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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1367728 |
審判番号 | 不服2019-17034 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-12-17 |
確定日 | 2020-10-29 |
事件の表示 | 特願2015- 35939「結晶性酸化物半導体膜、半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 1日出願公開、特開2016-157879〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年2月25日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年 2月23日 :手続補正書の提出 平成30年12月18日付け:拒絶理由通知書 平成31年 4月19日 :意見書、手続補正書の提出 令和 元年 9月 6日付け:拒絶査定 令和 元年12月17日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和 元年12月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和 元年12月17日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「【請求項1】 アルミニウムおよびガリウムを少なくとも含有する酸化物半導体を主成分として含む結晶性酸化物半導体膜であって、膜中の金属元素中のアルミニウム濃度が1原子%以上であり、膜厚が700nm以上であることを特徴とする結晶性酸化物半導体膜。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、平成31年 4月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 アルミニウムおよびガリウムを少なくとも含有する酸化物半導体を主成分として含む結晶性酸化物半導体膜であって、金属元素中のアルミニウム濃度が1原子%以上であり、膜厚が700nm以上であることを特徴とする結晶性酸化物半導体膜。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「結晶性酸化物半導体膜」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2013/035843号(2013年(平成25年)3月14日国際公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は当審で付した。以下同じ。) 「[0013] 本発明の実施の形態によれば、ホモエピタキシャル成長法を用いて高品質なα-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜をα-Al_(2)O_(3)基板上に形成し、その高品質のα-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜を用いて、高品質のGa_(2)O_(3)系半導体素子を形成することができる。以下、その実施の形態の例について詳細に説明する。 [0014] 〔第1の実施の形態〕 第1の実施の形態では、Ga_(2)O_(3)系半導体素子としてのプレーナゲート構造を有するGa_(2)O_(3)系MISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)について説明する。 [0015] (Ga_(2)O_(3)系半導体素子の構成) 図1は、第1の実施の形態に係るGa_(2)O_(3)系MISFETの断面図である。Ga_(2)O_(3)系MISFET10は、α-Al_(2)O_(3)基板2上に形成されたn型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3と、n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3上に形成されたソース電極12及びドレイン電極13と、n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3中にソース電極12及びドレイン電極13の下にそれぞれ形成されたコンタクト領域14、15と、n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3のコンタクト領域14とコンタクト領域15の間の領域上にゲート絶縁膜16を介して形成されたゲート電極11と、コンタクト領域14を囲むボディ領域17とを含む。 [0016] ゲート電極11は、ボディ領域17のソース電極12とドレイン電極13との間の領域の上方に位置する。 [0017] Ga_(2)O_(3)系MISFET10は、ノーマリーオフ型のトランジスタとして機能する。ゲート電極11に閾値以上の電圧を印加すると、ボディ領域17のゲート電極11下の領域にチャネルが形成され、ソース電極12からドレイン電極13へ電流が流れるようになる。 [0018] n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3は、α-Al_(2)O_(3)基板2上に形成されたα-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)(0≦x<1)の単結晶膜である。n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3は、Sn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Ru、Rh、Ir、C、Si、Ge、Pb、Mn、As、Sb、Bi、F、Cl、Br、I等のn型ドーパントを含む。n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3は、例えば、1×10^(15)/cm^(3)以上、1×10^(19)/cm^(3)以下の濃度のn型ドーパントを含む。また、n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3の厚さは、例えば、0.01?10μmである。」 (イ)上記(ア)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「α-Al_(2)O_(3)基板2上に形成されたn型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)(0≦x<1)の単結晶膜3であって、 厚さは、例えば、0.01?10μmである、n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)(0≦x<1)の単結晶膜3。」 イ 引用文献2 (ア)同じく原査定に引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2015-17027号公報(平成27年1月29日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。 「【0018】 本発明者らは、従来のアルミニウムアセチルアセトナートを少量添加して、格子点上にアルミニウム原子が存在する酸化物結晶からなる薄膜を作成した。このような酸化物結晶について、本発明者らが発見したのは、インジウム原子とガリウム原子の合計に対して格子点上のアルミニウム原子の原子比が0より大きく且つ2.9%以下であるという非常に少ない量であっても、アルミニウム原子がα相からβ相への相転移を抑制する効果を有しているということである。このような少量のアルミニウム原子が相転移抑制効果を示すことは従来知られていなかった。 【0019】 従って、アルミニウム原子は、格子点間の隙間に存在する場合には極めて優れた相転移抑制効果を示すが、格子点上に存在する場合でも相転移抑制効果をある程度示すことが本発明者らによって明らかにされた。 【0020】 また、2.9%以下といった少量のアルミニウム原子ではバンドギャップの幅などの結晶物性に与える影響はあまり大きくないので、本発明によれば、インジウム原子及びガリウム原子の一方又は両方を含むコランダム構造酸化物結晶の本来の結晶物性をほぼ維持したまま、相転移が起こりにくい酸化物結晶が得られる。」 「【0024】 インジウム原子及びガリウム原子の一方又は両方を含むコランダム構造酸化物結晶のコランダム構造を形成する格子点上の原子の組成の例は、一般式(1)の通りである。 一般式(1): In_(X)Al_(Y)Ga_(Z)O_(3)(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5?2.5であり、0<X又は0<Zである。)」 「【0029】 格子点上に存在するアルミニウム原子の原子比は、特に限定されないが、インジウム原子とガリウム原子の合計に対して0より大きく且つ2.9%以下であることが好ましい。このような少量のアルミニウム原子ではバンドギャップの幅などの結晶物性に与える影響はあまり大きくないので、本実施形態によれば、インジウム原子及びガリウム原子の一方又は両方を含むコランダム構造酸化物結晶の本来の結晶物性をほぼ維持したまま、相転移が起こりにくい酸化物結晶が得られる。アルミニウム原子の原子比は、具体的には例えば、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。アルミニウム原子の原子比は、厳密にはSIMS測定によって決定することができるが、X線回折のピークからも近似的に算出することができる。」 (イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる。 「ガリウム原子を含むコランダム構造酸化物結晶のコランダム構造を形成する格子点上の原子の組成において、 格子点上に存在するアルミニウム原子の原子比は、0より大きく且つ2.9%以下であることが好ましく、具体的には例えば、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9%である、技術」 「少量であっても、格子点上のアルミニウム原子がα相からβ相への相転移を抑制する技術」 ウ 引用文献4 (ア)本願の出願前に頒布された刊行物である、金子健太郎,コランダム構造酸化ガリウム系混晶薄膜の成長と物性(Dissertation_全文),京都大学博士論文,日本,京都大学,2013年 3月25日,第50?54、93頁,https://doi.org/10.14989/doctor.k17573(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。 「・・・<略>・・・ さらに、Al組成が55%(審決注:図3.5より、「%」は「55%」の誤記と認定した。)のサンプルにおいて、1-104ピークにおける非対称面のXRD測定を行った(図3.5)。3回対称の回折面に起因する3つのピークが確認され、さらにα-Ga_(2)O_(3)薄膜で確認された結晶格子がc軸を回転軸として30°回転したドメインのピークが確認されず、面内、面外のX線回折測定結果から、完全な単結晶薄膜である事が分かった。さらに、下地基板であるサファイア(α-Al_(2)O_(3))に対して、面内方向においても1-104方向に成長しているため、α-(Al_(0.55)Ga_(0.45))_(2)O_(3)薄膜はサファイア基板に対して完全なエピタキシャル成長をしている事を示している。 ・・・<略>・・・ 図3.5 α-(Al_(0.55)Ga_(0.45))_(2)O_(3)薄膜とサファイア基板の1-104ピークにおける非対称面X線回折測定プロファイル」(54頁) 「・・・<略>・・・ 第2章、第4章で示したように、c面サファイア基板上に作製したα-Ga_(2)O_(3)、α-Fe_(2)O_(3)薄膜はc軸方向におけるXRDωスキャンによるロッキングカーブ測定の半値幅値が50 arcsec以下と非常にc軸配向性が高い薄膜であった。それらの混晶薄膜を作製した場合のc軸配向性について、作製した全混晶薄膜について同様の測定手法により評価を行った。また、断面SEM観察により作製したα-Ga_(2)O_(3)薄膜の膜厚は0.7 μm、α-Fe_(2)O_(3)薄膜の膜厚は0.5 μmであり、膜厚に大きな違いがないため半値幅値をそのまま比較した。 ・・・<略>・・・」(93頁) (イ)上記記載から、引用文献4には、次の技術が記載されていると認められる。 「α-(Al_(0.55)Ga_(0.45))_(2)O_(3)薄膜は、完全な単結晶薄膜であり、c軸を回転軸として30°回転したドメインのピークが確認されず、サファイア基板に対して完全なエピタキシャル成長をしている技術」 「α-Ga_(2)O_(3)薄膜の膜厚は0.7 μmである技術」 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明は、「n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)(0≦x<1)の単結晶膜3」であるところ、「n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)(0≦x<1)の単結晶膜3」は、アルミニウム及びガリウムを含む結晶性酸化物半導体膜であるから、本件補正発明と引用発明とは、「アルミニウムおよびガリウムを少なくとも含有する酸化物半導体を主成分として含む結晶性酸化物半導体膜」の点で一致する。 (イ)引用発明は、「厚さは、例えば、0.01?10μm」であり、本件補正発明の「膜厚が700nm以上」と範囲が重なることから、本件補正発明と引用発明とは、「膜厚が700nm以上である」点で共通する。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「アルミニウムおよびガリウムを少なくとも含有する酸化物半導体を主成分として含む結晶性酸化物半導体膜であって、膜厚が700nm以上である結晶性酸化物半導体膜。」 【相違点1】 「結晶性酸化物半導体膜」について、本件補正発明は、「膜中の金属元素中のアルミニウム濃度が1原子%以上であ」るのに対し、引用発明は、「n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)(0≦x<1)の単結晶膜3」の膜中のアルミニウム濃度xについてそのように特定されていない点。 (4)判断 以下、相違点について検討する。 ア 相違点1について 引用文献2には、上記(2)イ(イ)のとおり、「ガリウム原子を含むコランダム構造酸化物結晶のコランダム構造を形成する格子点上の原子の組成において、 格子点上に存在するアルミニウム原子の原子比は、0より大きく且つ2.9%以下であることが好ましく、具体的には例えば、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9%である、技術」が記載されており、「ガリウム原子を含むコランダム構造酸化物結晶」に含まれる格子点上に存在するアルミニウム原子の原子比は、1%?2.9%の範囲であってもよい技術が示されている。 そして、α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜がコランダム構造であることは技術常識であるから、引用発明と、引用文献2に記載された技術とは、いずれもアルミニウム及びガリウムを含むコランダム構造の結晶性酸化物である点で共通するものであり、引用文献1の段落[0013]には、「高品質なα-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜」と記載されているから、引用発明において、高品質なα相の単結晶膜を形成するために、「少量であっても、格子点上のアルミニウム原子がα相からβ相への相転移を抑制する技術」である引用文献2に記載された技術を参酌し、「n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)(0≦x<1)の単結晶膜3」の膜中のアルミニウム濃度xを1原子%?2.9原子%の範囲から選択するようにすることは、当業者が容易になし得たことである。 また、上記(2)ウ(イ)のとおり、引用文献4には、「α-(Al_(0.55)Ga_(0.45))_(2)O_(3)薄膜は、完全な単結晶薄膜であり、c軸を回転軸として30°回転したドメインのピークが確認されず、サファイア基板に対して完全なエピタキシャル成長をしている技術」とアルミニウム濃度55%の完全な単結晶薄膜が記載されており、引用発明において、高品質な単結晶膜を形成するために、「n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)(0≦x<1)の単結晶膜3」に含まれる膜中のアルミニウム濃度xを引用文献4のように1原子%よりも大きい値を選択するようにすることは、当業者が容易になし得たことである。 イ 請求人の主張について (ア)請求人は、審判請求書の「4-1-1.」において、「この問題に対し、ミストCVD装置を改良した旋回流ミストCVD法(特許第6478103号)を開発して、アルミニウムおよびガリウムを少なくとも含有する酸化物半導体を主成分として含む結晶性酸化物半導体膜の成膜に適用し、その結果、世界で初めて、アルミニウムおよびガリウムを少なくとも含有する酸化物半導体を主成分として含む結晶性酸化物半導体膜であって、膜中の金属元素中のアルミニウム濃度が1原子%以上であり、膜厚が700nm以上である結晶性酸化物半導体膜の成膜に成功し、本発明がなされました。」、「本発明の結晶性酸化物半導体膜は、従来の方法で成膜された結晶性酸化物半導体膜とは異なり、半導体装置に有用な、良質な結晶性酸化物半導体膜であるという顕著な効果を奏します。」と主張している。他にも、審判請求書の「4-1-3.」や「4-1-4.」において、「旋回流を用いた成膜方法」について主張している。 しかしながら、本件補正発明は「物の発明」であって「製造方法の発明」ではないから、「旋回流を用いた成膜方法」に関する主張は、本件補正発明に基づいたものではない。また、本件補正発明には、結晶性酸化物半導体膜の結晶構造についての特定がなく、回転ドメインや反りが低減されていない場合を包含するものであり、「半導体装置に有用な、良質な結晶性酸化物半導体膜であるという顕著な効果を奏」するという主張は、本件補正発明に基づいたものではない。 したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 (イ)請求人は、審判請求書の「4-1-2.」において、「引用文献1には、・・・<省略>・・・引用文献1記載の方法を参照して、アルミニウムおよびガリウムを少なくとも含有する酸化物半導体を主成分として含む結晶性酸化物半導体膜であって、膜中の金属元素中のアルミニウム濃度が1原子%以上であり、膜厚が700nm以上である結晶性酸化物半導体膜を成膜することは困難です。」、「引用文献1には、p型についての発明が請求項2や請求項4等に記載されていますが、引用文献1の出願後、最近になって、このようなp型のものができないことを、引用文献1の出願人自らが積極的に公開しています。・・・<省略>・・・つまり、引用文献1の出願人や発明者自らが引用文献1記載の発明内容を積極的に否定していることからも、引用文献1が引用文献としての適格性に欠けることは明らかで、審査官殿のご指摘(i)が不当であると思料いたします。」と主張している。 しかしながら、上記(2)ア(ア)のとおり、引用文献1の段落[0018]には、「また、n型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3の厚さは、例えば、0.01?10μmである。」と記載されており、上記(2)ア(イ)、(3)ア(イ)のとおりであるから、引用文献1に記載された発明に基づいて、結晶性酸化物半導体膜を膜厚が700nm以上とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。また、上記主張のとおり、仮に、引用文献1のp型についての記載が実施できないことが引用文献1の出願人によって公開されているとしても、引用文献1の段落[0018]のn型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3についての記載内容を否定する根拠とはなり得ない。 したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 (ウ)請求人は、審判請求書の「4-1-4.」において、「引用文献4はα-(Al_(0.55)Ga_(0.45))_(2)O_(3)薄膜の膜厚について何ら記載しておらず、アルミニウムおよびガリウムを少なくとも含有する酸化物半導体を主成分として含む結晶性酸化物半導体膜であって、膜中の金属元素中のアルミニウム濃度が1原子%以上であり、膜厚700nm以上であることを特徴とする結晶性酸化物半導体膜については一切記載されておりません。」、「上記課題等についても一切記載されておらず、引用文献4記載の方法を参照して、アルミニウムおよびガリウムを少なくとも含有する酸化物半導体を主成分として含む結晶性酸化物半導体膜であって、膜中の金属元素中のアルミニウム濃度が1原子%以上であり、膜厚が700nm以上である結晶性酸化物半導体膜を成膜することは困難です。」と主張している。 しかしながら、上記(2)ウ(ア)のとおり、引用文献4のα-(Al_(0.55)Ga_(0.45))_(2)O_(3)薄膜は、「α-Ga_(2)O_(3)薄膜」では含まれていることが確認された回転したドメインを含まず、サファイア基板に対して完全なエピタキシャル成長している(54頁)旨の記載から、技術常識に照らすと、α- (Al_(0.55)Ga_(0.45))_(2)O_(3)薄膜は、「α-Ga_(2)O_(3)薄膜」よりも結晶性がよいことが示唆されているといえる。そして、上記(2)ウ(ア)のとおり、引用文献4の93頁には、「α-Ga_(2)O_(3)薄膜の膜厚は0.7 μm」と記載されているから、「α-Ga_(2)O_(3)薄膜」よりも結晶性がよいアルミニウム及びガリウムを含む結晶性酸化物半導体膜において、膜厚を「α-Ga_(2)O_(3)薄膜」の膜厚「0.7 μm」以上である、「0.7μm以上」とすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。 このため、請求人の上記主張を採用することはできない。 ウ 効果について 本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2又は4に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 (5)判断についてのまとめ 以上検討したとおりであるから、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2又は4に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和 元年12月17日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成31年 4月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-6に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:国際公開第2013/035843号 引用文献2:特開2015-17027号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「結晶性酸化物半導体膜」に係る限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-08-24 |
結審通知日 | 2020-08-25 |
審決日 | 2020-09-14 |
出願番号 | 特願2015-35939(P2015-35939) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山本 一郎、綿引 隆 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
脇水 佳弘 ▲吉▼澤 雅博 |
発明の名称 | 結晶性酸化物半導体膜、半導体装置 |