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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1366588
審判番号 不服2019-17004  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-17 
確定日 2020-09-23 
事件の表示 特願2017- 7522「簡易メンブレンアッセイ法及びキット」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月27日出願公開、特開2017- 78723〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成14年6月27日に出願した特願2002?187781号の一部を、平成18年3月31日に新たな特許出願とした特願2006?099040号の一部を、平成20年8月22日に新たな特許出願とした特願2008?214432号の一部を、平成24年9月7日に新たな特許出願とした特願2012?196836号の一部を、平成27年3月3日に新たな特許出願とした特願2015?041608号の一部を、平成28年5月30日に新たな特許出願とした特願2016?107732号の一部を、更に平成29年1月19日に新たな特許出願としたものであって、平成29年2月20日に手続補正書が提出され、平成30年2月6日付けで拒絶理由が通知され、同年6月14日に意見書が提出され、同年11月28日付けで拒絶理由が通知され、平成31年4月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和元年9月5日付けで拒絶査定(原査定)がされたところ、同年12月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。


第2 本願発明

本願の請求項に係る発明は、平成31年4月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項10に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「 【請求項10】
以下を含む、検体試料中の被測定物の存在を検査あるいは定量するための簡易メンブレンアッセイキット;
(1)濾過フィルター、及び
(2)被測定物を捕捉するための捕捉物質が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置、
であって、前記濾過フィルターが検体試料中の生体成分がメンブレン上あるいはメンブレン中に付着することを原因とする偽陽性を防ぐことを特徴とする、上記アッセイキット。」


第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、以下のとおりである。

1 この出願の請求項1、7ないし11及び15に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

2 この出願の請求項1、7ないし11及び15に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

3 この出願の請求項2ないし6、14及び16ないし18に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4 この出願の請求項1ないし18に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2ないし4に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.EIA法によるA型又はB型インフルエンザウイルス抗原検出用キット インフルA・B-クイック「生研」,日本,2001年
引用文献2.特開2000-088851号公報
引用文献3.特表平09-511058号公報
引用文献4.特開2001-124775号公報


第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1は、デンカ生研株式会社のEIA法によるA型又はB型インフルエンザウイルス抗原検出用キットであるインフルA・B-クイック「生研」20回用の添付文書であり、以下の事項が記載されている(下線は当審において付加した。また、丸囲い数字は、「○1」のように記載する。)。

(引1-ア)タイトル
「EIA法によるA型又はB型インフルエンザウイルス抗原検出用キット
インフルA・B-クイック『生研』
20回用」

(引1-イ)第1頁12行?第3頁8行
「 本品は、これらの問題を解決するために開発された迅速・簡便なA型インフルエンザウイルス抗原又はB型インフルエンザウイルス抗原検査法であり、A型インフルエンザウイルスの各亜型に共通な核蛋白に対するモノクローナル抗体、及びB型インフルエンザウイルスの核蛋白に対するモノクローナル抗体を使用した酵素免疫測定法(EIA法)を用いているため、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、鼻腔吸引液中のA型又はB型インフルエンザウイルス抗原を迅速かつ特異的に検出し、臨床診断において迅速・補助的な検査結果を提供するものです。
【特徴】
1.A型インフルエンザウイルス又はB型インフルエンザウイルスを特異的に検出します。
2.操作が簡単で約15分で結果の判定が可能です。
3.少数検体に適しています。
【キットの構成】
1.抗体固相デバイス 20パック
抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)(10μg/デバイス)及び抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)(5μg/デバイス)をメンブレンに固相化したものです。
2.検体浮遊液 1mL 20本
ウシ血清アルブミンを0.5w/v%含むりん酸塩緩衝塩化ナトリウム液で、保存剤としてアジ化ナトリウムを0.08 w/v%含みます。
3.陰性コントロール 1.5mL 1本
ウシ血清アルブミンを1w/v%含む溶液で、保存剤としてアジ化ナトリウムを0.08 w/v%含みます。
4.陽性コントロール 1.5mL 1本
不活化A型インフルエンザウイルス抗原及び不活化B型インフルエンザウイルス抗原を含む溶液です。保存剤としてアジ化ナトリウムを0.08 w/v%含みます。
5.酵素標識抗体A型 4mL 1本
アルカリフォスファターゼ標識抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)(8μg/mL) を含む溶液です。保存剤としてアジ化ナトリウムを0.08 w/v%含みます。
6.酵素標識抗体B型 4mL 1本
アルカリフォスファターゼ標識抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)(8μg/mL) を含む溶液です。保存剤としてアジ化ナトリウムを0.08 w/v%含みます。
7.基質液 15mL 1本
5-ブロモ?4?クロロ?3?インドリルリン酸(150μg/mL)、ニトロテトラゾリウムブルー(300μg/mL)を含む溶液です。
8.洗浄液 10mL 1本
トリス塩酸緩衝塩化ナトリウム液からなる溶液で、保存剤としてアジ化ナトリウムを0.08 w/v%含みます。
9.反応停止液 15mL 1本
くえん酸(21mg/mL)他からなる溶液です。
添付品
試料濾過フィルター 20個
滅菌綿棒 20本
【使用目的】
咽頭拭い液又は鼻腔拭い液又は鼻腔吸引液中のA型インフルエンザウイルス抗原又はB型インフルエンザウイルス抗原の検出
【測定原理】
メンブレンを用いたEIA法であり下記の各ステップよりなります。
1.一次反応:検体中のA型インフルエンザウイルス抗原がメンブレン上の抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)と結合し、また、B型インフルエンザウイルス抗原が抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)と結合し、それぞれ複合物を形成します。
2.二次反応:上記の複合物が、酵素標識抗体A型中のアルカリフォスファターゼ標識抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)と結合し、また、酵素標識抗体B型中のアルカリフォスファターゼ標識抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)と結合し、それぞれ抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)-A型インフルエンザウイルス抗原-アルカリフォスファターゼ標識抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)、また、抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)-B型インフルエンザウイルス抗原-アルカリフォスファターゼ標識抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)複合物をそれぞれ形成します。
3.酵素反応:基質液を加えると、メンブレン中のアルカリフォスファターゼにより呈色します。
【操作法】
1.試薬の調整方法
すべての試薬はそのまま使用します。
2.検体の調整
1)検体採取
「○1」咽頭拭い液の場合
滅菌綿棒を口腔から咽頭にゆっくり挿入し、咽頭後壁、口蓋、扁桃を綿棒で数回こすり採取、検体とします。
「○2」鼻腔拭い液の場合
滅菌綿棒を外鼻腔から鼻腔にゆっくり挿入し、鼻甲介を綿棒で数回こすり採取、検体とします。
「○3」鼻腔吸引液の場合
吸引カテーテルの片方のチューブを吸引ポンプへ、もう片方のチューブを外鼻腔から鼻腔に挿入し、吸引ポンプで鼻腔吸引液を吸引トラップへ採取、これに綿棒を浸して10秒間吸引させ検体とします。
咽頭拭い液を検体とした場合、鼻腔拭い液、鼻腔吸引液に比べ検出率が劣るためなるべく鼻腔拭い液、鼻腔吸引液をご使用ください。
試料中に固形状の異物(ゴミ及び脱落細胞成分等)や血液が混入した場合、これらをろ過又は遠心除去してから使用してください。
うがい液は使用しないでください。
2)試料の調製
検体採取後直ちに検体浮遊液が入った容器中に綿棒を浸し、管壁に押しつけるよう10回以上撹拌後、綿棒の先から液を絞り出し、必ず試料濾過フィルターを取り付け、2分間以上静置して試料とします。試料濾過フィルターを使用しない場合は偽陽性の原因となります。
試料は凍結を避け2?10℃に保存して3日以内に検査してください。
本品は、常温(15?25℃)に戻して使用してください。15℃未満のままの使用は感度低下の原因になります。
検体数に応じて抗体固相デバイス(以下デバイス)を取り出します。ただし、使用前に、必ずデバイスに取り付けてあるアダプターのゆるみ、ずれが無いことを確認してください。正しく装着されていない場合は、正確な判定ができません。
Aと記載されている方がA型インフルエンザウイルス抗原を検出する部分(以下Aホール)、Bと記載されている方がB型インフルエンザウイルス抗原を検出する部分(以下Bホール)です。
各操作では、試料及び試薬の滴数が数えられるように1滴ずつゆっくりと滴加してください。
滴加時メンブレンに試料濾過フィルターの先がふれないように注意してください。」

(引1-ウ)第3頁20行?下から9行
「Aホール、Bホールそれぞれに試料を5滴ずつ気泡を入れないように滴加し、メンブレン上に液がなくなるまで常温(15?25℃)に静置します。約20秒かかります。ただし、円形のスポット側に気泡が生じた場合は、デバイスに軽く振動を与え液を吸収させてください。また、1分間以上経過してもメンブレン上に液が残る場合は、残りの試料を更に検体浮遊液で2?4倍に希釈してから使用してください。また試料中に固形状の異物や血液が混入した場合、これらをろ過又は遠心除去してから使用してください。メンブレン上に液がなくなってから1分間以内に<ステップ1>の操作を行ってください。
3.測定方法
<ステップ1>
Aホールに酵素標識抗体A型を、Bホールに酵素標識抗体B型をそれぞれ5滴ずつ気泡を入れないように滴加し、メンブレン上に液がなくなるまで常温(15?25℃)に静置します(約3分間かかります)。
<ステップ2>
「○1」Aホール及びBホールのアダプターを取り外します。この時、混合液が飛散しないよう横にひねって緩やかに取り外してください。
「○2」Aホール、Bホールそれぞれに洗浄液を5滴滴加し、メンブレン上に液がなくなるまで常温(15?25℃)に静置します(約10秒間かかります)。
<ステップ3>
Aホール、Bホールそれぞれに基質液を5滴滴加し、常温(15?25℃)に10分間静置します。反応時間は10分間±30秒で行ってください。
反応時間が短い場合は所定の感度が得られません。反応時間が長い場合は偽陽性反応が認められることがあります。
<ステップ4>
「○1」Aホール、Bホールそれぞれに反応停止液を5滴滴加し、メンブレン上に液がなくなるまで常温(15?25℃)に静置します(約10秒間かかります)。
「○2」反応停止後、4時間以内に目視で判定してください。判定は必ず真上から行ってください。また反応停止が4時間を越える、メンブレン全体が灰色に着色し、菱形が見にくくなり正しい判定が困難になります。」

(引1-エ)第4頁下から26ないし下から18行
「【本測定法の限界】
本法はEIA法により迅速にA型インフルエンザウイルス抗原又はB型インフルエンザウイルス抗原を検出するための簡便法であるため、検出感度以下のA型インフルエンザウイルス抗原又はB型インフルエンザウイルス抗原に対して陰性と判定されます。
検体の種類及び医師の検体採取の方法によっても結果が異なる場合があります。また、検体により使用メンブレンへの物理的に吸着しやすい物質が存在する場合、偽陽性となりうることも考えられます。したがって、本品の結果のみではなく、臨床症状、他の検査方法(ウイルス分離培養やRT-PCR、ペア血清が採取できる場合は抗体価の変動等)の結果等と合わせて、総合的な臨床診断を行ってください。」

(引1-オ)第5頁7?末行
「【相関性】
1.咽頭拭い液
本品と同様な測定方法の体外診断用医薬品である比較対照品との相関性を咽頭拭い液を検体とし、64検体を試験して比較した結果、以下のような良好な成績が得られました。

本品及び比較対照品ともに陽性の26例のうち、
10例は本品においてA型インフルエンザウイルス抗原及びB型インフルエンザウイルス抗原が陽性、
8例はA型インフルエンザウイルス抗原が陽性、
8例はB型インフルエンザウイルス抗原が陽性となりました。
2.鼻腔拭い液
本品と同様な測定方法の体外診断用医薬品である比較対照品との相関性を、鼻腔拭い液を検体とし、64検体を試験して比較した結果、以下のような良好な成績が得られました。

本品で陰性であり、比較対照品で陽性と判定された4例からはインフルエンザウイルスは分離されませんでした。
本品及び比較対照品ともに陽性の26例のうち、
10例は本品においてA型インフルエンザウイルス抗原及びB型インフルエンザウイルス抗原が陽性、
8例はA型インフルエンザウイルス抗原が陽性、
8例はB型インフルエンザウイルス抗原が陽性となりました。
3.鼻腔吸引液
本品と同様な測定方法の体外診断用医薬品である比較対照品との相関性を鼻腔吸引液を検体とし、113検体を試験して比較した結果、以下のような良好な成績が得られました。

本品で陰性、比較対照品で陽性の4例のうち、インフルエンザウイルスが分離された検体は3例、分離されなかった検体は1例でした。
本品で陽性、比較対照品で陰性と判定された9例からは全てインフルエンザウイルスが分離されました。
本品、比較対照品共に陽性と判定された36例のうち
20例はA型インフルエンザウイルス抗原陽性、
16例は本品でB型インフルエンザウイルス抗原陽性でした。
本品で陽性、比較対照品で陰性と判定された9例のうち
7例が本品でA型インフルエンザウイルス抗原陽性、
1例が本品でB型インフルエンザウイルス抗原陽性、
1例がA型インフルエンザウイルス抗原及びB型インフルエンザウイルス抗原陽性でした。」

2 引用文献1に記載された発明

上記(引1-ア)ないし(引1-オ)の記載から、引用文献1には、

「 EIA法によるA型又はB型インフルエンザウイルス抗原検出用キットであって、
抗体固相デバイス(20パック)、検体浮遊液(1mL 20本)、陰性コントロール(1.5mL 1本)、陽性コントロール(1.5mL 1本)、酵素標識抗体A型(4mL 1本)、酵素標識抗体B型(4mL 1本)、基質液(15mL 1本)、洗浄液(10mL 1本)及び反応停止液(15mL 1本)、並びに添付品として試料濾過フィルター(20個)及び滅菌綿棒(20本)を含み、
抗体固相デバイスは、抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)(10μg/デバイス)及び抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)(5μg/デバイス)をメンブレンに固相化したものであり、
検体中のA型インフルエンザウイルス抗原がメンブレン上の抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)と結合し、また、B型インフルエンザウイルス抗原が抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)と結合し、それぞれ複合物を形成し、
EIA法により迅速にA型インフルエンザウイルス抗原又はB型インフルエンザウイルス抗原を検出するための簡便法として、
(1)滅菌綿棒を口腔から咽頭にゆっくり挿入し、咽頭後壁、口蓋、扁桃を綿棒で数回こすり採取した咽頭拭い液、(2)滅菌綿棒を外鼻腔から鼻腔にゆっくり挿入し、鼻甲介を綿棒で数回こすり採取した鼻腔拭い液、又は、(3)吸引カテーテルの片方のチューブを吸引ポンプへ、もう片方のチューブを外鼻腔から鼻腔に挿入し、吸引ポンプで鼻腔吸引液を吸引トラップへ採取、これに綿棒を浸して10秒間吸引させた鼻腔吸引液を検体とし、
検体採取後直ちに検体浮遊液が入った容器中に綿棒を浸し、管壁に押しつけるよう10回以上撹拌後、綿棒の先から液を絞り出し、必ず試料濾過フィルターを取り付け、2分間以上静置して試料として用いるものであり、
試料濾過フィルターを使用しない場合は偽陽性の原因となる、
EIA法によるA型又はB型インフルエンザウイルス抗原検出用キット。」

の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。


第5 対比

1 本願発明と引用発明とを対比する。

(1)
ア 引用発明の「試料」は、「検体採取後直ちに検体浮遊液が入った容器中に綿棒を浸し、管壁に押しつけるよう10回以上撹拌後、綿棒の先から液を絞り出し、必ず試料濾過フィルターを取り付け、2分間以上静置し」たものであって、「検体」を含んでいるから、本願発明の「検体試料」に相当する。

イ 引用発明は「A型又はB型インフルエンザウイルス抗原検出用」であるから、引用発明の「A型又はB型インフルエンザウイルス抗原」は、本願発明の「被測定物」に相当する。

ウ 引用発明の「検出」は、本願発明の「存在を検査」に相当する。

エ 引用発明の「A型又はB型インフルエンザウイルス抗原検出用キット」は、「抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)(10μg/デバイス)及び抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)(5μg/デバイス)をメンブレンに固相化した」「抗体固相デバイス」を含み、「EIA法により迅速にA型インフルエンザウイルス抗原又はB型インフルエンザウイルス抗原を検出するための簡便法として」使用するものであるから、本願発明の「簡易メンブレンアッセイキット」に相当する。

オ 上記アないしエを踏まえると、引用発明の「EIA法によるA型又はB型インフルエンザウイルス抗原検出用キット」は、本願発明の「検体試料中の被測定物の存在を検査あるいは定量するための簡易メンブレンアッセイキット」に相当する。

(2)引用発明の「試料濾過フィルター」は、本願発明の「濾過フィルター」に相当する。

(3)
ア 引用発明の「抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)」及び「抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)」は、それぞれ「検体中のA型インフルエンザウイルス抗原」及び「B型インフルエンザウイルス抗原」「と結合し、それぞれ複合物を形成」するから、本願発明の「捕捉物質」に相当する。

イ 引用発明の「メンブレン」及び「抗体固相デバイス」は、それぞれ本願発明の「メンブレン」及び「アッセイ装置」に相当する。

ウ 上記ア及びイを踏まえると、引用発明の「抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)(10μg/デバイス)及び抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体(マウス)(5μg/デバイス)をメンブレンに固相化したものであ」る「抗体固相デバイス」は、本願発明の「被測定物を捕捉するための捕捉物質が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置」に相当する。

(4)
ア 引用発明は、「試料濾過フィルターを使用しない場合は偽陽性の原因となる」ものであるから、引用発明の「試料濾過フィルター」は、偽陽性の発生を減少させる機能を有しているといえる。

イ 上記(引1-エ)の「検体により使用メンブレンへの物理的に吸着しやすい物質が存在する場合、偽陽性となりうることも考えられます」との記載から、引用発明の「偽陽性」は、検体中の物質がメンブレンに物理的に吸着することにより生じるものといえる。
そして、ここでの「検体中の物質」と本願発明の「検体試料中の生体成分」とは、「検体試料中の成分」で共通し、「メンブレンに物理的に吸着すること」は、本願発明の「メンブレン上あるいはメンブレン中に付着すること」に相当する。

ウ 上記ア及びイを踏まえると、引用発明の「試料濾過フィルターを使用しない場合は偽陽性の原因となる」ことと、本願発明の「前記濾過フィルターが検体試料中の生体成分がメンブレン上あるいはメンブレン中に付着することを原因とする偽陽性を防ぐこと」とは、「前記濾過フィルターが検体試料中の成分がメンブレン上あるいはメンブレン中に付着することを原因とする偽陽性を防ぐこと」で共通する。

2 そうすると、本願発明と引用発明とは、

「 以下を含む、検体試料中の被測定物の存在を検査あるいは定量するための簡易メンブレンアッセイキット;
(1)濾過フィルター、及び
(2)被測定物を捕捉するための捕捉物質が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置、
であって、前記濾過フィルターが検体試料中の成分がメンブレン上あるいはメンブレン中に付着することを原因とする偽陽性を防ぐ、上記アッセイキット。」

の発明である点で一致し、次の点において一応相違する。

(相違点1)
「前記濾過フィルターが検体試料中の成分がメンブレン上あるいはメンブレン中に付着することを原因とする偽陽性を防ぐ」ところの「検体試料中の成分」が、本願発明においては、「生体成分」に特定されているのに対し、引用発明においては、「生体成分」に特定されていない点。


第6 判断

1 上記相違点1について検討する。

(1)上記(引1-イ)の「試料中に固形状の異物(ゴミ及び脱落細胞成分等)や血液が混入した場合、これらをろ過又は遠心除去してから使用してください」との記載から、試料中に、ゴミ、脱落細胞成分及び血液が混入するおそれがあること、ろ過により試料中に混入したゴミ、脱落細胞成分及び血液を除去し得ることが読み取れる。

(2)また、上記(引1-エ)の「検体により使用メンブレンへの物理的に吸着しやすい物質が存在する場合、偽陽性となりうることも考えられます」との記載から、試料中に混入したゴミ、脱落細胞成分及び血液がメンブレンに吸着することにより偽陽性が発生し得るといえる。

(3)してみると、「試料濾過フィルターを使用しない場合は偽陽性の原因となる」ところの引用発明の「試料濾過フィルター」は、試料中に混入したゴミ、脱落細胞成分及び血液を除去し得るものであり、試料中に混入したゴミ、脱落細胞成分及び血液を除去することにより偽陽性の発生を減少させるものであると解するのが相当である。
そして、「脱落細胞成分及び血液」は、本願発明の「生体成分」に含まれる。

(4)したがって、上記相違点1は実質的な相違点ではない。
よって、本願発明は引用発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当する。

2 加えて、上記相違点1が実質的な相違点ではないといえないとしても、以下のとおり、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1)上記1(2)で指摘したとおり、試料中に混入した脱落細胞成分及び血液がメンブレンに吸着することにより偽陽性が発生し得るといえる。

(2)上記(引1-エ)の「検体により使用メンブレンへの物理的に吸着しやすい物質が存在する場合、偽陽性となりうることも考えられます」との記載は、試料に含まれる「メンブレンへの物理的に吸着しやすい物質」を除去することを動機付けるものである。

(3)上記(引1-イ)の「試料中に固形状の異物(ゴミ及び脱落細胞成分等)や血液が混入した場合、これらをろ過又は遠心除去してから使用してください」との記載は、「試料濾過フィルター」により脱落細胞成分及び血液を除去することを動機付けるものである。

(4)してみると、引用発明の「試料濾過フィルター」を試料中に混入した脱落細胞成分及び血液を除去し得るものとし、それにより偽陽性の発生を減少させ、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

(5)そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用文献1の記載事項から当業者が予測し得る程度を超えるものではない。

(6)したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献1の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第7 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法29条1項第3号に該当し特許を受けることができない。
又は、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-07-20 
結審通知日 2020-07-27 
審決日 2020-08-07 
出願番号 特願2017-7522(P2017-7522)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 草川 貴史  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 渡戸 正義
▲高▼見 重雄
発明の名称 簡易メンブレンアッセイ法及びキット  
代理人 服部 博信  
代理人 山崎 一夫  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 市川 さつき  
代理人 須田 洋之  

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