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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1366660
審判番号 不服2020-1006  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-24 
確定日 2020-10-13 
事件の表示 特願2017-201825「低K及びその他の誘電体膜をエッチングするための処理チャンバ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月29日出願公開、特開2018- 50055、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)10月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年(平成23年)10月27日、2012年(平成24年)10月12日、米国)を国際出願日とする特願2014-538839号(以下「原出願」という。)の一部を2017年(平成29年)10月18日に新たな特許出願(特願2017-201825号)としたものであり、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成29年10月18日 :上申書の提出
平成30年10月29日付け:拒絶理由通知書(起案日)
令和 元年 5月 7日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 9月17日付け:拒絶査定(起案日)(以下「原査定」という。)
令和 2年 1月24日 :審判請求書

第2 原査定の概要
原査定(令和 元年 9月17日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-5、7-9に係る発明は、以下の引用文献1-5に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2006-24730号公報
2.特表2010-512031号公報(周知技術を示す文献)
3.特開平3-129821号公報(周知技術を示す文献)
4.特表2011-525299号公報(周知技術を示す文献)
5.特表2003-503848号公報

第3 本願発明
本願請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、令和 元年 5月 7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
誘電体膜をエッチングする方法であって、
ワークピースをエッチングチャンバ内にロードする工程と、
第1チャンバ領域内で励起された第1ソースガスの容量結合プラズマからの非反応性イオンのエネルギー束をワークピースに衝突させることによってワークピース上に配置された誘電体膜の上部厚さを改質する工程であって、第1チャンバ領域は、ワークピースを支持するチャックとシャワーヘッドとの間にある工程と、
第2チャンバ領域内で励起された第2ソースガスのプラズマによって生成された反応種にワークピースを曝露させることによって、上部厚さの下に配置された誘電体膜全域にわたって誘電体膜の改質された上部厚さを選択的にエッチングする工程であって、第2チャンバ領域は、チャックと対向する前記シャワーヘッドの上方に配置されている工程と、
エッチングプロセスの終了基準を満たすまで改質とエッチングの両方を周期的に繰り返す工程と、
ワークピースをエッチングチャンバからアンロードする工程とを含む方法。」

なお、本願発明2-9の概要は以下のとおりである。

本願発明2-9は、本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付加したもの。以下同じ。)

「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
先ず、各実施形態の説明に先立ち、以下の実施形態において用いられるプラズマ処理装置の一例を図1に基づいて説明する。
【0017】
この図に示すプラズマ処理装置1は、平行平板型のプラズマ処理装置であり、真空チャンバ2を備えている。そして、真空チャンバ2内には、基板ステージを兼ねた下部電極3と、下部電極3上に対向配置された上部電極4とを備えている。そして、下部電極3と上部電極4とには、それぞれに連動させて高周波バイアスが印加される構成となっている。そして、上部電極4に印加する高周波バイアスにより、被処理物となる基板Sが載置された下部電極3と、これに対向配置された上部電極4との間にプラズマを発生させる。また、下部電極3から基板Wに印加される高周波バイアス(いわゆる基板バイアス)により、プラズマ中のイオンに運動エネルギーを与え、基板Wに対して略垂直方向からイオンを入射させる構成となっている。
【0018】
尚、以下の各実施形態においては、上述したように真空チャンバを備えると共に基板バイアスを印加できるプラズマ処理装置であれば、図1に示される平行平板型のプラズマ処理装置に限定されずに用いることができる。
【0019】
以下、本発明の半導体装置の製造方法に関する各実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
<第1実施形態>
図2は、第1実施形態の製造方法を説明するための断面工程図である。この第1実施形態においては、埋め込み配線の形成プロセスにおいて低誘電率膜であるSiOCH系絶縁膜に配線溝を形成する工程に本発明を適用した実施形態を説明する。
【0021】
先ず、図2(1)に示すように、半導体素子や下層埋め込み配線等(図示省略)が形成された基板11上に、SiOCH系絶縁膜を被エッチング膜13として成膜する。このSiOCH系絶縁膜は、例えばSiO_(2)膜にメチル基(CH_(3))を導入してなるいわゆるMSQ(メチルシルセスキオキサン)からなり、ここでは、100nmの膜厚でSiOCH系絶縁膜からなる被エッチング膜13を形成することとする。
【0022】
そして、この被エッチング膜13の上部に、窒化シリコン(SiN)または炭化シリコン(SiC)からなるマスクパターン15を形成する。このマスクパターン15の形成は、被エッチング膜13上に形成した無機材料膜を、レジストパターン(図示省略)をマスクにしてエッチングすることにより形成される。
【0023】
次に、図2(2)に示すように、マスクパターン15上からのプラズマ処理により被エッチング膜13の露出部を改質する前処理を行い、被エッチング膜13に未改質部13aを残すと共に、一部をSiO_(2)化させた改質部13bを形成する。このプラズマ処理においては、マスクパターン15から露出している被エッチング膜13部分のCH_(3)基を除去しSiO_(2)化を進めることのできる処理ガス系として、CH_(3)基との反応性の高い酸素ガス(O_(2))、水素ガス(H_(2))、窒素ガス(N_(2))が用いられる。
【0024】
また、このプラズマ処理においては、図1に示したプラズマ処理装置を用いて基板Wにバイアスを印加することで、基板W対して略垂直方向からプラズマ中のイオンを入射させる。これにより、異方性を有するプラズマ処理が行われると共に、ある程度の深さに達するようにプラズマ処理が行われる。また、このプラズマ処理においては、イオンの散乱を減らして基板Wに対するイオン入射の方向性を得るために、減圧雰囲気下においてのプラズマ処理をおこなう。さらに、基板11に達する深さにまでプラズマ中のイオンを到達させて改質を進めるために、処理ガス中にアルゴン(Ar)等の希ガスを添加する。特に、酸素ガス(O_(2))を用いた場合には、酸素ガス(O_(2))の拡散性が強いため、アルゴン(Ar)等の希ガスで希釈することで異方性(入射の方向性)を確保することが好ましい。
【0025】
また、この前処理においては、マスクパターン15の開口部から基板11にまで異方的に前処理が進んで改質部13bが形成されるように、基板バイアスや処理時間などのプラズマ処理条件を設定する。
【0026】
以下に、このようなプラズマ処理条件として、酸素ガス(O_(2))を用いた場合の一例を示す。
処理ガスおよび流量 :O_(2)/Ar=20/200sccm、
上部電極 :60MHz/1000W、
下部電極(基板バイアス): 2MHz/1000W、
処理雰囲気内圧力 :50mTorr(6.65Pa)、
処理時間 :30秒、
尚、sccmはstandard cubic centimeter/minutes。
【0027】
以上により、SiOCH系絶縁膜からなる被エッチング膜13に、酸化されていない未改質部13aと、酸化によりSiO_(2)化させた改質部13bとを形成する。尚、被エッチング膜13の膜厚が極薄膜である場合や、次に形成する配線溝の異方性形状を確保する必要のない場合には、基板バイアスを印加せずにプラズマ処理を行っても良い。
【0028】
以上の後、図2(3)に示すように、未改質部13aに対して選択性を有するエッチング条件によって、改質部13bを選択的にエッチング除去する。このエッチングにおいては、SiOCH系材料からなる未改質部13aとSiN等からなるマスクパターン15に対して選択性の高い条件で、SiO_(2)化した改質部13aが除去される条件が設定される。
【0029】
ここではプラズマドライエッチングを行うこととし、以下にエッチング条件の一例を示す。
処理ガスおよび流量:C_(5)F_(8)/Ar/O_(2)=15/300/15sccm、
上部電極 :1000W、
下部電極 :1000W、
処理雰囲気内圧力 :50mTorr(6.65Pa)。
【0030】
以上のエッチング条件は、改質部13bを構成するSiO_(2)のエッチングに適した条件であり、マスクパターン15を構成するSiNまたはSiCに対する選択比が高く、未改質部13aを構成するSiCOH系材料をほとんどエッチングしない条件である。そして、このようなエッチングにより、改質部13bのみを選択的にエッチング除去してなる配線溝17を形成する。
【0031】
以上のようにして被エッチング膜13に配線溝17を形成した後には、ここでの図示は省略したが、通常のプロセスにしたがってCu等の金属を配線溝17内に埋め込んでなる埋め込み配線を形成する。
【0032】
以上説明した第1実施形態の製造方法によれば、図2(2)を用いて説明したように、SiOCH系絶縁膜からなる被エッチング膜13上にマスクパターン15を設けた状態で、前処理としてプラズマ処理を行っている。そしてこのプラズマ処理により、被エッチング膜13内におけるマスクパターン15の開口部に対応する部分に、SiOCH系絶縁膜をSiO_(2)化された改質部13bを形成している。この状態で、次の工程では、図2(3)を用いて説明したように、SiO_(2)化された改質部13bを選択的にエッチング除去するため、この被エッチング膜13には、前処理(プラズマ処理)で形成された改質部13bに対応する形状の配線溝17が形成されることになる。
【0033】
ここで、図2(2)を用いて説明したプラズマ処理においては、上述したように異方性を保ってプラズマ処理が行われるように当該プラズマ処理の条件を設定している。このため、改質部13bは、マスクパターン15の開口部下に異方性形状を保って形成される。そして、図2(3)を用いて説明した改質部13bのエッチングにおいては、マスクパターン15を構成するSiNに対する選択比が高く、未改質部13aを構成するSiCOH系材料をほとんどエッチングさせない条件でのエッチングが行われている。このため、このエッチングにより、被エッチング膜13には、異方性形状の良好な配線溝17が形成されることになる。
【0034】
そして、このようなSiO_(2)化された改質部13bのエッチングにおいては、被エッチング膜13上にポリマーを形成する必要はない。このため、技術背景で説明したようなSiOCH系絶縁膜のエッチングと比較してエッチング条件の設定が容易になり、各パラメータ変動に対するマージンが拡大し、再現性も向上する。
【0035】
つまり、以上の製造方法では、マスクパターン15を構成するSiNに対する選択比が高く、未改質部13aを構成するSiCOH系材料をほとんどエッチングさせない条件であれば、形状精度良好な改質部13bのみを選択性良好にエッチング除去して、形状精度良好な配線溝17を形成することが可能になるのである。しかも、マスクパターン15を残す必要がない場合には、未改質部13aに対してのみ選択性良好に改質部13bをエッチングできる条件を設定しても良いことになる。
【0036】
したがって、形状精度の高いパターン加工をシビアなエッチング条件の設定を必要とせずに容易に行うことが可能になり、形状精度の高いパターン加工を容易に行うことができる。そしてこの結果、さらに素子構造が微細した半導体装置を作製することが可能になる。
【0037】
しかも、上述したように、SiO_(2)化された改質部13bのエッチングにおいては、被エッチング膜13上にポリマーを形成する必要はない。このため、パターンの疎密に依存せずに、面内均一な形状精度を保った配線溝17を得ることができる。さらに、従来の無機マスク上からのSiOCH系絶縁膜のエッチングと比較して、エッチング速度も50%程度速くなる。
【0038】
尚、図2(2)を用いて説明したように、前処理として行うプラズマ処理に用いる処理ガスとして、窒素ガス(N_(2))や水素ガス(H_(2))を用いた場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0039】
また、以上の実施形態においては、SiOCH系絶縁膜からなる被エッチング膜13の一部を改質するための前処理としてプラズマ処理を行う場合を例示した。しかしながらこの前処理は、紫外線(UV)や電子ビーム(EB)等のエネルギーの高い電磁波を照射する処理を行っても良く、これによっても被エッチング膜13を構成するSiOCH系絶縁膜からCH3基を除去しSiO_(2)化を進めることが可能である。
【0040】
さらに、以上の第1実施形態においては、SiO_(2)化した改質部13bのエッチング除去を、プラズマドライエッチングによって行う場合を例示した。しかしながら、このエッチング除去の工程は、ウェットエッチングであっても良い。この場合、希フッ酸を用いたウェットエッチングを行うことにより、さらに選択性に優れたエッチング除去を行うことが可能である。」

「【0045】
そこで、次の図3(4)に示すように、再度のプラズマ処理を行うことにより、溝パターン17aの底部から基板11にまで達するようにSiO_(2)化させた改質部13bを形成する。このプラズマ処理は、図3(2)と同様に行う。
【0046】
その後、図3(5)に示すように、再度、SiO_(2)化された改質部13bを選択的にエッチング除去する工程を行い、これにより溝パターン17aの底部を掘り下げて基板11に達する配線溝17を形成する。このエッチングは、図3(3)を用いて説明したと同様に行われる。
【0047】
尚、以上の図3(2)に示すプラズマ処理による改質部13bの形成と、図3(3)に示す改質部13bの選択的なエッチング除去との連続した工程は、さらに3回以上繰り返し行うことにより、溝パターン17aの底部を順次掘り下げて所定深さに達する配線溝17を形成しても良い。」

(2)したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「SiOCH系絶縁膜に配線溝を形成する工程であって、
プラズマ処理装置1を用い、プラズマ処理装置1は、真空チャンバ2を備え、真空チャンバ2内には、基板ステージを兼ねた下部電極3と、下部電極3上に対向配置された上部電極4とを備え、被処理物となる基板が載置され、
SiOCH系絶縁膜を被エッチング膜13として成膜し、マスクパターン15上からのプラズマ処理により被エッチング膜13の露出部を改質する前処理を行い、被エッチング膜13に未改質部13aを残すと共に、一部をSiO_(2)化させた改質部13bを形成し、このプラズマ処理においては、マスクパターン15から露出している被エッチング膜13部分のCH_(3)基を除去しSiO_(2)化を進めることのできる処理ガス系として、CH_(3)基との反応性の高い酸素ガス(O_(2))、水素ガス(H_(2))、窒素ガス(N_(2))を用い、
未改質部13aに対して選択性を有するエッチング条件(処理ガスおよび流量:C_(5)F_(8)/Ar/O_(2)=15/300/15sccm)によって、プラズマドライエッチングを行い、改質部13bを選択的にエッチング除去し、
プラズマ処理による改質部13bの形成と、改質部13bの選択的なエッチング除去との連続した工程は、さらに3回以上繰り返し行うことにより、溝パターン17aの底部を順次掘り下げて所定深さに達する配線溝17を形成する、工程。」

2.引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【詳細な説明】
【0010】
[0019]図1は、ワークピース支持ペデスタル25に支持されたワークピース20を処理するためのプラズマリアクタチャンバ15内のその場の(in-situ)電極/ガス分配プレート10の概念図である。RFプラズマソース電力印加装置が設けられ、これは、チャンバ天井30(電極として働く)でもよいし、又は天井30の上に横たわるコイルアンテナ35でもよい。電極/プレート10より上のチャンバ15の上部領域15aにプラズマ37が形成される。その場の電極/ガス分配プレート10は、図3A、3B、3C又は3Dに示すパターンの1つに基づく通路72を有し、これは、チャンバ15の上部チャンバ領域15aから下部領域15bへプラズマが通過できるようにする。これは、下部領域15bに、より少ないプラズマ(低密度プラズマ)40を形成できるようにする。その場の電極/ガス分配プレート10は、誘電体材料で形成され、導電層44(図1の破線)を内部に形成することができる。この導電層44は、RF電源80のような電位に(インピーダンス整合部82を経て)接続されてもよいし、又は接地されてもよい。接地される場合に、その場の電極10(特に、導電層44)は、ペデスタル25に印加されるRFバイアス電力のための接地基準を与えることができる。それとは別に(又はそれに加えて)、導電層44に印加されるVHF電力は、下部チャンバ領域15bにおけるプラズマイオン発生を促進することができる。」

(2)したがって、上記引用文献2には、プラズマリアクタチャンバ15内において、電極/プレート10より上のチャンバ15の上部領域15aにプラズマ37が形成され、下部領域15bに、より少ないプラズマ(低密度プラズマ)40を形成でき、電極/ガス分配プレート10の通路72を介して、チャンバ15の上部チャンバ領域15aから下部領域15bへプラズマが通過できるという技術的事項が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「〔実施例〕
以上、本発明について実施例に基づき詳細に説明する。
第1図は本発明に於いて使用したエッチング装置であり、平行に置かれた電極(101,102)の間に補助電極(103)が設けられており、ガス導入口(104,105)が下部電極と補助電極の間及び上部電極と補助電極の間にそれぞれ設けられている。
このエッチング装置を用い多結晶シリコンをエッチングする場合、ガス導入口(104)にSF6をガス導入口(105)にCCl4を導入し、交互にプラズマをたててエッチングを行なう。この場合、上部電極と補助電極の間でプラズマを発生させる場合にはプラズマエッチングモード(以下、PEモードと呼ぶ)となり、下部電極と補助電極の間でプラズマを発生させる場合には反応性イオンエッチングモード(以下、RIEモードと呼ぶ)となる。これでCCl4のようなデポジションガスをPEモードでプラズマ発生を行ないデポジションを堆積させ、SF6のようなエッチングガスをRIEモードでプラズマ発生を行ないエッチングを行なう。このときエッチングをRIEモードで行なうのは異方性エッチングを行なうためであり、デポジションガスとエッチングガスを逆に導入すると良好なエッチングが行なわれない。」(第2頁右上欄第5行-左下欄第10行)

(2)したがって、上記引用文献3には、エッチング装置を用い多結晶シリコンをエッチングする場合、上部電極と補助電極の間でプラズマと、下部電極と補助電極の間でプラズマとを交互にプラズマをたててエッチングを行なうという技術的事項が記載されていると認められる。

4.引用文献4について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0020】
図2は、複数種のガス前駆体間の分離を維持する仕切られたプラズマ生成領域を備えたプロセスチャンバの斜視図である。酸素、水素、および/または窒素(例えば酸素(O_(2))、オゾン(O_(3))、N_(2)O、NO、NO_(2)、NH_(3)、N_(2)H_(4)を含むN_(x)H_(y)、シラン、ジシラン、TSA、DSAなど)を含有するプロセスガスを、ガス入口組立体225を通じて第1のプラズマ領域215に導入することができる。第1のプラズマ領域215は、プロセスガスから形成されたプラズマを含むことができる。プロセスガスは、第1のプラズマ領域215に入る前に、遠隔プラズマシステム(RPS)220内で励起させることもできる。第1のプラズマ領域215の下方にシャワーヘッド210があり、シャワーヘッド210は、第1のプラズマ領域215と第2のプラズマ領域242の間にある有孔仕切り(本明細書ではシャワーヘッドと呼ぶ)である。諸実施形態では、第1のプラズマ領域215内のプラズマは、AC電力、おそらくはRF電力を、導電性とすることもできる蓋204とシャワーヘッド210の間に印加することによって形成される。」

「【0026】
上記の説明では、第1のプラズマ領域215および第2のプラズマ領域242内のプラズマは、RF電力を平行板間に印加することによって形成されている。一代替実施形態では、どちらか一方または両方のプラズマを誘導的に形成することができ、その場合、2枚の板は導電性とすることはできない。領域を取り囲む処理チャンバの2枚の電気絶縁板および/または電気絶縁壁部に導電コイルを埋め込むことができる。プラズマが容量結合型(CCP)か、それとも誘導結合型(ICP)かに関わらず、チャンバのプラズマに曝される部分は、その部分内の冷却流体流路に水を流すことによって冷却することができる。開示する実施形態では、シャワーヘッド210、蓋204、および壁部205が水冷される。誘導結合プラズマが使用される場合、第1のプラズマ領域および第2のプラズマ領域内のプラズマを同時に用いてチャンバを(より容易に)運転することができる。この能力は、チャンバクリーニングを促進するのに有用となり得る。」

(2)したがって、上記引用文献4には、プロセスチャンバは、第1のプラズマ領域215、第2のプラズマ領域242、第1のプラズマ領域215と第2のプラズマ領域242の間にあるシャワーヘッド210を有し、第1のプラズマ領域215及び第2のプラズマ領域242のどちらか一方または両方のプラズマを誘導的に形成するという技術的事項が記載されていると認められる。

5.引用文献5について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0016】
酸化ケイ素層34をエッチングした後、パッシベーションガスおよび酸化性ガスの混合ガスがプラズマに生成され、酸化ケイ素層34内の開口を通じて有機絶縁層32を異方性エッチングする。図2Cは、酸素含有プラズマに添加されたパッシベーションガスを用いて低誘電率有機絶縁層32をエッチングした後の集積回路構造35を示す図である。パッシベーションガスは、水素化ケイ素(モノシラン)SiH_(4)、四フッ化ケイ素SiF_(4)、または四塩化ケイ素SiCl_(4)のようなケイ素含有ガス、または三塩化ホウ素BCl_(3)のようなホウ素含有ガスの何れであってもよい。
【0017】
より詳しくは、パッシベーションガスおよび酸化性ガスを含むプラズマが、低誘電率有機絶縁層32内のビアをエッチングするために使用される。パッシベーションガスは、酸素原子または酸素分子と反応し、このプロセス中に不揮発性パッシベーション膜38を形成する。パッシベーション膜38の種類は、使用されるパッシベーションガスの種類によって決定され、例えば、ケイ素含有ガスは酸化ケイ素SiO_(2)パッシベーション膜となるのに対して、ホウ素含有ガスは酸化ホウ素B_(2)O_(2)パッシベーション膜となる。ビア39が低誘電率有機絶縁層32内に形成されるとき、パッシベーション膜38はビア39の側壁に蒸着する。通常、プラズマからの酸素原子と有機絶縁層との間における自発的反応は、側壁40の断面にアンダーカットおよび湾曲をもたらす等方性エッチングを生じる。しかしながら、本発明の側壁パッシベーション膜38は、酸素原子と有機絶縁膜との間における自発的反応から生じる等方性エッチングを実質的に抑制する側壁保護を提供する。従って、本発明の側壁40の断面は、絶縁層の面に対して実質的に垂直である。」

(2)したがって、上記引用文献5には、パッシベーションガスおよび酸化性ガスを含むプラズマが、低誘電率有機絶縁層32内のビアをエッチングするために使用され、パッシベーションガスは、酸素原子または酸素分子と反応し、このプロセス中に側壁パッシベーション膜38を形成するという技術的事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明における「被エッチング膜13」は、「SiOCH系絶縁膜」であり、本願発明1における「誘電体膜」に相当する。
また、引用発明の「SiOCH系絶縁膜に配線溝を形成する工程」は、「被エッチング膜13」の「改質部13bを選択的にエッチング除去」するステップを含むものであり、本願発明1における「誘電体膜をエッチングする方法」に相当する。

イ 引用発明における「基板」、「真空チャンバ2」は、それぞれ、本願発明1における「ワークピース」、「エッチングチャンバ」に相当する。
また、引用発明では、「真空チャンバ2」内に、「被処理物となる基板が載置され」ており、当然「真空チャンバ2」から「基板」の取り外しも行われることから、本願発明1と引用発明とは、「ワークピースをエッチングチャンバ内にロードする工程」と「ワークピースをエッチングチャンバからアンロードする工程」とを含む点で一致する。

ウ 引用発明における「CH_(3)基との反応性の高い酸素ガス(O_(2))、水素ガス(H_(2))、窒素ガス(N_(2))」の「処理ガス」は、本願発明1の「第1ソースガス」に相当する。
また、引用発明の「被エッチング膜13の露出部を改質する前処理」は、引用文献1の段落【0017】及び【0026】の平行平板型のプラズマ処理装置におけるプラズマ処理条件より、容量結合方式によるプラズマ処理であり、本願発明1と引用発明とは、「エッチングチャンバ内で励起された第1ソースガスの容量結合プラズマによってワークピース上に配置された誘電体膜の上部厚さを改質する工程」を含む点で一致する。

エ 引用発明における「C_(5)F_(8)/Ar/O_(2)」の「処理ガス」は、本願発明1の「第2ソースガス」に相当する。
また、引用発明では、上記「処理ガス」を用いて、「プラズマドライエッチングを行い、改質部13bを選択的にエッチング除去する」ことから、「基板」がプラズマに曝されており、本願発明1と引用発明とは、「エッチングチャンバ内で励起された第2ソースガスのプラズマによって生成された反応種にワークピースを曝露させることによって、上部厚さの下に配置された誘電体膜全域にわたって誘電体膜の改質された上部厚さを選択的にエッチングする工程」を含む点で一致する。

オ 引用発明では、「プラズマ処理による改質部13bの形成と、改質部13bの選択的なエッチング除去との連続した工程は、さらに3回以上繰り返し行うことにより、溝パターン17aの底部を順次掘り下げて所定深さに達する配線溝17を形成しても良い」ことから、上記「連続した工程」を所定の回数繰り返しており、所定の回数が「終了基準」といえるため、本願発明1と引用発明とは、「エッチングプロセスの終了基準を満たすまで改質とエッチングの両方を周期的に繰り返す工程」を含む点で一致する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「誘電体膜をエッチングする方法であって、
ワークピースをエッチングチャンバ内にロードする工程と、
エッチングチャンバ内で励起された第1ソースガスの容量結合プラズマによってワークピース上に配置された誘電体膜の上部厚さを改質する工程と、
エッチングチャンバ内で励起された第2ソースガスのプラズマによって生成された反応種にワークピースを曝露させることによって、上部厚さの下に配置された誘電体膜全域にわたって誘電体膜の改質された上部厚さを選択的にエッチングする工程と、
エッチングプロセスの終了基準を満たすまで改質とエッチングの両方を周期的に繰り返す工程と、
ワークピースをエッチングチャンバからアンロードする工程とを含む方法。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1では、「改質する工程」において、「ワークピースを支持するチャックとシャワーヘッドとの間にある」「第1チャンバ領域内で励起された」「容量結合プラズマからの非反応性イオンのエネルギー束をワークピースに衝突させることによってワークピース上に配置された誘電体膜の上部厚さを改質する」のに対し、引用発明では、そのような特定はなされていない点。

(相違点2)本願発明1では、「選択的にエッチングする工程」において、「チャックと対向する前記シャワーヘッドの上方に配置されている」「第2チャンバ領域内で励起された」「プラズマ」を用いるのに対し、引用発明では、そのような特定はなされていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。

ア 引用文献1の段落【0023】には、「このプラズマ処理においては、マスクパターン15から露出している被エッチング膜13部分のCH_(3)基を除去しSiO_(2)化を進めることのできる処理ガス系として、CH_(3)基との反応性の高い酸素ガス(O_(2))、水素ガス(H_(2))、窒素ガス(N_(2))が用いられる。」と記載されているように、引用発明の「被エッチング膜13の露出部を改質する前処理」は、「被エッチング膜13部分のCH_(3)基」と「処理ガス」とを反応させて「被エッチング膜13の露出部」を改質しており、「非反応性イオンのエネルギー束」を衝突させることによって「露出部を改質する」ものではない。
また、引用文献1の段落【0024】には、「基板11に達する深さにまでプラズマ中のイオンを到達させて改質を進めるために、処理ガス中にアルゴン(Ar)等の希ガスを添加する。特に、酸素ガス(O_(2))を用いた場合には、酸素ガス(O_(2))の拡散性が強いため、アルゴン(Ar)等の希ガスで希釈することで異方性(入射の方向性)を確保することが好ましい。」と記載されており、「アルゴン」は「酸素ガス(O_(2))の拡散性」を弱め、「異方性(入射の方向性)を確保する」ために用いられており、「アルゴン」を衝突させることによって「露出部を改質する」ものではない。
このため、引用発明は、化学的な反応によって「露出部を改質する」ものであるから、「容量結合プラズマからの非反応性イオンのエネルギー束をワークピースに衝突させることによってワークピース上に配置された誘電体膜の上部厚さを改質する」ことは、引用発明において、設計的事項とはいえない。

イ 引用文献2-5には、上記のとおり、「容量結合プラズマからの非反応性イオンのエネルギー束をワークピースに衝突させることによってワークピース上に配置された誘電体膜の上部厚さを改質する」ことに対応する技術は記載されていない。
また、引用文献2-4より、プラズマ装置において、プラズマが生成される領域を複数有するとともに、シャワーヘッドの上下にそれぞれチャンバ領域を有するものは周知であったとしても、引用発明の「被エッチング膜13の露出部を改質する前処理」及び「改質部13bの選択的なエッチング除去」におけるプラズマ処理条件は、同じ「1000W」、「50mTorr」であることから、引用発明において、「被エッチング膜13の露出部を改質する前処理」におけるプラズマ処理を、「改質部13bの選択的なエッチング除去」におけるプラズマ処理よりも「基板」に近いチャンバ領域で行う動機付けはないというべきである。

ウ したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-9について
本願発明2-9も、本願発明1の「ワークピースを支持するチャックとシャワーヘッドとの間にある」「第1チャンバ領域内で励起された第1ソースガスの容量結合プラズマからの非反応性イオンのエネルギー束をワークピースに衝突させることによってワークピース上に配置された誘電体膜の上部厚さを改質する工程」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-9は、当業者が引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-09-23 
出願番号 特願2017-201825(P2017-201825)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 聡一郎  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 脇水 佳弘
小川 将之
発明の名称 低K及びその他の誘電体膜をエッチングするための処理チャンバ  
代理人 安齋 嘉章  

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