理由
第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)3月28日(パリ条約 による優先権主張外国庁受理 2014年3月31日 米国, 2015年3月27日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年3月13日 :手続補正書の提出
平成31年1月11日付け :拒絶理由通知書
平成31年4月16日 :意見書,手続補正書の提出
平成31年4月25日付け :拒絶査定
令和 1年6月20日 :拒絶査定不服審判の請求,手続補正書の提出
第2 令和1年6月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年6月20日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本願発明と補正後の発明(補正の概要)
本件補正は、平成31年4月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された
「ユーザ機器(UE)によるワイヤレス通信のための方法であって、
前記UEの最大送信電力を決定するステップと、
無線リソース制御(RRC)シグナリングによって、第1の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第1の最低保証電力および第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第2の最低保証電力を半静的に設定するステップであって、前記第1の最低保証電力と前記第2の最低保証電力との合計が前記最大送信電力を超えない、ステップと、
前記UEの前記最大送信電力、前記第1の最低保証電力、および前記第2の最低保証電力に少なくとも部分的に基づいて、前記第1の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第1の最大送信電力および前記第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第2の最大送信電力を動的に決定するステップであって、前記第1の最大送信電力と前記第2の最大送信電力との合計が前記最大送信電力を超えない、ステップと
を含み、前記第1の最大送信電力および前記第2の最大送信電力を動的に決定するステップが、
前記第1の基地局に対するアップリンク送信のための前記第1の最低保証電力の未使用量を決定するステップと、
前記第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な前記第2の最大送信電力を決定するとき、前記未使用量の少なくとも一部を含めるステップと
を含む、方法。」(以下,「本願発明」という。)
を,
「ユーザ機器(UE)によるワイヤレス通信のための方法であって、
前記UEの最大送信電力を決定するステップと、
第1の基地局および第2の基地局と前記UEとの間の無線リソース制御(RRC)シグナリングによって、前記第1の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第1の最低保証電力および前記第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第2の最低保証電力を半静的に設定するステップであって、前記第1の最低保証電力と前記第2の最低保証電力との合計が前記最大送信電力を超えない、ステップと、
前記UEの前記最大送信電力、前記第1の最低保証電力、および前記第2の最低保証電力に少なくとも部分的に基づいて、前記第1の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第1の最大送信電力および前記第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第2の最大送信電力を動的に決定するステップであって、前記第1の最大送信電力と前記第2の最大送信電力との合計が前記最大送信電力を超えない、ステップと
を含み、前記第1の最大送信電力および前記第2の最大送信電力を動的に決定するステップが、
前記第1の基地局に対するアップリンク送信のための前記第1の最低保証電力の未使用量を決定するステップと、
前記第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な前記第2の最大送信電力を決定するとき、前記未使用量の少なくとも一部を含めるステップと
を含む、方法。」(以下,「補正後の発明」という。)
に変更することを含むものである。([当審注]:下線部は補正箇所を示す。)
2 補正の適否
(1)新規事項の有無,シフト補正の有無,補正の目的要件
請求項1についての上記補正は,本件補正前の「無線リソース制御(RRC)シグナリング」を「第1の基地局および第2の基地局と前記UEとの間の無線リソース制御(RRC)シグナリング」と限定する補正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そして,請求項1についての上記補正は,特許法第17条の2第3項 (新規事項),第4項(シフト補正)に違反するものではない。
請求項1について上記補正は特許請求の範囲を減縮するものであるから、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項 において準用する同法第126条第7項 に規定する要件を満たすか)否かについて,以下検討する。
(2)独立特許要件
ア 補正後の発明
補正後の発明は,上記「1 本願発明と補正後の発明」の項の「補正後の発明」のとおりのものと認める。
イ 引用発明等
原査定の拒絶の理由に引用された,LG Electronics,Power control for dual connectivity(当審訳:デュアルコネクティビティの電力制御)[online],3GPP TSG-RAN WG1#76bis R1-141344,インターネット<URL:https://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_76b/Docs/R1-141344.zip>,2014年 3月22日(アップロード)(以下,「引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。
(ア)「(前略)
3. Options for power allocation between two eNBs
In this section, we provide possible approaches related to power control for dual connectivity with considerations mentioned in Section 2. As dual connectivity needs to be supported for asynchronous case by working assumption, power control should also consider asynchronous case. Thus, overall, two power sharing categories can be considered - (1) Option 1. semi-static power split between two eNBs (2) Option 2. power sharing similar to CA framework between two eNBs with power scaling in power limited case. More detailed discussions are as follows.
[Option 1]: Introduce additional UE maximum output power for each eNB (semi-static power split)
UE maximum power per eNB may be configured for each eNB separately when UE operates in dual connectivity mode. In this case, total power for UL transmission associated with MeNB (or SeNB) would not exceed the UE maximum power configured for MeNB (or SeNB), respectively. With separately configured maximum power usable for each eNB, handling and determining power limited case would also occur independently for each eNB. If the total power for UL transmission is larger than the UE total maximum output power, then additional power scaling may be needed. To avoid additional power scaling, it is desirable to assign maximum power for each eNB such that the total power does not exceed UE total maximum power. Depending on whether to share unused power or how to determine power limited case, a few variations of this option can be considered as below.
: Static allocation without unused power sharing
In this option, power control is performed independently per each eNB with a configured maximum power per eNB without any power sharing of unused power. In this case, power control for each channel/signal may follow Rel-11 specification within carriers configured by one eNB. When power for each signal is determined, for CCs belonging to the same eNB, power scaling would be applied as in Rel-11 for each eNB. It seems that specification impact of this option is relatively small, but performance would not be fully optimized. Particularly, when the power split between two eNBs are not optimized, unnecessary power scaling may occur in either eNB and thus may also impact the coverage of MeNB as shown in Figure 1.
Figure 1: Example of Option 1-1.
: Static allocation with sharing of unused power
In this option, a UE may determine power limited case per eNB same as Option 1-1. When a UE detects power-limited case in an eNB, if there is unused power in the other eNB, unused power can be applied toward the power-limited uplink transmissions as shown in Figure 2.
Figure 2: Example of Option 1-2.
(後略)」(2ページ?3ページ)
([当審仮訳]:
(中略)
3.2つのeNB間の電力割り当てのオプション
このセクションでは、セクション2で説明した考慮事項を使用して、デュアルコネクティビティの電力制御に関連する可能なアプローチを提供する。作業仮説により、デュアルコネクティビティが非同期ケースでサポートされる必要があるため、電力制御は非同期ケースも考慮する必要がある。したがって、全体として、2つの電力共有カテゴリを考慮することができる、(1)オプション1.2つのeNB間での準静的な電力分割(2)オプション2.電力が制限されている場合の電力スケーリングを使用した2つのeNB間でのCAフレームワークに類似した電力共有。より詳細な議論は以下の通りである。
[オプション1]:各eNBに追加のUE最大出力電力を導入する(半静的な電力分割)
UEがデュアルコネクティビティモードで動作する場合、eNB毎のUE最大電力は、各eNBに対して別々に設定されてもよい。この場合、MeNB(又はSeNB)に関連付けられたUL送信の合計電力は、それぞれMeNB(又はSeNB)に対して設定されたUE最大電力を超えない。各eNBに対して使用可能な最大電力を個別に設定すると、電力制限のあるケースの取扱いと決定も各eNBに対して独立して発生する。UL送信の合計電力がUEの合計最大出力電力より大きい場合、追加の電力スケーリングが必要になる場合がある。追加の電力スケーリングを回避するために、合計電力がUEの合計最大電力を超えないように、各eNBに対する最大電力を割り当てることが望ましい。未使用の電力を共有するか、電力が制限されている場合の判断方法に応じて、このオプションのいくつかのバリエーションを以下のように考えることができる。
<オプション1-1>:未使用の電力共有のない静的割り当て
このオプションでは、電力制御は各eNB毎に独立して実行され、eNB毎に設定された最大電力を使用し、未使用電力の電力共有は行われない。この場合、各チャネル/信号の電力制御は、1つのeNBによって設定されたキャリア内でRel-11仕様に従い得る。同じeNBに属するCCに対して、各信号の電力が決定されると、各eNBに対してRel-11のように電力スケーリングが適用される。このオプションの仕様への影響は比較的小さいようだが、パフォーマンスは完全には最適化されていない。特に、2つのeNB間の電力分割が最適化されていない場合、いずれかのeNBで不必要な電力スケーリングが発生する可能性があり、図1に示すようにMeNBのカバレッジにも影響を与える可能性がある。
(図1省略)
<オプション1-2>:未使用の電力を共有する静的割り当て
このオプションでは、UEはオプション1-1と同じようにeNB毎に電力制限されたケースを決定できる。UEがあるeNBで電力制限されたケースを検出し、他のeNBに未使用の電力がある場合、図2に示すように、電力制限されたアップリンク送信に未使用の電力を適用できる。
図2:オプション1-2の例
)
上記摘記事項の記載及び当業者の技術常識を考慮すると,次のことがいえる。
a 上記オプション1には、「各eNBに追加のUE最大出力電力を導入する(半静的な電力分割)」、「UEがデュアルコネクティビティモードで動作する場合、eNB毎のUE最大電力は、各eNBに対して別々に設定されてもよい。この場合、MeNB(又はSeNB)に関連付けられたUL送信の合計電力は、それぞれMeNB(又はSeNB)に対して設定されたUE最大電力を超えない。」と記載されており、「各eNBに追加のUE最大出力電力を導入する」ことが、「半静的な電力分割」であることを意味していると解されるから,eNB毎のUL送信のためのUE最大電力(すなわち、各eNBに導入された追加のUE最大出力電力)は、各eNBに対して別々に半静的に設定されるといえる。
また,上記オプション1-1の図1,オプション1-2の図2からは,UEの合計最大電力がPcmaxであり、各eNBに対して使用可能なUE最大電力としてMeNB,SeNBにそれぞれ「P_(CMAX,MeNB)」、「P_(CMAX,SeNB)」が設定されていることが見て取れ、上記オプション1には、「追加の電力スケーリングを回避するために、合計電力がUEの合計最大電力を超えないように、各eNBに対する最大電力を割り当てる」と記載されているから、各eNBに対して割り当てられるUE最大電力の合計がUEの合計最大電力を超えないといえる。
そうすると,引用例には、「eNB毎のUL送信のためのUE最大電力は、各eNBに対して別々に半静的に設定され」るものであり,「各eNBに対して割り当てるUE最大電力の合計がUEの合計最大電力を超えない」ことが記載されていると認められる。
b 上記オプション1-2には、「UEがあるeNBで電力が制限されたケースを検出し、他のeNBに未使用の電力がある場合、図2に示すように、電力制限されたアップリンク送信に未使用の電力を適用できる。」と記載されており,該オプション1-2の図2からも、MeNBに対して設定されたUE最大電力(P_(CMAX,MeNB))を超えてUL送信の電力が必要な場合に、SeNBに対して設定されたUE最大電力(P_(CMAX,SeNB))内の未使用電力の一部をMeNBが使用することによってMeNBの最終UL電力としていることが見て取れる。そして、上記UEがeNBで電力制限されている場合とは、図2のMeNBやSeNBに対してUE最大電力が設定されている場合である認められる。そうすると、引用例には「MeNBに対して設定されたUE最大電力(P_(CMAX,MeNB))を超えてUL送信の電力が必要な場合に、SeNBに対して設定されたUE最大電力(P_(CMAX,SeNB))内の未使用電力の一部をMeNBに適用することによってMeNBの最終UL電力とする」ことが記載されていると認められる。
また、SeNBに対して設定されたUE最大電力(P_(CMAX,SeNB))内の未使用電力の一部をMeNBに適用するものであるから、「SeNB」でのUE未使用電力の決定も行われていることは自明である。そして、該オプション1-2の図2によれば、SeNBに必要とされるUL送信電力をSeNBの最終UL電力とすることが見て取れる。
したがって、引用例には「SeNBに対するUL送信のためのUE最大電力(P_(CMAX,SeNB))内の未使用電力を決定し、SeNBに必要とされるUL送信電力をSeNBの最終UL電力とする」ことが記載されていると認められる。
そして、SeNBでの「未使用電力」は「動的」に変わることは自明であるから、該「未使用電力」の適用によって得られる「MeNBの最終UL電力」及び「SeNBの最終UL電力」は「動的」に決定されることは自明である。
そうすると、引用例には、「MeNBの最終UL電力及びSeNBの最終UL電力を動的に決定する」ことが記載されていると認められる。
d また、上記オプション1、オプション1-1、オプション1-2、オプション1-1の図1、オプション1-2の図2は、UEによるUL送信のための方法が記載されているといえるから、引用例には「UEによるUL送信のための方法」が記載されているといえる。
以上を総合すると、引用例には,以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「UEによるUL送信の方法であって、
eNB毎のUL送信のためのUE最大電力は、各eNBに対して別々に半静的に設定され、ここで、各eNBに対して割り当てるUE最大電力の合計がUEの合計最大電力を超えない、
MeNBに対して設定されたUE最大電力(P_(CMAX,MeNB))を超えてUL送信の電力が必要な場合に、SeNBに対して設定されたUE最大電力(P_(CMAX,SeNB))内の未使用電力の一部を前記MeNBに適用することによって前記MeNBの最終UL電力とする、
前記SeNBに対して設定されたUL送信のためのUE最大電力(P_(CMAX,SeNB))内の未使用電力を決定し、前記SeNBに必要とされるUL送信電力を前記SeNBの最終UL電力とする、
前記MeNBの最終UL電力及び前記SeNBの最終UL電力を動的に決定する、こと、を含む方法。」
[周知技術]
原査定の拒絶の理由に引用された,特表2013-531435号公報(引用例3)には以下の事項が記載されている。
(イ)「【0049】
数式(2)、(3)において、キャリアのセルで許可された最大送信電力は、UEがUL送信を遂行するセルで許可された最大送信電力であり、システム情報又は制御情報としてUEに送信される。」
原査定の拒絶の理由に引用された,特開2012-216969号公報(引用例5)には以下の事項が記載されている。
(ウ)「【0042】
図5は、本発明の一実施例による移動局における最大送信電力を決定するための一例となる処理を示すフロー図である。図示された実施例では、移動局100は、上述したケース1の優先順位に従って、リソースブロックが割り当てられた各CCの送信可能な最大送信電力Pcmax,cを決定する。
【0043】
図5に示されるように、基地局50からリソースブロックを割り当てられると、移動局100は、リソースブロックが割り当てられたCCの最大送信電力Pcmax,cを決定するための処理を開始する。
【0044】
ステップS101において、移動局100は、基地局50から受信したRRCメッセージ及びスケジューリング情報に基づき各CCの利用可能な最大送信電力Pcmax,cを決定するため、最大送信電力Pcmax,cの上限値Pcmax,c_H及び下限値Pcmax,c_Lなどの計算式の各種パラメータを初期化するなど、初期化処理を実行する。
【0045】
ステップS102において、Pcmax,c計算部160は、図6及び7に示されるような処理に従って、最も高い優先度を有するPUCCHの送信電力を算出する。
【0046】
ステップS103において、Pcmax,c計算部160は、図8に示されるような処理に従って、次に高い優先度を有するPUSCH w/ UCIの送信電力を算出する。
【0047】
ステップS104において、Pcmax,c計算部160は、図9に示されるような処理に従って、次に高い優先度を有するPUSCH w/o UCIの送信電力を算出する。
【0048】
ステップS105において、Pcmax,c計算部160は、図10に示されるような処理に従って、最も低い優先度を有するSRSの送信電力を算出する。
【0049】
ステップS106において、Pcmax,c計算部160は、PUCCH、PUSCH w/ UCI、PUSCH w/o UCI及びSRSに対して算出した送信電力に基づき最大送信電力Pcmax,cを決定する。なお、リソースブロックが割り当てられたすべてのCCの最大送信電力Pcmax,cの合計値が移動局の送信可能な最大送信電力を超えないことが要求されるケースでは、決定された最大送信電力Pcmax,cが上限値Pcmax,c_H未満であり、余剰の送信電力があるCCが存在する場合、この余剰送信電力は他のCCに均等に配分するようにしてもよい。」
上記(イ)?(ウ)の記載並びに当業者の技術常識を考慮すると、「基地局からのRRCメッセージに基づき移動局の各CCの利用可能な最大送信電力を決定する。」ことは周知技術であると認められる。
ウ 対比・判断
補正後の発明と引用発明とを対比すると,以下のことがいえる。
(ア)引用発明の「UE」は,補正後の発明の「ユーザ機器(UE)」に相当し,引用発明の「UEによるUL送信」は,「ワイヤレス通信」に含まれるから,引用発明の「UEによるUL送信の方法」は,補正後の発明と同様に「ユーザ機器(UE)によるワイヤレス通信のための方法」といえる。
(イ)補正後の発明の「UEの最大送信電力」とは、本願明細書の段落【0063】、【0069】、【0070】、図11,図12からも明らかなようにUEが送信に使用できる最大電力であると認められる。一方、引用発明の「合計最大電力」は、各eNBに対して割り当てる最大電力の合計が当該「合計最大電力」を超えることができないものであるから、UEがUL送信に使用できる最大電力であるといえ、当該「合計最大電力」が決定されていることは明らかである。そうすると、引用発明の「合計最大電力」は、補正後の発明の「最大送信電力」に相当し、引用発明も、補正後の発明の「UEの最大送信電力を決定するステップ」を有しているといえる。
(ウ)引用発明の「eNB」は、補正後の発明の「基地局」に相当し、引用発明の「UL送信」は、補正後の発明の「アップリンク送信」に相当する。そして、補正後の発明の「第1の最低保証電力」及び「第2の最低保証電力」は、「第1の基地局」及び「第2の基地局」に対してアップリンク送信のために利用が保証された電力を表すものといえる。一方、引用発明の「eNB毎のUL送信ためのUE最大電力」も、各eNBに対するアップリンク送信のために半静的に設定されるものであって、利用が保証された電力といえる。したがって、引用発明の各eNBの「一のeNB」を「第1の基地局」、各eNBの「他のeNB」を「第2の基地局」と称すること、引用発明の「UE最大電力」を、「最低保証電力」と称することは、それぞれ任意である。
そして、引用発明は「各eNBに割り当てる最大電力の合計がUEの合計最大電力を超えない」ものであり、補正後の発明は「第1の最低保証電力と前記第2の最低保証電力との合計が前記最大送信電力を超えない」ものであるから、補正後の発明と引用発明は、「第1の最低保証電力と前記第2の最低保証電力との合計が前記最大送信電力を超えない」点で一致する。
そうすると、補正後の発明の「第1の基地局および第2の基地局と前記UEとの間の無線リソース制御(RRC)シグナリングによって、前記第1の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第1の最低保証電力および前記第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第2の最低保証電力を半静的に設定するステップであって,前記第1の最低保証電力と前記第2の最低保証電力との合計が前記最大送信電力を超えない、ステップ」と、引用発明の「eNB毎のUL送信のためのUE最大電力は、各eNBに対して別々に半静的に設定され、ここで、各eNBに割り当てる最大電力の合計がUEの合計最大電力を超えない、」とは、「第1の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第1の最低保証電力および第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第2の最低保証電力を半静的に設定するステップであって,前記第1の最低保証電力と前記第2の最低保証電力との合計が前記最大送信電力を超えない、ステップ」を有するという点で共通する。
(エ)補正後の発明の「第1の最大送信電力」は、第1の基地局に対するアップリンク送信のための第1の最低保証電力の未使用量を決定することによって得られるものであり、また「第2の最大送信電力」は、第2の基地局に対するアップリンク送信のために第1の最低保証電力の未使用量の少なくとも一部を含めることによって決定されるものであり、これらを決定することを動的に決定することと定義しているものである。
一方、引用発明も「前記SeNBに対して設定されたUL送信のためのUE最大電力(P_(CMAX,SeNB))内の未使用電力を決定し」、「SeNBに対して設定されたUE最大電力(P_(CMAX,SeNB))内の前記未使用電力の一部をMeNBに適用」しているから、「未使用電力の一部を前記MeNB側に適用することによって」得られる「MeNBの最終UL電力」は、補正後の発明の「第2の最大送信電力」に相当する。
そして、引用発明の「SeNBに必要とされるUL送信電力をSeNBの最終UL電力」は、補正後の発明の「第1の最大送信電力」に相当し、引用発明の「MeNB」を「第2の基地局」、引用発明の「SeNB」を「第1の基地局」と称することは任意である。
また、引用発明の「MeNBの最終UL電力」、「SeNBの最終UL電力」は、「合計最大電力」、「UE最大電力(P_(CMAX,MeNB))」、「UE最大電力(P_(CMAX,SeNB))」に基づいていることも明らかである。
そうすると、補正後の発明の「前記UEの前記最大送信電力、前記第1の最低保証電力、および前記第2の最低保証電力に少なくとも部分的に基づいて、前記第1の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第1の最大送信電力および前記第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第2の最大送信電力を動的に決定するステップであって、前記第1の最大送信電力と前記第2の最大送信電力との合計が前記最大送信電力を超えない、ステップとを含み、前記第1の最大送信電力および前記第2の最大送信電力を動的に決定するステップが、前記第1の基地局に対するアップリンク送信のための前記第1の最低保証電力の未使用量を決定するステップと、前記第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な前記第2の最大送信電力を決定するとき、前記未使用量の少なくとも一部を含めるステップ」と、引用発明の「MeNBに対して設定されたUE最大電力(P_(CMAX,MeNB))を超えてUL送信の電力が必要な場合に、SeNBに対して設定されたUE最大電力(P_(CMAX,SeNB))内の未使用電力の一部を前記MeNBに適用することによって前記MeNBの最終UL電力とする、前記SeNBに対して設定されたUL送信のためのUE最大電力(P_(CMAX,SeNB))内の未使用電力を決定し、前記SeNBに必要とされるUL送信電力を前記SeNBの最終UL電力とする、前記MeNBの最終UL電力及び前記SeNBの最終UL電力を動的に決定する、」とは、「前記UEの前記最大送信電力、前記第1の最低保証電力、および前記第2の最低保証電力に少なくとも部分的に基づいて、前記第1の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第1の最大送信電力および前記第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第2の最大送信電力を動的に決定するステップであって、前記第1の最大送信電力と前記第2の最大送信電力との合計が前記最大送信電力を超えない、ステップとを含み、前記第1の最大送信電力および前記第2の最大送信電力を動的に決定するステップが、前記第1の基地局に対するアップリンク送信のための前記第1の最低保証電力の未使用量を決定するステップと、前記第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な前記第2の最大送信電力を決定するとき、前記未使用量の少なくとも一部を含めるステップ」を有する点で一致する。
以上を総合すると,補正後の発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。
(一致点)
「ユーザ機器(UE)によるワイヤレス通信のための方法であって,
UEの最大送信電力を決定するステップと,
第1の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第1の最低保証電力および第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第2の最低保証電力を半静的に設定するステップであって、前記第1の最低保証電力と前記第2の最低保証電力との合計が前記最大送信電力を超えない、ステップと、
前記UEの前記最大送信電力、前記第1の最低保証電力、および前記第2の最低保証電力に少なくとも部分的に基づいて、前記第1の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第1の最大送信電力および前記第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な第2の最大送信電力を動的に決定するステップであって、前記第1の最大送信電力と前記第2の最大送信電力との合計が前記最大送信電力を超えない、ステップと
を含み、前記第1の最大送信電力および前記第2の最大送信電力を動的に決定するステップが、
前記第1の基地局に対するアップリンク送信のための前記第1の最低保証電力の未使用量を決定するステップと、
前記第2の基地局に対するアップリンク送信のために利用可能な前記第2の最大送信電力を決定するとき、前記未使用量の少なくとも一部を含めるステップと
を含む,方法。」
(相違点)
補正後の発明は、第1の最低保証電力および第2の最低保証電力が、「第1の基地局および第2の基地局と前記UEとの間の無線リソース制御(RRC)シグナリングによって設定される」のに対し、引用発明は、「eNB毎のUL送信のためのUE最大電力は、各eNBに対して別々に半静的に設定される」ものの、無線リソース制御(RRC)シグナリングによって設定されることが明示されていない点。
以下、上記相違点について検討する。
上記[周知技術]で述べたとおり、「基地局からのRRCメッセージに基づき移動局の各CCの利用可能な最大送信電力を決定する。」ことは技術常識ともいえる周知技術であるから、引用発明においても、UEの各eNBのUE最大電力を設定する際、eNBからのRRCメッセージ、すなわち無線リソース制御(RRC)シグナリングによって設定するよう構成することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、補正後の発明の作用効果も、引用発明、周知技術に基づいて当業者が予測できる範囲のものにすぎず、格別顕著なものとはいえない。
したがって、補正後の発明は、引用発明、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項 の規定により、特許を受けることができない。
3 結語
したがって、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項 において準用する同法第126条第7項 の規定に違反するので、同法第159条第1項 において読み替えて準用する同法第53条第1項 の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和1年6月20日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成31年4月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、上記「第2」の項中の「1」の項の「本願発明」のとおりのものと認める。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶理由は、
1.(進歩性 )この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項 の規定により特許を受けることができない。
というものであり、請求項1に対して、以下、引用例1、3-5が引用されている。
1.LG Electronics,Power control for dual connectivity[online],3GPP TSG-RAN WG1#76bis R1-141344,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_76b/Docs/R1-141344.zip>,2014年 3月22日(アップロード)
3.特表2013-531435号公報
4.国際公開第2011/162549号(引用例3のパテントファミリ)
5.特開2012-216969号公報
3 引用発明
現査定の拒絶理由で引用した引用例1及び引用例3-5は,上記「第2 令和1年6月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ 引用発明等」の項の「引用例」及び「周知技術」にそれぞれ対応する。なお、原査定の拒絶理由で引用した引用例4は、引用例3のパテントファミリであるから、同様に「周知技術」に対応する。
そして、引用発明は、上記「第2 令和1年6月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ 引用発明等」の項で認定したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は,補正後の発明から当該補正に係る限定事項を省いたものである。そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する補正後の発明が、上記「第2 令和1年6月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の「(2)独立特許要件」の「ウ 対比・判断」に記載したとおり、引用発明,周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項 の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。