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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B32B
管理番号 1366412
審判番号 不服2020-1620  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-05 
確定日 2020-10-06 
事件の表示 特願2018-192101「積層多孔質フィルム及び非水電解液二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月24日出願公開、特開2019- 10883、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本件審判に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成26年4月10日に特許出願した特願2014-81322号(以下、「原出願」という。)の一部を平成30年10月10日に分割して新たな特許出願としたものであって、同年11月9日付で上申書及び手続補正書が提出され、令和元年9月2日付で拒絶の理由が通知され、同年10月15日付で意見書及び手続補正書が提出され、同年12月2日付で拒絶査定(以下、「原査定」という。)された(これの発送日は、同年12月10日)。
本件審判は、原査定に対して令和2年2月5日に請求されたものであって、同時に手続補正書が提出された。

2.原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、次のとおりである。
本願請求項1?10に係る発明は、以下の引用文献1?引用文献3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1: 特開2011-198532号公報
引用文献2: 特開2009-114434号公報
引用文献3: 国際公開第2013/002116号

3.審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1に「前記フィラー層が、水溶性高分子である有機バインダを含む」という事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるか、また、当該補正は新規事項を追加するものではないかについて検討すると、「前記フィラー層が、水溶性高分子である有機バインダを含む」という事項は、審判請求時の補正前の請求項6において特定されていた事項であるから、当該事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、当初明細書等に記載された事項であって、新規事項を追加するものではないといえる。
そして、「4.本願発明」から「6.対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-8に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

4.本願発明
(1)本願に係る発明は、令和2年2月5日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される以下の発明である。
【請求項1】
ポリオレフィンを主体として含む多孔質基材層と、無機粒子を主体として含むフィラー層と、メディアン径(D50)が1μmより大きい樹脂粒子を主体として含む樹脂層を有し、
前記多孔質基材層の一方の面に前記フィラー層を、他方の面に前記樹脂層を有し、
前記樹脂層が有機バインダを含み、
前記樹脂層は、前記有機バインダ1重量部に対して10?50重量部の前記樹脂粒子を含み、
前記樹脂粒子が、粒子径が0.8μm未満の樹脂粒子の含有割合が40体積%未満であり、
前記フィラー層が、水溶性高分子である有機バインダを含む、積層多孔質フィルム。
【請求項2】
前記多孔質基材層に対する前記フィラー層の目付比が、0.2?3.0であり、前記多孔質基材層に対する前記樹脂層の目付比が、0.1?2.0である請求項1に記載の積層多孔質フィルム。
【請求項3】
前記無機粒子が、アルミナ、ベーマイト、シリカ及びチタニアからなる群から選ばれる1種以上である請求項1または2に記載の積層多孔質フィルム。
【請求項4】
前記無機粒子が、α-アルミナである請求項1?3のいずれか1項に記載の積層多孔質フィルム。
【請求項5】
前記水溶性高分子が、カルボキシアルキルセルロース、アルキルセルロース及びヒドロキシアルキルセルロースからなる群から選ばれる1種以上である請求項1?4のいずれか1項に記載の積層多孔質フィルム。
【請求項6】
前記樹脂層に含まれる有機バインダが、非水溶性高分子である請求項1?5のいずれか1項に記載の積層多孔質フィルム。
【請求項7】
前記非水溶性高分子が、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、フッ素系ゴム及びスチレンブタジエンゴムからなる群から選ばれる1種類以上である請求項6に記載の積層多孔質フィルム。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか1項に記載の積層多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池。

(2)請求項2?8に係る発明は、いずれも、請求項1に係る発明の発明特定事項をすべて含むものである。
以下、請求項1に係る発明を「本願発明」と称して審理を進める。

5.引用文献、引用発明等
(1)引用文献1について
ア.原査定の拒絶の理由に示された引用文献1(特開2011-198532号公報)は、原出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極および有機電解液を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極と前記負極との間に、熱可塑性樹脂を主体とした微多孔質膜からなる基材層(I)と、無機フィラーを主体として含むフィラー層(II)と、融点が100?130℃の範囲にある樹脂粒子を主体として含む樹脂層(III)を有し、
前記基材層(I)の一方の面に前記フィラー層(II)を、他方の面に前記熱可塑性樹脂を積層していることを特徴とするリチウムイオン二次電池。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、安価であり、特にサイクル特性や安全性に優れたリチウムイオン二次電池に関するものである。
・・・・
【0010】
このようなことから、乾式一軸延伸法により製造されたセパレータをリチウムイオン二次電池に適用する場合には、突刺強度などの機械的強度を高める必要がある。
・・・・
【0012】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、安価であり、しかも高い安全性、特に落下などの耐衝撃性を改善したリチウムイオン二次電池を提供することにある。
・・・・
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安価であり、しかも高い安全性、特に落下などの耐衝撃性を改善したリチウムイオン二次電池を提供することができる。」
・「【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極および有機電解液を有するリチウムイオン二次電池であって、前記正極と前記負極との間に、熱可塑性樹脂を主体とした微多孔質膜からなる基材層(I)と、無機フィラーを主体として含むフィラー層(II)と、融点が100?130℃の範囲にある樹脂粒子を主体として含む樹脂層(III)を有し、前記基材層(I)の一方の面に前記フィラー層(II)を、他方の面に前記樹脂層(III)を積層している。
【0019】
本発明に係る基材層(I)は、正極および負極の短絡を防止するセパレータ本来の機能を有している。また、後述するフィラー層(II)や樹脂層(III)の支持体としての機能や、シャットダウン機能[例えば80℃以上(より好ましくは100℃以上)150℃以下で、セパレータの空孔が閉塞する性質]を確保することもできる。 ・・・
・・・・・
【0022】
基材層(I)を構成する微多孔質膜は、熱可塑性樹脂を主体としており、電気絶縁性を有し、電気化学的に安定で、更に後に詳述する電池の有する非水電解液に安定であれば特に制限はない。このような微多孔質膜の主体となる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体などのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエステルなどのポリエステル;などが挙げられる。特に、安価な原材料で加工性にも優れたポリオレフィンが望ましい。ここで、基材層(I)の全構成成分中において主体となる熱可塑性樹脂の体積は、50体積%以上であり、70体積%以上であることがより好ましく、100体積%であってもよい。
・・・・・
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池に係るフィラー層(II)は、無機フィラーを主体としている。 ・・・
【0027】
フィラー層(II)の主成分である無機フィラーは、リチウムイオン二次電池の有する電解液に対して安定であり、更に電池の作動電圧範囲において酸化還元されにくい電気化学的に安定なものであることが望ましい。 ・・・ さらには、前記無機フィラーは、耐熱温度が150℃以上の無機微粒子がより好ましい。 ・・・ 無機フィラーの具体例は、アルミナ、ベーマイト、シリカ、チタニアなどであり、微粒子の形状は特に制限がなく、板状、粒状、繊維状などが好適に用いられる。
・・・・・
【0034】
粒状フィラーの例としては、大明化学社製「アルミナ TM-Dシリーズ(商品名)」、「ベーマイト C06(商品名)」、「ベーマイト C20(商品名)」(ベーマイト)、米庄石灰工業社製「ED-1(商品名)」(CaCO3)、J.M.Huber社製「Zeolex 94HP(商品名)」(クレイ)などが挙げられる。
【0035】
フィラー層(II)には、フィラー層(II)と基材層(I)とを一体化させる場合、また、フィラー層(II)の形状安定性を確保するために、有機バインダを含有させることが好ましい。有機バインダとしては、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20?35モル%のもの)、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられるが、特に、150℃以上の耐熱温度を有する耐熱性のバインダが好ましく用いられる。有機バインダは、前記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記例示の有機バインダの中でも、EVA、エチレン-アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、SBRなどの柔軟性の高いバインダが好ましい。このような柔軟性の高い有機バインダの具体例としては、三井デュポンポリケミカル社の「エバフレックスシリーズ(EVA)」、日本ユニカー社のEVA、三井デュポンポリケミカル社の「エバフレックス-EEAシリーズ(エチレン-アクリル酸共重合体)」、日本ユニカー社のEEA、ダイキン工業社の「ダイエルラテックスシリーズ(フッ素ゴム)」、JSR社の「TRD-2001(SBR)」、日本ゼオン社の「BM-400B(SBR)」などがある。
【0037】
なお、前記の有機バインダをフィラー層(II)に使用する場合には、後述するフィラー層(II)形成用の組成物の溶媒に溶解させるか、または分散させたエマルジョンの形態で用いればよい。
・・・・・
【0039】
本発明のリチウムイオン二次電池に係る樹脂層(III)は、融点が100?130℃の範囲にある樹脂粒子を主体として含む。 ・・・
・・・・・
【0041】
前記樹脂層(III)を構成する樹脂粒子の平均粒子径は、例えば、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上であって、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下である。
・・・・・
【0043】
前記樹脂層(III)を、特に前記基材層(I)と一体に形成する場合には、前記フィラー層(II)と同様の理由で、有機バインダを含有させて用いることが好ましく、その種類もフィラー層(II)で使用したものと同様のものが好適に採用される。
・・・・・・
【0061】
基材層(I)、フィラー層(II)および樹脂層(III)を一体に形成した基材積層型の形態とし、これをセパレータとする場合、セパレータ全体の空孔率としては、電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にするために、乾燥した状態で、30%以上であることが好ましい。」
・「【実施例】
【0093】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0094】
実施例1
・・・・・
【0097】
<セパレータの作製>
二次凝集体ベーマイト5kgにイオン交換水5kgと分散剤(水系ポリカルボン酸アンモニウム塩、固形分濃度40%)0.5kgとを加え、内容積20L、転回数40回/分のボールミルで8時間解砕処理をし、分散液を調製した。処理後の分散液を120℃で真空乾燥し、SEM観察をしたところ、ベーマイトの形状はほぼ板状であった。また、レーザー散乱粒度分布計(堀場製作所製「LA-920」)を用い、屈折率1.65としてベーマイトの平均粒子径(D50%)を測定したところ、1.0μmであった。
【0098】
前記分散液500gに、増粘剤としてキサンタンガムを0.5g、バインダとして樹脂バインダーディスパージョン(変性ポリブチルアクリレート、固形分含量45質量%)を17g加え、スリーワンモーターで3時間攪拌して均一なスラリー[フィラー層(II)形成用スラリー(a)、固形分比率50質量%]を調製した。
【0099】
低分子量PEディスパージョン(PEの融点110℃、粒径0.6μm、固形分含量40%)500gに、前記樹脂バインダーディスパージョンを13g加え、スリーワンモーターで3時間攪拌して均一なスラリー[樹脂層(III)形成用スラリー(1)、固形分比率40質量%]を調製した。
【0100】
乾式の一軸延伸法で作製した電池用PP製微多孔質セパレータ[基材層(I):厚み12μm、空孔率40%、平均孔径0.08μm、突き刺し強度2.5N、絶縁破壊強度1.1kV、PPの融点165℃]の両面にコロナ放電処理(放電量40W・mIn/m^(2))を施し、片方の面にフィラー層(II)形成用スラリー(a)を、反対側の面に樹脂層(III)形成用スラリー(1)をマイクログラビアコーターによってそれぞれ塗布し、乾燥して基材層(I)に、フィラー層(II)および樹脂層(III)を積層した3層一体型のセパレータを得た。
【0101】
得られた基材層(I)、フィラー層(II)および樹脂層(III)を一体に形成した基材積層型の形態を有するセパレータにおけるフィラー層(II)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が6.1g/m^(2)であり、空孔率は55%であり、フィラー層(II)中におけるベーマイトの含有率は90体積%であった。また、樹脂層(III)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が1.8g/m^(2)であり、空孔率は55%であり、樹脂層(III)中におけるPE粒子の含有率は97体積%であった。」

イ.上記アに摘記した事項を、特に実施例1を中心に検討する。
(ア)作製された3層一体型セパレータは、基材層(I)たるポリプロピレン(PP)製微多孔質セパレータに対し、一方の面にフィラー層(II)、他方の面に樹脂層(III)を有したものである。
(イ)段落【0027】の記載によれば、フィラー層(II)とは無機フィラーを主体としたものであり、実施例1のフィラー層(II)においては、この無機粒子として「ベーマイト」が用いられている。また、段落【0035】?【0037】の記載によれば、フィラー層(II)には有機バインダを含有させることが好ましいものであり、実施例1のフィラー層(II)においては、この有機バインダとして「変性ポリブチルアクリレート」が用いられている。実施例1の樹脂層(III)にも同じ種類の有機バインダが用いられている。
(ウ)段落【0039】の記載によれば、樹脂層(III)とは樹脂粒子を主体としたものであり、実施例1の樹脂層においては、粒径は、0.6μmである低分子量PEの樹脂粒子が用いられている。。
(エ)実施例1の樹脂層(III)に含まれる「変性ポリブチルアクリレート」と「低分子量PE樹脂粒子」の割合は、「変性ポリブチルアクリレート」1重量部に対して「低分子量PEの樹脂粒子」約34重量部と算出される((500×0.40)/(13×0.45))。

ウ.上記イを踏まえて、本願発明の表現にならって整理すると、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる(以下、この発明を「引用発明」という。)。
「PP製微多孔質セパレータ基材層(I)と、無機粒子を主体として含むフィラー層(II)と、粒径が0.6μmの低分子量PE樹脂粒子を主体として含む樹脂層(III)を有し、
前記基材層(I)の一方の面に前記フィラー層(II)を、他方の面に前記樹脂層(III)を有し、
前記樹脂層(III)が有機バインダたる変性ポリブチルアクリレートを含み、
前記樹脂層(III)は、前記変性ポリブチルアクリレート1重量部に対して約34重量部の前記低分子量PE樹脂粒子を含み、
前記フィラー層(II)が、有機バインダたる変性ポリブチルアクリレートを含む、3層一体型セパレータ。」

(2)引用文献2について
原査定の拒絶の理由に示された引用文献2(特開2009-114434号公報)は、原出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、図面とともに以下の事項が記載されている。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性ポリプロピレンフィルムの表面に、粒径が0.8?10μmである粒子を含むコート層を有し、このコート層を有する面の剥離強度が1N/15mm以上である多孔性フィルム。
【請求項2】
ガーレー透気度が10?500秒/100mlである、請求項1に記載の多孔性フィルム。」
・「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性フィルムに関する。詳しくは、非水溶媒電池に用いられるセパレーターに好適な、透気性が高く、かつ加工性の良い多孔性フィルムに関する。
・・・・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は上記した問題点を解決することにある。すなわち、シャットダウン性を有し、透気性、加工性が良好であり、セパレーターとして用いた際に優れた特性を示す多孔性フィルムを提供することを目的とする。
・・・・・・
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明のフィルムについて説明する。
・・・・・
【0024】
本発明の多孔性フィルムは、多孔性ポリプロピレンフィルム(基材フィルム)上に粒子を含むコート層を有している。このコート層は、粒子を含む塗液を塗布することにより形成することが可能である。本発明における粒子の素材としては、軟化又は溶融によって基材フィルムに存在する孔を閉塞することが可能な樹脂であれば特に限定されるものではないが、たとえば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン及びこれらの共重合体などのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体などのポリアクリル樹脂などが好ましく用いられる。このうち特に高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンを主体とする樹脂が、ポリプロピレン樹脂との親和性、孔の閉塞性の観点から好ましい。
【0025】
また、本発明において、コート層中に含まれる粒子の粒径は0.8?10μmである。粒径は、透気性と接着性の観点からは、2?9.5μmであることがより好ましく、さらに3?6μmであることがより好ましい。粒子の粒径が小さすぎると、基材フィルムの孔の中に入り込んでしまい透気性が悪化し、さらに加工性も悪化することがある。また、粒子の粒径が大きすぎると、接着性が悪化しやすい。粒径の測定方法としては、フィルム試料を電界放射走査電子顕微鏡観察用にサンプリングしたものを、日本電子(株)製JSM-6700Fの電界放射走査電子顕微鏡でコート層を有する面について表面観察を行い、JEOL PC-SEM 6700のソフト中にある「2点間測長」を用いて30個の粒子について粒径を測定することで行う。粒径は、その平均(平均孔径)をもって表す。球形ではなく変形している場合は、観察画像において最長径と最短径を測定し、その2点の平均をその粒子の粒径とする。
【0026】
本発明において、コート層中には、粒子の他に、基材フィルムである多孔性ポリプロピレンフィルムとの接着性を良好にするためのバインダーが含まれていてもよい。バインダーとしては、ポリプロピレンと接着性のあるものであれば特に限定されないが、リチウムイオン電池に用いる場合、水分をセパレーター内に持ち込むと電池の組み立て工程が複雑になるため、バインダーとしては親水性の官能基を有していないものが好ましい。また、基材フィルムに含まれるポリプロピレンとの親和性に優れるプロピレン共重合体を用いることが好ましい。」
・「【0074】
(実施例1)
まず、下記の組成を有するポリプロピレン樹脂Aを二軸押出機でコンパウンドした。
【0075】
<ポリプロピレン樹脂A>
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(MFR:7g/10分)89.3質量%、主鎖骨格中に長鎖分岐を有する高溶融張力ポリプロピレン:Basell製ポリプロピレンPF-814(MFR:3g/10分)0.5質量%、メタロセン触媒法による低密度ポリエチレン:ダウケミカル社製、“エンゲージ”8411(MFR:18g/10分(190℃))10質量%、β晶核剤:N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキサミド(新日本理化(株)製、NU-100)0.2質量%
次に、ポリプロピレン樹脂Aを、一軸押出機に供給して220℃で溶融・混練し、400メッシュの単板濾過フィルターを経た後に200℃に加熱されたスリット状口金から押出し、表面温度120℃に加熱されたキャストドラムにキャストし、フィルムの非キャストドラム面側からエアーナイフを用いて120℃に加熱された熱風を吹き付けて密着させながら、シート状に成形し、未延伸シートを得た。なお、この際のキャストドラムとの接触時間は、40秒とした。
【0076】
得られた未延伸シートを105℃に保たれたロール群に通して予熱し、105℃に保ち周速差を設けたロール間に通し、105℃で縦方向に6倍延伸後、冷却した。引き続き、この縦延伸フィルムの両端をクリップで把持しつつテンターに導入して150℃で予熱し、150℃で横方向に7倍に延伸した。次いで、テンター内で横方向に5%の弛緩を与えつつ、155℃で熱固定をし、均一に徐冷した後、室温まで冷却して巻き取り、厚さ25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。この多孔性ポリプロピレンフィルムを基材とし、片面にコーティング剤として、平均粒径3μmのポリエチレン粒子の分散液であるケミパールW100(三井化学社製、固形分濃度40質量%)と接着性樹脂のバインダーであるケミパールEP150H(三井化学社製、固形分濃度45質量%)を質量比9:1の割合で混合し、固形分濃度10質量%になるように、蒸留水:エタノールを質量比1:1としたもので希釈し、撹拌モーターを用いて分散させたものをコーティング液としてNo.6のメタバーを用いてバーコーター方式でドライ厚み1μmとなるように塗布した。塗布後、80℃で熱風乾燥を1分間行い、ガーレー透気度、静摩擦係数、剥離強度、平均孔径を測定した。
【0077】
得られたフィルムは、高いシャットダウン性とセパレーター特性、加工性を両立するものであった。」

以上を踏まえると、引用文献2には、「多孔性ポリプロピレンフィルムと、平均粒径が0.8?10μmである樹脂粒子を含むコート層を有する多孔質フィルム」という事項が記載されていると認められる。

(3)引用文献3について
原査定の拒絶の理由に示された引用文献3(国際公開第2013/002116号)は、原出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、図面とともに以下の事項が記載されている。
・「 請求の範囲
[請求項1] 樹脂多孔質基体層と、前記樹脂多孔質基体層の片面又は両面に形成された無機粒子及びバインダを含む耐熱絶縁層と、を備え、前記樹脂多孔質基体層が、溶融温度が120?200℃である樹脂を含み、耐熱絶縁層目付/樹脂多孔質基体層目付が0.5以上であることを特徴とする耐熱絶縁層付セパレータ。
[請求項2] 前記耐熱絶縁層目付/樹脂多孔質基体層目付が0.8以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
[請求項3] 前記耐熱絶縁層目付/樹脂多孔質基体層目付が1.3以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
[請求項4] 前記耐熱絶縁層目付/樹脂多孔質基体層目付が2.0以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。」
・「[0027](2)バインダ
バインダは、耐熱絶縁層の構成要素であり、隣接する無機粒子どうし、および無機粒子と樹脂多孔質基体層とを接着する機能を有する。
・・・・・・
[0028] バインダに用いられる材料としては、特に限定されず、公知のものが用いられうる。例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリロニトリル、セルロース、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、アクリル酸メチルが挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのバインダの中では、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル酸メチル、およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましく用いられる。
・・・・・・
[0030] また、本実施形態の耐熱絶縁層付セパレータは、耐熱絶縁層目付/樹脂多孔質基体層目付の比が所定の範囲内となるように構成されている。具体的には、当該目付比は、0.5以上であることが必要であり、好ましくは0.8以上、より好ましくは1.3以上である。目付比を上記範囲内とすることにより、セパレータの熱収縮が効果的に抑制される。その理由としては、温度が上昇することで増大する樹脂多孔質基体層における内部応力が、耐熱絶縁層により十分に緩和されるためである。一方、目付比の上限は特に制限はないが、耐熱絶縁層付セパレータ全体の重量を勘案すると、目付比は2.0以下であることが好ましい。その理由としては、目付比が2.0以下の場合には、目付比が大きくなるにしたがってセパレータの熱収縮の抑制効果も増大するが、目付比が2.0を超えると、それ以上目付比を大きくしても熱収縮の抑制効果はほとんど増大しなくなるためである。」
・「[0037] なお、目付比は、用いる樹脂多孔質基体層および耐熱絶縁層の材料によって異なる値を示しうる。すなわち、樹脂多孔質基体層の空隙率、無機粒子の密度および粒子径、耐熱絶縁層付セパレータの総膜厚、およびバインダの添加量等が目付比の値に影響を及ぼしうる。そのため、上述の要因が考慮した上で、耐熱絶縁層付セパレータを製造することが好ましい。
[0038][電気デバイス(リチウムイオン二次電池)]
以上述べたように、本実施形態の耐熱絶縁層付セパレータは、目付比が所定の値を有することにより、シャットダウン機能を確保しつつ優れた耐熱収縮性を発揮する。このような耐熱絶縁層付セパレータは、さらに可能な限り重量を低減されたものであることが好ましい。加えて、このような耐熱絶縁層付セパレータは、さらに耐振動性を備えたセパレータであることが好ましい。このような性質を有することで、耐熱絶縁層付セパレータはリチウムイオン二次電池に好適に用いられうる。なお、ニッケル水素二次電池等の他の二次電池、および電気二重層キャパシタを含む電気デバイスにも好適に用いられる。」

6.対比・判断
(1)本願発明について
ア.対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明(以下、「後者」ということがある。)の「PP製微多孔質セパレータ基材層」、「低分子量PE樹脂粒子」、「有機バインダたる変性ポリブチルアクリレート」、「3層一体型セパレータ」は、それぞれ、本願発明(以下、「前者」ということがある。)の「ポリオレフィンを主体として含む多孔質基材層」、「樹脂粒子」、「有機バインダ」、「積層多孔質フィルム」に相当する。さらに、後者における樹脂層の変性ポリブチルアクリレート(有機バインダ)1重量部に対する低分子量PE樹脂粒子(樹脂粒子)の重量部である「約34」は、前者における樹脂層の有機バインダ1重量部に対する樹脂粒子の重量部「10?50」に含まれる。
したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「ポリオレフィンを主体として含む多孔質基材層と、無機粒子を主体として含むフィラー層と、樹脂粒子を主体として含む樹脂層を有し、
前記多孔質基材層の一方の面に前記フィラー層を、他方の面に前記樹脂層を有し、
前記樹脂層が有機バインダを含み、
前記樹脂層は、前記有機バインダ1重量部に対して10?50重量部の前記樹脂粒子を含み、
前記フィラー層が、有機バインダを含む、積層多孔質フィルム。」
<相違点1> 本願発明の樹脂粒子は、メディアン径(D50)が1μmより大きく、かつ、0.8μm未満の樹脂粒子の含有割合が40体積%未満であるのに対して、引用発明の樹脂粒子は、粒径が0.6μmである点。
<相違点2> フィラー層に含まれる有機バインダについて、本願発明では水溶性高分子とされているのに対して、引用発明では変性ポリブチルアクリレートである点。

イ.相違点についての判断
(ア)<相違点1>について
a.相違点1は、樹脂層の樹脂粒子の径及び含有割合に関するものであるが、引用発明を開示する引用文献1には、樹脂粒子の径について次の一般的な記載がある。
「【0041】
前記樹脂層(III)を構成する樹脂粒子の平均粒子径は、例えば、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上であって、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下である。」(下線は当審が付した。)
この記載は、メディアン粒子径についてのものではないが、平均粒子径もメディアン粒子径も分布を伴う粒子群の径を代表するものであるから、樹脂粒子のメディアン径に関係があるものといえる。
そこで、この記載内容を検討するに、この記載からは、概念的に、樹脂粒子の平均粒子径を1μmより大きくしたような態様、例えば平均粒子径を2μmとした態様も含まれているといい得るものの、その平均粒子径が、1μm以下となる態様も意図されているのであるから、結局、平均粒子径を1μmより大きなものとすることは、引用発明において明確に認識されていたといえるものではない。まして、0.8μm未満の樹脂粒子の含有割合を40体積%未満とすることについては、好ましいとされた下限値を見れば、到底示唆されていたといえるものではない。
そうしてみれば、引用発明自体に、樹脂粒子をメディアン径(D50)が1μmより大きく、かつ、0.8μm未満の樹脂粒子の含有割合が40体積%未満である構成に変更させることに関する示唆も積極的に動機付ける要因も見いだせるものではない。

b.引用文献2の上記記載事項は、引用発明と同じ技術分野に属する多孔性フィルムに関するものであって、その透気性(イオン透過性)に着目したものである。そして、引用文献2には、透気性に関して、「コート層中に含まれる粒子の粒径は0.8?10μmである。粒径は、透気性と接着性の観点からは、2?9.5μmであることがより好ましく、さらに3?6μmであることがより好ましい。粒子の粒径が小さすぎると、基材フィルムの孔の中に入り込んでしまい透気性が悪化し、さらに加工性も悪化することがある。・・・。粒径の測定方法としては、・・・コート層を有する面について表面観察を行い、JEOL PC-SEM 6700のソフト中にある「2点間測長」を用いて30個の粒子について粒径を測定することで行う。粒径は、その平均(平均孔径)をもって表す。」(段落【0025】)との記載があるから、引用文献2に記載された事項は、樹脂粒子の粒径が本願発明と同様のものであると解することができる余地はある。しかしながら、引用発明を開示する引用文献1には、樹脂粒子の径の大きさについて既にaで述べた記載があって、これの数値は、引用文献2に記載されたものと異なっているというべきである。
そして、引用発明は、その所与の課題に照らして種々の要素を考慮して構成されたものであり、その中には耐衝撃性(突き刺し強度)を改善するといった透気性と直ちに両立するとは言い難い要素も存在している。
そうすると、引用文献2の記載事項があるからといって、これを引用発明の樹脂粒子の径に単純に適用することができるものではない。

c.さらに、引用文献3の記載事項を考慮しても、引用発明において相違点1に係る本願発明の発明特定事項を採用することに至るものではない。

d.したがって、引用発明において、樹脂粒子の粒子径をメディアン径(D50)が1μmより大きく、かつ、0.8μm未満の樹脂粒子の含有割合が40体積%未満に変更すること、つまり、相違点1に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして、本願発明は、樹脂粒子の粒子径をメディアン径(D50)が1μmより大きく、かつ、0.8μm未満の樹脂粒子の含有割合が40体積%未満にしたことによって、本願の明細書に記載された効果を奏するものである。

(イ)そうすると、本願発明は、相違点2について検討するまでもなく、当業者が引用発明、引用文献2に記載された事項及び引用文献3に記載された事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。

(2)本願の請求項2?8に係る発明について
これらの発明は、いずれも、本願発明の発明特定事項をすべて含んだものである。
そうすると、これらの発明は、引用発明と対比すれば、少なくとも上記相違点1、2と同じ点で相違することになるから、本願発明と同様に、本願の請求項2?8に係る発明も、当業者が引用発明、引用文献2に記載された事項及び引用文献3に記載された事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。

7.原査定について
上記「4 本願発明」から「6 対比・判断」までに示したとおり、補正後の請求項1?8に係る発明は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-3に基いて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

8.むすび
以上のとおり、本願の請求項1?8に係る発明は、いずれも、当業者が引用発明、引用文献2及び引用文献3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法29条2項に規定される発明に該当しない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-09-15 
出願番号 特願2018-192101(P2018-192101)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B32B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 堀内 建吾  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 横溝 顕範
森藤 淳志
発明の名称 積層多孔質フィルム及び非水電解液二次電池  
代理人 長谷川 和哉  
代理人 鶴田 健太郎  

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