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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1367880
審判番号 不服2019-16692  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-10 
確定日 2020-12-01 
事件の表示 特願2014-222798「医療用表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月23日出願公開、特開2016- 86972、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年10月31日の出願であって、平成30年6月28日付けで拒絶理由が通知され、同30年9月3日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成31年2月27日付けで最後の拒絶理由通知がされ、同31年4月25日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和元年8月29日付けで平成31年4月25日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和元年12月10日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、令和2年5月26日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由1」という。)がされ、同2年8月3日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同2年9月2日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由2」という。)がされ、同2年10月1日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和元年8月29日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

平成30年9月3日提出の手続補正書により補正された請求項1-9に係る発明は、以下の引用文献A-Bに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2006-326050号公報
B.特開2012-170786号公報

第3 当審拒絶理由の概要
1 当審拒絶理由1
当審拒絶理由1の概要は次のとおりである。

(1)令和元年12月10日提出の手続補正書により補正された請求項1に係る発明、請求項1を引用する請求項4に係る発明、請求項1を引用する請求項6に係る発明、請求項1,4,6のいずれかを引用する請求項7に係る発明、及び、請求項8,9に係る発明は、以下の引用文献1に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)令和元年12月10日提出の手続補正書により補正された請求項2,3に係る発明、請求項2又は請求項3を引用する請求項4に係る発明、請求項2又は請求項3を引用する請求項6に係る発明、及び、請求項2又は請求項3を引用する請求項7に係る発明は、以下の引用文献1-2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)令和元年12月10日提出の手続補正書により補正された、請求項1を引用する請求項5に係る発明、及び、請求項5を引用する請求項7に係る発明は、以下の引用文献1,3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)令和元年12月10日提出の手続補正書により補正された、請求項2又は請求項3を引用する請求項5に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.吉田祥子,外5名,“静脈麻酔管理に対応した自動麻酔記録システム”,麻酔・集中治療とテクノロジー,2009年,第2009巻,第1号,pp.93-97(当審において新たに引用した文献)
2.特表2005-507724号公報(当審において新たに引用した文献)
3.特開2006-326050号公報(拒絶査定時の引用文献A)

2 当審拒絶理由2
当審拒絶理由2の概要は次のとおりである。

(1)令和2年8月3日提出の手続補正書により補正された請求項8,9に係る発明は、以下の引用文献1に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.吉田祥子,外5名,“静脈麻酔管理に対応した自動麻酔記録システム”,麻酔・集中治療とテクノロジー,2009年,第2009巻,第1号,pp.93-97


第4 本願発明
本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、令和2年10月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり、そのうち本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
患者の生命維持に関する基本生体情報である第1情報と、
前記患者への麻酔薬の投薬によって生じた前記患者の神経系への作用に関する情報である第2情報と、
前記患者への前記麻酔薬の投薬速度の履歴情報と、
を、統合して同一画面に時間軸を合わせて同時に表示するとともに、画面の上側から下側に向かって順次、前記第1情報、前記第2情報、前記投薬速度の履歴情報の順で表示し、かつ、前記第2情報と前記投薬速度の履歴情報とが隣接するように表示する、
医療用表示装置。」

なお、本願発明2-7の概要は以下のとおりである。
本願発明2-7は、本願発明1を減縮した発明である。

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1の記載及び引用発明1
(1)引用文献1に記載されている事項
当審拒絶理由1,2に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。

(引1a)
「3.麻酔チャートの自動作成
生体情報モニター(日本光電社製)からの血圧・脈拍・酸素飽和度などはオンラインで情報が転送され,それをもとに麻酔チャートが作成される.また接続機器であるシリンジポンプ(テルモ社製のTE-371TCI & TE-332)からは薬物の持続投与濃度が,全身麻酔期(アコマ社製)からは呼吸器設定や吸入薬濃度がネットワーク経由で情報を麻酔記録として表示・保存される.血液ガス分析装置(ラジオメータ社製)からは血液ガス結果が自動転送され,表示・保存される.」

(引1b)

「図3 全静脈麻酔での麻酔記録
一段目は薬物投与歴が表示され、二段目は血圧(オレンジ色)・脈拍(緑点)・体温(黄色点)が表示されている.三段目は緑線がプロポフォールの予測血中濃度で黄緑線がプロポフォールの効果部位濃度,黄色点がBISの値を示している.」

(引1c)
「おわりに
・・・
さらに,シリンジポンプからの情報処理により投与履歴(時刻,投与速度)の自動記録や自動記録に基づく薬物動態の予測(解析)が可能となったことから,単なる記録としてのシステムではなく,麻酔管理に有用な情報を提供する診断・治療支援システムの面も加わっている.」

(2)引用発明1
ア 引用文献1の図3は、麻酔記録の表示を行う画面の図であるといえるから、引用文献1には画面に麻酔記録を表示する装置が記載されていると認められる。また、図3の注釈における「薬物投与歴」について、「薬物」は麻酔薬を指すことが明らかである。

イ 引用文献1の図3の「■薬剤」の欄の四行目には「【麻】アルチバ(5mg) μg/kg/min」と記された項目が表示されている。ここで、「μg/kg/min」という単位は、1分あたりの投与量を表すから、「【麻】アルチバ(5mg) μg/kg/min」という項目は、「アルチバ(5mg)」という麻酔薬の投与速度の履歴を表示する項目であるといえる。すなわち、引用文献1の図3の一段目は「薬物投与歴」を表示する欄であるところ、「薬物投与歴」には麻酔薬の投与速度の履歴が含まれると認められる。

ウ 引用文献1の図3には、「■モニタ」の欄があり、この欄にはEtCO_(2)(呼気終末二酸化炭素分圧を指す。)の情報が表示されている。

エ 引用文献1の(引1c)における「シリンジポンプからの情報処理により投与履歴(時刻,投与速度)の自動記録・・・が可能となった」という記載について、「投与履歴」は図3の注釈における「薬物投与歴」と同じことを指し、この「投与履歴」あるいは「薬物投与歴」が情報として投与時刻や投与速度の履歴を含むと理解できる。そうすると、引用文献1の上記記載は「シリンジポンプからの情報の処理により、投与時刻及び投与速度の履歴を含む薬物投与歴の自動記録が可能となった」ことを指すといえる。

オ 図3の「■トレンドグラフ」及び「■トレンドグラフ2」の欄に表示されている血圧、脈拍、体温、プロポフォールの予測血中濃度、プロポフォールの効果部位濃度、及びBISの値は、トレンドグラフの形態で表示されているといえる。

カ 上記ア?オを踏まえると、上記引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「画面の上から順に「■薬剤」、「■モニタ」、「■トレンドグラフ」、「■トレンドグラフ2」の欄が表示され、「■薬剤」の欄に麻酔薬の薬物投与歴が表示され、薬物投与歴は麻酔薬の投与速度の履歴を含み、「■モニタ」の欄に呼気終末二酸化炭素分圧が表示され、「■トレンドグラフ」の欄に血圧、脈拍、体温がトレンドグラフの形態で表示され、「■トレンドグラフ2」の欄にプロポフォールの予測血中濃度と効果部位濃度、及びBISの値がトレンドグラフの形態で表示される、麻酔記録を表示する装置であって、生体情報モニターから血圧・脈拍などの情報が転送され、シリンジポンプからの情報の処理により投与時刻及び投与速度の履歴を含む薬物投与歴の自動記録が可能である、麻酔記録を表示する装置。」

2 引用文献2の記載
当審拒絶理由1に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。
「【0043】
図5は、タッチスクリーン900上の主モニタ表示70を示す。主モニタ表示70は、(1)患者の極めて重要なパラメータを表す信号の表示72、(2)患者の極めて重要なパラメータそれぞれの履歴データの表示74、(3)プロポフォール注入情報および効果部位レベルの表示76、(4)ART情報の表示78、(5)あらゆるシステム助言および/またはあらゆる患者状態アラームの表示80、(6)日時、および送出システムの電力状態の表示81、ならびに(7)異なる患者呼吸状態(吸気、呼気、無呼吸、完全な口呼吸)中に送出される異なるレベルのO_(2)流量を伝える補充酸素投与状態(図4参照)のアイコン表示83、のうちのいずれかまたはすべてを提供することができる。
・・・
【0047】
また図5に示されるのは、患者モニタからの現在の信号がリアルタイムデータボックス72に表示される。これらボックスは、ECGデータ72a、SpO_(2)モニタデータ72b、CO_(2)モニタデータ72cを含むことができる。・・・
【0051】
図5は、主モニタ表示70が、特定の極めて重要なパラメータそれぞれの最近の傾向を示す履歴グラフ74を含むことができることも示す。心拍数履歴グラフ74a、パルスオキシメトリ履歴ボックス74b、およびETCO_(2)履歴ボックス74cを表示することができる。」
【図5】

すなわち、引用文献2には、「患者の生体情報をモニタリングし、該生体情報を表示する装置において、生体情報のリアルタイムデータと履歴グラフを並べて表示する」という技術的事項が記載されている。

3 引用文献3の記載及び引用発明3
(1)引用文献3に記載されている事項
当審拒絶理由1に引用された引用文献3(拒絶査定に引用された引用文献A)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。

(引3a)
「【0001】
本発明は、麻酔関連パラメータ、特に筋弛緩パラメータの表示方法および筋弛緩状態表示モニタ装置に関するものである。
【0002】
手術中の患者管理に要求される測定ないし監視項目として、例えば血液ガス、循環動態、呼吸、麻酔深度、筋弛緩等がある。この場合、リアルタイムで監視できるパラメータとしては、心電図、血圧、SpO2、体温、心拍数、呼吸数等である。
・・・
【0008】
・・・電気刺激手段により筋弛緩状態を検出測定する場合の刺激パターンとして、次のような方法が採用されている。
・・・
(2)TOF(Train of Four)法:0.5秒おきに4回連続する刺激を1群として、15秒毎に繰り返し行う刺激方法である。TOF法では、第1刺激と第4刺激の高さの比(TOF比)を%で表し、筋弛緩薬が効いていない時は100%となる。」

(引3b)
「【0032】
図5は、ベッドサイドモニタ装置により従来の生体信号パラメータの表示と共に本発明に係る筋弛緩パラメータの表示方法を実施するモニタ画面の表示例を示す説明図である。すなわち、図5においては、生体信号パラメータとして心電図、血圧、SpO2、体温、心拍数、呼吸数等と共に、前述した図4に示すTOF比/TOFカウントのトレンドを、それぞれ画面表示することができることを示している。
【0033】
以上、本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は前述した実施例に限定されることなく、例えばPTC等の筋弛緩パラメータを前述したTOF比/TOFカウントのトレンドと共に表示することも可能であり、また麻酔関連パラメータの1つであるBIS(Bispectral Index:登録商標)モニタにより測定される催眠レベルを前述したTOF比/TOFカウントのトレンドと共に表示することも可能であり、・・・」

(引3c)
【図4】

【図5】


(2)引用発明3
ア (引3b)の【0032】には「図5においては、生体信号パラメータとして心電図、血圧、SpO2、体温、心拍数、呼吸数等と共に、前述した図4に示すTOF比/TOFカウントのトレンドを、それぞれ画面表示することができることを示している。」と記載されており、図5は1つの画面の表示を示した図であることが見てとれるから、「心電図、血圧、SpO2、体温、心拍数、呼吸数」と「TOF比/TOFカウントのトレンド」は、同一画面に表示されているといえる。

イ (引3b)の【0032】には「図4に示すTOF比/TOFカウントのトレンド」という記載と、(引3c)の図4を考慮すると、(引3c)の図5の中央下側のグラフが「TOF比/TOFカウントのトレンド」のグラフであることが見てとれる。そして図5の中央に描かれている各トレンドグラフのうち、上から1番目、2番目、4番目のものは、それぞれその左の「HR」、「ART」及び「SpO2」という記載から、それぞれ「心拍数」、「血圧」及び「SpO2」のトレンドグラフであると認められる。そうすると、図5からは、「心拍数」、「血圧」及び「SpO2」のトレンドグラフの下に「TOF比/TOFカウントのトレンド」グラフが表示されていることが見てとれる。


ウ 上記ア、イを踏まえると、上記引用文献3には、以下の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「生体信号パラメータとして心電図、血圧、SpO2、体温、心拍数、呼吸数等と共に、TOF比/TOFカウントのトレンドを同一画面に表示し、心拍数、血圧及びSpO2のトレンドグラフの下にTOF比/TOFカウントのトレンドグラフを表示する、ベッドサイドモニタ装置。」

4 引用文献Bの記載
原査定に引用された引用文献Bには、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。
「【0015】
図1と図2に示すように、シリンジポンプ1は、例えば薬剤を充填したシリンジ200のシリンジ本体(シリンジ外筒)201を、クランプ5を用いて動かないようにセットすることができる。シリンジポンプ1は、シリンジ200のシリンジ押子202の押子フランジ205をT方向に押圧して、シリンジ本体201内の薬剤を、図2に示すように輸液チューブ203と留置針204を介して、患者Pに対して正確に送液するようになっている。
・・・
【0016】
まず、シリンジポンプ1の本体カバー2に配置された要素について説明する。
図1と図2に示すように、シリンジポンプ1は、本体カバー2と取手2Tを有しており、取手2Tは水平方向のN方向(シリンジポンプ1に向って右方向)に伸ばしたり水平方向のT方向(シリンジポンプ1に向って左方向)に収納したりすることができる。本体カバー2の上部分2Aには、表示部3と、操作パネル部4が配置されている。本体カバー2の下部分2Bには、シリンジ載置部6と、シリンジ押子202を押すためのシリンジ押子駆動部7が配置されている。これにより、医療従事者は、本体カバー2の上部分2Aの表示部3の情報を確認しながら、シリンジ200からの薬剤の送液作業を行うことができる。そして、医療従事者は、本体カバー2の上部分2Aの表示部3の情報を確認しながら、操作パネル部4の操作ボタンを操作することができる。
・・・
【0021】
シリンジ本体201は、収容部8のシリンジ本体保持部8D内に収容して装着されると、シリンジ押子202がシリンジ押子駆動部7内に配置される。このシリンジ押子駆動部7は、移動部材としてのスライダ10を有している。このスライダ10は、図2に示す制御部100からの指令により、シリンジ押子202の押子フランジ205を把持しながら、シリンジ本体201に対して相対的にT方向に沿って少しずつ押す。これにより、シリンジ本体201内の薬剤は、輸液チューブ203と留置針204を通じて、患者Pに対して、0.1?150mL/hの注入速度、999mLまでの注入量の範囲で設定された値で、精度よく長時間かけて送液することができる。なお、図1と図2におけるX方向、Y方向、Z方向は互いに直交しており、Z方向は上下方向である。
図2に示す表示部3における薬剤情報の表示内容としては、例えば閉塞圧レベル表示,薬剤投与の予定量(mL)の表示欄、薬剤投与の積算量(mL)の表示欄、充電履歴の表示欄、電圧低下の表示欄、注入速度(mL/h)、注入量(mL)等の表示欄をカラー表示することができる。」

すなわち、引用文献Bには、「シリンジ200と表示部3を有するシリンジポンプ1であって、表示部3が薬剤情報として薬剤の注入速度を表示する」という技術的事項が記載されている。


第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)引用発明1に基づく場合
ア 対比
(ア)本願発明1の「第1情報」に関して、本願の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。
「【0023】
第1情報(基本生体情報)のトレンド情報として、心拍数(HR)、酸素飽和度(SpO_(2))、呼吸気中の炭酸ガス濃度(CO_(2))、呼吸数(RR)、観血血圧(BP)の最高及び最低血圧についての、それぞれのショートトレンドグラフが表示される。
【0024】
第1情報(基本生体情報)のリアルタイム情報として、現在の、心拍数(HR)、酸素飽和度(SpO_(2))、観血血圧(BP1)の最高及び最低血圧、呼吸気中の炭酸ガス濃度(CO_(2))、呼吸数(RR)、が、それぞれ計測値として表示される。また、これらの数値の右側には、心電図(II×1)、酸素飽和度(SpO_(2))、血圧(BP1)、呼吸気中の炭酸ガス濃度(CO_(2))、呼吸(RESP)のカレント波形が表示される。カレント波形とは、トレンドグラフよりも短い期間、例えば数拍分の期間に相当する期間の波形である。さらに、図2の例の場合、現在の非観血血圧(NIBP)の最高及び最低血圧、体温T1(皮膚温)、T2(直腸温)の数値が表示されている。」
上記の記載に鑑みれば、引用発明1の「血圧」及び「体温」は、本願発明1の「患者の生命維持に関する基本生体情報である第1情報」に相当する。
また、心拍と脈拍は密接に関連する生体情報であるから、心拍が本願発明1の「第1情報」に含まれる情報である以上、引用発明1の「脈拍」は、本願発明1の「患者の生命維持に関する基本生体情報である第1情報」に相当する。

(イ)本願発明1の「第2情報」に関して、本願の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。
「【0026】
第2情報(麻酔効果情報)のトレンド情報として、BIS値及び筋弛緩度(TOF)についての、それぞれのショートトレンドグラフが表示される。本実施の形態の場合、筋弛緩度として、4連刺激(TOF(Train Of Four))時に測定した筋反応を用いるようになっている。BIS値や、4連刺激を用いた筋反応については、既知の技術であるためここでの詳しい説明は省略する。BIS値が小さいほど大脳皮質の抑制が強いことつまり脳への麻酔効果が高い状態であることを意味し、4連刺激時の筋反応が小さいほど筋肉系への麻酔効果が高い状態であることを意味する。よって、これら2つのトレンドグラフを表示することにより、異なる見方で麻酔の効果を確認できるようになる。
・・・
【0028】
・・・また、第2情報(麻酔効果情報)のリアルタイム情報として、現在のBIS値及び筋弛緩度が数値として表示される。」
上記の記載に鑑みれば、引用発明1の「BISの値」は、本願発明1の「前記患者への麻酔薬の投薬によって生じた前記患者の神経系への作用に関する情報である第2情報」に相当する。

(ウ)引用発明1の「麻酔薬の投与速度の履歴」は、本願発明1の「前記患者への前記麻酔薬の投薬速度の履歴情報」に相当する。

(エ)引用発明1において、血圧、脈拍、体温、BISの値、及び麻酔薬の投与速度の履歴は1つの画面に表示されており、これらの情報は「統合して同一画面に」かつ「同時に」表示されているといえる。
さらに、引用文献1の図3からは、「■薬剤」の欄の上に13:00から14:00までの時刻が表示され、各時刻の表示からは画面下側に向けて時刻を表す目盛線が、「■トレンドグラフ2」の欄まで共通して描かれていることが見てとれる。すなわち、「■薬剤」、「■トレンドグラフ」及び「■トレンドグラフ2」の各欄で時間軸は合わされていると認められる。
よって、引用発明1において、血圧、脈拍、体温、BISの値、及び麻酔薬の投与速度の履歴は「統合して同一画面に時間軸を合わせて同時に表示」されているといえる。

(オ)引用発明1における「画面の上から順に「■薬剤」、「■モニタ」、「■トレンドグラフ」、「■トレンドグラフ2」の欄が表示され、「■薬剤」の欄一段目に麻酔薬の薬物投与歴が表示され、薬物投与歴は麻酔薬の投与速度の履歴を含み、・・・「■トレンドグラフ」の欄二段目に血圧、脈拍、体温がトレンドグラフの形態で表示され、・・・「■トレンドグラフ2」の欄三段目にプロポフォールの予測血中濃度と効果部位濃度、及びBISの値がトレンドグラフの形態で表示される」ことと、本願発明1の「画面の上側から下側に向かって順次、前記第1情報、前記第2情報、前記投薬速度の履歴情報の順で表示し、かつ、前記第2情報と前記投薬速度の履歴情報とが隣接するように表示する」こととは、「画面の上側から下側に向かって第1情報、第2情報の順で表示する」ことで共通する。

(カ)麻酔は手術などの医療の現場において用いられるものであるから、引用発明1の「麻酔記録を表示する装置」は、本願発明1の「医療用表示装置」に相当する。

(キ)以上のことから、本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「患者の生命維持に関する基本生体情報である第1情報と、
前記患者への麻酔薬の投薬によって生じた前記患者の神経系への作用に関する情報である第2情報と、
前記患者への前記麻酔薬の投薬速度の履歴情報と、
を、統合して同一画面に時間軸を合わせて同時に表示するとともに、画面の上側から下側に向かって第1情報、第2情報の順で表示する、
医療用表示装置。」

【相違点】
本願発明1は「投薬速度の履歴情報」が「第2情報」の下に、「第2情報」と隣接するように表示されるのに対し、引用発明1は麻酔薬の投与速度の履歴が血圧、脈拍、体温の上に表示され、BISの値と隣接するように表示されない点。

イ 判断
以下、相違点について検討する。
(ア)引用発明1は、画面の上側から下側に向かって、本願発明1の「投薬速度の履歴情報」に相当する情報である麻酔薬の投与速度の履歴、「第1情報」に相当する情報である血圧、脈拍、体温、「第2情報」に相当する情報であるBISの値、の順で表示するものである。

(イ)引用発明1には、画面の上側から下側に向かって、本願発明1の「第1情報」に相当する情報である血圧、脈拍、体温、「第2情報」に相当する情報であるBISの値、「投薬速度の履歴情報」に相当する情報である麻酔薬の投与速度の履歴の順で表示し、かつ、BISの値と麻酔薬の投与速度の履歴が隣接するように表示することを示唆する記載は認められない。

(ウ)引用文献2-4,Bにも、「第1情報」と「第2情報」と「投薬速度の履歴情報」とを、「画面の上側から下側に向かって順次、前記第1情報、前記第2情報、前記投薬速度の履歴情報の順で表示し、かつ、前記第2情報と前記投薬速度の履歴情報とが隣接するように表示する」ことは記載されていない。

(エ)さらに、引用発明1において本願発明1の「第1情報」に相当する情報である血圧、脈拍、体温、「第2情報」に相当する情報であるBISの値、「投薬速度の履歴情報」に相当する情報である麻酔薬の投与速度の履歴の順で表示し、かつ、BISの値と麻酔薬の投与速度の履歴が隣接するように表示することが、当業者が適宜なし得る事項であるともいえない。

(オ)まとめ
引用発明1において、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を得て、本願発明1とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ 小括
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1、及び引用文献2-4、引用文献Bに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(2)引用発明3に基づく場合
ア 対比
(ア)引用発明3の「血圧」、「SpO2」、「心拍数」が、本願発明1の「患者の生命維持に関する基本生体情報である第1情報」に相当する。

(イ)引用発明3の「TOF比/TOFカウント」が、本願発明1の「前記患者への麻酔薬の投薬によって生じた前記患者の神経系への作用に関する情報である第2情報」に相当する。

(ウ)引用発明3において、血圧、SpO2、心拍数、及び、TOF比/TOFカウントは同一画面に表示されており、これらの情報は「統合して」かつ「同時に」表示されているといえる。
さらに、引用文献3の図5からは、TOFカウントのトレンド表示の下に20:50から21:00までの時刻が表示され、各時刻の表示からは画面上側に向けて時刻を表す目盛線が描かれていることが見てとれる。
よって、引用発明3において、血圧、SpO2、心拍数、及び、TOFカウントは「統合して同一画面に時間軸を合わせて同時に表示」されているといえる。

(エ)引用発明3において「心拍数、血圧及びSpO2のトレンドグラフの下にTOF比/TOFカウントのトレンドグラフを表示する」ことと、本願発明1の「画面の上側から下側に向かって順次、前記第1情報、前記第2情報、前記投薬速度の履歴情報の順で表示し、かつ、前記第2情報と前記投薬速度の履歴情報とが隣接するように表示する」こととは、「画面の上側から下側に向かって第1情報、第2情報の順で表示する」ことで共通する。

(オ)引用発明3の「ベッドサイドモニタ装置」は、本願発明1の「医療用表示装置」に相当する。

(カ)以上のことから、本願発明1と引用発明3との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「患者の生命維持に関する基本生体情報である第1情報と、
前記患者への麻酔薬の投薬によって生じた前記患者の神経系への作用に関する情報である第2情報と、
を、統合して同一画面に時間軸を合わせて同時に表示するとともに、画面の上側から下側に向かって第1情報、第2情報の順で表示する、
医療用表示装置。」

【相違点】
本願発明1は「患者への」「麻酔薬の投薬速度の履歴情報」を「第2情報」の下に「第2情報」と隣接するように表示するのに対し、引用発明3は麻酔薬の投薬速度の履歴情報を表示しない点。

イ 判断
上記相違点は、上記「(1)引用発明1に基づく場合」に記載の「相違点」と同じく、本願発明1が「投薬速度の履歴情報」が「第2情報」の下に、「第2情報」と隣接するように表示されるという構成による相違点である。
そして、引用発明3には当該構成は示唆されておらず、引用文献1-2,4,Bにも当該構成は記載されていないから、引用発明3において、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ 小括
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明3、及び引用文献1-2,4、引用文献Bに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


2 本願発明2-7について
本願発明2-7も、本願発明1の「第1情報」と「第2情報」と「投薬速度の履歴情報」とを、「画面の上側から下側に向かって順次、前記第1情報、前記第2情報、前記投薬速度の履歴情報の順で表示し、かつ、前記第2情報と前記投薬速度の履歴情報とが隣接するように表示する」という構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1、及び引用文献2-4、引用文献Bに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
また、本願発明2-7は、当業者であっても、引用発明3及び引用文献1-2,4,Bに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものともいえない。

第7 原査定についての判断
令和2年10月1日付けの補正により、補正後の請求項1-7は、「第1情報」と「第2情報」と「投薬速度の履歴情報」とを、「画面の上側から下側に向かって順次、前記第1情報、前記第2情報、前記投薬速度の履歴情報の順で表示し、かつ、前記第2情報と前記投薬速度の履歴情報とが隣接するように表示する」という技術的事項を有するものとなった。
当該技術的事項は、原査定における引用文献A(当審拒絶理由における引用文献3)及び引用文献Bには記載されておらず、本願発明1-7は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Bに基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-11-09 
出願番号 特願2014-222798(P2014-222798)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 湯本 照基  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 磯野 光司
渡戸 正義
発明の名称 医療用表示装置  
代理人 特許業務法人鷲田国際特許事務所  

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