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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F |
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管理番号 | 1367920 |
審判番号 | 不服2019-6841 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-05-27 |
確定日 | 2020-12-01 |
事件の表示 | 特願2014-235186「端末装置、プリンタ制御方法、およびコンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月30日出願公開、特開2016- 99753、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年11月20日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成29年11月13日 :手続補正書の提出 平成30年 5月15日付け:拒絶理由通知書 平成30年 7月18日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年10月16日付け:拒絶理由(最後)通知書 平成30年12月21日 :意見書の提出 平成31年 3月15日付け:拒絶査定(原査定) 令和 元年 5月27日 :審判請求書の提出 令和 2年 6月30日付け:拒絶理由通知書(当審拒絶理由) 令和 2年 8月28日 :意見書、手続補正書の提出 第2 原査定の概要 原査定(平成31年3月15日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 この出願の請求項1-11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物Aに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献A.特開2007-200255号公報 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由(令和2年6月30日付け拒絶理由)の概要は次のとおりである。 (理由1)この出願の請求項1-3、8-11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (理由2)この出願の請求項1-11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1、2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 1.特開2004-38296号公報(当審で新たに引用した文献) 2.特開2013-111981号公報(当審で新たに引用した文献) 第4 本願発明 本願請求項1-8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)は、令和2年8月28日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-8は以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 プリンタに対して1つまたは複数の仮想プリンタを設けることができ、当該1つまたは複数の仮想プリンタのうちのユーザが指定した仮想プリンタによって当該プリンタに画像を印刷させる端末装置であって、 前記複数の仮想プリンタのうちのユーザによって選択された被選択仮想プリンタの識別子がユーザによって変更された際に、当該変更された識別子に複数の特定のキーワードのうちのいずれかが含まれているか否かを判定する、判定手段と、 前記変更された識別子に前記複数の特定のキーワードのうちのいずれかが含まれていると前記判定手段によって判定された場合に、当該含まれている特定のキーワードに対応付けられている第一の条件が含まれるように、前記被選択仮想プリンタに設定されている第二の条件を更新する、更新手段と、 を有することを特徴とする端末装置。 【請求項2】 前記1つまたは複数の仮想プリンタのうちのユーザによって指定された仮想プリンタの前記第二の条件で前記画像が印刷されるように前記プリンタを制御する制御手段、を有する、 請求項1に記載の端末装置。 【請求項3】 前記複数の特定のキーワードそれぞれに対応付けられている前記第一の条件を記憶する記憶手段、を有し、 前記更新手段は、前記記憶手段に記憶されている、前記含まれている特定のキーワードの前記第一の条件が含まれるように前記被選択仮想プリンタの前記第二の条件を更新する、 請求項1または請求項2に記載の端末装置。 【請求項4】 前記更新手段は、前記変更された識別子に前記複数の特定のキーワードのうちの複数が含まれている場合に、当該含まれている複数の特定のキーワードのうちの所定の位置にあるほうが優先的に含まれるように前記第二の条件を更新する、 請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の端末装置。 【請求項5】 前記被選択仮想プリンタの前記第二の条件を表示する表示手段、を有し、 前記制御手段は、ユーザの操作に応じて前記被選択仮想プリンタの前記第二の条件を変更し、当該変更した第二の条件で前記画像を印刷するように前記プリンタを制御する、 請求項2に記載の端末装置。 【請求項6】 前記記憶手段に記載されている、前記複数の特定のキーワードのいずれかを変更する変更手段、を有する、 請求項3に記載の端末装置。 【請求項7】 プリンタに対して1つまたは複数の仮想プリンタを設けることができる端末装置によって、当該1つまたは複数の仮想プリンタのうちのユーザが指定した仮想プリンタで画像が印刷されるように当該プリンタを制御するプリンタ制御方法であって、 前記複数の仮想プリンタのうちのユーザによって選択された被選択仮想プリンタの識別子がユーザによって変更された際に、当該変更された識別子に複数の特定のキーワードのうちのいずれかが含まれているか否かを判定する判定ステップと、 前記変更された識別子に前記複数の特定のキーワードのうちのいずれかが含まれていると判定された場合に、当該含まれている特定のキーワードに対応付けられている第一の条件が含まれるように、前記被選択仮想プリンタに設定されている第二の条件を更新する、更新ステップと、 前記端末装置が、前記1つまたは複数の仮想プリンタのうちのユーザによって指定された仮想プリンタの前記第二の条件で前記画像が印刷されるように前記プリンタを制御する制御ステップと、 を有することを特徴とするプリンタ制御方法。 【請求項8】 プリンタに対して1つまたは複数の仮想プリンタを設けることができるコンピュータによって、当該1つまたは複数の仮想プリンタのうちのユーザが指定した仮想プリンタで画像が印刷されるように当該プリンタを制御するコンピュータに用いられるコンピュータプログラムであって、 前記複数の仮想プリンタのうちのユーザによって選択された被選択仮想プリンタの識別子がユーザによって変更された際に、当該変更された識別子に複数の特定のキーワードのうちのいずれかが含まれているか否かを判定する判別処理を前記コンピュータに実行させ、 前記変更された識別子に前記複数の特定のキーワードのうちのいずれかが含まれていると判定された場合に、当該含まれている特定のキーワードに対応付けられている第一の条件が含まれるように、前記被選択仮想プリンタに設定されている第二の条件を更新する、更新処理を、前記コンピュータに実行させ、 前記1つまたは複数の仮想プリンタのうちのユーザによって指定された仮想プリンタの前記第二の条件で前記画像が印刷されるように前記プリンタを制御する制御処理を、前記コンピュータに実行させる、 ことを特徴とするコンピュータプログラム。」 第5 引用文献、引用発明等 1.引用文献1について 令和2年6月30日付けの当審拒絶理由通知に引用された引用文献1(特開2004-38296号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同様。) 「【0079】 【発明の実施の形態】 〔第1実施形態〕 図1は、本発明の第1実施形態を示す情報処理装置の構成の一例を示すブロック図である。 【0080】 図において、10はコンピュータで、CPU21とその周辺機器とからなるコンピュータ本体11、ディスプレイ12、及びキーボード,ポインティングデバイス(PD)等の入力装置13等から構成され、イーサネット(登録商標)等のネットワーク50を介してプリンタ30A,……,プリンタ30B(以下、プリンタ30)と接続されている。なお、ここでは、コンピュータ10とプリンタ30とがネットワーク50を介して接続される場合について説明したが、プリンタ30とがUSBI/F,パラレルI/F等を介してコンピュータ10と直接接続されるように構成してもよい。また、プリンタは幾つ接続されていてもよい。 ・・・中略・・・ 【0083】 40はオペレーティングシステム(OS)であり、コンピュータ10全体を統括制御するためのソフトウエアである。なお、このOS40は、1台のプリンタに対するインストール作業を複数回行うことにより、1台のプリンタを異なる複数のプリンタオブジェクトとしてOSのシステム情報ファイル(通常レジストリと称される)に登録し、各プリンタオブジェクトに対してそれぞれ異なるプリンタ名,デフォルト動作情報(デフォルトの動作条件を規定する情報)を設定し、プリンタ名,デフォルトの動作条件の異なる複数台の仮想プリンタとして使用できるようにコンピュータ10を制御可能なOSであり、例えばWindows(登録商標)95/98/NT/2000/XP(米国Microsoft Corporationの米国及びその他の国における登録商標)等である。 ・・・中略・・・ 【0104】 以下、図4に示すフローチャートを参照して、本発明の情報処理装置におけるプリンタ複製・設定処理について説明する。 【0105】 図4は、本発明の情報処理装置における第1の制御処理手順の一例を示すフローチャートであり、プリンタ複製・設定処理に対応する。なお、このフローチャートの処理は、図1に示したCPU21によりHDD26,記憶媒体32又はその他の記憶媒体に格納されたプログラムに基づいて実行されるものとする。また、図中、S101?S106は各ステップを示す。 【0106】 プリンタ複製・設定処理が開始されると、まず、ローカルプリンタ(コンピュータ10にインストールされているプリンタオブジェクト)を列挙し(S101)、次に、全てのプリンタをチェック(後述するステップS103?S106の処理)したか否かを判定し、まだ全てのプリンタをチェックしていないと判断した場合には、ステップS101で列挙したローカルプリンタを順次チェック(該ローカルプリンタのプリンタドライバが本処理で設定変更可能であるか否かのチェック)し(S103)、設定変更付加であると判断した場合には、ステップS102に戻り、次のローカルプリンタの処理に移行する。 【0107】 一方、ステップS103でカレントのローカルプリンタのプリンタドライバが本処理で設定変更可能であると判断した場合には、設定フィル(当審註:「設定ファイル」の誤記と認める。)の検索・読込みを行う(S104)。なお、設定ファイル200は、プリンタドライバ毎に作成されるものであり、ステップS104における設定ファイルの検索は、カレントのローカルプリンタと同一のプリンタ情報をもつ設定ファイルを検索する。同一の判定条件としては、設定ファイル内の”DriverInfo”セクションの”DRIVERNAME”項目と、カレントのローカルプリンタのプリンタドライバ名が同一であることとする。ここで、設定ファイルが見つからない場合には、ステップS102に戻り、次のローカルプリンタの処理に移行する。 【0108】 一方、ステップS104で、設定ファイルが見つかった場合には、設定ファイルを読込み、カレントのローカルプリンタを複製(プリンタの複製)する(S105)。 【0109】 ここで、プリンタの複製とは、オリジナルのプリンタオブジェクトの名称に設定ファイルのプリンタ情報セクションの”Name”項目の値を連結し、システム情報ファイルに登録されているオリジナルプリンタオブジェクトと同じプリンタドライバ,ポート(プリンタを使用する際に用いる接続先),プリントプロセッサ等を指定したプリンタオブジェクトをOS40のシステム情報ファイル(レジストリ等)に新たに追加する処理に相当する。例えば、カレントのローカルプリンタが”LBx-880”であり、図3に示した設定ファイルが用意されていたとすると、”LBx-880(両面印刷)”,”LBx-880(トナー節約+2in1)”が生成される。なお、複製するプリンタオブジェクトの名称が、OSにより許可された文字数を越える場合には、オリジナルプリンタオブジェクトの名称のプリンタ名を短縮するようにしてもよいし、ユーザに入力させるように構成してもよい。 ・・・中略・・・ 【0111】 次に、ステップS106において、ステップS105で複製した各プリンタオブジェクトのデフォルト設定の変更(デフォルト動作条件の変更設定)を行う。なお、ステップS105で、設定ファイルのプリンタ情報セクションの”Name”項目の値が「””(NULL)」等であったり付加文字列が合致してプリンタのコピー処理が行われなかった場合には、そのプリンタオブジェクトのデフォルト設定の変更(デフォルト動作条件の変更設定)を行う。 【0112】 ここで、プリンタオブジェクトのデフォルト設定の変更とは、設定フィルのプリンタ設定情報セクションを読込み、設定変更をしていく。例えば、図3に示した設定ファイルの”Printer1”セクションでは、”2Sideptint=1”(当審註:「2Sideprint=1」の誤記と認める。)と指定されているので、”LBx-880(両面印刷)”のデフォルト設定は「両面印刷」に変更され、”Printer2”セクションでは、”Savetoner=1”及び”Layout=1”と指定されているので、”LBx-880(トナー節約+2in1)”のデフォルト設定は、「トナー節約」及び「2ページ/枚印刷(2in1)」に変更される。デフォルト設定の変更が終了すると、ステップS102に戻り、次のローカルプリンタの処理に移行する。 【0113】 なお、デフォルト設定変更の際、設定項目に矛盾がある場合は設定変更処理を中断し、ステップS102に戻り、次のローカルプリンタの処理に移行する。 【0114】 そして、ステップS102において、全てのプリンタをチェックが終了したと判断した場合には、そのまま処理を終了する。 【0115】 図5は、図4に示したプリンタ複製・設定変更処理を行った後の印刷ダイアログボックスの一例を示す模式図である。 【0116】 図4に示したプリンタ複製・設定変更処理を行った後、ユーザが、アプリケーションプログラムを実行させて「ファイルメニュー」の「印刷」コマンドを選択した場合、コンピュータ10のディスプレイ12上には、図に示すような印刷ダイアログボックス70が表示される。 【0117】 印刷ダイアログボックス70において、71は利用するプリンタをプリンタオブジェクトのプリンタ名で選択するためのリストボックスであり、72は選択されたプリンタの動作条件を変更するためのプロパティボタンであり、73は印刷の実行を指示するためのOKボタンである。 【0118】 ユーザは、この印刷ダイアログボックス70において、ボタン71aを指示することにより表示されるリスト71bから「LBx-880(トナー節約+2in1)」を選択し、OKボタン73を押下すると、コンピュータ10内では、OS40、アプリケーションプログラム及びプリンタ「LBx-880(トナー節約+2in1)」のプリンタドライバが連携して機能することにより、システム内の設定ファイル(レジストリ等のシステム情報)内に記憶されている、プリンタ「LBx-880(トナー節約+2in1)」に関する動作条件(トナー節約印刷+2in1)に応じた印刷ジョブデータを生成し、「LBx-880(トナー節約+2in1)」に設定されているポートから出力する処理が行なわれる。そして、その結果として、プリンタ30(「LBx-880」)が、仮想プリンタ「LBx-880(トナー節約+2in1)」のデフォルト設定での動作(印刷)を行うことになる。 【0119】 なお、ユーザが、「LBx-880(両面印刷+2in1)」を選択した場合も同様である。 【0120】 また、図3に示した設定ファイル200は、管理者がテキストエディタ等で記述してユーザに配布してもよいし、管理者が所定のユーザインタフェース、例えば図23,図24に示したプリンタドライバの設定画面と同様のユーザインタフェースや単にプリンタドライバを選択する選択ボタンと設定可能な設定項目をチェックするチェックボタンのみのユーザインタフェースを用いて図2に示した設定ファイル200を生成するように構成してもよい。 【0121】 さらに、上記プリンタ複製・設定変更処理により複写されたプリンタオブジェクトを複数指定して、各プリンタオブジェクトに設定されているデフォルト設定の論理和に対応するデフォルト設定を設定した新たなプリンタオブジェクトを追加生成するように構成してもよい。この際、プリンタオブジェクトの名称は、双方の名称をつないだ名称とするように構成してもよい。但し、同一の文字列が存在する場合は一方を削除するものとする。」 上記記載からみて、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 〈引用発明〉 「コンピュータ10とプリンタ30とがネットワーク50を介して接続され、 コンピュータ10全体を統括制御するためのソフトウエアであるオペレーティングシステム(OS)40は、1台のプリンタを異なる複数のプリンタオブジェクトとしてOSのシステム情報ファイルに登録し、各プリンタオブジェクトに対してそれぞれ異なるプリンタ名,デフォルト動作情報(デフォルトの動作条件を規定する情報)を設定し、プリンタ名,デフォルトの動作条件の異なる複数台の仮想プリンタとして使用できるようにコンピュータ10を制御可能なOSであり、 プリンタ複製・設定変更処理を行った後、ユーザが、アプリケーションプログラムを実行させて「ファイルメニュー」の「印刷」コマンドを選択した場合、コンピュータ10のディスプレイ12上には、印刷ダイアログボックス70が表示され、 印刷ダイアログボックス70において、71は利用するプリンタをプリンタオブジェクトのプリンタ名で選択するためのリストボックスであり、72は選択されたプリンタの動作条件を変更するためのプロパティボタンであり、73は印刷の実行を指示するためのOKボタンであり、 この印刷ダイアログボックス70において、ボタン71aを指示することにより表示されるリスト71bから「LBx-880(トナー節約+2in1)」を選択し、OKボタン73を押下すると、コンピュータ10内では、OS40、アプリケーションプログラム及びプリンタ「LBx-880(トナー節約+2in1)」のプリンタドライバが連携して機能することにより、システム内の設定ファイル(レジストリ等のシステム情報)内に記憶されている、プリンタ「LBx-880(トナー節約+2in1)」に関する動作条件(トナー節約印刷+2in1)に応じた印刷ジョブデータを生成し、「LBx-880(トナー節約+2in1)」に設定されているポートから出力する処理が行なわれ、その結果として、プリンタ30(「LBx-880」)が、仮想プリンタ「LBx-880(トナー節約+2in1)」のデフォルト設定での動作(印刷)を行い、 「LBx-880(両面印刷+2in1)」を選択した場合も同様の処理を行う、コンピュータ10。」 2.引用文献2について 当審拒絶理由通知に引用された引用文献2(特開2013-111981号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。 「【0083】 (第2の実施形態) 次に第2の実施形態を説明する。本実施形態の画像形成処理システムは、印刷の目的に合せた仮想プリンタを複数設定してクライアント端末から選択できるようにしたシステムである。具体的には、予め印刷の目的に応じて設定条件や設定値が設定されたデータテーブルを複数用意して設定値データベースに登録するとともに、それぞれのデータテーブルに対して印刷の目的を表わす名称が付けられた仮想プリンタを対応付けておく。そしてクライアント端末から印刷を指示する際に、いずれかの仮想プリンタを選択して印刷を指示するようにしたシステムである。本システムにおける複数の仮想プリンタは選択した場合に設定される印刷設定に違いがあるが、いずれを選択して印刷を指示しても所定の画像形成装置(本実施形態では画像形成装置1)に印刷を実行させる仮想的なプリンタである。このようなシステムにより、印刷設定の設定に用いるデータテーブルを印刷の目的等に応じて簡単に切り替えることができるので、よりユーザが所望した印刷結果が得やすくなる。以下、本実施形態をより詳細に説明する。 【0084】 図9は、本実施形態の画像形成処理システムにおいて印刷を指示するクライアント端末の画面に表示されるプリンタ選択画面180の一例である。プリンタ選択画面180は、携帯端末100(100’)やPC150(150’)などのクライアント端末から印刷を指示する場合に、仮想プリンタを選択する画面として表示される画面例である。本実施形態では、一例として「標準プリンタ」、「コスト優先設定」、「客先配布設定」という名称の仮想プリンタが登録されている場合を説明する。 【0085】 まず標準プリンタ182は画像形成装置1において取得した印刷ジョブに設定されている設定値を優先し、設定値の変更、置換を行わない仮想プリンタである。従って、この標準プリンタ182が選択された場合には、画像形成装置1の解析部32、判定部34、設定部36は処理を行わず、印刷ジョブ取得部30が取得した印刷ジョブをRIP部38がRIP処理し、画像形成処理制御部40がプリンタ部10にそのまま印刷させる。なお取得された印刷ジョブにおいて設定されていない印刷設定項目が存在した場合には、設定部36が画像形成装置1において予め設定されているデフォルト値をその印刷設定に設定すればよい。 【0086】 次にコスト優先設定184は、コスト削減を優先するように設定条件や設定値が設定されたデータテーブルを利用する仮想プリンタである。具体的には、判定部34や設定部36が、コスト優先のデータテーブルに基づいて判定処理や設定値の設定処理を行う。コスト優先のデータテーブルでは、印刷品質よりもコストの低減を優先して印刷を行うことができる条件や設定値が登録されている。コスト優先設定184に対応するデータテーブルの例としては、例えばNin1印刷(割付印刷)の印刷設定項目について印刷ページ数が所定ページ数以下の場合に2in1印刷、所定ページ数を超えている場合に3in1印刷や4in1印刷が設定される場合が挙げられる。 【0087】 次に客先配布設定186は、客に配布する書類として適した印刷結果が得られるように印刷設定が設定される仮想プリンタである。例えば印刷品質が高くなるように設定値が設定される。客先配布設定186が選択された場合には、客先配布に適した設定条件や設定値が登録されたデータテーブルに基づいて判定部34や設定部36により印刷設定処理が行われる。例えば、所定のページ数を超えている場合にステイプルで止めるステイプル処理が設定値として設定される。またデフォルトでカラー/白黒がカラーに設定される。 【0088】 以上の本実施形態によれば、目的に合った設定条件や設定値が適用される仮想プリンタを複数作成して選択できるようにすることで、プリンタドライバを利用できない場合など詳細に印刷設定ができなくても、よりユーザの要求に則した印刷結果が得られるシステムを提供することができる。なお、上述した仮想プリンタや対応するデータテーブルの内容は一例であり、求める印刷結果に対応した様々な仮想プリンタを設定することができる。」 第6 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 (ア)引用発明において、「コンピュータ10全体を統括制御するためのソフトウエアであるOS40は、1台のプリンタを異なる複数のプリンタオブジェクトとしてOSのシステム情報ファイルに登録し、各プリンタオブジェクトに対してそれぞれ異なるプリンタ名,デフォルト動作情報(デフォルトの動作条件を規定する情報)を設定し、プリンタ名,デフォルトの動作条件の異なる複数台の仮想プリンタとして使用できるようにコンピュータ10を制御可能なOSであり」、「ユーザが、アプリケーションプログラムを実行させて「ファイルメニュー」の「印刷」コマンドを選択した場合、コンピュータ10のディスプレイ12上には、印刷ダイアログボックス70が表示され」、「この印刷ダイアログボックス70において、ボタン71aを指示することにより表示されるリスト71bから「LBx-880(トナー節約+2in1)」を選択し、OKボタン73を押下すると」、「プリンタ30(「LBx-880」)が、仮想プリンタ「LBx-880(トナー節約+2in1)」のデフォルト設定での動作(印刷)を行」うことから、引用発明の「コンピュータ10」は、本願発明1の「プリンタに対して1つまたは複数の仮想プリンタを設けることができ、当該1つまたは複数の仮想プリンタのうちのユーザが指定した仮想プリンタによって当該プリンタに画像を印刷させる端末装置」に相当するといえる。 (イ)引用発明の「プリンタオブジェクトのプリンタ名」(「LBx-880(トナー節約+2in1)」や「LBx-880(両面印刷+2in1)」)は、本願発明1の「前記複数の仮想プリンタのうちのユーザによって選択された被選択仮想プリンタの識別子」に相当するといえ、「LBx-880(トナー節約+2in1)」や「LBx-880(両面印刷+2in1)」に含まれる「トナー節約+2in1」や「両面印刷+2in1」は、本願発明1の「複数の特定のキーワード」に相当するといえる。 (ウ)引用発明の「プリンタ「LBx-880(トナー節約+2in1)」に関する動作条件(トナー節約印刷+2in1)」は、本願発明1の「当該特定のキーワードに対応付けられている第一の条件」に相当するといえる。 (エ)引用発明は、選択された仮想プリンタ「LBx-880(トナー節約+2in1)」のデフォルト設定での動作(印刷)」を行うものであり、この「デフォルト設定」は、プリンタに画像を印刷させる際の印刷条件であって、当該仮想プリンタに設定されている条件であるといえるから、本願発明1の「前記被選択仮想プリンタに設定されている第二の条件」に相当するといえる。 (オ)上記(ウ)および(エ)より、引用発明と本願発明1とは、「前記複数の仮想プリンタのうちのユーザによって選択された被選択仮想プリンタの識別子に複数の特定のキーワードのうちのいずれかが含まれている場合に、当該含まれている特定のキーワードに対応付けられている第一の条件が含まれるように、前記被選択仮想プリンタに設定されている第二の条件で、当該プリンタに画像を印刷させる」点で共通するといえる。 そうしてみると、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点と相違点があるといえる。 〈一致点〉 プリンタに対して1つまたは複数の仮想プリンタを設けることができ、当該1つまたは複数の仮想プリンタのうちのユーザが指定した仮想プリンタによって当該プリンタに画像を印刷させる端末装置であって、 前記複数の仮想プリンタのうちのユーザによって選択された被選択仮想プリンタの識別子に複数の特定のキーワードのうちのいずれかが含まれている場合に、当該含まれている特定のキーワードに対応付けられている第一の条件が含まれるように、前記被選択仮想プリンタに設定されている第二の条件で、当該プリンタに画像を印刷させる端末装置。 〈相違点〉 本願発明1では、「被選択仮想プリンタの識別子がユーザによって変更された際に、当該変更された識別子に複数の特定のキーワードのうちのいずれかが含まれているか否かを判定する、判定手段」と、「前記変更された識別子に前記複数の特定のキーワードのうちのいずれかが含まれていると前記判定手段によって判定された場合に、当該含まれている特定のキーワードに対応付けられている第一の条件が含まれるように、前記被選択仮想プリンタに設定されている第二の条件を更新する、更新手段」とを有するのに対し、引用発明では、このような判定手段や更新手段を有していない点。 (2)相違点についての判断 引用発明の「LBx-880(トナー節約+2in1)」や「LBx-880(両面印刷+2in1)」に含まれる「トナー節約+2in1」や「両面印刷+2in1」は、「複数の特定のキーワード」に相当するといえるものの、これらのいずれかを含む識別子すなわち「LBx-880(トナー節約+2in1)」および「LBx-880(両面印刷+2in1)」の各識別子がユーザによって変更された場合の処理について、引用文献1に記載も示唆もない。 さらに、引用文献1の記載を参照する限り、引用発明は、「LBx-880(トナー節約+2in1)」という識別子に対応する仮想プリンタが選択されると、この識別子に対応する仮想プリンタのデフォルト設定での動作(印刷)を行うものであり、識別子に含まれる特定のキーワード(「トナー節約」および「2in1」)に基づいて印刷条件を決定し印刷を行うのではなく、先に行われたプリンタ複製・設定処理によって設定された仮想プリンタのデフォルト設定に従って印刷を行うものであるから、引用発明において、仮に、識別子に含まれる特定のキーワードがユーザによって変更されたとしても、当該仮想プリンタのデフォルト設定に関する更新処理が行われるとは認められず、ユーザによる変更後の識別子に基づいて印刷の条件が決定されるとも認められない。 また、ユーザが、仮想プリンタに対して設定したい条件(第一の条件)がある場合に、その第一の条件に対応する特定のキーワードが含まれるように、その仮想プリンタの識別子を変更することによって、その仮想プリンタに設定されている第二の条件をその第一の条件が含まれるように更新することは、上記引用文献2にも記載も示唆もなく、このことが本願出願日前において周知技術であるともいえない。 したがって、上記相違点は当業者が容易に想到し得たものではなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2-6について 本願発明2-6も、本願発明1の上記相違点に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3.本願発明7、8について 本願発明7は本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明8は本願発明1に対応するプログラムの発明であり、いずれも本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明であり、本願発明1の上記相違点に係る構成に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第7 原査定についての判断 令和2年8月28日付けの補正により、補正後の請求項1-6は、「被選択仮想プリンタの識別子がユーザによって変更された際に、当該変更された識別子に複数の特定のキーワードのうちのいずれかが含まれているか否かを判定する、判定手段」と、「前記変更された識別子に前記複数の特定のキーワードのうちのいずれかが含まれていると前記判定手段によって判定された場合に、当該含まれている特定のキーワードに対応付けられている第一の条件が含まれるように、前記被選択仮想プリンタに設定されている第二の条件を更新する、更新手段」という技術的事項を有し、また、請求項1とカテゴリ表現が異なる請求項7、8は、当該技術的事項に対応する技術的事項を有するものとなった。 当該技術的事項は、原査定における引用文献Aには記載されておらず、本願出願日前における周知技術でもないので、本願発明1-8は、当業者であっても、原査定における引用文献Aに基づいて容易に発明できたものではない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。 他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-11-10 |
出願番号 | 特願2014-235186(P2014-235186) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G06F)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 三橋 竜太郎 |
特許庁審判長 |
稲葉 和生 |
特許庁審判官 |
林 毅 ▲吉▼田 耕一 |
発明の名称 | 端末装置、プリンタ制御方法、およびコンピュータプログラム |
代理人 | 坂田 泰弘 |
代理人 | 久保 幸雄 |