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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1366851
審判番号 不服2019-14236  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-25 
確定日 2020-10-27 
事件の表示 特願2017-241457「熱電式ボタンを備えた時計」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月 5日出願公開,特開2018-107442,請求項の数(11)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成29年12月18日(パリ条約による優先権主張2016年12月20日,欧州特許庁)の出願であって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成30年10月24日付け:拒絶理由通知
平成31年 2月 6日 :意見書,手続補正書の提出
令和 元年 6月 7日付け:拒絶査定
令和 元年10月25日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和元年6月7日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-11に係る発明は,以下の引用文献1-5に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.米国特許出願公開第2016/0128141号明細書
2.特開2013-064921号公報
3.特開平08-046249号公報
4.特開2004-227157号公報
5.特開2004-272719号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1に「使用時に前記使用者の体温と同温となり得る」という事項を追加する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,「使用時に前記使用者の体温と同温となり得る」という事項は,当初明細書の段落【0007】に記載されているから,当該補正は新規事項を追加するものではないといえる。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1-11に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-11に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明11」という。)は,令和元年10月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-11に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
装置(AP)であって,
使用時に使用者の身体に触れるハウジング(BT)であって,該ハウジング(BT)の外部に開いたキャビティ(CV)を有するハウジングと,
前記ハウジング(BT)の内部に配置された電気素子(EL)と,
前記電気素子(EL)を作動させるための作動システム(SA)であって,
導電性の端子台(SM)を支持する互いに略平行な電気的絶縁性の第1の板(P1)および電気的絶縁性の第2の板(P2)と,前記第1の板の前記端子台と前記第2の板の前記端子台との間に延在する半導体ピラー(PL)と,を含む操作ボタンとして機能する熱電モジュール(MT)であって,冷極を形成する前記第2の板(P2)は使用時に前記使用者の体温と同温となり得る前記キャビティ(CV)の壁(FD)に直接当接して配置されるとともに,高摩擦係数を有する材料で構成されまたは高摩擦係数を有する材料で構成された層を含み温極を形成する前記第1の板(P1)は前記使用者の身体で擦れるように前記ハウジング(BT)の外側からアクセス可能であるように,前記キャビティ(CV)内に収容されている熱電モジュール(MT)と,
前記第2の板(P2)の前記端子台(SM)の2つを前記電気素子(EL)に接続する電子伝送回路(CT)と,を有する,作動システムと,を備える装置。
【請求項2】
前記電子伝送回路(CT)は,DC-DCコンバータ(CC)と,前記ハウジング(BT)の中を通る2つの電気配線(F1,F2)と,を含み,前記電気配線の各々は,前記第2の板(P2)の端子台(SM)と前記DC-DCコンバータ(CC)の両方に接続されている,請求項1に記載の装置(AP)。
【請求項3】
前記電子伝送回路(CT)は,前記DC-DCコンバータ(CC)の出力に配置された蓄電池(CD)と,その充電量が閾値を超えたときの前記蓄電池(CD)の放電のために前記蓄電池(CD)と前記電気素子(EL)の両方に接続された制御ユニット(UC)と,を含む,請求項2に記載の装置(AP)。
【請求項4】
前記蓄電池(CD)はキャパシタである,請求項3に記載の装置(AP)。
【請求項5】
前記作動システム(SA)は,前記第1の板(P1)と前記第2の板(P2)との間に配置されるとともに前記熱電モジュール(MT)の側方のを覆う電気絶縁層(IS)を有する,請求項1?4のいずれか1項に記載の装置(AP)。
【請求項6】
前記作動システム(SA)は,中板と,前記中板を前記第1の板(P1)に抗して動かす手段と,を有する,請求項1?5のいずれか1項に記載の装置(AP)。
【請求項7】
当該装置は腕時計であることを特徴とする,請求項1?6のいずれか1項に記載の装置(AP)。
【請求項8】
当該装置はリモートコントローラであることを特徴とする,請求項1?6のいずれか1項に記載の装置(AP)。
【請求項9】
当該装置は,電話機であることを特徴とする,請求項1?6のいずれか1項に記載の装置(AP)。
【請求項10】
前記電気素子(EL)は,発光ダイオードを含むことを特徴とする,請求項1?9のいずれか1項に記載の装置(AP)。
【請求項11】
前記電気素子(EL)は,無線周波数送信機を含むことを特徴とする,請求項1?10のいずれか1項に記載の装置(AP)。」

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)(日本語訳は,当審で作成した。)
「[0003] The present technology is a lighting system that relies on thermoelectricity for power. More specifically, it is a flashlight that is powered from body heat.」
(日本語訳:[0003] 本技術は,電力を熱電に依存する照明システムである。具体的には,体熱で動く懐中電灯である。)

「[0054] A flashlight, generally referred to as 10 is shown in FIG. 1 . The flashlight 10 has the dimensions of a typical flashlight. The flashlight 10 has a proximal end 12 , a distal end 14 and a body 16 therebetween. The distal end 14 defines a distal aperture 18 and the proximal end 12 defines a proximal aperture 20 . Housed within the body 16 is an inner cylinder 24 defining a first cooling channel 22 and a second cooling channel 26 between the body 16 and the inner cylinder 24 . There are cooling fins 25 in the first cooling channel 22 (See FIGS. 2B and C). Notwithstanding the size recited above, the first channel 22 has an inside diameter of about 12 mm to about 30 mm, or 15 mm to about 25 mm or about 18 mm to about 29 mm and all ranges therebetween. It is about 150 mm long. As shown in FIGS. 2A, 2B and 2C , there are struts 30 between the inner cylinder 24 and the body 16 to retain the inner cylinder 24 . FIG. 2A is an alternative embodiment that does not include the cooling fins. The inner cylinder 24 is a heat conducting material, for example, but not limited to aluminum, copper, steel, stainless steel, diamond coated metal or diamond coated plastic polymer. It functions as a heat sink and has a thermal conductivity of at least about 16 W/mK at 25℃. or about 175 W/mK at 25℃. or about 205 W/mK at 25℃; C. or about 400 W/mK at 25℃., and all ranges therebetween. The inner cylinder 24 is about 1.2 mm thick, to about 5 mm thick, or about 3 mm thick and all ranges therebetween. The following is a list of the thermal conductivity of a number of potential materials: Stainless steel: Heat conduction 16 W/mK; Steel: Heat conduction 50 W/m K; Pyrolytic Graphite: Heat conduction 700-1750 W/m K, Silver: Heat conduction 400 W/m K, Copper: Heat conduction 385 W/m K, Aluminum: Heat conduction 205 W/m K and sandwiches including these and other materials.
[0055] Returning to FIG. 1 and FIGS. 2A and B, Peltier modules 40 are located on a plate 42 that is also a heat sink and is made of the materials listed above or has the functional capabilities listed above. Plate 42 and cylinder 24 can also be one single extrusion. The inner cylinder extrusion can also be open as in FIG. 2C , with cooling fins 25 acting also as support against the body 48 . Four Peltier modules 40 are shown in FIG. 1 . The plate 42 is located in a cutout (aperture) 44 in the body 16 . This allows for contact with the Peltier modules 40 . The body 16 may have at least one insulating layer 46 and one supporting layer 48 , for example, but not limited to foam and a Poly Vinyl Chloride (PVC) shell, respectively. The shell is about 32 mm OD, and about 29 mm ID, which leaves a 1.5 mm air gap around the inner cylinder 24 . The insulating layer 46 may be a 1.5 mm thick, rubber foam or other materials such as, but not limited to leather, fabric, or wood. The heat conductivity is low, possible less than 1 W/m/K.
[0056] Circuitry 50 is housed within the flashlight 10 . The circuitry 50 has a transistor oscillator 52 , with a 10:1 or 25:1 or 500:1 or preferably a 100:1, and all ranges therebetween, step-up transformer 54 to provide the required voltage and an about 47 μF decoupling capacitor 56 , which may or may not be used. Alternatively, the circuitry may be an integrated circuit containing the transistor oscillator 52 and other components needed to generate DC or a pulsed DC power may be used. At least one LED 58 is located at the distal end 14 and is in electrical communication with the circuitry 50 . The LED 58 is centrally located on the distal end 14 , with or without a reflector, or, if multiple LEDs 58 are employed, they form a ring around the distal aperture 18 . A focusing ring 60 is also located at the distal end 14.
[0057] As shown in FIG. 1 , there is convective air flow 62 in both the first channel 22 and the second channel 26 . This convective air flow 62 and the heat sink function to provide the necessary temperature differential across the Peltier modules 40 , as described below.
[0058] In use, a user grasps the flashlight 10 such that their hand is on the Peltier module 40 , more specifically, their palm. The temperature differential between the approximately 37℃. palm on the outer surface 64 of the Peltier module 40 and the inner surface 66 ( FIG. 2A ) of the Peltier module 40 generates sufficient power to light the LED 58 , which appears from experimental results to be about a 5℃. temperature range or about 6.5℃. temperature range, or about a 7.5℃. temperature range or about a 10℃. temperature range or about a 15℃. temperature range. The device is switchless and is turned on by the user's body heat. As would be known to one skilled in the art, the temperature range needed can be calculated once the parameters of the tile are known.
[0059] A flashlight 10 can include a strap 68 , as shown in FIG. 1 , for releasably attaching to a user's arm. In this case, the arm would provide the 37℃. surface.」
(日本語訳:[0054] 懐中電灯が図1の10で示される。懐中電灯10は,典型的な懐中電灯の寸法を有する。懐中電灯10は,近位端12,遠位端14,およびそれらの間の本体16を有する。遠位端14は,遠位開口18を規定し,近位端12は,近位開口20を規定する。本体16内に収容されるのは,本体16と内筒との間に第1冷却チャネル22および第2冷却チャネル26を規定する内筒24である。第1冷却チャネル22には冷却フィン25がある(図2BおよびCを参照)。上記のサイズにもかかわらず,第1チャネル22は,約12mmから約30mm,または15mmから約25mm,または約18mmから約29mmおよびそれらの間のすべての範囲の内径を有する。それは,長さが約150mmである。図2A,2Bおよび2Cに示すように,内筒24と本体16との間には,内筒24を保持するための支柱30がある。図2Aは,冷却フィンを含まない代替実施形態である。内筒24は,例えば,以下に限定されないが,アルミニウム,銅,鋼,ステンレス鋼,ダイヤモンド被覆金属またはダイヤモンド被覆プラスチックポリマーなどの熱伝導材料である。それはヒートシンクとして機能し,少なくとも25℃で約16W/mKまたは25℃で約175W/mKまたは25℃で約205W/mKまたは25℃で約400W/mKおよびそれらの間のすべての範囲の熱伝導率を有する。内筒24は,約1.2mmの厚さから約5mmの厚さ,または約3mmの厚さであり,それらの間のすべての範囲である。以下は,いくつかの潜在的な材料の熱伝導率のリストである。ステンレス鋼:熱伝導16W/mK,鋼:熱伝導50W/mK,熱分解グラファイト:熱伝導700?1750W/mK,銀:熱伝導400W/mK,銅:熱伝導385W/mK,アルミニウム:熱伝導205W/mKおよびこれらと他の材料を含むサンドイッチ。
[0055] 図1と図2Aおよび図2Bに戻ると,ペルチェモジュール40は,ヒートシンクでもあり,上に挙げた材料から作られるか,または上に挙げた機能的能力を有するプレート42上に配置される。プレート42およびシリンダ24はまた,単一の押出部であり得る。内筒押出部も図2のように開いていてもよく,冷却フィン25は,本体48に対する支持体としても機能する。図1には,4つのペルチェモジュール40が示されている。プレート42は,本体16の切り欠き(開口)44に配置される。これにより,ペルチェモジュール40との接触が可能になる。本体16は,例えば,少なくとも1つの絶縁層46および1つの支持層48を有することができるが,発泡体とポリ塩化ビニル(PVC)殻にそれぞれ限定されない。殻は,外径が約32mm,内径が約29mmで,内筒24の周囲に1.5mmのエアギャップを残す。絶縁層46は,1.5mmの厚さのゴム発泡体またはこれらに限定されないが,革,布,または木などのその他の材料であってもよい。熱伝導率が低く,1W/m/K未満の可能性がある。
[0056] 回路50は,懐中電灯10内に収容される。回路50は,トランジスタ発振器52を有し,必要な電圧を提供するための10:1または25:1または500:1または好ましくは100:1およびそれらの間のすべての範囲の昇圧変圧器54および約47μFのデカップリングコンデンサ56を備え,これらは使用してもしなくてもよい。あるいは,回路は,トランジスタ発振器52およびDCを生成するために必要な他の構成要素を含む集積回路であってもよく,またはパルスDC電力が使用されてもよい。少なくとも1つのLED58は,遠位端14に配置され,回路50と電気的に連通している。LED58は,反射器の有無にかかわらず,遠位端14の中央に配置され,または,複数のLED58が使用される場合,それらは,遠位開口18の周りにリングを形成する。集束リング60も遠位端14に配置される。
[0057] 図1に示されるように,第1チャネル22および第2チャネル26の両方に対流空気流62がある。この対流空気流62およびヒートシンクは,以下で説明するように,ペルチェモジュール40全体に必要な温度差を提供するように機能する。
[0058] 使用中,ユーザは,自分の手がペルチェモジュール40,より具体的には手のひらの上にあるように,懐中電灯10を握る。約37℃の手のひらに触れる外面64と,ペルチェモジュール40の内面66(図2A)上のとの間の温度差は,LED58を点灯するのに十分な電力を生成し,これは,実験結果から約5℃温度範囲または約6.5℃温度範囲,または約7.5℃温度範囲または約10℃温度範囲または約15℃温度範囲であることは明らかである。デバイスはスイッチレスであり,ユーザの体熱によってオンになる。当業者に知られているように,必要な温度範囲は,タイルのパラメータが分かったら計算することができる。
[0059] 懐中電灯10は,図1に示されるように,ストラップ68を含むことができ,ユーザの腕に取り外し可能に取り付ける。この場合,腕は37℃表面を提供する。」

「Fig.1



「Fig. 2A



(2)上記(1)から,引用文献1には,次の事項が記載されていると認められる。
ア 図1を参照すれば,LED58は,本体16の内部に配置されること。

イ 図2Aを参照すれば,外面64と内面66はペルチェモジュール40を構成し,互いに略平行であること。

(3)上記(1)及び(2)から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「体熱で動く懐中電灯10であって,
近位開口20を規定する近位端12と,
遠位開口18を規定する遠位端14と,
それらの間に設けられる本体16と,
第1冷却チャネル22および第2冷却チャネル26を規定する内筒24と,
第1冷却チャネル22に設けられる冷却フィン25と,
内筒24と本体16との間に設けられ,内筒24を保持するための支柱30と,
本体16の切り欠き(開口)44に配置されるプレート42と,
ユーザが自分の手のひらの上にあるように懐中電灯10を握ることで,約37℃の手のひらに触れる外面64と,
プレート42上に配置され,互いに略平行な外面64と内面66とを有し,外面64と内面66との間の温度差によって,LED58を点灯するのに十分な電力を生成するペルチェモジュール40と,
少なくとも1つの絶縁層46および1つの支持層48と,
トランジスタ発振器52を有し,必要な電圧を提供するための10:1または25:1または500:1または好ましくは100:1およびそれらの間のすべての範囲の昇圧変圧器54および約47μFのデカップリングコンデンサ56を備える回路50と,
本体16の内部に配置され,回路50と電気的に連通するLED58と,
第1チャネル22および第2チャネル26の両方に存在し,ペルチェモジュール40全体に必要な温度差を提供する対流空気流62と,
を有する懐中電灯10。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
本開示は,表示装置に関する。本開示は,特に,入力操作などに伴うユーザの動作より発電する機構を備える表示装置に関する。」

「【0021】
図1Aおよび図1Bに示すように,本開示の実施形態にかかる電子書籍は,筺体が全体として略平板状とされることにより,ユーザが使用する状態において,略平板状とされる。電子書籍が全体として略平板状であると,ユーザが電子書籍を持ち運びやすく,ユーザが電子書籍の操作を片手で容易に行うことができる。
【0022】
上述したように,電子書籍1は,発電部5を備えている。発電部5は,少なくとも1種の発電機構を備える。発電機構は,例えば,ユーザによる電子書籍の操作に伴う動作(運動エネルギなど)を電気エネルギに変換する。発電部により得られた電力は,例えば,ディスプレイ部に供給され,ディスプレイ部に表示される情報を書き換えるために消費される。ここで,ユーザによる電子書籍の操作に伴う動作とは,具体的には,例えば,いわゆるページめくりである。
【0023】
一般に,電子書籍では,ディスプレイ部に表示された画像の切り替えが紙媒体の書籍などにおけるページめくりに対応するが,電子書籍ではなく,紙媒体の書籍などを愛用する者もいまだ多い。紙媒体の書籍などを愛用する者が多い理由の一つは,電子書籍ではページめくりの感覚が得られにくいためであると推測される。そこで,本開示では,電子書籍に対して画像の切り替えの指示を与えるための能動的な動作と,発電機構による発電とが関連づけられている。
【0024】
したがって,本開示によれば,電子書籍のユーザに対してページめくりの感覚を与えながら,ページめくりに対応する,画像の切り替えなどに必要な電力を得ることができる。すなわち,本開示によれば,電子書籍を戸外で使用する前の充電を必要としないので,電子書籍をより軽量かつ小型で扱いやすいものとすることができる。さらに,本開示によれば,電子書籍がユーザの能動的な動作により発電を行うので,電子書籍の駆動または蓄電池の充電のための特別な動作が必要とされることがない。」

「【0186】
または,例えば,運動エネルギから電気エネルギへの変換の間に,熱エネルギへの変換を介在させてもよい。すなわち,摩擦運動を利用したり,スターリングエンジンや熱音響エンジンなどの外燃機関を利用したりすることにより,運動エネルギをいったん熱エネルギに変換し,熱電変換素子や熱電子発電素子(熱電子発電器)などに熱エネルギを供給して発電を行わせるようにしてもよい。」

「【図1】



(2)上記(1)から,引用文献2には,次の事項が記載されていると認められる。
ア 入力操作などに伴うユーザの動作に伴う動作(運動エネルギなど)を電気エネルギに変換し,発電部により得られた電力を,ディスプレイ部に表示される情報を書き換えるために消費する電子書籍1であって,
運動エネルギから電気エネルギへの変換の間に,摩擦運動を利用したりすることによって,運動エネルギをいったん熱エネルギに変換し,熱電変換素子や熱電子発電素子(熱電子発電器)などに熱エネルギを供給して発電を行わせるようにすることで電気エネルギに変換すること。

3 引用文献3について
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は動力源として電池を使用しない携帯電子機器を実現するための熱電素子モジュール,及び動力源として熱電素子モジュールを用いた携帯電子機器,特に電子腕時計に関するものである。」

「【0013】本実施例においては,熱電素子402をケース405に設けた溝の中に埋め込み,図3で示す吸熱側になる絶縁体をケース405と熱伝導率の優れた接着剤で固定する。更に対をなす放熱側になる絶縁体はケース405と熱的に絶縁可能なように熱伝導率の低いプラスチック部材408を間に挿入することにより側面を熱的に絶縁し,放熱側になる絶縁体の上面を直接大気と触れるように構成し,更に放熱効果を高めるために放熱側の絶縁体と接触するように熱伝導率の優れた放熱板409を設けている。ケース405は一般に気温よりも高温である腕に触れるために吸熱側,放熱板409は直接大気と接触するために放熱側となる。ケース405が腕より人体の熱を吸収し,放熱板409との間に温度差が生じると,熱電素子のゼーベック効果により起電力が生じ蓄電機構に蓄電され,この蓄えられた電気エネルギーによりムーブメント401が駆動される。」

(2)上記(1)から,引用文献3には,次の事項が記載されていると認められる。
ア 動力源として熱電素子モジュールを用いた携帯電子機器,特に電子腕時計において,熱電素子402をケース405に設けた溝の中に埋め込み,ケース405と絶縁可能なように熱伝導率の低いプラスチック部材408を間に挿入することにより,熱電素子402の側面を熱的に絶縁すること。

4 引用文献4について
(1)引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,リモコン送信器,携帯電話機やPHS等の携帯通信機器,電子手帳等の情報携帯端末などといった,可搬性を備えた携帯型電子機器に係り,特に,発電機能を備えた携帯型電子機器に関するものである。」

「【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記した目的を達成するため,使用者が機器に所定の動作を行わせるための操作ボタンを有する携帯型電子機器において,
使用者が操作ボタンに触れることにより電極間の非晶質半導体に温度勾配を生じさせて起電圧を発生させる熱発電手段,および/または,操作ボタンの下部に配設されて磁石とコイルとばねとを有すると共に,使用者が操作ボタンを押圧することによって生じる磁石とコイルとの相対振動により起電圧を発生させる振動発電手段と,
熱発電手段または振動発電手段で発生した電圧を検波整流し直流電位に変換する検波整流手段と,
検波整流手段の直流電位により充電され負荷を駆動する2次電池とを,
具備した構成をとる。」

(2)上記(1)から,引用文献4には,次の事項が記載されていると認められる。
ア リモコン送信器に,熱発電手段による発電機能を設けること。

5 引用文献5について
(1)引用文献5の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,熱発電素子と低消費電力型の半導体回路を用いた電子装置に関し,また,非接触のICカード技術に関し,更には,指紋センサを用いて個人認証を行うセキュリティ装置に関する。」

「【0034】
本発明装置12により実現した指紋照合機能付のICカードを,例えば,玄関等のドアロック,自動車のキーレスエントリー等に適応すれば,個人認証を備えた非常に安全度の高いセキュリティシステムを構築することが可能となる。また,このようなセキュリティシステムに適応した場合,電源として電池を使用するようなシステムにおいては電池がなくなった場合には動作不能となるため,常に電池残量の心配をしなければならないが,本発明装置12のように熱発電素子1にて使用者の体温によって発電し,その僅かなエネルギーにて動作するシステムを提供することにより,電池切れの心配から解放される。しかも,指紋照合により個人認証を行っているのだが,そのために指等を触れる必要があるのならば,本発明装置12のように熱発電素子1と指紋センサ8の両方を具備し,同時に熱発電してエネルギーを供給するようにすることは非常に効率的であり理にかなっている。」

(2)上記(1)から,引用文献5には,次の事項が記載されていると認められる。
ア 指紋センサを用いて個人認証を行うセキュリティ装置において,熱発電素子1にて使用者の体温によって発電し,その僅かなエネルギーにて動作するシステムを提供すること。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明の「本体16」が有する「切り欠き(開口)44」は,本願発明1の「ハウジング」が有する「キャビティ(CV)」に相当する。また,引用発明の「本体16」は,「切り欠き(開口)44」を有し,「ユーザが自分の手のひらの上にあるように懐中電灯10を握ること」で,ユーザの手のひらに触れるものであるから,本願発明1の「使用時に使用者の身体に触れるハウジング(BT)であって,該ハウジング(BT)の外部に開いたキャビティ(CV)を有するハウジング」に相当する。

イ 引用発明の「LED58」は,「本体16」の内部に配置されるから,本願発明1の「前記ハウジング(BT)の内部に配置された電気素子(EL)」に相当する。

ウ 引用発明の「外面64」と「内面66」は互いに略平行に配置され,「ペルチェモジュール40」を構成するものであるから,本願発明1の「熱電モジュール(MT)」に含まれる「互いに略平行な」,「第1の板(P1)」及び「第2の板(P2)」にそれぞれ対応する。

エ 引用発明の「ユーザが自分の手のひらの上にあるように懐中電灯10を握ることで」,「約37℃の手のひら」が「外面64」に触れて,「ペルチェモジュール40」は,「外面64と内面66との間の温度差によって,LED58を点灯するのに十分な電力を生成する」ことに照らすと,「ペルチェモジュール40」は,ユーザの「握る」という行為によって,「LED58を点灯する」という操作をもたらすスイッチ(すなわちボタン)といえるから,本願発明1の「熱電モジュール(MT)」と,後記相違点1,3,4で相違するものの,「操作ボタン」である点で一致する。

オ 引用発明の「回路50」は,「LED58」と「電気的に連通する」から,本願発明1の「電子伝送回路(CT)」と,後記相違点5で相違するものの,「電気素子(EL)に接続する」点で一致する。

カ 引用発明の「回路50」及び「ペルチェモジュール40」によって,「LED58」が点灯するから,引用発明の「回路50」と「ペルチェモジュール40」を合わせたものは,本願発明1の「作動システム(SA)」と,「電気素子(EL)を作動させる」点で一致する。

キ 引用発明の「懐中電灯10」は,本願発明1の「装置(AP)」に相当する。

ク したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「装置(AP)であって,
使用時に使用者の身体に触れるハウジング(BT)であって,該ハウジング(BT)の外部に開いたキャビティ(CV)を有するハウジングと,
前記ハウジング(BT)の内部に配置された電気素子(EL)と,
前記電気素子(EL)を作動させるための作動システム(SA)であって,
互いに略平行な第1の板(P1)および第2の板(P2)とを含む操作ボタンとして機能する熱電モジュール(MT)と,
前記電気素子(EL)に接続する電子伝送回路(CT)と,
を有する,作動システムと,
を備える装置。」

<相違点>
(相違点1)「熱電モジュール(MT)」について,本願発明1は「電性の端子台(SM)を支持する互いに略平行な電気的絶縁性の第1の板(P1)および電気的絶縁性の第2の板(P2)と,前記第1の板の前記端子台と前記第2の板の前記端子台との間に延在する半導体ピラー(PL)と,を含」むのに対して,引用発明は「ペルチェモジュール40」について,「第1の板(P1)」と「第2の板(P2)」とがいずれも電気的絶縁性を有していることについて特定されておらず,「電性の端子台(SM)」と「前記第1の板の前記端子台と前記第2の板の前記端子台との間に延在する半導体ピラー(PL)」についても特定されていない点。

(相違点2)「キャビティ(CV)の壁(FD)」について,本願発明1は,「使用時に前記使用者の体温と同温となり得る」のに対して,引用発明は「切り欠き(開口)44」の壁について,使用時に使用者の体温と同温となり得ることについて特定されていない点。

(相違点3)「熱電モジュール(MT)」について,本願発明1は「第2の板(P2)」が「前記キャビティ(CV)の壁(FD)に直接当接して配置される」のに対して,引用発明は「ペルチェモジュール40」について,「内面66」が「切り欠き(開口44)」の壁に直接当接して配置されることについて特定されていない点。

(相違点4)「熱電モジュール(MT)」について,本願発明1は「高摩擦係数を有する材料で構成されまたは高摩擦係数を有する材料で構成された層を含み温極を形成する前記第1の板(P1)は前記使用者の身体で擦れるように前記ハウジング(BT)の外側からアクセス可能であるように,前記キャビティ(CV)内に収容されている」のに対して,引用発明は「ペルチェモジュール40」についてそのような特定はなされていない点。

(相違点5)「電子伝送回路(CT)」について,本願発明1は「前記第2の板(P2)の前記端子台(SM)の2つを前記電気素子(EL)に接続する」のに対して,引用発明は「回路50」についてそのような特定はなされていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み,まず,相違点2について検討する。
上記第5の1(3)のとおり,引用発明は,「ユーザが自分の手のひらの上にあるように懐中電灯10を握ることで,約37℃の手のひらに触れる外面64」と「内面66との間の温度差によって,LED58を点灯するのに十分な電力を生成する」こと,及び,「第1チャネル22および第2チャネル26の両方に存在し,ペルチェモジュール40全体に必要な温度差を提供する対流空気流62」によって,外面64と内面66との間に温度差を生じさせることに照らすと,ユーザが懐中電灯10を握ることで,外面64はユーザの体温である37℃と同温となる一方で,内面66は対流空気流62によってユーザの体温よりも低い温度を維持することにより,外面64と内面66との間に温度差を生じさせ,その結果,LED58を点灯するための電力を発生させるものと理解される。してみれば,切り欠き(開口)44の壁がユーザの体温と同温に達すると,内面66と外面64との間に温度差が生じずに,LED58を点灯することができなくなってしまうことは明らかであるから,懐中電灯10の使用時に,切り欠き(開口)44の温度をユーザの体温と同温とすることの動機付けはないというべきである。
また,上記第5の2-5のとおり,引用文献2-5に記載された技術的事項も,当該動機付けを示唆するものではない。
以上のとおりであるから,引用発明において上記相違点2に係る本願発明1の構成とすることを,当業者が容易になし得たとはいえない。

よって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は当業者であっても,引用発明,及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2-11について
本願発明2-11は,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定したものであるから,本願発明1が,引用発明,及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないことから,本願発明2-11も,引用発明,及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定について
1 特許法第29条第2項について
審判請求時の補正により,本願発明1-11は「使用時に前記使用者の体温と同温となり得る」という事項を有するものとなっており,上記第6で検討したとおり,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1-5に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。


 
審決日 2020-09-30 
出願番号 特願2017-241457(P2017-241457)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 加藤 俊哉  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 西出 隆二
小川 将之
発明の名称 熱電式ボタンを備えた時計  
代理人 小池 勇三  
代理人 山川 茂樹  
代理人 山川 政樹  

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