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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
管理番号 1366985
異議申立番号 異議2020-700156  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-05 
確定日 2020-10-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6572751号発明「AEI型ゼオライト及びその製造方法と用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6572751号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6572751号(以下、「本件」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成27年11月20日(優先権主張 平成26年11月21日 平成27年10月29日)になされ、令和 1年 8月23日に特許権の設定登録がなされ、令和 1年 9月11日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件の全請求項に係る特許に対し、特許異議申立人 岩部 英臣(以下、「申立人」という。)より、令和 2年 3月 5日付けで特許異議の申立てがなされたものであり、その後の経緯は次のとおりである。
令和 2年 6月 3日付け 審尋(特許権者)
同年 8月11日付け 回答書(特許権者)

第2 本件発明
本件特許の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明9」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ケイ素原子原料、アルミニウム原子原料、アルカリ金属原子原料、有機構造規定剤、Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライト及び水を含む混合物を調製する工程、前記工程で得られた混合物を水熱合成する工程、を含む、Si/Al比が50以下のAEI型ゼオライトを製造する方法であって、
前記アルミニウム原子原料はSi含有率が20重量%以下のアルミニウムを含有する化合物であり、
かつ前記混合物中にFramework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライトを、前記混合物中のSiが全てSiO_(2)になっているとした時のSiO_(2)に対して0.1重量%以上20重量%以下含み、
該Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライトが、International Zeolite Association(IZA)がcomposite building unitとして定めるd6rを骨格中に含む、AEI型及び/又はCHA型であることを特徴とするAEI型ゼオライトの製造方法。
【請求項2】
前記混合物中のアルカリ金属原子原料に含まれるアルカリ金属原子の50モル%以上がナトリウム原子であり、前記混合物中の有機構造規定剤に対するナトリウム原子のモル比が0.1以上、2.5以下である請求項1に記載のAEI型ゼオライトの製造方法。
【請求項3】
前記混合物中のアルカリ金属原子原料に含まれるアルカリ金属原子の50モル%未満がナトリウム原子であり、前記混合物中の有機構造規定剤に対するアルカリ金属原子の合計のモル比が1.0以上、10以下である請求項1に記載のAEI型ゼオライトの製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム原子原料が実質的にSiを含まないものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のAEI型ゼオライトの製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム原子原料が、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、ベーマイト、擬ベーマイト、及びアルミニウムアルコキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のAEI型ゼオライトの製造方法。
【請求項6】
前記ケイ素原子原料が、ゼオライト以外のケイ素を含む化合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のAEI型ゼオライトの製造方法。
【請求項7】
前記ケイ素原子原料、アルミニウム原子原料、アルカリ金属原子原料、有機構造規定剤、Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライト及び水を含む混合物を調製する工程は、ケイ素原子原料、アルミニウム原子原料、アルカリ金属原子原料、有機構造規定剤、及び水を含む混合物を調製する工程、及び得られた混合物にFramework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライトを添加して混合物を調製する工程を含む、請求項1乃至6のいずれかに記載のAEI型ゼオライトの製造方法。
【請求項8】
前記混合物中の有機構造規定剤がN,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウムハイドロオキサイドであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のAEI型ゼオライトの製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載のAEI型ゼオライトの製造方法で得られたAEI型ゼオライトにCuを担持させる触媒の製造方法。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第36条第6項第2号
(1)請求項1に係る発明における「ケイ素原子原料」及び「Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライト」の関係について(異議申立書3.(4)イ.(ア)(ア-3))
本件発明1には「ケイ素原子原料」としての具体的物質は特定されていない。また、本件明細書の【0059】において「本発明に用いられるケイ素原子原料としては、特に限定されず、公知の種々の物質を使用することができ」る旨記載されていることから、本件発明1における「ケイ素原子原料」にはゼオライトも含まれ、さらには「Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライト」も含まれることになる。この場合「ケイ素原子原料」と「Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライト」との関係が不明確になる。
したがって、本件発明1は、明確であるとはいえない。

(2)本件発明4における「実質的にSiを含まないもの」について(異議申立書3.(4)イ.(ウ))
本件発明4の「実質的にSiを含まないもの」との記載における「実質的に」は、「Siを含まない」をどのような意味で限定しているのか、本件明細書【0057】等に定義されておらず、その意味が不明である。
したがって、本件発明4は、明確であるとはいえない。

2 特許法第36条第4項第1号
(1)本件発明1における「Si/Al比」の範囲について(異議申立書3.(4)イ.(ア)(ア-1))
本件明細書の実施例1?38では、Si/Al比が、本件発明1で特定されるSi/Al比(50以下)の一部である4.3?6.1であるAEI型ゼオライトだけが製造されており、本件明細書の段落【0083】に「本発明の製造方法では、仕込み組成比を変えることにより、従来製造できなかった広い範囲のSi/Al比のAEI型ゼオライトを製造することができる。」と記載されているだけであるから、本件明細書の記載から、どのようにしてSi/Al比を50以下にできるかを理解することはできない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとはいえない。

3 特許法第36条第6項第1号
(1)本件発明1における各原料及び「有機構造規定剤」について(異議申立書3.(4)イ.(ア)(ア-2))
本件発明1は、原料として「ケイ素原子原料」、「Si含有率が20重量%以下のアルミニウムを含有する化合物」である「アルミニウム原子原料」及び「アルカリ金属原子原料」を用い、「有機構造規定剤」を用いるものであるところ、当該原料及び有機構造規定剤について、これ以上の特定はなされていない。
そうすると、本件発明1における「ケイ素原子原料」はY型ゼオライトを含み得るものであり、本件発明1におけるAEI型ゼオライトの製造方法は「フッ酸」を使用することを包含しうるものである。しかしながら、そのような発明は、「原料として高価なY型ゼオライトを使用することなく、また危険なフッ酸を使用することなく、安価で高性能なAEI型ゼオライトを製造」し、「Si/Al比を自由に変更できるAEI型ゼオライトの製造方法を提供する」(本件明細書の発明の詳細な説明の【0013】)という本件発明1の課題を解決するものとはいえない。
また、本件明細書の実施例1?38では、「ケイ素原子原料」、「Si含有率が20重量%以下のアルミニウムを含有する化合物」である「アルミニウム原子原料」、「アルカリ金属原子原料」及び「有機構造規定剤」について、特定の材料のみが用いられており、当該特定の材料以外まで、発明の詳細な説明の内容を拡張又は一般化することはできない。
特に、「Si含有率が20重量%以下のアルミニウムを含有する化合物」について、Si含有率が0重量%より高く20重量%以下のアルミニウムを含有する化合物まで、発明の詳細な説明の内容を拡張又は一般化することはできない。
したがって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(2)本件発明1における「Si/Al比」の範囲について(異議申立書3.(4)イ.(ア)(ア-2))
本件明細書の段落【0013】には、「本発明の他の目的は、Si/Al比を自由に変更できるAEI型ゼオライトの製造方法を提供することにあり、さらにまた、Si/Al比が6.5以下で結晶性の良いAEI型ゼオライトを提供することにある。」と記載され、【0009】には、背景技術として「また、いずれの方法を用いても、Si/Al比を7程度までしか下げることができず、…特により低いSi/Al比を有するAEI型ゼオライトと、その製造方法が求められていた。」(「…」は当審による省略を表す。以下同様。)と記載され、実施例1?38においては、Si/Al比が4.3?6.1であるAEI型ゼオライトだけが製造されている。そうすると、本件発明1の課題は、Si/Al比が6.5以下で結晶性の良いAEI型ゼオライトを提供することにもあるといえる。
一方、本件発明1はSi/Al比が50以下のAEI型ゼオライトを製造する方法であるため、上記課題を解決するものではない。
したがって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(3)本件発明3における「アルカリ金属原子の50モル%未満がナトリウム原子であり」という範囲、及び「有機構造規定剤に対するアルカリ金属原子の合計のモル比が1.0以上、10以下である」という範囲について(異議申立書3.(4)イ.(イ))
本件の発明の詳細な説明の実施例において、本件請求項3に係る発明に該当するものとしては、実施例19?29、31?34として、アルカリ金属原子原料に含まれるアルカリ金属原子の0モル%がナトリウム原子である例しか記載されておらず、有機構造規定剤に対するアルカリ金属原子の合計のモル比が1.67?3.00の例しか記載されていない。
そうすると、アルカリ金属原子原料に含まれるアルカリ金属原子のナトリウム原子が0モル%より高く50モル%までの範囲、及び、有機構造規定剤に対するアルカリ金属原子の合計のモル比が3.00から10の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張又は一般化することはできない。
したがって、本件発明3は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(4)本件発明9における「触媒」の用途について(異議申立書3.(4)イ.(エ))
本件明細書の発明の詳細な説明には、段落【0101】に「排ガス処理用触媒」が記載され、実施例として段落【0168】及び段落【0171】に、NO浄化率の評価が記載されているのみであることから、本件発明9に係る触媒は、様々な用途に適用される触媒ではなく排ガス処理で用いられる触媒である。一方で、本件発明9は触媒の用途を何ら特定しておらず、排ガス処理以外の用途まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張又は一般化することはできない。
したがって、本件発明9は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

4 特許法第29条第2項
(1) 各甲号証
甲第1号証:特表2010-514662号公報
甲第2号証:Manuel Moliner et al.、Cu-SSZ-39, an active and hydrothermally stable catalyst for the selective catalytic reduction of NOx、Chemical Communications、英国、2012年発行、Volume 48、p. 8264-8266
甲第3号証:米国特許第5958370号明細書
甲第4号証:米国特許第6709644号明細書
甲第5号証:特表2010-514661号公報

(2)具体的理由
本件発明1?8は、それぞれ、甲第1号証に記載の発明及び甲第3?5号証の記載から、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明9は、甲第1号証に記載の発明並びに甲第2?5号証の記載から、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 当審の判断
1 特許法第36条第6項第2号
(1)請求項1に係る発明における「ケイ素原子原料」及び「Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライト」の関係について(上記第3 1(1))
本件明細書の段落【0059】には、「本発明に用いられるケイ素原子原料としては、特に限定されず、公知の種々の物質を使用することができ、例えばFramework densityが14T/1000Å^(3)未満のゼオライトを使用してもかまわないが、好ましくはゼオライト以外のケイ素を含む化合物であり、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、トリメチルエトキシシラン、テトラエチルオルトシリケート、アルミノシリケートゲルなどを用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。」と記載されている。ここで、当該記載中「例えばFramework densityが14T/1000Å^(3)未満のゼオライトを使用してもかまわないが」との部分は、「好ましくはゼオライト以外のケイ素を含む化合物であり」との記載も考慮すると、ケイ素原子原料として「Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライト」以外のゼオライトは排除されないことをあえて示すためのものであると解される。そうすると、反対解釈として、「ケイ素原子原料」には「Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライト」は包含されないと解釈される。
したがって、本件発明1は、明確でないとはいえない。

(2)本件発明4における「実質的にSiを含まないもの」について(上記第3 1(2))
本件明細書の【0057】に、アルミニウム原子原料のSi含有率につき、「アルカリに対する溶解性が一般に高くなり、原料混合物が均一化し、結晶化が容易になる点から、Si含有率が20重量%以下…のアルミニウムを含有する化合物を使用する。この条件を満たしていれば、アルミニウム原子原料は特に限定されないが、好ましくは、実質的にSiを含まないものであり」と記載され、続いて「アモルファスの水酸化アルミニウム」等の具体例が列挙されていること、本件明細書の実施例において市販品である「アモルファスAl(OH)_(3)(Al_(2)O_(3) 53.5重量%、Aldrich社製)」が用いられていることを参酌すると、本件発明4における「実質的にSiを含まないもの」は、一般的に用いられる意味であって、前記列挙されたものか、あるいはそれに準じた、意図的にSiが添加されておらず不可避不純物としてのSiのみ含みうるものという意味であると解釈される。
したがって、本件発明4は、明確でないとはいえない。

2 特許法第36条第4項第1号
(1)本件発明1における「Si/Al比」の範囲について(上記第3 2(1))
本件明細書の実施例1?38には、Si/Al比が4.3?6.1であるAEI型ゼオライトを製造した例しか記載されていないが、Si/Al比の高いAEI型ゼオライトの製造は、比較的容易であり、従来技術でも製造することができるものであるため、Si/Al比が実施例より高く50以下であるAEI型ゼオライトについても、当業者であれば、本件明細書の記載に基づいて製造することができるといえる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものとはいえない。

3 特許法第36条第6項第1号
(1)本件発明1における各原料及び「有機構造規定剤」について(上記第3 3(1)))
本件明細書の発明の詳細な説明の実施例1?5、7?29、31?38では、添加ゼオライトとして、「Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライト」にあたるAEI型ゼオライト又はCHA型ゼオライトを用いてAEI型ゼオライトを作製し、原料としてY型ゼオライトを使用することなく、またフッ酸を使用することなく、Si/Al比が4.3?6.1であるAEI型ゼオライトを合成することができたことが示されている。一方、本件明細書の発明の詳細な説明の比較例1?3、5?6では、添加ゼオライトを用いず、又は添加ゼオライトとして、「Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライト」に該当しないY型ゼオライトを用いて同様にAEI型ゼオライトを合成することを試みたところ、AEI型ゼオライトの収率が0%であるか、実施例1?38に比べて低い値であったことが記載されている。また、本件明細書の発明の詳細な説明の比較例4には、比較例3で得られたAEI型ゼオライトにCuを担持させて得た触媒の、NO浄化率及び水熱処理後の高温領域でのNO浄化率が示され、これらの浄化率の値が、実施例1及び26で合成したAEI型ゼオライトにそれぞれCuを担持させて得た実施例6及び30に比べて低い値であったことが記載されている。
そうすると、AEI型ゼオライトを製造するに際し、原料混合物中に「International Zeolite Association(IZA)がcomposite building unitとして定めるd6rを骨格中に含む、AEI型及び/又はCHA型」である「Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライト」を用いることにより、そうでない場合と比べて、原料としてY型ゼオライトを使用しなくても、またフッ酸を使用しなくても、触媒として高性能で、Si/Al比が4.3?6.1程度のAEI型ゼオライトを合成することができるという傾向があることを読み取ることができる。
そうすると、本件発明1は、原料混合物中に「International Zeolite Association(IZA)がcomposite building unitとして定めるd6rを骨格中に含む、AEI型及び/又はCHA型」である「Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライト」を、「前記混合物中のSiが全てSiO_(2)になっているとした時のSiO_(2)に対して0.1重量%以上20重量%以下含」むことにより、「原料として高価なY型ゼオライトを使用することなく、また危険なフッ酸を使用することなく、安価で高性能なAEI型ゼオライトを製造」し、従来技術で製造が困難であった比較的低いSi/Al比を含めて「Si/Al比を自由に変更できるAEI型ゼオライトの製造方法を提供する」という本件発明1の課題を解決することができるものであると当業者は理解することができるといえる。
一方、本件発明1における「ケイ素原子原料」、「Si含有率が20重量%以下のアルミニウムを含有する化合物」である「アルミニウム原子原料」及び「アルカリ金属原子原料」、並びに「有機構造規定剤」は、ゼオライトの合成において一般的に用いられているものである。そうすると、本件発明1において、原料としての「ケイ素原子原料」、「Si含有率が20重量%以下のアルミニウムを含有する化合物」である「アルミニウム原子原料」及び「アルカリ金属原子原料」、並びに「有機構造規定剤」を、さらに特定の材料に限定しなければ課題を解決することができないと、当業者が理解するとはいえない。
加えて、本件発明1の課題は、Y型ゼオライトやフッ酸の使用を必須としなくても「安価で高性能なAEI型ゼオライトを製造」し、「Si/Al比を自由に変更できるAEI型ゼオライトの製造方法を提供する」という趣旨のものであると理解できる。これを反映して、本件発明1は、Y型ゼオライトやフッ酸の使用を必須としていない。そうすると、本件発明1における原料がY型ゼオライトを包含し、本件発明1の製造方法がフッ酸を使用する方法を包含するからという理由で、本件発明1が課題を解決することができないと当業者が理解するとはいえない。
したがって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。

(2)本件発明1における「Si/Al比」の範囲について(上記第3 3(2)))
本件明細書の段落【0013】には、「本発明の他の目的は、Si/Al比を自由に変更できるAEI型ゼオライトの製造方法を提供することにあり、さらにまた、Si/Al比が6.5以下で結晶性の良いAEI型ゼオライトを提供することにある。」と記載されている。
ここで、【0009】に記載の「また、いずれの方法を用いても、Si/Al比を7程度までしか下げることができず、…特により低いSi/Al比を有するAEI型ゼオライトと、その製造方法が求められていた。」という背景技術における事情を考慮すると、上記【0013】には、Si/Al比を7程度より低く下げることも含めて、「Si/Al比を自由に変更できる」ことが、本願発明の「他の目的」として挙げられていると解される。
ここで、「Si/Al比が6.5以下で結晶性の良いAEI型ゼオライトを提供すること」という課題は、「さらにまた」という記載ぶりも考慮すると、「Si/Al比を自由に変更できる」という課題に包含される任意の課題として記載され、ゼオライトのSi/Al比を6.5以下に限定する趣旨の課題として記載されたものではないと理解することができる。
そうすると、本件発明1が、「Si/Al比が50以下の」AEI型ゼオライトを製造する方法であるという理由で、本件発明1の課題を解決できないものであると当業者が理解するとはいえない。
したがって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。

(3)本件発明3における「アルカリ金属原子の50モル%未満がナトリウム原子であり」という範囲、及び「有機構造規定剤に対するアルカリ金属原子の合計のモル比が1.0以上、10以下である」という範囲について(上記第3 3(3))
本件明細書の実施例には、ナトリウム原子の割合については、アルカリ金属原子原料に含まれるアルカリ金属原子のうちのナトリウム原子の割合が、0モル%(実施例19?29、32?34)(実施例1?15、31)、約75モル%(=0.38/0.51)(実施例16?18)、100モル%(実施例1?15、31、35?38)の例があり、0?100モル%の範囲で本件発明1に係るAEI型ゼオライトを製造できることが裏付けられている。
その上で、本件明細書の段落【0066】には、「アルカリ金属原子原料に含まれるアルカリ金属原子の50モル%未満が、ナトリウム原子である場合も、アルカリ金属原子原料を適当量使用することにより、アルミニウムに後述の有機構造規定剤が好適な状態に配位しやすくなるため、結晶構造を作りやすくできる点から、原料混合物中の有機構造規定剤に対するアルカリ金属原子のモル比が1.0以上、10以下となるように用いることが好ましく」と記載されているところ、当該記載は、アルカリ金属原子原料に含まれるアルカリ金属原子の50モル%未満がナトリウム原子である場合の、有機構造規定剤の好ましい使用量を、原料混合物中の有機構造規定剤に対するアルカリ金属原子のモル比により表現したものであると解される。
さらに、このことを裏付けるものとして、実施例19?29、32?34では、原料混合物中の有機構造規定剤に対するアルカリ金属原子のモル比を1.67?3.00としてAEI型ゼオライトを製造したことが例示されている。
また、原料混合物中の有機構造規定剤に対するアルカリ金属原子のモル比が3.00を超え10以下の範囲で、AEI型ゼオライトが合成できなくなる具体的な事情は見あたらないから、この範囲においても上記実施例と同様にAEI型ゼオライトを合成できる蓋然性が高いといえる。
そうすると、アルカリ金属原子の0モル%を超え50モル%未満がナトリウム原子であるという範囲、及び、有機構造規定剤に対するアルカリ金属原子の合計のモル比が3.00を超え10以下の範囲においても、AEI型ゼオライトを製造することができ、本件発明3の課題を解決することができると当業者は理解することができる。
したがって、本件発明3は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。

(4)本件発明9における「触媒」の用途について(上記第3 3(4))
ア 本件発明9における触媒は、排ガス処理において高い活性及び耐熱性を示すことは、本件明細書の実施例の【0168】、【0171】に示されたNO浄化率等により裏付けられている。ここで、本件明細書の段落【0002】に記載されるように、「ゼオライトはその骨格構造に由来する細孔による分子ふるい効果やイオン交換能、触媒能、吸着能などの特性をもって」いることは技術常識である。また、遷移金属を担持したゼオライトは「活性点となる遷移金属等の配位箇所」(本件明細書の段落【0004】)において触媒活性を奏するものである。
そうすると、本件発明9における触媒は、ゼオライトがCuの優れた担体として機能することにより、排ガス処理以外の反応においても同様に高い活性及び耐熱性を示すものである蓋然性が高いと理解される。
してみれば、本件発明9は、排ガス処理を含む種々の反応において「Y型ゼオライトを原料としたゼオライトよりも触媒性能の高い」(本件明細書の段落【0013】)触媒の製造方法を提供するという課題を解決するものであると当業者は理解するといえる。
したがって、本件発明9は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。

4 特許法第29条第2項
(1)各甲号証の記載内容及び引用発明
ア 甲第1号証
(ア)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった文献である甲第1号証には、次の事項が記載されている。
「【0002】
本発明は、(SSZ-13及びSSZ-39と呼ばれる分子篩を含む)CHA又はAEIトポロジーを有する分子篩などの細孔を有する結晶性分子篩を反応混合物から製造するための方法に関する。」
「【0004】
構造コードCHAを有するものとして国際ゼオライト協会(IZA)によって特定された分子篩が知られている。例えば、SSZ-13として知られる分子篩は、既知の結晶CHA材料である。それは、その全体が参照により本明細書中に組み込まれている、1985年10月1日にZonesに対して発行された米国特許第4,544,538号に開示されている。米国特許第4,544,538号では、SSZ-13分子篩が、有機鋳型としても知られる構造誘導剤(「SDA」)として機能するN,N,N-トリメチル-1-アダマントアンモニウムカチオンの存在下で調製される。
【0005】
IZA構造コードAEIを有する分子篩も知られており、SSZ-39として知られるゼオライトが一例である。ゼオライトSSZ-39は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれている、1999年9月28日にZonesらに対して発行された米国特許第5,958,370号に開示されている。」
「【0012】
細孔分子篩を形成することが可能な構造誘導剤(「SDA」)としては、例えば、3-エチル-1,3,8,8-テトラメチル-3-アゾニアビシクロ[3.2.1]オクタンカチオン、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、N,N,N-トリメチル-1-アダマントアンモニウムカチオン、ヘキサメチレン-1,6-ビス-(N-メチル-’N-ピロリジニウム)ジカチオン、N,N,N-トリメチル-2-アダマンタンアンモニウムカチオン、4-メチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H-、5H-ピリド[3,2,1-ij]キノリニウムカチオン及びN,N-ジエチルデカヒドロキノリニウムカチオンが挙げられる。」
「【0026】
結晶化は高温で実施され、通常は、細孔分子篩結晶が形成されるまで反応混合物が自己圧力に曝されるようにオートクレーブ中で実施される。熱水結晶化工程中の温度は、典型的には、約140℃から約200℃に維持される。」
「【0031】
以下の実施例は、SSZ-13として知られる分子篩に関して本発明を例示する。しかし、CHA又はAEIトポロジーを有するものを含む他の細孔分子篩を同様にして作製することができる。以下の実施例は、本発明を実証するが、限定しない。
【0032】
(実施例1) 20グラムのHi-Sil233(酸化珪素の供給源)を好適な容器に入れた。Reheis F-2000アルミナ(1.7グラム)を5グラムの50%NaOH水溶液に溶解させ、次いで容器内のHi-Sil233に添加した。得られた混合物を十分に混合する。得られた混合物に対して、1グラムのSSZ-13種結晶を添加し、混合物を5分間にわたって再び十分に混合した。23.3グラムの水酸化ベンジルトリメチルアンモニウムの2.36ミリモル/グラム溶液を混合物に混合しながら徐々に添加した。8グラムのD.I.水を徐々に添加し、得られた混合物を1時間にわたって十分に混合した。得られた混合物は、揮発物含有量が59.6%のわずかに湿った顆粒の形であった。
【0033】
合成混合物のモル組成は、以下の通りであった。
SiO_(2)/AL_(2)O_(3 )35
Na^(+)/SiO_(2) 0.21
R/SiO_(2) 0.18
OH^(-)/SiO_(2) 0.39
H_(2)O/SiO_(2) 4.8
【0034】
得られた反応混合物を2つの部分(A部及びB部)に分割し、各部分を個別の3.5インチのパイプオートクレーブに入れ、160℃で2日間(A部)及び4日間(B部)にわたって結晶化させた。
【0035】
生成物をpH12.5の水で2回洗浄し、次いで純粋なD.I.水で1回洗浄した。生成物を濾過し、120℃の真空炉で終夜乾燥させ、次いで1100°Fで6時間焼成した。
【0036】
得られた生成物は、SSZ-13であった。」

(イ)甲第1号証に記載の発明
上記(ア)から、甲第1号証には、実施例1に基づく発明として、下記の発明(引用発明)が記載されている。
「Hi-Sil233、Reheis F-2000アルミナ、NaOH、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、SSZ-13種結晶及び水を含む混合物を調製する工程、前記工程で得られた混合物をパイプオートクレーブで160℃及び2日間又は4日間結晶化させる工程を含む、SSZ-13ゼオライトを製造する方法。」

イ 甲第2号証
(ア)甲第2号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった文献である甲第2号証には、次の事項が記載されている。
a 「A Cu-exchanged SSZ-39 zeolite has been synthesized and tested for the selective catalytic reduction (SCR) of NOx. This material shows and excellent catalytic activity, and most importantly, an extraordinary hydrothermal stability.」(8264ページ左欄1?4行)
当審仮訳:銅で置換したSSZ-39ゼオライトを合成し、NOxの選択的触媒還元(SCR)について試験した。この物質は優れた触媒活性を示し、最も重要なこととして、顕著な水熱安定性を示す。

b 「The results indicate the complexity of the mechanisms involved in the nucleation and crystallization of the zeolite, and the tremendous impact that the selected primary sources of reactants have on zeolite phase selectivity.」(8265ページ左欄6?9行)
当審仮訳:結果によれば、ゼオライトの核生成及び結晶化におけるメカニズムは複雑であり、反応物における選択された主要原料は、ゼオライトの相の選択性に著しい影響を与えることが示される。

ウ 甲第3号証
(ア)甲第3号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった文献である甲第3号証には、次の事項が記載されている。
「The present invention relates to new crystalline zeolite SSZ-39, a method for preparing SSZ-39 using a variety of cyclic and polycyclic quaternary ammonium cation templating agents, and processes employing SSZ--39 as a catalyst.」(1欄9?12行)
当審仮訳:本発明は、新規な結晶性ゼオライトSSZ-39、様々な環式及び非環式第4級アンモニウムカチオンテンプレート剤を用いてSSZ-39を調製するための方法、及び、触媒としてSSZ-39を使用する方法に関する。

「Example 2
Synthesis of SSZ-39
Four grams of a solution of Template A (0.56 mmol OH^(-)/g) is mixed with 6.1 grams of water and 0.20 grams of 1.0 N NaOH. Ammonium exchanged Y zeolite (0.25 gram) is added to this solution and, finally, 2.5 gram of Banco "N" sodium silicate (28-29 wt. % SiO_(2)) is added. The resulting reaction mixture is sealed in a Parr 4745 reactor and heated at 135℃.and rotated at 43rpm. After seven days, a settled product is obtained and determined by XRD to be SSZ-39. Analysis of this product shows the SiO_(2) /Al_(2)O_(3) mole ratio to be 14.7.」(15欄45?58行)
当審仮訳:実施例2
テンプレートA(0.56 mmol OH^(-)/g)の溶液4gを、6.1gの水および0.20gの1.0N NaOHと混合する。この溶液にアンモニウム交換Yゼオライト(0.25g)を添加し、最後に、2.5グラムのBanco”N”ケイ酸ナトリウム(28-29 wt.% SiO_(2))を添加する。得られた反応混合物をParr 4745反応器中に密封し、135℃で加熱し、43rpmで回転させた。7日後、沈殿した生成物が得られ、XRDによりSSZ-39であることが特定された。この生成物の分析により、14.7のSiO_(2)/Al_(2)O_(3)のモル比が示された。

「Examples 3-14
The following examples use the templates described in Table C above and use the same ratios of reactants as shown in Example 2. Higher silica/alumina mole ratios can be obtained by using LZ-210 as the alumina source in the reaction (LZ-210 silica/alumina mole ratio=13.) In all Examples, the product is crystalline SSZ-39.」(15欄60?67行)
当審仮訳:実施例3-14
以下の実施例は、上記の表Cに記載されるテンプレートを使用し、実施例2に示したのと同一の反応物比率を用いた。反応におけるアルミナ源としてLZ-210を用いることにより、より高いシリカ/アルミナモル比が得られた(LZ-210シリカ/アルミナのモル比=13)。全ての実施例において、生成物は結晶性SSZ-39である。

「Example 15
The reaction as described in Example 3 is repeated, with the exception of using 0.14 gram of Y-62 in the reaction mixture. This results in a silica/alumina mole ratio in the reaction mixture of 67. After six days at 170.degree. C. (43 rpm) a product is isolated and determined to by XRD to be SSZ-39.」(16欄20?25行)
当審仮訳:実施例15
反応混合物にいて0.14グラムのY-62を使用したことを除いて、実施例3に記載されたのと同様に反応が繰り返された。反応混合物中のシリカ/アルミナモル比は67となる。6日間170℃(43rpm)とした後、生成物が単離され、XRDによってSSZ-39であることが特定された。

「Example 16
The reaction described in Example 3 is repeated, with the exception that 0.08 gram of Y62 is used. This results in a starting silica/alumina mole ratio of 100. After five days at 135℃and43rpm,aproductwasisolatedanddeterminedbyXRDtobeSSZ-39.Theproductisanalyzedandfoundtohaveasilica/aluminamoleratioof51.TheX-raydiffractiondataisshowninTableIIIbelow.」(16欄27?35行)
当審仮訳:実施例16
反応混合物にいて0.14グラムのY62を使用したことを除いて、実施例3に記載されたのと同様に反応が繰り返された。開始時のシリカ/アルミナのモル比は100である。5日間135℃(43rpm)とした後、生成物が単離され、XRDによってSSZ-39であることが特定された。生成物を分析したところ、51のシリカ/アルミナモル比を有していた。X線回折データが以下の表IIIに示されている。

「Example 18
Using Template L as the iodide salt, 4 grams of this material is mixed with 40 grams of water, 20 grams of 1N NaOH, and 26.84 grams of Banco "N" silicate (sodium silicate). 2.50 Grams of LZ-210 is added as a source of Al. The resulting mixture is heated at 130.degree. C. without stirring until sampling electron microscopy analysis shows that a new crystalline phase has emerged, and that all of the LZ-210 has been consumed. The product is determined to be SSZ-39. After calcination as in Example 17, the XRD pattern for the calcined SSZ-39 is that tabulated in Table IV below. The product has a silica/alumina mole ratio of 17.1.」(17欄27?39行)
当審仮訳:実施例18
テンプレートLをヨウ化物塩として使用して、この物質4gを、40gの水、20gの1N NaOH、及び26.84グラムのBanco“N”シリケート(ケイ酸ナトリウム)と混合する。2.50gのLZ-10をAl源として添加する。得られた混合物を撹拌せずに130℃に加熱した後、電子顕微鏡分析により、新たな結晶相が出現していること、及び、LZ-210の全てが消費されたことを示された。生成物はSSZ-39であると特定された。実施例17と同様に焼成した後、焼成したSSZ-39についてのXRDパターンを以下の表4に作表した。生成物は、17.1のシリカ/アルミナモル比を有する。

(イ)甲第3号証に記載の技術的事項
LZ-210及びY-62(Y62)がYゼオライトであることは周知である。してみれば、甲第3号証には、実施例に基づく事項として、以下の技術的事項が記載されている。

「テンプレート剤、NaOH水溶液、Yゼオライト、Banco“N”シリケート及び水の混合物を反応器中で加熱して反応させることによりSSZ-39ゼオライトを得た。」

エ 甲第4号証
(ア)甲第4号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった文献である甲第4号証には、次の事項が記載されている。

「Reheis F-2000 aluminum hydroxide gel (dried, 50-53 wt. % Al_(2)O_(3)). 」(第6欄第16?17行)
当審仮訳:Reheis F-2000水酸化アルミニウムゲル(乾燥、5
0-53質量%Al_(2)O_(3))

オ 甲第5号証
(ア)甲第5号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった文献である甲第5号証には、次の事項が記載されている。

「Reheis F-2000アルミナ(Al_(2)O_(3) 53?56重量%)」(段落【0017】)

(2)引用発明との対比・判断
(ア)本件発明1について
引用発明の「Hi-Sil233」、「Reheis F-2000アルミナ」、「NaOH」及び「SSZ-13種結晶」は、それぞれ、本件発明1の「ケイ素原子原料」、「Si含有率が20重量%以下のアルミニウムを含有する化合物」である「アルミニウム原子原料」、「アルカリ金属原子原料」及び「International Zeolite Association(IZA)がcomposite building unitとして定めるd6rを骨格中に含む、AEI型及び/又はCHA型である」「Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライト」に相当する。また、引用発明の「水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム」について、甲第1号証の段落【0012】の「構造誘導剤(「SDA」)としては、例えば…水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム…が挙げられる。」と記載され、構造誘導剤は有機構造規定剤と同じ意味であるから、当該「水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム」は本件発明1の「有機構造規定剤」に相当する。そして、「混合物をパイプオートクレーブで160℃及び2日間又は4日間結晶化させる工程」は、甲第1号証の段落【0026】の「 結晶化は高温で実施され、通常は、細孔分子篩結晶が形成されるまで反応混合物が自己圧力に曝されるようにオートクレーブ中で実施される。熱水結晶化工程中の温度は、典型的には、約140℃から約200℃に維持される。」との記載からみて、本件発明1の「混合物を水熱合成する工程」に相当する。

してみれば、引用発明と本件発明1との一致点及び相違点は、下記の通りである。

<一致点>
ケイ素原子原料、アルミニウム原子原料、アルカリ金属原子原料、有機構造規定剤、Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライト及び水を含む混合物を調製する工程、前記工程で得られた混合物を水熱合成する工程、を含む、ゼオライトを製造する方法であって、
前記アルミニウム原子原料はSi含有率が20重量%以下のアルミニウムを含有する化合物であり、
該Framework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライトが、International Zeolite Association(IZA)がcomposite building unitとして定めるd6rを骨格中に含む、AEI型及び/又はCHA型であることを特徴とするゼオライトの製造方法。

<相違点1>
本件発明1は「Si/Al比が50以下の」ゼオライトの製造方法であるのに対し、引用発明は、「Si/Al比が50以下の」ゼオライトの製造方法であるか不明である点。

<相違点2>
本件発明1は「前記混合物中にFramework densityが14T/1000Å^(3)以上のゼオライトを、前記混合物中のSiが全てSiO_(2)になっているとした時のSiO_(2)に対して0.1重量%以上20重量%以下含」むのに対し、引用発明は、「SSZ-13種結晶」を、「混合物中のSiが全てSiO_(2)になっているとした時のSiO_(2)に対して0.1重量%以上20重量%以下含」むか不明である点。

<相違点3>
本件発明は「AEI型ゼオライト」の製造方法であるのに対し、引用発明はSSZ-13ゼオライトの製造方法である点。

事案に鑑みて相違点3から検討するに、甲第1号証には、段落【0031】に「以下の実施例は、SSZ-13として知られる分子篩に関して本発明を例示する。しかし、CHA又はAEIトポロジーを有するものを含む他の細孔分子篩を同様にして作製することができる。」と記載されているから、実施例に基づく発明である引用発明を変更してAEI型ゼオライトを製造することを当業者が試みることはあり得ることであるといえる。
しかしながら、ゼオライトの技術分野において、どのような結晶構造のゼオライトを生成するかは、原料、有機構造規定剤、これらの使用割合、反応条件等により異なり、その予測は困難であることが技術常識(以下、技術常識Aという)である。
ここで、甲第1号証には、AEI型ゼオライトを製造した実施例は記載されておらず、AEI型ゼオライトを製造する場合に、原料、有機構造規定剤、これらの使用割合、反応条件をどのように定めるのかについても具体的な記載はない。特に、有機構造規定剤に関し、甲第1号証には、構造誘導剤が多数例示された段落【0012】をはじめ、AEI型ゼオライトを製造する場合に具体的にどのような化合物を採用すればよいかを教示する記載はない。
また、甲第3号証には、上記(1)ウ(イ)のとおり、テンプレート剤(有機構造規定剤に相当)、NaOH水溶液、Yゼオライト、Banco“N”シリケート及び水の混合物を用いてSSZ-39ゼオライトを得たとの技術的事項が記載されているが、当該技術的事項は、原料がYゼオライトを含む点で引用発明と異なっており、かつ、本件明細書【0005】でも言及されている技術常識に係るYゼオライトの使用を前提としていることから、当該技術常識及び上記技術常識Aを考慮すると、甲第2号証に記載されたテンプレート剤(有機構造規定剤に相当)を引用発明に適用することに当業者が想到するとはいえない。
同様に、甲第2、4?5号証にも、引用発明を変更してAEI型ゼオライトを製造するにあたり、どのような有機構造規定剤を採用すればよいのかを教示する記載はない。
そうすると、甲第1?5号証の記載を参酌しても、引用発明を変更してAEI型ゼオライトを製造するために、有機構造規定剤の選定をはじめとして、製造方法を具体的にどのように変更すればAEI型ゼオライトを製造できるのかを当業者が容易に見出すことができたとはいえず、当業者が引用発明を変更してAEI型ゼオライトを製造することを容易になしえたということはできない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2?5号証の記載から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明2?9について
本件発明2?9は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えたAEI型ゼオライトの製造方法、又は触媒の製造方法の発明である。
そうすると、本件発明2?9は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2?5号証の記載から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるので、請求項1?9に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、本件発明1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?9に係る特許を取り消すべき理由がないかについて検討したが、これを見出すことはできない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-09-29 
出願番号 特願2015-228030(P2015-228030)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C01B)
P 1 651・ 121- Y (C01B)
P 1 651・ 536- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西山 義之  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 後藤 政博
岡田 隆介
登録日 2019-08-23 
登録番号 特許第6572751号(P6572751)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 AEI型ゼオライト及びその製造方法と用途  
代理人 田口 昌浩  
代理人 虎山 滋郎  

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