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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1367969
審判番号 不服2020-1376  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-03 
確定日 2020-11-12 
事件の表示 特願2015-167587「大型ディスプレイ用白色反射フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 2日出願公開、特開2017- 44886〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2015-167587号(以下「本件出願」という。)は、平成27年8月27日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 元年 5月20日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 7月24日付け:意見書、手続補正書
令和 元年10月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 2月 3日付け:審判請求書
令和 2年 2月 3日付け:手続補正書
令和 2年 3月17日付け:手続補正書(方式)

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年2月3日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
熱可塑性樹脂に、炭酸カルシウム粒子および該熱可塑性樹脂に非相溶な樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、
該炭酸カルシウム粒子は、平均粒径が1.01?1.18μm、小粒径側から積算した10%体積粒径D10、50%体積粒径D50および90%体積粒径D90が(D90-D10)/D50≦1.6を満たし、含有量が前記熱可塑性樹脂組成物の質量に対して5?69質量%であり、
該非相溶な樹脂は、含有量が前記熱可塑性樹脂組成物の質量に対して1?40質量%であり、
前記炭酸カルシウム粒子と前記非相溶な樹脂の含有量の合計が、前記熱可塑性樹脂組成物の質量に対して10?70質量%である反射層Aを有し、フィルムの反射率が60%以上である、30インチ以上の大型液晶ディスプレイ用白色反射フィルム。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は当合議体が付与したものであり、補正箇所を示す。
「 【請求項1】
熱可塑性樹脂に、炭酸カルシウム粒子および該熱可塑性樹脂に非相溶な樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる反射層Aを有する、30インチ以上の大型液晶ディスプレイ用白色反射フィルムであって、
該炭酸カルシウム粒子は、平均粒径が1.01?1.18μm、小粒径側から積算した10%体積粒径D10、50%体積粒径D50および90%体積粒径D90が(D90-D10)/D50≦1.6を満たし、含有量が前記熱可塑性樹脂組成物の質量に対して5?69質量%であり、
該非相溶な樹脂は、含有量が前記熱可塑性樹脂組成物の質量に対して1?40質量%であり、
前記炭酸カルシウム粒子と前記非相溶な樹脂の含有量の合計が、前記熱可塑性樹脂組成物の質量に対して10?70質量%であり、
該熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性樹脂の融点が200?280℃であり、
該白色反射フィルムの反射率が60%以上である、白色反射フィルム。」

2 本件補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1に係る発明の「熱可塑性樹脂組成物」について、「熱可塑性樹脂の融点が200?280℃であ」るという限定を付加する補正を含む。ここで、この補正は、本件出願の明細書の【0015】に記載された事項である。
また、本件補正前の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)の産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一である(本件出願の明細書の【0001】及び【0006】)。
そうしてみると、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすものであり、また、同条第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の限定的減縮)を目的とする補正を含むものである。
そこで、本件補正後発明が特許法17条の2条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

3 独立特許要件違反についての判断
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2015-86241号公報(以下「引用文献3」という。)は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂からなり炭酸カルシウム粒子を含有する白色ポリエステルフィルムであって、
上記炭酸カルシウム粒子は、上記フィルム中の含有量が31?50質量%であり、50%体積粒径D50が0.4?2.0μmであり、該D50(単位:μm)とBET比表面積(S、単位:g/m^(2))が下記式(1)を満たす、白色ポリエステルフィルム。
D50 ≦ 2.5-0.2×S ・・・(1)
【請求項2】
上記炭酸カルシウム粒子は、90%体積粒径D90、50%体積粒径D50、10%体積粒径D10としたときに(D90-D10)/D50が2.0未満である、請求項1に記載の白色ポリエステルフィルム。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウム粒子を含有する白色ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、テレビ、携帯電話等の表示装置として、液晶ディスプレイが数多く用いられている。液晶ディスプレイは、背後から光を照明するバックライトユニットを備え、かかるバックライトユニットには、液晶ディスプレイの背面に備える光源(例えばCCFLやLED等)から光を照射して液晶ディスプレイを照明するバックライト方式と、液晶ディスプレイの背面に導光板を備え、かかる導光板のエッジに備える光源(例えばLED等)から光を照射し、導光板の前面に光を取り出して液晶ディスプレイを照明するエッジライト方式とがある(例えば特許文献1)。かかるエッジライト方式においては、バックライト方式より薄型にできるという利点がある。そしてこれらバックライトユニットには、背面に逃げた光を反射して再度利用するために、反射板が用いられている。
【0003】
さらに近年、コスト削減を目的として、照明光源個数の減少やバックライトユニットに使用される輝度向上フィルムの排除等が進められており、反射板にはより高い反射特性、輝度特性が望まれている。ここで反射板には、薄さと高反射性の観点から、延伸によりポリエステルフィルム内部に微細なボイドを含有させ、該ボイドで光を散乱させることにより白色化された、白色ポリエステルフィルムが主に用いられている。
ボイド形成剤としては、白色の無機粒子を含有する形態が良く用いられており、かかる無機粒子としては、特にコストの観点においては炭酸カルシウム粒子が優れているため、その使用が望まれている。
・・・中略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来の炭酸カルシウム粒子では、ポリエステルに対して炭酸カルシウム粒子の表面が活性であることにより、ガスが発生し、フィルムにおいてはガスマークと呼ばれる欠点となる問題があった。そして、かかるガスマークがあると反射率のばらつきとなってしまう。ガスマークの発生を抑制するためには、炭酸カルシウム粒子の添加量を低くすることが考えられるが、それでは反射率が低くなってしまう。
【0006】
そこで本発明は、炭酸カルシウム粒子を含有する白色ポリエステルフィルムであって、優れた反射率を有し、面内における反射率のバラツキが抑制された白色ポリエステルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を採用するものである。
1.ポリエステル樹脂からなり炭酸カルシウム粒子を含有する白色ポリエステルフィルムであって、
上記炭酸カルシウム粒子は、上記フィルム中の含有量が31?50質量%であり、50%体積粒径D50が0.4?2.0μmであり、該D50(単位:μm)とBET比表面積(S、単位:g/m^(2))が下記式(1)を満たす、白色ポリエステルフィルム。
D50 ≦ 2.5-0.2×S ・・・(1)
2.上記炭酸カルシウム粒子は、90%体積粒径D90、50%体積粒径D50、10%体積粒径D10としたときに(D90-D10)/D50が2.0未満である、上記1に記載の白色ポリエステルフィルム。
3.白色ポリエステルフィルムの密度が1.00g/cm^(3)以下である、上記1または2に記載の白色ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭酸カルシウム粒子を含有する白色ポリエステルフィルムであって、優れた反射率を有し、面内における反射率のバラツキが抑制された白色ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の白色ポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂からなり炭酸カルシウム粒子を含有するものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
[ポリエステル樹脂]
本発明におけるポリエステル樹脂のポリエステルとしては、ジカルボン酸成分とジオール成分とからなるポリエステルを用いる。ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、および、これらのエステル形成性誘導体に由来する成分を挙げることができる。ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,6-ヘキサンジオール、および、これらのエステル形成性誘導体に由来する成分を挙げることができる。これらのポリエステルの中で、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0011】
本発明におけるポリエステルは、好ましくは共重合ポリエステル、特に好ましくは共重合ポリエチレンテレフタレートである。共重合成分の割合は、全ジカルボン酸成分100モル%に対して、好ましくは4?15モル%、さらに好ましくは5?14モル%、さらに好ましくは3?14モル%、特に好ましくは6?13モル%である。これによって、製膜性と熱寸法安定性とに優れる。共重合成分の割合が4モル%未満であると、製膜性に劣る傾向にある。他方、15モル%を超えると、熱寸法安定性に劣る傾向にある。
【0012】
共重合ポリエチレンテレフレートである場合、共重合成分としては、例えば、イソフタル酸成分、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を挙げることができる。イソフタル酸成分および2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を用い、合計の共重合量を4?15モル%とした共重合ポリエチレンテレフタレートは、上記観点において特に好ましいポリエステルである。
【0013】
[炭酸カルシウム微粒子]
本発明における炭酸カルシウム粒子は、50%体積粒径D50が0.4?2.0μmである。また、白色ポリエステルフィルム中の含有量は、31?50質量%である。このようなD50および含有量の態様とすることで、ボイド数をより多くすることができ、高い反射率が得られる。D50が小さすぎると粒子が凝集しやすくなる傾向にある。また、ガスマークが発生し易い傾向にあり、反射率のばらつきが大きくなる傾向にある。他方、大きすぎると、含有量を高くすることが困難となり、結果としてボイド数が低減して反射率が低くなる。含有量は、少なすぎるとボイド数が低減して反射率が低くなる。他方、多すぎると延伸し難くなり、ボイドが形成され難くなり、反射率が低くなる。かかる観点から、D50は、好ましくは0.4?1.0μm、より好ましくは0.5?0.9μm、さらに好ましくは0.6?0.8μmである。含有量は、好ましくは33?47質量%であり、より好ましくは35?45質量%である。
【0014】
本発明においては、炭酸カルシウム粒子は、その10%体積粒径D10、50%体積粒径D50、90%体積粒径D90としたときに、(D90-D10)/D50が2.0未満であることが好ましい。上記D50の範囲と合わせてかかる比率を満足することによって、反射率をより高くすることができる。例えば、D50が大きすぎたり(D90-D10)/D50が大きすぎたりすると、効率的にボイドを形成し難くなる傾向にあり、ボイド数が低減する傾向にあり、反射率が低くなる傾向にある。かかる観点から、(D90-D10)/D50は、好ましくは1.5未満、より好ましくは1.3未満である。理想的には低ければ低い方が好ましいが、現実的には上記比率が0.8未満となる粒子の形成は難しく、よって下限は0.8が好ましい。
【0015】
(BET比表面積)
本発明の炭酸カルシウム粒子は、50%体積粒径D50(単位:μm)とBET比表面積(S、単位:g/m^(2))が下記式(1)を満たすことが必要である。
D50 ≦ 2.5-0.2×S ・・・(1)
炭酸カルシウム粒子の態様が上記関係式を満たす態様とすることで、十分なボイド数を得ることができ、高反射率を得ることができると共に、ガスマークの発生を抑制することができ、フィルム面内における反射率のばらつきを抑制することができる。上記式(1)を満たさず、左辺が右辺よりも大きいと、高反射率が得られず、また、反射率のばらつき抑制ができない。
【0016】
なお、炭酸カルシウム粒子が球である場合が、D50に対してSが最小となる場合である。このときのD50とSとの関係を求めると、炭酸カルシウム粒子の半径をr(μm)、比重をρ(g/cm^(3))、比表面積をS(g/m^(2))として、
1/ρ=(4/3)π(r*10^(-4))^(3)
S=4π(r*10^(-6))^(2)
から、これら式を合成して
1/ρ=S*r/3
となる。ここでr=D50/2であるから、これを代入して
1/ρ=S*D50/6
D50=6/(S*ρ)
が導かれ、このときSは最小であるから、D50≧6/(S*ρ)の関係が導かれる。
ここで、炭酸カルシウムの比重ρ=2.71g/cm^(3)とすると、D50≧2.21/Sの関係が導かれる。
一方で、D50もSも小さな炭酸カルシウム粒子を得ることは困難となる傾向にあることから、下記式(2)を満たすことが好ましい。
D50 ≧ 1.5-0.2×S ・・・(2)
【0017】
本発明の炭酸カルシウム粒子は、BET比表面積が2.5?10.5g/m^(2)であることが好ましい。かかる範囲にあるとガスマーク抑制、反射率に優れる。比表面積が大きすぎるとガスマーク抑制に劣る傾向にある。他方、小さすぎると反射率に劣る傾向にある。かかる観点から、より好ましくは3.0?9.5g/m^(2)、さらに好ましくは3.5?8.5g/m^(2)である。
【0018】
上記のようなD50およびBET比表面積を満足させるために、本発明においては炭酸カルシウム粒子として、合成炭酸カルシウムからなる粒子(合成炭酸カルシウム粒子)を採用することが特に好ましい。炭酸カルシウム粒子としては、天然炭酸カルシウムからなる粒子(天然炭酸カルシウム粒子)と合成炭酸カルシウム粒子とがあり、通常は天然炭酸カルシウム粒子が用いられる。しかしながら、天然炭酸カルシウムでは上記のようなD50およびBET比表面積を同時に満足させることが極めて困難であり、本発明の課題を達成することが困難となる。さらに、合成炭酸カルシウム粒子の採用は、上記(D90-D10)/D50を達成し易くする。
【0019】
炭酸カルシウム粒子をポリエステル樹脂に含有させる方法としては、従来公知の各種の方法を用いることができる。その代表的な方法として、下記のような方法が挙げられる。
(ア)ポリエステル樹脂の合成時のエステル化の段階もしくはエステル交換反応終了後に添加する方法。
(イ)得られたポリエステル樹脂に添加し、溶融混練する方法。
(ウ)上記(ア)または(イ)の方法においてポリエステル樹脂に炭酸カルシウム粒子を多量添加したマスターペレットを製造し、これと希釈ポリマーとしてのポリエステル樹脂とを混練してポリエステル樹脂に所定量の炭酸カルシウム粒子を含有させる方法。
(エ)上記(ウ)のマスターペレットをそのまま使用する方法。
・・・中略・・・
【0025】
[白色ポリエステルフィルム]
本発明の白色ポリエステルフィルムは、上述したポリエステル樹脂からなり、上述した炭酸カルシウム粒子を、白色ポリエステルフィルムの質量を基準として31?50質量%含有する。ここでポリエステル樹脂の量としては、炭酸カルシウム粒子を所定量添加し、また、後述する他の添加剤を任意量添加し、その余がポリエステル樹脂である態様とすればよい。
【0026】
(添加剤)
本発明の白色ポリエステルフィルムには、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、他のボイド形成剤、例えば硫酸バリウム、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の無機粒子、アクリル樹脂粒子、尿素樹脂粒子、メラミン樹脂粒子のような有機粒子、あるいは、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン(環状のものを含む)、エチレン-プロピレンターポリマー、オレフィン系アイオノマーのような非相溶樹脂(白色ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとは非相溶な樹脂)を含有することができる。また、これらの他の樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤等の他の添加剤を本発明の目的が阻害されない範囲内で、必要に応じて配合してもよい。
・・・中略・・・
【0028】
(積層白色ポリエステルフィルム)
本発明の白色ポリエステルフィルムは、さらに他の層を有して積層白色ポリエステルフィルムとすることができる。かかる他の層としては、延伸性を向上するための支持層や、表面にビーズを具備するためのビーズ層が挙げられる。支持層とビーズ層とを形成してもよい。また、支持層とビーズ層の機能を両方具備する層であることもできる。
【0029】
支持層を積層する場合、白色ポリエステルフィルムからなる層をA層、支持層をB層とすると、その積層構成はABの2層構成、ABAやBABの3層構成、ABABの4層構成や、同様の5層以上の多層構成が挙げられる。なかでもBABの3層構成が、反射率と延伸性との両立の観点から好ましい。なお、ここで支持層とは、上述したようなポリエステル樹脂から主になり、ボイドを少なくしたまたは無くした層が好ましく、かかる支持層のボイド形成剤(例えば炭酸カルシウム粒子等の無機粒子)の添加量は、A層の添加量より少なく、好ましくは支持層の粒子添加量(質量%)/A層の粒子添加量(質量%)が50%以下、より好ましくは25%以下である。支持層におけるボイド形成剤の添加量は、支持層の質量を基準として、好ましくは25質量%以下であり、より好ましくは12.5質量%以下である。
・・・中略・・・
【0031】
[製造方法]
以下、本発明のフィルムを製造する方法の一例を説明する。以下の例では、白色ポリエステルフィルムとしてのA層と、支持層としてのB層とを有する積層白色ポリエステルフィルムの場合について記載するが、A層のみからなる単層フィルムも同様にして得られる。
【0032】
ダイから溶融した樹脂組成物をフィードブロックを用いた同時多層押出し法により、積層未延伸シートを製造する。すなわち、A層を形成するための樹脂組成物Aの溶融物とB層を形成するための樹脂組成物Bの溶融物を、フィードブロックを用いて例えばB層/A層/B層となるように積層し、ダイに展開して押出しを実施する。この時、フィードブロックで積層されたポリマーは積層された形態を維持している。また、マルチマニホルールドダイでも同様の積層が可能である。
【0033】
ダイより押出された未延伸シートは、キャスティングドラムで冷却固化され、未延伸フィルムとなる。この未延伸状フィルムをロール加熱、赤外線加熱等で加熱し、縦方向に延伸して縦延伸フィルムを得る。この延伸は2個以上のロールの周速差を利用して行うのが好ましい。延伸温度は、原料としての上記樹脂組成物を構成するポリエステル(好ましくはA層のポリエステル)のガラス転移点(Tg)以上の温度、更にはTg?Tg+70℃の範囲とするのが好ましい。延伸倍率は、用途の要求特性にもよるが、製膜機械軸方向(以下、縦方向または長手方向またはMDという場合がある。)、および、縦方向と直交する方向(以下、横方向または幅方向またはTDという場合がある。)ともに、好ましくは2.5?4.0倍、さらに好ましくは2.8?3.9倍である。延伸倍率が低すぎると、ボイドが形成され難い傾向にあり、反射率が低下する傾向にある。また、フィルムの厚み斑が悪くなる傾向にある。他方、延伸倍率が高すぎると製膜中に破断が発生し易くなる傾向にある。
【0034】
縦延伸後のフィルムは、続いて、横延伸、熱固定、好ましくは熱弛緩の処理を順次施して二軸配向フィルムとするが、これら処理はフィルムを走行させながら行う。横延伸の処理はポリエステル(好ましくはA層のポリエステル)のガラス転移点(Tg)より高い温度から始める。そしてTgより(5?70)℃高い温度まで昇温しながら行う。横延伸過程での昇温は連続的でも段階的(逐次的)でもよいが、通常逐次的に昇温する。例えばテンターの横延伸ゾーンをフィルム走行方向に沿って複数に分け、ゾーン毎に所定温度の加熱媒体を流すことで昇温する。横延伸の倍率は、用途の要求特性にもよるが、好ましくは2.5?4.5倍、より好ましくは2.8?4.3倍、さらに好ましくは3.0?4.1倍、特に好ましくは3.5?4.0倍である。延伸倍率が低すぎると、ボイドが形成され難い傾向にあり、反射率が低下する傾向にある。また、フィルムの厚み斑が悪くなる傾向にある。他方、延伸倍率が高すぎると製膜中に破断が発生し易くなる傾向にある。
【0035】
横延伸後のフィルムは、両端を把持したまま(Tm-10)?(Tm-100)℃で定幅または10%以下の幅減少下で熱処理して熱収縮率を低下させるのがよい。ここでTmは、原料としての上記樹脂組成物を構成するポリエステル(好ましくはA層のポリエステル)の融点である。これより高い温度であるとフィルムの平面性が悪くなり、厚み斑が大きくなり好ましくない。また、熱処理温度が(Tm-80)℃より低いと熱収縮率が大きくなることがある。また、熱固定後、フィルム温度を常温に戻す過程で(Tm-10)?(Tm-100)℃以下の領域の熱収縮量を調整するために、把持しているフィルムの両端を切り落し、フィルム縦方向の引き取り速度を調整し、縦方向に弛緩させることができる。弛緩させる手段としてはテンター出側のロール群の速度を調整する。弛緩させる割合として、テンターのフィルムライン速度に対してロール群の速度ダウンを行い、好ましくは0.1?1.5%の速度ダウンすなわち弛緩(以降この値を弛緩率という)を実施する。より好ましくは0.2?1.2%の弛緩率、さらに好ましくは0.3?1.0%の弛緩率を実施し縦方向の熱収縮率を調整する。また、フィルム横方向は両端を切り落すまでの過程で幅減少させて、所望の熱収縮率を得ることもできる。
かくして本発明の白色ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0036】
[フィルム物性]
・・・中略・・・
【0037】
(厚み)
本発明の白色ポリエステルフィルムの厚みは、好ましくは25?250μm、より好ましくは30?220μm、さらに好ましくは40?200μmである。薄すぎると反射率を高くすることが困難となる傾向にあり、他方、厚すぎる場合は、これ以上厚くしても反射率の上昇が望めず、生産性の観点から好ましくない。
他に支持層を有する場合、支持層(1層)の厚みは、好ましくは2?30μm、より好ましくは3?25μm、さらに好ましくは5?20μmである。支持層が薄すぎると延伸性の向上効果を高くすることができない。他方、厚すぎると、反射率の向上効果が低くなる傾向にある。またこの際、白色ポリエステルフィルムからなる層をA層、支持層をB層としたときに、A層の厚みの合計とB層の厚みの合計との比率は、A層/(A層+B層)として85%?98%が好ましく、87%?97%がより好ましく、さらに好ましくは89%?95%である。これにより反射率の向上効果と延伸性の向上効果とを両方高くできる。
【0038】
(反射率)
本発明の白色ポリエステルフィルムは、その少なくとも一方の表面における反射率が、波長550nmの反射率で96%以上であることが好ましく、より好ましくは97.5%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは98.5%以上である。反射率が低すぎると十分な画面の輝度を得ることができない。
【0039】
(反射率の面内バラツキ)
本発明の反射板用ポリエステルフィルムは、反射面表面における反射率の面内バラツキが抑制されたものであり、400cm^(2)のサンプル中、任意の100点の反射率(波長550nm)の測定値を用いて下記式で求められる反射率の面内バラツキRが5%以下であることが好ましい。
反射率の面内バラツキR=(反射率の最大値-反射率の最小値)/(反射率の平均値)×100
ここで反射率の最大値とは、上記100点の反射率のうち最大の値、反射率の最小値とは、上記100点の反射率のうち最小の値、反射率の平均値とは、上記100点の反射率の平均値である。反射率の面内バラツキが小さいことによって、液晶表示装置のバックライトユニットに用いた場合に、画面内の輝度のバラツキを抑制することができる。このような観点から、上記Rの値は、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。
・・・中略・・・
【0041】
(ガスマーク)
本発明においては、フィルム中のガスマークが100個/m^(2)以下であることが好ましい。これにより反射率のばらつきを抑制できる。すなわちガスマークが存在する部分は反射率に影響を及ぼすためである。従来、炭酸カルシウム粒子はポリエステルに対する活性が強く、反応するとガスが発生し、炭酸カルシウム粒子を含有するポリエステルフィルムはガスマークを多量に有するものであった。そこで本発明は、特定のD50およびBET比表面積の態様を具備する炭酸カルシウム粒子を採用することで、ガスマークの発生を抑制し、反射率のばらつきを抑制したものである。ガスマークは、より好ましくは75個/m^(2)以下、さらに好ましくは50個/m^(2)以下、特に好ましくは30個/m^(2)以下である。最も好ましくは0個/m^(2)の態様である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を詳述する。なお、各特性値は以下の方法で測定した。
・・・中略・・・
【0044】
(3)反射率、反射率ばらつき
分光光度計(島津製作所製UV-3101)に積分球を取り付け、BaSO4白板の入射角8°における波長550nmの反射率を100%としたときの、得られた白色ポリエステルフィルムについての入射角8°における波長550nmの反射率を測定した。このとき、入射光に対してフィルムのMDを垂直に設置して測定した。かかる方法によって、400cm2のサンプル中、任意の100点の反射率(波長550nm)を測定し、得られた測定値を用いて下記式で求められる反射率の面内バラツキRを計算した。
反射率の面内バラツキR=(反射率の最大値-反射率の最小値)/(反射率の平均値)×100
ここで反射率の最大値とは、上記100点の反射率のうち最大の値、反射率の最小値とは、上記100点の反射率のうち最小の値、反射率の平均値とは、上記100点の反射率の平均値である。また、かかる反射率の平均値をフィルムの反射率とした。
【0045】
(4)延伸性
実施例に記載のとおり、縦方向2.9倍、横方向3.9倍に延伸して製膜し、安定に製膜できるか観察し、下記基準で評価した。
○:1時間以上安定に製膜できる
△:10分間以上1時間未満の間に切断が生ずる。
×:10分間以内に切断が発生し、安定な製膜ができない。
・・・中略・・・
【0047】
(6)ガラス転移点(Tg)、融点(Tm)
示差走査熱量測定装置(TA Instruments 2100 DSC)を用い、昇温速度20℃/分で測定して求めた。
【0048】
(7)炭酸カルシウム粒子等粒子のD50、D10、D90
島津製作所製レーザー散乱式粒度分布測定装置SALD-7000を用いて測定した。測定前のエチレングリコールへの分散は、粒子粉体を5質量%スラリー濃度相当になるよう計量して、ミキサー(たとえばNational MXV253型料理用ミキサー)で10分間攪拌し、常温まで冷却したのち、フローセル方式供給装置に供給した。そして、該供給装置中で、脱泡のために30秒間超音波処理(超音波処理の強度は超音波処理装置のつまみを、MAX値を示す位置から60%の位置)してから測定に供した。粒度分布測定結果より50%体積粒径(D50)を求め、これを平均粒径とした。また、同様にして10%体積粒径(D10)および90%体積粒径(D90)を求め、(D90-D10)/D50を算出した。
・・・中略・・・
【0050】
(9)BET比表面積
BET比表面積は、窒素ガス吸着法で測定された吸着等温式をBET式(Brunauer、EmmettおよびTellerにより導かれた式)で解析することにより求めた。
【0051】
(10)ガスマーク
面積2500cm^(2)(例えば50cm×50cm)のサンプルを準備し、3波長光源下で目視にて検査しガスマークを数え、1m^(2)あたりのガスマークの個数に換算して求めた。
なお、長径が0.3mm以上のガスマークを、ルーペを用いて目視にてカウントした。
【0052】
[実施例1]
(ポリエステル樹脂Aの製造)
テレフタル酸ジメチル89質量部およびイソフタル酸ジメチル11質量部(得られるポリエステルの全酸成分100モル%に対して11モル%となる。IA11-PETとする。)とエチレングリコール70質量部の混合物に、テトラ-n-ブチルチタネート(Ti元素として0.0025質量部)を加圧反応が可能なSUS製容器に仕込み、0.07MPaの加圧を行い140℃?240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後常圧に戻し、リン酸トリメチル0.0087質量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
その後、重合触媒として酸化ゲルマニウム0.021質量部を加え、混合物を重合容器に移し、情報にて高真空のもと重縮合反応を行い、最終内温が290℃まで昇温し反応を終了させ、極限粘度0.71dl/g、融点225℃のポリエステル樹脂Aのペレットを得た。
【0053】
(ポリエステル樹脂組成物A)
表1に記載の構成であるカルサイト型合成炭酸カルシウム粒子と、ポリエステル樹脂として上記ポリエステル樹脂Aとを、タンデム型二軸混練押出機に、定量性を持つスクリューフィーダーより連続供給し、第1段目二軸混練機において樹脂温度230℃で混練処理した。次いで、これを溶融状態のまま第2段目単軸混練押出機に供給し、ストランド状に押出し、これをカッティングして、リン酸トリメチルで表面処理された合成炭酸カルシウム55質量%有するポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。
【0054】
(二軸延伸フィルム)
上記で得られたポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂組成物とを、表1に示す炭酸カルシウム粒子濃度になるように配合し、A層を形成するための原料およびB層を形成するための原料を得て、それぞれ270℃に加熱された2台の押出機に供給し、A層ポリマー、B層ポリマーをA層とB層がB層/A層/B層の層構成となるような3層フィードブロック装置を使用して合流させ、その積層状態を保持したままダイよりシート状に成形した。さらにこのシートを表面温度25℃の冷却ドラムで冷却固化した未延伸フィルムを、95℃にて加熱し長手方向(MD)に2.9倍に延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、140℃に加熱された雰囲気中で長手方向に直交する方向(TD)に3.9倍に延伸した。その後テンター内で表2の温度で30秒間の熱固定を行い、150℃にて幅入率2%で横弛緩を行い、次いで130℃にてフィルムの両端を切出し弛緩率0.5%で縦弛緩し、室温まで冷やして二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの物性は表2の通りであった。
【0055】
[実施例2?4、9]
表1に記載の構成の合成炭酸カルシウム粒子(リン酸トリメチルで表面処理されたもの)を用い、A層およびB層の構成を表1に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0056】
[実施例5]
イソフタル酸ジメチルの添加量を調整して、ポリエステルの全酸成分100モル%に対するイソフタル酸成分の共重合量を4モル%としたポリエステル樹脂(IA4-PET)を用い、A層およびB層の構成を表1に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0057】
[実施例6、7]
ポリエステル樹脂の組成を表1に記載した通りとし、表1に記載の構成の合成炭酸カルシウム粒子(リン酸トリメチルで表面処理されたもの)を用い、A層およびB層の構成を表1に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
なお表中、「NDC11-PET」は、2,6-ナフタレンジカルボキシレート(NDC)成分を11モル%共重合させたPET(ポリエチレンテレフタレート)、「CHDM11-PET」は、シクロヘキサジメタノール(CHDM)成分を11モル%共重合させたPETである。ここで共重合量は、ポリエステルの全酸成分100モル%に対する量である。
【0058】
[実施例8、比較例4?6]
表1に記載の構成の天然炭酸カルシウム粒子(リン酸トリメチルで表面処理されたもの)を用い、A層およびB層の構成を表1に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
なお、実施例8においては、天然炭酸カルシウム粒子に対して風力分級処理を繰り返して、表1に示す態様とした。
【0059】
[比較例1?3]
表1に記載の構成の合成炭酸カルシウム粒子(リン酸トリメチルで表面処理されたもの)を用い、A層およびB層の構成を表1に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
なお、比較例3は、延伸性が低くサンプルを得ることが困難であった。
【0060】
【表1】

(当合議体注:便宜上、縦横比を変更した。)
【0061】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の白色ポリエステルフィルムは、液晶表示装置や照明などのバックライトユニットの反射フィルムとして好適に用いられる。」

(2)引用発明
上記(1)から、引用文献3の請求項1を引用する請求項2には、「ポリエステル樹脂からなり炭酸カルシウム粒子を含有する白色ポリエステルフィルム」の発明が記載されている。そして、引用文献3の【0006】及び【0062】には、上記「白色ポリエステルフィルム」の用途及び効果が記載されている。
以上によれば、引用文献3には、次の「白色ポリエステルフィルム」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、用語を統一して記載した。

「ポリエステル樹脂からなり炭酸カルシウム粒子を含有する白色ポリエステルフィルムであって、
炭酸カルシウム粒子は、白色ポリエステルフィルム中の含有量が31?50質量%であり、50%体積粒径D50が0.4?2.0μmであり、D50(単位:μm)とBET比表面積(S、単位:g/m^(2))が下記式(1)を満たし、90%体積粒径D90、50%体積粒径D50、10%体積粒径D10としたときに(D90-D10)/D50が2.0未満であり、
D50 ≦ 2.5-0.2×S ・・・(1)
液晶表示装置や照明などのバックライトユニットの反射フィルムとして好適に用いられ、優れた反射率を有し、面内における反射率のバラツキが抑制されたものである、
白色ポリエステルフィルム。」

(3)引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2007-320239号公報(以下「引用文献4」という。)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル30?69重量%およびボイド形成性物質31?70重量%からなる層とこの層に接するポリエステルの層から構成され、ボイド形成性物質が無機粒子および非相溶樹脂であり、無機粒子と非相溶樹脂との比率が重量比で1:9?9:1であることを特徴とする、二軸延伸フィルム。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸フィルムに関し、詳しくは、高い反射率を備えかつ耐熱性に優れる二軸延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイにおいて従来、ディスプレイの背面からライトを当てるバックライト方式が採用されていたが、近年、特開昭63-62104号公報に示されるようなサイドライト方式が、薄型で均一に照明できるメリットから、広く用いられるようになっている。このサイドライト方式では背面に反射板を設置するが、この反射板には光の高い反射性および高い拡散性が要求される。
【0003】
側面もしくは背面から直接当てるライトとして用いられる光源の冷陰極管からは紫外線が発生するため、液晶ディスプレイの使用時間が長くなると、反射板のフィルムが紫外線によって劣化し、画面の輝度が低下する。また、近年、液晶ディスプレイの大画面化と高輝度化が強く求められ、光源から発せられる熱量が増大し、熱によるフィルムの変形を抑制することが必要になってきた。」

ウ 「【0005】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決することを課題とし、実用上十分な可視光領域の反射性能を備え、安定して製膜することができ、熱による変形が少ない、液晶ディスプレイや内照式電飾看板用の反射板基材として好適に用いることのできる、二軸延伸フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、ポリエステル30?69重量%およびボイド形成性物質31?70重量%からなる層とこの層に接するポリエステルの層から構成され、ボイド形成性物質が無機粒子および非相溶樹脂であり、無機粒子と非相溶樹脂との比率が重量比で1:9?9:1であることを特徴とする、二軸延伸フィルムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、実用上十分な可視光領域の反射性能を備え、安定して製膜することができ、液晶ディスプレイや内照式電飾看板用の反射板基材として好適に用いることのできる、二軸延伸フィルムを提供することができる。」

エ 「【0013】
[ボイド形成性物質]
ボイド形成性物質としては、無機粒子および非相溶樹脂を用いる。本発明においては、無機粒子と非相溶樹脂の両方が含まれ、両成分の比率は、重量比で1:9?9:1、1:8?8:1、好ましくは1:7?7:1である。いずれかの添加量がこれより少ないと、高い反射率が得られなかったり、粒子の脱落が発生するなど不都合が起こる。
【0014】
ボイド形成性物質は、ボイド形成性物質を含有するポリエステル層の31?70重量%、好ましくは35重量?65重量%、さらに好ましくは40?60重量%を占める。ボイド形成性物質が31重量%未満であると望ましい反射率が得られず、70重量%を超える場合は製膜の安定性を損ないかねない。
なお、このボイド形成性物質を含有する層は、優れた反射率を有するため、二軸延伸フィルムの最外層に配置されることが好ましい。
・・・中略・・・
【0021】
[非相溶樹脂]
ボイド形成性物質として用いる非相溶樹脂は、ポリエステルに非相溶な樹脂である。この非相溶樹脂としては、例えばポリオレフィン、ポリスチレンを用いることができ、好ましくはポリオレフィンを用いる。より具体的には、ポリ-3-メチルブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリビニル-t-ブタン、1,4-トランス-ポリ-2,3-ジメチルブタジエン、ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン、ポリフルオロスチレン、セルロースアセテートセルロースプロピオネート、ポリクロロトリフルオロエチレン、特にポリプロピレン、ポリメチルペンテンが好ましい。これらの樹脂は、樹脂自体が高透明であるため、光の吸収を抑えて反射率を向上させることができる。」

オ 「【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を詳述する。なお、各特性値は以下の方法で測定した。
(1)フィルム厚み
フィルムサンプルをエレクトリックマイクロメーター(アンリツ製 K-402B)にて、10点で厚みを測定して、それらの平均値をフィルムの厚みとした。
・・・中略・・・
【0035】
(3)反射率評価
分光光度計(島津製作所製UV-3101PC)に積分球を取り付け、BaSO4白板を100%としたときのフィルムサンプルの反射率を400?700nmの波長域にわたって測定し、得られた反射率チャートから2nm間隔で反射率を読み取った。なお、フィルムの構成が一方の面がボイド形成物質を多く含み、他方の面がボイド形成物質を含まないか少なく含む場合には、多く含む側の面の反射率の測定を行った。上記の範囲内で平均値を求めた。次の基準で反射率の評価を行った。
○:平均反射率92%以上かつ全測定領域において反射率92%以上
△:平均反射率92%以上であるが反射率92%未満の波長域もある
×:平均反射率92%未満
・・・中略・・・
【0040】
(8)熱による変形(たわみ評価)
フィルムサンプルをA4版に切り出し、フィルムの4辺を金枠で固定したまま、80℃に加熱したオーブンで30分間処理した後、変形(フィルムのたわみ状態)を目視にて観察し、下記基準で評価した。
○:たわんだ状態が観察されない
△:一部に軽微なたわみが観察される
×:たわんだ部分があり、たわみの凹凸が5mm以上の隆起として観察される
【0041】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル132重量部、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル23重量部(ポリエステルの酸成分に対して12モル%)、エチレングリコール96重量部、ジエチレングリコール3.0重量部、酢酸マンガン0.05重量部、酢酸リチウム0.012重量部を精留塔、留出コンデンサを備えたフラスコに仕込み、撹拌しながら150?235℃に加熱しメタノールを留出させエステル交換反応を行った。メタノールが留出した後、リン酸トリメチル0.03重量部、二酸化ゲルマニウム0.04重量部を添加し、反応物を反応器に移した。ついで撹拌しながら反応器内を徐々に0.5mmHgまで減圧するとともに290℃まで昇温し重縮合反応を行った。得られた共重合ポリエステルのジエチレングリコール成分量は2.5wt%、ゲルマニウム元素量は50ppm、リチウム元素量は5ppmであった。このポリエステル樹脂を層A、Bに用い、表1に示す不活性粒子を添加した。それぞれ285℃に加熱された2台の押出機に供給し、層Aポリマー、層Bポリマーを層Aと層BがA/Bとなるような2層フィードブロック装置を使用して合流させ、その積層状態を保持したままダイスよりシート状に成形した。さらにこのシートを表面温度25℃の冷却ドラムで冷却固化した未延伸フィルムを記載された温度にて加熱し長手方向(縦方向)に延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き120℃に加熱された雰囲気中で長手に垂直な方向(横方向)に延伸した。その後テンター内で表2の温度で熱固定を行い、表2に示す条件にて縦方向の弛緩、横方向の幅入れを行い、室温まで冷やして二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの反射板基材としての物性を評価した結果、表2の通りであった。
【0042】
【表1】

PET:ポリエチレンテレフタレート
IPA:イソフタル酸
NDC:2,6-ナフタレンジカルボン酸
ポリメチルペンテンA(三井化学製[MX002]使用)
ポリメチルペンテンB(三井化学製[MX004]使用)
ポリプロピレン(出光石油化学製「Y-400GP」使用)
(当合議体注:便宜上、【表1】の縦横比を変更した。)
【0043】
【表2】

(当合議体注:便宜上、【表2】の縦横比を変更した。)」

(3)対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
ア 熱可塑性樹脂
引用発明の「ポリエステル樹脂」は、技術的にみて、本件補正後発明の「熱可塑性樹脂」に相当する。

イ 熱可塑性樹脂組成物
引用発明の「白色ポリエステルフィルム」は、「ポリエステル樹脂からなり炭酸カルシウム粒子を含有する」。
ここで、本件補正後発明でいう「熱可塑性樹脂組成物」とは、「熱可塑性樹脂に粒子等を添加したもの」(【0032】)のことと理解される。
したがって、引用発明の「炭酸カルシウム粒子を含有する」「ポリエステル樹脂」は、本件補正後発明の「熱可塑性樹脂組成物」に相当する。

ウ 反射層A
引用発明の「白色ポリエステルフィルム」は、「液晶表示装置や照明などのバックライトユニットの反射フィルムとして好適に用いられ、優れた反射率を有し、面内における反射率のバラツキが抑制されたものである」。
そうしてみると、引用発明の「白色ポリエステルフィルム」は、その反射機能からみて、反射層といえる。また、本件補正後発明の「反射層A」における「A」は、引用発明との関係においては、物としての構成を左右しない(本件補正後発明も、引用発明も、B層の存在は特定しない発明である。)。
したがって、引用発明の「白色ポリエステルフィルム」は、本件補正後発明の「反射層Aを有する」との要件を満たす。

エ 白色反射フィルム
引用発明の「白色ポリエステルフィルム」は、「液晶表示装置や照明などのバックライトユニットの反射フィルムとして好適に用いられ、優れた反射率を有し、面内における反射率のバラツキが抑制されたものであ」る。
そうすると、引用発明の「白色ポリエステルフィルム」は、その機能からみて、本件補正後発明の「白色反射フィルム」に相当する。また、引用発明の「白色ポリエステルフィルム」は、その用途からみて、本件補正後発明の「液晶ディスプレイ用」という用途に適したものである。
以上の点及び上記ア?エの対比結果から、引用発明の「白色ポリエステルフィルム」は、本件補正後発明の「白色反射フィルム」における、「熱可塑性樹脂に、炭酸カルシウム粒子」「を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる反射層Aを有する、」「液晶ディスプレイ用」という構成を具備するといえる。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「熱可塑性樹脂に、炭酸カルシウム粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる反射層Aを有する、液晶ディスプレイ用白色反射フィルム。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違ないし一応相違する。
(相違点1)
「炭酸カルシウム粒子」が、本件補正後発明では、「平均粒径が1.01?1.18μm、小粒径側から積算した10%体積粒径D10、50%体積粒径D50および90%体積粒径D90が(D90-D10)/D50≦1.6を満たし」ているのに対して、引用発明では、少なくとも平均粒径が特定されていない点。

(相違点2)
「熱可塑性樹脂組成物」が、本件補正後発明では、「熱可塑性樹脂に非相溶な樹脂を含有する」ものであり、「該非相溶な樹脂は、含有量が前記熱可塑性樹脂組成物の質量に対して1?40質量%であり」、かつ、「炭酸カルシウム粒子」の「含有量が前記熱可塑性樹脂組成物の質量に対して5?69質量%」、「炭酸カルシウム粒子と前記非相溶な樹脂の含有量の合計が、前記熱可塑性樹脂組成物の質量に対して10?70質量%であ」るのに対して、引用発明では、「熱可塑性樹脂に非相溶な樹脂を含有する」とは特定されておらず、そのため、含有量も不明である点。

(相違点3)
本件補正後発明では、「熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性樹脂の融点が200?280℃であ」るのに対して、引用発明では、当該融点が特定されていない点。

(相違点4)
「白色反射フィルムの反射率」が、本件補正後発明では、「60%以上である」のにに対して、引用発明では、反射率が特定されていない点。

(相違点5)
「白色反射フィルム」が、本件補正後発明においては、「30インチ以上の大型液晶ディスプレイ用」であるのに対して、引用発明では、「30インチ以上の大型液晶ディスプレイ用」に適したものか、一応、明らかではない点。

(5)判断
ア 相違点1について
本件補正後発明における「平均粒径」は、本件出願の明細書の【0059】の記載から、「50%体積粒径(D50)」と認められる。そして、引用発明の「炭酸カルシウム粒子は、」「50%体積粒径D50が0.4?2.0μm」である。ここで、上記「炭酸カルシウム粒子」の「50%体積粒径D50」について、引用文献3には、次の記載がある。
「[炭酸カルシウム微粒子]
本発明における炭酸カルシウム粒子は、50%体積粒径D50が0.4?2.0μmである。・・・中略・・・このようなD50および含有量の態様とすることで、ボイド数をより多くすることができ、高い反射率が得られる。D50が小さすぎると粒子が凝集しやすくなる傾向にある。また、ガスマークが発生し易い傾向にあり、反射率のばらつきが大きくなる傾向にある。他方、大きすぎると、含有量を高くすることが困難となり、結果としてボイド数が低減して反射率が低くなる。・・・中略・・・かかる観点から、D50は、好ましくは0.4?1.0μm、より好ましくは0.5?0.9μm、さらに好ましくは0.6?0.8μmである。」(【0013】)
上記記載によれば、引用発明における、「炭酸カルシウム粒子」の「平均粒径」(D50)は、反射率のばらつき抑制と、一定以上の反射率を維持するために適宜選択し得るものと理解される。
(当合議体注:引用文献3において、「平均粒径(D50)(μm)」が0.6?1.9μmのものが実施例として開示されている(【0060】の【表1】)ことを考慮すると、引用文献3の上記下線部の記載は、相違点1に係る「1.01?1.18μm」の数値範囲を排除する記載と理解することはできない。)
加えて、原査定において「引用文献7」として引用された、特開平4-296819号公報(原査定の「引用文献7」【0036】?【0037】)及び「引用文献8」として引用された、特開2006-145915号公報(【0002】、【0093】)に記載されているように、液晶ディスプレイの反射板に使用されるポリエステルを含むフィルムにおいて、平均粒径1.1μmの炭酸カルシウムは、本件出願前において周知であって、当業者が入手可能であったと認められる。

ところで、上記のとおり引用発明の「炭酸カルシウム粒子」の平均粒径に配慮する当業者ならば、当然、粒径が揃った「炭酸カルシウム粒子」を求めると認められるところ、引用発明の「炭酸カルシウム粒子」は、「90%体積粒径D90、50%体積粒径D50、10%体積粒径D10としたときに(D90-D10)/D50が2.0未満である」。そして、上記「炭酸カルシウム粒子」の「D10」、「D50」及び「D90」について、引用文献3には、次の記載がある。
「本発明においては、炭酸カルシウム粒子は、その10%体積粒径D10、50%体積粒径D50、90%体積粒径D90としたときに、(D90-D10)/D50が2.0未満であることが好ましい。上記D50の範囲と合わせてかかる比率を満足することによって、反射率をより高くすることができる。例えば、D50が大きすぎたり(D90-D10)/D50が大きすぎたりすると、効率的にボイドを形成し難くなる傾向にあり、ボイド数が低減する傾向にあり、反射率が低くなる傾向にある。かかる観点から、(D90-D10)/D50は、好ましくは1.5未満、より好ましくは1.3未満である。」(【0014】)
以上のとおりであるから、相違点1に係る本件補正後発明の構成は、求められる反射率及び反射率のばらつきや、小さすぎる粒子や大きすぎる粒子による影響を考慮した当業者が、適宜採用し得る事項にすぎない。
(当合議体注:本件出願の明細書の【0077】に記載された、実施例1(D50:0.6μm)と実施例3、5(D50:1.1μm)に係るフィルムを対比すると、その性能面(反射率、正面輝度、熱撓み)において、前者の方がむしろ後者より優れていることが理解される。加えて、引用文献3の【0060】【表1】に記載された、実施例2(D50:0.8μm)と実施例4(D50:1.3μm)に係る延伸フィルムを対比すると、その性能面において、前者が後者に必ずしも勝るとは限らないことが理解される(【表2】参照。)。)

イ 相違点2について
引用文献4(特に、請求項1、【0005】、【0013】?【0014】等)及び原査定において「引用文献5」として引用された、特開2007-326297号公報(特に、【0005】、【0022】?【0023】等)には、液晶ディスプレイの反射板基材として好適に用いることができ、ボイド形成性物質として、無機粒子および非相溶樹脂(材料からみて、本件補正後発明の「熱可塑性樹脂に非相溶な樹脂」に相当。)を含有するポリエステルの層(本件補正後発明の「熱可塑性樹脂組成物からなる反射層A」に相当。)を含む延伸フィルムにおいて、前記ポリエステル層には、ボイド形成性物質(無機粒子及び非相溶樹脂)を、合計31?70重量%配合することが好ましいこと、及び、無機粒子と非相溶樹脂とを一定の比率で併用しなければ、高い反射率が得られない等の不都合が起こること(特に、引用文献4の【0013】)が記載されている。さらに、引用文献4の【0042】【表1】には、無機粒子、非相溶樹脂及びボイド形成性物質の各含有量いずれもが、相違点2の数値範囲を満たす、延伸フィルム(実施例1?13)が記載されている。

ところで、引用文献3の【0026】には、「本発明の白色ポリエステルフィルムには、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、他のボイド形成剤、例えば・・・中略・・・無機粒子、・・・中略・・・有機粒子、あるいは、・・・中略・・・非相溶樹脂(白色ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとは非相溶な樹脂)を含有することができる。」と示唆されている。
ここで、引用発明の「白色ポリエステルフィルム」と、引用文献4及び5に記載された上記延伸フィルムは、ともに液晶表示装置における反射フィルムとして作用、機能が共通する。そうしてみると、引用発明の「白色ポリエステルフィルム」において、上記延伸フィルムを知る当業者が、引用文献3の上記示唆にしたがって、ボイド形成剤として、「炭酸カルシウム粒子」と「非相溶樹脂」とを一定比率で併用し、相違点2に係る本件補正後発明の構成に到ることは容易になし得たことである。
(当合議体注:なお、引用文献3の【0001】?【0006】等の記載から明らかなとおり、引用発明は、白色の無機粒子として炭酸カルシウム粒子を使用することを前提とした発明である。したがって、たとえ当業者が引用文献4の記載を参考にするとしても、白色の無機粒子を硫酸バリウム等に替えることまではしない。)

ウ 相違点3について
引用発明の具体例に該当する、実施例1?9(引用文献3の【0060】【表1】参照。)に使用されている、樹脂の融点(Tm)は、いずれも228℃?244℃の範囲内である。
そうしてみると、相違点3に係る構成は、引用発明を具体化する当業者が自然に採用する構成にすぎない。

エ 相違点4について
引用文献3の【0038】には、「本発明の白色ポリエステルフィルムは、その少なくとも一方の表面における反射率が、波長550nmの反射率で96%以上であることが好ましく、より好ましくは97.5%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは98.5%以上である。反射率が低すぎると十分な画面の輝度を得ることができない。」と記載されている。
そうしてみると、相違点4に係る構成は、引用発明において当然求められる性能にすぎない。

オ 相違点5について
引用文献3の【0051】には、引用発明の具体例である各実施例の特性値(測定値)であるガスマークについて、次のような記載がある。
「(10)ガスマーク
面積2500cm^(2)(例えば50cm×50cm)のサンプルを準備し、3波長光源下で目視にて検査しガスマークを数え、1m^(2)あたりのガスマークの個数に換算して求めた。」
上記記載からみて、引用発明は、「パソコン、テレビ、携帯電話等」(【0002】)の中でも、とりわけテレビのような大型の、液晶ディスプレイへの適用を想定したものと理解されるから、引用発明の「白色反射フィルム」が、30インチ以上の大型液晶ディスプレイ用に適したものであることは明らかである。
したがって、相違点5は実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても、引用文献3の上記記載及び本件出願前に広く市販されていたテレビの寸法を勘案すると、引用発明の「白色反射フィルム」を相違点5に係る本件補正後発明の要件を満たすものとすることは、当業者が考慮する範囲内の事項である。

(6)発明の効果について
本件補正後発明の効果に関して、本件出願の明細書の【0010】には、「本発明によれば、優れた反射特性を有しながら、大型のディスプレイに用いたとしても熱撓みし難い白色反射フィルムを提供することができる。」と記載されている。
ここで、引用発明の「白色ポリエステルフィルム」は、「液晶表示装置や照明などのバックライトユニットの反射フィルムとして好適に用いられ、優れた反射率を有し、面内における反射率のバラツキが抑制されたものであ」るから、優れた反射特性を有するものと理解される。また、熱撓みに関しては、熱可塑性樹脂組成物の素材(例:共重合成分の量)、フィルム厚等にも依存し、必ずしも本件補正後発明が奏する効果とはいえないところではあるが、「大型のディスプレイに用いたとしても熱撓みし難い」という傾向でいうならば、白色の無機粒子として炭酸カルシウム粒子を使用することを前提とした引用発明も、「大型のディスプレイに用いたとしても熱撓みし難い」という傾向があることは明らかである。
そうすると、本件補正後発明の上記効果は、引用発明が奏する効果であるか、あるいは引用発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。

(7)請求人の主張について
ア 主張の内容
請求人は、令和2年2月3日付け審判請求書(令和2年3月17日付け手続補正書(方式)により補正されたもの)において、概略、以下の(ア)?(ウ)の点を主張する。
(ア)「まず、請求項1と、引用文献1、2又は3のそれぞれに記載された発明とを対比すると、請求項1の白色反射フィルムは、
(a)「30インチ以上の大型液晶ディスプレイ用」であること、
(b)「炭酸カルシウム粒子の平均粒径が1.01-1.18μm」であること、
(c)「非相溶な樹脂の含有量が熱可塑性樹脂組成物の質量に対し1?40質量%」であること、及び
(d)「炭酸カルシウム粒子と非相溶な樹脂の含有量の合計が、熱可塑性樹脂組成物の質量に対して10?70質量%」であること、を特徴点としていますが、引用文献1、2又は3にはこれらの特徴点が記載されていません。つまり、請求項1の発明は、引用文献1、2又は3に対し、上記(a)?(d)の点で相違していることが分かります。

ところが、上記拒絶査定の理由2によれば、引用文献1?3に対する相違点(a)?(d)の全てが指摘されておらず、相違点が(a)及び(b)の2点のみであることを前提に、これらの容易想到性について判断されているだけであり、残りの相違点(c)及び(d)について検討すらされておりません。」(審判請求書5頁(4)(A))

(イ)「周知技術を示す文献として新たに追加された引用文献6?11について検討すると、以下の通りとなります。
引用文献6の[0075]には、平均粒径1.1μmの炭酸カルシウム粒子が、PET組成物(101g)中に1.0重量部(約1重量%)しか含まれていません。これは、引用文献1の[0014]、引用文献2の[0013]及び引用文献3の[0013]に記載の炭酸カルシウム微粒子の含有量(31?50質量%)に関する記載より、高い反射率の観点から当然に避けるべき極めて低い炭酸カルシウム粒子の含有量になります。つまり、引用文献1?3の発明に接した当業者は、所望の反射率が得られないような引用文献6の[0075]の態様を到底採用したはずはありません。

引用文献7の[0036]には、平均粒径1.1μmの炭酸カルシウムを、ポリエチレンテレフタレート中に14重量%含むことが記載されています。しかし、これもまた引用文献1?3に記載の炭酸カルシウム微粒子の含有量(31?50質量%)に関する記載より、高い反射率の観点から当然避けるべき低い炭酸カルシウム粒子の含有量となります。
よって、引用文献1?3の発明に接した当業者は、所望の高い反射率が得られないような引用文献7の態様を到底採用したはずはありません。
・・・中略・・・
また、引用文献8の[0089]及び[0093]、引用文献9の[0089]及び[0093]、引用文献10の[0088]及び[0090]より、いずれの反射フィルムを構成する材料も脂肪族ポリエステル系樹脂(乳酸系重合体)が用いられています。・・・中略・・・これらの引用文献では、分子鎖中に芳香環を含まないことが必須であると言えます。
・・・中略・・・
そうすると、芳香環を有するポリエステルを含む引用文献1?3の反射フィルムに、芳香環を含めることを排除する引用文献8?10の態様を、如何に当業者であっても適用するはずはありません。」(審判請求書7頁下から15行?8頁27行:空行含む)

(ウ)「さらに、請求項1と引用文献1?3との相違点である(c)及び(d)が、引用文献4?5の開示から補完できるかを検討します。
引用文献4には、熱による変形を抑制するために、「ポリエステル30?69重量%およびボイド形成性物質31?70重量%からなる層・・・から形成され、ボイド形成性物質が無機粒子および非相溶樹脂であり、無機粒子と非相溶樹脂との比率が重量比で1:9?9:1、ボイド形成物質がポリエステル層の31?70重量%」である発明が記載されています。[0016]には、種々の無機粒子のうち無機粒子として「硫酸バリウム」が好ましいものとされています。

引用文献5には、黄変が抑制され、カール特性の優れた積層フィルムロールを得るために、ボイド体積率が30?80%の高ボイド率層を最も外側の層として備えるフィルムロールを採用することを特徴とする発明が記載されています。[0023]には、ボイド形成物質の無機粒子と非相溶樹脂は併用してもよく、その合計をポリエステル層の31?70重量%配合するとよいことが記載されています。[0016]には、種々の無機粒子のうち「硫酸バリウム」が好ましいものとされています。

これら引用文献4及び5の記載から、ボイド形成物質として「硫酸バリウム」と非相溶樹脂を所定量含有することは周知事項であるといえても、「炭酸カルシウム」と非相溶樹脂を所定量含有することは推奨されておらず、必ずしも周知事項であるとは言えません。
従って、少なくとも相違点(d)を、引用文献4?5の開示から周知技術であるとして補完することはできません。」(審判請求書9頁下から22行?10頁1行)

イ 主張に対する判断
(ア)主張(ア)について
請求人が、検討すらされていないと主張する相違点(c)は、令和元年5月20日付け拒絶理由通知書の「理由2(進歩性)について」において、引用文献4ないし5を、引用した上で、当該周知技術を引用文献1?3いずれかに記載された引用発明に適用することは容易であるとの判断がなされている。
また、相違点(d)は、炭酸カルシウム粒子と非相溶な樹脂の含有量の合計に関するものであるところ、炭酸カルシウム粒子の含有量それ自体は相違点ではなく、また、非相溶な樹脂の含有量は上記のとおり判断がなされていることに加えて、審査官が具体的に摘記した、引用文献4の[表1]によれば、いずれの実施例においても、炭酸カルシウム粒子と非相溶な樹脂の合計の含有量が、32重量%?54重量%であって、相違点(d)の数値範囲に十分入ることが明らかであることから、実質的にみて検討すらされていないとまではいえない。
したがって、主張(ア)は採用できない。

(イ)主張(イ)について
請求人の主張は要するに、引用文献6ないし7に記載された、平均粒径1.1μmの炭酸カルシウム粒子は、ポリエチレンテレフタレート(PET)中に、たかだか14重量%程度の低い含有量しか含まないため、高い反射率が求められる引用文献1?3いずれかに記載された発明に接した当業者は、引用文献6ないし7の態様を採用しないというものである。しかしながら、引用発明の「白色ポリエステルフィルム」において、特定の平均粒径を有する「炭酸カルシウム粒子」を採用する際、当業者は、含有量を最適化して、一定の反射率を確保しつつ、フィルム延伸性を維持するように設計すると認められ、引用発明における「炭酸カルシウム粒子は、上記フィルム中の含有量が31?50重量%であり」との要件を満たさないような設計は行わないと考えられる。
また、引用発明の「ポリエステル樹脂」は、芳香族環を含む樹脂とは限定されていないから、引用文献8?10の態様を採用できないとする請求人の主張は前提において誤りがある。
したがって、主張(イ)は採用できない。

(ウ)主張(ウ)について
相違点2の判断で述べたとおりである。
したがって、主張(ウ)は採用できない。
以上のとおり、請求人の上記主張はいずれも理由がない。

(8)小括
本件補正後発明は、引用文献3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

4 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、本願発明は、[A]本件出願前に日本国内及び外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2015-86241号公報(引用文献3)に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献及び引用発明
引用文献3の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]3(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、実質的にみて、前記「第2」[理由]3で検討した本件補正後発明から、「該熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性樹脂の融点が200?280℃であり」という構成を除いたものである。そして、本願発明の構成を全て具備し、上記のとおりさらに限定を付したものに相当する、本件補正後発明は、前記「第2」[理由]3で述べたとおり、引用文献3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると、本願発明も、引用文献3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-08-27 
結審通知日 2020-09-01 
審決日 2020-09-25 
出願番号 特願2015-167587(P2015-167587)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
里村 利光
発明の名称 大型ディスプレイ用白色反射フィルム  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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