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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
管理番号 1366988
異議申立番号 異議2019-700944  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-22 
確定日 2020-10-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6517789号発明「複数の化合物からポリマーを分離するための方法及びシステム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6517789号の請求項1ないし25に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6517789号(請求項の数25。以下、「本件特許」という。)は、2014年(平成26年)9月9日(優先権主張 平成25年9月25日)を国際出願日とする出願に係る特許であって、平成31年4月26日に設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は同年5月22日である。)。
その後、令和1年11月22日に、本件特許の請求項1?25に係る特許に対して、特許異議申立人である山田宏基(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後の手続きの経緯は、以下のとおりである。
令和1年11月22日 特許異議申立書
令和2年 3月 5日付け 取消理由通知書
同年 6月 5日 意見書(特許権者)

申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:国際公開第2012/008340号
甲第2号証:特開2010-77347号公報
甲第3号証:特開平2-102228号公報
甲第4号証:特公平6-68025号公報
甲第5号証:特開2004-244619号公報
甲第6号証:特開平5-59755号公報
(以下、甲第1?6号証を、順に「甲1」等という。)

第2 本件請求項1?25に係る発明
本件特許の請求項1?25に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?25に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項1?25に係る発明を、順に「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

「【請求項1】
ポリアリーレンスルフィドを洗浄する方法であって、
固体のポリアリーレンスルフィド及び液体を含む第1スラリーを第1沈降装置中に導入し;
有機アミドを含む第1溶媒を、該第1沈降装置を通して、該第1スラリーに対して対向流の方向で流し、該第1スラリーが該第1溶媒に接触して第2スラリーを形成し;
該第2スラリーを第2沈降装置中に導入し;そして
水及び酸を含み該第1溶媒と異なる第2溶媒を、該第2沈降装置を通して、該第2スラリーに対して対向流の方向で流し、該第2スラリーが該第2溶媒に接触して第3スラリー
を形成する;
ことを含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、該第1沈降装置の溶媒比が約1.5?約3である方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、該第1及び/又は該第2沈降装置の溶媒比が約3?約4.5である方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、該第1スラリーを、スラリー入口を通して該第1沈降装置の中央部分の中に導入し、該スラリー入口が該中央部分の壁に対して実質的に接線向である方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、該ポリアリーレンスルフィドがポリフェニレンスルフィドである方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、該第1沈降装置及び該第2沈降装置の内容物を撹拌することを更に含む方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、該第1沈降装置及び該第2沈降装置の少なくとも1つが、該ポリアリーレンスルフィドを含む流動床を含み、該方法が、該流動床の高さを監視及び制御することを更に含む方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、該第1沈降装置及び該第2沈降装置の少なくとも1つの内容物の1以上の成分を加熱することを更に含む方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、該第2沈降装置から排出される液体を該第1沈降装置に再循環する方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、該第3スラリーを第3沈降装置中に導入し、水を含む第3溶媒を、該第3沈降装置を通して、該第3スラリーに対して対向流の方向で流す方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、該第3沈降装置が、該ポリアリーレンスルフィドを含む流動床を含み、該方法が、該流動床の高さを監視及び制御することを更に含む方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、スラリーを1以上の更なる沈降装置に供給することを更に含み、該1以上の更なる沈降装置は該第1及び該第2沈降装置と直列である方法。
【請求項13】
請求項7に記載の方法であって、該第1及び該第2沈降装置は、それぞれ、第1及び第2の高さを有する中央部分を有し、該プロセス中における該流動床の高さの変動が該中央部分の高さの約10%未満である方法。
【請求項14】
請求項10に記載の方法であって、該第3沈降装置の内容物を撹拌することを更に含む方法。
【請求項15】
請求項10に記載の方法であって、該第3溶媒を加熱することを更に含む方法。
【請求項16】
請求項10に記載の方法であって、該第3沈降装置から排出される液体を該第2沈降装置に再循環する方法。
【請求項17】
請求項11に記載の方法であって、該第3沈降装置がある高さを有する中央部分を含み、該プロセス中における該流動床の高さの変動が該中央部分の高さの約10%未満である方法。
【請求項18】
請求項1に記載の方法であって、該第1スラリー中の該液体がN-メチルピロリドンである方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法であって、該第1溶媒の該有機アミドがN-メチルピロリドンである方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法であって、該第1溶媒が該有機アミドと水との混合物を含む方法。
【請求項21】
請求項10に記載の方法であって、該第3溶媒が水のみを含む方法。
【請求項22】
請求項1に記載の方法であって、該第1沈降装置から、有機アミドを含む第1液体を除去することを更に含む方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、該第1液体が該有機アミドと水との混合物を含む方法。
【請求項24】
請求項1に記載の方法であって、該第2沈降装置から、有機アミドを含む第2液体を除去することを更に含む方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、該第2液体が該有機アミドと水との混合物を含む方法。」

第3 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由通知の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。

下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

・請求項 1?25
・引用文献等 甲1、甲2、甲5

2 特許異議申立ての申立理由
申立人が特許異議申立書に記載した申立理由は、以下のとおりである。

請求項1?6、8?10、12、14?16、18?25に係る発明は、甲1に記載された発明、及び甲2?甲5に記載された事項から当業者が容易に想到し得るものであり、請求項7、11、13及び17に係る発明は、甲1に記載された発明、及び甲2?甲6に記載された事項から当業者が容易に想到し得るものであるから、これら発明に係る特許は、特許法第29条に違反して付与されたものである。

第4 当審の判断
以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項1?25に係る特許を取り消すことはできない。

1 各甲号証に記載された事項
(1)甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
ア 「請求の範囲
[請求項1] 有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させてポリアリーレンスルフィドを生成する重合工程;生成したポリアリーレンスルフィドを含有する反応液からポリアリーレンスルフィド粒子を分離する分離工程;
分離したポリアリーレンスルフィド粒子を、水、有機溶媒、及び、水と有機溶媒との混合溶液からなる群より選ばれる少なくとも一種の洗浄液を用いて洗浄する工程であって、洗浄槽内において、ポリアリーレンスルフィド粒子を含有する水性スラリーを下方に進行させるとともに、洗浄液を上方に進行させて該水性スラリーと連続的に向流接触させて向流洗浄を行い、ポリアリーレンスルフィド粒子を下方から排出し、洗浄排液を上方から排出する、向流洗浄工程;
洗浄槽から排出される洗浄排液を、マイクロスリットフィルターが装填されたポリアリーレンスルフィド粒子再分離手段に供給して、ポリアリーレンスルフィド粒子を捕捉し、次いで、マイクロスリットフィルターから、ポリアリーレンスルフィド粒子を再分離し排出する、ポリアリーレンスルフィド粒子の再分離工程;
及び、排出されたポリアリーレンスルフィド粒子を回収する回収工程; を含む
ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[請求項2] 前記向流洗浄工程及びポリアリーレンスルフィド粒子の再分離工程を複数含む請求項1記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[請求項3] 前記洗浄槽が、洗浄塔である請求項1記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。」

イ 「[0002] ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と略記することがある。)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、「PAS」と略記することがある。)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性などに優れたエンジニアリングプラスチックである。」

ウ 「[0004] 硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応は、脱塩重縮合反応であり、反応後に多量のNaClなどの塩(すなわち、アルカリ金属ハロゲン化物)が生成する。また、含硫黄化合物の反応であるために、硫化水素が生成または副生する。そのため、従来より、重合反応により生成したPASを反応液から分離して回収した後、回収したポリマーを、水、有機溶媒、または水と有機溶媒との混合物などの洗浄液を用いて洗浄し、有機アミド溶媒を除去するとともに、NaClなどの塩や硫化水素を除去している。
[0005] 洗浄方法としては、大別して、バッチ洗浄と連続洗浄とがある。
[0006] バッチ洗浄は、回収したポリマーを、一括してまたは分割して、洗浄槽において、洗浄液で所定時間撹拌洗浄する方法であって、通常、これを、数回繰り返して行う方法である。例えば、特許文献1(特開平6-192423号公報;欧州特許出願公開第0594189号対応)として、PASを洗浄容器及び洗浄タンクで洗浄する方法が提案されているが、洗浄槽が1個または複数個必要であるため、設備が複雑となり、建設費が嵩むとともに、洗浄液の消費量の増加、排液の処理量の増加、撹拌動力の増大を招き、運転コストの上昇が避けられなかった。
[0007] これに対して、連続洗浄として、湿潤状態の重合体と、洗浄液である有機溶媒または水とを、向流接触させる方法が提案されている。
・・・
[0008] 更に、連続洗浄を繰り返すことや、連続洗浄に先立ってバッチ洗浄と連続洗浄を組み合わせて行うことも従来知られている。
[0009] 湿潤状態の重合体と、洗浄液である有機溶媒または水とを、向流接触させる連続洗浄によると、洗浄効率が高く、設備も簡便で運転コストも安いという利点がある。特に、PAS粒子を含有する水性スラリーの下降流と洗浄液の上昇流とを向流接触させ、洗浄されたPASを洗浄装置の下方から排出し、洗浄排液を洗浄装置の上方から排出する方法は、水より比重が大きいPAS粒子が、重力により洗浄液中を自然に落下するので、より効率的であり、設備もより簡便である。また、この方法では、PAS粒子を含有する水性スラリーの供給量と洗浄液の供給量を調整することにより、洗浄速度を容易に制御することができる。
[0010] PASは本来、洗浄液より比重が大きいものであるが、PAS粒子を含有する水性スラリーや洗浄液の組成や温度条件等により、PAS粒子の沈降が妨げられることがあり、特に、比較的粒径が小さいPAS粒子は、沈降しにくいのみならず、洗浄液の液面に向けて浮上することがある。洗浄液の液面近傍に浮上しているPAS粒子は、洗浄排液の排出に随伴して向流洗浄装置の外部に流出する場合があり、しかも、洗浄排液の排出に随伴して向流洗浄装置の外部に流出するPAS粒子の粒径や粒径分布、更には、流出量などは、確実には予測できない。」

エ 「[0042]4.有機アミド溶媒 本発明では、脱水反応及び重合反応の溶媒として、非プロトン性極性有機溶媒である有機アミド溶媒を用いる。・・・
[0043] これらの有機アミド溶媒の中でも、N-アルキルピロリドン化合物、N-シクロアルキルピロリドン化合物、N-アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N-ジアルキルイミダゾリジノン化合物が好ましく、特に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-メチル-ε-カプロラクタム、及び1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンが好ましく用いられる。本発明の重合反応に用いられる有機アミド溶媒の使用量は、硫黄源1モル当たり、通常0.1?10kgの範囲である。」

オ 「[0056] 脱水工程での各原料の反応槽への投入は、一般的には、常温(5?35℃)から300℃、好ましくは常温から200℃の温度範囲内で行われる。原料の投入順序は、任意に設定することができ、さらには、脱水操作途中で各原料を追加投入してもかまわない。脱水工程に使用される溶媒としては、有機アミド溶媒を用いる。この溶媒は、重合工程に使用される有機アミド溶媒と同一であることが好ましく、NMPが特に好ましい。有機アミド溶媒の使用量は、反応槽に投入する硫黄源1モル当たり、通常0.1?10kg程度である。」

カ 「[0083] IV.洗浄工程 PASの製造方法においては、通常、副生アルカリ金属塩やオリゴマーをできるだけ少なくするために、分離工程により分離回収したPAS粒子は、水、有機溶媒、及び、水と有機溶媒との混合溶液からなる群より選ばれる少なくとも一種の洗浄液によって洗浄処理を行う。本発明のPASの製造方法における向流洗浄工程もまた、洗浄処理を行う。
[0084] 洗浄処理に使用する有機溶媒としては、重合溶媒と同じ有機アミド溶媒や、ケトン類(例えば、アセトン)、アルコール類(例えば、メタノールまたはエタノール)等の有機溶媒で洗浄することが好ましく、これらの1種類を使用してもよいし、複数種類を混合して使用してもよい。オリゴマーや分解生成物などの不純物(低分子量成分)の除去効果に優れているとともに、経済性や安全性の観点からも、アセトンが好ましい。複数種類の有機溶媒を混合して使用する場合は、該有機溶媒がアセトンを含むものであることが好ましく、有機溶媒におけるアセトンの割合が、50質量%以上、好ましくは70質量%以上である有機溶媒を使用するとよい。
[0085] 洗浄処理に使用する水としては、イオン交換水などの脱イオン水、蒸留水、超純水などを使用することができる。
[0086] 洗浄液としては、水とアセトンの混合溶液を使用することが、より好ましい。混合溶液としては、水の割合が、好ましくは1?60質量%、より好ましくは1?30質量%、特に好ましくは1?20質量%の混合液を用いることが、オリゴマーや分解生成物などの有機不純物の除去効率を高める上で好ましい。
[0087] 洗浄液による洗浄処理は、一般に、分離工程を経て回収されたPASと洗浄液とを混合し、攪拌することにより実施し、1回に限らず、複数回実施することが好ましく、通常は2?4回程度実施する。各洗浄回での洗浄液の使用量は、理論PASポリマー(水や有機溶媒を乾燥などにより除去したPASポリマー量)に対して通常1?15倍容量、好ましくは2?10倍容量、より好ましくは3?8倍容量である。洗浄時間は、通常1?120分間、好ましくは3?100分間、より好ましくは5?60分間である。有機溶剤を用いる洗浄処理を行う場合は、該洗浄処理の後に、有機不純物の除去効率を高めるとともに、NaCl等の無機塩を除去するために、更に、水による洗浄処理を1回または複数回実施することが好ましい。
[0088] 洗浄処理は、一般に、常温(10?40℃)で行うが、洗浄液が液体状態である限り、それより低い温度または高い温度で行うこともできる。例えば、水の洗浄力を高めるために、洗浄液として高温水を用いることができる。
[0089] 洗浄処理の方法としては、先に述べたように、バッチ洗浄と連続洗浄とがある。バッチ洗浄は、回収したポリマーを、所定容積の洗浄槽において、洗浄液で撹拌洗浄する方法である。連続洗浄は、湿潤状態の重合体と、洗浄液である有機溶媒または水とを、洗浄槽内において連続的に向流接触させる方法である。向流接触を伴う連続洗浄は、湿潤状態(スラリー状であってもよい。)の重合体の流れと洗浄液の流れとが反対方向であることが必須であるので、洗浄液の流れが、上方に進行する方法と、下方に進行する方法とがある。所望により、洗浄液の進行方向が異なる複数の連続洗浄を組み合わせることもできる。また、連続洗浄に先立ってバッチ洗浄を行ってもよい。
[0090] 本発明は、洗浄工程として、以下V.で述べる向流洗浄工程を含むものである。・・・
[0092] 本発明の向流洗浄工程は、通常、図1の向流洗浄装置、PAS粒子の再分離装置及び回収装置の具体例の概念図に略記したように、洗浄槽内において、PAS粒子を含有する水性スラリーを下方に進行させるとともに、洗浄液を上方に進行させて該水性スラリーと連続的に向流接触させて向流洗浄を行い、PAS粒子を下方から排出し、洗浄排液を上方から排出する、向流洗浄装置によって行われる。
[0093] 本発明においては、かかる向流洗浄工程を、PAS粒子を洗浄する工程において、1工程のみ設けてもよいし、複数工程設けてもよい。したがって、本発明においては、かかる向流洗浄装置を、1または複数設けることができる。
・・・
[0097] 洗浄槽の内部には、PAS粒子を含有する水性スラリーと洗浄液との向流接触を十分行わせるために、スタティックミキサー、撹拌翼、または搬送スクリューなどを設けることが好ましく、これらの大きさ及び数は、所望の処理量により適宜選択することができる。
・・・
[0102] 水性スラリー供給口91から供給される水性スラリーの調製方法は、前記の洗浄処理後に分離したPAS粒子を、再度、水性スラリーとして供給してもよいし、該分離したPAS粒子を一定量集めた後に、水性スラリーとして供給してもよい。
・・・
[0105] なお、PASの製造方法においては、PASの結晶化度を高めるために、塩酸やリン酸等の無機酸や酢酸等の有機酸などの酸性化合物の水溶液と接触させる酸処理を行うことがある。本発明における向流洗浄工程または向流洗浄装置は、この酸処理またはそのための装置に適用することもできる。酸処理に適用する場合は、PAS粒子を含有する水性スラリーに酸性化合物を添加する。
[0106] PAS粒子を含有する水性スラリーの供給量及び洗浄液の供給量は、洗浄槽の大きさ、撹拌翼の撹拌速度、洗浄液と水性スラリー中のPAS粒子の質量比で定まる洗浄浴比、想定される不純物等の含有量、PAS粒子を含有する水性スラリー及び洗浄液の温度や粘度、PAS粒子を含有する水性スラリーと洗浄液との平均的な接触時間などを勘案して、適宜調整することができる。
[0107] 本発明者らの知見によれば、PAS粒子の沈降速度及びPAS粒子の向流洗浄効率は、各攪拌室における液相の粘度に依存することが分かった。そして、該液相の粘度は、PAS粒子を含有する水性スラリー中の有機溶剤や洗浄液として用いる有機溶剤の種類や濃度と、温度によって定まる。したがって、固体粒子の沈降速度の均一化及び前記した固体粒子の浮き上がりや排液流路を通した流出を制御するには、洗浄槽に供給されるPAS粒子を含有する水性スラリーの温度や洗浄液の温度を制御する必要がある。PAS粒子を含有する水性スラリーの温度は、通常30?70℃の範囲であり、洗浄液の温度は、通常15?40℃の範囲である。そのため、水性スラリー供給口91または洗浄液供給口92に、直接またはその近傍に温度制御手段を設けるなどして、水性スラリーまたは洗浄液の温度を調整することが好ましい。
[0108] 本発明の処理方法または処理装置、すなわち、向流洗浄工程または向流洗浄装置は、洗浄液の供給量として、通常1?800kg/hrの範囲、好ましくは3?700kg/hr、より好ましくは5?600kg/hrの範囲という、広い範囲の供給量に適用することができるので、効率的である。また、洗浄液の供給量は、先に述べた洗浄浴比が、通常1?15の範囲、好ましくは1?10、より好ましくは1?7、特に好ましくは1?5程度とすればよい。洗浄液の供給量が多すぎると、PAS粒子を含有する水性スラリー中のPAS粒子の下降が妨げられ、洗浄排液に随伴して排出されるPAS粒子が増加することがあり、結果的に洗浄効率が不十分となる。洗浄液の供給量が少なすぎると、十分な洗浄が行われない。」

(2)甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
有機溶媒中でジハロゲン化芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを重合反応させた後のポリアリーレンスルフィドを含むスラリーを、
(I)重合溶媒と同じ有機溶媒中で攪拌処理した後、固液分離する工程、次いで
(II)水洗した後、固液分離する工程、次いで
(III)水と無機酸および/または有機酸を加え、スラリーのpHを6?8として処理した後、固液分離する工程
を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項2】
・・・
【請求項3】
工程(III)に使用する酸が酢酸であることを特徴とする請求項1または2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。」

イ 「【0003】
一方、ポリアリーレンスルフィド樹脂は、一般に射出成形時に発生するガスによって金型内に付着した物質によって金型メンテナンス頻度が増加する問題、またプロジェクター、プロジェクションTVなど高温で使用されている部品においては、使用時にポリアリーレンスルフィド樹脂から発生するガスによってレンズを曇らせてしまうなどの問題がある。特に脱イオン処理のため酸洗浄されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上述のように機械特性に優れる反面、ポリマー末端がカルボキシル基や水酸基やチオール基となるため分解し易く、押出時や成形時に加熱した際に発生するガスが増えるという欠点を有していた。このため、これまでに脱イオン処理や酸洗浄処理の方法が種々提案されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1、2、3には、有機溶媒と無機酸または有機酸を加え、固液分離した後、pH7?9にして処理する方法が開示されているが、重合後の系はアルカリ性であるため多くの酸薬剤が必要となる上、溶媒による有機性不純物の除去と脱イオン処理が区分されていないため効率が悪いという問題がある。更に処理後の有機溶媒中には酸が混入し、また多量の塩も水分と共に混入するため、蒸留回収の前処理として中和や分離などの工程が必要となり高コストであり好ましくない。」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂から加工時に発生するガスを低減させ、かつ耐衝撃特性等の機械的特性に優れた高品質なポリアリーレンスルフィド樹脂組成部を得るのに好適なポリアリーレンスルフィド樹脂及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリアリーレンスルフィドを含むスラリーを洗浄する際、有機溶媒処理にて十分に有機不純物を除去し、次いで水洗し、次いで少量の酸を添加して適当なpHにコントロールしつつ脱イオン化処理することにより、耐熱性と反応性のバランスに優れるポリマー末端構造とすることが可能となり、低ガス性と耐衝撃性などの機械特性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂が得られることを見出し本発明に至ったものである。」

エ 「【0042】
但し、本発明の回収法はどちらかに限定されるものではなく、本発明の要件を満たす方法であれば、どちらの回収方法でも良い。しかし、性能を鑑みた場合、フラッシュ法で回収された固形物は、ポリマーと共に副生成物を大量に含むため、有機溶媒洗浄工程での除去量多く不利であり、一方、クエンチ法は重合反応終了後の重合溶媒を含むスラリーに同一の溶媒を追加添加して有機溶媒処理を実施できるため本発明の回収法として好ましい。
[工程(I)有機溶媒処理] 本発明では、上記何れかの方法で回収されたポリアリーレンスルフィドを含むスラリーに有機溶媒を添加し攪拌処理した後固液分離する。これは重合時に副成しガス発生の要因となるオリゴマー、有機不純物、イオン性有機不純物を有機溶媒に溶解して除去するために実施する。この処理は更に後工程での脱イオン処理を容易ならしめるため、重合反応終了後のスラリーを水洗する前に適用し、また十分な除去効果を得るために攪拌処理した後に固液分離を行う。この工程は必要に応じて2回以上繰り返しても良いが、あまり多く繰り返すと処理工程が複雑となるため好ましくなく、4回以下が好ましく適用され、より好ましくは1回以上2回以下が適用される。
【0043】
使用する有機溶媒は上述の重合溶媒と同様の溶媒を使用する。異なる溶媒を使用した場合、その溶媒の回収工程も必要となり設備が複雑化するため好ましくない。中でも、N-メチル-2-ピロリドンは、有機不純物、有機イオン性不純物の溶解性が良く好ましく用いられる。
・・・
【0045】
有機溶媒処理温度は70℃以上150℃以下が好ましく使用される。温度が低すぎると処理効率が低下し、温度が高すぎると溶媒の蒸気圧が上昇するため好ましくない。攪拌滞留時間は5分以上60分以下が好ましく使用される。時間が短すぎると処理効率が低下し、時間が長すぎると設備の規模が大きくなり過ぎるため好ましくない。
【0046】
[工程(II)水洗浄]
次に、上記で得られたポリマーに水を加え攪拌処理を行い水洗した後、固液分離する。この時のポリマーと水の割合は、水が多い方が好ましいが、通常、浴比3以上が選択される。本発明では洗浄を効率良く行うためするため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。
【0047】
[工程(III)酸処理]
次に、上記で得られたポリマーに水と酸を加え攪拌することよって脱イオン化処理後、固液分離を行う。本発明の酸処理に用いる酸は、ポリマーを分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸などの無機酸、炭酸およびプロピル酸などの有機酸が挙げられ、これらを組み合わせて使用しても良い。なかでも酢酸がより好ましく用いられるが、硝酸のようなポリアリーレンスルフィド樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
・・・
【0051】
以上のように、本発明では上記の有機溶媒処理、水洗、酸処理が何れも必要であり、かつこれらをその順番で実施することにより耐熱性と反応性のバランスの取れたポリアリーレンスルフィド樹脂を得る。また、本発明における固液分離の方法は特に制限は無く既知の方法、具体的にはスクリーン分離、濾過、遠心分離などの方法が好ましく用いられる。このようにして得られたポリアリーレンスルフィドを含むスラリーは上記酸処理の後、固液分離して乾燥工程に導入しても良いが、更に水洗などの工程で洗浄し固液分離した後に乾燥しても良い。」

オ 「【0069】
実施例1
攪拌機付きオートクレーブに硫化ナトリウム9水塩6.005kg(25モル)、酢酸ナトリウム0.205kg(2.5モル)およびN?メチル-2-ピロリドン(以下NMPと略称する)5kgを仕込み、窒素を通じながら徐々に205℃まで昇温し、水3.6リットルを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後、1,4-ジクロロベンゼン3.719kg(25.3モル)ならびにNMP3.7kgを加えて、窒素下に密閉し、270℃まで昇温後、270℃で2.5時間反応した。冷却後、反応生成物を100℃に加熱されたNMP10kg中に投入して、約30分間攪拌し続けたのち、濾過し、さらに90℃の温水15Kgで4回洗浄、濾過を繰り返した。これを90℃に加熱されたpH6の酢酸水溶液25Kg中に投入し、約30分間攪拌し続けた際pHが6.4となった。次いで窒素雰囲気下150℃で5時間乾燥して、溶融粘度450ポアズ、発生ガス量0.3%、ナトリウム含有量580ppmのPPS-1を得た。」

(3)甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
ア 「2.特許請求の範囲
1.有機極性溶媒の存在下、アルカリ金属硫化物またはアルカリ金属硫化物形成性化合物とジハロ芳香族化合物を反応させて、ポリフェニレンサルファイド樹脂を製造する方法であって、
(1)有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物またはアルカリ金属形成性化合物とジハロ芳香族化合物の実質的に等モルを、反応温度160?290℃において、重合率が少なくとも97%に達するまで反応せしめる工程、
(2)上記(1)の工程により得られた反応混合液を50?200℃の温度に於いて熱時固液分離し、さらに、分離された実質的にポリフェニレンサルファイドポリマーと副生アルカリ金属ハロゲン化物からなる固形分を、あらかじめ50?200℃に加温された有機アミド溶媒にて洗浄して、未反応原料、オリゴマー及び反応により生成する重合阻害物質を除去し、ポリマーの溶融結晶化温度を高める工程、ならびに
(3)上記(2)の工程により得られた実質的にポリフェニレンサルファイドポリマーと副生アルカリ金属ハロゲン化物とからなる固形分の有機アミド溶媒スラリーを反応温度160?290℃、反応時間10分?30時間で再反応せしめ高分子化させる工程
上記少なくとも3工程を含むことを特徴とする、溶融結晶化温度が高く、結晶化速度が大きい高分子量ポリフェニレンサルファイド樹脂の製造方法。
2.(1)の工程におけるジハロ芳香族化合物がp-ジクロルベンゼンおよびm-ジクロルベンゼンからなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の方法。
3.(3)の工程におけるスラリー中のポリマーと副生アルカリ金属ハロゲン化物との合計の濃度が5?50重量%の範囲である請求項1または請求項2に記載の方法。」(特許請求の範囲第1?3項)

イ 「第2工程において、反応混合液から未反応原料及び重合阻害物質を除去するためには、先ず、50?200℃の温度において熱時固液分離を行う。すなわち、50?200℃において濾過機、遠心分離機等を用いて、反応混合液を、実質的にPPSポリマーと副生アルカリ金属ハロゲン化物からなる固形分と、未反応原料及び重合阻害物質を含有する有機アミド及び微量の水からなる液体とに分離する。固液分離時の温度は前記の環状オリゴマー及び線状オリゴマーの除去率に影響を与える。すなわち、温度が低いとオリゴマーのうち比較的低分子量のもののみが有機アミドに溶解するに過ぎず、本発明の目的を達することができない。この固液分離温度は好ましくは80?180℃である。
さらに、分離された実質的にPPSポリマーと副生アルカリ金属ハロゲン化物とからなる固形分は、予め50?200℃に加温された有機アミドにより洗浄する。具体的には、再スラリー化し固液分離を繰返しても良いし、再スラリー化せずに加温された溶媒を固形分にスプレーすることにより洗浄しても良い。洗浄は2回以上繰返すことが望ましい。洗浄に使用する有機アミドは純度が高く、実質的に無水でなくてはならない。洗浄終了後には、-Cl末端ポリマー(当審注:式は省略。)、-SNa末端ポリマー(当審注:式は省略。)、副生アルカリ金属ハロゲン化物および有機アミド溶媒から成る組成物となる。
かかる粗PPSポリマーの洗浄によって、加温された溶媒に溶出する低分子量の未反応原料および重合阻害物質がほぼ完全に除去される。これにより、次工程における再重合反応が円滑に進み、最終目的物中の低分子量成分の含有量を極度に低減できるので、結晶温度(TC_(2))が高く、結晶化速度が大きい高分子量PPSポリマーが得られる。また、低分子量成分の含有量が極度に低減されるため成形加工時等に発生するガスを著しく低減することができる。なお、本工程に使用された有機アミドは微量の重合阻害物質を含有するが(副生食塩は含有せず)、通常の方法である蒸留法により低沸成分、高沸成分を除去し、再使用に供することができる。」(第5頁右上欄11行?同頁右下欄12行)

ウ 「第3工程は、第2工程において得られた前記組成のPPSスラリーを反応温度160?290℃、より好ましくは200℃?260℃、反応時間10分?30時間、より好ましくは1?5時間再反応せしめ高分子化させる工程である。・・・
第3工程終了後のスラリーは通常の公知の方により副生アルカリ金属ハロゲン化物を分離し、純度の高いPPSポリマーとすることができる。具体的には、大部分の溶媒をフラッシュ蒸発または濾過等で分離後または分離しないで、イオン交換水で食塩のような副生アルカリ金属ハロゲン化物を溶解し、数回洗浄し、乾燥する。または、酸性水溶液で処理、アセトン等の低沸点溶剤処理等の後にイオン交換水にて十分に洗浄し、さらに残存する水分を蒸発し、乾燥ポリマーを得る。」(第5頁右下欄13行?第6頁左上欄12行)

エ 「実施例2
100lのオートクレーブにフレーク状硫化ソーダ12.83kg(0.1kモル、純度60.81%)、NMP30.00kgを仕込み、窒素気流下に内温が204℃に達する迄加熱攪拌し脱水した。流出液4.58kg中、水は98.5%であった。脱水工程中の硫化水素として損失分は硫化ソーダに換算して0.38モル%であった。脱水終了後170℃迄冷却してからp-ジクロルベンゼン14.70kg(0.1kモル)を、NMP10.00kgに60℃まで加温溶解後加え、窒素ガスにて1kg/cm2G加圧し、系を閉じて230℃で2時間、さらに260℃で1時間重合反応後120℃迄冷却し、320メッシュの金網を濾材とする加圧濾過機へ移し熱時濾過した。
固形分を新しいNMP40kgで再スラリー化し、120℃で30分間攪拌後、熱時濾過した。同様の操作をさらに2回行った後、固形分をオートクレーブに戻し新しいNMP45kg(固形分濃度約30%)を加え、240℃3時間高分子化反応を行った。冷却後、加圧濾過して大部分のNMPを除去後、50lのイオン交換水で2回、40lのアセトンで2回、さらに80℃、40lのイオン交換水で4回ポリマーを洗浄後、80℃で減圧乾燥して高分子化線状PPSを得た。」(第6頁右下欄17行?第7頁左上欄20行)

(4)甲4に記載された事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】極性有機溶媒の存在下芳香族ポリハロゲン化合物とアルカリ金属硫化物との縮合反応によつて得られた反応終了後の極性有機溶媒を含んだポリフエニレンサルフアイドのスラリーに無機酸または有機酸を加え、pH6以下で撹拌洗浄し、ろ(当審注:さんずいに戸。)過、水洗、乾燥することを特徴とするポリフエニレンサルフアイドの精製方法。」

イ 「「問題点を解決するための手段」
本発明は上記目的を達成するもので、極性有機溶媒の存在下芳香族ポリハロゲン化合物とアルカリ金属硫化物との縮合反応によつて得られた反応終了後の極性有機溶媒を含んだPPSスラリーに無機酸または有機酸を加え、pH6以下で撹拌洗浄し、ろ(当審注:さんずいに戸。)過、水洗、乾燥することを特徴とするPPSの精製方法である。」(第2頁左欄12?18行)

ウ 「「作用」
本発明はPPS製造工程中に精製工程を挿入したものであり、PPS製造の際に反応終了後のPPSスラリーをpH6以下で撹拌洗浄することにより、ハロゲン化アルカリ金属及び未反応アルカリ金属硫化物の含量の極めて少ないPPSが得られるのである。」(第2頁左欄47行?同頁右欄2行)

(5)甲5に記載された事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させるポリアリーレンスルフィドの製造方法に関し、さらに詳しくは、アルカリ金属水硫化物を含む硫黄源とアルカリ金属水酸化物とを組み合わせて使用し、重合反応中での副反応や分解反応を抑制することにより、高純度のポリアリーレンスルフィドを安定的かつ高収率で製造する方法に関する。また、本発明は、高純度のポリアリーレンスルフィドに関する。
【0002】
本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィドは、溶融加工時にガス発生の原因となる低沸点不純物の含有量が顕著に低減され、高性能、高品質の成形加工品の提供を可能とするものである。本発明のポリアリーレンスルフィドは、有機アミド溶媒の分解と副反応に起因する窒素含有量が極めて低い。そのため、本発明のポリアリーレンスルフィドは、重合後の洗浄処理の違いなどに伴う溶融粘度の変動が少なく、安定した溶融粘度にすることができる。」

イ 「【0073】
9.後処理工程:
本発明の製造方法において、重合反応後の後処理は、常法によって行うことができる。例えば、重合反応の終了後、冷却した生成物スラリーをそのまま、あるいは水などで希釈してから、濾別し、洗浄・濾過を繰り返して乾燥することにより、PASを回収することができる。本発明の製造方法によれば、粒状ポリマーを生成させることもできるため、スクリーンを用いて篩分する方法により粒状ポリマーを反応液から分離することが、副生物やオリゴマーなどから容易に分離することができるため好ましい。生成物スラリーは、高温状態のままでポリマーを篩分してもよい。
【0074】
上記濾別(篩分)後、PASを重合溶媒と同じ有機アミド溶媒やケトン類(例えば、アセトン)、アルコール類(例えば、メタノール)等の有機溶媒で洗浄することが好ましい。有機溶媒は、無水物を使用することができるが、不純物をより効率良く除去するには、含水有機溶媒を使用することが好ましく、1?20重量%の水を含有するアセトンを使用することがより好ましい。PASを高温水などで洗浄してもよい。生成PASを、酸や塩化アンモニウムのような塩で処理することもできる。
【0075】
10.PAS:
本発明の製造方法によれば、溶融加工時にガスを発生させる低沸点不純物の含有量が顕著に低減されたPASを得ることができる。このような低沸点不純物の含有量は、熱重量解析装置を用いて、加熱による重量減少率を測定することにより定量することができる。本発明の製造方法により得られるPASは、有機アミド溶媒の分解反応などの副反応に伴う末端官能基の導入などの変性が少なく、その点でも、高純度、高品質のポリマーであり、電子機器分野や繊維などでの用途展開が期待される。また、本発明の製造方法によれば、高分子量(高溶融粘度)のPASを製造することも可能である。
【0076】
本発明のPASの溶融粘度(温度310℃、剪断速度1216sec^(-1)で測定)は、通常1?3000Pa・s、好ましくは3?2000Pa・s、より好ましくは10?1500Pa・sである。PASの溶融粘度が低すぎると、機械物性が不十分となり、高すぎると、溶融流動特性が低下し、成型加工性が低下する。
【0077】
有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とをアルカリ金属水酸化物の存在下に重合させて得られた従来のPASは、洗浄方法の違いやレジンpHの違いなどにより、溶融粘度が著しく変動する。例えば、重合後の洗浄工程において、PASを酸処理(酸または塩化アンモニウムのような塩で処理)すると、一般にレジンpHが酸性になる。他方、酸洗浄を行わなかったり、水酸化ナトリウムのようなアルカリで処理すると、一般にレジンpHがアルカリ性になる。レジンpHがアルカリ性であって、かつ高くなるほど、PASは、重合反応系に存在していたナトリウムなどのアルカリ金属イオンによって一種のイオン架橋がなされており、レジンpHが酸性のPASに比べて溶融粘度が高く検出される。」

ウ 「【0101】
[実施例1]
20Lのオートクレーブに、N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」と略記)5700gを仕込み、窒素ガスで置換後、約1時間かけて、撹拌機の回転数を250rpmで撹拌しながら、100℃まで昇温した。100℃到達後、 硫黄源水溶液1990g(NaSH=21.9モル及びNa_(2)S=0.4モルを含む)、及びNMP1000gを加え、約2時間かけて、徐々に200℃まで昇温し、水729g、NMP1370g、及び0.70モルの硫化水素を系外に排出した。したがって、脱水工程後にオートクレーブ内に残留する混合物中の有効硫黄源(有効S)量は、21.6モルとなり、ΣOHは、1.1モルとなり、水分量は、0.0モルとなった。
【0102】
上記脱水工程の後、170℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン(以下、「pDCB」と略記)3236g(1.015モル/有効S1モル)と、NMP2800gとを加えたところ、缶内温度は130℃になった。180℃まで30分間かけて昇温した後、水酸化ナトリウム(NaOH)の添加を開始し、重合反応系のpHを11.5?12.0に制御した。引き続き、撹拌機の回転数250rpmで撹拌しつつ、180℃まで30分間かけて昇温し、さらに、180℃から220℃までの間は60分間かけて昇温した。その温度で60分間反応させた後、230℃まで30分間かけて昇温し、230℃で90分間反応を行い、前段重合を行った。
【0103】
前段重合工程を通して、重合反応系のpHを11.5?12.0の範囲に維持するように、ポンプを用いて濃度73.7重量%のNaOH水溶液を連続的に添加した。前段重合終了時点でのpDCBの反応率は90%であった。NaOH水溶液を全量添加した後のΣOH/有効Sが1.05となるように、NaOH水溶液1180gを添加した。NaOH水溶液の全量添加後の水分量は、1.74モルであった。
【0104】
上記重合反応において、y(ΣOH/有効S)が、xに対して、常に、0≦y-x<0.2の関係を満足するように、NaOH水溶液の連続的添加量を制御した。ジハロ芳香族化合物の消費率は、一定時間ごとに反応液をサンプリングして測定した。
【0105】
前段重合終了後、直ちに撹拌機の回転数を400rpmに上げ、水340gを圧入した(缶内の合計水量=2.6モル/有効S1モル)。水圧入後、260℃まで1時間で昇温し、その温度で4時間反応させ後段重合を行った。後段重合終了時点でのpDCBの反応率は99%であった。後段重合終了時点での系のpHはl0.0であった。
【0106】
後段重合終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンで粒状ポリマーを篩別し、次いで、アセトン洗いを3回、水洗を3回、0.3%酢酸洗を行い、その後、水洗を4回行い、洗浄した粒状ポリマーを得た。粒状ポリマーは、105℃で13時間乾操した。このようにして得 られた粒状ポリマーは、収率が95%で、溶融粘度が151Pa・sで、加熱による重量減少率が0.39重量%であった。結果を表1に示す。」

(6)甲6に記載された事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0005】従来、洗浄時の流動層表面20の高さや舞い上がり22の監視について、固定層式活性炭吸着水槽10の側面に縦長の透明の窓10aを設け、目視により水槽内部の流動層表面20の高さや活性炭の舞い上がり状態を検知していた。すなわち、監視人が所定時間に固定層式活性炭吸着水槽10に出かけていき、目視により水槽内部の流動層表面20の高さや活性炭の舞い上がり状態を確認して、切換弁17aの開度を適切に調整し、流動層19が適切な膨張程度となり、舞い上がり22が発生しないように調整していた。」

2 取消理由通知書に記載した取消理由について
(1)甲1に記載された発明
甲1には、上記アの請求項1に着目すると、以下の発明が記載されている。

「有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させてポリアリーレンスルフィドを生成する重合工程;
生成したポリアリーレンスルフィドを含有する反応液からポリアリーレンスルフィド粒子を分離する分離工程;
分離したポリアリーレンスルフィド粒子を、水、有機溶媒、及び、水と有機溶媒との混合溶液からなる群より選ばれる少なくとも一種の洗浄液を用いて洗浄する工程であって、洗浄槽内において、ポリアリーレンスルフィド粒子を含有する水性スラリーを下方に進行させるとともに、洗浄液を上方に進行させて該水性スラリーと連続的に向流接触させて向流洗浄を行い、ポリアリーレンスルフィド粒子を下方から排出し、洗浄排液を上方から排出する、向流洗浄工程;
洗浄槽から排出される洗浄排液を、マイクロスリットフィルターが装填されたポリアリーレンスルフィド粒子再分離手段に供給して、ポリアリーレンスルフィド粒子を捕捉し、次いで、マイクロスリットフィルターから、ポリアリーレンスルフィド粒子を再分離し排出する、ポリアリーレンスルフィド粒子の再分離工程;及び、
排出されたポリアリーレンスルフィド粒子を回収する回収工程;
を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明において、「分離したポリアリーレンスルフィド粒子」は、湿潤状態であって液体を含むスラリー状であることは明らかであり、甲1発明の「分離したポリアリーレンスルフィド粒子」及び「ポリアリーレンスルフィド粒子を含有する水性スラリー」は、本件発明1の「固体のポリアリーレンスルフィド及び液体を含む第1スラリー」に相当する。
甲1発明の「水、有機溶媒、及び、水と有機溶媒との混合溶液からなる群より選ばれる少なくとも一種の洗浄液」は、有機溶媒を含む点で、本件発明1の「第1溶媒」と共通する。
甲1発明の「洗浄槽」は、その内部で、「ポリアリーレンスルフィド粒子を含有する水性スラリーを下方に進行させる」ものであるから、本件発明1の「第1沈降装置」に相当する。
甲1発明の「ポリアリーレンスルフィド粒子を含有する水性スラリーを下方に進行させるとともに、洗浄液を上方に進行させて該水性スラリーと連続的に向流接触させて向流洗浄を行い」は、本件発明1の「第1スラリーを第1沈降装置中に導入し」、「第1溶媒を、該第1沈降装置を通して、該第1スラリーに対して対向流の方向で流し、該第1スラリーが該第1溶媒に接触して」に相当する。
甲1発明の「向流洗浄」により、ポリアリーレンスルフィド粒子と洗浄液を含むスラリーが形成されることは明らかであるから、これは本件発明1の「第2スラリー」に相当するといえる。
そして、甲1発明は、ポリアリーレンスルフィドの製造方法であるが、向流洗浄工程を含むものであり、この洗浄工程に着目すると、ポリアリーレンスルフィドを洗浄する方法であるともいえるものである。

そうすると、本件発明1と甲1発明は、「ポリアリーレンスルフィドを洗浄する方法であって、
固体のポリアリーレンスルフィド及び液体を含む第1スラリーを第1沈降装置中に導入し;
第1溶媒を、該第1沈降装置を通して、該第1スラリーに対して対向流の方向で流し、該第1スラリーが該第1溶媒に接触して第2スラリーを形成する;
ことを含む方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本件発明1は、「第1溶媒」が「有機アミド」を含み、続いて、「該第2スラリーを第2沈降装置中に導入し;そして水及び酸を含み該第1溶媒と異なる第2溶媒を、該第2沈降装置を通して、該第2スラリーに対して対向流の方向で流し、該第2スラリーが該第2溶媒に接触して第3スラリーを形成する」ことを含むのに対し、甲1発明は、「第1溶媒」が「水、有機溶媒、及び、水と有機溶媒との混合溶液からなる群より選ばれる少なくとも一種」であり、続いて、ポリアリーレンスルフィド粒子と洗浄液を含むスラリーを処理する工程が特定されていない点。

イ 検討
上記相違点について検討する。
甲1には、甲1発明の分離工程により分離回収したPAS粒子を、水、有機溶媒、及び、水と有機溶媒との混合溶液からなる群から選ばれる少なくとも一種の洗浄液によって洗浄処理をする洗浄工程を行うこと、上記有機溶媒としては、重合溶媒と同じ有機アミド溶媒が好ましいこと、上記洗浄工程は、甲1発明の向流洗浄工程を含むこと、及び、向流洗浄工程を複数工程設けてもよいことが記載されており(上記1(1)カの[0084]、[0087]、[0090]及び[0093])、上記分離回収したPAS粒子を、重合溶媒と同じ有機アミド溶媒を洗浄液として、複数回の向流洗浄を行うことが記載されているといえる。
また、甲1には、PASの結晶化度を高めるために、酢酸等の酸性化合物の水溶液を接触させる酸処理を行うことがあること、この酸処理に、向流洗浄工程を適用しすることもでき、PAS粒子を含有するスラリーに酸性化合物を添加することが記載されている(上記1(1)カの[0105])。
しかしながら、甲1には、上記向流洗浄工程を複数工程設ける場合に、各向流洗浄工程を異なる洗浄液を用いて行うことは記載されておらず、上記酸処理は、水性スラリーに酸性化合物を添加して行うものであり、酸性化合物の水溶液を洗浄液とし、PASの水性スラリーと向流接触させる工程ではない。更に、甲1には、洗浄工程において、有機溶剤を用いる洗浄処理を行う場合は、該洗浄工程の後に、有機不純物及び無機塩を除去するために、水による洗浄処理をすることが好ましいことも記載されている(上記1(1)カの[0087])。
これらの記載から、甲1には、重合溶媒と同じ有機アミド溶媒を用いた向流洗浄に続き、有機アミドとは別の洗浄液を用いて向流洗浄を連続して行うことは記載されているとはいえず、有機アミド溶媒を用いた向流洗浄を複数工程行った後に、水による洗浄を行い、更に、PAS粒子の結晶化度を高めるために、PAS粒子の水性スラリーに酸性化合物を添加して向流洗浄を行うことが記載されているにとどまるものである。
一方、甲2には、ポリアリーレンスルフィドを含むスラリーを、重合溶媒と同じ有機溶媒中で撹拌処理し、固液分離した後、次いで、水洗、固液分離をし、さらに、水と酸を加えてスラリーのpHを6?8にした酸処理をすること(上記1(2)ア)、及び、有機溶媒処理、水洗、酸処理の何れも必要であり、かつこれらをその順番で実施することにより耐熱性と反応性のバランスの取れたポリアリーレンスルフィド樹脂を得ること(上記1(2)エの【0051】)が記載されており、これらの記載から、甲2には、有機溶媒処理に続いて酸処理を行うことは記載されていないといえる。
また、甲5には、溶融加工時にガス発生の原因となる低沸点不純物の含有量を低減し、重合後の洗浄処理の違いに伴う溶融粘度の変動が少ないポリアリーレンスルフィドの製造方法において、重合後の後処理は、常法によって、濾別し、洗浄・濾過を繰り返すこと、上記洗浄は、重合溶媒と同じ有機アミド溶媒やアセトン等の有機溶媒で洗浄することが好ましいこと、PASを高温水で洗浄してもよいこと、PASを酸で処理することもできること、アセトン洗浄を3回、水洗を3回、酢酸洗の順で洗浄した実施例が記載されており(上記1(5)ア?ウ)、これらの記載によると、甲5には、重合溶媒と同じ有機アミド溶媒に続き、水洗、酢酸洗の順で洗浄を行うことが記載されているにとどまり、上記有機アミド溶媒による洗浄に続き、酢酸洗を行うことが記載されていないといえる。
そうすると、甲1、甲2及び甲5のいずれにも、ポリアリーレンスルフィドを有機アミドを含む溶媒で洗浄した後、続いて水及び酸を含む溶媒で洗浄することが動機付けられるとはいえず、甲1発明において、有機アミドを含む溶媒を用いた向流洗浄に続き、水及び酸を含む溶媒を用いた向流洗浄を行うことを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ 本件発明1の効果について
本件発明1は、複数の沈降装置において複数の異なる溶媒を用いることによって、「システムのそれぞれの沈降装置内におけるスラリーと溶媒の対向流によって、・・・増大する物質移動速度によって、ポリマーを含むスラリーからの目標の形成の化合物の除去における同等の効率を得るのに必要な溶媒の量を減少させることができ・・・ポリマーの生産速度を向上させ、運転コスト及び廃棄物の生成を減少させることができる」(本件明細書の【0017】)という効果が得られるものである。
また、本件発明1の「有機アミドを含む第1溶媒」を用いることにより、「対向流のNMP流を用いることによって、未反応のジハロ芳香族モノマー(例えばp-ジクロロベンゼン)を溶解して生成物ポリマーから除去することができる」(同【0053】)、「増加した濃度の有機溶媒によって、当初のスラリーの供給流から幾らかの固形物を溶解及び除去することができる。下流の沈降装置においては、水性溶媒を利用することができ、ポリマーを元の有機溶媒キャリアから水性液体へ移動させることができる」(同【0058】)という効果が得られ、更に、「水及び酸を含む第2溶媒」を用いることにより、「液体出口120bにおいて沈降装置101bから引き抜かれる液体は、大部分の有機溶媒(NMP)を(場合によっては)一定量の水性溶媒と共に含む可能性がある。・・・第2沈降装置101bの水性溶媒はまた、生成物ポリマーの塩副生成物のような化合物を溶解することもでき、これらの化合物は対向流によって生成物ポリマーから除去することができる。」(同【0055】)という効果が得られるものである。
そして、本件発明1の効果のうち、特に、「増大する物質移動速度によって、ポリマーを含むスラリーからの目標の形成の化合物の除去における同等の効率を得るのに必要な溶媒の量を減少させることができ」、「ポリマーの生産速度を向上させ、運転コスト及び廃棄物の生成を減少させることができる」(同【0017】)という効果は、甲1、甲2及び甲5に記載も示唆もされておらず、当業者にとって予測し得ないものである。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明、並びに、甲1、甲2及び甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2?25について
本件発明2?25は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記(2)で述べたのと同じ理由により、本件発明2?25は、甲1発明、及び、甲1、甲2及び甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

3 特許異議申立書に記載した申立理由について
(1)甲1に記載された発明
甲1には、上記2(1)で述べたとおりの甲1発明が記載されている。

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、両者は、上記2(2)で述べたとおりの点で一致し、上記相違点で相違する。

イ 検討
相違点について検討する。
まず、甲1、甲2及び甲5には、上記1(1)、同(2)及び同(5)のとおりの事項が記載されており、上記2(2)イで述べたとおり、甲1、甲2及び甲5の記載に基づき、甲1発明において、有機アミドを含む溶媒を用いた向流洗浄に続き、水及び酸を含む溶媒を用いた向流洗浄を行うことを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
また、甲3には、有機極性溶媒の存在下、アルカリ金属硫化物またはアルカリ金属硫化物形成化合物とジハロ芳香族化合物を反応させ、分離されたポリフェニレンサルファイド(PPS)ポリマーと副生アルカリ金属ハロゲン化物とからなる固形分を、50?200℃に加温された有機アミド溶媒で洗浄して、未反応原料、オリゴマー及び重合阻害物質を除去した後、上記PPSポリマーを再反応せしめて高分子化させる方法、上記再反応せしめて高分子化したPPSポリマーは、大部分の溶媒をフラッシュ蒸発または濾過等で分離後または分離しないで、イオン交換水で食塩のような副生アルカリ金属ハロゲン化物を溶解し、数回洗浄する、または、酸性水溶液で処理、アセトン等の低沸点溶剤処理等の後にイオン交換水にて十分に洗浄すること、実施例2では、高分子化反応を行った後、NMPを除去し、高分子化したポリマーをイオン交換水で2回洗浄し、さらにアセトンで2回、イオン交換水で4回洗浄したことが記載されている(上記1(3)ア及びウ)。
しかしながら、甲3には、高分子化したPPSポリマーをイオン交換水で洗浄後に、酸性水溶液で処理することが記載されているにとどまり、有機アミド溶媒での洗浄に続いて酸性水溶液で処理することは記載されていないといえる。
さらに、甲4には、有機極性溶媒の存在下、芳香族ポリハロゲン化合物とアルカリ金属硫化物との縮合反応によって得られた反応終了後の極性有機溶媒を含んだポリフェニレンサルファイドのスラリーに無機酸または有機酸を加え、pH6以下で撹拌洗浄し、ろ過、水洗、乾燥するポリフェニレンサルファイドの精製方法、これにより、ハロゲン化アルカリ金属及び未反応アルカリ金属硫化物の含量の極めて少ないPPSが得られることが記載されている(上記1(4)ア及びウ)。
しかしながら、甲4には、ポリフェニレンサルファイドのスラリーを無機酸または有機酸で洗浄することが記載されているにとどまり、ポリフェニレンサルファイドのスラリーを有機アミド溶媒で洗浄した後、続いて無機酸または有機酸で洗浄することは記載されていない。
また、甲6には、固定層式活性炭吸着水槽における流動層表面や活性炭の舞い上がり状態を確認して、流動層が適度な膨張程度となり、舞い上がりが発生しないように調整することが記載されており(上記1(6))、ポリフェニレンスルフィドを洗浄する方法は何ら記載されていない。
そうすると、甲3、甲4及び甲6の記載に基づき、ポリアリーレンスルフィドを有機アミドを含む溶媒で洗浄した後、続いて水及び酸を含む溶媒で洗浄することが動機付けられるとはいえない。

ウ 本件発明1の効果について
本件発明1は、上記2(2)ウで述べたとおりの効果を奏するものであり、上記イで述べたように、甲3、甲4及び甲6には、ポリアリーレンスルフィドを有機アミドを含む溶媒で洗浄した後、続いて水及び酸を含む溶媒で洗浄することは記載されていないから、本件発明1の上記「増大する物質移動速度によって、ポリマーを含むスラリーからの目標の形成の化合物の除去における同等の効率を得るのに必要な溶媒の量を減少させることができ」、「ポリマーの生産速度を向上させ、運転コスト及び廃棄物の生成を減少させることができる」(本件明細書の【0017】)という効果は、甲3、甲4及び甲6に記載も示唆もされておらず、当業者にとって予測し得ないものである。

エ 小括
したがって、甲1発明において、甲1?甲6の記載に基づいて、有機アミドを含む溶媒を用いた向流洗浄に続き、水及び酸を含む溶媒を用いた向流洗浄を行うことを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(3)本件発明2?25について
本件発明2?25は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記(2)で述べたのと同じ理由により、本件発明2?25は、甲1発明、及び、甲1?甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

第5 むすび
したがって、当審が通知した取消理由及び特許異議申立ての申立理由によっては、本件発明1?25に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件発明1?25に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-09-28 
出願番号 特願2016-517376(P2016-517376)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 河野 隆一朗  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 橋本 栄和
近野 光知
登録日 2019-04-26 
登録番号 特許第6517789号(P6517789)
権利者 ティコナ・エルエルシー
発明の名称 複数の化合物からポリマーを分離するための方法及びシステム  
代理人 梶田 剛  
代理人 横田 晃一  

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