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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1366977
異議申立番号 異議2019-700628  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-06 
確定日 2020-10-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6467722号発明「プローバ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6467722号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6467722号の請求項1に係る特許についての出願は、平成25年10月29日に出願された特願2013-224460号の一部を平成29年3月28日に新たな特許出願としたものであって、平成31年1月25日にその特許権の設定登録がされ、同年2月13日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 元年 8月 6日 特許異議申立人株式会社東京精密(以下
、「特許異議申立人」という。)による
請求項1に係る特許に対する特許異議の
申立て
令和 元年11月22日付け 取消理由通知書
令和 2年 4月17日付け 取消理由通知書(決定の予告)

第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「ウエハ上に形成された半導体デバイスの電気的特性検査を行うプローバであって、
前記ウエハと対向する複数のプローブを有する複数のプローブカードと、
各前記プローブカードに対して前記ウエハとは反対側に配置された複数のテストヘッドと、
各前記プローブカード及び各前記テストヘッドを収容する複数の検査室と、
前記テストヘッドを昇降して載置するテストヘッドリフト機構と、
前記テストヘッドの昇降方向に垂直な方向に各前記検査室から前記テストヘッドを引き出すスライド機構と、を備え、
複数の前記検査室は少なくとも上下に重ねられて配されることを特徴とするプローバ。」

第3 取消理由の概要
本件特許に関して、当審が令和2年4月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

A 請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

B 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

引 用 文 献 等 一 覧
引用文献1:特開平8-64645号公報
引用文献2:国際公開第2009/004968号

第4 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)理由A(特許法第29条第2項)について
ア 引用文献の記載
(ア)引用文献1
取消理由通知において引用した引用文献1には、図面とともに以下の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、プローブ装置に関する。」

「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のプローブ装置に場合には、上述のようにプロービングカードを交換する時あるいは本体内を点検する時などにテストヘッドを側面に反転させるため、プローブ装置及びテスタの占有面積の他、装置本体の側面側にテストヘッドが張り出すスペースをメンテナンス用として余分に確保しなくてはならないという課題があった。また、テストヘッドの接続端子は例えば本体の接続リングに同心円状に配設された複数のポゴピンに接触することによりテストヘッドとプロービングカード間が電気的に導通するようになっているが、プロービングカードを交換する時あるいは本体内を点検する時などにテストヘッドを反転させてテストヘッドの各接続端子を接続リングの各接続端子例えば各ポゴピンに接続する際に、テストヘッドの各接続端子は接続リングの各ポゴピンと同時に接触せず、回転半径の短い左側(または右側)のものから回転半径の長い右側(または左側)のものへと順次圧接するため、左側(または右側)のポゴピンほどその突出端に斜め方向から無理な押圧力が作用し、前者のポゴピンほど消耗が激しいという課題があった。
【0005】本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、クリーンルームの省スペース化に寄与すると共に、ポゴピンなどの接続端子の消耗を軽減できるプローブ装置を提供することを目的としている。」

「【0014】
【実施例】本実施例のプローブ措置は、図1?図4に示すように、装置本体(以下単に「本体」と称す。)1のヘッドプレート2に着脱自在に装着されたプロービングカード3と、このプロービングカード3の裏面に形成された接続端子4に、これらと対応して形成された接続端子(図示せず)を有するテストヘッド4とを備え、このテストヘッド5の接続端子を上記プロービングカード3の接続端子4に電気的に導通させて被検査体例えば半導体ウエハ(図示せず)の電気的検査を行なうように構成されている。上記テストヘッド5の内部には半導体ウエハ上に作り込まれたICチップに電圧を印加する試料用電源やICチップからの出力を測定部に取り込むための入力部などからなるピンエレクトロニクス(図示せず)が内蔵され、このピンエレクトロニクスはパフォーマンスボード6上に搭載された複数の電子部品回路に対して電気的に接続されている。そして、これらの電子部品回路の接続端子は、パフォーマンスボード6の下面に同心円状上に配列して形成され、接続リング(図示せず)の上面には配列されたポゴピン(図示せず)に圧接するようになっている。これによりテストヘッド5は、パフォーマンスボード6及び接続リングを介してプロービングカードと電気的に導通可能になっている。
【0015】そして、本実施例のプローブ装置には、図2?図4に示すように、テストヘッド5を本体1の側面(図1、図3では左側の側面、図2では上側の側面)に沿って水平方向(図2では矢印Y方向)に往復搬送する搬送手段7が設けられていると共に、この搬送手段7を上下方向(図3ではZ方向)で移動させる昇降手段8が設けられており、搬送手段7及び昇降手段8を介してテストヘッド5を後述のようにプロービングカード3上へ位置合せし、あるいは本体1から退避させるように構成されている。
【0016】上記搬送手段7は、図1?図5に示すように、テストヘッド5を後述の連結機構9を介して支持する支持体10と、この支持体10を搬送方向へ案内する搬送路11と、この搬送路11に従って支持体10を移動させる第1駆動機構12とを備えて構成されている。この搬送路11は図4、図6からも明らかなように例えば断面形状がコ字状を呈する細長形状に形成され、その溝を本体1側に向けて配設されている。この搬送路11は本体1の背面よりやや後方でその上面に略等しい高さに配設され、その長さが本体1の一側面から本体1の他側面を食み出す長さに形成され、図2に示すようにテストヘッド5を本体1と重ならない退避位置まで搬送できるように構成されている。つまり、テストヘッド5はプローブ装置に隣接する図示しないテスタ側の上部空間へ図2の二点鎖線で示すように退避できるようになっている。」(なお、段落【0014】の「テストヘッド4」の記載は「テストヘッド5」の誤記であると認められる。)

「【0023】次に動作について説明する。本実施例のプローブ装置のプロービングカード3を交換する際には、まず図9に示すように昇降手段8によりテストヘッド5をプロービングカード3から上昇させる。それには図示しない制御装置の制御下で第2駆動機構40のモータ45が駆動すると駆動軸44が図9の矢印θ方向へ回転する。これに伴って搬送路11の垂下部41に取り付けられたボールネジ43を介して搬送路11がガイドレール39に従って上方へ所定距離だけ上昇し、搬送路11内の支持体10及び連結機構9を介してテストヘッド5が本体1のヘッドプレート2から離れてテストヘッド5とプロービングカード3との電気的な導通状態を解除する。
【0024】次いで、図3、図4に示すように搬送手段7によってテストヘッド5を本体1の側面に沿ってY方向へ搬送する。それにはまず、制御装置の制御下で支持体10に固定された第1駆動機構12のモータ17が駆動してピニオン18がラック19と噛合した状態で回転すると、支持体10がガイドレール14に従って搬送路11を移動する。支持体10が移動すると、連結機構9を介して支持体10に連結されたテストヘッド5がプローブ装置本体1の上方でY方向に搬送されて図2に示すように本体1の右側、即ちテスタの上部空間へ退避すると、ストッパーが作動してテストヘッド5を停止させる。これにより本体1のヘッドプレート2はテストヘッド5と干渉していないため、ヘッドプレート2を持ち上げて本体1を開放してヘッドプレート2の略中央に装着されたプロービングカード3を交換できる。ヘッドプレート2を開放した後、使用後のプロービングカード3を次のプロービングカード3と交換する。プロービングカード3の交換後、ヘッドプレート2を降ろして本体1の上面を閉じる。
【0025】また、この時、テストヘッド5のメンテナンスを行なう場合には回転駆動機構20を構成するモータ21を回転させてテストヘッド5を例えば180°回転させ、ストッパー31を作動させるとストッパー用ロッド32が円板部材28のストッパー用孔33に嵌入してテストヘッド5を反転した状態で停止させる(図6参照)。この状態でテストヘッド5のパフォーマンスボード6などを容易に点検することができる。点検後にはストッパー31を作動させてストッパー用ロッド32をストッパー用孔33から後退させ、モータ21を逆方向へ駆動させれば、テストヘッド5は元の状態に戻り、再度ストッパー31が作動してテストヘッド5を元の水平状態に維持する。
【0026】その後、第1駆動機構12のモータ17が駆動するとピニオン18が上述の場合とは逆方向へ回転してテストヘッド5をプロービングカード3の上方へ搬送する。これによりテストヘッド5がプロービングカード3の略真上まで来ると、制御装置の制御下でモータ17が停止してテストヘッド5をプロービングカード3に対する粗位置合せを終了する。従って、この状態では図8に示すテストヘッド5の位置決め用凹部38とヘッドプレート2の位置決め用突起37とは正確には一致していない。この状態で昇降手段8の第2駆動機構40が上述の場合とは逆方向へ駆動すると搬送路11を介してテストヘッド5が水平状態を保ったまま下降する。そして、テストヘッド5の位置決め用凹部38がヘッドプレート2の位置決め用突起37と正確に一致していなくても、突起37のテーパ面が凹部38に嵌り込み、更にテストヘッド5が下降すると、最終的には凹部38と突起37が完全に一致してテストヘッド5を本来の位置に確実に位置合せしてテストヘッド5とプロービングカード3の電気的な導通状態を確保することができる。このように正確に位置決めできるのは、支持体10と収納体30を連結する連結機構9は図7に示すように円板部材28、29と収納体30の間などにリング部材34が介在しているため、テストヘッド5が位置決め部材36、37の作用により粗位置合せの状態から正確な位置合せの状態に位置ずれしても、このずれ量をリング部材34により吸収できるからである。
【0027】以上説明したように本実施例によれば、テストヘッド5をプローブ装置本体1の背面に沿って水平に往復搬送する搬送手段7を設けると共に、この搬送手段7を上下方向で移動させる昇降手段8を設けたため、例えばプロービングカード3を交換する時などには、昇降手段8及び搬送手段7を用いてテストヘッド5をプロービングカードから上昇させて本体1からテスタの上部空間へ退避させることができる。
【0028】従って、従来のプローブ装置の場合には本体1の側面からテストヘッド5が反転するようにしあるため、本体1の側面側方にテストヘッド5が反転するスペースをメンテナンスなどのために必要としたが、本実施例のプローブ装置の場合にはテスタとプローブ装置のデッドスペースを有効に利用できるため、テストヘッド5を退避させるメンテナンスなどのための専用スペースが不要になり、クリーンルームの省スペース化を促進することができる。」

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図9】


図1の記載から、「テストヘッド5」は、「収納体30」に載置されていると認められる。

そうすると、上記記載から、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「半導体ウエハの電気的検査を行うプローブ装置であって、
プロービングカード3と、
前記プロービングカード3の裏面に形成された接続端子4と、
前記接続端子4と対応して形成された接続端子を有するテストヘッド4とを備え、
前記テストヘッド5の接続端子を、前記プロービングカード3の前記接続端子4に電気的に導通させて半導体ウエハ上に作り込まれたICチップの電気的検査を行なうように構成され、
テストヘッド5を収納体30に載置し、
プロ-ビングカード3の交換やテストヘッド5のメンテナンスを行うために、
昇降手段8によりテストヘッド5を上昇(Z方向)させ、
ガイドレール14に従って、テストヘッド5を本体1の側面に沿って水平方向(Y方向)に搬送することを特徴とする、
プローブ装置。」

(イ)引用文献2
取消理由通知において引用した引用文献2には、図面とともに以下の記載がある。

「技術分野
[0001] 本発明は、試験装置に関する。より詳細には、本発明は、複数の被試験ウェハの試験を同時に実行できる試験装置に関する。・・・」

「[0010] そこで、上記課題の解決を目的する目的で、本発明の第1の形態として、被試験ウェハに形成された回路と試験信号を送受信する試験モジュール、試験モジュールおよび被試験ウェハの間で試験信号の伝送経路を結合する結合部、圧力を供給された場合に被試験ウェハを結合部に当接させる保持部、並びに、保持部および結合部を収容する筐体を各々が有して、筐体の内部で被試験ウェハを試験する複数の試験ユニットと、複数の試験ユニットによる試験の対象となる被試験ウェハを格納した、複数の試験ユニットに対して共通な格納部と、格納部および複数の試験ユニットの各々の間で被試験ウェハを搬送する搬送部と、複数の試験ユニットの各々に試験の手順を指示するメインフレームと、複数の試験ユニットの各々に電力を供給する、複数の試験ユニットに対して共通な電源と、複数の試験ユニットの各々に圧力を供給する、複数の試験ユニットに対して共通な圧力源とを備える試験装置が提供される。」

「[0015] 図1は、試験ユニット100(図2参照)を含んで形成された試験装置200の構造を模式的に示す断面図である。同図に示すように、試験装置200は、積層された複数の試験ユニット100により形成された試験ユニットスタック101と、複数の試験ユニット100に対して共通に使用される搬送機構としてのハンドラ201と、やはり複数の試験ユニット100に対して共通に使用される共用スタック301とを含む。更に、複数の試験ユニット100に負圧又は正圧の圧力を供給する圧力源510も試験装置200に含まれる。ここで用いられる圧力源510は、複数の試験ユニット100に負圧を供給する減圧タンクとなる。
[0016] 試験ユニットスタック101は、互いに同じ構造を有する試験ユニット100を鉛直に積層して形成される。個々の試験ユニット100は、試験信号を発生する試験モジュール110(図2参照)と、被試験ウェハ401を試験モジュール110に電気的に結合させる機構を備えたテストヘッドとして機能する。これにより、この試験装置200は、複数の被試験ウェハ401に対して、同時に並行して試験を実行できる。試験ユニット100の内部構造と動作については、図2から図4までを参照して後述する。」

「[0026] 図2は、試験ユニット100を単独で示す模式的な断面図である。同図に示すように、試験ユニット100は、複数の試験モジュール110と、被試験ウェハ401(図5参照)に対するコンタクトユニット120と、コンタクトユニット120に被試験ウェハ401を当接させる一連の機構を共通のケース180内部に備え、全体としてテストヘッドの機能を有する。」

「[0030] コンタクトユニット120は、圧力源510から供給された負圧により被試験ウェハ401を吸着するチャック124と、チャック124の下面に突出するプローブカード122とを含む。また、チャック124の下面には、プローブカード122を包囲してシール126が装着される。これにより、被試験ウェハ401がチャック124に当接した場合に、被試験ウェハ401の縁部近傍とチャック124の間を気密に封止して、被試験ウェハ401をチャック124に吸着できる。
[0031] プローブカード122は、下方に向かって垂下された多数のプローブピンを有する。プローブピンの先端は、被試験ウェハ401上のパッドの配置に対応している。これにより、被試験ウェハ401がプローブカード122に押し付けられた場合に、被試験ウェハ401上の回路403と、試験ユニット100とを電気的に結合させることができる。」

「[0054] この試験装置200では、図1に示したように、試験ユニットスタック101は積層された複数の試験ユニット100を含む。従って、同時に複数の被試験ウェハ401を試験することができるので、試験装置200の設置面積を増加させることなく処理量を増加させることができる。換言すれば、この試験装置200は、被試験ウェハ401の1枚当たりの試験時間を短縮できる。」

図1


そうすると、上記記載から、引用文献2には、以下の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

「試験装置の面積を増加させることなく処理量を増加させ、被試験ウェハの1枚当たりの試験時間を短縮するために、試験装置をユニットとし、複数の試験ユニットを積層すること。」

イ 対比・判断
(ア)対比
本件発明と引用発明を対比する。
a 引用発明の「半導体ウエハ」及び「ウエハ上に形成された半導体デバイス」は、それぞれ本件発明の「ウエハ」及び「半導体ウエハ上に作り込まれたICチップ」に相当する。

b 引用発明は、「前記テストヘッド5の接続端子を、前記プロービングカード3の前記接続端子4に電気的に導通させて半導体ウエハ上に作り込まれたICチップの電気的検査を行な」っているから、このことは本件発明の「ウエハ上に形成された半導体デバイスの電気的特性検査を行う」ことに相当する。

c そうすると、「前記テストヘッド5の接続端子を、前記プロービングカード3の前記接続端子4に電気的に導通させて半導体ウエハ上に作り込まれたICチップの電気的検査を行なうように構成され」た「プローブ装置」は、本件発明の「ウエハ上に形成された半導体デバイスの電気的特性検査を行うプローバ」に相当する。

d 引用発明の「前記プロービングカード3の裏面に形成された接続端子4」は、「半導体ウエハ上に作り込まれたICチップの電気的検査を行なう」ものであるから、本件発明の「プローブ」に相当する。
そして、「半導体ウエハ」には「ICチップ」は複数作り込まれていることは技術常識であるから、引用発明のICチップの電気的検査を行なう「接続端子4」も「プロ-ビングカード3」に複数形成されていると認められる。
また、「半導体ウエハ上に作り込まれたICチップの電気的検査を行なう」ためには、引用発明の「接続端子4」は、本件発明の「前記ウエハと対向する」と同様の構成を有していると認められる。
そうすると、引用発明の「前記プロービングカード3の裏面に形成された接続端子4」が裏面に形成された「プロ-ビングカード3」と、本件発明の「前記ウエハと対向する複数のプローブを有する複数のプローブカード」とは、「前記ウエハと対向する複数のプローブを有するプローブカード」を備える点で共通する。

e 引用発明の「テストヘッド5」は、「前記テストヘッド5の接続端子を、前記プロービングカード3の前記接続端子4に電気的に導通させて半導体ウエハ上に作り込まれたICチップの電気的検査を行なうように構成され」ており、このことは、引用発明は「テストヘッド5」-「接続端子」-「プロ-ビングカード」-「接続端子4」-「半導体ウエハ」の順で配置されていると認められるから、この配置の関係を備える引用発明の「テストヘッド5」と、本件発明の「各前記プローブカードに対して前記ウエハとは反対側に配置された複数のテストヘッド」とは、「各前記プローブカードに対して前記ウエハとは反対側に配置されたテストヘッド」である点で共通する。

f 引用発明は「テストヘッド5を収納体30に載置し」、「昇降手段8によりテストヘッド5を上昇(Z方向)させ」ているから、本件発明の「前記テストヘッドを昇降して載置するテストヘッドリフト機構」と同様の構成を備えていると認められる。

g そうすると、本件発明と引用発明は以下の点で一致し、また相違する。

[一致点]
「ウエハ上に形成された半導体デバイスの電気的特性検査を行うプローバであって、
前記ウエハと対向する複数のプローブを有するプローブカードと、
前記プローブカードに対して前記ウエハとは反対側に配置されたテストヘッドと、
前記テストヘッドを昇降して載置するテストヘッドリフト機構と、
を備えることを特徴とするプローバ。」

[相違点1]
本件発明は、「複数のプローブカード」を有し、「各前記プローブカードに対して前記ウエハとは反対側に配置された複数のテストヘッド」を備えているのに対して、引用発明は、「プロ-ビングカード3」に対して半導体ウエハとは反対側に「テストヘッド5」が配置されているものの、「プロ-ビングカード3」は1つであって、「プロ-ビングカード3」に導通する「テストヘッド5」も1つである点。

[相違点2]
本件発明は「各前記プローブカード及び各前記テストヘッドを収容する複数の検査室」を備えているのに対して、引用発明は、対応する構成を備えていない点。

[相違点3]
本件発明は、「前記テストヘッドの昇降方向に垂直な方向に各前記検査室から前記テストヘッドを引き出すスライド機構」を備えているのに対して、引用発明は、本件発明の「検査室」に対応する構成を備えていないために、ガイドレール14に従って、テストヘッド5を本体1の側面に沿って水平方向(Y方向)に搬送する構成が、検査室からテストヘッド5を引き出す機構となっていない点。

[相違点4]
本件発明は、「複数の前記検査室は少なくとも上下に重ねられて配され」ているのに対して、引用発明は、そのようになっていない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点3を先に検討する。
引用文献2には、「試験装置の面積を増加させることなく処理量を増加させ、被試験ウェハの1枚当たりの試験時間を短縮するために、試験装置をユニットとし、複数の試験ユニットを積層すること。」が記載されているものの、テストヘッドをメンテナンス対象とすることは記載されておらず、加えてテストヘッドを引き出すことも記載されていない。
そうすると、引用文献1及び2には、「前記テストヘッドの昇降方向に垂直な方向に各前記検査室から前記テストヘッドを引き出すスライド機構」を備えることは記載されておらず、引用発明に引用文献2記載事項を採用し、相違点3に係る本件発明の構成を備えるようにすることが、容易であったということはできない。

ウ 理由A(特許法第29条第2項)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明は、他の相違点について検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)理由B(特許法第36条第6項第1号)について
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には以下の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のテストヘッドを有するプローバに関する。
【背景技術】
【0002】
多数の半導体デバイスが形成された半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」という。)において各半導体デバイスの電気的特性検査を行うために、ウエハ検査装置としてのプローバが用いられている。プローバはウエハと対向するプローブカードを備え、プローブカードは複数の柱状接触端子であるコンタクトプローブを有する(例えば、特許文献1参照。)。このプローバでは、プローブカードの各コンタクトプローブが半導体デバイスにおける電極パッドや半田バンプに接続された半導体デバイスへ検査信号を流すことによって半導体デバイスの電気回路の導通状態等を検査する。」

「【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のプローバは、ウエハ上に形成された半導体デバイスの電気的特性検査を行うプローバであって、前記ウエハと対向する複数のプローブを有する複数のプローブカードと、各前記プローブカードに対して前記ウエハとは反対側に配置された複数のテストヘッドと、各前記プローブカード及び各前記テストヘッドを収容する複数の検査室と、前記テストヘッドを昇降して載置するテストヘッドリフト機構と、前記テストヘッドの昇降方向に垂直な方向に各前記検査室から前記テストヘッドを引き出すスライド機構と、を備え、複数の前記検査室は少なくとも上下に重ねられて配されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、テストヘッドを容易に引き出すことができる。」

「【0015】
ウエハ検査装置10では、セルタワー12におけるローダ13との隣接面の反対側(以下、「外側」という。)には作業者が各セル11の整備作業を行うことが可能な空間が確保され、後述する整備用台車27が配置される。
【0016】
図2は、図1におけるセルタワーの各セルに内蔵される構成要素を説明するための図であり、図2(A)はテストヘッドの斜視図であり、図2(B)は各セルにおけるテスタヘッド、ポゴフレーム及びプローブカードの配置状態を示す正面図である。
【0017】
図2(A)において、テストヘッド15は、直方体状の筐体からなる本体16と、本体16の長手方向の側面上部から側方へ突出するフランジ17とを有し、本体16は検査回路であるメインボード(図示しない)を収容する。
【0018】
また、図2(B)に示すように、各セル11は、内部において、テストヘッド15と、プローブカード18と、プローブカード18及びメインボードを電気的に接続するポゴピン(図示しない)を保持するポゴフレーム19とを有する。プローブカード18及びポゴフレーム19、並びにポゴフレーム19及びテストヘッド15の間にはシール部材20、21が配置され、該シール部材20、21に囲まれた空間が減圧されることにより、プローブカード18及びポゴフレーム19が真空吸着によってテストヘッド15へ装着される。
【0019】
プローブカード18は、円板状の本体24と、本体24の下面から図中下方へ向けて突出するように配置される多数の柱状接触端子である複数のコンタクトプローブ25とを有する。各コンタクトプローブ25は、プローブカード18へウエハ(図示しない)が当接した際、該ウエハに形成された各半導体デバイスの電極パッドや半田バンプ(いずれも図示しない)と接触する。
【0020】
図1に戻り、各セル11の外側には整備用開口部26が開設され、該整備用開口部26を介してテストヘッド15が引き出される。作業者は引き出されたテストヘッド15から消耗したメインボードを取り外し、新しいメインボードを取り付ける。
【0021】
ところで、テストヘッド15の重量は約70kgfであり、作業者の力だけでは取り扱いが困難であるため、テストヘッド15は、セル11内において当該テストヘッド15の長手方向(以下、単に「長手方向」という。)に沿って配置されるスライドレール(図示しない)によってフランジ17を介して支持され、スライドレールの上面に設けられた複数のボール台座によって長手方向に引き出し可能に構成される。
【0022】
ウエハ検査装置10において、作業者が容易にメインボードの交換を行うためには引き出されたテストヘッド15を支持する支持機構が必要であり、これに対応して、本実施の形態では後述する整備用台車27が提供される。
【0023】
図3は、本実施の形態に係るプローバに用いられる整備用台車の構成を概略的に示す図であり、図3(A)は側面図であり、図3(B)は正面図である。
【0024】
図3(A)及び図3(B)において、整備用台車27は、複数のころ28(車輪)によって支持されて移動可能に構成される台車基部29と、該台車基部29から立設されたリフト機構30と、テストヘッド15を収容可能な筐体状のテストヘッドケース31(ケース)とを有する。
【0025】
台車基部29には取っ手32が設けられ、作業者は取って32を押すか、若しくは引くことによって整備用台車27を移動させる。各ころ28は双輪からなり、向きを自在に変更可能に構成されるため、整備用台車27の移動に関する自由度を向上させる。
【0026】
リフト機構30は、図中上方へ向けて台車基部29から延出する支柱33と、該支柱33に取り付けられ、支柱33の延出方向に沿って移動することによって図中上下方向に移動するリフタ34と、リフタ34を移動させるモータ(図示しない)とを有する。
【0027】
なお、台車基部29の各ころ28はブレーキ(図示しない)を有し、該ブレーキはリフタ34が上下方向に関する最下点に位置する場合のみ解除される。
【0028】
図4は、図3(A)及び図3(B)におけるリフタ及びテストヘッドケースの構成を概略的に示す図であり。図4(A)は側面図であり、図4(B)は正面図である。なお、説明を簡単にするために、図4(A)及び図4(B)では、テストヘッド15が破線で示され、さらに、図4(B)は、後述するスライドレールカバー40を一点鎖線で示し、且つスライドレールカバー40を透けた状態で示す。
【0029】
図4(A)及び図4(B)に示すように、テストヘッドケース31は直方体状を呈するとともに、長手方向に関する両端が開放されて開口部を形成し、テストヘッド15をセル11から引き出す際、両端の開口部のいずれかがセル11の整備用開口部26に対向し、整備用開口部26を介して引き出されたテストヘッド15を内部に収容する。また、テストヘッドケース31の上面も開放されているため、作業者は収容されたテストヘッド15へテストヘッドケース31の上面からアクセス可能であり、該上面を介してメインボードを交換する。
【0030】
テストヘッドケース31は水平位置調整ステージ35を介してリフタ34によって支持される。水平位置調整ステージ35は上下に重ねられた円板状部材である基部35a及び移動部35bからなり、基部35a及び移動部35bの間には多数のボールベアリング(図示しない)が敷き詰められ、移動部35bは基部35aに対して水平に移動することができる。基部35aはリフタ34に接続され、移動部35bはテストヘッドケース31に接続される。これにより、水平位置調整ステージ35はテストヘッドケース31をリフタ34に対して水平に移動させることができる。」

「【0036】
整備用台車27では、リフト機構30が、テストヘッドケース31の位置を、当該テストヘッドケース31のスライドレール37が1段目のセル11に収容されたテストヘッド15のフランジ17と正対する高さ、同スライドレール37が2段目のセル11に収容されたテストヘッド15のフランジ17と正対する高さ、同スライドレール37が3段目のセル11に収容されたテストヘッド15のフランジ17と正対する高さ、及び同スライドレール37が4段目のセル11に収容されたテストヘッド15のフランジ17と正対する高さのそれぞれに固定可能である。
【0037】
図1に戻り、セルタワー12の外側下方にはガイドレール41が配される。ガイドレール41はセルタワー12の長手方向に沿い、断面が矩形の管状体であり、セルタワー12と反対側の側壁41aにスリット42が形成される。一方、図3(B)に示すように、整備用台車27は台車基部29に配されたガイド部43(ガイド機構)を有する。
【0038】
図5に示すように、ガイド部43は台車基部29から側方へ突出するブラケット43aと、該ブラケット43aの先端に設けられて水平に回転するローラ43bとを有し、ブラケット43aはガイドレール41のスリット42を介してガイドレール41の内部へ進入し、ローラ43bはガイドレール41の内部に収容される。すなわち、ガイド部43はガイドレール41と遊合するが、このとき、ローラ43b及び台車基部29の間にはガイドレール41の側壁41aが介在する。
【0039】
上述した整備用台車27はテストヘッド15の全体を引き出す際に用いられるが、テストヘッド15を整備する際、当該テストヘッド15の全体を引き出す必要がない場合がある。このような場合、ウエハ検査装置10では、整備用台車27ではなくテストヘッド15を部分的に載置する簡易整備用台車44を用いる。
【0040】
図6は、簡易整備用台車の構成を概略的に示す側面図であり、図6(A)はセルタワーにおける1段目のセルのテストヘッドを整備する場合を示し、図6(B)はセルタワーにおける2段目のセルのテストヘッドを整備する場合を示す。
【0041】
図6(A)及び図6(B)において、簡易整備用台車44は底部に複数のころ45が配置されたメインフレーム46と、該メインフレーム46に対して上下に移動可能な整備台47とを有する。整備台47は複数のボール台座からなるスライドレール48を有し、スライドレール48は部分的に引き出されたテストヘッド15のフランジ17を支持する。整備台47は、スライドレール48が1段目のセル11に収容されたテストヘッド15のフランジ17と正対する第1の高さ、及びスライドレール48が2段目のセル11に収容されたテストヘッド15のフランジ17と正対する第2の高さのそれぞれに固定可能に構成される。」

イ 判断
上記アに記載されているように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許の請求項1に記載された「前記テストヘッドを昇降して載置するテストヘッドリフト機構」の「テストヘッドドリフト機構」は、文言上記載されていない。
しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、テストヘッドを載置するために、テストヘッドケースを昇降させるリフト機構30(段落【0047】)が記載されており、このリフト機構30は、整備用台車27が有している。(段落【0024】)
そして、整備用台車27は、ウエハ検査装置10に配置されるものであり(段落【0015】)、また、ウエハ検査装置10は本件特許の「プローバ」に対応するから(段落【0013】)、本件特許の請求項1に記載された「テストヘッドリフト機構」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された、整備用台車27が有しているリフト機構30等の構成に対応すると認められる。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許の請求項1に記載された「前記テストヘッドを昇降して載置するテストヘッドリフト機構」が記載されていると認められるから、本件特許の請求項1に記載された発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。

2 取消理由において採用しなかった特許異議申立ての理由について
(1)特許法第29条第2項について
ア 甲号証の記載
(ア)甲第1号証
特許異議申立人が異議申立書で引用した国際公開第2009/004968号(以下、「甲第1号証」という。また、甲第1号証は、取消理由通知で引用した引用文献2である。)には、上記1(1)イに記載した事項が記載されている。

(イ)甲第2号証
特許異議申立人が異議申立書で引用した特開平8-64645号公報(以下、「甲第2号証」という。また、甲第2号証は、取消理由通知で引用した引用文献1である。)には、上記1(1)アに記載した事項が記載されている。

(ウ)甲第3号証
特許異議申立人が異議申立書で引用した特開2010-157550号公報(以下、「甲第3号証」という。)には、以下の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ上に形成された複数の半導体装置(チップ)の電気的特性を検査するウエハテストシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ウエハに形成された多数の半導体装置(チップ)の電気的特性検査するウエハテストシステムの構成は、ウエハを載置してテストピンを接触させるステージと、ウエハをハンドリングするローダロボットと、ウエハを収容するウエハカセット据え付けポートと、電気的テストを実施するためのテストヘッドとから構成されている。
【0003】
テスト対象となる半導体装置は、高集積化が進んでいるのでテストに時間を要するため、できるだけステージを増やしてローダロボットの稼働率を高めることが望まれている。しかし、各ステージに対応して設けるテストヘッドは、多数の回路基板やプローブカードあるいはそれらを接続する多数のケーブルなどが設けられているため、重量的にも100kgを超えるもので、メンテナンスやプローブカードの交換にはテストヘッドを持ち上げるためのモータなどを使った電気的に回動手段が必要であった。このため、1つのステージに対応してテストヘッドの駆動モータ付きの旋回機構とローダロボット駆動部分、ウエハカセット据付けポートが必要となり、かつメンテナンスエリアも全方位に必要で、省スペース化を阻害する問題があった。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ウエハテストシステムにおいて、装置全体の小型化および省スペース化を図り、テストヘッドの軽量化および小型化、信号の信頼性向上を図り、テストヘッドの排熱による測定動作の不具合を回避できるようにし、操作画面の同時操作による事故発生を抑制し、プローブカード装着時に確実にIDを読み取ることができるようにし、ローダロボットの稼働を効率良く行えるようにするための最適なステージ数を設定できるようにし、ウエハのアライメントをカメラの台数を増やさずに省スペースで行えるようにし、そして、緊急地震速報信号に対して確実にテスト動作の停止処理を行えるようにすることを目的とする。」

「【0033】
[テストヘッドの構成]
次に、図5Aを参照してテストヘッド12a?12dの構成について説明する。図5A(a)および(b)は、テストヘッド12a?12dのうち同様に構成される12aを代表としてその内部構造を示している。図5A(a)は、正面側から見た内部構造であり、図5A(b)は右側面側つまり低温チラー16a側から見た内部構造を示している。
【0034】
テストヘッド12aは矩形状の外箱を有し、この外箱の背面側には吸気口27aが形成されており、正面側には排気口27bが形成されている。また、排気口部分には、排気が上方に流通するように上向きに配置された複数のルーバ28が設けられている。また、テストヘッド12aの内部には、吸気口27の下部に対応して複数個のファン29が並べて設けられており、外気を吸気口27から吸入して内部を流通させて排気口からルーバ28を介して外部の上方に向けて排気させるようになっている。」

「【0037】
マザーボード30は、内部に形成される多層配線により、上面に接続される多数のピンエレクトロニクス基板31の各端子の矩形状配置の電極パターンを環状配置の電極パターンに変換して下面に導出している。このマザーボード30の下面側の電極部分には環状をなすPogoブロック34が配置されると共に、図5B(b)に示すように、そのPogoブロック34を切り欠いた孔部33aを有する下補強板33が配置されている。これらマザーボード30、上補強板32、下補強板33およびPogoブロック34はねじ30bにより一体に固定されている。」

「【0039】
Pogoブロック34には多数のPogoピン35が配設されている。Pogoブロック34は、ヘッドプレートに載置されるプローブカード36と電気的に接触するように設けられており、プローブカード36にはウエハの半導体チップに形成されたパッドに接触するための多数のプローブ37が配設されている。」

「【0042】
[全体構成、テストヘッドの構成、低温チラーの構成のまとめ]
以上のようにな構成において、近年ではテストの対象となるウエハに作りこまれている半導体装置(チップ)は、テスト用演算回路が組み込まれているものを前提としている。これにより、1チップのテストに必要なパッド数が大きく低減でき、プローブカード36に設けられているプローブ37の本数に対して、一度にテスト可能なチップ数が大幅に増大させることができる。例えば、通常のテストにおいては、1チップあたり10本以下のプローブ37を割り当てることでテストが可能である場合に、一度アライメントをしてプローブ37をウエハのパッドに接触させると、ステージ10の移動をしないで1回の測定で済ませることもできるし、あるいは1回程度のステージ10の移動で2回の測定で済ませることができる。
【0043】
したがって、ウエハステージ部3a?3dの幅寸法を大幅に低減させることができ、小型化が図れる。また、テストヘッド12a?12dの構成を、テスト回路を集積化するとともに、上記したウエハ側にテスト用演算回路を作りこむこと、さらにはマザーボード30とPogoブロック34との間を、ケーブルによる配線に代えて、マザーボード30を多層配線基板により構成して接続する構成としたので、全体として400kg程度あったものが例えば50?70kg程度まで大幅な軽量化を図ることができた。
【0044】
さらにメンテナンス等の場合に、モータによる回動で行なう必要がなく、作業者が手動で行なうことができ、これによってメンテナンスエリアも従来のような全方位に設定する必要がなくなるため、前後の領域のみで行なえるようになり、省スペース化を図ることができる。また、ケーブルによる配線に代えて多層配線基板33を介在させる構成としたので、配線距離を大幅に短くすることができ、これによって信号のケーブル内伝達による信号品質の低下も防止して確実に検出動作を行なうことができる。」

(エ)甲第4号証
特許異議申立人が異議申立書で引用した特開2010-74091号公報(以下、「甲第4号証」という。)には、以下の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブを基板の電極パッドに電気的に接触させて当該基板の電気的特性を測定するプローブ装置に関し、特にテストヘッドを装置本体の天板に装着する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程においては、集積回路チップの完成後にウェハの状態で各チップについて電気的特性の検査を行うことにより良否が判定される。このような検査は、例えば半導体ウェハ(以下、ウェハという)を載置するための載置台が内部に設けられたプローブ装置本体と、このプローブ装置本体のヘッドプレート(天板)に設置され、その下面にチップの電極パッドが接触されるプローブが形成されたプローブカードと、このプローブカードの上方側に設けられ、ポゴピンを上下両面に有するポゴリングを介してプローブカードに接続される箱型のテストヘッドと、を備えたプローブ装置と呼ばれる検査装置にて行われる。
テストヘッドを設置する構造としては、通常は水平方向軸回りに回転自在な回転軸を持つ回動機構をプローブ装置本体の側方位置に設けると共に、この回転軸から伸びるアームによりテストヘッドを側面側から支持して、テストヘッドがプローブ装置本体上で水平位置から背面側に回動できるように構成されている。」

「【0012】
本発明のプローブ装置について、図1?図7を参照して説明する。このプローブ装置は、プローブ装置本体であるプローバ本体11、テストヘッド12及びローダ部13を備えている。このプローバ本体11に隣接してローダ部13が設けられており、以後の説明においては、プローバ本体11及びローダ部13の配列方向を左右、作業者がローダ部13を右手に見てプローバ本体11に向かって立つ側を前方側とする。」

「【0014】
図1及び図2に示すように、ヘッドプレート24の上方には重量が例えば60kg程度の箱型のテストヘッド12が設けられており、このヘッドプレート24はコ字型の保持枠35により両側から保持されている。一方、このヘッドプレート24の後縁の左方寄り(図1中X方向左側)には回動機構をなすヒンジ機構32が設けられており、保持枠35の背面は板状の回動アーム33を介してヒンジ機構32から伸びる回動軸31に接続されている。従って、保持枠35が回動軸31の周りに回動するように構成されており、これによりテストヘッド12はヘッドプレート24から上方に離間して傾斜した退避位置と、ヘッドプレート24に近接して水平に対向する水平位置と、の間で回動できることになる。この回動軸31の回転中心は、天板21の上面よりも例えば140mm高い位置に設定されている。」

(オ)甲第5号証
特許異議申立人が異議申立書で引用した特開平3-63577号公報(以下、「甲第5号証」という。)には、以下の記載がある。

「【産業上の利用分野】
この発明は、テストヘッドが回動可能に取り付けられる半導体試験装置に関する。」(第1頁左下欄17行乃至19)

「【発明が解決しようとする課題】
ところで、テストヘッドは、ウェーハに形成されるチップの集積度などの違いによるピン数の違いや、ウェーハの種類によってテスト項目が異なることにより、種々の大きさのものがあり、その重量も異なる。例えば、-例として48ピンのテストヘッドの場合には、重量25kgであるのに対し、256ピンのテストヘッドの場合には、重量100kgである。」(第2頁左下欄20行乃至右下欄8行)

イ 判断
特許異議申立人は、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項から、本件発明は、当業者が容易に発明することができたものである旨主張している。
しかしながら、本件発明の「前記テストヘッドの昇降方向に垂直な方向に各前記検査室から前記テストヘッドを引き出すスライド機構」を備えることは、上記第4の1(1)で検討したように、甲第1号証及び甲第2号証には記載されておらず、また、上記ア(ウ)ないし(オ)に記載したとおり、甲第3号証ないし甲第5号証にも記載されていない。
そうすると、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項を採用し、本件発明の「前記テストヘッドの昇降方向に垂直な方向に各前記検査室から前記テストヘッドを引き出すスライド機構」を備えるようにすることが、容易であったということはできない。
以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張する上記異議申立ての理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

(2)特許法第36条第6項第2号について
特許異議申立人は、異議申立書において、特許請求の範囲に関し、請求項1記載の「前記テストヘッドを昇降して載置するテストヘッドリフト機構」の記載は、スライド機構により引き出される前のテストヘッドを昇降して載置するのか、スライド機構により引き出された後のテストヘッドを昇降して載置するのかが何ら特定されておらず、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、「テストヘッドを昇降して載置する」ことの技術的意味を理解することができない旨主張する。
しかしながら、請求項1記載の「テストヘッドリフト機構」は「前記テストヘッドを昇降して載置する」ものであり、「テストヘッドリフト機構」の機能は明確であるから、特許を受けようとする発明が不明確であるとはいえず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。
したがって、特許異議申立人の主張する上記異議申立ての理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-09-24 
出願番号 特願2017-62824(P2017-62824)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 堀江 義隆  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 加藤 浩一
小田 浩
登録日 2019-01-25 
登録番号 特許第6467722号(P6467722)
権利者 東京エレクトロン株式会社
発明の名称 プローバ  
代理人 別役 重尚  
代理人 松村 潔  
代理人 松浦 憲三  
代理人 村松 聡  

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