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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B32B |
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管理番号 | 1366956 |
異議申立番号 | 異議2019-700302 |
総通号数 | 251 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-11-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-04-17 |
確定日 | 2020-08-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6405605号発明「ナノ薄膜転写シート及びナノ薄膜転写シートの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6405605号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2,3〕、〔4,5,7?12〕、6について訂正することを認める。 特許第6405605号の請求項1?12に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6405605号(以下「本件特許」という。)の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成25年7月10日の出願であって、平成30年9月28日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成30年10月17日)がされたものであり、その特許について、平成31年4月17日に特許異議申立人鈴木宏和(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において令和元年7月25日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である令和元年9月27日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、令和元年12月25日に申立人より意見書の提出がされ、当審において令和2年3月17日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、その指定期間内である令和2年5月21日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされたものである。なお、令和元年9月27日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の請求について 1 訂正の内容 本件訂正請求は、「特許第6405605号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2?12について訂正することを求める」ものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。なお、それぞれの訂正事項について、訂正箇所に下線を付して示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項2に「前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、前記ナノ薄膜層との密着強度が互いに異なるものであることを特徴とする請求項1に記載のナノ薄膜転写シート。」とあるのを、「前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートのいずれかのメッシュシートであり、前記ナノ薄膜層との密着強度が互いに異なるものであることを特徴とする請求項1に記載のナノ薄膜転写シート。」に訂正する。 請求項2の記載を直接的に引用する請求項3も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に「前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、メッシュシート、不織布シート及び多孔質構造を有するシートのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載のナノ薄膜転写シート。」とあるのを、「前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであり、前記メッシュシートの通気性は、1000?10,000cc/cm^(2)・secであることを特徴とする請求項1又は2に記載のナノ薄膜転写シート。」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に「前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであることを特徴とする請求項3に記載のナノ薄膜転写シート。」とあるのを、請求項4は間接的に請求項1を引用していたところ、引用関係を解消をして独立形式に改め、「第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、第2の浸透性基材とがこの順に積層されてなり、前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であり、前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであることを特徴とするナノ薄膜転写シート。」に訂正する。 請求項4の記載を直接的又は、間接的に引用する5、7?12も同様に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。」とあるのを、「請求項4に記載のナノ薄膜転写シート。」に訂正する。 請求項5の記載を直接的又は、間接的に引用する7?12も同様に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項6に「前記第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材のいずれか一方に代えてカバーフィルムを備えることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。」とあるのを、請求項6は間接的に請求項1及び請求項4を引用していたところ、引用関係を解消をして独立形式に改めると共に、「カバーフィルムが積層されてなる、」を付加し、「第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、第2の浸透性基材とがこの順に積層されてなり、前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であり、前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであるナノ薄膜転写シートの前記第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材のいずれか一方に代えてカバーフィルムが積層されてなる、カバーフィルムを備えることを特徴とするナノ薄膜転写シート。」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。」とあるのを、「請求項4又は5に記載のナノ薄膜転写シート。」に訂正する。 請求項7の記載を直接的又は、間接的に引用する8?12も同様に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項11に「請求項1?10のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。」とあるのを、「請求項4、5、7?10のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項12に「請求項1?10のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。」とあるのを、「請求項4、5、7?10のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。」に訂正する。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1 訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項2の「第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材」について、「ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートのいずれかのメッシュシート」であるものに限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項1の「第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材」が、「ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートのいずれかのメッシュシート」である事項は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0079】及び【0080】に記載されていることから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項3の「第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材」について、「いずれもメッシュシートであり、メッシュシートの通気性は、1000?10,000cc/cm^(2)・secである」ことに限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0081】?【0083】に記載されていることから、訂正事項2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 (3)訂正事項3 訂正事項3は、訂正前の請求項4を「第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、第2の浸透性基材とがこの順に積層されてなり、前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であり、前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートとするナノ薄膜転写シート。」にするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。 また、訂正事項3は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 (4)訂正事項4 訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項5の「請求項1?4のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート」について、「請求項4に記載のナノ薄膜転写シート」に限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項4は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 (5)訂正事項5 訂正事項5は、訂正前の請求項6を、「第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、第2の浸透性基材とがこの順に積層されてなり、前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であり、前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであるナノ薄膜転写シートの前記第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材のいずれか一方に代えてカバーフィルムが積層されてなる、カバーフィルムを備えることを特徴とするナノ薄膜転写シート。」にするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項5の「カバーフィルムが積層されてなる、」事項は、本件特許明細書の段落【0120】に記載されていることから、訂正事項5は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 (6)訂正事項6 訂正事項6は、特許請求の範囲の請求項7の「請求項1?6のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。」について、「請求項4又は5に記載のナノ薄膜転写シート。」に限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項6は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 (7)訂正事項7 訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項11の「請求項1?10のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。」について、「請求項4、5、7?10のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。」に限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項7は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 (8)訂正事項8 訂正事項8は、特許請求の範囲の請求項12の「請求項1?10のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。」について、「請求項4、5、7?10のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。」に限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項8は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであり、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 3 一群の請求項 訂正前の請求項3?12はいずれも請求項2を引用するものであったから、訂正前の請求項2?12は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項である。 また、訂正後の請求項4と、訂正後の請求項6と、訂正後の請求項4の記載を引用する訂正後の請求項5、7?12については、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めたものである。 したがって、訂正後の請求項〔2,3〕、〔4,5,7?12〕、6は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項である。 4 小括 上記のとおり、訂正事項1?8に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2,3〕、〔4,5,7?12〕、6について訂正することを認める。 第3 特許異議申立てについて 1 本件特許発明 上記のとおり、本件訂正請求は認められるから、本件特許の請求項1?12に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明12」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、第2の浸透性基材とがこの順に積層されてなり、 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材である、ナノ薄膜転写シート。 【請求項2】 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートのいずれかのメッシュシートであり、 前記ナノ薄膜層との密着強度が互いに異なるものであることを特徴とする請求項1に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項3】 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであり、 前記メッシュシートの通気性は、1000?10,000cc/cm^(2)・secであることを特徴とする請求項1又は2に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項4】 第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、第2の浸透性基材とがこの順に積層されてなり、 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であり、 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであることを特徴とするナノ薄膜転写シート。 【請求項5】 前記第1の浸透性基材と前記第2の浸透性基材とは、互いに前記ナノ薄膜層との接触面積が異なることを特徴とする請求項4に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項6】 第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、第2の浸透性基材とがこの順に積層されてなり、 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であり、 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであるナノ薄膜転写シートの前記第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材のいずれか一方に代えてカバーフィルムが積層されてなる、カバーフィルムを備えることを特徴とするナノ薄膜転写シート。 【請求項7】 前記ナノ薄膜層は、ポリカチオンを含む溶液を用いて形成されるA層と、ポリアニオンを含む溶液を用いて形成されるB層とを有することを特徴とする請求項4又は5に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項8】 前記ナノ薄膜層は、前記A層と前記B層とが交互に積層された層であることを特徴とする請求項7に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項9】 前記ポリカチオンは、1分子中に2個以上のアミノ基を有するカチオン性ポリマーであることを特徴とする請求項7又は8に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項10】 前記ポリアニオンは、1分子中に2個以上のカルボキシル基又はカルボキシレート基を有するアニオン性ポリマーであることを特徴とする請求項7?9のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項11】 前記ナノ薄膜層は、皮膚貼付用であることを特徴とする請求項4、5、7?10のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項12】 前記ナノ薄膜層は、化粧用であることを特徴とする請求項4、5、7?10のいずれか一項に記載の薄膜転写シート。」 2 取消理由の概要 当審が令和2年3月17日に特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 理由1 本件発明1?12は、本件特許出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 理由2 本件特許6?12は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 引用文献等一覧 引用文献1:「生分解性のナノ薄膜」の記事、日経産業新聞, 2013年4月10日(甲第1号証) 引用文献3:国際公開第2013/080331号(甲第3号証) 引用文献6:特開2013-71906号公報(甲第6号証) 引用文献9:特開2013-112626号公報(甲第9号証) 引用文献10:特開平10-23923号公報(甲第10号証) 引用文献1、3、6、9、10は、特許異議申立書に添付された甲第1、3、6、9、10号証であり、引用文献1、3又は6に記載された発明を、引用発明1、3又は6という。 3 当審の判断 (1)理由2について ア 本件発明6について 本件発明6には「前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであるナノ薄膜転写シートの前記第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材のいずれか一方に代えてカバーフィルムが積層されてなる、カバーフィルムを備えることを特徴とするナノ薄膜転写シート。」との記載がある。 ここで、上記記載には、「代えて」という文言が含まれているところ、先の取消理由通知において指摘したとおり、未だ、この記載がどのような「ナノ薄膜転写シート」を特定しようとするものであるのかが不明である。 「前記第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材のいずれか一方に代えてカバーフィルムが積層されてなる、カバーフィルムを備える」の部分に関して、以下の(解釈1)と(解釈2)のいずれの意味であるのかが明らかでないからである。 (解釈1)ナノ薄膜転写シートの第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材のいずれか一方を剥離して、剥離した側にカバーフィルムを積層するという、段落【0121】に記載された工程を実質的に意味している。 (解釈2)段落【0121】に記載された工程を意味しているものではなく、単に、ナノ薄膜転写シートが、第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材の一方と、カバーフィルムとを備えるという構成を意味しているだけである。 なお、この点に関し、特許権者は、令和2年5月21日付け意見書(以下「意見書」という。)にて「請求項6には、「代えて」という文言があるが、これは、「代える」の連用形に接続助詞「て」が付いたものである。「代える」は、「それまであった物をどけて、別のものをその位置・地位に置く」を意味し、「て」は確定の順接を表す接続助詞であるので、「代えて」という文言の意味自体は当業者には明確である。そして、本件発明6のナノ薄膜転写シートを特定する「第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材のいずれか一方に代えてカバーフィルムが積層されてなる、カバーフィルムを備える」が、「第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材のいずれか一方」がどけられ、「カバーフィルム」が「その位置の置」かれて積層されていて、「カバーフィルムを備える」という一の意味であるのも明らかである。したがって、本件発明6は明確である。」(第3頁第17?27行)と主張する。 しかしながら、本件発明6は「第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、第2の浸透性基材とがこの順に積層されてなり、」と記載されているとおり、「第1の浸透性基材」、「厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層」、「第2の浸透性基材」がこの順に積層されていることが必須の構成である。 そして、特許権者の主張のとおり、「第1の浸透性基材」及び「第2の浸透性基材」のいずれか一方に代えて「カバーフィルム」を積層したとすれば、「第1の浸透性基材」及び「第2の浸透性基材」のいずれか一方が「どけられ」ることになり、必須の構成である「第1の浸透性基材」及び「第2の浸透性基材」の何れかがなくなることになる。さらに、「第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートである」との構成とも技術的に矛盾することになる。 さらに、本件発明6については、明細書、特許請求の範囲、図面の記載に加え、当該技術分野の技術常識を考慮しても、「ナノ薄膜転写シート」という物の発明であって、本件発明6中の「前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであるナノ薄膜転写シートの前記第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材のいずれか一方に代えてカバーフィルムが積層されてなる、」点は、(解釈1)のとおり製造に関する工程を示すものであって、それは経時的に実行されるものと解されるから、本件発明6はその物の製造方法が記載されたものともいえる。また、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情」が、明細書又は図面、当業者の技術常識を参照しても明らかでないことから、依然としてその発明が明確であるとはいえない。 以上のとおりであるから、本件発明6は明確でない。 イ 小括 よって、本件特許6は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、その特許は特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)引用文献1に基づく理由1について ア 本件発明1について (ア)引用文献1に記載された事項、引用発明 引用文献1には、以下の事項が記載されている。 a「フィルム状薬剤を生産するツキオカフィルム製薬(岐阜県各務原市、月岡忠夫社長)は、新しい生分解性のフィルムを開発した。保湿性を持つポリ乳酸で作った厚さナノ(ナノは10億分の1)メートルサイズの薄膜フィルムで、臓器の癒着を防ぐ医療用材料などに応用が見込まれる。」(1段落1行目?3段落2行目) b「開発したフィルムは厚さが100?300ナノメートルと、髪の毛の太さの数百分の1。ポリエステル系のプラスチック基材表面に液状のポリ乳酸を薄く塗り、乾燥させて作る。フィルムの上に不織布を載せ、独自の技術でフィルムを基材から不織布に数秒で転写。はがした面にも不織布を貼って保存する。使用時は不織布をはがして臓器や皮膚に貼り付ける。」(3段落4行目?5段落1行目) c「従来も同等の厚さのフィルムは開発されているが、プラスチック基材の上に貼り付けた状態で出荷されているため利用時には水に浸して基材からはがした後に乾燥する必要があり、手術の準備だけで3時間以上かかった。新素材を使えば、手術に伴う病院の負担も軽減できる。」(5段落2行目?6段落1行目) d「ポリ乳酸はそもそも生分解性があり化粧品の容器として使われる。フィルムにコラーゲンやヒアルロン酸を積層すれば、保湿性を保ちながら肌を改質する化粧品としても応用できる。手術用や化粧品として製品化を進め、4年後に年間10億円の売り上げを目指す。」(7段落3行目?8段落1行目) e上記摘記bの「フィルムの上の不織布」は「第1の不織布」、「はがした面の不織布」は「第2の不織布」とする。 上記摘記事項a?d及び、認定事項eを総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「第1の不織布と、 保湿性を持つポリ乳酸で作った薄膜フィルムであって、厚さが100?300ナノメートルである薄膜フィルムと、 第2の不織布と、 がこの順に積層されてなり、 使用時に不織布をはがして皮膚に貼り付けることができる生分解性のフィルム。」 (イ)対比 本件発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1における「第1の不織布」は、「第1の基材」の限りにおいて、本件発明1における「第1の浸透性基材」に相当する。 引用発明1における「第2の不織布」は、「第2の基材」の限りにおいて、本件発明1における「第2の浸透性基材」に相当する。 引用発明1における「厚さが100?300ナノメートルである薄膜フィルム」は、本件発明1における「厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層」の範囲内である。 引用発明1における「生分解性のフィルム」は、本件発明1における「ナノ薄膜転写シート」に相当する。 したがって、本件発明1と引用発明1との間には、次の点で一致し、且つ、相違する。 [一致点1] 「第1の基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、第2の基材とがこの順に積層されてなる、ナノ薄膜転写シート。」 [相違点1] 本件発明1は、第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材が、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であるのに対し、引用発明1は、第1の不織布及び第2の不織布が、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なものであるのかが不明である点。 (ウ)相違点1についての判断 一般に、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な不織布は、文献を示すまでもなく周知のものである。引用文献1に接した当業者は、引用発明1の「第1の不織布」及び「第2の不織布」として適宜のものを選択し得るのであり、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な周知の不織布を用いることに格別の困難性は認められないし、また、水又はアルコールを全く浸透又は透過させない不織布を選択する事情はない。 (エ)効果の検討 本件発明1が奏する効果は、引用発明1及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 (オ)特許権者の主張について 特許権者は意見書において、「引用発明1における第2の不織布について、当業者は「水に浸すことなくポリ乳酸のフィルムから剥離可能なもの」であると理解する。また、第1の不織布については、「水に浸すことなくポリ乳酸のフィルムから剥離可能であることに加えて、プラスチック基材からフィルムを転写させることができるもの」と当業者は理解する。一方で、引用文献1には、第1の不織布及び第2の不織布として、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な不織布を敢えて選択することを動機づける記載は一切ない。そうすると、「水に浸すことなくポリ乳酸のフィルムから剥離可能なもの」、若しくは、「水に浸すことなくポリ乳酸のフィルムから剥離可能であることに加えて、プラスチック基材からフィルムを転写させることができるもの」と理解される引用発明1の不織布として、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な不織布を敢えて選択することが容易とはいえない。さらに、不織布としては、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な不織布が存在する一方、水又はアルコールを浸透又は透過させない不織布も存在する。このことは、特許権者が令和元年9月27日付けで提出した意見書に添付した乙第1号証(特開2013-22357号公報)、及び乙第2号証(特開平4-82949号公報)に基づき、同意見書において既に説明したとおりである。そうすると、撥水性や防水性を有する不織布も存在する状況下で、引用発明1における第1の不織布及び第2の不織布として、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なものを用いることは尚更容易ではない。」(第7頁第3?24行)と主張する。 この主張について検討する。 まず、本件発明1は「ナノ薄膜転写シート」という物の発明であり、「第1の浸透性基材」及び「第2の浸透性基材」は、本件発明13や段落【0085】?【0116】に記載されているような製造方法に使用されるものに限らず、単なる支持基材を含むものである。 そして、引用発明1に記載された「薄膜フィルム」は、物の発明として見る時に、製造方法は関係なく、単に支持基材として不織布を備えた物である。また、使用時は不織布をはがして臓器や皮膚に貼り付けるものであり、その際、不織布を水に浸す必要がなかったとしても、当該不織布に撥水性や防水性が必要であるとする根拠もない。 さらに、特許権者が示した乙第2号証(特開平4-82949号公報)の明細書第1頁右欄第第11?13行に「本発明は、優れた通気性とともに撥水性、防水性をも兼ね備えた特殊な不織布に関するものである。」と記載されているとおり、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能でない不織布は特殊なものであり、一般的に、不織布は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なものである。 そして、引用発明1に記載された不織布は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なものであるのかが不明であるが、一般的な、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なものを用いることは、何ら困難なことではないし、また、水又はアルコールを全く浸透又は透過させない不織布を選択する事情もないため、特許権者の主張は採用できない。 イ 本件発明2について (ア)対比 本件発明2と引用発明1とを対比すると、上記一致点1で一致し、上記相違点1に加えて下記の点で相違する。 [相違点2] 本件発明2は、第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材が、ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートのいずれかのメッシュシートであり、ナノ薄膜層との密着強度が互いに異なるものであるのに対し、引用発明1は、基材が不織布であり、ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートのいずれかのメッシュシートではない点。 (イ)相違点についての判断 a 相違点1 相違点1の判断については上記で述べたとおりである。 b 相違点2 積層体の技術分野において、共通ないし類似の特性を有する材料として、メッシュシートと不織布とが互換的に用いられるものであることは、当業者にとっての技術常識である。必要であれば、引用文献3の段落[0019]に、多孔質のマトリクスにおける空隙より大きな空隙がほぼ規則的に並んでいる材料として「不織布」と並列に「織布」が示されている点を参照されたい(なお、「織布」は,経糸と緯糸とを格子状に組み合わせたものであるから、本件発明2の「メッシュシート」に対応するものである)。 また、浸透又は透過可能なメッシュシートである、ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートは、例えば当審で発見した文献である特開2002-209709号公報(特に、段落【0014】、【0015】を参照のこと。)、特開2007-303218号公報(特に、段落【0016】を参照のこと。)、特開2012-250184号公報(特に、段落【0025】を参照のこと。)、特表2013-526369号公報(特に、段落【0004】を参照のこと。)、特開2003-135516号公報(特に、段落【0014】を参照のこと。)に記載されているように、当業者にとって、周知のものである。 さらに、第1の基材と、薄膜層と、第2の基材とが積層された積層体において、薄膜層を使用するにあたって、いずれかの基材を先に剥離できるようにするために、一方の基材の薄膜層に対する密着強度を、他方の基材の薄膜層に対する密着強度と異ならせることも、例えば引用文献9(特に、段落【0089】、【0093】、【0097】を参照のこと。)、引用文献10(特に、段落【0004】、【0005】を参照のこと。)に記載されているように、当業者にとって、周知技術にすぎないものである。 すると、引用発明1において、上記技術常識に基いて周知技術を適用し、基材として採用していた第1の不織布及び第2の不織布をポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートの何れかに置換して、その際、薄膜フィルムに対する密着強度を互いに異なるものとすることは当業者であれば容易になし得たことである。 したがって、本件発明2は、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (ウ)効果の検討 本件発明2が奏する効果は、引用発明1及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 (エ)特許権者の主張について 特許権者は意見書において、「本件発明2における特定の素材のメッシュシートを第1の不織布及び第2の不織布に代えて用いることについて何ら記載がない。すなわち、引用文献1において、第1の不織布及び第2の不織布を、本件発明2に係る特定のメッシュシートに変更しようとする動機付けを一切見出すことができない。」(第12頁第12?16行)と主張する。 しかしながら、上記第3の3(2)イbにおいて示したとおり、積層体の技術分野において、メッシュシートと不織布とが互換的に用いられるものであることは、当業者にとっての技術常識である。 したがって、特許権者の主張は採用できない。 ウ 本件発明3について (ア)対比 本件発明3と引用発明1とを対比すると、上記一致点1で一致し、上記相違点1?2に加えて下記の点で相違する。 [相違点3] 本件発明3は、第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであり、メッシュシートの通気性は、1000?10,000cc/cm^(2)・secであるのに対し、引用発明1は、第1の不織布及び第2の不織布は、いずれもメッシュシートではない点。 (イ)相違点についての判断 a 相違点1?2 相違点1?2の判断については上記で述べたとおりである。 b 相違点3 メッシュシートの通気性をどの程度にするかは、引用発明1におけるポリ乳酸で作った薄膜フィルムの基材として要求される程度に応じて適宜決定すべき事項であり、メッシュシュートの通気性を、1000?10,000cc/cm^(2)・secの範囲内とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。 したがって、本件発明3は、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (ウ)効果の検討 本件発明3が奏する効果は、引用発明1及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 (エ)特許権者の主張について 特許権者は意見書にて、「本件請求項3に規定する所定の通気性を有するメッシュシートを第1の不織布及び第2の不織布に代えて用いることについても何ら記載がない。すなわち、引用文献1において、第1の不織布及び第2の不織布を、本件発明3に係る特定のメッシュシートに変更しようとする動機付けを一切見出すことができない。」(第13頁第12?16行)と主張する。 しかしながら、上記第3の3(2)イbにおいて示したとおり、積層体の技術分野において、メッシュシートと不織布とが互換的に用いられるものであることは、当業者にとっての技術常識である。 したがって、特許権者の主張は採用できない。 エ 本件発明4について (ア)対比 本件発明4と引用発明1とを、対比する。 引用発明1における「第1の不織布」は、「第1の基材」の限りにおいて、本件発明4における「第1の浸透性基材」に相当する。 引用発明1における「第2の不織布」は、「第2の基材」の限りにおいて、本件発明4における「第2の浸透性基材」に相当する。 引用発明1における「厚さが100?300ナノメートルである薄膜フィルム」は、本件発明4における「厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層」の範囲内である。 引用発明1における「生分解性のフィルム」は、本件発明4における「ナノ薄膜転写シート」に相当する。 したがって、本件発明4と引用発明1との間には、次の点で一致し、且つ、相違する。 [一致点2] 「第1の基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、第2の基材とがこの順に積層されてなる、ナノ薄膜転写シート。」 [相違点4] 本件発明4は、第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材が、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であり、前記第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであるのに対し、引用発明1は、基材が、不織布である点。 (イ)相違点4についての判断 積層体の技術分野において、共通ないし類似の特性を有する材料として、メッシュシートと不織布とが互換的に用いられるものであることは、上記第3の3(2)イbにおいて指摘したとおり、当業者にとっての技術常識である。 また、水又はアルコールを浸透又は透過可能なメッシュシートは、上記第3の3(2)イbにおいて示したとおり、当業者にとって、周知のものである。 そうすると、引用発明1において、第1の不織布及び第2の不織布を、それぞれ水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なメッシュシートに変更することに格別の困難性は認められない。 したがって、本件発明4は、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (ウ)効果の検討 本件発明4が奏する効果は、引用発明1及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 オ 本件発明5について (ア)対比 本件発明5と引用発明1とを対比すると、上記一致点2で一致し、上記相違点4に加えて下記の点で相違する。 [相違点5] 本件発明5は、第1の浸透性基材と第2の浸透性基材とは、互いにナノ薄膜層との接触面積が異なるのに対し、引用発明1は、第1の不織布及び第2の不織布が、互いの薄膜フィルムとの接触面積が異なるものか不明である点。 (イ)相違点についての判断 a 相違点4 相違点4の判断については上記で述べたとおりである。 b 相違点5 上記第3の3(2)イbにおいて指摘したとおり、引用発明1において、技術常識に基いて周知技術を適用し、基材に採用されていた第1の不織布及び第2の不織布をポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートに置換し、その際、薄膜フィルムに対する密着強度を互いに異なるものとすることは当業者であれば容易になし得たことである。 そして、その際、不織布と薄膜フィルムとの接触面積を調整することで、密着強度を調整することは、当業者が適宜なし得た設計的事項にすぎない。 したがって、本件発明5は、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (ウ)効果の検討 本件発明5が奏する効果は、引用発明1及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 カ 本件発明6について 上記第3の3(1)で示したとおり、本件発明6は、発明が明確ではないが、「第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、カバーフィルムとがこの順に積層されてなり、前記第1の浸透性基材は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であり、前記第1の浸透性基材は、メッシュシートであるナノ薄膜転写シート。」であるとして判断をする。 (ア)対比 本件発明6と引用発明1とを、対比する。 引用発明1における「第1の不織布」は、「第1の基材」の限りにおいて、本件発明6における「第1の浸透性基材」に相当する。 引用発明1における「厚さが100?300ナノメートルである薄膜フィルム」は、本件発明6における「厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層」の範囲内である。 引用発明1における「生分解性のフィルム」は、本件発明6における「ナノ薄膜転写シート」に相当する。 したがって、本件発明6と引用発明1との間には、次の点で一致し、且つ、相違する。 [一致点3] 「第1の基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、がこの順に積層されてなる、ナノ薄膜転写シート。」 [相違点6] 本件発明6は、第1の浸透性基材が、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であり、前記第1の浸透性基材は、メッシュシートであるのに対し、引用発明1は、基材が、不織布である点。 [相違点7] 本件発明6は、カバーフィルムが積層されているのに対し、引用発明1は、カバーフィルムが積層されてはいない点。 (イ)相違点6についての判断 積層体の技術分野において、共通ないし類似の特性を有する材料として、メッシュシートと不織布とが互換的に用いられるものであることは、上記第3の3(2)イbにおいて指摘したとおり、当業者にとっての技術常識である。 また、浸透又は透過可能なメッシュシートは、上記第3の3(2)イbにおいて示したとおり、当業者にとって、周知のものである。 そうすると、引用発明1において、第1の不織布を、それぞれ水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なメッシュシートに変更することに格別の困難性は認められない。 (ウ)相違点7についての判断 一般に、被着体に転写する薄膜を備えた積層体において、カバーフィルムによって薄膜を保護することは、文献を示すまでもなく当業者にとっての周知技術であるといえる。そうすると、引用発明1において、薄膜フィルムを保護するため、カバーフィルムを積層することに格別の困難性は認められない。 (エ)効果の検討 本件発明6が奏する効果は、引用発明1及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 (オ)特許権者の主張について 特許権者は意見書において、「基材として不織布を選択したからこそ、水に浸すことなくポリ乳酸のフィルムから剥離でき、「手術に伴う病院の負担も軽減できる」という効果を得られるのであり、引用発明1における第1の不織布及び第2の不織布は、上記の効果を得るために選択された必須のものといえる。したがって、引用発明1において、第1の不織布を敢えて変更して、カバーフィルムを積層させる動機はない。…むしろ、引用発明1において、第1の不織布及び第2の不織布のいずれか一方に代えてカバーフィルムを用いることには阻害要因があるとすらいえる。」(第14頁第16行?第15頁第9行)と主張する。 ここで、特許権者は「引用発明1における第1の不織布及び第2の不織布は、上記の効果を得るために選択された必須のものといえる。」と主張するが、引用発明1における「不織布」は、支持基材として用いているにすぎず、不織布であることが必須であるとする根拠はない。 一方、本件発明6のカバーフィルムも水に浸すことなく剥離できるものである。 ゆえに、単に支持基材として用いているにすぎない引用発明1の不織布の一方に代えてカバーフィルムを用いることに、阻害要因があるとはいえない。 したがって、特許権者の主張は採用できない。 キ 本件発明11について (ア)対比・判断 引用発明1は、不織布をはがして皮膚に貼り付けることができるものであるから、引用発明1の「薄膜フィルム」は、「皮膚貼付用」であるといえる。 そうすると、本件発明11と引用発明1は、上記相違点4及び5で相違し、その他に相違点はない。 そして、相違点4及び5は上記で述べたとおりであるから、本件発明11は、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (イ)効果の検討 本件発明11が奏する効果は、引用発明1及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 ク 本件発明12について (ア)対比 本件発明12と引用発明1とを、対比すると、上記一致点2で一致し、上記相違点4及び5に加えて下記の点で相違する。 [相違点8] 本件発明12は、ナノ薄膜層は、化粧用であるのに対し、引用発明1は、薄膜フィルムは、化粧用であるか不明である点。 (イ)相違点についての判断 a 相違点4及び5 相違点4及び5の判断については上記で述べたとおりである。 b 相違点8 引用文献1の摘記事項dには「フィルムにコラーゲンやヒアルロン酸を積層すれば、保湿性を保ちながら肌を改質する化粧品としても応用できる。」との記載がされており、引用発明1において、薄膜フィルムを化粧用とすることは当業者であれば容易になし得たものである。 したがって、本件発明12は、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (ウ)効果の検討 本件発明12が奏する効果は、引用発明1及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 ケ 小括 以上のとおり、本件発明1?6、11及び12は、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定する要件を満たしておらず、その特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。 (3)引用文献3に基づく理由1について 上記第3の3(1)で示したとおり、本件発明6は、発明が明確ではないが、「第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、カバーフィルムとがこの順に積層されてなり、前記第1の浸透性基材は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であり、前記第1の浸透性基材は、メッシュシートであるナノ薄膜転写シート。」であるとして判断する。 ア 本件発明6について (ア)引用文献3に記載された事項、引用発明 引用文献3には、以下の事項が記載されている。 a「パック用シートを使用する際は、フィルムが皮膚と接触するようにフィルムを内側にして、パック用シートを皮膚に貼付し、外側の多孔質シートの上から水分(化粧水、水、湯など)を供給する。水分の供給は、手指、コットン、綿棒、ガーゼ、ティッシュペーパー、ブラシ、スプレーなどを用いて行うことができる。供給された水分は、多孔質シートの空隙を通過してフィルムに至る。すなわち、薄いフィルムを片面で支持する役割を担うシートが多孔質であることにより、使用時に供給される水分を、フィルムまで十分に到達させることができる。フィルムを形成している成分は保水性に優れるため、供給された水分を含んでソフトジェルとなり、多量の水分を保持する。これにより、高含水率のソフトジェル、及び、これを外側から支持する多孔質シートで皮膚を被覆し、皮膚を保湿するためのパックをすることができる。また、ヒアルロン酸、コラーゲン、ポルフィラン、ポリグルタミン酸から形成されるソフトジェルは何れも非常に高粘度であるため、皮膚から垂れ落ちにくい。また、フィルムを支持するシートが多孔質であることから、パックをした後も多孔質シートの上から水分を補給することができる。」([0010]) b「次に、本発明にかかるパック用シートは、「多孔質シートと、前記多孔質シートの片面のみに積層された、ヒアルロン酸、コラーゲン、ポルフィラン、及び、ポリグルタミン酸から選ばれる少なくとも一種を含有する乾燥したフィルムとを具備する」ものである。」([0023]) c「なお、本発明のパック用シートは、多孔質シートと、多孔質の片面のみに積層されたフィルムに加え、更に、多孔質シートが積層された面とは反対側の面でフィルムに積層された非多孔質シートを備える構成とすることができる。」([0025]) d「また、調製される液体には、形成されるフィルムを柔軟なものとするために可塑剤を含有させることができ、液体の均一性を高めるために界面活性剤を含有させることができる。可塑剤としては、マクロゴール、グリセリン、プロピレングリコールを例示することができ、界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリソルベートを例示することができる。」([0037]) e「全乾燥工程では、積層工程を経て非多孔質シート、フィルム、及び、多孔質シートが積層された積層シートを、温度・湿度が制御された空間内での空気対流、温風の供給、遠赤外線の照射、マイクロ波の照射等により、フィルムが全乾燥状態に至るまで乾燥させる。なお、全乾燥工程の後に、パック用シートを所望の形状に切断する切断工程を設けることができる。」([0043]) f「上記の製造方法により製造されたパック用シート10は、図1に示すように、多孔質シート3と、多孔質シートの片面のみに積層された、ヒアルロン酸、コラーゲン、ポルフィラン、及び、ポリグルタミン酸から選ばれる少なくとも一種を含有する乾燥したフィルム2と、多孔質シート3が積層された面とは反対側の面でフィルム2に積層された非多孔質シート1とを具備する。乾燥したフィルム2は、接着剤成分の層などを介することなく、多孔質シート3に積層されている。なお、図1は概略図であり、各層の厚さの比率などを正確に図示したものではない。」([0044]) g「上記構成のパック用シート10は、次のように使用する。まず、非多孔質シート1を剥離し、フィルム2を皮膚側として皮膚に貼付する。このとき、皮膚を水分で濡らしておくと、フィルム2が少し溶解して皮膚に密着し、パック用シート10を皮膚に貼付し易い。」([0045]) h「皮膚に貼付されたパック用シート10では多孔質シート3が外側となるため、多孔質シート3の上から水分を供給する。例えば、手指、コットン、綿棒、ガーゼ、ティッシュペーパー、ブラシ、スプレーなどを用いて、化粧水、水、湯などを多孔質シート3の表面に供給する。供給された水分は多孔質シート3の空隙を通過してフィルム2に至る。フィルム2には保水性の高い成分(選択される四種の成分の少なくとも一種)が含有されているため、フィルム2に到達した水分を含んで、フィルム2は高含水率のソフトジェルとなる。これにより、皮膚は高含水率のソフトジェルと、これを外側から支持する多孔質シート3で被覆され、保湿のためのパックをすることができる。また、ヒアルロン酸、コラーゲン、ポルフィラン、及び、ポリグルタミン酸が含水したソフトジェルは、極めて高粘度であるため、皮膚から垂れ落ちにくい。」([0046]) i「また、フィルム2に、美白成分、しわ取り成分、しみ防止成分、ビタミン類など皮膚に良い効果を与えるとされている成分が含有されている場合は、これらの有効成分は水分と共に皮膚に浸透する。」([0047]) j「以上のように、パック用シート10は、使用時に含水させるものであり、使用前は乾燥しているため、防腐剤を添加することなく、或いは、防腐剤の添加量を大幅に低減して製造することができる。これにより、防腐剤が皮膚トラブルの原因となることを懸念する需要者に、受け容れられやすいものとなる。」([0048]) k「また、フィルム2は乾燥しており水分をほとんど含有しないため、皮膚に良い効果を与えるとされている有効成分をフィルム2に含有させた場合は、パック用シート10を皮膚に貼付した際に皮膚に直接に接触するフィルム2における、有効成分の割合を高めることができる。」([0049]) l「更に、製造工程において、半乾燥状態のフィルムの粘着性を利用して多孔質シートを積層しているため、フィルム2と多孔質シート3とが、パックに寄与しない成分である接着剤成分の層を介することなく積層されている。」([0050]) m「そして、パック用シート10は、使用前は乾燥しておりべたつくことがないため、パッケージから取り出して皮膚に貼付する取り扱いが容易である。特に、多孔質シート3としてメッシュ状の不織布を使用した場合は、多孔質シート3の備える凹凸により、指で挟んで行う作業がより容易である。」([0051]) n「加えて、パック用シート10は、使用前は乾燥しておりべたつくことがないため、複数枚を一緒に包装することができる。特に、多孔質シート3としてメッシュ状の不織布を使用した場合は、多孔質シート3の備える凹凸により、一緒に包装された複数枚のパック用シート10が互いに密着することが抑制されるため、包装から一枚だけを取り出し易い。」([0052] o「そして、パック用シート10は多孔質シート3を備えるため、外側から供給された水分がフィルム2に速やかに到達する。特に、多孔質シート3としてメッシュ状の不織布を使用した場合は、マトリクスの空隙より大きな空隙を有するため、供給された水分は極めて速やかにフィルム2に至る。」([0053]) 上記摘記事項より、引用文献3には次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 「多孔質シートと、 多孔質シートの片面のみに積層された、ヒアルロン酸、コラーゲン、ポルフィラン及びポリグルタミン酸から選ばれる少なくとも一種を含有する乾燥したフィルムと、 多孔質シートが積層された面とは反対側の面でフィルムに積層された非多孔質シートと、を具備するパック用シートであって、 多孔質シートの上から供給された水分が、多孔質シートの空隙を通過してフィルムに至るものである、 パック用シート。」 (イ)対比 本件発明6と引用発明3とを対比する。 引用発明3の「多孔質シート」は、上から供給された水分が、空隙を通過してフィルムに至るものであるだから、本件発明6の「水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材である」「第1の浸透性基材」に相当する。 引用発明3の「フィルム」は、「薄膜層」である限りにおいて、本件発明6の「ナノ薄膜層」に相当する。 引用発明3の「非多孔質シート」は、カバーとしての機能を有するものだから、本件発明6の「カバーフィルム」に相当する。 引用発明3の「パック用シート」は、「薄膜転写シート」である限りにおいて、本件発明6の「ナノ薄膜転写シート」に相当する。 また、引用発明3の「多孔質シートが積層された面とは反対側の面でフィルムに積層された非多孔質シート」という記載より、引用発明3は「多孔質シート」と、「フィルム」と、「非多孔質シート」とがこの順に積層されたものである。 したがって、本件発明6と引用発明3とには、次の点で一致し、且つ、相違する。 [一致点ア] 「第1の浸透性基材と、薄膜層と、カバーフィルムとがこの順に積層されてなり、第1の浸透性基材は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材である、薄膜転写シート。」 [相違点ア] 本件発明6は、ナノ薄膜転写シートのナノ薄膜層の厚さが1nm?300nmであるのに対し、引用発明3は、パック用シートのフィルムの厚さが不明である点。 [相違点イ] 本件発明6は、第1の浸透性基材がメッシュシートであるのに対し、引用発明3は、多孔質シートがメッシュシートではない点。 (ウ)相違点についての判断 a 相違点ア 引用文献3の段落[0037]、段落[0046]の記載から、フィルム全体が確実にソフトジェルとなるように、水分がフィルム全体に行き渡るべきであることは当然である。そして、フィルムの厚さを小さくすれば、フィルムが柔軟なものとなり、体積が小さくなる分水分が全体に行き渡りやすくなることは明らかである。 そうすると、引用発明3において、フィルムを柔軟なものとし、かつ、水分がフィルム全体に確実に行き渡るようにするために、フィルムの厚さを小さくすること、より具体的には厚さを1nm?300nmの範囲内とすることに格別の困難性は認められない。 b 相違点イ 積層体の技術分野において、共通ないし類似の特性を有する材料として、メッシュシートと不織布とが互換的に用いられるものであることは、上記第3の3(2)イbにおいて指摘したとおり、当業者にとっての技術常識である。 また、浸透又は透過可能なメッシュシートは、上記第3の3(2)イbにおいて示したとおり、当業者にとって、周知のものである。 すると、引用発明3において、上記周知技術を適用し、水分を通過させる「多孔質シート」にかえてメッシュシートを用いることは当業者であれば容易になし得たことである。 (エ)効果の検討 本件発明6が奏する効果は、引用発明3及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 (オ)特許権者の主張について 特許権者は意見書において、「引用発明3において用いられるフィルムは、数μm程度の厚さでも十分に薄いフィルムであるといえることが理解できる。また、「本発明では、薄いフィルムを・・・」と記載されていることから、引用発明3におけるフィルムも数μm程度の厚さであると理解できる。そして、引用発明3は、数μm程度の厚さのフィルムについて、その取り扱いを容易にすることを発明の課題としたものである。ここで、引用文献3の上記の記載によれば、ヒアルロン酸等の含有するフィルムは、数μm程度の厚さであっても「ハンドリングが非常に困難」という問題があったのであるから、このフィルムを1?300nmという厚さにした場合には、数μmという厚さの1/10?1/1000程度の厚さまで薄くなるのであるから、より一層ハンドリングが困難になることが予想される。そうすると、引用発明3は、取り扱い(ハンドリングと同義といえる)が容易なパック用シートの提供を課題とするところ、1?300nmまでフィルムを薄くした場合には、引用発明3の手段を採用してもハンドリングが容易にならず、引用発明3の課題を解決できないおそれがあると、当業者は考える。そもそも、引用発明3において用いられているヒアルロン酸等を含有するフィルムを、1?300nmという厚さに実現できるかも疑問である。よって、引用発明3のフィルムの厚さを1?300nmに変更する動機はなく、むしろ、引用発明3のフィルムを1?300nmという厚さに変更することには阻害要因があるとすらいえる。」(第17頁第14行?第18頁第5行)と主張する。 しかしながら、引用文献3の段落[0009]には「本発明では、薄いフィルムを多孔質シートの片面に支持させるという手段を採った。これにより、本製造方法で製造されるパック用シートは、フィルムの厚さが小さくてもハンドリングが容易である。」と記載されているとおり、フィルムの厚さが小さくてもハンドリングが容易であるのだから、引用発明3において、フィルムの厚さを小さくすること、より具体的には厚さを1nm?300nmの範囲内とすることに阻害事由があるとまではいえない。 したがって、特許権者の主張は採用できない。 イ 小括 以上のとおり、本件発明6は、引用発明3及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定する要件を満たしておらず、その特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。 (4)引用文献6に基づく理由1について ア 本件発明1について (ア)引用文献6に記載された事項、引用発明 引用文献6には、以下の事項が記載されている。 a「キトサン若しくはキトサン誘導体又はこれらの塩を含む溶液を用いて形成されるA層と、ヒアルロン酸若しくはヒアルロン酸誘導体又はこれらの塩を含む溶液を用いて形成されるB層と、を有し、膜厚が20?280nmである、薄膜フィルム。」(【請求項1】) b「前記A層と前記B層とが交互に積層されたものである、請求項1に記載の薄膜フィルム。」(【請求項2】) c「皮膚貼合用である、請求項1又は2に記載の薄膜フィルム。」(【請求項3】) d「化粧用である、請求項1?3のいずれか一項に記載の薄膜フィルム。」(【請求項4】) e「このように、従来の皮膚貼合用シートは、(1)肌に貼付した状態にある貼付剤自体が目立って不自然である、(2)被適用者が貼付状態に違和感を持つ、(3)粘着剤により、かぶれや肌荒れを引き起こす可能性がある、などの問題を抱えていた。そのため、これらの問題を総合的に解決することができる新たな薄膜フィルムが求められている。」(【0007】) f「そこで、本発明は、貼付時に目立ちにくく、かつ違和感がなく、接着剤又は粘着剤を使用しなくても貼付することのできる薄膜フィルムを提供することを目的とする。本発明はまた、貼付時に目立ちにくく、かつ違和感がなく、接着剤又は粘着剤を使用しなくても貼付することのできる薄膜フィルムの製造方法を提供することを目的とする。」(【0008】) g「〔キトサン若しくはキトサン誘導体又はこれらの塩〕 キトサン若しくはキトサン誘導体又はこれらの塩は、カチオン性ポリマー(1分子中に2個以上のカチオン性基を有するポリマー)の一種である。本明細書において、キトサン若しくはキトサン誘導体又はこれらの塩を「カチオン性ポリマー」ということがある。」(【0018】) h「〔ヒアルロン酸若しくはヒアルロン酸誘導体又はこれらの塩〕 ヒアルロン酸若しくはヒアルロン酸誘導体又はこれらの塩は、アニオン性ポリマー(1分子中に2個以上のアニオン性基を有するポリマー)の一種である。本明細書において、ヒアルロン酸若しくはヒアルロン酸誘導体又はこれらの塩を「アニオン性ポリマー」ということがある。」(【0031】) i「本実施形態に係る薄膜フィルムの膜厚は、20?280nmである。また、自己密着性、吸水性、乾燥状態での柔軟性等の特性がより優れたものとなることから、50?250nmであることが好ましく、80?200nmであることがより好ましい。」(【0046】) j「<基材> 基材は、薄膜フィルムを製造する際の支持基板として機能する。基材として使用可能な材料としては、例えば、樹脂、シリコーン等の半導体、金属、セラミックス、ガラス、紙、不織布、無機非金属、木質、及び粉体が挙げられる。基材の形状はフィルム、シート、板、及び曲面を有する形状等任意の形状とすることができる。」(【0055】) k「不織布としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ナイロン、ビニロン、硝子等の繊維からなる不織布が挙げられる。紙や不織布は、その繊維間若しくは他層との層間強度を強化したものでもよい。また、ケバ立ち防止のため、又は浸透性抑制のために、更に、アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム、メラミン樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂を添加(抄造後樹脂含浸、又は抄造時に内填)したものでもよい。」(【0062】) l「本実施形態に係る薄膜フィルムの形状や大きさは、例えば、肌の形状や大きさに合わせて適宜設定することができる。薄膜フィルムの形状としては、例えば、長方形、正方形、三角形、その他の多角形、円形、三日月形状、楕円形、及びしずく型形状が挙げられる。本実施形態に係る薄膜フィルムは、フリーサイズのテープ又はシートをハサミ等により、所望の形状と大きさに切り抜いて使用することもできる。」(【0084】) 上記摘記事項より、引用文献6には次の発明(以下「引用発明6」という。)が記載されていると認められる。 「キトサン若しくはキトサン誘導体又はこれらの塩を含む溶液を用いて形成されるA層と、ヒアルロン酸若しくはヒアルロン酸誘導体又はこれらの塩を含む溶液を用いて形成されるB層とが交互に積層されたものであり、膜厚が20?280nmである、薄膜フィルムと、薄膜フィルムを製造する際の支持基板として機能する基材であって、不織布からなる基材と、を備えたものであって、薄膜フィルムが、皮膚貼合用かつ化粧用であるシート。」 (イ)対比 本件発明1と引用発明6とを対比する。 引用発明6における「薄膜フィルム」は、本件発明1における「ナノ薄膜層」に相当する。 引用発明6における「薄膜フィルム」の「膜厚」「20?280nm」は、本件発明1における「ナノ薄膜層」の「厚さ」「1nm?300nm」の範囲内である。 引用発明6における「薄膜フィルムを製造する際の支持基板として機能する基材であって、不織布からなる基材」は、「第1の基材」の限りにおいて、本件発明1における「第1の浸透性基材」に相当する。 また、引用発明6の「シート」は、「膜厚が20?280nmである、薄膜フィルム」と「不織布からなる基材」と、を備えた「シート」だから、本件発明1の「ナノ薄膜層」と「第1の基材」を備えた「ナノ薄膜転写シート」と一致する。 したがって、本件発明1と引用発明6との間には、次の点で一致し、且つ、相違する。 [一致点A] 「第1の基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層とがこの順に積層されてなる、ナノ薄膜転写シート。」 [相違点A] 本件発明1は、第1の浸透性基材が、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であるのに対し、引用発明6は、不織布からなる基材が、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なものであるのかが不明である点。 [相違点B] 本件発明1は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な第2の浸透性基材を有しているのに対し、引用発明6は、第2の浸透性基材を有していない点。 (ウ)相違点Aについての判断 引用文献6の段落【0062】には「不織布としては、……。また、ケバ立ち防止のため、又は浸透性抑制のために、……したものでもよい。」との記載がされており、引用発明6の「不織布からなる基材」には、浸透性があるものが含まれると解される。また、一般に、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な不織布は、文献を示すまでもなく周知のものである。 そうすると、引用発明6において、基材の不織布として、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なものを用いることは、当業者であれば容易になし得たものである。 (エ)相違点Bについての判断 引用文献6の段落【0084】には「本実施形態に係る薄膜フィルムは、フリーサイズのテープ又はシートをハサミ等により、所望の形状と大きさに切り抜いて使用することもできる。」との記載がされており、引用発明6もテープ又はシートとして使用されることが想定されるものである。引用発明6をテープ又はシートとして使用する場合、薄膜フィルムの基材が積層された面とは反対側の面が露出していると、露出している面が汚れたり傷付いたりする可能性があることは明らかであるから、この露出している面を保護することは、当業者であれば通常認識し得る課題である。さらに、薄膜を備えた積層体において、支持基材を一面のみとすることや、両面とすることは何れも文献を示すまでもなく、ごく一般的な支持構造である。 以上鑑みると、引用発明6において、薄膜フィルムの基材が積層された面とは反対側の面を、同様の基材で支持することに格別の困難性は認められない。 (オ)効果の検討 本件発明1が奏する効果は、引用発明6からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 (カ)特許権者の主張について 特許権者は意見書において、「引用文献6の段落【0055】には、引用文献6における薄膜フィルムの基材として用いられる材料が並列的に多数記載されており、不織布はその中の一例として記載されているにすぎない。また、引用文献6には、不織布を基材とした薄膜フィルムの具体的な態様も一切記載されていない。そうすると、引用文献6には、取消理由通知書で認定されたような発明が記載されているとはいえないし、引用文献6に記載されているに等しい事項から把握されるものであるともいえない。」(第19頁第22行?第20頁第5行)と主張する。 しかしながら、引用文献6の段落【0055】には、「基材は、薄膜フィルムを製造する際の支持基板として機能する。基材として使用可能な材料としては、例えば、樹脂、シリコーン等の半導体、金属、セラミックス、ガラス、紙、不織布、無機非金属、木質、及び粉体が挙げられる。」と基材として不織布が使用可能であると記載されており、不織布を使用することが記載されている。 また、特許権者は意見書において、「取消理由通知書において、相違点Bについて、薄膜フィルムの「露出している面を保護することは、当業者であれば通常認識し得る課題」であるとの判断、そして、「引用発明6において、薄膜フィルムの基材が積層された面とは反対側の面を、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なメッシュシートによって保護することに格別の困難性は認められない。」との判断が示されている(取消理由通知書の25頁目)が、この判断も妥当でない。」(第23頁第3行?第8行)と主張する。 しかしながら、被着体に転写する薄膜を備えた積層体において、一方にある基材と同様に他方にも基材を配置することは積層体においてごく一般的なことであるため、特許権者の主張は採用できない。 イ 本件発明2について (ア)対比 本件発明2と引用発明6とを対比すると、上記一致点Aで一致し、上記相違点A?Bに加えて下記の点で相違する。 [相違点C] 本件発明2は、第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材が、ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートのいずれかのメッシュシートであり、ナノ薄膜層との密着強度が互いに異なるものであるのに対し、引用発明6は、不織布からなる基材が、ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートのいずれかのメッシュシートではなく、且つ、薄膜フィルムとの密着強度が互いに異なるメッシュシートである第2の浸透性基材を有していない点。 (イ)相違点についての判断 a 相違点A?B 相違点A?Bの判断については上記で述べたとおりである。 b 相違点C 積層体の技術分野において、共通ないし類似の特性を有する材料として、メッシュシートと不織布とが互換的に用いられるものであることは、上記第3の3(2)イbにおいて指摘したとおり、当業者にとっての技術常識である。 また、浸透又は透過可能なメッシュシートである、ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートは、上記第3の3(2)イbにおいて示したとおり、当業者にとって、周知のものである。 そして、引用発明6において、薄膜フィルムの両面をメッシュシートによって保護するならば、剥離容易性を考慮すると、両メッシュシートの薄膜フィルムに対する密着強度を互いに異なるようにすると解するのが自然である。 仮にそうでないとしても、一般に、第1の基材と、薄膜層と、第2の基材とが積層された積層体において、薄膜層を使用するにあたって、いずれかの基材を先に剥離できるようにするために、一方の基材の薄膜層に対する密着強度を、他方の基材の薄膜層に対する密着強度と異ならせることは、当業者にとっての周知技術にすぎないものである。 すると、引用発明6において、上記技術常識及び周知技術を参酌し、ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートを用いて、密着強度を調整することは当業者が適宜なし得る設計的事項である。 したがって、本件発明2は、引用発明6及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (ウ)効果の検討 本件発明2が奏する効果は、引用発明6及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 (エ)特許権者の主張について 特許権者は意見書にて、「引用文献6には、…本件発明2における特定の素材のメッシュシートを用いることについても何ら記載がない。すなわち、引用文献6において、基材として本件発明2に係る特定のメッシュシートを用いることの動機付けを一切見出すことができない。そして、上記(7-2)でも述べたように、引用文献3の段落【0019】の記載「パック用シートにおけるフィルムを含水させる程度に水分を通過させる」という作用・機能を共通して有する不織布と織布が互換的に用いることを示しているにすぎず、あらゆる技術分野において、不織布と織布とが互換的に用いられることを示しているのではない。」(第26頁第15?24行)と主張する。 しかしながら、ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートが、上記第3の3(2)イbにおいて示したとおり周知のメッシュシートであること、積層体の技術分野に限ってみれば、メッシュシートと不織布とが互換的に用いられるものであることは、上記第3の3(2)イbにおいて示したとおり当業者にとって技術常識であることからして、引用発明6において、ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートを用いることは、当業者であれば容易になし得たものであり、特許権者の主張は採用できない。 ウ 本件発明3について (ア)対比 本件発明3と引用発明6とを対比すると、上記一致点Aで一致し、上記相違点A?Cに加えて下記の点で相違する。 [相違点D] 本件発明3は、第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであり、メッシュシートの通気性は、1000?10,000cc/cm^(2)・secであるのに対し、引用発明6は、不織布からなる基材が、メッシュシートではない点。 (イ)相違点についての判断 a 相違点A?C 相違点A?Cの判断については上記で述べたとおりである。 b 相違点D メッシュシートの通気性をどの程度にするかは、引用発明6における薄膜フィルムの皮膚に対する密着性や装着性に応じて適宜決定すべき事項であり、メッシュシュートの通気性を、1000?10,000cc/cm^(2)・secの範囲内とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。 したがって、本件発明3は、引用発明6及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (ウ)効果の検討 本件発明3が奏する効果は、引用発明6及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 エ 本件発明4について (ア)対比 本件発明4と引用発明6とを、対比する。 引用発明6における「薄膜フィルム」は、本件発明4における「ナノ薄膜層」に相当する。 引用発明6における「薄膜フィルム」の「膜厚」「20?280nm」は、本件発明4における「ナノ薄膜層」の「厚さ」「1nm?300nm」の範囲内である。 引用発明6における「薄膜フィルムを製造する際の支持基板として機能する基材であって、不織布からなる基材」は、「第1の基材」の限りにおいて、本件発明4における「第1の浸透性基材」に相当する。 また、引用発明6の「シート」は、「膜厚が20?280nmである、薄膜フィルム」と「不織布からなる基材」と、を備えた「シート」だから、本件発明4の「ナノ薄膜層」と「第1の基材」を備えた「ナノ薄膜転写シート」と一致する。 したがって、本件発明4と引用発明6との間には、次の点で一致し、且つ、相違する。 [一致点B] 「第1の基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層とがこの順に積層されてなる、ナノ薄膜転写シート。」 [相違点E] 本件発明4は、第1の浸透性基材が、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なメッシュシートであるのに対し、引用発明6は、不織布からなる基材が、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なものであるのかが不明である点。 [相違点F] 本件発明4は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なメッシュシートである第2の浸透性基材を有しているのに対し、引用発明6は、第2の浸透性基材を有していない点。 (イ)相違点Eについての判断 引用文献6の段落【0062】には「不織布としては、……。また、ケバ立ち防止のため、又は浸透性抑制のために、……したものでもよい。」との記載がされており、引用発明6の「不織布からなる基材」には、浸透性があるものが含まれると解される。また、積層体の技術分野において、共通ないし類似の特性を有する材料として、メッシュシートと不織布とが互換的に用いられるものであることは、当業者にとっての技術常識である。また、一般に、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なメッシュシートは、文献を示すまでもなく周知のものである。 そうすると、引用発明6において「不織布からなる基材」として、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なメッシュシートを用いることは、当業者であれば容易になし得たものである。 (ウ)相違点Fについての判断 引用文献6の段落【0084】には「本実施形態に係る薄膜フィルムは、フリーサイズのテープ又はシートをハサミ等により、所望の形状と大きさに切り抜いて使用することもできる。」との記載がされており、引用発明6もテープ又はシートとして使用されることが想定されるものである。引用発明6をテープ又はシートとして使用する場合、薄膜フィルムの基材が積層された面とは反対側の面が露出していると、露出している面が汚れたり傷付いたりする可能性があることは明らかであるから、この露出している面を保護することは、当業者であれば通常認識し得る課題である。さらに、薄膜を備えた積層体において、支持基材を一面のみとすることや、両面とすることは何れも文献を示すまでもなく、ごく一般的な支持構造である。また、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なメッシュシートは文献を示すまでもなく周知のものである。 以上鑑みると、引用発明6において、薄膜フィルムの基材が積層された面とは反対側の面を、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なメッシュシートによって保護することに格別の困難性は認められない (エ)効果の検討 本件発明4が奏する効果は、引用発明6及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 オ 本件発明5について (ア)対比 本件発明5と引用発明6とを対比すると、上記一致点Bで一致し、上記相違点E及びFに加えて下記の点で相違する。 [相違点G] 本件発明5は、第1の浸透性基材と第2の浸透性基材とは、互いにナノ薄膜層との接触面積が異なるのに対し、引用発明1は、第1の不織布及び第2の不織布が、互いの薄膜フィルムとの接触面積が異なるものか不明である点。 (イ)相違点についての判断 a 相違点E及びF 相違点E及びFの判断については上記で述べたとおりである。 b 相違点G 引用発明6において、接触面積を調整することは当業者が適宜なし得る設計的事項である。 したがって、本件発明5は、引用発明6及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (ウ)効果の検討 本件発明5が奏する効果は、引用発明6及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 カ 本件発明6について 上記第3の3(1)で示したとおり、本件発明6は、発明が明確ではないが、「第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、カバーフィルムとがこの順に積層されてなり、前記第1の浸透性基材は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であり、前記第1の浸透性基材はメッシュシートであるナノ薄膜転写シート。」であるとして判断をする。 (ア)対比 本件発明6と引用発明6とを対比する。 引用発明6における「薄膜フィルム」は、本件発明6における「ナノ薄膜層」に相当する。 引用発明6における「薄膜フィルム」の「膜厚」「20?280nm」は、本件発明6における「ナノ薄膜層」の「厚さ」「1nm?300nm」の範囲内である。 引用発明6における「薄膜フィルムを製造する際の支持基板として機能する基材であって、不織布からなる基材」は、「第1の基材」の限りにおいて、本件発明6における「第1の浸透性基材」に相当する。 また、引用発明6の「シート」は、「膜厚が20?280nmである、薄膜フィルム」と「不織布からなる基材」と、を備えた「シート」だから、本件発明6の「ナノ薄膜層」と「第1の基材」を備えた「ナノ薄膜転写シート」と一致する。 したがって、本件発明6と引用発明6との間には、次の点で一致し、且つ、相違する。 [一致点C] 「第1の基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層とがこの順に積層されてなる、ナノ薄膜転写シート。」 [相違点H] 本件発明6は、第1の浸透性基材が、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なメッシュシートであるのに対し、引用発明6は、不織布からなる基材が、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なメッシュシートではない点。 [相違点I] 本件発明6は、カバーフィルムを有しているのに対し、引用発明6は、カバーフィルムを有していない点。 (イ)相違点Hについての判断 引用文献6の段落【0062】には「不織布としては、……。また、ケバ立ち防止のため、又は浸透性抑制のために、……したものでもよい。」との記載がされており、引用発明6の「不織布からなる基材」には、浸透性があるものが含まれると解される。また、一般に、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なメッシュシートは、文献を示すまでもなく周知のものである。 そうすると、引用発明6において、基材の不織布として、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能なメッシュシートを用いることは、当業者であれば容易になし得たものである。 (ウ)相違点Iについての判断 被着体に転写する薄膜を備えた積層体において、一方にある基材と同様に他方にも基材を配置することは当業者にとって容易であり、カバーフィルムによって薄膜を保護することは、文献を示すまでもなく当業者にとっての周知技術であるといえるから、引用発明6において、薄膜フィルムの基材が積層された面とは反対側の面を、カバーフィルムによって保護することに格別の困難性は認められない。 したがって、本件発明6は、引用発明6及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (エ)効果の検討 本件発明6が奏する効果は、引用発明6及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 (オ)特許権者の主張について 特許権者は意見書にて、「「一般に、被着体に転写する薄膜を備えた積層体において、カバーフィルムによって薄膜を保護することは、文献を示すまでもなく当業者にとっての周知技術」という上記ご認定は、客観的根拠に基づくご認定ではなく、妥当とはいえない。」(第29頁第10?13行)と主張する。 しかしながら、カバーフィルムによって薄膜を保護することは、例えば引用文献3(上記摘記事項、第3の3(3)ア(ア)c参照。)に記載されているとおり、周知の事項であり、引用発明6において、薄膜フィルムの基材が積層された面とは反対側の面を、カバーフィルムによって保護することに格別の困難性は認められないため、特許権者の主張は採用できない。 キ 本件発明7について (ア)対比・判断 引用発明6の「キトサン若しくはキトサン誘導体又はこれらの塩」は、本件発明7の「ポリカチオン」に相当し、引用発明6の「ヒアルロン酸若しくはヒアルロン酸誘導体又はこれらの塩」は、本件発明7の「ポリアニオン」に相当する。 そうすると、本件発明7と引用発明6は、上記相違点E?Gで相違し、その他に相違点はない。 そして、相違点E?Gは上記で述べたとおりであるから、本件発明7は、引用発明6及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (イ)効果の検討 本件発明7が奏する効果は、引用発明6及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 ク 本件発明8について (ア)対比・判断 引用発明6は「キトサン若しくはキトサン誘導体又はこれらの塩を含む溶液を用いて形成されるA層と、ヒアルロン酸若しくはヒアルロン酸誘導体又はこれらの塩を含む溶液を用いて形成されるB層とが交互に積層されたもの」である。 そうすると、本件発明8と引用発明6は、上記相違点E?Gで相違し、その他に相違点はない。 そして、相違点E?Gは上記で述べたとおりであるから、本件発明8は、引用発明6及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (イ)効果の検討 本件発明8が奏する効果は、引用発明6及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 ケ 本件発明9について (ア)対比・判断 引用発明6の「キトサン若しくはキトサン誘導体又はこれらの塩」は、本件発明9の「1分子中に2個以上のアミノ基を有するカチオン性ポリマー」に相当する。 そうすると、本件発明9と引用発明6は、上記相違点E?Gで相違し、その他に相違点はない。 そして、相違点E?Gは上記で述べたとおりであるから、本件発明9は、引用発明6及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (イ)効果の検討 本件発明9が奏する効果は、引用発明6及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 コ 本件発明10について (ア)対比・判断 引用発明6の「ヒアルロン酸若しくはヒアルロン酸誘導体又はこれらの塩」は、本件発明10の「1分子中に2個以上のカルボキシル基又はカルボキシレート基を有するアニオン性ポリマー」に相当する。 そうすると、本件発明10と引用発明6は、上記相違点E?Gで相違し、その他に相違点はない。 そして、相違点E?Gは上記で述べたとおりであるから、本件発明10は、引用発明6及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (イ)効果の検討 本件発明10が奏する効果は、引用発明6及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 サ 本件発明11及び12について (ア)対比・判断 引用発明6の薄膜フィルムは、皮膚貼合用かつ化粧用である。 そうすると、本件発明11及び12と引用発明6は、上記相違点E?Gで相違し、その他に相違点はない。 そして、相違点E?Gは上記で述べたとおりであるから、本件発明11及び12は、引用発明6及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 (イ)効果の検討 本件発明11及び12が奏する効果は、引用発明6及び周知技術からして、何ら格別な効果を奏するものとは認められない。 シ 小括 以上のとおり、本件発明1?12は、引用発明6及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定する要件を満たしておらず、その特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。 4 むすび 以上のとおり、本件発明6は明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものでもある。 したがって、本件発明6に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 また、本件発明1?12は、引用発明1、引用発明3、引用発明6並びに周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。そうすると、本件発明1?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、本件発明1?12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、第2の浸透性基材とがこの順に積層されてなり、 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材である、ナノ薄膜転写シート。 【請求項2】 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシートのいずれかのメッシュシートであり、 前記ナノ薄膜層との密着強度が互いに異なるものであることを特徴とする請求項1に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項3】 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであり、 前記メッシュシートの通気性は、1000?10,000cc/cm^(2)・secであることを特徴とする請求項1又は2に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項4】 第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、第2の浸透性基材とがこの順に積層されてなり、 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であり、 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであることを特徴とするナノ薄膜転写シート。 【請求項5】 前記第1の浸透性基材と前記第2の浸透性基材とは、互いに前記ナノ薄膜層との接触面積が異なることを特徴とする請求項4に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項6】 第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、第2の浸透性基材とがこの順に積層されてなり、 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、水又はアルコールを浸透又は透過させることが可能な基材であり、 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材は、いずれもメッシュシートであるナノ薄膜転写シートの前記第1の浸透性基材及び第2の浸透性基材のいずれか一方に代えてカバーフィルムが積層されてなる、カバーフィルムを備えることを特徴とするナノ薄膜転写シート。 【請求項7】 前記ナノ薄膜層は、ポリカチオンを含む溶液を用いて形成されるA層と、ポリアニオンを含む溶液を用いて形成されるB層とを有することを特徴とする請求項4又は5に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項8】 前記ナノ薄膜層は、前記A層と前記B層とが交互に積層された層であることを特徴とする請求項7に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項9】 前記ポリカチオンは、1分子中に2個以上のアミノ基を有するカチオン性ポリマーであることを特徴とする請求項7又は8に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項10】 前記ポリアニオンは、1分子中に2個以上のカルボキシル基又はカルボキシレート基を有するアニオン性ポリマーであることを特徴とする請求項7?9のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項11】 前記ナノ薄膜層は、皮膚貼付用であることを特徴とする請求項4、5、7?10のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。 【請求項12】 前記ナノ薄膜層は、化粧用であることを特徴とする請求項4、5、7?10のいずれか一項に記載の薄膜転写シート。 【請求項13】 第1の浸透性基材と、厚さが1nm?300nmであるナノ薄膜層と、第2の浸透性基材とがこの順に積層されてなるナノ薄膜転写シートの製造方法であって、 前記第1の浸透性基材と前記第2の浸透性基材との間に溶解性支持層及び前記ナノ薄膜層を積層して積層体を形成する積層体形成工程と、 前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材に前記溶解性支持層を溶解させる溶媒を浸透又は透過させることで、前記積層体における前記溶解性支持層を溶解させて除去する溶解除去工程と、を備えることを特徴とするナノ薄膜転写シートの製造方法。 【請求項14】 前記積層体形成工程において、第1の浸透性基材、第1の溶解性支持層、及び第1のナノ薄膜層がこの順に積層されてなる第1の積層体と、第2の浸透性基材、第2の溶解性支持層、及び第2のナノ薄膜層がこの順に積層されてなる第2の積層体とを、前記第1のナノ薄膜層と前記第2のナノ薄膜層とが対向するように貼り合せて前記積層体を形成することを特徴とする請求項13に記載のナノ薄膜転写シートの製造方法。 【請求項15】 前記溶解除去工程の後に、前記第1の浸透性基材及び前記第2の浸透性基材のいずれか一方を前記ナノ薄膜層から剥離し、前記ナノ薄膜層の前記浸透性基材が剥離された側にカバーフィルムを積層するカバーフィルム積層工程を更に備えることを特徴とする請求項13又は14に記載のナノ薄膜転写シートの製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-06-30 |
出願番号 | 特願2013-144567(P2013-144567) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
ZAA
(B32B)
P 1 652・ 537- ZAA (B32B) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 斎藤 克也 |
特許庁審判長 |
高山 芳之 |
特許庁審判官 |
横溝 顕範 杉山 悟史 |
登録日 | 2018-09-28 |
登録番号 | 特許第6405605号(P6405605) |
権利者 | 日立化成株式会社 |
発明の名称 | ナノ薄膜転写シート及びナノ薄膜転写シートの製造方法 |
代理人 | 平野 裕之 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 平野 裕之 |
代理人 | 中塚 岳 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 中塚 岳 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |