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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1366483
審判番号 不服2019-7316  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-04 
確定日 2020-09-16 
事件の表示 特願2014-75324号「バルーンコーティング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月9日出願公開、特開2015-195962号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年4月1日の出願であって、その出願の経緯は概ね以下のとおりである。
平成29年12月 6日付け:拒絶理由通知
平成30年 2月15日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 7月27日付け:拒絶理由通知(最後)
平成30年10月12日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 2月28日付け:補正却下の決定、拒絶査定
令和 元年 6月 4日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 5月12日 :上申書の提出

第2 令和元年6月4日提出の手続補正書でされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年6月4日提出の手続補正書でされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下、「本件補正発明」という。)は、次のとおりである(下線は、補正箇所を示すため、当審で付与したものである。)。

「【請求項1】
バルーンカテーテルのバルーンの外表面に水不溶性薬剤を含むコート層を、線状の部位が縞模様に並ぶように螺旋状に形成するバルーンコーティング方法であって、
前記バルーンを当該バルーンの軸心を中心に回転させつつ、水不溶性薬剤および溶媒を含むコーティング溶液を供給するためのフッ素系樹脂により形成される管状のディスペンシングチューブの前記コーティング溶液を吐出する開口部が形成される端部側を前記バルーンの外表面に接触させ、前記ディスペンシングチューブを前記バルーンの軸心方向へ当該バルーンに対して相対的に移動させつつ、前記開口部から前記コーティング溶液を吐出させるとともに、前記ディスペンシングチューブの前記バルーンに対する前記軸心方向への相対的な移動速度、前記ディスペンシングチューブからの前記コーティング溶液の吐出速度、および前記バルーンの回転速度の少なくとも1つを調節して前記コート層の均一度を制御することで、前記バルーンの外表面に前記コーティング溶液の隙間から前記バルーンを露出させつつ塗布する塗布工程を有するバルーンコーティング方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
平成30年10月12日提出の手続補正書でされた手続補正は、平成31年2月28日付け補正の却下の決定で却下されたので、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1記載の発明は、平成30年2月15日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。

「【請求項1】
バルーンカテーテルのバルーンの外表面に水不溶性薬剤を含むコート層を、線状の部位が縞模様に並ぶように形成するバルーンコーティング方法であって、
前記バルーンを当該バルーンの軸心を中心に回転させつつ、水不溶性薬剤および溶媒を含むコーティング溶液を供給するためのフッ素系樹脂により形成される管状のディスペンシングチューブの前記コーティング溶液を吐出する開口部が形成される端部側を前記バルーンの外表面に接触させ、前記ディスペンシングチューブを前記バルーンの軸心方向へ当該バルーンに対して相対的に移動させつつ、前記開口部から前記コーティング溶液を吐出させて前記バルーンの外表面に前記コーティング溶液の隙間から前記バルーンを露出させつつ塗布する塗布工程を有するバルーンコーティング方法。」

2.補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1記載の発明において、「コート層を、線状の部位が縞模様に並ぶように形成する」とされていたのを、本願明細書の段落【0099】の記載に基いて、「コート層を、線状の部位が縞模様に並ぶように螺旋状に形成する」として、コート層の構成を限定すると共に、塗布工程において、「前記開口部から前記コーティング溶液を吐出させて前記バルーンの外表面に前記コーティング溶液の隙間から前記バルーンを露出させつつ塗布する」とされていたのを、本願明細書の段落【0023】の記載に基いて、「前記開口部から前記コーティング溶液を吐出させるとともに、前記ディスペンシングチューブの前記バルーンに対する前記軸心方向への相対的な移動速度、前記ディスペンシングチューブからの前記コーティング溶液の吐出速度、および前記バルーンの回転速度の少なくとも1つを調節して前記コート層の均一度を制御することで、前記バルーンの外表面に前記コーティング溶液の隙間から前記バルーンを露出させつつ塗布する」として、塗布工程の構成を限定すると共に、請求項5,6を削除するものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項で規定する新規事項を追加する補正にはあたらず、特許法第17条の2第5項第2号で規定する特許請求の範囲の減縮及び特許法第17条の2第5項第1号で規定する請求項の削除を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正発明が、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定する、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア.引用文献1の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由(平成30年7月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由、以下同じ。)で引用された本願出願日前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2013/181498号(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。
なお、括弧内の訳は、対応する公表公報(特表2015-527092号公報)を参考としたものであって、下線は当審で付与したものである。

(ア)「Embodiments herein can be used to apply visually uniform coatings, such as coatings including active agents, onto medical devices, such as onto the balloons of drug coated or drug eluting balloon catheters, that have substantially uniform active agent concentrations along the length of the medical device. For example, in some embodiments, coatings can be formed with apparatus and methods wherein each section of the device that has been coated contains an amount of the active agent that is within ten percent of the average amount of active agent across all sections coated.」(5頁12?18行)
(訳:本明細書の実施形態は、医療器具の長さに沿って実質的に均一な活性成分の濃度を有する医療器具、例えば、薬物コーティングまたは薬物溶出バルーンカテーテルのバルーンに見た目が均一なコーティング、例えば、活性成分を含むコーティングを適用するために使用することができる。例えば、一部の実施形態では、コーティングされた器具の各部分がコーティングされた全ての部分における活性成分の平均量の10%以内の量の活性成分を含むコーティングが、装置および方法を用いて形成される。)

(イ)「The coating apparatus 100 can further include a fluid pump 112. The fluid pump 112 can be, for example, a syringe pump. The fluid pump 112 can be in fluid communication with components of the coating application unit 108 (such as the fluid applicator) and with a fluid reservoir 114. The fluid pump 112 can operate to pump a coatingsolution at arate sufficient to apply about 0.5 μl to about 10 μl of the coating solution per millimeter of length of the balloon or other device to be coated. The coating apparatus 100 can further include a rotation mechanism 116(or rotating balloon catheter fixture). The rotation mechanism 116 can be directly or indirectly coupled to the drug coated balloon catheter in order to rotate the drug coated balloon catheter 102 around its lengthwise (major) axis(about the central lumen of the catheter). In some embodiments, the drug coated balloon catheter can be rotated at a speed of between 100 and 400 rotations per minute. In some embodiments, the drug coated balloon catheter can be rotated at a speed of between 200 and 300 rotations per minute.」(6頁11?23行)
(訳:コーティング装置100は、流体ポンプ112をさらに備えることができる。流体ポンプ112は、例えば、シリンジポンプとすることができる。流体ポンプ112は、コーティング適用ユニット108の構成要素(例えば、流体アプリケータ)および流体タンク114に連通させることができる。流体ポンプ112は、コーティングされるべきバルーンまたは他の器具の1ミリメートルの長さにつき約0.5μl?約10μlのコーティング液を適用するのに十分なレートでコーティング液をポンピングするように動作し得る。コーティング装置100は、回転機構116(または回転バルーンカテーテル固定具)をさらに備えることができる。回転機構116は、薬物コーティングバルーンカテーテル102をその長手方向(主)軸(カテーテルの中心内腔)を中心に回転させるために薬物コーティングバルーンカテーテルに直接または間接的に接続することができる。一部の実施形態では、薬物コーティングバルーンカテーテルは、100?400rpmの速度で回転させることができる。一部の実施形態では、薬物コーティングバルーンカテーテルは、200?300rpmの速度で回転させることができる。)

(ウ)「The coating apparatus 100 can further include, in some embodiments, an axial motion mechanism 118 which can be configured to move the drug coated balloon catheter 102 in the direction of its lengthwise major axis. In some embodiments, axial motion can be substantially horizontal. In other embodiments, axial motion can be substantially vertical. In some embodiments, axial motion can be somewhere in between horizontal and vertical, depending on the orientation of the lengthwise axis of the balloon catheter. In some embodiments, the axial motion mechanism 118 can be a linear actuator. In some embodiments, the axial motion mechanism 118 can include an electric motor. The coating apparatus 100 can further include a frame member 120(in some embodiments this can also be referred to as an axial motion support rail). The frame member 120 can support other components of the coating apparatus 100 such as one or more guides 126. The frame member 120 can itself be support by a platform 122. The coating apparatus100 can further include a controller 124 that can serve to control operation of the coating apparatus 100 including, specifically, fluid pump 112, axial motion mechanism 110, rotation mechanism 116, and
axial motion mechanism 118.」(6頁29行?7頁12行)
(訳:コーティング装置100は、一部の実施形態では、薬物コーティングバルーンカテーテル102をその長手方向の主軸の方向に移動させるように構成することができる軸方向移動機構118をさらに備えることができる。一部の実施形態では、軸方向の移動は、実質的に水平方向とすることができる。他の実施形態では、軸方向の移動は、実質的に垂直方向とすることができる。一部の実施形態では、軸方向の移動は、バルーンカテーテルの長手方向軸の向きによって決まる、水平方向と垂直方向との間の任意の方向とすることができる。一部の実施形態では、軸方向移動機構118は、線形アクチュエータとすることができる。一部の実施形態では、軸方向移動機構118は、電気モータを含み得る。コーティング装置100は、フレーム部材120(一部の実施形態では、軸方向移動支持レールとも呼ばれ得る)をさらに備えることができる。フレーム部材120は、コーティング装置100の他の構成要素、例えば、1つ以上のガイド126を支持することができる。フレーム部材120は、プラットフォーム122によってそれ自体が支持され得る。コーティング装置100は、特に、流体ポンプ112、軸方向移動機構110、回転機構116、および軸方向移動機構118を含むコーティング装置100の動作を制御することができる制御装置124をさらに備えることができる。)

(エ)「In this embodiment,the coating application unit 108 can move, relative to the balloon 212 in the direction of arrow 230. As such, during a coating operation, the movement restriction structure 202 can pass over the balloon first, followed by the fluid applicator 208, followed by the fluid distribution bar 206, with the air nozzle last. It should be emphasized, however, that this movement is relative in the sense that in some embodiments the coating application unit 108 is moving and the balloon 212 is rotating but otherwise stationary, in some embodiments the balloon 212 is rotating and moving in the direction of its lengthwise axis and the coating application unit 108 is stationary, in still other embodiments both the coating application unit 108 and the balloon 212 are moving. The speed of movement of the balloon 212 relative to the coating application unit 108 can vary depending on the amount of coating solution to be applied. In some embodiments the speed can be from about 0.02 centimeters per second to about 0.2 centimeters per second.」(8頁3?15行)
(訳:この実施形態では、コーティング適用ユニット108は、バルーン212に対して矢印230の方向に移動することができる。従って、コーティング工程中に、移動制限構造202が、まずバルーンを通過し、次いで流体アプリケータ208、そして流体分散バー206が続き、最後に空気ノズルが通過することができる。しかしながら、この移動は、一部の実施形態では、コーティング適用ユニット108が移動し、バルーン212は回転するだけでその場に留まり、一部の実施形態では、バルーン212が回転しながらその長手方向軸の方向に移動し、コーティング適用ユニット108は静止したままであり、なお他の実施形態では、コーティング適用ユニット108およびバルーン212の両方が移動するという点で相対的であることを重視されたい。バルーン212のコーティング適用ユニット108に対する移動速度は、適用されるべきコーティング液の量によって異なり得る。一部の実施形態では、この速度は、約0.02センチメートル/秒?約0.2センチメートル/秒とすることができる。)

(オ)「It will be appreciated that based on the rotation of the drug coated balloon catheter and the movement of the balloon relative to the coating application unit that the path of the deposition of the coating onto the balloon follows a roughly helical path. It will be appreciated that the combination of the rotation speed of the drugcoated balloon catheter and the speed of the movement of the balloon relative to the coating application unit can influence the amount of coating solution that is deposited at any given point and the nature of the helical path. For example, the coating material can be deposited in helical layers that partially overlap one another at their edges, helical layers wherein the edge of one turn substantially meets the edge of a previous turn, and helical layers wherein there are gaps in between subsequent helical turns. In some embodiments, these helical patterns can be configured so as to maximize release of the active agent. For example, in some embodiments, the apparatus can be used to coat device so as to produce helical ridges of the coating material on the balloon surface.」(8頁16?28行)
(訳:薬物コーティングバルーンカテーテルの回転およびバルーンのコーティング適用ユニットに対する移動に基づいて、バルーンに対してコーティングが堆積される経路が、ほぼ螺旋経路を通ることを理解されたい。薬物コーティングバルーンカテーテルの回転速度とバルーンのコーティング適用ユニットに対する移動速度の組み合わせが、任意の点に堆積されるコーティング液の量および螺旋経路の性質に影響を及ぼし得ることを理解されたい。例えば、コーティング材料は、それぞれの縁で互いに部分的に重複する螺旋の層に堆積させることができ、この螺旋の層は、1つの巻きの縁が前の巻きの縁に実質的に接触し、かつ後続の螺旋の巻き間に間隙が存在する。一部の実施形態では、これらの螺旋パターンは、活性成分の放出が最大となるように構成することができる。例えば、一部の実施形態では、この装置を使用して、バルーンの表面にコーティング材料の螺旋状の隆起部が形成されるように器具をコーティングすることができる。)

(カ)「Referring now to FIG.7, a schematic end view of a fluid applicator 708 in conjunction with the balloon 718 of a drug coated balloon catheter 714 is shown in accordance with an embodiment of the invention. The fluid applicator 708 can include a shaft 706 and an orifice 704.In some embodiments, the fluid applicator 708 can be a pipette. Fluid, such as a coating solution, can travel through the shaft 706 of the fluid applicator 708 in order to be deposited on the surface of the balloon 718 of the drug coated balloon catheter 714. The shaft 706 is configured to rest against the balloon 718 of the balloon catheter 714. The balloon 718 is supported by the catheter shaft 716, but generally only at the ends of the balloon 718. Because of the limited support of the balloon 718 by the catheter shaft 716, the inherent flexibility of the balloon material and manufacturing variations, the balloon 718 may not be perfectly round. As such, when it is being rotated during a coating operation there may be variations in the distance of the outer surface of the balloon 718 from the catheter shaft 716 of the balloon catheter 714. If unaccounted for, this could lead to circumstances where the fluid applicator 708 does not maintain contact with the surface of the balloon 718. As such, the shaft 706 of the fluid applicator 708 can be configured to maintain contact with the surface of the balloon 718. For example, the shaft 706 of the fluid applicator 708 can be positioned such that it exerts a small degree of pressure against the surface of the balloon 718 such that when an irregularity in the balloon 718 is encountered the fluid applicator 708 can move slightly in order to maintain contact with the balloon surface. In some embodiments the shaft 706 of the fluid applicator 708 is flexible to accommodate movement to stay in contact with the balloon surface. In other embodiments, the fluid applicator 708 can be configured to pivot from where it is mounted in order to accommodate movement to stay in contact with the balloon surface. In other embodiments, the fluid applicator may not be in direct contact with the balloon surface but situated closely, for example within 1 millimeter.」(11頁18行?12頁11行)
(訳:ここで図7を参照すると、本発明の一実施形態に従った、薬物コーティングバルーンカテーテル714のバルーン718とあわせた流体アプリケータ708の概略端面図が示されている。流体アプリケータ708は、シャフト706およびオリフィス704を備えることができる。一部の実施形態では、流体アプリケータ708はピペットとすることができる。流体、例えば、コーティング液が、薬物コーティングバルーンカテーテル714のバルーン718の表面に堆積されるように、コーティング液を流体アプリケータ708のシャフト706内を移動させることができる。シャフト706は、バルーンカテーテル714のバルーン718に支持されるように構成されている。バルーン718は、カテーテルシャフト716によって支持されるが、一般に、バルーン718の端部のみで支持される。カテーテルシャフト716によるバルーン718の限定的な支持、バルーン材料に固有の可撓性、および製造上のばらつきから、バルーン718は完全には円形でないこともある。従って、バルーンが、コーティング工程中に回転すると、バルーンカテーテル714のカテーテルシャフト716からのバルーン718の外面までの距離にばらつきが生じ得る。これを考慮しないと、流体アプリケータ708が、バルーン718の表面との接触を維持できない状況が起こり得る。従って、流体アプリケータ708のシャフト706は、バルーン718の表面との接触を維持するように構成することができる。例えば、流体アプリケータ708のシャフト706を、バルーン718の表面に対して弱い圧力を加えるように配置して、バルーン718の凹凸に遭遇したときに流体アプリケータ708が僅かに移動してバルーンの表面との接触を維持することができるようにする。一部の実施形態では、流体アプリケータ708のシャフト706は、バルーンの表面との接触を維持する動きに対応するように可撓性である。他の実施形態では、流体アプリケータ708は、バルーンの表面との接触を維持する動きに対応するために、取り付けられた位置から回動するように構成することができる。他の実施形態では、流体アプリケータは、バルーン表面に直接は接触しないが、例えば、1ミリメートル以内に近接して配置することができる。)

上記(ア)及び(オ)の特に下線部の記載からすれば、引用文献1には「薬物コーティングバルーンカテーテルのバルーンの表面にコーティング材料の螺旋状の隆起部が形成されるようにした方法」が記載されている。
また、上記(イ)、(ウ)及び(カ)の特に下線部の記載並びに図1,2及び7の記載を参照すれば、引用文献1には「薬物コーティングバルーンカテーテルをその長手方向(主)軸(カテーテルの中心内腔)を中心に回転させつつ、コーティング装置の流体アプリケータのコーティング液を移動させるシャフトの端部側をバルーンの表面と接触させ、コーティング装置を、薬物コーティングバルーンカテーテルをその長手方向の主軸の方向に移動させつつ、コーティング液を薬物コーティングバルーンカテーテルのバルーンの表面に堆積させる」点が記載されている。
さらに、上記(オ)の特に下線部の記載からすれば、引用文献1には「薬物コーティングバルーンカテーテルの回転速度とバルーンのコーティング適用ユニットに対する移動速度の組み合わせが、任意の点に堆積されるコーティング液の量および螺旋経路の性質に影響を及ぼし、コーティング材料は、それぞれの縁で互いに部分的に重複する螺旋の層に堆積させることができ、この螺旋の層は、1つの巻きの縁が前の巻きの縁に実質的に接触し、かつ後続の螺旋の巻き間に間隙が存在するようにコーティングする」点が記載されている。
してみれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「薬物コーティングバルーンカテーテルのバルーンの表面にコーティング材料の螺旋状の隆起部が形成されるようにした方法であって、薬物コーティングバルーンカテーテルをその長手方向(主)軸(カテーテルの中心内腔)を中心に回転させつつ、コーティング装置の流体アプリケータのコーティング液を移動させるシャフトの端部側をバルーンの表面と接触させ、コーティング装置を、薬物コーティングバルーンカテーテルをその長手方向の主軸の方向に移動させつつ、コーティング液を薬物コーティングバルーンカテーテルのバルーンの表面に堆積させるとともに、薬物コーティングバルーンカテーテルの回転速度とバルーンのコーティング適用ユニットに対する移動速度の組み合わせが、任意の点に堆積されるコーティング液の量および螺旋経路の性質に影響を及ぼし、コーティング材料は、それぞれの縁で互いに部分的に重複する螺旋の層に堆積させることができ、この螺旋の層は、1つの巻きの縁が前の巻きの縁に実質的に接触し、かつ後続の螺旋の巻き間に間隙が存在するようにコーティングする方法。」

イ.引用文献2及び3の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願出願日前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2005-538814号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
なお、下線部は当審で付与した。

(ア)「本発明によってカテーテルのバルーンに薬剤をコーティングすることは、特に有用であるが、その理由は、バルーンを使い圧力をかけて作られた内腔の狭窄あるいは閉塞を防止するために、腫瘍増殖を制限するために、あるいは側副循環の形成を含む治癒過程を増進するために、血管あるいは体内の他の空隙がバルーンで拡張された後の治療に関する必要性がしばしば存在するからである。このことは、バルーン表面のすぐ近傍において有効になる薬剤によって達成することができる。薬剤は、バルーンに堅固に付着して、バルーンが膨脹するまで、それらの標的への途中において強い血流と共に動脈を通過し、そして、バルーンが組織に接触している間に短時間(時にはほんの2秒から3秒)で有効量が投与されて、バルーンが収縮した後にすぐに元に戻る血流によって洗い流されないように、組織に吸収される。」(段落【0014】)

(イ)「適切な薬剤は、どのような組織成分にも結合する、親油性であり、ほとんど水不溶性であり、かつ強活性である薬剤である。これらの薬剤は、水性緩衝溶液(pH7)へのそれらのブタノールの構成比が≧0.5であり、好ましくは≧1であり、特に好ましくは≧5であるとき、あるいは、水性緩衝溶液(pH7)へのそれらのオクタノールの構成比が≧1であり、好ましくは≧10であり、特に好ましくは>50であるとき、親油性であると称される。これに代えて、あるいはこれに加えて、薬剤は、百分率が>10%で、好ましくは>50%で、特に好ましくは>80%で、細胞成分に可逆的にかつ/または不可逆的に結合することが望ましい。好ましいのは、細胞増殖過程あるいは炎症性過程を抑制する物質、または、パクリタキセルおよび他のタキサン類のような酸化防止剤、ラパマイシンおよび関連物質、タクロリスマスおよび関連物質、コルチコイド、性ホルモン(エストロゲン、エストラジオール、抗アンドロゲン)および関連物質、スタチン、エポチロン、プロブコール、プロスタサイクリン、血管形成の誘発物質などの物質である。」(段落【0023】)

(ウ)「医療品は、先に言及した薬剤および補助薬の溶液、懸濁液、あるいはエマルジョンを用いてコーティングされる。溶液、懸濁液、あるいはエマルジョンのための適切な媒質は、例えば、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、ジエチルエーテル、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、グリセリン、水、あるいはこれらの混合物である。溶媒の選択は、活性物質および補助薬の溶解度、コーティングされる表面の濡れ性、コーティングおよび蒸発後に残っている粒子の構造の効果、表面へのこれらの付着性、およびきわめて短い接触時間における組織への活性物質の移送度に基づいて行われる。
コーティングは、浸漬、散布、容積計量器による塗布、あるいは様々な温度での噴霧、および場合によっては大気中での溶媒の蒸気飽和によって行われることができる。処置は、必要とされるような異なる溶媒および補助薬を用いて数回繰り返すことができる。」(段落【0028】?【0029】)

また、原査定の拒絶の理由で引用された本願出願日前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2012-533338号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
なお、下線部は当審で付与した。

(エ)「パクリタキセル含有製剤で被覆されたバルーンは公知である。いくつかの場合において、パクリタキセルは、バルーンまたはバルーン上に配置されたコーティングに直接適用される。他の場合においては、パクリタキセルは、バルーンへの付着および/または拡張時のバルーンからの放出を促進するポリマー、造影剤、界面活性剤、または他の小分子であり得る賦形剤と共に製剤化される。前記製剤は、典型的には溶液から適用され、噴霧、浸漬、または折り目線に沿ってピペットによってのいずれかで、バルーン全体または折り畳まれたバルーンに適用され得る。」(段落【0002】)

(オ)「いくつかの実施形態において、前記薬剤は、再狭窄を抑制するパクリタキセルまたは別の薬剤、例えば、パクリタキセル類似体および誘導体、ラパマイシン、ラパマイシン類似体および誘導体、エベロリムス、エベロリムス類似体および誘導体、およびそれらの混合物のような、脂肪親和性かつ実質的に水に不溶性の薬剤である。適当であり得る他の薬剤は、本願において後に明らかにされる文献に記載されている。薬剤の混合物、例えばパクリタキセルおよびラパマイシン、またはそれらの類似体または誘導体が使用されてもよい。前記薬剤は、適切には、バルーンに適用された後に、溶媒または溶媒蒸気による処理によって結晶形を形成することができるものである。」(段落【0014】)

上記引用文献2の(ア)?(ウ)及び引用文献3の(エ)、(オ)の下線部の記載に見られるように、次の事項は本願出願前に周知の技術(以下、「周知技術A」という。)である。

「バルーンカテーテルのバルーンにコーティングする薬剤として、パクリタキセルのような水不溶性薬剤を溶媒と共に用いること。」

(3)対比
以下、本件補正発明と引用発明を対比する。
ア.引用発明の「薬物コーティングバルーンカテーテル」及び「コーティング材料」は、それらの機能及び構成からみて、本件補正発明の「バルーンカテーテル」及び「コート層」に相当する。
そして、引用発明において、当該コーティング材料は、螺旋状の隆起部として形成され、螺旋の巻き間に間隙が存在するのであるから、本件補正発明同様、「線状の部位が縞模様に並ぶように螺旋状に形成」されているといえる。
また、引用発明の「方法」は、バルーンの表面にコーティング材料を形成するものであるから、本件補正発明の「バルーンコーティング方法」に相当する。

イ.引用発明の「薬物コーティングバルーンカテーテルの長手方向(主)軸(カテーテルの中心内腔)」、「コーティング液」及び「シャフト」は、機能及び構成上、本件補正発明の「バルーンの軸心」「コーティング溶液」及び「ディスペンシングチューブ」に相当する。
そして、引用発明の「シャフト」は、その内部でコーティング液を移動させるものであるから、「管状」であり、その端部には、「コーティング溶液を吐出する開口部が形成され」ているものといえる。
また、引用発明のシャフトは、コーティング装置に設けられた流体アプリケータの一部であるから、引用発明において、「コーティング装置を、薬物コーティングバルーンカテーテルをその長手方向の主軸の方向に移動させ」ることは、本件補正発明の、「ディスペンシングチューブを前記バルーンの軸心方向へ当該バルーンに対して相対的に移動させ」ることに相当する。
さらに、引用発明において、「コーティング液を薬物コーティングバルーンカテーテルのバルーンの表面に堆積させる」ことは、シャフトからコーティング液を吐出させることにより行われているものといえるから、本件補正発明の「(ディスペンシングチューブの)開口部からコーティング溶液を吐出させる」ことに相当する。

ウ.引用発明も、薬物コーティングバルーンカテーテルにコーティングを行うものであるから、「薬物コーティングバルーンカテーテルの回転速度とバルーンのコーティング適用ユニットに対する移動速度の組み合わせが、任意の点に堆積されるコーティング液の量および螺旋経路の性質に影響を及ぼ」すことによりコート層の堆積に変化が生じ、均一度が変化することは自明であって、引用発明もコート層の均一度を制御しているといえる。
また、引用発明は、「コーティング材料は、それぞれの縁で互いに部分的に重複する螺旋の層に堆積させることができ、この螺旋の層は、1つの巻きの縁が前の巻きの縁に実質的に接触し、かつ後続の螺旋の巻き間に間隙が存在する」のであるから、当該螺旋の巻き間の隙間にはコーティング材料が存在せず、コーティング材料は、コーティング材料の隙間からバルーンを露出させつつ塗布されているものといえる。
してみれば、引用発明も「ディスペンシングチューブのバルーンに対する軸心方向への相対的な移動速度、ディスペンシングチューブからのコーティング溶液の吐出速度、およびバルーンの回転速度の少なくとも1つを調節してコート層の均一度を制御することで、バルーンの外表面にコーティング溶液の隙間からバルーンを露出させつつ塗布する塗布工程を有」しているものと認められる。

上記ア.?ウ.の対比からすると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「バルーンカテーテルのバルーンの外表面にコート層を、線状の部位が縞模様に並ぶように螺旋状に形成するバルーンコーティング方法であって、
前記バルーンを当該バルーンの軸心を中心に回転させつつ、コーティング溶液を供給するための管状のディスペンシングチューブの前記コーティング溶液を吐出する開口部が形成される端部側を前記バルーンの外表面に接触させ、前記ディスペンシングチューブを前記バルーンの軸心方向へ当該バルーンに対して相対的に移動させつつ、前記開口部から前記コーティング溶液を吐出させるとともに、前記ディスペンシングチューブの前記バルーンに対する前記軸心方向への相対的な移動速度、前記ディスペンシングチューブからの前記コーティング溶液の吐出速度、および前記バルーンの回転速度の少なくとも1つを調節して前記コート層の均一度を制御することで、前記バルーンの外表面に前記コーティング溶液の隙間から前記バルーンを露出させつつ塗布する塗布工程を有するバルーンコーティング方法。」

【相違点1】本件補正発明は、コーティング溶液が水不溶性薬剤および溶媒を含み、コート層が水不溶性薬剤を含むのに対し、引用発明は、コーティング液(コーティング溶液)およびコーティング材料(コート層)に含まれる薬剤および溶媒が特定されていない点。

【相違点2】本件補正発明は、ディスペンシングチューブがフッ素系樹脂により形成されているのに対して、引用発明はシャフト(ディスペンディングチューブ)の素材が特定されていない点。

(4)判断
【相違点1】について:
バルーンカテーテルのバルーンにコーティングする薬剤として、パクリタキセルのような水不溶性薬剤を溶媒と共に用いることは、上記周知技術A、さらに本願明細書において従来例として記載された米国特許出願公開第2010/0055294号明細書(以下、「従来技術文献」という。)の段落【0034】?【0035】にも記載されているように本願出願前に周知の技術にすぎない。
よって、引用発明のコーティング材料として当該周知のパクリタキセルのような水不溶性薬剤及び溶媒を含むものを採用することにより、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることと認められる。

【相違点2】について:
医療機器の技術分野において、薬剤の適用箇所の素材としてフッ素系樹脂は慣用されるものであり、具体的にコーティング薬剤を塗布するシャフトの素材として、フッ素系樹脂を用いることも、従来技術文献(段落【0027】参照。)も採用しているように本件出願前に周知の技術にすぎない。
よって、引用文献1のシャフト(ディスペンディングチューブ)の素材に当該周知のフッ素系樹脂を採用することは、当業者が容易になし得ることと認められる。
なお、本願明細書の段落【0022】及び【0157】には、フッ素系樹脂により形成されたディスペンシングチューブを用いてコート層が不均一にコートされて塗りムラを与えることができる旨の記載があるが、段落【0156】の記載からすれば、この塗りムラはディスペンシングチューブをポリオレフィン(ポリプロピレン)から形成した場合にも生じるものであり、また、引用発明もバルーンの外表面にコーティング溶液の隙間からバルーンを露出させつつ塗布されている(上記(3)ウ.参照。)ことからすれば、当該塗りムラは、ディスペンシングチューブの素材にフッ素系樹脂を採用したことによる特有の作用効果とは認められない。

そして、フッ素系樹脂を採用したディスペンシングチューブの素材と水不溶性薬剤及び溶媒を含むコーティング材料とが相互に関連して格別の作用効果を生じるものとは認められないから、本件補正発明の作用効果は、引用発明及び周知の技術から当業者が予測しうる程度のものであって、格別のものとはいえない。

以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものと認められる。

(5)小活
したがって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができたものとは認められない。
よって、請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものである。

3.本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、請求項1に係る補正を含む本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定によって却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下された。
また、平成30年10月12日提出の手続補正書でされた手続補正は、平成31年2月28日付け補正の却下の決定で却下されたので、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1記載の発明は、平成30年2月15日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記第2の[理由]1.(2)に記載されたとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

2.原査定における拒絶の理由
原査定における拒絶の理由は、平成30年7月27日付け拒絶理由通知書に記載された理由であるところ、当該拒絶理由通知書の拒絶の理由1.は、概ね次の理由を含むものである。

この出願の請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1ないし4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:国際公開第2013/181498号
引用文献2:特表2005-538814号公報
引用文献3:特表2012-533338号公報
引用文献4:米国特許出願公開第2009/0076448号明細書

3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献1?3の記載事項は、上記第2の[理由]2.(2)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2.で検討した本件補正発明から、コート層の構成として「螺旋状」との構成の限定を削除すると共に、塗布行程の構成において「前記バルーンの外表面に前記コーティング溶液の隙間から前記バルーンを露出させつつ塗布する」にあたって、「前記ディスペンシングチューブの前記バルーンに対する前記軸心方向への相対的な移動速度、前記ディスペンシングチューブからの前記コーティング溶液の吐出速度、および前記バルーンの回転速度の少なくとも1つを調節して前記コート層の均一度を制御することで、」との限定を削除したものである。
そして、上記第2の[理由]2.(2)で検討したように、本願発明に上記限定を加えた本件補正発明が引用発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記限定を含まない本願発明も引用発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明できたものと認められる。
なお、拒絶査定の拒絶の理由である平成30年7月27日付け拒絶理由通知書に記載された理由1.では、引用文献1のコート層が縞模様に並ぶものではないと限定的に解釈した場合の補助的な証拠として引用文献4も引用しているが、上記第2の[理由]2.(3)ア.で検討したように引用文献1のコート層は縞模様に並んでいるものと認められるから、上記判断にあたって、引用文献4は用いていない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-07-17 
結審通知日 2020-07-20 
審決日 2020-07-31 
出願番号 特願2014-75324(P2014-75324)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川島 徹  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 倉橋 紀夫
井上 哲男
発明の名称 バルーンコーティング方法  
代理人 山田 牧人  

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