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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1367895
審判番号 不服2019-14128  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-24 
確定日 2020-12-03 
事件の表示 特願2017-228738「選択的入力信号拒否及び修正」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 1日出願公開、特開2018- 32443、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年3月31日(パリ条約による優先権主張 2008年12月8日、米国)を出願日とする特許出願である特願2009-84887号の一部を、平成25年4月24日に新たな出願特願2013-091095号とし、当該出願の一部を、平成27年12月3日に新たな出願特願2015-236897号とし、当該出願の一部を、平成29年11月29日に新たな出願特願2017-228738号としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年12月 4日 :手続補正書の提出
平成30年 8月29日付け:拒絶理由通知
平成31年 3月 4日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 6月18日付け:拒絶査定(原査定)
令和 元年10月24日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和元年6月18日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

(理由1)本願請求項1-4、9-13、18-20に係る発明は、以下の引用文献2に記載されているから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
(理由2)本願請求項1-4、7-13、16-20に係る発明は、以下の引用文献2-3により、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
2.特表2007-512619号公報
3.特開2001-265519号公報(周知技術を示す文献)

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、以下のとおり、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

1.特許法17条の2第3項について
審判請求時の補正によって請求項1の「タッチ入力及びピック入力の組み合わせを感知したとき、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成されるプロセッサ」を「受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成されるプロセッサ」に変更する補正(審判請求時に追加された箇所に下線を付記した。以下、「補正1」という。)を行い、請求項10、19にも同様の補正を行っている。
ここで、上記補正に関して、当初明細書の段落【0030】に「幾つかの実施形態では、手掌タッチ305などの手掌タッチが現われ、検出されたピックを無視するようにし、その後、マルチタッチ表面が下方にプッシュされている間に指406などの指が現われた場合、ピックは、連続して無視することができる。」と記載されており、無視されるピック入力の検出を生じさせる305などの手掌タッチの検出と、それに続く指406などのタッチの検出が検出された場合に、ピックを無視することが記載されている。
ここで、指406などのタッチの検出された場合は、「手掌タッチ305」に「続く」検出であるから、受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したときといえる。また、「その後、マルチタッチ表面が下方にプッシュされている間に指406などの指が現われた場合、ピックは、連続して無視する」ことから、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成されているといえる。
したがって、受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成されることは記載されていると認められる。
また、同様に、同段落に、「更に、パターン402のような指タッチが最初に現われ、検出されたピックが登録されるようにし、更にマルチタッチ表面が下方に押されている間に手掌タッチ401などの手掌タッチが現われた場合、ピックを連続して登録することができる。」と記載されており、パターン402のような登録されるピック入力の検出を生じさせる指タッチの検出と、それに続く401などの手掌タッチの検出がされた場合(受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したときといえる)に、ピックを連続して登録すること(タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成されているといえる)が記載されている。
さらに、同段落に、「より広義には、幾つかの実施形態では、ピックを登録するか又は無視するかの判断を生じるパターン中にピックが起こり、更にピックが起こっている間に引き続きパターンが変化した場合には、その後のパターンが異なる判断を生じることになる場合でも、依然として最初の判断により制御することができる。」と記載されており、広義に、ピック入力が生じた後、さらにピックが起こっている場合に(受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したときといえる)引き続きピック入力が、登録されるべきものであるのか、又は無視されるべきものであるのかという判断が、ピック入力中のパターン変化に影響されないこと(タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成されているといえる)が記載されている。

したがって、補正1は新規事項を追加するものではない。

また、請求項10および19における同様の補正も、補正1と同様に新規事項を追加するものではない。

2.特許法17条の2第4項について
補正1は、タッチ入力及びピック入力の組み合わせが「受け取った」ものであり、「異なるタイミングのパターン」ものであるという事項を追加する補正である。
よって、審判請求時の補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
そして、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の発明特定事項をすべて含み、補正1により減縮した発明であるから、発明の単一性の要件を満たしていると認められる。
また、補正後の請求項1、10、19に係る発明も、請求項1と同様な補正により、減縮した発明であるから、特許法第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当すると認められる。
したがって、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第4項を満たしていると認められる。

3.特許法第17条の2第5項及び同条第6項について
「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1ないし20に係る発明は、独立して特許を受けることができるものである。

第4 本願発明について

本願請求項1-20に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明20」という。)は、令和元年10月24日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-20に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である(下線部は、補正箇所である。)。

「 【請求項1】
1つ以上の第1のセンサ及び1つ以上の第2のセンサを含むユーザ入力システムであって、前記ユーザ入力システムは、前記1つ以上の第1のセンサからの少なくとも1つのタッチ入力と、前記1つ以上の第2のセンサからの少なくとも1つのピック入力とを含むユーザ入力を感知するように構成され、前記1つ以上の第1のセンサは、前記1つ以上の第2のセンサとは異なるものである、ユーザ入力システムと、
前記ユーザ入力システムが、受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成されるプロセッサと、を備える電子デバイス。
【請求項2】
前記プロセッサは、さらに、前記判定に基づいて前記意図的でないタッチ入力又はピック入力を無視するように構成される、請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項3】
前記ユーザ入力システムは、さらに、前記少なくとも1つのピック入力と独立して前記少なくとも1つのタッチ入力を検出するように構成される、請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項4】
前記プロセッサは、さらに、感知された前記タッチ入力又は前記ピック入力の少なくとも1つの各々による影響が、各々排除され又は軽減されるように構成される、請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項5】
前記プロセッサは、さらに、1つ以上のタッチ入力が感知された後に1つ以上のピック入力が感知されたとき、前記1つ以上のピック入力に関連する前記1つ以上のタッチ入力をフィルタリングするように構成される、請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項6】
前記プロセッサは、さらに、感知された少なくとも1つのタッチ入力のみに応じて、動作を実施するように構成される、請求項5に記載の電子デバイス。
【請求項7】
前記ユーザ入力システムは、さらに、前記少なくとも1つのピック入力が感知され継続した後に前記少なくとも1つのタッチ入力が感知されたとき、前記少なくとも1つのタッチ入力を処理のために前記プロセッサにレポートするように構成される、請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項8】
前記プロセッサは、さらに、前記少なくとも1つのピック入力及び前記少なくとも1つのタッチ入力の両方に応じて、動作を実施するように構成される、請求項7に記載の電子デバイス。
【請求項9】
前記プロセッサは、さらに、前記ピック入力が、前記少なくとも1つのタッチ入力と同時に入力されたとき、ピック入力の修正を実施しないように構成される、請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項10】
ユーザインターフェース入力を処理する方法であって、前記方法は、コンピューティングデバイス内で実施され、前記方法は、
少なくとも1つのタッチ入力及び少なくとも1つのピック入力を含むユーザ入力を感知するステップであって、前記少なくとも1つのタッチ入力は、前記少なくとも1つのピック入力とは異なるものである、ステップと、
受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定するステップと、
前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するステップと、を含む方法。
【請求項11】
前記判定に基づいて前記意図的でないタッチ入力又はピック入力を無視することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つのピック入力と独立して前記少なくとも1つのタッチ入力を検出することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
感知された前記タッチ入力又は前記ピック入力の少なくとも1つの各々による影響が、各々排除され又は軽減されることをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
1つ以上のタッチ入力が感知された後に1つ以上のピック入力が感知されたとき、前記1つ以上のピック入力に関連する前記1つ以上のタッチ入力をフィルタリングすることをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
感知された少なくとも1つのタッチ入力のみに応じて、動作を実施することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つのピック入力が感知され継続した後に前記少なくとも1つのタッチ入力が感知されたとき、前記少なくとも1つのタッチ入力を処理のためにレポートすることをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのピック入力及び前記少なくとも1つのタッチ入力の両方に応じて、動作を実施することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ピック入力が、前記少なくとも1つのタッチ入力と同時に入力されたとき、ピック入力の修正を実施しないことをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つのタッチ入力及び少なくとも1つのピック入力を含むユーザ入力を感知する手段であって、前記少なくとも1つのタッチ入力は、前記少なくとも1つのピック入力とは異なるものである、手段と、
受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定する手段と、
前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正する手段と、を備える電子デバイス。
【請求項20】
意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正する前記手段は、前記判定に基づいて前記意図的でないタッチ入力又はピック入力を無視する手段を備える、請求項19に記載の電子デバイス。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献2について
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている(下線は、当審が付加した。以下、同様。)。

「【0010】
図1は、本実施形態を実施するための環境を例示したものである。図示した実施例は、通常タッチパッド102と称される接触感知式装置を含む。該タッチパッド102は、タッチパッド(102)の表面上での、指のようなコンダクタ(導く物や人)の位置を検出する。タッチパッド(102)はさらに、X及びYパラメータからなる位置情報のほか、Zパラメータによる圧力情報を、出力信号として提供することができる。
【0011】
通常のタッチパッドは、コンダクタの位置の測定及び提供において非常に正確である。例えば、従来のあるタッチパッドは、1000dpiを越える分解能を有する。しかしながら、従来のタッチパッドは、これに加えられる圧力の測定及び出力において正確性に劣る。尚、本発明の他の実施形態では、タッチパネルやタッチスクリーンのような、他の接触感知式入力装置を用いることができる。
【0012】
図示のタッチパッド102は、実際の圧力を検出しない。その代わりに、タッチパッド102から読み出される圧力は擬似圧力である。例えば、タッチパッドは、抵抗、静電容量又は膜スイッチを利用して動作する。図1に示すタッチパッド102は、静電容量を利用しているが、本発明の実施形態では、抵抗性スイッチ及び膜スイッチのタッチパッドを含む、あらゆる接触感知式入力装置とともに実装することができる。別の実施形態においては、実際の圧力を検出しても良い。例えば、ある実施形態において、紛れもない圧力センサを付設したタッチスクリーンが用いられる。
【0013】
静電容量に基づくタッチパッド102は、当業者には周知であり、それ故、ここではその機能についての基本的事項を記載するにとどめる。図1に示すタッチパッド102のような、静電容量式のタッチパッドは、2組の配線群を備えており、それらは互いに直交し、配線群の間にギャップが形成されるように構成されている。ユーザが、指のようなコンダクタをタッチパッド102上に置くと、直交する2組の配線が一緒になって静電容量を形成する。タッチパッド102は、コンダクタが該タッチパッド上でどこに接触しているかを調べるために、2組の配線群のそれぞれにおいて、どの線対が最大の静電容量をもつか測定し、この測定情報に基づいて、タッチパッド102上でのコンダクタの位置である、X座標及びY座標を提供する。」

「【0018】
図1を参照すると、タッチパッド102は、X、Y、Zのパラメータ104をプロセッサ106に伝送する。該タッチパッド102は、本発明の各種実施形態において、数種類の座標情報を送信することができる。例えば、シナプティクスタッチパッド(Synaptics TouchPad:シナプティクス社の登録商標)は、相対座標、絶対座標のいずれも送信することができる。相対座標では、直前の座標情報が送信されているため、タッチパッド102上のコンダクタの移動情報を提供する。また、絶対座標では、その時点でのタッチパッド102上でのコンダクタの位置情報を提供する。本発明の一実施形態では、追加的なパラメータをも利用することができる。例えば、シナプティクスタッチパッド(登録商標)は「W」パラメータを提供するが、これは、タッチパッドとの接触の特性を、「偶発的」といった具合に報告する。本発明の実施形態では、ユーザの意思を正確に判定するために、このようなパラメータを使用することができる。
【0019】
再び図1を参照すると、プロセッサ106とタッチパッド102とは、直接又は間接に接続することができ、両者は有線式又は無線式の接続により繋ぐことができる。例えば、タッチパッド102は、プロセッサと通信する際、PS/2(Personal System/2)、シリアル、アップルデスクトップバス(ADB)、その他の通信プロトコルを利用できる。プロセッサ106は、コンピュータで読み取り可能な媒体に記録されたプログラムコードを実行することができる。図示のプロセッサは、タッチパッド102とは分離されているが、通常使用されるタッチパッドのあるものは、プロセッサを含んでおり、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)がある。ASICは、ユーザが操作しているかどうかを判定するため、タッチパッド102上での移動の処理を提供する。このような一体化したプロセッサを単独で使用しても良いし、また、本発明に従うプロセッサ106と組み合わせて使用しても構わない。
【0020】
プロセッサ106には、例えば、入力を処理し、アルゴリズムを遂行し、そして接触感知式入力装置から受信した入力に応じて必要な出力を生成することのできるデジタル論理プロセッサが含まれる。このようなプロセッサには、マイクロプロセッサ、上記ASIC及び状態マシンがある。また、このようなプロセッサは、媒体、例えばコンピュータで読み取り可能な媒体を備えるか又は該媒体と通信することができ、該媒体には、プロセッサ106により実行された場合に、後述するステップをプロセッサ106に実行させるプログラム命令が記録されている。
【0021】
コンピュータで読み取り可能な媒体の実施形態には、電子デバイス、光学式デバイス、磁気デバイス又は他のストレージデバイス又は伝送デバイスが含まれ、それらによって接触感知式入力装置と通信するプロセッサ106のようなプロセッサに、コンピュータで読み出し可能な命令を提供することが可能である。但し、媒体については上記の装置に限定されない。他の適切な媒体例としては、フレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、磁気ディスク、メモリチップ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ASIC、設定されたプロセッサ、全ての光学式媒体、全ての磁気テープ媒体又は他の磁気式媒体、又はコンピュータプロセッサが命令を読み出すことのできる他の媒体が挙げられる。また、コンピュータで読み取り可能な媒体の各種形態は、コンピュータに命令を伝送し又は運ぶものとされ、ルータ、私的又は公的のネットワーク、その他の伝送デバイスやチャンネル(有線及び無線)が含まれる。該命令は、あらゆるコンピュータプログラム言語、例えば、C、C#、ビジュアルベーシック、ジャバ及びジャバスクリプトのコードからなる。
【0022】
図1に示す実施形態は、各種の装置で実現することができる。そのような装置には、パーソナルコンピュータが含まれ、その多くは一体化されたタッチパッドを備える。このような装置にはまた、携帯型電子手帳、セルラー電話、携帯通信機器、MP3プレイヤー、GPS(Global Positioning System)レシーバーなどの、手持ち式デバイスが含まれる。」

「【0042】
図3に示す実施形態において、指がタッチパッド(102)の表面上を移動する速度、すなわち、下式に示す、サイクル当たりのタッチパッド(102)上でのX及びY位置の変化がフィルタ処理され、最大速度閾値と比較される。この速度が最大速度閾値未満になるまで、プロセッサ(106)は押下と認識しない。
【0043】
図3に示す実施形態において、プログラムコードを実行しているプロセッサ(106)は最初に、擬似圧力を上限閾値と比較する(ステップ302)。擬似圧力が上限閾値を越えると、ステップ314の処理を続行する。そうでない場合には、プロセッサ(106)が、例えば、保存してあるフラグの値をチエックすることにより、ユーザが以前に接触していたかどうかを判定する(ステップ304)。そうであれば、プロセッサ(106)は擬似圧力を下限閾値と比較する(ステップ306)。また、ユーザがそれ以前に接触していなかった場合、又は擬似圧力が下限閾値に等しいか若しくは下限閾値よりも小さい場合には、プロセッサ(106)が、第1の時間計測の時間が経過したかどうかを判定する(ステップ308)。
【0044】
第1の時間計測が経過済みである場合には、ステップ302から処理を再開する。また、第1の時間計測が経過済みでない場合に、プロセッサ(106)は、ユーザがタッピング中であるという結論を下す(ステップ310)。該プロセッサ(106)は、第1の時間計測をクリアし、処理がステップ302に戻る。
【0045】
ステップ302において、擬似圧力が上限閾値を超えたと判定した場合に、プロセッサ(106)はユーザがそれ以前に接触していたかどうかを判定する(ステップ314)。そうであれば、プロセッサ(106)はステップ316を迂回し、ユーザが接触しているという結論を下す(ステップ318)。ステップ314にてユーザがそれ以前に接触していなかった場合、プロセッサ(106)は第1の時間計測を開始させ(ステップ316)、ユーザが接触しているという結論を下す(ステップ318)。擬似圧力が下限閾値よりも大きく(ステップ306)、かつユーザがそれ以前に接触していた場合は(ステップ304)、プロセッサ(106)が第1の時間計測を開始させる(ステップ316)。
【0046】
いずれにしても、図示の実施例において、プロセッサ(106)により、ユーザが接触しているという結論が一度下されると(ステップ318)、プロセッサ(106)は速度を速度閾値と比較する(ステップ320)。速度が速度閾値よりも大きいか又は速度閾値に等しい場合、プロセッサ(106)は処理をステップ302に戻す。速度を速度閾値と比較するに際して、プロセッサ(106)は、ユーザが押下を示すのに充分な圧力を加えてはいるけれども、指がタッチパッド(102)上を移動しているために、ユーザには押下と認識させる意思がないことを調べる。
【0047】
速度が速度閾値よりも小さい場合には、擬似圧力の変化が閾値と比較される(ステップ322)。擬似圧力の変化が閾値よりも小さいか又は閾値に等しい場合には、プロセッサ(106)が処理をステップ302に戻す。また、擬似圧力の変化が閾値よりも大きい場合に、プロセッサ(106)は、第1の時間計測の時間が経過したかどうかを判定する(ステップ324)。そうであれば、プロセッサ(106)はユーザがキーを押しているという結論を下し(ステップ326)、該プロセッサ(106)は処理をステップ302に戻す。」

(2)引用発明について
したがって、上記引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「通常タッチパッド102と称される接触感知式装置を含み、
該タッチパッド102は、タッチパッド(102)の表面上での、指のようなコンダクタ(導く物や人)の位置を検出し、
タッチパッド(102)はさらに、X及びYパラメータからなる位置情報のほか、Zパラメータによる圧力情報を、出力信号として提供し、
タッチパッド102は、実際の圧力を検出しない、
その代わりに、タッチパッド102から読み出される圧力は擬似圧力であり、
別の実施形態においては、実際の圧力を検出しても良い、
紛れもない圧力センサを付設したタッチスクリーンが用いられ、
タッチパッド102は、コンダクタが該タッチパッド上でどこに接触しているかを調べるために、2組の配線群のそれぞれにおいて、どの線対が最大の静電容量をもつか測定し、この測定情報に基づいて、タッチパッド102上でのコンダクタの位置である、X座標及びY座標を提供し、
タッチパッド102は、X、Y、Zのパラメータ104をプロセッサ106に伝送し、
各種の装置で実現することができ、
そのような装置には、パーソナルコンピュータが含まれ、その多くは一体化されたタッチパッドを備え、
サイクル当たりのタッチパッド(102)上でのX及びY位置の変化がフィルタ処理され、最大速度閾値と比較される。この速度が最大速度閾値未満になるまで、プロセッサ(106)は押下と認識しない、
プロセッサ(106)により、ユーザが接触しているという結論が一度下されると(ステップ318)、プロセッサ(106)は速度を速度閾値と比較する(ステップ320)、
速度が速度閾値よりも大きいか又は速度閾値に等しい場合、プロセッサ(106)は処理をステップ302に戻す、
速度を速度閾値と比較するに際して、プロセッサ(106)は、ユーザが押下を示すのに充分な圧力を加えてはいるけれども、指がタッチパッド(102)上を移動しているために、ユーザには押下と認識させる意思がないことを調べる、
速度が速度閾値よりも小さい場合には、擬似圧力の変化が閾値と比較される(ステップ322)、擬似圧力の変化が閾値よりも小さいか又は閾値に等しい場合には、プロセッサ(106)が処理をステップ302に戻す、
また、擬似圧力の変化が閾値よりも大きい場合に、プロセッサ(106)は、第1の時間計測の時間が経過したかどうかを判定する(ステップ324)、
そうであれば、プロセッサ(106)はユーザがキーを押しているという結論を下し(ステップ326)、該プロセッサ(106)は処理をステップ302に戻す、
パーソナルコンピュータ。」

2.周知技術について
原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。

「【0022】
【作用】上記構成では、指などの操作体が操作面に触れたときに、時間計測や操作体の移動量を認識することにより、スイッチ入力動作であるか、通常の座標入力動作であるか高精度に認識できる。したがって、操作者がスイッチ入力する意志なしに操作面を強く押圧したような場合にも、前記時間や移動量を認識することにより、誤ってスイッチ入力を判別されることがない。
【0023】またスイッチ入力を維持しつつ操作体の移動操作による座標入力を行なうことが可能なドラッグモードに移行することができ、また再度のスイッチ入力により前記ドラッグモードを解除することができる。
【0024】加えて、スイッチ入力を継続しながら操作(ドラッグモード)を望む際、操作面上を指などで移動させている最中に操作面の端に当たってしまってそれ以上移動できない場合でも、スイッチ入力が開始された状態を保持できるため、操作面から指などで離しても新たに操作面に触れてスイッチ入力を維持しながらの移動操作を継続して行うことができる。」

したがって、引用文献3には、「スイッチ入力を維持しつつ操作体の移動操作による座標入力を行なうこと」なる技術が開示されているが、このような技術は、本願の優先日前から周知であったといえる。

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア.引用発明の「タッチパッド」はユーザ入力を行うものであるから、本願発明の「ユーザ入力システム」に相当する。

イ.引用発明の「タッチパッド」は、「該タッチパッド102は、タッチパッド(102)の表面上での、指のようなコンダクタ(導く物や人)の位置を検出して」「タッチパッド(102)はさらに、X及びYパラメータからなる位置情報のほか、Zパラメータによる圧力情報を、出力信号として提供し」ているから、本願発明の「タッチ入力」及び「ピック入力」を感知するものであるといえる。

ウ.引用発明の「タッチパッド」は、「該タッチパッド102は、タッチパッド(102)の表面上での、指のようなコンダクタ(導く物や人)の位置を検出し」、「2組の配線群のそれぞれにおいて、どの線対が最大の静電容量をもつか測定し、この測定情報に基づいて、タッチパッド102上でのコンダクタの位置である、X座標及びY座標を提供」している。
よって、引用発明の「タッチパッド」は、静電容量を測定するセンサを備えているといえる。
そして、引用発明の当該静電容量を測定するセンサは、X座標及びY座標というタッチの位置情報を検出していることから、本願発明のタッチ入力を感知する「1つ以上の第1のセンサ」に相当する。

エ.引用発明のZパラメータによる圧力情報を検出する圧力センサは、「紛れもない圧力センサを付設したタッチスクリーンが用いられ」ても良いことから、当該「圧力センサ」は、本願発明のピック入力を含むユーザ入力を感知する「1つ以上の第2センサ」に相当する。

オ.引用発明の「圧力センサ」は、タッチスクリーンに付設されたものであるから、引用発明の静電容量を測定するセンサと異なるものであることは明らかである。

カ.引用発明は、「サイクル当たりのタッチパッド(102)上でのX及びY位置の変化がフィルタ処理され、最大速度閾値と比較され、この速度が最大速度閾値未満になるまで、プロセッサ(106)は押下と認識しない」、「速度を速度閾値と比較するに際して、プロセッサ(106)は、ユーザが押下を示すのに充分な圧力を加えてはいるけれども、指がタッチパッド(102)上を移動しているために、ユーザには押下と認識させる意思がないことを調べ」るの処理を行っている。
ここで、引用発明において、タッチパッド上で、「押下」されている場合、タッチパッド上の位置も併せて検知していることから、タッチ入力とピック入力の組み合わせを感知しているものと認められる。
また、引用発明の「押下」は「ピック入力」に相当し、引用発明の「ユーザには押下と認識させる意思がないことを調べる」ことは、「押下」(ピック入力)と認識させる意図があるか否かを判定しているといえるから、本願発明の「ピック入力が意図的であるか否かを判定すること」に相当する。
そして、引用発明の「プロセッサ」は、「速度が速度閾値よりも大きいか又は速度閾値に等しい場合、プロセッサ(106)は処理をステップ302に戻」し、「速度が速度閾値よりも小さい場合」であって、「擬似圧力の変化が閾値よりも大きい場合に、プロセッサ(106)は、第1の時間計測の時間が経過したかどうかを判定する(ステップ324)。そうであれば、プロセッサ(106)はユーザがキーを押しているという結論を下し」ていることから、速度閾値による「判定」に基づいて意図的でないピック入力は修正されるように構成されるプロセッサであるといえる。
したがって、引用発明の「プロセッサ」と本願発明の「前記ユーザ入力システムが、受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成されるプロセッサ」とは、「タッチパッドが、受け取ったタッチ入力及びピック入力の組み合わせを感知したとき、ピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないピック入力を修正するように構成されるプロセッサ」である点で共通している。

キ.引用発明の「パーソナルコンピュータ」は、本願発明の「電子デバイス」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「1つ以上の第1のセンサ及び1つ以上の第2のセンサを含むユーザ入力システムであって、前記ユーザ入力システムは、前記1つ以上の第1のセンサからの少なくとも1つのタッチ入力と、前記1つ以上の第2のセンサからの少なくとも1つのピック入力とを含むユーザ入力を感知するように構成され、前記1つ以上の第1のセンサは、前記1つ以上の第2のセンサとは異なるものである、ユーザ入力システムと、
前記ユーザ入力システムが、受け取ったタッチ入力及びピック入力の組み合わせを感知したとき、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成されるプロセッサと、を備える電子デバイス。」

(相違点1)
プロセッサがタッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成されるプロセッサが処理することに関して、本願発明1が「受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき」のに対し、引用発明は「受け取ったタッチ入力及びピック入力の組み合わせを感知したとき」である点。

(2)相違点についての判断
相違点1に係る本願発明1の「前記ユーザ入力システムが、受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成される」なる構成について、「前記ユーザ入力システムが、受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき、」が「タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し」を修飾する表現であるのか、「タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成される」を修飾する表現であるのか、請求項の記載のみからは不明確であるため、明細書の記載を参酌する。当該構成の記載根拠である段落【0030】の記載によれば、「受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき」、「タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定」すること、「前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成される」ことの両方を行っていることは明らかであるため、当該構成は、「前記ユーザ入力システムが、受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき」、「タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成される」を意味しているものと認められる。
そして、「受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき」、「タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正する」という構成は、上記引用文献2、3のいずれにも記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるとも言えない。
また、引用文献2には、マルチタッチに対応したタッチパッドであることが記載されておらず、「受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知」できるものではなく、またそのように構成する起因もないから、仮に、「前記ユーザ入力システムが、受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正する」ことが周知技術であったとしても当該周知技術を引用発明に組み合わせる動機付けが存在しない。

したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明および引用文献3に記載された周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし20について
本願発明2ないし9は、いずれも本願発明1に従属する発明であり、また、本願発明10ないし20も、本願発明1の「前記ユーザ入力システムが、受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成される」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明および引用文献3に記載された周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
1.理由1(特許法第29条第1項第3号)について
審判請求時の補正により、本願発明1-20は「前記ユーザ入力システムが、受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成される」という構成を有するものとなった。
上記「第5 対比・判断」において検討したとおり、本願発明1-20と引用発明とは「前記ユーザ入力システムが、受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成される」点で相違している。
したがって、本願発明1-20は、引用文献2に記載された発明とはいえない。

2.理由2(特許法第29条第2項)について
本願発明1-20は、「前記ユーザ入力システムが、受け取ったタッチ入力及びピック入力の異なるタイミングのパターンの組み合わせを感知したとき、タッチ入力又はピック入力が意図的でないか否かを判定し、前記判定に基づいて意図的でないタッチ入力又はピック入力を修正するように構成される」という構成を有するものであり、当業者であっても、原査定において引用された引用文献2-3に記載された発明に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。

したがって、原査定の理由1、2をいずれも維持することはできない。

第7 むすび
したがって、原査定の理由1、2によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-11-18 
出願番号 特願2017-228738(P2017-228738)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐伯 憲太郎円子 英紀  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 野崎 大進
太田 龍一
発明の名称 選択的入力信号拒否及び修正  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 岩崎 吉信  
代理人 西島 孝喜  
代理人 那須 威夫  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 大塚 文昭  

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