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審決分類 審判 一部無効 4項(134条6項)独立特許用件  B41N
審判 一部無効 2項進歩性  B41N
審判 一部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  B41N
審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B41N
管理番号 1367217
審判番号 無効2018-800133  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-11-29 
確定日 2020-09-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4192197号発明「メタルマスク及びその製造方法」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第4192197号の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項[1ないし4]について訂正することを認める。 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件に係る特許第4192197号についての手続の経緯は,つぎのとおりである。

・平成19年 4月 5日 :特許出願(特願2007-99632号)
・平成20年 9月26日 :特許権の設定登録
・平成30年11月29日 :本件特許無効審判請求(無効2018-800133号)<請求人>
・平成31年 1月10日付け:請求書副本送達 答弁指令(特134条1項)(送達日同年1月17日) <審判長>
・平成31年 3月 5日 :審判事件答弁書提出及び訂正の請求<被請求人>
・平成31年 4月18日付け:答弁書及び訂正請求書副本送付<審判長>
・令和 1年 5月17日付け:審理事項通知書<審判長>
・令和 1年 5月31日 :口頭審理陳述要領書提出<請求人>
(被請求人へ同年6月3日付けで副本送付)
・令和 1年 5月31日 :口頭審理陳述要領書提出<被請求人>
(被請求人へ同年6月4日付けで副本送付)
・令和 1年 6月11日 :令和1年 6月11日付け上申書の提出<請求人>(被請求人へ同月12日付けで副本送付)
・令和 1年 6月12日 :令和1年 6月11日付け上申書の提出<被請求人>(請求人へ同月13日付けで副本送付)
・令和 1年 6年14日 :第1回 口頭審理
・令和 1年 6月14日 :書面審理通知(口頭による告知)
・令和 1年 6月21日 :令和1年6月21日付け上申書(2)の提出<請求人>(被請求人へ同年7月31日付けで副本送付)
・令和 1年 7月 8日 :令和1年 7月 5日付け上申書の提出<被請求人>(請求人へ同年9月2日付けで副本送付)
・令和 1年 8月30日付け:審理の終結の通知<審判長>

第2 訂正請求について
1 本件訂正請求の内容
平成31年3月5日付けでされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の内容は,同日付けの訂正請求書の記載からみて,つぎのとおりの訂正事項をその内容とするものである。
(1)訂正事項1(請求項1の訂正)
(下線部は,訂正箇所を示すために当審において付加した。(以下,第2において同じ。)
特許請求の範囲の請求項1に「前記プリント配線板への位置合わせ用のために前記開口パターンに近接して設けられ,電解処理によって刻印された複数の認識マーク」と記載されているのを,「前記プリント配線板への位置合わせ用のために前記開口パターンに近接して設けられ,交流電源による電解マーキングによって刻印された複数の認識マーク」に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3及び4も同様に訂正する。
(2)訂正事項2(請求項2の訂正事項)
特許請求の範囲の請求項2に「スクリーン印刷の位置合わせ用のために前記開口パターンに近接して設けられ,電解処理によって刻印された複数の認識マーク」と記載されているのを,「スクリーン印刷の位置合わせ用のために前記開口パターンに近接して設けられ,交流電源による電解マーキングによって刻印された複数の認識マーク」に訂正する。
請求項2を直接的に又は間接的に引用する請求項3及び4も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0012】及び段落【0013】にそれぞれ「電解処理によって刻印された複数の認識マーク」と記載されているのを,「交流電源による電解マーキングによって刻印された複数の認識マーク」と訂正する。
明細書の訂正は,一群の請求項を構成する請求項1ないし4に係る訂正であって,請求項1ないし4についての訂正である。

なお,本件訂正請求による訂正前の請求項1ないし4とそれに対応する本件訂正請求による訂正後の請求項1ないし4についても,一群の請求項を構成するものである。

2 本件訂正請求についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は,本件訂正請求による訂正前の請求項1(以下,本件訂正請求による訂正前,訂正後,については,単に「訂正前」,「訂正後」という。)において「複数の認識マーク」について「電解処理によって刻印された」ものであると特定していたものを,訂正後においては「交流電源による電解マーキングによって刻印された」と特定するものであって,「電解処理」を「交流電源による電解マーキング」と具体的に特定し,さらに限定するものである。
したがって,訂正事項1は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記アから明らかなように,訂正事項1は,「電解処理によって刻印された複数の認識マーク」という発明特定事項を概念的により下位の「交流電源による電解マーキングによって刻印された複数の認識マーク」と具体的に特定し,さらに限定とするものであって,訂正前と訂正後の発明において,カテゴリーや発明の対象を変更するものではない。
したがって,訂正事項1は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また,訂正事項1は,訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項3及び4の記載についても実質的に訂正するものであるが,訂正後の請求項1の記載は,訂正前の請求項1との関係で特許請求の範囲を実質的に拡張し,又は変更するものではない。
また,訂正事項1は,訂正前の請求項1の記載以外に,訂正前の請求項3及び4の記載について何ら訂正するものではなく,訂正後の請求項3及び4に係る発明のカテゴリーや発明の対象を変更するものではない。
したがって,訂正事項1は,訂正前の請求項3及び4についても,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しない。
ウ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1について,本件特許に係る出願の願書に添付した明細書の段落【0024】に「認識マークを電解処理によって刻印(電解マーキング)する。具体的な工程は以下の通りである。・・・上記電極4及びメタルマスク1を交流電源6に接続する。」と記載されている。
したがって,訂正事項1は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであって,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
(ア)本件特許無効審判事件においては,訂正前の請求項1について無効審判の請求の対象とされているので,訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(イ)訂正事項1により実質的に訂正されることとなる訂正後の請求項3及び4に係る発明については,無効審判の請求の対象とされていないので,独立特許要件が課されるため,以下検討する。
第5の2において後述するとおり,訂正後の請求項1に係る発明は,請求人が主張する無効理由によっては無効とすることはできず,また,他に訂正後の請求項1に係る発明を無効とする理由は見出せないから,訂正後の請求項1に係る発明の発明特定事項を全て有し,さらに限定するものである,訂正後の請求項1を引用する請求項3又は4に係る発明も,無効とする理由はない。
さらにいえば,請求項1を引用する訂正後の請求項3に記載された発明において特定されている「同一の開口パターンが複数形成され,各開口パターンに対して,交流電源による電解マーキングによって刻印された複数の認識マークが備えられている」こと,及び,請求項1を引用する訂正後の請求項4に記載された発明において特定されている「表面と裏面とに,交流電源による電解マーキングによって認識マークが刻印されている」ことは,審判請求人の提出した各証拠には記載も示唆もされていない。
よって,訂正後の請求項3及び4に係る発明は,特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。
したがって,訂正事項1は,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に適合するものである。
オ 訂正事項1についての小括
以上のとおり,訂正事項1は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は,訂正前の請求項2において「複数の認識マーク」について「電解処理によって刻印された」ものであると特定していたものを,訂正後においては「交流電源による電解マーキングによって刻印された」と特定するものであって,「電解処理」を「交流電源による電解マーキング」と具体的に特定し,さらに限定するものである。
したがって,訂正事項2は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記アから明らかなように,訂正事項2は,「電解処理によって刻印された複数の認識マーク」という発明特定事項を概念的により下位の「交流電源による電解マーキングによって刻印された複数の認識マーク」と具体的に特定し,さらに限定とするものであって,訂正前と訂正後の発明において,カテゴリーや発明の対象を変更するものではない。
したがって,訂正事項2は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また,訂正事項2は,訂正前の請求項2の記載を引用する訂正前の請求項3及び4の記載についても実質的に訂正するものであるが,訂正後の請求項2の記載は,訂正前の請求項2との関係で特許請求の範囲を実質的に拡張し,又は変更するものではない。
また,訂正事項2は,訂正前の請求項2の記載以外に,訂正前の請求項3及び4の記載について何ら訂正するものではなく,訂正後の請求項3及び4に係る発明のカテゴリーや発明の対象を変更するものではない。
したがって,訂正事項2は,訂正前の請求項3及び4についても,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しない。
ウ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2について,本件特許に係る出願の願書に添付した明細書の段落【0024】に「認識マークを電解処理によって刻印(電解マーキング)する。具体的な工程は以下の通りである。・・・上記電極4及びメタルマスク1を交流電源6に接続する。」と記載されている。
したがって,訂正事項2は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであって,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
(ア)本件特許無効審判事件においては,訂正前の請求項2について無効審判の請求の対象とされているので,訂正前の請求項2に係る訂正事項2に関して,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(イ)訂正事項2により実質的に訂正されることとなる訂正後の請求項3及び4に係る発明については,無効審判の請求の対象とされていないので,独立特許要件が課されるため,以下検討する。
第5の3において後述するとおり,訂正後の請求項2に係る発明は,請求人が主張する無効理由によっては無効とすることはできず,また,他に訂正後の請求項2に係る発明を無効とする理由は見出せないから,訂正後の請求項2に係る発明の発明特定事項を全て有し,さらに限定するものである,訂正後の請求項2を引用する請求項3又は4に係る発明も,無効とする理由はない。
さらにいえば,請求項2を引用する訂正後の請求項3に記載された発明において特定されている「同一の開口パターンが複数形成され,各開口パターンに対して,交流電源による電解マーキングによって刻印された複数の認識マークが備えられている」こと,及び,請求項2を引用する訂正後の請求項4に記載された発明において特定されている「表面と裏面とに,交流電源による電解マーキングによって認識マークが刻印されている」ことは,審判請求人の提出した各証拠には記載も示唆もされていない。
よって,訂正後の請求項3及び4に係る発明は,特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。
したがって,訂正事項2は,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に適合するものである。
オ 訂正事項2についての小括
以上のとおり,訂正事項2は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は,訂正事項1に係る訂正及び訂正事項2に係る訂正に伴い,特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。よって,訂正事項3は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮又は,同項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記(1)のア及び(2)のアから明らかなように,訂正事項3は,「電解処理によって刻印された複数の認識マーク」という発明特定事項を概念的により下位の「交流電源による電解マーキングによって刻印された複数の認識マーク」と具体的に特定し,さらに限定とするものであって,訂正前と訂正後の発明において,カテゴリーや発明の対象を変更するものではない。
したがって,訂正事項3は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は,訂正事項1に係る訂正及び訂正事項2に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であり,その記載内容と訂正後の請求項1の記載内容及び訂正後の請求項2の記載内容との間に実質的な差異はない。
上記(1)のウ及び(2)のウで検討したとおり,訂正事項1及び訂正事項2は,いずれも特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるから,同様の内容を訂正する訂正事項3も同項に適合するものである。。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
(ア)本件特許無効審判事件においては,訂正前の請求項1及び2について無効審判の請求の対象とされているので,訂正前の請求項1に係る訂正事項1及び訂正前の請求項2に係る訂正事項2に関して,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(イ)訂正後の請求項3及び4に係る発明については,無効審判の請求の対象とされていないので独立特許要件が課されることになるが,訂正事項3は,訂正事項1に係る訂正及び訂正事項2に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であり,その記載内容と訂正後の請求項1の記載内容及び訂正後の請求項2の記載内容との間に実質的な差異はなく,訂正事項3により,訂正後の請求項3及び4に係る発明がさらに変更されるものではない。
してみると,上記(1)のエ及び上記(2)のエで既に検討したとおり,訂正後の請求項3及び4に係る発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができないものということはできないから,訂正事項3は,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合するものである。
オ 明細書の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項3は,訂正事項1に係る訂正及び訂正事項2に係る訂正に伴うものであり,その記載内容と訂正後の請求項1の記載内容及び訂正後の請求項2の記載内容との間に実質的な差異はない。よって,訂正事項3は,一群の請求項1?4に関係する訂正である。
カ 訂正事項3の小括
以上のとおり,訂正事項3は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。

3 訂正請求についてのまとめ
以上のとおりであるから,本件訂正請求の上記訂正事項1ないし3は,いずれも特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び/又は同項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって,同条第9項において読み替えて準用する126条第5項ないし第7項に規定する要件に適合するものである。
よって,本件特許の明細書,特許請求の範囲を,本件訂正請求書に添付した訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項[1ないし4]について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記第2のとおり,本件訂正請求による訂正が認められることから,本件特許の各請求項に係る発明は,本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載されたとおりのものであるところ,そのうち,本件無効審判事件において,請求の対象とされた請求項1及び2に係る発明は,次のとおりのものである。
1 請求項1に係る発明(以下,「本件訂正発明1」という。)
「【請求項1】
半田ペーストをプリント配線板に塗布形成するために形成された開口パターンと,
前記プリント配線板への位置合わせ用のために前記開口パターンに近接して設けられ,交流電源による電解マーキングによって刻印された複数の認識マークと,
を備えたことを特徴とするメタルマスク。 」

2 請求項2に係る発明(以下,「本件訂正発明2」という。)
「【請求項2】
開口パターンと,
スクリーン印刷の位置合わせ用のために前記開口パターンに近接して設けられ,交流電源による電解マーキングによって刻印された複数の認識マークと,
を備えたことを特徴とするメタルマスク。」

第4 無効理由についての当事者の主張
1 請求人が主張する無効理由の概要
本件審判請求は,「特許第4192197号発明の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」ことを請求の趣旨とするものであって,その根拠とする無効理由はつぎのとおりのものである。
以下,特許査定時(訂正前)の請求項1及び2に係る発明を,それぞれ,本件特許発明1及び2といい,訂正後の請求項1及び2に係る発明を,本件訂正発明1及び2という。
(1)無効理由1
本件特許発明1は,甲1号証及び甲2号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許発明1に係る特許は,特許法第29条の規定に違反してされたものであり特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とされるべきものである。
(2)無効理由2(予備的主張)
本件訂正発明1は,甲1号証,甲2号証及び甲3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件訂正発明1に係る特許は,特許法第29条の規定に違反してされたものであり特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とされるべきものである。
(3)無効理由3
本件特許発明2は,甲1号証及び甲2号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許発明2に係る特許は,特許法第29条の規定に違反してされたものであり特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とされるべきものである。
(4)無効理由4(予備的主張)
本件訂正発明2は,甲1号証,甲2号証及び甲3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件訂正発明2に係る特許は,特許法第29条の規定に違反してされたものであり特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とされるべきものである。

なお,審判請求人は,本件訂正請求による訂正が認められることを条件に無効理由1及び無効理由3の撤回を申し出,審判被請求人は,無効理由1及び無効理由3を撤回することに同意している(第1回口頭審理調書)。
したがって,本件無効審判事件において,審理する対象は,無効理由2及び無効理由4である。

2 請求人の主張する無効理由の内容について
(1)無効理由2について
ア 甲1号証に記載された発明について
甲1号証には,つぎの発明が記載されていると認められる。(以下,「甲1-1発明」という。)
「A:半田ペーストをプリント配線板に印刷形成するために形成された開口部と,
B'':前記プリント配線板への位置合わせ用のために設けられ,
C'':マスクの一方の面に凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層が形成されたアラインメントマークと,
D:を備えたことを特徴とする印刷用マスク」(口頭審理陳述要領書3頁12行?5頁1行)

イ 本件訂正発明1と甲1-1発明との対比について
本件訂正発明1と甲1-1発明とはつぎの一致点で一致し,各相違点において相違する。
<一致点>
A:半田ペーストをプリント配線板に塗布形成するために形成された開口パターンと,
B''':前記プリント配線板への位置合わせ用のために設けられ,
D:を備えたことを特徴とするメタルマスク。
(相違点1)
構成要件B'''について,本件訂正発明1では認識マークが開口パターンに近接して設けられるのに対し,甲1-1発明ではアラインメントマークが開口部に近接して設けられるとは特定されていない点。
(相違点2)
構成要件C'''について,本件訂正発明1では認識マークが複数設けられるのに対し,甲1-1発明ではアラインメントマークが複数設けられるか否か明らかでない点。
(相違点3)
構成要件C'''について,本件訂正発明1では認識マークが交流電源による電解マーキングによって刻印されるのに対し,甲1-1発明では,アラインメントマークはマスクの一方の面に凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層が形成される点
(審判請求書12頁13行?13頁9行,口頭審理陳述要領書5頁14行?6頁8行,審決注:相違点C'''は,令和1年5月17日付の審理事項通知書の第5の1で説示している「C''':電解処理によって刻印された認識マークと」のこと。)

ウ 相違点1ないし3について
(ア)相違点1の検討
認識マークはプリント配線板との位置合わせ用に設けられるものであり,開口パターンとの位置関係を限定する必要がないことは当業者の技術常識に属する。被請求人は特許権侵害訴訟の「原告準備書面1」(甲第12号証)において,認識マークがメタルマスクのメタル上に配置されていれば足りる旨主張し,「前記開口パターンに近接して」の文言は無用な限定であることを認めている。当業者の技術常識に照らすと,相違点1は実質的な相違とは言えないものである。
(イ)相違点2の検討
認識マークやアラインメントマークはプリント配線板との位置合わせ用に設けられるものであり,複数箇所に設けることは不可欠である。仮にマークが1箇所しかない場合,位置合わせを行うことは困難であり,位置合わせ用のマークとしての機能を果たすことができない。したがって,位置合わせ用のマークは,明示されているか否かを問わず当然複数のマークが設けられるものであるが,例示的に甲第2号証を示す。甲第2号証の第1図には,複数のターゲットマークを備えた印刷用スクリーンが記載されている。
(ウ)相違点3の検討
甲第3号証には,金属製の被加工物にマークを施すには,一般に電解マーキング法が採用され,この電解マーキング法は,第5図に示すようにステンシル1の孔部に電解液2と被加工物3を接触させ,電解液2に接触するカーボン電極4と被加工物3との間に交流を印加することによって,被加工物の表面に皮膜5を生成するものであり,生成される皮膜は被加工物3の酸化物,或いは被加工物3と電解液2との反応生成物である旨が記載(以下「甲3記載事項」という。)されている。
ここで,ステンシルは孔部以外を覆う機能を有するものであるから,レジスト膜と同視できる。なお,第5図における皮膜の符号4は誤記であり,正しくは5とすべきものである。
そこで,第5図と本件特許公報の図8を較べると,上下関係が逆になっていることを除けば,両図はまったく同じである。甲第3号証の特許請求の範囲に記載された発明は,プリント基板に細径孔を加工するドリルのように高精度が要求され,被加工面が曲率を有する工具類のマーキングを目的とするもので,甲3記載事項による従来技術では課題があることに対応したものである。一方,甲1号証記載の発明の被加工物は印刷用マスクであり,被加工面は平たんな金属面にすぎないことから,アラインメントマークの形成に関し,甲3記載事項による従来技術としての電解マーキング法を適用することに何ら阻害要因はない。
また,甲第4号証には,本件特許出願前に国内外の業者から電解マーキング装置が販売されていた旨が記載されている。現に,請求人においても本件特許出願前に日本製の電解マーキング装置を購入し,メタルマスクに認識マークを施すのに使用していた。
さらに,甲第5号証には,電解マーキングの種類と用途についての基本的な説明として,交流電圧を印加する黒色永久マークが電気通信部品等の産業用部品に用いられることが記載されている。メタルマスクは電気通信部品等の製造工程において広く使用される部品であることから,メタルマスクに認識マークを形成する際,電解マーキングが適用され得ることは示唆されている。
ここで,技術分野について検討すると,甲3記載事項は金属製の被加工物にマークを施す技術であり,メタルマスクという金属板に認識マークを施す技術である本件訂正発明1及び甲1-1発明と,技術分野において密接に関連している。
また,甲3記載事項はマークを施す部位を黒色に皮膜し,その周囲の面との光の反射率を異ならせるものである。他方,甲1-1発明はマークとなる部位に深さ5?20μm程度の凹部形成し,その底面に他の部位と異なる色(異なる反射率)を有する金属層を形成するものである。このことから甲3記載事項の技術は,甲1-1発明と作用,機能において共通する。
さらに,本件訂正発明1は,認識マークの脱落を確実に防止でき,箔物に対しても容易に認識マークを形成できることを課題としているが,この課題はエッチング等により深い凹部や貫通孔を設けた後,染料や樹脂等で充填した認識マークにおいて一般的に存するものであり,何ら新規な課題ではない。
甲第1号証において,アラインメントマークとして着色充填された樹脂が脱落することが課題として記載されている。また,甲第6号証において,印刷時やスクリーン洗浄時等に基準マーク形成材料が脱落することが課題として記載されているし,甲第7?11号証においても,位置合わせマークとしての樹脂等の脱落が課題として記載されており,本件特許発明1の課題は出願前において広く知られた課題である。一方,深い凹部や貫通孔を設けないでマークを施す場合,すなわち,電解めっきや電解マーキングによりマークを施す場合,マークの脱落が問題となることはないし,箔物に対してマークを設けることにも問題はない。たとえば,甲第3号証の特許請求の範囲に記載された発明は,被鍍金物に対し黒クロム鍍金法でマーキングするものであるが,膜厚制御が容易であり,僅か0.3μmの皮膜で十分に実用的なマーキングが得られる。箔物に対しても容易に認識マークを形成できることは言うまでもない。このように本件特許発明1の課題は何ら新規なものではなく,発明が奏する効果も顕著なものではない。
以上説明したことから明らかなように,甲3記載事項を甲1-1発明に適用することは,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に推考し得るものである。(審判請求書13頁10行?17頁14行)
(エ)被請求人が主張する甲3号証の開示に基づく阻害要因について
被請求人は,甲3号証の【発明が解決しようとする課題】欄に記載された交流電源による電解マーキング法の欠点について,課題1?3として挙げ,高精度が要求されるメタルマスクのアラインメントマークに,甲3号証に記載された交流電源による電解マーキング法を適用することは阻害要因となる旨主張する。
しかし,甲3号証に記載された交流電源による電解マーキング法の欠点は,甲3号証の出願人の主観に基づく記載であって,必ずしも客観的事実というわけではない。一般に出願人は,特許を受けようとする発明の進歩性を強調すべく,従来技術の欠点を必要以上に誇張して記載する傾向がある。課題1?3は,いずれも程度問題にすぎないのであって,電解マーキング法における交流電圧や電流の大きさ,通電時間,さらに電解液の種類やレジスト条件を工夫すること(設計事項)により解決され得るものである。課題1?3は,主引用発明に,甲3号証に記載された交流電源による電解マーキング法を適用することの阻害要因とはなり得ない。
また,本件訂正発明1の交流電源による電解マーキングは,甲3号証に記載された交流電源による電解マーキングと何ら異なるところがなく,特別顕著な効果を奏する電解液を採用するなど,進歩性を肯定するに値するような発明特定事項がない。したがって,仮に課題1?3が客観的事実であるとすると,本件訂正発明1も同様の課題1?3を有していることになる。
また,書籍である甲5号証において,交流電源による電解マーキングによって被加工金属面に黒色皮膜を施すことが記載されていることから,甲3号証において交流電源による電解マーキングの欠点の記載があっても,健全な技術常識を有する当業者に対し,メタルマスクの位置合わせ用マークとして交流電源による電解マーキングを適用することの阻害要因とはなり得ない。
さらに,被請求人は,印刷用マスクに形成されるアラインメントマークには,画像処理を行うためのコントラストが必要になることから,主引用発明に甲3号証に記載された交流電源による電解マーキングを採用できない旨主張する。しかし,メタルマスクの多くはNi系金属(ニッケル色)で製作されることから,主引用発明における「異なる色」として電解マーキングによる「黒色」を採用することは阻害要因となり得ない。
また,被請求人は,アラインメントマークが既に「電解めっき」によって形成されている甲1号証に記載の印刷用マスクに対して,甲3号証に記載された電解マーキングを適用することには,阻害要因がある旨主張する。しかし,かかる主張は,繰り返しになるが,甲1号証に記載された主引用発明についての誤った認定に基づくものであって,失当というほかない。(口頭審理陳述要領書6頁9行?7頁最下行)
(オ)従来技術において示唆がないとの被請求人の主張について
相違点3’は,「構成要件C'''について,本件訂正発明1では認識マークが交流電源による電解マーキングによって刻印されるのに対し,甲1-1発明では,アラインメントマークはマスクの一方の面に凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層が形成される点」と認定すべきものである。
ここで,交流電源による電解マーキングによって刻印される原理を図解すると,つぎのようになる。

上記原理図に示すように電解マーキング法は,工程の一部に電解エッチングの技術を応用するものであり,皮膜形成の前段階としてエッチング作用を伴う。したがって,刻印される部分には,先ず凹部が形成され,その凹部の底面等に黒色の酸化皮膜が形成されるものである。
また,電解マーキングによる刻印において,刻印される部分に凹部が形成されることは,本件特許明細書の段落【0025】において「なお,図8にも示したように,皮膜1bを形成する工程では,メタルマスク1の表面から金属イオンが電解液5中に溶け出すため,認識マークが形成される部分は,極浅く掘り込まれた状態になる。例えば ,皮膜1bの表面は,メタルマスク1の他の部分の表面よりもt=5?10μm程度深い位置に配置される。」と記載されていることからも明らかである。

【図8】

このように,相違点3’の構成要件C'''について,本件訂正発明1では認識マークが交流電源による電解マーキングによって刻印されるが,この認識マークは,皮膜形成の前に必ず凹部が形成されるものである。電解マーキングによる刻印には,凹部という表現の有無を問わず,その概念に凹部の形成を内包しているものである。
一方,甲1号証に記載発明については,アラインメントマークはマスクの一方の面に凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層が形成されるものである。そして,アラインメントマークの詳細については,甲1号証の段落【0018】?【0020】に記載されている。すなわち,凹部はアラインメントマークと対応する位置に設けられる(【0018】),凹部の深さは任意であるが一例として5?20μm程度があげられる(【0019】),凹部は,例えば,エッチング法,レーザー加工法等によって形成させることができる(【0019】),と例示されている。
以上のことから,認識マーク(アラインメントマーク)に凹部が形成されることは,本件訂正発明1と主引用発明とで共通しており,しかも好適な深さまで略同程度である。したがって,凹部の形成については,実質的な相違点ということはできない。
そうすると相違点3は,「本件訂正発明1では認識マークが交流電源による電解マーキングによって黒色皮膜で刻印されるのに対し,甲1-1発明では,アラインメントマークはマスクの面の色と異なる色を有する金属層で形成される点」ということになり,より端的にいえば相違点3’は,「本件訂正発明1では認識マークが黒色皮膜で刻印されるのに対し,甲1-1発明ではアラインメントマークがマスクの地色と異なる色を有する金属層で形成される点」で相違するということができる。
ここで,甲1-1発明において,アラインメントマークをマスクの地色と異なる色を有する金属層で形成するのは,アラインメントマークを利用して位置合わせを行う際,マークを容易に認識できるようにするためである。マークを容易に認識できるという機能は,位置合わせ用マークに限らず,マーク一般について普遍的に求められるものであって,マークが文字,数字,記号あるいは絵柄であるかを問わないものである。メタルマスクの多くはNi系金属で製造されることから,Ni系金属の地色とのコントラストからマークの色として黒色を採用することは,当業者にとって何ら困難なことではない。
被請求人は,従来技術がいずれもマークとして予め凹部を形成するものしかなく,その結果電解マーキングによって位置合わせ用マークを形成することが示唆されないと主張するが,甲1号証に記載された請求項1の発明は物の発明であって,製造方法の発明でないことは明らかである。被請求人が主張する「予め凹部を形成する」とは,認識マークを黒色皮膜などによって刻印する前工程として,予め凹部を形成する工程が必要との意義と思われるが,甲1号証に記載された請求項1の発明は,予め凹部を形成するというような経時要素を必要としないものである。甲1号証の明細書において,製造方法の発明が記載されているからといって,請求項1の発明についても製造方法の発明と解さなければならない理由はない。請求項1の発明は,明細書に記載された製造方法の発明によって製造される物の発明であり,本来的に経時要素を発明特定事項とする必要のないものである。そして,請求項1の発明のみならず,本件訂正発明1も物の発明である。物の発明に対する無効理由の主引用発明として,物の発明を認定するのは当然であって,経時要素を導入する余地はない。
また,審判請求書に記載したように,甲5号証には,電解マーキングの種類と用途についての基本的な説明として,交流電圧を印加する黒色永久マークが電気通信部品等の産業用部品に用いられることが記載されている。メタルマスクは電気通信部品等の製造工程において広く使用される部品であることから,メタルマスクに認識マークを形成する際,電解マーキングが適用され得ることは示唆されている。(口頭審理陳述要領書8頁1行?11頁12行)

(2)無効理由4について
ア 甲1号証に記載の発明について
甲1号証には,つぎの発明が記載されている。(以下,「甲1-2発明」という。)
「E:開口部と,
F’:半田印刷の位置合わせ用のために設けられ,
G’:電解めっき法により金属層が形成されたアライメントマークと,
H:を備えたことを特徴とする印刷用マスク。」(審判請求書5頁24行?8頁5行)
ここで,特許請求の範囲について訂正請求がなされた場合であっても,特許無効とされるべき理由については,上述した特許無効理由2と同様である。
なお,請求人は,令和1年5月17日付け審理事項通知書において,
「第7 無効理由3及び4について
<請求人・被請求人に対して>
本件特許発明2又は本件訂正発明2についての請求人・被請求人の主張は,実質的に,本件特許発明1又は本件訂正発明1と同様の内容であると合議体は理解しているが,本件特許発明2又は本件訂正発明2について,無効理由1及び2についての主張に加えて,さらに主張したい点があれば,口頭審理陳述要領書においてのべられたい。」と通知したことに対して,請求人は,令和1年5月31日付け口頭審理陳述要領書において,「請求人としては,異存ない。」旨回答している。(口頭審理陳述要領書 11頁13ないし15行)

3 請求人の提出した証拠について
甲第1号証:特開平10-151724号公報
甲第2号証:特開平1-214864号公報
甲第3号証:特開平1-180995号公報
甲第4号証:特開平1-263292号公報
甲第5号証:金属表面工業全書,槇書店,昭和48年10月30日
甲第6号証:実願平5-70126号(実開平7-40157号)のCD-ROM
甲第7号証:特開平7-256855号公報
甲第8号証:特開平10-157064号公報
甲第9号証:特開2000-71637号公報
甲第10号証:特開2005-193512号公報
甲第11号証:特開2007-62184号公報
甲第12号証:東京地方裁判所 平成30年(ワ)第24818号 特許権侵害差止等請求事件 原告準備書面1
甲第13号証:同 被告第3準備書面
甲第14号証:同 被告第5準備書面
甲第15号証:電解マーキング装置のカタログ,中野マ-キングシステム株式会社
甲第16号証:中野マーキングシステム株式会社代表取締役から請求人従業員へのEメール,令和1年6月18日

4 被請求人の主張の概要
被請求人は,答弁の趣旨として,「本件無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めるとして,以下のとおり主張している。
(1)無効理由2について
ア 甲第1号証に係る発明及び,本件訂正発明1と甲第1号証に係る発明の一致点と相違点について
(ア)甲第1号証には,審理事項通知書における甲1号証に記載の発明に係る合議体の認定を認める。(口頭審理陳述要領書2頁5?6行)
(イ)本件訂正発明1と甲1号証に記載の発明との一致点に係る合議体の認定を認める。
被請求人は,「相違点1が実質的な相違点ではない」という請求人の主張を認める。
被請求人は,「相違点2は,実質的な相違点ではないか,甲第2号証に記載の事項から容易に想到し得るものである」という請求人の主張を認める。(口頭審理陳述要領書 2頁7?16行)
(ウ)相違点3について
a 本件訂正発明1と甲1号証に記載された発明とでは,特に以下の点で相違する。
相違点3:本件訂正発明1では,認識マークが交流電源による電解マーキングによって刻印されているのに対し,甲第1号証に記載された発明では,アライメントマークとして,エッチング法によって形成された凹部に電解めっきによって金めっき層が形成されている点。(審判事件答弁書5頁14行目?20行目)
b 本件特許明細書には,段落0024に「認識マークを電解処理によって刻印(電解マーキング)する。」と明記されており,「電解処理によって刻印」することが「電解マーキング」であると説明している。
電解マーキングは,その具体的な工程の例が本件特許明細書の段落0024及び段落0025にも記載されているように,電解めっきとは異なるものである。
なお,審判請求書の第14頁の第3?4行目に「電解マーキング,電解エッチング,および電解めっき等も電解処理に含まれる」と記載され,電解マーキングと電解めっきとを明確に分けて記載していることから,電解マーキングと電解めっきとが異なるものであることを請求人も認めている。
本件特許の明細書の記載及び図面の記載を考慮すると,本件特許発明1の構成要素C'''については,認識マークが電解マーキングによって刻印されていると解釈することが妥当であり,甲第1号証に記載された「エッチング法により凹部を形成後,電解めっき法によって凹部に金めっき層が形成されたアライメントマーク」と相違することは明らかである。
したがって,相違点3は実質的な相違点である。(口頭審理陳述要領書2頁17?32行)

イ 請求人が主張する無効理由2について
(ア)動機付けについて
a 技術分野,作用及び機能の共通性について
甲第1号証には,印刷用マスクにアライメントマークを形成することが記載されている。このアライメントマークは,印刷用マスクとプリント配線板との位置合わせ用に形成されたものであり,カメラ(CCDカメラ等)によってその位置が認識されるものである(段落【0055】)。即ち,このアライメントマークに対しては,カメラによる撮影が行われた後に画像処理が行われる。そして,画像処理後のデータに基づいて,印刷用マスクとプリント配線板との位置合わせが行われる。したがって,甲第1号証に記載された位置合わせ用のアライメントマークには,必然的に,画像処理を行うためのコントラストが必要になる。更に,上記アライメントマークには,印刷用マスクをプリント配線板に対して指定された公差内に配置するための位置精度及び輪郭の寸法精度が必要になる。
一方,甲第3号証には,電解マーキング法によって,工具類に文字や数字等の表示を行うことが記載されている。ドリル等に表示される文字や数字等は,製品名やメーカー名等を表すものであり,単なる表示機能しか有していない。
したがって,甲第1号証に記載された位置合わせ用のアライメントマークと甲第3号証に記載された工具類への文字や数字等の表示とは,適用される製品が異なると共に作用及び機能をも異にするものであり,技術分野が関連するとはいえない。

b 本件特許出願時の技術水準について
審判請求人が提出した,メタルマスクを開示する全ての文献(甲第1,2,6?11号証)には,位置合わせ用のマークとして,予め凹部(或いは貫通孔)を形成した上でその凹部(或いは貫通孔)に別の部材を付加するという概念しか記載されていない。即ち,本件特許の出願時においては,予め形成しておいた凹部に樹脂等の別の部材を付加することによって必要な機能を確保することが,位置合わせ用のマークを形成することの前提となっている。
なお,審判請求書の第17頁第3?5行目に「一方,深い凹部や貫通孔を設けないでマークを施す場合,すなわち,電解めっきや電解マーキングによりマークを施す場合,」と記載され,あたかも,電解めっきでアライメントマークを形成する甲第1号証の印刷用マスクが「深い凹部や貫通孔を設けないでマークを施す場合」に該当するような記載がなされているが,甲第1号証の印刷用マスクは「深い凹部や貫通孔を設けないでマークを施す場合」には該当しない。
即ち,甲第1号証には,印刷用マスクに形成されたアライメントマークとして,エッチング法によって形成した「凹部」内に,電解めっきによって金めっき層を形成したものしか記載されていない。甲第1号証に記載された印刷用マスクでは,請求項1の記載,段落【0009】及び段落【0010】の記載からも明らかなように,エッチング法等によって凹部を形成することが必須の要件となっている。これは,予め凹部を形成しておかなければ,金めっき層が印刷用マスクの表面から突出してしまうことからも明らかである。
更に,本件特許の出願時においては,「電解マーキングによって位置合わせ用のマークを形成すれば,当該マークに必要な機能を確保できる」という認識すら全くなされていない。
例えば,電解マーキング法に対する認識として,甲第3号証に,電解マーキング法には以下のような課題が存在することが記載されている。
課題1.物理的及び化学的に安定した黒色皮膜を得ることが困難であり,皮膜の退色,離脱,溶出等の問題がある。
課題2.高精度を要求される工具類のマーキングには不適当である。
課題3.解像度に限界があり,明瞭さに欠ける。
上記課題1に関し,退色,離脱,溶出しないことは,位置合わせ用のマークにおいて必要な機能であることは言うまでもない。また,上記課題2に関し,メタルマスクに形成される位置合わせ用のマークはメタルマスクをプリント配線板に対して公差内に配置するためのものであるから,位置精度及び輪郭の寸法精度が要求されることは明らかである。更に,上記課題3に関し,メタルマスクに形成される位置合わせ用のマークはカメラに読み取られて画像処理が行われるのであるから,必然的に特定のコントラストが要求される。
上記課題1?3に示すように,本件特許の出願時においては,電解マーキング法に対して,位置合わせ用のマークに要求される機能を否定するような認識しかなされていない。即ち,本件特許の出願時においては,位置合わせ用のマークに必要な機能を電解マーキングによって確保できることが全く認識されておらず,位置合わせ用のマークを電解マーキングによってメタルマスクに形成すること自体が,当業者にとって全く予期し得なかったことである。
c 証拠文献中の内容の示唆について
上述したように,審判請求人が提出した,メタルマスクを開示する全ての文献(甲第1,2,6?11号証)には,位置合わせ用のマークとして,予め凹部(或いは貫通孔)を形成した上で,その凹部(或いは貫通孔)に別の部材を付加するという概念しか記載されていない。甲第1,2,6?11号証に,電解マーキングによって位置合わせ用のマークを形成することは,何ら示唆されていない。
また,甲第3号証には,電解マーキング法の課題が記載されているだけであり,電解マーキングによって位置合わせ用のマークを形成することについては,何ら示唆されていない。
甲第4号証には,蒸着薄膜(3)を陽極とし,マーカー(6a)を陰極とすることによってレジスト(4a)を取り除くための装置の製造元が例示されているに過ぎない。なお,審判請求人が本件特許出願前に日本製の電解マーキング装置を購入し,位置合わせ用のマークをメタルマスクに施すのに使用していたとの単なる自白は,進歩性の判断に何ら寄与するものではない。
甲第5号証には,電解マーキングの種類と用途として,黒色永久マークが,切削工具,ゲージ類,機械部品,電気通信部品等の産業用部品に用いられることが記載されているが,具体的な用途としては,名称,製造年月日,メーカー名等を表面に作ることが記載されているだけである。これは,甲第3号証に記載された文字や数字等の表示と同様に,単なる表示機能しか備えていないことを示している。即ち,甲第5号証には,メタルマスクに位置合わせ用のマークを形成する際に電解マーキングが適用され得ることは何ら示唆されていない。
(イ)阻害要因について
a 甲第1号証に記載された印刷用マスクのアライメントマークは,電解めっきによって形成された金めっき層からなる。
一方,甲第3号証には,電解マーキング法には以下のような課題が存在するため,電解マーキング法ではなく電気めっきによって,文字や数字等の表示を行うことが記載されている。
課題1.物理的及び化学的に安定した黒色皮膜を得ることが困難であり,皮膜の退色,離脱,溶出等の問題がある。
課題2.高精度を要求される工具類のマーキングには不適当である。
課題3.解像度に限界があり,明瞭さに欠ける。
印刷用マスクに形成されるアライメントマークに対しては,退色,離脱,溶出等がそのまま課題になることは明らかである。また,上述したように,印刷用マスクに形成されるアライメントマークには,印刷用マスクをプリント配線板に対して公差内に配置するための位置精度及び輪郭の寸法精度が必要になることから,高精度を要求されるものへの適用が不適当であると認識されている技術をアライメントマークに採用することはできない。更に,印刷用マスクに形成されるアライメントマークには輪郭の寸法精度が必要になるとともに画像処理を行うためのコントラストが必要になることから,解像度に限界があり且つ明瞭さに欠けると認識されている技術をアライメントマークに採用することはできない。
甲第3号証には,電気めっきによって文字や数字等の表示を行えば上記課題1?3を解決できることが記載されているのであるから,アライメントマークが既に「電解めっき」によって形成されている甲第1号証に記載の印刷用マスクに対して,甲第3号証において上記課題1?3が指摘された電解マーキング法を適用し,甲第1号証に記載のアライメントマークを電解マーキング法で形成することには,阻害要因がある。
以上説明したように,訂正特許発明1は,甲第1?11号証の存在を理由として,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。(審判事件答弁書6頁3行?10頁16行)
b 請求人の主張に対する反論
甲第3号証に記載されたドリルが「プリント基板」に「細径孔」を加工するドリルであることは,甲第3号証に何ら開示及び示唆されていない。なお,甲第3号証では,「(高)精度」という表現はマーキングに対して用いられているのであって,ドリルに対して用いられている訳ではない。また,甲第3号証には,電解マーキング法には以下のような課題が存在するため,電解マーキング法ではなく電解めっきによって,文字や数字等の表示を行うことが記載されている。
課題1.物理的及び化学的に安定した黒色皮膜を得ることが困難であり,皮膜の退色,離脱,溶出等の問題がある。
課題2.高精度を要求される(工具類の)マーキングには不適当である。
課題3.電解液の補充の多少によって滲み,掠れが発生する。
課題4.解像度に限界があり,明瞭さに欠ける。
甲3号証に,被加工面が曲率を有することは電解マーキング法の課題として記載されていない。即ち,甲3号証には,被加工面が平たんであっても,電解マーキング法には上記課題が存在することが記載されている。
したがって,審判請求人による上記主張は,本件特許の内容を認識した上で甲3号証に記載の事項を本件特許の内容に合わせて都合よく解釈した所謂後知恵によるものであり,採用することはできない。(口頭審理陳述要領書3頁下から3行?4頁下から6行)

(2)無効理由4について
ア 甲第1号証について
本件訂正発明2と甲第1号証に記載された発明とは,特に以下の点で相違する。
相違点6:訂正特許発明2では,認識マークが交流電源による電解マーキングによって刻印されているのに対し,甲第1号証に記載された発明では,アライメントマークとして,エッチング法によって形成された凹部に電解めっきによって金めっき層が形成されている点。(審判事件答弁書10頁18?26行)

イ 請求人が主張する請求無効理由4について
相違点6は,上記相違点3と実質的に同じ内容である。
したがって,上記に記載した理由と同様の理由により,本件訂正発明は,甲第1?11号証の存在を理由として,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。(審判事件答弁書11頁5?9行)
なお,被請求人は,令和1年5月17日付け審理事項通知書において,
「第7 無効理由3及び4について
<請求人・被請求人に対して>
本件特許発明2又は本件訂正発明2についての請求人・被請求人の主張は,実質的に,本件特許発明1又は本件訂正発明1と同様の内容であると合議体は理解しているが,本件特許発明2又は本件訂正発明2について,無効理由1及び2についての主張に加えて,さらに主張したい点があれば,口頭審理陳述要領書においてのべられたい。」と通知したことに対して,被請求人は,令和1年5月31日付け口頭審理陳述要領書において,「本件訂正発明2についての被請求人の主張は,実質的に,本件訂正発明1と同様の内容である。」旨回答している。(口頭審理陳述要領書4頁25?27行)

第5 無効理由についての当審の判断
1 各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証(特開平10-151724号公報)
ア 甲第1号証に記載の事項
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 半田印刷用の開口部が設けられた印刷用マスクであって,その一方の面にプリント配線板との位置決めのためのアライメントマークとして凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層が形成されてなる印刷用マスク。
【請求項2】 金属層がめっき法により形成されてなる請求項1記載の印刷用マスク。
【請求項3】 金属層が金からなる請求項1または2記載の印刷用マスク。
【請求項4】 請求項1?3いずれか記載の印刷用マスクをプリント配線板に積層し,前記プリント配線板の半導体素子実装部分にクリーム半田を印刷することを特徴とするプリント配線板の半田印刷方法。」
(イ)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,印刷用マスクおよびそれを用いたプリント配線板の半田印刷方法に関する。さらに詳しくは,プリント配線板上の半導体素子実装部分にクリーム半田を印刷する際に用いられる印刷用マスク,および該印刷用マスクを用いたプリント配線板の半田印刷方法に関する。」
(ウ)「【0002】【従来の技術】一般に,プリント配線板の表面のICチップ実装部分には,半田バンプと呼ばれる半田のボール群が形成されており,この半田バンプにICチップを載せて加熱することにより,プリント配線板にICチップが実装されている。
【0003】従来,半田バンプを形成する方法として,メタルマスクやプラスチックマスク等の印刷用マスクおよびプリント配線板に,それぞれ該印刷用マスクと該プリント配線板との位置決めのためのアライメントマークをあらかじめ形成させておき,所定の位置に印刷用マスクとプリント配線板とが積層するように両者のアライメントマーク同士を整合させたのち,クリーム半田を印刷する方法が採用されている。
【0004】具体的には,例えば,プリント配線板の上方から,該プリント配線板に形成されているアライメントマークをカメラで読み取り,その位置座標を記憶し,次に印刷用マスクの上方または下方から該印刷用マスクに設けられたアライメントマークをカメラで読み取り,その位置座標を記憶して,両者の位置座標のずれを求め,ずれ量を演算して記憶した後,前記プリント配線板を前記印刷用マスクの直下のステージにまでコンベアで移動させ,ずれ量が許容範囲内に収まるようにステージの位置を調整し,次いで前記印刷用マスクを前記プリント配線板上に積層し,前記プリント配線板の所定位置にクリーム半田を印刷した後,かかるクリーム半田をリフロー処理することにより半田バンプを形成する方法が採用されている。
【0005】しかしながら,前記印刷方法では,印刷用マスクのアライメントマークは,印刷用マスクに設けられた凹部または貫通孔に,カーボン樹脂等の顔料を練り込んで着色された樹脂を充填して形成されているため,印刷後に印刷用マスクに付着した半田粒子を洗浄した際には,顔料自体が有する離型性によってカーボン樹脂が剥がれるという欠点がある。」
(エ)「【0008】このように,充填されたカーボン樹脂がアライメントマークから離脱した場合には,その周囲との色彩の差がなくなるため,アライメントマークとしての役割を果たさなくなるので,近年,充填物質が離脱しがたいアライメントマークを有する印刷用マスクの開発が待ち望まれている。」
(オ)「【0011】【発明の実施の形態】本発明の印刷用マスクは,半田印刷用の開口部が設けられた印刷用マスクであって,その一方の面にプリント配線板との位置決めのためのアライメントマークとして凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層が形成されたものである。」
(カ)「【0018】また,前記凹部は,前記基板において,通常,プリント配線板に設けられているアライメントマークと対応する位置に設けられる。かかる凹部を設ける位置およびその数は,任意であり,プリント配線板に応じて適宜選定すればよい。
【0019】前記凹部の形状,大きさ,深さ等は,特に限定がなく,任意である。その一例として,例えば,形状および大きさとして直径50?100μm程度の円形があげられ,また深さとして5?20μm程度があげられる。
【0020】前記凹部は,例えば,エッチング法,レーザー加工法等によって形成させることができる。
【0021】本発明においては,前記凹部の少なくとも底面に,該凹部が設けられる面の色と異なる色を有する金属層が形成されている点に,1つの大きな特徴がある。
【0022】このように,前記凹部の少なくとも底面に前記金属層が形成されいる場合には,該金属層は,前記基板との接着強度に優れているので,例えば印刷用マスクを洗浄する際などに外的応力が加わった場合であっても,該金属層が離脱するなどの不都合が発生することがない。」
(キ)「【0024】本発明において,印刷用マスクの一方の面に設けられた凹部に金属層を形成する方法としては,例えば,化学蒸着法,電解めっき法,無電解めっき法等によって金属層を形成する方法があげられるが,本発明はかかる方法のみに限定されるもではない。なお,これらの方法のなかでは,作業性,コスト等の点から,電解めっき法等のめっき法によって金属層を形成する方法が好ましい。」
(ク)「【0065】いわゆるアディティブ法により,直径100μmの円形を有する開口部2がプリント配線板の半田バンプ形成用パッドに対応する位置に形成されたニッケル-コバルト合金からなる厚さ50μmの基板(340mm×255mm)を作製し,プリント配線板のアライメントマークに対応する位置に,エッチング法により直径100μm,深さ5μmの凹部を形成させた。次に,この基板の凹部以外の部分をフォトレジストを用いてマスクし,電解めっきにより,凹部に厚さ5μmの金めっき層を形成させた後,フォトレジストを除去することにより,基板にアライメントマーク3を形成させ,印刷用マスク1を得た。」
イ 甲第1号証に記載の発明(以下,「甲1発明」という。)
(ア)上記ア(ア)の特許請求の範囲の請求項1及び同(エ)の段落【0011】の記載によれば,甲1号証には,「半田印刷用の開口部が設けられた印刷用マスクであって,その一方の面にプリント配線板との位置決めのためのアライメントマークとして凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層が形成されてなる印刷用マスク。」の発明が記載されているものと認められる。
(イ)これに対して,請求人は,甲1号証には,次の発明が記載されていると認定すべきである旨主張している。
「A:半田ペーストをプリント配線板に印刷形成するために形成された開口部と,
B'':前記プリント配線板への位置合わせ用のために設けられ,
C'':マスクの一方の面に凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層が形成されたアラインメントマークと,
D:を備えたことを特徴とする印刷用マスク」(口頭審理陳述要領書3頁12行?5頁1行)
(ウ)これに対して,被請求人は,次のように主張している。
「甲第1号証には,印刷用マスクに形成されたアライメントマークとして,エッチング法によって形成した「凹部」内に,電解めっきによって金めっき層を形成したものしか記載されていない。甲第1号証に記載された印刷用マスクでは,請求項1の記載,段落【0009】及び段落【0010】の記載からも明らかなように,エッチング法等によって凹部を形成することが必須の要件となっている。これは,予め凹部を形成しておかなければ,金めっき層が印刷用マスクの表面から突出してしまうことからも明らかである。(審判事件答弁書7頁19行?26行)
甲1号証に記載された発明は,甲1号証の段落0009に記載されているように「アライメントマークに充填された充填物質の離脱等が発生しがたい・・・印刷用マスク・・・を提供する」ことを目的としている。そして,甲1号証は,エッチング法,レーザー加工法等によって凹部を予め形成した後,化学蒸着法,電解めっき法,無電解めっき法等によって凹部に金属層を形成することのみを開示している。つまり,甲1号証には,印刷用マスクに備えられるアライメントマークとして,予め凹部を形成した上でその凹部に別の部材を付加するという技術的思想(以下,「技術的思想1」という)しか開示されていない。
したがって,技術的思想1は,甲1号証に記載された発明の構成要件として明記されるべきであり,甲1号証に記載された発明に関しては,請求人の主張よりも合議体の認定の方が適切である。
なお,被請求人は甲1号証に記載の発明に係る合議体の認定を認めるが,請求人が主張するように甲1号証に記載された発明について経時的な要素を除くのであれば,凹部の形成後に凹部内に金属層を形成することは構成要件C''の特性そのものであるため,甲1号証には,以下の発明が記載されていると認めることが適切であると考える。
「 A:半田ペーストをプリント配線板に印刷形成するために形成された開口部と,
B'':前記プリント配線板への位置合わせ用のために設けられ,
C''-1:マスクの一方の面にエッチング等により形成された凹部と
C''-2:前記凹部の形成後に前記凹部の少なくとも底面に電解めっき法等により追加的に形成された,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層と
C'':を有するアライメントマークと,
D:を備えたことを特徴とする印刷用マスク」」(令和1年6月11日付け上申書1頁下から2行?2頁下から7行)
(エ)そこで,まず,甲1号証において,「前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層が形成されたアライメントマーク」を備えるものといえるかについて検討する。
上記ア(エ)及び(オ)によれば,甲第1号証に記載された発明は,「充填されたカーボン樹脂がアライメントマークから離脱した場合には,その周囲との色彩の差がなくなるため,アライメントマークとしての役割を果たさなくなるので,近年,充填物質が離脱しがたいアライメントマークを有する印刷用マスク」の開発をその課題とし,その課題を解決する手段として,「一方の面にプリント配線板との位置決めのためのアライメントマークとして凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層」を形成することにより,同(カ)にあるように,「前記凹部の少なくとも底面に前記金属層が形成されている場合には,該金属層は,前記基板との接着強度に優れているので,例えば印刷用マスクを洗浄する際などに外的応力が加わった場合であっても,該金属層が離脱するなどの不都合が発生することがない。」という作用効果を奏するものであると認められる。
なお上記ア(カ)の【0020】において「凹部は,例えば,エッチング法,レーザー加工法等によって形成させることができる。」こと,上記ア(キ)の「印刷用マスクの一方の面に設けられた凹部に金属層を形成する方法としては,例えば,化学蒸着法,電解めっき法,無電解めっき法等によって金属層を形成する方法があげられるが,本発明はかかる方法のみに限定されるもではない。なお,これらの方法のなかでは,作業性,コスト等の点から,電解めっき法等のめっき法によって金属層を形成する方法が好ましい。」ことが甲第1号証に記載されている。
以上のことからすれば,甲第1号証においては,「凹部」や「凹部」に「金属層」を形成する形成手法については,複数の方法が記載されているから,これらの形成手法を特定のものと限定して認定することは相当ではない。
(オ)そして,上記(ア)の甲第1号証の「印刷用マスク」に設けられた「半田印刷用の開口部」とは,半田ペーストをプリント配線板に印刷形成するために形成された開口部」といいえるものであり,「プリント配線板との位置決めのためのアライメントマーク」は,「プリント配線板への位置合わせ用のために設けられた」「アライメントマーク」といい得るものである。
(カ)以上を総合すると,甲第1号証には,つぎの発明が記載されているものと認められる。
「A:半田ペーストをプリント配線板に印刷形成するために形成された開口部と,
B:前記プリント配線板への位置合わせ用のために設けられ,
C:マスクの一方の面に凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層が形成されたアライメントマークと,
D:を備えたことを特徴とする印刷用マスク」(以下,「甲1発明」という。)

(2)甲第2号証(特開平1-214864号公報)
ア 甲第2号証に記載の事項
(ア)「本発明は印刷用スクリーン,およびその製造方法に関し,特にプリント基板のクリームはんだ印刷用スクリーンに好適なものである。」(1頁右欄4?6行)
(イ)「第1図イおよび口に示すように,印刷用スクリーン1にはターゲットマーク2と印刷用パターン3が設けられている。ターゲットマーク2は印刷用スクリーンlをハーフエツチングして作成されたものなので,その内面の反射率は印刷用スクリーン1の表面の反射率と殆ど差がなく,第4図に示した方法で印刷を行う場合,カメラ8でターゲットマーク2を容易に識別し,ターゲットマーク2の位置を計測して印刷用スクリーンlとプリント基板9との位置合わせを確実にすることができるように,低反射率材料4(例えば塗料,着色されたエポキシ樹脂等)を塗布し,ターゲットマーク2と印刷用スクリーン1の表面の反射率を異ならせている。」(2頁左下欄最下行?右下欄13行)
(ウ)第1図から「ターゲットマーク2」が複数存在することが見て取れる。
イ 甲第2号証に記載の技術事項
「印刷スクリーンに位置合わせ用のターゲットマークを複数形成すること」(以下,「甲第2号証記載技術事項」という。)

(3)甲第3号証(特開平1-180995号公報)
ア 甲第3号証に記載の事項
(ア)「[従来の技術]金属製の被加工物にマークを施すには,一般に電解マーキング法が採用されている。この電解マーキング法は,第5図に示すようにステンシル1の孔部に電解液2と被加工物3を接触させ,電解液2に接触するカーボン電極4と被加工物3との間に交流を印加することによって,被加工物の表面に皮膜5を生成するものである。そして,生成される皮膜は被加工物3の酸化物,或いは被加工物3と電解液2との反応生成物である。」(第1頁左下欄第16行?右下欄第5行)
(イ)「【発明が解決しようとする課題]
上記電解マーキング法は簡便であって量産には適しているが,以下に挙げる欠点がある。
(1)得られるマーキング皮膜は被加工物の酸化物,或いは反応生成物に限られるため,物理的及び化学的に安定した黒色皮膜を得ることが困難であり,皮膜の退色,離脱,溶出等の問題がある。
(2)同法では原理上表面がエツチングされ,その上に黒色皮膜が生成されるので,エツチング深さの制御及び皮膜厚さの制御は事実上不可能であり,ドリル等のような高精度を要求される工具類のマーキングには不適当である。
(3)電解液の補充が多すぎるとマーキングパターンに滲みが発生する一方,少なすぎると掠れが発生し,かつ,表面がエツチングされて傷が残るため,再度マーキングすることはできない。
(4)解像度に限度があり,同法では0.2mm幅の線が限界であるし,また,上記(3)の理由によって明瞭さに欠ける。
一方,湿式鍍金法は,電解マーキング法と比較して電流密度及び時間の設定により皮膜厚さを任意に変えることができ,しかも,被加工面をエツチングすることがないので,精度を要求されるマーキングには最適であり,再度マーキングすることも可能である。
例えば,黒クロム鍍金法は皮膜強度,色調,科学的安定性等に優れた皮膜が得られる。 しかしながら,黒クロム鍍金法でマーキングする場合,印刷法・フォトレジスト法を利用して鍍金不要部の全面をマスクし,その後で鍍金処理を行なわなければならず,工程が複雑であって量産向きでないし,当然コストアップになることは避けられない。
そこで,本発明の目的は安価なステンシルで被鍍金物を局部的にマスクし,その被鍍金部分に部分鍍金を施すことによって,従来法と比較して物理的及び化学的に優れ,解像度が良好であると共に,再度のマーキングが可能であるマーキング法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
上記本発明の目的は,ホルダー内に収容した被鍍金物の周面上にステンシルを密着させ,このステンシルに表現されている数字や文字等のパターンにしたがって,上記被鍍金物の周面上の被鍍金部分に流動する鍍金液を接触させて電気鍍金するマーキング法により達成される。」(第1頁右下欄第6行?2頁右上欄10行)
(ウ)「本発明は上記の如くであって,移送されてきた被鍍金物に対し黒クロム鍍金法でマーキングすることができ,量産に適していてコストダウンできることは勿論のこと,以下に挙げる効果がある。
(1)鍍金液を流動させているため,鍍金部の発熱を防止できる冷却効果があり,良好な黒クロム鍍金皮膜が生成する。
(2)膜厚制御が容易であり,高精度が要求される工具類には最適である。
(3)約0.3μmの皮膜で十分に実用的なマーキングが得られ,被鍍金物の精度に影響を与えない。」(第3頁右上欄第10行?左下欄第1行)」

(エ)


イ 甲第3号証に記載の発明
「ステンシル1の孔部に電解液2と被加工物3を接触させ,電解液2に接触するカーボン電極4と被加工物3との間に交流を印加することによって,被加工物の表面に皮膜5を生成する金属製の被加工物にマークを施す電解マーキング法」の発明(以下,「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。

(4)甲第4号証(特開平1-263292号公報)
ア 甲第4号証に記載の事項
(ア)「電解マーキング装置としては,中野マーキング社(日本)製,レクトロエッチ社(英国)製,エクセルテクニカ社(日本)製のもので実験したが,これらの装置に限定するものではない。」(第4頁左上欄第15行?第18行)

(5)甲第5号証(金属表面工業全書(18),昭和48年10月30日発行,槇書店,国立国会図書館蔵,253頁)
ア 甲第5号証記載の事項
(ア)「マーキングする金属により,電解液の選択,直流か交流かの選択によって用途別マーキングの種類は次のようなものがある。
(1)黒色永久マーク(AC) 切削工具,ゲージ類,機械部品,電気通信部品等の産業用部品に用いる(ACとは交流電気を使用している意味)。
(2)淡白永久マーク(ETCH) 洋食器,装飾品,ステンレス器具等で日常目にふれるものなど(ETCHとは直流電気を使用しているという意味)。
(3)簡易マーク(PLATE) 方法は黒色永久マークと同じで,スイッチをPLATEに切りかえて,マーキングする。
(4)ディープエッチマーク(ETCH) 黒色または淡白永久マークに比して凹凸差のあるもので,最高は0.15mmのエッチングをいう。」(253頁,第11行?第20行)

(6)甲第6号証(実願平5-70126号(実開平7-40157号公報)のCD-ROM)
ア 甲第6号証記載の事項
(ア)「しかしながら,従来の基準マークは,印刷時やスクリーン洗浄時等に基準マーク形成材料が脱落することがあった。」(第4頁第2行?第3行)

(7)甲第7号証(特開平7-256855号公報)
ア 甲第7号証記載事項
(ア)「さらに,位置合わせマ-クは貫通形状でなく,閉塞もしくは狭窄形状となり,位置合わせマ-ク部分にめっき未着によって形成された穴を封止した場合でも,半田ペースト印刷作業をくり返し実施しても,封止樹脂が抜け落ちること無く安定して作業が出来るようになる。」(第5頁左欄第25行?第30行)

(8)甲第8号証(特開平10-157064号公報)
ア 甲第8号証に記載の事項
(ア)「本発明は,前記従来技術に鑑みてなされたものであり,アライメントマークに充填された充填物質の離脱等が発生しがたく,該アライメントマークを確実にしかも容易に認識することができる印刷用マスク,およびそれを用いたプリント配線板の半田印刷方法を提供することを目的とする。」(第2頁右欄第23行?第28行)

(9)甲第9号証(特開2000-71637号公報)
ア 甲第9号証に記載の事項
(ア)「加えて,小孔13を設けることにより,ターゲットマーク16を形成するための染料19の脱落も起こらず,耐久性の高いターゲットマーク16を形成することが可能となる。」(第4頁右欄第19行?第22行)

(10)甲第10号証(特開2005-193512号公報)
ア 甲10号証に記載の事項
(ア)「この発明は,上述した課題を解決するためになされたもので,位置決めマークを形成する充填物が抜け落ちることのないスクリーン印刷用マスクを提供することを目的とする。」(第3頁第16行?第17行)

(11)甲第11号証(特開2007-62184号公報)
ア 甲11号証に記載の事項
(ア)「しかしながら,円形開口で形成したアライメントマークを樹脂封止した場合には,メタルマスクにおけるニッケル金属膜の膜厚が比較的薄いために,スクリーン印刷中,あるいはスクリーン印刷の後におけるメタルマスクの洗浄処理中に,アライメントマーク部分に設けた樹脂がメタルマスクから剥落するという問題があった。」(第3頁第1行?第4行)

2 無効理由2(本件訂正発明1の甲第1号証に基づく進歩性の欠如について)
(1)本件訂正発明1と甲1発明との対比
ア 本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明の「半田ペーストをプリント配線板に印刷形成するために形成された開口部」,「前記プリント配線板への位置合わせ用のために設けられ」た「アライメントマーク」,「印刷用マスク」は,それぞれ本件訂正発明1の「半田ペーストをプリント配線板に塗布形成するために形成された開口パターン」,「前記プリント配線板への位置合わせ用のために」「設けられた」「認識マーク」,「メタルマスク」に相当する。
イ してみると,本件訂正発明1と甲1発明とは,次の一致点で一致し,各相違点において相違する。
<一致点>
「半田ペーストをプリント配線板に塗布形成するために形成された開口パターンと,前記プリント配線板への位置合わせ用のために設けられた認識マークとを備えたメタルマスク」である点。
<相違点1>
本件訂正発明1では,認識マークが開口パターンに近接して設けられているのに対して,甲1発明では,アライメントマークが開口部に近接して設けられているか否かが定かでない点
<相違点2>
本件訂正発明1では,認識マークが複数設けられるのに対して,甲1発明ではアライメントマークが複数設けられているか否かが明らかでない点
<相違点3>
本件訂正発明1では,認識マークが,「交流電源による電解マーキングによって刻印される」のに対して,甲1発明では,アライメントマークは,「マスクの一方の面に凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層が形成され」るものである点

(2)当審の判断
ア 相違点1について
本件訂正発明1の 認識マークは,プリント配線板との位置合わせ用に設けられるものであって,本件訂正発明1において,位置合わせ用の認識マークを開口部との位置関係を「開口部」に近接して設けることに限定する技術的意義は,本件特許明細書の記載からは見出せず,また,技術常識に照らせば,位置合わせ用の認識マークを所定の位置に正確に形成することは重要であるものの,開口部に近接して設けなくとも機能することは,当業者にとって明らかである。
さらに,開口部に近接して設けるとはどのような態様をいうのかは,明確でない。
この点,被請求人も,特許権侵害訴訟の「原告準備書面1」(甲第12号証)において,認識マークがメタルマスクのメタル上に配置されていれば足りる旨主張し,「前記開口パターンに近接して」の文言は無用な限定であることを認めている。
してみると,上記相違点1は,実質的な相違点ではないか,あるいは,甲1発明の「アライメントマーク」を開口部に近接して設けることは,当業者が適宜なし得る程度のことというべきである。
イ 相違点2について
本件訂正発明1の認識マークや甲1発明のアライメントマークは,プリント配線板との位置合わせ用に設けられるものであり,位置合わせ用のマークは複数箇所に設けることが必要不可欠であることは,技術常識に照らせば明らかである。
したがって,位置合わせ用のマークは,明示されているか否かを問わず当然複数のマークが設けられるものと解される。
また,甲第2号証には,複数のターゲットマークを備えた印刷用スクリーンが記載されている。
してみると,上記相違点2は,実質的な相違点ではないか,あるいは,甲2号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易になし得る程度のことというべきである。
ウ 相違点3について
(ア)甲第3号証には,「ステンシル1の孔部に電解液2と被加工物3を接触させ,電解液2に接触するカーボン電極4と被加工物3との間に交流を印加することによって,被加工物の表面に皮膜5を生成する金属製の被加工物にマークを施す電解マーキング法」の発明が記載されているものの,甲第3号証には,電解マーキング法に関しては,「(1)得られるマーキング皮膜は被加工物の酸化物,或いは反応生成物に限られるため,物理的及び化学的に安定した黒色皮膜を得ることが困難であり,皮膜の退色,離脱,溶出等の問題がある。(2)同法では原理上表面がエツチングされ,その上に黒色皮膜が生成されるので,エツチング深さの制御及び皮膜厚さの制御は事実上不可能であり,ドリル等のような高精度を要求される工具類のマーキングには不適当である。(3)電解液の補充が多すぎるとマーキングパターンに滲みが発生する一方,少なすぎると掠れが発生し,かつ,表面がエツチングされて傷が残るため,再度マーキングすることはできない。(4)解像度に限度があり,同法では0.2mm幅の線が限界であるし,また,上記(3)の理由によって明瞭さに欠ける。」のに対して,湿式鍍金法は,電解マーキング法と比較して電流密度及び時間の設定により皮膜厚さを任意に変えることができ,しかも,被加工面をエツチングすることがないので,精度を要求されるマーキングには最適である旨記載されている。
甲1発明の「アライメントマーク」は,「プリント配線板との位置決めのため」に用いられるものであって,加工精度が要求されることは明らかであることからすれば,その点で湿式鍍金法に劣るとされる甲第3号証の電解マーキング法を,甲1発明の「アライメントマーク」に用いることには,阻害要因が存在するものというべきである。
してみると,上記相違点3は,当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
仮に,甲1発明に対して,甲3発明の「電解マーキング」を適用したとしても,甲1発明は,「マスクの一方の面に凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層が形成され」るものであるから,甲第3号証の電解マーキング法を適用するにあたっては,「マスクの一方の面に凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面」に対して,電解マーキング法により「一方の面の色と異なる色を有する金属層」がその表面に形成されるにとどまるのであって,上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成である「交流電源による電解マーキングによって刻印された認識マーク」とはならない。
(イ)請求人は,交流電源による電解マーキング装置は,本件特許出願前から国内外で広く販売されていたことから,電解マーキングの手法を位置合わせ用マークに転用することについても当然周知である旨主張している(令和1年6月21日付け請求人上申書2頁20行?4頁3行)。
しかしながら,交流電源によるマ-キングの手法を位置合わせ用マークに転用することが本件特許出願前に周知であると認めるに足りる証拠はない。 請求人は,甲第15号証(「電解マーキング装置のカタログ」,中野マーキングシステム株式会社作成)を提示して,同カタログの2頁には,「ロゴやシンボルマークなど,自由な図柄に適用できる旨が記載されている」こと,同カタログの24頁 に「電解液型番D-308は,ニッケル素地に使用することで黒色マーキングの形成に適する旨が記載されている」ことを根拠として,認識マークもマークの一種であることから,各種マークの形成に電解マーキングを適用することは,当業者であれば容易に想到できると主張しているが,甲第15号証には,電解マーキングを位置合わせ用のマークに適用することについては記載も示唆もない。
(ウ)請求人は,交流電源による電解マーキングでは,ワークの表面に凹部が形成され,その凹部の底面に黒色皮膜が形成されるからこそ,位置合わせ用マークとして機能するのであり,本件訂正発明1と甲1発明とにおいて,凹部の底面に形成されるのが黒色皮膜と金属層という相違はあるが,凹部の形成については実質的な相違点ということはできない旨主張する(口頭審理陳述要領書9頁8行?9頁最下行,令和1年6月21日付け請求人上申書4頁下から4行?5頁1行)。
しかしながら,甲1発明は「マスクの一方の面に凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層が形成され」るものであるのに対して,本件訂正発明1は,「電解マーキングにより刻印される」ものであるから,「凹部の形成」は実質的な相違点というべきである。
請求人は,交流電源による電解マーキングも「ワークが正電位でヘッドが負電位の半周期において,ワークの金属が電解液中に金属イオンとして溶出し,溶出した金属イオンと電解液が化学反応して金属イオンが黒色に変化する。その後,極性が反転した半周期において,黒色に変化した金属イオンがワークに電着するものであり」,「金属イオンの溶出,すなわち,凹部の形成後に金属イオンの付着が行われることを前提としている」旨主張する。(同日付請求人上申書4頁13行?31行)
しかしながら,交流電源による電解マーキングでは,正負の極性反転が繰り返される中で,メタルマスクが正極時は金属イオンの溶出及び再溶出が,メタルマスクが負極時には溶出した金属イオンの付着及び再付着が交互に行われ,この現象が繰り返されることによって皮膜が形成されるものであり,交流電源による電解マーキングでは,金属イオンの溶出及び再溶出による凹みの発生と溶出した金属イオンの付着及び再付着による皮膜の形成とは同じ工程で行われるものと解すべきものであるから,請求人の主張は採用できない。

(3)小活
上記で検討したとおり,本件訂正発明1と甲1発明との間には,相違点3が存在し,当該相違点3は,請求人が提出した甲第3号証並びに甲第2号証及び甲4号証ないし甲第15号証を勘案しても当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。
以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由2によっては,本件訂正発明1に係る特許を無効とすることはできない。

3 無効理由4(本件訂正発明2の甲第1号証に基づく進歩性の欠如について)

(1)本件訂正発明2と甲1発明との対比
ア 本件訂正発明2と甲1発明とを対比すると,甲1発明の「半田ペーストをプリント配線板に印刷形成するために形成された開口部」,「前記プリント配線板への位置合わせ用のために設けられ」た「アライメントマーク」,「印刷用マスク」は,それぞれ本件訂正発明1の「開口パターン」,「スクリーン印刷の位置合わせ用のために」「設けられた」「認識マーク」,「メタルマスク」に相当する。
イ してみると,本件訂正発明2と甲1発明とは,次の一致点で一致し,各相違点において相違する。
<一致点>
「開口パターンと,スクリーン印刷の位置合わせ用のために設けられた認識マークとを備えたメタルマスク」である点。
<相違点4>
本件訂正発明2では,認識マークが開口パターンに近接して設けられているのに対して,甲1発明では,アライメントマークが開口部に近接して設けられているか否かが定かでない点
<相違点5>
本件訂正発明2では,認識マークが複数設けられるのに対して,甲1発明ではアライメントマークが複数設けられているか否かが明らかでない点
<相違点6>
本件訂正発明2では,認識マークが,「交流電源による電解マーキングによって刻印される」のに対して,甲1発明では,アライメントマークは,「マスクの一方の面に凹部が形成され,前記凹部の少なくとも底面に,前記一方の面の色と異なる色を有する金属層が形成され」るものである点

(2)当審の検討
ア 上記相違点4ないし6は,2の(1)イの相違点1ないし3と実質的に同じ相違点である。この点及び無効理由4についての主張は,無効理由2についてしたものと同じであることは,請求人,被請求人も認めているところである。
イ 上記2の(2)のウで検討した理由と同様の理由により,上記相違点6は,当業者が容易に想到し得るものということはできない。

(3)小括
上記で検討したとおり,本件訂正発明2と甲1発明との間には,相違点6が存在し,当該相違点6は,請求人が提出した甲第3号証並びに甲第2号証及び甲4号証ないし甲第15号証を勘案しても当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。
以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由4によっては,本件訂正発明2に係る特許を無効とすることはできない。

第6 むすび
第2で検討したとおり,本件特許の明細書,特許請求の範囲を,本件訂正請求書に添付した訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項[1ないし4]について訂正することを認める。
そして,第5で検討したとおり,本件訂正後の本件訂正発明1及び2に係る特許は,請求人が主張する無効理由2又は4によっては無効とすることはできない,
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
メタルマスク及びその製造方法
【技術分野】
【0001】
この発明は、認識マークを備えたメタルマスクとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種電子部品をプリント配線板に実装するため、従来から、メタルマスクを使用したスクリーン印刷法によって、半田ペースト(クリーム半田)等をプリント配線板に塗布形成する方法が採用されている。一般に、メタルマスクを使用したスクリーン印刷法では、コンベヤ等によってメタルマスクの下方を移動、停止する各プリント配線板に対して、順次半田ペースト等の塗布形成が実施される。このため、メタルマスクには、その片面或いは両面に、プリント配線板への位置合わせ用の認識マークが形成されており、半田ペースト等の塗布前に、上記認識マークを基準として、メタルマスクと各プリント配線板との位置合わせが行われている。
【0003】
従来では、メタルマスクに認識マークを形成するに際し、半田ペースト等をプリント配線板に塗布するための開口部(開口パターン)をメタルマスクに形成した後、メタルマスクの所定位置にエッチング液を用いて凹部を形成(ハーフエッチング)し、この凹部にトナー(カーボンの微粉末と接着剤との混合物)を詰めて乾燥させる方法が採用されていた。
【0004】
また、メタルマスクに認識マークを形成するための従来技術として、電鋳法によって製造されるメタルマスクにおいて、開口部の形成と同時に認識マークの凹部を形成するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。なお、特許文献1記載の方法は開口部と認識マークとの相対位置精度を向上させるためのものであるが、上記方法によってメタルマスクの所定位置に凹部を形成した場合であっても、認識マークを完成させるためには、この凹部にトナーを充填して乾燥させる工程が更に必要であった。
【0005】
【特許文献1】特開平7-256855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載のものを含め、トナーを用いて認識マークを形成する従来のメタルマスクでは、認識マークの凹部からトナーが取れてしまう場合があり、かかる場合に、プリント配線板への位置合わせができなくなるといった問題が生じていた。
【0007】
なお、上記トナーの凹部からの脱落は、メタルマスクの洗浄時に発生することが多い。特に近年では、メタルマスクの開口部が密集しているため、半田ペースト等の除去に超音波洗浄が多く用いられている。このため、キャビテーション効果等によってトナーが凹部から脱落し易くなり、上記問題が多発する要因となっていた。
【0008】
また、メタルマスクが製造ラインに組み込まれた後に、認識マークのトナーが脱落してしまうと、製造ラインを停止させて、トナーを再度凹部に充填する作業が必要となってしまう。更に、メタルマスクの使用者が上記充填作業を行うことができない場合には、例えば、メタルマスクの製造元の技術者を呼び寄せて上記充填作業を行ってもらう必要がある。このため、一旦トナーの脱落が発生すると、メタルマスクをその一部に含む製造ラインの生産性が著しく低下するといった問題もあった。
【0009】
また、従来の方法では、認識マークの凹部を形成するためにエッチング液を使用するため、廃液が出て環境的にも好ましいものではなかった。
【0010】
更に、従来の方法では、凹部にトナーを充填して認識マークを形成するため、この凹部にはトナーを充填するための所定の深さ(例えば、50μm以上の深さ)が必要となる。したがって、トナーを用いて認識マークを形成する方法は、箔物メタルマスクに適用することが困難であり、特に両面に認識マークを形成する必要がある場合には、その適用は不可能であった。
【0011】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、認識マークの脱落を確実に防止することができるとともに、箔物に対しても容易に認識マークを形成することができるメタルマスク、並びに、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るメタルマスクは、半田ペーストをプリント配線板に塗布形成するために形成された開口パターンと、プリント配線板への位置合わせ用のために開口パターンに近接して設けられ、交流電源による電解マーキングによって刻印された複数の認識マークと、を備えたものである。
【0013】
また、この発明に係るメタルマスクは、開口パターンと、スクリーン印刷の位置合わせ用のために開口パターンに近接して設けられ、交流電源による電解マーキングによって刻印された複数の認識マークと、を備えたものである。
【0014】
この発明に係るメタルマスクの製造方法は、半田ペーストをプリント配線板に塗布形成するための開口パターンが形成されたメタルマスクの一面上に、薄膜状のレジストを形成する第1の工程と、メタルマスクの一面上から、認識マークを形成する部分のレジストを除去する第2の工程と、メタルマスクの認識マークを形成する部分と電極とを電解液に浸して、メタルマスクと電極とを交流電源に接続することにより、メタルマスクの一面の所定位置に、電解処理によって、他の部分よりも濃い色の皮膜を形成する第3の工程と、皮膜を形成した後、メタルマスクの一面上からレジストを除去する第4の工程と、を備えたものである。
【0015】
また、この発明に係るメタルマスクの製造方法は、開口パターンが形成されたスクリーン印刷用のメタルマスクの一面上に、薄膜状のレジストを形成する第1の工程と、メタルマスクの一面上から、認識マークを形成する部分のレジストを除去する第2の工程と、メタルマスクの認識マークを形成する部分と電極とを電解液に浸して、メタルマスクと電極とを交流電源に接続することにより、メタルマスクの一面の所定位置に、電解処理によって、他の部分よりも濃い色の皮膜を形成する第3の工程と、皮膜を形成した後、メタルマスクの一面上からレジストを除去する第4の工程と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、半田ペーストをプリント配線板に塗布形成する際に用いられるメタルマスクにおいて、認識マークの脱落を確実に防止することができるとともに、箔物に対しても容易に認識マークを形成することができる。
【0017】
また、この発明によれば、スクリーン印刷に用いられるメタルマスクにおいて、認識マークの脱落を確実に防止することができるとともに、箔物に対しても容易に認識マークを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0019】
実施の形態1.
図1乃至図10は本発明の実施の形態1におけるメタルマスクの製造工程を示す図である。図1乃至図10に基づいて、メタルマスクの両面に認識マークを形成する工程について詳細に説明する。
【0020】
先ず、電鋳法やレーザ加工により、メタルマスク1の所定位置に、半田ペースト等をプリント配線板に塗布形成するための開口部(開口パターン)(図1乃至図10においては図示せず)を形成する。そして、開口部の加工が終了したメタルマスク1を準備し(図1参照)、メタルマスク1の両面に付着している油分を脱脂液によって除去する(図2参照)。脱脂液により油分を除去した後、メタルマスク1の両面(認識マークを形成する面)上に、レジスト液或いはドライフィルム等を使用して、それぞれ薄膜状のレジスト2(感光膜)を形成する(図3参照)。
【0021】
次に、メタルマスク1の両面に形成された各レジスト2上に、ポジタイプ用の認識マーク部3aが設けられたフィルム3を乗せて焼き付ける(図4参照)。なお、上記工程においては、当然のことながら、フィルム3に設けられた認識マーク部3aをメタルマスク1の認識マークを形成する位置に合わせてフィルム3を配置し、その後、露光する。ここで、認識マーク部3aの黒い部分は露光の際に光が透過しないため、認識マーク部3aの下方に位置する部分のレジスト2は硬化しない。一方、フィルム3のうち認識マーク部3a以外の部分では露光の際に光が透過するため、上記認識マーク部3a以外の部分の下方に位置するレジスト2は硬化する。
【0022】
なお、図4はネガタイプのレジスト2を用いた場合の露光工程を示したものである。一方、ポジタイプのレジスト2を用いた場合には、ネガタイプ用の認識マーク部3aが設けられたフィルム3を使用すれば良い。かかる場合、上記の場合とは逆に、認識マーク部3aのみ光が透過し、認識マーク部3aの下方に位置する部分のレジスト2が溶解することになる。
【0023】
上記露光工程が終了した後、フィルム3を各レジスト2上から剥離し、レジスト2のうち、上記露光工程において硬化しなかった部分(未硬化レジスト部2a)のみを現像液によってメタルマスク1の両面上から除去する(図5参照)。以上の工程により、メタルマスク1の両面上から、認識マークを形成する部分(認識マーク形成部1a)のレジスト2を除去することができ、メタルマスク1の両面上に、認識マーク形成部1aの部分のみ開口したレジスト2が完成する(図6参照)。
【0024】
次に、メタルマスク1の所定位置(認識マーク形成部1a)に、認識マークを電解処理によって刻印(電解マーキング)する。具体的な工程は以下の通りである。先ず、図7に示すように、電極4とメタルマスク1表面の認識マーク形成部1aとを電解液5に浸し、上記電極4及びメタルマスク1を交流電源6に接続する。すると、メタルマスク1側が陽極となった際に、認識マーク形成部1aの表面から金属イオンが電解液5に溶け出す。電解液5に溶け出した上記金属イオンは、電解液5中でOH基と反応、化学変化を起こし、黒色等の濃い色に変化する
【0025】
そして、極性が切り換わりメタルマスク1側が陰極になると、電解液5中で黒色等に変化した金属イオンがメタルマスク1に戻り、これによって、メタルマスク1の所定位置(上記認識マーク形成部1aであった位置)に、他の部分よりも濃い色の皮膜1bが形成される。即ち、上記皮膜1bが認識マークとなる(図8参照)。なお、図8にも示したように、皮膜1bを形成する工程では、メタルマスク1の表面から金属イオンが電解液5中に溶け出すため、認識マークが形成される部分は、極浅く掘り込まれた状態になる。例えば、皮膜1bの表面は、メタルマスク1の他の部分の表面よりもt=5?10μm程度深い位置に配置される。
【0026】
上記工程によってメタルマスク1の表面に認識マーク(皮膜1b)を形成した後、同様の手順、即ち、上記電解マーキング工程によって、メタルマスク1の裏面にも認識マークを形成する。そして、メタルマスク1の両面の所定位置に認識マークを形成した後、剥離液によってメタルマスク1の両面上から全てのレジスト2を除去し(図9参照)、図10及び図11に示すメタルマスク1を完成させる。
【0027】
なお、図11は本発明の実施の形態1におけるメタルマスを示す平面図である。図11に示すメタルマスク1では、半田ペースト等をプリント配線板に塗布形成するための開口部(開口パターン)1cの近傍に、上記プリント配線板への位置合わせ用の複数の認識マークが配置されており、これらの認識マークは、上述の通り、電解処理によって刻印されている。
【0028】
この発明の実施の形態1によれば、認識マークは、電解処理によってメタルマスク1に刻印されるため、メタルマスク1の洗浄時であっても決して脱落することはない。したがって、超音波洗浄が必要なものに対しては、特に有効な手段となる。また、従来のように認識マークを形成するためにエッチング液を使用することはないため、環境的にも優しく、廃液の後処理等も不要になる。なお、電解液としてほぼ中性のものを使用すれば、中和等の後処理も不要になる。
【0029】
更に、t=5?10μm程度の厚みがあれば認識マークを形成することができるため、箔物メタルマスクに対しても容易に適用が可能である。したがって、箔物メタルマスクの両面に認識マークを形成する必要がある場合には、有効な手段となる。特に、メタルマスク1の両面(プリント配線板への対向面とこの対向面の反対面)に刻印された認識マークの一部が、平面視重なって配置されている場合には、好適である。
【0030】
なお、図7及び図8に示す工程は、電解マーキングによって認識マークを形成するための原理を説明するためのものであり、実用的な手段ではない。実際の電解マーキングでは、例えば、図12に示すような方法が採用される。
【0031】
ここで、図12における7は認識マークを形成するためのローラ装置である。このローラ装置7は、例えば、ローラ8、ローラ8を双方向に回転自在に支持する支持部9、支持部9に固定された把手10によって構成され、交流電源6に接続されている。そして、上記ローラ8は、電解液を染み込ませた布等によってその表面が構成されており、図7及び図8の電極4に相当するものが、ローラ8の電解液を含む部分に常時接触するように設けられている。このため、ローラ8の外周部を認識マーク形成部1aに軽く接触させることにより、図7及び図8に示す状態(電極4、電解液5、交流電源6の接続の各状態)を実現することができる。
【0032】
したがって、メタルマスク1とローラ8の電解液を含む部分に接触する電極とを交流電源6に接続した後、メタルマスク1の認識マーク形成部1aにローラ8が接触するように、上記ローラ8を転動させることにより、メタルマスク1の所定位置に、他の部分よりも濃い色の皮膜1bを形成することが可能となる。
【0033】
上記構成によれば、図6に示すように、認識マークを形成する部分のみ開口したレジスト2を完成させた後、ローラ装置7を使用して容易に認識マークをメタルマスク1に刻印することが可能となる。即ち、メタルマスク1上(メタルマスク1に形成されたレジスト2上)で上記ローラ装置7のローラ8を転動させるといった簡単な動作により、全ての認識マーク形成部1aに皮膜1bを形成することができるようになる。
【0034】
なお、従来、メタルマスク1に多数の認識マークを形成する必要がある場合には、メタルマスク1の所定の位置に凹部を形成して各凹部にトナーを充填した後、不要なトナーをメタルマスク1から拭き取る必要があった。そして、このトナーの拭き取りの作業に多大な手間と時間とを要していた。しかし、上記ローラ装置7を使用して認識マークを形成する場合では、メタルマスク1に多数の認識マークを形成する場合であっても、ローラ8を数回往復移動させるだけで全ての認識マーク形成部1aに濃い黒色の皮膜1bを形成することができ、認識マーク形成時の作業効率を大幅に向上させることができる。このため、図13に示すメタルマスク1のように、メタルマスク1の表面(両面)に複数の同一の開口パターン1cが設けられ、各開口パターン1cに対して複数の認識マークを形成する必要がある場合には、特に有効な手段となる。
【0035】
実施の形態2.
実施の形態1では、メタルマスク1上のレジスト2の一部を露光する工程として、図4に示すように、フィルム3を使用する場合について説明した。しかし、このような露光工程は、レジスト2の所定部分をレーザ光で直描する方法によっても実施することはできる。かかる場合、レーザ光によって直接露光する部分或いは露光しない部分をレジスト2の形成後でも容易に認識できるようにするため、例えば、開口パターン1cに対して相対的な位置が特定される露光基準部を、メタルマスク1の所定位置やメタルマスク1を製作する際の母材等に設けておく必要がある。そして、レーザ光を使用して実際にレジスト2の一部を露光する際には、上記露光基準部の位置を基準にして認識マークを形成する位置を特定し、レーザ光を照射する。
【0036】
なお、露光基準部を形成する工程は、具体的に、以下の方法で実施される。
a)メタルマスク1の材質がステンレスの場合
メタルマスク1の材質がステンレスの場合は、開口パターン1cの形成時に、メタルマスク1の糊代部1d(紗との接着部)となる部分に、上記露光基準部からなる基準孔1e(貫通孔)を形成しておく。そして、開口パターン1cの形成後に、図1から図3に示す工程でメタルマスク1の両面にレジスト2を塗布し、その後、メタルマスク1を直描機にセットして、レジスト2の一部を露光する。この時、基準孔1eの位置を基準にして認識マークを形成する位置を特定し、照射位置の位置合わせを行う(図14参照)。
【0037】
b)めっき工法マスクで板厚が厚い場合
めっき工法によりメタルマスク1を製作し、且つその板厚が所定の厚みより厚い場合は、開口パターン1cに合わせたレジストを形成する時に、メタルマスク1の糊代部1dとなる部分に、上記露光基準部からなる基準孔1eが形成されるように、予めレジストを形成しておく。したがって、めっき形成により、基準孔1eが糊代部1dに形成される。なお、めっき形成後に母材から剥離した後は、上記a)の場合と同様の工程によって露光を行う(図14参照)。
【0038】
c)めっき工法マスクで板厚が薄い場合
めっき工法によりメタルマスク1を製作し、且つその板厚が所定の厚みより薄い場合は、母材11のうち、メタルマスク1が形成される部分よりも外側となる部分に、上記露光基準部からなる基準穴11aを予め形成しておく。そして、母材11に開口パターン1cに合わせたレジストを形成し、めっき形成後に上記レジストを母材11から剥離する。その後、開口パターン1cが形成されたメタルマスク1を母材11から剥がすことなく、図1から図3に示す工程でメタルマスク1の側面にレジスト2を塗布し、直描機でレジスト2の一部を露光する。この時、基準穴11aの位置を基準にして認識マークを形成する位置を特定し、照射位置の位置合わせを行う(図15参照)。
なお、レジストの塗布前に母材11に上記基準穴11aを形成しない場合には、開口パターン1cの形成時と同時に上記露光基準部からなる基準穴11bを、メタルマスク1の外側となる部分に形成する。そして、めっき形成後に、レジストを剥離せず、再度レジスト2を塗布する。この時、基準穴11bが形成された部分は周囲の部分よりも濃く見えるため、直描機にセットした後、上記基準穴11bの位置(濃く見える部分)を基準にして認識マークを形成する位置を特定し、照射位置の位置合わせを行う(図16参照)。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態1におけるメタルマスクの製造工程を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるメタルマスクの製造工程を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるメタルマスクの製造工程を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるメタルマスクの製造工程を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1におけるメタルマスクの製造工程を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1におけるメタルマスクの製造工程を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1におけるメタルマスクの製造工程を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態1におけるメタルマスクの製造工程を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態1におけるメタルマスクの製造工程を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態1におけるメタルマスクの製造工程を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態1におけるメタルマスクを示す平面図である。
【図12】本発明の実施の形態1におけるメタルマスクの製造工程の他の例を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態1におけるメタルマスクの他の例を示す平面図である。
【図14】本発明の実施の形態2における露光工程を説明するための図である。
【図15】本発明の実施の形態2における露光工程を説明するための図である。
【図16】本発明の実施の形態2における露光工程を説明するための図である。
【符号の説明】
【0040】
1 メタルマスク
1a 認識マーク形成部
1b 皮膜
1c 開口部(開口パターン)
1d 糊代部
1e 基準孔
2 レジスト
2a 未硬化レジスト部
3 フィルム
3a 認識マーク部
4 電極
5 電解液
6 交流電源
7 ローラ装置
8 ローラ
9 支持部
10 把手
11 母材
11a、11b 基準穴
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半田ペーストをプリント配線板に塗布形成するために形成された開口パターンと、
前記プリント配線板への位置合わせ用のために前記開口パターンに近接して設けられ、交流電源による電解マーキングによって刻印された複数の認識マークと、
を備えたことを特徴とするメタルマスク。
【請求項2】
開口パターンと、
スクリーン印刷の位置合わせ用のために前記開口パターンに近接して設けられ、交流電源による電解マーキングによって刻印された複数の認識マークと、
を備えたことを特徴とするメタルマスク。
【請求項3】
同一の開口パターンが複数形成され、
前記各開口パターンに対して複数の認識マークが刻印された
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のメタルマスク。
【請求項4】
認識マークは、表面と裏面との両面に刻印され、前記両面に刻印されたものの一部が、平面視重なって配置されたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のメタルマスク。
【請求項5】
半田ペーストをプリント配線板に塗布形成するための開口パターンが形成されたメタルマスクの一面上に、薄膜状のレジストを形成する第1の工程と、
前記メタルマスクの一面上から、認識マークを形成する部分の前記レジストを除去する第2の工程と、
前記メタルマスクの前記認識マークを形成する部分と電極とを電解液に浸して、前記メタルマスクと前記電極とを交流電源に接続することにより、前記メタルマスクの一面の所定位置に、電解処理によって、他の部分よりも濃い色の皮膜を形成する第3の工程と、
前記皮膜を形成した後、前記メタルマスクの一面上から前記レジストを除去する第4の工程と、
を備えたことを特徴とするメタルマスクの製造方法。
【請求項6】
開口パターンが形成されたスクリーン印刷用のメタルマスクの一面上に、薄膜状のレジストを形成する第1の工程と、
前記メタルマスクの一面上から、認識マークを形成する部分の前記レジストを除去する第2の工程と、
前記メタルマスクの前記認識マークを形成する部分と電極とを電解液に浸して、前記メタルマスクと前記電極とを交流電源に接続することにより、前記メタルマスクの一面の所定位置に、電解処理によって、他の部分よりも濃い色の皮膜を形成する第3の工程と、
前記皮膜を形成した後、前記メタルマスクの一面上から前記レジストを除去する第4の工程と、
を備えたことを特徴とするメタルマスクの製造方法。
【請求項7】
第2の工程は、
メタルマスクに認識マークを形成する位置に合わせて、感光膜からなるレジストの一部を露光する工程と、
前記露光工程後、認識マークを形成する部分の前記レジストを、現像液によって前記メタルマスクの一面上から除去する工程と、
を備えたことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のメタルマスクの製造方法。
【請求項8】
第2の工程は、
開口パターンに対して相対的な位置が特定される露光基準部を形成する工程と、
前記露光基準部の位置を基準にして、メタルマスクに認識マークを形成する位置を特定し、感光膜からなるレジストの一部を、レーザ光を用いて直接露光する工程と、
前記露光工程後、認識マークを形成する部分の前記レジストを、現像液によって前記メタルマスクの一面上から除去する工程と、
を備えたことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のメタルマスクの製造方法。
【請求項9】
第3の工程は、メタルマスクと電解液を含むローラに接触する電極とを交流電源に接続した後、前記メタルマスクの認識マークを形成する部分に前記ローラが接触するように、前記ローラを転動させることにより、前記メタルマスクの一面の所定位置に、電解処理によって、他の部分よりも濃い色の皮膜を形成することを特徴とする請求項5から請求項8の何れかに記載のメタルマスクの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-08-30 
結審通知日 2019-09-04 
審決日 2019-09-18 
出願番号 特願2007-99632(P2007-99632)
審決分類 P 1 123・ 856- YAA (B41N)
P 1 123・ 853- YAA (B41N)
P 1 123・ 851- YAA (B41N)
P 1 123・ 121- YAA (B41N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 裕美子  
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 尾崎 淳史
後藤 亮治
登録日 2008-09-26 
登録番号 特許第4192197号(P4192197)
発明の名称 メタルマスク及びその製造方法  
代理人 高田 守  
代理人 高橋 英樹  
代理人 大川 直  
代理人 神田 秀斗  
代理人 小澤 次郎  
代理人 大西 秀和  
代理人 小澤 次郎  
代理人 牛木 護  
代理人 中村 聡  
代理人 藤沼 光太  
代理人 大西 秀和  
代理人 清水 榮松  
代理人 高橋 英樹  
代理人 大川 直  
代理人 高橋 知之  
代理人 平田 慎二  
代理人 高田 守  

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