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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1366394
審判番号 不服2020-2590  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-26 
確定日 2020-09-17 
事件の表示 特願2015-146240「走査型レーザー検眼鏡」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月 3日出願公開、特開2016- 28687〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年7月23日(優先権主張 平成26年7月23日)の出願であって、平成31年4月4日付けで拒絶理由が通知され、令和元年8月8日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月19日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたところ、令和2年2月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]

1 本件補正について

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。

「 【請求項1】
対物レンズ系と、照射光源から発せられたレーザー光を被検眼の眼底上で走査するための走査手段と、を備え、前記走査手段を経た前記照射光源からの前記レーザー光を前記対物レンズ系を介して被検眼の眼底に照射するための照射光学系と、
受光素子を備え、前記対物レンズ系と前記走査手段とを前記照射光学系と共用すると共に、前記レーザー光による眼底反射光を、前記対物レンズ系及び前記走査手段を再経由した静止した光束として前記受光素子へ導く、受光光学系と、
前記走査手段と前記受光素子との間に配置されており、前記照射光学系と前記受光光学系の光路を分岐させるための光路分岐部材と、を備え、
前記受光光学系における前記光路分岐部材と前記受光素子との間の光路には、
眼底共役位置に前記眼底反射光が通過可能な第1の遮光部材と、
前記眼底共役位置から外れ且つ前記対物レンズ系のレンズ面と共役な位置に、前記眼底における前記レーザー光の照射位置に関わらず、前記静止した光束の一部を遮光するように配置されたことによって、眼底共役な面からの光を通過させ、前記対物レンズ系のレンズ面における光軸の近傍領域で反射された反射光の少なくとも一部を遮光する第2の遮光部材と、を備え、
前記第1の遮光部材及び前記第2の遮光部材を通過した前記眼底反射光を前記受光素子に受光させると共に、前記受光素子からの受光信号に基づいて前記眼底の画像を得る、走査型レーザー検眼鏡。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の令和元年8月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。

「 【請求項1】
対物レンズ系と、照射光源から発せられたレーザー光を被検眼の眼底上で走査するための走査手段と、を備え、前記走査手段を経た前記照射光源からの前記レーザー光を前記対物レンズ系を介して被検眼の眼底に照射するための照射光学系と、
受光素子を備え、前記対物レンズ系と前記走査手段とを前記照射光学系と共用すると共に、前記レーザー光による眼底反射光を、前記対物レンズ系及び前記走査手段を再経由した静止した光束として前記受光素子へ導く、受光光学系と、
前記走査手段と前記受光素子との間に配置されており、前記照射光学系と前記受光光学系の光路を分岐させるための光路分岐部材と、
を備え、
前記受光光学系における前記光路分岐部材と前記受光素子との間の光路には、
眼底共役位置に前記眼底反射光が通過可能な第1の遮光部材を備え、更に、
前記眼底共役位置から外れた位置であって、前記対物レンズ系のレンズ面と共役な位置に、眼底共役な面からの光を通過させ、前記対物レンズ系のレンズ面における光軸の近傍領域で反射された反射光の少なくとも一部を遮光する第2の遮光部材を備え、
前記第1の遮光部材及び前記第2の遮光部材を通過した前記眼底反射光を前記受光素子に受光させると共に、前記受光素子からの受光信号に基づいて前記眼底の画像を得る、走査型レーザー検眼鏡。」

2 補正の適否

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第2の遮光部材」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

イ 引用文献の記載事項

(ア)引用文献1について

a 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された特開2010-220773号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(なお、下線は当審において付与した。以下同様。)。

(引1a)
「【請求項1】
レーザ光を出射する光源と前記レーザ光を眼底にて2次元的に走査するためのレーザ光走査手段とを有し,対物レンズを介して被検眼にレーザ光を照射する照射光学系と、該照射光学系により前記被検眼に照射されたレーザ光の反射光を受光素子により受光して撮影像を得るための撮影光学系と、を備え、被検眼に対してレーザ光を走査し、その反射光を受光することにより被検眼を撮影する眼科撮影装置において、
前記照射光学系と前記撮影光学系の共通光路に置かれ前記レーザ光と前記反射光とを分離させるために同心状に形成された2つの異なる領域を持つ分離部材であって,該2つの異なる領域として,前記光源から出射される前記レーザ光と被検眼から前記受光素子に向かう前記反射光に対して一方の光束を透過させる第1領域と他方の光束を反射させる第2領域とを持つ分離部材と、
前記第2領域と前記受光素子との間に設けられ前記分離部材を介する前記反射光の中心部分を遮断する遮断領域と前記反射光の周辺部分を通過させる通過領域とを持つ遮断部であって,前記遮断領域は前記分離部材における前記レーザ光を透過または反射させる領域よりも大きな領域とされる遮断部と、を有することを特徴とする眼科撮影装置。」

(引1b)
「【0009】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態の眼科撮影装置の光学系を示す模式図、図2は本実施形態で用いる接合プリズムの構成を示した模式図である。なお、本実施形態においては、被検眼の奥行き方向をZ方向(光軸L1方向)、奥行き方向に垂直(被検者の顔面と同一平面)な平面上の水平方向成分をX方向、鉛直方向成分をY方向として説明する。
【0010】
照射光学系100は光源1、ダイクロイックミラー2、コリメートレンズ3、接合プリズム4、視度補正レンズ5、ポリゴンミラー6、ガルバノミラー7、対物レンズ8を含む。光源1は赤外域(近赤外域も含む)の光コヒーレントな光を発するSLO光源であり、例えば、λ=780nmのレーザダイオード光源が用いられる。ダイクロイックミラー2は赤外光を反射し、可視光を透過させる特性を有する部材であり、光源1から出射されたレーザ光を反射させ、固視灯となる可視光を発するLD9からの光束を透過させる。接合プリズム4は、直角プリズム4a及び直角プリズム4bの斜面同士が接合されてなる部材である。接合プリズム4は、その中心領域に光源1及びLD9からの光束を被検眼E側に向けて反射させる部分となるミラーコーティング部10aを有し、被検眼Eからの反射光をミラーコーティング部10aの周辺領域にて透過させることにより、照射光束と反射光束を分離させる。なお、接合プリズム4の構成の詳細は後述する。
【0011】
視度補正レンズ5は、図示なきモータ等からなる駆動機構によって光軸方向に移動可能とされる。ポリゴンミラー6及びガルバノミラー7は被検眼Eにおける撮影領域においてレーザ光を走査させる走査部となる。なお、ポリゴンミラー6とガルバノミラー7の反射面は、対物レンズ8を介して被検眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置される。
【0012】
撮影光学系200は、前述した照射光学系100における対物レンズ8から接合プリズム4までの光路を共用し、照射光学系の光路と分離された独立の光路上には集光レンズ20、共焦点絞りとなるピンホール板21、受光素子22が配置されている。集光レンズ20は被検眼Eの眼底の観察点とピンホール板21とを共役な位置におく。また、本実施形態の受光素子22には、APD(アバランシェフォトダイオード)を用いている。
【0013】
図2に示すように、接合プリズム4の後側部材となる直角プリズム4bの斜面10には、光源1から出射されたレーザ光、及びLD9からの固視用光束を反射させるためのミラーコーティング部10aが光軸L1を中心として所定領域に形成されている。なお、直角プリズム4bの斜面の傾斜は45度であるため、ミラーコーティング部10は光軸L1方向からみて略円形状とみなせるように、斜面上に楕円形状にて形成されている。また、本実施形態におけるミラーコーティングは直角プリズム4bの斜面10に金を蒸着させることにより形成するものとしているが、これに限るものではなく、銀等の全反射ミラーとして使用可能な鏡面形成材料であればよい。なお、ミラーコーティング部10aは、光源1から出射されるレーザ光の光束径より若干広くなるように形成される。また、斜面10においてミラーコーティング部10aと同心であって、その外側の領域(周辺領域)は、被検眼Eからの反射光(撮影用光束)を透過させる役目を持つ。
【0014】
また、直角プリズム4bの後面11(受光素子側面)には、受光素子22に向かうノイズ光を遮断するための遮断領域11aが光軸L1を中心として所定領域に円形状に形成されており遮断部としての役目を持つ。このようなノイズ光は、主として被検眼Eに向けて照射される光束が対物レンズや被検眼Eの角膜にて反射することにより発生する反射光である。本実施形態では遮断領域11aを形成する材料としてCr(クロム)を用い、後面11に蒸着することにより形成するものとしているが、これに限るものではなく、入射する光束の通過を遮断可能な材料であればよい。
【0015】
遮断領域11aは、ミラーコーティング部10aにて遮断しきれないノイズ光をカットさせる必要があるため、ミラーコーティング部10aよりも広い(大きな)領域を持つ。主として対物レンズ8の前面または後面により発生するノイズ光を遮断するために必要な領域の大きさは、遮断領域を形成する位置におけるノイズ光の通過領域に基づいて決定される。このようなノイズ光の通過領域は、対物レンズ8(前面または後面)と遮断領域までの距離、対物レンズ8と遮断領域との間に位置する光学部材(本実施形態では視度補正レンズ)のパワー、対物レンズ8に対するレーザ光の最大入射角、対物レンズ8上におけるレーザ光のビーム径、等の条件により決定される。このような条件により、主として対物レンズにて発生するノイズ光を遮断するのに必要な遮断領域11aの大きさが決定されるが、眼底と共役とされるピンホール板21によってもノイズ光をカットすることができるため、ピンホール板21の開口径を考慮することにより、上述した遮断領域11aの大きさを小さくさせることもできる。開口径が小さすぎると受光素子22に入射する光量が不足しやすい。また、環境変化(例えば、温度変化等)や経時的な変化によって、ピンホール板21における相対的な共焦点のズレが画像形成に大きな影響を及ぼすこととなる。また、ピンホールの開口径が大きすぎると共焦点効果が薄れ、受光素子22へのノイズ光の入射を許してしまう。したがって、ピンホール板21の開口径は、照射光学系100によるレーザ光の眼底スポット径に相当する開口径、または眼底スポット径よりも大きな径であることが好ましい。本実施形態では、ピンホール板の開口による共焦点効果を保ちつつ、環境変化や経時的変化によって生じる程度の僅かな共焦点ズレを吸収できる程度の開口の大きさをピンホール板に形成するものとし、この形成した開口径の大きさによって新たに生じるノイズ光の受光素子への入射を抑制するために、遮断領域を形成するものである。
【0016】
図3は本実施形態における眼底撮影装置の制御系を示したブロック図である。30は装置全体の制御を行う制御部である。制御部30には光源1、ポリゴンミラー6、ガルバノミラー7、LD(レーザダイオード)9、受光素子22、視度補正レンズ5を駆動させるための駆動機構31、コントロール部32、画像処理部33、モニタ34、記憶部35等が接続される。コントロール部32は、視度補正のために被検眼の屈折力値を入力するためのスイッチやレーザ光の出力調整等の各種操作スイッチが設けられている。また、画像処理部33は受光部22にて受光した信号を基にモニタ34に被検眼眼底の画像を形成する表示制御を行う。記憶部35には種々の設定情報や撮影画像が保存される。」

(引1c)
「【0021】
図4(a)、(b)は、第2及び第3の実施形態を示す光学系の模式図である。図1で示した部材と同機能を有する部材には同符号を付し、説明を省略する。図4(a)に示す光学系では、接合プリズムに遮断領域を形成させず、別部材として図1の遮断領域11aと同機能を有する遮断領域40aが形成された透明板40を用意し、これを接合プリズム4と集光レンズ20の間の光路に配置するものとしている。このような構成よれば、遮断領域の形成位置を比較的自由に設定することができ、光学系全体の設計を効率よく行うことができる。
【0022】
また、図4(b)は、光源1から出射されたレーザ光を透過させ、被検眼からの反射光を反射させることにより両光束を分離させる光学系に対して本件発明を適用した例を示すものである。共通光路から受光光学系の光路を分離させるためにホールミラー50を照射光学系の光路上に配置する。また、ホールミラー50の反射方向に形成される光学系の光路には、図1の遮断領域11aと同機能を有する遮断領域50aが形成された透明板50、集光レンズ20、ピンホール板21、受光素子22が配置される。なお、ホールミラー50の開口は、他の光学部材により角膜と略共役な位置関係とされている。光源1から出射されたレーザ光は、ホールミラー50の中心開口を介して視度補正レンズ5へと向かう。一方、被検眼の眼底に照射されたレーザ光の反射光は、ホールミラー50により反射され、反射方向に置かれた、集光レンズ20を介してピンホール板21のピンホールにて集光し、受光素子22に受光される。なお、図4(a)、(b)ともに透明板上に遮断領域を形成するものとしているが、これに限るものではなく、透明板に換えて中央領域が遮蔽され、その周辺領域にリング開口が形成された部材を用いることもできる。」

(引1d)図1

(引1e)図4(b)


b 引用文献1に記載された発明
【0012】に記載の「接合プリズム」及び【0022】に記載の「ホールミラー」は、いずれも請求項1に記載の「分離部材」に対応するところ、図1及び図4(b)をみると、「撮影光学系は、照射光学系における対物レンズから分離部材までの光路を共用し、照射光学系の光路と分離された独立の光路上には、遮断部、集光レンズ、ピンホール板、受光素子が順に配置されて」いることが分かる。
よって、上記aの記載及び図面を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 レーザ光を出射する光源と前記レーザ光を眼底にて2次元的に走査するためのレーザ光走査手段とを有し、対物レンズを介して被検眼の眼底にレーザ光を照射する照射光学系と、
該照射光学系により前記被検眼の眼底に照射されたレーザ光の反射光を受光素子により受光して眼底の撮影像を得るための撮影光学系と、を備え、
被検眼の眼底に対してレーザ光を走査し、その反射光を受光することにより被検眼の眼底を撮影する眼科撮影装置において、
前記照射光学系と前記撮影光学系の共通光路に置かれ前記レーザ光と前記反射光とを分離させるために同心状に形成された2つの異なる領域を持つホールミラーであって、該2つの異なる領域として、前記光源から出射される前記レーザ光と被検眼の眼底から前記受光素子に向かう前記反射光に対して前者の光束を透過させる第1領域と後者の光束を反射させる第2領域とを持つホールミラーと、
前記ホールミラーと前記受光素子との間に設けられ前記ホールミラーを介する前記反射光の中心部分を遮断する遮断領域と前記反射光の周辺部分を通過させる通過領域とを持つ遮断部と、を有し、
撮影光学系は、照射光学系における対物レンズからホールミラーまでの光路を共用し、照射光学系の光路と分離された独立の光路上には、遮断部、集光レンズ、共焦点絞りとなるピンホール板、受光素子が順に配置されており、集光レンズは被検眼の眼底の観察点とピンホール板とを共役な位置におき、
遮断領域は、受光素子に向かうノイズ光を遮断するためのもので、光軸を中心として所定領域に円形状に形成されており、このようなノイズ光は、主として被検眼に向けて照射される光束が対物レンズや被検眼の角膜にて反射することにより発生する反射光であり、
受光素子にて受光した信号を基に被検眼の眼底の画像を形成し、
ホールミラーの開口は、他の光学部材により角膜と略共役な位置関係とされている、眼科撮影装置。」

(イ)引用文献2について
本願の優先権主張日前に頒布された特許第2618912号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(引2a)
「[産業上の利用分野]
本発明は眼底検査装置、特に光源としてレーザー光を用いそのビームを2次元的に偏向走査して被検眼の眼底に照射し、眼底からの反射光を受光して光電変換して処理することにより眼底情報を得る電子的な検眼装置に関するものである。」(第2頁右欄第47?第3頁左欄第2行)

(引2b)
「 凹面ミラー27によって反射された眼底からの反射光は、ミラー25の周辺部を通過して、ここで照射レーザー光と分離される。ミラー25の周辺部を通過した一次元的に走査される眼底からの反射光は、レンズ32を通過して検出スリット33の上に集光される。検出スリット33は、幅がたとえば100μm程度の一次元的な細い間隙を有するもので、被検眼24の眼底と光学的に共役またはほぼ共役な位置に配置されている。この検出スリットは、眼底からの直接の反射光のみを通過させ、他の不要散乱光成分たとえば、眼底における多重散乱光及び水晶体や硝子体からの散乱光等の大部分を遮断する役割を果たす。レンズ32と検出スリット33との間には、対物レンズ30の表面からの反射光の影響を除去するための黒点34が置かれる。検出スリット33を通過した眼底からの反射光は、レンズ35によって光電子増倍管等に代表される受光素子36,37の受光面上に投射された光電変換がなされる。」(第6頁左欄第13?28行)

(引2c)
「 すでに述べたように、レンズ23は、複数のレンズ群よりなり、画角変換や、焦点調整機能を持つ。たとえば、レンズ群の一部を入れ換えることによりレーザー光の走査範囲を変えることができ、撮像される被検眼眼底に対する画角範囲を変換することができる。ただし、第2図より明らかなように、レンズ23による画角変換は水平方向(第2図の紙面と垂直方向)の一次元方向のみである。従って本発明では、それと同時に振動ミラー28の偏向角の範囲を電子的な制御手段によって変化させることにより垂直方向(第2図の紙面と水平方向)の画角を変換して、2次元的な画角変換を行なう。このレンズ23の位置における水平方向の変化と、振動ミラー28による垂直方向の変化の組み合わせは極めて優れている。すなわち、従来の眼底カメラで行なわれているようなレンズによる2次元的な画角変換を本発明の光学系に適用しようとすると、画角変換レンズは振動ミラー28と被検眼24との間に配置しなければならない。この場合、眼底への入射光とそれからの反射光との共通光路中に複数のレンズ表面を持つ画角変換レンズが置かれたことにより、レンズの表面反射による有害光の影響をすべて受光素子36,37によって検出してしまうことになる。あるいは、第2図において黒点34の数を多くして、検出される信号のSN比は犠牲にするといった弊害を許容しなければならない。」(第6頁右欄第28行?第7頁左欄第1行)

(引2d)第2図


(ウ)引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された実願昭53-067216号(実開昭54-168795号)のマイクロフィルム(以下「引用文献5」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(引5a)
「 すなわち、本考案においては、対物レンズの後面に、従来のアイレフラクトメーターにおけるように対物レンズの後面に黒点を設けず、観察光学系の光軸上において、結像レンズに関して照明絞りの対物レンズ前面による反射像とほぼ共役な位置に、有害光線遮断用の遮光マスクを配置してあり、撮影光路への有害光線の混入は、レンズ後面に設けた黒点の場合と同様に防止でき、しかもこのマスクは注視目標投影のための光路中には位置しないので、遠方注視のための障害になることはない。」(第4頁第6?16行)

(引5b)
「 照明絞りの対物レンズ8の前面による反射像が生じている対物レンズ8の後面中心に従来と同様に黒点8aが設けられていると仮定すると、この黒点はハーフミラー17及び孔あきミラー6の中心孔を通り、結像レンズ9により20で示す像面に結像する。したがつて、本考案においては、この像面20に遮光マスク21を配置する。」(第6頁第1?7行)

(引5c)図面


ウ 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「対物レンズ」は、本件補正発明の「対物レンズ系」に相当する。

(イ)引用発明の「光源」から「出射」された「レーザ光を眼底にて2次元的に走査するためのレーザ光走査手段」が、本件補正発明の「照射光源から発せられたレーザー光を被検眼の眼底上で走査するための走査手段」に相当する。

(ウ)引用発明の「対物レンズを介して被検眼の眼底にレーザ光を照射する照射光学系」は、本件補正発明の「前記走査手段を経た前記照射光源からの前記レーザー光を前記対物レンズ系を介して被検眼の眼底に照射する照射光学系」に相当する。

(エ)よって、上記(ア)?(ウ)から、引用発明の「対物レンズ」と、「光源」から「出射」された「レーザ光を眼底にて2次元的に走査するためのレーザ光走査手段」とを備え、「対物レンズを介して被検眼の眼底にレーザ光を照射する照射光学系」は、本件補正発明の「対物レンズ系と、照射光源から発せられたレーザー光を被検眼の眼底上で走査するための走査手段と、を備え、前記走査手段を経た前記照射光源からの前記レーザー光を前記対物レンズ系を介して被検眼の眼底に照射するための照射光学系」に相当する。

(オ)引用発明の「受光素子」は、本件補正発明の「受光素子」に相当する。

(カ)引用発明の「照射光学系における対物レンズから分離部材までの光路を共用」する「撮影光学系」は、本件補正発明の「前記対物レンズ系と前記走査手段とを前記照射光学系と共用する」「受光光学系」に相当する。

(キ)上記(カ)を踏まえると、引用発明の「該照射光学系により前記被検眼の眼底に照射されたレーザ光の反射光を受光素子により受光」する「撮影光学系」は、「受光素子により受光」する「レーザ光の反射光」が、「対物レンズ」及び「レーザ光走査手段」を再経由することから、静止した光束として「受光素子により受光」されるといえ、本件補正発明の「前記レーザー光による眼底反射光を、前記対物レンズ系及び前記走査手段を再経由した静止した光束として前記受光素子へ導く、受光光学系」に相当する。

(ク)よって、上記(オ)?(キ)から、引用発明の「受光素子」を備え、「照射光学系における対物レンズからホールミラーまでの光路を共用し」、「該照射光学系により前記被検眼の眼底に照射されたレーザ光の反射光を受光素子により受光」する「撮影光学系」は、本件補正発明の「受光素子を備え、前記対物レンズ系と前記走査手段とを前記照射光学系と共用すると共に、前記レーザー光による眼底反射光を、前記対物レンズ系及び前記走査手段を再経由した静止した光束として前記受光素子へ導く、受光光学系」に相当する。

(ケ)引用発明の「前記照射光学系と前記撮影光学系の共通光路に置かれ前記レーザ光と前記反射光とを分離させるため」の「ホールミラー」は、本件補正発明の「前記走査手段と前記受光素子との間に配置されており、前記照射光学系と前記受光光学系の光路を分岐させるための光路分岐部材」に相当する。

(コ)引用発明の「ピンホール板」は、本件補正発明の「第1の遮光部材」に相当するところ、引用発明の「撮影光学系」の「照射光学系の光路と分離された独立の光路上には、」「共焦点絞りとなるピンホール板」を「被検眼の眼底の観察点と」「共役な位置にお」くことは、本件補正発明の「前記受光光学系における前記光路分岐部材と前記受光素子との間の光路には、眼底共役位置に前記眼底反射光が通過可能な第1の遮光部材」「を備え」ることに相当する。

(サ)引用発明の「遮断部」は、本件補正発明の「第2の遮光部材」に相当するところ、引用発明の「前記ホールミラーと前記受光素子との間に設けられ」た「遮断部」は、「眼底の観察点と」「共役な位置にお」く「ピンホール板」と異なる位置に「配置」されているから、本件補正発明の「前記受光光学系における前記光路分岐部材と前記受光素子との間の光路には、」「前記眼底共役位置から外れ」た「位置に」「配置された」「第2の遮光部材」に相当する。
また、上記(キ)を踏まえると、引用発明の「前記ホールミラーを介する前記反射光の中心部分を遮断する遮断領域」「を持つ遮断部」は、本件補正発明の「前記眼底における前記レーザー光の照射位置に関わらず、前記静止した光束の一部を遮光するように配置された」「第2の遮光部材」に相当する。
そして、引用発明の「前記ホールミラーを介する前記反射光の中心部分を遮断する遮断領域と前記反射光の周辺部分を通過させる通過領域とを持つ遮断部」は、「遮断領域」が「受光素子に向かうノイズ光を遮断するためのもので、光軸を中心として所定領域に円形状に形成されており、このようなノイズ光は、主として被検眼に向けて照射される光束が対物レンズや被検眼の角膜にて反射することにより発生する反射光であ」るから、本件補正発明の「眼底共役な面からの光を通過させ、前記対物レンズ系のレンズ面における光軸の近傍領域で反射された反射光の少なくとも一部を遮光する第2の遮光部材」に相当する。
よって、引用発明の「前記ホールミラーと前記受光素子との間に設けられ前記ホールミラーを介する前記反射光の中心部分を遮断する遮断領域と前記反射光の周辺部分を通過させる通過領域とを持つ遮断部」「を有」することと、本件補正発明の「前記受光光学系における前記光路分岐部材と前記受光素子との間の光路には、」「前記眼底共役位置から外れ且つ前記対物レンズ系のレンズ面と共役な位置に、前記眼底における前記レーザー光の照射位置に関わらず、前記静止した光束の一部を遮光するように配置されたことによって、眼底共役な面からの光を通過させ、前記対物レンズ系のレンズ面における光軸の近傍領域で反射された反射光の少なくとも一部を遮光する第2の遮光部材」「を備え」ることとは、「前記受光光学系における前記光路分岐部材と前記受光素子との間の光路には、前記眼底共役位置から外れた位置に、前記眼底における前記レーザー光の照射位置に関わらず、前記静止した光束の一部を遮光するように配置されたことによって、眼底共役な面からの光を通過させ、前記対物レンズ系のレンズ面における光軸の近傍領域で反射された反射光の少なくとも一部を遮光する第2の遮光部材」「を備え」る点で共通する。

(シ)上記(コ)及び(サ)を踏まえると、引用発明の「受光素子にて受光した信号を基に被検眼の眼底の画像を形成」することは、本件補正発明の「前記第1の遮光部材及び前記第2の遮光部材を通過した前記眼底反射光を前記受光素子に受光させると共に、前記受光素子からの受光信号に基づいて前記眼底の画像を得る」ことに相当する。

(ス)引用発明の「被検眼の眼底に対してレーザ光を走査し、その反射光を受光することにより被検眼の眼底を撮影する眼科撮影装置」は、本件補正発明の「走査型レーザー検眼鏡」に相当する。

エ 一致点・相違点
上記ウから、本件補正発明と引用発明とは、次の各点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「 対物レンズ系と、照射光源から発せられたレーザー光を被検眼の眼底上で走査するための走査手段と、を備え、前記走査手段を経た前記照射光源からの前記レーザー光を前記対物レンズ系を介して被検眼の眼底に照射するための照射光学系と、
受光素子を備え、前記対物レンズ系と前記走査手段とを前記照射光学系と共用すると共に、前記レーザー光による眼底反射光を、前記対物レンズ系及び前記走査手段を再経由した静止した光束として前記受光素子へ導く、受光光学系と、
前記走査手段と前記受光素子との間に配置されており、前記照射光学系と前記受光光学系の光路を分岐させるための光路分岐部材と、を備え、
前記受光光学系における前記光路分岐部材と前記受光素子との間の光路には、
眼底共役位置に前記眼底反射光が通過可能な第1の遮光部材と、
前記眼底共役位置から外れた位置に、前記眼底における前記レーザー光の照射位置に関わらず、前記静止した光束の一部を遮光するように配置されたことによって、眼底共役な面からの光を通過させ、前記対物レンズ系のレンズ面における光軸の近傍領域で反射された反射光の少なくとも一部を遮光する第2の遮光部材と、を備え、
前記第1の遮光部材及び前記第2の遮光部材を通過した前記眼底反射光を前記受光素子に受光させると共に、前記受光素子からの受光信号に基づいて前記眼底の画像を得る、走査型レーザー検眼鏡。」

(相違点)
第2の遮光部材を、本件補正発明では、「前記対物レンズ系のレンズ面と共役な位置」に配置するのに対し、引用発明では、「ホールミラー」と「集光レンズ」との間に配置する点。

オ 判断
上記相違点について検討する。

引用文献2(上記イ(イ)参照。)の記載によれば、眼科装置において、眼底への入射光と眼底からの反射光との共通光路中に、対物レンズや複数のレンズ表面を持つレンズが置かれた場合、これらレンズの表面反射による有害光の影響を除去するために、眼底への入射光から分離された眼底からの反射光の光路中に、各レンズ表面からの反射光を除去する黒点を複数置くことが読み取れることから、黒点は、対物レンズの表面と共役な位置に置かれていると理解される(図2における光路に沿って2本線で図示される黒点34は、対物レンズの一方と他方のレンズ面それぞれと共役な位置に置かれていると理解される)。
また、引用文献5(上記イ(ウ)参照。)の記載によれば、眼科装置において、観察光学系の光路上において、対物レンズの前面反射光が観察光学系に入るのを防止するために、対物レンズのレンズ前面による反射像が生ずる対物レンズの後面とほぼ共役な位置に遮光マスクを配置することが読み取れるから、遮光マスクは、対物レンズの表面と共役な位置に置かれていると理解される。
そして、レンズの表面で反射された反射光を効率的に除去するために、レンズの表面と共役な位置に遮光部材を配置することは、光学設計上の技術常識であるところ、眼科装置においても、対物レンズのレンズ面と共役な位置に、対物レンズのレンズ面で反射された反射光を除去する遮光部材を配置することは、上記引用文献2及び5の記載を踏まえると周知技術であるといえる。
よって、引用発明は、「角膜と略共役な位置関係とされている」「ホールミラーの開口」によって実質的に角膜からの反射光は除去されるものと理解されるから、引用発明において、「主として被検眼に向けて照射される光束が対物レンズ」「にて反射することにより発生する反射光」を除去するために、上記周知技術を適用し、「遮光部」を「対物レンズ」のレンズ面と共役な位置に配置することで、上記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1、2、5に記載された技術事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、顕著なものということはできない。

カ 小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和元年8月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(2)に記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張日前に頒布された引用文献1(特開2010-220773号公報)に記載された発明及び周知技術、又は、引用文献2(特許第2618912号公報)に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献及びその記載事項は、上記第2の[理由]2(2)イに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2(2)で検討した本件補正発明から、「第2の遮光部材」について付加した限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、「第2の遮光部材」について付加した限定を追加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2(2)ウ?オに記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-07-10 
結審通知日 2020-07-14 
審決日 2020-07-29 
出願番号 特願2015-146240(P2015-146240)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
渡戸 正義
発明の名称 走査型レーザー検眼鏡  

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