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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1368027
審判番号 不服2019-9582  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-18 
確定日 2020-11-10 
事件の表示 特願2015-125395「太陽電池ウェハ接続システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月22日出願公開、特開2016- 39367〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年6月23日(パリ条約による優先権主張2014年8月6日、米国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 6月25日付け:手続補正書の提出
平成30年 8月 3日付け:拒絶理由通知書
平成30年10月12日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年11月 6日付け:拒絶理由通知書
平成31年 1月23日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 3月27日付け:拒絶査定(平成31年4月1日送達)
令和 元年 7月18日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 元年12月24日 :上申書の提出

第2 令和元年7月18日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年7月18日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、本件補正前の特許請求の範囲の請求項12は、次のとおり補正されて本件補正後の請求項11とされた。(下線部は、補正箇所である。)
「第1のウェハと、
第2のウェハと、
前記第1のウェハ上に形成される第1のナノチューブと、
前記第2のウェハ上に形成される第2のナノチューブとを含み、
第1のウェハおよび第2のウェハが、第1のナノチューブが第2のナノチューブと対向するように、互いに対して位置づけられ、第1のナノチューブおよび第2のナノチューブが互いに接続され、前記第1のナノチューブが、前記第1のウェハの第1の表面に実質的に垂直な方向に延び、前記第2のナノチューブが、前記第2のウェハの第2の表面に実質的に垂直な方向に延び、
前記第1のナノチューブおよび前記第2のナノチューブが、カーボンナノチューブであり、
前記第1のウェハは、サブセルのグループを有し、前記第2のウェハは、サブセルの第2のグループまたはハンドルの少なくとも一方を有する、太陽電池構造体。」

(2) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成31年1月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項12の記載は次のとおりである。
「第1のウェハと、
第2のウェハと、
前記第1のウェハ上に形成される第1のナノチューブと、
前記第2のウェハ上に形成される第2のナノチューブとを含み、
第1のウェハおよび第2のウェハが、第1のナノチューブが第2のナノチューブと対向するように、互いに対して位置づけられ、第1のナノチューブおよび第2のナノチューブが互いに接続され、前記第1のナノチューブが、前記第1のウェハの第1の表面に実質的に垂直な方向に延び、前記第2のナノチューブが、前記第2のウェハの第2の表面に実質的に垂直な方向に延び、
前記第1のナノチューブおよび前記第2のナノチューブが、カーボンナノチューブである、太陽電池構造体。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項12に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1のウェハ」、及び「第2のウェハ」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項12に記載された発明と補正後の請求項11に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項11に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。

(1) 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2) 引用文献の記載事項
ア 引用文献3
(ア) 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2013-531893号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付した。以下同じ。)

「【0012】 図1を参照するに、参照番号10で一括指示される開示の太陽電池セル構造の1つの態様は、少なくとも1つの上部サブセル12と、接着層14と、少なくとも1つの下部サブセル16と、そして下部基板18と、を含むことができる。太陽電池セル構造10は更に、下部コンタクト層20と、上部コンタクト層(例えば、コンタクト群22)と、そして反射防止コーティング層24と、を含むことができる。」
「【0016】 接着層14は、導電成分及びバインダ成分を含むことができる。接着層14の導電成分によって、少なくとも1つの上部サブセル12と少なくとも1つの下部サブセル16との間の垂直方向の電気伝導が可能になる。接着層14のバインダ成分によって、少なくとも1つの上部サブセル12を少なくとも1つの下部サブセル16に接着させることができる。」
「【0019】 第1発現形態では、接着層14の導電成分は、導電性炭素質材料または導電性炭素質材料群の組み合わせを含むことができる。」
「【0020】 第1発現形態の第1の実施形態では、導電性炭素質材料はカーボンナノチューブ群を含むことができる。」
「【0022】 1つの特定の発現形態では、接着層14のバインダ成分は、金属酸化物、金属窒化物、ポリマー、無機-有機ハイブリッド材料、またはこれらの材料の組み合わせとすることができる、または金属酸化物、金属窒化物、ポリマー、無機-有機ハイブリッド材料、またはこれらの材料の組み合わせを含むことができる。」
「【0026】 図5のブロック102を参照するに、下部サブセルアセンブリ38(図2A)の形成は、少なくとも1つの下部サブセル16を下部基板18に形成することから始めることができる。」
「【0027】 図5のブロック104を参照するに、第1接着層48は、少なくとも1つの下部サブセル16の前面30に塗布することができる。……<中略>……。1つの実施形態では、接着層48は、導電成分及びバインダ成分を含む混合物として調製される接着組成物を塗布することにより形成することができる。」
「【0030】 図5のブロック106を参照するに、上部サブセルアセンブリ40(図2B)の形成は、少なくとも1つの上部サブセル12を上部基板50に形成することにより始めることができる。」
「【0031】 図5のブロック108を参照するに、第2接着層58は、少なくとも1つの上部サブセル12の後面28に塗布することができる。第2接着層58は、上に説明した種々の方法を用いて塗布することができる。」
「【0033】 図5のブロック110を参照するに、上部サブセルアセンブリ40を下部サブセルアセンブリ38に、第1接着層48を第2接着層58と接合させて、図3に示す接着層14を形成することにより接続することができる。接着層14は必要に応じて硬化させることができる。」
「図1


(イ) 上記の記載から、引用文献3には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 太陽電池セル構造は、上部サブセルおよび下部サブセルを含む。(【0012】)
b 接着層は、導電成分及びバインダ成分を含み、第1接着層と第2接着層とを接合させて形成される。(【0016】、【0033】)
c 接着層の導電成分によって上部サブセルと下部サブセルとの間の垂直方向の電気伝導が可能になり、接着層のバインダ成分によって上部サブセルを下部サブセルに接着させる。(【0016】)
d 接着層の導電成分は、導電性炭素質材料であって、カーボンナノチューブ群を含む。(【0019】?【0020】)
e 下部サブセルの前面には第1接着層が塗布され、上部サブセルの後面には第2接着層が塗布されており、第1接着層及び第2接着層は、導電成分及びバインダ成分を含む混合物である。(【0027】、【0031】)
f 下部サブセルアセンブリは、下部サブセルを下部基板に形成するものを含み、上部サブセルアセンブリは、上部サブセルを上部基板に形成するものを含む。(【0026】、【0030】)
g 太陽電池セル構造は、上部サブセルアセンブリを下部サブセルアセンブリに、第1接着層を第2接着層と接合させて接続するものである。(【0033】)

(ウ) 上記(ア)、(イ)から、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「上部サブセルと、
下部サブセルと、
上部サブセルの後面に塗布される、第2接着層と、
下部サブセルの前面に塗布される、第1接着層と、
第1接着層および第2接着層は、導電成分及びバインダ成分を含み、
導電成分は、カーボンナノチューブ群を含み、
導電成分によって上部サブセルと下部サブセルとの間の垂直方向の電気伝導が可能になり、バインダ成分によって上部サブセルを下部サブセルに接着させ、
上部サブセルを下部サブセルに、第2接着層を第1接着層と接合させて接続する、太陽電池セル構造。」

イ 引用文献1
(ア) 同じく原査定に引用され本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった米国特許出願公開第2006/0068195号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。

「[0004] Adhesives are typically wet and polymer based, and have low thermal and electrical conductivity. For many applications (including, but not limited to, electronics and semi-conductor assembly, micro-electro-mechanical systems (MEMS), and even future bio-mimicking wall-climbing robots) it would instead be desirable to provide an adhesive that is dry and detachable such that it is reusable. It would also be desirable to provide an adhesive that has high electrical and thermal conductivity to enhance electrical and/or thermal conduction across the bonding interface.」
「[0007] In one preferred aspect, the present invention provides a method of adhering two surfaces together with a carbon nanostructure adhesive, by: forming an array of vertically aligned carbon nanostructures on a first surface (i.e.: the substrate surface); and then positioning a second surface (i.e.: the target surface) adjacent to the vertically aligned carbon nanostructures such that the vertically aligned carbon nanostructures adhere the first and second surfaces together by van der Waals forces. In optional aspects of this method, the carbon nanotube arrays or nanofibers are deposited on the first surface by chemical vapor deposition. The density of the arrays may optionally be controlled by the thickness of a catalyst film. The height of the arrays can be controlled by the growth time.」
「[0038] In an alternate embodiment of the invention shown in FIGS. 2A and 2B, an array of carbon nanostructures 22 is formed onto surface 20. (Carbon nanostructures 22 on surface 20 may be formed in exactly the same manner as carbon nanostructures 12 were formed on surface 10, as was explained above).」
「[0039] In this embodiment of the present invention, surfaces 10 and 20 are brought together as shown in FIG. 2B. The action of van der Waals forces between carbon nanostructures 12 and 22 operates to bond surfaces 10 and 20 together.」
(仮訳;
「[0004] 接着剤は、一般的に湿式でポリマーベースのものであり、熱伝導率や電気伝導率が低い。多くの用途(電子・半導体アセンブリ、微小電気機械システム(MEMS)、さらには将来のバイオ模倣壁登りロボットを含むが、これらに限定されない)では、代わりに、再利用可能なような乾燥した取り外し可能な接着剤を提供することが望ましいであろう。また、接合界面を横切る電気伝導性および/または熱伝導性を高めるために、高い電気伝導性および熱伝導性を有する接着剤を提供することも好ましいであろう。」
「[0007] 1つの好ましい側面において、本発明は、カーボンナノ構造体接着剤を用いて2つの表面を一緒に接着する方法であって、以下の方法を提供する:第1の表面(すなわち、基板表面)上に垂直に配列されたカーボンナノ構造体の配列を形成すること;および垂直に配列されたカーボンナノ構造体がファンデルワールス力によって第1の表面および第2の表面を一緒に接着するように、垂直に配列されたカーボンナノ構造体に隣接する第2の表面(すなわち、ターゲット表面)を位置決めすること。この方法の任意の局面では、カーボンナノチューブアレイまたはナノファイバーは、化学蒸着によって第1の表面上に堆積される。アレイの密度は、任意に、触媒膜の厚さによって制御することができる。アレイの高さは、成長時間によって制御することができる。」
「[0038] 図2Aおよび2Bに示す本発明の代替実施形態では、炭素ナノ構造体22のアレイが表面20上に形成される。表面20上のカーボンナノ構造体22は、上で説明したように、カーボンナノ構造体12が表面10上に形成されたのと全く同じ方法で形成されてもよい)。」
「[0039] 本発明のこの実施形態では、図2Bに示すように、表面10および20は一緒にもたらされる。カーボンナノ構造体12と22の間のファンデルワールス力の作用は、表面10と20を一緒に結合するように作用する。」)

「FIG. 2B


(イ) 上記の記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 電子・半導体アセンブリ用途において、湿式である樹脂接着剤よりも乾式で取り外し可能な接着剤が望ましいこと。([0004])
b 引用文献1に開示された接着剤は、接着される(物品の)表面に垂直に並べられたカーボンナノ構造体接着剤であること。([0007])
c 接着される(物品の)それぞれの表面にカーボンナノ構造体を設けること。カーボンナノ構造体間のファンデルワールス力によって結合されること。([0038]-[0039])

ウ 引用文献2
(ア) 同じく原査定に引用され本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった米国特許出願公開第2011/0316173号明細書(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

「[0012] At least one embodiment provides a method for manufacturing an electronic device, comprising the steps of forming a first region of a semiconductor device, having a first surface, ……」
「[0057] According to an embodiment, as shown in FIG. 13, the carbon nanotubes 20 are formed according to the process described with reference to FIGS. 9-12 also on the surface of a further substrate 110 (for example, a substrate of a die, or chip, or, as an alternative to the substrate 110, a conductive substrate belonging to a package) to which the substrate 100 should be mechanically coupled. More in particular, the carbon nanotubes 20 formed both on the substrate 100 and on the substrate 110 extend from the respective substrate in various spatial directions, for example as shown in FIG. 6 and described with reference to said figure. By coupling the substrate 100 and 110 in such a way that the respective areas that present the carbon nanotubes correspond to one another, it is possible to provide a mechanical coupling whereby the carbon nanotubes 20 belonging to the two substrates 100 and 110 couple so as to form a comb-fingered structure.」
「[0058] The mechanical coupling thus obtained is minimally affected by the stresses of expansion due to a variation in temperature during the use of said dice or chips or packages.」
「[0064] In addition, the die-attach process is a cold process that does not cause thermal stresses on the die or on the components provided thereon.」
(仮訳;
「[0012] 少なくとも1つの実施形態は、第1の表面を有する半導体デバイスの第1の領域を形成するステップと、……」
「[0057] 図13に示すように、実施形態によれば、カーボンナノチューブ20は、また、図9-12を参照して説明したプロセスに従って、基板100が機械的に結合されるべきさらなる基板110(例えば、ダイ、チップの基板、または基板110に代わるものとして、パッケージに属する導電性基板)の表面上に形成される。より具体的には、基板100上および基板110上の両方に形成されたカーボンナノチューブ20は、例えば、図6に示され、前記図を参照して説明されているように、様々な空間方向にそれぞれの基板から延びている。基板100と110をカーボンナノチューブが存在するそれぞれの領域が互いに対応するように結合することで、2つの基板100、110に属するカーボンナノチューブ20が櫛歯状構造を形成するように結合する機械的結合を提供することが可能である。」
「[0058] このようにして得られる機械的結合は、前記サイコロまたはチップまたはパッケージの使用中に温度変化による膨張の応力の影響を最小限に抑えることができる。」
「[0064] また、ダイアタッチ工程は、ダイやその上に設けられた部品に熱応力を与えない冷間工程であるため、ダイやその上に設けられた部品に熱応力を与えることはありません。」)

(イ) 上記の記載から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 実施形態として、半導体デバイスが想定されていること。([0012])
b 基板100と基板110(例えば、半導体ダイ又はチップの基板)との、それぞれの基板から延びるカーボンナノチューブを互いに対応するように結合して、機械的な連結を得ること。([0057])
c このようにして得られた機械的連結部は、使用中に温度変化による膨張の応力の影響を最小限に抑えることができる。([0058])
d このような機械的な連結を得る工程は、構成要素に熱応力を発生させない低温プロセスであること。([0064])

(3) 引用発明との対比
ア 引用発明の「上部サブセル」、「下部サブセル」及び「太陽電池セル構造」は、それぞれ本件補正発明の「第1のウェハ」、「第2のウェハ」及び「太陽電池構造体」に相当する。
イ 引用発明の「第2接着層」は、「導電成分及びバインダ成分を含み」、「導電成分はカーボンナノチューブ群を含む」ものであって、「上部サブセルの後面に塗布され」ており、「上部サブセルを下部サブセルに接着させ」るものである。そして、本件補正発明の「第1のウェハ上に形成される第1のナノチューブ」は、第1のウェハと第2のウェハとを接続するものであるから、上記引用発明の構成と本件補正発明の「第1のウェハ上に形成される第1のナノチューブ」とは、「第1のウェハ上に形成されるナノチューブを含む第1の接続層」である点で共通するものといえる。
ウ 引用発明の「第1接着層」は、「導電成分及びバインダ成分を含み」、「導電成分はカーボンナノチューブ群を含む」ものであって、「下部サブセルの後面に塗布され」ており、「下部サブセルを上部サブセルに接着させ」るものである。そして、本件補正発明の「第2のウェハ上に形成される第2のナノチューブ」は、第2のウェハと第1のウェハとを接続するものであるから、上記引用発明の構成と本件補正発明の「第2のウェハ上に形成される第2のナノチューブ」とは、「第2のウェハ上に形成されるナノチューブを含む第2の接続層」である点で共通するものといえる。
エ 引用発明は「上部サブセルを下部サブセルに、第2接着層を第1接着層と接合させて接続する」との構成を備えており、導電成分(カーボンナノチューブ群)によって「上部サブセルと下部サブセルとの間の垂直方向の電気伝導が可能になる」のであるから、当該構成は、「上部サブセルおよび下部サブセルが、第2接着層が第1接着層と対向するように、互いに対して位置づけられ、第2接着層および第1接着層が互いに接続され」た、構成ということができる。
オ 第1接着層および第2接着層が含む導電成分は「カーボンナノチューブ群」であるから、当該構成は、本件補正発明の「カーボンナノチューブ」であるといえる。
カ 引用発明の「上部サブセル」及び「下部サブセル」が、それぞれサブセルのグループを有していることは自明であるから、当該構成は、「上部サブセルは、サブセルのグループを有し、下部サブセルは、サブセルの第2のグループを有する」といえる。

以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「第1のウェハと、
第2のウェハと、
前記第1のウェハ上に形成されるナノチューブを含む第1の接続層と、
前記第2のウェハ上に形成されるナノチューブを含む第2の接続層と、
第1のウェハおよび第2のウェハが、第1の接続層が第2の接続層と対抗するように、互いに対して位置づけられ、第1の接続層および第2の接続層が互いに接続され、 前記第1の接続層および前記第2の接続層に含まれるナノチューブは、カーボンナノチューブであり、 前記第1のウェハは、サブセルのグループを有し、前記第2のウェハは、サブセルの第2のグループを有する、太陽電池構造体。」

[相違点]
ナノチューブを含む第1及び第2の接続層について、本件補正発明は、第1のウェハ上の「第1のウェハの第1の表面に実質的に垂直な方向に延び」る「第1のナノチューブ」と、第2のウェハ上の「第2のウェハの第2の表面に実質的に垂直な方向に延び」る「第2のナノチューブ」とが「互いに接続される」構成であるのに対して、引用発明では、第1接着層及び第2接着層に含まれる「カーボンナノチューブ群」が「上部サブセル」及び「下部サブセル」の表面に「実質的に垂直な方向に延び、互いに接続される」構成であるか否か不明であって、上部サブセルと下部サブセルとは、バインダ成分によって接続されている点。

(4) 判断
以下、相違点について検討する。
一般的に2つの部材を接続するに際して、どのような接続手段を用いるかは、当業者が使用状況等を考慮して適宜選択し得る事項であるところ、引用発明において、上部サブセルと下部サブセルとは、接着層の導電成分(カーボンナノチューブ群)によって電気伝導を可能とし、バインダ成分によって接着される構成である。
また、バインダ成分としては、「金属酸化物、金属窒化物、ポリマー、無機-有機ハイブリッド材料」(【0022】)が列記されている。
ここで、バインダ成分として例示されたポリマー(樹脂接着材)が温度変化に弱いことは周知な事実であり、太陽電池が屋外にて使用される製品であることに鑑みれば、引用発明の太陽電池セル構造は大きな温度変化に晒されるものである。よって、引用発明のバインダ成分がポリマーである場合に、引用発明が温度変化による課題を内包していることは、当業者には明らかである。
また、バインダ成分として例示された金属酸化物等(無機材料)による接着には所望の加熱が必要であるところ、半導体の技術分野において、加熱による応力(熱膨張係数差)は当業者にとって周知な課題であるから、引用発明のバインダ成分が無機材料である場合に、引用発明が加熱による応力(熱膨張係数差)による課題を内包していることも、当業者には明らかといえる。
更に、バインダ成分として例示された無機-有機ハイブリッド材料が、無機材料と有機材料との優位性を兼ね備える材料であるとしても、引用発明は上部サブセルと下部サブセルとを接着して太陽電池セル構造を得る構成であって、複数の部材を用いて製造するものであるから、取り扱いの容易さが求められることは自明であるところ、液状であるバインダ成分の使用によって、接着時における取り回しの簡便さについての課題が内包されることも、技術常識からみれば自明といえる。

一方、引用文献1-2に開示されるとおり、半導体デバイスの分野において、カーボンナノチューブを用いた接続は周知であって、当業者が適宜適用し得る接続構造であるところ、引用文献1には、「半導体用途において、湿式である樹脂接着剤よりも乾式で取り外し可能な接着剤が望ましい」、「カーボンナノ構造体間のファンデルワールス力によって結合される」と記載され、引用文献2には、「温度変化に起因する膨張応力の影響を受けにくい」、「構成要素に熱応力を発生させない低温プロセスである」との知見が開示されている。
そして、引用発明の太陽電池セル構造は半導体デバイスであり、引用発明のバインダ成分により生じ得る周知な課題が、温度変化や加熱による応力、或いは取り回しの容易性であることに鑑みれば、引用発明において「バインダ成分によって上部サブセルを下部サブセルに接着させ」ている構成を、引用文献1-2に開示されている周知技術適用し、「カーボンナノチューブ間のファンデルワールス力による接続」として構成することは、当業者であれば容易に想起し得る事項である。
そして、引用発明の「上部サブセルを下部サブセルに、第2接着層を第1接着層と接合させて接続する」との接続は、「カーボンナノチューブ間のファンデルワールス力による接続」に置き換えられるのであるから、「上部サブセル」及び「下部サブセル」の表面に形成された「ナノチューブ」は、「上部サブセル」及び「下部サブセル」の表面に「実質的に垂直な方向に延び、互いに接続される」構成を備えるものとなる。
そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献1-3に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献1-3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 審判請求人の主張
審判請求人は、令和元年7月18日付け審判請求書、及び令和元年12月24日付け上申書において、以下の主張をしている。
(1) 「「取り扱いが容易な接着構造体」については、課題自体が不明確であるか、または自明な課題ではないといえる。したがって、引用文献3に、周知技術(引用文献1及び2)を組み合わせる動機が存在するとはいえない。」
(2) 「引用文献1によれば、湿った接着剤の問題点は、真空、低温、または高温における取り扱いにあります。そして、このような条件下での取り扱いは、引用文献3において問題となっておりません。
したがって、仮に取り扱いが容易な接着構造体を得るという課題が当業者に自明であったとしても、引用文献3に記載される発明において、引用文献1の周知技術を適用する動機は存在しません。」

しかしながら、上記2(4)に指摘のとおり、引用文献3に接した当業者にとって、本願出願時の技術常識からみれば、引用発明が接着層におけるバインダ成分による周知な課題を内包していることは明らかである。
よって、請求人の主張は、上記2の判断を左右するものではない。
なお、上申書において、補正を行う準備がある旨述べているが、上記2(4)に指摘のとおりであるから、補正案の内容を参酌しても判断に影響を与えるものではない。

4 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年7月18日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成31年1月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項12に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項12に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に より特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:米国特許出願公開第2006/0068195号明細書
引用文献2:米国特許出願公開第2011/0316173号明細書
引用文献3:特表2013-531893号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「第1のウェハ」「第2のウェハ」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明は、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献1?3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献1?3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-06-05 
結審通知日 2020-06-08 
審決日 2020-06-22 
出願番号 特願2015-125395(P2015-125395)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桂城 厚佐竹 政彦  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 近藤 幸浩
吉野 三寛
発明の名称 太陽電池ウェハ接続システム  
代理人 崔 允辰  
代理人 村山 靖彦  
代理人 黒田 晋平  
代理人 阿部 達彦  

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