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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D06M
管理番号 1367353
審判番号 不服2020-1980  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-13 
確定日 2020-10-23 
事件の表示 特願2015-196527「ゴム補強用コード」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月 6日出願公開、特開2016-176168〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年10月2日(優先権主張 平成27年3月20日、日本国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 元年 6月11日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 8月 5日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年12月 5日付け:拒絶査定
令和 2年 2月13日 :審判請求書の提出、同時に手続補正書の提出

第2 令和2年2月13日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年2月13日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正は、令和元年8月5日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおり補正された(下線部は補正箇所を示す。)。

(1)本件補正前の請求項1
「少なくとも2本以上の下撚りコードを引き揃えて上撚りをかけた有機繊維からなるゴム補強用コードであって、
前記下撚りコードのうちの少なくとも1本が、紡出後水分率が15質量%未満に乾燥された履歴を持たないアラミド繊維骨格内にエポキシ化合物を浸透させた、水分率7質量%以下の前処理糸を撚糸したものであり、
前記下撚りコードのうちの少なくとも1本が、ナイロン糸を撚糸したものである、
ことを特徴とするゴム補強用コード。」

(2)本件補正後の請求項1(以下「補正発明」という。)
「少なくとも2本以上の下撚りコードを引き揃えて上撚りをかけた有機繊維からなるゴム補強用コードであって、
前記下撚りコードのうちの少なくとも1本が、紡出後水分率が15質量%未満に乾燥された履歴を持たないポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内にエポキシ化合物を浸透させた、水分率7質量%以下の前処理糸を撚糸したものであり、
前記下撚りコードのうちの少なくとも1本が、ナイロン糸を撚糸したものである、
ことを特徴とするゴム補強用コード。」

2 補正の適否
本件補正の請求項1の記載の補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「アラミド繊維」について、「ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維」と限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か)について以下検討する。

(1)補正発明
補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2013-96019号公報(平成25年5月20日発行。以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。

a 段落【0002】
「【0002】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、「PPTA」と記す。)繊維は、紡糸時にポリマー溶解の溶媒として濃硫酸を用い液晶状態とした後、口金によるせん断を与えて結晶化度の高い糸に形成される。溶媒である濃硫酸は、紡糸直後に水洗およびアルカリにより中和処理された後、低温(100?150℃)で好ましくは5?20秒間乾燥することにより、水分率が15?200重量%の範囲内にあるPPTA繊維が調製される。さらに、100?500℃で乾燥・熱処理されて、平衡水分率が7.5%以下のアラミド繊維が製造される(例えば、特許文献1、2参照)。」

b 段落【0023】?【0025】
「【0023】
本発明において処理対象となる、水分率が15?200重量%の範囲内に維持されているアラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維が好ましく、特に剛直構造を有するポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が好ましい。
【0024】
ポリパラフェニレンテレフタルアミドは、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であるが、少量のジカルボン酸およびジアミンを共重合したものでもよい。得られる重合体または共重合体の数平均分子量は通常20,000?25,000の範囲内が好ましい。ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法の代表例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミドを濃硫酸に溶解して、18?20重量%の粘調な溶液とし、これを紡糸口金からせん断速度25,000?50,000sec^(-1)で吐出して、わずかの間空気中に紡出後、水中へ紡糸する。その後、紡糸浴中で凝固した繊維を水酸化ナトリウム水溶液で中和処理した後、100?150℃で、好ましくは5?20秒間乾燥することにより、水分率が15?200重量%の範囲内にあるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を調製することができる。
【0025】
本発明の水分率が15?200重量%の範囲内に維持されているアラミド繊維は、水分率が前記範囲内に維持されていることを必須とするが、水分率が前記範囲内にあれば、硬化性エポキシ化合物、または硬化性エポキシ化合物を含む油剤を、アラミド繊維骨格内に含浸させたものも好ましい。含浸量は、0.1重量?10.0重量%の範囲であることが好ましく、0.1重量%以上含浸させることにより、ゴムあるいは樹脂との接着性が改良される。硬化性エポキシ化合物の硬化を促進するために硬化剤を併用することもできる。さらに必要に応じて、グリコールエーテル系化合物、シリコーン系化合物、フッ素系化合物、有機界面活性剤、オキサゾリンや酸無水物などの樹脂改良剤、シラン系やイソシアネート系などのカップリング剤などの処理剤の1種または2種以上を、それぞれ0.1重量?10.0重量%の範囲で含浸させることもできる。」

c 段落【0040】?【0043】
「【0040】
[実施例1]
通常の方法で得られたPPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,000個有する口金からせん断速度30,000sec^(-1)となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、110℃×15秒間の低温乾燥をして、水分率35重量%の処理前のPPTA繊維(水分率0重量%換算のとき総繊度1,670dtex)を得た。
【0041】
このPPTA繊維に、硬化性エポキシ化合物としてトリグリセロールトリグリシジルエーテルを50重量%含有する油剤(ジイソステアリルアジペート/ジオレイルアジペート/硬化ヒマシ油エチレンオキサイド/鉱物油の混合物)を、水分率0重量%換算としたときの繊維に1.0重量%含浸し、硬化性エポキシ化合物を含有する油剤をPPTA繊維に浸透させた後、巻き取り工程で、直径107mm、長さ216mmの円筒形の紙管に12,000m巻き取った。
【0042】
PPTA繊維を巻き取ったボビンを、マイクロ波発振器と熱風発生装置を備えた加熱乾燥装置に入れ、周波数2.45GHzのマイクロ波を出力100W/mで照射しながら、80℃×180分間乾燥することにより、水分率5.3重量%のPPTA繊維を得た。
【0043】
得られたPPTA繊維のマルチフィラメント2本を用いて、下撚15.7回/10cm,上撚15.7回/10cmの撚数で撚糸してコードとした。」

d 段落【0061】
「【0061】
本発明のアラミド繊維および当該アラミド繊維からなるコードもしくは布帛は、高強力・高伸度で強力保持率が高いことより、タイヤ・ゴム資材、プラスチック分野などにおける補強材料などとして好適に利用することができる。」

(イ)上記(ア)から、上記(ア)bに記載されたアラミド繊維の処理方法を踏まえて実施例1(上記(ア)c)に着目すると引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「マルチフィラメント2本を用いて、下撚15.7回/10cm,上撚り15.7回/10cmの撚数で撚糸したコードであって、マルチフィラメントが、紡出後水分率35重量%に低温乾燥されたPPTA繊維骨格内に硬化性エポキシ化合物を含有する油剤を浸透させた、水分率5.3重量%のものであるコード。」

イ 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開昭61-71204号公報(昭和61年4月12日発行。以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。

a 第1ページ左下欄第4行?第2ページ左上欄第15行
「2.特許請求の範囲
1. 強度7g/d以上のポリエステル又はナイロンのフイラメント束に、下記(1)式で与えられる撚り係数NTが0.40?0.60の範囲の下撚りを加える一方、
強度12g/d以上の全芳香族ポリアミドのフイラメント束に、下記(2)式で与えられる撚り係数NT_(2)につき、下記(3)式で示される限度内で、上記ポリエステル又はナイロンのフイラメント束における下撚りと同一方向の下撚りを加え、
ポリエステル又はナイロンのフイラメント束は1?3本、全芳香族ポリアミドのフイラメント束については1?4本を用いて下撚りと逆の方向にて下記(4)式で与えられる上撚り係数NT_(3)につき、(5)式の限度内にて上撚りを施して成り、常法による接着剤塗布後高温(通常230?260℃)での熱処理を経て8.5g/d以上の強度を有するコードを、
30℃、50Hz、1%歪の条件で測定をした動的弾性率が3×10^(7)?10×10^(7)dyn/cm^(2)の範囲であるゴム中に埋設した、
ことを特徴とする空気入りラジアルタイヤのカーカス用プライ。



ここにNT_(1):ポリエステル又はナイロン束の撚り係数
T_(1):同撚数(回/10cm)
ρ_(1):同比重量(g/cm^(3))
D_(1):同トータルデニール
NT_(2):全芳香族ポリアミドのフイラメント束の撚り係数
T_(2):同撚数(回/10cm)
ρ_(2):同比重量(g/cm^(3))
D_(2):同トータルデニール
NT_(3):上撚り係数
T_(3):上撚数(回/10cm)
D_(3):(D_(1)+D_(2))又は各フイラメント束のトータルデニール
2. ポリエステルのフイラメントが、エチレンテレフタール成分を85mol%以上を含み、極限粘度0.75以上、末端カルボキシル基数30当量/トン以上であり、
全芳香族ポリアミドのフイラメントがパラフエニレンテレフタルアミド成分を90mol%以上を含むものである1記載のプライ。」

b 第2ページ右上欄第15行?左下欄第6行
「従来よりアラミドはスチール代替え素材として、ライト・トラツクや大型トラツク用タイヤのカーカス材及び乗用車用のタイヤのベルト材などに使用されていることは公知の事実である。
しかし乗用車用タイヤのカーカス材又は比較的低内圧走行も考えられる農耕機用タイヤ、砂漠用タイヤ、耐衝撃性が必要な航空機用タイヤなどのカーカス材としては、未だ使用されていない。この理由として最も大きいものは、アラミドの高結晶化度に基因する耐屈曲疲労性、そして(強力×切断時伸び)×1/2で示される破断エネルギーについての難点によるものである。」

c 第2ページ左下欄第18行?右下欄第13行
「そこでこのアラミドの耐屈曲疲労性及び破断エネルギーを改良し、またタイヤのカーカス材としてとくに重要なベルト端やプライ端の耐セパレーシヨン性を損なうことなく、尚かつ高強度を活用し得るようにしてタイヤに用いることが可能となれば、従来にない耐久性能を有するラジアルタイヤが得られる。
この点に着眼し鋭意検討を行なつた結果、アラミド、フイラメント束とポリエステル又はナイロンフイラメント束を適切な撚数にて組合せた複合コードとして使用すると破断エネルギー、耐屈曲疲労性が大幅に改良されること、さらに適切な動的弾性率をもつ埋伏ゴムと組合わせることにより耐屈曲疲労性をクリープも低下させずに有効に改良し、タイヤの耐セパレーシヨン性が損なわれないことが判明した。」

ウ 引用文献5
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2009-68549号公報(平成21年4月2日発行。以下「引用文献5」という。)には、次の記載がある。

a 段落【0001】
「【0001】
本発明は、繊維織物及び/又は繊維コードを複合することにより補強された大口径ゴムホースに関する。」

b 段落【0005】
「【0005】
また、その他の補強材としては、強度や耐熱性等の観点から、ケブラー繊維に代表されるアラミド繊維やナイロン繊維等が挙げられるが、アラミド繊維を上記大口径ホースの補強材として使用した場合には、繊維の伸びが小さく、疲労耐久性が充分でないため、ホースが座屈に弱いものとなってしまい、ナイロン繊維を用いた場合には、伸びが大きすぎるため、ホース内に流体を通した際のホース口径の変化が大きくなってしまうといった問題が懸念される。」

c 段落【0010】
「【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、上記のアラミド繊維とナイロン繊維とを複合させることによってアラミド繊維の疲労耐久性を補うことができ、補強材として、これらの繊維を含む複合繊維を用いた繊維織物及び/又は繊維コードを使用することにより、500?1000分間という長時間の加硫後においても上記補強材が熱劣化を起こさず、ゴム層との接着力が低下しないこと、更に、該複合繊維が低伸度かつ高強度であるため、補強材として該複合繊維を用いて製造したホースに流体を通した際、該流体の圧力によるホース口径の変化が小さくなることを見出し、本発明に到達した。」

d 段落【0018】
「【0018】
本発明では、上記のアラミド繊維及びナイロン繊維を複合化して、アラミド/ナイロン複合繊維コード及び複合繊維織物を形成する。上記複合繊維コードは、各々個別に複数本を下撚りしたアラミド繊維とナイロン繊維とを所定本数あわせて上撚りすることで得られるものであり、上記複合繊維織物は上記複合繊維コードを用いて常法に従って織物とすることにより得られるものである。」

エ 引用文献6
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2014/104680号(平成26年7月3日発行。以下「引用文献6」という。)には、次の記載がある(翻訳文として特表2016-506453号公報を採用し、対応する記載を併記した。)。

a 段落[6]?[7]
「[6] The aramid, one of the materials other than nylon for the cap ply, causes little flat spot problem, i.e., tire deformation after long-term parking, because, although having lower shrinkage stress than nylon, it has good creep property and very high modulus, and exhibits only small difference in modulus between room temperature and high temperature. While having been used for the high-class tires for which the quality of tire is very important, such aramid material cannot be used for the general tires as a practical matter because it is very expensive. Furthermore, since the high modulus of the aramid makes it difficult to expand the tire during the tire forming and curing processes, it is hard to apply the aramid material to the general tires. It has also a disadvantage in that its elongation at break is too low to secure sufficient fatigue resistance, i.e., long-term durability.
[7] To compensate for the aforementioned drawbacks, a hybrid structure has been developed which comprises both nylon and aramid. In most hybrid structures, however, the primary twist numbers of the nylon and aramid primarily-twisted yarns and the secondary twist number of a ply yarn are different from one another because of the big difference between the physical properties of the nylon and aramid. Although such structure can solve the expansion-related problem during the tire-manufacturing process and the fatigue durability problem as well, since it requires the primarily-twisted yarns of different twist numbers as well as the ply yarn to be manufactured separately with different ring twisters or special twisters, it has such limitations as low productivity, high variability of the physical properties due to its unstable structure, high defect rate, and the like.」
(【0006】
前記ナイロンの他にキャッププライ素材として使用されているアラミドは、ナイロンに比べて低い収縮応力を示すが、優れたクリープ特性を保有しており、モジュラス特性が非常に高く、常温及び高温でのモジュラスの変化量が少ないため、長時間駐車した場合でも、タイヤが変形するフラットスポット現象をほとんど示さない。このようなアラミド材質は、タイヤの品質が非常に重要視される高級タイヤで主に使用されているが、材料自体が非常に高価であるため、汎用的なタイヤでは使用がほとんど不可能である。また、アラミドは、高いモジュラスによってタイヤ成形及び加硫中の膨張が非常に困難であるため、一般的なタイヤに使用しにくく、低い破断伸度によって低い疲労性能を示し、長期間の耐久性を確保しにくいという短所がある。
【0007】
これを補完するために、ナイロンとアラミドとを共に使用するハイブリッド構造が開発されてきたが、ナイロンとアラミドとの大きな物性差を考慮して、主に、ナイロンとアラミドとの下撚りの撚り数とその合撚糸の上撚りの撚り数とが全て異なる構造が使用されてきた。これによって、タイヤ製造中の膨張問題と疲労耐久性との問題を解決することができたが、全て異なる撚り数とするための球形リング撚糸機または特殊撚糸機の使用によって、生産性が低下するという限定された製造可能性、不安定な構造による物性変動値の増加及び不良率の上昇などの問題を有しており、使用量の拡大において限界が発生した。)

オ 引用文献9
前置報告書において周知技術を示す文献として引用された引用文献9である、国際公開第2012/105276号(平成24年8月9日発行。以下「引用文献9」という。)には、次の記載がある。

a 段落[0001]
「[0001] 本発明は、タイヤ用簾織物及び空気入りタイヤに関する。」

b 段落[0014]?[0016]
「[0014] 本実施形態の簾織物1は、このように経糸2がアラミド下撚り糸と脂肪族ポリアミド下撚り糸とを撚り合わせた複合コードから構成されるので、タイヤに使用された場合に、補強コードとして機能する経糸2がアラミド繊維の優れた耐熱性を発揮し、フラットスポットの発生を抑制することができる。なお、このような撚り方向と異なる場合は、簾織物自体の平坦性が失われ、加工作業性が悪化する。また、そのような簾織物を用いて作製した、ベルトカバー層を構成するストリップ材は、エンド乱れが生じる可能性があり、タイヤのユニフォミティが悪化することが考えられる。
また、本実施形態の簾織物1は、緯糸3が破断伸度の大きいメタ系アラミド繊維の紡績糸で構成されるので、タイヤに使用された場合に、補強コードとして機能する経糸2がほぼ等間隔で配置された簾織物1の形状を正確に保つことができる。この結果、簾織物1をタイヤに使用した場合に補強コード(即ち、経糸2)がほぼ等間隔で配置され、タイヤのユニフォミティを向上させることができる。
[0015] 経糸2がアラミド繊維のみからなる場合、その優れた耐熱性によってフラットスポットの発生を抑制することはできるものの、アラミド繊維は疲労しやすいため、タイヤの補強コードとして使用した場合に、タイヤの耐疲労性が悪化する。逆に、経糸2が脂肪族ポリアミド繊維のみからなる場合、耐熱性が不充分であるため、フラットスポットの発生を抑制することができない。
[0016] アラミド下撚り糸は、1本の経糸2において、少なくとも1本用いればよく、好ましくは、複合コードを構成する下撚り糸が合計3本以下になるよう1?2本用いられる。アラミド下撚り糸を3本以上使用し、複合コードを構成する下撚り糸が合計4本以上あると、経糸2が太くなり過ぎ、タイヤに使用した場合に、補強コードが太くなり過ぎてタイヤのユニフォミティを悪化させる。」

c 段落[0018]
「[0018] 尚、経糸2に使用するアラミド繊維としては、一般的に使用される、ケブラー(登録商標)、トワロン(登録商標)等のパラ系アラミド繊維を用いることが好ましい。」

d 段落[0038]
「[0038] 空気入りタイヤのベルトカバー層に使用するタイヤ用簾織物として、経糸を構成する下撚り糸1,2の材質及び太さ、経糸の各撚り糸の撚り方向、経糸の総繊度D1、緯糸の材質、そのコード構造、その破断伸度、及びその原糸繊度D2、経糸の総繊度D1と緯糸の原糸繊度D2との比D1/D2をそれぞれ表1,2のように異ならせた従来例1?4及び実施例1?9の13種類のタイヤ用簾織物を製作した。尚、下撚り糸1はアラミド下撚り糸、下撚り糸2は脂肪族ポリアミド下撚り糸を示す。下撚り糸の太さの欄において、記号「×」の後に示す数字は、その下撚り糸の本数を示す。また、撚り方向の欄において、Zは下撚り方向を、Sは下撚りと逆方向の上撚り方向を、それぞれ示す。」

e 段落[0041][表1]


(3)対比
ア 補正発明と引用発明1とを対比する。
上記(2)ア(ア)dの記載を踏まえると、引用発明1の「マルチフィラメント2本を用いて、下撚15.7回/10cm,上撚り15.7回/10cmの撚数で撚糸したコード」は補正発明の「少なくとも2本以上の下撚りコードを引き揃えて上撚りをかけた有機繊維からなるゴム補強用コード」に相当し、以下同様に、「紡出後水分率35重量%に低温乾燥されたPPTA繊維骨格」は「紡出後水分率が15質量%未満に乾燥された履歴を持たないポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格」に、「硬化性エポキシ化合物を含有する油剤を浸透させた」は「エポキシ化合物を浸透させた」に、「水分率5.3重量%」は「水分率7質量%以下」に相当する。
また、引用発明1の「マルチフィラメント」は、「紡出後水分率35重量%に低温乾燥されたPPTA繊維骨格内に硬化性エポキシ化合物を含有する油剤を浸透させた、水分率5.3重量%のもの」とする前処理された糸であって、また、上撚りをかける前に下撚りをかけられるものであるから、補正発明の「前処理糸を撚糸」した「下撚りコード」にも相当する。

イ 以上のことから、補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「少なくとも2本以上の下撚りコードを引き揃えて上撚りをかけた有機繊維からなるゴム補強用コードであって、前記下撚りコードのうちの少なくとも1本が、紡出後水分率が15質量%未満に乾燥された履歴を持たないポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内にエポキシ化合物を浸透させた、水分率7質量%以下の前処理糸を撚糸したものである、ゴム補強用コード。」

【相違点1】
補正発明は、「下撚りコードのうちの少なくとも1本が、ナイロン糸を撚糸したものである」のに対し、引用発明1はそのように特定されていない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明1は、PPTA線維からなるコードであり、耐疲労性の改善が課題であることは、技術常識(上記(2)イb、同ウb、同エa、同オbを参照。)であるといえる。
アラミド繊維からなるコードの耐疲労性を改善するため、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維からなる糸を撚糸した下撚りコードと、ナイロン糸を撚糸した下撚りコードとを引き揃えて上撚りをかけて有機繊維からなるゴム補強用コードとすることは本願の優先日前において周知の技術(上記(2)イ?オを参照。)であるから、引用発明1において耐疲労性を改善するために、下撚りコードのうちの少なくとも1本を、ナイロン糸を撚糸したものとして、本願発明の上記相違点1に係る構成とすることに格別の困難性はない。

イ 引用発明1において、下撚りコードのうちの少なくとも1本を、ナイロン糸を撚糸したものとすることによって、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維からなる糸を撚糸した下撚りコードと、ナイロン糸を撚糸した下撚りコードとを引き揃えて上撚りをかけたものとなるため、耐疲労性が改善される。そのため、補正発明の奏する耐疲労性が向上するという作用効果は、引用発明1及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

ウ したがって、補正発明は、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、令和元年8月5日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明又は引用文献2に記載された発明、及び引用文献3?6に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2013-096019号公報
引用文献2:特開2012-207326号公報
引用文献3:特開昭61-071204号公報
引用文献4:特開2007-245811号公報
引用文献5:特開2009-068549号公報
引用文献6:国際公開第2014/104680号

3 引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2で検討した補正発明における「ポリパラフェニレンテレフタルアミド」について、その上位概念に該当する「アラミド繊維」としたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を下位概念に限定したものに相当する補正発明が、上記第2の[理由]2(3)、(4)で示したとおり、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-08-14 
結審通知日 2020-08-17 
審決日 2020-08-31 
出願番号 特願2015-196527(P2015-196527)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (D06M)
P 1 8・ 121- Z (D06M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 横溝 顕範
藤井 眞吾
発明の名称 ゴム補強用コード  
代理人 中山 光子  

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