• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1367768
審判番号 不服2018-15623  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-26 
確定日 2020-11-05 
事件の表示 特願2017- 85189「処理装置、処理プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月21日出願公開、特開2017-165103〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年7月11日に出願した特願2011-152614号(以下、「最先出願」という。)の一部を、平成28年3月14日に新たな特許出願として出願した特願2016-49699号の一部を、平成29年4月24日に新たな特許出願としたものである。
そして、平成30年3月27日付けの拒絶理由の通知に対し、同年5月31日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年11月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、その後、令和1年12月10日付けで当審により拒絶理由の通知がされ、令和2年2月17日に意見書及び手続補正書が提出され、同年4月20日付けで当審により拒絶理由(最後)の通知がされ、令和2年6月19日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 令和2年4月20日付けで当審により通知された最後の拒絶理由(以下、「本件当審拒絶理由」という。)の概要
1 理由1(明確性)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1には、「移動体が当該処理装置の前を通過したとみなされた場合」と記載されているが、移動体が処理装置の前を通過したとみなす主体が何であるのかを特定することができないから、請求項1に係る発明は明確でない。請求項1を直接または間接的に引用する請求項2、3についても同様の点が指摘される。

(2)請求項1には、「一の熱検出手段が移動体を検出可能な最大距離」と記載されているが、当該語句により、移動体の「熱」が検出可能である最大距離を特定しようとしているのか、移動体「自体」が検出可能である最大距離を特定しようとしているのかが明らかでないから、請求項1に係る発明は明確でない。請求項1を直接または間接的に引用する請求項2、3についても同様の点が指摘される。

(3)請求項1には、「移動体が当該処理装置に触れて操作をすることが可能な距離」と記載されているが、請求項1において特定されている「移動体」には「人」以外も含まれる概念であることから、当該「移動体」に含まれる、例えば、人である場合と、ロボットである場合にそれぞれ、「触れて操作をすることが可能な距離」は変わるものと考えられる。してみると、「移動体が当該処理装置に触れて操作をすることが可能な距離」という記載によっては、特定しようとする距離が、どの程度のものであるかが明らかでない。
したがって、請求項1に係る発明は明確でない。請求項1を直接または間接的に引用する請求項2、3についても同様の点が指摘される。

(4)請求項3には、「コンピュータを、請求項1又は2記載の処理装置の一部として機能させる処理プログラム」と記載されているところ、ここでの「一部」が、請求項1又は2記載の処理装置のうちのいずれの手段を特定しているのかが特定できないから、請求項3に係る発明は明確でない。(「コンピュータを、請求項1または2記載の処理装置の制御手段として機能させる処理ブログラム。」ではないか。)
以上のことから、特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 理由2(実施可能要件)

この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1に係る発明は、「前記素子が熱を検出し且つ移動体が当該処理装置の前を通過したとみなされた場合、前記第2の状態の当該処理装置を前記第1の状態へ切り替えずに前記第2の状態を維持するように制御する制御手段」を備えるものである。
これに対して、発明の詳細な説明においては、「【0074】図10(C)は、人を検出(基本パターンと同等)し、前記左から進入した人がそのまま右へ移動すると判定され、対応として、装置に接近せず、検出領域から退出するため、スリープモードが維持されることになる。」及び「【0112】図10(B)「応用パターン2」示される如く、人を検出したが、人が検出領域の左から進入していると判定された後、図10(C)「応用パターン2」に示される如く、前記左から進入した人がそのまま右へ移動した場合、単なる素通りと判定し、スリープモードを維持する。」と記載されているように、左から右への移動を検出した場合において、「移動体が当該処理装置の前を通過したとみなされた場合」とすることのみが記載されており、当該記載からは、装置の前を横切るという移動を検出した場合に「移動体が当該処理装置の前を通過したとみなす」ことは記載されているものの、それ以外にいかなる条件が満たされたときに、「移動体が処理装置の前を通過したとみなされる」のかについては記載されていない。
してみると、当業者は、「移動体が処理装置の前を通過したとみなされる」場合をどのように制御手段に判断させるのかについてどのように実施をすればよいのかを理解することができない。
したがって、発明の詳細な説明には、移動体が当該処理装置の前を通過したとみなされた場合と判断することについて、当業者が実施できる程度に記載されているということはできないから、発明の詳細な説明には、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に記載されているということはできない。請求項1を直接または間接的に引用する請求項2、3についても同様の点が指摘される。
以上のことから、請求項1ないし3についての発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 理由3(進歩性)
この出願の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前(最先出願の出願日前)に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1ないし4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開平6-243287号公報
引用文献2:特開平7-192589号公報
引用文献3:特開2001-66186号公報(周知技術を示す文献として引用)
引用文献4:特開平8-123544号公報(周知技術を示す文献として引用)


第3 令和2年6月19日に提出された手続補正書による補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年6月19日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正は、本願の特許請求の範囲の請求項1を補正する補正を含むものであり、本件補正による請求項1の補正はつぎのとおりのものである。

(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「第1の状態と、前記第1の状態よりも電力供給元からの電力供給量の少ない第2の状態とを、有する処理装置であって、
熱を検出する複数の素子が二次元に配置され、人の熱を検出し、前記素子のうち予め定められた温度以上の熱を検出した素子が示す二次元の領域の分布が変化する、一の熱検出手段と、
前記一の熱検出手段が検出した検出結果によって、前記人の動作状態を判定する検出結果判定部を備え、前記素子が熱を検出し且つ人が装置の前を横切るという移動を検出したと前記検出結果判定部がみなした場合、前記第2の状態の当該処理装置を前記第1の状態へ切り替えずに前記第2の状態を維持するように制御する制御手段と、
を有し、
前記一の熱検出手段が人の熱を検出可能な最大距離は、人が当該処理装置に触れて操作をすることが可能な距離を超えるものである、処理装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年2月17日に提出された手続補正書における特許請求の範囲の請求項1の記載は以下のとおりである。
「第1の状態と、前記第1の状態よりも電力供給元からの電力供給量の少ない第2の状態とを、有する処理装置であって、
熱を検出する複数の素子が二次元に配置され、移動体の熱を検出し、前記素子のうち予め定められた温度以上の熱を検出した素子が示す二次元の領域の分布が変化する、一の熱検出手段と、
前記素子が熱を検出し且つ移動体が当該処理装置の前を通過したとみなされた場合、前記第2の状態の当該処理装置を前記第1の状態へ切り替えずに前記第2の状態を維持するように制御する制御手段と、
を有し、
前記一の熱検出手段が移動体を検出可能な最大距離は、移動体が当該処理装置に触れて操作をすることが可能な距離を超えるものである、処理装置。」

2 補正の目的について
(1)補正事項の認定
本件補正により、本件補正前の請求項1において、「一の熱検出手段」が熱を検出する対象が、「移動体」とされていたものが、本件補正後の請求項1においては、「人」であるとされ(以下、「補正事項1」という。)、本件補正後の請求項1においては、「前記一の熱検出手段が検出した検出結果によって、前記人の動作状態を判定する検出結果判定部を備え」との事項が追加され(以下、「補正事項2」という。)、本件補正前の請求項1において、「制御手段」が「前記第2の状態の当該処理装置を前記第1の状態へ切り替えずに前記第2の状態を維持するように制御する」条件が、「前記素子が熱を検出し且つ移動体が当該処理装置の前を通過したとみなされた場合」とされていたものが、本件補正後の請求項1においては、「前記素子が熱を検出し且つ人が装置の前を横切るという移動を検出したと前記検出結果判定部がみなした場合」とされ(以下、「補正事項3」という。)、本件補正前の請求項1において、「一の熱検出手段」の「検出可能な最大距離」における「検出」の対象が、「移動体」とされていたものが、本件補正後の請求項1においては、「人の熱」とされ(以下、「補正事項4」)という。)、本件補正前の請求項1において、「当該処理装置に触れて操作をする」主体が、「移動体」とされていたものが、本件補正後の請求項1においては、「人」とされた(以下、「補正事項5」という。)。

(2)補正事項についての検討
特許法第17条の2第5項の規定によれば、拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知の指定期間内にする特許請求の範囲についての補正は、請求項の削除(第1号)、特許請求の範囲の減縮(第2号)、誤記の訂正(第3号)、明りようでない記載の釈明(第4号)のいずれかを目的とするものに限られているから、本件当審拒絶理由に対する本件補正の各上記補正事項1ないし5は、それぞれ、これらのいずれかを目的とするものに限られる。

ア 補正事項1について
補正事項1は、本件補正前の請求項1の「処理装置」が有する「一の熱検出手段」が熱を検出する対象である「移動体」について限定するものであり、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 補正事項2について
補正事項2は、本件当審拒絶理由の理由1の(1)において、移動体が処理装置の前を通過したとみなす主体が何であるのかを特定することができない、と指摘されたことに対して、当該主体が「検出結果判定部」であることを明確としたものであると認められるから、特許法第17条の2第5項第4号に規定する明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、補正事項2は、特定されていなかった主体を特定したのであるから、同項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。

ウ 補正事項3について
補正事項3は、本件当審拒絶理由の理由2の(1)において、発明の詳細な説明には、移動体が装置の前を横切るという移動を検出した場合に、「移動体が処理装置の前を通過したとみなす」ことが記載されているのみで、それ以外にいかなる条件が満たされた場合に「移動体が処理装置の前を通過したとみなす」のかについて記載されていない、と指摘されたことに基づいてなされたものであると認められるから、特許法第17条の2第5項第4号に規定する明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、補正事項3は、「前記素子が熱を検出し且つ移動体が当該処理装置の前を通過したとみなされた場合」とされていたものを本件補正後においては、「前記素子が熱を検出し且つ人が装置の前を横切るという移動を検出したと前記検出結果判定部がみなした場合」としたのであるから、同項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。

エ 補正事項4について
補正事項4は、本件補正前の請求項1の「処理装置」が有する「一の熱検出手段」の「検出可能な最大距離」における「検出」の対象である「移動体」について限定するものであり、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、補正事項4は、本件当審拒絶理由の理由1の(2)において、移動体の「熱」が検出可能である最大距離を特定しようとしているのか、移動体「自体」が検出可能である最大距離を特定しようとしているのかが明らかでない、と指摘されたことに基づいてなされたものであるとも認められるから、同第4号に規定する明りようでない記載の釈明を目的とするものにも該当する。

オ 補正事項5について
補正事項5は、本件補正前の請求項1の「処理装置」が有する「一の熱検出手段」について、当該「一の熱検出手段」が「検出可能な最大距離」を特定するための「移動体が当該処理装置に触れて操作をすることが可能な距離を超える」との事項における、「当該処理装置に触れて操作をする」主体である「移動体」について限定するものであり、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、補正事項5は、本件当審拒絶理由の理由1の(3)において、「移動体が当該処理装置に触れて操作をすることが可能な距離」という記載によっては、特定しようとする距離がどの程度のものであるかが明らかでない、と指摘されたことに基づいてなされたものであるとも認められるから、同5項第4号に規定する明りようでない記載の釈明を目的とするものにも該当する。

(3)補正の目的についての小括
上記(2)アないしオにおいて検討したように、補正事項1ないし5のそれぞれは、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮、又は、同項第4号に規定する明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
してみると、本件補正における請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
上記2(3)のとおり、本件補正における請求項1の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1(1)」に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)本件当審拒絶理由で引用された、本願の出願前(最先出願の出願日前)に頒布された刊行物である引用文献1(特開平6-243287号公報)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付したものである。以下同じである。)。
a 「【0036】1.9 電装制御部
図5(a),(b)は複写機の制御ユニットを示すブロック図、図6(a),(b)は複写システム全体の制御ブロック図である。図5において制御ユニットは2つのCPUを有しており、CPU(a)200はシーケンス関係の制御、CPU(b)201はオペレーション関係の制御をそれぞれ行っている。CPU(a)200とCPU(b)201とは、シリアルインターフエース(RS232C)によって接続されている。また、図5において、202は画像制御回路、203は信号切換ゲートアレイ、204は操作部ユニット、205はエディター、206はスキャナ制御回路、207はページメモリ、208は画像処理ユニット、209はカレンダIC、210はアプリケーションシステム、211はレーザビームスキャナユニットである。
【0037】図6において、上記と同一個所には同一符号を付す他、220はメイン制御板、221は給紙制御板、222はソータ制御板、223は両面制御板、224はADF制御板である。」

b 図6からは、「人体検出センサ225」、「メイン制御板220」、「定着ヒータ」、「人体検出センサ225」を始点として「メイン制御板220」に繋がる矢印、「メイン制御板220」を始点として「ACドライブ板」を介して「定着ヒータ」に繋がる矢印が看て取れる。

c 「【0106】1.10 人体検知センサ
図6の全体ブロックに示すように、メイン制御板220には、人体検知センサ225が接続されている。これは、複写機のオペレータが複写機の前に存在するか否かを検出するものである。設置場所は、複写機の操作部、または表示部、原稿台、前側面近傍である。このセンサ225は、赤外線発光ダイオードとフォトトランジスタで組み合わされた、反射型センサである。このセンサ225によって、例えば、複写機の予熱(機械を使用しないとき定着温度を下げて節電する)制御のオン・オフや、ガイダンス説明のコントロール、音声ガイダンスのオン・オフ、機械動作制御の判断等に使われる。
【0107】オペレータが存在するか否かの判断は、次のように行う。反射型の人体検出センサ225は、反射物体がセンサから距離で1m前後以内でオンするようになっている。センサ225の出力を直接、オペレータの存在信号にすると、複写機の前を人間が通過した場合も、瞬間的にオペレータが存在と検出してしまうため、センサ出力が、ある一定時間連続してオンならば、オペレータが存在すると判断する。このある一定時間は、一般に500msecから800msecである。また、この時間はCPUによるタイマーでソフト的に作られても良いし、センサ225のハードで信号遅延を行ってもよい。」

d 上記b、cにおいて、「人体検知センサ225」、「人体検出センサ225」及び「センサ225」との用語が混在しているが、これらが同じものを示していることは明らかである。(以下、「人体検知センサ225」という用語に統一する。)

e 上記bに関し、図6は「複写システム全体における制御ブロック図」を示すものであるから、技術常識に照らして、図6に記載される矢印の始点側が信号を出力する側で、矢印の終点側が信号が入力される側であることは、明らかである。してみると、図6には、人体検知センサ225の出力が、メイン制御板220に出力され、メイン制御板220からの出力が、ACドライブ板を介して定着ヒータに入力されることが記載されているといえる。このことと、上記cにおける、人体検知センサ225が、複写機の予熱(機械を使用しないとき定着温度を下げて節電する)制御のオン・オフに使われるものであるとの記載を踏まえれば、メイン制御板220が、人体検知センサ225の出力に基づいて、定着ヒータの制御、すなわち、複写機の予熱制御のオン・オフをするものであることは明らかである。
したがって、引用文献1には、予熱制御のオン・オフがされる複写機が記載されているといえる。

(イ)上記(ア)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「予熱(機械を使用しないとき定着温度を下げて節電する)制御のオン・オフがされる複写機であって、
前記複写機の操作部に設置され、前記複写機のオペレータが前記複写機の前に存在するか否かを検出し、前記制御のオン・オフの判断に使われるものであって、赤外線発光ダイオードとフォトトランジスタで組み合わされた反射型センサからなり、反射物体がセンサから距離で1m前後以内でオンするようになっている、人体検知センサ225を有し、
人体検知センサ225の出力を直接、前記オペレータの存在信号にすると、複写機の前を人間が通過した場合も、瞬間的に前記オペレータが存在すると検出してしまうため、センサ出力が、ある一定時間連続してオンならば、前記オペレータが存在すると判断する、
複写機。」

イ 引用文献2
(ア)本件当審拒絶理由で引用された、本願の出願前(最先出願の出願日前)に頒布された刊行物である引用文献2(特開平7-192589号公報)には、次の事項が記載されている。
a 「【0022】図1において、1は焦電型薄膜素子群からなる熱画像検出装置であり、1次元に配列された焦電型薄膜素子を一体として走査することにより2次元熱画像を得るものである。このように焦電体を薄膜にすることで、高感度及び高応答性が得られるため、2次元熱画像検出装置に適している。また、2は熱画像検出装置1からの信号によりテープレコーダ3及びスピーカー4の動作を制御する制御部である。5は展示物である。
【0023】次に以上の構成についてその動作を説明する。熱画像検出装置1は展示物5の前のある一定領域の温度分布を計測している。今、観覧者である人が展示物5の前、すなわち熱画像検出装置1の視野内に現れると、それまで熱画像検出装置1が検知していた床等の温度と人の温度が異なるため、熱画像に変化を生じる。そして、この信号に基ずき制御部2がテープレコーダ3の動作を開始させ、スピーカー4より説明音声を流したり、展示物5の説明等を開始させる。」

b 「【0028】次に上記構成についてその動作を説明する。今、観覧者7a,7bである人が展示物5の前、すなわち熱画像検出装置1の視野内に現れると、熱画像検出装置1は人から発せられる赤外線により熱画像に変化を生じ、人物判定手段6に情報を送る。この情報は図4に示す熱画像であり、適当な処理により周囲と異なる温度領域が9a、9bで示す画素領域の様に浮かび上がる。そして、図3にあるように、この領域の大きさ及び形状等より、これが人であるかどうかを判定する。そして、人であると判定すると制御部2に信号を送り、テープレコーダ3及びスピーカー4の動作を開始させて、展示物5の説明等が開始される。」

c 「【0034】上記構成において、図4に示す熱画像により、まず、この領域の大きさ及び形状等よりこれが人であるかどうかを判定する。そして、人であると判定するとその領域の熱画像上での画素からその人の位置が所定領域にあるか否かにより、展示物5に興味があるか否かを判定して制御部2に信号を送り、テープレコーダ3及びスピーカー4の動作を開始させて展示物5の説明等が開始される。従って、図4の9bのように全身が熱画像に映り込まない場合(図2におけう7bに対応)は、説明等が必要でないという判定を下し、この場合は説明等を停止させたままの状態にする。」

d 「【0037】また、本実施例においては、人物判定手段で人の位置の判定を設けたがこれに限らず、図6に示すようにこれに人の位置の変化からその人の展示物に対し、興味のあるか否かを判定して制御部に信号を送ることも考えられ、この場合、熱画像を連続的に、または十分短い時間間隔で間欠的に取り込んだ熱画像から人と判別された領域の動きを調べ、動きが展示物の前で止まらない場合は説明等が不要であると判定することにより、たまたま熱画像検出装置の視野内を横切ったような場合を排除することができる。」

e 図6には、「本発明の第3の実施例の人物判定手段のフローチャート」が示されているところ、図6からは、熱画像を検出し、次に「人か否か?」の判定をし、当該判定がYesの場合には次に「人の位置が所定領域内か?」の判定をし、当該判定がYesの場合には次に「人の位置の変化量が所定値以内か?」の判定をし、当該判定がYesの場合には「説明開始」をすることが看て取れる。

(イ)上記(ア)から、引用文献2には、次の技術が記載されているものと認められる。
「1次元に配列された焦電型薄膜素子を一体として走査することにより2次元熱画像を得る焦電型薄膜素子群からなる熱画像検出装置1により、展示物5の前のある一定領域の温度分布を計測し、
周囲と異なる温度領域として浮かび上がった画素領域の大きさ及び形状より、これが人か否かの判定をし、
人であると判定すると、前記画素領域の熱画像上での画素から、人の位置が所定領域内か否かの判定をし、
所定領域内であると判定すると、連続的に、または十分短い時間間隔で間欠的に取り込んだ熱画像から人と判別された前記画素領域の動きを調べ、人の位置の変化量が所定値以内か否かの判定をし、人の位置の変化量が所定値以内であると判定した場合のみ、展示物5の説明を開始することにより、前記人と判別された画素領域の動きが展示物5の前で止まらない場合は展示物5の説明等が不要であるとして、たまたま熱画像検出装置の視野内を横切ったような場合を排除することができる、
技術。」

(3)本件補正発明と引用発明の対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)後者の「(予熱制御の)オフ」、「予熱制御のオン」、「複写機」及び「オペレータ」は、それぞれ、前者の「第1の状態」、「前記第1の状態よりも電力供給元からの電力供給量の少ない第2の状態」、「処理装置」及び「人」に相当する。

(イ)前者の「処理装置」と後者の「複写機」は、「第1の状態と、前記第1の状態よりも電力供給量の少ない第2の状態とを、有する」点においても一致する。

(ウ)後者の「フォトトランジスタ」は、「赤外線発光ダイオード」と組み合わされて「前記複写機のオペレータが前記複写機の前に存在するか否かを検出」する「反射型センサ」を構成するものであるから、「複写機の前に存在する」「オペレータ」によって反射された「赤外線」を検出するものであることが明らかである。したがって、後者の「フォトトランジスタ」は、「人の信号を検出する素子」である点で前者の「素子」と一致する。

(エ)後者の「人体検知センサ225」は、「フォトトランジスタ」を含むセンサであり、「オペレータが前記複写機の前に存在するか否かを検出するもの」であるため、「人の信号を検出する素子」が配置され、「人の信号を検出する一の検出手段」である点において、前者の「一の熱検出手段」と一致する。

(オ)後者の「人体検知センサ225」は、「オペレータが前記複写機の前に存在するか否かを検出するもの」であって、「反射物体がセンサから距離で1m前後以内でオンするようになっている」ものであるから、後者の「人体検知センサ225」がオペレータを検出可能な最大距離は、「1m前後」である。そして、「1m前後」が、後者の「オペレータ」が「複写機の操作部」に触れて操作をすることが可能な距離を超えるものであることは明らかである。(本願の発明の詳細な説明の段落【0083】には、「一方、第2の人感センサ30の検出領域(図6の第2の領域N)参照)は、画像処理装置10のUIタッチパネル216やハードキーの操作が可能な範囲であり、目安として0?0.5m程度である。」と記載されている。)
してみると、後者の「人体検知センサ225」は、「人の信号を検出可能な最大距離は、人が当該処理装置に触れて操作をすることが可能な距離を超えるものである、一の検出手段」である点においても、前者の「一の熱検出手段」と一致する。

(カ)後者の「(人体検知センサ225の)出力」、「オペレータが存在すると判断する」及び「複写機の前を人間が通過した」は、それぞれ、前者の「検出した検出結果」、「人の状態を判定する」及び「人が装置の前を横切るという移動」に相当する。

(キ)後者の「複写機」は、「人体検知センサ225の出力を直接、前記オペレータの存在信号にすると、複写機の前を人間が通過した場合も、瞬間的に前記オペレータが存在すると検出してしまうため、センサ出力が、ある一定時間連続してオンならば、前記オペレータが存在すると判断する」ものであるから、後者の「複写機」は、「人体検知センサ225」の「フォトトランジスタ」が「オペレータ」によって反射された「赤外線」を検出して「センサ出力」がされても、「センサ出力が、ある一定時間連続してオン」でないときに、複写機の前をオペレータが通過したものとみなして、オペレータが存在しないと判断するものであるといえる。また、節電の観点から、オペレータが存在しないときに複写機の予熱(定着温度を下げる)制御をすべきであることは技術常識であるから、オペレータの存否を判断する後者の「複写機」が、オペレータが存在しないと判断したときに予熱制御のオンからオフへの切り替えを行わないことは、自明な事項である。
してみると、後者の「複写機」は、「一の検出手段が検出した検出結果によって、前記人の状態を判定する検出結果判定部を備え、前記素子が信号を検出し且つ人が装置の前を横切るという移動をしたと前記検出結果判定部がみなした場合、前記第2の状態の当該処理装置を前記第1の状態へ切り替えずに前記第2の状態を維持するように制御する制御手段」の機能を有する点において、前者の「処理装置」と一致する。

イ 上記アにおいて検討したことからすれば、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「第1の状態と、前記第1の状態よりも電力供給量の少ない第2の状態とを、有する処理装置であって、
人の信号を検出する素子が配置され、人の信号を検出する一の検出手段と、
前記一の検出手段が検出した検出結果によって、前記人の状態を判定する検出結果判定部を備え、前記素子が信号を検出し且つ人が装置の前を横切るという移動をしたと前記検出結果判定部がみなした場合、前記第2の状態の当該処理装置を前記第1の状態へ切り替えずに前記第2の状態を維持するように制御する制御手段と、
を有し、
前記一の検出手段が人の信号を検出可能な最大距離は、人が当該処理装置に触れて操作をすることが可能な距離を超えるものである、処理装置。」

<相違点1>
本件補正発明の「一の熱検出手段」は、素子が検出する人の信号が「熱」であり、「複数の」素子が「二次元に」配置されるものであり、「前記素子のうち予め定められた温度以上の熱を検出した素子が示す二次元の領域の分布が変化する」ものであるのに対し、引用発明の「人体検知センサ225」は、フォトトランジスタが検出するオペレータの信号が「反射された赤外線」であり、フォトトランジスタが「複数」「二次元に」配置されるものでなく、「前記素子のうち予め定められた温度以上の熱を検出した素子が示す二次元の領域の分布が変化する」ものでもない点。

<相違点2>
本件補正発明は、人の状態として「動作状態」を判定し、人が装置の前を横切るという移動を「検出した」とみなすのに対し、引用発明は、判定する人の状態が「動作状態」であることを特定せず、また、人間が複写機の前を通過したとみなすに止まり、人間が複写機の前を通過したと「検出した」とみなすことを特定しない点。

(4)判断
ア 相違点1について
(ア)引用発明は、「人体検知センサ225」の出力によりオペレータを検出するが、オペレータが複写機の前を通過する場合に、予熱制御オフにすることを避けようというものであり、引用文献2に記載の技術は、「熱画像検出装置1」の出力により人を検出するが、人が熱画像検出装置1の視野内をたまたま横切った場合を排除し、展示物5に関する不要な説明を避けようというものであるから、両者は、いずれも、センサを用いて人を検出するが、人が単に前を通過した場合には、人がいるときに行う制御の実施を避けようというものである点で、検出の目的が共通している。よって、引用発明と引用文献2に記載された技術の間には、両者を組み合わせる動機付けが存在するというべきである。

(イ)また、2次元熱画像を得る熱画像検出装置として、熱を検出する複数の素子が二次元に配列されたものは、本願出願前(最先出願の出願日前)において周知の技術(以下、「周知技術1」という。)であり、例えば引用文献3(特開2001-66186号公報)の【0016】、【0019】や、引用文献4(特開平8-123544号公報)の【0009】、【0011】に記載されている。

(ウ)してみると、引用発明において、オペレータを検出するためのセンサとして、反射型の「人体検知センサ225」を用い、そのセンサ出力がある一定時間連続してオンでなければオペレータが存在しないとして予熱制御をオフとしないことにかえて、オペレータを検出するためのセンサとして、引用文献2に記載された技術における2次元熱画像を得る「熱画像検出装置1」を用い、連続的に、または十分短い時間間隔で間欠的に取り込んだ熱画像において、大きさ及び形状からオペレータと判定された、周囲と異なる温度領域として浮かび上がった画素領域の動きを調べ、当該画素領域の動きが複写機の前で止まらない場合は予熱制御のオフを不要とするものとすることは、当業者が容易に想到し得ることであり、その際に、2次元熱画像を得る「熱画像検出装置1」を、引用文献2に記載された技術における「1次元に配列された焦電型薄膜素子を一体として走査することにより2次元熱画像を得るもの」にかえて、周知技術1の「熱を検出する複数の素子が二次元に配列されたもの」にすることは、当業者が適宜なし得る設計変更にすぎない。
よって、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項は、引用発明、引用文献2に記載の技術及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。

イ 相違点2について
(ア)引用文献2に記載された技術は、「連続的に、または十分短い時間間隔で間欠的に取り込んだ熱画像から人と判別された前記画素領域の動きを調べ、人の位置の変化量が所定値以内か否かの判定」をするものであるから、「人の位置の変化」という「人の動作状態」を判定している。

(イ)そして、引用文献2に記載された技術は、「人の位置の変化量が所定値以内」でない場合に、展示物5の説明を開始しないことで、「人と判別された画素領域の動きが展示物の前で止まらない場合は展示物5の説明等が不要であるとして、たまたま熱画像検出装置の視野内を横切ったような場合を排除することができる」ものであるから、引用文献2に記載された技術は、熱画像検出装置1により「人の位置の変化量が所定値以内でなかった」ことを検出したことをもって、「人が熱画像検出装置の視野内を横切った」ことを検出したとみなしているものと解される。
してみると、引用文献2に記載された技術は、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項を備えているといえる。

(ウ)また、引用文献2に記載された技術について、上記(イ)のように解されるとまではいえないとしても、引用文献2に記載された技術は、「(人が)たまたま熱画像検出装置の視野内を横切ったような場合を排除」する目的で、「人の位置の変化量が所定値以内か否かの判定」という手段を用いるものであるところ、時系列に連続する画像に基づいて対象物の動きベクトルを検出することが、例えば特開2001-91289号公報の【0025】及び図3や、特開2009-260618号公報の【0036】、図6及び7に記載されるように、本願出願前(最先出願の出願日前)に周知の技術(以下、「周知技術2」という。)であったことを踏まえれば、引用文献2に記載された技術において、「人の位置の変化量が所定値以内か否かの判定」という手段にかえて、人の動きベクトルを検出することで「たまたま熱画像検出装置の視野内を横切った」ことを直接に検知するように変更し、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が適宜なし得た設計変更に過ぎない。

ウ 本件補正発明の作用効果について
上記相違点1及び相違点2を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明1及び引用文献2に記載の技術並びに周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が予測し得る程度のことであって、格別のものということはできない。

エ 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和2年6月19日に提出した意見書の「(4)」の「・理由3」において、「・・・一方、引用文献1の発明は、引用文献1の明細書の段落番号0157に記載のとおり、人体検知センサOFF時(人がいないとき)にも「コピー動作は継続して行」い、「対応のない場合には所定の動作を行うことによりマシンのデッドタイムを少なくすること」を目的としているものです。ここで、引用文献2の発明を引用文献1の発明に適用しようとすると、人がコピー機から離れると、コピー動作は終了してしまい、マシンのデッドタイムを増加させることとなり、引用文献1の発明の目的に反するものとなります。従って、引用文献2の発明を引用文献1の発明に適用することを阻害する事情があります。」(改行は省略した)と主張している。
しかしながら、引用文献1の【0157】に、人体検知センサOFF時(人がいないとき)にも「コピー動作は継続して行」い、「対応のない場合には所定の動作を行うことによりマシンのデッドタイムを少なくすること」が記載されているとしても、それとは離れて、上記(2)ア(ア)に摘記した引用文献1の【0106】及び【0107】の記載事項から、上記(2)ア(イ)に記載したとおりの引用発明が認定できる以上、請求人の主張は、上記判断を左右するものということはできない。

オ 以上検討したように、本件補正発明は、引用発明、引用文献2に記載の技術、周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。


第4 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、令和2年2月17日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記「第3 1(2)「本件補正前の特許請求の範囲」」に記載のとおりのものである。

2 本件当審拒絶理由の理由3(進歩性)について
(1)令和2年4月20日付けで当審が通知した拒絶の理由のうちの理由3の概要は、前記「第2 3「理由3(進歩性)」」に記載のとおりのものである。

(2)引用文献
令和2年4月20日付けで当審が通知した拒絶の理由で引用された引用文献1及び2の記載事項は、前記「第3 3(2)「引用文献の記載事項」」に記載したとおりである。

(3)対比、判断
ア 本願発明は、本件補正発明から、前記「第3 2(1)「補正事項の認定」」において認定した補正事項のうち、補正事項1に係る「移動体」を「人」と限定する限定事項を削除し、補正事項2に係る「前記一の熱検出手段が検出した検出結果によって、前記人の動作状態を判定する検出結果判定部を備え」との事項を削除し、補正事項4に係る(一の熱検出手段の検出可能な最大距離における検出の対象としての)「移動体」を「人の熱」と限定する限定事項を削除し、補正事項5に係る「移動体」を「人」と限定する限定事項を削除し、補正事項3に係る「制御手段」が「前記第2の状態の当該処理装置を前記第1の状態へ切り替えずに前記第2の状態を維持するように制御する」条件である「前記素子が熱を検出し且つ人が装置の前を横切るという移動を検出したと前記検出結果判定部がみなした場合」との条件のうちの一つである「人が装置の前を横切るという移動を検出したと前記検出結果判定部がみなした」との事項を、「移動体が当該処理装置の前を通過したとみなされた」としたものであるから、本件補正発明は、補正事項3に係る本願発明に特有の発明特定事項を除く本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものに相当する。

イ そこで、引用発明が、補正事項3に係る本願発明に特有の発明特定事項を備えているか、すなわち、本願発明の「移動体が当該処理装置の前を通過したとみなされた」ことを、「前記第2の状態の当該処理装置を前記第1の状態へ切り替えずに前記第2の状態を維持するように制御する」条件としているか否かについて検討すると、前記「第3 3(3)ア(キ)」においてした本件補正発明と引用発明の対比によれば、「・・・してみると、後者の「複写機」は、「一の検出手段が検出した検出結果によって、前記人の状態を判定する検出結果判定部を備え、前記素子が信号を検出し且つ人が装置の前を横切るという移動をしたと前記検出結果判定部がみなした場合、前記第2の状態の当該処理装置を前記第1の状態へ切り替えずに前記第2の状態を維持するように制御する制御手段」の機能を有する点において、前者の「処理装置」と一致する。」のであるから、引用発明は、「移動体が当該処理装置の前を通過したとみなされた」ことを、「前記第2の状態の当該処理装置を前記第1の状態へ切り替えずに前記第2の状態を維持するように制御する」条件とする、補正事項3に係る本願発明に特有の発明特定事項を、備えているといえる。

ウ そして、前記「第3 3(3)イ」に記載した本件補正発明と引用発明との相違点2は、補正事項2及び3に係る本件補正発明の発明特定事項により生じるものであるため、本願発明は当該相違点2に係る発明特定事項を有しない。

エ 上記イ及びウにおいて説示した点と、補正事項3に係る本願発明に特有の発明特定事項を除く本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第3 3(4)、(5)」に記載したとおり、引用発明、引用文献2に記載された技術、周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることを踏まえれば、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 本件当審拒絶理由の理由1(明確性)について
(1)上記「第2 1「理由1(明確性)」の(1)ないし(3)に記載したように、請求項1における移動体が当該処理装置の前を通過したとみなされた場合」との記載は、移動体が処理装置の前を通過したとみなす主体が何であるのかを特定することができず、「一の熱検出手段が移動体を検出可能な最大距離」との記載は、移動体の「熱」が検出可能である最大距離を特定しようとしているのか、移動体「自体」が検出可能である最大距離を特定しようとしているのかが明らかでなく、「移動体が当該処理装置に触れて操作をすることが可能な距離」という記載によっては、特定しようとする距離が、どの程度のものであるかが明らかでないことから、本願発明は、明確でない。
してみると、本願の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

3 本件当審拒絶理由の理由2(実施可能要件)について
上記「第2 1「理由2(実施可能要件)」」に記載したように、本願発明は、「前記素子が熱を検出し且つ移動体が当該処理装置の前を通過したとみなされた場合、前記第2の状態の当該処理装置を前記第1の状態へ切り替えずに前記第2の状態を維持するように制御する制御手段」を備えるものである。
これに対して、本願の発明の詳細な説明には、「【0074】図10(C)は、人を検出(基本パターンと同等)し、前記左から進入した人がそのまま右へ移動すると判定され、対応として、装置に接近せず、検出領域から退出するため、スリープモードが維持されることになる。」との記載や、「【0112】図10(B)「応用パターン2」示される如く、人を検出したが、人が検出領域の左から進入していると判定された後、図10(C)「応用パターン2」に示される如く、前記左から進入した人がそのまま右へ移動した場合、単なる素通りと判定し、スリープモードを維持する。」との記載があるから、装置の前を横切るという移動を検出した場合に「移動体が当該処理装置の前を通過したとみなす」判断をすることが発明の詳細な説明に記載されていると認められるものの、装置の前を横切るという移動を検出すること以外にどのような場合に当該判断をするのかが記載されていない。
してみると、当業者は、「移動体が当該処理装置の前を通過したとみなす」判断をどのような判断基準により行えばよいのかという点について、発明の詳細な説明の記載に基づいて理解することができず、また、その点が技術常識ということもできない。
以上検討したように、当業者は「移動体が処理装置の前を通過したとみなされる」場合をどのように制御手段に判断させるのかについてどのように実施をすればよいのかを理解することができないため、本願の発明の詳細な説明は、本願発明において「移動体が当該処理装置の前を通過したとみなされた場合」と判断することについて、当業者が実施できる程度に記載されているということはできない。


第5 むすび
前記「第4 2」のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
また、前記「第4 3」のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。
さらに、前記「第4 4」のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-08-25 
結審通知日 2020-09-01 
審決日 2020-09-18 
出願番号 特願2017-85189(P2017-85189)
審決分類 P 1 8・ 572- WZ (B41J)
P 1 8・ 56- WZ (B41J)
P 1 8・ 537- WZ (B41J)
P 1 8・ 121- WZ (B41J)
P 1 8・ 536- WZ (B41J)
P 1 8・ 575- WZ (B41J)
P 1 8・ 574- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 孝幸  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 尾崎 淳史
河内 悠
発明の名称 処理装置、処理プログラム  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ