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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60R
管理番号 1367790
審判番号 不服2019-9821  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-25 
確定日 2020-11-25 
事件の表示 特願2016-522274号「ミラー代替手段、並びに、車両」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月31日国際公開、WO2014/206406、平成28年 8月 8日国内公表、特表2016-523204号、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)5月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年6月26日 (DE)ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成28年1月5日に補正書が提出され、平成29年12月26日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年4月5日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月5日付けで2回目の拒絶理由通知がされ、同年12月4日に意見書及び誤訳訂正書が提出され、平成31年3月25日付けで2回目の拒絶理由通知による拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、令和1年7月25日に拒絶査定不服の審判の請求がされ、令和2年6月9日付けで拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由」という。)がされ、同年9月7日に意見書及び補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は以下のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」ともいう。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項 1、2、5、12
・引用文献 E、A

・請求項 3、4
・引用文献 E、B、A

・請求項 6?9
・引用文献 E、B、D、A

・請求項 10、11
・引用文献 E、B、D、A、C

刊行物等一覧
引用文献A:特開2012-113605号公報
引用文献B:特開2012-66700号公報
引用文献C:特開2008-15759号公報
引用文献D:特開2007-266930号公報
引用文献E:特開2007-28445号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は,本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項 1、2
・引用文献 1?3

・請求項 3?9
・引用文献 1?4

・請求項 10?12
・引用文献 1?5

刊行物等一覧
引用文献1:特開平7-223487号公報
引用文献2:特開2007-28445号公報(原査定の引用文献E)
引用文献3:特開2012-113605号公報(原査定の引用文献A)
引用文献4:特開2012-66700号公報(原査定の引用文献B)
引用文献5:特開2008-15759号公報(原査定の引用文献C)

第4 本願発明
本願の請求項1?11係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明11」という。)は、令和2年9月7日付けの補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11の記載により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも車両(2)周辺の一部を捕捉し、対応する画像シグナル(4)を供給するように構成された少なくとも1つのカメラ(3-0 ? 3-3)と、
該カメラ(3-0 ? 3-3)と接続され、少なくとも一台のカメラ(3-0 ? 3-3)の画像シグナルを処理し、処理した画像シグナル(6)を出力できるように構成された画像処理手段(5)と、
処理された画像シグナル(6)を表示するように構成された少なくとも1つの表示手段(7-0 ? 7-3)を備え、
画像処理手段(5)が、画像シグナル(4)から画像領域(15-1 ? 15-2)を選択し、選択された画像領域(15-1 ? 15-2)を処理された画像シグナル(6)として出力するように構成された選択手段(14)を有し、
車両(2)が前進している際は、理論的にバックミラー、及び/或いは、サイドミラーによって車両(2)内に表示されるであろう画像領域(15-1 ? 15-2)に対応する画像領域(15-1 ? 15-2)を選択し、車両(2)が、第一速度閾値未満の速度において後進中は、車両(2)周辺部の地面、及び/或いは、縁石を示す画像領域(15-1 ? 15-2)を選択するように、及び/或いは、マークするように、少なくとも1つの前記表示手段(7-0 ? 7-3)上の画像が、前記選択手段(14)によって切り替えられる当該車両(2)用のミラー代替手段(1)において、
該選択手段(14)が、車両(2)の積載状態に応じて、及び/或いは、車両(2)のカーブ走行の状況に応じて、及び/或いは、車両(2)の登坂乃至下り坂の走行状況に応じて、車両(2)の後方の道路を示す画像領域(15-1 ? 15-2)を選択するように構成されている当該ミラー代替手段。
【請求項2】
該少なくとも一台のカメラ(3-0 ? 3-3)が、車両(2)の少なくとも側方、及び/或いは、後方の周辺領域(8-1, 8-2, 9)を捕捉できるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のミラー代替手段。
【請求項3】
それぞれのカメラ(3-0 ? 3-3)によって捕捉されたカメラ画像シグナル(10-1 ? 10-3)が互いに補足され一つの画像シグナル(4)を形成できるように構成された複数のカメラ(3-0 ? 3-3)を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のミラー代替手段。
【請求項4】
画像処理手段(5)が、車両(2)の一つの車両システム(12)から少なくとも車両(2)の走行方向と車両速度に関するデータ(13)を得ることができるように構成されたコミュニケーション・インターフェース(11)を有していることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のミラー代替手段。
【請求項5】
該少なくとも一台のカメラ(3-0 ? 3-3)が、車両(2)の死角(16)を捕捉できるように構成されている、且つ、
該選択手段(14)が、車両(2)の死角(16)に対応する画像領域(15-1 ? 15-2)を選択するように構成されていることを特徴とする請求書1?4のいずれか1項に記載のミラー代替手段。
【請求項6】
該選択手段(14)が、一つ以上の画像領域(15-1 ? 15-2)を選択し、選択された画像領域(15-1 ? 15-2)を処理された画像シグナル(6)において組み合わせる、及び/或いは、
一つの画像領域(15-1 ? 15-2)を拡大することができるように構成されていることを特徴とする請求書1?5のいずれか1項に記載のミラー代替手段。
【請求項7】
該画像処理手段(5)が、画像シグナル(4)の少なくとも一部の輝度を変更する、特に好ましくは、標準化することができるように;及び/或いは、
画像シグナル(4)の少なくとも一部のコントラストを変更する、特に好ましくは、高めることができるように;及び/或いは、
画像シグナル(4)の少なくとも一部の彩度を変更することができるように;及び/或いは、
画像シグナル(4)の内容のスタビライゼーションを実行することができるように構成された画像加工手段(17)を有していることを特徴とする請求書1から6のいずれか1項に記載のミラー代替手段。
【請求項8】
該画像処理手段(5)が、画像シグナル(4)及び/或いは処理された画像シグナル(6)内においてオブジェクト(19-1 ? 19-2)を認識し、該画像シグナル(4)内において少なくとも一つの認識されたオブジェクト(19-1 ? 19-2)をマークするように構成されたオブジェクト認識手段(18)を有している;
尚、該オブジェクト認識手段(18)は、オブジェクト(19-1 ? 19-2)を、囲む、及び/或いは、あらかじめ決められた色で着色する、及び/或いは、そのオブジェクト(19-1 ? 19-2)にズームすることによってマークするように構成されていることを特徴とする請求書1から7のうちのいずれか1項に記載のミラー代替手段。
【請求項9】
該画像処理手段(5)が、車両(2)が走行レーンから逸脱しそうな場合、及び/或いは、オブジェクトが、車両(2)の死角(16)にある場合、及び/或いは、車両(2)後方から接近して来ている場合に、画像シグナル(4)に基づいて警告シグナル(21)を発生させることができるように構成された計算手段(20)を有していることを特徴とする請求書1から8のうちのいずれか1項に記載のミラー代替手段。
【請求項10】
該画像処理手段(5)が、画像シグナル(4)を保存することができるように構成された保存手段(22)を有していることを特徴とする請求書1から9のいずれか1項に記載のミラー代替手段。
【請求項11】
請求書1から10のいずれか1項に記載のミラー代替手段(1)を備えた車両(2)。」

第5 引用文献の記載事項等
1 引用文献1
(1)記載事項
当審拒絶理由通知で引用された引用文献1には次の事項が記載されている。
(1a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、サイドミラーやルームミラーといった鏡類に代えてテレビカメラ及びディスプレイを用いて車両の周囲状況を表示しうる、車両用周囲状況表示装置に関する。」

(1b)「【0030】図1に示すように、本車両用周囲状況表示装置は、車両の周囲状況を画像情報として検出する撮像手段10と、撮像手段10で検出された車両の周囲状況を画面上に画像として表示する画像表示手段20と、車両に対して相対移動する移動体を検出する移動体検出手段30Aと、画面中の移動体の存在領域に強調表示を加える強調表示手段40とをそなえている。なお、移動体とは、自車両に対して相対的に移動するものなので、自車両が動いていれば、道路上等に停止しているものも移動体とみなす。
【0031】撮像手段10は、複数(この例では3個)のテレビカメラ11,12,13からなる。第1のテレビカメラ(テレビカメラNo.1)11は、図3に示すように、自動車の車体の左フェンダ部において車両後方へ向けて設置された左サイド用カメラであり、カメラ視野は符号11Aで示すような領域となる。第2のテレビカメラ(テレビカメラNo.2)12は、図3に示すように、自動車の車体の右フェンダ部において車両後方へ向けて設置された右サイド用カメラであり、カメラ視野は符号12Aで示すような領域となる。第3のテレビカメラ(テレビカメラNo.3)13は、図4に示すように、自動車の車体(ボディ)1の後部において車両後方へ向けて設置された後方用カメラであり、カメラ視野は符号13Aで示すような領域となる。これらのテレビカメラ11,12,13は、いずれも左右又は上下に対をなした2つのCCDカメラからなるステレオカメラであって、これらのテレビカメラ11,12,13の画像情報信号61A,61B,61Cに基づいて、各画像内の対象物までの距離を測定できるようになっている。そして、画像情報としては各ステレオカメラの一方のカメラの画像信号61A,61B,61Cが表示手段20に送られるようになっている。」
(合議体注:最後の下線部の「画像信号61」について、大文字アルファベットが付されているが、「各ステレオカメラの一方のカメラ」の画像信号であること、及び、後述する記載事項(1e)?(1g)、(1i)、(1j)等の記載からみて、単一画像のものを示す小文字アルファベットの誤記と認める。)

(1c)「【0034】これらの各ディスプレイ21A,22B,23Cに表示される画像(映像)は、サイドミラー又はルームミラーに変わる間接視界としてのものなので、鏡の中の像と同様に左右を反転させる必要があり、ここでは、撮像手段10と表示手段20との間に、画面の左右を反転させる回路(画面反転手段)50が設けられている。勿論、この画面反転手段50も、符号51,52,53で示すように、各カメラ11,12,13及びテレビモニタ21,22,23に対応して設けられる。」

(1d)「【0036】移動体検出手段30Aは、テレビカメラ11,12,13でとらえる画像中の移動体(特に、車両に接近してくるような移動体)を検出するものであるが、ここでは、テレビカメラ11,12,13として、画像内の対象物までの距離を測定できるステレオカメラが用いられているので、移動体検出手段30Aは、これらのテレビカメラ11,12,13と、これらのテレビカメラ11,12,13からの画像信号61A,61B,61Cを処理して画像中の移動体を検出する処理手段(移動体検出用CPU)31とから構成されている。この移動体検出用CPU31では、各ディスプレイ21A,22B,23Cに表示される画面を例えば図2に示すように縦横に区画して、区画された各領域(エリア)中で、自車両が注意すべき移動体が存在するか否かを判断して、この結果を信号62として強調表示手段40に出力するようになっている。ただし、図2には、縦横5つずつに区画した例を示しているが、区画数はこれに限定されるものではない。」

(1e)「【0038】強調表示手段40は、移動体検出用CPU31からの信号62に基づいて強調領域画面を作成する処理手段(強調領域画面作成用CPU)41と、テレビカメラ11,12,13からの画像信号61a,61b,61cに強調領域画面作成用CPU41からの画像信号63A,63B,63Cを重ねるように合成する画像信号合成手段42とから構成されている。」

(1f)【0048】このようなテレビカメラ11,12,13によるカメラ間接視界では、レンズの選択等により広角な視野を設定できるので、各間接視界において視野を広げてなどして死角を減少させることができる。・・・」

(1g)「【0049】各テレビカメラ11,12,13からの画像信号61a,61b,61cは、強調表示手段40の画像信号合成手段42に送られるが、このとき、各テレビカメラ11,12,13でとらえた画面内に、強調表示すべき移動体がなければ、移動体検出用CPU31から自車両が注意すべき移動体が存在する旨の信号は出力されず、強調領域画面作成用CPU41が合成指令信号64を出力しないので、強調表示手段40の画像信号合成手段42では画像合成されることなく撮像手段10の画像信号61a,61b,61cがそのまま画面反転手段51,52,53を介して画面反転処理されて各テレビモニタ21,22,23側へ送られる。したがって、ディスプレイ21A,22A,23Aには各テレビモニタ21,22,23で撮影された実写映像のみが表示される。テレビモニタ23の場合を例に示すと、例えば図13の(A)のような画面が、ディスプレイ23Aに表示される。なお、符号7は移動体としての車両である。」

(1h)「【0051】また、この実施例では、特に省略していないが、ディスプレイ23Aを設けることで、ルームミラー75を省略することができ、この場合、フロントウィンドゥの視認領域を拡大させて、間接視界の領域を向上させることができる。一方、各テレビカメラ11,12,13でとらえた画面内に、強調表示すべき移動体があれば、移動体検出用CPU31から自車両が注意すべき移動体が存在する旨の信号が出力され、強調領域画面作成用CPU41から合成指令信号64と強調表示画像信号63A又は63B又は63Cが出力される。このため、画像信号合成手段42では所要の画像合成が行なわれ、撮像手段10の画像信号61a,61b,61cに強調表示画像信号63A又は63B又は63Cが付加された上で、面反転手段51,52,53を介して画面反転処理されて各テレビモニタ21,22,23側へ送られる。例えば、車両中心の後方を映す画面上に、図13の(B)に斜線で示すような領域に強調表示8が加えられると、テレビモニタ23の場合、例えば図13の(C)に示すような画面が、ディスプレイ23Aに表示される。なお、この図13の(B),(C)に示すものでは、強調領域の区画を縦が2分され横が4分された8区画と便宜的に少ない区画にして示している。」
(合議体注:「面反転手段」は「画面反転手段」の誤記と認める。)

(1i)「【0064】また、請求項10記載の本発明の車両用周囲状況表示装置によれば、請求項1?8のいずれかに記載の構成において、該撮像手段が、左サイドミラーの視野範囲に相当する該車両の周囲状況を画像情報として検出する第1のテレビカメラと、右サイドミラーの視野範囲に相当する該車両の周囲状況を画像情報として検出する第2のテレビカメラと、ルームミラーの視野範囲に相当する該車両の周囲状況を画像情報として検出する第3のテレビカメラとから構成されていることにより、サイドミラーの省略により、視認のための部材の車体の外部への突出を極めて小さくして、車体のフラッシュサーフィス化を促進しなから、また、ルームミラーの省略により、フロントウィンドゥの視認領域を拡大させながら、上述のような間接視界の領域や視認性を向上させながら注意すべき移動体に対する注意喚起を行なえる利点を得ることができる。勿論、車体のフラッシュサーフィス化により、より空力抵抗が少なく安全性の高い車体表面を形成できるようになり、フロントウィンドゥの視認領域の拡大により、直接視界がより良好になり、安全で円滑な運転に大きく貢献しうる。」

(1j)「【符号の説明】
・・・
61A,61B,61C 画像情報信号(ステレオ画像のもの)
61a,61b,61c 画像情報信号(単一画像のもの)
・・・」

(1k)【図1】は次のとおりである。




(2)認定事項
記載事項(1h)の「強調表示すべき移動体があれば、移動体検出用CPU31から自車両が注意すべき移動体が存在する旨の信号が出力され、強調領域画面作成用CPU41から合成指令信号64と強調表示画像信号63A又は63B又は63Cが出力される。このため、画像信号合成手段42では所要の画像合成が行なわれ、撮像手段10の画像信号61a,61b,61cに強調表示画像信号63A又は63B又は63Cが付加された上で、面反転手段51,52,53を介して画面反転処理されて各テレビモニタ21,22,23側へ送られ」た後、ディスプレイ21A,22A,23Aには、画像合成され、強調表示画像信号63A又は63B又は63Cが付加された映像が表示されることは明らかである。

(3)引用発明
上記(1)、(2)より、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。
「車両の周囲状況を画像情報として検出する撮像手段10と、撮像手段10で検出された車両の周囲状況を画面上に画像として表示する画像表示手段20と、車両に対して相対移動する移動体を検出する移動体検出手段30Aと、画面中の移動体の存在領域に強調表示を加える強調表示手段40とをそなえ、
該撮像手段10が、左サイドミラーの視野範囲に相当する前記車両の周囲状況を画像情報として検出する第1のテレビカメラ11と、右サイドミラーの視野範囲に相当する該車両の周囲状況を画像情報として検出する第2のテレビカメラ12と、ルームミラーの視野範囲に相当する該車両の周囲状況を画像情報として検出する第3のテレビカメラ13とから構成され、
テレビカメラ11,12,13として、画像内の対象物までの距離を測定できるステレオカメラが用いられ、
画像情報としては各ステレオカメラの一方のカメラの画像信号61a,61b,61cが表示手段20に送られるようになっており、
強調表示すべき移動体がなければ、移動体検出用CPU31から自車両が注意すべき移動体が存在する旨の信号は出力されず、強調表示手段40の画像信号合成手段42では画像合成されることなく撮像手段10の画像信号61a,61b,61cがそのまま画面反転手段51,52,53を介して画面反転処理されて各テレビモニタ21,22,23側へ送られ、ディスプレイ21A,22A,23Aには、撮影された実写映像のみが表示され、
強調表示すべき移動体があれば、移動体検出用CPU31から自車両が注意すべき移動体が存在する旨の信号が出力され、画像信号合成手段42では所要の画像合成が行なわれ、撮像手段10の画像信号61a,61b,61cに強調表示画像信号63A又は63B又は63Cが付加された上で、画面反転手段51,52,53を介して画面反転処理されて各テレビモニタ21,22,23側へ送られ、ディスプレイ21A,22A,23Aには、画像合成され、強調表示画像信号63A又は63B又は63Cが付加された映像が表示される、
サイドミラーやルームミラーといった鏡類に代えてテレビカメラ及びディスプレイを用いて車両の周囲状況を表示しうる、車両用周囲状況表示装置。」

2 引用文献2
当審拒絶理由通知で引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
(2a)「【0004】
しかしながら、従来の画像表示システムでは、後向き駐車のような後進時かつ低速時において車両の周囲にある駐車車両、駐車枠や縁石のような静止体との位置関係を運転手が把握できるようにすることに主眼が置かれている。したがって、この画像表示システムによって提供される画像からは、後側方の状況(例えば、自車両の周辺を走行する他車のような動体との位置関係)を把握することが困難である。」

3 引用文献3
当審拒絶理由通知で引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。
(3a)「【0024】
図4(a)は、自車両1と、各カメラ11?13の撮像領域を示し、自車両1がバックしているときに移動物51が左後方から右方向に侵入した状態を示している。自車両1と移動物51が図4(a)のような関係にあるときのディスプレイ31?33での表示は、図4(b)のようになる。
【0025】
移動物検知部21が移動物を検知した場合、枠画像描画部22は、検知した移動物51の周囲を検知枠52で囲み、検知枠52で囲まれた移動物51を対応するディスプレイ31?33上に重畳して表示する。図4(b)では、ディスプレイ32に移動物51と検知枠52とが重畳して表示された状態を示している。また同時にスピーカ42からは警告音が発せられる。音声は、「移動物があります」のようなメッセージを報知しても良いし、「ピピピッ…」等の警告音であってもよい。」

(3b)「【0034】
図7は、判断処理部20の動作を示すフローチャートである。図7において、ステップS0でシフトレバーがR(バック)に入れられると、判断処理部20は動作をスタートし、ステップS1では各カメラ11?13で撮像した生画像を取得する。ステップS2では、車両情報取得部50から自車両の速度及び操舵角の情報を取得する。ステップS3では移動物検知部21の検知結果をもとに画像内に移動物があるか否かを判断する。」

4 引用文献4
当審拒絶理由通知で引用された引用文献4には次の事項が記載されている。
(4a)「【0037】
以下、上記のような後退駐車支援装置10における車両10の後退駐車支援の作動について説明する。図3に、この後退駐車支援のために画像合成ECU9が(プログラムを実行することで)実行する処理のフローチャートを示す。画像合成ECU9は、この図3の処理を、画像合成ECU9の起動時に開始するようになっており、まずステップ110で、後退駐車支援を開始すると判定するまで待機する。」

(4b)「【0040】
この制御により、これ以降、画像合成ECU9は、カメラ1?4から繰り返し受け取った最新の撮影画像に基づいて、トップビュー画像31およびリアビュー画像32を繰り返し生成し、ディスプレイ5の表示画面30内に、これら繰り返し生成したトップビュー画像31およびリアビュー画像32を並べて表示させ続ける。」

5 引用文献5
当審拒絶理由通知で引用された引用文献5には次の事項が記載されている。
(5a)「【0046】
さらに、表示判定部34は、物体検知部32および相対関係算出部33および車両状態量センサ14からの出力に基づき、自車両の後側方または側方に自車両と接触する可能性がある物体(例えば、他車両等)が存在するか否かを判定し、この判定結果に応じて、例えば図4(a) ?(d) に示すように、検知された物体Qに対する通常表示および拡大表示および強調表示およびモニター15上の中央への表示(センター表示)等の少なくとも何れかを選択し、自車両と接触する可能性がある物体に対しては、運転者の視認性を高めるように設定する。
なお、表示判定部3 4 は、強調表示では、例えば検知された物体を囲む枠表示( 図4(c)に示す四角枠 )等を重畳表示するように設定する。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 後者の「車両」は、前者の「車両」に相当し、以下同様に、「撮像手段10」、「第1のテレビカメラ11」、「第2のテレビカメラ12」、「第3のテレビカメラ13」は、「カメラ」に、「ディスプレイ21A,22A,23A」は、「表示手段」に、「ルームミラー」は、「バックミラー」に、「左サイドミラー」、「右サイドミラー」は、「サイドミラー」に、それぞれ相当する。

イ 後者の「画像信号61a,61b,61c」は、前者の「画像シグナル」に相当する。
そして、後者の「画像信号61a,61b,61c」は、「そのまま画面反転手段51,52,53を介して画面反転処理され」るか、あるいは、「強調表示画像信号63A又は63B又は63Cが付加された上で、画面反転手段51,52,53を介して画面反転処理され」るものであるから、それらの処理を経たものは、前者の「処理された画像シグナル」及び「処理した画像シグナル」に相当するといえる。

ウ 上記ア、イを踏まえると、後者の「車両の周囲状況を画像情報として検出する」ものであり、「第1のテレビカメラ11と、」「第2のテレビカメラ12と、」「第3のテレビカメラ13とから構成され、」「テレビカメラ11,12,13として、画像内の対象物までの距離を測定できるステレオカメラが用いられ、画像情報としては各ステレオカメラの一方のカメラの画像信号61a,61b,61cが表示手段20に送られるようになって」いる「撮像手段10」は、前者の「少なくとも車両周辺の一部を捕捉し、対応する画像シグナルを供給するように構成された少なくとも1つのカメラ」に相当するといえる。

エ 後者の「強調表示手段40」は、「第1のテレビカメラ11」、「第2のテレビカメラ12」、「第3のテレビカメラ13」に接続されるものであり(記載事項(1k)参照。)、「画像合成」を行う「画像信号合成手段42」を含むものであって、当該「強調表示手段40」と「画面反転手段51,52,53」とを併せたものは、「強調表示すべき移動体がなければ、移動体検出用CPU31から自車両が注意すべき移動体が存在する旨の信号は出力されず、強調表示手段40の画像信号合成手段42では画像合成されることなく撮像手段10の画像信号61a,61b,61cがそのまま画面反転手段51,52,53を介して画面反転処理されて各テレビモニタ21,22,23側へ送られ、」「強調表示すべき移動体があれば、移動体検出用CPU31から自車両が注意すべき移動体が存在する旨の信号が出力され、画像信号合成手段42では所要の画像合成が行なわれ、撮像手段10の画像信号61a,61b,61cに強調表示画像信号63A又は63B又は63Cが付加された上で、画面反転手段51,52,53を介して画面反転処理されて各テレビモニタ21,22,23側へ送られ」るものであるから、上記ア?ウを踏まえると、前者の「該カメラと接続され、少なくとも一台のカメラの画像シグナルを処理し、処理した画像シグナルを出力できるように構成された画像処理手段」に相当するといえる。

オ 上記ア?エを踏まえると、後者の「強調表示すべき移動体がなければ、移動体検出用CPU31から自車両が注意すべき移動体が存在する旨の信号は出力されず、強調表示手段40の画像信号合成手段42では画像合成されることなく撮像手段10の画像信号61a,61b,61cがそのまま画面反転手段51,52,53を介して画面反転処理されて各テレビモニタ21,22,23側へ送られ、」「撮影された実写映像のみが表示され、」「強調表示すべき移動体があれば、移動体検出用CPU31から自車両が注意すべき移動体が存在する旨の信号が出力され、画像信号合成手段42では所要の画像合成が行なわれ、撮像手段10の画像信号61a,61b,61cに強調表示画像信号63A又は63B又は63Cが付加された上で、画面反転手段51,52,53を介して画面反転処理されて各テレビモニタ21,22,23側へ送られ、」「画像合成され、強調表示画像信号63A又は63B又は63Cが付加された映像が表示される」「ディスプレイ21A,22A,23A」は、後者の「処理された画像シグナルを表示するように構成された少なくとも1つの表示手段」に相当するといえる。

カ 後者は「該撮像手段10が、左サイドミラーの視野範囲に相当する前記車両の周囲状況を画像情報として検出する第1のテレビカメラ11と、右サイドミラーの視野範囲に相当する該車両の周囲状況を画像情報として検出する第2のテレビカメラ12と、ルームミラーの視野範囲に相当する該車両の周囲状況を画像情報として検出する第3のテレビカメラ13とから構成され」るものであり、「強調表示すべき移動体がなければ、」「ディスプレイ21A,22A,23Aには撮影された実写映像のみが表示され」、「強調表示すべき移動体があれば、」「ディスプレイ21A,22A,23Aには、画像合成され、強調表示画像信号63A又は63B又は63Cが付加された映像が表示される」という事項を有するものであるから、車両が前進している際には、ルームミラー、左サイドミラー、右サイドミラーによって、車両内に表示されるであろう画像領域に対応する画像領域を表示していることは技術的に明らかといえる。
そして、前者の「対応する画像領域を選択し」ということは、当該選択をされた「対応する画像領域」を「表示手段」に表示していることが技術的に明らかである。 そうすると、上記ア、イも踏まえると、後者の上記事項と、前者の「車両が前進している際は、理論的にバックミラー、及び/或いは、サイドミラーによって車両内に表示されるであろう画像領域に対応する画像領域を選択し」ということとは、「車両が前進している際は、理論的にバックミラー、及び/或いは、サイドミラーによって車両内に表示されるであろう画像領域に対応する画像領域を表示する」ということにおいて共通するといえる。

キ 後者の「サイドミラーやルームミラーといった鏡類に代えてテレビカメラ及びディスプレイを用いて車両の周囲状況を表示しうる、車両用周囲状況表示装置」は、前者の「当該車両用のミラー代替手段」に相当するといえる。

ク 以上のことから、本願発明1と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりと認める。
〔一致点1〕
「少なくとも車両周辺の一部を捕捉し、対応する画像シグナルを供給するように構成された少なくとも1つのカメラと、
該カメラと接続され、少なくとも一台のカメラの画像シグナルを処理し、処理した画像シグナルを出力できるように構成された少なくとも1つの画像処理手段と、 処理された画像シグナルを表示するように構成された表示手段を備え、
車両が前進している際は、理論的にバックミラー、及び/或いは、サイドミラーによって車両内に表示されるであろう画像領域に対応する画像領域を表示する当該車両用のミラー代替手段。」

〔相違点1〕
本願発明1が、「画像処理手段が、画像シグナルから画像領域を選択し、選択された画像領域を処理された画像シグナルとして出力するように構成された選択手段を有し」、車両が前進している際は、理論的にバックミラー、及び/或いは、サイドミラーによって車両内に表示されるであろう画像領域に対応する画像領域を「選択し、」「車両が、第一速度閾値未満の速度において後進中は、車両周辺部の地面、及び/或いは、縁石を示す画像領域を選択するように、及び/或いは、マークするように、少なくとも1つの前記表示手段上の画像が、前記選択手段によって切り替えられる」ものであり、「該選択手段が、車両の積載状態に応じて、及び/或いは、車両のカーブ走行の状況に応じて、及び/或いは、車両の登坂乃至下り坂の走行状況に応じて、車両の後方の道路を示す画像領域を選択するように構成されている」という事項を有するのに対し、引用発明1は、当該事項を有していない点。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
引用文献2の記載事項(2a)より、車両の画像表示システムにおいて、車両が低速で後進中は、車両周囲の駐車車両、駐車枠や縁石のような静止体との位置関係を運転手が把握できるようにする課題が認識でき、引用発明1においても、同様の課題を内包していることは、当業者であれば十分に認識可能なことである。
そうすると、引用発明1においても、低速で後進中における当該課題を解決するべく、前進中に表示される「理論的にバックミラー、及び/或いは、サイドミラーによって車両内に表示されるであろう画像領域に対応する画像領域」から、車両周辺部の地面、縁石を示す画像領域を選択するような選択手段を設けることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。そして、引用文献2に示される課題は低速で後進中のときであるから、それに対応すべく「第一速度閾値未満の速度において後進中」という事項を有するものとすることは、適宜なし得たことといえる。
また、選択的に記載された「マークするように」という事項については、引用文献3の記載事項(3a)に、自車両がバックしているときに、検知した移動物を検知枠で囲み(マークすることに相当)、ディスプレイに表示する技術が記載されており、このような技術を採用することは、当業者であれば適宜なし得たということまではいえる。

しかしながら、上記相違点1に係る事項のうち、「該選択手段が、車両の積載状態に応じて、及び/或いは、車両のカーブ走行の状況に応じて、及び/或いは、車両の登坂乃至下り坂の走行状況に応じて、車両の後方の道路を示す画像領域を選択するように構成されている」という事項までは、引用文献2または3に記載ないし示唆されているとはいえない。
そして、本願発明1は当該事項を有することにより、「ドライバーは、道路に対する視角が変化した場合でも、例えば、従来のミラーの場合の様に再三ミラーを調整することなく、車両の後方の道路を観察できるようになる。」(本願の明細書翻訳文の段落【0027】)という「車両用のミラー代替手段」における特有の作用効果を奏するものである。
(なお、当審拒絶理由通知において、本願の請求項3に引用した引用文献4(記載事項(4a)、(4b)参照。)にも、請求項9(補正前の請求項10)に引用した引用文献5(記載事項(5a)参照。)にも当該事項が記載ないし示唆されているとはいえない。)

したがって、本願発明1は、引用発明1、引用文献2に示された課題及び引用文献3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2?11について
本願発明2?11は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明1、引用文献2に示された課題、引用文献3に記載された技術的事項、引用文献4に示された周知技術、及び、引用文献5に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 原査定について
1 引用文献Eの記載事項等
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Eには次の事項が記載されている。
(Ea)「【請求項1】
車両に取付けられており、該車両の後方と後側方とを視野範囲に含むカメラと、
前記カメラの出力に基づく画像上の領域であって、前記車両の前記後方の路面に対応する該領域にマスクを重畳することによって表示対象画像を生成する画像処理手段と、
前記表示対象画像を表示する表示装置と、
を備える、画像表示システム。」

(Eb)「【0004】
しかしながら、従来の画像表示システムでは、後向き駐車のような後進時かつ低速時において車両の周囲にある駐車車両、駐車枠や縁石のような静止体との位置関係を運転手が把握できるようにすることに主眼が置かれている。したがって、この画像表示システムによって提供される画像からは、後側方の状況(例えば、自車両の周辺を走行する他車のような動体との位置関係)を把握することが困難である。」

(Ec)「【0011】
本発明の画像表示システムによれば、後側方の状況の把握には不要な情報である部分がマスクで覆われた画像が表示されるので、後側方の状況の把握が容易になる。」

(Ed)「【0013】
本発明の実施形態に係る画像表示システムの構成について、図1を参照しながら説明する。図1に示す画像表示システム1は、車両の後方及び後側方の画像を車内で表示することができる車載装置であり、カメラ10と、車内カメラ20と、画像処理ユニット(画像処理手段)30と、表示装置40とを備える。また、画像表示システム1の画像処理ユニット30は、車両状態信号出力手段である車輪速センサ60、方向指示器70及びナビゲーションシステム80から出力されるデータや信号によって車両の挙動、動作、位置等に関する情報を受信することができる。
【0014】
図2は、カメラの視野範囲を示す図である。図2に示すように、カメラ10は、車両100に取付けられている。カメラ10は、例えば、車両100の後部ナンバープレート設置部の上隅部110に取り付けられる。なお、カメラ10は、ルームミラー、リアトランク、天井や左右ドアミラー(いずれも図示せず)に取付けられていてもよい。」

(Ee)「【0016】
図1に戻り、このカメラ10は画像処理ユニット30に接続されており、カメラ10によって撮像された画像は画像処理ユニット30へ出力される。」

(Ef)【図2】は次のとおりである。


(2)引用発明
上記(1)より、引用文献Eには次の発明(以下「引用発明E」という。)が記載されているものと認める。
「車両100に取付けられており、該車両100の後方と後側方とを視野範囲に含むカメラ10と、
前記カメラ10の出力に基づく画像上の領域であって、前記車両100の前記後方の路面に対応する該領域にマスクを重畳することによって表示対象画像を生成する画像処理ユニット30と、
前記表示対象画像を表示する表示装置40と、
を備え、
前記カメラ10は前記画像処理ユニット30に接続されており、前記カメラ10によって撮像された画像は前記画像処理ユニット30へ出力される、
画像表示システム1。」

2 対比・判断
(1)対比
本願発明1と引用発明Eとを対比する。
ア 後者の「車両100」は、前者の「車両」に相当し、以下同様に、「カメラ10」は、「カメラ」に、「画像処理ユニット30」は、「画像処理手段」に、「表示装置40」は、「表示手段」に、それぞれ相当する。

イ 後者の「前記カメラ10によって撮像された画像は前記画像処理ユニット30へ出力される」ということについて、「カメラ10」は画像シグナルを出力するものであることは技術的に明らかである。
そうすると、上記アも踏まえると、後者の「車両100に取付けられており、該車両100の後方と後側方とを視野範囲に含むカメラ10」と「前記カメラ10によって撮像された画像は前記画像処理ユニット30へ出力される」という事項は、前者の「少なくとも車両周辺の一部を捕捉し、対応する画像シグナルを供給するように構成された少なくとも1つのカメラ」に相当するといえる。

ウ 後者の「前記カメラ10の出力に基づく画像上の領域であって、前記車両100の前記後方の路面に対応する該領域にマスクを重畳する」ということについて、「領域にマスクを重畳する」ということは、「カメラ10」から出力された画像シグナルを処理しているといえるものである。また、「画像処理ユニット30」により生成された「表示対象画像」は、「表示装置40」により表示されるものであるから、当該「表示対象画像」を出力できるものであることは技術的に明らかである。
そうすると、上記アも踏まえると、後者の「前記カメラ10は前記画像処理ユニット30に接続されており」、「前記カメラ10の出力に基づく画像上の領域であって、前記車両100の前記後方の路面に対応する該領域にマスクを重畳することによって表示対象画像を生成する画像処理ユニット30」は、前者の「該カメラと接続され、少なくとも一台のカメラの画像シグナルを処理し、処理した画像シグナルを出力できるように構成された画像処理手段」に相当するといえる。

エ 上記ア、ウも踏まえると、後者の「前記表示対象画像を表示する表示装置40」は、前者の「処理された画像シグナルを表示するように構成された少なくとも1つの表示手段」に相当するといえる。

オ 後者の「画像表示システム1」について、段落【0014】の「カメラ10は、例えば、車両100の後部ナンバープレート設置部の上隅部110に取り付けられる。なお、カメラ10は、ルームミラー、リアトランク、天井や左右ドアミラー(いずれも図示せず)に取付けられていてもよい。」(記載事項(Ed))や【図2】(記載事項(Ef))の記載より、「カメラ10」は、ルームミラーや左右ドアミラー自体とは別に設けられているものと解される。
そうすると、後者の「画像表示システム1」は、ミラーを「代替」するものとまではいえないが、当該「画像表示システム1」も前者の「ミラー代替手段」も画像を表示するものであるから、両者は「画像表示手段」であることにおいて共通するといえ、また、後者の「画像表示システム1」も「車両用」のものであるといえる。

カ 以上のことから、本願発明1と引用発明Eとの一致点、相違点は次のとおりと認める。
〔一致点E〕
「少なくとも車両周辺の一部を捕捉し、対応する画像シグナルを供給するように構成された少なくとも1つのカメラと、
該カメラと接続され、少なくとも一台のカメラの画像シグナルを処理し、処理した画像シグナルを出力できるように構成された画像処理手段と、
処理された画像シグナルを表示するように構成された少なくとも1つの表示手段を備えた車両用の画像表示手段。」

〔相違点E1〕
「画像表示手段」について、本願発明1が、「ミラー代替手段」であるのに対し、引用発明Eの「画像表示システム1」は、ミラーを「代替」する手段ではない点。

〔相違点E2〕
本願発明1が、「画像処理手段が、画像シグナルから画像領域を選択し、選択された画像領域を処理された画像シグナルとして出力するように構成された選択手段を有し、車両が前進している際は、理論的にバックミラー、及び/或いは、サイドミラーによって車両内に表示されるであろう画像領域に対応する画像領域を選択し、車両が、第一速度閾値未満の速度において後進中は、車両周辺部の地面、及び/或いは、縁石を示す画像領域を選択するように、及び/或いは、マークするように、少なくとも1つの前記表示手段上の画像が、前記選択手段によって切り替えられる」ものであり、「該選択手段が、車両の積載状態に応じて、及び/或いは、車両のカーブ走行の状況に応じて、及び/或いは、車両の登坂乃至下り坂の走行状況に応じて、車両の後方の道路を示す画像領域を選択するように構成されている」という事項を有するのに対し、引用発明Eは、当該事項を有していない点。

(2)判断
事案に鑑み相違点E2について検討する。
原査定の副引例である引用文献Aは、当審拒絶理由で引用した引用文献3であり、同様に、引用文献B、Cは、それぞれ引用文献4、5である。また、引用文献Dは、明らかに相違点1及び相違点E2に関して採用できるものではないので、当審の拒絶理由では引用していない。
そして、引用発明Eへの引用文献Aに記載された技術的事項の適用を検討しても、上記「第6 2(2)」で述べたのと同様の理由により、引用発明Eにおいて、少なくとも上記相違点E2に係る事項のうち、「該選択手段が、車両の積載状態に応じて、及び/或いは、車両のカーブ走行の状況に応じて、及び/或いは、車両の登坂乃至下り坂の走行状況に応じて、車両の後方の道路を示す画像領域を選択するように構成されている」という事項を有するものとすることは、当業者にとって容易になし得たとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用発明E及び引用文献Aに記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本願発明2?11は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明E及び引用文献A、B、C、Dに記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-11-05 
出願番号 特願2016-522274(P2016-522274)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森本 康正  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
出口 昌哉
発明の名称 ミラー代替手段、並びに、車両  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 江崎 光史  

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