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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61G
管理番号 1367578
審判番号 不服2020-6568  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-14 
確定日 2020-11-24 
事件の表示 特願2019- 38387号「着信音鳴動制御装置、ナースコールシステム,着信音鳴動制御方法,及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 9月10日出願公開,特開2020-141724号,請求項の数(8)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成31年3月4日の出願であって,令和1年11月5日付けで拒絶理由が通知され,令和2年1月6日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,同年3月25日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ,これに対し,同年5月14日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2.原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1?8に係る発明は,以下の引用文献1,2に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2007-268020号公報
2.特開2013ー128679号公報

第3.本願発明
本願請求項1?8に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明8」という。)は,令和2年1月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される,以下のとおりの発明である。
【請求項1】
看護師が病室,又は処置室に入室しているか否かを示す入退室情報に基づいて,
前記看護師に携行される看護師用受信端末の鳴動パターンを決定する
着信音鳴動判定部と,
端末応答部と,
を備え,
前記鳴動パターンは,着信音,及びバイブレーションのパターンであり,
前記入退室情報が,
複数の前記看護師のうち少なくとも1人が,退室していることを示す場合,
前記着信音鳴動判定部は,
退室している看護師の受信端末の鳴動パターンを第1の鳴動パターンに決定し,
前記端末応答部は,
前記看護師用受信端末からの問い合わせに対して,
前記第1の鳴動パターンで前記看護師用受信端末を鳴動させるように応答し,
前記入退室情報が,
前記複数の前記看護師のうち全員が,入室していることを示す場合,
前記着信音鳴動判定部は,
前記複数の看護師の全員の受信端末の鳴動パターンを,
前記第1の鳴動パターンと異なる第2の鳴動パターンに決定し,
前記端末応答部は,
前記看護師用受信端末からの問い合わせに対して,
前記第2の鳴動パターンで前記看護師用受信端末を鳴動させるように応答する,
着信音鳴動制御装置。
【請求項2】
前記第2の鳴動パターンによる鳴動は,
前記複数の看護師のうち全員が,前記病室,又は前記処置室に入室していることを通知する音声を含む,
請求項1に記載の着信音鳴動制御装置。
【請求項3】
前記受信端末は,表示部を備え,
前記端末応答部が,
前記複数の看護師の全員の受信端末を前記第2の鳴動パターンで鳴動するように応答した場合,
前記表示部は,
複数の前記看護師の全員が前記病室,又は前記処置室に入室していることを示す文字情報を表示する,
請求項1又は2に記載の着信音鳴動制御装置。
【請求項4】
前記入退室情報が,
前記複数の看護師のうち少なくとも1人が前記病室及び前記処置室から退室している場合,
前記端末応答部は,
前記病室,又は前記処置室に入室している看護師の受信端末を
第3の鳴動パターンで鳴動させるように応答し,
前記第3の鳴動パターンによる鳴動は,
前記第1の鳴動パターンによる鳴動と比較して,音及び振動が小さい,
請求項1?3のいずれか1項に記載の着信音鳴動制御装置。
【請求項5】
前記入退室情報が,
前記複数の前記看護師のうち少なくとも1人が前記病室及び前記処置室から退室している場合,
前記端末応答部は,
前記病室,又は前記処置室に入室している看護師の受信端末の鳴動を停止させるように応答する,
請求項1?3のいずれか1項に記載の着信音鳴動制御装置。
【請求項6】
入退管理サーバと,
請求項1?5のいずれか1項に記載の着信音鳴動制御装置と,
を備え,
前記入退管理サーバは,
前記入退室情報を取得し,
前記着信音鳴動制御装置へ送信する,
ナースコールシステム。
【請求項7】
複数の看護師のうち少なくとも1人が,病室及び処置室から退室している場合,
前記病室及び前記処置室から退室している看護師の受信端末を
第1の鳴動パターンで鳴動させ,
前記複数の看護師のうち全員が,前記病室,又は前記処置室に入室している場合,
前記複数の看護師の全員の受信端末を,
前記第1の鳴動パターンと異なる第2の鳴動パターンで鳴動させ,
前記第1及び前記第2の鳴動パターンは,着信音,及びバイブレーションのパターンである,
着信音鳴動制御方法。
【請求項8】
ナースコールシステムにおいて着信音鳴動制御装置として動作するコンピュータに,
複数の看護師のうち少なくとも1人が,病室及び処置室から退室している場合,
前記病室及び前記処置室から退室している看護師の受信端末を
第1の鳴動パターンで鳴動させ,
前記複数の看護師のうち全員が,前記病室,又は前記処置室に入室している場合,
前記看護師の全員の受信端末を,
前記第1の鳴動パターンと異なる第2の鳴動パターンで鳴動させ,
前記第1及び前記第2の鳴動パターンは,着信音,及びバイブレーションのパターンである,
ことを実行させるプログラム。

第4.引用文献,引用発明等
1.引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同様。)。
・「【請求項4】 通話機能を有する複数のナースコール子機と,前記複数のナースコール子機が接続されたナースコール親機と,前記ナースコール親機とコードレス主装置及び無線基地局を介して接続し前記複数のナースコール子機及び前記ナースコール親機と通話できる複数の携帯端末とから構成されるナースコールシステムであって,前記ナースコール親機の記憶部には患者ごとに予め設定された受け持ち看護担当チームと看護担当チームに割り当てられた看護師とナースコール呼び出しが発生した際に看護担当チーム内で,及び担当とは異なるチームで前記携帯端末の呼び出し優先順位を示す管理テーブルが保存され,ナースコール呼び出しがあると管理テーブルに従った優先順位で前記携帯端末を呼び出すシステムにおいて,看護師の識別番号が記録されている無線ICタグを身につけている看護師が病室内に入室していることを病室の出入り口近傍に設置された無線ICタグ読み取り装置で検出して廊下灯に送り,または看護師が病室に入室及び退室する際に病室の出入り口近傍に設置された前記廊下灯において看護師識別カードの読み込みまたは識別番号の入力または指紋や虹彩や静脈などの生体情報の読み込みのいずれか1つの手段で入室情報及び退室情報を入力し,前記廊下灯は前記ナースコール親機へ看護師の入室情報または退室情報を送り,前記ナースコール親機は,管理テーブルを前記記憶部から読み出して病室に入室中の看護師が所持する前記携帯端末の呼び出し優先順位を同一看護担当チームの最下位置に配置して,または呼び出しを禁止にして前記記憶部に書き込み,看護師が病室から出た情報によって管理テーブルを前記記憶部から読み出して該当する看護師の所持する前記携帯端末の呼び出し優先順位を病室へ入室前の優先順位に戻す,または呼び出し禁止を解除して書き込みを行い,ナースコール呼び出しがあると管理テーブルに従った優先順位で前記携帯端末を呼び出すことを特徴とするナースコールシステム。」
・「【0006】
本発明は,手が放せない看護業務に従事中の看護師に対しては,携帯端末の呼び出しを一時中止または呼び出しの優先順位を下げて従事中の看護業務を継続可能とし,看護業務の集中処理による効率化と看護師の負担の均一化を達成することのできるナースコールシステムを提供することを課題とする。」
・「【0013】
上記の手段1または手段2のいずれかの手段で入力された看護師の入室情報及び退室情報を基に看護師が病室内に居るか否かを判定したナースコール親機は,看護師が病室内にいる時は該当する看護師が所持する携帯端末の呼び出しを禁止にするか,または呼び出し優先順位を同一看護担当チームの最下位置に配置するかのいずれにするかを勤務時間帯毎に設定する手段をナースコール親機の操作・表示部に備え,操作・表示部で設定した条件を記憶部に保存し,病室の入室情報及び退室情報を受け取るたびに記憶部から管理テーブルを読み出して設定に従って書き込みを行う手段を備える。」
・「【発明の効果】
【0015】
本発明は,病室内で手が放せない看護業務に従事中の看護師に対しては,携帯端末の呼び出しを一時中止または呼び出しの優先順位を下げることに拠り,従事中の看護業務を継続可能とし,看護業務が中断することによる医療ミスを防止すると共に看護業務の集中処理による効率化が図れる。また,ナースコールに応じた看護師は次回呼び出しの優先順位を下げてローテーションすることに拠り看護師の作業負担の均一化を達成することができる。」
・「【0016】
以下,本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は,無線ICタグ読み取り装置(3)を廊下灯(2)に接続したナースコールシステムの全体構成図を示す。ナースコール親機(1)は,ナースコール専用通信線(23)を介して廊下灯(2)と接続している。廊下灯(2)は,病室内の壁取り付け子機(4)を介して各ベッドに備えられているナースコール子機(5)及び病室の出入り口近傍に設置される無線ICタグ読み取り装置(3)が接続される。ナースコール親機(1)には,コードレス主装置(7)と無線基地局(8)を介して看護師等が所持している携帯端末(9)が接続され,ナースコール子機(5)やナースコール親機(1)と通話できる様になっている。
【0017】
次にナースコールシステムの呼び出し操作について説明する。まず,患者がナースコール子機(5)の呼び出しボタンを押すと呼び出し信号が廊下灯(2)へ送信され,廊下灯(2)ではその病室の代表灯及び患者個別の表示灯が点滅または点灯する。さらに,呼び出し信号は廊下灯(2)からナースコール親機(1)へ送信され,ナースコール親機(1)では操作・表示部に呼び出しを行った患者の氏名や室番号・ベッド番号などが表示されると共に呼出音発生部から呼び出し音が鳴動し,看護師に報知する。また,呼び出し信号はナースコール親機(1)からコードレス主装置(7)と無線基地局(8)を介して看護師等が所持している携帯端末(9)へ送信され,携帯端末(9)で呼び出し音が鳴動する。
【0018】
ナースコール親機(1)または複数の携帯端末(9)の内,呼び出しに応答した一番早い機器がナースコール子機(5)との間で通話路が形成されて通話できる。他の機器は,呼び出し音が停止して通話することができない。
【0019】
携帯端末(9)は台数が少ない場合は一斉に呼び出されたり,チームナーシングを採用している病院では,呼び出しを行った患者を担当しているチームのみが呼び出されたり,患者毎に呼び出すチームの順番を予め設定しておき,一定の遅延時間を置いて設定に従って順次呼び出されたりする。同一のチーム内においても,携帯端末(9)が一斉に呼び出されたり,予め設定された順番で一定の遅延時間を置いて順次呼び出されたりする。この呼び出しを制御するのはナースコール親機(1)で行う。」
・「【0031】
図3の管理テーブルの状態で患者123から呼び出しが発生した場合,決められた遅延時間の順序で携帯端末が呼び出される順位は201→202→203→204となる。患者123に対する呼び出しをAチームだけしか定義されていない場合は,時間が経過してもAチームを呼び出して終了し応答を待つことになる。しかし,Aチームの後にCチームとさらにBチームが設定されていると,204を呼び出した後にCチームの302→303→301→Bチームの212→213→211の順序で呼び出しが実行されていく。これらの制御は,ナースコール親機(1)が記憶部(11)から携帯端末の管理テーブル(21)を読み出して,管理テーブルに従って決められた遅延時間の順序で呼び出し情報をコードレス主装置(7)へ送信することで実行される。
【0032】
図4は,看護師A2が病室に入室した情報を廊下灯からナースコール親機が受け取った時に病室に入室中は呼び出しを禁止する設定が行われている場合に図3の管理テーブルが書き換えられたことを示す。(矢印24と矢印25の行)この状態の時に患者123から呼び出しがあると,看護師はA1→A3→A4の順番で呼び出され,看護師A2は呼び出されない。看護師A2が病室から出た情報を受けると,図4の管理テーブルは図3のテーブルに戻される。」
・「【0034】
図6は,看護師が病室に入室中でも呼び出しの禁止は行わず呼び出し順位を担当チーム内の最下位にする設定が選択されている場合に,看護師A2が病室内に居る状態を示す管理テーブルである。(矢印27,28の行)患者456が呼び出したときは,看護師はA3→A1→A2の順番で呼び出しが実施される。呼び出しを禁止にするか,呼び出し順位を下げるかの選択は,ナースコール親機(1)の操作・表示部(13)で実施できる手段を設ける。看護師A2が病室から出た情報を受けると,図6の管理テーブルは図3のテーブルに戻される。」
・「【0037】
呼び出しに対してどの携帯端末が応答したかの情報は,携帯端末(9)から無線基地局(8)とコードレス主装置(7)を経由してナースコール親機(1)にもたらされるので,通話が終了した時点でナースコール親機(1)の制御処理部(10)は,記憶部(11)から管理テーブル(21)を読み出し,応答した携帯端末の呼び出しの順位を同一チームの最下位に下げ,応答しなかった他の携帯端末の呼び出し順位を順次繰り上げる書き込みを行う。この制御を行うことで,呼び出しに対する看護師の応答の負担を平均化することができる。」

・図4,図6には,以下の内容が示されている





これらの記載事項からみて,引用文献1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ナースコール親機は,管理テーブルを記憶部から読み出して病室に入室中の看護師が所持する携帯端末の呼び出し優先順位を同一看護担当チームの最下位置に配置して,または呼び出しを禁止にして前記記憶部に書き込み,看護師が病室から出た情報によって管理テーブルを前記記憶部から読み出して該当する看護師の所持する前記携帯端末の呼び出し優先順位を病室へ入室前の優先順位に戻す,または呼び出し禁止を解除して書き込みを行い,ナースコール呼び出しがあると管理テーブルに従った優先順位で前記携帯端末を呼び出し,前記携帯端末で呼び出し音が鳴動する,ナースコールシステム。」

2.引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
医療従事者を呼び出すために操作される呼出操作部と,前記呼出操作部の操作によって呼出信号を生成する子機制御部と,前記呼出信号を出力する子機インターフェースとを有するナースコール子機と,
前記呼出信号を入力するインターフェースと,呼び出しが行われていることを報知する報知部と,前記呼び出しの着信を拒否する着信拒否モードに設定するための着信拒否モード設定操作部と,前記呼び出しに応答することができる携帯端末が存在しないことを示す警告情報を通知する警告情報通知部と,前記インターフェースが呼出信号を入力した場合に,前記報知部を動作させるとともに,前記着信拒否モード設定操作部が操作されている場合に,前記インターフェースが呼出信号を入力すると,前記報知部を動作させず,前記着信拒否モードに設定されていることを示すプレゼンス情報を生成し,前記インターフェースを制御して前記プレゼンス情報を出力させる制御部とを有し,医療従事者によって携行される携帯端末と,
前記ナースコール子機から出力された呼出信号を入力するとともに前記携帯端末からプレゼンス情報を入力する親機インターフェースと,前記親機インターフェースが呼出信号を入力した場合に,着信の対象となる複数の携帯端末を特定するとともに,特定した携帯端末から前記親機インターフェースが前記プレゼンス情報を入力したか否かを判定し,前記親機インターフェースが前記複数の携帯端末のうち少なくとも一つの携帯端末が前記プレゼンス情報を入力していないと判定した場合には,前記親機インターフェースを制御して,前記プレゼンス情報を入力していない携帯端末に対して呼出信号を出力させ,前記親機インターフェースが前記複数の携帯端末の全てから前記プレゼンス情報を入力したと判定した場合には,前記警告情報を生成し,前記親機インターフェースを制御して前記複数の携帯端末の全てに生成した前記警告情報を出力させる親機制御部とを備えたナースコール親機と,
を備えたことを特徴とするナースコールシステム。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は,患者がナースコール子機の呼出操作部を操作することによって医療従事者を呼び出すことができるナースコールシステムに関し,特に携帯端末を携行する医療従事者が呼び出しに応答することができるナースコールシステムに関する。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,上述した特許文献2に記載の技術では,携帯端末を携行している医療従事者の意思により,携帯端末が着信拒否モード設定手段によって着信拒否モードに設定されるため,携帯端末を携行している全ての医療従事者が携帯端末を着信拒否モードに設定してしまい,着信拒否モードを解除しないままでいると,携帯端末を携行している医療従事者に対して報知が行われなくなってしまうという問題があった。
【0008】
本発明は,このような問題を解決するために成されたものであり,医療従事者が携行している全ての携帯端末が着信拒否モードになって,携帯端末を携行している医療従事者に対して報知が行われなくならないようにすることを目的とする。」
・「【0018】
ここで,親機インターフェース12は,ナースコール子機1から出力された呼出信号を入力する。また,親機インターフェース12は,各携帯端末50から出力されたプレゼンス情報を入力する。プレゼンス情報とは,各携帯端末50が着信拒否モードに設定されていることを示す情報である。また,プレゼンス情報には,このプレゼンス情報を出力した携帯端末50を特定するための携帯端末識別情報が付加されている。」
・「【0021】
このように構成されたナースコール親機10では,親機インターフェース12が呼出信号を入力すると,親機制御部11は呼出信号に含まれる子機識別情報を抽出する。そして,親機制御部11は,親機記憶部14を参照して,抽出した子機識別情報に関連付けて記憶されている複数の携帯端末識別情報を取得する。一方,親機インターフェース12がプレゼンス情報を入力すると,親機制御部11はプレゼンス情報に含まれる携帯端末識別情報を抽出する。
【0022】
この状態で,親機制御部11は,取得した複数の携帯端末識別情報と,プレゼンス情報から抽出した携帯端末識別情報とを比較する。そして,親機制御部11は,取得した全ての携帯端末識別情報についてプレゼンス情報から抽出した携帯端末識別情報が存在するか否かを判定する。取得した複数の携帯端末識別情報のうち,少なくとも一つの携帯端末識別情報について,プレゼンス情報から抽出した携帯端末識別情報が存在しないと親機制御部11にて判定した場合には,親機制御部11は,その携帯端末識別情報を付加した呼出信号を制御機20へ出力する(換言すると,プレゼンス情報を入力していない携帯端末50に対して呼出信号を出力する。制御機20は,主装置30および無線装置40を介して,呼出信号を各携帯端末50へ送信する。
【0023】
一方,取得した複数の携帯端末識別情報の全てについて,プレゼンス情報から抽出した携帯端末識別情報が存在すると親機制御部11にて判定した場合には,親機制御部11は,その全ての携帯端末識別情報を付加した警告情報を生成する。ここで,警告情報とは,患者からの呼び出しに対して,応答することができる携帯端末50が存在しないことを示すものである。親機制御部11は,生成した警告情報を親機インターフェース12により制御機20へ出力する。制御機20は,主装置30および無線装置40を介して,警告情報を各携帯端末50へ送信する。
【0024】
次に,携帯端末50の各構成要素について説明する。制御部51は,携帯端末50の各構成要素を後述するように制御するためのものであり,CPUなどにより構成されている。無線送受信部52は,携帯端末50におけるインターフェースの役割を果たしており,携帯端末50が無線装置40との間で無線通信を行うためのものである。報知部53は,スピーカーや表示ディスプレイなどにより構成されており,患者からの呼び出しを音声や表示にて報知するためのものである。着信拒否モード設定操作部54は,ボタンなどにより構成されており,看護業務で多忙な医療従事者がナースコール子機1による呼び出しを着信したくない場合に操作するためのものである。
【0025】
ここで,着信拒否モード設定操作部54が操作されると,制御部51は,携帯端末50を着信拒否モードに切り替えるとともに,携帯端末50が着信拒否モードに設定されていることを示すプレゼンス情報を生成する。また,制御部51は,生成したプレゼンス情報を無線送受信部52により送信する。一方,携帯端末50が着信拒否モードに設定されている場合に,再度着信拒否モード設定操作部54が操作されると,制御部51は,携帯端末50の着信拒否モードを解除するとともに,携帯端末50が着信拒否モードに設定されていないことを示す解除情報を生成する。また,制御部51は,生成した解除情報を無線送受信部52により送信する。
【0026】
携帯端末50が着信拒否モードに設定されていない場合に,無線送受信部52が呼出信号を受信すると,制御部51は,呼出信号に含まれる携帯端末識別情報と自装置の携帯端末識別情報とが一致するか否かを判定する。そして,両者が一致すると制御部51にて判定すると,制御部51は報知部53を動作させ,報知部53は報知を行う。
【0027】
一方,携帯端末50が着信拒否モードに設定されている場合に,無線送受信部52が呼出信号を受信すると,制御部51は,呼出信号に含まれる携帯端末識別情報と自装置の携帯端末識別情報とが一致しても,報知部を動作させない。」
・「【0029】
警告情報通知部56は,スピーカーや表示ディスプレイなどにより構成されており,ナースコール子機1からの呼び出しに対して応答することができる携帯端末50が存在しないことを示す警告情報を音声や表示により通知するためのものである。具体的には,図2に示すように,「患者様からの呼び出しに応答することができる携帯端末がありません。着信拒否モードを解除してください。」といった内容のメッセージを表示ディスプレイに警告情報として表示する。」
・図1,図2には,以下の内容が図示されている。




・図1からみて,警告情報通知部56が携帯端末50の構成要素であることが理解できる。

これらの事項から引用文献2には,以下の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。
「患者がナースコール子機の呼出操作部を操作することによって医療従事者を呼び出すことができるナースコールシステムに関し,携帯端末50を携行する医療従事者が呼び出しに応答することができるナースコールシステムであって,
プレゼンス情報は,各携帯端末50が着信拒否モードに設定されていることを示す情報であり,プレゼンス情報には,このプレゼンス情報を出力した携帯端末50を特定するための携帯端末識別情報が付加されており,
親機制御部11は,プレゼンス情報を入力していない携帯端末50に対して呼出信号を出力するものであり,
携帯端末50の構成要素である警告情報通知部56は,スピーカーや表示ディスプレイなどにより構成されており,ナースコール子機1からの呼び出しに対して応答することができる携帯端末50が存在しないことを示す警告情報を音声や表示により通知する,
ナースコールシステム。」
第5.対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
ア.本願発明1と引用発明とを対比すると,後者の「看護師」が「病室に入室中」であるかということ及び「看護師が病室から出た情報」は前者の「看護師が病室,又は処置室に入室しているか否かを示す入退室情報」に相当し,以下同様に,「看護師が所持する携帯端末」及び「前記携帯端末」は「看護師用受信端末」に,それぞれ相当する。
イ.上記ア.を踏まえると,後者の「管理テーブルを記憶部から読み出して病室に入室中の看護師が所持する携帯端末の呼び出し優先順位を同一看護担当チームの最下位置に配置して,または呼び出しを禁止にして前記記憶部に書き込み,看護師が病室から出た情報によって管理テーブルを前記記憶部から読み出して該当する看護師の所持する前記携帯端末の呼び出し優先順位を病室へ入室前の優先順位に戻す,または呼び出し禁止を解除して書き込みを行い,ナースコール呼び出しがあると管理テーブルに従った優先順位で前記携帯端末を呼び出」す「ナースコール親機」は,どの携帯端末を鳴動させるかを決定しているから,前者の「看護師が病室,又は処置室に入室しているか否かを示す入退室情報に基づいて,前記看護師に携行される看護師用受信端末の鳴動パターンを決定する着信音鳴動判定部」とは,「看護師が病室,又は処置室に入室しているか否かを示す入退室情報に基づいて,前記看護師に携行される看護師用受信端末の鳴動を決定する鳴動判定部」において共通する。
ウ.後者の「前記携帯電話で」「鳴動する」「呼び出し音」と前者の「鳴動パターンは,着信音,及びバイブレーションのパターン」とは,「鳴動は,音」である点において共通する。
エ.後者の「ナースコール呼び出しがあると管理テーブルに従った優先順位で前記携帯端末を呼び出し,前記携帯端末で呼び出し音が鳴動する」ことと,前者の「前記端末応答部は,前記看護師用受信端末からの問い合わせに対して,前記第1の鳴動パターンで前記看護師用受信端末を鳴動させるように応答」することとは,「前記看護師用受信端末を鳴動させる」ことにおいて共通する。
オ.後者の「ナースコールシステム」は「ナースコール親機」を備えることは明らかであるから,前者とは,「鳴動判定部を備え」る「鳴動制御装置」において共通する。
カ.そうすると,両者は,
「看護師が病室,又は処置室に入室しているか否かを示す入退室情報に基づいて,前記看護師に携行される看護師用受信端末の鳴動を決定する鳴動判定部を備え,
前記鳴動は,音であり,
前記看護師用受信端末を鳴動させる,
鳴動制御装置。」
において一致し,以下の各点において相違すると認められる。
<相違点1>
前記看護師に携行される看護師用受信端末の鳴動を決定する鳴動判定部に関し,本願発明1では,鳴動の決定が「鳴動パターン」の決定であり,「鳴動パターンは,着信音,及びバイブレーションのパターンであ」り,鳴動判定部が「着信音鳴動判定部」であるのに対して,引用発明では,「携帯端末の呼び出し優先順位または呼び出し禁止」を決定することであり,鳴動は「呼び出し音」であり,鳴動判定部が「ナースコール親機」である点。
<相違点2>
鳴動制御装置が,本願発明では,「着信音」鳴動判定部と,「端末応答部」とを備える「着信音」鳴動制御装置であるのに対して,引用発明では,「ナースコール親機」を備える「ナースコールシステム」であるものの,端末応答部を備えていない点。
<相違点3>
本願発明1では,「前記入退室情報が,複数の前記看護師のうち少なくとも1人が,退室していることを示す場合,前記着信音鳴動判定部は,退室している看護師の受信端末の鳴動パターンを第1の鳴動パターンに決定し,前記端末応答部は,前記看護師用受信端末からの問い合わせに対して,前記第1の鳴動パターンで前記看護師用受信端末を鳴動させるように応答し,前記入退室情報が,前記複数の前記看護師のうち全員が,入室していることを示す場合,前記着信音鳴動判定部は,前記複数の看護師の全員の受信端末の鳴動パターンを,前記第1の鳴動パターンと異なる第2の鳴動パターンに決定し,前記端末応答部は,前記看護師用受信端末からの問い合わせに対して,前記第2の鳴動パターンで前記看護師用受信端末を鳴動させるように応答する」のに対して,引用発明では,「ナースコール親機は,管理テーブルを記憶部から読み出して病室に入室中の看護師が所持する携帯端末の呼び出し優先順位を同一看護担当チームの最下位置に配置して,または呼び出しを禁止にして前記記憶部に書き込み,看護師が病室から出た情報によって管理テーブルを前記記憶部から読み出して該当する看護師の所持する前記携帯端末の呼び出し優先順位を病室へ入室前の優先順位に戻す,または呼び出し禁止を解除して書き込みを行い,ナースコール呼び出しがあると管理テーブルに従った優先順位で前記携帯端末を呼び出し,前記携帯端末で呼び出し音が鳴動する」点。
(2)相違点の判断
事案に鑑み,相違点3について先に検討する。
引用文献2には,前述したように,
「患者がナースコール子機の呼出操作部を操作することによって医療従事者を呼び出すことができるナースコールシステムに関し,携帯端末50を携行する医療従事者が呼び出しに応答することができるナースコールシステムであって,
プレゼンス情報は,各携帯端末50が着信拒否モードに設定されていることを示す情報であり,プレゼンス情報には,このプレゼンス情報を出力した携帯端末50を特定するための携帯端末識別情報が付加されており,
親機制御部11は,プレゼンス情報を入力していない携帯端末50に対して呼出信号を出力するものであり,
携帯端末50の構成要素である警告情報通知部56は,スピーカーや表示ディスプレイなどにより構成されており,ナースコール子機1からの呼び出しに対して応答することができる携帯端末50が存在しないことを示す警告情報を音声や表示により通知する,
ナースコールシステム。」
が記載されているが,上記「プレゼンス情報」は「各携帯端末50が着信拒否モードに設定されていることを示す情報」であって,「入退室情報」とはいえないから,上記相違点3における「前記入退室情報が,複数の前記看護師のうち少なくとも1人が,退室していることを示す場合,前記着信音鳴動判定部は,退室している看護師の受信端末の鳴動パターンを第1の鳴動パターンに決定し,」「前記入退室情報が,前記複数の前記看護師のうち全員が,入室していることを示す場合,前記着信音鳴動判定部は,前記複数の看護師の全員の受信端末の鳴動パターンを,前記第1の鳴動パターンと異なる第2の鳴動パターンに決定」すること(以下「記載事項A」という。)については,少なくとも記載されていない。
そうすると,引用発明に,入退室情報を考慮していない引用文献2に記載された事項を適用しても,上記記載事項Aには至らないから,相違点3に係る本願発明1の発明特定事項が容易想到であるということはできない。
よって,その他の相違点を検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明,引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.本願発明2?6について
本願発明2?6は,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定して発明を特定するものであるから,本願発明1と同じ理由により,引用発明,引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.本願発明7について
本願発明7の発明特定事項において「複数の看護師のうち少なくとも1人が,病室及び処置室から退室している場合,前記病室及び前記処置室から退室している看護師の受信端末を第1の鳴動パターンで鳴動させ,前記複数の看護師のうち全員が,前記病室,又は前記処置室に入室している場合,前記複数の看護師の全員の受信端末を,前記第1の鳴動パターンと異なる第2の鳴動パターンで鳴動させ」ることについては,引用文献1及び引用文献2に記載されておらず,本願発明7は,本願発明1と同様に,引用発明,引用文献2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4.本願発明8について
本願発明8の発明特定事項において「複数の看護師のうち少なくとも1人が,病室及び処置室から退室している場合,前記病室及び前記処置室から退室している看護師の受信端末を第1の鳴動パターンで鳴動させ,前記複数の看護師のうち全員が,前記病室,又は前記処置室に入室している場合,前記看護師の全員の受信端末を,前記第1の鳴動パターンと異なる第2の鳴動パターンで鳴動させ」ることについては,引用文献1及び引用文献2に記載されておらず,本願発明8は,本願発明7と同様の理由により,引用発明,引用文献2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6.むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-11-05 
出願番号 特願2019-38387(P2019-38387)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木村 麻乃  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 佐々木 一浩
藤井 昇
発明の名称 着信音鳴動制御装置、ナースコールシステム、着信音鳴動制御方法、及びプログラム  
代理人 家入 健  

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