ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L |
---|---|
管理番号 | 1367725 |
審判番号 | 不服2019-15596 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-11-20 |
確定日 | 2020-10-29 |
事件の表示 | 特願2015- 92300「難燃性、加工性、透明性、および成形後の機械的強度に優れる樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日出願公開、特開2016-210823〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年4月28日を出願日とする出願であって、平成30年11月30日付けの拒絶理由に対し、平成31年4月3日に意見書及び手続補正書が提出され、令和元年8月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月20日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年12月29日に手続補正書(方式)が提出されたものである。 第2 令和元年11月20日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和元年11月20日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 本件補正について 令和元年11月20日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1である、 「ポリカーボネート40?82.2質量%と、アセチル化リグノフェノール3?20質量%と、リン系難燃剤10?20質量%とを含み、酸化防止剤が0.07質量%以下である、樹脂組成物。」を、補正後の特許請求の範囲の請求項1である、 「ポリカーボネート40?79.7質量%と、アセチル化リグノフェノール10?20質量%と、リン系難燃剤10?20質量%とを含み、酸化防止剤が0.07質量%以下である、樹脂組成物。」(以下、「本件補正発明」という。)とする補正を含むものである。 2 補正の適否 (1)補正の目的について 本件補正は、ポリカ?ボネートの含有量を本件補正前の「40?82.2質量%」から「40?79.7質量%」に減縮し、また、アセチル化リグノフェノールの含有量を本件補正前の「3?20質量%」から「10?20質量%」に減縮するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)独立特許要件について そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。 ア 刊行物 刊行物1:特開2013-204016号公報(原審における引用文献1) 刊行物2:特開2013-100387号公報(原審における引用文献2) イ 刊行物の記載事項 (ア)刊行物1に記載された事項 刊行物1には、以下の事項が記載されている。 1a 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)主鎖が一般式(I)で表される繰り返し単位及び一般式(II)で表される構成単位(但し、n=15?200)を有するポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体を含有するポリカーボネート樹脂99?50質量%、及び (B)下記一般式(1)で表される部分構造を有するリグノフェノール類1?50質量%からなる樹脂混合物であって、一般式(II)で表される構成単位の含有量が、(A)成分及び(B)成分からなる樹脂混合物において0.2?4質量%である樹脂混合物を含有するポリカーボネート樹脂組成物。 【化1】 〔式中、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1?6のアルキル基又は炭素数1?6のアルコキシ基を示す。Xは、単結合、炭素数1?8のアルキレン基、炭素数2?8のアルキリデン基、炭素数5?15のシクロアルキレン基、炭素数5?15のシクロアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO_(2)-、-O-又は-CO-を示す。a及びbは、それぞれ独立に、0?4の整数を示す。 R^(3)?R^(6)は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数6?12のアリール基を示す。Yは、単結合又は脂肪族基もしくは芳香族基を含む有機残基を示す。nは、平均繰り返し数である。〕 【化2】 〔式中、R^(11)及びR^(14)は、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アラルキル基又はフェノキシ基を示し、R^(12)は、ヒドロキシアリール基又はアルキル置換ヒドロキシアリール基を示し、R^(13)は、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基又は-OR^(15)(R^(15)は水素原子、アルキル基又はアリール基を示す)を示し、水素原子以外のR^(11)?R^(15)はそれぞれ置換基を有していてもよい。p及びqは、0?4の整数を示す。但し、pが2以上である場合、複数のR^(1)はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、また、qが2以上である場合、複数のR^(4)はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。〕 【請求項2】 (A)成分及び(B)成分からなる樹脂混合物100質量部に対して、(C)リン系化合物を0.1?50質量部含有する、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。 【請求項3】 前記(C)成分がリン酸エステルである、請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。 【請求項4】 (A)成分及び(B)成分からなる樹脂混合物100質量部に対して、(D)ポリフルオロオレフィン樹脂を0.01?1質量部含有する、請求項1?3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項1?4) 1b 「【背景技術】 【0002】 ・・・ 一方、先に本発明者らは、バイオマス材料として、木質系リグニンから誘導されるリグノフェノールに注目し、ポリカーボネート樹脂又はポリ乳酸を配合したポリカーボネート樹脂に、特定構造を有するリグノフェノール類を配合することにより、環境性能に優れるとともに、高い流動性及び高い耐衝撃性を有し、難燃性及び耐熱性に優れるポリカーボネート樹脂組成物を見出している(例えば、特許文献1参照)。 ・・・ 【特許文献1】特開2010-150424号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 ・・・ そこで、本発明の課題は、耐衝撃性、耐熱性及び色調が良好であり、かつ難燃性、流動性及び環境性能に優れるポリカーボネート樹脂組成物及びそれを成形してなる成形体を提供することにある。」 1c 「【発明の効果】 【0010】 本発明によれば、耐衝撃性、耐熱性及び色調が良好であり、かつ難燃性、流動性及び環境性能に優れるポリカーボネート樹脂組成物及びそれを成形してなる成形体を提供することができる。 特に、PC-POSの使用によって、耐衝撃性及び難燃性のみならず、流動性が一層高まった。また、PC-POSとリグノフェノール類との併用の結果、難燃性改善において相乗効果が得られた。 さらにリン系化合物、特にリン酸エステルを含有させると難燃性のみならず、色調も改善された。また、ポリフルオロオレフィン樹脂を含有させると、難燃性の改善効果が大きいばかりでなく、耐衝撃性と色調までもが改善された。」 1d 「【0017】 本発明では、(A)成分のポリカーボネート樹脂は、上記特定のPC-POSを含有する。該PC-POSの含有量は、前記の通り、(A)成分及び後述する(B)成分からなる樹脂混合物において、一般式(II)で表される構成単位が0.2?4質量%となるように調整する必要がある。0.2質量%未満であると、耐衝撃性及び色調が悪化し、4質量%を超えると、耐熱性が低下する。この観点から、該PC-POSの含有量は、(A)成分及び後述する(B)成分からなる樹脂混合物において、一般式(II)で表される構成単位が、好ましくは0.2?3質量%、より好ましくは0.6?3質量%、さらに好ましくは0.6?2質量%となるように調整する。・・・」 1e 「【0019】 ここで、(A)成分において、上記特定のPC-POS以外の成分は、後述する通常のポリカーボネート樹脂であり、芳香族二価フェノール系化合物が用いられて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂であってもよいし、脂肪族二価フェノール系化合物が用いられて得られる脂肪族ポリカーボネート樹脂であってもよいし、芳香族二価フェノール系化合物と脂肪族二価フェノール系化合物とを併用して得られる芳香族-脂肪族ポリカーボネート樹脂であってもよい。これらの中でも、上記特定のPC-POS以外の成分としては、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。・・・」 1f 「【0025】 [(B)リグノフェノール類] 本発明では、(B)成分として、下記一般式(1)で表される部分構造を有するリグノフェノール類を用いる。(B)成分によって、ポリカーボネート樹脂組成物に高い難燃性及び流動性が付与される。・・・」 1g 「【0045】 また、本発明において、上記方法で得られたリグノフェノール類は、さらにアルカリ処理することにより誘導体化してから、後述するアシル化反応を施し、アシル化リグノフェノール類として用いることもできる。 天然リグニンより相分離プロセスにより得られたリグノフェノール類は、その活性炭素のα位がフェノール誘導体でブロックされているので、総体として安定である。しかし、アルカリ性条件下ではそのフェノール性水酸基は容易に解離し、生じたフェノキシドイオンは立体的に可能な場合には隣接炭素のβ位を攻撃する。これによりβ位のアリールエーテル結合は開裂し、リグノフェノール類は低分子化され、さらに導入フェノール核にあったフェノール性水酸基がリグニン母体へと移動する。したがって、アルカリ処理されたリグノフェノール類はアルカリ処理する前のリグノフェノール類よりも疎水性が向上することが期待される。 このときγ位の炭素に存在するアルコキシドイオンあるいはリグニン芳香核のカルバニオンがβ位を攻撃することも期待されるが、これはフェノキシドイオンに比べはるかに高いエネルギーを必要とする。したがって、緩和なアルカリ性条件下では導入フェノール核のフェノール性水酸基の隣接基効果が優先的に発現し、より厳しい条件下ではさらなる反応が起こり、いったんエーテル化されたクレゾール核のフェノール性水酸基が再生し、これによりリグノフェノール類はさらに低分子化されるとともに水酸基が増えることにより親水性が上がることが期待される。 さらに、上記のとおり、アルカリ処理によりリグノフェノール類の水酸基が増えることで、後述するアシル化反応によって、リグノフェノール類中にアシル基をより多く導入することができる。 【0046】 (アシル化) 上記方法により得られるリグノフェノール類及びアルカリ処理したリグノフェノール類は、側鎖α位へ導入したフェノール誘導体にフェノール性水酸基を有しており、さらにアルコール性水酸基を有し得る。本発明では、上記フェノール性水酸基の水素原子、さらに場合によってアルコール性水酸基の水素原子を、疎水性のアシル基で置換したアシル化リグノフェノール類を用いてもよい。つまり、本発明で言う(B)成分のリグノフェノール類は、アシル化リグノフェノール類をも含む。 リグノフェノール類及びアルカリ処理したリグノフェノール類のアシル化は、カルボン酸、無水カルボン酸、混合無水カルボン酸等のアシル化剤を反応させればよく、アシル化反応の際、塩基を用いてもよい。アシル化剤の使用量は、リグノフェノール類及びアルカリ処理したリグノフェノール類の水酸基価に対し、目的とするアシル化率に応じて決定すればよい。 アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基等が挙げられ、好ましくはアセチル基である。 【0047】 本発明において、上記アシル化反応により得られるアシル化リグノフェノール類のアシル化率に特に制限は無いが、好ましくは25%以上である。アシル化率が25%以上であれば、ポリカーボネート樹脂組成物の成形時における着色低減効果を十分に発揮させることができる。 さらに、アシル化リグノフェノール類のアシル化率は、アルカリ処理を行ったリグノフェノール類であれば、より好ましくは40%以上であり、また、アルカリ処理を行わないリグノフェノール類であれば、より好ましくは40%以上であり、さらに好ましくは60%以上である。」 1h 「【0049】 ((A)成分と(B)成分の含有比率) 本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、(A)成分99?50質量%及び(B)成分1?50質量%からなる樹脂混合物を含有する。(B)成分の上記含有割合が、1質量%未満では流動性及び難燃性向上の効果が得られず、一方、50質量%を超えると成形不能となる。この観点から、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、好ましくは(A)成分98?60質量%及び(B)成分2?40質量%からなる樹脂混合物、より好ましくは(A)成分95?70質量%及び(B)成分5?30質量%からなる樹脂混合物を含有する。」 1i 「【0050】 [(C)リン系化合物] 本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、さらに(C ) 成分としてリン系化合物を含有させてもよい。該リン系化合物を含有させることにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の流動性、難燃性及び色調をさらに改善させることができる。特に、難燃性については、(B ) 成分との組み合わせによって相乗効果が得られるため好ましい。 リン系化合物としては、例えば、リン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン等が挙げられる。なかでも、リン酸エステル、亜リン酸エステルが好ましく、難燃性及び色調の観点からは、リン酸エステルがより好ましい。 ・・・ 【0062】 本発明のポリカーボネート樹脂組成物に(C)成分を含有させる場合、その含有量は、流動性、難燃性及び色調の観点から、(A)成分及び(B)成分からなる樹脂混合物100質量部に対して、好ましくは0.1?50質量部、より好ましくは0.5?25質量部、より好ましくは1?20質量部、さらに好ましくは2?15質量部である。」 1j 「【0063】 [(D)ポリフルオロオレフィン樹脂] 本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、さらに(D)成分としてポリフルオロオレフィン樹脂を含有させてもよい。該ポリフルオロオレフィン樹脂を含有させることにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の難燃性を改善、さらには耐衝撃性及び色調をも改善させることができる。特に、難燃性については、(B)成分との組み合わせによって相乗効果が得られる。 ポリフルオロオレフィン樹脂とは、フルオロエチレン構造を含む重合体又は共重合体であり、例えば、ジフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン重合体等の単独重合体;テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレンとフッ素原子を含まないエチレン系モノマーとの共重合体等の共重合体が挙げられる。ポリフルオロオレフィン樹脂の中でも、好ましくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。 ・・・ 【0066】 本発明のポリカーボネート樹脂組成物に(D)成分を含有させる場合、その含有量は、耐衝撃性、難燃性及び色調の観点及び目的とする難燃性における溶融滴下防止性の観点から、(A)成分及び(B)成分からなる樹脂混合物100質量部に対して、好ましくは0.01?1質量部、より好ましくは0.05?1質量部、さらに好ましくは0.1?1質量部である。それぞれの成形品に要求される難燃性の程度、例えば、UL94のV-0、V-1、V-2等により、他の成分の使用量等を考慮して適宜(D)成分の含有量を決定することができる。」 1k 「【実施例】 【0070】 本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。 各例で得られた樹脂組成物の性能試験は、次のとおりに行った。 (1)アイゾット衝撃強度(IZOD):耐衝撃性 厚さ1/8インチの試験片を用いて、ASTM規格D-256に準拠し、測定温度23℃にてIZOD衝撃強度を測定し、耐衝撃性に指標とした。 (2)熱変形温度(荷重たわみ温度):耐熱性 ASTM規格D-648に準拠し、荷重1.8MPaで熱変形温度を測定し、耐熱性の指標とした。 (3)イエローインデックス(YI):色調(着色性) 13ショット目以降の成形体を5枚作製し、日本電色工業株式会社製の分光測色計Σ90を用いて、測定面積30φ、C2光源の透過法で測定し、その平均値を求めた。値が大きいほど着色性が高く、色調が低下していることを示す。 (4)酸素指数(LOI):難燃性 ASTM規格D-2863に準拠して測定し、難燃性の指標とした。なお、酸素指数とは、試験片が燃焼を維持するのに必要な最低酸素濃度を空気中の容量%で示した値である。値が大きいほど、難燃性に優れることを示す。 (5)UL94燃焼試験:難燃性 厚み3mmの試験片を用いてアンダーライターズラボラトリー・サブジェクト94(UL94)燃焼試験に準拠して垂直燃焼試験を行った。(6)メルトインデックス(MI):流動性 測定条件樹脂温260℃、荷重21.18Nにおいて、ASTM規格D-1238に準拠して測定し、流動性の指標とした。値が大きいほど流動性に優れることを示す。なお、流動性が高いと、成形温度を高めずに大型製品や薄肉製品を製造することが可能となる。 【0071】 [製造例1]ポリカーボネート-ポリジメチルシロキサン共重合体1(PC-PDMS1)の製造 (1.オリゴマー合成工程) 5.6質量%水酸化ナトリウム水溶液に後から溶解するビスフェノールA(BPA)に対して2000ppmの亜二チオン酸ナトリウムを加え、これにBPA濃度が13.5質量%になるようにBPAを溶解し、BPAの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。このBPAの水酸化ナトリウム水溶液40L/hr、塩化メチレン15L/hrの流量で、ホスゲンを4.0kg/hrの流量で内径6mm、管長30mの管型反応器に連続的に通した。管型反応器はジャケット部分を有しており、ジャケットに冷却水を通して反応液の温度を40℃以下に保った。管型反応器を出た反応液は後退翼を備えた内容積40Lのバッフル付き槽型反応器へ連続的に導入され、ここにさらにBPAの水酸化ナトリウム水溶液2.8リットル/hr、25質量%水酸化ナトリウム水溶液0.07L/hr、水17L/hr、1質量%トリエチルアミン水溶液を0.64L/hr添加して反応を行なった。槽型反応器から溢れ出る反応液を連続的に抜き出し、静置することで水相を分離除去し、塩化メチレン相を採取した。このようにして得られたポリカーボネートオリゴマーは濃度329g/L、クロロホーメート基濃度0.74mol/Lであった。 【0072】 (2.PC-PDMS1製造工程) 次いで、邪魔板、パドル型攪拌翼及び冷却用ジャケットを備えた50L槽型反応器に、上記で製造したポリカーボネートオリゴマー溶液15L、塩化メチレン9.0L、ジメチルシロキサン単位の平均繰り返し数(n)が40であるアリルフェノール末端変性ポリジメチルシロキサン(PDMS)1,266g及びトリエチルアミン8.8mL、を仕込み、攪拌下でここに6.4質量%水酸化ナトリウム水溶液1,389gを加え、10分間ポリカーボネートオリゴマーとアリルフェノール末端変性PDMSの反応を行った。 この重合液に、p-t-ブチルフェノール(PTBP)の塩化メチレン溶液(PTBP126gを塩化メチレン2.0Lに溶解したもの)、BPAの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH577gと亜二チオン酸ナトリウム2.0gを水8.4Lに溶解した水溶液にBPA1,012gを溶解させたもの)を添加し50分間重合反応を実施した。 希釈のため塩化メチレン10Lを加え10分間攪拌した後、ポリカーボネートを含む有機相と過剰のBPA及びNaOHを含む水相に分離し、有機相を単離した。 こうして得られたポリカーボネートの塩化メチレン溶液を、その溶液に対して順次、15容積%の0.03mol/LNaOH水溶液、0.2モル/L塩酸で洗浄し、次いで洗浄後の水相中の電気伝導度が0.01μS/m以下になるまで純水で洗浄を繰り返した。 洗浄により得られたポリカーボネートの塩化メチレン溶液を濃縮・粉砕し、得られたフレークを減圧下120℃で乾燥し、PC-PDMS1を得た。 得られたPC-PDMS1のNMR測定により求めたジメチルシロキサン単位の量は5質量%、粘度平均分子量(Mv)は19,000であった。 この共重合体100質量部に対して、「IRGAFOS168」[トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製]0.05質量部を配合し、ベント付き40mmφの単軸押出機によって樹脂温度280℃で造粒しペレットを得た。 ・・・ 【0076】 [製造例5]リグノフェノール類(リグノクレゾール)の製造 ブナの木粉をp-クレゾールを含むアセトン溶液に浸漬して、木粉にp-クレゾールを収着させた。収着後の木粉に72質量%の硫酸を添加し激しく攪拌した。攪拌停止後浄水を加え放置し、上澄みをデカンテーションする操作を6回繰り返して酸と過剰のp-クレゾールを取り除いた。容器内の沈殿物を乾燥し、これにアセトンを加え、前記式(2)の部分構造を有するリグノフェノール類(リグノクレゾール)を抽出した後、アセトンを留去することにより得た。 なお、詳細な手順は、特開2001-64494号公報の実施例1に従った。 【0077】 [実施例1?12及び比較例1?9] 表1に示す割合(単位:質量部)で各成分を配合し、押出機(機種名:VS40、田辺プラスチック機械株式会社製)に供給し、240℃で溶融混練し、樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを、120℃で12時間乾燥させ後、射出成形機(型式:IS100N、東芝機械株式会社製)を用い、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で射出成形して試験片を得た。 得られた試験片を用いて上記方法に従って性能試験を行い、その結果を表1及び表2に示した。 【0078】 【表1】 ・・・ 【0080】 (表1及び表2中の注釈の説明) *1:製造例1で得たPC-PDMS1、(A)成分 ・・・ *5:芳香族ポリカーボネート樹脂「タフロンFN1900A」(出光興産株式会社製、粘度平均分子量=19,500、ビスフェノールAから製造されたホモポリカーボネート樹脂)、(A)成分 *6:製造例5で得たリグノフェノール類(リグノクレゾール)、(B)成分 *7:リン酸エステル「PX202」(大八化学工業株式会社製)、(C)成分 ・・・ *10:フィブリル形成能を有するPTFE「CD076」(旭アイシーアイフロロポリマーズ株式会社製)、(D)成分 ・・・ *12:成形不能であったため、未測定 *13:UL94燃焼試験における規格に対して不合格」 (イ)刊行物2に記載された事項 刊行物2には、以下の事項が記載されている。 2a 「【請求項1】 (A)成分及び(B)成分の合計量に対し、(A)熱可塑性樹脂を99?50質量%及び(B)下記一般式(I)で表される構造を有するリグノフェノールをアシル化することによって得られるアシル化リグノフェノールを1?50質量%含む熱可塑性樹脂組成物。 【化1】 〔式中、R^(1)及びR^(4)はアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アラルキル基又はフェノキシ基を示し、R^(2)はヒドロキシアリール基又はアルキル置換ヒドロキシアリール基を示し、R^(3)はヒドロキシアルキル基、アルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基又は-OR^(5)(R^(5)は水素原子、アルキル基又はアリール基を示す)を示し、水素原子以外のR^(1)?R^(5)はそれぞれ置換基を有していてもよく、p及びqは0?4の整数を示す。ただし、pが2以上である場合、複数のR^(1)はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、また、qが2以上である場合、複数のR^(4)はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。〕 【請求項2】 前記(B)成分のアシル化率が25%以上である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。 【請求項3】 前記(B)成分が、前記一般式(I)で表される構造を有するリグノフェノールをアルカリ処理した後、アシル化することによって得られるアシル化リグノフェノールである、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。 【請求項4】 前記(A)成分が、ポリカーボネート樹脂又はポリカーボネート樹脂とその他の熱可塑性樹脂との混合物である、請求項1?3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。 【請求項5】 請求項1?4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体。」 2b 「【発明が解決使用とする課題】 【0004】 本発明は、リグノフェノールを熱可塑性樹脂に配合することによる難燃性及び高流動性等の高機能化を保持したまま、成形時の着色を抑制するとともに、熱安定性、耐湿熱性、及び成形外観に優れた熱可塑性樹脂組成物及びそれを用いた成形体を提供することを目的とする。」 2c 「【0009】 本発明によれば、リグノフェノールをアシル化したアシル化リグノフェノールを用いることにより、リグノフェノールが付与する難燃性及び流動性を保持したまま、成形時の着色を抑制でき、熱安定性、耐湿熱性及び成形外観に優れた熱可塑性樹脂組成物、及びそれを用いた成形体を提供することができる。 さらに、アシル化リグノフェノールは、上記特性を樹脂組成物に付与することができるため、様々な種類の熱可塑性樹脂に配合することで、上記特性を必要とする用途に拡大することができる。」 2d 「【0046】 (アシル化) ・・・ リグノフェノール及びアルカリ処理したリグノフェノールのアシル化は、カルボン酸、無水カルボン酸、混合無水カルボン酸等のアシル化剤を反応させればよく、アシル化反応の際、塩基を用いてもよい。アシル化剤の使用量は、リグノフェノール及びアルカリ処理したリグノフェノールの水酸基価に対し、目的とするアシル化率に応じて決定すればよい。 アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基等が挙げられ、好ましくはアセチル基である。 【0047】 本発明において、上記アシル化反応により得られるアシル化リグノフェノールのアシル化率は、好ましくは25%以上である。アシル化率が25%以上であれば熱可塑性樹脂組成物の成形時における着色低減効果を十分に発揮させることができる。 さらに、アシル化リグノフェノールのアシル化率は、アルカリ処理を行ったリグノフェノールであれば、より好ましくは40%以上であり、また、アルカリ処理を行わないリグノフェノールであれば、より好ましくは40%以上であり、さらに好ましくは60%以上である。」(段落0047) ・・・ 【0049】 (含有割合) 本発明において、(B)アシル化リグノフェノールの含有割合は、(A)成分及び(B)成分の合計量に対し、1?50質量%であり、好ましくは2?40質量%、より好ましくは5?30質量%である。(B)熱可塑性樹脂の上記含有割合が、1質量%未満では流動性及び難燃性向上の効果が得られなく、また、50質量%を超えると耐衝撃性、難燃性、耐熱性の低下が著しくなる。」 2e 「【実施例】 【0053】 本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。 各例で得られた樹脂組成物の性能試験は、次のとおり行った。 (1)メルトインデックス(MI):流動性 測定条件樹脂温260℃、荷重2.16kgにおいて、ASTM規格D-1238に準拠し測定した。 (2)アイゾット衝撃強度(IZOD):耐衝撃性 厚さ1/8インチの試験片を用いて、ASTM規格D-256に準拠し、測定温度23℃にて測定した。 (3)酸素指数(LOI):難燃性 ASTM規格D-2863に準拠し測定した。酸素指数とは、試験片が燃焼を維持するのに必要な最低酸素濃度を空気中の容量%で示した値である。 (4)熱変形温度(荷重たわみ温度):耐熱性 ASTM規格D-648に準拠し、荷重1.8MPaで測定した。熱変形温度は、耐熱性の目安を示すものである。 【0054】 (5)イエローインデックス(YI):着色性 13ショット目以降の成形体を5枚作製し、日本電色工業株式会社製の分光測色計Σ90で測定面積30φ、C2光源の透過法で測定しその平均値を求めた。成形体の着色性を示すものである。 (6)耐湿熱性 耐湿熱性は、60℃、湿度95%の環境下に300時間、平板状試験片(80mm×80mm×1mm)を放置した後、目視により表面変形の有無を判定した。 ○は、表面の変形が認められない。 ×は、表面のふくれ、変形が認められる。 (7)成形外観 成形外観は、成形温度260℃で射出成形した平板状試験片(80mm×80mm×1mm)を目視によりシルバー発生の有無を判定した。 ○は、シルバーの発生が認められない。 ×は、シルバーの発生が認められる。 (8)透明性 成形体を目視により観察し透明性を判定した。 ○は、透明。 △は、透明性があるが霞が有る。 ×は、不透明。 【0055】 また、各例で用いた各成分は次のとおりである。 (A)熱可塑性樹脂 (1)ポリカーボネート樹脂:芳香族ポリカーボネート樹脂〔(商品名)タフロンA1700、出光興産株式会社製、粘度平均分子量=17,800〕 (2)ポリ乳酸:〔(商品名)レイシアH100、三井化学株式会社製〕」 2f 「【0059】 [実施例1?10及び比較例1?3] 表1に示す割合(質量部)で上記各成分を配合し、押出機(機種名:VS40、田辺プラスチック機械株式会社製)に供給し、240℃で溶融混練し、ペレット化した。なお、すべての実施例及び比較例において、フェノール系酸化防止剤としてイルガノックス1076(BASF社製)0.2質量部及びリン系酸化防止剤としてアデカスタブC(株式会社ADEKA製)0.1質量部をそれぞれ配合した。得られたペレットを、120℃で12時間乾燥させ後、射出成形機(型式:IS100N、東芝機械株式会社製)シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で射出成形して試験片を得た。得られた試験片を用いて性能を上記性能試験によって評価し、その結果を表1に示した。 [参考例1] (B)成分及びリグノフェノールを用いず、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂を用いた以外は、上記実施例及び比較例と同様にして試験片を得、得られた試験片について性能を上記性能試験によって評価し、その結果を表1に示した。 【0060】 【表1】 」 ウ 刊行物1に記載された発明 刊行物1には、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を更に引用する請求項4の記載を書き下すと、 「(A)主鎖が一般式(I)で表される繰り返し単位及び一般式(II)で表される構成単位(但し、n=15?200)を有するポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体を含有するポリカーボネート樹脂99?50質量%、及び (B)下記一般式(1)で表される部分構造を有するリグノフェノール類1?50質量%からなる樹脂混合物であって、一般式(II)で表される構成単位の含有量が、(A)成分及び(B)成分からなる樹脂混合物において0.2?4質量%である樹脂混合物を含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、 (A)成分及び(B)成分からなる樹脂混合物100質量部に対して、(C)リン系化合物を0.1?50質量部含有し、前記(C)成分がリン酸エステルであり、 (A)成分及び(B)成分からなる樹脂混合物100質量部に対して、(D)ポリフルオロオレフィン樹脂を0.01?1質量部含有する、ポリカーボネート樹脂組成物(当審注:一般式(I)、(II)及び(1)の記載は省略する。)」が記載されている(上記1a)。 また、刊行物1には、請求項4に係るポリカーボネート樹脂組成物の具体例である実施例9として、(A)成分の「製造例1で製造したPC-PDMS1」20質量部、芳香族ポリカーボネート70質量部、(B)成分の「製造例5で製造したリグノフェノール類(リグノクレゾール)」10質量部、(C)成分の「リン酸エステル1」(リン酸エステル「PX202」(大八化学工業株式会社製))5質量部、及び(D)成分のポリフルオロオレフィン樹脂0.3質量部からなるポリカーボネート樹脂組成物が記載されている(上記1k)。 ここで、上記「PC-PDMS1」は、請求項1に記載のポリカーボネートであるポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(PC-POS)の具体例であり、一般式(II)におけるR^(3)?R^(5)がメチル基であり、Yが単結合であるポリカーボネート-ポリジメチルシロキサン共重合体(ジメチルシロキサン単位は5質量%)である(上記1k)。 そして、実施例9のポリカーボネート樹脂組成物はその総量が105.3質量部であり、各成分の配合量を質量%に換算すると、「PC-PDMS1」が18.99質量%、芳香族ポリカーボネートが66.48質量%、リグノフェノール類であるリグノクレゾールが9.50質量%、リン酸エステルが4.75質量%、ポリフルオロオレフィン樹脂が0.28質量%となる。 そうすると、刊行物1には、「ポリカーボネートであるポリカーボネート-ポリジメチルシロキサン共重合体(ジメチルシロキサン単位は5質量%)18.99質量%、芳香族ポリカーボネート66.48質量%、リグノフェノール類であるリグノクレゾール9.50質量%、リン酸エステル4.75質量%、及びポリフルオロオレフィン樹脂0.28質量%からなるポリカーボネート樹脂組成物」(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認める。 エ 本件補正発明について (ア)対比 そこで、本件補正発明と引用発明Aとを対比する。 引用発明Aの「ポリカーボネート-ポリジメチルシロキサン共重合体(ジメチルシロキサン単位は5質量%)」はポリカーボネート樹脂の一種であるから(上記1a及び1d)、「ポリカーボネート-ポリジメチルシロキサン共重合体(ジメチルシロキサン単位は5質量%)」及び「芳香族ポリカーボネート」は、本件補正発明の「ポリカーボネート」に相当する。 また、引用発明Aの「リン酸エステル」は、樹脂組成物に難燃性を付与する化合物であり(上記1i)、難燃剤といえるものであるから、本願補正発明の「リン系難燃剤」に相当し、引用発明Aの「ポリカーボネート樹脂組成物」は、本件補正発明の「樹脂組成物」に相当する。 更に、引用発明Aの「リグノフェノール類であるリグノクレゾール」は、リグノフェノール類である限りにおいて、本件補正発明の「アセチル化リグノフェノール」と一致するといえる。 そして、引用発明Aにおいて、上述のように、ポリカーボネート-ポリジメチルシロキサン共重合体と芳香族ポリカーボネートはいずれもポリカーボネート樹脂であり、これらの合計量は85.47質量%であるから、本件補正発明と引用発明Aは、ポリカーボネートを主成分とする組成物である点で共通するといえる。 また、引用発明Aは、酸化防止剤を含まないものである。 そうすると、本件補正発明と引用発明Aとは、「ポリカーボネートを主成分とし、リグノフェノール類と、リン系難燃剤とを含み、酸化防止剤が0.07質量%以下である、樹脂組成物」である点で一致し、次の点で相違するといえる。 (相違点1)ポリカーボネートの配合量が、本件補正発明では「40?79.7質量%」であるのに対し、引用発明Aでは「85.47質量%」である点 (相違点2)リグノフェノール類の種類及び配合量が、本件補正発明では「アセチル化リグノフェノール10?20質量%」であるのに対し、引用発明Aでは「リグノクレゾール9.50質量%」である点 (相違点3)リン系難燃剤の配合量が、本件補正発明では「10?20質量%」であるのに対し、引用発明Aでは「4.75質量%」である点 (イ)検討 a 相違点1及び相違点2の配合量について 刊行物1には、(A)成分と(B)成分からなる樹脂混合物に関して、流動性及び難燃性向上並びに成形性の観点から、(A)成分50?99質量%及び(B)成分1?50質量%とすることが記載されており(摘記(1h))、(A)成分の配合量を(B)成分と同程度まで少なくすることも示唆されており、実施例では(A)成分を70質量部とし、(B)成分を30質量部とした具体例も記載されている(上記1kの表1)。 そうすると、引用発明Aにおいて、(A)成分の配合量を減らして(B)成分の配合量を増やすことは動機付けられ、(A)成分であるポリカーボネート樹脂を85.47質量%から40?79.5質量%に減らし、(B)成分であるリグノフェノール類を9.5質量%から10?20質量%に増やすことは当業者が容易に想到し得たことであるといえる。 b 相違点2の「アセチル化リグノフェノール」について 刊行物1には、樹脂組成物に含有させるリグノフェノール類として、着色低減効果の観点から、アシル化リグノフェノール類をも含み、アシル基として好ましくはアセチル基であることが記載されている(上記1g)。 また、刊行物2には、カーボネート樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に含有させるアシル化リグノフェノールとして、アセチル化したリグノフェノール類を用いることで、流動性及び難燃性を向上でき、さらには着色低減効果にも優れることが記載されている(上記2c及び2d)。さらに、刊行物2の実施例1及び8と比較例1との対比、実施例10と比較例3との対比から、リグノフェノールに代えてアセチル化リグノフェノールを用いることで、着色性の指標であるイエローインデックスの数値を小さくできることも確認できる(上記2f)。 そうすると、引用発明Aにおいて、樹脂組成物の着色低減効果が得られるように、リグノフェノール類としてリグノクレゾールに代えてアセチル化リグノフェノールを用いることは当業者が容易に想到し得たことである。 c 相違点3について 刊行物1には、(C)成分であるリン酸エステルの配合量について、流動性、難燃性、色調の観点から、(A)成分と(B)成分からなる樹脂混合物100質量部に対して0.5?25質量部とすることが好ましい範囲であることが記載されており(上記1i)、上記ウで述べたように、引用発明Aにおける(C)成分の配合量は5質量部であるから、刊行物1の上記記載に基づいて(C)成分の配合量を増やすことが動機付けられるといえる。 そうすると、引用発明Aにおいて、(C)成分の配合量を4.75質量%から、10?20質量%とすることは当業者が容易に想到し得たことであるといえる。 (ウ)本件補正発明の効果について 本願明細書には、「本発明によれば、難燃性、加工性、透明性、および成形後の機械的強度に優れた樹脂組成物を提供することができる。」(【0015】)と記載され、具体的には実施例1及び2と比較例1の対比から、本件補正発明は、アセチル化リグノフェノールを用いることにより、流動性(「MFR」値)と難燃性(「有炎燃焼時間の合計」の値)が改善されることを確認でき、また、実施例1及び2と実施例3との対比から、本件補正発明の配合割合とすることにより、流動性に優れ、所定の難燃性及び透明性を有することが確認できる。 一方、刊行物1には、「特定構造を有するリグノフェノール類を配合することにより、環境性能に優れるとともに、高い流動性及び高い耐衝撃性を有し、難燃性及び耐熱性に優れる」こと(上記1b)、「リン系化合物、特にリン酸エステルを含有させると難燃性のみならず、色調も改善された」こと(上記1c)。リグノフェノールの「アシル化率が2 5 % 以上であれば、ポリカーボネート樹脂組成物の成形時における着色低減効果を十分に発揮させることができる」こと(上記1h)がそれぞれ記載されている。 また、刊行物2には、「リグノフェノールをアシル化したアシル化リグノフェノールを用いることにより、リグノフェノールが付与する難燃性及び流動性を保持したまま、成形時の着色を抑制でき、熱安定性、耐湿熱性及び成形外観に優れた熱可塑性樹脂組成物、及びそれを用いた成形体を提供することができる」こと(上記2c)が記載されており、実施例1、5?9と比較例1との対比、及び実施例3と比較例2との対比から、アセチル化リグノフェノールを含有することにより、透明性、耐衝撃性、熱安定性、耐湿熱性及び成形外観が向上することを具体的に確認することができる。 そうすると、本件補正発明において具体的に確認できる流動性、難燃性及び透明性に関する上記効果は、刊行物1及び2の記載から予測し得るものであり、格別顕著なものとはいえない。 (エ)審判請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書の手続補正書(方式)において「アセチル化リグノフェノール0質量%の比較例2は、有炎燃焼時間11(s)であり、アセチル化リグノフェノール7.5質量%の実施例3は、有炎燃焼時間38(s)です。つまり、ポリカーボネートにアセチル化リグノフェノールを添加すると、加工性は良くなっているものの、有炎燃焼時間が大幅に長くなっています。しかし、アセチル化リグノフェノール10質量%の実施例2は、有炎燃焼時間8(s)であり、実施例3と比べて、一転して有炎燃焼時間が短くなります。つまり、本願請求項に係る発明は、アセチル化リグノフェノールの含有量を10質量%以上とすることで、樹脂としてポリカーボネートのみを使用する場合と比べ、加工性が向上するだけでなく、アセチル化リグノフェノールを添加しているにもかかわらず、有炎燃焼時間を短くすることができるものです。よって、本願請求項に係る発明は、引用文献1?4からは予想もできない優れた効果を有するものです」と主張する。 しかしながら、アセチル化リグノフェノールを含まない比較例2における「有炎燃焼時間の合計」が11秒であるのに対して、本件発明1のアセチル化リグノフェノールの範囲内である15.0質量%の量で含む実施例1では29秒であり、アセチル化リグノフェノールの配合量を10質量%以上とすることで加工性が向上するだけでなく、有炎燃焼時間を短くすることができるという効果があるとは認められない。 よって、上記主張は採用することはできない。 (3)小括 以上のとおり、本件補正発明は、本願の出願日前に、日本国内で頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 補正の却下の決定のむすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、審判請求時の手続補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和元年11月20日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成31年4月3日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「ポリカーボネート40?82.2質量%と、アセチル化リグノフェノール3?20質量%と、リン系難燃剤10?20質量%とを含み、酸化防止剤が0.07質量%以下である、樹脂組成物。」 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 3 引用文献 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及び2、並びにそれらの記載事項は、上記第2の2(2)ア及びイに記載したとおりである。 そして、刊行物1には、第2の2(2)ウに記載されたとおり、引用発明Aが記載されている。 4 対比・判断 本願発明は、上記第2の[理由]2(2)エで検討した本件補正発明の「ポリカ?ボネート40?79.7質量%」を本件補正前の「ポリカーボネート40?82.2質量%」とし、「アセチル化リグノフェノール10?20質量%」を本件補正前の「アセチル化リグノフェノール3?20質量%」にしたものである。 そして、本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2の[理由]2(2)エで述べたように、刊行物1に記載された発明、並びに刊行物1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、刊行物1に記載された発明、並びに刊行物1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明、並びに刊行物1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-08-31 |
結審通知日 | 2020-09-01 |
審決日 | 2020-09-14 |
出願番号 | 特願2015-92300(P2015-92300) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 久保 道弘、佐々木 道子、三原 健治、大木 みのり |
特許庁審判長 |
佐藤 健史 |
特許庁審判官 |
近野 光知 安田 周史 |
発明の名称 | 難燃性、加工性、透明性、および成形後の機械的強度に優れる樹脂組成物 |
代理人 | 特許業務法人ライトハウス国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人ライトハウス国際特許事務所 |