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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G06Q
審判 全部申し立て 2項進歩性  G06Q
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06Q
管理番号 1366991
異議申立番号 異議2020-700340  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-13 
確定日 2020-10-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6626297号発明「販売機システム及び商品選択方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6626297号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6626297号の請求項1?4に係る特許についての出願は,平成27年9月17日に出願され,令和元年12月6日にその特許権の設定登録がされ,令和元年12月25日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,令和2年5月13日に特許異議申立人中島健(以下,「申立人」という。)は特許異議の申立てを行った。


第2 本件発明

特許第6626297号の請求項1?4の特許に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
少なくとも顧客により所望の商品が選択されたことを条件として,選択された商品の排出又は該商品と引換可能な媒体の発行を行う販売機を有する販売機システムであって,
複数の商品の中から所望の商品の選択を受け付ける受付手段と,
所定の出力操作がなされたことを条件として,前記受付手段により受け付けた前記商品に係る情報を前記販売機及び所定の管理装置に対して出力する出力手段と
を有する携帯端末を備え,
前記販売機は,
前記携帯端末により出力された前記商品に係る情報を取得する取得手段と,
前記取得手段により取得された前記商品に係る情報に基づいて,顧客が所望する商品を特定する特定手段と
を備え,
前記管理装置は,
前記販売機で販売する商品の在庫数を記憶する在庫数記憶手段と,
前記携帯端末から受け付けた前記商品に係る情報に基づいて,該商品の在庫状況を前記携帯端末に通知する通知手段と
を備えたことを特徴とする販売機システム。
【請求項2】
前記販売機は,
前記特定手段により特定される前記顧客が所望する商品に関連する関連商品を特定する関連商品特定手段と,
前記関連商品特定手段により特定された関連商品を選択可能に表示する表示手段と
をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の販売機システム。
【請求項3】
前記販売機は,
前記商品に係る情報である二次元コードから読み取ったデータである携帯端末読取データの顧客情報に基づいて,前記顧客に応じた推薦商品を特定する推薦商品特定手段と,
前記推薦商品特定手段により特定される推薦商品を選択可能に表示する表示手段と
をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の販売機システム。
【請求項4】
少なくとも顧客により所望の商品が選択されたことを条件として,選択された商品の排出又は該商品と引換可能な媒体の発行を行う販売機を有する販売機システムにおける商品選択方法であって,
携帯端末における複数の商品の中から所望の商品の選択を受け付ける受付ステップと,
携帯端末における所定の出力操作がなされたことを条件として,前記受付ステップにより受け付けた前記商品に係る情報を前記販売機及び所定の管理装置に対して出力する出力ステップと,
前記販売機における前記携帯端末により出力された前記商品に係る情報を取得する取得ステップと,
前記販売機における前記取得ステップにより取得された前記商品に係る情報に基づいて,顧客が所望する商品を特定する特定ステップと,
前記管理装置が,前記携帯端末から受け付けた前記商品に係る情報に基づいて,該商品の在庫状況を前記携帯端末に通知する通知ステップと
を含んだことを特徴とする商品選択方法。


第3 申立理由の概要

1 申立人は,本件発明1?4は,特許法36条6項1号(以下,「理由1」),同項2号(以下,「理由2」)に規定する要件を満たしていない旨主張する。

2 また申立人は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項1号(以下,「理由3」)に規定する要件を満たしていない旨主張する。

3 さらに申立人は,主たる証拠として特許第4595244号公報(甲第1号証),及び,従たる証拠として,特開2003-217008号公報(甲第2号証),特開2002-183360号公報(甲第3号証),特開2002-7750号公報(甲第4号証),特開2005-202910号公報(甲第5号証),特開2002-189788号公報(甲第6号証)を提出し,請求項1?4に係る特許は特許法29条2項(以下,「理由4」という。)の規定に違反してされたものであるから,請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。


第4 当審の判断

1 理由1(特許法36条6項1号(サポート要件))について
(1)申立人の主張の概要
本件発明1及び4の,管理装置が「前記携帯端末から受け付けた前記商品に係る情報に基づいて,該商品の在庫状況を前記携帯端末に通知する」は,「在庫あり」の場合を含み,メール以外の方法により在庫状況を通知する構成を含み,事後的にメールで品切れが通知されることで,本件発明の課題を解決できるか不明であるため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。

(2)検討
ア はじめに
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを比較し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲ものであるか否かを検討して判断するのが相当である。

イ 請求項1及び4について
(ア)本件発明1及び4の「前記携帯端末から受け付けた前記商品に係る情報に基づいて,該商品の在庫状況を前記携帯端末に通知する」は,文言どおり,「前記携帯端末から受け付けた前記商品に係る情報」に「基づいて」,「該商品の在庫状況」を「前記携帯端末」に「通知する」ものである。

(イ)これに対して,発明の詳細な説明には次の記載がある。
あ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,この特許文献1を用いたとしても,店舗の券売機にて顧客が商品を選択する場合に,どの商品を選ぶべきかで迷いが生じ,その結果として商品選択に時間を要する場合が少なくない。券売機での発券を待つ他の顧客が存在しなければ,この顧客は時間の余裕を持って商品を選択することができる。一方,他の顧客が存在する場合には,顧客が他の顧客に配慮して意図しない商品を購入せざるを得ない状況が生じ得る。
【0006】
特に,顧客が券売機の操作に不慣れな場合には,顧客が商品を選択するまでに多大の時間を要する可能性がある。また,時間の余裕がない顧客が店舗に来店したときに,券売機前に行列ができていると,この顧客は店舗での商品購入を諦めざるを得ず,店舗が商品提供の機会を失する可能性がある。
【0007】
これらのことから,顧客が望む商品を効率的に選択可能とする券売機をいかにして実現するかが重要な課題となっている。かかる課題は,食券等を販売する券売機のみならず,商品を販売する自動販売機等においても同様に生ずる課題である。
【0008】
本発明は,上記従来技術の課題を解決するためになされたものであって,顧客が望む商品を効率良く選択可能とする販売機システム及び商品選択方法を提供することを目的とする。」

い 「【0090】
図11(a)に示す画面は,携帯端末30の表示操作部31に出力されたQRコードを,QRコードリーダ12で読み取り,千円紙幣を投入したときに表示される画面の例である。…(以下省略)
【0091】(省略)
【0092】(省略)
ここで,図11(a)に示した「事前受付」タブが選択された状態で表示される商品について詳しく説明する。図11(a)に示した商品のうち「天ざるそば」は,携帯端末30で事前に選択された商品であり,QRコードの読み取りにより自動的に選択された状態となっている。また,図11(a)に示した商品には,この「天ざるそば」以外に,顧客に対して追加購入のお勧め商品(「おにぎり」,「いなり」及び「大盛」)と,顧客の購入履歴のある商品(「ざるそば」及び「天ぷらそば」)とが含まれている。
【0093】
このようなお勧め商品は,携帯端末30で事前に選択された商品に追加されて選択されることの多い商品が抽出されて表示される。また,このようなお勧め商品の抽出は,商品データ18aに含まれる商品分類情報の設定により実現可能である。具体的には,例えば,商品分類情報を用いてお勧め商品のグループをいくつか設定しておき,商品分類情報で商品毎にお勧め商品のグループとの対応を設定しておくことにより実現可能である。
【0094】(省略)
【0095】(省略)
【0096】
図11(b)の例では,携帯端末読取データ18eの会員個人情報に購買履歴情報に基づいて,顧客の購入履歴のある商品のみが表示されているが,例えば当日ランキング上位の商品を含めて表示するようにしてもよい。」

う 「【0106】
また,上述の本実施例では,在庫情報を券売機10でローカルに管理するものとしたが,本発明はこれに限定されるものではない。例えば,券売機10とセンタ管理装置20を通信可能に接続して,券売機10で管理している在庫情報が更新されたならば,センタ管理装置20に対してもリアルタイムで通知し,携帯端末30で商品選択時にセンタ管理装置20から在庫情報を取得して在庫が無い商品の選択を制限するようにしてもよい。また,携帯端末30で選択された商品の情報をセンタ管理装置20にも送信するようにしておいて,携帯端末30で選択された商品が品切れになったならば,その会員に品切れになった旨のメールを送信するようにしてもよい。また,かかるメールを携帯端末30で受信した場合には,メール上のリンクを選択することにより食券選択アプリを起動して,商品の再選択をスムーズに行えるようにしてもよい。また,このような場合に,顧客の購入履歴のある商品や,当日売上ランキング上位の商品などの含むメニューを表示して,商品の再選択を促すようにしてもよい。」

(ウ)上記(イ)「あ」のとおり,本件発明は,店舗の券売機にて顧客が商品の選択をする場合に,商品の選択に時間を要する場合があるため,顧客が望む商品を効率良く選択を可能とする券売機を実現することを,発明が解決しようとする課題としている。
発明の詳細な説明には,当該課題の解決手段の態様として,上記(イ)「う」のとおりの記載がある。「携帯端末30で選択された商品の情報をセンタ管理装置20にも送信するようにしておいて,携帯端末30で選択された商品が品切れになったならば,その会員に品切れになった旨のメールを送信するようにしてもよい。」(態様1)との記載によると,センタ管理装置が携帯端末から選択された商品の情報を受け付けること,及び,センタ管理装置は携帯端末から受け付けた商品の情報に基づいて,「品切れ」という「商品の在庫状況」をメールにより携帯端末に通知することが開示されている。また,上記(イ)「う」の「かかるメールを携帯端末30で受信した場合には,メール上のリンクを選択することにより食券選択アプリを起動して,商品の再選択をスムーズに行えるようにしてもよい。」との記載によると,「品切れ」という「商品の在庫状況」を通知するメールには食券選択アプリを起動するリンクが含まれており,該リンクを選択することで食券選択アプリが起動し,商品の再選択が可能となることが開示されている。そして,かかるメール上のリンクに基づく再選択が可能な商品は,品切れとなっておらず,「商品の在庫状況」に基づいて再選択の対象とされることは明らかである。
このように,携帯端末に通知されるメールには,品切れになった商品及び品切れではなく選択可能な商品を示す情報が含まれており,この情報は「商品の在庫状況」を示すものといえる。
また,態様1とは別の態様として,上記(イ)「う」の「券売機10とセンタ管理装置20を通信可能に接続して,券売機10で管理している在庫情報が更新されたならば,センタ管理装置20に対してもリアルタイムで通知し,携帯端末30で商品選択時にセンタ管理装置20から在庫情報を取得して在庫が無い商品の選択を制限するようにしてもよい。」(態様2)との記載によると,取得した在庫情報に基づき,在庫が無い商品については商品の選択の制限を行うものであるから,商品選択アプリを用いて,商品選択時に,センタ管理装置20が携帯端末30に在庫情報を取得させるという,メール以外の方法により,在庫情報を通知する態様が開示されているといえる。
さらに,上記(イ)「い」の「このようなお勧め商品は,携帯端末30で事前に選択された商品に追加されて選択されることの多い商品が抽出されて表示される。」との記載のように,本件発明は,携帯端末30で事前に商品を選択した顧客が商品の追加購入をすることが想定されており,上記(イ)「い」の「また,このような場合に,顧客の購入履歴のある商品や,当日売上ランキング上位の商品などの含むメニューを表示して,商品の再選択を促すようにしてもよい。」との記載から,商品の再選択には,商品の追加購入が含まれることは明らかであって,これにより,効率良く商品の選択が可能となることも明らかである。

(エ)そうすると,「管理装置」が備える「通知手段」に関して,発明の詳細な説明には,「品切れ」という状況だけではなく,「品切れとなっていない」という状況を通知することが開示されていることから,これらの記載を総合すると「商品の在庫状況」を通知することが記載されていると認められるとともに,「メール」のみならず「商品選択アプリ」という手段が開示されていることから,これらの記載を総合すると,通知する手段として「通知手段」が記載されていると認められる。
このため,「前記管理装置」は「前記携帯端末から受け付けた前記商品に係る情報に基づいて,該商品の在庫状況を前記携帯端末に通知する通知手段」を備え(本件発明1),「前記携帯端末から受け付けた前記商品に係る情報に基づいて,該商品の在庫状況を前記携帯端末に通知する」(本件発明4)ことが記載されているといえる。
そして,本件発明1及び本件発明4において,在庫状況を通知する構成を採用することで,在庫のある商品を選択することができることから,発明の詳細な説明【0008】の顧客が望む商品を効率よく選択可能とするとの課題を解決できることは明らかである。そして,事後的にメールで品切れが通知される場合においても,当該課題を解決できることは明らかである。
よって,本件発明1及び4の,管理装置が「前記携帯端末から受け付けた前記商品に係る情報に基づいて,該商品の在庫状況を前記携帯端末に通知する」ことは,発明の詳細な説明に記載された発明で,これにより当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるから,サポート要件を満たしている。

(オ)以上より,本件発明1及び4は,発明の詳細な説明に記載したものであるから,申立人の主張は採用できない。

ウ 請求項2及び3について
これらの請求項は,請求項1の従属項であり,上記イと同様の理由により,サポート要件に違反するものでない。

2 理由2(特許法36条6項2号(明確性))について
(1)申立人の主張の概要
ア 本件発明1の「所定の出力操作がなされたことを条件として,前記受付手段により受け付けた前記商品に係る情報を前記販売機及び所定の管理装置に対して出力する出力手段」,及び,本件発明4の「携帯端末における所定の出力操作がなされたことを条件として,前記受付ステップにより受け付けた前記商品に係る情報を前記販売機及び所定の管理装置に対して出力する出力ステップ」について,携帯端末の「1つの出力操作」によって,どうやって販売機及び管理装置に対して「同じ手段によって同時」に商品に係る情報を出力することができるのかが不明である。

イ 本件発明1の,携帯端末が「所定の出力操作がなされたことを条件として,前記受付手段により受け付けた前記商品に係る情報を前記販売機及び所定の管理装置に対して出力する出力手段」を有していることについて,「出力手段」が二次元コードの出力を含むのかが理解できず,発明が不明確である。

(2)検討
ア はじめに
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そのため,本願発明に係る特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かについて,検討する。

イ 請求項1及び4について
(ア)請求項1の携帯端末が「所定の出力操作がなされたことを条件として,前記受付手段により受け付けた前記商品に係る情報を前記販売機及び所定の管理装置に対して出力する出力手段」の「出力手段」,及び,請求項4の「携帯端末における所定の出力操作がなされたことを条件として,前記受付ステップにより受け付けた前記商品に係る情報を前記販売機及び所定の管理装置に対して出力する出力ステップ」の記載における「出力ステップ」は,携帯端末における「所定の出力操作がなされたこと」を「条件」とする「受け付け」た「商品に係る情報」の「出力」の機能に対応する手段及びステップを指す文言として用いられており,携帯電話においてこの機能を複数の機能手段やステップの組み合わせによって実現することを積極的に排除する趣旨の文言として用いられていないことが明らかである。そして,このような「出力手段」が二次元コードを出力することを積極的に排除する趣旨の文言として用いられていないことも明らかである。
そして,このような用語法は一般的なものであるから,願書に添付した明細書の記載や図面を参酌するまでもなく,第三者に不測の不利益を生じさせるものでもなく,この観点から明確でないものということもできない。

(イ)申立人は,上記(ア)の請求項1及び4の記載において,携帯端末の「一つの出力操作」の実行により販売機及び管理装置に対して「同じ手段によって同時に」商品に係る情報が出力されることが読み取れると主張している(主張1)。また,請求項1の「出力手段」が二次元コードの出力を含むのかが理解できず,発明が不明確であると主張している(主張2)。
しかし,この主張1は請求項1の「出力手段」及び請求項4の「出力ステップ」の文言が複数の機能手段やステップの組み合わせを含まないものであり,いわば単独の機能手段やステップであると解釈することを前提としたものであるところ,(ア)に示したとおり,上記文言をそのように解釈すべき根拠はない。
なお,申立人は,発明の詳細な説明の段落【0105】【0106】の記載を引用した主張も行っているところ,これらの記載の内容は(ア)に示した用語法と整合するものであり,申立人における,これらの記載からどうやって携帯端末の「一つの出力操作」の実行により販売機及び管理装置に対して「同じ手段によって同時に」商品に係る情報を出力するかが不明である旨の主張は,明確性要件違反の主張として失当である。
さらに,主張2について,請求項1の出力手段の「前記販売機及び所定の管理装置に対して」との文言に着目をして主張を行っているところ,「出力手段」は(ア)に示したとおりであり,この文言をそのように解釈すべき根拠はなく,明確性要件違反の主張として失当である。

ウ 請求項2及び3について
これらの請求項は,請求項1の従属項であり,上記イと同様の理由により,明確性要件に違反するものでない。

3 理由3(特許法36条4項1号(実施可能要件))について
(1)申立人の主張の概要
ア 本件特許発明においては,所定の出力操作がなされたことを条件として,商品に係る情報を販売機及び管理装置に対して出力することが規定されている。しかしながら,携帯端末が商品に係る情報を管理装置に対して出力する方法が不明であり,発明の詳細な説明を参照しても,当業者が請求項に係る発明を実施することができない。すなわち,明細書の記載を考慮しても,携帯端末の1つの出力操作によって,どうやって販売機及び管理装置に対して同じ手段によって同時に商品に係る情報を出力することができるのか不明である。
イ 本件特許発明においては,管理装置が,携帯端末から受け付けた商品に係る情報に基づいて,該商品の在庫状況を携帯端末に通知することが規定されている。しかしながら,「管理装置が,商品の在庫状況を携帯端末に通知すること」の具体的内容が理解できず,ましてやどのような態様で通知を行えばよいのかについて出願時の技術常識に基づいても当業者が理解できないため,当業者が請求項に係る発明の実施をすることができない。すなわち,明細書の記載を参酌しても,「管理装置が,商品の在庫状況を携帯端末に通知すること」の技術的意義が不明であり,具現化すべき内容を当業者が理解できないため,当業者が請求項に係る発明の実施をすることができない。

(2)検討
ア はじめに
特許法36条4項1号は,発明の詳細な説明の記載は,その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないことを規定するものであり,同号の要件を充足するためには,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。

イ 「携帯端末」における「所定の出力操作」を「条件とし」て「商品に係る情報」を「販売機及び所定の管理装置に対して出力する」ことについて
請求項1?3の「出力手段」及び請求項4の「出力ステップ」の文言が複数の機能手段やステップの組み合わせを含まない単独の機能手段やステップであると解釈できないことは,上記2において記載したとおりである。
申立人は,発明の詳細な説明の段落【0105】【0106】の記載を引用して,これらの記載を考慮しても,携帯端末の1つの出力操作によって,どうやって販売機及び管理装置に対して同じ手段によって同時に商品に係る情報を出力することができるかが不明であると主張するが,上記2に示したことに照らせば,この主張は,前提において失当である。

ウ 「管理装置」が「携帯端末から受け付けた商品に係る情報に基づいて」「商品の在庫状況」を「携帯端末」に「通知する」ことについて
(ア)発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【0023】
次に,本発明に係る券売機システムのシステム構成について説明する。図2は,券売機システムのシステム構成を示す図である。同図に示すように,この券売機システムは,券売機10と,センタ管理装置20と,携帯端末30とを有する。また,センタ管理装置20と,携帯端末30とは,インターネット等の通信網2を介してデータ通信可能に接続される。」

「【0105】
なお,上述の本実施例では,携帯端末30で選択された商品に関する情報を含むQRコードを表示操作部31に表示して,このQRコードを券売機10が読み取ることにより携帯端末30で選択した商品に関する情報を券売機10に渡すものとして説明してきたが,本発明はこれに限定されるものではない。例えば,携帯端末30で選択された商品に関する情報を携帯端末30が内蔵するNFC(Near Field Communication)チップに書き込み,券売機10でNFCチップに書き込まれた情報を読み込むようにすることにより選択された商品に関する情報を券売機10に渡せるようにしてもよい。また,Bluetooth(登録商標)等の近距離無線通信を使用して携帯端末30から券売機10でデータを送信するようにしてもよい。
【0106】
また,上述の本実施例では,在庫情報を券売機10でローカルに管理するものとしたが,本発明はこれに限定されるものではない。例えば,券売機10とセンタ管理装置20を通信可能に接続して,券売機10で管理している在庫情報が更新されたならば,センタ管理装置20に対してもリアルタイムで通知し,携帯端末30で商品選択時にセンタ管理装置20から在庫情報を取得して在庫が無い商品の選択を制限するようにしてもよい。また,携帯端末30で選択された商品の情報をセンタ管理装置20にも送信するようにしておいて,携帯端末30で選択された商品が品切れになったならば,その会員に品切れになった旨のメールを送信するようにしてもよい。また,かかるメールを携帯端末30で受信した場合には,メール上のリンクを選択することにより食券選択アプリを起動して,商品の再選択をスムーズに行えるようにしてもよい。また,このような場合に,顧客の購入履歴のある商品や,当日売上ランキング上位の商品などの含むメニューを表示して,商品の再選択を促すようにしてもよい。」

(イ)上記1(2)イ(ウ)に記載したとおり,段落【0106】には,センタ管理装置は携帯端末から受け付けた商品の情報に基づいて,品切れという商品の在庫状況をメールにより携帯端末に通知すること,及び,品切れとなっていない商品の情報がセンタ管理装置から携帯端末に食券選択アプリにおいて通知されることが記載されている。
そして,券売機での商品選択の実態として,商品を1個ずつで選択する態様のみならず,同一商品を複数選択する態様なども一般的な態様であることから,一回の選択操作内においても品切れが生じ得ることであって,このような場合に,品切れとなったという事実を知ることや,再選択の対象となり得る品切れになっていない商品はどの商品であるかを知ることは顧客にとって有益であることは明らかである。
このため,通知手段の具体的な態様としてメールや食券選択アプリが開示されているとともに,券売機における一般的な使用態様を考慮すれば,該事項により期待される作用は明らかであるから技術的意義も不明であるとは認められない。
してみると,「管理装置」が「携帯端末から受け付けた商品に係る情報に基づいて」「商品の在庫状況」を「携帯端末」に「通知する」ことについて,当業者は過度の試行錯誤を要することなく実施することができるものである。

(ウ)申立人は,このような態様においては,券売機が携帯端末に品切れを通知するかが明らかでない旨,通知する場合にはメールで品切れを通知することの実益が不明である旨,通知しない場合には品切れの場合にも商品を購入できてしまい,その後にメールで通知されることの実益が不明である旨,等を主張している。
しかしながら,これらの主張は,(イ)のとおり,段落【0106】の記載内容や券売機の一般的な使用態様を正解しないものであり,採用することができない。

4 理由4(特許法29条2項)について
(1)甲号証記載事項
ア 甲第1号証記載事項
(ア)甲第1号証(特許第459244号公報,平成22年12月8日特許公報発行)には,次の事項が記載されている(下線は,当審が付与した。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,自動販売機の商品販売システム,および,このシステムに用いる携帯端末装置に関する。」

「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし,上記の購入手順では,利用者は,自動販売機と対面して商品を選択するまでに多くの時間を必要とするので,不快感を覚えたり,或いは,今後の自動販売機の利用を控えたりしてしまう。特に,カップ飲料を調理して販売する自動販売機の商品を購入しようとする利用者は,嗜好に応じて,飲料(コーヒー)と添加物(砂糖,クリーム)との混合比率を更に設定しなければならないので,毎度同じ混合比率のカップ飲料を購入する利用者にとっては,上記の問題は重要である。」

「【0017】
利用者は,自動販売機と対面して,携帯端末から自動販売機へ商品識別情報および個人識別情報を送信すると,複数の商品選択釦8の何れかを押下するという操作手順を省略して,この商品識別情報に該当するカップ飲料を購入することができる。携帯端末と自動販売機との間の通信は,赤外線通信(例えばIrda),近距離無線通信(例えばBluetooth)等がある。自動販売機は,赤外線通信を使用するとき,赤外線通信を行うための受発光窓部23を設ける必要がある。」

「【0027】
通信部207は,携帯端末からの商品識別情報(利用者の嗜好情報を含む)および個人識別情報を受信して主制御部201に送信するものである。主制御部201は,この商品識別情報に基づく接客指示を接客制御部204に送信するとともに,この商品識別情報に基づく販売指示を販売制御部205に送信する。接客制御部204は,この接客指示に従って,商品選択釦8,増量釦9,10,11,減量釦12,13,14,氷なし釦16を消灯して,押下信号の発生を禁止する。販売制御部205は,この販売信号に従って,利用者が希望するカップ飲料を調理して販売する。一方,主制御部201は,利用者毎の個人識別情報をRAMに記憶することによって,販売促進に活用するためのテーブルを作成する。通信部207は,携帯端末との間で赤外線通信,近距離無線通信等の双方向通信を行うものである。特に,通信部207は,赤外線通信を行うものであるとき,受発光窓部23を備えるものとなる。」

「【0030】
図4は,本発明に使用する携帯端末の動作を説明するための図である。本発明の実施の形態では,携帯端末は,携帯電話であり,自動販売機の通信部207との間で近距離無線通信を行うものとする。尚,携帯端末は,PDA(Personal Digital Assistants)と言う携帯情報機器であってもよい。
【0031】
図4において,近距離無線通信部301(第1通信部)は,自動販売機の通信部207(第2通信部)との間で双方向通信を行うものである。本発明の実施の形態では,近距離無線通信部301と通信部207との間の通信方式は,Bluetoothであるものとする。Bluetoothは,2.4GHzの周波数帯域ISM(Industry Science Medical)を使用して,10m程度の特定距離範囲に存在する機器同士を接続し,1Mbpsの情報を双方向通信で提供するものである。(以下省略)」

「【0036】
次に,利用者が,携帯端末402の操作キー305上で自動販売機401と近距離無線通信するための設定入力を行うと,CPU303は,RAM304の特定エリアAからプログラムデータを読み出して実行し,携帯端末402は,自動販売機401と近距離無線で通信接続される。この状態で,自動販売機401は,携帯端末402からダウンロード要求信号を受信すると,携帯端末402にカップ飲料に関する商品視覚情報,商品識別情報を送信する。尚,利用者が,携帯端末402の操作キー305上で商品を特定するための設定入力を更に行うと,携帯端末402は,利用者の本来必要とする商品視覚情報,商品識別情報のみを受信できる。また,利用者が,携帯端末402の操作キー305上で付加情報を要求するための設定入力を更に行うと,携帯端末402は,付加情報を受信できる。携帯端末402は,商品視覚情報,商品識別情報,付加情報をRAM304の特定エリアBに記憶する。尚,利用者は,自動販売機401の管理会社のホームページアドレス,電子メールアドレスを携帯端末402に記憶しておくと,1文字単位でアルファベットを確認しながら設定入力するという面倒な操作を省略できるので,相手先の持つ有益な情報を手軽に取得したり,相手先との間で双方向通信を手軽に実現したりできる。また,自動販売機401の管理会社は,利用者からの電子メールを受信すると,利用者の電子メールアドレスを確認できるので,販売促進に利用できる。」

「【0038】
次に,利用者が,自動販売機401と対面し,カップ飲料を購入できるだけの硬貨を硬貨投入口4に投入するか,紙幣を紙幣挿入口5に挿入すると,商品選択釦8の販売可ランプが点灯する。その後,利用者が,携帯端末402の操作キー305上で自動販売機401と近距離無線通信するための設定入力を行うと,CPU303は,RAM304の特定エリアAからプログラムデータを読み出して実行し,携帯端末402は,自動販売機401と近距離無線で通信接続される。この状態で,利用者が,携帯端末402の表示部308上で商品イメージ情報を確認し,携帯端末402の操作キー305上で商品識別情報と対応するテンキーを入力すると,CPU303は,RAM304の特定エリアBから商品識別情報(商品要求信号)を読み出して自動販売機401の通信部207に送信する。自動販売機401の主制御部201は,通信部207からの商品識別情報がROMの記憶済みの商品識別情報と一致することを確認すると,接客制御部204に商品選択釦8の販売可ランプを消灯するための接客信号を送信するとともに,販売制御部205に商品識別情報と対応するカップ飲料を調理して販売するための販売信号を送信する。これより,接客面211は,商品選択釦8の押下を無効とし,販売機構212は,カップ飲料を調理して商品取出口17から取り出し可能とする。」

(イ)甲1発明
上記(ア)から,甲第1号証には,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

商品識別情報を送信することで,この商品識別情報に該当するカップ飲料を購入することができる自動販売機401を有する自動販売機の商品販売システムであって(【0017】【0033】),
自動販売機401と近距離無線で通信接続された状態で,利用者が,携帯端末402の表示部308上で商品イメージ情報を確認し,携帯端末402の操作キー305上で商品識別情報と対応するテンキーを入力すると,商品識別情報(商品要求信号)を自動販売機401の通信部207に送信する携帯端末402を備え(【0038】),
自動販売機401は,
通信部207からの商品識別情報がROMの記憶済みの商品識別情報と一致することを確認すると,販売機構212は,カップ飲料を調理して商品取出口17から取り出し可能とする(【0038】),
自動販売機の商品販売システム。

イ 甲第2号証記載事項
甲第2号証(特開2003-217008号公報,平成15年7月31日出願公開)には,次の事項が記載されている。
「【0041】
携帯端末10は,パーソナルコンピュータ,携帯電話,モバイル機器等の携帯型情報処理装置であり,自動販売機20で販売されている商品を購入するユーザにより使用される。この携帯端末10は,通信部101と,位置情報取得部102と,検索要求部103と,操作部104と,表示部105とを具備している。
【0042】
通信部101は,ネットワーク50を介して自動販売機20および管理センター端末30との間で各種の情報を送受信する。」
「【0053】
管理センター端末30は,ワークステーション・サーバー等の情報処理装置であり,本システムの管理者により使用される。この管理センター端末30は,通信部301と,設定変更要求部302と,操作部303と,自動販売機管理部304と,検索処理部305とを具備している。
【0054】
通信部301は,ネットワーク50を介して携帯端末10および自動販売機20との間で各種の情報を送受信する。」
「【0057】
自動販売機管理部304は,自動販売機20が送出した自動販売機20の状態情報,例えば,商品のラインナップ,設定価格,在庫数,庫内温度等の情報を通信部301で受信した場合,その情報を更新し蓄積する。なお,自動販売機管理部304は,自動販売機20に対し,状態情報の送信要求も行う。また,自動販売機20に関する頻繁には変動しない情報,例えば,自動販売機20の位置情報,自動販売機20周辺の地図情報等は予め自動販売機管理部304に登録されている。」
「【0108】
ユーザは,携帯端末10に表示された画面上で予約希望商品の情報を入力する(ステップ703)。ここで入力された予約希望商品の商品情報は,携帯端末10の位置情報とともに,ユーザの指示で,携帯端末10からインターネットを介して管理センター端末30に送信される(ステップ704)。
【0109】
管理センター端末30は,予約希望商品の情報及び携帯端末10の位置情報を受信すると,管理センター端末30に蓄積されている自動販売機20の情報の中から,予約希望商品の在庫があり,かつ携帯端末10の現在位置に近い自動販売機20を1つ以上検索する(ステップ705)。そして,検索した自動販売機20のリストマップや携帯端末10の位置情報等を含む画面を,インターネットを介して携帯端末10へ送信する(ステップ706)。このとき,管理センター端末30は,リストマップに掲載されている自動販売機20の在庫情報も,携帯端末10に送信しておく。なお,リストマップ上の自動販売機20の在庫情報は,携帯端末10からの指示に応じて送信することとしても良い。
【0110】
ユーザは,携帯端末10に表示された画面において,リストマップ上の自動販売機20,その自動販売機20における商品の在庫数等を確認する。そして,予約を希望する自動販売機,商品,数量の情報を入力する(ステップ707)。ここで入力された情報は,ユーザの指示で,インターネットを介して管理センター端末30に送信される(ステップ708)。
【0111】
管理センター端末30は,携帯端末10が送出した情報に基づき,予約希望商品,予約希望数量の情報を,インターネットを介して該当する自動販売機20に送信する(ステップ709)。
【0112】
自動販売機20は,予約希望商品,予約希望数量の情報を受信すると,予約希望商品を予約希望数量分確保する(ステップ710)。
【0113】
ユーザは,携帯端末10に表示された画面において,リストマップ上で予約を希望した自動販売機20の地図,位置情報を確認し,自動販売機20まで移動し,携帯端末10のコネクタ(不図示)に自動販売機20付属のコード(不図示)を差し込む。そして,電話番号等,携帯端末10の固有の情報を携帯端末10に入力する(ステップ711)。ここで入力された情報は,ユーザの指示で,携帯端末10から自動販売機20付属のコードを介して自動販売機20に送信される(ステップ712)。
【0114】
自動販売機20は,携帯端末10が送出した情報に基づいて,携帯端末10を認識し,携帯端末10が携帯電話である場合の通話料金の引き落とし口座等から,予約希望商品の予約希望数量分の購入料金を引き落とす(ステップ713)。」

ウ 甲第3号証記載事項
甲第3号証(特開2002-183360号公報,平成14年6月28日出願公開)には,次の事項が記載されている。
「【0065】
次に,販売可能な場合には,顧客から送信されたチケット購入申込情報の内の二次元コード化する情報を二次元コード化情報選択手段4で選択して(ブロックB42),二次元コード作成手段5に送信する。ここで二次元コード化する情報としては,コンサートの場合には,日時,会場,チケット枚数,金額等の基本的情報の他,後述する様に購入者を特定するための認証情報やチケットの通し番号等のチケットの重複使用を防止するための安全対策情報が選択されて二次元コード化される(ブロックB43)。該二次元コード化された情報は,チケット画面作成手段8にて,予め定められている文字情報や画像情報と合成され,一次チケットとして申込み者にインターネット2を通して顧客の端末側コンピュータ1又は携帯端末1aに返信される(ブロックB44)。」

エ 甲第4号証記載事項
甲第4号証(特開2002-7750号公報,平成14年1月11日公開)には,次の事項が記載されている。
「【0020】
次に,第3の手順として,顧客がこの商品を購入するかどうかを判断する(ステップ204)。顧客がこの商品を購入する場合は購入処理(ステップ205)を行い,購入しない場合はステップ201に戻る。購入処理(ステップ205)では例えば図4に示すような処理が行われる。。すなわち,顧客が携帯端末に予め定められた操作をすることにより,携帯端末がサーバ130に購入コマンドと商品コード及び顧客IDを送信する(ステップ401)。サーバ130は無線通信路を介してこれを受信し(ステップ402),次に該当商品の在庫を在庫データベースを検索して確認する(ステップ403)。これにより販売可能か判断を行い(ステップ404),在庫無しの場合はサーバ130は携帯電話機110にその旨を通知する処理を行い(ステップ405),この通知は無線通信路を介して携帯電話機110に送信される(ステップ406)。ステップ404で在庫が有って販売可能である場合,サーバ130は該当商品の商品コード及び顧客IDを購入データテーブルに追加登録し(ステップ407),購入手続きが完了の報知処理を行う(ステップ408)。この購入手続完了報知は無線通信路を介して携帯電話機110に送信される(ステップ409)。携帯電話機110はステップ401の後に在庫無し通知の有無を判断する(ステップ415)。ステップ406で在庫無しが受信されると,携帯電話機110は購入取消しを行い(ステップ416),購入処理を終了する。ステップ409で購入手続完了報知が送信されるとステップ415は在庫無し通知がないのでステップ417に進む。ステップ417では購入手続が完了したかの判断が行われ,購入手続が完了していると携帯電話機110は顧客に購入手続きが完了したことを報知する処理を行う(ステップ418)。ステップ417で手続が完了していないと判断されると処理はステップ401の後に戻る。一方,サーバ130はステップ408で携帯電話機110に購入手続の完了を通知した後,倉庫に対し該当商品の出庫指示を出し(ステップ410),これを倉庫に伝達する(ステップ411)。これにより倉庫は商品の出庫を行い(ステップ412),この商品を商品受取所に運ぶ指示を出す(ステップ413)。商品受取所は,倉庫より運ばれた商品を保管する(ステップ414)。ステップ412からステップ414は産業用ロボットや搬送装置等の自動機によって行ってもよく,また,店員等の人手によって行ってもよい。」

オ 甲第5号証記載事項
甲第5号証(特開2005-202910号公報,平成17年7月28日公開)には,次の事項が記載されている。
「【0042】
図16ないし図23に券売機に追加メニュー(トッピング・サイドメニュー)機能を付加した例を示す。
図16はこの発明の飲食店用券売機システムにおける券売機本体の表示用モニタの画面構成の例を示す説明図,図17は追加メニュー選択画面を示す説明図,図18は追加メニュー(トッピング・サイドメニュー)選択状態を示す説明図,図19は追加メニュー(トッピング・サイドメニュー)選択が終わり,追加するボタンを押す状態を示す説明図,図20は追加メニュー選択画面が終了した状態を示す説明図,図21は交換用カード類の例を示す説明図,図22は配膳表の例を示す説明図,図23は厨房モニタの画面構成を示す説明図である。
図16において各種メニューの選択欄(左側),画像付きのメニュー表示(中央),購入メニューリスト(右側)が配置され,下部にはOKキー等の各種操作キーが配置されている。上記図16では最大18のメニュー表示が可能となっている。
【0043】
この画面31において,「山菜うどん」のキーを押すと,図17のように上記画面31上に新しい追加メニュー選択画面32が表示される。追加メニュー選択画面32は,画像付きのメニュー表示33と,その下部に設けた「閉じる/キャンセル」ボタン34および「追加する」ボタン35が設けられている。追加メニュー選択画面32における背景色,文言,文字色は自由に変更可能である。また,「追加する」ボタン35は追加メニュー(トッピング・サイドメニュー)を選択することによって押すことができるようになっている。
【0044】
追加メニュー選択画面32において,画像付きのメニュー表示33を適宜押すことにより,その右欄に個数表示36,金額表示37および取消ボタン38が表示される。個数表示36はメニュー表示33を押した数だけ追加される。また金額表示37には追加メニュー(トッピング・サイドメニュー)毎の合計金額が表示される。また取消ボタン38は追加メニュー(トッピング・サイドメニュー)毎に取消が可能である。
このような追加メニュー(トッピング・サイドメニュー)選択操作が終わると,選択済みメニューやその合計金額が下部の金額欄39に表示される。
【0045】
最後に選択済みメニューやその合計金額の表示を確認し終わったら,図19のように「追加する」ボタン35を押せばよい。この操作に応じて追加メニュー選択画面32が終了して図20の画面31に戻るので,右欄の「プラスα」の表示40を確認したら,OK(確認)ボタン41を押す。」

カ 甲第6号証記載事項
甲第6号証(特開2002-189788号公報,平成14年7月5日公開)には,次の事項が記載されている。
「【0057】
前記推薦注文品選定機能(336’)は,前記推薦注文品選定機能(335’)により選定された推薦注文品を注文品入力装置(1’)に送信する機能である。
【0058】
次に,この実施形態に係る電子注文システムにおける顧客の識別方法について図8のフローチャートを用いて説明する。
【0059】
まず,顧客が,注文前などに識別カードを顧客識別情報読み取り装置(4’)にセットすると,顧客識別情報読み取り装置(4’)は,顧客の識別カードから顧客の識別情報を読み取ったあと(S11),その顧客の識別情報をホストコンピュータ(3’)に送信する(S12)。
【0060】
顧客の識別情報を受信したホストコンピュータ(3’)は,CPU(3)の注文品履歴検索機能(334’)により,注文品入力装置(1’)から送信されてきた顧客の識別情報に基づいて,前記注文品履歴記憶部(34’)に記憶されている顧客の注文品履歴を検索する(S13)。
【0061】
そして,ホストコンピュータ(3’)は,前記推薦注文品選定機能(335’)により,前記注文品履歴検索機能(334’)により検索された顧客の注文品履歴に基づいて,顧客に推薦すべき注文品を選定し(S14),前記推薦注文品送信機能(336’)により,前記推薦注文品選定機能(335’)により選定された推薦注文品を注文品入力装置(1’)に送信する(S15)。」

(2)本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「商品識別情報を送信することで,この商品識別情報に該当するカップ飲料を購入することができる自動販売機401を有する自動販売機の商品販売システム」について検討する。甲1発明の「自動販売機401」は,利用者により選択されたカップ飲料を販売することから,本件発明1の「選択された商品」「の排出を行う販売機」に相当する。また,甲1発明の商品識別情報は,利用者が商品の選択を行うことで特定される情報であって,利用者は,商品識別情報に基づき自動販売機401はカップ飲料を購入することができるシステムであり,甲1発明の「利用者」は,本件発明1の「顧客」に相当する。さらに,甲1発明の「商品識別情報を送信」は,利用者により商品の選択が行われたとの条件を満たすときに送信されるものであるから,甲1発明の「商品識別情報を送信することで,この商品識別情報に該当するカップ飲料を購入することができる自動販売機401を有する自動販売機の商品販売システム」は,後述する相違点は別にして,本件発明1の「少なくとも顧客により所望の商品が選択されたことを条件として,選択された商品の排出を行う販売機を有する販売機システム」に相当する。

イ 甲1発明の「携帯端末402」は,本件発明1の「携帯端末」に相当する。

ウ 甲1発明の「自動販売機401と近距離無線で通信接続された状態で,利用者が,携帯端末402の表示部308上で商品イメージ情報を確認し,携帯端末402の操作キー305上で商品識別情報と対応するテンキーを入力すると,商品識別情報(商品要求信号)を自動販売機401の通信部207に送信する携帯端末402を備え」について検討する。甲1発明の「自動販売機401と近距離無線で通信接続された状態で,利用者が,携帯端末402の表示部308上で商品イメージ情報を確認し,携帯端末402の操作キー305上で商品識別情報と対応するテンキーを入力する」ことの「テンキー」は,操作キー305上で商品識別情報と対応しており,利用者が携帯端末402の表示部308上で商品イメージ情報を確認し,商品を選択するために携帯端末402の操作キー305上に表示され,利用者の入力を受け付ける点で,本件発明1の「複数の商品の中から所望の商品の選択を受け付ける受付手段」に相当する。

エ 甲1発明の「携帯端末402の操作キー305上で商品識別情報と対応するテンキーを入力すると,商品識別情報(商品要求信号)を自動販売機401の通信部207に送信する」について検討する。甲1発明は,テンキーを入力することで商品識別情報(商品要求信号)が自動販売機401に送信されるものであるから,甲1発明の「テンキーを入力する」ことは,本件発明1の「所定の出力操作がなされた」ことに相当し,甲1発明の「商品識別情報(商品要求信号)」は,本件発明1の「前記受付手段により受け付けた前記商品に係る情報」に相当する。
そして,甲1発明は,携帯端末402が商品識別情報(商品要求情報)を自動販売機401に送信するための手段を備えることは明らかであるから,甲1発明の「携帯端末402の操作キー305上で商品識別情報と対応するテンキーを入力すると,商品識別情報(商品要求信号)を自動販売機401の通信部207に送信する」ための手段は,本件発明1の「所定の出力操作がなされたことを条件として,前記受付手段により受け付けた前記商品に係る情報を前記販売機に対して出力する出力手段」に相当する。

オ 甲1発明の「自動販売機401は,通信部207からの商品識別情報がROMの記憶済みの商品識別情報と一致することを確認すると,販売機構212は,カップ飲料を調理して商品取出口17から取り出し可能とする」について検討する。甲1発明の自動販売機401の「通信部207」は,携帯端末402から,商品識別情報(商品要求信号)を受信する点で,本件発明1の「前記携帯端末により出力された前記商品に係る情報を取得する取得手段」に相当し,甲1発明の,自動販売機401が,通信部207からの商品識別情報がROMの記憶済みの商品識別情報と一致することを確認することは,利用者の所望する商品を特定することに他ならないから,甲1発明の自動販売機401は,一致することを確認するための手段を備えていること明らかであり,甲1発明の,自動販売機401が備える通信部207からの商品識別情報がROMの記憶済みの商品識別情報と一致することを確認するための手段は,本件発明1の「前記取得手段により取得された前記商品に係る情報に基づいて,顧客が所望する商品を特定する特定手段」に相当する。

カ 上記ア?オから,本件発明1と引用文献と甲1発明とは,次の点で一致又は相違する。
<一致点>
少なくとも顧客により所望の商品が選択されたことを条件として,選択された商品の排出を行う販売機を有する販売機システムであって,
複数の商品の中から所望の商品の選択を受け付ける受付手段と,
所定の出力操作がなされたことを条件として,前記受付手段により受け付けた前記商品に係る情報を前記販売機に対して出力する出力手段と
を有する携帯端末を備え,
前記販売機は,
前記携帯端末により出力された前記商品に係る情報を取得する取得手段と,
前記取得手段により取得された前記商品に係る情報に基づいて,顧客が所望する商品を特定する特定手段と
を備えたことを特徴とする販売機システム。

<相違点>
本件発明1は,携帯端末の出力手段が,「所定の出力操作がなされたことを条件として,前記受付手段により受け付けた前記商品に係る情報」を販売機と「所定の管理装置」に対して出力するのに対して,甲1発明では,「所定の管理装置」に対して出力されない点(相違点1)。
本件発明1は,販売機システムが「前記販売機で販売する商品の在庫数を記憶する在庫数記憶手段と,前記携帯端末から受け付けた前記商品に係る情報に基づいて,該商品の在庫状況を前記携帯端末に通知する通知手段とを備えた」「管理装置」を有するのに対し,甲1発明では,販売機システムが「管理装置」を有していない点(相違点2)。

(3)相違点の判断
ア 相違点1及び2の性質から,これらをまとめて判断する。

イ 甲1発明は,上記(1)ア(ア)で摘記した「しかし,上記の購入手順では,利用者は,自動販売機と対面して商品を選択するまでに多くの時間を必要とするので,不快感を覚えたり,或いは,今後の自動販売機の利用を控えたりしてしまう。特に,カップ飲料を調理して販売する自動販売機の商品を購入しようとする利用者は,嗜好に応じて,飲料(コーヒー)と添加物(砂糖,クリーム)との混合比率を更に設定しなければならないので,毎度同じ混合比率のカップ飲料を購入する利用者にとっては,上記の問題は重要である。」(【0003】)との課題を解決するものである。そして,甲1発明により「携帯端末は,利用者が希望する購入頻度の高い商品の商品識別情報のみを記憶するので,利用者は,携帯端末の表示部で,購入を希望する商品を短時間で検索できる。さらに,これより,カップ飲料を調理して販売する自動販売機の商品を購入しようとする利用者は,飲料と添加物との混合比率を設定するという面倒な操作手順を省略できるので,購入を希望する商品を短時間で容易に選択できる。」(【0065】)との効果を奏するものである。

ウ また,甲第1号証には,甲1発明の構成以外に,【0033】に「管理サーバ403(プログラム格納手段,販売促進手段)は,インターネット404上の1Webであり,通信回線405を介して自動販売機401および携帯端末402と通信接続されるものである。」として,インターネットを介して自動販売機401および携帯端末402と通信接続される管理サーバ403が記載されている。しかしながら,管理サーバ403は,【0033】に記載されているとおり「管理サーバ403は,プログラム格納手段として,自動販売機401と携帯端末402との間の通信を行うためのプログラムデータを予め格納したものである。」,「管理サーバ403は,携帯端末402からのポイントの情報を受信すると,このポイント数に相当するサービス情報(音楽情報,ゲーム情報等)を通信回線405を介して携帯端末402に送信する。」との機能を有し,さらに,【0039】に記載されているとおり「自動販売機401の主制御部201は,管理サーバ403からの要求または一定時間の経過に応じて,RAMの顧客管理テーブルを読み出して通信部208を介して管理サーバ403に送信する。これより,自動販売機401の管理会社は,顧客管理テーブルの情報を利用して,利用者の携帯端末402の電子メールアドレスに新商品,キャンペーン等の情報を送信し,販売促進を実行できる。」との機能を有しているものの,「在庫」に関する処理を行うことは,記載されておらず,示唆もされていない。

エ 上記のとおり,甲第1号証には管理装置による在庫管理に関する構成は記載されておらず,示唆もされておらず,このような甲第1号証の記載に基づき,甲1発明に,在庫を管理するための管理装置に関する甲第2号証に記載された技術的事項を適用しようとする動機を見いだすことはできない。また,甲1発明に在庫を管理するための管理装置に関するものではない甲第3号証?甲第6号証を適用しても,本件発明1の上記相違点1及び2の構成とすることはできないことは明らかである。
そうすると,甲1発明において,相違点1及び2の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
そして,甲1発明において,上記相違点1及び2の構成とすることで,甲1発明と比較をして,格別顕著な効果を奏することは明らかである。

(4)本件発明1についての小括
したがって,本件発明1は,甲1発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載した技術事項に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)申立人の主張について
申立人は,上記相違点1及び2について,甲第2号証?甲第4号証に相違点1及び2に係る構成が記載されている旨主張するが,甲1発明に甲第2号証?甲第4号証を適用する動機付けについて言及していない。
甲1発明に甲第2号証を適用する動機がないこと,及び,甲第3号証及び甲第4号証は,管理装置による在庫管理に関するものは記載されていないことは上述したとおりであるから,申立人の主張は失当である。

(6)本件発明4について
本件発明4について,本件発明4は,本件発明1に対応する商品選択方法の発明であり,本件発明4は,本件発明1の「所定の出力操作がなされたことを条件として,前記受付手段により受け付けた前記商品に係る情報を前記販売機及び所定の管理装置に対して出力する」こと,管理装置が「前記携帯端末から受け付けた前記商品に係る情報に基づいて,該商品の在庫状況を前記携帯端末に通知する」ことに対応する構成を備えるものであるから,本件発明1と同様の理由により,当業者であっても,甲1発明及び甲第2号証?甲第6号証の載事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(6)本件発明2?3について
また,本件発明2?3,本件発明1の「所定の出力操作がなされたことを条件として,前記受付手段により受け付けた前記商品に係る情報を前記販売機及び所定の管理装置に対して出力する」こと,管理装置が「前記携帯端末から受け付けた前記商品に係る情報に基づいて,該商品の在庫状況を前記携帯端末に通知する」ことに関する構成と同一の構成を備えるものであるから,本件発明1と同じ理由により,当業者であっても,甲1発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第5 むすび

以上を踏まえれば,請求項1?4に係る特許は,特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また,他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-09-29 
出願番号 特願2015-184529(P2015-184529)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (G06Q)
P 1 651・ 537- Y (G06Q)
P 1 651・ 121- Y (G06Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 牧 裕子  
特許庁審判長 佐藤 聡史
特許庁審判官 相崎 裕恒
松田 直也
登録日 2019-12-06 
登録番号 特許第6626297号(P6626297)
権利者 グローリー株式会社
発明の名称 販売機システム及び商品選択方法  
代理人 諏訪 淳一  
代理人 中辻 史郎  

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