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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1366941
異議申立番号 異議2019-700828  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-17 
確定日 2020-08-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6503266号発明「水溶性組成物、その製造方法および難水溶性物質の溶解性改善方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6503266号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕、〔4?6〕、〔7?8〕について訂正することを認める。 特許第6503266号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯

特許第6503266号(以下、「本件特許」という)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年8月31日に出願され、平成31年3月29日にその特許権の設定登録がされ、同年4月17日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての手続の経緯は、次のとおりである。

令和1年10月17日 :特許異議申立人による特許異議の申立て
令和1年12月26日付け :取消理由通知
令和2年 3月 5日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
令和2年 4月24日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和2年 6月 4日付け :取消理由通知(決定の予告)
令和2年 7月15日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求

なお、令和2年7月15日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という)は、令和2年3月5日付けの訂正請求による訂正(以下「先の訂正」という)と同じ訂正をしたうえで、さらに、請求項1、4及び7における難水溶性物質(B)の選択肢からイプリフラボンを削除する訂正をするものであって、先の訂正の請求後に、すでに特許異議申立人に対して意見書の提出の機会を与えていることから、特許法120条の5第5項ただし書き所定の特別の事情があると認め、特許異議申立人に対し、同項所定の意見書を提出する機会を与えていない。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容

本件訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、先の訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。

(1)一群の請求項1?3に係る訂正

ア 訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「 葉酸、イプリフラボン、クルクミン、メフェナム酸、クリシン、フェナントレン、ケルセチン、レバミピド、トラニラスト、インドメタシン、ベゼフィブラート、フェニトイン、プラノプロフェン、フロセミド、フラボン、ナプロキセン、2-ナフトエ酸、イブプロフェン、エトドラク、1-ナフトエ酸、アトルバスタチンカルシウム水和物およびクロトリマゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種の難水溶性物質(B)」と記載されているのを、「 メフェナム酸、フェナントレン、レバミピド、トラニラスト、インドメタシン、ベゼフィブラート、フェニトイン、プラノプロフェン、フロセミド、フラボン、ナプロキセン、2-ナフトエ酸、イブプロフェン、エトドラク、1-ナフトエ酸、アトルバスタチンカルシウム水和物およびクロトリマゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種の難水溶性物質(B)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び3も同様に訂正する)。

イ 訂正事項2

特許請求の範囲の請求項2に「(B-1):葉酸、メフェナム酸、レバミピド、トラニラスト、ベゼフィブラート、プラノプロフェン、フロセミド、ナプロキセン、2-ナフトエ酸およびエトドラク。」と記載されているのを、「(B-1):メフェナム酸、レバミピド、トラニラスト、ベゼフィブラート、プラノプロフェン、フロセミド、ナプロキセン、2-ナフトエ酸およびエトドラク。」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する)。

(2)一群の請求項4?6に係る訂正

ア 訂正事項1

特許請求の範囲の請求項4に「 葉酸、イプリフラボン、クルクミン、メフェナム酸、クリシン、フェナントレン、ケルセチン、レバミピド、トラニラスト、インドメタシン、ベゼフィブラート、フェニトイン、プラノプロフェン、フロセミド、フラボン、ナプロキセン、2-ナフトエ酸、イブプロフェン、エトドラク、1-ナフトエ酸、アトルバスタチンカルシウム水和物およびクロトリマゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種の難水溶性物質(B)」と記載されているのを、「 メフェナム酸、フェナントレン、レバミピド、トラニラスト、インドメタシン、ベゼフィブラート、フェニトイン、プラノプロフェン、フロセミド、フラボン、ナプロキセン、2-ナフトエ酸、イブプロフェン、エトドラク、1-ナフトエ酸、アトルバスタチンカルシウム水和物およびクロトリマゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種の難水溶性物質(B)」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5及び6も同様に訂正する)。

イ 訂正事項2

特許請求の範囲の請求項5に「(B-1):葉酸、メフェナム酸、レバミピド、トラニラスト、ベゼフィブラート、プラノプロフェン、フロセミド、ナプロキセン、2-ナフトエ酸およびエトドラク。」と記載されているのを、「(B-1):メフェナム酸、レバミピド、トラニラスト、ベゼフィブラート、プラノプロフェン、フロセミド、ナプロキセン、2-ナフトエ酸およびエトドラク。」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する)。

(3)一群の請求項7?8に係る訂正

ア 訂正事項1

特許請求の範囲の請求項7に「 葉酸、イプリフラボン、クルクミン、メフェナム酸、クリシン、フェナントレン、ケルセチン、レバミピド、トラニラスト、インドメタシン、ベゼフィブラート、フェニトイン、プラノプロフェン、フロセミド、フラボン、ナプロキセン、2-ナフトエ酸、イブプロフェン、エトドラク、1-ナフトエ酸、アトルバスタチンカルシウム水和物およびクロトリマゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種の難水溶性物質(B)」と記載されているのを、「 メフェナム酸、フェナントレン、レバミピド、トラニラスト、インドメタシン、ベゼフィブラート、フェニトイン、プラノプロフェン、フロセミド、フラボン、ナプロキセン、2-ナフトエ酸、イブプロフェン、エトドラク、1-ナフトエ酸、アトルバスタチンカルシウム水和物およびクロトリマゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種の難水溶性物質(B)」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する)。

イ 訂正事項2

特許請求の範囲の請求項8に「(B-1):葉酸、メフェナム酸、レバミピド、トラニラスト、ベゼフィブラート、プラノプロフェン、フロセミド、ナプロキセン、2-ナフトエ酸およびエトドラク。」と記載されているのを、「(B-1):メフェナム酸、レバミピド、トラニラスト、ベゼフィブラート、プラノプロフェン、フロセミド、ナプロキセン、2-ナフトエ酸およびエトドラク。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)一群の請求項1?3に係る訂正について

ア 訂正事項1について

訂正事項1は、難水溶性物質(B)がそこから選ばれる群の要素から、葉酸、イプリフラボン、クルクミン、クリシン及びケルセチンを削除するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。また、訂正事項1は、実質上、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。

イ 訂正事項2について

訂正事項2は、難水溶性物質(B)がそこから選ばれる(B-1)からなる群の要素から、葉酸を削除するものである。
したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。また、訂正事項2は、実質上、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。

(2)一群の請求項4?6に係る訂正について

ア 訂正事項1について

訂正事項1は、難水溶性物質(B)がそこから選ばれる群の要素から、葉酸、イプリフラボン、クルクミン、クリシン及びケルセチンを削除するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。また、訂正事項1は、実質上、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。

イ 訂正事項2について

訂正事項2は、難水溶性物質(B)がそこから選ばれる(B-1)からなる群の要素から、葉酸を削除するものである。
したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。また、訂正事項2は、実質上、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。

(3)一群の請求項7?8に係る訂正

ア 訂正事項1について

訂正事項1は、難水溶性物質(B)がそこから選ばれる群の要素から、葉酸、イプリフラボン、クルクミン、クリシン及びケルセチンを削除するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。また、訂正事項1は、実質上、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。

イ 訂正事項2について

訂正事項2は、難水溶性物質(B)がそこから選ばれる(B-1)からなる群の要素から、葉酸を削除するものである。
したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。また、訂正事項2は、実質上、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。

3 独立特許要件

訂正前の請求項1?8について特許異議の申立てがなされているので、一群の請求項1?3に係る訂正についての訂正事項1及び2、一群の請求項4?6に係る訂正についての訂正事項1及び2並びに一群の請求項7?8に係る訂正についての訂正事項1及び2に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

4 小括

上記のとおり、一群の請求項1?3に係る訂正についての訂正事項1及び2、一群の請求項4?6に係る訂正についての訂正事項1及び2並びに一群の請求項7?8に係る訂正についての訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕、〔4?6〕、〔7?8〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の本件発明

本件訂正後の請求項1?8に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める(以下、請求項順に「本件発明1」等という)。

「【請求項1】
α-グルコシルナリンジン(A)と、
メフェナム酸、フェナントレン、レバミピド、トラニラスト、インドメタシン、ベゼフィブラート、フェニトイン、プラノプロフェン、フロセミド、フラボン、ナプロキセン、2-ナフトエ酸、イブプロフェン、エトドラク、1-ナフトエ酸、アトルバスタチンカルシウム水和物およびクロトリマゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種の難水溶性物質(B)と
を含有することを特徴とする水溶性組成物。
【請求項2】
前記難水溶性物質(B)が、下記(B-1)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の水溶性組成物。
(B-1):メフェナム酸、レバミピド、トラニラスト、ベゼフィブラート、プラノプロフェン、フロセミド、ナプロキセン、2-ナフトエ酸およびエトドラク。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水溶性組成物を含有する、食品、化粧品、医薬品または飼料。
【請求項4】
α-グルコシルナリンジン(A)と、
メフェナム酸、フェナントレン、レバミピド、トラニラスト、インドメタシン、ベゼフィブラート、フェニトイン、プラノプロフェン、フロセミド、フラボン、ナプロキセン、2-ナフトエ酸、イブプロフェン、エトドラク、1-ナフトエ酸、アトルバスタチンカルシウム水和物およびクロトリマゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種の難水溶性物質(B)と
を含有する溶液を乾燥粉末処理する工程を含むことを特徴とする、水溶性組成物の製造方法。
【請求項5】
前記難水溶性物質(B)が、下記(B-1)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の水溶性組成物の製造方法。
(B-1):メフェナム酸、レバミピド、トラニラスト、ベゼフィブラート、プラノプロフェン、フロセミド、ナプロキセン、2-ナフトエ酸およびエトドラク。
【請求項6】
前記乾燥粉末処理がエバポレーション法またはスプレードライ法により行われるものである、請求項4または5に記載の水溶性組成物の製造方法。
【請求項7】
α-グルコシルナリンジン(A)と、
メフェナム酸、フェナントレン、レバミピド、トラニラスト、インドメタシン、ベゼフィブラート、フェニトイン、プラノプロフェン、フロセミド、フラボン、ナプロキセン、2-ナフトエ酸、イブプロフェン、エトドラク、1-ナフトエ酸、アトルバスタチンカルシウム水和物およびクロトリマゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種の難水溶性物質(B)と
を、水中で共存させることを特徴とする、難水溶性物質(B)の水に対する溶解性の改善方法。
【請求項8】
前記難水溶性物質(B)が、下記(B-1)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載の水に対する溶解性の改善方法。
(B-1):メフェナム酸、レバミピド、トラニラスト、ベゼフィブラート、プラノプロフェン、フロセミド、ナプロキセン、2-ナフトエ酸およびエトドラク。」

第4 令和2年6月4日付けで取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について

1 取消理由通知の概要

令和2年3月5日付け訂正請求後の請求項1、3?4、6?7に係る発明のうち、難水溶性物質(B)としてイプリフラボンを選択した水溶性組成物については、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

・甲第4号証:「KAKEN 科学研究費助成事業データペース 研究課題/領域番号 25504018」(2013年度実施状況報告書 機能性ナノコンポジット形成に基づく次世代型特定保健食品の開発)」、公開日:2015年(平成27年)5月28日)

2 当審の判断

本件訂正によって、難水溶性物質(B)の選択肢から「イプリフラボン」が削除されたから、上記取消理由が解消したことは明らかである。

第5 令和2年6月4日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について

1 採用しなかった特許異議申立理由の概要

請求項1?8に係る特許に対して、申立人が申し立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、請求項1?8に係る特許は、次の(1)?(4)のとおりの理由により、取り消されるべきものであるというものである。また、申立人は、証拠方法として、次の(5)の甲第1号証?甲第4号証(以下、甲1号証等を、甲1等と省略して記載する)及び参考資料1?4を提出した。

(1)申立理由1(甲1に基づく新規性)
本件特許の請求項1?6に係る発明は、以下の甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)申立理由2(甲2に基づく新規性)
本件特許の請求項1、3?4、6に係る発明は、以下の甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(3)申立理由3(甲3を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、以下の甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(4)申立理由4(サポート要件及び実施可能要件)
請求項1?8に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(5)証拠方法
・甲1:特開2002-199896号公報
・甲2:再公表特許第WO2009/116450号公報
・甲3:特開2012-229194号公報
・甲4:「KAKEN 科学研究費助成事業データペース 研究課題/領域番号 25504018」(2013年度実施状況報告書 機能性ナノコンポジット形成に基づく次世代型特定保健食品の開発)」、公開日:2015年(平成27年)5月28日)
・参考資料1:五訂増補 食品成分表 2007、女子栄養大学出版部2006年(平成18年)12月発行、78?81頁、84?85頁、96?97頁、100?103頁、108?109頁、116?117頁
・参考資料2:Food Chemistry,vol.86,2004, pp.339-343
・参考資料3:特開平5-32690号公報
・参考資料4:再公表特許第WO2010/029913号公報

なお、令和1年12月26日付けで通知した取消理由通知における取消理由1(1)、取消理由1(2)、取消理由2(1)及び取消理由2(2)は、概ね上記申立理由1?3に対応したものである。

2 当審の判断

(1)申立理由1?3について

これらの申立理由は、特許された請求項1?8に係る発明のうち、難水溶性物質(B)の選択肢から、葉酸、クルクミン、クリシン又はケルセチンを選択した水溶性組成物について、新規性ないし進歩性欠如を主張するものである。
しかしながら、本件訂正によって、難水溶性物質(B)の選択肢から、「葉酸、クルクミン、クリシン及びケルセチン」が削除されたから、これらの申立理由が解消したことは明らかである。

(2)申立理由4について

ア 申立人は、令和1年10月17日提出の特許異議申立書において、申立理由4(サポート要件及び実施可能要件)について(37頁13行?38頁24行)、
「本件特許明細書に難水溶性物質の溶解性が向上したことが示されているのは、α-グルコシルナリンジンと難水溶性物質とを特定の一の割合で含有する組成物を、一の特定された量の蒸留水に添加した場合についてのみ^((註9))であり、α-グルコシルナリンジンと難水溶性物質の含有量が如何なる割合であっても、また、いかなる量の水に添加した場合であっても、α-グルコシルナリンジンを併用することにより、難水溶性物質の溶解性がいくらかでも向上することを示す実験結果ないしは理論的根拠は、本件特許明細書には全く記載されていない。
註9:本件特許明細書【0055】?【0057】、【0059】の記載によれば
、物理混合、エバポレーション法、及びスプレードライ法の
いずれの方法で試料を調製した場合であっても、「薬物(難
水溶性物質):α-グルコシルナリンジン=1:8.5(質量比
)」の試料を50mlの蒸留水に添加している(但し、蒸留水
に添加した試料の量は不明)。」(38頁2?15行)、
「したがって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本件発明1について、発明の詳細な説明は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。」(38頁16?18行)
と主張している。

イ しかしながら、本件特許明細書(特に【0055】、【0059】を参照)には、薬物(難水溶性物質)とα-グルコシルナリンジンの質量比が1:8.5の試料を蒸留水50mLに添加して溶解度を測定したことが記載されている。ここで、当業者であれば、溶解度を測定していることから、試料を十分に添加して飽和溶液として測定を行っていることが理解できるから、添加する水の量は溶解度と関係しないことが理解できる。また、本件特許明細書の実施例における試料は、薬物(難水溶性物質)とα-グルコシルナリンジンの特定の質量比を用いるものではあるが、本件特許明細書の【0021】には「α-グルコシルナリンジンおよびその他のα-グルコシル化フラボノイドは、水溶液中で水可溶性の集合体を形成でき、その集合体が難水溶性物質と複合体を形成して可溶化構造をとることによって、水に対する溶解度を向上させる効果が生み出されているものと推測される」と記載され、【0038】には「前述したように、水溶液中で水可溶性の集合体を形成したα-グルコシルナリンジン(A)は所定の難水溶性物質(B)と複合体を形成し、可溶化構造を形成するものと推測される」と記載された上で、【表1-1】?【表1-6】には、種々に化学構造及び分子量の異なる難水溶性化合物において、α-グルコシルナリンジンとの併用により溶解度が向上した結果が示されていることから、当業者は、その他の質量比であっても、いくらかの溶解性の向上が期待できることを理解できるところである。
したがって、本件発明1?8は、発明の詳細な説明に記載したものと認められ、また、本件発明1?8について、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められる。

第6 むすび

以上のとおり、本件発明1?8に係る特許は、令和2年6月4日付け取消理由(決定の予告)に記載した取消理由及び当該取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
さらに、他に本件発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-グルコシルナリンジン(A)と、
メフェナム酸、フェナントレン、レバミピド、トラニラスト、インドメタシン、ベゼフィブラート、フェニトイン、プラノプロフェン、フロセミド、フラボン、ナプロキセン、2-ナフトエ酸、イブプロフェン、エトドラク、1-ナフトエ酸、アトルバスタチンカルシウム水和物およびクロトリマゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種の難水溶性物質(B)と
を含有することを特徴とする水溶性組成物。
【請求項2】
前記難水溶性物質(B)が、下記(B-1)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の水溶性組成物。
(B-1):メフェナム酸、レバミピド、トラニラスト、ベゼフィブラート、プラノプロフェン、フロセミド、ナプロキセン、2-ナフトエ酸およびエトドラク。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水溶性組成物を含有する、食品、化粧品、医薬品または飼料。
【請求項4】
α-グルコシルナリンジン(A)と、
メフェナム酸、フェナントレン、レバミピド、トラニラスト、インドメタシン、ベゼフィブラート、フェニトイン、プラノプロフェン、フロセミド、フラボン、ナプロキセン、2-ナフトエ酸、イブプロフェン、エトドラク、1-ナフトエ酸、アトルバスタチンカルシウム水和物およびクロトリマゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種の難水溶性物質(B)と
を含有する溶液を乾燥粉末処理する工程を含むことを特徴とする、水溶性組成物の製造方法。
【請求項5】
前記難水溶性物質(B)が、下記(B-1)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の水溶性組成物の製造方法。
(B-1):メフェナム酸、レバミピド、トラニラスト、ベゼフィブラート、プラノプロフェン、フロセミド、ナプロキセン、2-ナフトエ酸およびエトドラク。
【請求項6】
前記乾燥粉末処理がエバポレーション法またはスプレードライ法により行われるものである、請求項4または5に記載の水溶性組成物の製造方法。
【請求項7】
α-グルコシルナリンジン(A)と、
メフェナム酸、フェナントレン、レバミピド、トラニラスト、インドメタシン、ベゼフィブラート、フェニトイン、プラノプロフェン、フロセミド、フラボン、ナプロキセン、2-ナフトエ酸、イブプロフェン、エトドラク、1-ナフトエ酸、アトルバスタチンカルシウム水和物およびクロトリマゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種の難水溶性物質(B)と
を、水中で共存させることを特徴とする、難水溶性物質(B)の水に対する溶解性の改善方法。
【請求項8】
前記難水溶性物質(B)が、下記(B-1)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載の水に対する溶解性の改善方法。
(B-1):メフェナム酸、レバミピド、トラニラスト、ベゼフィブラート、プラノプロフェン、フロセミド、ナプロキセン、2-ナフトエ酸およびエトドラク。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-08-06 
出願番号 特願2015-170659(P2015-170659)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 馬場 亮人  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 渕野 留香
渡邊 吉喜
登録日 2019-03-29 
登録番号 特許第6503266号(P6503266)
権利者 東洋精糖株式会社
発明の名称 水溶性組成物、その製造方法および難水溶性物質の溶解性改善方法  
代理人 特許業務法人SSINPAT  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

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