して、積層工程が不要であり、単一素材で低コストに形成可能である。」

ウ 「【0037】本実施形態の位相差板は、波長450nm、550nm、650nmにおけるレターデーション(Re)の値を、各々、Re(450)、Re(550)、Re(650)としたとき、これらが下記式を満たすのが好ましい。
Re(450) < Re(550) <Re(650)
前記関係式を満たすには、固有複屈折値が正の樹脂として、その固有屈折値の波長分散が小さい材料を選択し、且つ固有複屈折値が負の樹脂として、その固有複屈折値の波長分散が大きい材料を選択して組合せる、および固有複屈折値が正の樹脂として、その固有複屈折値の波長分散が大きい材料を選択し、且つ固有複屈折値が負の樹脂として、その固有複屈折値の波長分散が小さい材料を選択して組合せるのが好ましい。材料の好ましい組合せの具体例については、前述した通りである。」

(4)引用文献14の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、先の出願前の平成16年3月11日に頒布された刊行物である引用文献14(特開2004-77813号公報)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0005】
本発明は前記諸問題に鑑みなされたものであって、広帯域(可視光波長域)において位相差板として機能するとともに、薄層化が可能であり、容易かつ安定的に製造可能な位相差板を提供することを課題とする。また、本発明は、広帯域(可視光波長域)において円偏光板として機能するとともに、薄層化が可能であり、容易かつ安定的に製造可能な円偏光板を提供することを課題とする。」

イ 「【0047】
[実施例1]
厚さ100μm、幅150mm、長さ200mmの光学的に等方性のトリアセチルセルロースフィルムを透明支持体として用いた。配向膜としてPVA-203((株)クラレ製)の希釈液を透明支持体の片面に連続塗布し、厚さ0.5μmの配向膜を形成した。次いで、透明支持体の長手方向に対し、左手30°の方向に連続的にラビング処理を実施した。
【0048】
配向膜の上に、下記の組成の塗布液をバーコーターを用いて連続的に塗布、乾燥、および加熱(配向熟成)した後、室温(23℃)に冷却して、厚さ1.5μmの光学異方性層(A)を形成した。光学異方性層は透明支持体の長手方向に対して30°の方向に遅相軸を有していた。550nmにおけるレターデーション値(Re550)は270nmであった。
光学異方性層塗布液組成
液晶性高分子化合物(LCP-3) 20質量%
メチルエチルケトン 80質量%
【0049】
形成した光学異方性層(A)の上に、上記配向膜の希釈液を連続塗布し、厚さ0.5μmの配向膜を形成した。次いで、該配向膜を、光学異方性層(A)の遅相軸に対し右手60°であり、且つ透明支持体の長手方向に対し右手30°になるようにラビング処理を施した。
【0050】
さらに、ラビング処理された配向膜上に、上記光学異方性層塗布液を、バーコーターを用いて連続的に塗布、乾燥、および加熱(配向熟成)した。その後、室温(23℃)に冷却して、厚さ0.8μmの光学異方性層(B)を形成した。
【0051】
[実施例2]
光学異方性層塗布液組成を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして厚さ1.3μmの光学異方性層(A)を形成した。光学異方性層(A)は透明支持体の長手方向に対して30°の方向に遅相軸を有しており、550nmにおけるレターデーション値(Re550)は267nmであった。
光学異方性層塗布液組成
液晶性高分子化合物(LCP-9) 20質量%
メチルエチルケトン 80質量%
【0052】
形成した光学異方性層(A)の上に、上記配向膜の希釈液を連続塗布し、厚さ0.5μmの配向膜を形成した。次いで、該配向膜を、光学異方性層(A)の遅相軸に対し右手60°であり、且つ透明支持体の長手方向に対し右手30°になるようにラビング処理を施した。
【0053】
光学異方性層塗布液を、上記の組成のものに代えた以外は、実施例1と同様にして、上記配向膜上に厚さ0.7μmの光学異方性層(B)を形成した。」

(5)引用文献15の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、先の出願前の平成16年4月22日に頒布された刊行物である引用文献15(特開2004-126538号公報)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0004】
本発明は前記諸問題に鑑みなされたものであって、広帯域(可視光波長域)において位相差板として機能するとともに、薄層化が可能であり、容易かつ安定的に製造可能な位相差板を提供することを課題とする。また、本発明は、広帯域(可視光波長域)において円偏光板として機能するとともに、薄層化が可能であり、容易かつ安定的に製造可能な円偏光板を提供することを課題とする。」

イ 「【0016】
前記第1および第2の光学異方性層の厚さは、各々の層が所望のレターデーションを示す範囲で任意に決定することができる。第1の光学異方性層の厚みの好ましい範囲は、用いる棒状液晶性化合物の種類によって異なり、限定できないが、一般的には、約0.3?約20μmであり、0.4?15μmがより好ましく、0.6?10μmがさらに好ましい。本発明では、各々の光学異方性層を、液晶性化合物を水平配向させて形成することによって、位相差板の薄層化を達成している。」

ウ 「【0126】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。
[実施例1]
厚さ100μm、幅150mm、長さ20mの光学的に等方性のトリアセチルセルロースフィルムを透明支持体として用いた。配向膜(下記構造式のポリマー)の希釈液を透明支持体の片面に連続塗布し、厚さ0.5μmの配向膜を形成した。次いで、透明支持体の長手方向に対し左手30°の方向に連続的にラビング処理を実施した。

(中略)

【0128】
配向膜の上に、下記の組成の塗布液をバーコーターを用いて連続的に塗布、乾燥、および加熱(配向熟成)し、さらに紫外線照射して厚さ2.0μmの光学異方性層(A)を形成した。光学異方性層は透明支持体の長手方向に対して左手30°の方向に遅相軸を有していた。550nmにおけるレターデーション値(Re550)は265nmであった。

(中略)

【0133】
上記作製した光学異方性層Aの上に、上記で使用した配向膜の希釈液を連続塗布し、厚さ0.5μmの配向膜を形成した。次いで、該配向膜を、光学異方性層(A)の遅相軸に対し右手60°であり、かつ長手方向に対し右手30°になるように連続的にラビング処理を施した。
ラビング処理された配向膜上に、下記の組成の塗布液を、バーコーターを用いて連続的に塗布、乾燥、および加熱(配向熟成)し、さらに紫外線照射して厚さ1.0μmの光学異方性層(B)を形成した。」

(6)引用文献19の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、先の出願前の平成22年5月6日に頒布された刊行物である引用文献19(特開2010-102829号公報)には、以下の記載事項がある。

「【0078】
図5は、このようにして作製された4種類の酸化黒鉛粒子含有液の粒度分布測定結果である。run1を基準としてrun2?4のR^(2)値を計算した結果は、0.92(run2)、0.91(run3)、0.92(run4)であった。この4種類の分散液を濃度1.3質量%となるように濃度を調整し、10gの分散液に対して、13gの水系グラスカ(JSR社製、固形分量40質量%、水60質量%)、0.5gのヒドロキノン、8gの水及び8gのメタノールを加え、よく混合し混合分散液を得た。続いて、この混合分散液をNo.2のバーコーター(塗布厚み4.58μm)を使ってガラス上に塗布しフィルム状に形成した後、分散媒を乾燥・除去した。その後、140℃,180分間の加熱処理を行った。こうしてガラス上に塗膜を有する導電体を得た。」

(7)引用文献20の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、先の出願前の平成24年1月26日に頒布された刊行物である引用文献20(特開2012-17361号公報)には、以下の記載事項がある。

「【0042】
〔インキ組成物の評価〕
(1)コーター黒さ(目視)
表1及び表2に示した組成にしたがって調製したインキ組成物をINK塗布具(No.2バーコーター、膜厚:約4.58μm)を用いてケント紙(厚さ:0.17mm、重量:125kg/1000枚)に塗布し、塗布面を十分に乾燥させた。その後、塗布面を並べて5人のテスターによる比較目視を行い、◎(より黒い)、○(黒い)、△(黒さが少し足らない)、×(黒さが足らない)の4段階で評価した。」

(8)引用文献21の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、先の出願前の平成20年12月11日に頒布された刊行物である引用文献21(特開2008-296539号公報)には、以下の記載事項がある。

「【0157】
〔比較例5〕
バーコーター(RODNO.3、Wet膜厚:6.86μm)を用いて塗布した以外は、実施例1と同様に実施した。硬化後の硬化性樹脂層の厚さは0.4μmであった。」

(9)引用文献22の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、先の出願前の平成23年9月15日に頒布された刊行物である引用文献22(特開2011-178828号公報)には、以下の記載事項がある。なお、引用文献に付されていた下線を省き、周知技術の認定に用いた箇所に改めて下線を付した。

「【0070】
実施例1
離型性成分であるシリコーン組成物100重量部[信越化学工業(株)製,商品名KS-847T,(固形分30重量%)]、触媒[信越化学工業(株)製,商品名CAT-PL-50T]を5重量部、帯電防止剤成分のポリアルキレン鎖含有のオルガノポリシロキサン[信越化学工業(株)製,商品名KF-354]を1.05重量部、電解質塩化合物として過塩素酸リチウム0.45重量部を添加し、希釈剤としてメチルエチルケトン201.7重量部加えて攪拌混合して帯電防止性離型剤組成物を作製した。この帯電防止性離型剤組成物を厚さ38μmのポリエステルフィルム[東洋紡績(株)製、商品名E-5101]にバーコーターNo.3(wet6.87μm)にて塗布した後、140℃で1分間加熱処理して硬化させ、厚さ0.10μmで剥離塗膜中の帯電防止剤濃度が5重量%の帯電防止性離型層を有する帯電防止性離型フィルムを作製した。」

(10)引用文献23の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、先の出願前の平成17年10月13日に頒布された刊行物である引用文献23(特開2005-281704号公報)には、以下の記載事項がある。

「【0052】
2.塗布、乾燥方法
ここに記載の参考例、比較参考例、実施例、あるいは比較例の組成物のプラスチック基材への塗布、並びに乾燥は以下のように行った。すなわち、プラスチック基材としてPETフィルム(ルミラーTタイプ:東レ)を用い、コーティング用組成物をワイヤーバーでコーティングし、90℃で1分間送風乾燥させて、塗膜を得た。なお、参考例1?3、実施例1?3、比較参考例1?2、および比較例1?3は、No.4のワイヤーバー(wet9.14μm)でコーティングし、参考例4、5および比較参考例3?7は、No.5のワイヤーバー(Wet11.43μm)でコーティングした。」

(11)引用文献24の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、先の出願前の平成17年4月7日に頒布された刊行物である引用文献24(特開2005-92066号公報)には、以下の記載事項がある。

「【0037】
ナガセケムテックス株式会社製透明・導電性コーティング剤デナトロン#4002を上記露光用マスク(A)および(B)および(C)(大きさ200mm×200mm、厚み2.3mm)の画像形成面上にNo.4のワイヤーバー(湿潤膜厚9.14μm)を用いてコーティングし、180℃で20分間加熱して、それぞれ試料(D)、(E)、(F)を得た。」

(12)引用文献25の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、先の出願前の平成23年12月1日に頒布された刊行物である引用文献25(特開2011-242723号公報)には、以下の記載事項がある。

「【発明の効果】
【0018】
本発明の位相差フィルムでは、第1の樹脂層が、波長590nmの光に対する100nm以上190nm以下の面内位相差、すなわち、λ/4板として使用可能な面内位相差を示す。一方、第2の樹脂層は、波長590nmの光に対する0nmまたは10nm以下の面内位相差を示す。すなわち、第2の樹脂層は、面内位相差を示さないか、示したとしてもごく僅かな、非常に小さい面内位相差を示す。このため、第1および第2の樹脂層を含む積層体からなる本発明の位相差フィルムは、主として第1の樹脂層の面内位相差に基づいて、λ/4板として使用可能な面内位相差を示す。」

5 対比
本件発明と引用発明とを対比する。

(1)基材
引用発明の「セルロースアセテートフィルム」は、その表面に「配向膜」が形成されるものである。
したがって、引用発明の「セルロースアセテートフィルム」は、本件発明の「基材」に相当する。

(2)光配向膜
引用発明の「セルロースアセテートフィルム」の表面に形成される「配向膜」と本件発明の「光配向膜」とは、「配向膜」である点で共通する。

(3)第一の位相差層
引用発明の「第1の光学異方性層」は、「セルロースアセテートフィルム」の表面に形成される「配向膜」上に形成されるものである。
したがって、引用発明の「第1の光学異方性層」は、本件発明の「第一の位相差層」に相当する。
また、引用発明の「第1の光学異方性層」は、「第1の光学異方性層塗布液」を塗布し、UV照射により液晶性化合物の配向を固定化して形成されたものである。そして、「第1の光学異方性層塗布液」の組成に含まれる「棒状液晶性化合物A」は、その化学構造からみて、「重合性」であるといえる。そうすると、引用発明の「第1の光学異方性層」は、本件発明の「重合性液晶を重合させることにより形成されるコーティング層」とする要件を満たしている。さらに、引用発明の「第1の光学異方性層」は、本件発明の「第一の位相差層が1つの位相差層からなる」とする要件も満たしている。

(4)配向膜
引用発明の「第1の光学異方性層」の上に形成される「配向膜」は、技術的にみて、本件発明の「配向膜」に相当する。

(5)第二の位相差層
引用発明の「第2の光学異方性層」は、「第1の光学異方性層」の上に形成される「配向膜」上に形成されるものである。
したがって、引用発明の「第2の光学異方性層」は、本件発明の「第二の位相差層」に相当する。
また、引用発明の「第2の光学異方性層」は、「第2の光学異方性層塗布液」を塗布し、UV照射により液晶性化合物の配向を固定化して形成されたものである。そして、「第2の光学異方性層塗布液」の組成に含まれる「棒状液晶性化合物A」は、その化学構造からみて、「重合性」であるといえる。そうすると、引用発明の「第2の光学異方性層」は、本件発明の「重合性液晶を重合させることにより形成されるコーティング層」とする要件を満たしている。
さらに、引用発明の「第2の光学異方性層」は、「棒状液晶性化合物がフィルム面(光学異方性層面)に対して垂直に配向」したものである。そうすると、引用発明の「第2の光学異方性層」は、技術的にみて、本件発明の「式(3)で表される光学特性」である「nx≒ny<nz」を満たしているといえる。

(6)光学フィルム
引用発明の「位相差板2-1b」は、前記(1)の「セルロースアセテートフィルム」、前記(2)の「配向膜」、前記(3)の「第1の光学異方性層」、前記(4)の「配向膜」、前記(5)の「第2の光学異方性層」を、この順で積層してなるものである。
したがって、引用発明の「位相差板2-1b」は、本件発明の「光学フィルム」に相当し、「基材上に」「配向膜を介して形成された第一の位相差層と、前記第一の位相差層の上に配向膜を介して形成された第二の位相差層とを有する」という要件を満たしている。

(7)一致点及び相違点
以上より、本件発明と引用発明とは、
「基材上に光配向膜を介して形成された第一の位相差層と、前記第一の位相差層の上に配向膜を介して形成された第二の位相差層とを有する光学フィルムであって、
第二の位相差層が式(3)で表される光学特性を有し、
前記第一の位相差層と第二の位相差層のいずれもが1以上の重合性液晶を重合させることにより形成されるコーティング層であり、第一の位相差層が1つの位相差層からなる光学フィルム。
nx≒ny<nz (3)
(式中、nxは、位相差層が形成する屈折率楕円体において、フィルム平面に対して平行な方向の主屈折率を表す。nyは、位相差層が形成する屈折率楕円体において、フィルム平面に対して平行であり、且つ、該nxの方向に対して直交する方向の屈折率を表す。nzは、位相差層が形成する屈折率楕円体において、フィルム平面に対して垂直な方向の屈折率を表す。)」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点1]基材上に形成された配向膜が、本件発明は「光」配向膜であるのに対し、引用発明は光配向膜でない点。
[相違点2]第一の位相差層の厚さが、本件発明は「3μm以下」であるのに対し、引用発明の第1の光学異方性層の厚さが明らかでない点。
[相違点3]第二の位相差層の厚さが、本件発明は「3μm以下」であるのに対し、引用発明の第2の光学異方性層の厚さが明らかでない点。
[相違点4]本件発明は、第一の位相差層が、式(1)、式(2)及び式(4)で表される光学特性を有し、光学フィルムが、式(1)及び式(2)で表される光学特性を有するのに対し、引用発明は、第1の光学異方性層が、式(1)、式(2)及び式(4)で表される光学特性を有するか明らかでなく、位相差板2-1bが、式(1)及び式(2)で表される光学特性を有するか明らかでない点。
Re(450)/Re(550)≦1.00 (1)
1.00≦Re(650)/Re(550) (2)
100nm<Re(550)<160nm (4)
(式中、Re(λ)は波長λnmの光に対する面内位相差値を表す。)

6 判断
(1)[相違点1]について
引用文献18の記載事項イには、「配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、またはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例えば、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。」(段落【0188】)と記載されている。当該記載に基づけば、引用文献18には、配向膜として、光照射により配向機能が生じる配向膜を用いることが示唆されていたといえる。
したがって、引用発明の「セルロースアセテートフィルム」の表面に形成される「配向膜」を「光」配向膜とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(2)[相違点2]について
ア 引用文献19の「この混合分散液をNo.2のバーコーター(塗布厚み4.58μm)を使ってガラス上に塗布しフィルム状に形成した後、分散媒を乾燥・除去した。」(段落【0078】)との記載や、引用文献20の「インキ組成物をINK塗布具(No.2バーコーター、膜厚:約4.58μm)を用いてケント紙(厚さ:0.17mm、重量:125kg/1000枚)に塗布し」(段落【0042】)との記載に基づけば、「#2.0のワイヤーバー」で塗布された塗布液の膜厚が4.58μm程度となることは技術常識であるといえる。
そして、引用発明は、第1の光学異方性層を形成するにあたり、「第1の光学異方性層塗布液を配向膜上に#2.0のワイヤーバーで連続的に塗布」していることから、引用発明の第1の光学異方性層塗布液の膜厚も、4.58μm程度であるといえる。
さらに、引用発明の第1の光学異方性層塗布液は、固形分が約35%程度である(合議体注:塗布液の全量は100+3+1+0.4+0.2+194=298.6質量部であり、このうちメチルエチルケトン以外のものが固形分(100+3+1+0.4+0.2=104.6質量部)となるから、塗布液における固形分の割合は、104.6÷298.6=約0.35)。そうすると、引用発明の第1の光学異方性層塗布液を、#2.0のワイヤーバーで連続的に塗布し、UV照射により液晶性化合物の配向を固定化して得られる第1の光学異方性層の膜厚は、3μm以下となる蓋然性が高い。
したがって、上記[相違点2]は実質的な相違点ではない。

イ 仮に上記[相違点2]が実質的な相違点であったとしても、位相差板の薄層化のために、位相差層の厚さを3μm以下とすることは、当該技術分野において周知の技術事項である。例えば、引用文献14には、記載事項アに「広帯域(可視光波長域)において位相差板として機能するとともに、薄層化が可能であり、容易かつ安定的に製造可能な位相差板を提供する」(段落【0005】)と記載され、記載事項イに、実施例1として「厚さ1.5μmの光学異方性層(A)」(段落【0048】)を形成したこと、実施例2として「厚さ1.3μmの光学異方性層(A)」(段落【0051】)を形成したことが記載されている。また、引用文献15には、記載事項アに「広帯域(可視光波長域)において位相差板として機能するとともに、薄層化が可能であり、容易かつ安定的に製造可能な位相差板を提供する」(段落【0004】)と記載され、記載事項イに「第1の光学異方性層の厚みの好ましい範囲は、用いる棒状液晶性化合物の種類によって異なり、限定できないが、一般的には、約0.3?約20μmであり、0.4?15μmがより好ましく、0.6?10μmがさらに好ましい。」(段落【0016】)と記載され、記載事項ウに、実施例1として「厚さ2.0μmの光学異方性層(A)」(段落【0128】)を形成したことが記載されている。
したがって、位相差板の薄層化を勘案した当業者が、引用発明の「第1の光学異方性層」の厚さを、3μm以下とすることは、通常の創意工夫の範囲内の事項である。

(3)[相違点3]について
ア 前記(2)アに記載したとおり、引用文献19及び引用文献20の記載に基づけば、「#2.0のワイヤーバー」で塗布された塗布液の膜厚が4.58μm程度となることは技術常識であるといえる。さらに、引用文献21の「バーコーター(RODNO.3、Wet膜厚:6.86μm)」(段落【0157】)、引用文献22の「バーコーターNo.3(wet6.87μm)」(段落【0070】)、引用文献23の「No.4のワイヤーバー(wet9.14μm)」及び「No.5のワイヤーバー(Wet11.43μm)」(段落【0052】)、引用文献24の「No.4のワイヤーバー(湿潤膜厚9.14μm)」(段落【0037】)の記載を参酌すれば、塗布液の膜厚とワイヤーバーの番号2?4との間に比例関係があることが理解でき、#3.4のワイヤーバーを使用したときの塗布液の膜厚は7.79μm程度となると考えられる。
(合議体注:膜厚=比例定数×ワイヤーバーの番号と仮定すると、4.58÷2=6.86÷3=9.14÷4=2.29となり、比例定数が一致する。したがって、#3.4のワイヤーバーを使用したときの塗布液の膜厚は、2.29×3.4=7.79μm程度となる。)
そして、引用発明は、第2の光学異方性層を形成するにあたり、「第2の光学異方性層塗布液を配向膜上に#3.4のワイヤーバーで連続的に塗布」していることから、引用発明の第2の光学異方性層塗布液の膜厚も、7.79μm程度であるといえる。
さらに、引用発明の第2の光学異方性層塗布液は、固形分が約35%程度である(合議体注:塗布液の全量は100+3+1+0.2+0.2+2+30+168=304.4質量部であり、このうちメタノールとメチルエチルケトン以外のものが固形分(100+3+1+0.2+0.2+2=106.4質量部)となるから、塗布液における固形分の割合は、104.6÷298.6=約0.35)。そうすると、引用発明の第2の光学異方性層塗布液を、#3.4のワイヤーバーで連続的に塗布し、UV照射により液晶性化合物の配向を固定化して得られる第2の光学異方性層の膜厚は、3μm以下となる蓋然性が高い。
したがって、上記[相違点3]も実質的な相違点ではない。

イ 仮に上記[相違点3]が実質的な相違点であったとしても、位相差板の薄層化のために、位相差層の厚さを3μm以下とすることは、当該技術分野において周知の技術事項である。前記(2)イにおいて指摘した事項に加えて、引用文献14には、記載事項イに、実施例1として「厚さ0.8μmの光学異方性層(B)」(段落【0050】)を形成したこと、実施例2として、「厚さ0.7μmの光学異方性層(B)」(段落【0053】)を形成したことが記載されており、引用文献15には、実施例1として「厚さ1.0μmの光学異方性層(B)」(段落【0133】)を形成したことが記載されている。
したがって、位相差板の薄層化を勘案した当業者が、引用発明の「第2の光学異方性層」の厚さも、3μm以下とすることは、通常の創意工夫の範囲内の事項である。

(4)[相違点4]について
ア 式(4)について
(ア)引用文献18の記載事項ウの表3に基づけば、引用発明の「位相差板2-1b」は、589nmにおける面内位相差が「136.0nm」であり、記載事項ウの「得られたフィルムの面内レタデーション(Re)は1nm(遅相軸はフィルム長手方向と垂直な方向)、厚み方向のレタデーション(Rth)は-1nmであった。」(段落【0221】)との記載に基づけば、引用発明の「セルロースアセテートフィルム」の面内レタデーションは「1nm」である。さらに、引用発明の「第2の光学異方性層」は、「nx≒ny<nz」を満たすものであるから、面内レタデーションをほとんど有さない。そうすると、引用発明の「位相差板2-1b」の面内位相差は、「第1の光学異方性層」の面内位相差の寄与によるものといえる(例えば、引用発明25の段落【0018】の記載を参照。)。そして、測定波長が589nmと550nmとで異なっていたとしても、面内位相差の値が大きく異なるとは考えがたい。
したがって、引用発明の「第1の光学異方性層」は、本件発明の式(4)で表される光学特性を有する蓋然性が高い。

(イ)仮に、引用発明の「第1の光学異方性層」が、本件発明の式(4)で表される光学特性を有しないとしても、引用文献18には、記載事項イに、「本発明の位相差板は、Reが50?200nmであることが好ましく、70?180nmであるのがより好ましく、80?160nmであるのがさらに好ましく、90?160nmであるのが最も好ましい。上記範囲内にあることで、λ/4板として好適に用いることができる。」(段落【0018】)と記載されている。また、引用発明の「第2の光学異方性層」は、「nx≒ny<nz」を満たすものであるから、面内レタデーションをほとんど有さない。
そうすると、引用発明の「第1の光学異方性層」について、λ/4板として機能するよう、本件発明の式(4)で表される光学特性を有するものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。

イ 式(1)及び式(2)について
引用文献18には、記載事項イに、「本発明の位相差板は、波長が大きくなるにしたがってReも大きくなる広帯域性を有することも好ましい。例えば、広帯域性を発現させるため、実質的に1/2波長のReを有する層と実質的に1/4波長のReを有する層を、それらの遅相軸が交差するように積層する技術が特開2000-284126号公報などに開示されている。」(段落【0019】)と記載されている。そして、上記特開2000-284126号公報には、「液晶性分子の種類と量および液晶性分子の配向状態を調整することで、必要とされるレターデーション値を厳密に調節することもできる。ディスコティック液晶性分子のような負の一軸性が得られる液晶性分子を垂直配向させて用いると、厚み方向の屈折率を改善でき、視野角拡大や斜め方向からの色味を改善することができる。以上のように本発明によれば、簡単に製造できる広帯域λ/4板が得られる。」(段落【0006】)と記載されている。上記記載に基づけば、引用文献18には、液晶性分子の種類と量および液晶性分子の配向状態を調整することにより、広帯域性が発現した位相差板とすることが示唆されていたといえる。
そして、引用文献5には、記載事項イに「本実施形態の位相差板では、前記正の材料と前記負の材料との混合物(材料が樹脂である場合はポリマーブレンド)からなる層は、各々の材料の分子配向が同一方向となっている。前記正の材料と負の材料の分子配向を一致させると、遅相軸は自ずと直交し、各々の材料が単独で示すレターデーションの波長分散は互いに軽減し、可視光全域の入射光に対して、ほぼ均一な位相差特性を与える位相差板を提供することができる。」(段落【0035】)と記載され、記載事項ウに「本実施形態の位相差板は、波長450nm、550nm、650nmにおけるレターデーション(Re)の値を、各々、Re(450)、Re(550)、Re(650)としたとき、これらが下記式を満たすのが好ましい。」、「Re(450) < Re(550) <Re(650)」、「前記関係式を満たすには、固有複屈折値が正の樹脂として、その固有屈折値の波長分散が小さい材料を選択し、且つ固有複屈折値が負の樹脂として、その固有複屈折値の波長分散が大きい材料を選択して組合せる、および固有複屈折値が正の樹脂として、その固有複屈折値の波長分散が大きい材料を選択し、且つ固有複屈折値が負の樹脂として、その固有複屈折値の波長分散が小さい材料を選択して組合せるのが好ましい。」(段落【0037】)と記載されている。当該記載に基づけば、位相差板を広帯域性が発現したものとする際に、「Re(450) < Re(550) <Re(650)」を満たすものとすること、つまり、本件発明の式(1)及び式(2)の要件を満たすものとすることは周知の技術事項であるといえる。
したがって、引用発明の「位相差板2-1b」が広帯域性を発現する1/4波長板となるように、「第1の光学異方性層」の液晶性分子の種類と量および液晶性分子の配向状態を調整し、「位相差板2-1b」及び「第1の光学異方性層」が本件発明の式(1)及び式(2)で表される光学特性も有するものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

(5)効果について
本願の明細書の段落【0006】の記載に基づけば、本件発明の効果は、「黒表示時の光漏れ抑制に優れる光学フィルムを提供することができる」というものである。
一方、引用発明は、「棒状液晶がフィルム面(光学異方性層面)に対して水平に配向している第1の光学異方性層の上に、棒状液晶性化合物がフィルム面(光学異方性層面)に対して垂直に配向している第2の光学異方性層が形成された、位相差板2-1b」であり、引用文献18には、記載事項アに「本発明の位相差板は、液晶表示装置の表示特性の改善に寄与し、生産性の著しく向上した位相差板一体型の偏光板を提供することができ、視野角の拡大された液晶表示装置やバックライト利用効率の向上された液晶表示装置を提供することができるものであり、λ/4板として有効で、密着性が改良されたものである。」(段落【0008】)と記載されている。
上記記載に基づけば、引用発明は、「視野角の拡大」が達成されていることから、視野角が変化しても所望の位相差を示すことができるものである。そうすると、黒表示時においても光漏れが抑制されることは明らかである。
したがって、本件発明の効果は、引用文献18等の記載に基づいて当業者が予測し得た範囲内のものである。

7 請求人の主張について
請求人は、令和2年3月13日付けの意見書において、「本願発明の光学フィルムにおける第一の位相差層と、引用文献18の実施例に記載される位相差板2-1bの第1の光学異方性層とは、ともに重合性液晶のコーティング層であることにおいて共通するものではありますが、得られる液晶硬化層が、逆波長分散性を示すものであるか正波長分散性を示すものであるかにより、これらの液晶硬化層を得るための技術は以下の点で大きく異なります。」、「すなわち、本願発明の光学フィルムは、単に光学フィルム(位相差板)の示す波長分散性が逆波長であるか正波長であるかにおいて引用文献18に記載の位相差板2-1bと異なるものではなく、物理的な配向規制力を有するラビング配向膜上に、その構造上、フィルム平面に対して水平方向に配向しやすい棒状構造の液晶化合物をより薄い膜厚において配向させて第一の位相差層を形成すればよい位相差板2-1bとは、式(1)および(2)で表される光学特性(逆波長分散性)を示すための構成において全く異なる技術となります。」、「引用文献5には、特定の固有複屈折値を有する材料を含む樹脂フィルムを延伸することによりRe(450)<Re(550)<Re(650)なる光学特性を満たす位相差板が基材されているに過ぎず、本発明における式(1)および(2)を満たすことが広帯域性に有効であることは認識し得るものの、位相差板に該光学特性を如何にして付与し得るかについて、特定の固有複屈折値を有する材料を含む樹脂フィルムを延伸することによる技術以外に何ら教示や示唆を与えるものではありません。」、「補正後の本願請求項1に記載の光学フィルムは、第一および第二の位相差層を形成する液晶化合物をそれぞれ所定の方向に、引用文献18および5のいずれにも教示も示唆もされていない技術をもって配向させる必要があり、このような点においても、当業者が上記文献に記載の発明に基づき容易になし得たものではありません。」と主張している。
しかしながら、前記6(4)イに記載したように、引用文献18には、変性ポリカーボネートフィルムを延伸することだけでなく、液晶性分子の種類と量および液晶性分子の配向状態を調整することにより、広帯域性が発現した位相差板とすることが示唆されていたといえる。また、前記6(1)に記載したとおり、引用文献18には、配向膜として、光照射により配向機能が生じる配向膜を用いることが示唆されており、光配向膜は周知技術である。また、例えば、特開2010-15045号公報の実施例1?3(段落【0179】?【0189】)には、光配向膜上に液晶組成物を連続塗布し、乾燥後、紫外線を照射することにより、λ/4板を形成し、広帯域楕円偏光板ロールを得たことが記載されており、光配向膜を用いて重合性液晶からなる広帯域λ/4板を形成することも知られている。そうすると、光配向膜に関する技術常識を心得た当業者であれば、引用発明において、液晶性分子の種類と量および液晶性分子の配向状態を調整することにより、広帯域性が発現した位相差板とすることが困難であったということができない。
以上のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。

8 むすび
以上より、本願の請求項1に係る発明は、引用発明、引用文献18の記載事項及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-07-03 
結審通知日 2020-07-07 
審決日 2020-07-27 
出願番号 特願2015-180451(P2015-180451)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 宮澤 浩
神尾 寧
発明の名称 光学フィルム  
代理人 中山 亨  
代理人 梶田 真理奈  
代理人 岩木 郁子  
代理人 松谷 道子  
代理人 森住 憲一  
代理人 坂元 徹  

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