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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1366363
審判番号 不服2019-1653  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-06 
確定日 2020-09-17 
事件の表示 特願2014-161214「積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月26日出願公開、特開2015- 57646〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成26年8月7日(先の出願に基づく優先権主張 平成25年8月9日)の出願であって、平成30年3月22日付けで拒絶理由が通知され、同年5月29日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年10月30日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成31年2月6日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされた。
その後、令和2年1月7日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年3月9日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされた。

2 本件発明
本願の請求項1?11に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりの発明であって、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、次のとおりである。
「 基材及び光学異方性層を有し、
さらに、基材と光学異方性層との間に配向膜層を有し、かつ
前記光学異方性層は、重合性液晶化合物および光重合開始剤を含む光学異方層形成用組成物の硬化物であるコーティング層であり、
前記光学異方性層の厚さは、0.2μm?5μmであり、
前記光学異方性層が下記式(1)、(2)及び(3)を満たし、
前記基材が下記式(4)を満たす積層体。
Δn_(50)(450)/Δn_(50)(550)≦1.00 (1)
1.00≦Δn_(50)(650)/Δn_(50)(550) (2)
(ここで、Δn_(50)(450)、Δn_(50)(550)、Δn_(50)(650)はそれぞれ波長450nm、550nm、650nmにおいて、進相軸を傾斜中心軸として50度傾斜させ、測定したときに得られる位相差値から導出される複屈折である。)
nz>nx≒ny (3)
(nx、nyは、基材平面に対して平行な方向の屈折率を示し、nxとnyはそれぞれ直交し、nzはnx及びnyのいずれにも直交する方向の屈折率を示す。)
nx>ny≒nz (4)
〔ここで、nx、nyは、基材平面に対して平行な方向の屈折率を示し、nxとnyはそれぞれ直交し、nzはnx及びnyのいずれにも直交する方向の屈折率を示す。〕」

3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、本願の請求項1?11に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用文献4に記載された発明及び周知技術に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、当審拒絶理由において引用された引用文献は、以下のとおりであり、引用文献4を主引用例として、引用文献1?3、5?8を周知技術を示す文献として使用した。
引用文献1:特開2008-273925号公報
引用文献2:特開2011-207765号公報
引用文献3:特開2012-189818号公報
引用文献4:特開2008-9328号公報
引用文献5:特開2010-72658号公報
引用文献6:特開2006-126770号公報
引用文献7:特開2008-216782号公報
引用文献8:特開2009-69282号公報

4 引用文献の記載事項及び引用発明
(1)引用文献4の記載事項
当審拒絶理由に主引用例として引用され、先の出願前の平成20年1月17日に頒布された刊行物である引用文献4(特開2008-9328号公報)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。他の文献についても同様である。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置等に用いられる位相差フィルムに関するものであり、より詳しくはシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた位相差フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、その省電力、軽量、薄型等といった特徴を有することから、従来のCRTディスプレイに替わり、近年急速に普及している。一般的な液晶表示装置としては、図3に示すように、入射側の偏光板102Aと、出射側の偏光板102Bと、液晶セル104とを有する液晶表示装置100を挙げることができる。偏光板102Aおよび102Bは、所定の振動方向の振動面を有する直線偏光(図中、矢印で模式的に図示)のみを選択的に透過させるように構成されたものであり、それぞれの振動方向が相互に直角の関係になるようにクロスニコル状態で対向して配置されている。また、液晶セル104は画素に対応する多数のセルを含むものであり、偏光板102Aと102Bとの間に配置されている。
【0003】
このような液晶表示装置は、上記液晶セルに用いられる液晶材料の配列形態により種々の駆動方式を用いたものが知られており、今日、普及している液晶表示装置の主たるものは、TN、STN、MVA、IPSおよびOCB等に分類される。なかでも今日においては、上記MVAおよびIPSの駆動方式を有するものが広く普及するに至っている。
【0004】
一方、液晶表示装置は、その特有の問題点として、液晶セルの屈折率異方性に起因する視野角依存性の問題点がある。この視野角依存性の問題は、液晶表示装置を正面から見た場合と、斜め方向から見た場合とで、視認される画像の色味やコントラストが変化してしまう問題である。このような視野角特性の問題は、近年の液晶表示装置の大画面化に伴って、さらにその問題の重大性が増している。
【0005】
このような視野角依存性の問題を改善するため、現在までに様々な技術が開発されており、その代表的な方法として位相差フィルムを用いる方法がある。このような位相差フィルムを用いる方法は、図3に示すように所定の光学特性を有する位相差フィルム30を、液晶セル104と偏光板102Bとの間に配置することにより、視野角依存性の問題を改善する方法である。この方法は位相差フィルム30を液晶表示装置に組み込むことのみで上記視野角依存性の問題点を改善できることから、簡便に視野角特性に優れた液晶表示装置を得ることが可能な方法として広く用いられるに至っている。
ここで、上記位相差フィルムとしては、例えば、透明基板上に、規則的に配列した液晶材料を含有する位相差層が形成された構成を有するものや、延伸フィルムからなるものが一般的に知られている。
なかでも、IPS(In-PlaneSwitching)方式の液晶表示装置には、液晶材料がホメオトロピック配向することにより、正のCプレートとしての性質を有する位相差層を有する位相差フィルムが用いられている。

(中略)

【0008】
このようなシクロオレフィン系樹脂の利点を活かし、特許文献3には、シクロオレフィン系樹脂からなる基板上に、液晶材料がホメオトロピック配向した位相差層が形成され、IPS方式の液晶表示装置に好適に用いられる正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムが開示されている。このような位相差フィルムは、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板を用いることで、従来トリアセチルセルロースからなるフィルムが用いられていた際に問題となっていた吸湿変形等を改善できるという利点がある。
しかしながら、上記シクロオレフィン系樹脂は、一般的に上記位相差層に用いられる液晶材料との接着性が低いため、特許文献3に記載されたような位相差フィルムは、位相差層と透明基板との密着性が低く、実用性に乏しいという問題点があった。
この点、特許文献4には、アクリル系樹脂等からなる粘着剤を用いて、ホメオトロピック配向した位相差層と、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板とを接着させる思想が開示されているが、このような粘着剤を用いてもなお位相差層と透明基板との接着性を十分なものとすることは困難であった。
【0009】
このようなことから、シクロオレフィン系樹脂が用いられた位相差フィルムは、上述したような利点を有するものの、実用性に欠けるという問題点があった。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた、正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムであって、位相差層と透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板と、上記透明基板上に接するように形成され、重合性モノマーの重合物を含有し、さらに液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を有する密着性配向層と、上記密着性配向層上に形成され、液晶材料を含有し、さらに面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立する位相差層と、を有する位相差フィルムであって、上記重合性モノマーが、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有するものであり、かつ、上記重合性モノマーを構成する炭素数Nを、上記重合性モノマーを構成する炭素および水素以外の元素数Mで除した値(N/M)(以下、単に「炭素含有比」と称する場合がある。)が3以上であることを特徴とする位相差フィルムを提供する。
【0013】
【化1】

【0014】
ここで、上記式においてR^(1)、R^(2)、R^(3)は、メチル基または水素を表す。また、R^(4)は、水素、メチル基またはエチル基を表す。
【0015】
本発明によれば、上記密着性配向層に上記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有し、かつ、炭素含有比が3以上である重合性モノマーの重合物が含まれることにより、上記密着性配向層と、上記シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板および液晶材料を含有する位相差層との密着性を向上することができる。このため、本発明によればシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた位相差フィルムであって、上記位相差層と上記透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
また、上記位相差層が面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立するものであることにより、本発明の位相差フィルムに正のCプレートとしての性質を付与することができる。
このようなことから、本発明によればシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムであって、位相差層と、透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができる。

(中略)

【発明の効果】
【0021】
本発明は、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムであって、位相差層と、透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができるという効果を奏する。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の位相差フィルムについて説明する。なお、本発明の位相差フィルムはその構成の相違により2つの態様に分類することができる。したがって、以下、各態様に分けて、本発明の位相差フィルムについて説明する。
【0023】
A.第1態様の位相差フィルム
まず、本発明の第1態様の位相差フィルムについて説明する。本態様の位相差フィルムは、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板と、上記透明基板上に接するように形成され、重合性モノマーの重合物を含有し、さらに液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を有する密着性配向層と、上記密着性配向層上に形成され、液晶材料を含有し、さらに面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立する位相差層と、を有するものであって、上記重合性モノマーが、上記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有し、かつ、炭素含有比が3以上であることを特徴とするものである。

(中略)

【0026】
また、上記位相差層が面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立するものであることにより、本態様の位相差フィルムに正のCプレートとしての性質を付与することができる。
なお、本態様においては、上記密着性配向層が液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を有するものであることから、上記位相差層に含有される液晶材料は、通常、上記密着性配向層の作用によりホメオトロピック配向を形成したものとなる。このため、本態様においては、このようなホメオトロピック配向を形成した液晶材料の複屈折性の寄与により、当然に上記位相差層を上記nx、ny、nzに上記関係が成立するものにすることができる。
このようなことから、本態様によればシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムであって、位相差層と、透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0027】
本態様の位相差フィルムは、少なくとも、透明基板、密着性配向層、および、位相差層を有するものである。
以下、本態様の位相差フィルムに用いられる各構成について順に説明する。
【0028】
1.密着性配向層
まず、本態様に用いられる密着性配向層について説明する。本態様に用いられる密着性配向層は、上記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有し、かつ、炭素含有比が3以上である重合性モノマーの重合物を含有し、さらに液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を有するものである。そして、本態様に用いられる密着性配向層は、後述する位相差層に含有される液晶材料をホメオトロピック配向させ、位相差層に正のCプレートとしての性質を付与する機能と、後述する透明基板および位相差層を接着する機能とを有するものである。

(中略)

【0051】
なお、本態様における密着性配向層として、上記重合性モノマーの重合物を含有する密着層上に、上記ホメオトロピック配向規制力を備える配向層が積層された構成を有するものを用いる場合、上記配向層としては、例えば、ポリアミック酸、ポリイミドなどからなる液晶垂直配向膜を挙げることができる。このような配向層としては、例えば、特開2005-115231号公報等に記載されているものを用いることができる。

(中略)

【0054】
2.位相差層
次に、本態様に用いられる位相差層について説明する。本態様に用いられる位相差層は、液晶材料を含有し、面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立するものである。
【0055】
ここで、本態様においては、上述した密着性配向層のホメオトロピック配向規制力が位相差層に含有される液晶材料のホメオトロピック配向形成に寄与するため、上記液晶材料は、通常、位相差層においてホメオトロピック配向を形成していることになる。そして、このような液晶材料のホメオトロピック配向により、本態様の位相差層は上記nx=ny<nzの関係が成立するものになるのである。
したがって、本態様に用いられる位相差層が上記nx=ny<nzの関係を有することは、位相差層において上記液晶材料がホメオトロピック配向を形成していることと同意であるといえる。
【0056】
以下、本態様に用いられる位相差層について説明する。
【0057】
(1)液晶材料
まず、上記液晶材料について説明する。本態様に用いられる液晶材料としては、位相差層の上記nx、ny、および、nzに上記関係が成立する位相差性を付与できるものであれば特に限定されるものではない。このような液晶材料としては、通常、ホメオトロピック配向させることが可能なホメオトロピック液晶材料が用いられる。
【0058】
本態様に用いられるホメオトロピック液晶材料は、重合性官能基を有するものであることが好ましい。このような液晶材料を用いることにより、重合性官能基を介して互いに重合させることができるため、本態様における位相差層の機械強度を向上することができるからである。また、位相差層中におけるホメオトロピック液晶材料の配向安定性も向上させることができるからである。

(中略)

【0070】
(2)位相差層
本態様における位相差層に含有される液晶材料は1種類でも良く、または、2種類以上であっても良い。また、2種類以上の液晶材料を用いる場合、上記第1のホメオトロピック液晶材料と、上記第2のホメオトロピック液晶材料とを混合して用いても良い。
【0071】
また、本態様における位相差層には、上記液晶材料以外の他の化合物が含まれていても良い。このような他の化合物としては、位相差層における上記液晶材料の配列状態や、位相差層の光学特性発現性を損なわないものであれば特に限定されるものではなく、本態様の位相差フィルムの用途等に応じて適宜選択して用いることができる。このような他の化合物としては、例えば、重合開始剤、重合禁止剤、可塑剤、界面活性剤、および、シランカップリング剤等を挙げることができる。なかでも本態様においては、上記液晶材料として上記重合性液晶材料を用いる場合、上記他の化合物として重合開始剤または重合禁止剤を用いることが好ましい。
【0072】
上記重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4,4-ビス(ジメチルアミン)ベンゾフェノン、4,4-ビス(ジエチルアミン)ベンゾフェノン、α-アミノ・アセトフェノン、4,4-ジクロロベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4-メチルジフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、p-tert-ブチルジクロロアセトフェノン、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、ベンジルメトキシエチルアセタール、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、2-アミルアントラキノン、β-クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンズスベロン、メチレンアントロン、4-アジドベンジルアセトフェノン、2,6-ビス(p-アジドベンジリデン)シクロヘキサン、2,6-ビス(p-アジドベンジリデン)-4-メチルシクロヘキサノン、2-フェニル-1,2-ブタジオン-2-(o-メトキシカルボニル)オキシム、1-フェニル-プロパンジオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム、1,3-ジフェニル-プロパントリオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム、1-フェニル-3-エトキシ-プロパントリオン-2-(o-ベンゾイル)オキシム、ミヒラーケトン、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、n-フェニルチオアクリドン、4,4-アゾビスイソブチロニトリル、ジフェニルジスルフィド、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、カンファーキノン、アデカ社製N1717、四臭化炭素、トリブロモフェニルスルホン、過酸化ベンゾイン、エオシン、メチレンブルー等の光還元性色素とアスコルビン酸やトリエタノールアミンのような還元剤との組み合わせ等を例示できる。本態様では、これらの光重合開始剤を1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。

(中略)

【0077】
本態様における位相差層の厚みは、上記液晶材料の種類等に応じて、本態様に用いられる位相差フィルムに所望の光学特性を付与できる範囲内であれば特に限定されない。なかでも本態様においては0.5μm?10μmの範囲内であることが好ましく、特に0.5μm?5μmの範囲内であることが好ましく、さらに1μm?3μmの範囲内であることが好ましい。
【0078】
本態様における位相差層は位相差性を示すものであるが、このような位相差性は、本態様の位相差フィルムの用途等に応じて任意に調整することができる。なかでも本態様における位相差層は、厚さ方向のレターデーション(Rth)が、-1000nm?0nmの範囲内であることが好ましく、特に-300nm?0nmの範囲内であることが好ましい。
ここで、上記厚さ方向レターデーション(以下、単に「Rth」と称する場合がある。)とは、面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率をそれぞれnx、ny、厚み方向の屈折率をnzとしたときに、Rth={(nx+ny)/2-nz}×dで表される量である。また、上記厚さ方向レターデーションは、例えば、王子計測機器株式会社製 KOBRA-WRを用い、平行ニコル回転法によって測定することができる。
【0079】
3.透明基板
次に、本態様に用いられる透明基板について説明する。本発明に用いられる透明基板はシクロオレフィン系樹脂からなるものである。
【0080】
ここで、本態様におけるシクロオレフィン系樹脂とは、環状オレフィン(シクロオレフィン)からなるモノマーのユニットを有する樹脂を意味するものである。また、上記環状オレフィンからなるモノマーとしては、例えば、ノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマー等を挙げることができる。

(中略)

【0093】
本態様に用いられる透明基板は位相差性を示すものであっても良い。このような位相差性としては、本態様の位相差フィルムの用途等に応じて、位相差フィルムに所望の屈折率異方性を付与できる範囲であれば特に限定されない。なかでも本態様に用いられる透明基板は、面内レターデーションが0nm?1000nmの範囲内であるものが好ましく、特に0nm?300nmの範囲内であるものが好ましい。
ここで、上記の面内レターデーション(以下、単に「Re」と称する場合がある。)とは、透明基板の面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内の進相軸方向の屈折率をny、および、透明基板の厚みをdとした場合に、Re=(nx-ny)×dで表されるものである。また、上記Reは、例えば、王子計測機器株式会社製 KOBRA-WRを用い、平行ニコル回転法によって測定することができる。
【0094】
本態様に用いられるシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板の具体例としては、例えば、Ticona社製 Topas、ジェイエスアール社製 アートン、日本ゼオン社製 ZEONOR、日本ゼオン社製 ZEONEX、三井化学社製 アペル等を挙げることができる。
【0095】
4.位相差フィルム
本態様の位相差フィルムが示す位相差性は、本態様の位相差フィルムの用途等に応じて適宜決定することができるが、なかでも本態様の位相差フィルムは、Nzファクターが1.0以下であることが好ましく、特に-1.5≦Nz<1.0の範囲内であることが好ましい。
ここで、上記Nzファクターは屈折率楕円体の形状を規定するパラメーターであり、面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとにより、以下の式で表されるものである。
Nz=(nx-nz)/(nx-ny)
なお、上記Nzファクターは、例えば、王子計測機器株式会社製 KOBRA-WRを用い、平行ニコル回転法によって上記nx、ny、および、nzを測定した後、上記式にしたがって算出することにより求めることができる。
【0096】
また、本態様の位相差フィルムのReの波長分散は、波長が短くなるほどRe値が小さくなる逆分散型であっても良く、波長が短くなるほどRe値が大きくなる正分散型であっても良く、または、Re値に波長依存性を有さないフラット型であっても良い。

(中略)

【0098】
5.位相差フィルムの用途
本態様の位相差フィルムは、液晶表示装置に用いられる視野角補償フィルム、楕円偏光板、輝度向上フィルム等として用いることができる。
【0099】
本態様の位相差フィルムを液晶表示装置の視野角補償フィルムとして用いる場合においては、本態様の位相差フィルムを単体で用いることも可能であり、また、本態様の位相差フィルムと他の光学機能フィルムと積層して用いることも可能である。さらに、本態様の位相差フィルムに用いられる基板の上記位相差層が形成された側とは反対面上に、他の位相差層を直接積層して用いることも可能である。
【0100】
本態様の位相差フィルムと、他の光学機能フィルムとを積層して用いる例としては、例えば、本態様の位相差フィルム上に、コレステリック配列した液晶分子を含有する液晶層を積層することにより、液晶表示装置用の輝度向上フィルムとして用いる例を挙げることができる。
【0101】
また、本態様の位相差フイルムは、偏光子と貼り合わせることにより、偏光板としての用途にも用いることができる。すなわち、偏光板は、通常、偏光子とその両表面に形成された偏光板保護フイルムとからなるものであるが、本態様においては、例えば、その一方の偏光板保護フイルムとして本態様の位相差フイルムを用いることにより、液晶表示装置の視野角補償機能を備える偏光板として用いることができる。」

ウ 「【実施例】
【0138】
次に、実施例を示すことにより本態様についてさらに具体的に説明する。
【0139】
(1)実施例1
重合性モノマーとしてトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(炭素含有比=4.5)用い、当該重合性モノマーを固形分40質量%になるようにMEK(メチルエチルケトン)に溶解させ、さらに開始剤を添加した密着機能層形成用塗工液をノルボルネン系樹脂からなるRe=100nmの透明基板(ジェイエスアール社製 商品名:アートン)上に塗工した後、80℃の温風で2分間乾燥し、120mJ/cm^(2)のUVにて硬化させ厚み6μmになるように密着機能層を形成した。
【0140】
次に、化学式Aに示される側鎖型ポリマー50質量%と、下記式Bで示される光重合性液晶50質量%の液晶混合物、光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア907、光重合性化合物に対して5質量%)を、シクロヘキサノン溶液に固形分20%になるように溶解させ、更にレベリング剤を添加することにより位相差層形成用塗工液を得た。当該位相差層形成用塗工液を上記密着機能層上に塗工した後、100℃で1分間乾燥し、そのまま室温まで冷却することにより、上記液晶混合物をホメオトロピック配向させた。さらに100mJ/cm^(2)のUVにて硬化させ、上記密着機能層上に厚み1μmの位相差層を形成することにより、位相差フィルムを作製した。
【0141】
【化10】

【0142】
(2)実施例2
上記重合性モノマーとして1,9-ノナンジオールジアクリレート(炭素含有比=3.75)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により位相差フィルムを作製した。
【0143】
(3)実施例3
重合性モノマーとしてトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(炭素含有比=4.5)用い、当該重合性モノマーに対して配向制御化合物(商品名 FC-4430:3M Company製)を0.05質量%添加した混合物を、固形分40質量%になるようにMEK(メチルエチルケトン)に溶解させ、さらに開始剤を添加することにより密着性配向層形成用塗工液を得た。次いで、当該密着性配向層形成用塗工液を、ノルボルネン系樹脂からなるRe=100nmの透明基板(ジェイエスアール社製 商品名:アートン)上に塗工した後、80℃の温風で2分間乾燥し、120mJ/cm^(2)のUVにて硬化させ厚み6μmになるように密着性配向層を形成した。
【0144】
次に、下記式C、D、および、Eに示される液晶材料を含有する液晶混合物、光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア907、液晶混合物に対して5質量%)を、シクロヘキサノン溶液に固形分20質量%になるように溶解させ、更にレベリング剤を添加することにより位相差層形成用塗工液を得た。次いで、当該位相差層形成用塗工液を上記密着性配向層上に塗工した後、60℃で2分間乾燥し、ホメオトロピック配向させた。さらに100mJ/cm^(2)のUVにて硬化させ、上記密着性配向層上に厚み1μmの位相差層を形成することにより、位相差フィルムを作製した。
【0145】
【化11】

【0146】
(4)実施例4
上記重合性モノマーとしてペンタエリスリトールトリアクリレート(炭素含有比=1.86)100重量部に対してトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(炭素含有比=4.5)を30重量部混合したものを使用したこと以外は、実施例3と同様の方法により位相差フィルムを作製した。
ここで、上記ペンタエリスリトールトリアクリレートは、密着性配向層に配向性を付与配向制御化合物として用いた。

(中略)

【0149】
(7)評価
上記実施例および比較例において作製した位相差フィルムについて液晶配向性評価と、密着性評価を行った。上記液晶配向性評価は、自動複屈折測定装置KOBRAを用いて位相差フィルムのnx、ny、nzを算出し、nx>nz>nyとなっていれば正のCプレート機能が付与されたと判断した。
その結果、上記実施例および比較例において作製した位相差フィルムのいずれにおいても正のCプレート機能が付与されたことを確認した。」

(2)引用文献4に記載された発明
引用文献4の記載事項ウに基づけば、引用文献4には、実施例3として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「密着性配向層形成用塗工液を、ノルボルネン系樹脂からなるRe=100nmの透明基板(ジェイエスアール社製 商品名:アートン)上に塗工した後、80℃の温風で2分間乾燥し、120mJ/cm^(2)のUVにて硬化させ厚み6μmになるように密着性配向層を形成し、次に、下記式(C)、(D)、および、(E)に示される液晶材料を含有する液晶混合物、光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア907、液晶混合物に対して5質量%)を、シクロヘキサノン溶液に固形分20質量%になるように溶解させ、更にレベリング剤を添加することにより位相差層形成用塗工液を得て、次いで、当該位相差層形成用塗工液を上記密着性配向層上に塗工した後、60℃で2分間乾燥し、ホメオトロピック配向させ、さらに100mJ/cm^(2)のUVにて硬化させ、上記密着性配向層上に厚み1μmの位相差層を形成することにより作製した、位相差フィルム。



(3)引用文献5の記載事項
当審拒絶理由において、周知技術を示す文献として引用され、先の出願前の平成22年4月2日に頒布された刊行物である引用文献5(特開2010-72658号公報)には、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム、偏光フィルム、液晶表示装置、及び、位相差フィルムの設計方法に関する。より詳しくは、位相差とその波長分散特性とが最適設計された位相差フィルム及びその設計方法、並びに、それを用いた偏光フィルム及び液晶表示装置、特にはクロスニコルの関係で一対の偏光素子を用いる液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、コンピュータやテレビジョンをはじめとする様々な情報処理装置の表示装置として、広く用いられている。

(中略)

【0007】
上述のように、クロスニコルの関係となる一対の偏光素子と液晶セルとを用いた液晶表示装置の広視野角化には、(1)斜め視角においても正面と同様にクロスニコルに配置された偏光素子の直交性を保持すること(全てのモード)、(2)斜め視角における液晶セルの余分な位相差をキャンセルすること(VAモード等)が重要であり、従来では、適当な位相差フィルムを配置することにより、(1)と(2)とを実現している。このような位相差フィルムを用いた広視野角化技術は広く知られているが、いずれの従来技術においても、単波長(通常550nm付近)でのみ位相差条件が最適設計されているため、設計波長以外では黒表示時に光漏れが起こり、従って、斜め視角において着色現象が発生するという点で改善の余地があった。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、広い視角範囲において着色がなく、コントラスト比が高い液晶表示を実現することができるように、位相差条件が調整された位相差フィルム及びその設計方法、並びに、それを用いた偏光フィルム及び液晶表示装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、斜め視角における着色現象を防止することができる可視波長全域で最適設計された位相差フィルムの設計条件について種々検討したところ、従来の垂直配向モード等の液晶表示装置の構成においては、液晶セルの斜め視角における余分な位相差のキャンセルと、クロスニコル配置された偏光素子の斜め視角における直交性の保持とが単波長(通常550nm付近)で最適化されていることに先ず着目した。しかしながら、液晶セルの斜め視角における余分な位相差のキャンセルと、クロスニコル配置された偏光素子の斜め視角における直交性の保持とは、通常では、異なる波長分散特性を必要とするものであり、一方、従来の位相差フィルムの設計方法は、偏光フィルムの偏光素子保護用の複屈折性を示す支持層(保護フィルム)や、液晶セルの斜め視角における余分な位相差等を利用して複合的に位相差の設計を行うものであったため、本質的に単波長でしか最適化することができなかった。そこで、可視波長全域での位相差条件を最適化するために、黒表示時に斜め視角において正面と同様にクロスニコル配置された偏光素子の直交性を保持することと、斜め視角における液晶セルの余分な位相差をキャンセルすることとを波長分散特性の見地から完全に分離して、それぞれを液晶表示装置内の異なる位相差フィルムで補償する構成にすることに想到した。すなわち、例えば、液晶セルを構成する液晶層と略同じ波長分散特性を有する位相差フィルムにより、液晶セルの斜め視角における余分な位相差のキャンセルを行い、逆波長分散特性を有する位相差フィルムにより、クロスニコル配置された偏光素子の斜め視角における直交性の保持を行う構成とすることにより、可視波長全域での位相差条件の最適化が可能となり、斜め視角における着色現象を防止することができることを見いだした。更に、そのような構成に用いられる位相差フィルムの最適な位相差条件・構成も見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。」

イ 「【0025】
本発明の位相差フィルムは、面内に光軸をもち異常光屈折率>常光屈折率の1軸性位相差フィルム(以下、「ポジ型Aプレート」ともいう)、面外に光軸をもち異常光屈折率>常光屈折率の1軸性位相差フィルム(以下、「ポジ型Cプレート」ともいう)、2軸性位相差フィルム、面外に光軸をもち異常光屈折率<常光屈折率の1軸性位相差フィルム(以下、「ネガ型Cプレート」ともいう)のいずれかの形態である。なお、面内とは、フィルム面に対して略平行方向を意味し、面外とは、フィルム面に対して略垂直方向を意味する。
【0026】
本発明のポジ型Aプレート及びポジ型Cプレートは、液晶表示装置において組み合わせて使用されることにより、また、本発明の2軸性位相差フィルムは、単独で使用されることにより、クロスニコルに配置された偏光素子の斜め視角における直交性の保持を行うことが可能である。更に、本発明の第1のネガ型Cプレートは、垂直配向モードの液晶表示装置において使用されることにより、液晶セルの斜め視角における余分な位相差のキャンセルを行うことが可能である。
【0027】
本発明のポジ型Aプレートは、下記式(1)?(4)を満たすものである。
なお、下記式(1)?(4)中、Rxy(λ),Ryz(λ)は、それぞれ波長λnmにおける位相差フィルムの位相差Rxy,Ryzを表し、位相差フィルムの面内方向の主屈折率をnx,ny(nx>ny)、面外方向の主屈折率をnz、厚みをdとしたときに、Rxy=(nx-ny)×d,Ryz=(ny-nz)×dと定義される。
118nm≦Rxy(550)≦160nm (1)
-10nm≦Ryz(550)≦10nm (2)
0.75≦Rxy(450)/Rxy(550)≦0.97 (3)
1.03≦Rxy(650)/Rxy(550)≦1.25 (4)
【0028】
上記ポジ型Aプレートは、上記式(1)を満たすことにより、面内方向の位相差Rxy(550)が、クロスニコル配置された偏光素子の斜め視角における直交性の保持に好適な範囲に調整されている。Rxy(550)の好ましい下限は、130nmであり、好ましい上限は、150nmである。従って、上記ポジ型Aプレートは、130nm≦Rxy(550)≦150nmを満たすことが好ましい。Rxy(550)のより好ましい下限は、135nmであり、より好ましい上限は、145nmである。
上記ポジ型Aプレートは、上記式(2)を満たすことにより、面外方向の位相差Ryz(550)が充分に低減されており、ポジ型Cプレート(好ましくは、本発明のポジ型Cプレート)と組み合わせて、クロスニコルに配置された偏光素子の斜め視角における直交性の保持に好適に用いることができる。Ryz(550)の好ましい下限は、-5nmであり、好ましい上限は、5nmである。
上記ポジ型Aプレートは、上記式(3)及び(4)を満たすことにより、面内方向の位相差Rxyの波長分散特性が、クロスニコル配置された偏光素子の斜め視角における直交性の保持に必要な波長分散特性(逆波長分散特性)を満たし、斜め視角における着色現象を効果的に防止することができる。Rxy(450)/Rxy(550)の好ましい下限は、0.78であり、好ましい上限は、0.86である。また、Rxy(650)/Rxy(550)の好ましい下限は、1.14であり、好ましい上限は、1.22である。

(中略)

【0030】
本発明のポジ型Cプレートは、下記式(5)?(8)を満たすものである。
なお、下記式(5)?(8)中、Rxy(λ),Ryz(λ)は、それぞれ波長λnmにおける位相差フィルムの位相差Rxy,Ryzを表し、位相差フィルムの面内方向の主屈折率をnx,ny(nx>ny)、面外方向の主屈折率をnz、厚みをdとしたときに、Rxy=(nx-ny)×d,Rxz=(nx-nz)×dと定義される。
0nm≦Rxy(550)≦10nm (5)
-107nm≦Rxz(550)≦-71nm (6)
0.75≦Rxz(450)/Rxz(550)≦0.97 (7)
1.03≦Rxz(650)/Rxz(550)≦1.25 (8)
【0031】
上記ポジ型Cプレートは、上記式(5)を満たすことにより、面内方向の位相差Rxy(550)が充分に低減されており、ポジ型Aプレート(好ましくは、本発明のポジ型Aプレート)と組み合わせて、クロスニコルに配置された偏光素子の斜め視角における直交性の保持に好適に用いることができる。なお、Rxy(550)の好ましい上限は、5nmである。
上記ポジ型Cプレートは、上記式(6)を満たすことにより、面外方向の位相差Rxz(550)が、クロスニコル配置された偏光素子の斜め視角における直交性の保持に好適な範囲に調整されている。Rxz(550)の好ましい下限は、-100nmであり、好ましい上限は、-80nmである。従って、上記ポジ型Cプレートは、-100nm≦Rxz(550)≦-80nmを満たすことが好ましい。Rxz(550)のより好ましい下限は、-95nmであり、より好ましい上限は、-85nmである。
上記ポジ型Cプレートは、上記式(7)及び(8)を満たすことにより、面外方向の位相差Rxzの波長分散特性が、クロスニコル配置された偏光素子の斜め視角における直交性の保持に必要な波長分散特性(逆波長分散特性)を満たし、斜め視角における着色現象を効果的に防止することができる。Rxz(450)/Rxz(550)の好ましい下限は、0.78であり、好ましい上限は、0.86である。また、Rxz(650)/Rxz(550)の好ましい下限は、1.14であり、好ましい上限は、1.22である。」

ウ 「【発明の効果】
【0087】
本発明の位相差フィルムによれば、垂直配向モード(VAモード)、面内スイッチングモード(IPSモード)等の液晶表示装置において、クロスニコル配置された偏光素子の斜め視角における直交性の保持を赤・青・緑の広い波長領域で行うことができ、斜め視角における光漏れ及び着色現象を効果的に防止することができる。このような位相差フィルムを用いた液晶表示装置は、広視野角化を実現し、高い表示品位を得ることができ、特に大型テレビジョンに好適である。」

(4)引用文献6の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、先の出願前の平成18年5月18日に頒布された刊行物である引用文献6(特開2006-126770号公報)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0022】
位相差フィルムAは、フィルム面内の屈折率が最大となる方向をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率をnx、ny、nzとした場合に、nx>ny≒nz、を満足するものを用いる。すなわち、三次元屈折率楕円体において一方向の主軸の屈折率が他の2方向の屈折率よりも大きい、光学的に正の一軸性を示す材料が用いられる。
【0023】
位相差フィルムAは、環状ポリオレフィン樹脂を含有する熱可塑性高分子からなるポリマーフィルムを、面方向に一軸または二軸延伸処理することにより得られる。環状ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ノルボルネン系樹脂が例示される。

(中略)

【0029】
前記ノルボルネン系樹脂を含むフィルムの具体例としては、例えば、日本ゼオン社製のゼオノアフィルムやJSR社製のアートンフィルムなどがあげられる。」

イ 「【0082】
実施例1
(位相差フィルムA)
厚さ100μmのノルボルネン系無延伸フィルム(JSR社製のアートンフィルム)を、170℃で1.3倍に一軸延伸した。得られた延伸フィルムは、厚さ:80μm、正面位相差:100nmであった。得られた延伸フィルムは、一軸配向した正の屈折率異方性(nx>ny≒nz)を有していた。」

ウ 「【0089】
実施例3
(位相差フィルムA)
厚さ100μmのノルボルネン系無延伸フィルム(JSR社製のアートンフィルム)を、175℃で1.35倍に一軸延伸した。得られた延伸フィルムは、厚さ:75μm、正面位相差:140nmであった。得られた延伸フィルムは、一軸配向した正の屈折率異方性(nx>ny≒nz)を有していた。」

(5)引用文献8の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、先の出願前の平成21年4月2日に頒布された刊行物である引用文献8(特開2009-69282号公報)には、以下の記載事項がある。

ア 「技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネル、及び液晶表示装置に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、LCDは、高精細化が進み、その用途も多岐にわたっているため、表示品位に優れたLCDを提供することが望ましい。
しかしながら、従来のLCDでは、全方位において色付きの無いニュートラルな表示が困難であり、その改善が求められている。
【0004】
そこで、本発明は、全方位においてほぼ色付の無いニュートラルな表示が可能な液晶パネルおよび液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明の液晶パネルは、液晶セルの両側に第1の偏光子及び第2の偏光子を有し、前記液晶セルと第1の偏光子の間に第1の光学補償層を有し、前記液晶セルと第2の偏光子の間に第2の光学補償層を有し、且つ、前記第1の光学補償層と第2の光学補償層の間に第3の光学補償層を有し、前記液晶セルの波長分散が、Re_(40)(450)>Re_(40)(550)>Re_(40)(650)であり、前記第1の光学補償層の波長分散及び第2の光学補償層の波長分散が、0.7<Re_(40)(450)/Re_(40)(550)<1.05であり、前記第3の光学補償層の波長分散が、Re_(40)(450)>Re_(40)(550)>Re_(40)(650)であることを特徴とする。
ただし、Re_(40)(λ)は、23℃、波長λnmの光で光学補償層又は液晶セルの極角40°方向から測定した位相差値を示す。
【0006】
ここで、物質の位相差は、波長に依存しており、位相差値の波長分散は、大別して次の3種類に分けられる。1つ目の波長分散は、可視光領域において、短波長側になるほど位相差値が大きくなる場合、2つ目の波長分散は、可視光領域において、短波長側から長波長側に亘って位相差値が殆ど変わらない場合、3つ目の波長分散は、可視光領域において、短波長側になるほど位相差値が小さくなる場合、に分けられる。
上記液晶パネルの液晶セルは、その波長分散がRe_(40)(450)>Re_(40)(550)>Re_(40)(650)である。従って、上記液晶セルは、Re_(40)(極角40°における位相差値)を基準にして、可視光領域において短波長側になるほど位相差値が大きくなる波長分散性(以下、「正分散性」という)を有する。
上記液晶パネルの第1の光学補償層及び第2の光学補償層(以下、「第1及び第2の光学補償層」という場合がある)は、その波長分散が0.7<Re_(40)(450)/Re_(40)(550)<1.05である。従って、第1及び第2の光学補償層は、Re_(40)(極角40°における位相差値)を基準にして、可視光領域において短波長側になるほど位相差値が小さくなる波長分散性(以下、「逆分散性」という)、または、Re_(40)を基準にして、短波長側から長波長側に亘って位相差値が殆ど変わらない波長分散性(以下、「フラット分散性」という)を有する。
上記第3の光学補償層は、その波長分散がRe_(40)(450)>Re_(40)(550)>Re_(40)(650)である。従って、上記第3の光学補償層は、上記液晶セルと同様に、正分散性を有する。
なお、本発明において、波長分散はRe_(40)に基づく。

(中略)

【発明の効果】
【0014】
本発明の液晶パネルは、全方位において、ほぼ色付が無いニュートラルな画像表示が可能である。
従って、本発明の液晶パネルを用いた液晶表示装置は、画面の均一性に優れ、表示品位も高くなる。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明における用語は、次の意味である。
(1)光学補償層:
光学補償層とは、その面内及び/又は厚み方向に複屈折(屈折率の異方性)を示す枚葉体を言う。光学補償層は、例えば、23℃で波長590nmにおける面内及び/又は厚み方向の複屈折率が、1×10^(-4)以上であるものを含む。
(2)nx、ny、nz:
「nx」、「ny」及び「nz」とは、互いに異なる方向の屈折率を示す。nxは、面内において屈折率が最大となる方向(通常、X軸方向という)の屈折率を示し、nyは、面内において前記X軸方向と直交する方向(通常、Y軸方向という)の屈折率を示し、nzは、前記X軸方向及びY軸方向に直交する方向(通常、Z軸方向という)の屈折率を示す。
なお、「nx=ny」とは、nxとnyが完全に同一である場合だけでなく、実質的に同一である場合も含まれる。nxとnyが実質的に同一である場合とは、例えば、Re(590)が0nm?10nmであり、好ましくは0nm?5nmであり、より好ましくは0nm?3nmである。
「ny=nz」とは、nyとnzが完全に同一である場合だけでなく、実質的に同一である場合も含まれる。nyとnzが実質的に同一である場合とは、例えば、Re(590)-Rth(590)が-10nm?10nmであり、好ましくは-5nm?5nmであり、より好ましくは-3nm?3nmである。
(3)面内及び厚み方向の複屈折率:
「面内の複屈折率(Δn_(xy)(λ))」とは、23℃、波長λ(nm)の光で測定した面内の屈折率差をいう。Δn_(xy)(λ)=nx-nyによって求めることができる。
「厚み方向の複屈折率(Δn_(xz)(λ)」とは、23℃、波長λ(nm)の光で測定した厚み方向の屈折率差をいう。Δn_(xz)(λ)=nx-nzによって求めることができる。
(4)Re(λ):
「面内位相差値(Re(λ))」とは、23℃、波長λ(nm)の光で測定した面内の位相差値をいう。具体的には、「面内位相差値(Re(λ))」とは、23℃、波長λ(nm)の光で、極角0°(測定対象の面の法線方向)で測定した面内の位相差値をいう。
Re(λ)は、測定対象の厚みをd(nm)としたとき、Re(λ)=(nx-ny)×dによって求めることができる。
例えば、Re(590)は、23℃、波長590λnmの光で測定した面内位相差値である。
(5)Rth(λ):
「厚み方向の位相差値(Rth(λ))」とは、23℃、波長λ(nm)の光で測定した厚み方向の位相差値をいう。Rth(λ)は、測定対象の厚みをd(nm)としたとき、Rth(λ)=(nx-nz)×dによって求めることができる。
例えば、Rth(590)は、23℃、波長590λnmの光で測定した厚み方向位相差値である。
(6)Re_(40)(λ):
「極角40°における位相差値(Re_(40)(λ))」とは、23℃、波長λ(nm)の光で、極角40°方向(測定対象の面の法線方向に対して40°傾斜した方向)から測定した位相差値を示す。Re_(40)(λ)は、極角40°方向からの光路長を、d_(40)(nm)としたとき、Re_(40)(λ)=(nx-ny)×d_(40)によって求めることができる。
例えば、Re_(40)(450)は、23℃、波長450λnmの光で、極角40°方向から測定した位相差値である。

(中略)

【0016】
[本発明の液晶パネルの概要]
本発明の液晶パネルは、液晶セルの両側に第1の偏光子および第2の偏光子を有し、前記液晶セルと第1の偏光子の間に第1の光学補償層を有し、前記液晶セルと第2の偏光子の間に第2の光学補償層を有し、前記第1の光学補償層と第2の光学補償層の間に第3の光学補償層を有する。
上記液晶セルの波長分散は、Re_(40)(450)>Re_(40)(550)>Re_(40)(650)であり、従って、液晶セルは、正分散性を有する。
上記第1の光学補償層の波長分散及び第2の光学補償層の波長分散は、0.7<Re_(40)(450)/Re_(40)(550)<1.05であり、従って、第1の光学補償層及び第2の光学補償層は、逆分散性またはフラット分散性を有する。
上記第3の光学補償層の波長分散は、Re_(40)(450)>Re_(40)(550)>Re_(40)(650)であり、従って、第3の光学補償層は、正分散性を有する。

(中略)

【0032】
[第1及び第2の光学補償層]
第1の光学補償層の波長分散及び第2の光学補償層の波長分散は、何れも0.7<Re_(40)(450)/Re_(40)(550)<1.05である。これは、逆分散性又はフラット分散性を有する光学補償層である。

(中略)

通常、逆分散性を示す光学補償層は、Re_(40)(450)/Re_(40)(550)<0.97と規定できる。また、フラット分散性を示す光学補償層は、0.97≦Re_(40)(450)/Re_(40)(550)<1.05と規定できる。
【0033】
上記第1の光学補償層及び第2の光学補償層は、その屈折率楕円体がnx>ny≧nzの関係を満足することが好ましい。ただし、前記nx>ny≧nzとは、nx>ny=nz(正の一軸性)、又は、nx>ny>nz(負の二軸性)を意味する。特に、前記第1の光学補償層及び第2の光学補償層は何れも、nx>ny=nzの関係を満足することがより好ましい。」

5 対比
本件発明と引用発明とを対比する。

(1)基材
引用発明の「ノルボルネン系樹脂からなるRe=100nmの透明基板(ジェイエスアール社製 商品名:アートン)」は、技術的にみて、本件発明の「基材」に相当する。

(2)光学異方性層
引用発明の「位相差層」は、技術的にみて、本件発明の「光学異方性層」に相当する。
また、引用発明の「位相差層」は、「式(C)、(D)、および、(E)に示される液晶材料を含有する液晶混合物、光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア907、液晶混合物に対して5質量%)を、シクロヘキサノン溶液に固形分20質量%になるように溶解させ、更にレベリング剤を添加することにより位相差層形成用塗工液を得て、次いで、当該位相差層形成用塗工液を上記密着性配向層上に塗工した後、60℃で2分間乾燥し、ホメオトロピック配向させ、さらに100mJ/cm^(2)のUVにて硬化させ」て形成されるものである。ここで、引用発明の「位相差層形成用塗工液」に含まれる「式(C)、(D)、および、(E)に示される液晶材料を含有する液晶混合物」は、その化学構造からみて、本件発明の「重合性液晶化合物」に相当し、引用発明の「位相差層形成用塗工液」に含まれる「光重合開始剤」は、本件発明の「光重合開始剤」に相当する。そうすると、引用発明の「位相差層形成用塗工液」は、本件発明の「重合性液晶化合物および光重合開始剤を含む光学異方層形成用組成物」に相当する。
そして、引用発明の「位相差層」は、「当該位相差層形成用塗工液を上記密着性配向層上に塗工した後、60℃で2分間乾燥し、ホメオトロピック配向させ、さらに100mJ/cm^(2)のUVにて硬化させ」て形成されるものであるから、引用発明の「位相差層」は、本件発明の「光学異方層形成用組成物の硬化物であるコーティング層」であるとする要件を満たしている。
さらに、引用発明の「位相差層」は、「厚み1μm」である。そうすると、引用発明の「位相差層」は、本件発明の「前記光学異方性層の厚さは、0.2μm?5μm」であるとする要件を満たしている。

(3)配向膜層
引用発明の「密着性配向層」は、技術的にみて、本件発明の「配向膜層」に相当する。また、引用発明の「密着性配向層」は、その作製工程からみて、本件発明の「基材と光学異方性層との間」に有るという要件を満たしている。

(4)積層体
引用発明の「位相差フィルム」は、上記「ノルボルネン系樹脂からなるRe=100nmの透明基板(ジェイエスアール社製 商品名:アートン)」、「位相差層」及び「密着性配向層」を積層してなるものである。そうすると、引用発明の「位相差フィルム」は、本件発明の「積層体」に相当する。

(5)一致点及び相違点
以上より、本件発明と引用発明とは、
「基材及び光学異方性層を有し、
さらに、基材と光学異方性層との間に配向膜層を有し、かつ
前記光学異方性層は、重合性液晶化合物および光重合開始剤を含む光学異方層形成用組成物の硬化物であるコーティング層であり、
前記光学異方性層の厚さは、0.2μm?5μmである積層体。」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

[相違点1]光学異方性層が、本件発明は、「下記式(1)、(2)及び(3)」を満たすのに対し、引用発明は、下記式(1)、(2)及び(3)を満たすのかが明らかでない点。
Δn_(50)(450)/Δn_(50)(550)≦1.00 (1)
1.00≦Δn_(50)(650)/Δn_(50)(550) (2)
(ここで、Δn_(50)(450)、Δn_(50)(550)、Δn_(50)(650)はそれぞれ波長450nm、550nm、650nmにおいて、進相軸を傾斜中心軸として50度傾斜させ、測定したときに得られる位相差値から導出される複屈折である。)
nz>nx≒ny (3)
(nx、nyは、基材平面に対して平行な方向の屈折率を示し、nxとnyはそれぞれ直交し、nzはnx及びnyのいずれにも直交する方向の屈折率を示す。)

[相違点2]基材が、本件発明は、「下記式(4)」を満たすのに対し、引用発明は下記式(4)を満たすのかが明らかでない点。
nx>ny≒nz (4)
〔ここで、nx、nyは、基材平面に対して平行な方向の屈折率を示し、nxとnyはそれぞれ直交し、nzはnx及びnyのいずれにも直交する方向の屈折率を示す。〕

6 判断
(1)[相違点1]について
ア 式(1)及び式(2)を満たすことについて
引用文献4の記載事項イには、「本態様における位相差層は位相差性を示すものであるが、このような位相差性は、本態様の位相差フィルムの用途等に応じて任意に調整することができる。」(段落【0078】)、「本態様の位相差フィルムが示す位相差性は、本態様の位相差フィルムの用途等に応じて適宜決定することができる」(段落【0095】)、「本態様の位相差フィルムのReの波長分散は、波長が短くなるほどRe値が小さくなる逆分散型であっても良く、波長が短くなるほどRe値が大きくなる正分散型であっても良く、または、Re値に波長依存性を有さないフラット型であっても良い。」(段落【0096】)との記載がある。当該記載に基づけば、引用文献4には、引用発明の「位相差層」として、「逆分散型」の位相差層を選択することも示唆されていたといえる。そして、本願の明細書には、「式(1)及び式(2)は、光学異方性層の厚み方向(z方向)における波長分散性を意味する。・・・式(1)及び式(2)を満たすことは、長波長ほど複屈折が大きくなる逆波長分散性を示す。式(3)は、光学異方性層がポジティブCプレートの特性を有することを表す。」(段落【0016】)と記載されている。
これらの記載に基づけば、引用発明の「位相差層」として、「逆分散型」の位相差層を選択した場合、引用発明の「位相差層」は、本件発明の式(1)及び式(2)の要件を満たすこととなる。

イ 式(3)を満たすことについて
引用文献4の記載事項アには、「本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた、正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムであって、位相差層と透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを提供することを主目的とするものである。」(段落【0011】)、「本発明は、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板と、上記透明基板上に接するように形成され、重合性モノマーの重合物を含有し、さらに液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を有する密着性配向層と、上記密着性配向層上に形成され、液晶材料を含有し、さらに面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立する位相差層と、を有する位相差フィルムであって、」(段落【0012】)、「上記位相差層が面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立するものであることにより、本発明の位相差フィルムに正のCプレートとしての性質を付与することができる。」(段落【0015】)と記載されている。これらの記載に基づけば、引用発明の「位相差フィルム」は、正のCプレートとしての性質を付与するために、「位相差層」が「面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立する」ように、つまり、本件発明の式(3)「nz>nx≒ny」の要件を満たすように設計されるものといえる。そして、引用文献4の記載事項ウの「上記実施例および比較例において作製した位相差フィルムのいずれにおいても正のCプレート機能が付与されたことを確認した。」(段落【0149】)との記載によれば、引用発明の「位相差フィルム」も正のCプレート機能が付与されていることが確認されている。
したがって、引用発明の「位相差層」は、本件発明の式(3)の「nz>nx≒ny」であるとする要件を満たしている。

ウ 逆波長分散型のポジ型Cプレート
引用文献5には、記載事項アに、「すなわち、例えば、液晶セルを構成する液晶層と略同じ波長分散特性を有する位相差フィルムにより、液晶セルの斜め視角における余分な位相差のキャンセルを行い、逆波長分散特性を有する位相差フィルムにより、クロスニコル配置された偏光素子の斜め視角における直交性の保持を行う構成とすることにより、可視波長全域での位相差条件の最適化が可能となり、斜め視角における着色現象を防止することができることを見いだした。」(段落【0011】)と記載され、記載事項イに、「上記ポジ型Cプレートは、上記式(7)及び(8)を満たすことにより、面外方向の位相差Rxzの波長分散特性が、クロスニコル配置された偏光素子の斜め視角における直交性の保持に必要な波長分散特性(逆波長分散特性)を満たし、斜め視角における着色現象を効果的に防止することができる。」(段落【0031】)と記載されている。
これらの記載に基づけば、「逆波長分散特性」を満たす位相差層により「斜め視角における着色現象を防止することができる」ことや、「ポジ型Cプレート」について「逆波長分散特性」を満たすものとすることは、先の出願前に、当業者に知られていた事項である。

エ 引用発明の「位相差層」を「逆分散型」とすることについて
引用文献4の記載事項アには、「液晶表示装置は、その特有の問題点として、液晶セルの屈折率異方性に起因する視野角依存性の問題点がある。この視野角依存性の問題は、液晶表示装置を正面から見た場合と、斜め方向から見た場合とで、視認される画像の色味やコントラストが変化してしまう問題である。」(段落【0004】)、「このような視野角依存性の問題を改善するため、現在までに様々な技術が開発されており、その代表的な方法として位相差フィルムを用いる方法がある。」(段落【0005】)、「本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた、正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムであって、位相差層と透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを提供することを主目的とするものである。」(段落【0011】)と記載されている。これらの記載に基づけば、引用発明は、「液晶表示装置を正面から見た場合と、斜め方向から見た場合とで、視認される画像の色味やコントラストが変化してしまう」という「視野角依存性の問題点」を解決することを前提としている。
そして、前記ウに記載したとおり、「逆波長分散特性」を満たす位相差層により「斜め視角における着色現象を防止することができる」ことや、「ポジ型Cプレート」について「逆波長分散特性」を満たすものとすることは、先の出願前に、当業者に知られていた事項であるから、「斜め視角における着色現象を防止する」ために、引用発明のポジ型Cプレートである「位相差層」を「逆分散型」とすることは、当業者が容易になし得たことである。そして、引用発明のポジ型Cプレートである「位相差層」を「逆分散型」とすることにより、引用発明の「位相差層」は、本件発明の式(3)の要件を満たすだけでなく、式(1)及び式(2)の要件も同時に満たすこととなる。
なお、引用文献8の記載事項イに「「極角40°における位相差値(Re_(40)(λ))」とは、23℃、波長λ(nm)の光で、極角40°方向(測定対象の面の法線方向に対して40°傾斜した方向)から測定した位相差値を示す。」(段落【0015】)、「通常、逆分散性を示す光学補償層は、Re_(40)(450)/Re_(40)(550)<0.97と規定できる。」(段落【0032】)と記載されていることからも、「位相差層」を「逆分散型」とすることにより、本件発明の式(1)及び式(2)の要件も満たすこととなることは明らかである。測定角度が10°異なることにより分散特性が大きく変化するとは考えがたい。

(2)[相違点2]について
ア 引用文献6の記載事項イには、「厚さ100μmのノルボルネン系無延伸フィルム(JSR社製のアートンフィルム)を、170℃で1.3倍に一軸延伸した。得られた延伸フィルムは、厚さ:80μm、正面位相差:100nmであった。得られた延伸フィルムは、一軸配向した正の屈折率異方性(nx>ny≒nz)を有していた。」と記載されており、記載事項ウにも「厚さ100μmのノルボルネン系無延伸フィルム(JSR社製のアートンフィルム)を、175℃で1.35倍に一軸延伸した。得られた延伸フィルムは、厚さ:75μm、正面位相差:140nmであった。得られた延伸フィルムは、一軸配向した正の屈折率異方性(nx>ny≒nz)を有していた。」と記載されている。
一方、引用発明の「透明基板」も、「ジェイエスアール社製 商品名:アートン」であって、面内レターデーションが「Re=100nm」である。そうすると、引用発明の「透明基板」も、「正の屈折率異方性(nx>ny≒nz)」を有している、つまり、本件発明の式(4)「nx>ny≒nz」を満たしている蓋然性が高い。
したがって、上記[相違点2]は、実質的な相違点ではない。

イ 仮に、上記[相違点2]が実質的な相違点であったとしても、引用発明の「ノルボルネン系樹脂からなるRe=100nmの透明基板(ジェイエスアール社製 商品名:アートン)」は、面内レターデーションが「Re=100nm」であるから、「nx>ny」とする要件を満たしている。また、前記(1)イに記載したとおり、引用発明の「位相差フィルム」を構成する「位相差層」は、「nx=ny<nz」の関係を有する。
そして、引用文献4の記載事項ウには、「上記実施例および比較例において作製した位相差フィルムについて液晶配向性評価と、密着性評価を行った。上記液晶配向性評価は、自動複屈折測定装置KOBRAを用いて位相差フィルムのnx、ny、nzを算出し、nx>nz>nyとなっていれば正のCプレート機能が付与されたと判断した。」、「その結果、上記実施例および比較例において作製した位相差フィルムのいずれにおいても正のCプレート機能が付与されたことを確認した。」(段落【0149】)と記載されている。当該記載に基づけば、引用発明の「透明基板」と「位相差層」を含む「位相差フィルム」は、全体で「nx>nz>ny」となるものである。そうすると、「位相差フィルム」のnzが上記要件を満たすためには、「透明基板」のnzは、「位相差層」の大きな値を示すnz(nx=ny<nz)を相殺するよう、「透明基板」のnxより小さい値を示すものとし、「透明基板」のnyと同程度に設定すればよいことが理解できる。そして、引用文献6の上記記載事項イ及びウに記載されるように、一軸延伸して得られた延伸フィルムは、「正の屈折率異方性(nx>ny≒nz)」を有することが知られているから、「nx>ny」の関係を満たすように調整された「ジェイエスアール社製 商品名:アートン」の「透明基板」は、通常「nx>ny≒nz」となるものである。
したがって、引用発明の「透明基板」について、本件発明の「式(4)」を満たすものとすることは、当業者が適宜なし得る事項である。

(3)効果について
本願の明細書の段落【0006】の記載に基づけば、本件発明の効果は、「黒表示時斜めから見た時の光漏れ抑制に優れる光学フィルムが得られる。」というものであるといえる。
一方、引用発明は、「透明基板」上に「密着性配向層」を形成し、次いで、上記密着性配向層上に「位相差層」を形成することにより作製された「位相差フィルム」である。そして、引用文献4の記載事項アには、背景技術として、「このような視野角依存性の問題を改善するため、現在までに様々な技術が開発されており、その代表的な方法として位相差フィルムを用いる方法がある。」、「上記位相差フィルムとしては、例えば、透明基板上に、規則的に配列した液晶材料を含有する位相差層が形成された構成を有するものや、・・・が一般的に知られている。」(段落【0005】)と記載されている。そうすると、引用発明も、透明基板上に規則的に配列した液晶材料を含有する位相差層が形成された構成を有するものであるから、視野角依存性の問題が改善されたものであり、黒表示時に斜めから見ても光漏れが抑制されているといえる。また、位相差フィルムを用いることにより、黒表示時に斜めから見たときの光漏れを抑制できることは、引用文献5の記載事項ウからも明らかである。
したがって、本件発明の奏する効果は、引用文献4の記載及び周知技術から、当業者が予測し得た範囲内のものといえる。

7 請求人の主張について
請求人は、令和2年3月9日付けの意見書において、「引用文献4に記載の位相差フィルムと、引用文献5のシミュレーションによる偏光フィルムとは、層の構成も異なれば層の厚みも異なることから、異なる技術であると考えられ、たとえ当業者といえども、これらの文献を組み合わせようなどとは容易に想起し得るものではないものと思料致します。」、「引用文献8には確かに逆分散性を有する第1、第2の光学補償層が記載されておりますが、これらの層は、明細書の段落0033に記載されるように、nx>ny≧nzの関係を満たすものであり、引用文献4のような、nx=ny<nzの関係を満たす位相差フィルムとは光学特性が異なるものであり、たとえ当業者といえども、これらの文献を組み合わせることなど容易に想起し得るものではないものと思料致します。」と主張している。
しかし、当審拒絶理由は、引用発明に、引用文献5又は引用文献8に記載された構成を組み合わせるという趣旨ではない。前記6(1)アに記載したとおり、「引用文献4」自体に、引用発明の「位相差層」として「逆分散型」の位相差層を選択することが示唆されており、「逆分散型」の位相差層とした結果、本件発明の式(1)及び式(2)を満たすものとなる。仮に、引用発明と引用文献5のシミュレーションに用いた具体例の層構成や層の厚みが異なっていたとしても、引用発明の「位相差層」を引用文献4の示唆に基づいて「逆分散型」とすることを、何ら妨げるものではない。また、前記6(1)エに記載したとおり、引用文献8は、「逆分散型」である場合に、本件発明の式(1)及び式(2)の要件も満たすこととなることを示す文献として引用されている。
以上のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。

8 むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、引用文献4に記載された発明及び引用文献4?6、8に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その他の請求項について言及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-07-03 
結審通知日 2020-07-07 
審決日 2020-07-27 
出願番号 特願2014-161214(P2014-161214)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 113- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 宮澤 浩
神尾 寧
発明の名称 積層体  
代理人 中山 亨  
代理人 坂元 徹  

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