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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1366921 |
審判番号 | 不服2019-14841 |
総通号数 | 251 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-11-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-11-06 |
確定日 | 2020-10-08 |
事件の表示 | 特願2015-194464「ウェハの高精度加工装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日出願公開、特開2017- 69429〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成27年9月30日の出願であって,その手続の概要は,以下のとおりである。 平成31年 3月13日:拒絶理由通知(起案日) 令和 元年 5月17日:意見書,手続補正書 令和 元年 7月25日:拒絶査定(起案日) 令和 元年11月 6日:審判請求,手続補正書 第2 令和元年11月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和元年11月6日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載(補正箇所に下線を付した。) 本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。 「【請求項1】 円板状のウェハを吸引保持する円板状のチャックと,該チャックと一体に回転するチャックベースを有する回転チャックテーブルと,該回転チャックテーブル上のウェハを研削する回転加工ホイールと,前記回転チャックテーブル上に研削水を供給するノズルと,を備えるウェハの高精度加工装置であって, 前記回転チャックテーブルは,前記回転チャックテーブルを略定温に保持して加工熱に伴う前記回転チャックテーブルの熱膨張変形を低減するための恒温チラー水を流す水路を内部に設けた恒温制御部を有する,ことを特徴とするウェハの高精度加工装置。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 円板状のウェハを吸引保持する円板状のチャックと,該チャックと一体に回転するチャックベースを有する回転チャックテーブルと,該回転チャックテーブル上のウェハを研削する回転加工ホイールと,前記回転チャックテーブル上に研削水を供給するノズルと,を備えるウェハの高精度加工装置であって, 前記回転チャックテーブルは,前記回転チャックテーブルを略定温に保持して加工熱に伴う前記回転チャックテーブルの熱膨張変形を低減するための恒温チラー水を流す水路を設けた恒温制御部を有する,ことを特徴とするウェハの高精度加工装置。」 2 補正の適否 本件補正は,本願の出願当初の明細書の【0035】の「前記恒温制御部19は,前記チャックベース17の上面(チャック18と対向する面)を断面U字に掘削した溝として形成され,その溝の上面をチャック18の下面(界面)で覆って塞いだ,水路119でなる。」との記載,及び図2に描かれた構成(水路119が回転チャックテーブル13の内部に設けられている)に基づき,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「恒温制御部」について,上記のとおり限定を付加して補正後の請求項1とする補正事項を含む。 そして,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。 したがって,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項について限定を付加して補正後の請求項1とする補正は,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2006-68862号公報(以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は,当審で付加した。以下同じ。) 「【請求項1】 吸引手段と連通する吸引通路を備えた基台と,該基台の上面に着脱可能に装着され被加工物を吸引保持する保持部材とからなり,該保持部材が被加工物を吸引保持する保持面に細孔が開口された吸引部と,該保持面を囲繞する支持部とを有し,該支持部に該細孔と該吸引通路とを連通する連通路か形成されている,チャックテーブルにおいて, 該基台と該保持部材は,互いに外周部だけで接合され,該吸引通路と該連通路がそれぞれ該外周部で互いに対向する位置に開口している, ことを特徴とするチャックテーブル。 【請求項2】 該基台の上面には外周部に第1の環状接合面が形成されているとともに該第1の環状接合面の内側に第1の凹部が形成され,該保持部材の下面には外周部に第2の環状接合面が形成されているとともに該第2の環状接合面の内側に第2の凹部が形成されており,該基台と該保持部材は該第1の環状接合面と該第2の環状接合面だけで接合される,請求項1記載のチャックテーブル。 【請求項3】 該吸引通路と該連通路は,それぞれ該第1の環状接合面と該第2の環状接合面に開口している,請求項2記載のチャックテーブル。 【請求項4】 該基台の上面に形成された該第1の凹部と該保持部材に形成された該第2の凹部とによって形成される室は,冷却媒体供給手段に連通されている,請求項2又は3記載のチャックテーブル。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は,研磨装置等における被加工物を保持するためのチャックテーブルに関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 而して,保持部材と基台を分けて構成したチャックテーブルにおいては,基台と保持部材との接合面の面精度が悪いと両者の接合面から負圧が漏れて吸引力が低減したり,被加工物を保持する保持面の面精度が安定せず被加工物を高精度に研磨することができないという問題がある。 【0007】 本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり,その主たる技術課題は,被加工物を保持する保持部材と基台との接合面の面精度を高精度に確保することができるチャックテーブルを提供することにある。」 「【0012】 図1には本発明に従って構成されたチャックテーブルを装備した研磨装置の斜視図が示されている。 図示の研磨装置は,全体を番号2で示す装置ハウジングを具備している。この装置ハウジング2は,細長く延在する直方体形状の主部21と,該主部21の後端部(図1において右上端)に設けられ実質上鉛直に上方に延びる直立壁22とを有している。直立壁22の前面には,上下方向に延びる一対の案内レール221,221が設けられている。この一対の案内レール221,221に研磨手段としての研磨ユニット3が上下方向に移動可能に装着されている。 【0013】 研磨ユニット3は,移動基台31と該移動基台31に装着されたスピンドルユニット32を具備している。移動基台31は,後面両側に上下方向に延びる一対の脚部311,311が設けられており,この一対の脚部311,311に上記一対の案内レール221,221と摺動可能に係合する被案内溝312,312が形成されている。このように直立壁22に設けられた一対の案内レール221,221に摺動可能に装着された移動基台31の前面には前方に突出した支持部313が設けられている。この支持部313にスピンドルユニット32が取り付けられる。 【0014】 スピンドルユニット32は,支持部313に装着されたスピンドルハウジング33と,該スピンドルハウジング33に回転自在に配設された回転スピンドル34と,該回転スピンドル34を回転駆動するための駆動手段としてのサーボモータ35とを具備している。回転スピンドル34の下端部はスピンドルハウジング33の下端を越えて下方に突出せしめられており,その下端には円板形状のマウンター4が設けられている。このマウンター4の下面に研磨ホイール5が取付けボルト51によって装着される。」 「【0017】 チャックテーブル8について,図2および図3を参照して説明する。 図示の実施形態におけるチャックテーブル8は,円柱状の基台81と,該基台81の上面に着脱可能に装着される円盤状の保持部材82とからなっている。基台81は,その上面外周部が第1の環状接合面811となっており,該接合面811の内側には第1の凹部812が形成されている。この基台81には図3に示すように複数の吸引通路813が形成されており,この吸引通路813の一端は上記第1の環状接合面811に開口しており(図2参照),吸引通路813の他端は図示しない吸引源に連通されている。また,基台81には,上記第1の凹部812に冷却媒体を供給する冷却媒体供給手段を構成する冷却媒体供給通路814と冷却媒体排出通路815が設けられている。冷却媒体供給通路814の一端は上記第1の凹部812に開口しており,冷却媒体供給通路814の他端は図示しない冷却媒体供給源に連通されている。一方,冷却媒体排出通路815の一端は冷却媒体供給通路814と略180度の位相角を持って上記第1の凹部812に開口しており,冷却媒体排出通路815の他端は図示しない冷却媒体循環路に接続されまたは冷却媒体が空気の場合には大気に開放されている。更に,基台81には,上記第1の環状接合面811から穿設された複数(図示の実施形態においては4個)の雌ネジ穴816が設けられている。このように構成されたチャックテーブル8は,図示しないサーボモータによって回転せしめられるようになっている。 【0018】 上記保持部材82は,被加工物を吸引保持する保持部821と,該保持部821を囲繞する支持部822とからなっている。保持部821は,支持部822の上面より上方に突出して形成されており,図示の実施形態においてはその上面には円形状の嵌合凹部821aが設けられ,この嵌合凹部821aに吸着チャック823が嵌合されている。吸着チャック823は多孔質セラミッックスの如き適宜の多孔性材料からなっており,その上面である保持面823aには複数の吸引細孔が開口されている。また,保持部821には,上記嵌合凹部821aに一端が開口する複数の吸引孔821bと,該複数の吸引孔821bの他端と連通する通路822cが形成されている。なお,保持部821の下面には,上記基台81の上面に形成された第1の凹部812と対向する位置に第2の凹部821dが設けられている。保持部821における第2の凹部821dより外周側と上記支持部822の下面は第2の環状接合面824となっており,この第2の環状接合面824は上記基台81の上面外周部に形成された第1の環状接合面811上に載置され接合される。支持部822には,上記通路822cに一端が連通し,他端が上記第2の環状接合面824に開口する連通路822aが形成されている。この連通路822aは,上記基台81の第1の環状接合面811に開口する吸引通路813対向する位置に設けられている。従って,吸引通路813と連通路822aは,互いに連通する。また,支持部822には,図2に示すように上記基台81に設けられた複数(図示の実施形態においては4個)の雌ネジ穴816とそれぞれ対向する位置に4個(図2においては3個が示されている)のボルト挿通穴822bが設けられている。」 「【0021】 図示の実施形態における研磨装置は以上のように構成されており,以下その作用について説明する。 図1に示す研磨装置を用いて被加工物を研磨するには,先ず図1に示す被加工物載置域24に位置付けられているチャックテーブル8上に被加工物である例えば半導体ウエーハ10を載置する。このとき,半導体ウエーハ10の表面(回路が形成されている面)に保護テープ11を貼着し,該保護テープ11をチャックテーブル8上に載置する。従って,半導体ウエーハ10は,裏面を上側にしてチャックテーブル8上に載置されることになる。このようにしてチャックテーブル8上に載置されたウエーハ10は,図示しない吸引手段を作動することによってチャックテーブル8上に吸引保持される。即ち,図示しない吸引手段を作動すると,図3に示すようにチャックテーブル8の基台81に設けられた吸引通路813,保持部材82の支持部822に設けられた連通路822a,保持部821に設けられた通路822cおよび吸引孔821bを通して嵌合凹部821aに負圧が作用せしめられる。この結果,嵌合凹部821aに嵌合された多孔性材料からなる吸着チャック823の上面である保持面823aに負圧が作用し,チャックテーブル8は保持面823a上に半導体ウエーハ10を吸引保持する。また,冷却媒体供給手段を作動し,図示しない冷却媒体供給源から冷却媒体をチャックテーブル8の基台81に設けられた冷却媒体供給通路814を通して,第1の凹部812と保持部材82の保持部821に設けられた第2の凹部821dとによって形成される室に導入する。このようにして上記第1の凹部812と第2の凹部821dによって形成された室に導入された冷却媒体は,保持部材82の保持部821を冷却して冷却媒体排出通路815から排出される。この結果,保持部821の保持面が冷却され,該保持面上に保持されたウエーハ10を冷却することができる。従って,後述する研磨時において研磨ホイール5によって研磨されることによって発生する熱によるウエーハ10の過熱を防止することができる。 【0022】 チャックテーブル8上にウエーハ10を吸引保持したならば,図示しないチャックテーブル移動機構を作動してチャックテーブル8を矢印23aで示す方向に移動し,チャックテーブル8上に保持されたウエーハ10を研磨ホイール5の下方の研磨域25に位置付ける。なお,この状態においてチャックテーブル8上に保持されたウエーハ10は,図4に示すようにその中心(P)を研磨ホイール5が通過する位置に位置付けられている。このようにして,ウエーハ10が研磨域25に位置付けられたならば,チャックテーブル8を図示しないサーボモータを駆動して100?300rpmで回転し,上記研磨ユニット3のサーボモータ35を駆動して研磨工具5を3000?6000rpmで回転するとともに,上記研磨ユニット送り機構6のパルスモータ64を正転駆動して研磨ユニット3を下降せしめて,研磨ホイール5の研磨面である下面をチャックテーブル8上に保持されたウエーハ10の上面(裏面)に作用せしめる。そして,研磨ホイール5を所定量下降せしめて,ウエーハ10を所定の厚さに研磨する。」 「 」 「 」 「 」 「 」 上記に摘記した記載を参照すれば,図1から,半導体ウエーハ10が,円板状であることを,また,図2及び図3から,吸着チャック823が,円板状であることを,それぞれ見て取ることができる。 (イ)上記記載から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明> 「円板状である半導体ウエーハ10を吸引保持する円板状である吸着チャック823と, 前記吸着チャック823を嵌合する円形状の嵌合凹部821aが設けられた保持部821と,該保持部821を囲繞する支持部822とからなる保持部材82と, 前記保持部材82を着脱可能に装着する円柱状の基台81と, からなる,サーボモータにより100?300rpmで回転するチャックテーブル8と, サーボモータ35により3000?6000rpmで回転して,研磨面である下面をチャックテーブル8上に保持されたウエーハ10の上面(裏面)に作用せしめてウエーハ10を所定の厚さに研磨する研磨ホイール5と, を備える研磨装置であって, 前記基台81は,その上面外周部が第1の環状接合面811となっており,該接合面811の内側には第1の凹部812が形成されており, 保持部821の下面には,上記基台81の上面に形成された第1の凹部812と対向する位置に第2の凹部821dが設けられており,保持部821における第2の凹部821dより外周側と上記支持部822の下面は第2の環状接合面824となっており,この第2の環状接合面824は上記基台81の上面外周部に形成された第1の環状接合面811上に載置され接合され, 上記第1の凹部812には,冷却媒体を供給する冷却媒体供給手段を構成する冷却媒体供給通路814と冷却媒体排出通路815が設けられており,冷却媒体供給通路814の一端は上記第1の凹部812に開口しており,冷却媒体供給通路814の他端は冷却媒体供給源に連通されており,冷却媒体排出通路815の一端は冷却媒体供給通路814と略180度の位相角を持って上記第1の凹部812に開口しており,冷却媒体排出通路815の他端は冷却媒体循環路に接続されており, 冷却媒体供給手段を作動し,冷却媒体供給源から冷却媒体をチャックテーブル8の基台81に設けられた冷却媒体供給通路814を通して,第1の凹部812と保持部材82の保持部821に設けられた第2の凹部821dとによって形成される室に導入することで,研磨時において研磨ホイール5によって研磨されることによって発生する熱によるウエーハ10の過熱を防止することができる研磨装置。」 (ウ)さらに,上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されていると認められる。 ・引用文献1に記載された発明は,被加工物を高精度に研磨することができないという問題を解決したものであること。 イ 引用文献2 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2002-373875号公報(以下「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 「【0015】ベースプレート12の内部の上面の近傍における中心と周辺との中間部領域には,破線矢印で示された高温(例えば,約20℃)の冷却水18を流通させるための高温用冷却水通路19が複数本の円形環状路形状に敷設されており,高温用冷却水通路19の内側端および外側端には高温の冷却水18を通水するための給水通路20および排水通路21がそれぞれ接続されている。ベースプレート12の内部の上面の近傍における高温用冷却水通路19を挟んだ中心部および周辺部には,実線矢印で示された低温(例えば,約4℃)の冷却水22を流通させるための中心側低温用冷却水通路23および周辺側低温用冷却水通路24がそれぞれ同心円に敷設されており,中心側低温用冷却水通路23および周辺側低温用冷却水通路24の各内側端および各外側端には低温冷却水22を通水するための給水通路25および排水通路26がそれぞれ接続されている。図示しないが,高温用給水通路20および排水通路21は高温冷却水18を流通させるための給水装置にそれぞれ接続されており,低温用給水通路25および排水通路26は低温冷却水22を流通させるための給水装置にそれぞれ接続されている。つまり,高温用冷却水通路19と低温用冷却水通路23,24とは,プラテン11の温度制御領域をパターン付きウエハ1の中央部に対応する領域とパターン付きウエハ1の周辺部に対応する領域とに分けて,両領域を別々の温度(例えば,20℃と4℃)に制御するように構成されている。 【0016】スラリ供給ノズル16の近傍には冷却水27を研磨材面15に供給するための冷却水供給ノズル28が隣り合わせに配管されており,スラリ供給ノズル16および冷却水供給ノズル28は実線矢印で示された低温(例えば,約4℃)の冷却水22が流通される冷却水通路29によって包囲されている。冷却水通路29には低温冷却水22を通水するための給水通路30および排水通路31がそれぞれ接続されており,給水通路30および排水通路31は低温冷却水22を流通させるための給水装置(図示せず)にそれぞれ接続されている。」 (イ)上記記載から,引用文献2には,次の技術的事項が記載されていると認められる。 ・研磨装置に,冷却水を供給するための冷却水供給ノズルを配管すること。 ・冷却媒体として,水を用いること。 ウ 引用文献3 (ア)原査定で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2012-166274号公報(以下「引用文献3」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 「【0022】 図7に示す第1の形態においては,可変容量形ポンプ72によって温度制御流体送出管74に送出された温度制御流体は,連通管636,支持基台63に設けられた通路634,チャックテーブル6を構成する支持部材62に設けられた第2の連通路624,流体通路622の外周流通口622b,流体通路622,流体通路622の中央流通口622a,チャックテーブル6を構成する支持部材62に設けられた第1の連通路623,支持基台63に設けられた通路633,連通管635,温度制御流体戻し管75,温度調整手段71を介して循環せしめられる。また,図8に示す第2の形態においては,可変容量形ポンプ72によって温度制御流体送出管74に送出された温度制御流体は,連通管635,支持基台63に設けられた通路633,チャックテーブル6を構成する支持部材62に設けられた第1の連通路623,流体通路622の中央流通口622a,流体通路622,流体通路622の外周流通口622b,チャックテーブル6を構成する支持部材62に設けられた第2の連通路624,支持基台63に設けられた通路634,連通管636,温度制御流体戻し管75,温度調整手段71を介して循環せしめられる。このようにして温度制御流体が循環する結果,流体通路622が設けられている支持部材62および流体通路622を流れる温度制御流体が接触する保持テーブル61の枠体611および吸着チャック612の中心部から外周部における温度分布を制御される。」 (イ)上記記載から,引用文献3には,次の技術的事項が記載されていると認められる。 ・温度制御流体は,温度調整手段71を介して循環せしめられること。 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「円板状である半導体ウエーハ10」は,本件補正発明の「円板状のウェハ」に相当する。 (イ)本願明細書の「さらに,チャック104は,円板状に形成されている吸引板104aと,吸引板104の外周面及び下面を囲暁した状態で吸引板104を固定し,その吸引板104と一体化された枠体104bと,を備えている。吸引板104aは,多孔質保持部材により構成されており,その上面がウェハWを吸引保持する吸引面となっている。そして,一般に,チャック104の枠体104bはアルミナ(酸化アルミニウム)で形成されており,チャックベース104はステンレス鋼(SUS)で形成されている。」(【0004】)との記載に照らして,引用発明の「吸着チャック823」及び「前記吸着チャック823を嵌合する円形状の嵌合凹部821aが設けられた保持部821と,該保持部821を囲繞する支持部822とからなる保持部材82」は,それぞれ,本願明細書で説明される「吸引板」及び「枠体」に相当すると解されるから,引用発明の「円板状である吸着チャック823」及び「前記吸着チャック823を嵌合する円形状の嵌合凹部821aが設けられた保持部821と,該保持部821を囲繞する支持部822とからなる保持部材82」とからなる部材が,本件補正発明の「円板状のチャック」に相当するといえる。 (ウ)そうすると,引用発明の「保持部材82を着脱可能に装着する円柱状の基台81」は,本件補正発明の「チャックベース」に相当する。 (エ)上記(ア)ないし(ウ)から,引用発明の「吸着チャック823」と「保持部材82」と「基台81」とからなる「サーボモータにより100?300rpmで回転するチャックテーブル8」は,本件補正発明の「回転チャックテーブル」に相当するといえる。 (オ)引用発明の「研磨ホイール5」は,本件補正発明の「回転加工ホイール」に相当する。 (カ)「チラー」とは,水や熱媒体の温度を管理しながら循環させることで,温度を一定に保つための装置の総称である。 そして,引用発明の「冷却媒体」と,本件補正発明の「水」は,「流体」である点で一致する。 そうすると,引用発明の「基台81」の上面内側に形成された「第1の凹部812」及び「保持部821の下面」の前記第1の凹部812と対向する位置に形成された「第2の凹部821d 」とから構成される「チャックテーブル8」の内部に形成された空間は,「冷却媒体を供給する冷却媒体供給手段を構成する冷却媒体供給通路814と冷却媒体排出通路815が設けられて」いることから,本件補正発明の「回転チャックテーブル」の「内部に設けた」「チラー」流体を流す「路」に相当する。 そして,引用発明の「研磨時において研磨ホイール5によって研磨されることによって発生する熱によるウエーハ10の過熱を防止する」ために設けられた前記「チャックテーブル8」の内部に形成された空間と,本件補正発明の「前記回転チャックテーブルを略定温に保持して加工熱に伴う前記回転チャックテーブルの熱膨張変形を低減するため」に設けられた「恒温制御部」とは,制御部である点で一致する。 (キ)引用発明の「ウエーハ10を所定の厚さに研磨する」「研磨装置」と,本件補正発明の「ウェハの高精度加工装置」とは,ウェハの加工装置である点で一致する。 イ 以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 【一致点】 「円板状のウェハを吸引保持する円板状のチャックと,該チャックと一体に回転するチャックベースを有する回転チャックテーブルと,該回転チャックテーブル上のウェハを研削する回転加工ホイールと,を備えるウェハの加工装置であって, 前記回転チャックテーブルは,チラー流体を流す流路を内部に設けた制御部を有する,ウェハの加工装置。」 【相違点1】 本件補正発明のウェハの加工装置が,「前記回転チャックテーブル上に研削水を供給するノズル」を備えるのに対して,引用発明は,そのような特定がされていない点。 【相違点2】 制御部が,本件補正発明では,「前記回転チャックテーブルを略定温に保持して加工熱に伴う前記回転チャックテーブルの熱膨張変形を低減するため」の「恒温」「水」を流すものであるのに対して,引用発明は,「研磨時において研磨ホイール5によって研磨されることによって発生する熱によるウエーハ10の過熱を防止する」ために「冷却媒体」を流すものである点。 【相違点3】 本件補正発明が,ウエハの「高精度」加工装置であるのに対して,引用発明は,そのような特定がされていない点。 (4)判断 以下,相違点について検討する。 ア 相違点1について 上記(2)イ(イ)のとおり,引用文献2には,研磨装置に,冷却水を供給するための冷却水供給ノズルを配管することが記載されており,このような構成は研磨装置において周知であると認められる。 したがって,引用発明において,回転チャックテーブル上に研削水を供給するノズルを付加することは当業者が容易になし得たことである。 イ 相違点2について (ア)冷却媒体として,水を用いることは,引用文献2からも明らかなように周知であるから,引用発明の冷却媒体は,水と解される。また,仮に,引用発明の冷却媒体が水でないとしても,引用発明の冷却媒体として,周知の水を用いることは適宜なし得たことである。 (イ)そして,冷却媒体である水には,研磨時において研磨ホイール5によって研磨されることによって発生する熱によるウエーハ10の過熱を防止するために,研磨時において研磨ホイール5によって研磨されることによって発生する熱が伝わるところ,引用発明においては,冷却媒体である水は,冷却媒体循環路を通じて循環して使用されるものであることから,何らの工夫も取らない場合には,研磨が進行するに従い,前記冷却媒体である水の温度は上昇し,これによって,ウエーハ10の過熱を防止するという機能が低下することは明らかである。 そして,引用発明の研磨装置は,1枚の半導体ウエーハ10を研磨して,その使用が終了するという使用方法ではなく,複数枚の半導体ウエーハ10を連続して研磨するように使用されるものであることは明らかであるところ,当該使用によって,前記冷却媒体である水の温度は更に上昇し,研磨時において研磨ホイール5によって研磨されることによって発生する熱によるウエーハ10の過熱を防止するという機能が,ますます低下することになるといえる。 しかも,被加工物を高精度に加工する作業において,作業の精度の再現性を維持するために,当該作業に影響を与える各種の条件を一定に保つように制御することは,上記引用文献3においても行われているように,通常行われていることである。 してみれば,冷却媒体である水の温度の上昇によるウエーハ10の過熱を防止するという機能の低下を防ぎ,また,作業の精度の再現性を維持するために,引用発明の冷却媒体循環路に,温度調整手段を設けて,冷却媒体である水の温度の上昇を解消するという工夫を施すこと,すなわち,温度調整手段によって,冷却媒体である水の温度を一定(恒温)に保つようにすることは当業者が容易になし得たことである。 (ウ)そして,冷却媒体循環路に循環する,温度が一定(恒温)に保たれた,冷却媒体である水は,本件補正発明の恒温チラー水といえるところ,引用発明において,冷却媒体として,温度が一定(恒温)に保たれた水を循環した場合,温度が一定(恒温)に保たれた前記冷却媒体に接する,引用発明の「吸着チャック823」と「保持部材82」と「基台81」とからなる「サーボモータにより100?300rpmで回転するチャックテーブル8」の温度上昇が抑制され,略定温に保持されることは自明であり,その結果として,引用発明の「吸着チャック823」と「保持部材82」と「基台81」とからなる「サーボモータにより100?300rpmで回転するチャックテーブル8」の熱膨張変形も低減されるといえる。 したがって,相違点2に係る本件補正発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。そして,その効果も,当業者が予測する範囲内のものに過ぎない。 ウ 相違点3について 上記(2)ア(ウ)のとおり,引用文献1には,引用文献1に記載された発明は,被加工物を高精度に研磨することができないという問題を解決したものであることが記載されており,しかも,引用発明は,研磨時において研磨ホイール5によって研磨されることによって発生する熱によるウエーハ10の過熱を防止するものであって,当該研磨が,前記過熱が防止されない場合と比較して,より高精度なものとなることは明らかであるから,引用発明は,ウエーハ10を「高精度」に研磨する装置であるといえる。 したがって,相違点3は,実質的なものではない。 エ そして,これらの相違点1ないし3を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。 オ したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和元年11月6日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1ないし6に係る発明は,本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2,3に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 1.特開2006-68862号公報 2.特開2002-373875号公報 3.特開2012-166274号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3の記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から限定事項を削除したものである。 そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-08-05 |
結審通知日 | 2020-08-11 |
審決日 | 2020-08-24 |
出願番号 | 特願2015-194464(P2015-194464) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中田 剛史 |
特許庁審判長 |
辻本 泰隆 |
特許庁審判官 |
西出 隆二 加藤 浩一 |
発明の名称 | ウェハの高精度加工装置 |
代理人 | 清水 貴光 |