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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L |
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管理番号 | 1366375 |
審判番号 | 不服2019-8545 |
総通号数 | 251 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-11-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-06-26 |
確定日 | 2020-09-17 |
事件の表示 | 特願2014-137660「家禽卵の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月28日出願公開、特開2016- 13108〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、平成26年7月3日の出願であって、平成29年4月28日に上申書及び手続補正書が提出され、平成30年6月25日付けで拒絶理由が通知され、同年10月30日に意見書及び手続補正書が提出され、平成31年3月19日付けで拒絶査定がされ、令和元年6月26日に拒絶査定不服審判が請求され、同年8月15日に審判請求書を補正する手続補正書(方式)が提出され、同年8月20日に上申書が提出されたものである。 なお、この出願からは、令和元年6月26日に特願2019-118395号が分割出願されている。 第2 本願発明 この出願の請求項1に係る発明は、平成30年10月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。 「香気成分を含む密閉雰囲気下、且つ0.1?2.7kPaの減圧下で、10分?2時間、家禽卵に香気成分を接触させる工程を含む、香気が付与された家禽卵の製造方法。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 その引用文献1は、欧州特許出願公開第2614728号明細書(以下「刊行物1」という。)である。 第4 刊行物の記載事項 刊行物1には、以下の事項が記載されている。 なお、刊行物1の言語は英語であり、翻訳は当審による。 (1a)「1.少なくとも1つの芳香性添加物を含む卵。 2.卵が家禽及び爬虫類由来の卵からなる群から選ばれる、請求項1の卵。 3.卵が家禽由来である、請求項2の卵。 4.卵が鶏、ガチョウ、ダチョウ、アヒル、ウズラ又はガチョウの卵からなる群から選ばれる、請求項3の卵。 5.芳香性添加物が脂溶性フレーバー、水溶性、アロマエマルジョン、及び精油からなる群から選ばれる、請求項1?4の何れかの卵。 6.芳香性添加物が肉、魚又は野菜由来である、請求項5の卵。 7.次のステップからなる卵にフレーバーを付ける方法: a)卵の内部に存在する空気を、真空を適用して除去し、そして b)芳香性添加物で飽和された空気を加えることにより大気圧に戻す。 8.卵の内部の空気を除去するステップは、卵が密閉されたチェンバに置かれて-0.4barと-0.99barの間の圧力の真空段階にさらされる、請求項7の方法。 9.圧力が-0.9barと-0.95barの間である、請求項8の方法。 10.抽出段階は1分から300分、好ましくは20分から60分、より好ましくは30分続く、請求項7?9の何れかの方法。 11.含浸時間が0時間から48時間、好ましくは1時間から10時間、より好ましくは2時間から5時間である、請求項7?10の何れかの方法。 12.含浸ステップが以下の技術の1つにより行われる、請求項7?11の何れかの方法: a)アロマのドシフィケーション(dossification); b)アロマの直接適用により雰囲気をアロマで飽和させる、又は c)食品に直接接触させて環境を飽和させる。 13.卵が所望のフレーバーの溶液に入れられ、大気圧に戻ったときに、フレーバー付きの溶液が卵の中に入り卵にアロマを付与する、請求項7?12の何れかの方法。 14.請求項1?6の何れかのフレーバー付き卵を含む食品。 15.請求項1?6のフレーバー付き卵又は請求項14の食品の、人の消費及び/又は動物のための使用。」(5頁、請求の範囲の請求項1?15) (1b)「発明の技術分野 [0001]この発明は、他の食品のアロマが含浸されていて、最終消費者にとって感覚を刺激する観点でより魅力的であるような付加価値がある、新しいタイプの卵に関する。この発明は、さらに、卵に他の食品のアロマを付与する方法に関する。この発明の方法により得られる卵の栄養的性質は変わらない。最後に、この発明は、新しいタイプの卵を含む食品、及びその食品の人の消費及び/又は動物のための使用にも関する。 [0002]この発明は、食品技術の分野のものである。」 (1c)「技術水準 [0003]鳥の卵は、人にはありふれた基本的な食物である。卵は殻に保護され、タンパク質と脂質が豊富である。卵は消化が良い食品で、多くの甘く香ばしいレシピの主成分であり、その結合特性に基づく多くの他のレシピにおいて不可欠でもある。それらはタンパク質の安価な源であり、ビタミンと必須ミネラルに富む。 [0004]卵は、その構造と栄養価からみて、とても特殊な食物である。タンパク質及び他の栄養の大切な源であるだけでなく、国内及び外国の料理で主役である。卵は様々に調理される:ゆで卵、ポーチドエッグ、目玉焼き、スクランブルエッグ、そして他の調理食品の成分として使われてアロマ、フレーバー、色、テクスチャー及び栄養価を改善する。 [0005]人に消費される最もありふれた卵は、鶏、アヒル、ガチョウ及びウズラの卵である。 [0006]卵の構造には、3つの部分、白身、黄身及び殻、を見分けることができる: 殻は卵の総重量の10.5%を占める。 黄身は卵の総重量の31%を占める。 白身は卵の総重量の58.5%を占める。 [0007]卵の黄身は栄養価が高く、大量の完全タンパク質、ビタミンA、D、E、B6、B12、鉄、カルシウム、リン及びカリウムを供給する。卵黄の内部構造は、同心球の連続のようで、それらは調理されると一体になる。卵黄は、膜の袋で保護され卵白(clear)から分けられている。黄色は、食物摂取(アルファルファ及びコーンのような穀物)からの、雌鶏のキサントフィルにより与えられる。卵黄は、一定割合の脂肪も含み、そこに、この特許の方法ではアロマの大部分を向けようとしている。 [0008]卵白は均一なコロイド混合物で、卵の総重量のほぼ三分の二を占める。それは、90%近くが水で残りがタンパク質(オボアルブミン、オボムチン、コンアルブミン及びオボムコイド)であるため、事実上透明な構造である。 [0009]卵殻は、主に炭酸カルシウムでできている。それは、白又は茶色で、鶏の種類による。皮の色はその品質、味、栄養価又は殻の厚みに影響しない。卵殻は、多孔質で、7,000?17,000の細孔を有し、高度の透過性を与える。 [0010]真空含浸は、食品工業でも、復元(restoration)の分野でも用いられる技術である。この技術は、肉や魚を塩漬け又はマリネするときに使われ、食品を生理活性化合物で富化するときにも使われる。それは、固体の食品を液体の中でとても高い真空にさらして、その細孔から空気と、構成するジュース及び水分の少量を抽き出す。大気圧に戻すことにより、空気を含んでいた細孔は周囲の液体又は気体を吸収する。 [0011]スペイン特許1057342Uのような関連する特許は、食品に真空含浸及び真空調理を可能にするポットに関する。一方、米国特許3758256は卵を塩溶液に浸漬して圧力をかける卵の塩漬け方法を記述している。 [0012]しかし、これらの特許の何れも、食品にアロマを使う又は導入することには関連しない。この発明で記述される方法は、アロマが浮遊している気体媒体による食品(卵)の含浸の使用に基づく。主な利点として我々が挙げるのは、方法のスピードであり、この方法の2?5時間と比べて、卵の香り付けの現在流通している技術は何日もかかるからである。真空プロセスを行うと、卵の多孔質の殻を通しての拡散のメカニズムが促進され、プロセス時間が最小化される。 発明の記述 [0013]この発明により、上述の全ての問題は解決され、フレーバー付き卵が栄養的性質に影響することなく得られ、消費者にはとても魅力的になる。この発明は、新しいタイプの卵を提供し、それらは、特定の感覚を刺激する性質を有し、復元の観点での新しい料理の発展をもたらし、その料理の価値を高め、最終消費者には喜ばしく、既存の料理についてもレシピ中で香り付けのためのみに使われていた食品を除くことができるという点で発展を促進する。 [0014]この発明による主な利点は、卵のアロマ化が、卵を溶液に浸漬するアロマ含浸を実行することなく行えることである。この方法で、アロマが黄身の脂肪に含浸されて消費者に好ましいフレーバーを届けることが確実になる。キャリアとして匂いの気体の媒体は、製品(卵)の性質に干渉せず、アロマのキャリアとして液体を使うことは、製品組成を変化させる(水分量の増加)可能性があるので、その方法は製品にアロマだけで追加の成分を入れたくないときには有利ではない。」 (1d)「[0015]それゆえ、この発明の第1の特徴は、少なくとも1つの芳香性添加物を含む卵に関する。 [0016]好ましくは、卵は家禽及び爬虫類由来の卵からなる群から選ばれ、好ましくは家禽である。好ましくは、家禽由来の卵は鶏卵、ガチョウ、ダチョウ、アヒル、ウズラ又はガチョウからなる群から選ばれる。 [0017]さらに、芳香性添加物はこの群から選ばれる:溶解性フレーバー、水溶性エマルジョン、芳香性精油、そして、アロマを移す食品自体。好ましくは、芳香性添加物は肉、魚又は野菜由来である。 [0018]肉の芳香性添加物は、以下から選ばれる:ベーコン、ソーセージ、豚肉又はソーセージ、ただし、肉のどのようなタイプからの他のアロマでもよい。 [0019]野菜の芳香性添加物は、以下から選ばれる:トリュフ、トマト、唐辛子、タマネギ、アーティチョーク又はズッキーニ、ただし、どのような植物又は野菜のどのようなフレーバーでも面白い。」 (1e)「[0020]この発明の第2の特徴は、以下のステップからなるフレーバー付き卵の製造方法に関する: a)卵の内部に存在する空気を、真空を適用して除去し、そして b)芳香性添加物で飽和された空気を加えることにより大気圧に戻す。 [0021]卵内部の空気の抽出段階の間の、好ましい経験によれば、卵は密閉されたチェンバに置かれて-0.4barと-0.99barの間の圧力、好ましくは-0.9barから-0.95barの圧力、の真空段階にさらされる。 [0022]卵内部の空気の抽出段階の間の、他の好ましい経験によれば、他の好ましい態様に従い、抽出段階は1分から300分、好ましくは20分から60分、好ましくは30分続く。 [0023]圧力を適用すること及び圧力の適用の時間により、チェンバの中の空気及び卵の内部の空気の抽き出しの両方が起こる。このことにより、大気圧に戻す内部への空気が所望のアロマを伴って含浸されることができる。 [0024]他の好ましい経験によれば、大気圧に戻す段階は、空気が真空チェンバに入り卵の内部が所望の芳香性添加物で飽和するように行われる。 [0025]好ましくは、芳香性添加物は上述のように選ばれる。 [0026]他の好ましい経験によれば、含浸時間は0時間から48時間、好ましくは1時間から10時間、より正確には2時間から5時間継続する。 [0027]このようにして、アロマが卵に保持されて、卵に所望の感覚に訴える性質を与えることを確実にする。 [0028]他の好ましい経験によれば、チェンバ内を大気圧に戻す空気による含浸は、以下の技術の少なくとも1つにより行われる: a)アロマのドシフィケーション(dossification);大気圧に戻すために導入される空気は、所望の芳香性添加物を供給するアロマディスペンサーを通される。このことにより、チェンバ内の空気がアロマで飽和される。 b)アロマの直接適用により環境を飽和させる、チェンバ内に芳香性添加物を直接導入するか、所望の芳香性添加物に浸したガーゼ又は綿製品により、チェンバ内の空気が飽和される、そして、 c)食品に直接接触させて環境を飽和させる;チェンバ内に直接、所望の芳香性添加物を含む食品を置き、チェンバ内の空気を食品から直接来るアロマで飽和させ、この食品は卵の部分でもよい。 [0029]他の好ましい経験によれば、卵は追加的に所望のフレーバーの溶液に導入され、大気圧が戻るとフレーバー付きの溶液が卵の中に入り卵にアロマを付与する。」 (1f)「[0030]この発明の第3の特徴は、フレーバー付きの卵を含む食品に関する。」 (1g)「[0031]この発明の第4の特徴は、上述の食品を人の消費及び/又は動物のための使用に関する。」 (1h)「図面の簡単な説明 [0034] 図1は、アロマディスペンサーを通して卵を芳香化するためのシステムの略図を示す。 図2は、アロマが卵が置かれたチェンバの内部にある、卵を芳香化するためのシステムの略図を示す。」 (1i)「実施例 以下に実施例により卵の芳香化プロセスを例示する。 [0035]芳香化のために、3個の卵を、5mlの濃度100%のトリュフアロマが入っているデシケーターに導入し、デシケーターに-0.95barの真空を10分と30分の間、適用した。この時間の後キーを開けて大気圧に戻し、卵はデシケーター中でアロマで飽和した雰囲気中に2、3、及び5時間の間、保たれた。 結果 [0036]結果を得るために、9人の訓練を受けた試験者からなるパネルにより官能検査を行った。この試験者のパネルは、得られた様々な製品を試験させられ、製品のトリュフフレーバーの強さを、1を最小とし10を最大とし、5以上を受け入れられる卵とする、1?10のスケールで評価した。 [0037]得られた結果を以下の表に示す: 表1 真空時間(分) 含浸時間(時間) アロマ強度 受け入れられるか 10 1 1,22 いいえ 10 2 1,67 いいえ 10 3 2,44 いいえ 10 5 1,11 いいえ 30 2 5,33 はい 30 3 6,67 はい 30 5 8,33 はい 表中: 真空時間(分):製品に真空が適用された時間、単位は分。 含浸時間(時間):製品がアロマで飽和した雰囲気に保持された時間、単位は時間。 アロマ強度:最終製品におけるアロマの強度、値は1?10で、1は香りがなく、10はとても強いフレーバー。」 (1j)「 」(6頁、図1及び図2) 第5 刊行物に記載された発明 刊行物1は、芳香性添加物を含む卵(フレーバー付き卵)、その製造方法、それを含む食品及びそれの使用について記載した特許文献である(摘示(1a)?(1j))。その請求項7?13には、卵にフレーバーを付ける方法(フレーバー付き卵の製造方法)の発明が記載されるところ、その請求項7及び12は以下のとおりである: 「7.次のステップからなる卵にフレーバーを付ける方法: a)卵の内部に存在する空気を、真空を適用して除去し、そして b)芳香性添加物で飽和された空気を加えることにより大気圧に戻す。」 「12.含浸ステップが以下の技術の1つにより行われる、請求項7?11の何れかの方法: a)アロマのドシフィケーション(dossification); b)アロマの直接適用により雰囲気をアロマで飽和させる、又は c)食品に直接接触させて環境を飽和させる。」(摘示(1a)) 刊行物1には、請求項12の上記「b)アロマの直接適用により雰囲気をアロマで飽和させる」について、「b)アロマの直接適用により環境を飽和させる、チェンバ内に芳香性添加物を直接導入するか、所望の芳香性添加物に浸したガーゼ又は綿製品により、チェンバ内の空気が飽和される」(摘示(1e)[0028])と説明されている。 また、刊行物1の実施例には、「芳香化のために、3個の卵を、5mlの濃度100%のトリュフアロマが入っているデシケーターに導入し、デシケーターに-0.95barの真空を10分と30分の間、適用した。この時間の後キーを開けて大気圧に戻し、卵はデシケーター中で、アロマで飽和した雰囲気中に2、3、及び5時間の間、保たれた」という手順で卵の芳香化を行ったこと、実際には、真空時間(製品に真空が適用された時間)を10分又は30分とし含浸時間(製品がアロマで飽和した雰囲気に保持された時間)を1、2、3又は5時間として卵の芳香化を行い、9人の訓練を受けた試験者からなるパネルにより官能検査を行って、真空時間30分で含浸時間が2、3又は5時間のものは、卵に満足できるトリュフフレーバーが付与されたことを確認したことが記載されている(摘示(1i))。この実施例の方法は、請求項12の上記「b)アロマの直接適用により雰囲気をアロマで飽和させる」に該当する。 以上によれば、刊行物1には、その請求項7に係る発明を具体化したものとして、その実施例に係る発明である、以下の 「芳香化のために、3個の卵を、5mlの濃度100%のトリュフアロマが入っているデシケーターに導入し、デシケーターに-0.95barの真空を30分、適用し、この時間の後キーを開けて大気圧に戻し、卵をデシケーター中で、アロマで飽和した雰囲気中に2、3、及び5時間の間、保つ、卵にフレーバーを付ける方法」 の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。 第6 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「卵」は、本願発明の「家禽卵」に相当する。 引用発明の「濃度100%のトリュフアロマ」は、トリュフ由来の芳香性添加物(香り成分)であり、本願発明の「香気成分」に相当する。 引用発明の「3個の卵を、5mlの濃度100%のトリュフアロマが入っているデシケーターに導入し、デシケーターに-0.95barの真空を30分、適用し」は、デシケーターは密閉雰囲気を与え、上記の真空の適用は減圧の条件を与えるものであるから、本願発明の「香気成分を含む密閉雰囲気下、且つ・・・減圧下で、10分?2時間、家禽卵に香気成分を接触させる工程」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「香気成分を含む密閉雰囲気下、且つ減圧下で、10分?2時間、家禽卵に香気成分を接触させる工程を含む、香気が付与された家禽卵の製造方法」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点> 本願発明は、減圧下で家禽卵に香気成分を接触させる工程の減圧の程度が、0.1?2.7kPaの減圧下、と特定されているのに対し、引用発明は、減圧の程度が-0.95barである点 第7 判断 1 相違点について (1)引用発明における減圧の程度の、-0.95barは、ゲージ圧を表していると解され、これを絶対圧で表せば、0.05bar(1bar-0.95bar)である。そして、 1bar=10^(5)Pa=100000Pa=100kPa であるから、0.05barは、5kPaである。 ところで、刊行物1には、その請求項7に係る発明に関連して、卵の内部に存在する空気を真空を適用して除去するステップの、減圧の程度について、-0.4barと-0.99barの間の圧力の真空を採用できることが記載されている(摘示(1a)請求項8、摘示(1e)[0021])。この圧力を絶対圧で表せば、0.01barと0.6barの間(1kPaと60kPaの間)である。 また、刊行物1には、上記の卵の内部に存在する空気を、真空を適用して除去するステップの、抽出段階の適用時間について、1分から300分、好ましくは20分から60分、好ましくは30分続くことが記載されている(摘示(1a)請求項10、摘示(1e)[0022])。 そして、刊行物1には、「卵殻は、多孔質で、7,000?17,000の細孔を有し、高度の透過性を与える」こと(摘示(1c)[0009])が記載されると共に、上記の、卵の内部に存在する空気を、真空を適用して除去する段階ステップの、作用について、「圧力を適用すること及び圧力の適用の時間により、チェンバの中の空気及び卵の内部の空気の抽き出しの両方が起こる。このことにより、大気圧に戻す内部への空気が所望のアロマを伴って含浸されることができる。・・・大気圧に戻す段階は、空気が真空チェンバに入り卵の内部が所望の芳香性添加物で飽和するように行われる。」(摘示(1e)[0023]?[0024])と説明されている。また、従来技術に関連して、「真空プロセスを行うと、卵の多孔質の殻を通しての拡散のメカニズムが促進され、プロセス時間が最小化される」と説明されている(摘示(1c[0012]))。 これらの記載によれば、刊行物1に係る発明において、卵の内部に存在する空気を、真空を適用して除去するステップの、減圧の程度及び適用時間に関し、実施例に記載された発明(引用発明)では-0.95bar(絶対圧で5kPa)及び30分であるとしても、それに限らず、例えば減圧の程度として、-0.4barと-0.99barの間(絶対圧で1kPaと60kPaの間)の、何れの圧力も採用できることは、当業者には、明らかである。 (2)そして、卵の内部に存在する空気を、真空を適用して除去するステップが卵殻の細孔を通しての空気の拡散に依存するということは、気体の拡散を妨げる因子は分子間衝突であることから分子間の平均自由行程を大きくすると(つまり圧力、密度を下げるほど)拡散が容易となるということであって、減圧の程度がより低圧であれば同じ時間に卵の内部から抽き出される空気の量が多くなり、これに続く、芳香性添加物で飽和された空気を加えることにより大気圧に戻すステップでより多くの芳香性添加物で飽和された空気を含浸できる、ということは、当業者が直ちに理解できることである。 また、刊行物1の実施例の表1を参照すると、フレーバー付き卵の香りの強さは、減圧の程度が同じであっても、減圧の適用時間やこれに続く芳香性添加物で飽和された空気との接触時間によっても変わるものであり、何れも時間が長い方が、香りが強くなっている。 そうすると、引用発明において、例えば、より強い香りを付与することを意図し、あるいは、同じ程度の強さの香りをより短時間で得ることを意図して、減圧の程度をより低圧とすること、例えば、刊行物1に係る発明において採用できるとする-0.4barと-0.99barの間(絶対圧で1kPaと60kPaの間)の圧力の、低い方の圧力、例えば-0.99bar(絶対圧で1kPa)を試みることは、当業者には十分な動機付けがあるといえる。 (3)以上によれば、引用発明において、減圧下で家禽卵に香気成分を接触させる工程の減圧の程度を、引用発明における-0.95bar(絶対圧で5kPa)に代えて、-0.99bar(絶対圧で1kPa)として、相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得る。 2 発明の効果について この出願の明細書(以下「本願明細書」という。)には、本願発明の効果について、段落【0008】に、「本発明によれば、香気が付与された家禽卵を簡便に且つ効率的に得ることができる。また、採卵用家禽の嗜好を問わず、所望の香気を家禽卵に付与することができるので、卵製品や卵料理への幅広い利用が期待できる」と記載されている。また、実施例の、試験例15?22、23?40、50、53及び56に、2.7kPaの減圧下で、10分?2時間に該当する所定の時間(120分、60分、30分又は15分)、卵に香気成分を接触させる工程を含む方法で、香気が付与された卵(卵白、卵黄又は全卵で試験)を製造できたことが記載され、同じく試験例49、52及び55には、1.3kPaの減圧下で、10分?2時間に該当する60分の時間、卵に香気成分を接触させる工程を含む方法で、香気が付与された卵(全卵で試験)を製造できたことが記載されている。 しかし、上記の、香気が付与された家禽卵を簡便に且つ効率的に得ることができるとか、採卵用家禽の嗜好を問わず所望の香気を家禽卵に付与することができるという効果は、引用発明においても、実現されている効果であり、また、上記1(1)及び(2)に述べた拡散のメカニズムからすれば、引用発明において減圧の程度を-0.95bar(絶対圧で5kPa)に代えて-0.99bar(絶対圧で1kPa)とするような当業者が容易に想到し得る変更を行った場合にも、実現されるであろうと当業者が直ちに予測し得る効果である。 さらに、本願明細書の実施例の、試験例51、54及び57には、それぞれ上記試験例50、53及び56では2.7kPa、上記試験例49、52及び55では1.3kPaとしていた減圧の条件を、6.7kPa(本願発明の発明特定事項を満足しないものである。)としたほかは同様にして、卵に香気成分を接触させて、全卵に香気が付与された卵(全卵で試験)を製造できたことが記載されている。得られた卵の官能試験の結果を記載した表7及び8(段落【0054】及び【0055】)を参照すると、2.7kPaの条件の試験例50、53及び56、並びに1.3kPaの条件の試験例49、52及び55が、本願発明の「0.1?2.7kPaの減圧下で、10分?2時間、家禽卵に香気成分を接触させる工程を含む」との発明特定事項を満足することにより、当該特定事項を満足しない6.7kPaの条件の試験例51、54及び57よりも、特に優れた効果を奏しているともいえない。 したがって、本願明細書の記載からは、本願発明が、「0.1?2.7kPaの減圧下で、10分?2時間、家禽卵に香気成分を接触させる工程を含む」と特定されていることにより、当業者の予測を超える効果を奏するものであるとはいえない。 なお、請求人は、平成29年4月28日に提出された上申書において、減圧条件を5.0kPa、30分としたものと、2.7kPa、30分としたもので、比較実験を行い、パネル10名による官能試験の結果、0.1?2.7kPaの減圧下で実施することによって奏される効果は、当業者が予測し得ない際立って優れた効果である旨を主張している。 また、審判請求書(令和元年8月15日に提出された手続補正書(方式)により補正されている。)においても、上記の上申書の比較実験を引用すると共に、新たに、減圧条件を5.0kPa、10分にしたものと、2.7kPa、10分にしたものと、0.1kPa、10分にしたもので、比較実験を行い、HS-SPME-GC/MS分析の結果、5kPaの減圧下よりも2.7kPaの減圧下の方が卵白部及び卵黄部への香気成分の移行が高い旨を主張し、またパネル10名による官能試験の結果を報告している。 しかし、上記1(1)及び(2)に述べた拡散のメカニズムからすれば、減圧の程度がより低圧であれば同じ時間に卵の内部から抽き出される空気の量が多くなり、これに続く、芳香性添加物で飽和された空気を加えることにより大気圧に戻すステップでより多くの芳香性添加物で飽和された空気を含浸できる、ということは、当業者が直ちに理解できることであるから、5kPaの減圧下よりも2.7kPaの減圧下の方が、卵に香気をより効率的に付与できたとしても、そのことが、当業者の予測を超える効果であるとすることはできない。 第8 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する |
審理終結日 | 2020-06-30 |
結審通知日 | 2020-07-07 |
審決日 | 2020-07-27 |
出願番号 | 特願2014-137660(P2014-137660) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A23L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 西村 亜希子 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
齊藤 真由美 佐々木 秀次 |
発明の名称 | 家禽卵の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |