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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1366979
異議申立番号 異議2020-700327  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-08 
確定日 2020-10-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6604120号発明「無方向性電磁鋼板、及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6604120号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6604120号の請求項1?7に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2015-192334号)は、平成27年9月29日に出願され、令和1年10月25日に特許権の設定登録がなされ、同年11月13日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、令和2年5月8日に特許異議申立人 JFEスチール株式会社(以下、「申立人」という。)により請求項1について特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1?7に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は請求項1に記載されたとおりの以下の事項により特定されるものである。

【請求項1】
質量%で、
0.1≦Si≦3.5、
0.1≦Mn≦1.5、
Al≦2.5、
Cr≦1.0、
Sn≦0.2、
C≦0.003、
N≦0.003、
S≦0.003、
残部がFe、及びその他不可避不純物からなる無方向性電磁鋼板であって、
当該無方向性電磁鋼板の板厚中心層の、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、
φ2=45°断面において、ψ=55°である方位の最高強度が3以下かつ1以上であり、
φ2=0°断面におけるψ=0°である方位において、強度が2以上であるφ1の角度領域が60°以上90°以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)に記載された大略以下の理由により、本件特許を取り消すべきである旨を主張する。

<申立の概要>
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された技術事項に基いて、当該技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許はこの規定に違反してされたものなので、同法第113条第2号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2002-3944号公報
甲第2号証:特開2002-146493号公報
甲第3号証:特開2003-293101号公報
甲第4号証:特開2004-68084号公報

第4 当審の判断
以下、特許異議の申立ての理由について判断する。

甲第1号証の記載
甲第1号証には以下の事項が記載されている。以下で、「・・・」は記載の省略を示し、下線は当審で付記した。

記載事項ナ
【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、モータや変圧器等の鉄心材料として好適な磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板に関するものである。

記載事項ニ
【0004】また、方向性電磁鋼板においては、鋼板の集合組織を改善し、方位を高度に集積させることによって鉄損を低減する方法が一般的に行われているが、無方向性電磁鋼板においても鋼板の集合組織を改善して鉄損を低減する試みが活発化している。無方向性電磁鋼板では、板面内のあらゆる方向に磁化容易軸である<001>軸を数多く存在させ、かつ磁化困難軸である<111>軸を減少させることが磁気特性を良好にする。すなわち、磁気特性が良好な集合組織とは、かかる磁化容易軸が板面内に集積した集合組織である。

記載事項ヌ
【0007】【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、モータや変圧器等に使用される無方向性電磁鋼板について、コストアップを極力抑制しつつ、磁気特性を効果的に改善し得る、無方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。
【0008】【課題を解決するための手段】以下、本発明の解明経緯について説明する。さて、発明者らは、電磁鋼板の鉄損低減について鋭意研究を重ねた結果、Al含有量を極力低減した上で、温間圧延を施すことによって、磁気特性に有利な集合組織が発達し、鉄損および磁束密度が大幅に改善されることの知見を得た。以下、本発明を由来するに至った実験結果について説明する。

記載事項ネ
【0010】また、図2,3にそれぞれ、上記の実験において、Al量が 0.005mass%および0.410 mass%の場合に得られた最終製品板の集合組織(ODF表示;φ2 =45°断面)の例を示す。ここで、結晶方位はオイラー角(φ1,Φ, φ2)で表される。・・・

記載事項ノ
【0012】実験2 C:25 ppm, Si:3.25mass%, Mn:0.16mass%, Al:0.005 mass%, S:0.0011mass%, N:0.0009mass%, O:0.0013mass%およびSb:0.035 mass%を含み、残部は実質的にFeの組成になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造したのち、1100℃で20分加熱後、熱間圧延により板厚:2.8 mmの熱延板とした。ついで、熱延板焼鈍後、タンデム圧延により板厚:0.35mmに仕上げる際に、タンデム圧延機入側で鋼板を予め、室温から 500℃まで種々に変化させて圧延し、その後最終仕上焼鈍を施した。かくして得られた製品板の圧延方向(L方向)および圧延直角方向(C方向)のエプスタインサンプルを採取し、エプスタイン試験により(L+C)方向での磁気特性を測定した。

記載事項ハ
【0013】図4に、鉄損値と圧延温度との関係について調べた結果を示す。同図から明らかなように、圧延温度が 100?300 ℃の範囲において磁気特性が良好となった。また、図5, 6, 7に、この実験で得られた最終製品板の集合組織(ODF表示;φ2 =45°断面)の例を示す。図5は圧延温度が室温の場合、図6は圧延温度が 250℃の場合、図7は圧延温度が 400℃の場合の集合組織をそれぞれ示している。これらの図から明らかなように、圧延温度が 250℃の場合には、(100)面近傍方位の集積が高くかつ(111)近傍方位の集積が低い、磁気特性に良好な集合組織となっている。この点、圧延温度が室温の場合には、(100)面近傍方位の集積が低くかつ(111)近傍方位の集積が高い、磁気特性に好適でない集合組織となっており、また圧延温度が 400℃の場合には集合組織がランダム化している。

記載事項ヒ
【0014】さらに、(100)面インバース強度I100 を測定したところ、圧延温度が室温の場合はI100 =2.12、圧延温度が 250℃の場合はI100 =4.30、圧延温度が400℃の場合はI100 =1.56であった。従って、圧延温度を 250℃付近とすることで、最終製品板は磁気特性に良好な集合組織となることが分かる。

記載事項フ
「実験2」で圧延温度が250℃の場合の集合組織を示す図6(記載事項ノより)


2.甲第1号証に記載の発明
ア 「実験2」(記載事項ノ)に着目すると、C:25 ppm(0.0025%), Si:3.25mass%, Mn:0.16mass%, Al:0.005 mass%, S:0.0011mass%, N:0.0009mass%, O:0.0013mass%,Sb:0.035 mass%を含み、残部は実質的にFeの組成になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造したのち、1100℃で20分加熱後、熱間圧延により板厚:2.8 mmの熱延板とし、ついで、熱延板焼鈍後、タンデム圧延により板厚:0.35mmに仕上げる際に、タンデム圧延機入側で鋼板を予め、室温から 500℃まで種々に変化させて圧延し、その後最終仕上焼鈍を施した「最終製品板」が記載されている。

イ 記載事項ノから、室温から 500℃まで種々に変化させて圧延する際に、圧延温度は、室温、250℃、400℃の3条件が選ばれ、記載事項ヒから「磁気特性に良好な集合組織」を有する「最終製品板」は圧延温度が250℃の時のものといえる。

ウ ここで、記載事項ネから、図2,3は「最終製品板」の「集合組織」を、「結晶方位」をオイラー角(φ1,Φ, φ2)で表わす「ODF表示」でなされるもので、記載事項ハから図6も同様であり、図6は「0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦Φ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示」で表されたものといえる。

エ そこで、記載事項フの図6と記載事項ハを併せてみると、同図から、
φ2=45°断面において、Φ=55°である方位のランダム比強度が1.5以下かつ1以上である領域のみが存在し、
φ2=45°断面におけるΦ=0°である方位において、ランダム比強度が2以上であるφ1の角度領域が8°?80°の範囲に存在することがみてとれる。

オ 以上から、本件発明1に則して記載を整理すると、甲第1号証には、
「mass%で、
Si:3.25
Mn:0.16
Al:0.005
Cr:含有せず
Sn:含有せず
C:0.0025
N:0.0009
S:0.0011
O:0.0013
Sb:0.035
残部は実質的にFeの組成になる最終製品板であって、
0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦Φ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、
φ2=45°断面において、Φ=55°である方位のランダム比強度が1.5以下かつ1以上である領域が存在し、
φ2=45°断面におけるΦ=0°である方位において、ランダム比強度が2以上であるφ1の角度領域が8°?80°の範囲に存在する、
最終製品板。」(以下、「引用発明」という。)

3.本件発明1と引用発明との対比
ア 記載事項ヌから、引用発明の「最終製品板」は、本件発明1の「無方向性電磁鋼板」に相当する。

イ 引用発明において、CrとSnは含まれないから、それらの含有量はゼロであるので、成分組成について、本件発明1と引用発明は、「Si、Mn、Al、Cr、Sn、C、N、S」について一致する。また、引用発明は「残部は実質的にFeの組成になる」のに対して、本件発明1は「残部がFe、及びその他不可避不純物からなる」から、本件発明1と引用発明は、「残部は実質的にFeの組成になる」点で一致する。

ウ 上記「2.ウ」でみた引用発明の「0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦Φ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示」について、「Φ」が本件発明1の「ψ」にあたり、また、引用発明の「ランダム強度比」が本件発明1における「強度」にあたることも明らかである。

エ 引用発明の「φ2=45°断面において、Φ=55°である方位のランダム比強度が1.5以下かつ1以上である領域が存在」することは、換言すれば「φ2=45°断面において、Φ=55°である方位の最高強度が1.5」であることといえるから、本件発明1の「φ2=45°断面において、ψ=55°である方位の最高強度が3以下かつ1以上であり、」に相当する。

オ 以上から、本件発明1と引用発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
<一致点>
「質量%で、
0.1≦Si≦3.5、
0.1≦Mn≦1.5、
Al≦2.5、
Cr≦1.0、
Sn≦0.2、
C≦0.003、
N≦0.003、
S≦0.003、
残部は実質的にFeの組成になる無方向性電磁鋼板であって、
当該無方向性電磁鋼板の板厚中心層の、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、
φ2=45°断面において、ψ=55°である方位の最高強度が3以下かつ1以上である、
無方向性電磁鋼板。」

<相違点1>
成分組成について、本件発明1では「不可避不純物」を含むが、引用発明では「O」を含む点。
<相違点2>
成分組成について、本件発明1では「不可避不純物」を含むが、引用発明では「Sb」を含む点。
<相違点3>
本件発明1では、
「φ2=0° 断面におけるψ=0°である方位において、強度が2以上であるφ1の角度領域が60°以上90°以下である」のに対して、
引用発明では、
「φ2=45°断面におけるΦ=0°である方位において、ランダム比強度が2以上であるφ1の角度領域が8°?80°の範囲に存在する」点。

4.相違点の検討
事案に鑑み、相違点2、3について検討する。
(1)相違点2について
ア 本件特許明細書には「【0032】(不可避不純物)本発明の無方向性電磁鋼板は、本発明の効果を損なわない範囲で、不可避的に混入する各種元素(不可避不純物)を含むものであってもよい。このような元素としては、C、N、Sのほか、Ti(チタン)、Nb(ニオブ)、As(ヒ素)、Zr(ジルコニウム)等が挙げられる。」と記載され、「Sb」は、本件発明1の「不可避不純物」として具体的な記載はなく、本件発明1において「不可避不純物」であるべき理由も見いだせない。

イ したがって、「Sb」は本件発明1では「不可避不純物」とまではいえないので、引用発明は「Sb」を含む点で本件発明1とは異なるものである。

ウ そこで「Sb」を「Sn」で代替できないかを考えるに、「無方向性電磁鋼板」の成分について甲第2?4号証には以下エの記載がある。

エ 甲第2号証には、「【0033】・・・Sbおよび/またはSn:0.01?0.40% Sb,Snはいずれも、粒界に偏在し、鋼の再結晶に際して結晶粒界からの{111}方位の再結晶核の生成を抑制することによって、磁束密度および鉄損を改善する効果がある。この効果を得るためには、SbとSnのうちの1種または2種を少なくとも0.01%含有させることが好ましい。・・・」と記載され、甲第3号証には、「【0018】本発明では、磁気特性をより一層改善するため、上記組成に加えて、さらにSb:0.005?0.1%およびSn:0.005?0.15%から選ばれる1種または2種をさらに含有させる。」と記載され、甲第4号証には、「【0046】Sb:0.005?0.10%およびSn:0.005?0.2%から選んだ1種または2種SbおよびSnは、窒化物の微細析出を抑制するとともにその粒成長阻害効果を低減することにより、磁気特性上有利な集合組織の形成を効果的に促進させる。・・・」と記載されている。
これらから、「Sb」と「Sn」は共に磁気特性を改善する元素であり、どちらか一方又は両方を、甲第2?4号証で重複する範囲である「Sn」0.01?0.15%、「Sb」0.01?0.1%を「無方向性電磁鋼板」の成分として用いることは周知技術といえる。

オ すると、引用発明において、「無方向性電磁鋼板」の成分として0.035mass%のSbを用いるのに代えて、0.01?0.15%(<0.2質量%)のSnを用いるようにすれば、それは本件発明1と成分組成が重複することとなり、そのようにすることは、磁気特性を改善する観点からは問題がないように考えられる。

カ しかしながら、引用発明1(「実験2」)は0.035mass%のSbを用いて図6に示される集合組織が得られるものであるから、0.035mass%のSbに代えて、0.01?0.15%のSnを用いた場合に、図6に示される集合組織と同一のものが得られるかは明らかでない。

キ したがって、引用発明においてSbに代えてSnを用いた場合に「無方向性電磁鋼板」の集合組織が変化しないとは断定できないから、相違点2は実質的な相違点であり、また、当業者が当該相違点に係る特定事項について容易に想到し得るものともいえない。

(2)相違点3について
ア 本件特許明細書には次の記載がある。
「【0038】・・・図5の例では、φ1が5°?50°の範囲、及び、φ1が60°?80°の範囲で、強度が2以上となっている。この場合、当該2つの領域の合計65°の領域で強度が2以上、即ち、強度が2以上であるφ1の角度領域は65°である。また、図6の例では、φ1が0°?10°の範囲、φ1が35°?55°の範囲、及び、φ1が80°?90°の範囲で、強度が2以上となっている。この場合、当該3つの領域の合計40°の領域で強度が2以上、即ち、強度が2以上であるφ1の角度領域は40°である。」
この記載から、本件発明1の「角度領域」は、ある値以上の強度が分布する範囲の幅を意味するといえるから、引用発明の「ランダム比強度が2以上であるφ1の角度領域が8°?80°の範囲に存在する」ということは、「ランダム比強度が2以上であるφ1の角度領域が72°である」ことを意味するといえる。
すると、引用発明の「ランダム比強度が2以上であるφ1の角度領域が8°?80°の範囲に存在する」は、本件発明1の「強度が2以上であるφ1の角度領域が60°以上90°以下である」に相当するといえる。

イ しかしながら、引用発明は「φ2=45°断面におけるΦ=0°である方位」の「φ1の角度領域」であって、本件発明1の「φ2=0°断面におけるψ=0°である方位」の「φ1の角度領域」ではない。
そして、両者が互いに別のものであることは、前者が「φ2=45°断面における」ものであるのに対して、後者は「φ2=0°断面における」ものであることから明らかであり、また、引用発明の「φ2=45°断面におけるΦ=0°である方位」の「φ1の角度領域」の存在から、本件発明1の「φ2=0°断面におけるψ=0°である方位」の「φ1の角度領域」の存在を容易に推考し得るものでもない。

ウ この点で申立人は、本件特許明細書の記載を引用して、図4の左図(φ2=0°断面、Φ=0°)と右図(φ2=45°断面、Φ=0°)とを比較し、「強度が2以上のφ1の角度領域」が共に「20°」であるから、「φ2=0°断面、Φ=0°」と「φ2=45°断面、Φ=0°」は等価である(申立書6?7頁)から、甲第1号証の図6(φ2=45°断面、Φ=0°)は、「φ2=0°断面、Φ=0°」と等価であると主張している。

エ しかしながら、そもそも、たとえ本件発明1で「φ2=0°断面、Φ=0°」と「φ2=45°断面、Φ=0°」が等価であるとしても、そのことが、別発明である引用発明においても「φ2=45°断面、Φ=0°」と「φ2=0°断面、Φ=0°」が等価であるという理由にはならない。
また、本件特許明細書の記載において図4から「φ2=0°断面、Φ=0°」と「φ2=45°断面、Φ=0°」は等価であると申立人が判断した理由は、図4に両者の角度領域の図が明示されていて、両者の角度領域を確認できたからであって、甲第1号証には図6(φ2=45°断面、Φ=0°)はあるが、「φ2=0°断面、Φ=0°」を明示する図はないから、その角度領域を確認できないので、甲第1号証の「実験2」の場合において「φ2=45°断面、Φ=0°」と「φ2=0°断面、Φ=0°」が等価であるとまでは断言できない。
さらに、一般的に「φ2=0°断面、Φ=0°」と「φ2=45°断面、Φ=0°」の角度領域が等価であることを示す論理や証拠が提出され説明されているわけでもない。

オ また、本件発明1と引用発明との製造方法を比較すると、本件発明1は、本件特許明細書の【0045】から、「鋼板を少なくとも2本のリターンロールにより、曲げ-曲げ戻しする工程(I)と、鋼板を直径600mm以下の圧延ロールにより圧延する冷間圧延工程(II)とをこの順に有する」ことで、「φ2=45°断面において、ψ=55°である方位の最高強度が3以下かつ1以上であり、φ2=0°断面におけるψ=0°である方位において、強度が2以上であるφ1の角度領域が60°以上90°以下である」である集合組織を得るものであるのに対して、引用発明は、甲第1号証の記載事項ヌから、「Al含有量を極力低減した上で、温間圧延を施すことによって、磁気特性に有利な集合組織」すなわち上記記載事項フの図6に示される集合組織を得るものである。
すると、本件発明1と引用発明は、製造方法が異なるものであり、上記相違点2の検討から、鋼板の成分組成も同一とはいえないから、本件発明1と引用発明との鋼板の集合組織が同一になる蓋然性は低い。

カ そして、他の甲号証を見るに、甲第2?4号証は、上記相違点3について、「無方向性電磁鋼板」の組成として「Sb」に代えて「Sn」を用いることができることの周知例として提出された文献であって、無方向性電磁鋼板の集合組織に関して、「φ2=45°断面におけるΦ=0°である方位において、ランダム比強度が2以上であるφ1の角度領域が8°?80°の範囲に存在する」ことが、「φ2=0° 断面におけるψ=0°である方位において、強度が2以上であるφ1の角度領域が60°以上90°以下である」ことと等価であることを記載乃至示唆する事項は見いだせない。

キ 以上から、相違点3は実質的な相違点であり、また、当業者が当該相違点に係る特定事項について容易に想到し得るものともいえない。

ク したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-09-30 
出願番号 特願2015-192334(P2015-192334)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 葉子  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 本多 仁
中澤 登
登録日 2019-10-25 
登録番号 特許第6604120号(P6604120)
権利者 日本製鉄株式会社
発明の名称 無方向性電磁鋼板、及びその製造方法  
代理人 伊東 秀明  
代理人 岸本 達人  
代理人 山下 昭彦  
代理人 蜂谷 浩久  
代理人 山本 典輝  

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