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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
管理番号 1366980
異議申立番号 異議2020-700397  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-10 
確定日 2020-10-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6618692号発明「光学ガラスおよび光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6618692号の請求項1?11に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6618692号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成27年3月17日に特許出願され、令和1年11月22日にその特許権の設定登録がされ、令和1年12月11日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1?11に係る特許に対して、令和2年6月10日に特許異議申立人宮園祐爾(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

2 本件特許発明
本件特許の請求項1?11の特許に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明11」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
カチオン%表示にて、
B^(3+)、Si^(4+)、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量[B^(3+)+Si^(4+)+La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+)]が65%以上であり、
B^(3+)、Si^(4+)およびAl^(3+)の合計含有量に対するLa^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)、およびYb^(3+)の合計含有量のカチオン比α[(La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+))/(B^(3+)+Si^(4+)+Al^(3+))]が0.30?0.70であり、
La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量に対するLa^(3+)の含有量のカチオン比β[La^(3+)/(La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+))]が1未満(0を含まず)であり、
Nb^(5+)、Ti^(4+)、W^(6+)、Ta^(5+)およびBi^(3+)の合計含有量[Nb^(5+)+Ti^(4+)+W^(6+)+Ta^(5+)+Bi^(3+)]が7%未満であり、
Nb^(5+)およびTa^(5+)の合計含有量に対するNb^(5+)の含有量のカチオン比γ[Nb^(5+)/(Nb^(5+)+Ta^(5+))]が0.5以上である、酸化物ガラスであり、
Li^(+)の含有量の6倍とZn^(2+)の含有量の2倍の合計からSi^(4+)の含有量を引いた値L[(6×Li^(+))+(2×Zn^(2+))-Si^(4+)]が24以上であり、
Yb^(3+)の含有量が0.5%以下であり、
Ti^(4+)、W^(6+)およびBi^(3+)の合計含有量[Ti^(4+)+W^(6+)+Bi^(3+)]が1.5%以下であり、
Na^(+)の含有量が2.0%以下であり、
アッベ数νdが43.5?47であり、
前記アッベ数νdに対し、屈折率ndが下記(1)式を満たす、光学ガラス。
nd≧2.25-0.01×νd ・・・ (1)
【請求項2】
カチオン%表示にて、
B^(3+)、Si^(4+)、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量[B^(3+)+Si^(4+)+La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+)]が65%以上であり、
B^(3+)、Si^(4+)およびAl^(3+)の合計含有量に対するLa^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)、およびYb^(3+)の合計含有量のカチオン比α[(La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+))/(B^(3+)+Si^(4+)+Al^(3+))]が0.30?0.70であり、
La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量に対するLa^(3+)の含有量のカチオン比β[La^(3+)/(La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+))]が1未満(0を含まず)であり、
Nb^(5+)、Ti^(4+)、W^(6+)、Ta^(5+)およびBi^(3+)の合計含有量[Nb^(5+)+Ti^(4+)+W^(6+)+Ta^(5+)+Bi^(3+)]が7%未満であり、
Nb^(5+)およびTa^(5+)の合計含有量に対するNb^(5+)の含有量のカチオン比γ[Nb^(5+)/(Nb^(5+)+Ta^(5+))]が0.5以上である、酸化物ガラスであり、
Li^(+)の含有量の6倍とZn^(2+)の含有量の2倍の合計からSi^(4+)の含有量を引いた値L[(6×Li^(+))+(2×Zn^(2+))-Si^(4+)]が24以上であり、
Yb^(3+)の含有量が0.5%以下であり、
Ti^(4+)、W^(6+)およびBi^(3+)の合計含有量[Ti^(4+)+W^(6+)+Bi^(3+)]が1.5%以下であり、
Zr^(4+)の含有量が1.1?10%であり、
アッベ数νdが43.5?47であり、
前記アッベ数νdに対し、屈折率ndが下記(1)式を満たす、光学ガラス。
nd≧2.25-0.01×νd ・・・ (1)
【請求項3】
La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量REに対するGd^(3+)およびY^(3+)の合計含有量のカチオン比[(Gd^(3+)+Y^(3+))/RE]が0超である、請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
Li^(+)を含有する、請求項1?3のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項5】
必須成分として、B_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)およびNb_(2)O_(5)を含み、
値NWF’に対する値RE’の比[RE’/NWF’]が0.30?0.70であり、
値RE’に対する値HR’の比[HR’/RE’]が0.30以下であり、
La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するLa_(2)O_(3)の含有量の質量比βw[La_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))]が1未満(0を含まず)であり、
Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量に対するNb_(2)O_(5)の含有量の質量比γw[Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))]が2/3以上であり、
値L’が-0.10以上であり、
Yb_(2)O_(3)の含有量が1.0質量%以下であり、
TiO_(2)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の合計含有量[TiO_(2)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)]が5.0質量%以下であり、
Na_(2)Oの含有量が0.5質量%以下であり、
アッベ数νdが43.5?47であり、
前記アッベ数νdに対し、屈折率ndが下記(1)式を満たす、光学ガラス。
nd≧2.25-0.01×νd ・・・ (1)
ただし、
B_(2)O_(3)、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Yb_(2)O_(3)、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、WO_(3)、Bi_(2)O_(3)、Li_(2)O、Na_(2)O、K_(2)OおよびZnOの各分子量を、それぞれM(B_(2)O_(3))、M(SiO_(2))、M(Al_(2)O_(3))、M(La_(2)O_(3))、M(Gd_(2)O_(3))、M(Y_(2)O_(3))、M(Yb_(2)O_(3))、M(Nb_(2)O_(5))、M(TiO_(2))、M(WO_(3))、M(Bi_(2)O_(3))、M(Li_(2)O)、M(Na_(2)O)、M(K_(2)O)およびM(ZnO)と表し、
上記各成分の含有量を、質量%表示における上記各成分の含有比率の値で表した場合に、
前記値NWF’は、B_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(B_(2)O_(3))で割った値、SiO_(2)の含有量の数値をM(SiO_(2))で割った値およびAl_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Al_(2)O_(3))で割った値の合計値であり、
前記値RE’は、La_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(La_(2)O_(3))で割った値、Gd_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Gd_(2)O_(3))で割った値、Y_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Y_(2)O_(3))で割った値およびYb_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Yb_(2)O_(3))で割った値の合計値であり、
前記値HR’は、Nb_(2)O_(5)の含有量の数値の2倍をM(Nb_(2)O_(5))で割った値、TiO_(2)の含有量の数値をM(TiO_(2))で割った値、WO_(3)の含有量の数値をM(WO_(3))で割った値およびBi_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Bi_(2)O_(3))で割った値の合計値であり、
前記値L’は、Li_(2)Oの含有量の数値の12倍をM(Li_(2)O)で割った値、Na_(2)Oの含有量の数値の4倍をM(Na_(2)O)で割った値、K_(2)Oの含有量の数値の2倍をM(K_(2)O)で割った値およびZnOの含有量の数値の2倍をM(ZnO)で割った値の合計値から、SiO_(2)の含有量の数値の2倍をM(SiO_(2))で割った値、Al_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Al_(2)O_(3))で割った値およびB_(2)O_(3)の含有量の数値をM(B_(2)O_(3))で割った値の合計値を差し引いた値である。
【請求項6】
必須成分として、B_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)およびNb_(2)O_(5)を含み、
値NWF’に対する値RE’の比[RE’/NWF’]が0.30?0.70であり、
値RE’に対する値HR’の比[HR’/RE’]が0.30以下であり、
La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するLa_(2)O_(3)の含有量の質量比βw[La_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))]が1未満(0を含まず)であり、
Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量に対するNb_(2)O_(5)の含有量の質量比γw[Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))]が2/3以上であり、
値L’が-0.10以上であり、
Yb_(2)O_(3)の含有量が1.0質量%以下であり、
TiO_(2)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の合計含有量[TiO_(2)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)]が5.0質量%以下であり、
ZrO_(2)の含有量が1.7?15質量%であり、
アッベ数νdが43.5?47であり、
前記アッベ数νdに対し、屈折率ndが下記(1)式を満たす、光学ガラス。
nd≧2.25-0.01×νd ・・・ (1)
ただし、
B_(2)O_(3)、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Yb_(2)O_(3)、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、WO_(3)、Bi_(2)O_(3)、Li_(2)O、Na_(2)O、K_(2)OおよびZnOの各分子量を、それぞれM(B_(2)O_(3))、M(SiO_(2))、M(Al_(2)O_(3))、M(La_(2)O_(3))、M(Gd_(2)O_(3))、M(Y_(2)O_(3))、M(Yb_(2)O_(3))、M(Nb_(2)O_(5))、M(TiO_(2))、M(WO_(3))、M(Bi_(2)O_(3))、M(Li_(2)O)、M(Na_(2)O)、M(K_(2)O)およびM(ZnO)と表し、
上記各成分の含有量を、質量%表示における上記各成分の含有比率の値で表した場合に、
前記値NWF’は、B_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(B_(2)O_(3))で割った値、SiO_(2)の含有量の数値をM(SiO_(2))で割った値およびAl_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Al_(2)O_(3))で割った値の合計値であり、
前記値RE’は、La_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(La_(2)O_(3))で割った値、Gd_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Gd_(2)O_(3))で割った値、Y_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Y_(2)O_(3))で割った値およびYb_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Yb_(2)O_(3))で割った値の合計値であり、
前記値HR’は、Nb_(2)O_(5)の含有量の数値の2倍をM(Nb_(2)O_(5))で割った値、TiO_(2)の含有量の数値をM(TiO_(2))で割った値、WO_(3)の含有量の数値をM(WO_(3))で割った値およびBi_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Bi_(2)O_(3))で割った値の合計値であり、
前記値L’は、Li_(2)Oの含有量の数値の12倍をM(Li_(2)O)で割った値、Na_(2)Oの含有量の数値の4倍をM(Na_(2)O)で割った値、K_(2)Oの含有量の数値の2倍をM(K_(2)O)で割った値およびZnOの含有量の数値の2倍をM(ZnO)で割った値の合計値から、SiO_(2)の含有量の数値の2倍をM(SiO_(2))で割った値、Al_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Al_(2)O_(3))で割った値およびB_(2)O_(3)の含有量の数値をM(B_(2)O_(3))で割った値の合計値を差し引いた値である。
【請求項7】
La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量REwに対するGd_(2)O_(3)およびY_(2)O_(3)の合計含有量の質量比[(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))/REw]が0.05以上である、請求項5または6に記載の光学ガラス。
【請求項8】
Li_(2)Oを含有する、請求項5?7のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項9】
Sb_(2)O_(3)の含有量が、1質量%未満である、請求項1?8のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項10】
請求項1?9のいずれかに記載の光学ガラスからなる、光学素子。
【請求項11】
請求項1?9のいずれかに記載の光学ガラスからなる、精密プレス成形用プリフォーム。」

3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、甲第1号証(特開2015-44724号公報)、及び、甲第2号証(光学、公益社団法人応用物理学会、2013年7月10日、第42巻、第7号、第348?349頁)を提出し、概略、以下の申立理由を主張している。

(1)申立理由1
本件特許発明1?3、5?7、9?11は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)申立理由2
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記ア及びイの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

ア 課題解決手段が不足している点について
本件特許発明1?8で特定されたガラス組成の数値範囲は、発明の詳細な説明の実施例に記載されたガラス組成の数値範囲と比べて極めて広範であるし、熱的安定性、熔融性及び低温軟化性に関する物性要件も特定されていないため、本件特許発明1?8に特定されたガラス組成の数値範囲において、本件特許に係る発明の課題(以下、「本件課題」という。)を解決できる光学ガラスが得られることを当業者が認識できない。
したがって、当業者が実施例に記載された限定的な組成の範囲から、本件特許発明1?8において特定する数値範囲にまで拡張又は一般化して認識することができないから、本件特許発明1?11は、発明の詳細な説明に記載された発明といえない。

イ 物性要件が明細書中の開示より広すぎる点に関して
本件特許発明1、2、5及び6で特定されたアッベ数νdの数値範囲は、発明の詳細な説明の実施例に記載されたアッベ数νdの数値範囲に比べて極めて広範であるため、本件特許発明1、2、5及び6で特定されたアッベ数νdの数値範囲において、屈折率ndが「nd≧2.25-0.01×νd」の関係式を満たすような光学ガラスが得られることを当業者が認識できない。
したがって、当業者が実施例に記載された限定的な組成の範囲から、本件特許発明1、2、5及び6において特定する数値範囲にまで拡張又は一般化して認識することができないから、本件特許発明1?11は、発明の詳細な説明に記載された発明といえない。

4 甲1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明について
(1)甲第1号証の記載事項
ア 「【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム材及び光学素子に関する。」
イ 「【0072】
[物性]
本発明の光学ガラスは、高屈折率及び高アッベ数(低分散)を有することが好ましい。特に、本発明の光学ガラスの屈折率(n_(d))は、好ましくは1.70、より好ましくは1.71、さらに好ましくは1.73を下限とする。この屈折率(n_(d))は、好ましくは1.85、より好ましくは1.83、さらに好ましくは1.81、さらに好ましくは1.80を上限としてもよい。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν_(d))は、好ましくは42、より好ましくは43、さらに好ましくは45を下限とする。このアッベ数(ν_(d))は、好ましくは60、より好ましくは58、さらに好ましくは55を上限とする。
このような高屈折率を有することで、光学素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。また、このような低分散を有することで、単レンズであっても光の波長による焦点のずれ(色収差)が小さくなる。加えて、このような低分散を有することで、例えば高分散(低いアッベ数)を有する光学素子と組み合わせた場合に、高い結像特性等を図ることができる。
従って、本発明の光学ガラスは、光学設計上有用であり、特に高い結像特性等を図りながらも、光学系の小型化を図ることができ、光学設計の自由度を広げることができる。」
ウ 「【実施例】
【0079】
本発明の実施例(No.1?No.74)、比較例(No.A)及び参考例(No.a)の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n_(d))、アッベ数(ν_(d))、ガラス転移点(Tg)、液相温度、分光透過率が5%、80%を示す波長(λ_(5)、λ_(80))並びに比重の結果を表1?表11に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
・・・
【0090】
【表5】



(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の上記記載事項を実施例33の光学ガラスに注目して整理すると、甲第1号証には、
「43.239モル%のB_(2)O_(3)、14.053モル%La_(2)O_(3)、4.746モル%のY_(2)O_(3)、4.465モル%のSiO_(2)、4.246モル%のZrO_(2)、27.594モル%のZnO、1.658モル%のNb_(2)O_(5)からなる組成を有し、屈折率ndが1.79370、アッベ数νdが45.54である光学ガラス。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

5 申立理由1に対する判断
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明との対比
甲1発明の組成をカチオン%に換算すると、B^(3+)含有量は52.83カチオン%、La^(3+)含有量は17.17カチオン%、Y^(3+)含有量は5.80カチオン%、Si^(4+)含有量は2.73カチオン%、Zr^(4+)含有量は2.59カチオン%、Zn^(2+)含有量は16.86カチオン%、Nb^(5+)含有量は2.03カチオン%となる。
そして、これら数値を用いて、本件特許発明1の特定事項に従い、B^(3+)、Si^(4+)、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)及びYb^(3+)の合計含有量を算出すると78.53カチオン%となり、カチオン比αを算出すると0.41となり、カチオン比βを算出すると0.75となり、Nb^(5+)、Ti^(4+)、W^(6+)、Ta^(5+)及びBi^(3+)の合計含有量を算出すると2.03カチオン%となり、カチオン比γを算出すると1.00となり、値Lを算出すると31.0となり、Ti^(4+)、W^(6+)およびBi^(3+)の合計含有量を算出すると0.00カチオン%となるから、甲1発明の組成は、本件特許発明1で特定された組成を満足する。
また、甲1発明の屈折率ndは1.79370、アッベ数νdは45.54であり、本件特許発明1の「nd≧2.25-0.01×νd」の右辺の値を算出すると1.7946となることから、甲1発明のアッベ数νdは、本件特許発明1のアッベ数νdを満足するものの、甲1発明の屈折率ndは、本件特許発明1の「nd≧2.25-0.01×νd」を満足しない。
したがって、本件特許発明1と甲1発明を対比すると、両者は、
「カチオン%表示にて、
B^(3+)、Si^(4+)、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量[B^(3+)+Si^(4+)+La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+)]が65%以上であり、
B^(3+)、Si^(4+)およびAl^(3+)の合計含有量に対するLa^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)、およびYb^(3+)の合計含有量のカチオン比α[(La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+))/(B^(3+)+Si^(4+)+Al^(3+))]が0.30?0.70であり、
La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量に対するLa^(3+)の含有量のカチオン比β[La^(3+)/(La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+))]が1未満(0を含まず)であり、
Nb^(5+)、Ti^(4+)、W^(6+)、Ta^(5+)およびBi^(3+)の合計含有量[Nb^(5+)+Ti^(4+)+W^(6+)+Ta^(5+)+Bi^(3+)]が7%未満であり、
Nb^(5+)およびTa^(5+)の合計含有量に対するNb^(5+)の含有量のカチオン比γ[Nb^(5+)/(Nb^(5+)+Ta^(5+))]が0.5以上である、酸化物ガラスであり、
Li^(+)の含有量の6倍とZn^(2+)の含有量の2倍の合計からSi^(4+)の含有量を引いた値L[(6×Li^(+))+(2×Zn^(2+))-Si^(4+)]が24以上であり、
Yb^(3+)の含有量が0.5%以下であり、
Ti^(4+)、W^(6+)およびBi^(3+)の合計含有量[Ti^(4+)+W^(6+)+Bi^(3+)]が1.5%以下であり、
Na^(+)の含有量が2.0%以下であり、
アッベ数νdが43.5?47である、光学ガラス。」の点で一致し、
本件特許発明1の屈折率ndは、「nd≧2.25-0.01×νd」との関係式を満たすのに対して、甲1発明の屈折率ndは、「1.79370」であり、当該関係式を満たさない点(以下、「相違点1」という。)で相違している。

イ 相違点1の検討
甲第1号証には、上記4(1)イに摘示したとおり、屈折率ndの好ましい数値範囲が1.70?1.85、最も好ましい範囲が1.73?1.80であること、及び、アッベ数νdの好ましい数値範囲が42?60、最も好ましい範囲が45?55であることが記載されているものの、屈折率ndを「nd≧2.25-0.01×νd」との関係式を満たすように調整することは記載も示唆もされてないから、甲1発明の屈折率ndを「nd≧2.25-0.01×νd」との関係式を満たすように変更する動機付けが存在しない。
また、甲第2号証の記載をみても、「nd≧2.25-0.01×νd」との関係式を満たすように、屈折率ndとアッベ数νdを調整することが技術常識であるともいえない。
したがって、甲1発明において、1.79370である屈折率ndを、「nd≧2.25-0.01×νd」との関係式を満たすように変更することは、当業者が容易に想到し得ることといえない。
よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。

(2)本件特許発明2について
甲1発明の組成をカチオン%に換算して、B^(3+)、Si^(4+)、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)及びYb^(3+)の合計含有量、カチオン比α、カチオン比β、Nb^(5+)、Ti^(4+)、W^(6+)、Ta^(5+)及びBi^(3+)の合計含有量、カチオン比γ、値L、並びに、Ti^(4+)、W^(6+)およびBi^(3+)の合計含有量を算出すると、上記(1)アで検討したとおりであるから、甲1発明の組成は、本件特許発明2で特定された組成を満足する。
また、甲1発明の屈折率ndとアッベ数について検討すると、上記(1)アでの検討と同様に、甲1発明のアッベ数νdは、本件特許発明2のアッベ数νdを満足するものの、甲1発明の屈折率ndは、本件特許発明2の「nd≧2.25-0.01×νd」を満足しない。
したがって、本件特許発明2と甲1発明を対比すると、両者は、
「カチオン%表示にて、
B^(3+)、Si^(4+)、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量[B^(3+)+Si^(4+)+La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+)]が65%以上であり、
B^(3+)、Si^(4+)およびAl^(3+)の合計含有量に対するLa^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)、およびYb^(3+)の合計含有量のカチオン比α[(La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+))/(B^(3+)+Si^(4+)+Al^(3+))]が0.30?0.70であり、
La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量に対するLa^(3+)の含有量のカチオン比β[La^(3+)/(La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+))]が1未満(0を含まず)であり、
Nb^(5+)、Ti^(4+)、W^(6+)、Ta^(5+)およびBi^(3+)の合計含有量[Nb^(5+)+Ti^(4+)+W^(6+)+Ta^(5+)+Bi^(3+)]が7%未満であり、
Nb^(5+)およびTa^(5+)の合計含有量に対するNb^(5+)の含有量のカチオン比γ[Nb^(5+)/(Nb^(5+)+Ta^(5+))]が0.5以上である、酸化物ガラスであり、
Li^(+)の含有量の6倍とZn^(2+)の含有量の2倍の合計からSi^(4+)の含有量を引いた値L[(6×Li^(+))+(2×Zn^(2+))-Si^(4+)]が24以上であり、
Yb^(3+)の含有量が0.5%以下であり、
Ti^(4+)、W^(6+)およびBi^(3+)の合計含有量[Ti^(4+)+W^(6+)+Bi^(3+)]が1.5%以下であり、
Zr^(4+)の含有量が1.1?10%であり、
アッベ数νdが43.5?47である、光学ガラス。」の点で一致し、
本件特許発明2の屈折率ndは、「nd≧2.25-0.01×νd」との関係式を満たすのに対して、甲1発明の屈折率は、「1.79370」であり、当該関係式を満たさない点(以下、「相違点2」という。)で相違している。
そして、相違点2について検討すると、当該相違点2は、上記(1)イにおいて検討した相違点1と同じ事項であるから、当該相違点1と同様、相違点2に係る本件特許発明2の特定事項についても、当業者が容易に想到し得ることといえない。
よって、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。

(3)本件特許発明5について
甲1発明の組成を質量%に換算すると、B_(2)O_(3)含有量は24.80質量%、La_(2)O_(3)含有量は37.72質量%、Y_(2)O_(3)含有量は8.83質量%、SiO_(2)含有量は2.21質量%、ZrO_(2)含有量は4.31質量%、ZnO含有量は18.50質量%、Nb_(2)O_(5)含有量は3.63質量%となる。
そして、これら数値を用いて、本件特許発明5の特定事項に従い、値NWF’に対する値RE’の比を算出すると0.41となり、値RE’に対する値HR’の比を算出すると0.09となり、質量比βwを算出すると0.81となり、質量比γwを算出すると1.0となり、値L’を算出すると0.02となり、TiO_(2)、WO_(3)及びBi_(2)O_(3)の合計含有量を算出すると0.0質量%となるから、甲1発明の組成は、本件特許発明5で特定された組成を満足する。
また、甲1発明の屈折率ndとアッベ数について検討すると、上記(1)アでの検討と同様に、甲1発明のアッベ数νdは、本件特許発明5のアッベ数νdを満足するものの、甲1発明の屈折率ndは、本件特許発明5の「nd≧2.25-0.01×νd」を満足しない。
したがって、本件特許発明5と甲1発明を対比すると、両者は、
「必須成分として、B_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)およびNb_(2)O_(5)を含み、
値NWF’に対する値RE’の比[RE’/NWF’]が0.30?0.70であり、
値RE’に対する値HR’の比[HR’/RE’]が0.30以下であり、
La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するLa_(2)O_(3)の含有量の質量比βw[La_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))]が1未満(0を含まず)であり、
Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量に対するNb_(2)O_(5)の含有量の質量比γw[Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))]が2/3以上であり、
値L’が-0.10以上であり、
Yb_(2)O_(3)の含有量が1.0質量%以下であり、
TiO_(2)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の合計含有量[TiO_(2)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)]が5.0質量%以下であり、
Na_(2)Oの含有量が0.5質量%以下であり、
アッベ数νdが43.5?47である、光学ガラス。
ただし、
B_(2)O_(3)、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Yb_(2)O_(3)、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、WO_(3)、Bi_(2)O_(3)、Li_(2)O、Na_(2)O、K_(2)OおよびZnOの各分子量を、それぞれM(B_(2)O_(3))、M(SiO_(2))、M(Al_(2)O_(3))、M(La_(2)O_(3))、M(Gd_(2)O_(3))、M(Y_(2)O_(3))、M(Yb_(2)O_(3))、M(Nb_(2)O_(5))、M(TiO_(2))、M(WO_(3))、M(Bi_(2)O_(3))、M(Li_(2)O)、M(Na_(2)O)、M(K_(2)O)およびM(ZnO)と表し、
上記各成分の含有量を、質量%表示における上記各成分の含有比率の値で表した場合に、
前記値NWF’は、B_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(B_(2)O_(3))で割った値、SiO_(2)の含有量の数値をM(SiO_(2))で割った値およびAl_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Al_(2)O_(3))で割った値の合計値であり、
前記値RE’は、La_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(La_(2)O_(3))で割った値、Gd_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Gd_(2)O_(3))で割った値、Y_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Y_(2)O_(3))で割った値およびYb_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Yb_(2)O_(3))で割った値の合計値であり、
前記値HR’は、Nb_(2)O_(5)の含有量の数値の2倍をM(Nb_(2)O_(5))で割った値、TiO_(2)の含有量の数値をM(TiO_(2))で割った値、WO_(3)の含有量の数値をM(WO_(3))で割った値およびBi_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Bi_(2)O_(3))で割った値の合計値であり、
前記値L’は、Li_(2)Oの含有量の数値の12倍をM(Li_(2)O)で割った値、Na_(2)Oの含有量の数値の4倍をM(Na_(2)O)で割った値、K_(2)Oの含有量の数値の2倍をM(K_(2)O)で割った値およびZnOの含有量の数値の2倍をM(ZnO)で割った値の合計値から、SiO_(2)の含有量の数値の2倍をM(SiO_(2))で割った値、Al_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Al_(2)O_(3))で割った値およびB_(2)O_(3)の含有量の数値をM(B_(2)O_(3))で割った値の合計値を差し引いた値である。」の点で一致し、
本件特許発明5の屈折率ndは、「nd≧2.25-0.01×νd」との関係式を満たすのに対して、甲1発明の屈折率は、「1.79370」であり、当該関係式を満たさない点(以下、「相違点3」という。)で相違している。
そして、相違点3について検討すると、当該相違点3は、上記(1)イにおいて検討した相違点1と同じ事項であるから、当該相違点1と同様、相違点3に係る本件特許発明5の特定事項についても、当業者が容易に想到し得ることといえない。
よって、本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。

(4)本件特許発明6について
甲1発明の組成を質量%に換算して、本件特許発明6の特定事項に従い、値NWF’に対する値RE’の比、値RE’に対する値HR’の比、質量比βw、質量比γw、値L’、並びに、TiO_(2)、WO_(3)及びBi_(2)O_(3)の合計含有量を算出すると、上記(3)で検討したとおりであるから、甲1発明の組成は、本件特許発明6で特定された組成を満足する。
また、甲1発明の屈折率ndとアッベ数について検討すると、上記(1)アでの検討と同様に、甲1発明のアッベ数νdは、本件特許発明6のアッベ数νdを満足するものの、甲1発明の屈折率ndは、本件特許発明6の「nd≧2.25-0.01×νd」を満足しない。
したがって、本件特許発明6と甲1発明を対比すると、両者は、
「必須成分として、B_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)およびNb_(2)O_(5)を含み、
値NWF’に対する値RE’の比[RE’/NWF’]が0.30?0.70であり、
値RE’に対する値HR’の比[HR’/RE’]が0.30以下であり、
La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するLa_(2)O_(3)の含有量の質量比βw[La_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))]が1未満(0を含まず)であり、
Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量に対するNb_(2)O_(5)の含有量の質量比γw[Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))]が2/3以上であり、
値L’が-0.10以上であり、
Yb_(2)O_(3)の含有量が1.0質量%以下であり、
TiO_(2)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の合計含有量[TiO_(2)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)]が5.0質量%以下であり、
ZrO_(2)の含有量が1.7?15質量%であり、
アッベ数νdが43.5?47である、光学ガラス。
ただし、
B_(2)O_(3)、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Yb_(2)O_(3)、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、WO_(3)、Bi_(2)O_(3)、Li_(2)O、Na_(2)O、K_(2)OおよびZnOの各分子量を、それぞれM(B_(2)O_(3))、M(SiO_(2))、M(Al_(2)O_(3))、M(La_(2)O_(3))、M(Gd_(2)O_(3))、M(Y_(2)O_(3))、M(Yb_(2)O_(3))、M(Nb_(2)O_(5))、M(TiO_(2))、M(WO_(3))、M(Bi_(2)O_(3))、M(Li_(2)O)、M(Na_(2)O)、M(K_(2)O)およびM(ZnO)と表し、
上記各成分の含有量を、質量%表示における上記各成分の含有比率の値で表した場合に、
前記値NWF’は、B_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(B_(2)O_(3))で割った値、SiO_(2)の含有量の数値をM(SiO_(2))で割った値およびAl_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Al_(2)O_(3))で割った値の合計値であり、
前記値RE’は、La_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(La_(2)O_(3))で割った値、Gd_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Gd_(2)O_(3))で割った値、Y_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Y_(2)O_(3))で割った値およびYb_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Yb_(2)O_(3))で割った値の合計値であり、
前記値HR’は、Nb_(2)O_(5)の含有量の数値の2倍をM(Nb_(2)O_(5))で割った値、TiO_(2)の含有量の数値をM(TiO_(2))で割った値、WO_(3)の含有量の数値をM(WO_(3))で割った値およびBi_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Bi_(2)O_(3))で割った値の合計値であり、
前記値L’は、Li_(2)Oの含有量の数値の12倍をM(Li_(2)O)で割った値、Na_(2)Oの含有量の数値の4倍をM(Na_(2)O)で割った値、K_(2)Oの含有量の数値の2倍をM(K_(2)O)で割った値およびZnOの含有量の数値の2倍をM(ZnO)で割った値の合計値から、SiO_(2)の含有量の数値の2倍をM(SiO_(2))で割った値、Al_(2)O_(3)の含有量の数値の2倍をM(Al_(2)O_(3))で割った値およびB_(2)O_(3)の含有量の数値をM(B_(2)O_(3))で割った値の合計値を差し引いた値である。」の点で一致し、
本件特許発明6の屈折率ndは、「nd≧2.25-0.01×νd」との関係式を満たすのに対して、甲1発明の屈折率は、「1.79370」であり、当該関係式を満たさない点(以下、「相違点4」という。)で相違している。
そして、相違点4について検討すると、当該相違点4は、上記(1)イにおいて検討した相違点1と同じ事項であるから、当該相違点1と同様、相違点4に係る本件特許発明6の特定事項についても、当業者が容易に想到し得ることといえない。
よって、本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。

(5)本件特許発明3、7、9?11について
本件特許発明3、9?11は、本件特許発明1又は本件特許発明2を引用するものであって、本件特許発明1又は本件特許発明2の特定事項をさらに減縮したものであるから、上記(1)又は(2)に示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件特許発明7、9?11は、本件特許発明5又は本件特許発明6を引用するものであって、本件特許発明5又は本件特許発明6の特定事項をさらに減縮したものであるから、上記(3)又は(4)に示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)小括
以上で検討したとおりであるから、申立理由1に理由はない。

6 申立理由2に対する判断
(1)課題解決手段が不足している点について
ア 本件発明1?4、9?11について
(ア)発明の詳細な説明の段落【0002】?【0007】の記載からみて、本件課題は、生産コストを低減でき、熔融性及び熱的安定性に優れ、また、低温軟化性を有する高屈折率低分散光学ガラスを提供することにより解決されるものといえる。

(イ)そして、発明の詳細な説明の実施例(No.1?24)には、B^(3+)、Si^(4+)、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)及びYb^(3+)の合計含有量が77.2?81.7カチオン%、カチオン比αが0.39?0.44、カチオン比βが0.44?0.82、Nb^(5+)、Ti^(4+)、W^(6+)、Ta^(5+)及びBi^(3+)の合計含有量が2.0?3.5カチオン%、カチオン比γが1.00、値Lが24.6?41.0、Yb^(3+)の含有量が0.0カチオン%、Ti^(4+)、W^(6+)及びBi^(3+)の合計含有量が0.0?1.2カチオン%、Na^(+)の含有量が0.0カチオン%、Zr^(4+)の含有量1.1?4.7カチオン%である数値範囲内のガラス組成のガラスが記載されていると共に、当該ガラスのアッベ数νdが44.80?45.69、屈折率ndが1.79759?1.80458となり、「nd≧2.25-0.01×νd」の関係式を満たすこと、ガラス転移温度Tgが597.9?616.8℃、液相温度LTが1000?1140℃となること、発明の詳細な説明の段落【0293】に記載の評価方法で優れた熔融性を確認できたこと、及び、酸化タンタル(Ta^(5+)に対応)が低減できたことが具体的に記載されているから、上記実施例(No.1?24)に記載された数値範囲のガラス組成のガラスであれば、当業者が上記課題を解決できると認識できる。

(ウ)次に、本件特許発明1及び2のガラス組成の数値範囲の限定理由についてみてみると、発明の詳細な説明には、熱的安定性に関して、B^(3+)、Si^(4+)及びAl^(3+)は熱的安定性の維持に寄与する成分であり、熱的安定性を良好な状態にするために、合計含有量[B^(3+)+Si^(4+)+La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+)]を65カチオン%以上とし、カチオン比αを0.70以下とすること(段落【0025】、【0026】、【0028】)、La^(3+)は、Gd^(3+)、Y^(3+)及びYb^(3+)に比べて、熱的安定性を低下させにくい成分であり、また、Gd^(3+)、Y^(3+)及びYb^(3+)の含有量は、少なすぎても熱的安定性が低下するため、熱的安定性を良好な状態にするために、カチオン比βを1未満(0を含まず)とすること(段落【0029】、【0030】、【0088】)、Nb^(5+)、Ti^(4+)、W^(6+)、Ta^(5+)及びBi^(3+)は熱的安定性を改善する働きを有する成分であり、これらを適量含有できること(段落【0032】)、Yb^(3+)は熱的安定性を低下させる傾向があり、Yb^(3+)の含有量は5カチオン%以下が好ましいこと(段落【0072】、【0086】)、Na^(+)の含有量が多くなると、熱的安定性が低下するため、Na^(+)の含有量は0?5カチオン%が好ましいこと(段落【0120】、【0123】)、及び、Zr^(4+)は、熱的安定性を改善する働きを有する成分であるが、含有量が多くなりすぎると熱的安定性が低下するため、Zr^(4+)の含有量は0?10カチオン%が好ましいこと(段落【0130】、【0131】)が記載されていることからして、これら数値範囲を満たすガラス組成であれば、ガラスの熱的安定性が向上するものと当業者が理解できる。
また、発明の詳細な説明には、熔融性に関して、La^(3+)は、Gd^(3+)、Y^(3+)及びYb^(3+)に比べて、熔融性を低下させにくい成分であり、また、Gd^(3+)、Y^(3+)及びYb^(3+)の含有量は、少なすぎても熔融性が低下するため、熔融性を良好な状態にするために、カチオン比βを1未満(0を含まず)とすること(段落【0029】、【0030】、【0088】)、Nb^(5+)はTa^(5+)と比較して熔融性を改善する働きが大きい成分であり、良好な熔融性を得るために、カチオン比γが0.5未満とすること(段落【0037】)、値Lを24以上に高めることにより熔融性が改善すること(段落【0043】)、Na^(+)は熔融性を改善する働きを有する成分であるため、Na^(+)の含有量は0?5カチオン%が好ましいこと(段落【0120】、【0123】)、及び、Zr^(4+)の含有量を0?10カチオン%とすることで熔融性を良好に維持できること(段落【0130】、【0131】)が記載されていることからして、これら数値範囲を満たすガラス組成であれば、ガラスの熔融性が向上するものと当業者が理解できる。
さらに、発明の詳細な説明には、低温軟化性に関して、値Lとガラス転移温度Tgとに相関があり、値Lを24以上とすることで低温軟化性を有する光学ガラスが得られること(段落【0042】、【0043】)が記載され、また、原料コストに関して、Nb^(5+)は、Ta^(5+)よりも原料の入手が容易で、原料コストも少ないため、カチオン比γが0.5以上になると低コストになること(段落【0037】)が記載されている。
そして、ガラス成分の上記数値範囲は、ガラスの熱的安定性、熔融性、低温軟化性、及び、低コストが確認されている実施例(No.1?24)の記載から当業者が認識できる範囲のものといえる。

(エ)したがって、本件特許発明1は、「B^(3+)、Si^(4+)、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量[B^(3+)+Si^(4+)+La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+)]が65%以上」、「B^(3+)、Si^(4+)およびAl^(3+)の合計含有量に対するLa^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)、およびYb^(3+)の合計含有量のカチオン比α[(La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+))/(B^(3+)+Si^(4+)+Al^(3+))]が0.30?0.70」、「La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量に対するLa^(3+)の含有量のカチオン比β[La^(3+)/(La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+))]が1未満(0を含まず)」、「Nb^(5+)、Ti^(4+)、W^(6+)、Ta^(5+)およびBi^(3+)の合計含有量[Nb^(5+)+Ti^(4+)+W^(6+)+Ta^(5+)+Bi^(3+)]が7%未満」、「Nb^(5+)およびTa^(5+)の合計含有量に対するNb^(5+)の含有量のカチオン比γ[Nb^(5+)/(Nb^(5+)+Ta^(5+))]が0.5以上」、「Li^(+)の含有量の6倍とZn^(2+)の含有量の2倍の合計からSi^(4+)の含有量を引いた値L[(6×Li^(+))+(2×Zn^(2+))-Si^(4+)]が24以上」、「Yb^(3+)の含有量が0.5%以下」、及び、「Na^(+)の含有量が2.0%以下」であることが特定されることによって、熱的安定性、熔融性及び低温軟化性に関する物性要件の特定がなくとも、本件課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
また、本件特許発明2は、「B^(3+)、Si^(4+)、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量[B^(3+)+Si^(4+)+La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+)]が65%以上」、「B^(3+)、Si^(4+)およびAl^(3+)の合計含有量に対するLa^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)、およびYb^(3+)の合計含有量のカチオン比α[(La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+))/(B^(3+)+Si^(4+)+Al^(3+))]が0.30?0.70」、「La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量に対するLa^(3+)の含有量のカチオン比β[La^(3+)/(La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+))]が1未満(0を含まず)」、「Nb^(5+)、Ti^(4+)、W^(6+)、Ta^(5+)およびBi^(3+)の合計含有量[Nb^(5+)+Ti^(4+)+W^(6+)+Ta^(5+)+Bi^(3+)]が7%未満」、「Nb^(5+)およびTa^(5+)の合計含有量に対するNb^(5+)の含有量のカチオン比γ[Nb^(5+)/(Nb^(5+)+Ta^(5+))]が0.5以上」、「Li^(+)の含有量の6倍とZn^(2+)の含有量の2倍の合計からSi^(4+)の含有量を引いた値L[(6×Li^(+))+(2×Zn^(2+))-Si^(4+)]が24以上」、「Yb^(3+)の含有量が0.5%以下」、及び、「Zr^(4+)の含有量が1.1?10%」であることが特定されていることによって、熱的安定性、熔融性、低温軟化性に関する物性要件の特定がなくとも、本件課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
さらに、本件特許発明1又は2を引用する本件特許発明3、4、9?11についても、同様の理由により、熱的安定性、熔融性及び低温軟化性に関する物性要件の特定がなくとも、本件課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

イ 本件発明5?11について
(ア)上記ア(ア)に示した本件課題に対して、発明の詳細な説明の実施例(No.1?24)には、値NWF’に対する値RE’の比が0.39?0.43、値RE’に対する値HR’の比が0.09?0.14、質量比βwが0.41?0.87、質量比γwが1.00、値L’が-0.07?0.16、Yb_(2)O_(3)の含有量が0.0質量%、TiO_(2)、WO_(3)及びBi_(2)O_(3)の合計含有量が0.0?3.4質量%、Na_(2)Oの含有量が0.0質量%、ZrO_(2)の含有量が1.7?7.6質量%である数値範囲内のガラス組成のガラスが記載されていると共に、当該ガラスのアッベ数νdが44.80?45.69、屈折率ndが1.79759?1.80458となり、「nd≧2.25-0.01×νd」の関係式を満たすこと、ガラス転移温度Tgが597.9?616.8℃、液相温度LTが1000?1140℃となること、発明の詳細な説明の段落【0293】に記載の評価方法で優れた熔融性を確認できたこと、及び、酸化タンタル(Ta_(2)O_(5)に対応)が低減できたことが具体的に記載されているから、上記実施例(No.1?24)に記載された数値範囲のガラス組成のガラスであれば、当業者が上記課題を解決できると認識できる。

(イ)次に、本件特許発明5及び6のガラス組成の数値範囲の限定理由についてみてみると、発明の詳細な説明には、熱的安定性に関して、比[RE’/NWF’]を0.70以下とすることで、熱的安定性を良好な状態に維持できること(段落【0179】)、質量比βwを1未満(0を含まず)とすることで熱的安定性を良好な状態に維持(段落【0214】)、質量比γwを2/3以上とすることで、良好な熱的安定性となること(段落【0219】)、Yb_(2)O_(3)(Yb^(3+))は熱的安定性を低下させる傾向があり、Yb_(2)O_(3)の含有量は3質量%以下が好ましいこと(段落【0072】、【0213】)、Na_(2)O(Na^(+))の含有量が多くなると、熱的安定性が低下するため、Na_(2)Oの含有量は0?3質量%が好ましいこと(段落【0123】、【0237】)、及び、ZrO_(2)(Zr^(4+))は、熱的安定性を改善する働きを有する成分であるが、含有量が多くなりすぎると熱的安定性が低下するため、ZrO_(2)の含有量は0?15質量%が好ましいこと(段落【0131】、【0245】)が記載されていることからして、これら数値範囲を満たすガラス組成であれば、ガラスの熱的安定性が向上するものと当業者が理解できる。
また、発明の詳細な説明には、熔融性に関して、比[HR’/RE’]が0.30以下とすることで、熔融性を高められること(段落【0186】)、質量比βwを1未満(0を含まず)とすることで、熔融性を良好な状態に維持できること(段落【0214】)、値L’を-0.10以上にすることで、熔融性を改善できること(段落【0196】、及び、Na_(2)O(Na^(+))は熔融性を改善する働きを有する成分であるため、Na_(2)Oの含有量は0?3質量%が好ましいこと(段落【0123】、【0237】)が記載されていることからして、これら数値範囲を満たすガラス組成であれば、ガラスの熔融性が向上するものと当業者が理解できる。
さらに、発明の詳細な説明には、低温軟化性に関して、値L’とガラス転移温度Tgとに相関があり、値L’を-0.10以上とすることでガラス転移温度Tgを低下できること(段落【0195】、【0196】)が記載され、また、原料コストに関して、Nb_(2)O_(5)(Nb^(5+))は、Ta_(2)O_(5)(Ta^(5+))よりも原料の入手が容易で、原料コストも少ないため、質量比γwが2/3以上になると低コストになること(段落【0037】、【0219】)が記載されている。
そして、ガラス成分の上記数値範囲は、ガラスの熱的安定性、熔融性、低温軟化性、及び、低コストが確認されている実施例(No.1?24)の記載から当業者が認識できる範囲のものといえる。

(ウ)したがって、本件特許発明5は、「値NWF’に対する値RE’の比[RE’/NWF’]が0.30?0.70」、「値RE’に対する値HR’の比[HR’/RE’]が0.30以下」、「La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するLa_(2)O_(3)の含有量の質量比βw[La_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))]が1未満(0を含まず)」、「Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量に対するNb_(2)O_(5)の含有量の質量比γw[Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))]が2/3以上」、「値L’が-0.10以上」、「Yb_(2)O_(3)の含有量が1.0質量%以下」、及び、「Na_(2)Oの含有量が0.5質量%以下」であることが特定されることによって、熱的安定性、熔融性及び低温軟化性に関する物性要件の特定がなくとも、本件課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
また、本件特許発明6は、「値NWF’に対する値RE’の比[RE’/NWF’]が0.30?0.70」、「値RE’に対する値HR’の比[HR’/RE’]が0.30以下」、「La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するLa_(2)O_(3)の含有量の質量比βw[La_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))]が1未満(0を含まず)」、「Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量に対するNb_(2)O_(5)の含有量の質量比γw[Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))]が2/3以上」、「値L’が-0.10以上」、「Yb_(2)O_(3)の含有量が1.0質量%以下」、及び、「ZrO_(2)の含有量が1.7?15質量%」であることが特定されることによって、熱的安定性、熔融性及び低温軟化性に関する物性要件の特定がなくとも、本件課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
さらに、本件特許発明5又は6を引用する本件特許発明7?11についても、同様の理由により、熱的安定性、熔融性及び低温軟化性に関する物性要件の特定がなくとも、本件課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。

(2)物性要件が明細書中の開示より広すぎる点に関して
ア 本件発明1?4、9?11について
本件特許発明1及び2では、「アッベ数νdが43.5?47であり」、「屈折率nd」が「nd≧2.25-0.01×νd」を満たすとの物性要件が特定されている。
そして、発明の詳細な説明には、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)はアッベ数νdの減少を抑えつつ屈折率を高める働きを有するため、所要の光学特性を実現するために、B^(3+)、Si^(4+)、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)及びYb^(3+)の合計含有量を65%以上、カチオン比αを0.30以上にすること(段落【0024】、【0025】、【0028】)、及び、Nb^(5+)、Ti^(4+)、W^(6+)、Ta^(5+)およびBi^(3+)は屈折率を高め、アッベ数を低下させる成分であり、所要の光学特性を実現するために、合計含有量[Nb^(5+)+Ti^(4+)+W^(6+)+Ta^(5+)+Bi^(3+)]を7%未満にすること(段落【0031】、【0032】)が記載されている。また、甲第2号証の図7(第348頁)に示されているように、La_(2)O_(3)の一部をB_(2)O_(3)に置換した場合にアッベ数が大きくなり屈折率が小さくなることや、La_(2)O_(3)の一部をNb_(2)O_(5)に置換した場合にアッベ数が小さくなり屈折率が大きくなることは、当該技術分野の技術常識である。
そうしてみると、発明の詳細な説明の実施例(No.1?24)のガラスのうち、例えば、屈折率ndが1.79860、アッベ数νdが45.69であるガラス(No.13)を基本として、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、本件特許発明1又は本件特許発明2に特定された「B^(3+)、Si^(4+)、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量[B^(3+)+Si^(4+)+La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+)]が65%以上」、「B^(3+)、Si^(4+)およびAl^(3+)の合計含有量に対するLa^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)、およびYb^(3+)の合計含有量のカチオン比α[(La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+))/(B^(3+)+Si^(4+)+Al^(3+))]が0.30?0.70」、「La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量に対するLa^(3+)の含有量のカチオン比β[La^(3+)/(La^(3+)+Gd^(3+)+Y^(3+)+Yb^(3+))]が1未満(0を含まず)」及び「Nb^(5+)、Ti^(4+)、W^(6+)、Ta^(5+)およびBi^(3+)の合計含有量[Nb^(5+)+Ti^(4+)+W^(6+)+Ta^(5+)+Bi^(3+)]が7%未満」との各数値範囲を満たしつつ、La^(3+)(10.4カチオン%)の一部をB^(3+)に置換し、さらに、Nb^(5+)(2.3カチオン%)の一部をB^(3+)に置換することで、アッベ数が47であり、屈折率が「nd≧2.25-0.01×νd」を満たすガラスが得られることは、当業者であれば認識できるものである。
同様に、例えば、屈折率ndが1.80281、アッベ数νdが44.80であるガラス(No.17)を基本として、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、本件特許発明1又は本件特許発明2の「B^(3+)、Si^(4+)、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)およびYb^(3+)の合計含有量」、「カチオン比α」、「カチオン比β」及び「Nb^(5+)、Ti^(4+)、W^(6+)、Ta^(5+)およびBi^(3+)の合計含有量」の各数値範囲を満たしつつ、B^(3+)(54.3カチオン%)の一部をLa^(3+)及びNb^(5+)に置換することで、アッベ数が43.5であり、屈折率が「nd≧2.25-0.01×νd」を満たすガラスが得られることは、当業者であれば認識できるものである。
したがって、本件特許発明1及び本件特許発明2の上記物性要件は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識から当業者が認識できる範囲のものといえる。
また、本件特許発明1又は2を引用する本件特許発明3、4、9?11についても同様である。

イ 本件発明5?11について
本件特許発明5及び6では、「アッベ数νdが43.5?47であり」、「屈折率nd」が「nd≧2.25-0.01×νd」を満たすとの物性要件が特定されている。
そして、発明の詳細な説明には、比[RE’/NWF’]は、0.30以上とすることにより、所要の屈折率、アッベ数を得ることができること(【0179】)、及び、比[HR’/RE’]を0.30以下とすることにより、低分散特性を維持しつつ屈折率を高めることができるため、所要の屈折率、アッベ数を有するガラスを得ることができること(段落【0186】)が記載されている。また、甲第2号証の図7(第348頁)に示されているように、La_(2)O_(3)の一部をB_(2)O_(3)に置換した場合にアッベ数が大きくなり屈折率が小さくなることや、La_(2)O_(3)の一部をNb_(2)O_(5)に置換した場合にアッベ数が小さくなり屈折率が大きくなることは、当該技術分野の技術常識である。
そうしてみると、発明の詳細な説明の実施例(No.1?24)のガラスのうち、例えば、屈折率ndが1.79860、アッベ数νdが45.69であるガラス(No.13)を基本として、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、本件特許発明5又は本件特許発明6に特定された「値NWF’に対する値RE’の比[RE’/NWF’]が0.30?0.70」、「値RE’に対する値HR’の比[HR’/RE’]が0.30以下」及び「La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するLa_(2)O_(3)の含有量の質量比βw[La_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))]が1未満(0を含まず)」との各数値範囲を満たしつつ、La_(2)O_(3)(21.5質量%)の一部をB_(2)O_(3)に置換し、さらに、Nb_(2)O_(5)(4.0質量%)の一部をB_(2)O_(3)に置換することで、アッベ数が47であり、屈折率が「nd≧2.25-0.01×νd」を満たすガラスが得られることは、当業者であれば認識できるものである。
同様に、例えば、屈折率ndが1.80281、アッベ数νdが44.80であるガラス(No.17)を基本として、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、本件特許発明5又は本件特許発明6に特定された「値NWF’に対する値RE’の比」、「値RE’に対する値HR’の比」及び「質量比βw」の各数値範囲を満たしつつ、B_(2)O_(3)(24.3質量%)の一部をLa_(2)O_(3)及びNb_(2)O_(5)に置換することで、アッベ数が43.5であり、屈折率が「nd≧2.25-0.01×νd」を満たすガラスが得られることは、当業者であれば認識できるものである。
したがって、本件特許発明5及び本件特許発明6の上記物性要件は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識から当業者が認識できる範囲のものといえる。
また、本件特許発明5又は6を引用する本件特許発明7?11についても同様である。

(3)小括
以上で検討したとおりであるから、申立理由2に理由はない。

7 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2020-09-25 
出願番号 特願2015-53781(P2015-53781)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C03C)
P 1 651・ 121- Y (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 瞳宮崎 大輔  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 宮澤 尚之
岡田 隆介
登録日 2019-11-22 
登録番号 特許第6618692号(P6618692)
権利者 HOYA株式会社
発明の名称 光学ガラスおよび光学素子  
代理人 前田・鈴木国際特許業務法人  

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