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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1367809
審判番号 不服2019-15001  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-08 
確定日 2020-11-06 
事件の表示 特願2018-13418号「光変調器」拒絶査定不服審判事件〔平成30年4月26日出願公開、特開2018-67021号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年(平成17年)3月23日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2004年(平成16年)3月23日 米国、2004年(平成16年)7月7日 米国)を国際出願日とする特願2007-505175号(以下「原出願」という。)の一部を平成23年4月28日に新たな特許出願とした特願2011-102440号の一部をさらに平成27年9月30日に新たな特許出願とした特願2015-193331号の一部をさらに平成29年2月21日に新たな特許出願とした特願2017-29827号の一部をさらに平成30年1月30日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 1月30日 :翻訳文、上申書提出
平成30年12月11日付け:拒絶理由通知書
平成31年 3月15日 :意見書、手続補正書の提出
令和元年 7月 8日付け:拒絶査定(謄本送達日 同年同月11日 以下「原査定」という。)
令和元年11月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和元年11月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年11月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「互いに間隔をあけた2枚の光透過性パネルと、
前記2枚のパネル間に配置された電気泳動媒体であって、前記電気泳動媒体は、光透過性状態と、その光透過状態より光透過が少ない暗状態とを有する、電気泳動媒体と
を備えた光変調器であって、
前記電気泳動媒体は、前記電気泳動媒体が電磁放射の少なくとも1つの波長に曝されると、前記電気泳動媒体の動作寿命を低下させ、
前記光変調器は、前記光透過性パネルのうちの少なくとも1つがこの波長の電磁放射に対する吸収体を備え、前記吸収体は、前記光透過性パネルのうちの前記少なくとも1つの中に設けられていることを特徴とする、光変調器。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成31年3月15日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「互いに間隔をあけた2枚の光透過性パネルと、
前記2枚のパネル間に配置された電気泳動媒体であって、前記電気泳動媒体は、光透過性状態と、その光透過状態より光透過が少ない暗状態とを有する、電気泳動媒体と
を備えた光変調器であって、
前記電気泳動媒体は、前記電気泳動媒体が電磁放射の少なくとも1つの波長に曝されると、前記電気泳動媒体の動作寿命を低下させ、
前記光変調器は、前記光透過性パネルのうちの少なくとも1つがこの波長の電磁放射に対する吸収体を備えることを特徴とする、光変調器。」

2.独立特許要件
(1)サポート要件
ア 本件補正後の請求項1に係る発明は、後記理由により、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反し、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

イ 本件補正後の特許請求の範囲における「前記吸収体は、前記光透過性パネルのうちの前記少なくとも1つの中に設けられている」との発明特定事項に関して、本願の発明の詳細な説明には下記のとおり記載されている(下線は当審が付した。以下同じ。)。
「【0032】
別の局面において、本発明は、互いに間隔をあけた2枚の光透過性パネルと、これら2枚のパネル間に配置され、光透過性状態、および、その光透過状態より光透過が少ない暗状態を有する電気泳動媒体とを備える光変調器を提供する。ここで、電気泳動媒体は電磁放射の少なくとも1つの波長に敏感な媒体であって、少なくとも1つの光透過性パネルは、この波長の電磁放射に対する吸収体を備える。簡便のために、本発明の本局面は、本明細書では、以下、本発明の『放射吸収パネル光変調器』と称される。」
「【0066】
前掲のE InkおよびMITによる特許および特許出願の一部に記載したように、電気泳動媒体は、とりわけ、媒体の動作寿命の低下をもたらす電磁放射の様々な波長に敏感なことが多い。それゆえ、媒体が敏感である放射から、媒体を遮蔽するために、フィルタ層を設けることが、しばしば望ましい。本発明の可変透過性の窓は、2枚のガラスに挟まれた電気泳動媒体の形式を典型的には有する。本発明の放射吸収パネルの局面に従うと、この構造において、電気泳動媒体の中に個別のフィルタ層を設けるのではなく、例えば、紫外線および/または赤外線フィルタリングといった必要なフィルタリングを一方または双方のガラス板(または、他の同様に使用されたパネル)に設けることで、コスト削減が達成され得る。」

ウ 上記イによれば、本願の発明の詳細な説明には、「吸収体」に関して、「光透過性パネルは、この波長の電磁放射に対する吸収体を備える」(【0032】)、あるいは、「紫外線および/または赤外線フィルタリングといった必要なフィルタリングを」「ガラス板に設ける」(【0066】)と記載され、光透過性パネルは吸収体を備える、あるいは、フィルタリングをガラス板に設ける、と特定するにとどまり、「前記光透過性パネルのうちの前記少なくとも1つの中に設けられている」とまでは特定していない。
そして、光透過性パネルに吸収体を備える(たとえ、ガラス板が光透過性パネルのことであって「ガラス板にフィルタリングを備える」)ものであっても、光透過性パネルにどのように吸収体を備えるのかは特定されていないから、上記発明の詳細な説明の記載に、「前記光透過性パネルのうちの前記少なくとも1つの中に設けられている」ことが記載されていたとは認められない。

エ 小括
したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであることは認められないので、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしておらず、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2)進歩性
本件補正が、仮に、特許法第36条第6項第1号の規定(サポート要件)を満たすものであっても、後記理由により、特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定(特許出願の際独立して特許を受けることができるものである)に適合しないため、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
ア 本件補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、上記「1.」「(1)」に記載したとおりの次のものである(なお、A?Eは、本件補正発明を分説するために当審で付したものである。)。
「A 互いに間隔をあけた2枚の光透過性パネルと、
B 前記2枚のパネル間に配置された電気泳動媒体であって、前記電気泳動媒体は、光透過性状態と、その光透過状態より光透過が少ない暗状態とを有する、電気泳動媒体と
C を備えた光変調器であって、
D 前記電気泳動媒体は、前記電気泳動媒体が電磁放射の少なくとも1つの波長に曝されると、前記電気泳動媒体の動作寿命を低下させ、
E 前記光変調器は、前記光透過性パネルのうちの少なくとも1つがこの波長の電磁放射に対する吸収体を備え、前記吸収体は、前記光透過性パネルのうちの前記少なくとも1つの中に設けられている
C ことを特徴とする、光変調器。」

イ 引用文献の記載事項
(ア)引用文献1
a 原査定の拒絶の理由で引用された原出願の最先の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平4-212990号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電気泳動表示素子に関する。」

(b)「【0019】従って本電気泳動表示素子は、大型なものにした場合であっても、前記分散液および電気泳動粒子が各区画室毎に封入されているので電気泳動粒子の移動距離が短くて済むとともに、電気泳動粒子が凝集しない。このため、非駆動時においては光透過率が素子のほぼ前面で均一となり、また、前記両駆動時においては人為的操作による電気泳動粒子の応答速度が早く、かつ応答ムラのない明暗表示の切替えを素早く行うことが可能となる。そして、この電気泳動表示素子を表示素子としてあるいは自動車や住宅の窓のブラインド等として使用することも可能である。
【0020】
【実施例】
(第1実施例)
本実施例の電気泳動表示素子を図1?図6を用いて説明する。この電気泳動表示素子は、第1ガラス板1aおよび第2ガラス板1bと、第1透明電極2aおよび第2透明電極2bと、第3電極を形成するメッシュ状の導電性区画部材3と、第1透明絶縁コート膜4aおよび第2透明絶縁コート膜4bと、スペーサ5と、分散媒7および電気泳動粒子8とからなる。
【0021】第1ガラス板1aおよび第2ガラス板1bは、いずれも厚さ2.0mmの透明なソーダ石灰ガラス板(旭硝子製)からなる。第1透明電極2aおよび第2透明電極2bは、図1に示すように互いに対向する第1ガラス板1aの内側表面10aおよび第2ガラス板1bの内側表面10b上に、透明なITOをイオンプレーティングにより厚さ約1000Åに真空蒸着して作ったものである。
【0022】第1透明絶縁コート膜4aおよび第2透明絶縁コート膜4bは、前記両透明電極2a、2bと、導電性区画部材3とを絶縁するために用いられるもので、前記第1透明電極2aの内側表面20aおよび第2透明電極2bの内側表面20b上に、その周端部を除いた領域に蒸着して形成したSiO_(2)の蒸着膜(t=1000Å)よりなる。
【0023】メッシュ状の導電性区画部材3は、正面の一部を拡大した図4に示されるように水平壁部30と垂直壁部31とにより、透過光とほぼ平行な方向に貫通する正方形の複数のメッシュ孔32を形成したステンレス製のものである。導電性区画部材3は、図1に示されるように第1ガラス板1aおよび第2ガラス板1bの封入空間S内に介在され、かつメッシュ孔32が前記第1ガラス板1aの内側表面10aおよび第2ガラス板1bの内側表面10bに対向する位置に配置される。またメッシュ孔32を形成する水平壁部30および垂直壁部31は、前記第2透明電極2bとで後で述べる直流電極を形成する。導電性区画部材3は複数のメッシュ孔32の開口比すなわち、複数のメッシュ孔32の全開口面積を、前記導電性区画部材3のグリード面積(非開口部の面積)で割った値が70%のものが用いられる。また導電性区画部材3は厚さtが100μm、メッシュ孔32の孔径L1が100μm、メッシュ線幅L2が10μmのものである。(図4、図6参照)分散媒7としては比重が0.8のケロシン(ナカライテスク社製)が用いられる。
【0024】電気泳動粒子8は、前記分散媒7の比重0.8より大きな比重1.4で黒色の顔料(ラブコロール大日精化製)を用いた。これは表面が負に帯電した粒子である。そして前記電気泳動粒子8の濃度が1重量%となるように調整された分散安定用の界面活性剤が微量に配合された分散液が準備された。ついでメッシュ状の導電性区画部材3には、第1ガラス板1aに形成された第1透明電極2aに対向する一端面3a側の周端部に、厚さ100μmのスペーサ5(東レ製ポリエステル)を載置させ、その周りに図略のエポキシ系接着剤を塗布する。この後、エポキシ系接着剤を硬化させて第1ガラス板1aと導電性区画部材3とを一体化する。そして別途用意した分散液中に前記一体化した第1ガラス板1aと導電性区画部材3とを浸す。そして導電性区画部材3の各メッシュ孔32内に前記分散液を満たした後、導電性区画部材3の他端面3b側を上方に向けて保持し、その他端面3b側を平板でなぞり、過剰の分散液を除去し、前記他端面3b側を乾燥させるとともに第2ガラス板1bを載置し、この第2ガラス板1bおよびスペーサ5の周りに図略のエポキシ系接着剤を塗布する。この後エポキシ系接着剤を硬化させて第1ガラス板1aおよび導電性区画部材3と、第2ガラス板1bとを一体化する。このようにして第1ガラス板1aと第2ガラス板1bとの間の封入空間Sに上下方向及び左右方向に区画された複数の区画室S1が形成されたセル部が製作される。なお、前記第1透明電極2a及び第2透明電極2bには、交流電源60を備え交流電圧を伝達するためのリード線61、62が接続されている。そしてさらに、第3電極となる導電性区画部材3および前記第2透明電極2bには、直流電源63を備え直流電圧を伝達するためのリード線64、65が接続されている。
【0025】このようにして構成された本実施例の電気泳動表示素子は。その非駆動時に、分散媒7より比重の大きい電気泳動粒子8が第1図の示すように各区画室S1内でそれぞれ沈降し、導電性区画部材3の各メッシュ孔32を形成する水平壁部30の上方平面300(図6参照)に付着している。従ってこの場合には各区画室S1の分散媒7内を光が透過するとき、電気泳動表示素子は、そのほぼ全域において均一した光透過状態にあり、かつ明るい状態を保持することができる。
【0026】ここにおいて、第1透明電極2aおよび第2透明電極2bに、周波数500Hz、AC100Vの交流電圧(正弦波電圧)を印加すると、電界の作用により各電気泳動粒子8が図2および図5に示すように分散媒7中へ移動し、分散する。このため電気泳動表示素子は、透光性の分散媒7中に分散した遮光性の電気泳動粒子8により遮光状態になり、かつ調光される。第1透明電極2aおよび第2透明電極2bに、周波数500Hz、AC100Vの交流電圧(正弦波電圧)を印加すると、電界の作用により各電気泳動粒子8が図2および図5に示すように分散媒7中へ移動し、分散する。このため電気泳動表示素子は、透光性の分散媒7中に分散した遮光性の電気泳動粒子8により遮光状態になり、かつ調光される。2お、本実施例で用いた周波数および電圧は、その値を例えば周波数50?1000Hz、電圧100?300Vの範囲内で変更して用いることができる。」

(c)図1は次のとおりである。


(d)上記(a)及び(b)の記載を踏まえて、上記(c)の図1を見ると、「第1ガラス板1aおよび第2ガラス板1」(【0020】)は、互いに間隔をあけて設けられていること、及び、「分散媒7および電気泳動粒子8」(【0020】)は、「第1ガラス板1aおよび第2ガラス板1」の間に配置されていることが見てとれる。

b 上記aによれば、下記の事項が記載されていると認められる。
(a)「第1ガラス板1aおよび第2ガラス板1は、互いに間隔をあけて設けられている」(上記「a」「(d)」)から、互いに間隔をあけた2枚のガラス板であるといえる。

(b)「分散媒7および電気泳動粒子8は、第1ガラス板1aおよび第2ガラス板1の間に配置されている」(上記「a」「(d)」)から、2枚のガラス板間に配置された分散媒及び電気泳動粒子であるといえる。
また、「電気泳動表示素子は」、「その非駆動時に、分散媒7より比重の大きい電気泳動粒子8が第1図の示すように各区画室S1内でそれぞれ沈降し、」「光透過状態にあり」(【0025】)、「交流電圧を印加すると、」「各電気泳動粒子8が」「分散媒7中へ移動し、分散する」「ため電気泳動表示素子は、」「遮光状態になり、かつ調光される」(【0026】)から、「分散媒および電気泳動粒子」は、光透過状態と、その光透過状態より光透過が少ない遮光状態と有するといえる。

(c)「自動車や住宅の窓のブラインド等として使用する」(【0019)「電気泳動表示素子」(【0001】)は、「その非駆動時に、」「光透過状態にあり」(【0025】)、「交流電圧を印加すると、」「遮光状態になり、かつ調光される」(【0026】)から、光透過状態と遮光状態に調光する自動車や住宅の窓のブラインド等として使用する電気泳動表示素子であるといえる。

(d)「分散媒7としては比重が0.8のケロシンが用いられ」(【0023】)、「電気泳動粒子8は、前記分散媒7の比重0.8より大きな比重1.4で黒色の顔料を用い」(【0024】)るから、分散媒はケロシンであり、電気泳動粒子は黒色の顔料であるといえる。

c 上記a及びbによれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる(なお、aないしdは、構成AないしDに対応させて当審が付した)。
「a 互いに間隔をあけた2枚のガラス板と、
b 前記2枚のガラス板間に配置された分散媒及び電気泳動粒子であって、前記分散媒及び電気泳動粒子は、光透過状態と、その光透過状態より光透過が少ない遮光状態と有する、分散媒及び電気泳動粒子と、
c を備えた、透過状態と遮光状態に調光する自動車や住宅の窓のブラインド等として使用する電気泳動表示素子であって、
d 前記分散媒はケロシンであり、前記電気泳動粒子は黒色の顔料である、
c 透過状態と遮光状態に調光する自動車や住宅の窓のブラインド等として使用する電気泳動表示素子。」

(イ)引用文献2
a 原査定の拒絶の理由で引用された原出願の最先の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開昭53-73098号公報(以下「引用文2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(a)「本発明は、コントラストあるいは耐光性のすぐれた電気泳動表示装置に関するものである。
従来の外マスク型電気泳動表示装置は、第1図に示すごとく、ガラス板などの透明基板1の上に設けられた透明な電極2と、絶縁性材料よりなる基板3上に設けた電極4との間に、例えば染料などで黒色に着色した液体中に白色の電気泳動微粉末が分散された分散系5がはさまれており、透明基板1の上にマスク層6を設けた透明基板7を重ね合わせた構造となっている。表示は、透明基板7側からの照明光により、透明基板7を通して観察する。電極2と4の間に直流電圧を印加して、白色粒子を電極2側へ付着させると、透明基板7を通してみる分散系5の色は白色に見え、印加電圧の極性を反転して白色粒子を電極4側へ付着させると、白色粒子は黒色液体の背後にあるため、透明基板7を通して見る分散系5の色は黒色に見えることになる。」(1頁右欄12行?2頁左上欄9行)

(b)「本発明は、表示装置としての品位を保ち、装置の寿命も低下させることなくコントラストのすぐれた電気泳動表示装置を提供するものである。以下、本発明を第2図に示す実施例に基いて説明するが、第1図で説明したものと同様の作用をなすものについては同一の符号を付している。本実施例は、第1図における空隔8の部分を、透明基板7あるいは透明基板1の、屈接率にできるだけ近い屈折率を有する透明体11でおきかえたことを特徴としている。通常の溶媒,油,樹脂等の透明体の屈折率は1.3?1.6の間にあり、透明基板1や7として、ガラスや有機フィルムを使用する場合には、屈折率が1より大きい透明体を埋め込むことにより,空隔を残した場合に比較して界面反射を顕著に低下させうる。
一方、空隔を埋めるための溶媒,油,樹脂などの透明体を、例えば染料などで着色することによって、可視光に対する選択吸収性をもたせると、同一の分散系を使用しても異なった色を表示することができる。すなわち、透明体を例えば黄色染料で着色したときは、通常,白と青に変化する分散系を用いても、黄と緑に変化する表示装置となるなど、同一分散系でも表示できる色が豊富になる。
また、電気泳動表示装置では分散系として、有機溶媒,染料,顔料等を使用するため、太陽光などの強い光の照射によって組成変化を起こし,表示装置の寿命を低下させる。実験によれば、390mμ以下の紫外部の光をカットすると、分散系の耐光性は約3?7倍向上することがわかった。従って、界面反射を防ぐために設けた透明体11が同時に紫外線吸収性であればコントラストが良好で,かつ耐光性にすぐれた電気泳動表示装置となりうる。」(2頁右下欄2行?3頁左上欄15行)

(c)第2図は次のとおりである。


(d)上記(a)及び(b)の記載を踏まえて、上記(c)の第2図を見ると、ガラス板などの透明基板1と透明基板7を重ね合わせた構造の間に紫外線吸収性透明体11を埋め込んだ部材と、絶縁性材料よりなる基板3との間に、染料などで黒色に着色した液体中に白色の電気泳動微粉末が分散された分散系5がはさまれてなることが見てとれる。

b 上記aよれば、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されているものと認められる。
「電気泳動表示装置では分散系として、有機溶媒、染料、顔料等を使用するため、太陽光などの強い光の照射によって組成変化を起こし、表示装置の寿命を低下させるが、390mμ以下の紫外部の光をカットすると、分散系の耐光性は約3?7倍向上するため、透明体11を紫外線吸収性するものとなした、
ガラス板などの透明基板1と透明基板7を重ね合わせた構造の間に紫外線吸収性透明体11を埋め込んだ部材と、絶縁性材料よりなる基板3との間に、染料などで黒色に着色した液体中に白色の電気泳動微粉末が分散された分散系5がはさまれてなる電気泳動表示装置。」

ウ 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「互いに間隔をあけた2枚のガラス板」(構成a)は、本件補正発明の「互いに間隔をあけた2枚の光透過性パネル」(構成A)に相当する。

(イ)引用発明の「分散媒及び電気泳動粒子」は、本件補正発明の「電気泳動媒体」に相当するから、引用発明の「前記2枚のガラス板間に配置された分散媒及び電気泳動粒子であって、前記分散媒及び電気泳動粒子は、光透過状態と、その光透過状態より光透過が少ない遮光状態と有する、分散媒及び電気泳動粒子」(構成b)は、本件補正発明の「前記2枚のパネル間に配置された電気泳動媒体であって、前記電気泳動媒体は、光透過性状態と、その光透過状態より光透過が少ない暗状態とを有する、電気泳動媒体」(構成B)に相当する。

(ウ)引用発明の「透過状態と遮光状態に調光する」ことは、本件補正発明の「光変調」に相当するから、引用発明の「透過状態と遮光状態に調光する自動車や住宅の窓のブラインド等として使用する電気泳動表示素子」(構成c)は、本件補正発明の「光変調器」(構成C)に相当する。

(エ)以上によれば、本件補正発明と引用発明は、
「A 互いに間隔をあけた2枚の光透過性パネルと、
B 前記2枚のパネル間に配置された電気泳動媒体であって、前記電気泳動媒体は、光透過性状態と、その光透過状態より光透過が少ない暗状態とを有する、電気泳動媒体と
C を備えた光変調器。」
の点で一致するとともに、下記各点で相違すると認められる

(相違点1)
電気泳動媒体が、本件補正発明では、「電磁放射の少なくとも1つの波長に曝されると、」「動作寿命を低下させ」るものであるのに対して、引用発明の「分散媒及び電気泳動粒子」は、「分散媒はケロシンであり、電気泳動粒子は黒色の顔料である」と特定されるにとどまる点。

(相違点2)
光変調器は、光透過性パネルのうちの少なくとも1つが、本件補正発明では、「この波長の電磁放射に対する吸収体を備え、前記吸収体は、前記光透過性パネルのうちの前記少なくとも1つの中に設けられている」のに対して、引用発明ではこのような構成を採用していない点。

エ 判断
(ア)上記相違点1について検討する。
引用発明の「電気泳動表示素子」に用いる「分散媒及び電気泳動粒子」は、「分散媒はケロシンであり、電気泳動粒子は黒色の顔料である」ところ、分散媒を構成するケロシンは一般に灯油として知られ、かつ、当該灯油が直射日光に含まれる紫外線により茶色く変色するものであることは本件原出願の最先の優先日当時の技術常識である。
したがって、引用発明の「分散媒及び電気泳動粒子」は、ケロシンからなる分散媒が紫外線に曝されると、当該分散媒が茶色く変色し、「分散媒及び電気泳動粒子」の動作寿命を低下させるものであるといえる。
よって、上記相違点1は実質的な相違点ではない。

(イ)上記相違点2について検討する。
引用発明の「透過状態と遮光状態に調光する自動車や住宅の窓のブラインド等として使用する電気泳動表示素子」に用いる「分散媒及び電気泳動粒子」の「分散媒はケロシンであ」るため、上記相違点1での検討を踏まえると、太陽光に曝される「自動車や住宅の窓のブラインド等として使用す」れば、当該ケロシンからなる「分散媒」が太陽光に含まれる紫外線により変質することは明らかである。
これに対して、引用文献2には「電気泳動表示装置では分散系として、有機溶媒、染料、顔料等を使用するため、太陽光などの強い光の照射によって組成変化を起こし、表示装置の寿命を低下させるが、390mμ以下の紫外部の光をカットすると、分散系の耐光性は約3?7倍向上するため、透明体11を紫外線吸収性するものとなした、ガラス板などの透明基板1と透明基板7を重ね合わせた構造の間に紫外線吸収性透明体11を埋め込んだ部材と、絶縁性材料よりなる基板3との間に、染料などで黒色に着色した液体中に白色の電気泳動微粉末が分散された分散系5がはさまれてなる電気泳動表示装置。」(引用文献2に記載された事項)が記載されている。
したがって、引用発明におけるケロシンからなる分散媒が太陽光に含まれる紫外線により変質することを防止するために、引用文献2に記載された事項の「電気泳動表示装置では分散系として、有機溶媒、染料、顔料等を使用するため、太陽光などの強い光の照射によって組成変化を起こし、表示装置の寿命を低下させるが、390mμ以下の紫外部の光をカットすると、分散系の耐光性は約3?7倍向上する」ことを踏まえて、引用文献2に記載された事項の「ガラス板などの透明基板1と透明基板7を重ね合わせた構造の間に紫外線吸収性透明体11を埋め込んだ部材」を、引用発明の(特に太陽光に曝される側の)ガラス板に代えて採用することは当業者が容易に想到し得たことである。
あるいは、引用発明の(特に太陽光に曝される側の)ガラス板に、引用文献2に記載された事項の「ガラス板などの透明基板1と透明基板7を重ね合わせた構造の間に紫外線吸収性透明体11を埋め込んだ部材」のうちの紫外線吸収性透明体11と透明基板7を付加して、引用発明のガラス板とガラス板などの透明基板7を重ね合わせた構造の間に紫外線吸収性透明体11を埋め込んだ部材の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
そして、このような構成とすれば、紫外線吸収性透明体11は2つの透明基板1と透明基板7の間に位置しているのであるから、「吸収体は光透過性パネルの中に設けら」れているといえる。

オ 請求人の主張
(ア)請求人は、令和元年11月8日提出の審判請求書の【請求の理由】「3.本願特許が登録されるべき理由」「3.3 平成30年12月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由2(特許法第29条第2項)について」において、概略「引用文献2は、せいぜい、(紫外線を吸収するという特性を有する)透明体11が、透明基板1、7、電極2、4、分散系5の外側に別個の層として配置されていることを開示しているにすぎません(引用文献2の第2頁右下欄第2行?第3頁左上欄第15行および図2を参照)。」と主張する。

(イ)しかしながら、上記エで検討したとおりであって、引用発明の「ガラス板」に代えて「ガラス板などの透明基板1と透明基板7を重ね合わせた構造の間に紫外線吸収性透明体11を埋め込んだ部材」を適用したものにおける、「ガラス板などの透明基板1と透明基板7を重ね合わせた構造の間に紫外線吸収性透明体11を埋め込んだ部材」全体が、本件補正発明の「透過性パネル」に相当するものであるから、上記主張は採用できない。
また、仮に「電気泳動媒体の中に個別のフィルタ層を設けるのではなく、例えば、紫外線および/または赤外線フィルタリングといった必要なフィルタリングを一方または双方のガラス板(または、他の同様に使用されたパネル)に設ける」(上記「第2」[理由]「2.」「(1)」「イ」【0066】)との記載に鑑みて、本件補正発明の「少なくとも1つの光透過性パネル」を「1枚のガラス板」であると解しうるとしても、紫外線吸収性のガラスはUVカットガラスとして、本件原出願の最先の優先日当時の周知の技術的事項にすぎないから、本件補正発明は引用発明、引用文献2に記載された事項及び上記周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

カ 本件補正発明の奏する作用効果について
そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

キ 小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.本件補正についてのむすび
以上によれば、本件補正後の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであることは認められないので、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしておらず、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、また、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反し、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
令和元年11月8日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成31年3月15日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2」[理由]「1.」「(2)」に記載のとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、原出願の最先の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開平4-212990号公報
引用文献2:特開昭53-73098号公報

3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は、上記「第2」[理由]「2.」「(2)」「イ」に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、上記「第2」[理由]「2.」で検討した本件補正発明から、「前記吸収体は、前記光透過性パネルのうちの前記少なくとも1つの中に設けられている」(相違点2)に係る限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項(相違点2)を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2」[理由]「2.」に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、相違点1のみで相違する本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-06-01 
結審通知日 2020-06-03 
審決日 2020-06-24 
出願番号 特願2018-13418(P2018-13418)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02F)
P 1 8・ 575- Z (G02F)
P 1 8・ 537- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 洋允  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 松川 直樹
星野 浩一
発明の名称 光変調器  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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