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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B |
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管理番号 | 1366969 |
異議申立番号 | 異議2019-701057 |
総通号数 | 251 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-11-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-12-24 |
確定日 | 2020-09-04 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6538914号発明「固体電解質シートおよび全固体型リチウムイオン電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6538914号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-7]について、訂正することを認める。 特許第6538914号の請求項1及び3ないし7に係る特許を維持する。 特許第6538914号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6538914号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成26年2月10日に出願した特願2014-23498号の一部を平成30年3月19日に新たな特許出願としたものであって、令和1年6月14日にその特許権(請求項の数7)が設定登録され、同年7月3日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許に対し、令和1年12月24日に特許異議申立人 安井 総一(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項は、全請求項)がされ、令和2年3月30日付けで取消理由が通知され、同年5月29日に特許権者 古河機械金属株式会社より意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」という。)がされ、同年6月5日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正があった旨の通知を特許異議申立人に行ったところ、同年7月6日に特許異議申立人より意見書の提出があったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。) (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「である固体電解質シート。」と記載されているのを、 「であり、 当該固体電解質シート中のバインダーの含有量が、前記固体電解質シートの全体を100質量%としたとき、0.05質量%以下であり、 銀を含まない固体電解質シート。」に訂正する。 あわせて、請求項1の記載を直接あるいは間接的に引用する、請求項3ないし7についても同様に訂正する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載の固体電解質シートにおいて、」と記載されているのを、「請求項1に記載の固体電解質シートにおいて、」に訂正する。 あわせて、請求項3の記載を直接あるいは間接的に引用する、請求項4ないし7についても同様に訂正する。 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1乃至3いずれか一項に記載の固体電解質シートにおいて、」と記載されているのを、「請求項1または3いずれか一項に記載の固体電解質シートにおいて、」に訂正する。 あわせて、請求項4の記載を直接あるいは間接的に引用する、請求項5ないし7についても同様に訂正する。 (5) 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1乃至4いずれか一項に記載の固体電解質シートにおいて、」と記載されているのを、「請求項1、3および4いずれか一項に記載の固体電解質シートにおいて、」に訂正する。 あわせて、請求項5の記載を直接あるいは間接的に引用する、請求項6及び7についても同様に訂正する。 (6) 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1乃至5いずれか一項に記載の固体電解質シートにおいて、」と記載されているのを、「請求項1、3乃至5いずれか一項に記載の固体電解質シートにおいて、」に訂正する。 あわせて、請求項6の記載を引用する、請求項7についても同様に訂正する。 (7) 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7に「請求項1乃至6いずれか一項に記載の固体電解質シートにより構成されたものである全固体型リチウムイオン電池。」と記載されているのを、「請求項1、3乃至6いずれか一項に記載の固体電解質シートにより構成されたものである全固体型リチウムイオン電池。」 なお、本件訂正請求における請求項1ないし7に係る訂正は、一群の請求項[1-7]に対して請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1について 訂正事項1に係る特許請求の範囲の請求項1の訂正は、訂正前の請求項1において訂正前の請求項2の特定事項を組み込むとともに、さらに、バインダーの含有量を、「固体電解質シートの全体を100質量%としたとき、0.05質量%以下」と減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、固体電解質シート中のバインダーの含有量については、願書に添付した明細書の段落【0017】に「また、本実施形態に係る固体電解質シートにはバインダーが含まれてもよいが、バインダーの含有量は、固体電解質シートの全体を100質量%としたとき、好ましくは0.5質量%未満であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0.05質量%以下である。」と記載されていることから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 請求項1の記載を引用する請求項3ないし7についても同様である。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2に係る特許請求の範囲の請求項2の訂正は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 (3) 訂正事項3ないし7について 訂正事項3ないし7に係る特許請求の範囲の請求項3ないし7の訂正は、引用先の請求項から請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 (4) まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-7]について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料を主成分として含み、かつ、スペーサーを含まない固体電解質シートであって、 当該固体電解質シートの厚みが50μm以下であり、 27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz?7MHzの測定条件における交流インピーダンス法によるリチウムイオン伝導度が1.2×10^(-3)S・cm^(-1)以上であり、 当該固体電解質シート中のバインダーの含有量が、前記固体電解質シートの全体を100質量%としたとき、0.05質量%以下であり、 銀を含まない固体電解質シート。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 請求項1に記載の固体電解質シートにおいて、 シート状の多孔性基材と、少なくとも前記多孔性基材の空隙を囲む骨格部表面に付着した粘着剤と、をさらに備え、 前記多孔性基材の空隙の内部に前記無機固体電解質材料が充填されており、かつ、前記無機固体電解質材料の少なくとも一部が前記粘着剤に付着している固体電解質シート。 【請求項4】 請求項1または3いずれか一項に記載の固体電解質シートにおいて、 前記無機固体電解質材料が硫化物固体電解質材料および酸化物固体電解質材料から選択される少なくとも一種を含む固体電解質シート。 【請求項5】 請求項1、3および4いずれか一項に記載の固体電解質シートにおいて、 レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における、前記無機固体電解質材料の平均粒子径d50が1μm以上20μm以下である固体電解質シート。 【請求項6】 請求項1、3乃至5いずれか一項に記載の固体電解質シートにおいて、 全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に用いられるものである固体電解質シート。 【請求項7】 正極層と、固体電解質層と、負極層とがこの順番に積層された全固体型リチウムイオン電池であって、 前記固体電解質層が、請求項1、3乃至6いずれか一項に記載の固体電解質シートにより構成されたものである全固体型リチウムイオン電池。」 第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について 特許異議申立人が特許異議申立書において、訂正前の請求項1ないし7に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。 申立理由1-1(新規性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1、2、4、6および7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由1-2(新規性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1、2、4、6および7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由2-1(進歩性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1、2、4ないし7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有するもの(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由2-2(進歩性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1、2、4、6および7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由2-3(進歩性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1、2および4ないし7に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由3(明確性要件違反) 本件特許の訂正前の請求項1ないし7に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 <証拠方法> ・甲第1号証:特開2013-62228号公報 ・甲第2号証:特開2002-203593号公報 ・甲第3号証:特開2007-273436号公報 ・甲第4号証:上村、外3名、高温耐久性に優れる高出力全固体電池、SEIテクニカルレビュー、住友電気工業株式会社、2013年7月、第183号、p.141-142 ・甲第5号証:高温セラミック材料第124委員会、先進セラミックスの作り方と使い方、日刊工業新聞社、2005年3月31日、p.12-13,p.78-79 ・甲第6号証:W.D.Kingery、外2名、Introduction to Ceramics、株式会社内田老鶴圃、昭和62年8月1日、p.8-11 なお、各甲号証の表記は、概ね特許異議申立書の記載にしたがった。 第5 取消理由通知で記載した取消理由について 訂正前の請求項1ないし7に係る特許に対して、当審が令和2年3月30日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。(なお、異議申立理由のうち、申立理由1-1、1-2、2-1(請求項5に対するものを除く)、2-2はいずれも、取消理由に包含される。) 取消理由1-1(新規性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1、2、4、6および7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由1-2(新規性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1、2、4、6および7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2-1(進歩性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1、2、4、6および7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2-2(進歩性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1、2、4、6および7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 第6 当審の判断 1 取消理由についての判断 (1) 主な甲号証の記載事項 ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明 (ア) 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には次の事項が記載されている。(下線については、当審において付与した。以下同様。) 「【0001】 本件発明は、電解質層の形成において幅広い材料選択が可能な電解質層・電極積層体の製造方法、及び硫化物系固体電池の製造方法に関する。」 「【0028】 本発明に用いられる正極活物質としては、具体的には、LiCoO_(2)、LiNi_(2)Co_(15)Al_(3)O_(2)、LiNi_(1/3)Mn_(1/3)Co_(1/3)O_(2)、LiNiPO_(4)、LiMnPO_(4)、LiNiO_(2)、LiMn_(2)O_(4)、LiCoMnO_(4)、Li_(2)NiMn_(3)O_(8)、Li_(3)Fe_(2)(PO_(4))_(3)及びLi_(3)V_(2)(PO_(4))_(3)等を挙げることができる。これらの中でも、本発明においては、LiCoO_(2)、LiNi_(2)Co_(15)Al_(3)O_(2)、LiNi_(1/3)Mn_(1/3)Co_(1/3)O_(2)を正極活物質として用いることが好ましい。」 「【0035】 負極活物質層に用いられる負極活物質としては、金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に限定されるものではない。金属イオンとしてリチウムイオンを用いる場合には、例えば、リチウム合金、金属酸化物、及びグラファイト等の炭素材料等を挙げることができる。また、負極活物質は、粉末状であっても良く、薄膜状であっても良い。」 「【0038】 1-2.硫化物系固体電解質スラリーを調製する工程 本工程は、少なくとも、硫化物系固体電解質、結着剤、及び脂肪酸エステルを混合し、硫化物系固体電解質スラリーを調製する工程である。 【0039】 本発明に用いられる硫化物系固体電解質は、分子構造中、又は組成中に硫黄原子を含む電解質であれば特に限定されない。 本発明に用いられる硫化物系固体電解質としては、具体的には、Li_(2)S-P_(2)S_(5)、Li_(2)S-P_(2)S_(3)、Li_(2)S-P_(2)S_(3)-P_(2)S_(5)、Li_(2)S-SiS_(2)、LiI-Li_(2)S-P_(2)S_(5)、LiI-Li_(2)S-SiS_(2)-P_(2)S_(5)、Li_(2)S-SiS_(2)-Li_(4)SiO_(4)、Li_(2)S-SiS_(2)-Li_(3)PO_(4)、Li_(3)PS_(4)-Li_(4)GeS_(4)、Li_(3.4)P_(0.6)Si_(0.4)S_(4)、Li_(3.25)P_(0.25)Ge_(0.76)S_(4)、Li_(4-x)Ge_(1-x)P_(x)S_(4)等を例示することができる。」 「【0046】 硫化物系固体電解質、及び結着剤の合計の質量を100質量%としたときの、結着剤の含有割合が0.1?10質量%であることが好ましい。結着剤の当該含有割合が0.1質量%未満であるとすると、結着剤の含有割合が少なすぎるため、硫化物系固体電解質が電解質層から漏れ出し、電解質層の形成に支障が生じるおそれがある。一方、結着剤の当該含有割合が10質量%を超えるとすると、結着剤の含有割合が多すぎるため、電解質層のイオン伝導度が低くなりすぎるおそれがある。 硫化物系固体電解質、及び結着剤の合計の質量を100質量%としたときの、結着剤の含有割合は、1?7質量%であることがより好ましく、2?5質量%であることがさらに好ましい。」 「【0053】 硫化物系固体電解質スラリーの塗工方法、乾燥方法等は適宜選択することができる。例えば、塗工方法としては、スプレー法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、グラビア印刷法、ダイコート法等が挙げられる。また、乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥、加熱乾燥、減圧加熱乾燥等が挙げられる。減圧乾燥、加熱乾燥における具体的な条件に制限はなく、適宜設定すればよい。 硫化物系固体電解質スラリーの塗工量は、硫化物系固体電解質スラリーの組成等によって異なるが、3?8mg/cm^(2)程度となるようにすればよい。また、電解質層の膜厚は、特に限定されないが、15?40μm程度とすればよい。 【0054】 本工程により形成される電解質層のイオン伝導度は、1.0×10^(-4)S/cm以上であることが好ましい。当該イオン伝導度が1.0×10^(-4)S/cm未満であるとすると、本発明により製造される硫化物系固体電池の放電性能が低くなりすぎるおそれがある。 本工程により形成される電解質層のイオン伝導度は、4.0×10^(-4)?1.0×10^(-2)S/cmであることがより好ましい。」 「【0059】 図1は本発明により製造される硫化物系固体電池の積層構造の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。なお、本発明により製造される硫化物系固体電池は、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。 硫化物系固体電池100は、正極活物質層2及び正極集電体4を備える正極6と、負極活物質層3及び負極集電体5を備える負極7と、前記正極6及び前記負極7に挟持される電解質層1を備える。」 「【0066】 3.電解質層・電極積層体の作製 [実施例2] 硫化物系固体電解質の一種であるLiI-Li_(2)S-P_(2)S_(5)、及び結着剤としてフッ素系共重合体(フッ化ビニリデン単量体単位:テトラフルオロエチレン単量体単位:ヘキサフルオロプロピレン単量体単位=55mol%:25mol%:20mol%)を、硫化物系固体電解質:結着剤=98.9質量%:1.1質量%の比で混合し、さらに、脂肪酸エステルの一種である酪酸ブチルを当該混合物に加え、当該混合物の固形分比率を43質量%に調整し、硫化物系固体電解質スラリーを調製した。得られた硫化物系固体電解質スラリーを、30秒間超音波処理し、さらに30分間振とう機で攪拌した。 攪拌後の硫化物系固体電解質スラリーを、ドクターブレードでアルミニウム箔(電極)上に塗工し、実施例2の電解質層・電極積層体を得た。」 「【0071】 図2は、実施例2-実施例4の電解質層についての、イオン伝導度及び結着力をプロットしたグラフである。図2は、横軸に結着剤の含有割合を、左の縦軸にイオン伝導度(S/cm)を、右の縦軸に結着力(N/cm^(2))を、それぞれとったグラフである。また、黒丸のプロットはイオン伝導度のデータを示し、白丸のプロットは結着力のデータを示す。なお、グラフ中の太い破線はイオン伝導度の参照値(1.1×10^(-3)S/cm)を示す。また、グラフ中の細い破線は結着力の基準値(2.0N/cm^(2))を示す。 図2から分かるように、実施例2(結着剤含有割合:1.1質量%)のイオン伝導度は1.2×10^(-3)S/cm、結着力は1.75N/cm^(2)である。したがって、実施例2のイオン伝導度は上記参照値を超えており、且つ、結着力も上記基準値と同程度である。また、図2から分かるように、実施例3(結着剤含有割合:2.0質量%)のイオン伝導度は9.7×10^(-4)S/cm、結着力は5.4N/cm^(2)である。したがって、実施例3のイオン伝導度は、上記参照値の9割程度であり、且つ、結着力は上記基準値の2.5倍を超える。また、図2から分かるように、実施例4(結着剤含有割合:5.0質量%)のイオン伝導度は8.7×10^(-4)S/cm、結着力は22.4N/cm^(2)である。実施例4の結着力は、上記基準値の11倍を超える。また、実施例4のイオン伝導度は、上記参照値の8割程度である。なお、実施例2-実施例4を比較すると、結着剤の添加によってイオン伝導度が急激に低下していないことが分かる。したがって、実施例2-実施例4においては、硫化物系固体電解質と結着剤との間において特異的な化学反応が生じ、その結果硫化物系固体電解質のイオン伝導性が損なわれる、というおそれはないと推定される。」 「【図1】 」 (イ) 甲第1号証に記載された発明 (ア)の記載、特に、【0066】及び【0053】の記載から、実施例2として記載されている電解質層・電極積層体として、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認める。 「硫化物系固体電解質の一種であるLiI-Li_(2)S-P_(2)S_(5)、及び結着剤としてフッ素系共重合体(フッ化ビニリデン単量体単位:テトラフルオロエチレン単量体単位:ヘキサフルオロプロピレン単量体単位=55mol%:25mol%:20mol%)を、硫化物系固体電解質:結着剤=98.9質量%:1.1質量%の比で混合し、さらに、脂肪酸エステルの一種である酪酸ブチルを当該混合物に加え、当該混合物の固形分比率を43質量%に調整し、硫化物系固体電解質スラリーを調製し、得られた硫化物系固体電解質スラリーを、30秒間超音波処理し、さらに30分間振とう機で攪拌し、攪拌後の硫化物系固体電解質スラリーを、ドクターブレードでアルミニウム箔(電極)上に塗工することで得られた、膜厚15?40μmの、電解質層・電極積層体。」(以下、「甲1発明」という。) イ 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明 (ア) 甲第2号証の記載事項 甲第2号証には次の事項が記載されている。 「【請求項1】 次のAからDに示した成分を含有することを特徴とする無機固体電解質薄膜。 A:リチウム B:リン、ケイ素、ホウ素、ゲルマニウムおよびガリウムよりなる群から選ばれた1種類以上の元素 C:イオウ D:銀」 「【請求項6】 前記無機固体電解質薄膜のイオン伝導度が、25℃で1×10^(-3)S/cm以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の無機固体電解質薄膜。」 「【請求項9】 リチウム金属またはリチウムを含有する金属上に請求項1から8のいずれかに記載の無機固体電解質薄膜が形成された積層体を具えることを特徴とするリチウム電池部材。 【請求項10】 前記積層体をリチウム二次電池の負極に用いることを特徴とする請求項9に記載のリチウム電池部材。」 「【0009】銀の含有量は、2原子%以下、より好ましくは0.5原子%以下とする。2原子%よりも多く銀を含有しても、イオン伝導度の向上と活性化エネルギーの低減があまり期待できず、不必要に銀を含有することになるからである。特に、0.5原子%以下の含有量でもイオン伝導度の向上と活性化エネルギーの低減効果が得られる。銀の下限値は0.01原子%以上である。0.01原子%未満であればイオン伝導度の向上と活性化エネルギーの低減効果が不十分だからである。」 「【0014】本発明の電解質薄膜の厚みは、50nm以上で50μm以下とすることが好ましい。厚みが50μmを超える場合、負極表面の被覆効果による正極との接触の抑制および電解液との反応抑制効果はさらに高くなるが、抵抗が高くなるため、電池性能を低下させる。加えて、膜を形成するに要する時間、エネルギーが大きくなりすぎ、実用的ではない。特に、電解質薄膜のイオン伝導の抵抗が高くなり、出力電流を大きくとれない問題が生じる。」 「【0016】本発明の無機固体電解質薄の製造方法は特に限定されない。公知の製造技術を用いて形成することができる。例えば、スパッタリング、真空蒸着、レーザアブレーション、イオンプレーティングのいずれかが好適である。 【0017】本発明の無機固体電解質薄膜は、正極と負極との間に挟み込んで積層体を構成し、この積層体を電池ケースに収納して封口することでリチウム電池として利用することができる。より詳細に説明すると、まず負極集電体と負極を接合し、負極上に、有機電解液を含まない無機系の固体電解質薄膜を形成して、負極と電解質薄膜との接合体を作製する。さらに、正極集電体上に、有機高分子を含有する正極材料を形成して正極とする。これらの接合体と正極とを合体して、リチウム二次電池を作製する。また、正極と固体電解質薄膜との間にセパレータを設けても良い。各構成部材の詳細は次の通りである。」 (イ) 甲第2号証に記載された発明 (ア)の記載、特に、【請求項1】及び【0014】の記載から、甲第2号証には以下の発明が記載されていると認める。 「次のAからDに示した成分を含有し、電解質薄膜の厚みが、50nm以上で50μm以下である無機固体電解質薄膜。 A:リチウム B:リン、ケイ素、ホウ素、ゲルマニウムおよびガリウムよりなる群から選ばれた1種類以上の元素 C:イオウ D:銀」(以下、「甲2発明」という。) (2) 対比・判断 ア 取消理由1-1、取消理由2-1について (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「硫化物系固体電解質の一種であるLiI-Li_(2)S-P_(2)S_(5)」は、本件発明1の「リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料」に相当する。 また、甲1発明の電解質層は、硫化物系固体電解質、結着剤、酪酸ブチルからなるものであるから、「スペーサー」を含まないものであることは明らかである。 さらに、甲1発明の「電解質層・電極積層体」のうち、「攪拌後の硫化物系固体電解質スラリーを、ドクターブレードでアルミニウム箔(電極)上に塗工することで得られた」電解質層は、本件発明1の「固体電解質シート」に相当し、その膜厚が甲1発明の電解質層は「15?40μm」であるから、本件発明1の「50μm以下」との特定事項を満たしている。 そして、甲1発明が銀を含まないことは、その組成から明らかである。 したがって、両者は 「リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料を主成分として含み、かつ、スペーサーを含まない固体電解質シートであって、 当該固体電解質シートの厚みが50μm以下であり、 銀を含まない固体電解質シート。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 固体電解質シートについて、本件発明1は、「27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz?7MHzの測定条件における交流インピーダンス法によるリチウムイオン伝導度が1.2×10^(-3)S・cm^(-1)以上である」と特定されているのに対して、甲1発明にはそのような特定がない点。 <相違点2> 固体電解質シート中のバインダーの含有量について、本件発明1は、「前記固体電解質シートの全体を100質量%としたとき、0.05質量%以下」と特定されているのに対して、甲1発明は、「硫化物系固体電解質:結着剤=98.9質量%:1.1質量%の比」である点。 ここで、相違点2は実質的な相違点であることは明らかである。 したがって、本件発明1は、甲1発明ではない。 次いで、相違点について検討する。 事案に鑑み、まず相違点2について検討する。 甲第1号証の段落【0046】には、「硫化物系固体電解質、及び結着剤の合計の質量を100質量%としたときの、結着剤の含有割合が0.1?10質量%であることが好ましい。結着剤の当該含有割合が0.1質量%未満であるとすると、結着剤の含有割合が少なすぎるため、硫化物系固体電解質が電解質層から漏れ出し、電解質層の形成に支障が生じるおそれがある。」と、結着剤の含有割合が0.1質量%以上でなければ硫化物系固体電解質が電解質層から漏れ出す旨の不都合が生じることが記載されている、つまり、甲1発明において、結着剤の割合を0.1質量%未満、すなわち、上記相違点2に係る本件発明1の特定事項を満たすものとすることには阻害要因があるものといえる。 してみれば、相違点1については検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 この点について、特許異議申立人は意見書において、甲第1号証の段落【0046】の記載は、「結着剤(バインダー)の含有量が0.1質量%未満では固体電解質が電解質層から漏れ出すことを懸念したものであり、バインダーの含有量が0.1質量%未満の時にイオン伝導度が高くなることを否定するものではない。」(意見書第3頁第25ないし28行)旨主張するが、甲第1号証の段落【0046】には、上述のとおり、「電解質の形成に支障が生じるおそれ」から、結着剤の含有割合を0.1質量%以上とする必要がある旨記載されているのであるから、当業者であれば結着剤の含有割合を0.1質量%未満とすることには阻害要因があるものといわざるを得ない。 よって、特許異議申立人の主張は採用しない。 したがって、本件発明1に対する取消理由1-1及び取消理由2-1には、理由がない。 (イ) 本件発明4、6および7について 本件発明4、6および7はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記(ア)のとおり、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である本件発明4、6および7もまた、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、本件発明4、6および7に対する取消理由1-1及び取消理由2-1についても、理由がない。 イ 取消理由1-2、取消理由2-2について (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「次のAからDに示した成分を含有(AないしDの記載は省略)」する「無機固体電解質」は、本件発明1の「リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質」に相当する。 また、甲2発明の「無機固体電解質薄膜」は、本件発明1の「固体電解質シート」に相当するとともに、甲2発明の電解質薄膜の厚みが「50nm以上で50μm以下」であることは、本件発明1の固体電解質シートの厚みが「50μm以下」であるとの特定事項を満たしていることも明らかである。 さらに、甲2発明においては、「スペーサー」に相当するものを含むとの特定はないから、甲2発明の「無機固体電解質薄膜」はスペーサーを含まないものであると解される。 そして、甲2発明の無機固体電解質薄膜は、甲第2号証の段落【0016】に記載されているように、「スパッタリング、真空蒸着、レーザアブレーション、イオンプレーティング」などの、いわゆる気相成膜法で作製されるものであるから、バインダーを含まない、つまり、本件発明1の「当該固体電解質シート中のバインダーの含有量が、前記固体電解質シートの全体を100質量%としたとき、0.05質量%以下」との特定事項を満たすものであることは明らかである。 したがって、両者は 「リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料を主成分として含み、かつ、スペーサーを含まない固体電解質シートであって、 当該固体電解質シートの厚みが50μm以下であり、 当該固体電解質シート中のバインダーの含有量が、前記固体電解質シートの全体を100質量%としたとき、0.05質量%以下である、 固体電解質シート。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点3> 固体電解質シートについて、本件発明1は、「27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz?7MHzの測定条件における交流インピーダンス法によるリチウムイオン伝導度が1.2×10^(-3)S・cm^(-1)以上である」と特定されているのに対して、甲2発明にはそのような特定がない点。 <相違点4> 固体電解質シートについて、本件発明1は、「銀を含まない」のに対して、甲2発明は、銀を含むものである点。 ここで、相違点4は実質的な相違点であることは明らかである。 したがって、本件発明1は、甲2発明ではない。 次いで、相違点について検討する。 事案に鑑み、まず相違点4について検討する。 甲第2号証の段落【0009】には、「銀の含有量は、2原子%以下、より好ましくは0.5原子%以下とする。2原子%よりも多く銀を含有しても、イオン伝導度の向上と活性化エネルギーの低減があまり期待できず、不必要に銀を含有することになるからである。特に、0.5原子%以下の含有量でもイオン伝導度の向上と活性化エネルギーの低減効果が得られる。銀の下限値は0.01原子%以上である。0.01原子%未満であればイオン伝導度の向上と活性化エネルギーの低減効果が不十分だからである。」と、銀が一定割合以上含まなければイオン導電性の向上と活性化エネルギーの低減効果が不十分となること、つまり、銀の添加が必須であることが記載されている。 してみれば、甲2発明において銀を含まないものとすること、つまり、相違点4に係る本件発明1の特定事項を満たすものとすることには、阻害要因があるものといえる。 してみれば、相違点3については検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、本件発明1に対する取消理由1-2及び取消理由2-2には、理由がない。 (イ) 本件発明4、6および7について 本件発明4、6および7はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記(ア)のとおり、本件発明1は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である本件発明4、6および7もまた、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、本件発明4、6および7に対する取消理由1-1及び取消理由2-1についても、理由がない。 2 採用しなかった申立理由について (1) 申立理由2-1(請求項5に関する部分)について ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明 上記1(1)アのとおりである。 イ 本件発明5についての対比・判断 本件発明5は、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記1(2)ア(ア)のとおり、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である本件発明5もまた、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をするこることができたものではない。 したがって、本件発明5に対する申立理由2-1には、理由がない。 (2) 申立理由2-3について ア 甲第3号証の記載事項及び甲第3号証に記載された発明 (ア) 甲第3号証の記載事項 甲第3号証には次の事項が記載されている。 「【請求項1】 固体電解質及びスペーサーを含む電解質層と、 前記電解質層を対向して挟持する第1の層及び第2の層を具備する固体電解質シート。」 「【0011】 以下に本発明の固体電解質シートを詳細に説明する。 図1は、本発明に係る固体電解質シートの一実施形態を示す断面図である。 固体電解質シート1は、電解質層30と、この両側に対向して設けられた第1の層40と第2の層50からなる。電解質層30は、固体電解質10及びスペーサー20を含む。スペーサー20は固体電解質10に単に混合されて分散されていてもよいし、第1の層40又は第2の層50に固定されていてもよい。固体電解質シート1は、スペーサー20によってセルギャップが保たれ、押圧等によって間隔が変化することが少ない。また、スペーサー20によって固体電解質シート1の機械的強度が向上する。」 「【0050】 実施例に用いる硫化リチウム系固体電解質は水分で分解されやすい物質であるため、該物質が外気に触れる環境下では、湿度が露点-60℃以下の雰囲気下ですべて取り扱うよ うにした。シート又は電解質層のイオン伝導度測定、電池を製作後の性能評価は、以下の方法で測定した。 (1)イオン伝導度 25℃において電解質シートをステンレス鋼電極で挟み込むことで電気化学セルを構成し、電極間に交流を印加して抵抗成分を測定する交流インピーダンス法を用いて、コール・コールプロットの実数インピーダンス切片から計算した。」 「【0054】 ・電池セルの作製 実施例又は比較例にて作製した直径1cmの円盤状の固体電解質シートを、上記電極を形成したステンレス板が電池の外側に位置するように、正極及び負極で挟み込み、80℃にて0.1MPaの加重をかけて張り合わせ電池セルを作製した。 この電池セルについて、25℃、電流密度10μA/cm^(2)で充放電を行い電池特性(初期充放電効率)を調べた。初期充放電効率は、コバルト酸リチウム1gあたりの充電された容量(mAh/g)を100%とし、その後に放電された容量の割合より求めた。」 「【0057】 実施例3 実施例1と同様に製造した硫化リチウム系固体電解質(ガラスセラミックス)9.6gに直径50μmの球状シリカスペーサー0.2gとダイキン工業製のテフロン(登録商標)繊維(繊維系10μm)0.2gを乳鉢で混合した。混合物の一部を実施例1の金型へ導入し、同様の方法で、一定膜厚50μmで2×2cm^(2)のシートを作成した。シートのイオン伝導度を測定したところ、7.3×10^(-4)Scm^(-1)であった。電池を形成したときの初期充放電効率は71%であった。 【0058】 実施例4 直径10μmの球状シリカスペーサーを用いた以外、実施例3と同様の方法で、一定膜厚10μmで2×2cm^(2)のシートを作成した。シートのイオン伝導度を測定したところ、1.2×10^(-3)Scm^(-1)であった。電池を形成したときの初期充放電効率は77%であった。」 (イ) 甲第3号証に記載された発明 (ア)の記載、特に、実施例4から、甲第3号証には以下の発明が記載されていると認める。 「硫化リチウム系固体電解質(ガラスセラミックス)、球状シリカスペーサー及びテフロン(登録商標)繊維からなる固体電解質シートであって、 当該固体電解質シートの厚みが10μmであり、 25℃における交流インピーダンス法によるイオン伝導度が、1.2×10^(-3)Scm^(-1)である、 固体電解質シート。」(以下、「甲3発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲3発明とを対比する。 甲3発明の「硫化リチウム系固体電解質(ガラスセラミックス)」は、本件発明1の「リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料」に相当する。 また、甲3発明の固体電解質シートは、硫化リチウム系固体電解質(ガラスセラミックス)、球状シリカスペーサー及びテフロン(登録商標)繊維からなるものであるから、バインダーを含まない、つまり、本件発明1の「当該固体電解質シート中のバインダーの含有量が、前記固体電解質シートの全体を100質量%としたとき、0.05質量%以下」との特定事項を満たすものであるとともに、「銀を含まない」との特定事項を満たすことも明らかである。 さらに、甲3発明の固体電解質シートの厚みは「10μm」であるから、本件発明1の「50μm以下」との特定事項を満たしている。 したがって、両者は 「 リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料を主成分として含む固体電解質シートであって、 当該固体電解質シートの厚みが50μm以下であり、 当該固体電解質シート中のバインダーの含有量が、前記固体電解質シートの全体を100質量%としたとき、0.05質量%以下であり、 銀を含まない固体電解質シート。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点5> 固体電解質シートについて、本件発明1は、「スペーサを含まない」ものであるのに対して、甲3発明は「球状シリカスペーサー」を含む点。 <相違点6> 固体電解質シートのリチウムイオン伝導度について、本件発明1は、「27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz?7MHzの測定条件における交流インピーダンス法によるリチウムイオン伝導度が1.2×10^(-3)S・cm^(-1)以上」であるのに対して、甲3発明は、「25℃における交流インピーダンス法によるイオン伝導度が、1.2×10^(-3)Scm^(-1)」である点。 上記相違点について検討する。 まず、相違点5について検討する。 甲第3号証の段落【0011】には、「固体電解質シート1は、電解質層30と、この両側に対向して設けられた第1の層40と第2の層50からなる。電解質層30は、固体電解質10及びスペーサー20を含む。スペーサー20は固体電解質10に単に混合されて分散されていてもよいし、第1の層40又は第2の層50に固定されていてもよい。固体電解質シート1は、スペーサー20によってセルギャップが保たれ、押圧等によって間隔が変化することが少ない。また、スペーサー20によって固体電解質シート1の機械的強度が向上する。」と、スペーサーを有することで機械的強度の向上を図ることが記載されている。 してみれば、甲3発明は、スペーサーを有することが必須であり、甲3発明からスペーサーを除くこと、つまり、上記相違点5に係る本件発明1の特定事項を満たすものとすることには阻害要因があるものといえる。 してみれば、相違点6については検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、本件発明1に対する申立理由2-3には、理由がない。 (イ) 本件発明4ないし7について 本件発明4ないし7はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記(ア)のとおり、本件発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である本件発明4ないし7もまた、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、本件発明4ないし7に対する申立理由2-3についても、理由がない。 (3) 申立理由3について 申立理由3は、要するに、「スペーサー」の範囲が不明であるから、請求項に係る発明の範囲は明確ではない、というものである。 しかしながら、当該技術分野において、電解質に用いられる「スペーサー」が、電解質層の厚みを保持するもの、言い換えれば、正負極間における電解質層の厚みを確保するためのものであることは、当業者において自明のことである。 よって、本件発明1および3ないし7は明確である。 したがって、本件発明1および3ないし7に対する申立理由3は、理由がない。 第7 結論 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1、3ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 本件請求項2に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質材料を主成分として含み、かつ、スペーサーを含まない固体電解質シートであって、 当該固体電解質シートの厚みが50μm以下であり、 27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz?7MHzの測定条件における交流インピーダンス法によるリチウムイオン伝導度が1.2×10^(-3)S・cm^(-1)以上であり、 当該固体電解質シート中のバインダーの含有量が、前記固体電解質シートの全体を100質量%としたとき、0.05質量%以下であり、 銀を含まない固体電解質シート。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 請求項1に記載の固体電解質シートにおいて、 シート状の多孔性基材と、少なくとも前記多孔性基材の空隙を囲む骨格部表面に付着した粘着剤と、をさらに備え、 前記多孔性基材の空隙の内部に前記無機固体電解質材料が充填されており、かつ、前記無機固体電解質材料の少なくとも一部が前記粘着剤に付着している固体電解質シート。 【請求項4】 請求項1または3に記載の固体電解質シートにおいて、 前記無機固体電解質材料が硫化物固体電解質材料および酸化物固体電解質材料から選択される少なくとも一種を含む固体電解質シート。 【請求項5】 請求項1、3および4いずれか一項に記載の固体電解質シートにおいて、 レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における、前記無機固体電解質材料の平均粒子径d_(50)が1μm以上20μm以下である固体電解質シート。 【請求項6】 請求項1、3乃至5いずれか一項に記載の固体電解質シートにおいて、 全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に用いられるものである固体電解質シート。 【請求項7】 正極層と、固体電解質層と、負極層とがこの順番に積層された全固体型リチウムイオン電池であって、 前記固体電解質層が、請求項1、3乃至6いずれか一項に記載の固体電解質シートにより構成されたものである全固体型リチウムイオン電池。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-08-17 |
出願番号 | 特願2018-50525(P2018-50525) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(H01B)
P 1 651・ 121- YAA (H01B) P 1 651・ 537- YAA (H01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 田澤 俊樹 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 植前 充司 |
登録日 | 2019-06-14 |
登録番号 | 特許第6538914号(P6538914) |
権利者 | 古河機械金属株式会社 |
発明の名称 | 固体電解質シートおよび全固体型リチウムイオン電池 |
代理人 | 速水 進治 |
代理人 | 速水 進治 |