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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1367350
審判番号 不服2019-13464  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-08 
確定日 2020-10-23 
事件の表示 特願2017-241705「偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月31日出願公開、特開2018- 84827〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2017-241705号(以下、「本件出願」という。)は、平成25年12月12日を出願日とする特願2013-257119号の一部を平成28年8月30日に新たな特許出願とした特願2016-168053号の一部を平成29年12月18日に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年10月24日付け:拒絶理由通知書
平成31年 2月26日提出:意見書
平成31年 2月26日提出:手続補正書
令和 元年 6月27日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和 元年10月 8日提出:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明は、平成31年2月26日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの、次のものである(以下、「本願発明」という。)。
「 粘着剤層、厚みd1が10μm以下の偏光子、厚みd2が1.0μm以下の第1接着剤層、及び厚みd3が60μm以下の第1保護フィルムをこの順に備える偏光板であって、
厚みd1、d2及びd3が、下記式:
1.06≦100×d2/(d1+d3)<1.5
を満たし、
前記第1接着剤層は、光硬化性接着剤の硬化物層であり、
前記第1保護フィルムは、偏光板を表示用セル上に配置する際には前記偏光子よりも外側に配置されるフィルムである偏光板。」

3 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本件出願の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用例1:国際公開第2013/147192号
引用例2:特開2013-210513号公報
(当合議体注:引用例1、引用例2のそれぞれが主引用例である。)

第2 当合議体の判断
1 引用例の記載及び引用発明
(1) 引用例1の記載
原査定の拒絶の理由において引用例1として引用された国際公開第2013/147192号(以下、「引用例1」という。)は、本件出願の出願前に、日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明を記載するものであるところ、そこには、以下の記載がある(当合議体注:下線は当合議体が付した。以下、同じ。)。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、偏光子の両面に、活性エネルギー線硬化型接着剤により形成された接着剤を介して透明保護フィルムが設けられている偏光フィルム(偏光板)に関する。当該偏光フィルムはこれ単独で、またはこれを積層した光学フィルムとして液晶表示装置(LCD)、有機EL表示装置、CRT、PDPなどの画像表示装置を形成しうる。
背景技術
[0002] 時計、携帯電話、PDA、ノートパソコン、パソコン用モニタ、DVDプレーヤー、TVなどでは液晶表示装置が急激に市場展開している。液晶表示装置は、液晶のスイッチングによる偏光状態を可視化させたものであり、その表示原理から、偏光子が用いられる。特に、TVなどの用途では、ますます高輝度、高コントラスト、広い視野角が求められ、偏光フィルムにおいてもますます高透過率、高偏光度、高い色再現性などが求められている。
[0003] 偏光子としては、高透過率、高偏光度を有することから、例えばポリビニルアルコール(以下、単に「PVA」ともいう)にヨウ素を吸着させ、延伸した構造のヨウ素系偏光子が最も一般的に広く使用されている。一般的に偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系の材料を水に溶かしたいわゆる水系接着剤によって、偏光子の両面に透明保護フィルムを貼り合わせたものが用いられている・・・略・・・。
[0004] 偏光フィルムを製造する際に、ポリビニルアルコール系接着剤のような水系接着剤を用いた場合(いわゆるウェットラミネーション)には、偏光子と透明保護フィルムとを貼り合わせた後に、乾燥工程が必要となる。このような、水系接着剤を用いた偏光フィルムの製造方法では、乾燥工程を有することから、透明保護フィルムとして、透湿度の高いトリアセチルセルロースなどが用いられる。また、水系接着剤を使用する場合には、偏光子との接着性を高めるために、偏光子の水分率も相対的に高くしておかないと、接着性が良好な偏光フィルムを得ることができない。しかし、このようにして得られた偏光フィルムでは、光学特性(偏光特性等)が得られなかったり、加熱・加湿耐久性が劣化するといった問題があった。
[0005] 一方、偏光フィルムは、湿度の影響を受けやすく、透明保護フィルムが空気中の水分を吸収することで波打ちカールや寸法変化などの不具合が発生する。このような偏光フィルムの保存環境により生じるカールや寸法変化を抑えるには、偏光子の水分率を下げたり、透湿度の低い透明保護フィルムを用いたりすることができる。しかし、偏光子と低透湿度の透明保護フィルムとを、水系接着剤を用いて貼り合わせると、低透湿度の透明保護フィルムでは水系接着剤の溶媒である水を十分に乾燥できないことなどの理由によって、乾燥効率が下がる。その結果、得られる偏光フィルムの偏光特性が下がったり、または耐久性が不十分であったりして、外観の不具合が発生し実質上有用な偏光フィルムを得ることができなかった。
・・・略・・・
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0007] 本発明は、偏光子の両面に、接着剤層を介して透明保護フィルムが設けられている偏光フィルムであって、透明保護フィルムが低透湿度である場合においても、光学特性、耐久性を満足することができ、かつ水分率変化の低い偏光フィルムを提供することを目的とする。
[0008] また本発明は、前記偏光フィルムを用いた光学フィルムを提供すること、さらには、当該偏光フィルム、光学フィルムを用いた液晶表示装置等の画像表示装置を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0009] 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す偏光フィルムにより前記目的に達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
[0010] 即ち、本発明は、偏光子の両面に、ラジカル重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤に活性エネルギー線を照射することにより形成された接着剤層を介して、透湿度が150g/m^(2)/24h以下の透明保護フィルムが貼り合わされていることを特徴とする偏光フィルム、に関する。
[0011] 前記偏光フィルムにおいて、接着剤層は、Tgが、60℃以上であることが好ましい。
[0012] 前記偏光フィルムにおいて、活性エネルギー線硬化型接着剤は、ラジカル重合性化合物(A)、(B)および(C)を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤であって、組成物全量を100重量%としたとき、
SP値が29.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上32.0以下(kJ/m^(3))^(1/2)であるラジカル重合性化合物(A)を20?60重量%、
SP値が18.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上21.0(kJ/m^(3))^(1/2)未満であるラジカル重合性化合物(B)を10?30重量%、および
SP値が21.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上23.0(kJ/m^(3))^(1/2)以下であるラジカル重合性化合物(C)を20?60重量%含有し、
前記ラジカル重合性化合物(A)、(B)および(C)それぞれのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)がいずれも60℃以上であることが好ましい。
・・・略・・・
[0031] 前記偏光フィルムにおいて、前記透明保護フィルムの形成材料が、ポリカーボネート系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂および(メタ)アクリル系樹脂から選ばれるいずれか1つであることが好ましい。
[0032] 前記偏光フィルムにおいて、前記接着剤層の厚みが、0.01?7μmであることが好ましい。
[0033] また、本発明は、偏光子の少なくとも一方の面に、接着剤層を介して透明保護フィルムが設けられている偏光フィルムの製造方法であって、前記透明保護フィルムが、透湿度が150g/m^(2)/24h以下、かつ波長365nmの光線透過率が5%未満であり、前記偏光子または前記透明保護フィルムの少なくとも一方の面に、ラジカル重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤を塗工する塗工工程と、前記偏光子および前記透明保護フィルムとを貼り合わせる貼合工程と、前記偏光子面側または前記透明保護フィルム面側から活性エネルギー線を照射して、前記活性エネルギー線硬化型接着剤を硬化させることにより得られた接着剤層を介して、前記偏光子および前記透明保護フィルムを接着させる接着工程とを含むことを特徴とする偏光フィルムの製造方法、に関する。
・・・略・・・
発明の効果
[0037] 本発明の偏光フィルムでは、偏光子の両面に低透湿度の透明保護フィルムを設けている。そのため、偏光フィルム中に空気中の水分が入り難く、偏光フィルム自体の水分率変化を抑制することができる。このように本発明の偏光フィルムは水分率変化が低く、保存環境により生じるカールや寸法変化を抑えることができる。
[0038] 一方、低透湿度の透明保護フィルムを用いる場合において、水系接着剤を用いると、水系接着剤の溶媒である水を十分に乾燥できない。即ち、偏光子と保護フィルムが貼り合せられる際に、水系接着剤中の水分が乾燥せず偏光フィルム中から抜けることなく留まり、当該水分が、偏光子におけるPVA-ヨウ素錯体を破壊していると考えられている。また、乾燥工程において偏光フィルム中から水分が抜けにくいと、乾燥による熱も余分にかかるため、偏光子が極度の蒸し焼き状態になってしまう。また乾燥工程が不十分では、得られる偏光フィルムの耐久性等に係る要求特性を満足することは難しい。
[0039] 本発明の偏光フィルムでは、偏光子の両面に低透湿度の透明保護フィルムを貼り合せているが、接着剤層の形成には、水系接着剤ではなく、ラジカル重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤を使用している。前記活性エネルギー線硬化型接着剤は、接着剤自体に水分がなく、両面に低透湿度の透明保護フィルムを用いた場合においても、偏光子におけるPVA-ヨウ素錯体の破壊を発生させることなく、光学特性(偏光特性)、耐久性に優れた偏光フィルムを提供することができる。
・・・略・・・
[0041] また本発明の偏光フィルムでは、前記活性エネルギー線硬化型接着剤としては、所定のSP値(溶解性パラメータ)を有するラジカル重合性化合物を組み合わせた組成物が好適である。一般に、SP値が近い物質同士は、互いに親和性が高いと言える。偏光子はSP値が高く(PVA系偏光子のSP値は例えば32.8)、一方、透明保護フィルムのSP値は一般に低い(SP値は18?24程度)。したがって、例えばラジカル重合性化合物同士のSP値が近いと、これらの相溶性が高まり、また、活性エネルギー線硬化型接着剤中のラジカル重合性化合物と偏光子とのSP値が近いと、接着剤層と偏光子との接着性が高まる。同様に、活性エネルギー線硬化型接着剤中のラジカル重合性化合物と低透湿度の透明保護フィルム(アクリルフィルム、シクロオレフィンフィルム)とのSP値が近いと、接着剤層と低透湿度の透明保護フィルムとの接着性が高まる。これらの傾向に基づき、活性エネルギー線硬化型接着剤中、少なくとも3種類のラジカル重合性化合物の各SP値を特定の範囲内に設計し、かつ最適な組成比率としたものを好適に用いることができる。
[0042] 前記のように、SP値を特定の範囲内に設計し、かつ最適な組成比率に調整した活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化物により接着剤層を形成した場合には、偏光子と低透湿度の透明保護フィルムとの接着性が向上し、かつ耐久性および耐水性を向上した接着剤層を形成することができる。」

イ 「発明を実施するための形態
[0043] 本発明の偏光フィルムは、偏光子の両面に、ラジカル重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤に活性エネルギー線を照射することにより形成された接着剤層を介して、低透湿度の透明保護フィルムが貼り合わされている。
[0044] <偏光子>
偏光子は、特に制限されず、各種のものを使用できる。偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、・・・略・・・などの親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料などの二色性材料を吸着させて一軸延伸したもの、・・・などが挙げられる。これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムとヨウ素などの二色性物質からなる偏光子が好適である。これら偏光子の厚みは特に制限されないが、一般的に80μm程度以下である。偏光子の厚みは、通常、15?35μmであるのが好ましい。
・・・略・・・
[0046] 本発明で偏光子は、水分率が好ましくは10?25重量%であるのが好ましく、より好ましくは10?20重量%である。水分率を前記範囲に制御することは、光学特性や外観欠点が少ない観点から好ましい。偏光子の水分率が低すぎると、透明保護フィルムとのラミネートの際にダメージを受けやすく、気泡などの外観欠点が発生するおそれがある。また、偏光子の水分率が高すぎると、光学特性が悪くなる傾向がある。
[0047] 前記偏光子の水分率は、任意の適切な方法で調整すればよい。例えば偏光子の製造工程における乾燥工程の条件を調整することにより制御する方法があげられる。
・・・略・・・
[0049] また偏光子としては厚みが10μm以下の薄型の偏光子を用いることができる。薄型化の観点から言えば当該厚みは1?7μmであるのが好ましい。このような薄型の偏光子は、厚みムラが少なく、視認性が優れており、また寸法変化が少ないため耐久性に優れ、さらには偏光フィルムとしての厚みも薄型化が図れる点が好ましい。
[0050] 薄型の偏光子としては、代表的には、特開昭51-069644号公報や特開2000-338329号公報や、WO2010/100917号パンフレット、PCT/JP2010/001460の明細書、または特願2010-269002号明細書や特願2010-263692号明細書に記載されている薄型偏光膜を挙げることができる。これら薄型偏光膜は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂ともいう)層と延伸用樹脂基材を積層体の状態で延伸する工程と染色する工程を含む製法による得ることができる。
・・・略・・・
[0051] <透明保護フィルム>
透明保護フィルムは、透湿度が150g/m^(2)/24h以下の低透湿度のものを用いる。前記透湿度は、140g/m^(2)/24h以下が好ましく、さらには120g/m^(2)/24h以下が好ましい。透湿度は、実施例に記載の方法により求められる。
[0052] 透明保護フィルムの厚みは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性などの作業性、薄層性などの点より1?500μm程度であり、1?300μmが好ましく、5?200μmがより好ましい。さらには20?200μmが好ましく、30?80μmが好ましい。
[0053] 前記低透湿度を満足する透明保護フィルムの形成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;・・・略・・・ポリオレフィン系ポリマー、・・・略・・・環状オレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂・・・略・・・を用いることができる。前記樹脂のなかでも、ポリカーボネート系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂が好ましく、特に、環状ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。
・・・略・・・
[0067] 上記偏光フィルムにおいて、前記透明保護フィルムのSP値が18.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上24.0(kJ/m^(3))^(1/2)未満であることが好ましい。透明保護フィルムのSP値が上記範囲内であると、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物中のラジカル重合性化合物(B)およびラジカル重合性化合物(C)のSP値と非常に近いため、透明保護フィルムと接着剤層との接着性が大きく向上する。
・・・略・・・
[0068] <活性エネルギー線硬化型接着剤>
本発明の偏光フィルムにおいて、偏光子と低透湿度の透明保護フィルムの接着には、ラジカル重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤が用いられる。活性エネルギー線硬化型接着剤に活性エネルギー線を照射することにより形成された接着剤層(硬化物層)は水系接着剤層に比べて、耐久性が高い。本発明の偏光フィルムにおける、接着剤層は、Tgが60℃以上であることが好ましい。本発明の偏光フィルムにおいて、接着剤層が60℃以上の高Tgになる、活性エネルギー線硬化型接着剤を用いるとともに、接着剤層の厚みを上記範囲に制御した場合、高湿下および高温下の過酷な環境下における耐久性を満足させることができる。
[0069] 上記のとおり、活性エネルギー線硬化型接着剤に用いるラジカル重合性化合物は、これにより形成される接着剤層のTgが60℃以上になるように選択されることが好ましく、さらには70℃以上であることが好ましく、さらには75℃以上、さらには100℃以上、さらには120℃以上であることが好ましい。一方、接着剤層のTgが高くなりすぎると偏光フィルムの屈曲性が低下することから、接着剤層のTgは300℃以下、さらには240℃以下、さらには180℃以下にすることが好ましい。
[0070] ラジカル重合性化合物としては、(メタ)アクリロイル基を有する化合物、ビニル基を有する化合物があげられる。これらラジカル重合性化合物は、単官能または二官能以上のいずれも用いることができる。これらラジカル重合性化合物としては、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好適である。(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、N-置換アミド系モノマーが好適に用いられる。これらモノマーは、接着性の点で好ましい。
・・・略・・・
[0073] 前記N-置換アミド系モノマーとしては、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、およびN-アクリロイルモルホリンが好適である。N-置換アミド系モノマーは、低水分率の偏光子や、透湿度の低い材料を用いた透明保護フィルムに対しても、良好な接着性を示すが、前記例示のモノマーは、特に、良好な接着性を示す。なかでも、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドが好適である。
・・・略・・・
[0087] 本発明の偏光フィルムに用いる活性エネルギー線硬化型接着剤は、ラジカル重合性化合物として、組成物全量を100重量%としたとき、SP値が29.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上32.0以下(kJ/m^(3))^(1/2)であるラジカル重合性化合物(A)を20?60重量%、SP値が18.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上21.0(kJ/m^(3))^(1/2)未満であるラジカル重合性化合物(B)を10?30重量%、およびSP値が21.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上23.0(kJ/m^(3))^(1/2)以下であるラジカル重合性化合物(C)を20?60重量%含有するものが好ましい。なお、本発明において、「組成物全量」とは、ラジカル重合性化合物に加えて、各種開始剤や添加剤を含む全量を意味するものとする。
[0088] 前記活性エネルギー線硬化型接着剤中、ラジカル重合性化合物(A)のSP値は29.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上32.0以下(kJ/m^(3))^(1/2)であり、組成物全量を100重量%としたとき、その組成比率は20?60重量%であることが好ましい。かかるラジカル重合性化合物(A)はSP値が高く、例えばPVA系偏光子(例えばSP値32.8)と、接着剤層との接着性向上に大きく寄与する。その一方で、ラジカル重合性化合物(A)はSP値が水(SP値47.9)と相対的に近いため、組成物中のラジカル重合性化合物(A)の組成比率が多すぎると、接着剤層の耐水性の悪化が懸念される。したがって、偏光子との接着性と耐水性とを考慮した場合、ラジカル重合性化合物(A)の組成比率を、20?60重量%とすることが好ましい。接着性を考慮した場合、ラジカル重合性化合物(A)の組成比率は25重量%以上が好ましく、30重量%以上であることがより好ましい。また、耐水性を考慮した場合、ラジカル重合性化合物(A)の組成比率は55重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であることがより好ましい。
[0089] ラジカル重合性化合物(B)のSP値は18.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上21.0(kJ/m^(3))^(1/2)未満であり、その組成比率は10?30重量%であることが好ましい。かかるラジカル重合性化合物(B)はSP値が低く、水(SP値47.9)とSP値が大きく離れており、接着剤層の耐水性向上に大きく寄与する。・・・略・・・その一方で、ラジカル重合性化合物(B)はラジカル重合性化合物(A)とのSP値が大きく離れているため、その組成比率が多すぎると、ラジカル重合性化合物同士の相溶性のバランスが崩れ、相分離の進行に伴い、接着剤層の透明性の悪化が懸念される。したがって、耐水性と接着剤層の透明性とを考慮した場合、ラジカル重合性化合物(B)の組成比率を、10?30重量%とすることが肝要である。耐水性を考慮した場合、ラジカル重合性化合物(B)の組成比率は10重量%以上が好ましく、15重量%以上であることがより好ましい。また、接着剤層の透明性を考慮した場合、ラジカル重合性化合物(B)の組成比率は25重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、そのSP値は19.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上であることが好ましい。
[0090] ラジカル重合性化合物(C)のSP値は21.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上23.0(kJ/m^(3))^(1/2)未満であり、その組成比率は20?60重量%であることが好ましい。上述のとおり、ラジカル重合性化合物(A)とラジカル重合性化合物(B)とは、SP値が大きく離れており、これら同士は相溶性が悪い。しかしながら、ラジカル重合性化合物(C)のSP値は、ラジカル重合性化合物(A)のSP値とラジカル重合性化合物(B)のSP値との間に位置するため、ラジカル重合性化合物(A)とラジカル重合性化合物(B)とに加えて、ラジカル重合性化合物(C)を併用することにより、組成物全体としての相溶性がバランス良く向上する。さらに、ラジカル重合性化合物(C)のSP値は、例えば透明保護フィルムとしての低透湿度のアクリルフィルムのSP値(例えば22.2)と近いため、これらの低透湿度の透明保護フィルムとの接着性向上に寄与する。したがって、耐水性および接着性をバランス良く向上するためには、ラジカル重合性化合物(C)の組成比率を、20?60重量%とすることが好ましい。組成物全体としての相溶性と低透湿度の透明保護フィルムとの接着性とを考慮した場合、ラジカル重合性化合物(C)の組成比率は25重量%以上が好ましく、29重量%以上であることがより好ましい。また、耐水性を考慮した場合、ラジカル重合性化合物(C)の組成比率は55重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であることがより好ましい。
[0091] また、ラジカル重合性化合物(A)、(B)および(C)それぞれのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)がいずれも60℃以上であることが好ましく、耐久性が特に優れたものとなり、ヒートショッククラックの発生を防止することができる。ここで、「ヒートショッククラック」とは、例えば偏光子が収縮する際、延伸方向に裂ける現象を意味し、これを防止するためには、ヒートショック温度範囲(-40℃?60℃)で偏光子の膨張・収縮を抑制することが重要である。上記のとおりラジカル重合性化合物(A)、(B)および(C)それぞれのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)がいずれも60℃以上である場合には、接着剤層を形成した際、そのTgも高くなる。これにより、ヒートショック温度範囲での接着剤層の急激な弾性率変化を抑制し、偏光子に作用する膨張・収縮力を低減することができるため、ヒートショッククラックの発生を防止することができる。
・・・略・・・
[0097] ラジカル重合性化合物(A)は、(メタ)アクリレート基などのラジカル重合性基を有し、かつSP値が29.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上32.0以下(kJ/m^(3))^(1/2)である化合物であれば限定なく使用することができる。ラジカル重合性化合物(A)の具体例としては、例えば、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(SP値29.6)、・・・略・・・などが挙げられる。
[0098] ラジカル重合性化合物(B)は、(メタ)アクリレート基などのラジカル重合性基を有し、かつSP値が18.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上21.0(kJ/m^(3))^(1/2)未満である化合物であれば限定なく使用することができる。ラジカル重合性化合物(B)の具体例としては、例えば、トリプロピレングリコールジアクリレート(SP値19.0)、・・・略・・・などが挙げられる。なお、ラジカル重合性化合物(B)としては市販品も好適に使用可能であり、例えばアロニックスM-220(東亞合成社製、SP値19.0)、・・・略・・・などが挙げられる。
[0099] ラジカル重合性化合物(C)は、(メタ)アクリレート基などのラジカル重合性基を有し、かつSP値が21.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上23.0(kJ/m^(3))^(1/2)以下である化合物であれば限定なく使用することができる。ラジカル重合性化合物(C)の具体例としては、例えば、アクリロイルモルホリン(SP値22.9)、・・・略・・・などが挙げられる。なお、ラジカル重合性化合物(C)としては市販品も好適に使用可能であり、例えばACMO(興人社製、SP値22.9)、・・・略・・・などが挙げられる。
[0100] ラジカル重合性化合物(A)、(B)および(C)それぞれのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)がいずれも60℃以上であると、接着剤層のTgも高くなり、耐久性が特に優れたものとなる。その結果、例えば偏光子と低透湿度の透明保護フィルムとの接着剤層としたとき、偏光子のヒートショッククラックの発生を防止することができる。ここで、ラジカル重合性化合物のホモポリマーのTgとは、ラジカル重合性化合物を単独で硬化(重合)させたときのTgを意味する。
・・・略・・・
[0153] 本発明に係る活性エネルギー線硬化型接着剤は、電子線硬化型、紫外線硬化型の態様で用いることができる。
・・・略・・・
[0157] 紫外線硬化型において、紫外線を照射する前に活性エネルギー線硬化型接着剤を加温すること(照射前加温)が好ましく、その場合40℃以上に加温することが好ましく、50℃以上に加温することがより好ましい。また、紫外線を照射後に活性エネルギー線硬化型接着剤を加温すること(照射後加温)も好ましく、その場合40℃以上に加温することが好ましく、50℃以上に加温することがより好ましい。
・・・略・・・
[0161] <偏光フィルム>
本発明に係る偏光フィルムは、例えば、偏光子の少なくとも一方の面に、接着剤層を介して透明保護フィルムが設けられている偏光フィルムの製造方法、具体的には、前記透明保護フィルムが、透湿度が150g/m^(2)/24h以下、かつ波長365nmの光線透過率が5%未満であり、前記偏光子または前記透明保護フィルムの少なくとも一方の面に、ラジカル重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤を塗工する塗工工程と、前記偏光子および前記透明保護フィルムとを貼り合わせる貼合工程と、前記偏光子面側または前記透明保護フィルム面側から活性エネルギー線を照射して、前記活性エネルギー線硬化型接着剤を硬化させることにより得られた接着剤層を介して、前記偏光子および前記透明保護フィルムを接着させる接着工程とを含むことを特徴とする偏光フィルムの製造方法、により製造することができる。
・・・略・・・
[0164] また、活性エネルギー線硬化型接着剤の塗工は、接着剤層の厚みが0.01?7μmになるように行うこと好ましい。接着剤層の厚みは、より好ましくは0.01?5μm、さらに好ましくは0.01?2μm、最も好ましくは0.01?1μmである。接着剤層の厚みは、接着力自体が凝集力を得て、接着強度を得らる観点(当合議体注:「・・得らる観点」は「得る観点」の誤記である。)から0.01μm以上とするのが好ましい。一方、偏光フィルムが耐久性の観点から接着剤層の厚みは7μm以下が好ましい。
[0165] 上記のように塗工した接着剤を介して、偏光子と透明保護フィルムとを貼り合わせる。偏光子と透明保護フィルムの貼り合わせは、ロールラミネーターなどにより行う事ができる。
[0166] 偏光子と透明保護フィルムを貼り合わせた後に、活性エネルギー線(電子線、紫外線など)を照射し、活性エネルギー線硬化型接着剤を硬化して接着剤層を形成する。活性エネルギー線(電子線、紫外線など)の照射方向は、任意の適切な方向から照射することができる。好ましくは、透明保護フィルム側から照射する。偏光子側から照射すると、偏光子が活性エネルギー線(電子線、紫外線など)によって劣化するおそれがある。
・・・略・・・
[0168] なお、本発明の偏光フィルムは、偏光子と透明保護フィルムが、上記活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化物層により形成された接着剤層を介して貼り合されるが、透明保護フィルムと接着剤層の間には、易接着層を設けることができる。
・・・略・・・
[0172] 前述した偏光フィルムや、偏光フィルムを少なくとも1層積層されている光学フィルムには、液晶セルなどの他部材と接着するための粘着層を設けることもできる。粘着層を形成する粘着剤は特に制限されないが、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、アクリル系粘着剤の如く光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れるものが好ましく用いうる。
[0173] 粘着層は、異なる組成または種類などのものの重畳層として偏光フィルムや光学フィルムの片面または両面に設けることもできる。また両面に設ける場合に、偏光フィルムや光学フィルムの表裏において異なる組成や種類や厚みなどの粘着層とすることもできる。粘着層の厚みは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、一般には1?500μmであり、1?200μmが好ましく、特に1?100μmが好ましい。
・・・略・・・
[0176] 液晶セルの片側または両側に偏光フィルムまたは光学フィルムを配置した液晶表示装置や、照明システムにバックライトあるいは反射板を用いたものなどの適宜な液晶表示装置を形成することができる。その場合、本発明による偏光フィルムまたは光学フィルムは液晶セルの片側または両側に設置することができる。両側に偏光フィルムまたは光学フィルムを設ける場合、それらは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えば拡散板、アンチグレア層、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層または2層以上配置することができる。」

ウ 「実施例
[0177] 以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明の実施形態はこれらに限定されない。
[0178] <偏光子の作製>
平均重合度2400、ケン化度99.9モル%の厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを、30℃の温水中に60秒間浸漬し膨潤させた。次いで、ヨウ素/ヨウ化カリウム(重量比=0.5/8)の濃度0.3%の水溶液に浸漬し、3.5倍まで延伸させながらフィルムを染色した。その後、65℃のホウ酸エステル水溶液中で、トータルの延伸倍率が6倍となるように延伸を行った。延伸後に、40℃のオーブンにて3分間乾燥を行い、PVA系偏光子(SP値32.8、厚み23μm)を得た。水分率は14重量%であった。
[0179] <透明保護フィルム>
・厚み40μm、透湿度60g/m^(2)/24hのアクリル系樹脂フィルム(SP値22.2)。
・厚み50μm、透湿度5g/m^(2)/24hの環状ポリオレフィン系樹脂フィルム(ゼオノアフィルム,日本ゼオン社製:ZB12-52125)(SP値18.6)。
・厚み60μm、透湿度500g/m^(2)/24hのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(SP値23.3)。
[0180] ≪透明保護フィルムの透湿度≫
透湿度の測定は、JIS Z0208の透湿度試験(カップ法)に準じて測定した。直径60mmに切断したサンプルを約15gの塩化カルシウムを入れた透湿カップにセットし、温度40℃、湿度90%R.H.の恒温機に入れ、24時間放置した前後の塩化カルシウムの重量増加を測定することで透湿度(g/m^(2)/24h)を求めた。
[0181] <活性エネルギー線>
活性エネルギー線として、紫外線(ガリウム封入メタルハライドランプ) 照射装置:Fusion UV Systems,Inc社製Light HAMMER10 バルブ:Vバルブ ピーク照度:1600mW/cm^(2)、積算照射量1000/mJ/cm^(2)(波長380?440nm)を使用した。なお、紫外線の照度は、Solatell社製Sola-Checkシステムを使用して測定した。
[0182] <活性エネルギー線硬化型接着剤(1)の調製>
ラジカル重合性化合物(A)として、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(SP値29.6,ホモポリマーのTg123℃,興人社製)を38.3部、
ラジカル重合性化合物(B)として、トリプロピレングリコールジアクリレート(商品名:アロニックスM-220,SP値19.0,ホモポリマーのTg69℃,東亞合成社製)を19.1部、
ラジカル重合性化合物(C)として、アクリロイルモルホリン(SP値22.9,ホモポリマーのTg150℃,興人社製)を38.3部、および
光重合開始剤(商品名:KAYACURE DETX-S,ジエチルチオキサントン,日本化薬社製)1.4部を混合して50℃で1時間撹拌して活性エネルギー線硬化型接着剤(1)を得た。
・・・略・・・
[0188] 実施例1
<偏光フィルムの作製>
上記アクリル系樹脂フィルム上に、厚さ0.5μmのウレタン系易接着剤層を形成した後に、当該易接着剤層に、上記活性エネルギー線硬化型接着剤を、MCDコーター(富士機械社製)(セル形状:ハニカム、グラビアロール線数:1000本/inch、回転速度140%/対ライン速)を用いて、接着剤層の厚みが0.5μmになるように塗工した。次いで、前記接着剤を介して、前記アクリル系樹脂フィルムを、透明保護フィルム1および2として、上記偏光子の両面にロール機で貼り合わせた。その後、貼り合わせたアクリル系樹脂フィルムの両側から、IRヒーターを用いて50℃に加温し、上記紫外線を両面に照射して、活性エネルギー線硬化型接着剤を硬化させた。さらに、70℃で3分間熱風乾燥して、偏光子の両面に透明保護フィルムを有する偏光フィルムを得た。貼り合わせのライン速度は25m/minで行った。接着剤層のTgは121℃であった。
・・・略・・・
[0195] [評価]
実施例および比較例で得られた偏光フィルムについて下記評価を行った。結果を表2に示す。
[0196] (偏光度の測定)
偏光フィルムの単体透過率T、平行透過率Tp、直交透過率Tcは、紫外可視分光光度計(日本分光社製のV7100)を用いて測定した。これらの透過率は、JISZ8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。偏光度Pを上記の透過率を用い、次式により求めた。
偏光度P(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
表2には単体透過率が42.8%の時の偏光度を示す。
[0197] (耐久性評価)
偏光フィルムを、偏光子の延伸方向に50mm、垂直方向に25mmの長方形にカットしたものをサンプルとした。前記サンプルを加湿装置内に投入し、20℃、98%R.H.の環境下で48時間放置した。その後、前記分光光度計を用いて、再び色相a1値及び色相b1値を測定した。加湿装置への投入前後の測定値から、直交色相の変化Δabの値を下記式に基づき算出した。尚、色相a値、色相b値はハンター表色系におけるa値、b値である。
Δab=√{(a1-a0)^(2)+(b1-b0)^(2)}
[0198] (偏光フィルムの水分率変化量)
上記同様の形状のサンプルについて、偏光フィルムの作製直後の偏光フィルムの水分率をM1(%)とした。一方、偏光フィルムを作製した後、20℃、65%R.H.の環境下に120時間放置した後の偏光フィルムの水分率のM2(%)とした。偏光フィルムの水分率変化量(%)は、下記式からを求めた。
偏光フィルムの水分率変化量(%)=M2-M1
なお、偏光フィルムの各水分率M1、M2は下記式から算出した。
M1(%)={(W1-W0)/W1}×100
M2(%)={(W2-W0)/W2}×100
W0:120℃で2時間乾燥した後の偏光フィルム重量
W1:偏光フィルムを作製した直後の偏光フィルム重量
W2:20℃、65%R.H.の環境下に120時間放置した後の偏光フィルム重量
[0199]<温水浸漬後の接着力(耐水性評価)>
偏光フィルムを偏光子の延伸方向と平行に200MM、直行方向に15MMの大きさに切り出し、透明保護フィルム(アクリル樹脂フィルム)と偏光子との間にカッターナイフで切り込みを入れ、偏光フィルムをガラス板に貼り合わせた。かかる偏光フィルムを40℃の温水に2時間浸漬させた後、取り出して30分以内に(非乾燥状態で)テンシロンにより、90度方向に保護フィルムと偏光子とを剥離速度300MM/MINで剥離し、その剥離強度(N/15MM)を測定した。
剥離強度が
0.5N/15MM以上である場合を○
0.3N/15MM?0.5N/15MM未満である場合を△
0.3N/15MM未満である場合を×とした。
[表2]


(当合議体注:便宜上、[表2]は90度回転させている。)


(2) 引用発明
引用例1でいう「本発明は、偏光子の両面に、活性エネルギー線硬化型接着剤により形成された接着剤を介して透明保護フィルムが設けられている偏光フィルム(偏光板)に関する」([0001])。
そうすると、実施例1の[0177]?[0182]、[0188]及び[0199][表2]の記載(当合議体注:[表2]より、実施例1の「接着剤:両面とも同じ」は「活性エネルギー線硬化型接着剤(1)」である。)より、実施例1の「活性エネルギー線硬化型接着剤により形成された接着剤を介して透明保護フィルムが設けられている偏光フィルム(偏光板)」の発明として、以下の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用発明1」という。)。

「 平均重合度2400、ケン化度99.9モル%の厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを、30℃の温水中に60秒間浸漬し膨潤させ、次いで、ヨウ素/ヨウ化カリウム(重量比=0.5/8)の濃度0.3%の水溶液に浸漬し、3.5倍まで延伸させながらフィルムを染色し、その後、65℃のホウ酸エステル水溶液中で、トータルの延伸倍率が6倍となるように延伸を行い、延伸後に、40℃のオーブンにて3分間乾燥を行い、PVA系偏光子(SP値32.8、厚み23μm)を得て、
N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(SP値29.6,ホモポリマーのTg123℃,興人社製)を38.3部、
トリプロピレングリコールジアクリレート(商品名:アロニックスM-220,SP値19.0,ホモポリマーのTg69℃,東亞合成社製)を19.1部、
アクリロイルモルホリン(SP値22.9,ホモポリマーのTg150℃,興人社製)を38.3部、および
光重合開始剤1.4部を混合して50℃で1時間撹拌して活性エネルギー線硬化型接着剤(1)を得て、
厚み40μm、透湿度60g/m^(2)/24hのアクリル系樹脂フィルム(SP値22.2)上に、厚さ0.5μmのウレタン系易接着剤層を形成した後に、易接着剤層に、活性エネルギー線硬化型接着剤(1)を、接着剤層の厚みが0.5μmになるように塗工し、次いで、活性エネルギー線硬化型接着剤(1)を介して、アクリル系樹脂フィルムを、透明保護フィルム1及び2として、PVA系偏光子の両面に貼り合わせ、その後、貼り合わせたアクリル系樹脂フィルムの両側から、50℃に加温し、紫外線を両面に照射して、活性エネルギー線硬化型接着剤(1)を硬化させ、さらに、70℃で3分間熱風乾燥して、得られた、
PVA系偏光子の両面に、活性エネルギー線硬化型接着剤(1)により形成された接着剤を介して透明保護フィルムが設けられている偏光フィルム(偏光板)。」
(当合議体注:「偏光子」との記載は、「PVA系偏光子」に統一して記載した。「活性エネルギー線硬化型接着剤」との記載を、「活性エネルギー線硬化型接着剤(1)」に統一して記載した。)

(3) 引用例2の記載
原査定の拒絶の理由において引用例2として引用された特開2013-210513号公報(以下、「引用例2」という。)は、本件出願の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶セルの一方の面に配置される第1の偏光板と、他方の面に配置される第2の偏光板を有する液晶表示装置用の偏光板のセットに関する。当該偏光板は、適宜に、これを積層した光学フィルムとして、液晶セルに適用されて液晶パネル、液晶表示装置を形成しうる。
・・・略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、液晶セルの両面に配置される偏光板のセットであって、液晶パネルに適用した場合において、反りは発生を抑えることができ、かつ、良好な偏光特性、耐久性を満足することができる、偏光板のセットを提供することを目的とする。
【0009】
また本発明は、前記偏光板のセットを用いた液晶パネルを提供すること、さらには、当該液晶パネルを用いた液晶表示装置提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す偏光板のセットにより前記目的に達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、液晶セルの一方の面に配置される第1の偏光板と、他方の面に配置される第2の偏光板を有する液晶表示装置用の偏光板のセットであって、
前記第1および第2の偏光板は、いずれも偏光子の両面に、ラジカル重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤に活性エネルギー線を照射することにより形成された接着剤層を介して、透湿度が150g/m^(2)/24h以下の透明保護フィルムが貼り合わされている偏光板であることを特徴とする偏光板のセット、に関する。
・・・略・・・
【0017】
前記偏光板のセットにおいて、透明保護フィルムの形成材料としては、例えば、ポリカーボネート系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂および(メタ)アクリル系樹脂から選ばれるいずれか1つを用いることができる。
【0018】
前記偏光板のセットにおいて、前記第1および第2の偏光板に用いられる透明保護フィルムが全て同じ形成材料であって、かつ透明保護フィルムの厚みの差が10μm以下であることが好ましい。
【0019】
前記偏光板のセットにおいて、接着剤層の厚みが、0.01?7μmであることが好ましい。
【0020】
また本発明は、液晶セルの両面に、前記偏光板のセットにおける第1の偏光板と、第2の偏光板が、それぞれ配置されていることを特徴とする液晶パネル、に関する。
【0021】 さらに本発明は、前記液晶パネルを有する液晶表示装置、に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の偏光板のセットは、液晶セルの一方の面に配置される第1の偏光板と、他方の面に配置される第2の偏光板を有する偏光板のセットを有するものである。前記第1および第2の偏光板では、いずれも、偏光子の両面に低透湿度の透明保護フィルムを設けている。そのため、液晶セルの両面に用いる、いずれの偏光板に対しても、空気中の水分が入り難く、偏光板自体の水分率変化を抑制することができる。このように本発明の偏光板のセットに用いる第1および第2の偏光板は、いずれも水分率変化が低く、保存環境により生じるカールや寸法変化を抑えることができる。そのため、液晶セルの両面に、本発明の偏光板のセットにおける第1の偏光板と、第2の偏光板をそれぞれ配置して得られる液晶パネルの反りの発生を抑えることができ、その結果、液晶パネルのムラを抑えることができる。
【0023】
一方、低透湿度の透明保護フィルムを用いる場合において、水系接着剤を用いると、水系接着剤の溶媒である水を十分に乾燥できない。即ち、偏光子と保護フィルムが貼り合せられる際に、水系接着剤中の水分が乾燥せず偏光板中から抜けることなく留まり、当該水分が、偏光子におけるPVA-ヨウ素錯体を破壊していると考えられている。また、乾燥工程において偏光板中から水分が抜けにくいと、乾燥による熱も余分にかかるため、偏光子が極度の蒸し焼き状態になってしまう。また乾燥工程が不十分では、得られる偏光板の耐久性等に係る要求特性を満足することは難しい。
【0024】
本発明の偏光板のセットに用いる第1および第2の偏光板では、偏光子の両面に低透湿度の透明保護フィルムを貼り合せているが、接着剤層の形成には、水系接着剤ではなく、ラジカル重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤を使用している。前記活性エネルギー線硬化型接着剤は、接着剤自体に水分がなく、両面に低透湿度の透明保護フィルムを用いた場合においても、偏光子におけるPVA-ヨウ素錯体の破壊を発生させることなく、光学特性(偏光特性)、耐久性に優れた偏光板を提供することができる。そのため、液晶セルの両面に、本発明の偏光板のセットにおける第1の偏光板と、第2の偏光板をそれぞれ配置して得られる液晶パネルは加湿環境下においても、高コントラストの画像を得ることができる。
・・・略・・・
【0026】
また本発明の偏光板のセットに用いる第1および第2の偏光板では、前記活性エネルギー線硬化型接着剤としては、所定のSP値(溶解性パラメータ)を有するラジカル重合性化合物を組み合わせた組成物が好適である。一般に、SP値が近い物質同士は、互いに親和性が高いと言える。偏光子はSP値が高く(PVA系偏光子のSP値は例えば32.8)、一方、透明保護フィルムのSP値は一般に低い(SP値は18?24程度)。したがって、例えばラジカル重合性化合物同士のSP値が近いと、これらの相溶性が高まり、また、活性エネルギー線硬化型接着剤中のラジカル重合性化合物と偏光子とのSP値が近いと、接着剤層と偏光子との接着性が高まる。同様に、活性エネルギー線硬化型接着剤中のラジカル重合性化合物と低透湿度の透明保護フィルム(アクリルフィルム、シクロオレフィンフィルム)とのSP値が近いと、接着剤層と低透湿度の透明保護フィルムとの接着性が高まる。これらの傾向に基づき、活性エネルギー線硬化型接着剤中、少なくとも3種類のラジカル重合性化合物の各SP値を特定の範囲内に設計し、かつ最適な組成比率としたものを好適に用いることができる。
【0027】
前記のように、SP値を特定の範囲内に設計し、かつ最適な組成比率に調整した活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化物により接着剤層を形成した場合には、偏光子と低透湿度の透明保護フィルムとの接着性が向上し、かつ耐久性および耐水性を向上した接着剤層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の偏光板のセットの一態様を液晶セルに適用した場合の概念図である。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の偏光板のセットを、図1を参照しながら説明する。本発明の偏光板のセットは、第1の偏光板P1と、第2の偏光板P2を有する。本発明の偏光板のセットは、液晶セルの両面に適用されて、液晶パネルを形成する。例えば、図1では、液晶セルCの一方の面に第1の偏光板P1が配置され、他方の面に第2の偏光板P2が配置される。図1の液晶パネルでは、第1の偏光板P1は粘着剤層A1を介して、第2の偏光板P2は粘着剤層A2を介して、液晶セルCに配置されている。
【0030】 第1の偏光板P1および第2の偏光板P2は、いずれも偏光子の両面に、偏光子の両面に、ラジカル重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤に活性エネルギー線を照射することにより形成された接着剤層を介して、低透湿度の透明保護フィルムが貼り合わされている。詳しくは、図1の第1の偏光板P1では、偏光子p1の両面に、前記接着剤層a11、a12を介して、低透湿度の透明保護フィルムt11、t12が貼り合わされている。第1の偏光板P1は、透明保護フィルムt11の側が、粘着剤層A1を介して、液晶セルCに貼り合わされている。第2の偏光板P2では、偏光子p2の両面に、前記接着剤層a21、a22を介して、低透湿度の透明保護フィルムt21、t22が貼り合わされている。第2の偏光板P2は、透明保護フィルムt21の側が、粘着剤層A2を介して、液晶セルCに貼り合わされている。
【0031】
<偏光子>
第1および第2の偏光板に用いる偏光子は、特に制限されず、各種のものを使用できる。偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、・・・略・・・などの親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料などの二色性材料を吸着させて一軸延伸したもの、・・・略・・・などが挙げられる。これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムとヨウ素などの二色性物質からなる偏光子が好適である。これら偏光子の厚みは特に制限されないが、一般的に80μm程度以下である。偏光子の厚みは、通常、15?35μmであるのが好ましい。第1および第2の偏光板に用いる偏光子は同じであってもよく、異なっていてもよいが、パネルの反りの観点から同じ偏光子で、同じ厚みのものを用いるのが好ましい。
・・・略・・・
【0036】
また偏光子としては厚みが10μm以下の薄型の偏光子を用いることができる。薄型化の観点から言えば当該厚みは1?7μmであるのが好ましい。このような薄型の偏光子は、厚みムラが少なく、視認性が優れており、また寸法変化が少ないため耐久性に優れ、さらには偏光板としての厚みも薄型化が図れる点が好ましい。
【0037】
薄型の偏光子としては、代表的には、特開昭51-069644号公報や特開2000-338329号公報や、WO2010/100917号パンフレット、PCT/JP2010/001460の明細書、または特願2010-269002号明細書や特願2010-263692号明細書に記載されている薄型偏光膜を挙げることができる。これら薄型偏光膜は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂ともいう)層と延伸用樹脂基材を積層体の状態で延伸する工程と染色する工程を含む製法による得ることができる。
・・・略・・・
【0038】
<透明保護フィルム>
第1および第2の偏光板に用いる透明保護フィルムは、透湿度が150g/m^(2)/24h以下の低透湿度のものを用いる。前記透湿度は、140g/m^(2)/24h以下が好ましく、さらには120g/m^(2)/24h以下が好ましい。透湿度は、実施例に記載の方法により求められる。
【0039】
透明保護フィルムの厚みは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性などの作業性、薄層性などの点より1?500μm程度であり、1?300μmが好ましく、5?200μmがより好ましい。さらには20?200μmが好ましく、30?80μmが好ましい。
【0040】
前記低透湿度を満足する透明保護フィルムの形成材料としては、例えば、・・・略・・・(メタ)アクリル系樹脂、・・・略・・・を用いることができる。前記樹脂のなかでも、・・・略・・・特に、(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。
・・・略・・・
【0048】
なお、偏光子の両面に設けられる、前記低透湿度の透明保護フィルムは、その表裏で同じポリマー材料からなる透明保護フィルムを用いてもよく、異なるポリマー材料等からなる透明保護フィルムを用いてもよい。
【0049】
図1に示すように、本発明の偏光板のセットでは、前記第1および第2の偏光板に用いられる透明保護フィルムは全部で4つあるが、これら全てが同じ形成材料であって、かつ透明保護フィルムの厚みの差が10μm以下であることが好ましい。前記第1および第2の偏光板に用いられる透明保護フィルムの厚みの差は、前記4つのなかで、最も厚い透明保護フィルムと最も薄い透明保護フィルムの厚みの差であり、当該厚みの差は8μm以下が好ましく、さらには5μm以下が好ましい。前記第1および第2の偏光板に用いられる透明保護フィルムを前記のように制御することにより、第1および第2の偏光板を液晶セルに適用した液晶パネルにおける耐久性による収縮バランスが良くなり、液晶パネルの反り、液晶パネルのムラを抑えるうえで好ましい。
・・・略・・・
【0054】
<活性エネルギー線硬化型接着剤>
本発明の第1および第2の偏光板において、偏光子と低透湿度の透明保護フィルムの接着には、ラジカル重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤が用いられる。活性エネルギー線硬化型接着剤に活性エネルギー線を照射することにより形成された接着剤層(硬化物層)は水系接着剤層に比べて、耐久性が高い。本発明の第1および第2の偏光板における、接着剤層は、Tgが60℃以上であることが好ましい。本発明の第1および第2の偏光板において、接着剤層が60℃以上の高Tgになる、活性エネルギー線硬化型接着剤を用いるとともに、接着剤層の厚みを上記範囲に制御した場合、高湿下および高温下の過酷な環境下における耐久性を満足させることができる。
・・・略・・・
【0073】
本発明の第1および第2の偏光板に用いる活性エネルギー線硬化型接着剤は、ラジカル重合性化合物として、組成物全量を100重量%としたとき、SP値が29.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上32.0以下(kJ/m^(3))^(1/2)であるラジカル重合性化合物(A)を20?60重量%、SP値が18.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上21.0(kJ/m^(3))^(1/2)未満であるラジカル重合性化合物(B)を10?30重量%、およびSP値が21.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上23.0(kJ/m^(3))^(1/2)以下であるラジカル重合性化合物(C)を20?60重量%含有するものが好ましい。なお、本発明において、「組成物全量」とは、ラジカル重合性化合物に加えて、各種開始剤や添加剤を含む全量を意味するものとする。
・・・略・・・
【0109】
<第1および第2の偏光板>
本発明の第1および第2の偏光板は、偏光子の接着剤層を形成する面および/または透明保護フィルムの接着剤層を形成する面に活性エネルギー線硬化型接着剤を塗工した後、偏光子と透明保護フィルムを貼り合わせ、次いで、活性エネルギー線照射によって活性エネルギー線硬化型接着剤を硬化して接着剤層を形成することにより製造することができる。
・・・略・・・
【0112】
また、活性エネルギー線硬化型接着剤の塗工は、接着剤層の厚みが0.01?7μmになるように行うこと好ましい。接着剤層の厚みは、より好ましくは0.01?5μm、さらに好ましくは0.01?2μm、最も好ましくは0.01?1μmである。接着剤層の厚みは、接着力自体が凝集力を得て、接着強度を得らる観点から0.01μm以上とするのが好ましい。一方、偏光板が耐久性の観点から接着剤層の厚みは7μm以下が好ましい。
【0113】
上記のように塗工した接着剤を介して、偏光子と透明保護フィルムとを貼り合わせる。偏光子と透明保護フィルムの貼り合わせは、ロールラミネーターなどにより行う事ができる。
【0114】
偏光子と透明保護フィルムを貼り合わせた後に、活性エネルギー線(電子線、紫外線など)を照射し、活性エネルギー線硬化型接着剤を硬化して接着剤層を形成する。活性エネルギー線(電子線、紫外線など)の照射方向は、任意の適切な方向から照射することができる。好ましくは、透明保護フィルム側から照射する。偏光子側から照射すると、偏光子が活性エネルギー線(電子線、紫外線など)によって劣化するおそれがある。
・・・略・・・
【0116】
なお、本発明の第1および第2の偏光板は、偏光子と透明保護フィルムが、上記活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化物層により形成された接着剤層を介して貼り合されるが、透明保護フィルムと接着剤層の間には、易接着層を設けることができる。
・・・略・・・
【0117】
易接着層は、通常、透明保護フィルムに予め設けておき、当該透明保護フィルムの易接着層側と偏光子とを接着剤層により貼り合わせる。易接着層の形成は、易接着層の形成材を透明保護フィルム上に、公知の技術により塗工、乾燥することにより行われる。易接着層の形成材は、乾燥後の厚み、塗工の円滑性などを考慮して適当な濃度に希釈した溶液として、通常調整される。易接着層は乾燥後の厚みは、好ましくは0.01?5μm、さらに好ましくは0.02?2μm、さらに好ましくは0.05?1μmである。なお、易接着層は複数層設けることができるが、この場合にも、易接着層の総厚みは上記範囲になるようにするのが好ましい。
・・・略・・・
【0120】
前述した偏光板や、偏光板を少なくとも1層積層されている光学フィルムには、液晶セルなどの他部材と接着するための粘着層を設けることもできる。
・・・略・・・
【0121】
粘着層は、異なる組成または種類などのものの重畳層として偏光板や光学フィルムの片面または両面に設けることもできる。また両面に設ける場合に、偏光板や光学フィルムの表裏において異なる組成や種類や厚みなどの粘着層とすることもできる。粘着層の厚みは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、一般には1?500μmであり、1?200μmが好ましく、特に1?100μmが好ましい。
・・・略・・・
【0123】
本発明の第1および第2の偏光板、または第1および第2の偏光板を有する光学フィルムはセットとして、液晶パネル、液晶表示装置などの各種装置の形成などに好ましく用いることができる。」

ウ 「【実施例】
【0125】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明の実施形態はこれらに限定されない。
【0126】
<偏光子の作製>
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム((株)クラレ製:VF-PS7500,幅1000mm)を用いて、30℃の純水中に60秒間浸漬しながら延伸倍率2.5倍まで延伸した。次いで、30℃のヨウ素水溶液(重量比:純水/ヨウ素(I)/ヨウ化カリウム(KI)=100/0.01/1)中で45秒間染色した。その後、4重量%ホウ酸水溶液中で延伸倍率が5.8倍になるように延伸した。延伸後に、純水中に10秒間浸漬した後、フィルムの張力を保ったまま50℃で3分間乾燥して偏光子を得た。この偏光子(SP値32.8)の厚さは25μm、水分率は14重量%であった。
【0127】
<透明保護フィルム>
・厚み60μm、透湿度30g/m^(2)/24hのアクリル系樹脂フィルム(SP値22.2)。
・厚み40μm、透湿度60g/m^(2)/24hのアクリル系樹脂フィルム(SP値22.2)。
・厚み30μm、透湿度100g/m^(2)/24hのアクリル系樹脂フィルム(SP値22.2)。
・・・略・・・
【0130】
<活性エネルギー線硬化型接着剤の調製>
ラジカル重合性化合物(A)として、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(SP値29.6,ホモポリマーのTg123℃,興人社製)を38.3部、
ラジカル重合性化合物(B)として、トリプロピレングリコールジアクリレート(商品名:アロニックスM-220,SP値19.0,ホモポリマーのTg69℃,東亞合成社製)を19.1部、
ラジカル重合性化合物(C)として、アクリロイルモルホリン(SP値22.9,ホモ(当合議体:以降の「ラジカル重合性化合物(A)として、」から「アクリロイルモルホリン(SP値22.9,ホモ」までの記載は重複しており誤記であることが明らかであるから、重複している記載を省略して摘記している。)ポリマーのTg150℃,興人社製)を38.3部、および
光重合開始剤(商品名:KAYACURE DETX-S,ジエチルチオキサントン,日本化薬社製)1.4部を混合して50℃で1時間撹拌して活性エネルギー線硬化型接着剤を得た。
・・・略・・・
【0132】
実施例1
<偏光板の作製>
上記透明保護フィルム(厚み60μm,透湿度30g/m^(2)/24hのアクリル系樹脂フィルム)上に、厚さ0.5μmのウレタン系易接着剤層を形成した後に、当該易接着剤層に、上記活性エネルギー線硬化型接着剤を、MCDコーター(富士機械社製)(セル形状:ハニカム、グラビアロール線数:1000本/inch、回転速度140%/対ライン速)を用いて、接着剤層の厚みが0.5μmになるように塗工した。次いで、前記接着剤を介して、前記透明保護フィルムを、上記偏光子の両面にロール機で貼り合わせた。その後、貼り合わせた透明保護フィルムの両側から、IRヒーターを用いて50℃に加温し、上記紫外線を両面に照射して、活性エネルギー線硬化型接着剤を硬化させた。さらに、70℃で3分間熱風乾燥して、偏光子の両面に透明保護フィルムを有する偏光板を得た。貼り合わせのライン速度は25m/minで行った。接着剤層のTgは121℃であった。
【0133】
<偏光板のセット>
上記で得られた偏光板を、偏光子の延伸方向に711mm、垂直方向に405mmの長方形にカットしたものを第1の偏光板とし、偏光子の延伸方向に405mm、垂直方向に700mmの長方形にカットしたものを第2の偏光板とした。
【0134】
<液晶パネル:液晶セルへの実装>
IPSモードの液晶セルを含む液晶表示装置[LGD社製の液晶テレビ:型式32LE7500の液晶パネル(画面サイズ:32インチ)]から、液晶パネルを取り出し、液晶セルの上下に配置されていた光学フィルムを全て取り除いた後、前記液晶セルのガラス面(表裏)を洗浄した。このようにして液晶セルAを作製した。上記偏光板のセットにおける第1の偏光板と第2の偏光板を、それぞれ、前記液晶セルAの視認側とその反対側(バックライト側)に、アクリル系粘着剤(厚み20μm)を介して貼り合わせて液晶パネルを作製した。視認側の第1の偏光板は、当該偏光板の吸収軸方向が、前記液晶セルAの長辺方向と実質的に平行となるようにした。一方、視認側とは反対側(バックライト側)の第2の偏光板は、当該偏光板の吸収軸方向が、前記液晶セルAの長辺方向と実質的に直交するようにした。
【0135】
実施例2?3、比較例1?5
実施例1<偏光板の作製>において、透明保護フィルム、接着剤の種類を表2に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様にして第1の偏光板および第2の偏光板を作製した。また、表2に示すように、偏光板のセットを調製した。さらに、実施例1<液晶パネル:液晶セルへの実装>において、偏光板のセットを表2に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様にして液晶パネルを作製した。なお、表2では、第1の偏光板および第2の偏光板において、液晶パネルに貼り合わせる側を内側透明保護フィルムとして、もう一方の側を外側透明保護フィルムとした。
・・・略・・・
【0139】
[評価]
実施例および比較例で得られた液晶パネルについて下記評価を行った。結果を表2に示す。
・・・略・・・
【0144】
【表2】

(当合議体注:便宜上、【表2】を90度回転させている。)
【符号の説明】
【0145】
P1、2 偏光板
A1、A2 粘着剤層
a11、a12、a21、a22 接着剤層
t11、t12、t21、t22 透明保護フィルム
p1、p2 偏光子」

エ「 「【図1】



2 対比
本願発明と引用発明1を対比すると、以下のとおりである。
(1) 引用発明1の「偏光フィルム(偏光板)」は、「厚み40μm、透湿度60g/m^(2)/24hのアクリル系樹脂フィルム(SP値22.2)上に、厚さ0.5μmのウレタン系易接着剤層を形成した後に、易接着剤層に、活性エネルギー線硬化型接着剤(1)を、接着剤層の厚みが0.5μmになるように塗工し、次いで、活性エネルギー線硬化型接着剤(1)を介して、アクリル系樹脂フィルムを、透明保護フィルム1及び2として、PVA系偏光子の両面に貼り合わせ、その後、貼り合わせたアクリル系樹脂フィルムの両側から、50℃に加温し、紫外線を両面に照射して、活性エネルギー線硬化型接着剤(1)を硬化させ、さらに、70℃で3分間熱風乾燥して、得られた」ものである。
また、引用発明1の「PVA系偏光子」は、「厚み23μm」である。

(2) 上記(1)の製造工程と、「PVA系偏光子」、「アクリル樹脂フィルム」及び「接着剤層」の各厚みから、引用発明1は、「保護フィルム2」側から順に、「厚み40μm」の「保護フィルム2」、「厚み」「0.5μm」の「接着剤層(2)」、「厚み23μm」の「PVA系偏光子」、「厚み」「0.5μm」の「接着剤層(1)」、「厚み40μm」の「保護フィルム1」を備えるものである(当合議体注:「PVA系偏光子」の両側の構造を区別するため、以下、「保護フィルム2」としての「アクリル系樹脂フィルム」を、「アクリル系樹脂フィルム(2)」といい、「保護フィルム2」側の「接着剤層」を「接着剤層(2)」という。「保護フィルム1」側についても同様に、「アクリル系樹脂フィルム(1)」、「接着剤層(1)」という。)。

(3) 偏光子
引用発明1の「PVA系偏光子」は、その文言どおり、本願発明の「偏光子」に相当する。

(4) 第1接着剤層
上記(1)で述べた製造工程からみて、引用発明1の「接着剤層(1)」は、「活性エネルギー線硬化型接着剤(1)」の「硬化」物であるといえる。また、引用発明1の「活性エネルギー線硬化型接着剤(1)」は、光(「紫外線」)「硬化」性「接着剤」であるといえる。
そうすると、引用発明1の「活性エネルギー線硬化型接着剤(1)」及び「接着剤層(1)」は、それぞれ本願発明の「光硬化性接着剤」及び「第1接着剤層」に相当する。また、引用発明1の「接着剤層(1)」は、本願発明の「前記第1接着剤層」における、「光硬化性接着剤の硬化物であり」との要件、及び「厚みd2が1.0μm以下の」との要件を満たす。

(5) 第1保護フィルム
引用発明1の「アクリル系樹脂フィルム(1)」とは、「透明保護フィルム1」のことである(前記(2)の当合議体注を参照。)。
そうすると、引用発明1の「アクリル系樹脂フィルム(1)」は、本願発明の「第1保護フィルム」に相当する。また、上記(1)より、引用発明1の「アクリル系樹脂フィルム(1)」は、本願発明の「第1保護フィルム」の、「厚みd3が60μm以下の」との要件を満たす。

(6) 偏光板
前記(1)?(5)からみて、引用発明1の「偏光フィルム(偏光板)」は、本願発明の「偏光板」に相当する。また、引用発明1の「偏光フィルム(偏光板)」と、本願発明の「偏光板」は、「偏光子、厚みd2が1.0μm以下の第1接着剤層、及び厚みd3が60μm以下の第1保護フィルムをこの順に備える」点において共通する。

3 一致点及び相違点
(1) 一致点
本願発明と引用発明1は、次の構成で一致する。
「 偏光子、厚みd2が1.0μm以下の第1接着剤層、及び厚みd3が60μm以下の第1保護フィルムをこの順に備える偏光板であって、
前記第1接着剤層は、光硬化性接着剤の硬化物層である、
偏光板。」

(2) 相違点
本願発明と引用発明1は、以下の相違点で相違する。
(相違点1-1)
本願発明は、「偏光子」は「厚みd1が10μm以下」であり、「厚みd1、d2及びd3が」、「式」「1.06≦100×d2/(d1+d3)<1.5を満たし」ているのに対して、
引用発明1は、「PVA系偏光子」は「厚み23μm」であり、上記「式」を満たしていない点。

(相違点1-2)
本願発明は、「粘着剤層」、「偏光子」、「第1接着剤層」及び「第1保護フィルムをこの順に備え」、「第1保護フィルムは、偏光板を表示用セル上に配置する際には前記偏光子よりも外側に配置されるフィルムである」のに対して、
引用発明1は、「粘着剤層」を有しておらず、また、「第1保護フィルム」が、そのように配置されるフィルムであるかどうか不明である点。

4 判断
上記相違点1-1及び相違点1-2について検討する。
(1) 相違点1-1について
ア 引用発明1の「PVA系偏光子」、「アクリル系樹脂フィルム(1)、(2)」(保護フィルム1及び2)及び「接着剤層(1)、(2)」の厚みは、それぞれ「23μm」、「40μm」及び「0.5μm」である。

イ ここで、偏光子の厚みについて、引用例1には、「通常、15?35μmであるのが好ましい。」([0044])と記載されているが、「偏光子としては厚みが10μm以下の薄型の偏光子を用いることができる。薄型化の観点から言えば当該厚みは1?7μmであるのが好ましい。このような薄型の偏光子は、厚みムラが少なく、視認性が優れており、また寸法変化が少ないため耐久性に優れ、さらには偏光フィルムとしての厚みも薄型化が図れる点が好ましい。」([0049])とも記載されている(引用例1の[0050]に挙げられた各文献に記載のとおり、厚みが1?7μmの薄型の偏光子は、周知技術である。)。
また、保護フィルムの厚みについて、引用例1には、「透明保護フィルムの厚みは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性などの作業性、薄層性などの点より1?500μm程度であり、1?300μmが好ましく、5?200μmがより好ましい。さらには20?200μmが好ましく、30?80μmが好ましい。」([0052])と記載されている。
さらに、接着剤層の厚みについて、引用例1には、「活性エネルギー線硬化型接着剤の塗工は、接着剤層の厚みが0.01?7μmになるように行うこと好ましい。接着剤層の厚みは、より好ましくは0.01?5μm、さらに好ましくは0.01?2μm、最も好ましくは0.01?1μmである。接着剤層の厚みは、接着力自体が凝集力を得て、接着強度を得る観点から0.01μm以上とするのが好ましい。一方、偏光フィルムが耐久性の観点から接着剤層の厚みは7μm以下が好ましい。」([0164])と記載されている。

ウ 引用例1の[0052]の上記記載に接した当業者は、引用発明1の「アクリル系樹脂フィルム(1)及び(2)」の厚みは、強度、作業性及び薄膜性(薄型化)の観点から、より好ましいとされる範囲(30?80μm)となっていると理解する。
また、引用例1の[0044]及び[0049]の上記各記載に接した当業者は、引用発明1の「PVA系偏光子」の厚みは、通常の好ましい範囲(15?35μm)となっているものの、薄型化の観点から好ましいとされる1?7μmよりも厚いものとなっていると理解する。また、厚み1?7μmの薄型の偏光子は、薄型化が図れるのみならず、厚みムラが少なく、視認性が優れており、また寸法変化が少ないため耐久性に優れるものと理解する。
さらに、引用例1の[0164]の上記記載に接した当業者は、引用発明1の「接着剤層(1)及び(2)」の厚みは、最も好ましいとされる範囲(0.01?1μm)となっていると理解する。そして、当業者は、接着剤層(1)及び(2)の厚み0.5μmは、接着強度、耐久性の観点からも好ましい厚みであると理解する。

エ 以上勘案すると、当業者が、[A]強度、作業性及び薄膜性(薄型化)の観点から、引用発明1の「アクリル系樹脂フィルム(1)及び(2)」の厚みを維持しつつ、また、[B]接着強度、耐久性の観点から、引用発明1の「接着剤層(1)及び(2)」の厚みを維持しつつ、[C]薄型化が図れるのみならず、厚みムラが少なく、視認性が優れており、また寸法変化が少ないため耐久性に優れるという観点から、引用発明1の「PVA系偏光子」を「厚み1?7μmの薄型偏光膜」とすることは、引用例1の記載が示唆する範囲内の事項にすぎない。
そして、引用発明1において、このような設計変更を行ったものは、PVA系偏光子の厚み(d1)が1?7μm、接着剤層(1)の厚み(d2)が0.5μm、アクリル系樹脂フィルム(1)の厚み(d3)が40μmであり、100×d2/(d1+d3)が1.06?1.22となるから、上記相違点1-1に係る本願発明の構成を具備することととなる。

(2) 相違点1-2について
引用例1の[0172]には、「偏光フィルムや、偏光フィルムを少なくとも1層積層されている光学フィルムには、液晶セルなどの他部材と接着するための粘着層を設けることもできる。」と記載されている。
そうしてみると、引用発明1の「偏光フィルム(偏光板)」において、「アクリル系樹脂フィルム(2)」(「保護フィルム2」)の「接着剤層(2)」とは反対側に「粘着剤層」を設けて、「粘着剤層」、「PVA系偏光子」、「接着剤層(1)」、「アクリル系樹脂フィルム(1)」をこの順に備え、アクリル系樹脂フィルム(1)が、偏光フィルム(偏光板)を液晶セル(表示用セル)上に(粘着剤層を介して)配置する際に、「PVA系偏光子」よりも外側に配置されるフィルムとなる構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである(当合議体注:引用発明1の「偏光フィルム(偏光板)」が、「PVA系偏光子」を中心として層構造・厚みが対称なものであることを勘案すると、「アクリル系樹脂フィルム(1)」ではなく、「アクリル系樹脂フィルム(2)」についてみても同様の対比・判断となる。)。

(3) 上記(1)、(2)においては、引用例1の実施例1に基づき、引用発明1を認定し、検討を行ったが、引用例2の「実施例2」を、引用発明2-1として検討したとしても同様である。すなわち、引用発明2-1において、厚み1?7μmのPVA系薄型偏光膜を備え、「式:1.06≦100×d2/(d1+d3)<1.5」を満たす構成とすることは、薄型化を試みる当業者が容易になし得たことである。
さらに、引用例2の「実施例3」(【0144】【表2】等)を、引用発明2-2として検討したとしても、上記(1)と同様である。

(4) 本願発明の効果について
ア 本願発明の効果に関して、本件出願の明細書の【発明の効果】【0010】には、「本発明によれば、第1保護フィルム表面における上述の凹凸の発生、及びこれに伴う反射像の歪みが抑制された偏光板を提供することができる。かかる偏光板は、第1保護フィルムが外側となるように表示用セル上に配置したとき、第1保護フィルム表面からの反射像の歪みが抑制されるため、外観に優れている。」と記載されている。

イ しかしながら、偏光板において、偏光フィルムと保護フィルムを貼り合わせる接着剤(層)の硬化収縮により、偏光板に歪み、しわが発生することは、当業者の技術常識である(例えば、特開2012-22071の【0005】や国際公開第2013/055154号の[11]、[43]欄の記載等(対応する特表2014-505274号公報の【0006】、【0024】等)参照。)。また、偏光板のしわの発生が、偏光子、接着剤層、保護フィルムなどの各層の厚み・剛性に依存すること、また、偏光板に歪みやしわがあると、視認側表面の反射像に歪みが発生することや偏光板の外観が悪くなることは、当業者にとって明らかなことである。
そうすると、光硬化型接着剤層の厚みが十分に薄く、硬化収縮による応力が十分小さい場合、偏光板(保護フィルム)のしわの発生が抑制され得ることは、当業者にとって予測可能なことである。してみると、上記アの本願発明の上記効果は、いずれも格別なものではない。

(5) 請求人の主張について
ア 請求人は、審判請求書の「【本願発明が特許されるべき理由】」「1.本願発明」において、「本願請求項1に係る発明によれば、偏光子の厚みが10μm以下と薄いにもかかわらず、保護フィルムの表面凹凸を抑制して外観に優れた偏光板を提供することができます(本願明細書[0010])。」旨主張している。
また、請求人は、同「2.引用発明に対する本願発明の進歩性」において、引用文献1(引用例1に対応する)について、「(1)本件拒絶査定は、引用文献1 実施例1の偏光子の厚みd1(23μm、引用文献1の[0178])のみに着目し、この偏光子の厚みd1(23μm)を、薄型化の観点から、引用文献1の[0049]に記載されている偏光子の厚み(1?7μm)に変更して本願請求項1に係る発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得る、と指摘しています。」、「(2)しかし、引用文献1 実施例1に記載されている偏光板・・・略・・・はいずれも、偏光子に加えて、本願発明でいう第1接着剤層及び第1保護フィルムを備えています。」、「引用文献1の[0164]には、第1接着剤層の厚みd2に関して、偏光フィルムの耐久性等の観点から、『最も好ましくは0.01?1μmである』と記載されています。同文献の[0052]には、第1保護フィルムの厚みd3に関して、強度や薄層性等の観点から、『30?80μmが好ましい』旨が記載されています。」、「(3)引用文献1・・・略・・・の偏光板は、偏光子だけでなく第1接着剤層及び第1保護フィルムを備えており、かつ、偏光子の厚みd1だけなく、偏光板に好ましい特性を付与すべく、好ましい第1接着剤層の厚みd2及び好ましい第1保護フィルムの厚みd3に言及している中で、引用文献1・・・略・・・た当業者が、偏光子の厚みd1のみに着目し、これのみを変更してみる理由はありませんし、引用文献1・・・略・・・はそのような動機付けを与えるものでもありません。」、「引用文献1・・・略・・・に接した当業者は、偏光板の耐久性や薄型化の観点から、第1接着剤層の厚みd2や第1保護フィルムの厚みd3を変更(薄膜化又は厚膜化)し得ると考えるはずです。特に偏光板の薄型化を考慮したとき、引用文献1・・・略・・・に接した当業者は、偏光子の厚みd1だけでなく、第1接着剤層の厚みd2及び第1保護フィルムの厚みd3にも着目して、これらの薄膜化を図ると考えられます。」旨主張している。
さらに、請求人は、参考図1?3を示すとともに、「参考図1に示すとおり、第1保護フィルムの厚みd3が引用文献1・・・略・・・と同じ(40μm)である場合、偏光板の薄型化の観点から、第1接着剤層の厚みd2も薄くして、0.4μm(△)やそれ未満(0.1μm(●)、0.01μm(○))にしてしまうと、式の値は本願発明の範囲から外れます。なお、偏光板の耐久性の観点から、第1接着剤層の厚みd2を厚くして、1μmにしても、式の値は本願発明の範囲から外れます。」、「(5)偏光板の薄型化の観点から第1保護フィルムの厚みd3を、引用文献1・・・略・・・の教示に従って30μmとした場合において、・・・略・・・参考図2に示すとおり、第1保護フィルムの厚みd3が30μmである場合、偏光板の薄型化の観点から、第1接着剤層の厚みd2も薄くして、0.1μm(●)又は0.01μm(○)にしてしまうと、式の値は本願発明の範囲から外れます。なお、偏光板の耐久性の観点から、第1接着剤層の厚みd2を厚くして、1μmにしても、式の値は本願発明の範囲から外れます。」、「(6)なお、第1保護フィルムの厚みd3を80μmとした場合において、・・・略・・・この場合、第1接着剤層の厚みd2が0.5μm(▲)や、これ未満(0.4μm(△)、0.1μm(●)、0.01μm(○))になると、式の値は本願発明の範囲から外れてしまいます。」
、「(7)以上のとおり、引用文献1・・・略・・・に接した当業者は、偏光板の薄型化を図ろうとするとき、偏光子の厚みd1だけではなく、第1接着剤層の厚みd2や第1保護フィルムの厚みd3にも着目するはずであり、この場合、d1、d2、d3を、引用文献1・・・略・・・が教示する、薄型化のために好適な範囲の中から選択することができるところ、d1、d2及びd3が、それぞれ特定の範囲内から選択された特定の組み合わせでなければ、本願請求項1で特定する式の値を満足しません。」、「そして、引用文献1・・・略・・・は、本願発明が特定するd1とd2とd3との関係を教示しませんし、示唆もしません。さらに引用文献1・・・略・・・は、d1とd2とd3との関係と、本願発明が解決しようとする課題(保護フィルムの表面凹凸を抑制して偏光板の外観を向上させること。本願明細書[0006]及び[0007])との関係を教示しませんし、示唆もしません。」、「そうである以上、上記課題を解決しようとする当業者は、引用文献1・・・略・・・の記載に基づいても、d1とd2とd3とを特定の組み合わせ(特定の関係)にすることに想到できませんし、ましてや、本願発明が特定するd1とd2とd3との関係にすることに想到できません。」、「また、保護フィルムの表面に生じる凹凸を抑制できるという本願発明の効果は、引用文献1・・・略・・・から当業者が予測し得る範囲を超える効果です。」、「よって、本願発明は、引用文献1に基づいても・・・略・・・当業者が容易に発明をすることができたものではありません。」旨主張している。請求人は、引用例2についても同様な主張を行っている。

イ しかしながら、引用例1の[0044]、[0049]、[0052]の記載に接した当業者ならば、保護フィルムの厚み(40μm)は、薄膜性(薄型化)の観点から好ましい範囲(30?80μm)のものとなっているのに対して、偏光子の厚み(23μm)は,薄型化の観点から好ましい範囲(1?7μm)のものとなっていないと理解する。また、[0164]の接着剤層の厚みの好ましい範囲は、偏光板・接着剤層の薄型化の観点から求められたものではないから、当業者は偏光板の薄型化に際し、接着剤層の厚みに特に着目するとは考えられない。さらに、接着剤層の厚み(0.5μm)は偏光子(23μm)や保護フィルム(40μm)と比較して桁違いに薄く、接着剤層を薄くしたとしても薄型化への寄与は僅かである。
そうすると、当業者は、接着剤層以外の構成要素の厚みを薄くしようとまず考える。

さらに進んで、引用発明1は、「透明保護フィルムが低透湿度である場合においても、光学特性、耐久性を満足することができ、かつ水分率変化の低い偏光フィルムを提供することを目的とする」([0007])ものである。また、引用例1の[0199][表2](各評価の詳細は[0195]?[0199])からは、引用発明1(実施例1)は、温水浸漬後の耐水性が「△」であり、比較例1?3の耐水性(○)と比較して劣るものである(水分率変化量も,他の実施例2?8と比較して若干劣るものである)と理解できる。
そうすると、引用発明1において、薄型化の観点から既に好ましい厚み範囲となっている「アクリル系樹脂フィルム」の厚みをさらに薄く(透湿度をより大きく)して、耐水性を低下させる(あるいは水分変化率量を増加させる)ことは、当業者は通常考えない。
以上の事情を考慮すると、引用例1の記載に接した当業者は、引用発明1の薄型化を図る際、偏光子の厚みに着目し、その厚みを薄くしようと考える。引用例2を主引用例として考えたとしても同様である。

ウ 請求人が主張する本願発明の効果についても、上記(4)において既に述べたとおりである。
仮に、本願発明の上記効果が予測できないものであるとしても、上記(1)、(2)(あるいは上記(3))において述べたとおり、上記引用発明1において、上記相違点1-1及び1-2に係る本願発明の構成(あるいは、引用発明2-1、又は引用発明2-2において、上記相違点1-1に係る本願発明の構成)とすることに十分な動機付けがあるということができるから、本願発明は容易であるとの判断を左右しない。

エ したがって、請求人の審判請求書の上記アの主張を採用することはできない。

第3 まとめ
本願発明は、引用例1あるいは引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-08-07 
結審通知日 2020-08-18 
審決日 2020-09-04 
出願番号 特願2017-241705(P2017-241705)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
河原 正
発明の名称 偏光板  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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