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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03F
管理番号 1367695
審判番号 不服2020-2187  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-18 
確定日 2020-11-24 
事件の表示 特願2015-233275号「配線基板の製造方法、データ補正装置、配線パターン形成システム及びデータ補正方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年3月30日出願公開、特開2017-62452号、請求項の数(17)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年11月30日(優先権主張 平成26年11月28日(特願2014-241441号)、平成27年9月30日(特願2015-194084号)、平成27年9月30日(特願2015-194083号)、平成27年9月30日(特願2015-194082号))を出願日とするものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年 8月 8日付け:拒絶理由通知書(同年同月22日発送)
令和元年10月18日 :意見書、手続補正書の提出
令和元年11月13日付け:拒絶査定(謄本送達日 同年同月19日
以下「原査定」という。)
令和2年 2月18日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和2年 8月 4日 :上申書の提出

第2 本願発明
本願請求項1ないし19に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明19」とそれぞれいう。)は、令和2年2月18日付け手続補正書により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願発明1は次のとおりのものである(A?Dは、本願発明1を分説するために当審で付した。)。
「【請求項1】
A 目標とする配線パターンの元データに基づいて露光データを作成する工程(A)と、
B この露光データを用いて形成した実パターン基板から、前記実パターン基板に実際に加工された配線パターンを表す実パターンデータを作成する工程(B)と、
C 前記元データ又は前記露光データと実パターンデータとの差分に基づいて、前記元データ又は前記露光データの補正データを作成する工程(C)と、を有し、
C 前記補正データを作成する工程(C)が、
C1 前記実パターンデータと前記元データ又は露光データとの差分から差分データを作成する工程(C-1)と、
C2 この差分データと、前記実パターンデータから特定された配線パターンの仕様に関連する前記差分を生じさせる因子との関係から、前記差分を生じさせる因子と差分を抑制するための前記元データの補正量又は前記露光データの補正量との関係を規定した複数の補正関数を作成する工程(C-2)と、
C3 この複数の補正関数を合成した補正関数を作成する工程(C-3)と、
C4 前記合成した補正関数を用いて前記元データ又は前記露光データ中の前記因子に対応する値に対応する補正量を算出し、前記補正量を用いて前記配線パターンの前記元データ又は前記露光データを補正する工程(C-4)と、を有し、
C12 前記補正関数を作成する工程(C-2)では、複数の補正関数を、前記実パターン基板の面内の領域毎に作成し、実パターン基板を用いて作成された一次補正関数と、他の実パターン基板を用いて作成された二次補正関数とを領域毎に作成し、
C13 前記合成した補正関数を作成する工程(C-3)では、前記一次補正関数と二次補正関数を合成した三次補正関数を実パターン基板の領域毎に作成し、
C14 前記元データ又は露光データを補正する工程(C-4)では、前記三次補正関数を用いて、前記実パターン基板の配線パターンの元データ又は露光データを領域毎に補正する、
D 配線基板の製造方法。」

第3 引用文献及び引用発明
(1)引用文献1及び引用発明
ア 原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願の最先の優先日出願前に頒布された引用文献である、特開2005-99739号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板の回路パターン等を製造する際に発生する現像液やエッチング液の劣化等による仕上がりのばらつきを抑制するパターン製造システムに関するものである。」

(イ)「【0080】
ここで、パターン製造システム1を用いて同じ回路パターンを繰り返し製造する場合の作用について、図4のフローチャートに従って説明する。
【0081】
まず、回路パターンを製造するために、露光装置4はCAMから加工用パターンデータ100を受信し(S100)、露光装置4では受信したGerberデータ等のベクトルデータ形式の加工用パターンデータ100をデータ変換手段41でラスタデータ形式の加工用パターンデータ(描画データ)に変換して(S101)、露光制御手段44で基板の銅箔上に塗布されたレジストの露光を行う(S102)。
【0082】
基板の銅箔上に塗布されたレジストが露光されると、現像装置5で現像を行って不要なレジストが除去され(ポジ型レジストの場合は露光されたレジストが除去され、ネガ型レジストの場合は露光されていないレジストが除去される)、銅箔の上面にレジストパターンが形成される(S103)。さらに、レジストパターンが形成された基板上の銅箔をエッチング装置6でエッチングして形成パターンが形成される(S104)。形成された形成パターンは画像認識装置60でスキャンされ(S105)、得られた画像情報200は露光装置4に送信される。
【0083】
露光装置4では、画像認識装置60で得られた画像情報200と予めを記憶していた目標形成パターン201のパターン線の線幅との比較を線幅比較手段42で行う(S106)。加工に用いられる加工用パターンデータ100は、パターン線の間隔(疎密)、露光量、現像液の状態、エッチング液の状態などの様々な加工条件を考慮して形成後の形成パターンが本来必要とする目標形成パターン201の線幅に仕上がるようにCAMなどで補正されたデータ(例えば、設計段階で指定された線幅より部分的に太くしたり細くしたりしたもの)となっている場合が多い。そこで、目標形成パターン201は、加工用パターンデータ100とは別にCAD(不図示)やCAM7などから仕上がり目標となる線幅を持つデータを受け取って、目標形成パターン201として予め記憶しておく。
【0084】
線幅比較手段42で画像情報200のパターン線の線幅と目標形成パターン201のパターン線の線幅の比較を行うために、例えば、露光装置、現像装置、エッチング装置の各装置に順次セットして加工を行う基板上の領域を、図5に示すように、複数の領域(D1、D2、D3、D4)に分割する。また、分割した基板上の複数の領域に対応するように目標形成パターン201を複数の領域に分割して、対応する各領域毎(D1、D2、D3、D4)に比較を行う。
【0085】
目標形成パターン201がラスタデータで記憶されている場合には、比較を行うために画像情報200(ビットマップ)と目標形成パターン201の各領域を重ね合わせて(図6参照、●は重なった部分で○は重ならない部分を示す)、重ならない部分のドット(○の部分)をカウントし、パターン線の線幅の差分や面積の差分(あるいは、比)を求める。例えば、図6に示すように、ある領域で発生したパターン線の線幅の差分Δdが2ドットの場合には、この2ドットの差分に基づいて補正を行う。また、画像情報200と目標形成パターン201とを重ね合わせた際、同じ領域内であってもパターン線によって差分が2ドットであったり、3ドットであったりする場合もあるが、差分の平均値や代表値(頻繁に発生する差分)を用いて補正する。
【0086】
あるいは、目標形成パターン201がベクトルデータとして記憶されている場合には、画像情報200から線幅を概算して、目標形成パターン201の線幅(あるいは、面積)との差分を求めて比較することも可能である。
【0087】
このようにして得られた比較結果202から、画像情報200と目標形成パターン201との差が所定の値以下である場合には(S107-YES)、そのまま同じ加工用パターンデータ100を用いて次の基板の加工を行なうことができるが、画像情報200と目標形成パターン201との差が所定の値以上である場合には(S107-NO)、加工用パターンデータ100を補正する必要がある。
【0088】
そこで、線幅比較手段42によって得られた比較結果202に基づいてエッチング後の形成パターンの線幅が目標とする線幅(目標形成パターンの線幅)になるように、調整手段43では加工用パターンデータ100で指定されたパターン線の線幅や露光量を調整する(S108)。
【0089】
目標とする線幅と実際に形成された線幅との差分Δdと、その差をなくすために加工用パターンデータ100のパターン線の線幅を補正する補正量ΔWとの間は、例えば、図7に示すような関係があり、
ΔW=f1(Δd) (1)
と表される。この関係は実験を行って得られた結果や実際に製造して得られた結果等に基いて求めて予め記憶しておき、これに基づいて線幅の調整を行う。
【0090】
また、現像液やエッチング液の循環、シャワー圧、搬送方向、パターン線の疎密などに起因して、形成されるパターン線の線幅が基板の場所によって違うというようなローカリティが発生し、線幅の差分Δdとその差をなくすための補正量ΔWとの関係にも、同様のローカリティが発生する。そこで、これらのローカリティが吸収できるように、基板を複数の領域に分割し、領域毎に目標とする線幅と実際に形成された線幅との差分Δdとその差をなくすための補正量ΔWとの関係を求め、その領域において最も適切な補正となるような関係を記憶しておく。また、この領域の分割は細かくする程、場所による違いに対応して調整することが可能となる。
【0091】
線幅を補正する量は、線幅比較手段42で求めた比較結果202(上述のように線幅の差分と線幅を補正する量との関係が求められている場合には、画像情報200のパターン線の線幅と目標形成パターン201のパターン線の線幅との差分)に基づいて、上述の関係を用いて求められる。例えば、ある1つの領域D1で画像情報200と目標形成パターン201の線幅と差分がd1の場合には、そのときの補正量W1を用いて、この領域D1の全体の線幅をW1だけ細くするように調整する(図7参照)。
【0092】
上述のように、同じ領域内のパターン線は全てに同じ補正を行う(つまり、図4に示すD1、D2、D3、D4に対応して記憶している上述の関係を用い、各領域にある加工用パターンデータ100のパターン線の線幅に同じ補正量の補正を行う)ようにすることもできるが、図8に示すように、線幅比較手段42で求めた差分が、D1内の位置P1(X1、Y1)では差分d1で、位置P2(X2、Y2)では差分d2というように同じ領域D1内でも場所によって差分に違いが出る場合には、位置P1の近傍のパターン線に対しては差分d1に対する補正量W1ほど加工用パターンデータ100のパターン線の線幅を補正し、位置P2の近傍のパターン線に対しては差分d2に対する補正量W2ほど加工用パターンデータ100のパターン線の線幅を補正するようにしてもよい(ただし、D1内に対応して記憶している関係は図7に示すような、その領域の代表的な1つの関係を記憶している。)。
【0093】
以上、形成パターンのパターン線の線幅の調整を加工用パターンデータ100のパターン線の線幅を直接補正する場合について説明したが、加工用パターンデータ100の露光量を調整してエッチング後の形成パターンのパターン線の線幅を調整することも可能である。露光量を変えて形成パターンのパターン線の線幅を調整するには、露光量を変化させるとそれに伴ってどの位パターン線の線幅が変わるかを記憶しておいて露光量の調整を行う。パターン線の補正量ΔWと、この補正量ΔW程線幅を変えるための露光量を補正する補正量ΔEとの間には、例えば、図9に示すような関係があり、
ΔW=f2(ΔE) (2)
と表せる。この関係も、前述の(1)式と同様に、実験を行って得られた結果や実際に製造して得られた結果等に基いて求めて予め記憶しておく。また、この関係も基板の場所によってローカリティが発生するため、複数の領域に分けて記憶しておくものが望ましい。
【0094】
露光量を調整して形成パターンの線幅を調整するためには、前述と同様に、線幅比較手段42で求めた比較結果202(線幅の差分d1)を求め、まず(1)式に基づき線幅を補正する補正量W1を求める。さらに(2)式の関係に基づいて、補正量W1から露光量を補正する補正量E1を求め(図9参照)、補正量E1で露光制御部44に伝達する露光量を補正する。
【0095】
線幅の調整を行う場合と同様に露光量の調整も、基板上の領域を複数の領域に分割し、分割した基板上の複数の領域に対応するように目標形成パターン201を複数の領域に分割して、対応する各領域毎に比較を行うようにしたものが望ましい。また、同じ領域に対しては一斉に同じ補正を行うようにしてもよいし、領域内の位置(例えば、前述のP1、P2)に応じて変えるようにしてもよい。
【0096】
以上説明したように、線幅比較手段42によって得られた比較結果202が所定の値以上の場合には、露光量または加工用パターンデータ100の線幅を調整したものを用いて次の基板の銅箔上のレジストを露光する(S102)。
【0097】
レジストが露光された基板は現像装置5で不要なレジストが除去され、銅箔の上面にレジストパターンが形成される(S103)。レジストパターンが形成された基板上の銅箔はエッチング装置6でエッチングされて形成パターンが形成される(S104)。形成パターンが形成された基板は、再度、画像認識装置60でスキャンされ(S105)、得られた画像情報200が露光装置4に送信される。以下、前述の同様に、線幅比較手段42によって得られた比較結果202から(S106)、画像情報200と目標形成パターン201との差分が所定の値以下の場合には(S107-YES)、調整を行わずに同じ露光量で同じ加工用パターンデータ100を用いて次の基板の加工を行なうが、画像情報200と目標形成パターン201との差が所定の値以上となる場合には(S107-NO)、露光量や加工用パターンデータ100を再度補正して(S108)、次の基板の加工を行う。
【0098】
また、以上、調整手段43では所定の値以上の差がある場合に調整を行うとして説明したが、差が僅かであっても差があれば調整を行うようにしてもよい。
【0099】
このように、線幅や露光量の調整を繰り返し行うことにより、エッチング後に形成されたパターンが常に同じ精度で仕上がるようにすることができる。」

(ウ)「【0179】
また、本実施の形態では、レジストパターン及び形成パターンの形成の誤差やその要因に基づいて、描画データや露光量を補正しているが、この誤差の要因が、処理開始からの経過時間や、現像液やエッチング液がセットされてからの経過時間であってもよい。また、誤差の要因が、現像液やエッチング液の色や粘度等の液の劣化状態を表す情報であってもよい。」

イ 上記アによれば、引用文献1には下記各事項が記載れていると認められる。
(ア)「露光装置4」が、「回路パターンを製造するために」、「CAMから加工用パターンデータ100を受信し(S100)」、「受信したGerberデータ等のベクトルデータ形式の加工用パターンデータ100をデータ変換手段41でラスタデータ形式の加工用パターンデータ(描画データ)に変換して(S101)」(【0081】)いることは、目標とする回路パターンのGerberデータ等のベクトルデータ形式の加工用パターンデータに基づいてラスタデータ形式の加工用パターンデータ(描画データ)を作成する工程であるといえる。

(イ)「パターン製造システム1」(【0080】)が、「基板の銅箔上に塗布されたレジストが露光されると、現像装置5で現像を行って不要なレジストが除去され」、「銅箔の上面にレジストパターンが形成され」、「さらに、レジストパターンが形成された基板上の銅箔をエッチング装置6でエッチングして形成パターンが形成され」、「形成された形成パターン」を「スキャン」して、「画像認識装置60」が、「得られた画像情報200は露光装置4に送信」(【0082】)することは、パターン製造システムが、前記露光データを用いて形成パターンを形成した基板から、前記基板に実際に加工された回路パターンを表す形成パターンデータを作成する工程であるといえる。

(ウ)「線幅比較手段42」が、「加工用パターンデータ100は、」「補正され」ているので、「加工用パターンデータ100とは別」の「目標形成パターン201」を「受け取」り、「画像認識装置60で得られた画像情報200と予めを記憶していた目標形成パターン201のパターン線の線幅との比較を」「行」(【0083】)い、「画像情報200のパターン線の線幅と目標形成パターン201のパターン線の線幅の比較を行うために、」「基板上の領域を、」「複数の領域(D1、D2、D3、D4)に分割」「して、対応する各領域毎(D1、D2、D3、D4)に比較を行」(【0084】)い、「差分」「を求め」(【0085】)、「目標とする線幅と実際に形成された線幅との差分Δdと、その差をなくすために加工用パターンデータ100のパターン線の線幅を補正する補正量ΔW(ΔW=f1(Δd))」(【0089】)、または、パターン線の補正量ΔWと、この補正量ΔW程線幅を変えるための露光量を補正する補正量ΔE(ΔW=f2(ΔE))」(【0093】)を作成することは、加工用パターンデータとは別の目標形成パターンを受け取り、画像認識装置で得られた画像情報と予めを記憶していた目標形成パターンのパターン線の線幅との比較を行い、画像情報のパターン線の線幅と目標形成パターンのパターン線の線幅の比較を基板上の複数の領域毎に行って、差分を求め、目標とする線幅と実際に形成された線幅との差分Δdと、その差をなくすために加工用パターンデータのパターン線の線幅を補正する補正量ΔW(ΔW=f1(Δd))、または、パターン線の補正量ΔWと、この補正量ΔW程線幅を変えるための露光量を補正する補正量ΔE(ΔW=f2(ΔE)を作成する工程であるといえる。

(エ)「プリント基板の回路パターン等を製造する」(【0001】)ことは、プリント基板の回路パターンを製造する方法であるといえる。

ウ 以上ア及びイによれば、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる(aないしdは、構成AないしDに対応させて当審が付した。)。
「a 目標とする回路パターンのGerberデータ等のベクトルデータ形式の加工用パターンデータに基づいてラスタデータ形式の加工用パターンデータ(描画データ)を作成する工程(上記「イ」「(ア)」)と、
b パターン製造システムが、前記露光データを用いて形成パターンを形成した基板から、前記基板に実際に加工された回路パターンを表す形成パターンデータを作成する工程(上記「イ」「(イ)」)と、
c 加工用パターンデータとは別の目標形成パターンを受け取り、画像認識装置で得られた画像情報と予めを記憶していた目標形成パターンのパターン線の線幅との比較を行い、画像情報のパターン線の線幅と目標形成パターンのパターン線の線幅の比較を基板上の複数の領域毎に行って、差分を求め、目標とする線幅と実際に形成された線幅との差分Δdと、その差をなくすために加工用パターンデータのパターン線の線幅を補正する補正量ΔW(ΔW=f1(Δd))、または、パターン線の補正量ΔWと、この補正量ΔW程線幅を変えるための露光量を補正する補正量ΔE(ΔW=f2(ΔE))を作成する工程(上記「イ」「(ウ)」)とを有する、
d プリント基板の回路パターンを製造する方法(上記「イ」「(エ)」)。」

(2)引用文献2ないし11
原査定で引用された引用文献2ないし11は次のものである。
引用文献2:特開2006-303229号公報
引用文献3:特開平8-272076号公報
引用文献4:特開昭56-64493号公報
引用文献5:特開2005-116929号公報
引用文献6:特開2007-33764号公報
引用文献7:特開2004-334349号公報
引用文献8:特開2007-219208号公報
引用文献9:特開2009-278071号公報
引用文献10:国際公開第2006/030727号
引用文献11:特開2004-56068号公報

第4 対比・判断
(1)本願発明1について
ア 本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「目標とする回路パターンのGerberデータ等のベクトルデータ形式の加工用パターンデータ」及び「ラスタデータ形式の加工用パターンデータ(描画データ)」は、本願発明1の「目標とする配線パターンの元データ」及び「露光データ」にそれぞれ相当するから、引用発明の「目標とする回路パターンのGerberデータ等のベクトルデータ形式の加工用パターンデータに基づいてラスタデータ形式の加工用パターンデータ(描画データ)を作成する工程」(構成a)は、本願発明1の「目標とする配線パターンの元データに基づいて露光データを作成する工程(A)」(構成A)に相当する。

(イ)引用発明の「露光データを用いて形成パターンを形成した基板」及び「基板に実際に加工された回路パターンを表す形成パターンデータ」は、本願発明1の「実パターン基板」及び「実パターン基板に実際に加工された配線パターンを表す実パターンデータ」にそれぞれ相当するから、引用発明の「パターン製造システムが、前記露光データを用いて形成パターンを形成した基板から、前記基板に実際に加工された回路パターンを表す形成パターンデータを作成する工程」(構成b)は、本願発明1の「この露光データを用いて形成した実パターン基板から、前記実パターン基板に実際に加工された配線パターンを表す実パターンデータを作成する工程(B)」(構成B)に相当する。

(ウ)引用発明の「加工用パターンデータとは別の目標形成パターン」、「画像認識装置で得られた画像情報」、「補正量ΔW」、「ΔW=f1(Δd)、ΔW=f2(ΔE)」は、本願発明1の「元データ又は露光データ」、「実パターンデータ」、「補正データ」及び「補正関数」に相当するから、引用発明の「加工用パターンデータとは別の目標形成パターンを受け取り、画像認識装置で得られた画像情報と予めを記憶していた目標形成パターンのパターン線の線幅との比較を行い、画像情報のパターン線の線幅と目標形成パターンのパターン線の線幅の比較を基板上の複数の領域毎に行って、差分を求め、目標とする線幅と実際に形成された線幅との差分Δdと、その差をなくすために加工用パターンデータのパターン線の線幅を補正する補正量ΔW(ΔW=f1(Δd))、または、パターン線の補正量ΔWと、この補正量ΔW程線幅を変えるための露光量を補正する補正量ΔE(ΔW=f2(ΔE))を作成する工程」(構成c)は、目標とする線幅と実際に形成された線幅との差分Δdと、その差をなくすために加工用パターンデータのパターン線の線幅を補正する補正量ΔW(ΔW=f1(Δd))、を作成する場合において、本願発明1の「前記元データ又は前記露光データと実パターンデータとの差分に基づいて、前記元データ又は前記露光データの補正データを作成する工程(C)」(構成C)にする。
また、同様に、本願発明1の、「前記補正データを作成する工程(C)」(構成C)にも相当する。

(エ)引用発明の「加工用パターンデータとは別の目標形成パターンを受け取り、画像認識装置で得られた画像情報と予めを記憶していた目標形成パターンのパターン線の線幅との比較を行い、画像情報のパターン線の線幅と目標形成パターンのパターン線の線幅の比較を基板上の複数の領域毎に行って、差分を求め」(構成c)ることは、本願発明1の「前記実パターンデータと前記元データ又は露光データとの差分から差分データを作成する工程(C-1)」(構成C1)に相当する。

(オ)引用発明の「加工用パターンデータのパターン線の線幅を補正する補正量ΔW(ΔW=f1(Δd))」、及び、または、「パターン線の補正量ΔWと、この補正量ΔW程線幅を変えるための露光量を補正する補正量ΔE(ΔW=f2(ΔE))」は、本願発明1の「元データの補正量」及び「露光データの補正量」にそれぞれ相当する。
したがって、上記(ウ)及び(エ)での検討を踏まえると、引用発明の構成cは、本願発明1の「前記補正関数を作成する工程(C-2)では、複数の補正関数を、前記実パターン基板の面内の領域毎に作成し、実パターン基板を用いて作成された一次補正関数と、他の実パターン基板を用いて作成された二次補正関数とを領域毎に作成」(構成C12)することと、「前記補正関数を作成する工程(C-2)では、補正関数を、前記実パターン基板の面内の領域毎に作成し、実パターン基板を用いて作成された一次補正関数を領域毎に作成」(構成C12´)することの点で一致する。

(カ)また、上記(ウ)及び(オ)での検討を踏まえると、引用発明の構成cは、本願発明1の「前記元データ又は露光データを補正する工程(C-4)では、前記三次補正関数を用いて、前記実パターン基板の配線パターンの元データ又は露光データを領域毎に補正する」(構成C14)することと、「前記元データ又は露光データを補正する工程(C-4)では、前記補正関数を用いて、前記実パターン基板の配線パターンの元データ又は露光データを領域毎に補正する」(構成C14´)することの点で一致する。

(キ)引用発明の「回路パターン」を有する「プリント基板」は、本願発明1の「プリント基板」に相当するから、引用発明の「プリント基板の回路パターンを製造する方法」(構成d)は、本願発明1の「配線基板の製造方法」(構成D)に相当する。

(ク)以上(ア)ないし(キ)によれば、引用発明と本願発明1は、
「A 目標とする配線パターンの元データに基づいて露光データを作成する工程(A)と、
B この露光データを用いて形成した実パターン基板から、前記実パターン基板に実際に加工された配線パターンを表す実パターンデータを作成する工程(B)と、
C 前記元データ又は前記露光データと実パターンデータとの差分に基づいて、前記元データ又は前記露光データの補正データを作成する工程(C)と、を有し、
C 前記補正データを作成する工程(C)が、
C1 前記実パターンデータと前記元データ又は露光データとの差分から差分データを作成する工程(C-1)と、を有し、
C12´ 前記補正関数を作成する工程(C-2)では、補正関数を、前記実パターン基板の面内の領域毎に作成し、実パターン基板を用いて作成された一次補正関数を領域毎に作成
C14´ 前記元データ又は露光データを補正する工程(C-4)では、前記補正関数を用いて、前記実パターン基板の配線パターンの元データ又は露光データを領域毎に補正する、
D 配線基板の製造方法。」
である点で一致し、下記点で相違する。

(相違点)
本願発明1は、「この差分データと、前記実パターンデータから特定された配線パターンの仕様に関連する前記差分を生じさせる因子との関係から、前記差分を生じさせる因子と差分を抑制するための前記元データの補正量又は前記露光データの補正量との関係を規定した複数の補正関数を作成する工程(C-2)と、この複数の補正関数を合成した補正関数を作成する工程(C-3)と、前記合成した補正関数を用いて前記元データ又は前記露光データ中の前記因子に対応する値に対応する補正量を算出し、前記補正量を用いて前記配線パターンの前記元データ又は前記露光データを補正する工程(C-4)と、を有」するのに対して、引用発明は、上記各工程を備えていない点。

イ 上記相違点について検討する。
引用発明は、「加工用パターンデータとは別の目標形成パターンを受け取り、画像認識装置で得られた画像情報と予めを記憶していた目標形成パターンのパターン線の線幅との比較を行い、画像情報のパターン線の線幅と目標形成パターンのパターン線の線幅の比較を基板上の複数の領域毎に行って、差分を求め、目標とする線幅と実際に形成された線幅との差分Δdと、その差をなくすために加工用パターンデータのパターン線の線幅を補正する補正量ΔW(ΔW=f1(Δd))、または、パターン線の補正量ΔWと、この補正量ΔW程線幅を変えるための露光量を補正する補正量ΔE(ΔW=f2(ΔE))を作成する工程」(構成c)を有するにとどまり、「差分データと、実パターンデータから特定された配線パターンの仕様に関連する前記差分を生じさせる因子との関係から、前記差分を生じさせる因子と差分を抑制するための元データの補正量又は露光データの補正量との関係を規定した」「補正関数」を求めているとはいえない。
したがって、得られた「補正関数」は、引用発明と本願発明1とで相違しているところ、「差分データと、実パターンデータから特定された配線パターンの仕様に関連する前記差分を生じさせる因子との関係」を考慮して、「差分データと、実パターンデータから特定された配線パターンの仕様に関連する前記差分を生じさせる因子との関係から、前記差分を生じさせる因子と差分を抑制するための元データの補正量又は露光データの補正量との関係を規定した」「補正関数」を求める構成は、引用文献1?11にも記載されておらず、また従来周知の技術的事項であったとする証拠も見当たらない。
よって、引用発明において、上記構成cを「差分データと、実パターンデータから特定された配線パターンの仕様に関連する前記差分を生じさせる因子との関係から、前記差分を生じさせる因子と差分を抑制するための元データの補正量又は露光データの補正量との関係を規定した」「補正関数」を求める構成となす動機も見当たらない。
よって、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献1ないし11の記載に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明9について
本願発明9は、方法の発明である本願発明1のカテゴリーを物の発明としたものであるから、本願発明1と同じ理由により、本願発明9は、当業者であっても引用発明及び引用文献1ないし11の記載に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)本願発明2?8、10?17について
本願発明2ないし8は本願発明1を減縮した発明であり、本願発明10ないし17は本願発明10を減縮した発明であるから、本願発明1あるいは9と同じ理由により、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献1ないし11の記載に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、(令和元年10月18日付けの手続補正により補正された)請求項1ないし19に係る発明は、引用発明及び引用文献2?11に記載された事項に基いて、その最先の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、上記第3で検討したとおり、本願発明1ないし17は、当業者であっても引用発明及び引用文献1ないし11の記載に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし17は、引用発明及び引用文献1ないし11の記載に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-11-04 
出願番号 特願2015-233275(P2015-233275)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G03F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 越川 康弘  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 星野 浩一
松川 直樹
発明の名称 配線基板の製造方法、データ補正装置、配線パターン形成システム及びデータ補正方法  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 諏澤 勇司  
代理人 阿部 寛  
代理人 平野 裕之  

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