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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G09B
管理番号 1367658
審判番号 不服2019-8421  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-25 
確定日 2020-10-30 
事件の表示 特願2017-124179「模擬地震被害の仮想現実体験システム、仮想現実体験システムの制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月 2日出願公開、特開2017-199017〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下、「本件出願」という。)は、平成28年4月28日に出願した特願2016-089976号(以下、「原出願」という。)の一部を新たな特許出願として平成29年6月26日に出願された特願2017-124179号であって、平成30年5月29日付けで拒絶理由が通知され、同年7月27日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月31日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年12月25日に意見書が提出されたが、平成31年3月27日付で、平成30年10月31日付けで通知された拒絶理由(以下、「原査定の理由」という。)による拒絶査定がなされ、その謄本は同年4月3日に請求人に送達された。 これに対し、令和1年6月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、当該請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 令和1年6月25日に提出された手続補正書による補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

令和1年6月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

1.本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、特許請求の範囲についての補正のうち本件補正の前後における特許請求の範囲の請求項1の記載は、それぞれ次のとおりである(下線部は補正箇所である。)。

(1)本件補正前(平成30年7月27日提出の手続補正書の特許請求の範囲に記載のもの)
「【請求項1】
実現象に基づく複数種の地震被害データの間の同期をとる地震被害データ処理装置と、
前記地震被害データ処理装置によって同期がとられた地震被害データを再生する地震被害データ再生部と、からなる模擬地震被害の仮想現実体験システムにおいて、
複数種の地震被害データには、映像データと音声データと振動データとが含まれ、
複数種の地震被害データの間の同期をとるために、映像データには同期用の発光が写し込まれ、音声データには同期用の発音が記録され、振動データには同期用の電気信号が記録されることを特徴とする模擬地震被害の仮想現実体験システム。」

(2)本件補正後(令和1年6月25日提出の手続補正書)
「【請求項1】
実現象に基づく複数種の地震被害データの間の同期をとる地震被害データ処理装置と、
前記地震被害データ処理装置によって同期がとられた地震被害データを再生する地震被害データ再生部と、からなる模擬地震被害の仮想現実体験システムにおいて、
複数種の地震被害データには、映像データと音声データと振動データとが含まれ、
複数種の地震被害データの間の同期をとるために、映像データには同期用の発光が写し込まれ、音声データには同期用の発音が記録され、振動データには同期用の電気信号が記録され、
映像データに写しこまれた同期用の発光と、音声データに記録された同期用の発音と、振動データに記録された同期用の電気信号と、を基準として映像データと音声データと振動データの同期をとる
ことを特徴とする模擬地震被害の仮想現実体験システム。」

2.補正の目的
請求項1に係る本件補正は,請求項1に係る「模擬地震被害の仮想現実体験システム」について,内部で複数種の地震被害データの間の同期をとるものに限定するとともに、その同期について「映像データに写しこまれた同期用の発光と、音声データに記録された同期用の発音と、振動データに記録された同期用の電気信号と、を基準として映像データと音声データと振動データの同期をとる」ものに具体的に限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。よって、上記補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

3.独立特許要件
次に、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するものであるか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か)について検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献及び、周知文献の記載

ア.原査定で引用された特開2003-66825号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。(なお、下線は強調のために当審が付した。以下同じ)

(ア)「【0011】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。図1は本発明の第1実施形態にかかる模擬体感装置の全体構成図、図2は本発明の第2実施形態にかかる模擬体感装置の全体構成図、図3は本実施形態に用いられる6軸揺動再現装置の揺動方向を示したグラフ(a)及び該6軸揺動再現装置の概略構成図(b)、図4は6軸揺動再現装置の揺動加速度を示したグラフである。
【0012】本実施形態では、主として地震体感用に用いられる場合につき説明するが、擬似環境が、外部から揺動、その他刺激を受ける環境であれば特に限定されない。図1に基づいて本発明の第1実施形態を説明する。図1において、図中10は本実施形態の模擬体感装置演算部分を担うシステム制御用計算機で、該システム制御計算機10は、記憶部11、環境条件選択部12、揺動制御信号算出部13、音響発生信号算出部14、映像制御信号算出部15、同期化処理部16を備える。
【0013】前記記憶部11には、揺動データ、音響データ、映像データ等の各種データが記憶されており、これらのデータは必要に応じて入力部23から入力したり、予め記憶させておき選択したり出来るようにする。前記各種データは、耐震実験から得られたデータ、若しくは自然現象を測定して得られたデータを分析し、データ化したものであり、様々な状況を再現可能とするため環境条件毎に複数種類のデータを記憶させておくとよい。例えば、実際に耐震実験で得られた建屋室内の映像、同室内の柱などが軋む音、同室内床の6軸挙動等を分析してデータ化する。尚、環境条件とは、再現する場所、自然現象等を意味し、さらに詳しくは、地震、台風等の自然現象、建物内若しくは橋の上等の場所、さらに建物、構造物、乗り物等の種類/規模などの条件とする。
【0014】前記環境条件選択部12は、前記記憶部11に格納されている各種データから被験者が指定した環境条件に応じたデータを夫々選択する構成となっている。前記揺動制御信号算出部13、音響発生信号算出部14、映像制御信号算出部15は前記各種データの計算機能であり、環境条件に応じて選択された各種データから、夫々のデータを出力する際に必要となる揺動制御信号、音響発生信号、映像制御信号を算出する機能である。また、前記同期化処理部16は、制御信号に変換された各種データを同期化させ、実際にこれらのデータを再現した際にずれが生じないように処理を施す機能を有する。
【0015】そして、実際に仮想現実空間を再現する仮想現実部30は、音響装置17、プロジェクター18、3Dディスプレイ19、揺動制御装置20、6軸揺動再現装置21とからなり、夫々前記システム制御用計算機から送信される制御用信号に基づいて作動する構成となっている。17は、前記音響発生信号算出部14にて変換された音響発生信号を受けて3次元立体音響を作り出す音響装置で、該音響装置17は3次元立体音響を出力するスピーカを含む。18は、前記映像制御信号算出部15にて変換された映像制御信号を受けて3次元立体映像を作り出すプロジェクターで、19は該プロジェクターで作り出された映像を映し出す3Dディスプレイである。尚、これらの映像、音響は2次元で出力することも可能である。」

(イ)図1



上記(ア)、(イ)によれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「実際に耐震実験で得られた建屋室内の映像、同室内の柱などが軋む音、同室内床の6軸挙動等を分析してデータ化した揺動データ、音響データ、映像データ等の各種データから、夫々のデータを出力する際に必要となる揺動制御信号、音響発生信号、映像制御信号を算出する揺動制御信号算出部13、音響発生信号算出部14、映像制御信号算出部15と、制御信号に変換された各種データを同期化させ、実際にこれらのデータを再現した際にずれが生じないように処理を施す機能を有する同期化処理部16とを備えるシステム制御用計算機と、前記システム制御用計算機から送信される制御信号に基づいて作動し、仮想現実空間を再現する音響装置17、プロジェクター18、3Dディスプレイ19、揺動制御装置20、6軸揺動再現装置21とからなる仮想現実部30と、からなる模擬体感装置。」

イ.原査定で引用された特開2005-277654号公報(以下「周知文献2」という。)には、以下の記載がある。

(ア)「【0017】
また、本発明の携帯電話通信システムによれば、
音声網と、データ網と、該音声網及び該データ網に接続された携帯電話端末と、音声網及びデータ網に接続された仮想端末装置と、仮想端末装置に接続された相手通信装置とを有し、
携帯電話端末は、音声信号を取得する音声デバイス手段と、画像信号を取得する画像デバイス手段と、音声信号及び画像信号に同期信号を付与し、該音声信号を音声網に送信し、該画像信号をデータ網に送信する同期処理手段とを有し、
仮想端末装置は、音声網を介して受信した音声信号と、データ網を介して受信した画像信号とを同期させる同期処理手段と、同期された音声信号及び画像信号を統合した統合データを生成し、該統合データを相手通信装置へ送信するアプリケーション処理手段とを有することを特徴とする。」

(イ)上記(ア)によれば、周知文献2には、以下の技術(以下「周知技術2」という。)が記載されている。

「音声信号及び画像信号に同期信号を付与し、音声信号と、画像信号とを同期させる技術。」

ウ.原出願の出願日以前に公開された文献である特開2012-182762号公報(以下、「周知文献3」という。)には、以下の記載がある。

(ア)「【0013】
操作者が電源スイッチでビデオカメラ2の電源をオンにすると、制御部4は操作入力部18の操作を読み取り(ステップS10)、操作者によりRECボタンが押下された状態である場合には(ステップS12、Yes)、撮影部20による動画撮影を実行する。ここで動画撮影は、動画を構成する1つのフレーム画像を取得する露光制御動作を繰り返すことにより行われる。【0014】
即ち、制御部4は露光信号をONにすることにより(ステップS14)、撮影制御部22を制御して撮影部20のシャッタ29を開き撮像素子24に露光を開始させる。
【0015】
また、制御部4は閃光スイッチ14が押下されたか否かを読み取り(ステップS16)、操作者により閃光スイッチ14が押下されたと判別した場合には(ステップS18、Yes)、フラッシュ制御部12を制御してフラッシュ10を発光させ(ステップS20)、スピーカ制御部8を制御してスピーカ6を鳴動させ音声を出力する(ステップS22)。なお、フラッシュ10の発光は撮像素子24の露光中、即ち撮像素子24による電荷蓄積中に行われる。これにより、スピーカ6からの音声出力時に撮影部20により撮影されている動画を構成するフレーム画像にはフラッシュ10による閃光の画像が含まれる。従って、このフレーム画像が同期フレーム画像として特定される。また、録音装置にはスピーカ6から出力された音声が録音される。」
(イ)「【0018】
本発明の第1の実施の形態に係るビデオカメラによれば、ビデオカメラにより記録された動画と録音装置により録音された音声を結合する編集を行う場合にフラッシュによる閃光の画像を含むフレーム画像及びスピーカからの音声を基準にして、動画と音声の同期を容易にとることができる。」

(ウ)上記(ア)、(イ)によれば、周知文献3には、以下の技術(以下「周知技術3」という。)が記載されている。
「動画撮影を実行中に、フラッシュ10を発光させ、スピーカ6を鳴動させ音声を出力することにより、スピーカ6からの音声出力時に撮影部20により撮影されている動画を構成するフレーム画像にはフラッシュ10による閃光の画像が含まれ、フラッシュによる閃光の画像を含むフレーム画像及びスピーカからの音声を基準にして、動画と音声の同期を容易にとることができる技術。」

エ.原出願の出願日以前に公開された文献である特開2006-25163号公報(以下「周知文献4」という。)には、以下の記載がある。

(ア)「【0016】
本撮影システムは、被写体(1)を取り囲むように、20台の撮影装置(10)を設置する。1台のPC(30、31)で認識可能な台数の撮影装置(10)を、HUB(中継装置)(20)に一旦集線し、PC(計算機)(30、31)に接続する。PCは、撮影タイミング等を発信する統括PC(30)を1台と、発信された撮影タイミングを受信しそのタイミングにて画像の取得を行う画像取得PC(31)を複数台、使用する。PC(30、31)の台数は、1台のPCあたりに接続する撮影装置(10)の個数に依存する。装置全体の規模を小さくするためには、画像を取得するPCの数が最小となるように、1台のPCで認識可能な最大の台数の撮影装置(10)を、HUB(20)を介して接続する。しかし、PC1台あたりに接続される撮影装置(10)の数が増えるほど、記憶装置の容量により、撮影可能な秒数が短縮される。このため、装置規模、撮影秒数を考慮したうえで、PCの台数を決定するのがよい。また、本構成においては、統括PC(30)は、画像取得PC(31)への動作指示のみに徹しているが、装置規模を縮小するために、統括PC(30)にもHUB(20)を介して撮影装置(10)を接続しても構わない。すべての撮影装置(10)のシャッタータイミングを一致させるため、各HUB(20)に、同期信号発生装置(40)を接続する。更に、複数の同期信号発生装置(40)間の信号発生タイミングを一致させるため、同期信号発生装置(40)同士の接続を行う。各PC(30、31)間の連携を取るために、全てのPC(30、31)は、ネットワークHUB(50)に接続する。例えば、統括PC(30)から発信した信号を画像取得PC(31)で受信したり、画像取得PC(31)内のデータを統括PC(30)に転送したりする場合に、必要となる。また、全ての撮影装置(10)の同期タイミングを合わせるための補助として、全ての撮影装置において撮影可能な位置に発光装置を設置する。撮影開始後すぐに短時間の発光を行い、撮影後、撮影画像内の発光瞬間を基に同期タイミングを合わせるために使用する。」

(イ)上記(ア)によれば、周知文献4には、以下の技術(以下「周知技術4」という。)が記載されている。

「全ての撮影装置において撮影可能な位置に発光装置を設置し、撮影開始後すぐに短時間の発光を行い、撮影後、撮影画像内の発光瞬間を基に同期タイミングを合わせるために使用する技術。」

オ.原出願の出願日以前に公開された文献である特開2001-36867号公報(以下「周知文献5」という。)には、以下の記載がある。

(ア)「【0012】請求項2に記載の装置は、請求項1に記載の装置において、記録された音声信号を使用して各々の動画像の同期再生の開始点を設定することを特徴としている。従って、記録データからタイムコードを取り出す必要がない。」

(イ)「【0022】撮影開始後に、ホイッスルまたは、電子音発生器等の同期開始点設定用の発音器(7)により開始信号を発し、その後、必要な時間に渡り撮影を行う。開始信号としては、撮影者の「開始」という言葉でも良い。このようにして撮影され、各記録媒体の音声記録部に共通の開始信号が録音されている場合は、その開始信号により各々の動画像を再生する際の同期開始点設定を自動的に行うことができる。なお、自動的に同期開始点を設定する必要がなく、手動で充分な場合などには、開始信号の録音を省略することもできる。」

(ウ)上記(ア)、(イ)によれば、周知文献5には、以下の技術(以下「周知技術5」という。)が記載されている。

「複数の撮影機による動画像の撮影開始後に同期開始点設定用の発音器により開始信号を発し、その後必要な時間動画像の撮影を行うようにすることで、記録された音声信号を使用して各々の動画像の同期再生の開始点を設定する技術。」

(3)本件補正発明の進歩性についての判断

ア.対比

(ア)引用発明1の「揺動制御信号、音響発生信号、映像制御信号」は「実際に耐震実験で得られた建屋室内の映像、同室内の柱などが軋む音、同室内床の6軸挙動等を分析してデータ化した揺動データ、音響データ、映像データ等の各種データから」、「算出」されたものであるから、「実際に耐震実験で得られた」データであるといえる。

(イ)引用発明1の「揺動制御信号、音響発生信号、映像制御信号」、「制御信号に変換された各種データ」、は、引用文献1の段落【0014】「環境条件に応じて選択された各種データから、夫々のデータを出力する際に必要となる揺動制御信号、音響発生信号、映像制御信号を算出する機能である。また、前記同期化処理部16は、制御信号に変換された各種データを同期化させ」(上記(2)ア.(ア)参照。)の文脈からみて、「制御信号に変換された各種データ」とは、「揺動制御信号」、「音響発生信号」、「映像制御信号」のことであると解されるから、引用発明1の「制御信号に変換された各種データを同期化」することは、同「揺動制御信号、音響発生信号、映像制御信号」を同期化することを意味するものであると認められる。
(ウ)上記(ア)、(イ)の検討をふまえると、引用発明1の「実際に耐震実験で得られた」データから「揺動制御信号」、「音響発生信号」、「映像制御信号」を算出する揺動制御信号算出部13、音響発生信号算出部14、映像制御信号算出部15と、制御信号に変換された各種データを同期化させ、実際にこれらのデータを再現した際にずれが生じないように処理を施す機能を有する同期化処理部16とを備える「システム制御用計算機」は、本件補正発明の「実現象に基づく複数種の地震被害データの間の同期をとる地震被害データ処理装置」に相当する。

(エ)引用発明1の「制御用信号(上記(イ)の検討のとおり「揺動制御信号、音響発生信号、映像制御信号」と同じもの。)に基づいて作動して、「仮想現実空間を再現する仮想現実部30」は、本件補正発明の「地震被害データを再生する地震被害データ再生部」に相当する。

(オ)引用発明1の「システム制御用計算機」と、「仮想現実部30」とからなる「模擬体感装置」は、本件補正発明の「地震被害データ処理装置」と、「地震被害データ再生部」とからなる「仮想現実体験システム」に相当する。

(カ)引用発明1においては、「耐震実験から得られたデータ、若しくは自然現象を測定して得られたデータを分析し、データ化したものであり、様々な状況を再現可能とするため環境条件毎に複数種類のデータを記憶させて」いるものであるから、「揺動データ、音響データ、映像データ等の各種データ」は、本件補正発明の「複数種の地震被害データには、映像データと音声データと振動データとが含まれ」ることに相当する。

よって、本件補正発明と引用発明1は、以下の点で一致している。

<一致点>

「実現象に基づく複数種の地震被害データの間の同期をとる地震被害データ処理装置と、
前記地震被害データ処理装置によって同期がとられた地震被害データを再生する地震被害データ再生部と、からなる模擬地震被害の仮想現実体験システムにおいて、
複数種の地震被害データには、映像データと音声データと振動データとが含まれる模擬地震被害の仮想現実体験システム。」

そして、本件補正発明と引用発明1は、以下の点で相違している。

<相違点>
本件補正発明は、「複数種の地震被害データの間の同期をとるために、映像データには同期用の発光が写し込まれ、音声データには同期用の発音が記録され、振動データには同期用の電気信号が記録され、
映像データに写しこまれた同期用の発光と、音声データに記録された同期用の発音と、振動データに記録された同期用の電気信号と、を基準として映像データと音声データと振動データの同期をとる」ものであるのに対して、引用発明1は、「揺動データ、音響データ、映像データ等の各種データ」を「同期化」するものであるといえるものの、当該同期化をどのような手法で行うのか明らかではない点。

イ.相違点についての検討
周知文献2には「音声信号及び画像信号に同期信号を付与し、音声信号と、画像信号とを同期させる技術」が記載されており、音声信号及び画像信号という複数の信号の同期をとるにあたって、その同期信号を電気信号によるものとして、当該電気信号を用いて同期するようにすることが記載されているものといえる。
また、周知文献3には「動画撮影を実行中に、フラッシュ10を発光させ、スピーカ6を鳴動させ音声を出力することにより、スピーカ6からの音声出力時に撮影部20により撮影されている動画を構成するフレーム画像にはフラッシュ10による閃光の画像が含まれ、フラッシュによる閃光の画像を含むフレーム画像及びスピーカからの音声を基準にして、動画と音声の同期を容易にとることができる技術。」が記載され、周知文献4には、「全ての撮影装置において撮影可能な位置に発光装置を設置し、撮影開始後すぐに短時間の発光を行い、撮影後、撮影画像内の発光瞬間を基に同期タイミングを合わせるために使用する技術。」が記載されている。
また、周知文献5には、「複数の撮影機による動画像の撮影開始後に同期開始点設定用の発音器により開始信号を発し、その後必要な時間動画像の撮影を行うようにすることで、記録された音声信号を使用して各々の動画像の同期再生の開始点を設定する技術。」が記載されている。
上記周知文献2ないし5によれば、同時に記録された複数の映像信号や映像信号及び音声信号の同期をとる際に、データ取得時に、それぞれのデータに同期用信号が記録されるようにするは周知の技術であるといえ、そのような同期信号を記録するにあたって、同期信号として画像信号には発光を記録し、音声信号には発音を記録し、電気信号には電気信号を記録するようにすることも同様に周知の技術といい得るものである。
そして、引用発明1は、上記(2)イに示したとおり、「揺動制御信号、音響発生信号、映像制御信号を同期化」するものであるところ、上記の周知技術に照らせば、本願の原出願時の当業者であれば、上記「同期化」にあたって、電気信号である揺動制御信号に同期用電気信号を、音響発声信号に音声信号を、映像制御信号に対して発光信号を記録するようにして、上記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、適宜なし得る程度のことである。

そして、相違点1に係る本件補正発明の作用・効果は、引用発明1及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ.小括
したがって、本件補正発明は、引用発明1、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

(4)本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであり、同条第6項において準用する同法第126条7項の規定に違反するものであるから、同法第159条1項の規定において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により、却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明
令和1年6月25日にされた手続補正は、上記第2のとおり却下されたので、本件の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、平成30年7月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、上記第2.1.(1)に記載のとおりのものである。

2.拒絶査定の概要
平成31年3月27日付けでされた拒絶査定のうち、本件発明に係る拒絶の理由は、本件発明は、引用文献1に記載された発明、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとするものである。

3.引用文献の記載事項
引用文献1、2の記載事項は、上記第2 3.(2)ア.及びイ.に示したとおりである。

4.対比・判断
本件補正発明と、引用発明1との対比、及び相違点についての判断は、上記第2.3.(3)に示したとおりである。
また、本件発明は、本件補正発明が「複数種の地震被害データの間の同期をとるために、映像データには同期用の発光が写し込まれ、音声データには同期用の発音が記録され、振動データには同期用の電気信号が記録され」ることについて、「映像データに写しこまれた同期用の発光と、音声データに記録された同期用の発音と、振動データに記録された同期用の電気信号と、を基準として映像データと音声データと振動データの同期をとる」との特定をしていたものであるのに対して、そのような特定をしないものである。 そうすると、本件発明の発明特定事項をすべて含み、さらに「映像データに写しこまれた同期用の発光と、音声データに記録された同期用の発音と、振動データに記録された同期用の電気信号と、を基準として映像データと音声データと振動データの同期をとる」との発明特定事項を含む本件補正発明が、上記第2.3.(3)で述べたように、引用発明1、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、引用発明1、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.小括
よって、本件発明は、引用発明1、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-08-24 
結審通知日 2020-08-26 
審決日 2020-09-14 
出願番号 特願2017-124179(P2017-124179)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09B)
P 1 8・ 113- Z (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宇佐田 健二  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 畑井 順一
清水 康司
発明の名称 模擬地震被害の仮想現実体験システム、仮想現実体験システムの制御方法  
代理人 田中 貞嗣  
代理人 小山 卓志  
代理人 田中 貞嗣  
代理人 小山 卓志  

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