• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60L
管理番号 1367246
審判番号 不服2019-13619  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-11 
確定日 2020-10-12 
事件の表示 特願2019-87166「電気自動車」拒絶査定不服審判事件〔令和 元年8月15日出願公開、特開2019-135909〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和元年5月2日の出願であって、令和元年6月27日付け(発送日:同年7月5日)で拒絶理由が通知され、令和元年7月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和元年9月30日付け(発送日:同年10月2日)で拒絶査定がされ(以下「原査定」という。)、これに対して令和元年10月11日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和元年10月11日に補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明であり、以下のとおりのものである。
なお、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第5項第4号の明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当すると判断した。

「一日の平均走行距離を走行するに必要十分な(10kwh程度の)電力蓄積容量を有する大容量二次電池(バッテリーA)を固定搭載し、前記バッテリーAへの充電は、電気自動車所有者の自宅における夜間等EV不使用時の駐車期間中に普通充電でおこなう一方、当該電気自動車には(バッテリーAの他に)予備の大容量二次電池(バッテリーB)を搭載・利用するための予備搭載スペースを設け、走行開始に先立ってバッテリーAだけでの走行に電力不足の恐れがある場合に限って、バッテリーステーションにおいて事前に充電されたバッテリーBをレンタルして前記予備搭載スペースに搭載し、バッテリーAでの走行中の電力不足に備える、ことを特徴とする電気自動車。」

第3 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は以下のとおりである。

(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明基いて、その出願前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1
・引用文献等 1-3

<引用文献等一覧>
1.特開2019-54726号公報
2.特開2004-262357号公報
3.特開2018-7559号公報

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1
原査定の拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった特開2019-54726号公報(以下「引用文献1」という。)には、「電気自動車」に関して、以下の事項が記載されている(下線は、当審が付与したものである。以下同様。)。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
一日の平均走行距離を(定速走行燃費での走行に相当する)省エネルギー走行で走行するに必要十分な電力蓄積容量を有する大容量二次電池を搭載し、前記大容量二次電池への充電は、EV所有者の自宅等長時間駐車可能な場所における駐車期間中の普通充電でおこなうことを原則とし、走行中は前記大容量二次電池残電力量による省エネルギー走行による走行可能距離Laと当該電気自動車現地点-走行目的地点までの残距離Loを周期的に比較し、大容量二次電池残電力量が省エネルギー走行による残距離走行に不足が生じると判明した時点以降の適当な時点で目的地までの経路途中にある充電ステーションにアクセスして必要最小限の電力量を充電することを特徴とする電気自動車。」

(2)「【0005】
小型自家用ガソリン車の一日平均走行距離は約60kmと言われている。従って、EVに搭載するバッテリー容量は、車両がEVとして機能・性能を発揮できる最小限の容量として一日平均走行距離を走行するに必要十分な電力量を蓄積可能な容量(航続距離100km程度、バッテリー容量
10kwh程度)とする。(審決注:改行は原文のまま)
また、上記小容量バッテリーに蓄積される電力量を有効に利用するため、車両は最大限の省エネルギー走行を行うものとする。」

(3)「【0012】
本願発明実施に際してのEVは、
・EVとしての機能・性能を発揮できる最小限の容量を有するバッテリーを搭載するEVであること、
・EVにおける減速は、原則として制動あるいは回生制動ではなく惰性走行主体で行うものとする、
・最小限の容量を有するバッテリーへの充電は、電気自動車所有者の自宅等長時間駐車可能な場所における夜間の普通充電でおこなうことを原則とする、
・前記バッテリーの充電量(残充電量)検知機能、および残充電量による走行可能距離算出機能を有していること、
・出発地点から目的地点までの経路探索・誘導が可能な、充電ステーション位置情報を含む地図データーべースを有する、カーナビゲーション装置を有していること、
・走行中のEV現在位置情報・走行状態情報、の特定が可能であること、」

(4)「【0014】
本願発明は、EV普及の最大の問題である大容量二次電池の価格、重量、寿命および充電時間・充電場所に関する問題を、大容量二次電池容量を最小限化すること、減速は原則として惰性走行主体で行うこと、EVは自車現位置から目的地までの距離およびバッテリー残電力量での走行可能距離特定が継続的に可能であること、および大容量二次電池充電は、原則としてEV所有者の自宅等のEV停車時に最大8時間程度の普通充電で可能であること、また走行中の残電力量不足は、充電を行うべき充電ステーション特定に関する情報を充電ステーションネットワークセンターからリアルタイムにEVに提供することによって、EVの必要とする最小限の充電量を最短の時間で充電することを可能にするものであって、有効な地球温暖化対策としてのEVの普及に大きく資するものであると言える。」

上記記載事項を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「一日の平均走行距離を走行するに必要十分な(10kwh程度の)電力蓄積容量を有する大容量二次電池を搭載し、前記大容量二次電池への充電は、EV所有者の自宅等長時間駐車可能な場所における駐車期間中に普通充電でおこなう電気自動車。」

2 引用文献2
原査定の拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった特開2004-262357号公報(以下「引用文献2」という。)には、「電気自動車とその継続運行保証システム」に関して、以下の事項が記載されている(下線は、当審が付与したものである。以下同様。)。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭載バッテリ総容量を固定部と増減部に分けて設置し、増減部は車体シャシーより上部にかつ少なくとも1箇所以上配設され、各増減部は少なくとも電池モジュール1個を着脱できる空間を含んでいることを特徴とする電気自動車。

(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、バッテリ電力を駆動力源とする中距離専用の電気自動車、及び日常1日毎に反復される計画的運行を支援する継続運行保証システムに関するものである。」

(3)「【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の電気自動車は、中距離専用で、1日の走行距離による自動車の台数分布において合計台数が80%以下の任意の割合に達する走行距離を1回充電で走行可能な容量のバッテリを搭載する。この走行距離はほぼ70Kmであるが、短くすればするほどバッテリ容量が少なくて済み、価格を低減できる。一般に、大多数の人々は規則正しい日常生活を1日ごとに繰り返し、仕事か用務に自家用車を計画的に使用する場合には1日当たり70Km以上の走行距離を必要とせず、また毎日眠るので寝ているあいだに電気自動車を規則正しく再充電できる。
【0009】
そこで、本発明の電気自動車では、搭載するバッテリを固定部と増減部の2箇所に分けて設置し、総容量で上記走行距離の70Kmを達成し、電気自動車の販売時点において、増減部に収納された電池モジュールを任意数除去することにより、個別使用者によって異なる走行距離需要に対し、バッテリ容量をより細かく合わせるようにしている。これにより、価格もより一層低減できる。
【0010】
ここで、電池モジュールとは、通常複数セルを直列接続した状態で内蔵して所定の出力電圧と電池容量を持つようにした一体物の電池を意味しているが、本明細書における電池モジュールには、所定の出力電圧と電池容量を有する単セルから成る一体物の電池も含むものとする。
【0011】
一般に、電気自動車が毎晩再充電される場合には、1日単位の業務遂行には何らの支障も生じないが、充電忘れ、充電器の不調、停電、計画外の寄り道などの原因から、電力不足は起こり得る。もともと電力不足は、バッテリ容量がどんなに大きくても同様に起こり得るわけであるが、電気自動車が不測の電力不足に陥った場合には、バッテリ増減部に収納空間があればバッテリモジュールを追加し、無ければ増減部モジュールを交換するか、または電力源トレーラを連結接続すれば、自走能力が即時に回復されるので、中途で途絶がない運行継続が可能となる。
【0012】
そこで、電気自動車には、電力源トレーラを連結するための鋼鉄製ポールと、トレーラに積載した電力源を接続するための受け入れ口を共に車体後部中央に設け、受け入れ口は搭載バッテリ増減部と駆動コントローラを結ぶ動力線に直列に挿入しておく。
【0013】
また、電気自動車の一充電走行可能距離はバッテリ総容量により規定されているので、フル再充電時に最大距離数を示し、走行するに従って経過走行距離を減算してゆく計器を用いれば走行可能な残存距離を知ることができる。こうして得る物理的残存距離計は、現行の電気的残存距離計のように激しく増減せず、安定した読み取りができ、かつ構造が簡単で安価でもある。
【0014】
また、電気自動車にカーナビか携帯電話を設け、他方、サポート基地にも位置確認システムと充電設備とを設けて相互に連絡するシステムを作れば、電力不足が予測される場合、電気自動車はサポート基地に立ち寄って充電するか、モジュールを追加もしくは交換するか、あるいは電力源トレーラを連結接続することにより、路上で立ち往生することを予防できるようになり、電気自動車の継続運行が社会システムとして完成される。」

(4)「【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の電気自動車とその継続運行保証システムの一実施形態について、図1?図5を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、電気自動車1の車室内の最後部空間5にバッテリの増減部4が設けられ、この増減部4に3個のバッテリモジュール2が搭載されている状態を示している。
【0017】
本実施形態のバッテリモジュール2はニッケル水素電池の場合であり、セルを10個直列接続して12Vの出力電圧と95Ah(5時間)のバッテリ容量を有している。外形寸法は幅12cm×高さ18cm×長さ40cm、容積8リットル、重量19kg、市場価格は略20万円であり、しかも価格低減は不可能に近いと言う。本実施形態では5個のモジュールを直列接続して構成した固定部バッテリ3(図4参照)を車体の床下などに固定的に設置している。バッテリの増減部4は、最後部空間5のほか、ボンネット(図示せず)下など、1箇所以上設けることができ、モジュールを各別に容易に着脱できるように搭載する。本実施形態では、必要に応じ、搭載するモジユール総数が5個から8個の間で増減できるように構成されている。」

(5)「【0023】
さらに、本実施形態のように、モジュール5個を固定部バッテリ3として固定的に設置し、モジュール3個は各別に容易に着脱できるように増減部空間に設置することによって、個々の電気自動車使用者について、それぞれ異なる1日ごとの使用形態に対して過剰なバッテリ容量を削除することで大幅にコスト低下を図ることができる。」

(6)「【0030】
また、以上の説明では、電気自動車が電力不足に陥った場合に、電力源トレーラを接続する例を説明したが、図4(b)に示すように、固定部バッテリ3と同数の電池モジュールを増減部4に搭載し、固定部バッテリ3に並列接続しても同様に自走能力を回復することができる。また、もっと単純に、図4(a)に示す増減部4のバッテリモジュール2を満充電のものと交換しても良い。」

(7)「【0035】
計画外の充電を行うと、この残存距離計は実態を反映しなくなるので、調整が必要となる。計画外の充電には機会給電、貸出しモジュールの追加または交換、及び貸出し外部電力源トレーラーの3通りがある。
【0036】
機会給電の場合は、サポート基地要員がパルス発信器(図示せず)を用い、給電時間を相当走行キロ数に換算したパルス数を修正回路に入力して距離表示を増やす。換算は、給電電源アンペア値を基に、パルス発信器にプログラムしておくこともできる。モジュールの追加または交換も同様に表示を増やす。パルス発信は有線でもリモコン無線でもよい。
【0037】
モジュール貸出しの場合、新モジュールが満充電されて端子電圧が12V、放電深度がゼロであるのに対し、使用中の搭載モジュールは9V、放電深度70%に低下している状態が多い。しかし、電力線には逆流防止ダイオード(図示せず)が挿入されているため、イクォライザ(図示せず)が作動を始める前に、まず新モジュール電力がコントローラにより吸引され、後、均衡状態に至る。」

(8)「【0042】
本発明の電気自動車の継続運行保証システムは、電気自動車に設けるカーナビゲーションもしくは携帯電話と、サポート基地における位置確認システムと充電設備とを備えている。上記相互に連絡する通信手段により、電力不足が予測される場合電気自動車はサポート基地に立ち寄って機会給電を受けるか、モジュールを追加もしくは交換するか、あるいは電力源トレーラーを連結接続することができ、路上で立ち往生することを予防し、継続運行が保証される。」

(9)段落【0011】の「電気自動車が不測の電力不足に陥った場合には、バッテリ増減部に収納空間があればバッテリモジュールを追加し、無ければ増減部モジュールを交換するか、または電力源トレーラを連結接続すれば、自走能力が即時に回復されるので、中途で途絶がない運行継続が可能となる。」という記載、及び段落【0014】の「電力不足が予測される場合、電気自動車はサポート基地に立ち寄って充電するか、モジュールを追加もしくは交換するか、あるいは電力源トレーラを連結接続することにより、路上で立ち往生することを予防できるようになり、電気自動車の継続運行が社会システムとして完成される。」という記載から、引用文献2に記載された電気自動車は、電力不足が予想される場合、サポート基地に立ち寄ってバッテリ増減部にバッテリモジュールを追加することにより、路上で立ち往生することを予防するものであるといえる。
したがって、引用文献2には、電気自動車において、搭載するバッテリを固定部と増減部の2箇所に分けて設置し、増減部に収納された電池モジュールを任意数除去することにより、個別使用者によって異なる走行距離需要に対し、バッテリ容量をより細かく合わせ、電力不足が予想される場合、サポート基地に立ち寄ってバッテリ増減部にバッテリモジュールを追加することにより、路上で立ち往生することを予防することが記載されている。

(10)段落【0035】の「貸出しモジュールの追加または交換」という記載、及び段落【0037】の「モジュール貸出しの場合、新モジュールが満充電されて端子電圧が12V、放電深度がゼロである」という記載から、引用文献2には、電気自動車において、満充電された貸し出しモジュールの追加または交換を行うことも記載されている。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献2には以下の事項(以下「引用文献2記載事項1」及び「引用文献2記載事項2」という。)が記載されている。

〔引用文献2記載事項1〕
「電気自動車において、固定部に固定部バッテリ3を搭載するとともに、追加用のバッテリを搭載するための増減部4を設け、電力不足が予想される場合、サポート基地に立ち寄って増減部4にバッテリモジュールを追加することにより、路上で立ち往生することを予防すること。」

〔引用文献2記載事項2〕
「電気自動車において、満充電された貸し出しバッテリモジュールの追加を行うこと。」

3 引用文献3
原査定の拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった特開2018-7559号公報(以下「引用文献3」という。)には、「電気自動車」に関して、以下の事項が記載されている(下線は、当審が付与したものである。以下同様。)。

(1)「【請求項1】
電気自動車本体部と大容量二次電池部から構成され、
電気自動車本体部は、大容量二次電池部の電気自動車本体部への交換・搭載を容易にかつ安全・確実に可能とする構造を有し、
大容量二次電池部は、電気自動車としての使用条件に適合した機能・性能を発揮できる範囲で最小限の電力エネルギー蓄積容量を有し、かつ簡易に安全・確実に電気自動車本体部に、交換・搭載されること、を特徴とする電気自動車。
【請求項2】
電気自動車への電力エネルギー補給は、ネットワーク化されたバッテリーステーションにおいて、標準化された仕様・形態の充電済の大容量二次電池部を、電気自動車本体所有者がレンタルする形で、交換・搭載される方法、あるいは電気自動車本体部に既に搭載されている大容量二次電池部への電気自動車本体所有者の、あるいはバッテリーステーションでの、直接充電による方法、のいずれかの方法をもって行われることを特徴とする電気自動車。
【請求項3】
大容量二次電池部への充電に際し、原則として普通充電によって行われること、従って車両の有している運動エネルギーの回生による減速・制動走行はこれを行わないこと、を特徴とする電気自動車。」

(2)「【0004】
本願発明は、上記電気自動車(以後EVと記す)の、主として大容量二次電池(以後バッテリーと記す)にかかわる、上記問題を、バッテリー及びEV本体を含むEVシステムおよびその事業全体を改革することで解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
EVをEV本体部と、バッテリー部に分離する。
EV本体部に搭載するバッテリー容量は、車両がEVとして機能・性能を発揮できる最小限の容量(例えばEVの一日平均の走行距離走行に要する電力を蓄積するに必要・充分な容量、小型EVの場合、現状の小型PHEVのバッテリー容量と同等の10KWh(航続距離100km)程度)を基準ユニットとし、前記基準ユニットの単数あるいは複数で車種(小型、中型、大型等)に対応したバッテリーパッケージ(バッテリー部)を構成する。
【0006】
しかし上記最小限のバッテリー容量に充電された電力での走行可能距離は従来の大容量バッテリーを積載したEVでの走行可能距離に比べては当然短い。
この対策として、バッテリーステーションにおいて、EV搭載状態でのバッテリーへの直接充電ではなく、別の(同一仕様・同一容量の)満充電のバッテリー部に交換する。このバッテリー部交換が短時間かつ、安全・確実に行うことができ、また走行中での前記バッテリー部交換頻度がユーザーの許容できる範囲に収まれば、EVユーザー側から見たバッテリーの充電時間、および航続距離の問題は実質的には解消されることになる。
上記バッテリー部交換は、バッテリー部が(EV所有者の所有ではなく、例えば、バッテリーステーションからの、バッテリー容量とレンタル期間の積に比例したレンタル料での、)レンタルによって搭載されることで可能となる。
(審決注:改行は原文のまま)
さらに、EVが自宅等に停車して比較的長時間使用状態でない場合、EV搭載状態のバッテリー部に自宅電源から普通充電により充電することを可能とすることによって、上記バッテリーステーションにおけるバッテリー交換頻度を低減することができる。
言い換えれば、バッテリーステーションにおけるバッテリーの交換・搭載頻度がEVユーザーの許容範囲内に収まるように、大容量二次電池容量をEVの(一日の平均走行距離等の)使用条件に合わせて設定する必要がある。」

(3)「【0015】
上記EVシステムの実現によって、
・EVユーザーのEV購入時の価格は原則としてEV本体部価格のみとなり、現状のバッテリーを含む価格に比べて大幅に安価となる。
また走行にかかわる費用も、EVユーザーのEV使用条件(一日の平均走行距離、および走行距離の日毎のばらつき、許容できるバッテリー交換頻度等)に対応した搭載バッテリー容量の最適化によって、ガソリン車以下に抑えることも可能となる。
【0016】
・EV重量に占めるバッテリー重量は、搭載したバッテリー部重量、即ちEVユーザーがレンタルした比較的小容量のバッテリー重量のみとなり、従来の如き過大な大容量バッテリー重量分は軽減される。
この結果、EV走行時のエネルギー消費量に大きく影響する車両重量、即ち車両の走行抵抗は大幅に軽減され、EVの“電費”は大きく改善されることになる。即ちEVは従来の大容量バッテリー搭載状態と比べて更なるエコカーとなる。
【0017】
・航続距離は、搭載していたバッテリー部の航続距離だけでなく、新たに交換・搭載するバッテリー部との交換が安全でかつ簡易であれば、(バッテリー交換に要する時間は無視することができることから、)新たに搭載したバッテリーによる航続距離も航続距離に加えることができ、実質的には航続距離は、従来のEVに比べると、無限大になると言える。
・また、充電時間を短縮するための無理な急速充電は必要なくなることから、バッテリー寿命も延びる。これもまたバッテリー部レンタル料金の低価格化につながる。
【0018】
但し本システム実現のためには、バッテリーステーション間およびバッテリーステーションとEV間のネットワーク化が必要になる。
また、バッテリーパッケージの形状・寸法・重量・搭載方法・バッテリー性能(容量、寿命、充電方法等)の標準化、またEV本体側においても、バッテリー交換が短時間に安全・確実かつ簡易にできる車体構造とするための標準化・共通化、が各々必要となる。
【0019】
バッテリーステーションにおけるバッテリー交換を安全・確実かつ短時間に行うための装置の自動化・ロボット化も望まれる。
さらに、EV本体へのバッテリーパッケージの搭載を簡易化する方法として、EV本体にバッテリーパッケージを直接搭載するのではなく、バッテリーパッケージをバッテリーパッケージ専用牽引用車両に搭載し、それをEV本体が牽引する方法もある。」

(4)「【0022】
バッテリーパッケージのEV本体への交換・搭載は、例えば、ユーザー側(EV本体側)の要請に対して、対応可能な複数のバッテリーステーション中からユーザーが選択・特定したバッテリーステーションで行う。
EV利用者は、バッテリーステーション側の必要とする範囲で、自己のバッテリー部希望(バッテリー仕様等)をバッテリー事業者に連絡し、バッテリー事業者はEVユーザーの要望に即した充電済バッテリーを含むバッテリーパッケージをバッテリーステーションに準備して待つ。バッテリーステーションに到着したEVユーザーは、バッテリーステーション側の責任においてバッテリーパッケージを交換してもらい、走行を再開する。
バッテリーパッケージ交換に際しては、交換日時、交換バッテリー仕様、使用履歴、等バッテリーのレンタルにかかわる情報および使用電力量情報をEV利用者、バッテリー事業者間で確認・共有する。
バッテリーステーションでEVから取り外されたバッテリーは使用後の状態を点検・確認し、問題ない場合には(できる限り再生可能エネルギーによって生成された電力で、また普通充電で)再充電を行い、次の交換に備える。」

(5)上記(1)ないし(4)から、電気自動車への電気エネルギー補給は、バッテリーステーションにおいて、充電済の大容量二次電池部を、電気自動車本体所有者がレンタルする形で交換・搭載される方法で行われることが分かる。

(6)段落【0005】の「EV本体部に搭載するバッテリー容量は、車両がEVとして機能・性能を発揮できる最小限の容量(例えばEVの一日平均の走行距離走行に要する電力を蓄積するに必要・充分な容量、小型EVの場合、現状の小型PHEVのバッテリー容量と同等の10KWh(航続距離100km)程度)を基準ユニットとし、前記基準ユニットの単数あるいは複数で車種(小型、中型、大型等)に対応したバッテリーパッケージ(バッテリー部)を構成する。」という記載から、EV本体部に搭載するバッテリー容量は、例えば10KWh(航続距離100km)程度であることが分かる。

(7)段落【0006】の「バッテリーステーションにおいて、EV搭載状態でのバッテリーへの直接充電ではなく、別の(同一仕様・同一容量の)満充電のバッテリー部に交換する。」という記載及び「上記バッテリー部交換は、バッテリー部が(EV所有者の所有ではなく、例えば、バッテリーステーションからの、バッテリー容量とレンタル期間の積に比例したレンタル料での、)レンタルによって搭載されることで可能となる。」という記載から、バッテリー部が、バッテリーステーションからの、バッテリー容量とレンタル期間の積に比例したレンタル料でのレンタルによって、満充電のバッテリー部に交換することによって搭載されることが分かる。

上記記載事項及び図面の図示内容から、引用文献3には以下の事項(以下「引用文献3記載事項1」及び「引用文献3記載事項2」という。)が記載されている。

〔引用文献3記載事項1〕
「電気自動車への電気エネルギー補給は、バッテリーステーションにおいて、充電済の大容量二次電池部を、電気自動車本体所有者がレンタルする形で交換・搭載される方法で行われること。」

〔引用文献3記載事項2〕
「EVをEV本体部と、バッテリー部に分離し、EV本体部に搭載するバッテリー容量は、車両がEVとして機能・性能を発揮できる最小限の容量(例えば10KWh程度)とし、バッテリー部は、バッテリーステーションからのレンタルによって、満充電のバッテリー部に交換することによって搭載されること。」

第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「大容量二次電池」は、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「大容量二次電池(バッテリーA)」に相当し、以下同様に、「搭載」は「固定搭載」に、「EV所有者」は「電気自動車所有者」に、「自宅等長時間駐車可能な場所」は「自宅」に、「駐車期間中」は「夜間等EV不使用時の駐車期間中」に、それぞれ相当する。

よって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。

〔一致点〕
「一日の平均走行距離を走行するに必要十分な(10kwh程度の)電力蓄積容量を有する大容量二次電池を搭載し、前記大容量二次電池への充電は、EV所有者の自宅等長時間駐車可能な場所における駐車期間中に普通充電でおこなう電気自動車。」

〔相違点〕
本願発明は、「当該電気自動車には(バッテリーAの他に)予備の大容量二次電池(バッテリーB)を搭載・利用するための予備搭載スペースを設け、走行開始に先立ってバッテリーAだけでの走行に電力不足の恐れがある場合に限って、バッテリーステーションにおいて事前に充電されたバッテリーBをレンタルして前記予備搭載スペースに搭載し、バッテリーAでの走行中の電力不足に備える」ものであるのに対し、引用発明は、そのような事項を備えるかどうか明らかでない点。

上記相違点について検討する。
引用文献2には、「電気自動車において、固定部に固定部バッテリ3を搭載するとともに、追加用のバッテリを搭載するための増減部4を設け、電力不足が予想される場合、サポート基地に立ち寄って増減部4にバッテリモジュールを追加することにより、路上で立ち往生することを予防すること。」(引用文献2記載事項1)が記載されている。
ここで、引用文献2記載事項1における「バッテリ」は、本願発明における「大容量二次電池」に相当し、以下同様に、「固定部に固定部バッテリ3を搭載する」ことは、「バッテリを固定搭載する」ことに相当し、「追加用の」は「予備の」に、「搭載する」は「搭載・利用する」に、「増減部」は「予備搭載スペース」に、「電力不足が予想される場合」は、「走行開始に先立ってバッテリーAだけでの走行に電力不足がある場合に限って」に、「サポート基地」は「バッテリーステーション」に、それぞれ相当する。
また、引用文献2記載事項1における「路上で立ち往生することを予防すること」は、固定部のバッテリの電力が不足して路上で立ち往生することを予防することであるから、本願発明における「バッテリーAでの電力不足に備えること」に相当する。
また、引用文献2記載事項1における「バッテリ増減部にバッテリモジュールを追加すること」と、本願発明における「事前に充電されたバッテリーBをレンタルして前記予備搭載スペースに搭載し」とは、「事前に充電されたバッテリーBを前記予備搭載スペースに搭載し」という限りにおいて一致する。
そうすると、引用文献2記載事項1は、本願発明の用語を用いて、
「電気自動車において、大容量二次電池を固定搭載するとともに、予備の大容量二次電池を搭載・利用するための追加用のバッテリーを搭載するための予備搭載スペースを設け、走行開始に先立ってバッテリーAだけでの走行に電力不足がある場合に限って、バッテリーステーションに立ち寄って事前に充電されたバッテリーBを前記予備搭載スペースに搭載し、バッテリーAでの電力不足に備えること。」と言い換えることができる。
また、バッテリステーションにおいて事前に充電されたバッテリーをレンタルすることは、本願出願前の周知技術(以下、「周知技術」という。例えば、引用文献2記載事項2並びに引用文献3記載事項1及び2を参照。)である。
してみれば、本願発明は、引用発明において、引用文献2記載事項1及び上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、審判請求書において、次のように主張している(下線は当審にて付与。)ので、以下検討する。
「(d)本願発明と引用発明との対比
・本願発明と引用文献1との対比
本願発明は固定搭載バッテリーと予備搭載バッテリーの搭載スペースを別々に設け、通常の走行は固定搭載バッテリーのみで行い、固定搭載バッテリー容量での走行に不足が生じる場合に限って事前に充電された予備バッテリーを予備バッテリー搭載スペースに搭載して対応するものであり、引用文献1の如く、走行中に固定バッテリーの容量不足を検知した場合は、容量不足となった固定バッテリーへの充電で行うものではない。
・本願発明と引用文献2との対比
本願発明は固定バッテリーと予備バッテリーの搭載スペースを別々に設け、通常は固定バッテリーのみの搭載による走行を行い、固定バッテリーでの走行距離に不足の生じる恐れがある場合に限って、事前に充電された予備バッテリーを予備バッテリー搭載スペースにレンタルで臨時に搭載して走行するものであって、引用文献2の如き、EVの用途に対応した容量のバッテリーを固定搭載するための搭載スペースの確保に関するものではない。
・本願発明と引用文献3との対比
本願発明は固定バッテリーでの航続距離に不足が生じる場合に限って予備バッテリーをレンタルで(予備バッテリー搭載スペースに)搭載するものであるのに対し、引用文献3では、EV利用者はEV本体のみを購入し、バッテリーは全てレンタル搭載してEVとして使用するものである。

4.むすび
上記より、本願発明は、引用文献1-3に示される内容から容易に想到できるものではないと言える。」

しかしながら、上記主張は、本願発明と引用文献1ないし3に示される内用とを個別に比較し、その相違を述べているにすぎず、「本願発明が引用文献1ないし3に示される内容から容易に想到できるものではない」という具体的理由を何ら説明するものではない。
そして、本願発明は、引用発明において、引用文献2記載事項1及び上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるというべき具体的な理由は、上記したとおりである。
また、請求人が主張する、固定搭載バッテリー容量での走行に不足が生じる場合に限って事前に充電された予備バッテリーを用いる点は、上記引用文献2記載事項2「電気自動車において、固定部に固定部バッテリ3を搭載するとともに、追加用のバッテリを搭載するための増減部4を設け、電力不足が予想される場合、サポート基地に立ち寄って増減部4にバッテリモジュールを追加することにより、路上で立ち往生することを予防すること。」として具体的に示したように、引用文献2に記載されているか、少なくとも示唆されている。
したがって、上記請求人の主張は、採用できない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-08-12 
結審通知日 2020-08-14 
審決日 2020-08-25 
出願番号 特願2019-87166(P2019-87166)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 敏行  
特許庁審判長 北村 英隆
特許庁審判官 金澤 俊郎
鈴木 充
発明の名称 電気自動車  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ