• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1366967
異議申立番号 異議2019-700510  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-26 
確定日 2020-09-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6445389号発明「連続繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6445389号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。 特許第6445389号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 特許第6445389号の請求項5に係る特許についての特許異議の申し立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6445389号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成27年5月18日の出願であって、平成30年12月7日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和1年6月26日に特許異議申立人 サビック グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ、同年9月2日付けで取消理由が通知され、同年11月1日に特許権者 三菱瓦斯化学株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、同年11月21日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、令和2年2月21日に特許権者から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年3月5日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年5月18日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年6月1日に特許権者から上申書が提出されたものである。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和2年2月21日にされた訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1にて、「250℃における溶融粘度が100Pa・sより高く1000Pa・s以下である」と記載されているところを、「250℃における溶融粘度が300?700Pa.sである」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項3を独立請求項とし、「250℃における溶融粘度が100Pa・sより高く1000Pa・s以下であるポリカーボネート樹脂(A)を、連続繊維強化材(B)に溶融含浸させ、前記連続繊維強化材(B)がガラス繊維を含有する、繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ。」と記載するように訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項3を引用する請求項4についても、請求項3を訂正したことに伴う訂正をする。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「100Pa・sより高く1000Pa・s以下」とされていたのを、「300?700Pa.s」と、より狭い範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3の記載が訂正前の請求項1及び2の記載を引用する記載であったものを、訂正前の請求項2を引用するものを削除し、訂正前の請求項1のみを引用するものについて、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるためのものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし3は、それぞれ、特許請求の範囲の減縮又は他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1又は4号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし3は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項2ないし5は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし5は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1ないし3は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし5に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
250℃における溶融粘度が300?700Pa.sであるポリカーボネート樹脂(A)を、連続繊維強化材(B)に溶融含浸させた繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ。
【請求項2】
前記連続繊維強化材(B)の体積含有値(Vf値)が30?60%である、請求項1に記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ。
【請求項3】
250℃における溶融粘度が100Pa・sより高く1000Pa・s以下であるポリカーボネート樹脂(A)を、連続繊維強化材(B)に溶融含浸させ、前記連続繊維強化材(B)がガラス繊維を含有する、繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ。
【請求項4】
前記ガラス繊維が、Eガラスを含有する、請求項3に記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ。
【請求項5】削除」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由(決定の予告)の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和1年6月26日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明並びに本件特許の出願時の技術常識及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由2(甲第2号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明並びに本件特許の出願時の技術常識及び周知技術に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)申立理由3(甲第3号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲第3号証に記載された発明並びに本件特許の出願時の技術常識及び周知技術に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(4)証拠方法
甲第1号証:特開2008-179808号公報
甲第2号証:特開平7-97465号公報
甲第3号証:特開2013-203771号公報
甲第4号証:国際公開第2013/147257号
甲第5号証:特開2011-6578号公報
甲第6号証:特開平2-143810号公報
甲第7号証:特開平3-114706号公報
甲第8号証:特表2006-523543号公報
甲第9号証:特表2013-531717号公報
甲第10号証:WIT Transactions on the Built Environment,Vol.137,2014,pp.291-299
甲第11号証:WIT Transactions on the Built Environment,Vol.137,2014,pp.283-289
甲第12号証:Study of Influence of Injection-Molding Conditions on Shear Effect and Finished Surface Quality of Plastic Parts(2012年7月)
甲第13号証:Polymer Engineering and Science,Nov.2003,Vol.43,No.11,pp.1727-1739
なお、甲第10ないし13号証は、令和2年5月18日に提出された意見書に添付されたものである。
以下、順に「甲1」のようにいう。

2 取消理由(決定の予告)の概要
令和1年11月21日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。

(甲3を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1、2及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第5 当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項及び甲1発明
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「樹脂プリプレグの製造方法、樹脂プリプレグ用繊維シート、樹脂プリプレグ及びその複合材料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。

・「【請求項1】
繊維シートの繊維間にマトリクス樹脂を加圧含浸させることから成る樹脂プリプレグの製造方法であって、前記繊維シートに対し、繊維の配向と交差する方向に縫い糸を縫合する縫合処理、並びに繊維に塗布された薬剤を除去し繊維束を開繊する開繊等処理を施すことを特徴とする樹脂プリプレグの製造方法。
・・・(略)・・・
【請求項3】
前記繊維シートは、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、又はセラミック繊維等の強化繊維を一方向に引き揃えシート状にした組成物に対し前記縫合処理および前記開繊等処理を施すことにより連続強化繊維シートとなる請求項1又は2に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項4】
前記連続強化繊維シートは、熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂、または熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との混合樹脂により複合化され補強基材として使用される樹脂強化用連続繊維シートである請求項1から3の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
・・・(略)・・・
【請求項12】
前記マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂シートの場合、前記連続強化繊維シートの片面または両面に該熱可塑性樹脂シートを配置して該樹脂シートを加熱溶融させて繊維間に加圧含浸させる請求項1から11の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
・・・(略)・・・
【請求項16】
前記熱可塑性樹脂は、塩化ビニル、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルホン、又はポリエーテルエーテルケトンの何れかである請求項12から15の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。」

・「【0007】
一般的な熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法として、熱可塑性樹脂を加熱溶融し、加圧して連続繊維に含侵させる場合、樹脂の粘度が高いと製造時のライン速度を遅くして十分な樹脂含浸時間を確保する必要があり、さらに、極めて樹脂粘度が高い場合には含浸不良を起こし、プリプレグに空隙が多く含まれる事になる。ライン速度を短縮するために加圧圧力の大きさを一気に上昇させて樹脂含浸速度を上昇させようとすると、整列した連続繊維の一部の間隔が広がってしまい、その結果プリプレグの品質を低下させる。また、この製造方法では、加圧含浸時に連続繊維を整列させた状態に保つために繊維束に高い張力をかける必要があり、特に炭素繊維などの高剛性繊維では切断が起きやすい。さらには高張力を与えながら樹脂を含浸させるために、プリプレグ製造時の設備の高コスト化を招く。一方、溶融時の樹脂の粘度が低いと高速で含浸が可能となるが、樹脂流動性に富む樹脂は分子量が低く、樹脂単体の機械的特性が低下する。このため、低粘度熱可塑性樹脂複合材は、高粘度樹脂の場合と比較して、材料の機械的特性が低下することになる。また、粉末状の熱可塑性樹脂を強化繊維シートに付着させて含浸させる方法では、熱可塑性樹脂を均質な粉末状にして製造する事が難しく、基材の高コスト化を招き、また、粉末状の樹脂の付着量を調整することも困難である。熱可塑性樹脂を繊維状にする必要がある製造方法についても同様にコストの面で高くなる。熱可塑性樹脂を溶液化し、強化繊維材料に含浸させる方法は、使用できる樹脂や溶媒の種類が制限されるという問題点があり、さらに、強化繊維シートに張力をかけた状態で熱可塑性樹脂が含まれる溶液の処理浴に浸すことにより樹脂含浸が成される製造ラインが必要となり、同様に設備の高コスト化は避けられない。」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述した通り、樹脂の含浸状態、強化繊維配向の均一性および樹脂と強化繊維の接着状態において優れた工業的品質を備えた熱可塑性樹脂プリプレグを得るためには、従来の熱可塑性樹脂プリプレグの製造技術では、熱可塑性樹脂を予め粉末状や繊維状等の特殊な形態に加工する工程、強化繊維に高張力を与える設備、強化繊維を開繊してから高張力を与えながら樹脂を含浸させる設備、もしくは熱可塑性樹脂の溶液バスに繊維シートを浸すための複雑な設備等が必要となり、その結果コストの面で高額化を招くという問題がある。また、製造時間の面でも、上記従来の熱可塑性樹脂プリプレグの製造技術では、十分な樹脂含浸時間を確保する必要がある。
他方、薄いドライの強化繊維シートを複数枚積層してからRTMによって熱硬化性樹脂を含浸させ、次いで加熱することで熱硬化性樹脂を硬化させて熱硬化性樹脂プリプレグを得るためには、開繊したドライの強化繊維シートのハンドリング性の確保および樹脂含浸性の向上が問題となっている。
そこで、本発明の目的は、上記実情に鑑み創案されたものであって、簡易な製造設備で、且つ従来より短い製造時間で、樹脂の含浸状態、強化繊維配向の均一性および樹脂と強化繊維の接着状態において優れた工業的品質を備えた熱可塑性樹脂プリプレグを製造することができ、ドライの強化繊維シートを複数枚積層してからRTMによって熱硬化性樹脂を含浸する際の開繊したドライの強化繊維シートのハンドリング性の確保および樹脂含浸性の向上を達成することが出来る熱硬化性樹脂プリプレグの製造方法、樹脂プリプレグ用繊維シート、樹脂プリプレグ及びその複合材料を提供する事である。」

・「【0018】
しかしながら、縫合処理が施された繊維シートでは、縫合糸が繊維シートを通る領域は、溶融した樹脂の繊維束内部への流入経路となる。本発明では、樹脂の粘度が極めて高い場合、又は樹脂の劣化を防ぐために各樹脂についてメーカーが推奨する成形温度以下で樹脂含浸を行う場合、或いは樹脂含浸速度を上昇させる場合は、縫合糸(縫い糸)の種類、縫い方、縫い目長さおよび縫合間隔について調整する事で樹脂含浸性を向上させることが可能である。」

・「【0024】
以上のことから、本発明による樹脂プリプレグの製造方法によれば、先に述べた繊維シートに施す縫合処理および開繊等処理の条件と樹脂含浸時の溶融温度/加圧力の最大値/圧力上昇過程の成形条件は、熱可塑性樹脂プリプレグに使用する熱可塑性樹脂シートと連続強化繊維シートの特性(樹脂の種類、繊維の種類など)、製造時間、および材料強度などの力学的特性に合わせて最適条件を選択する事ができる。」

・「【実施例1】
【0029】
炭素繊維一方向連続シート(SP systems 製、UT-C400、目付 400g/sqm)を繊維方向に250mm、幅方向に230mmの大きさに切り出し炭素繊維シートとした。次に、炭素繊維シート1に対し工業用ミシン(JUKI製、DDL-9000S)により耐熱糸(クラレ製、ベクトラン、#50)2を利用して縫い目長さ1.25mm、縫いの間隔(縫合間隔)を20mmとして、繊維と直角方向に、幅230mm(=縫合長さ)全域を横断するようにして縫合した。縫い方は本縫いである。繊維シート端部での返し縫は行っていない。図1に縫合処理が施された炭素繊維シート1を示す。また、炭素繊維以外に、ガラス繊維、アラミド繊維、又はセラミック繊維等の強化繊維を一方向に引き揃えシート状にした繊維シートを使用することも可能である。また、耐熱糸は、ベクトラン以外にノーメックス、コーネックス、パイロメックス、ラステックス、又はザイロン等の高強度・高剛性の耐熱糸を使用することも可能である。
【0030】
次に、上記の縫合処理を施した炭素繊維シート1を、アセトン(和光純薬工業製、試薬特級)350ml中に60分間完全に浸し、一度完全にアセトンを揮発させてから、さらにアセトン250ml中に60分間完全に浸し、繊維束表面のサイジング剤およびカップリング剤を除去した。アセトンを利用した炭素繊維シートの開繊等処理の特徴は、サイジング剤とカップリング剤を同時に除去する事ができ、さらに脱脂の効果もあることである。また、機械的方法による開繊よりも、繊維の毛羽立ちの少ない開繊繊維シートを得る事が出来る。図2に縫合処理および開繊等処理が施された炭素繊維シート3を示す。縫合処理を施したことにより開繊後においても炭素繊維シート3の取扱性は良好であり、樹脂含浸時においても一方向の炭素繊維シートの配向が維持される。また、炭素繊維シート3における縫合糸(耐熱糸2)の通り道は樹脂の流入経路となる。図3は本発明に係る縫合処理および開繊等処理を施した連続強化繊維シート10の概要図である。なお、本実施例ではポリカーボネートと炭素繊維の接着界面を制御するための繊維束へのカップリング剤、例えばシラン系、チタネート系、アルミネート系、ジルコネート系等のカップリング剤の添付は行っていない。
【0031】
図4は、本発明の実施例であるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの製造方法を示す説明図である。
熱可塑性樹脂シートとしてのポリカーボネートシート4(帝人化成製、パンライトフィルム、PC-2151(クリア))を230×140mmに切り出し、このポリカーボネートシート4を定温乾燥機により乾燥させた(110℃、5hour以上)。上部加熱・加圧板6および下部加熱・加圧板7から成る熱可塑性樹脂成形用の加圧板型に対し、アルミの薄い板から成るスペーサー(ダム)5を、幅230mmの間隔をあけて耐熱テープ(カプトンテープ)によって下部加熱・加圧板7に貼り付け固定した。次に、上記の縫合処理および開繊等処理済みの連続強化繊維シート10を下部加熱・加圧板7上のスペーサー5,5間に配置し、端部を耐熱テープで止め(図示せず)、その上に乾燥させたポリカーボネートシート4を配置した。特に特別な方法ではなく、ポリカーボネートシート4も連続強化繊維シート10の片面に積層するだけであり、極めて簡便な成形方法である事が分かる。また、図4による成形法(製造方法)は、本発明に係る縫合処理および開繊等処理済み連続強化繊維シート10による熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法の一例である。なお、熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート以外に塩化ビニル、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルホン、又はポリエーテルエーテルケトンを使用することが可能である。
【0032】
予熱手段および加圧手段としてのホットプレス(東洋精機製、ミニテストプレスMP-S)を成形温度310℃まであらかじめ昇温させた。次に、連続強化繊維シート10の上にポリカーボネートシート4を積層した成形用の加圧板型をホットプレスに配置して、10分間の予備加熱を行った。予備加熱終了後、段階的加圧法により、連続強化繊維シート10に対するポリカーボネートシート4の含浸を加圧により行った。昇圧速度については、昇圧時間の間隔はいずれも2min.であるが、0.25MPaまでを0.0625MPaずつ昇圧、0.25?0.75MPaは0.125MPaずつ、0.75?1.75MPaは0.25MPaずつ昇圧した。昇圧は時間間隔をタイマーで測り、手動により圧力を上げているため、昇圧プロセスには若干のばらつきが生じる事を付記しておく。1.75MPaまで昇圧した後、その加圧の大きさを維持したままホットプレスの加熱盤のスイッチを切って190℃まで自然冷却した。190℃まで温度が下がれば、ホットプレスの水冷機能を利用して120℃までさらに冷却し、徐圧して脱型した。以上の成形方法により、ポリカーボネート・炭素繊維プリプレグ(平均厚さ0.4mm)を得た。本発明の方法により得られた熱可塑性樹脂プリプレグとしてのポリカーボネート・炭素繊維プリプレグは含浸不良も無く、繊維配向の大きな乱れも見られず、良好な成形物であった。図5に得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを示す。図6は得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを拡大して示したものである。このポリカーボネート・炭素繊維プリプレグには大きな空隙等も特に見られず、良好な成形状態であることが確認できる。また、図7はポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを繊維方向に沿って引き裂いた場合の縫合糸付近の顕微鏡写真を示す。縫合糸周辺においても含浸不良は生じていないことが分かる。」

イ 甲1発明
甲1に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「ポリカーボネートシート(帝人化成製、パンライトフィルム、PC-2151(クリア))を、予備加熱終了後、炭素繊維一方向連続シート(SP systems 製、UT-C400、目付 400g/sqm)に縫合処理および開繊等処理を施して得た連続強化繊維シートに加圧含浸させたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグ。」

(2)甲2に記載された事項及び甲2発明
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「プリプレグ及び積層構造体」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項1】一平面上に一方向に引き揃えて配列した連続繊維に熱可塑性樹脂を含浸して成る少なくとも一層の繊維強化シートと、少なくとも一層の多孔性の柔軟な補強シートとを積層して成るプリプレグ。」

・「【0011】
【発明を実施するための最良の態様】本発明に用いられるプリプレグは、一平面上に一方向に引き揃えて配列した連続繊維に熱可塑性樹脂を含侵させて繊維強化樹脂シートを製造し、その繊維強化樹脂シートの少なくとも一方の面に補強シートを圧着させたものである。
【0012】本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えばポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂(ポリアクリロニトリル、ポリスチレン・ポリアクリル酸エステル)、ポリメチルメタクリレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアリレート等がある。
【0013】連続繊維は単繊維を集束剤により集束したもので、本発明の連続繊維は、太さ3?25μm単繊維を100?20000本集束して使用される。集束剤は、熱可塑性樹脂に応じて選択する必要があり、一般的にはその熱可塑性樹脂の溶融温度で軟化すると共に、連続繊維中に含浸し易いものにする。そのため、集束剤には、その熱可塑性樹脂と同種の樹脂を主成分とするものを使用することが多い。
【0014】単繊維の材料としては、例えばガラス、カーボン、アラミド、炭化ケイ素等が代表的なものである。連続繊維中の単繊維にガラス繊維を用いる場合は、繊維の表面に対し、各種の表面処理を行い、熱可塑性樹脂との密着性を向上させる。表面処理には、集束剤とカップリング剤とを組み合わせて用いる。」

・「【0023】熱可塑性樹脂を加熱溶融し、連続繊維に含侵させた後、脱泡して冷却させる場合、樹脂溶融時の樹脂の粘度が高いとライン速度を遅くしないと十分な含浸が達成できず、極端に樹脂溶融時の粘度が高いと含浸しない。また、溶融時の樹脂の粘度が低いと高速で含浸が可能となるが、樹脂流動性に富むために繊維が樹脂を保持できずに繊維含有率が高いプリプレグの製造が困難となり高強度プリプレグが得にくくなり、また、分子量が低く樹脂単体の性能が劣りプリプレグ積層体としての物性が悪くなるという問題点を有する。従って、溶融時の樹脂粘度が、剪断速度が1/秒以上100/秒以下の範囲で1000ポイズ以上5000ポイズ以下であることが好ましい。
【0024】また、熱可塑性樹脂が溶媒に可溶なものであれば、その樹脂を溶媒に溶かして溶液化し、それを連続繊維に含侵させ、その後脱泡しながら溶媒を除去することもできるが、この方法は溶剤に可溶な樹脂だけにしか使用できないので、全ての樹脂に対応できない。繊維強化シート中の連続繊維の繊維含有率が低いと繊維強化シート強度が低くなる。また、繊維含有率が高いと、熱可塑性樹脂と連続繊維との密着性が低下し、やはり繊維強化シート強度が低くなってしまうので、繊維強化シート中の連続繊維の繊維含有率は、40?80容量%が好ましい。
【0025】このようにして製造された繊維強化シートは、連続繊維と熱可塑性樹脂との密着性に優れ、繊維含有率も40?80容量%の範囲内で必要に応じて変化させることができ、厚さも0.1mm?0.6mmと薄く製造することができる。連続繊維を一方向に整列して熱可塑性樹脂を含浸させた繊維強化シートは、複数の連続繊維を平行に並べて溶融した熱可塑性樹脂を含浸させることにより製造される。」

・「【0063】〔比較例1〕補強シートを有しない以外は実施例1と同じ要領で重さ350g/m^(2)のプリプレグOを製造し、それを長さ10mに切出し、その表面に発生する縦割れの有無を検査した。この検査に用いられたプリプレグOの構成及び検査結果を表1に示したが、これによると、このプリプレグOには縦割れは認められなかった。
【0064】〔比較例2〕補強シートを有しない以外は、実施例3と同じ要領で重さ200g/m^(2)のプリプレグPを製造し、それを長さ10mに切出し、その表面に発生する縦割れの有無を検査した。この検査に用いられたプリプレグPの構成及び検査結果を表1に示したが、これによると、このプリプレグPには縦割れは認められなかった。
【0065】〔比較例3〕補強シートを有しない以外は、実施例5と同じ要領で重さ50g/m^(2)のプリプレグQを製造し、それを長さ10mに切出し、その表面に発生する縦割れの有無を検査した。この検査に用いられたプリプレグQの構成及び検査結果を表1に示したが、これによると、このプリプレグQには多数の縦割れが発生した。
【0066】〔比較例4〕補強シートを有しない以外、実施例12と同じ要領で容積繊維含有率50%、重さ150g/m^(2)のプリプレグQを製造し、それを長さ10mに切出し、その表面に発生する縦割れの有無を検査した。この検査に用いられたプリプレグQの構成及び検査結果を表1に示したが、これによると、このプリプレグQには縦割れは認められなかった。」

イ 甲2発明
甲2に記載された事項を、特に【請求項1】及び【0025】に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「一平面上に一方向に引き揃えて配列した連続繊維に溶融した熱可塑性樹脂を含浸して成る少なくとも一層の繊維強化シートと、少なくとも一層の多孔性の柔軟な補強シートとを積層して成るプリプレグ。」

(3)甲3に記載された事項及び甲3発明
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「擬似等方性複合板の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項1】
250℃における粘度が1000?15000ポイズである熱可塑性樹脂組成物と、二次元平面内において無作為な方向に配置された、一方向に引き揃えられた1.0?2.4dtexのPAN系炭素繊維からなる短冊状片とを前記熱可塑性樹脂組成物を150℃以上250℃未満の温度として前記短冊状片と複合化する熱可塑性樹脂組成物と炭素繊維との擬似等方性複合板の製造方法であって、
前記短冊状片が、以下の性質を満たす擬似等方性複合板の製造方法。
厚みが0.20mm以下、
繊維の方向に対して直交する方向における長さが2?25mm、
繊維の方向における長さが5?30mm、
繊維の方向に直交する方向における長さ/繊維の方向における長さの比が0.15?1.50
【請求項2】
250℃における粘度が1000?15000ポイズである熱可塑性樹脂組成物を、150℃以上250℃未満の温度として、一方向に引き揃えられた1.0?2.4dtexのPAN系炭素繊維に、含浸させてテープ状物とし、引き続き、切断して前記短冊状片を製造する工程を含む、請求項1に記載の擬似等方性複合板の製造方法。」

・「【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂組成物と補強繊維からなる複合板はよく知られている。特許文献1には、一方向に引き揃えられた補強繊維からなる短冊状片を複合した板が開示されている。特許文献1は、実施例3において炭素繊維と、250℃における溶融粘度が3000、12000ポイズのナイロン6を用いて、260℃でナイロン6被覆炭素繊維束を作り、それを赤外線ヒーターで260℃に予熱し、さらには、260℃に設定したロールで押圧することでテープを製造している。そのテープを切断した短冊状片を260℃で圧縮成形することで板を製造している。この方法で製造した板は、250℃の溶融粘度が500ポイズや17000ポイズの場合よりも高い曲げ強度が得られることを示している。しかしながら、この方法では、赤外線ヒーター、ロール、金型等を高温にする必要があり、過大なエネルギー消費の問題や樹脂劣化の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2-143810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、樹脂組成物を短冊状片に含浸する際に、比較的低温とすることで、エネルギー消費を抑制でき、かつ、樹脂劣化による変色や、性能低下のおそれが少ない複合板を提供できるものである。」

・「【0011】
本発明の製造方法に用いる熱可塑性樹脂組成物としては、250℃での溶融粘度が1000?15000ポイズであることが必要である。このような熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂として、ポリアミド、または共重合のポリアミド、ポリエステル、または共重合のポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン等を使用することができる。なお、これらの熱可塑性樹脂の溶融粘度はキャピラリー型の粘度計を使用し、せん断速度が0sec^(-1)ないし、その近辺において測定する。」

・「【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
以下の実施例および比較例においては、原材料として下記のものを用いた。
【0016】
(炭素繊維)
PAN系炭素繊維1(単繊維繊度 1.3dtex、強度 4218MPa、弾性率 236GPa)
PAN系炭素繊維2(単繊維繊度 2.4dtex、強度 3477MPa、弾性率 230GPa)
PAN系炭素繊維3(単繊維繊度 0.67dtex、強度 4900MPa、弾性率 240GPa)
【0017】
(熱可塑性樹脂組成物)
ポリアミド6:250℃での溶融粘度が10000ポイズであるポリアミド6樹脂(宇部興産社製、製品名:1011FB)
【0018】
(実施例1)
(樹脂フィルムの作製)
加熱冷却二段プレス(神藤金属工業所社製、製品名:F-37)を用いてポリアミド6樹脂のペレットを240℃の加熱盤で挟み込み、加圧して薄く引き延ばした。その後、冷却盤で冷却することにより厚み約60μmの樹脂フィルムを作製した。作製した樹脂フィルムの1m^(2)あたりの重量は約70gであった。
【0019】
(炭素繊維シート及びテープ状の一方向プリプレグの作製)
炭素繊維として、PAN系炭素繊維1を使用した。この炭素繊維をドラムワインドにて巻き付け、炭素繊維目付100g/m^(2)の一方向の炭素繊維シートを作製した。作製した炭素繊維シートに適度に張力を掛け、炭素繊維シートに両面から前記樹脂フィルム、フッ素樹脂製フィルム(日東電工社製、商品名:ニトフロンフィルム970-4UL)、アルミ製の平板の順に挟み、前記加熱冷却二段プレスの加熱盤で240℃、5分、20kPa、冷却盤で5分、20kPaの条件で、プリプレグ目付約240g/m^(2)、樹脂含有率約58質量%である、厚み約180μmのテープ状の一方向プリプレグを得た。
【0020】
(短冊状片からなる複合板の作製)
前記テープ状の一方向プリプレグを繊維の方向に対して直交する方向における長さ20mmに切断した後、繊維の方向における長さ25mmで切断し、短冊状片を得た。この短冊状片を245g採取し、平板金型中に散布して240℃で圧縮成形を行ない、厚みが約2mm、縦30cm、横30cmの平板を得た。この板から縦25mm、横120mmの試験片を切り出し、万能試験機(Instron社製、製品名:Instron5565)と解析ソフト(製品名:Bluehill)を用い、JIS K 7171に準拠して25℃で曲げ試験を実施した。圧子のR=5mm、支点のRは2mm、スパンと厚みの比(L/D)は40とした。その曲げ強度は、35kgf/mm^(2)であった。また、複合板の断面を光学顕微鏡で観察したところ、炭素繊維の間に空隙部が観察されなかった。」

イ 甲3発明
甲3に記載された事項を、特に【請求項2】に関して整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

「250℃における粘度が1000?15000ポイズである熱可塑性樹脂組成物を、150℃以上250℃未満の温度として、一方向に引き揃えられた1.0?2.4dtexのPAN系炭素繊維に、含浸させて得たテープ状物。」
なお、上記「テープ状物」は、疑似等方性複合板を製造する過程で現れる中間生成物であるが、その具体的実施例の記載である【0019】を確認すると、「テープ状の一方向プリプレグを得た」とされていて、具体的な製造品として得られたものとして記載されているので、甲3発明として認定できる。

2 取消理由(決定の予告)(甲3を主引用文献とする進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における「一方向に引き揃えられた1.0?2.4dtexのPAN系炭素繊維」は本件特許発明1における「連続繊維強化材(B)」に相当する。
甲3発明における「250℃における粘度が1000?15000ポイズ」は本件特許発明1における「250℃における溶融粘度が300?700Pa.s」と、「250℃における粘度が所定の範囲内」であるという限りで一致する。
甲3発明における「熱可塑性樹脂」は本件特許発明1における「ポリカーボネート樹脂(A)」と、「熱可塑性樹脂」であるという限りで一致する。
さらにまた、甲3発明における「150℃以上250℃未満の温度として、」「含浸させて得た」は本件特許発明1における「溶融含浸させた」に相当する。
甲3発明における「テープ状物」は甲3の【0019】によると「プリプレグ」であるから、甲3発明における「テープ状物」は本件特許発明1における「繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ」と、「繊維強化熱可塑性樹脂製プリプレグ」であるという限りで一致する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「250℃における溶融粘度が所定の範囲内である熱可塑性樹脂を、連続繊維強化材に溶融含浸させた繊維強化熱可塑性樹脂製プリプレグ。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-1>
「250℃における粘度が所定の範囲内」に関して、本件特許発明1においては、「250℃における溶融粘度が300?700Pa.s」であるのに対し、甲3発明においては、「250℃における粘度が1000?15000ポイズ」、すなわち250℃における粘度が100?1500Pa.sである点。

<相違点3-2>
「熱可塑性樹脂」に関して、本件特許発明1においては、「ポリカーボネート樹脂」であるのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、相違点について検討する。
まず、相違点3-1について検討する。
「250℃における溶融粘度が300?700Pa.s」に関して、本件特許明細書において、「250℃における溶融粘度」が「300?700Pa.s」の範囲内である実施例1ないし7及び9ないし11は、プリプレグの含浸性、すなわち熱溶融含浸性が「良好」又は「可」であり、かつ、複合シートの曲げ弾性率、すなわち曲げ特性が良好であることを確認している。
また、同じく本件特許明細書において、「250℃における溶融粘度」が「300?700Pa.s」の範囲外である比較例1ないし4は、熱溶融含浸性が「不良」であるか、または、熱溶融含浸性が「良好」であったとしても曲げ特性が不良であることを確認している。
したがって、本件特許発明1における「300Pa.s」及び「700Pa.s」という数値には、それらの値の間であれば、良好な熱溶融含浸性と良好な曲げ特性を両立することができるという臨界的意義があると認められる。
なお、特許異議申立人は、令和2年5月18日に提出された意見書において、「300Pa.s」及び「700Pa.s」の各数値に臨界的意義は認められない旨主張するが、上記のとおり「300Pa.s」及び「700Pa.s」の各数値には臨界的意義があるといえるので、該主張は採用できない。
他方、甲3の実施例として記載されたポリアミド樹脂の250℃での溶融粘度は10000ポイズ(1000Pa.s)と、「300?700Pa.s」の範囲から外れており、また、甲3を含め他の証拠のいずれにも、「250℃における溶融粘度」を「300?700Pa.s」の範囲内とした場合に、その範囲から外れた場合と比べて、プリプレグの含浸性及び複合シートの曲げ弾性率に優れた連続繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグが得られることは記載されていないし、それを示唆する記載もない。
したがって、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて、相違点3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて、プリプレグの含浸性及び曲げ特性に優れた連続繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグが得られるという格別顕著な効果を奏するものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2について
請求項2は請求項1を引用するものであり、本件特許発明2は、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)取消理由(決定の予告)についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、取消理由(決定の予告)によっては取り消すことはできない。

3 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について
取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由は、申立理由1、申立理由2並びに本件特許の請求項3及び4に関する申立理由3である。

(1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)について
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「ポリカーボネートシート(帝人化成製、パンライトフィルム、PC-2151(クリア))」は本件特許発明1における「250℃における溶融粘度が300?700Pa.sであるポリカーボネート樹脂(A)」と、「ポリカーボネート樹脂」という限りで一致する。
甲1発明における「炭素繊維一方向連続シート(SP systems 製、UT-C400、目付 400g/sqm)に縫合処理および開繊等処理を施して得た連続強化繊維シート」は本件特許発明1における「連続繊維強化材(B)」に相当する。
甲1発明における「予備加熱終了後」「加圧含浸させた」は本件特許発明1における「溶融含浸させた」に相当する。
甲1発明における「ポリカーボネート・炭素繊維プリプレグ」は本件特許発明1における「繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ」に相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「ポリカーボネート樹脂を、連続繊維強化材に溶融含浸させた繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
「ポリカーボネート樹脂」に関して、本件特許発明1においては、「250℃における溶融粘度が300?700Pa.sであるポリカーボネート樹脂」であるのに対し、甲3発明においては、「ポリカーボネートシート(帝人化成製、パンライトフィルム、PC-2151(クリア))」である点。

(イ)判断
そこで、相違点について検討する。
甲1発明における「ポリカーボネートシート(帝人化成製、パンライトフィルム、PC-2151(クリア))」の250℃における溶融粘度は、4606.76Pa・sと計算される。
他方、甲1を含め他の証拠のいずれにも、「250℃における溶融粘度」を「300?700Pa.s」の範囲内とした場合に、その範囲から外れた場合と比べて、熱溶融含浸性及び曲げ特性に優れた連続繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグが得られることは記載されていないし、それを示唆する記載もない。
したがって、甲1発明において、250℃における溶融粘度が4606.76Pa・sという高い溶融粘度の樹脂に代えて、「250℃における溶融粘度が300?700Pa.s」という低い溶融粘度の樹脂を採用して、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、熱溶融含浸性及び曲げ特性に優れた連続繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグが得られるという格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件特許発明2について
請求項2は請求項1を引用するものであり、本件特許発明2は、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件特許発明3について
(ア)対比
本件特許発明3と甲1発明を対比する。
甲1発明における「ポリカーボネートシート(帝人化成製、パンライトフィルム、PC-2151(クリア))」は本件特許発明3における「250℃における溶融粘度が100Pa・sより高く1000Pa・s以下であるポリカーボネート樹脂(A)」と、「ポリカーボネート樹脂」という限りで一致する。
甲1発明における「炭素繊維一方向連続シート(SP systems 製、UT-C400、目付 400g/sqm)に縫合処理および開繊等処理を施して得た連続強化繊維シート」は本件特許発明3における「ガラス繊維を含有する」「連続繊維強化材(B)」と、「連続繊維強化材」といいう限りで一致する。
甲1発明における「予備加熱終了後」「加圧含浸させた」は本件特許発明3における「溶融含浸させ」に相当する。
甲1発明における「ポリカーボネート・炭素繊維プリプレグ」は本件特許発明3における「繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ」と、「繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ」という限りで一致する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「ポリカーボネート樹脂を、連続繊維強化材に溶融含浸させた繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-2>
「ポリカーボネート樹脂」に関して、本件特許発明3においては、「250℃における溶融粘度が100Pa・sより高く1000Pa・s以下」であるのに対し、甲1発明においては、「ポリカーボネートシート(帝人化成製、パンライトフィルム、PC-2151(クリア))」である点。

<相違点1-3>
「連続繊維強化材」に関して、本件特許発明3においては、「ガラス繊維を含有する」「連続繊維強化材」と特定されているのに対し、甲1発明においては、「炭素繊維一方向連続シート(SP systems 製、UT-C400、目付 400g/sqm)に縫合処理および開繊等処理を施して得た連続強化繊維シート」と特定されている点。

<相違点1-4>
「繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ」に関して、本件特許発明3においては、「繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ」と特定されているのに対し、甲1発明においては、「ポリカーボネート・炭素繊維プリプレグ」と特定されている点。

(イ)判断
そこで、相違点について検討する。
まず、相違点1-2から検討する。
甲1発明における「ポリカーボネートシート(帝人化成製、パンライトフィルム、PC-2151(クリア))」の250℃における溶融粘度は、4606.76Pa・sと計算される。
他方、甲1を含め他の証拠のいずれにも、「250℃における溶融粘度」を「100Pa・sより高く1000Pa・s以下」の範囲内とした場合に、その範囲から外れた場合と比べて、熱溶融含浸性及び曲げ特性に優れた連続繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグが得られることは記載されていないし、それを示唆する記載もない。
したがって、甲1発明において、250℃における溶融粘度が4606.76Pa・sという高い溶融粘度の樹脂に代えて、「250℃における溶融粘度が100Pa・sより高く1000Pa・s以下」という低い溶融粘度の樹脂を採用して、相違点1-2に係る本件特許発明3の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明3は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、熱溶融含浸性及び曲げ特性に優れた連続繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグが得られるという格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件特許発明4について
請求項4は請求項3を引用するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明3をさらに限定したものであるから、本件特許発明3と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 申立理由1についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、申立理由1によっては取り消すことはできない。

(2)申立理由2(甲第2号証を主引用文献とする進歩性)について
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「熱可塑性樹脂」は本件特許発明1における「250℃における溶融粘度が300?700Pa.sであるポリカーボネート樹脂(A)」と、「熱可塑性樹脂」という限りで一致する。
甲2発明における「一平面上に一方向に引き揃えて配列した連続繊維」は本件特許発明1における「連続繊維強化材(B)」に相当する。
甲2発明における「溶融した」熱可塑性樹脂を「含浸」することは、本件特許発明1における「溶融含浸」に相当する。
甲2発明における「少なくとも一層の繊維強化シートと、少なくとも一層の多孔性の柔軟な補強シートとを積層して成るプリプレグ」は本件特許発明1における「繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ」と、「繊維強化樹脂製プリプレグ」という限りで一致する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「熱可塑性樹脂を、連続繊維強化材に溶融含浸させた繊維強化樹脂製プリプレグ。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-1>
「熱可塑性樹脂」に関して、本件特許発明1においては、「250℃における溶融粘度が300?700Pa.sであるポリカーボネート樹脂」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-2>
「繊維強化樹脂製プリプレグ」に関して、本件特許発明1においては、「繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ」と特定されているのに対し、甲2発明においては、「少なくとも一層の繊維強化シートと、少なくとも一層の多孔性の柔軟な補強シートとを積層して成るプリプレグ」と特定されている点。

(イ)判断
そこで、相違点について検討する。
まず、相違点2-1について検討する。
甲2の【0011】には、熱可塑性樹脂として、ポリカーボネートが例示されているが、その250℃における溶融粘度については記載も示唆もない。
また、甲2を含め他の証拠のいずれにも、「250℃における溶融粘度」を「300?700Pa.s」の範囲内とした場合に、その範囲から外れた場合と比べて、熱溶融含浸性及び曲げ特性に優れた連続繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグが得られることは記載されていないし、それを示唆する記載もない。
したがって、甲2発明において、熱可塑性樹脂として、「250℃における溶融粘度が300?700Pa.sであるポリカーボネート樹脂」を採用して、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、熱溶融含浸性及び曲げ特性に優れた連続繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグが得られるという格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件特許発明2について
請求項2は請求項1を引用するものであり、本件特許発明2は、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件特許発明3について
(ア)対比
本件特許発明3と甲2発明を対比する。
甲2発明における「熱可塑性樹脂」は本件特許発明3における「250℃における溶融粘度が100Pa・sより高く1000Pa・s以下であるポリカーボネート樹脂(A)」と、「熱可塑性樹脂」という限りで一致する。
甲2発明における「一平面上に一方向に引き揃えて配列した連続繊維」は本件特許発明3における「ガラス繊維を含有する」「連続繊維強化材(B)」と、「連続繊維強化材」という限りで一致する。
甲2発明における「溶融した」熱可塑性樹脂を「含浸」することは、本件特許発明3における「溶融含浸」に相当する。
甲2発明における「少なくとも一層の繊維強化シートと、少なくとも一層の多孔性の柔軟な補強シートとを積層して成るプリプレグ」は本件特許発明3における「繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ」と、「繊維強化樹脂製プリプレグ」という限りで一致する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「熱可塑性樹脂を、連続繊維強化材に溶融含浸させた繊維強化樹脂製プリプレグ。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-3>
「熱可塑性樹脂」に関して、本件特許発明3においては、「250℃における溶融粘度が100Pa・sより高く1000Pa・s以下であるポリカーボネート樹脂」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-4>
「連続繊維強化材」に関して、本件特許発明3においては、「ガラス繊維を含有する」「連続繊維強化材」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-5>
「繊維強化樹脂製プリプレグ」に関して、本件特許発明3においては、「繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ」と特定されているのに対し、甲2発明においては、「少なくとも一層の繊維強化シートと、少なくとも一層の多孔性の柔軟な補強シートとを積層して成るプリプレグ」と特定されている点。

(イ)判断
そこで、相違点について検討する。
まず、相違点2-3について検討する。
甲2の【0011】には、熱可塑性樹脂として、ポリカーボネートが例示されているが、その250℃における溶融粘度については記載も示唆もない。
また、甲2を含め他の証拠のいずれにも、「250℃における溶融粘度」を「100Pa・sより高く1000Pa・s以下」の範囲内とした場合に、その範囲から外れた場合と比べて、熱溶融含浸性及び曲げ特性に優れた連続繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグが得られることは記載されていないし、それを示唆する記載もない。
したがって、甲2発明において、熱可塑性樹脂として、「250℃における溶融粘度が100Pa・sより高く1000Pa・s以下であるポリカーボネート樹脂」を採用して、相違点2-3に係る本件特許発明3の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明3は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、熱溶融含浸性及び曲げ特性に優れた連続繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグが得られるという格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件特許発明4について
請求項4は請求項3を引用するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明3をさらに限定したものであるから、本件特許発明3と同様に、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 申立理由2についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、申立理由2によっては取り消すことはできない。

(3)申立理由3(甲第3号証を主引用文献とする進歩性)のうち、本件特許の請求項3及び4に関する申立理由について
ア 本件特許発明3について
(ア)対比
本件特許発明3と甲3発明を対比する。
甲3発明における「一方向に引き揃えられた1.0?2.4dtexのPAN系炭素繊維」は本件特許発明3における「ガラス繊維を含有する」「連続繊維強化材(B)」と「連続繊維強化材」という限りで、一致する。
甲3発明における「250℃における粘度が1000?15000ポイズ」は本件特許発明3における「250℃における溶融粘度が100Pa・sより高く1000Pa・s以下」と、「250℃における粘度が所定の範囲内」であるという限りで一致する。
甲3発明における「熱可塑性樹脂」は本件特許発明3における「ポリカーボネート樹脂(A)」と、「熱可塑性樹脂」であるという限りで一致する。
甲3発明における「150℃以上250℃未満の温度として、」「含浸させて得た」は本件特許発明3における「溶融含浸させ」に相当する。
甲3発明における「テープ状物」は、甲3の【0019】によると「プリプレグ」であるから、本件特許発明3における「繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ」と、「繊維強化熱可塑性樹脂製プリプレグ」であるという限りで一致する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「250℃における溶融粘度が所定の範囲内である熱可塑性樹脂を、連続繊維強化材に溶融含浸させた繊維強化熱可塑性樹脂製プリプレグ。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-3>
「250℃における粘度が所定の範囲内」に関して、本件特許発明3においては、「250℃における溶融粘度が100Pa・sより高く1000Pa・s以下」であるのに対し、甲3発明においては、「250℃における粘度が1000?15000ポイズ」、すなわち250℃における粘度が100Pa・s?1500Pa・sである点。

<相違点3-4>
「熱可塑性樹脂」に関して、本件特許発明3においては、「ポリカーボネート樹脂」であるのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-5>
「連続繊維強化材」に関して、本件特許発明3においては、「連続繊維強化材(B)がガラス繊維を含有する」と特定されているのに対し、甲3発明においては、「一方向に引き揃えられた1.0?2.4dtexのPAN系炭素繊維」と特定されている点。

(イ)判断
そこで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点3-5から検討する。
甲3発明における「連続繊維強化材」は、「PAN系炭素繊維」であるから、「ガラス繊維」を含ませる動機付けはない。
また、甲3を含め他の証拠のいずれにも、甲3発明における「PAN系炭素繊維」に、「ガラス繊維」を含ませる動機付けとなる記載はない。
したがって、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて、相違点3-5に係る本件特許発明3の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明3は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて、熱溶融含浸性及び曲げ特性に優れた連続繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグが得られるという格別顕著な効果を奏するものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件特許発明4について
請求項4は請求項3を引用するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明3をさらに限定したものであるから、本件特許発明3と同様に、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 申立理由3のうち、本件特許の請求項3及び4に関する申立理由についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項3及び4に係る特許は、申立理由3によっては取り消すことはできない。

第6 むすび
上記第5のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項5に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
250℃における溶融粘度が300?700Pa.sであるポリカーボネート樹脂(A)を、連続繊維強化材(B)に溶融含浸させた繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ。
【請求項2】
前記連続繊維強化材(B)の体積含有値(Vf値)が30?60%である、請求項1に記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ。
【請求項3】
250℃における溶融粘度が100Pa・sより高く1000Pa・s以下であるポリカーボネート樹脂(A)を、連続繊維強化材(B)に溶融含浸させ、前記連続繊維強化材(B)がガラス繊維を含有する、繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ。
【請求項4】
前記ガラス繊維が、Eガラスを含有する、請求項3に記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ。
【請求項5】削除
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-08-17 
出願番号 特願2015-101042(P2015-101042)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤田 雅也  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 大畑 通隆
加藤 友也
登録日 2018-12-07 
登録番号 特許第6445389号(P6445389)
権利者 MGCフィルシート株式会社 三菱瓦斯化学株式会社
発明の名称 連続繊維強化ポリカーボネート樹脂製プリプレグ  
代理人 潮 太朗  
代理人 小林 浩  
代理人 杉山 共永  
代理人 杉山 共永  
代理人 杉山 共永  
代理人 潮 太朗  
代理人 実広 信哉  
代理人 小林 浩  
代理人 小林 浩  
代理人 潮 太朗  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ