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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1367702
審判番号 不服2018-13243  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-03 
確定日 2020-10-29 
事件の表示 特願2016-236970「画像表示装置、画像表示装置の製造方法及び偏光板の光透過率改善方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月30日出願公開、特開2017- 62500〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
1 特願2016-236970号(以下、「本件出願」という。)は、平成25年9月10日を出願日とする特願2013-187612号の一部を平成28年12月6日に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成29年 8月 3日付け:拒絶理由通知書
平成29年10月10日提出:意見書、手続補正書
平成29年11月 9日付け:拒絶理由通知書(最後)
平成30年 1月22日提出:意見書
平成30年 6月27日付け:拒絶査定(以下、当該拒絶査定を「原査定」という。)
平成30年10月 3日提出:審判請求書
平成30年10月 3日提出:手続補正書
令和 元年 9月11日提出:上申書
令和 元年10月23日付け:拒絶理由通知書
令和 元年12月18日提出:意見書、手続補正書
令和 2年 4月24日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和 2年 7月13日提出:意見書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項3に係る発明は、令和元年12月18日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項3に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のものである。
「少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板を備えた画像表示装置であって、
前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とは、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置されており、
前記光透過性基材の面内における屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率をnxとし、前記面内における屈折率が大きい方向である遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をnyとし、前記光透過性基材の平均屈折率をNとしたとき、前記光透過性基材は、下記式の関係を満たし、
前記光透過性基材は、波長550nmにおける屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が0.2006以上であり、可視光領域における透過率が84%以上であり、
前記偏光板は、観察者側から、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材、前記偏光子がこの順に積層された状態で、画像表示装置の表面に配置され、
前記光透過性基材の厚みの下限が10μm、上限が300μmである
ことを特徴とする画像表示装置。
nx>N>ny」

3 当合議体の拒絶の理由
令和2年4月24日付け拒絶理由通知書(最後)によって当合議体が通知した拒絶の理由(進歩性)(以下、「当合議体の拒絶の理由」という。)は、概略、本件出願の請求項1?請求項3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において、頒布された刊行物である下記の引用例に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
(引用例等一覧)
引用例1:国際公開第2013/080949号
引用例2:特開2010-13569号公報
引用例3:国際公開第2012/157662号
(当合議体注:引用例1又は引用例3が主引用例であり、引用例2が副引用例である。)

第2 当合議体の判断
1 引用例の記載及び引用発明
(1) 引用例1の記載
当合議体の拒絶の理由において引用された、国際公開第2013/080949号(以下、同じく「引用例1」という。)は、本件出願の出願前に、日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されているところ、そこには、以下の事項が記載されている(当合議体注:下線は、当合議体が付したものである。以下、同じ)。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は、液晶表示装置に関する。詳しくは、虹斑の発生が改善された液晶表示装置に関する。
背景技術
[0002] 液晶表示装置(LCD)に使用される偏光板は、通常ポリビニルアルコール(PVA)などにヨウ素を染着させた偏光子を2枚の偏光子保護フィルムで挟んだ構成であり、偏光子保護フィルムとしては通常トリアセチルセルロース(TAC)フィルムが用いられている。近年、LCDの薄型化に伴い、偏光板の薄層化が求められるようになっている。しかし、このために保護フィルムとして用いられているTACフィルムの厚みを薄くすると、充分な機械強度を得ることが出来ず、透湿性が高くなり偏光子が劣化しやすくなる。また、TACフィルムは非常に高価であり、安価な代替素材が強く求められている。
[0003] そこで、偏光板の薄層化のため、偏光子保護フィルムとして厚みが薄くても高い耐久性が保持できるよう、TACフィルムの代わりにポリエステルフィルムを用いることが提案されている(特許文献1?3)。
・・・略・・・
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0005] ポリエステルフィルムは、TACフィルムに比べ耐久性に優れるが、TACフィルムと異なり複屈折性を有するため、これを偏光子保護フィルムとして用いた場合、光学的歪みにより画質が低下するという問題があった。すなわち、複屈折性を有するポリエステルフィルムは所定の光学異方性(リタデーション)を有することから、偏光子保護フィルムとして用いた場合、斜め方向から観察すると虹状の色斑が生じ、画質が低下する。そのため、特許文献1?3では、ポリエステルとして共重合ポリエステルを用いることで、リタデーションを小さくする対策がなされている。しかし、その場合であっても虹状の色斑を完全になくすことはできなかった。
[0006] 本発明者等は、上記の問題を解決する手段として、バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する白色光源を用い、更に偏光子保護フィルムとして一定のリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムを用いることを見出した。しかしながら、発明者等は、かかる構成を有する液晶表示装置について更なる検討を重ねた末、そのように改良された液晶表示装置であっても、一対の偏光板の両方に偏光子保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いた場合、斜め方向から観察したときに、角度によっては虹斑が生じ得る場合が存在し、虹斑の問題は完全には解決されていないことを再発見した。
[0007] 即ち、偏光子保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いた偏光板を用いて液晶表示装置を工業的に生産する場合、偏光子の偏光軸とポリエステルフィルムの配向主軸の方向は、通常互いに垂直になるように配置される。これは、偏光子であるポリビニルアルコールフィルムは、縦一軸延伸をして製造されるところ、その保護フィルムであるポリエステルフィルムは、通常、縦延伸した後、横延伸をして製造されるため、ポリエステルフィルム配向主軸方向は横方向となり、これらの長尺物を貼り合わせて偏光板が製造されると、ポリエステルフィルムの配向主軸と偏光子の偏光軸は通常垂直方向となるためである。この場合、ポリエステルフィルムとして特定のリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムを用い、バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する白色光源を用いることにより、虹斑は大幅に改善されるものの、斜め方向から観察したときに、角度によっては薄く虹斑が観察されることが再発見された。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明者は、上記の問題について日夜検討した結果、液晶の両側に配置される2枚の偏光板について、偏光子の偏光軸と配向ポリエステルフィルム(偏光子保護フィルム)の配向主軸を略平行とすることにより、液晶表示装置を眺める角度によって生じる虹斑が大幅に減少することを見出した。本発明は、係る知見に基づき、更なる研究と改良を重ねた結果完成した発明である。
[0009] 代表的な本発明は、以下の通りである。
項1.
バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は連続的な発光スペクトルを有する白色光源であり、
前記2つ偏光板は、各々偏光子とその両側の保護フィルムからなり、
前記の両側の保護フィルムの少なくとも一方は、3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムであり、
前記偏光子の偏光軸とその保護フィルムである配向ポリエステルフィルムの配向主軸は略平行である、
液晶表示装置。
・・・略・・・
発明の効果
[0010] 本発明の液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルムは、いずれの観察角度においても透過光のスペクトルは光源に近似したスペクトルを得ることが可能となり、虹状の色斑の発生が有意に抑制された良好な視認性を確保することができる。また、好適な一実施形態において、本発明の偏光子保護フィルムは、薄膜化に適した機械的強度を備えている。」

イ 「発明を実施するための形態
[0011] 一般に、液晶表示装置は、バックライト光源側から画像を表示する側(視認側)に向かう順に、後面モジュール、液晶セルおよび前面モジュールを有する。後面モジュールおよび前面モジュールは、一般に、透明基板と、その液晶セル側表面に形成された透明導電膜と、その反対側に配置された偏光板とから構成されている。ここで、偏光板は、後面モジュールでは、バックライト光源側に配置され、前面モジュールでは、画像を表示する側(視認側)に配置されている。
[0012] 本発明の液晶表示装置は少なくとも、バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを構成部材として含む。
・・・略・・・
[0013] バックライトの構成としては、導光板や反射板などを構成部材とするエッジライト方式であっても、直下型方式であっても構わないが、本発明では、液晶表示装置のバックライト光源として連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色光源を用いることが好ましい。ここで連続的で幅広い発光スペクトルとは、少なくとも450nm?650nmの波長領域、好ましくは可視光の領域において光の強度がゼロとなる波長が存在しない発光スペクトルを意味する。このような連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色光源としては、例えば、白色発光ダイオード(白色LED)を挙げることができる。白色LEDには、蛍光体方式、すなわち化合物半導体を使用した青色光、もしくは紫外光を発する発光ダイオードと蛍光体を組み合わせることにより白色を発する素子や、有機発光ダイオード(Organic light-emitting diode:OLED)等が含まれる。蛍光体としては、イットリウム・アルミニウム・ガーネット系の黄色蛍光体やテルビウム・アルミニウム・ガーネット系の黄色蛍光体等がある。なかでも、化合物半導体を使用した青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色発光ダイオードは、連続的で幅広い発光スペクトルを有しているとともに発光効率にも優れるため、本発明のバックライト光源として好適である。また、本発明の方法により消費電力の小さい白色LEDを広汎に利用可能になるので、省エネルギー化の効果も奏することが可能となる。
・・・略・・
[0015] 偏光板は、PVAなどにヨウ素を染着させた偏光子の両側を2枚の偏光子保護フィルムで挟んだ構成を有するが、本発明は、偏光板を構成する偏光子保護フィルムの少なくとも一つとして、特定範囲のリタデーションを有するポリエステルフィルムを用いることを特徴とする。
[0016] 上記態様により虹状の色斑の発生が抑制される機構としては、次のように考えている。
[0017] 偏光子の片側に複屈折性を有する配向ポリエステルフィルムを配した場合、偏光子から出射した直線偏光はポリエステルフィルムを通過する際に乱れを生じる。透過した光は配向ポリエステルフィルムの複屈折と厚さの積であるリタデーションに特有の干渉色を示す。そのため、光源として冷陰極管や熱陰極管など不連続な発光スペクトルを用いると、波長によって異なる透過光強度を示し、虹状の色斑が生じる(参照:第15回マイクロオプティカルカンファレンス予稿集、第30?31頁)。
[0018] これに対して、白色発光ダイオードでは、通常、少なくとも450nm?650nmの波長領域、好ましくは可視光領域において連続的で幅広い発光スペクトルを有する。そのため、複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状に着目すると、配向ポリエステルフィルムのリタデーションを制御することで、光源の発光スペクトルと相似なスペクトルを得ることが可能となる。このように、光源の発光スペクトルと複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状とが相似形となることで、虹状の色斑が発生せずに、視認性が顕著に改善すると考えられる。
[0019] 以上のように、幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオードを光源に用いることにより、比較的簡便な構成のみで透過光のスペクトルの包絡線形状を光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。
[0020] 上記効果を奏するために、偏光子保護フィルムに用いられる配向ポリエステルフィルムは、3000?30000nmのリタデーションを有することが好ましい。リタデーションが3000nm未満では、偏光子保護フィルムとして用いた場合、斜め方向から観察した時に強い干渉色を呈するため、包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し、良好な視認性を確保することができない。好ましいリタデーションの下限値は4500nm、次に好ましい下限値は5000nm、より好ましい下限値は6000nm、更に好ましい下限値は8000nm、より更に好ましい下限値は10000nmである。
[0021] 一方、リタデーションの上限は30000nmである。それ以上のリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的に得られないばかりか、フィルムの厚みも相当に厚くなり、工業材料としての取り扱い性が低下するので好ましくない。
[0022] なお、本発明のリタデーションは、2軸方向の屈折率と厚みを測定して求めることもできるし、KOBRA-21ADH(王子計測機器株式会社)といった市販の自動複屈折測定装置を用いて求めることもできる。本明細書においてリタデーションとは、面内のリタデーションを意味する。
[0023] 本発明では、偏光子の両側に設けられる保護フィルムの少なくとも一つが上記特定のリタデーションを有する偏光子保護フィルムであることを特徴とする。当該特定のリタデーションを有する偏光子保護フィルムは、入射光側(光源側)と出射光側(視認側)の両方の偏光板に用いられる。入射光側に配される偏光板において、上記特定のリタデーションを有する偏光子保護フィルムは、その偏光子を起点として入射光側に配置していても、液晶セル側に配置していても、両側に配置されていても良いが、少なくとも入射光側に配置されていることが好ましい。出射光側に配置される偏光板については、上記特定のリタデーションを有する偏光子保護フィルムは、その偏光子を起点として液晶側に配置されても、出射光側に配置されていても、両側に配置されていてもよいが、少なくとも出射光側に配置されていることが好ましい。良好な偏光特性を確保する観点から、入射光側に配される偏光板の入射光側の偏光子保護フィルム、及び、出射光側に配される偏光板の出射光側の偏光子保護フィルムに、上記特定のリタデーションを有する偏光子保護フィルムを用いることが好ましい。
[0024] 本発明の偏光板は、ポリビニルアルコール(PVA)などにヨウ素を染着させたフィルム等の公知の偏光子の両側を2枚の偏光子保護フィルムで挟んだ構造を有し、少なくともいずれかの偏光子保護フィルムが上記特定のリタデーションを有する偏光板保護フィルムであることを特徴とする。
・・・略・・・
[0025] 偏光子の両側の保護フィルムとして配向ポリエステルフィルムが用いられる場合、両方の配向ポリエステルフィルムの配向主軸は互いに略平行であることが好ましい。
[0026] 本発明の液晶表示装置において、偏光子の偏光軸と配向ポリエステルフィルム(偏光子保護フィルム)の配向主軸は略平行である。ここで略平行であるとは、偏光子の偏光軸と偏光子保護フィルムの配向主軸とがなす角が、-15°?15°、好ましくは-10°?10°、より好ましく-5°?5°、更に好ましくは-3°?3°、より更に好ましくは-2°?2°、一層好ましくは-1°?1°であることを意味する。好ましい一実施形態において、略平行とは実質的に平行である。ここで実質的に平行であるとは、偏光子と保護フィルムとを張り合わせる際に不可避的に生じるずれを許容する程度に偏光軸と配向主軸とが平行であることを意味する。そのメカニズムは未だ解明されていないが、このように2つの偏光板の偏光子の偏光軸と配向ポリエステルフィルムの配向主軸が略平行であることにより、液晶表示画面に虹斑が生じることを抑制することができる。
・・・略・・・
[0027] 偏光子及び偏光子保護フィルムが上記のような関係を満たす偏光板は、例えば、次のような手順で得ることができる。即ち、偏光子と配向ポリエステルフィルムを適当な大きさに切断し、偏光子の偏光軸と配向ポリエステルフィルムの配向主軸を略平行になるように貼り合わせることができる。また、縦一軸延伸されたポリビニルアルコールからなる偏光子フィルムの長尺物と、実質的に縦一軸延伸された配向ポリエステルフィルムの長尺物を、連続的に張り合わせることで、偏光子の偏光軸と配向ポリエステルフィルムの主配向軸が略平行となる偏光板を製造することもできる。
・・・略・・・
[0029] 本発明に用いられる配向ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートを用いることができるが、他の共重合成分を含んでも構わない。これらの樹脂は透明性に優れるとともに、熱的、機械的特性にも優れており、延伸加工によって容易にリタデーションを制御することができる。特に、ポリエチレンテレフタレートは固有複屈折が大きく、フィルムの厚みが薄くても比較的容易に大きなリタデーションが得られるので、最も好適な素材である。
・・・略・・・
[0040] 本発明の保護フィルムである配向ポリエステルフィルムは、一般的なポリエステルフィルムの製造方法に従って製造することができる。例えば、ポリエステル樹脂を溶融し、シート状に押出し成形された無配向ポリエステルをガラス転移温度以上の温度において、ロールの速度差を利用して縦方向に延伸した後、テンターにより横方向に延伸し、熱処理を施す方法が挙げられる。
[0041] 本発明の配向ポリエステルフィルムは一軸延伸フィルムであっても、二軸延伸フィルムであってもかまわないが、二軸延伸フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた場合、フィルム面の真上から観察しても虹状の色斑が見られないが、斜め方向から観察した時に虹状の色斑が観察される場合があるので注意が必要である。
[0042] この現象が起こる原因は、二軸延伸フィルムが、走行方向、幅方向、厚さ方向で異なる屈折率を有する屈折率楕円体からなり、フィルム内部での光の透過方向によりリタデーションがゼロになる(屈折率楕円体が真円に見える)方向が存在するためである。従って、液晶表示画面を斜め方向の特定の方向から観察すると、リタデーションがゼロになる点を生じる場合があり、その点を中心として虹状の色斑が同心円状に生じることとなる。そして、フィルム面の真上(法線方向)から虹状の色斑が見える位置までの角度をθとすると、この角度θは、フィルム面内の複屈折が大きいほど大きくなり、虹状の色斑は見え難くなる。二軸延伸フィルムでは角度θが小さくなる傾向があるため、一軸延伸フィルムのほうが虹状の色斑は見え難くなり好ましい。
[0043] しかしながら、完全な1軸性(1軸対称性)フィルムでは配向方向と直交する方向の機械的強度が著しく低下するので好ましくない。本発明は、実質的に虹状の色斑を生じない範囲、または液晶表示画面に求められる視野角範囲において虹状の色斑を生じない範囲で、2軸性(2軸対称性)を有していることが好ましい。
[0044] 本発明者等は、保護フィルムの機械的強度を保持しつつ、虹斑の発生を抑制する手段として、保護フィルムのリタデーション(面内リタデーション)と厚さ方向のリタデーション(Rth)との比が特定の範囲に収まるように制御することを見出した。厚さ方向位相差は、フィルムを厚さ方向断面から見たときの2つの複屈折△Nxz、△Nyzにそれぞれフィルム厚さdを掛けて得られる位相差の平均を意味する。面内リタデーションと厚さ方向リタデーションの差が小さいほど、観察角度による複屈折の作用は等方性を増すため、観察角度によるリタデーションの変化が小さくなる。そのため、観察角度による虹状の色斑が発生し難くなると考えられる。
[0045] 本発明のポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は、好ましくは0.200以上、より好ましくは0.500以上、さらに好ましくは0.600以上である。上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が大きいほど、複屈折の作用は等方性を増し、観察角度による虹状の色斑の発生が生じ難くなる。そして、完全な1軸性(1軸対称性)フィルムでは上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は2.0となる。しかし、前述のように完全な1軸性(1軸対称性)フィルムに近づくにつれ配向方向と直交する方向の機械的強度が著しく低下する。
[0046] 一方、本発明のポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.0以下である。観察角度による虹状の色斑発生を完全に抑制するためには、上記リタデーションと厚さ方向位相差の比(Re/Rth)が2.0である必要は無く、1.2以下で十分である。また、上記比率が1.0以下であっても、液晶表示装置に求められる視野角特性(左右180度、上下120度程度)を満足することは十分可能である。
・・・略・・・
[0048] リタデーションの変動を抑制する為には、フィルムの厚み斑が小さいことが好ましい。延伸温度、延伸倍率はフィルムの厚み斑に大きな影響を与えることから、厚み斑の観点からも製膜条件の最適化を行う必要がある。特にリタデーションを高くするために縦延伸倍率を低くすると、縦厚み斑の値が高くなることがある。縦厚み斑は延伸倍率のある特定の範囲で非常に高くなる領域があることから、この範囲を外したところで製膜条件を設定することが望ましい。
[0049] 本発明のフィルムの厚み斑は5.0%以下であることが好ましく、4.5%以下であることがさらに好ましく、4.0%以下であることがよりさらに好ましく、3.0%以下であることが特に好ましい。フィルムの厚み斑は、任意の手段で測定することが出来るが、例えば、フィルムの流れ方向に連続したテープ状サンプル(長さ3m)を採取し、(株)セイコー・イーエム製電子マイクロメータ(ミリトロン1240)等の測定機を用いて、1cmピッチで100点の厚みを測定し、厚みの最大値(dmax)、最小値(dmin)、平均値(d)を求め、下記式にて厚み斑(%)を算出することができる。
厚み斑(%)=((dmax-dmin)/d)×100
[0050] 前述のように、フィルムのリタデーションを特定範囲に制御することは、延伸倍率や延伸温度、フィルムの厚みを適宜設定することにより行なうことができる。例えば、縦延伸と横延伸の延伸倍率差が高いほど、延伸温度が低いほど、フィルムの厚みが厚いほど高いリタデーションを得やすくなる。逆に、縦延伸と横延伸の延伸倍率差が低いほど、延伸温度が高いほど、フィルムの厚みが薄いほど低いリタデーションを得やすくなる。また、延伸温度が高いほど、トータル延伸倍率が低いほど、リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が低いフィルムが得やすくなる。逆に延伸温度が低いほど、トータル延伸倍率が高いほど、リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が高いフィルムが得やすくなる。最終的な製膜条件は、リタデーションの制御に加えて、加工に必要な物性等を勘案して設定する必要がある。
[0051] 本発明の配向ポリエステルフィルムの厚みは任意であるが、15?300μmの範囲が好ましく、より好ましくは15?200μmの範囲である。15μmを下回る厚みのフィルムでも、原理的には3000nm以上のリタデーションを得ることは可能である。しかし、その場合にはフィルムの力学特性の異方性が顕著となり、裂け、破れ等を生じやすくなり、工業材料としての実用性が著しく低下する。特に好ましい厚みの下限は25μmである。一方、偏光子保護フィルムの厚みの上限は、300μmを超えると偏光板の厚みが厚くなりすぎてしまい好ましくない。偏光子保護フィルムとしての実用性の観点からは厚みの上限は200μmが好ましい。特に好ましい厚みの上限は一般的なTACフィルムと同等程度の100μmである。上記厚み範囲においてもリタデーションを本発明の範囲に制御するために、フィルム基材として用いるポリエステルはポリエチレンテレフタレートが好適である。」

ウ 「実施例
[0055] 以下、実施例を参照して本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
[0056](1)フィルム配向主軸
フィルムの配向主軸方向は、分子配向計(王子計測器株式会社製、MOA-6004型分子配向計)を用いて求めた。
[0057](2)リタデーション(Re)
リタデーションとは、フィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△Nxy=|Nx-Ny|)とフィルム厚みd(nm)との積(△Nxy×d)で定義されるパラメーターであり、光学的等方性、異方性を示す尺度である。二軸の屈折率の異方性(△Nxy)は、以下の方法により求めた。分子配向計(王子計測器株式会社製、MOA-6004型分子配向計)を用いて、フィルムの配向主軸方向を求め、配向主軸方向が測定用サンプル長辺と平行になるように、4cm×2cmの長方形を切り出し、測定用サンプルとした。このサンプルについて、直交する二軸の屈折率(Nx,Ny)、及び厚さ方向の屈折率(Nz)をアッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T、測定波長589nm)によって求め、前記二軸の屈折率差の絶対値(|Nx-Ny|)を屈折率の異方性(△Nxy)とした。フィルムの厚みd(nm)は電気マイクロメータ(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定し、単位をnmに換算した。屈折率の異方性(△Nxy)とフィルムの厚みd(nm)の積(△Nxy×d)より、リタデーション(Re)を求めた。
[0058](3)厚さ方向リタデーション(Rth)
厚さ方向リタデーションとは、フィルム厚さ方向断面から見たときの2つの複屈折△Nxz(=|Nx-Nz|)、△Nyz(=|Ny-Nz|)にそれぞれフィルム厚さdを掛けて得られるリタデーションの平均を示すパラメーターである。リタデーションの測定と同様の方法でNx、Ny、Nzとフィルム厚みd(nm)を求め、(△Nxz×d)と(△Nyz×d)との平均値を算出して厚さ方向リタデーション(Rth)を求めた。
[0059](4)波長380nmにおける光線透過率
分光光度計(日立製作所製、U-3500型)を用い、空気層を標準として各フィルムの波長300?500nm領域の光線透過率を測定し、波長380nmにおける光線透過率を求めた。
[0060](5)虹斑観察
PVAとヨウ素からなる偏光子の片側に後述する方法で作成したポリエステルフィルム1?10のいずれかを偏光子の偏光軸とフィルムの配向主軸が垂直又は平行になるように貼り付け、その反対の面にTACフィルム(富士フイルム(株)社製、厚み80μm)を貼り付けて偏光板を作成した。得られた偏光板を液晶を挟んで両側に一枚ずつ、各偏光板がクロスニコルの条件下になるよう配置して液晶表示装置を作製した。この時、各偏光板は前記ポリエステルフィルムが液晶とは反対側(遠位)となるように配置された。液晶表示装置の光源には、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LEDを光源(日亜化学、NSPW500CS)に用いた。このような液晶表示装置の偏光板の正面、及び斜め方向から目視観察し、虹斑の発生有無について、以下のように判定した。
[0061] A: いずれの方向からも虹斑の発生無し。
B: 斜め方向から観察したときに、角度によっては薄い虹斑が観察できる。
C: 斜め方向から観察した時に、虹斑が観察できる。
D: 正面方向及び斜め方向から観察した時に、虹斑が観察できる。
[0062](6)引裂き強度
東洋精機製作所製エレメンドルフ引裂試験機を用いて、JIS P-8116に従い、各フィルムの引裂き強度を測定した。引裂き方向はフィルムの配向主軸方向と平行となるように行ない、以下のように判定した。
○:引裂き強度が50mN以上
×:引裂き強度が50mN未満
[0063](製造例1-ポリエステルA)
エステル化反応缶を昇温し200℃に到達した時点で、テレフタル酸を86.4質量部およびエチレングリコール64.6質量部を仕込み、撹拌しながら触媒として三酸化アンチモンを0.017質量部、酢酸マグネシウム4水和物を0.064質量部、トリエチルアミン0.16質量部を仕込んだ。ついで、加圧昇温を行いゲージ圧0.34MPa、240℃の条件で加圧エステル化反応を行った後、エステル化反応缶を常圧に戻し、リン酸0.014質量部を添加した。さらに、15分かけて260℃に昇温し、リン酸トリメチル0.012質量部を添加した。次いで15分後に、高圧分散機で分散処理を行い、15分後、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、280℃で減圧下重縮合反応を行った。
[0064] 重縮合反応終了後、95%カット径が5μmのナスロン製フィルターで濾過処理を行い、ノズルからストランド状に押出し、予め濾過処理(孔径:1μm以下)を行った冷却水を用いて冷却、固化させ、ペレット状にカットした。得られたポリエチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度は0.62dl/gであり、不活性粒子及び内部析出粒子は実質上含有していなかった。(以後、PET(A)と略す。)
[0065](製造例2-ポリエステルB)
乾燥させた紫外線吸収剤(2,2’-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンズオキサジノン-4-オン)10質量部、粒子を含有しないPET(A)(固有粘度が0.62dl/g)90質量部を混合し、混練押出機を用い、紫外線吸収剤含有するポリエチレンテレフタレート樹脂(B)を得た。(以後、PET(B)と略す。)
[0066](製造例3-接着性改質塗布液の調整)
常法によりエステル交換反応および重縮合反応を行って、ジカルボン酸成分として(ジカルボン酸成分全体に対して)テレフタル酸46モル%、イソフタル酸46モル%および5-スルホナトイソフタル酸ナトリウム8モル%、グリコール成分として(グリコール成分全体に対して)エチレングリコール50モル%およびネオペンチルグリコール50モル%の組成の水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂を調製した。次いで、水51.4質量部、イソプロピルアルコール38質量部、n-ブチルセルソルブ5質量部、ノニオン系界面活性剤0.06質量部を混合した後、加熱撹拌し、77℃に達したら、上記水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂5質量部を加え、樹脂の固まりが無くなるまで撹拌し続けた後、樹脂水分散液を常温まで冷却して、固形分濃度5.0質量%の均一な水分散性共重合ポリエステル樹脂液を得た。さらに、凝集体シリカ粒子(富士シリシア(株)社製、サイリシア310)3質量部を水50質量部に分散させた後、上記水分散性共重合ポリエステル樹脂液99.46質量部にサイリシア310の水分散液0.54質量部を加えて、撹拌しながら水20質量部を加えて、接着性改質塗布液を得た。
[0067](偏光子保護フィルム1)
基材フィルム中間層用原料として粒子を含有しないPET(A)樹脂ペレット90質量部と紫外線吸収剤を含有したPET(B)樹脂ペレット10質量部を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2(中間層II層用)に供給し、また、PET(A)を常法により乾燥して押出機1(外層I層および外層III用)にそれぞれ供給し、285℃で溶解した。この2種のポリマーを、それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、2種3層合流ブロックにて、積層し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、I層、II層、III層の厚さの比は10:80:10となるように各押し出し機の吐出量を調整した。
[0068] 次いで、リバースロール法によりこの未延伸PETフィルムの両面に乾燥後の塗布量が0.08g/m^(2)になるように、上記接着性改質塗布液を塗布した後、80℃で20秒間乾燥した。
[0069] この塗布層を形成した未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度125℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.0倍に延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度225℃、30秒間で処理し、さらに幅方向に3%の緩和処理を行い、フィルム厚み約50μmの一軸配向PETフィルムを得た。
[0070](偏光子保護フィルム2)
未延伸フィルムの厚みを変更することにより、厚み約100μmとすること以外は偏光子保護フィルム1と同様にして一軸配向PETフィルムを得た。
・・・略・・・
[0079](偏光子保護フィルム11)
単層にした以外は、偏光子保護フィルム5と同様にして、フィルム厚み50μmの一軸配向PETフィルムを得た。なお、液晶表示装置の光源に、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LEDに変えてOLEDを用いて虹斑観察を行った。
[0080] 偏光子保護フィルム1?11を用いて上述するように作製した液晶表示装置について虹斑観察及び引裂き強度を測定した結果を以下の表1に示す。
[0081]
[表1]

(当合議体注:「表1」を90度回転している。)
[0082] 表1中「配向主軸-偏光軸の関係」とは、液晶表示装置における偏光板の偏光子の偏光軸と保護フィルムとして用いられた配向ポリエステルフィルムの配向主軸の関係を意味する。」

エ 「請求の範囲
[請求項1] バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は連続的な発光スペクトルを有する白色光源であり、
前記2つ偏光板は、各々偏光子とその両側の保護フィルムからなり、
前記の両側の保護フィルムの少なくとも一方は、3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムであり、
前記偏光子の偏光軸とその保護フィルムである配向ポリエステルフィルムの配向主軸は略平行である、
液晶表示装置。」

(2) 引用発明
ア 引用例1の[0007]の記載から、「縦一軸延伸をして製造される」、「偏光子であるポリビニルアルコールフィルム」の「長尺物」と、「通常、縦延伸した後、横延伸をして製造される」、「配向主軸方向」が「横方向」である「ポリエステルフィルム」の「長尺物」を「貼り合わせて偏光板」を「製造」すると、「偏光子の偏光軸」の方向と「ポリエステルフィルム」の「配向主軸の方向」(「横方向」)「は、通常互いに垂直になる」ことが把握できる。
そうすると、「偏光子の偏光軸」の方向は、「横方向」(幅方向)とは垂直である、「縦一軸延伸」の「延伸」方向に対応していることが分かる。
一方、「縦一軸延伸をして製造される」「偏光子であるポリビニルアルコールフィルム」においては、「偏光子」の吸収軸の方向は、「縦一軸延伸」の「延伸」方向に対応することは技術常識である。
してみると、引用例1でいう「偏光子の偏光軸」は、「偏光子」の「吸収軸」に対応すると理解できる。

イ 引用例1でいう「本発明は、液晶表示装置に関する」([0001])ものであるところ、請求の範囲の[請求項1]、「課題を解決するための手段」の[0009]、「発明の効果」の[0010]及び「発明を実施するための形態」の[0020]、[0022]、[0023]、[0026]、[0051]の記載と上記アから、引用例1には、請求の範囲の[請求項1]に記載された「液晶表示装置」の「発明を実施するための形態」として、以下の「液晶表示装置」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は連続的な発光スペクトルを有する白色光源であり、
前記2つの偏光板は、各々偏光子とその両側の保護フィルムからなり、
入射光側に配される偏光板の入射光側の保護フィルム、及び、出射光側に配される偏光板の出射光側の保護フィルムは、3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムであり、ここで、リタデーションとは、面内のリタデーションを意味し、
前記偏光子の偏光軸とその保護フィルムである配向ポリエステルフィルムの配向主軸は略平行であり、ここで、略平行であるとは、偏光子の偏光軸と保護フィルムの配向主軸とがなす角が、-15°?15°であることを意味し、偏光子の偏光軸は偏光子の吸収軸に対応し、
配向ポリエステルフィルムの厚みは、15?300μmの範囲であり、
いずれの観察角度においても透過光のスペクトルは光源に近似したスペクトルを得ることが可能となり、虹状の色斑の発生が有意に抑制された良好な視認性を確保することができる、
液晶表示装置。」
(当合議体注:「偏光子保護フィルム」、「保護フィルム」の記載を、「保護フィルム」に統一して記載した。また、[請求項1]の「前記2つ偏光板」との記載は、「前記2つの偏光板」の誤記であることは明らかである。)

(3) 引用例3の記載
当合議体の拒絶の理由において引用された、国際公開第2012/157662号(以下、同じく「引用例3」という。)は、本件出願の出願前に、日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されているところ、そこには、以下の事項が記載されている。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は、偏光板及び液晶表示装箇に関する。詳しくは、偏光フィルタを介して液晶表示装置に表示された画面を視認する場合に、偏光フィルタの偏光軸が当該画面を正面にして時計回りにどのような角度で位置しても画面輝度がゼロになることがない視認性に優れた三次元表示対応用液晶表示装置に適した偏光板およびそれを用いた液晶表示装置に関する。
背景技術
・・・略・・・
[0004] LCDの構成部材である偏光板は、特定方向に振幅する偏光のみを選択的に透過する特性を有する。そのため、LCDから出射する光は偏光を帯びる。偏光板は、一般に延伸したポリビニルアルコール(PVA)とヨウ素等の二色性染料からなる偏光子と、偏光子の両面を保護する偏光子保護フィルムからなる。偏光子保護フィルムとしては、光学特性の点から偏光に影響せず複屈折性を有さないトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)が主に用いられてきた。近年、LCDの薄型化に伴い、偏光板の薄層化が求められるようになっている。
・・・略・・・
[0005] そこで、偏光板の薄層化のため、偏光子保護フィルムとして厚みが薄くても高い耐久性が保持できるよう、TACフィルムの代わりにポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂からなる配向フィルムを用いることが提案されている(特許文献1?3)。これらの配向フィルムは機械強度や耐久性に優れるが、TACフィルムと異なり複屈折性を有する。偏光が複屈折性を有するフィルムを通過すると、光学的な歪みが生じ、結果として輝度の低下を生じやすい。そこで、配向フィルムを偏光子と重ね合わせて偏光板とする際には、輝度の低下を防止するという観点又は複屈折による偏光状態の変化を小さくするという観点から、配向フィルムの配向軸と偏光子の偏光軸とが平行になるように積層する必要があった(特許文献3)。
・・・略・・・
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0008] 液晶表示装置から射出する光は特定の振幅方向に偏りを有する。そのため、偏光フィルタを介して三次元表示対応の液晶表示装置を視認する場合、偏光フィルタ(例えば、偏光めがね)の偏光軸方向は、液晶表示装置を正面から観た時に画面輝度が最大となるように、液晶表示装置の偏光板の偏光軸に平行になるような設計となっている。このため、横になった体勢で画面を観ると、偏光フィルタの偏光軸方向は液晶表示装箇の偏光軸に対して直交方向となり、偏光フィルタを透過する輝度がゼロとなるため表示画像を見ることが出来なくなるという問題があった。
[0009] また、偏光子保護フィルムとして配向フィルムを用いて液晶表示装置を作成した場合、画面に表示された画像を斜め方向から観察すると虹状の色斑(以下、「虹斑」と略す場合がある)が生じ、画質が低下する場合があった。
[0010] 本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、その第一の目的は、液晶表示装置の偏光軸に対して偏光フィルタの偏光軸が平行するように配置した偏光フィルタを透過する輝度が顕著に低下しておらず、且つ、液晶表示装置の偏光軸に対して偏光フィルタの偏光軸が直行するように配置した偏光フィルタを透過する輝度が画像を視認するのに十分である、三次元表示対応用液晶表示装置を提供するための偏光板、そのような液晶表示装置、およびその部材を提供することである。本発明の更なる目的は、虹状の色斑の発生が抑制された三次元表示対応用液晶表示装置を提供するための偏光板、そのような液晶表示装置、およびその部材を提供することである。
課題を解決するための手段
[0011] 本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、従来の技術常識に反し、配向フィルムを偏光子と張り合わせる際に、配向フィルムの配向軸又は配向軸と直行する軸と偏光軸とが所定の傾きを有するように調整することにより、驚くべきことに上記第一の目的が達成されることを見出した。本発咀者等は、更なる検討を重ねた結果、当該配向フィルムとして所定のリタデーションを有する配向フィルムを採用し、且つ、光源として白色発光ダイオードを採用することにより、上記更なる目的が達成されることを見出した。
[0012] 本発明は、係る知見に基づいて更なる改良を重ねることにより完成された発明である。以下に代表的な本発明を例示する。
(1) 偏光子の両側に偏光子保護フィルムを有する偏光板であって、前記偏光子保護フィルムの少なくとも1つが配向フィルムであり、前記偏光子の偏光軸に対する前記配向フィルムの配向軸又は配向軸と直行する軸の傾きが1°以上45°未満である、偏光板。
(2) 前記配向フィルムがポリエステル樹脂もしくはポリカーボネート樹脂から形成される、前記偏光板。
(3) 前記配向フィルムのリタデーションが3000?30000nmである、前記偏光板。
・・・略・・・
(6) バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有する液晶表示装置であって、偏光板の少なくとも1つが(1)?(5)のいずれかに記載の偏光板である液晶表示装置。
(7) バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有する液晶表示装置であって、液晶セルの視認側の偏光板が前記偏光板であり、且つ、前記視認側の偏光板が有する偏光子保護フィルムのうち少なくとも視認側の偏光子保護フィルムが前記配向フィルムである、液晶表示装置。
(8) 前記バックライト光源が白色発光ダイオードである前記液晶表示装置。
・・・略・・・
発明の効果
[0013] 本発明の偏光板を用いて三次元画像を表示するための液晶表示装置を構成することにより少なくとも次の効果(1)及び(2)が得られる。(1)液晶表示装置の視認側の偏光子の偏光軸と視認者が通常装着する偏光フィルタの偏光軸とが平行するように当該偏光フィルタが配置された場合、当該偏光フィルタを透過する当該液晶表示装置から射出された光の輝度は、従来型の偏光板が使用された場合と比較して顕著に低下しない。(2)当該偏光フィルタが、その偏光軸が偏光子の偏光軸と直行するように配置された場合も、当該偏光フィルタを透過する当該液晶表示装置から射出された光は、三次元画像を視認するために十分な輝度を有する。よって、本発明の偏光板を利用した三次元画像表示用液晶表示装置を用いることにより、偏光フィルタを装着した視認者が、当該フィルタの偏光軸が当該偏光子の偏光軸と平行となる姿勢で液晶表示画面を観る場合は、従来と実質的に同程度に鮮明な3次元画像を楽しむことが可能であり、且つ、当該偏光フィルタの偏光軸と当該偏光子の偏光軸とが垂直に交わるような姿勢で液晶表示画面を観た場合も三次元画像楽しむことが可能となる。
[0014] ここで、従来型の偏光板とは、偏光子の保護フィルムとして無配向フィルムが用いられた偏光板、又は偏光子の保護フィルムとして偏光子の偏光軸に対して保護配向フィルムの配向軸又は配向軸と直行する軸が平行である偏光板を意味する。以下、「配向フィルムの配向軸と直行する軸」を適宜「直行軸」と省略する。
[0015] また、本発明の好適な偏光板を用いて白色発光ダイオードを光源とする液晶表示装置を構築することにより、偏光フィルタを介して如何なる方向から液晶表示画面を観た場合も虹斑の表示を抑制することが可能である。よって、本発明の好適な偏光板を利用することにより、虹斑によって正確な画像の認識が妨げられることなく、任意の方向から画像を視認することが可能となる。」

イ 「発明を実施するための形態
[0016] 本発明の偏光板は、偏光子の両側に偏光子保護フィルムを有する偏光板であって、偏光子保護フィルムの少なくとも1つが配向フィルムであり、偏光子の偏光軸に対する配向フィルムの配向軸又は直行軸の傾きが1°以上45°未満であることを特徴とする。偏光子の両側に偏光子保護フィルムを有するとは、偏光子の両側に偏光子保護フィルムが積層されていることを意味する。
[0017] 従来の技術常識では、配向フィルムを偏光子保護フィルムとする場合は、耀度や光学歪みの低下を抑制する観点から、偏光子の偏光軸と配向フィルムの配向軸とが平行となるように、偏光子と配向フィルムとが貼り合せられていた。これに対し、本発明の偏光板は、偏光子の偏光軸と配向フィルムの配向軸とが平行ではなく、互いに1°以上45°未満の角度傾くように張り合わせた構造を有する。このような構造を有する偏光板を用いて三次元画像表示用液晶表示装置を作製することにより、当該偏光板の偏光子の偏光軸と偏光フィルタの配向軸とが平行になる角度で配置された偏光フィルタを介して液晶表示画面を観る場合は、従来と実質的に同程度に鮮明な3次元画像を楽しむことが可能であり、且つ、前記角度から外れた角度(例えば、前記角度から90°傾いた角度)で配置された偏光フィルタを介して液晶表示画面を観た場合も三次元画像を楽しむのに十分な輝度が偏光フィルタを透過する。理論によって拘束されるわけではないが、このような効果が得られる原理について本発明者等は以下のように考察する。
[0018] 液晶表示装置からの射出光は、偏光板、特に液晶セルよりも視認側に配置される偏光板の影響により偏光を有する。三次元映像を視認するために偏光フィルタを介して液晶表示画面を観察すると、視認者が装着した偏光フィルタの偏光軸と液晶表示装置から射出する光の偏光軸とが直交する場合、偏光フィルタを透過する光の輝度がゼロとなる。これに対して、本発明の偏光板を用いると液晶表示装置から射出する光が有する偏光に、複屈折性を有する配向性の偏光子保護フィルムの影響により光学的に適度な変換(偏光方向分布の変換)を与えることができる。そのため、視認者が装着した偏光フィルタの偏光軸が液晶セルよりも視認側に配置された偏光子の偏光軸と直交する場合であっても、射出光の偏光軸が偏光フィルタの偏光軸と完全に直交せず、視認可能な画面輝度を確保することができる。このような効果は、偏光子の偏光軸と配向フィルムの配向軸又は直行軸とが平行である場合は、配向フィルムの光学的変換効果は得られず、偏光子の偏光軸と配向フィルムの配向軸とが1°以上45°未満の角度を有する場合、又は配向フィルムの直行軸と偏光子の偏光軸とが1°以上45°未満の角度で交差することによって奏される。
[0019] 本発明の偏光板において、偏光子の偏光軸に対する配向フィルムの配向軸又は直行軸の傾きは1°以上であり、2°以上であることが好ましく、3°以上であることがより好ましく、4°以上であることがさらにより好ましく、5°以上であることがよりさらに好ましく、7°以上であることが特に好ましい。偏光子の偏光軸に対する配向フィルムの配向軸の傾きが上記下限以上であれば、配向フィルムによる光学的変換効果を好適に奏することができる。また、偏光子の偏光軸に対する配向フィルムの直行軸の傾きが上記下限以上であっても、驚くべきことに同様の効果が奏される。なお、配向フィルムの配向軸の方向は分子配向計により測定することができる。
・・・略・・・
[0024] 偏光子の偏光軸に対する配向フィルムの配向軸又は直行軸の傾きが大きくなる(45°に近づく)と、正常状態で観察(視認者の装着する偏光フィルタの偏光軸と液晶装置の視認側に配する偏光子の偏光軸とが平行になる状態)した場合の耀度(すなわち正常状態での正面輝度)が低下する。そのため、偏光子の偏光軸に対する配向フィルムの配向軸の傾きは45°未満であることが望ましい。視認者が液晶表示装置を視認する場合は、多くは正常状態での視認となり、横になった体勢(寝転がった状態)での視認頻度は正常状態より少なく、その比率は凡そ8:2?9:1とされている。そこで、正常状態での正面輝度を実質的に低減させることなく、横になった体勢での輝度がゼロとならないようにするためには偏光子の偏光軸と配向フィルムの配向軸又は直行軸とが形成する角度は、45°未満であり、40°以下であることが好ましく、30°以下であることがより好ましく、20°以下であることがさらに好ましく、15°以下であることがよりさらに好ましく、10°以下であることがさらにより好ましい。上記傾きの上限を上記のように制御することで、視認態様を勘案した全体の視認性をより好適にバランス化することができる。
・・・略・・・
[0027] 好適な一実施形態において、本発明の偏光板は、偏光子保護フィルムの少なくとも1つが3000?30000nmのリタデーションを有する配向フィルムであることが望ましい。このようなリタデーションを有する配向フィルムを保護フィルムとする偏光板を採用して液晶表示装置を構築することにより、偏光フィルタを介して当該液晶表示装置上に表示された映像を見た際に、画面上に虹斑が生じることを抑制することが可能となる。特に、このような特定のリタデーションを有する配向フィルムを偏光子の保護フィルムとする偏光板を液晶表示装置の少なくとも視認側の偏光板とすることにより、偏光フィルタを介して画面を真正面から視認した場合に、虹斑が生じることを効果的に抑制することができる。
[0028] リタデーションが3000nm未満では、偏光子保護フィルムとして用いた場合、真正面から画面を観た場合に虹斑が生じ得るだけでなく、斜め方向から観察した時に強い干渉色を呈するため、包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し、良好な視認性を確保することができない場合がある。このような観点から好ましいリタデーションの下限値は4000nm、より好ましい下限値は4500nm、更に好ましい下限値は5000nmである。但し、リタデーションが3000nm以上である場合も、偏光フィルタを介して画面を斜め方向から観察した場合は、虹斑が生じる場合がある。そこで、斜めから画面を観察した場合の虹斑をより効果的に抑制するという観点から、上述するように、本発明の偏光板の保護フィルムとして使用する配向フィルムは、更に特定のRe/Rth比率を満たすことが好ましい。
[0029] 一方、リタデーションの上限は30000nmである。それ以上のリタデーションを有する配向フィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的に得られないばかりか、フィルムの厚みも相当に厚くなり、工業材料としての取り扱い性が低下するので好ましくない。このような観点から、より好ましいリタデーションの上限値は、25000nmであり、更に好ましくは20000nmであり、より更に好ましくは15000nmである。なお、本発明においてリタデーションは、2軸方向の屈折率と厚みを測定して求めることもできるし、RETS-100(大塚電子株式会社)といった市販の自動複屈折測定装置を用いて測定することもできる。
[0030] 3000?30000nmのリタデーションを有する配向フィルムは、偏光子の両側の保護フィルムとして用いてもよく、いずれか一方の保護フィルムとして用いてもよい。偏光子の片側のみに3000?30000nmのリタデーションを有する配向フィルムが用いられる場合、当該フィルムが適用された側が視認側に位置するように液晶表示装置内に配置されることが好ましい。
・・・略・・・
[0031] また、液晶表示装置には、通常、液晶セルを挟んで2つの偏光板が用いられるところ、本発明の偏光板をその両方の偏光板として用いてもよく、また一方のみの偏光板として用いてもよい。2つの偏光板のいずれか一方のみを本発明の偏光板とする場合は、液晶セルよりも視認側に配置される偏光板として本発明の偏光板を用いることが好ましい。
[0032] 理論によって本発明が拘束されることを意図するものではないが、本発明者等は、虹状の色斑の発生機構及び本発明による虹斑の抑制原理について、次のように考察する。
[0033] 本発明者は虹斑の発生要因を解析したところ、配向フィルムのリタデーションとバックライト光源の発光スペクトルに起因することを見出した。従来、液晶表示装置のバックライト光源としては、冷陰極管や熱陰極管等の蛍光管が用いられる。冷陰極管や熱陰極管等の蛍光灯の分光分布は複数のピークを有する発光スペクトルを示し、これら不連続な発光スペクトルが合わさって白色の光源が得られている。リタデーションを有する配向フィルムを光が透過する場合、波長によって異なる透過光強度を示す。このため、バックライト光源が不連続な発光スペクトルであると、特定の波長のみ強く透過されることになり観察角度によっては虹状の色斑が発生すると考えられる。
[0034] 観察角度により生じる虹斑を好適に解消するためには、特定のバックライ卜光源と特定のリタデーションを有する配向フィルムとを組み合せて用いることが好ましい。バックライト光源の構成としては、導光板や反射板等を構成部材とするエッジライト方式であっても、直下型方式であっても構わないが、液晶表示装置のバックライト光源として白色発光ダイオード(白色LED)を用いることが好ましい。白色LEDとは、蛍光体方式、すなわち化合物半導体を使用した青色光、もしくは紫外光を発する発光ダイオードと蛍光体を経み合わせることにより白色を発する素子や、有機発光ダイオード(Organic light-emitting diode:OLED)のことである。なかでも、化合物半導体を使用した青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを経み合わせた発光素子からなる白色発光ダイオードは、連続的で幅広い発光スペクトルを有しているとともに発光効率にも優れるため、本発明のバックライト光源として好適である。また、有機発光ダイオードも連続的で幅広い発光スペクトルを有するので好適である。ここで、連続的で幅広い発光スペクトルとは、可視光領域において発光スペクトルが連続しており、少なくとも450?600nmの波長領域において発光スペクトルの強度がゼロになることがなく連続した幅広い発光スペクトルのことである。
[0035] 本発明の液晶表示装置の好適な実施形態では、消費電力の小さい白色LEDを利用するため、省エネルギー化の効果も奏することが可能となる。
[0036] 偏光子の片側に複屈折性を有する配向フィルムを配した場合、偏光子から出射した直線偏光は複屈折体を通過する際に乱れが生じる。透過した光は配向フィルムの複屈折と厚さの積であるリタデーションに特有の干渉色を示す。そのため、光源として冷陰極管や熱陰極管等不連続な発光スペクトルを用いると、波長によって異なる透過光強度を示し、虹状の色斑となる。
[0037] これに対して、白色発光ダイオードでは、可視光領域において連続的で幅広い発光スペクトルを有する。そのため、複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状に着目すると、配向フィルムのレタデーションを制御することで、光源の発光スペクトルと相似なスペクトルを得ることが可能となる。このように、光源の発光スペクトルと複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状とが相似形となることで、虹状の色斑が発生せずに、視認性が顕著に改善すると考えられる。
[0038] 以上のように、幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオードを光源に用い、偏光板として上述する特定のリタデーションを有する配向フィルムを少なくとも一方の保護フィルムとする偏光板を採用すると、比較的簡便な構成のみで透過光のスペクトルの包絡線形状を光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。
・・・略・・・
[0042] ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とグリコール成分との重縮合反応により得られる。・・・略・・・本発明では強度や透明性等の点からポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートが好適であり、中でもポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
・・・略・・・
[0044] 本発明の配向フィルム(例えば、ポリエステルフィルムやポリカーボネートフィルム)は、上述する本発明の効果を奏する限り、一軸延伸フィルムであっても、二軸延伸フィルムであってもかまわない。
[0045] この虹斑の発生は、二軸延伸フィルムが、走行方向、幅方向、厚さ方向で異なる屈折率を有する屈折率楕円体からなり、フィルム内部での光の透過方向によりリタデーションがゼロになる(屈折率楕円体が真円に見える)方向が存在するためである。従って、液晶表示画面を斜め方向の特定の方向から観察すると、リタデーションがゼロになる点を生じる場合があり、その点を中心として虹状の色斑が同心円状に生じることとなる。そして、フィルム面の真上(法線方向)から虹状の色斑が見える位置までの角度をθとすると、この角度θは、フィルム面内の複屈折が大きいほど大きくなり、虹状の色斑は見え難くなる。二軸延伸フィルムでは角度θが小さくなる傾向があるため、一軸延伸フィルムのほうが虹状の色斑は見え難くなり好ましい。
[0046] しかしながら、完全な1軸性(1軸対称)フィルムでは配向方向と直行する方向の機械的強度が著しく低下するので好ましくない。本発明は、実質的に虹状の色斑を生じない範囲、または液晶表示画面に求められる視野角範囲において虹状の色斑を生じない範囲で、2軸性(2軸対象性)を有していることが好ましい。
・・・略・・・
[0052] 本発明の配向フィルムの厚みは任意であるが、15?200μmの範囲が好ましい。15μmを下回る厚みのフィルムでも、原理的には3000nm以上のリタデーションを得ることは可能である。しかし、その場合にはフィルムの力学特性の異方性が顕著となり、裂け、破れ等を生じやすくなり、工業材料としての実用性が著しく低下する。特に好ましい厚みの下限は25μmである。一方、偏光子保護フィルムとしての実用性の観点からは厚みの上限は200μmである。200μmを超えると偏光板の厚みが厚くなりすぎてしまい好ましくない。特に好ましい厚みの上限は一般的なTACフィルムと同等程度の100μmである。
[0053] リタデーションの変動(ばらつき)を抑制する為には、フィルムの厚み斑が小さいことが好ましい。延伸温度、延伸倍率はフィルムの厚み斑に大きな影響を与えることから、厚み斑の観点からも製膜条件の最適化を行う必要がある。特にリタデーション差をつけるために縦延伸倍率を低くすると、縦厚み斑が顕著になることがある。縦厚み斑は延伸倍率のある特定の範囲で非常に悪くなる領域があることから、この範囲を外したところで製膜条件を設定することが望ましい。」

ウ 「実施例
[0074] 以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって制限を受けるものではない。実施例は、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することが可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。実施例おいて実施した物性の評価方法は以下の通りである。
[0075] (1)リタデーション(Re)
リタデーション(Re)とは、フィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△Nxy=|Nx-Ny|)とフィルム厚みd(nm)との積(△Nxy×d)で定義されるパラメーターであり、光学的等方性、異方性を示す尺度である。二軸の屈折率の異方性(ΔNxy)は、以下の方法により求めた。二枚の偏光板を用いて、配向フィルムの配向軸方向を求め、配向軸方向が直交するように4cm×2cmの長方形を切り出し、測定用サンプルとした。このサンプルについて、直交する二軸の屈折率(Nx,Ny)、及び厚さ方向の屈折率(Nz)をアッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T)によって求め、前記二軸の屈折率差の絶対値(|Nx-Ny|)を屈折率の異方性(△Nxy)とした。フィルムの厚みd(nm)は電気マイクロメータ(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定し、単位をnmに換算した。屈折率の異方性(△Nxy)とフィルムの厚みd(nm)の積(△Nxy×d)より、リタデーション(Re)を求めた。
・・・略・・・
[0105] 得られたフィルムの特性及び虹斑観察の結果を表1に示す。
[0106]
[表1]

(当合議体注:「表1」を90度回転している。)


エ 「請求の範囲
[請求項1] 偏光子の両側に偏光子保護フィルムを有する偏光板であって、
前記偏光子保護フィルムの少なくとも1つが配向フィルムであり、
前記偏光子の偏光軸に対する、前記配向フィルムの配向軸又は配向軸と直行する軸の傾きが、1°以上45°未満である、偏光板。
[請求項2] 前記配向フィルムがポリエステル樹脂もしくはポリカーボネート樹脂から形成される、請求項1に記載の偏光板。
[請求項3] 前記配向フィルムのリタデーションが3000?30000nmである、請求項1または2に記載の偏光板。
・・・略・・・
[請求項6] バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有する液晶表示装置であって、
偏光板の少なくとも1つが請求項1?5のいずれかに記載の偏光板である液晶表示装置。
[請求項7] バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有する液晶表示装置であって、
液晶セルの視認側の偏光板が請求項1?5のいずれかに記載の偏光板であり、且つ、前記視認側の偏光板が有する偏光子保護フィルムのうち、少なくとも視認側の偏光子保護フィルムが、前記配向フィルムである液晶表示装置。
[請求項8] 前記バックライト光源が白色発光ダイオードである請求項6または7に記載の液晶表示装置。」

2 対比
本願発明と、引用発明とを対比する。
(1) 光透過性基材
ア 引用発明の「出射光側に配される偏光板の出射光側の保護フィルム」は、「配向ポリエステルフィルムであ」る。また、引用発明の「配向ポリエステルフィルムの厚みは、15?300μmの範囲であ」る。
ここで、「厚み」が「15?300μmの範囲」の「配向ポリエステルフィルム」は、光透過性の基材であることは技術常識である(当合議体注:液晶表示装置の偏光板には、高い光透過性が求められることからも明らかなことである。)。
そうすると、引用発明の「出射光側に配される偏光板の出射光側の保護フィルム」(「配向ポリエステルフィルム」)は、本願発明の「光透過性基材」に相当する。

イ 引用発明の「出射光側に配される偏光板の出射光側の保護フィルムは、3000?30000nmの」「面内の」「リタデーションを有する」。
そうすると、引用発明の「出射光側に配される偏光板の出射光側の保護フィルム」は、面内に複屈折性を有するものといえる。
してみると、上記アより、引用発明の「出射光側に配される偏光板の出射光側の保護フィルム」と、本願発明の「光透過性基材」とは、「面内に複屈折率を有する」点において共通する。また、引用発明は、本願発明の、「前記光透過性基材の厚みの下限が10μm、上限が300μmである」という要件を満たす。

(2) 光透過性基材と偏光子との積層構造
ア 引用発明は、「バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有する液晶表示装置であ」る。
また、引用発明の「2つの偏光板は、各々偏光子とその両側の保護フィルムからな」る。
さらに、引用発明においては、「偏光子の偏光軸とその保護フィルムである配向ポリエステルフィルムの配向主軸は略平行であり」、「略平行であるとは、偏光子の偏光軸と保護フィルムの配向主軸とがなす角が、-15°?15°であることを意味し」、「偏光子の偏光軸は偏光子の吸収軸に対応」するものである。

イ 上記アと(1)イより、引用発明においては、「偏光子の吸収軸」(「偏光子の偏光軸」)と「出射光側に配される偏光板の出射光側の保護フィルム」(「配向ポリエステルフィルム」)「の配向主軸とがなす角が、-15°?15°」となるように配置されていることになる。
ここで、「配向ポリエステルフィルム」の「配向主軸」が、面内の複屈折率の屈折率が大きい方向である遅相軸に対応すること、また、面内の複屈折率の屈折率が大きい方向である遅相軸及び屈折率が小さい方向である進相軸が、互いに直交することは、技術常識である。
さらに、偏光子の吸収軸及び偏光子の透過軸が、互いに直交することも技術常識である。

ウ 上記(1)ア及び上記イの「偏光子」と「配向ポリエステルフィルム」の配置関係から、引用発明において、「出射光側に配される偏光板の出射光側の保護フィルム」(「配向ポリエステルフィルム」)と「出射光側に配される偏光板」の「偏光子」とは、「出射光側に配される偏光板の出射光側の保護フィルム」(「配向ポリエステルフィルム」)の屈折率が小さい方向である進相軸と、「出射光側に配される偏光板」の「偏光子」の透過軸とがなす角度が0°±15°の範囲となるように設置されていることが理解できる。
ここで、引用発明の「出射光側に配される偏光板」の「偏光子」は、その文言のとおり、本願発明の「偏光子」に相当する。
そうすると、引用発明は、本願発明の、「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とは、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とのなす角度が0°±20°となるように配置されており」との要件を満たす。

(3) 偏光板、画像表示装置
ア 上記(2)アの引用発明の「液晶表示装置」の構造から、引用発明は、観察者側から、「出射光側に配される偏光板の出射光側」の「保護フィルム」(「配向ポリエステルフィルム」)、「出射光側に配される偏光板」の「偏光子」がこの順に積層された状態で、「液晶表示装置」の表面に配置されているということができる。

イ 引用発明の「出射光側に配される」「偏光板」は、その文言のとおりのものである。
また、画像表示装置は、液晶表示装置の上位概念である。
そうすると、引用発明の「出射光側に配される」「偏光板」及び「液晶表示装置」は、本願発明の「偏光板」及び「画像表示装置」に相当する。
また、上記アと上記(1)イより、引用発明の「出射光側に配される」「偏光板」は、本願発明の「偏光板」の、「面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた」との要件を満たす。
さらに、引用発明の「液晶表示装置」は、本願発明の「画像表示装置」の、「少なくとも」「偏光板を備えた」及び「前記偏光板は、観察者側から、」「光透過性基材」、「偏光子がこの順に積層された状態で、画像表示装置の表面に配置され」との要件を満たす。

3 一致点及び相違点
(1) 一致点
本願発明と、引用発明とは、
「 少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板を備えた画像表示装置であって、
前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とは、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置されており、
前記偏光板は、観察者側から、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材、前記偏光子がこの順に積層された状態で、画像表示装置の表面に配置され、
前記光透過性基材の厚みの下限が10μm、上限が300μmである画像表示装置。」

(2) 相違点
本願発明と、引用発明とは、以下の点で相違する。
(相違点1-1)
「前記光透過性基材」が、本願発明においては、「前記光透過性基材の面内における屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率をnxとし、前記面内における屈折率が大きい方向である遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をnyとし、前記光透過性基材の平均屈折率をNとしたとき」、「式」「nx>N>ny」「の関係を満たし」ているのに対して、引用発明においては、上記「式」の関係を満たしているかどうか不明な点。

(相違点1-2)
「前記光透過性基材」が、本願発明においては、「波長550nmにおける屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が0.2006以上であ」るのに対して、引用発明においては、そのような特性を有しているかどうか不明な点。

(相違点1-3)
「前記光透過性基材」が、本願発明においては、「可視光領域における透過率が84%以上であ」るのに対して、引用発明においては、そのような特性を有しているかどうか不明な点。

4 判断
(1) 相違点1-1及び相違点1-2について
事案に鑑み、相違点1-1と相違点1-2をまとめて検討する。
ア 当合議体の拒絶の理由において引用された特開2010-13569号公報(以下、「引用例2」という。)には、液晶ディスプレイ分野の光学補償材料、波長板、偏光レンズや偏光サングラスに用いられる二色性偏光素子の保護膜等に使用される(引用例2の【0002】)、高複屈折、高透明なフィルムであって(同【0001】)、より高い複屈折のフィルムを効率的に製造するには一軸延伸中のフィルムが破断しやすいことや、複屈折の斑が発生しやすいことや延伸されたフィルムの厚み斑が大きくて良くないといった問題(同【0004】、【0009】、【0020】、【0041】)を解消することができる、縦一軸延伸(同【請求項1】、【0025】?【0032】)して得られた、可視光線での全光線透過率(同【0049】)が90%以上、延伸方向の屈折率nxとそれに直交する幅方向に屈折率nyとの差Δnが0.25?0.35、遅相軸の角度が±1°以下、延伸後の厚みが20?100μmの縦1軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(同【請求項1】)が記載されている。
また、引用例2には、上記縦1軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムの実施例(【0042】?【0059】(【表1】))として、3軸方向の屈折率が1.645(【0052】)の未延伸フィルム(原反)を使用した、縦一軸延伸倍率が5.03倍、延伸後の厚みが65μm、可視光線の全光線透過率(【0049】)が91%、複屈折Δn(【0044】、【0045】)が0.320、遅相軸の角度が0.8?-0.8°、レターデーション(Re)(【0044】)が20800nmの縦1軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(実施例1【0052】、【0053】)、延伸倍率が5.00倍、厚みが33μm、可視光線の全光線透過率が91%、Δnが0.321、遅相軸の角度が0.6?-0.6°、Reが10600nmの縦1軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(実施例2【0054】)、実施例3、4として、延伸倍率が5.00倍、厚みが33μm、可視光線の全光線透過率が92%、Δnが0.315、遅相軸の角度が0.6?-0.6°、Reが10400nm程度の縦1軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(実施例3、4【0055】、【0056】)がそれぞれ記載されている。

イ 引用発明の「出射光側に配される偏光板の出射光側の保護フィルム」(「配向ポリエステルフィルム」)は、「面内の」「リタデーション」が「3000?30000nm」であり、「厚みは、15?300μmの範囲であ」る。
引用発明の「配向ポリエステルフィルム」について、引用例1には、「ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートを用いることができる」([0029])、「一軸延伸フィルムであっても、二軸延伸フィルムであってもかまわない」([0041])と記載されている。
また、引用例1の実施例の記載(特に、[0081][表1])から、PETからなる「配向ポリエステルフィルム」により、Δnが0.031(偏光子保護フィルム9)?0.165(偏光子保護フィルム6)程度の複屈折が得られることが理解できる(当合議体注:引用例1の[0057]によれば、偏光子保護フィルム1?11の直交する二軸の屈折率(Nx、Ny)は、測定波長589nmにおいて測定したものである。偏光子保護フィルム1?11のΔnは、[0081][表1]に記載の各実施例の「厚み(μm)」と「Re(nm)」とから求めた。)。
そして、引用発明の「配向ポリエステルフィルム」について、引用例1の[0041]?[0043]には、一軸延伸フィルムの方が、二軸延伸フィルムよりも虹状の色斑が見え難くなり好ましいものの、完全な1軸性フィルムでは、フィルムの配向方向と直交する方向の機械的強度が著しく低下するので好ましくないとの記載がある。さらに、引用発明の「配向ポリエステルフィルム」について、引用例1の[0048]には、リタデーションの変動を抑制するためには、フィルムの厚み斑が小さいことが望ましいとの記載がある。

ウ 以上によれば、引用例1及び引用例2の上記記載・示唆に接した当業者であれば、高複屈折のフィルムを効率的に製造するには一軸延伸中のフィルムが破断しやすいことや、延伸されたフィルムの厚み斑が大きくて良くないといった問題を解消することができる、引用例2記載の、可視光線での全光線透過率が90%以上、Δnが0.25?0.35、厚みが20?100μmの、高複屈折な縦1軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(あるいは、実施例1?4の縦1軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム)が、引用発明の「出射光側に配される偏光板の出射光側の保護フィルム」(「配向ポリエステルフィルム」)として好ましいものであることは直ちに理解可能なことである。
また、偏光板や液晶表示装置においては薄型化は周知の課題であるところ、複屈折が大きければ、それだけ薄いフィルム厚みで必要なリタデーションを達成できることは、当業者にとって明らかなことである。そうすると、引用例2記載の上記高複屈折な縦一軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムが、引用発明の「出射光側に配される偏光板の出射光側の保護フィルム」(「配向ポリエステルフィルム」)として、薄型化の点から好ましいものであることも、当業者が理解可能なことである(当合議体注:引用例2記載の上記高複屈折な縦一軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムのΔn(0.25?0.35)として、引用例1の実施例のPETフィルムのΔn(0.031?0.165程度)と比較して、相当程度大きなΔnが得られている。)。
そうしてみると、引用発明において、「出射光側に配される偏光板の出射光側の保護フィルム」(「配向ポリエステルフィルム」)として、引用例2に記載された、可視光線での全光線透過率が90%以上、Δnが0.25?0.35、厚みが20?100μmである高複屈折な縦1軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(あるいは、実施例1?4の縦1軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム)を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、引用発明に上記設計変更を行ったものにおいては、Δnが0.25?0.35であるから、屈折率の波長依存性を考慮したとしても、波長550nmにおける差(nx-ny)が0.2006以上との要件を満たす。また、Δnが0.25?0.35の高複屈折な縦1軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムが、nx>N>nyを満たすことは、当業者にとって明らかなことである(当合議体注:引用例2の【0031】、【0032】等に記載された縦1軸延伸倍率や実施例1?4等の縦1軸延伸倍率からも明らかなことである。)。

(2) 相違点1-3について
引用発明において、引用例2に記載された高複屈折な縦1軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムを採用したものにおいては、可視光線での全光線透過率が90%以上であるから、上記相違点1-3に係る本願発明の構成を満たす。

(3) 上記(1)、(2)においては、引用例1の記載に基づき認定した引用発明との対比・判断を行ったが、これに替えて、引用例3の請求項1?3、7、[0019]、[0024]、[0027]、[0030]、[0031]、[0052]等の記載から理解される、「液晶表示装置」の発明を、引用例3発明として認定し、この引用例3発明との対比・判断を行っても同様である。
すなわち、本願発明と、引用例3発明とは、上記3(2)で述べた相違点1-1?1-3と同じ点で相違する。そして、上記(1)ア?ウで述べたのと同様に、引用例3の[0042]、[0044]?[0046]、[0053]等の記載や引用例2の上記(1)アの記載に接した当業者であれば、引用例3発明の「視認側の偏光板が有する偏光子保護フィルムのうち」の「視認側の偏光子保護フィルム」である「リタデーションが3000?30000nm」の「配向フィルム」として、引用例2記載の上記高複屈折(Δnが0.25?0.35)な縦一軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムが好ましいと理解する。そうすると、引用例3発明において、上記「保護フィルム」(「配向フィルム」)として、引用例2に記載された、可視光線での全光線透過率が90%以上、Δnが0.25?0.35、厚みが20?100μmである高複屈折な縦1軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(あるいは、実施例1?4の縦1軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム)を採用して、上記相違点1-1?1-3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(4) 令和2年7月13日提出の意見書における請求人の主張について
ア 請求人は、同意見書の「(2)本願発明(請求項1)の説明」において、「本願発明(請求項1)では、遅相軸方向の屈折率(nx)と、進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が0.2006以上であり、上記光透過性基材と偏光子とが、上記光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、上記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°となるように配置されていることにより、極めて好適に透過率向上効果を付与することができます(出願当初明細書[0077]、実施例10、参考例4との対比)。」旨主張している。
また、請求人は、「(3)引用例に記載の発明との対比」「(3-1)引用例1及び2について」において、「(イ)審判官殿のご認定通り、引用例1には、『nx>N>ny』の関係を満たし、『波長550nmにおける差(nx-ny)が0.2006以上』である光透過性基材を用いることは一切記載されておりません。実際、引用例1の実施例では、『「差(nx-ny)』は0.104程度のものが記載されており、『nx>N>ny』の関係を満たすかは不明であります(引用例1の偏光子保護フィルムNo.1等)。また、引用例1では、保護フィルムのリタデーションの上限が30000nmでありますが(請求項1)、リタデーションを高くする場合には、厚みを厚くすることによりリタデーションを大きくする方法を用いているのであり、差(nx-ny)を大きな値とはしておりません(偏光子保護フィルムNo.8等)。」、「更に、引用例1では、角度によって生じる虹斑を大幅に減少させることを課題としており、『光学等方性材料のまま用いるよりも、光透過率を向上させる』といった本願発明の課題については一切認識しておりません。その解決手段である『nx>N>ny』の関係を満たし、『波長550nmにおける差(nx-ny)が0.2006以上』である光透過性基材を用いるといった技術的思想も当然に記載も示唆もされておりません。」、「したがって、引用例1には、『nx>N>ny』の関係を満たし、『波長550nmにおける差(nx-ny)が0.2006以上』である光透過性基材を採用する動機付けが一切ありません。」、「(ロ)審判官殿は、引用例2にはΔnが0.25?0.35、厚みが20?100μmである高複屈折な縦1軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムが開示されており、これを引用例1に採用することは、当業者にとって容易である旨、ご認定されました。」、「しかしながら、上述したように引用例1には、引用例2で開示されたような配向ポリエステルフィルムを採用する動機付けが一切ありません。また、本願発明の課題については一切認識してない引用例1において、本願発明(請求項1)の構成により奏する優れた効果は、異質な効果であり予測することはできません。」旨主張している。
さらに、請求人は、「(3-2)引用例3について」において、引用例1と同様な主張を行っている。

イ しかしながら、引用例1及び引用例2の記載・示唆(上記(1)ア、イ)に接した当業者にとって、引用発明の「出射光側に配される偏光板の出射光側の保護フィルム」(「配向ポリエステルフィルム」)として、引用例2記載の高複屈折の縦一軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムを採用することに、十分な動機付けがあることは、上記(1)において述べたとおりである。そして、引用発明において、そのような設計変更を行ったものが、相違点1-1?1-3に係る本願発明の構成を具備するものとなることも、上記(1)、(2)において述べたとおりである。引用例3を主引用例とする場合も同様(上記(3))である。

ウ また、請求人が主張する本願発明の効果に関し、「上記光透過性基材と偏光子とが、上記光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、上記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°となるように配置されていることによ」る「透過率向上効果」は、引用発明も有する効果であって異質な効果ではない。あるいは、偏光子と配向ポリエステルフィルムとの配置角度及び屈折率(差)に基づき、当業者が予測可能なことである。さらに、請求人が主張する「極めて好適」な「透過率向上効果」の付与についても、「差(nx-ny)」を「0.2006以上」とすることによる臨界的効果(の差異)を本願明細書の記載からは読み取ることができず、当業者にとって自明なこととも認められない。

エ したがって、同意見書における上記アの請求人の主張を採用することはできない。

第3 むすび
本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
あるいは、本願発明は、引用例3に記載された発明及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-08-21 
結審通知日 2020-08-25 
審決日 2020-09-14 
出願番号 特願2016-236970(P2016-236970)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 河原 正
宮澤 浩
発明の名称 画像表示装置、画像表示装置の製造方法及び偏光板の光透過率改善方法  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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