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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12G
管理番号 1366836
審判番号 不服2019-4018  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-27 
確定日 2020-10-07 
事件の表示 特願2015- 57113「希釈用起泡性飲料」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月 6日出願公開、特開2016-174571〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年 3月20日の出願であって、その後の経緯は以下のとおりである。
平成30年 8月 3日付け 拒絶理由通知
平成30年 9月13日 意見書及び手続補正書の提出
平成31年 1月 8日付け 拒絶査定
平成31年 3月27日 審判請求書の提出
令和 2年 5月18日付け 拒絶理由通知
令和 2年 6月 9日 意見書及び手続補正書の提出

第2 令和2年5月18日付けで通知した拒絶理由の概要
令和2年5月18日付け拒絶理由通知には、理由1及び理由2が示されており、そのうち理由1は以下のとおりのものである。
「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
……

・理由1(明確性要件違反)
・請求項 1?7
請求項1?7に係る発明は、「希釈用起泡性飲料原料液中の起泡剤の濃度が、希釈後の起泡性飲料に対して、0.005?0.4w/v%となるように調整され」たものであることを発明特定事項としているが、「希釈用起泡性飲料原料液」を希釈して「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率については発明特定事項とされていない。
発明の詳細な説明には、希釈液について「本発明の希釈用起泡性飲料は、飲用時に希釈液で、希釈、起泡させて、起泡性飲料として、飲用に供することができる。希釈液の選定は任意である……。」(段落【0029】)との記載があるものの、希釈倍率についての記載は見当たらない。

一般に、希釈用飲料原料液の希釈倍率は、希釈後の飲料の飲用者または提供者がその嗜好によって任意に定めるものであると認められるし、発明の詳細な説明に記載された表1(段落【0036】)及び表2(段落【0039】)に示された起泡剤のアルギン酸プロピレングリコールの希釈後飲料中濃度と希釈用起泡性飲料中濃度から希釈倍率を推計するとさまざまな値になる(実施例1-1では希釈後飲料中濃度が希釈用起泡性飲料中濃度よりも高濃度である)ことからも、請求項1?7に係る発明における「希釈用起泡性飲料原料液」を「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率は、当業者にとって明らかなものとはいえない。
請求項1?7に係る「容器詰希釈用起泡性飲料」の発明の範囲は、希釈倍率によって変動する(希釈倍率によって、発明の範囲に入る/入らないが変動する)ものであって、当該希釈倍率が当業者にとって明らかなものとはいえない以上、請求項1?7に係る発明の範囲は当業者にとって明確でない。
よって、請求項1?7に係る発明は明確でない。」

第3 当審の判断
1 明確性要件の判断の前提
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。その趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにあると解される。
そして、特許を受けようとする発明が明確か否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面(本願の場合は、図面がないので、明細書の記載)を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきとされる。

2 検討
(1)特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲の記載は、令和2年6月9日提出の手続補正書により補正された、以下のとおりの記載である。
「 【請求項1】
起泡性飲料原料に、起泡剤を含有させ、飲用時に希釈、起泡させて飲用する希釈用起泡性飲料において、希釈用起泡性飲料原料液に、アルコールを含有させ、更に、分岐鎖を有する多糖類を含有させ、希釈用起泡性飲料原料液中の起泡剤の濃度が、希釈後の起泡性飲料に対して、0.005?0.4w/v%となるように調整され、希釈用起泡性飲料原料液中のアルコール濃度が15?50v/v%であるように調整されていることを特徴とする、希釈用起泡性飲料製造時の泡立ち抑制と飲用時の良好な泡立ちを両立させた容器詰希釈用起泡性飲料。
【請求項2】
起泡性飲料原料に含有させる起泡剤が、アルギン酸プロピレングリコールであることを特徴とする、請求項1に記載の容器詰希釈用起泡性飲料。
【請求項3】
分岐鎖を有する多糖類が、分岐鎖を有するオリゴ糖であることを特徴とする請求項1又は2に記載の容器詰希釈用起泡性飲料。
【請求項4】
起泡性飲料原料が、ビールティスト飲料用の飲料原料であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の容器詰希釈用起泡性飲料。
【請求項5】
ビールティスト飲料用の起泡性飲料原料が、アルコール、起泡剤、酸味料、苦味料、及び香料を含有することを特徴とする請求項4に記載の容器詰希釈用起泡性飲料。
【請求項6】
希釈用起泡性飲料が、飲用時に炭酸水で希釈して飲用に供するためのものであることを特徴とする請求項1?5に記載の容器詰希釈用起泡性飲料。」
なお、この請求項1?請求項6に係る発明を以下、請求項順に、「本願発明1」?「本願発明6」ともいい、まとめて「本願発明」ともいう。

(2)願書に添付した明細書の記載
願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)には、以下の記載がある。
記載事項ア
「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、飲用時に希釈、起泡させて飲用する容器詰希釈用起泡性飲料を提供すること、特に、ビールティスト飲料のような起泡性飲料の原料に起泡剤を含有させ、飲用時に希釈、起泡させて飲用する容器詰希釈用起泡性飲料において、起泡剤を含んでいるにも関わらず、容器詰飲料製造時の容器充填の際も、過剰な泡立ちが生じず、また、飲用時に炭酸水或いは水などの希釈液で希釈する際にも、良好な泡立ちを確保することができ、希釈用起泡性飲料製造時の泡立ち抑制と飲用時の良好な泡立ちを両立させた容器詰希釈用起泡性飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、起泡性飲料を希釈用飲料の形態で提供するに際して、起泡性飲料原料に起泡剤を含有させ、希釈、飲用時の起泡性や、泡の安定性等の改善を図るとともに、起泡剤を含んでいるにも関わらず、容器詰飲料製造時の容器充填の際も、過剰な泡立ちが生じず、また、飲用時に炭酸水或いは水などの希釈液で希釈する際にも、良好な泡立ちを確保することができ、希釈用起泡性飲料製造時の泡立ち抑制と飲用時の良好な泡立ちを両立させた容器詰希釈用起泡性飲料を提供する方法、及び、該容器詰希釈用起泡性飲料の調製に際して、消泡剤を用いる場合のような起泡性飲料への香味、味覚への影響を回避して、例えば、ビールティスト飲料への適用が可能な容器詰希釈用起泡性飲料を提供する方法について、鋭意検討する中で、容器詰希釈用起泡性飲料の調製に際して、起泡性飲料原料に、起泡剤を含有させるとともに、特定量のアルコールを含有させることにより、前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明においては、ビールティスト飲料のような起泡性飲料を、飲用時に希釈、起泡させて飲用する容器詰希釈用起泡性飲料を提供することを企図し、その場合に、起泡性飲料に飲用時の良好な泡立ちを付与するために、起泡剤を用いることを検討する中で、起泡剤を含有させた希釈用(濃厚)飲料においては、特に、その起泡性に伴う容器充填時或いは希釈飲用時の過剰な泡立ちが発生し、飲料製造上及び飲料製品の性状としての問題があることを見出した。その回避策として、従来、発泡性飲料の過剰な泡立ちを抑制するために用いられている消泡剤の使用を検討したが、例えば、ビールティスト飲料のように、飲料のキレや味覚に、バランスと繊細さが要求される飲料においては、消泡剤の影響による変調をきたして、飲料本来の香味、味覚を有する飲料を、希釈し、調製することが難しいということを見出した。そこで、更に検討する中で、起泡性飲料原料に、起泡剤を含有させるとともに、特定量のアルコールを含有させることにより、希釈用起泡性飲料製造時の泡立ち抑制と飲用時の良好な泡立ちを両立させることができることを見出し、該方法は、ビールティスト飲料のような起泡性飲料にも適用することができることを見出し、本発明をなした。」

記載事項イ
「【発明の効果】
【0022】
本発明は、起泡性飲料原料に起泡剤を含有させ、飲用時に希釈、起泡させて飲用する容器詰希釈用起泡性飲料において、起泡剤を含んでいるにも関わらず、容器充填時並びに希釈飲用時いずれにおいても過剰な泡立ちの問題が生じない、容器詰め希釈用起泡性飲料を提供でき、製造後も沈殿や濁りが生じず、保存後も安定で容器に充填した際も良好な外観を有する容器詰め希釈用起泡性飲料を提供できる。本発明の希釈用起泡性飲料は、ビールティスト飲料のような起泡性飲料にも適用することができ、飲用時に、炭酸水等で希釈、起泡することにより、ビール様の良好な泡の形成を可能とし、ビールテイスト飲料本来の香味、味覚を保持したビールテイスト飲料を調製できる容器詰希釈用起泡性飲料を提供する。」

記載事項ウ
「【0025】
<起泡剤>
本発明においては、希釈用起泡性飲料の飲用時の希釈、起泡に際して、良好な起泡と泡持ちを確保するために、起泡性飲料原料に起泡剤を含有させる。該起泡剤としては、アルギン酸プロピレングリコールを代表とするプロピレングリコール脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類やショ糖脂肪酸エステル類などの脂肪酸エステル類、サポニン、ペクチン、タマリンドガム、アラビアガムなどの天然物由来のもの、そのほかオクテニルコハク酸デンプンなどいずれも使用可能である。ビールテイスト飲料のような起泡性飲料を対象とする場合には、起泡性飲料の香味、味覚への影響や、生じる泡の性状などの観点から、起泡剤として、アルギン酸プロピレングリコールが特に適している。起泡剤の濃度は、希釈用起泡性飲料原料液の液種に応じて、適宜、調整することができるが、希釈後の起泡性飲料に対して、0.005?0.4w/v%の範囲の濃度となるように、希釈用起泡性飲料原料液中の起泡剤の濃度を設定することができる。」

記載事項エ
「【0026】
<アルコールの添加>
本発明の容器詰希釈用起泡性飲料においては、飲料容器充填時並びに希釈飲用時の過剰な泡立ちを抑制するために、アルコール(エタノール)を添加、含有させる。該エタノールとしては、香味調整が容易で、かつ安価なことから原料用アルコール(エタノール)を用いることができるが、対象となる起泡性飲料に応じて、エタノールを含む蒸留酒や醗酵酒を用いることができる。希釈用起泡性飲料に含有させるアルコール(エタノール)の濃度としては、希釈用起泡性飲料原料液に対して、15?50v/v%、好ましくは25?50v/v%の範囲で、添加、含有させることができる。この範囲よりも少ない場合には、希釈用起泡性飲料を容器に充填する際に過剰な泡立ちが生じて適正量を衛生的に充填することが困難になる。一方、この範囲よりも多い場合には起泡剤との相互作用により希釈用起泡性飲料がゲル化してしまうなどの問題が生じるので好ましくない。」

記載事項オ
「【0027】
<分岐鎖を有する多糖類の添加>
本発明の容器詰希釈用起泡性飲料においては、起泡剤及びアルコールを含有させるとともに、分岐鎖オリゴ糖のような、分岐鎖を有する多糖類を含有させることができる。本発明の容器詰希釈用起泡性飲料においては、アルコール(エタノール)濃度が15?50v/v%と比較的高いため、例えば、飲料のボディ感の向上などの目的で用いる食物繊維や、飲料に含まれる直鎖の多糖等の飲料中に含まれる高分子物質がアルコール(エタノール)によって、希釈用起泡性飲料の製造後に沈殿若しくは濁りが生じる問題が発生する場合がある。それを防止するために、分岐鎖オリゴ糖のような、分岐鎖を有する多糖類を含有させることで、沈殿や濁りを防止し、安定性に優れた容器詰希釈用起泡性飲料を提供することができる。
【0028】
本発明で用いられる分岐鎖を有する多糖類とは、デンプン由来の水溶性の糖類であって、例えば、α-1,6グルコシド結合、α-1,4グルコシド結合、α-1,3グルコシド結合、α-1,2グルコシド結合、或いはα-1,1グルコシド結合の一つもしくは二つ以上の結合を有するグルコースが3個以上の重合した多糖類である。デンプンにいわゆる枝切り酵素を作用させてオリゴ糖類が調製することができるほか、デンプンを加熱処理してから酵素分解等することでランダムな分岐鎖を有する食物繊維が調製できる。これらは市販品としても複数販売されているのでその中から選ぶことができる。分岐鎖を有する多糖類としては、3?10個程度のグルコースが重合した分岐鎖オリゴ糖を、好ましい分岐鎖多糖類として用いることができる。また、分岐鎖を有する多糖類を用いることにより、起泡性飲料にボディ感だけを付与するという目的からは、分子量が大きい、すなわちグルコースの重合度が大きい分岐鎖多糖類を用いることが好ましい。希釈用起泡性飲料の製造後の沈殿若しくは濁りの防止とボディ感の向上を目的とするためには、添加量は希釈した際の飲料中の濃度が0.05?10%w/vになるように添加することが好ましい。」

記載事項カ
「【0029】
<希釈液>
本発明の希釈用起泡性飲料は、飲用時に希釈液で、希釈、起泡させて、起泡性飲料として、飲用に供することができる。希釈液の選定は任意であるが、起泡の容易さなどの点で、炭酸水で希釈するのが最も好ましい。また、調味調香された炭酸水も希釈液として用いることができる。」

記載事項キ
「【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
[実施例1、比較例1]
表1に示す配合量で起泡剤(アルギン酸プロピレングリコール)とエタノールを添加して、100mLの希釈用起泡性飲料のモデル溶液を作成し、泡立ちを評価した。評価は100mLメスシリンダーにサンプル50mLを採取し、パラフィルムにて上部に封をして手で激しく50回上下に振り、5秒後の泡面の体積(泡面の目盛り-50mL)を算出した。泡立ちが十分に抑制されているものを○、ほぼ抑制されているものを△、抑制されていないものを×とした。
【0036】
【表1】


【0037】
起泡剤を添加した希釈用起泡性飲料モデル溶液はエタノール濃度を15?50v/v%となるように調整した場合には過剰な泡立ちを生じず、安全に容器充填できることが確認できた。
【0038】
[実施例2、比較例2]
25v/v%濃度のエタノール溶液に、起泡剤(アルギン酸プロピレングリコール)を表2に示す濃度になるように加えた希釈用起泡性飲料モデル溶液を作成した。それらを炭酸水で5倍に希釈して泡立ちを評価した。評価は炭酸水で希釈し、コップに注いだ際の泡の外観を目視で評価した。評価は泡の外観評価に熟達したパネル3名による協議で行った。泡立ちがよいものを○、やや良いものを△、良くないものを×とした。
【0039】
【表2】


【0040】
希釈して飲用する際の飲料中の起泡剤の濃度が0.005?0.4w/v%となるように添加した希釈用起泡性飲料モデル溶液は炭酸水で希釈した場合でも、過剰な泡立ちを生じず、飲用に適した良好な泡立ちを有する飲料が調製できた。
【0041】
[実施例3?5、比較例3?5]
起泡剤(アルギン酸プロピレングリコール)を高濃度エタノールに混合した溶液に、各種多糖類を表3に示す濃度で添加して希釈用起泡性飲料モデル溶液を作成した。これらの外観を5℃で24時間静置した後に目視によって沈殿、濁りの有無を評価した。外観安定性が優れているものを○、濁りが若干発生したものを△、濁りや沈殿が発生したものを×とした。
【0042】
【表3】


【0043】
エタノール濃度が30%以上で、起泡剤と直鎖構造を有するマルトオリゴ糖を共存させると沈殿もしくは濁りが生じるが、分岐鎖構造を有するオリゴ糖あるいは食物繊維を使用すると沈殿が生じないことが分かった。
【0044】
[実施例6]
アルギン酸プロピレングリコール0.2%(w/v)、エタノール29.5%(v/v)に、りんご発酵液10%(v/v)、酸味料、甘味料、香料を加えて、シードルタイプの希釈用起泡性飲料を作成し、充填時の泡立ちと希釈飲用時の泡立ちを評価した。なお、このとき希釈用起泡性飲料中のアルコール濃度は30%(v/v)であり、希釈後の飲料中の起泡剤の濃度は0.033%(w/v)である。充填時の泡立ち評価は200mL容のガラス瓶に充填した際の泡による溢れの有無を評価した。希釈飲用時の泡立ちは実施例2と、外観安定性は実施例3?5と同様に行った。官能評価は、酒類の官能評価に熟練したパネル3名で行った。充填時の泡立ち評価は実施例1と、希釈飲用時の泡立ちは実施例2と同様に行った。結果を表4に示す。実際の希釈用起泡性飲料においても、エタノール濃度と起泡剤の量を調整することで、充填時の泡立ち抑制と希釈飲用時の良好な泡立ちを両立できることが分かった。
【0045】
【表4】


【0046】
[実施例7]
アルギン酸プロピレングリコール0.2%(w/v)、エタノール29.5%(v/v)に、りんご発酵液10%(v/v)、ブランチオリゴ1%(w/v)、酸味料、甘味料、香料を加えてシードルタイプの希釈用起泡性飲料を作成し、充填時の泡立ちと希釈飲用時の泡立ちを評価した。なお、このとき希釈用起泡性飲料中のアルコール濃度は30%(v/v)であり、希釈後の飲料中の起泡剤の濃度は0.033%(w/v)である。各評価は実施例6と同様に行った。結果を表5に示す。実際の希釈用起泡性飲料においても、分岐鎖多糖を含有させることで、外観安定性を保持しながら、ボディ感を付与できることが分かった。
【0047】
【表5】


【0048】
[実施例8]
<ビアテイスト飲料>
アルギン酸プロピレングリコール0.2%(w/v)、エタノール30%(v/v)に、Eファイバー10%(w/v)、ブランチオリゴ1%(w/v)、モルトエキス1%(w/v)、異性化ホップエキス0.5%(w/v)、カラメル色素0.3%(w/v)、酸味料、甘味料、香料を加えた希釈用起泡性飲料を作成し、充填時の泡立ちと希釈飲用時の泡立ちを評価した。なお、このとき希釈用起泡性飲料中のアルコール濃度は30%(v/v)であり、希釈飲料中の起泡剤の濃度は0.033%(w/v)である。各評価は実施例6と同様に行った。結果を表6に示す。実際の希釈用ビアテイスト飲料においても、エタノール濃度と起泡剤の量を調整することで、充填時の泡立ち抑制と希釈飲用時の良好な泡立ちを両立でき、分岐鎖多糖を含有させることで、外観安定性を保持しながら、ボディ感を付与できることが分かった。
【0049】
【表6】



(3)判断
本願発明1?6は、(1)に示した特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであって、飲用時に希釈、起泡させて飲用する、希釈用起泡性飲料製造時の泡立ち抑制と飲用時の良好な泡立ちを両立させた、容器詰希釈用起泡性飲料に関する発明である。
本願発明1?6では、「希釈用起泡性飲料原料液中の起泡剤の濃度が、希釈後の起泡性飲料に対して、0.005?0.4w/v%となるように調整され、」として、希釈用起泡性飲料原料液中の起泡剤の濃度が、希釈後の起泡性飲料に対する割合によって特定される一方、希釈用起泡性飲料原料液中の起泡剤の濃度が、希釈用起泡性飲料原料液に対する割合によっては特定されていない。また、「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率も特定されていない。

ここで、本願明細書の記載を検討する。
上記記載事項ア及び記載事項イには、本願発明が、起泡性飲料原料に起泡剤を含有させ、飲用時に希釈、起泡させて飲用する容器詰希釈用起泡性飲料において、起泡剤を含んでいるにも関わらず、容器充填時並びに希釈飲用時いずれにおいても過剰な泡立ちの問題が生じない、容器詰め希釈用起泡性飲料を提供でき、製造後も沈殿や濁りが生じず、保存後も安定で容器に充填した際も良好な外観を有する容器詰め希釈用起泡性飲料を提供できるものであることが、記載されている。
上記記載事項ウには、希釈用起泡性飲料の飲用時の希釈、起泡に際して、良好な起泡と泡持ちを確保するために、起泡性飲料原料に起泡剤を含有させること、及び、希釈後の起泡性飲料に対して、0.005?0.4w/v%の範囲の濃度となるように、希釈用起泡性飲料原料液中の起泡剤の濃度を設定することができることが、記載されている。
上記記載事項エには、飲料容器充填時並びに希釈飲用時の過剰な泡立ちを抑制するために、アルコール(エタノール)を添加、含有させること、及び、希釈用起泡性飲料に含有させるアルコール(エタノール)の濃度としては、希釈用起泡性飲料原料液に対して、15?50v/v%、好ましくは25?50v/v%の範囲で、添加、含有させることができ、この範囲よりも少ない場合には、希釈用起泡性飲料を容器に充填する際に過剰な泡立ちが生じて適正量を衛生的に充填することが困難になる。一方、この範囲よりも多い場合には起泡剤との相互作用により希釈用起泡性飲料がゲル化してしまうなどの問題が生じるので好ましくないことが、記載されている。
上記記載事項オには、希釈用起泡性飲料の製造後に沈殿若しくは濁りが生じる問題が発生する場合があり、それを防止するために、分岐鎖オリゴ糖のような、分岐鎖を有する多糖類を含有させることで、沈殿や濁りを防止し、安定性に優れた容器詰希釈用起泡性飲料を提供することができること、及び希釈用起泡性飲料の製造後の沈殿若しくは濁りの防止とボディ感の向上を目的とするためには、添加量は希釈した際の飲料中の濃度が0.05?10%w/vになるように添加することが好ましいことが、記載されている。
上記記載事項カには、本発明の希釈用起泡性飲料は、飲用時に希釈液で、希釈、起泡させて、起泡性飲料として、飲用に供することができること、及び、起泡の容易さなどの点で、炭酸水で希釈するのが最も好ましいことが、記載されている。
しかし、上記記載事項ア?記載事項カには、「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率を示すものはない。
上記記載事項キに記載される各実施例のうち、本願発明に属する「希釈用起泡性飲料」を「希釈後の起泡性飲料」にしたものと認められる実施例7及び実施例8においては、「希釈用起泡性飲料」に含まれるアルギン酸プロピレングリコール、及び希釈後の飲料中の起泡剤の濃度から、「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率を算出すると約6倍であるが、本願発明には属さない「希釈用起泡性飲料」に係る表1及び表2の「アルギン酸プロピレングリコール(w/v%)希釈後飲料中濃度(希釈用起泡性飲料中濃度)」の項目の数値から、「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率を算出すると、実施例1-1では0.3倍、実施例1-2?1-5では約3倍、実施例1-6?1-9では5倍、実施例1-10?1-12では10倍、実施例2-1?2-9は5倍であり、本願発明に属さない「希釈用起泡性飲料」を「希釈後の起泡性飲料」にしたものと認められる実施例6においては、「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率は約6倍である。なお、実施例3-1?5-10においては、「希釈後の起泡性飲料」についての記載がないので、希釈倍率は算出できない。
上記記載事項キの記載からは、実施例1-1?1-12、実施例2-1?2-9、実施例6?8における「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率が、当業者に同一視される範囲内にあるとは認められない。
また一般に、「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率が一定の範囲内にあることが、当業者の出願当時における技術常識であったとも認められない。
したがって、当業者は、特許請求の範囲の記載及び本願明細書の記載から、本願発明1?6における「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率は定められていないと理解する。

すると、上述のとおり、本願発明1?6においては希釈用起泡性飲料原料液中の起泡剤の濃度が、希釈用起泡性飲料原料液に対する割合によっては特定されていないことから、起泡剤を含有させた希釈用起泡性飲料原料液に、アルコールを含有させ、更に、分岐鎖を有する多糖類を含有させ、希釈用起泡性飲料原料液中のアルコール濃度が15?50v/v%であるように調整された容器詰希釈用起泡性飲料が存在しても、「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率が決定されるまでは、その容器詰希釈用起泡性飲料が本願発明1?6に該当するのか否かを特定できないということになるから、本願発明1?6の範囲は、特許請求の範囲の記載及び本願明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、起泡剤を含有させた希釈用起泡性飲料原料液に、アルコールを含有させ、更に、分岐鎖を有する多糖類を含有させ、希釈用起泡性飲料原料液中のアルコール濃度が15?50v/v%であるように調整された容器詰希釈用起泡性飲料を実施しようとする第三者に、不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえる。

(4)請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は、令和2年6月9日に提出した意見書において、以下のとおり主張する。
「1)審判官殿も「一般に、希釈用飲料原料液の希釈倍率は、希釈後の飲料の飲用者または提供者がその嗜好によって任意に定めるものであると認められる」と述べておられますように、嗜好によって任意に選択される希釈倍率については必ずしも発明特定事項とする必要はないと考えます。
2)本発明の課題の1つである「起泡性飲料原料に起泡剤を含有させ、希釈、飲用時の起泡性や、泡の安定性等の改善を図る」からしますと、希釈後の飲料中の起泡剤の濃度が重要であり、希釈倍率を発明特定事項とするよりも希釈後の飲料中の起泡剤の濃度を発明特定事項とする方が技術的観点からして適切であろうと考えます。
3)審判官殿は「発明の詳細な説明に記載された表1(段落[0036])及び表2(段落[0039])に示された起泡剤のアルギン酸プロピレングリコールの希釈後飲料中濃度と希釈用起泡性飲料中濃度から希釈倍率を推計するとさまざまな値になる」と述べられておりますが、実施例1-2?実施例1-5は3倍希釈、実施例1-6?実施例1-9は5倍希釈、実施例1-10?実施例1-12は12倍希釈、実施例2-1?実施例2-9は5倍希釈で、ある程度のまとまりがあります。
4)審判官殿は「希釈倍率によって、発明の範囲に入る/入らないが変動する」と述べられておりますが、容器詰希釈用飲料には通常希釈倍率の目安が表示されることになっており、かかる実社会を考慮しますと、発明の範囲は実際上明確であるといえます。
例えば、カルピスのボトルには「●お好みに合わせて4?5倍を目安にうすめてお飲みください。」(https://news.livedoor.com/article/detail/15387655/)との表示があります。
また、麺つゆには、例えば、「<ご使用方法>水又は湯にて適量にうすめてご使用ください。
・そうめん、うどん、そば、しゃぶしゃぶ つゆ1対水3?4
・天つゆ、おでん、すきやき、鍋物 つゆ1対水4?5
・丼物、煮物 つゆ1対水2?3」(https://echigo-ryokan.jp/blog/mentuyuusumekata/)との表示があります。
5)したがいまして、本発明の「容器詰希釈用起泡性飲料」も実用化に際しては商品と共に“希釈の目安”が表示されることになり、発明の範囲は実際上明確になると思料いたします。
6)以上のとおり、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとまではいえないと思われます。」

イ 請求人の主張に対する検討
上記記載事項エには、飲料容器充填時並びに希釈飲用時の過剰な泡立ちを抑制するために、アルコールを添加、含有させる旨の記載、及び、アルコールの濃度が希釈用起泡性飲料原料液に対して15?50v/v%の範囲よりも少ない場合には、希釈用起泡性飲料を容器に充填する際に過剰な泡立ちが生じる旨の記載がある。
また、上記記載事項キに記載される各実施例のうち、「希釈後の起泡性飲料」についての記載のない実施例3-1?5-10を除くと、本願発明に属する「希釈用起泡性飲料」を「希釈後の起泡性飲料」にしたものと認められる実施例7及び実施例8においても、本願発明には属さない「希釈用起泡性飲料」に係る実施例1-1?1-12及び実施例2-1?2-6においても、実施例1-1を除き、「希釈後の起泡性飲料」に含まれるアルコール濃度は5v/v%であると算出され、これら実施例により、希釈飲用時の良好な泡立ちが得られるものは「希釈後の起泡性飲料」に含まれるアルコール濃度が5v/v%である場合であることが示されているといえる。
これらの記載から当業者は、「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率が大きければ、希釈後の起泡性飲料に対するアルコールの濃度は小さくなって泡立ちを抑制できない範囲になる一方、起泡剤の濃度は所定の範囲にあるので、希釈飲用時の過剰な泡立ちを抑制できないと理解し、希釈倍率が小さければ(例えば、希釈倍率が1倍に極めて近ければ)、希釈後の起泡性飲料に対するアルコールの濃度は5v/v%をはるかに超えて泡立ちを抑制する範囲にとどまるので、希釈飲用時の良好な起泡が抑制されると理解して、本願発明においては、「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率も重要であることを理解するといえる。
そして、前記(3)に示したとおり、本願発明において「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率は特定されておらず、上記記載事項キの記載からは、実施例1-1?1-12、実施例2-1?2-9、実施例6?8における「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率が、当業者に同一視される範囲内にあるとは認められず、また一般に、「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率が一定の範囲内にあることが、当業者の出願当時における技術常識であったとも認められない。
したがって、たとえ請求人の述べるように、本願発明の課題を解決するためには希釈後の飲料中の起泡剤の濃度が重要であるとしても、「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率が重要でないことにはならず、希釈後の起泡性飲料中の起泡剤の濃度を発明特定事項としていれば、「希釈用起泡性飲料原料液」から「希釈後の起泡性飲料」にする際の希釈倍率を発明特定事項としていなくても本願発明の範囲が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確ではないという根拠にもならない。
また、現に市販されている容器詰め希釈用飲料には通常、希釈倍率の目安が表示されているとしても、現に希釈倍率を発明特定事項としていない本願発明の範囲が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確ではないという根拠にはならないし、本願発明の実用化に際しては商品に希釈の目安が表示されるとの請求人の主張も、現に希釈倍率を発明特定事項としていない本願発明の範囲が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確ではないという根拠にはならない。
そして、起泡剤を含有させた希釈用起泡性飲料原料液に、アルコールを含有させ、更に、分岐鎖を有する多糖類を含有させ、希釈用起泡性飲料原料液中のアルコール濃度が15?50v/v%であるように調整された容器詰め希釈用起泡性飲料が、希釈倍率によって本願発明に該当するか否かが変化することになるから、本願発明がどのような希釈倍率で希釈されて飲用されるものかということを発明特定事項とする必要はないとする請求人の主張を採用することはできない。

(5)小括
以上のとおり、特許請求の範囲の請求項1?6の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおり、特許請求の範囲の請求項1?6の記載について、令和2年5月18日付けで通知した拒絶理由のうち理由1は妥当なものであって、令和2年6月9日に提出された意見書及び手続補正書の内容を検討しても、これを覆すに足る根拠は見出せないから、本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-07-31 
結審通知日 2020-08-03 
審決日 2020-08-17 
出願番号 特願2015-57113(P2015-57113)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C12G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 敬司  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 櫛引 智子
村上 騎見高
発明の名称 希釈用起泡性飲料  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 小澤 誠次  

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