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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H02M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H02M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H02M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H02M
管理番号 1368102
異議申立番号 異議2019-700454  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-04 
確定日 2020-10-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6434559号発明「モータ駆動装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6434559号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、〔3-6〕について訂正することを認める。 特許第6434559号の請求項2ないし6に係る特許を維持する。 特許第6434559号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6434559号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成29年4月10日に出願され、平成30年11月16日にその特許権の設定登録がなされ、同年12月5日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
令和1年 6月 4日 特許異議申立人 藤本信男による請求項1ない
し6に係る特許に対する特許異議の申立て
令和1年 9月 6日付け 取消理由通知
令和1年11月 8日 特許権者による訂正請求書・意見書の提出
令和1年12月24日 特許異議申立人による意見書の提出
令和2年 1月30日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和2年 3月26日 特許権者による訂正請求書・意見書の提出

なお、令和2年5月26日付けで特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知をし、意見書を提出する機会を与えたが提出されなかった。
また、先にした令和1年11月8日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否

1.訂正の内容
令和2年3月26日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、
特許第6434559号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「請求項1に記載のモータ駆動装置であって」とあるのを「複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が所定距離以下の複数の狭ピッチ部品からなる狭ピッチ部品群と、前記狭ピッチ部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と、前記発熱部品群に風を送風して、前記発熱部品群を冷却するファンと、前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように、前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、を備え」との記載に書き下す。

(3)訂正事項3
訂正事項2のとおり書き下した特許請求の範囲の請求項2に「所定距離」とあるのを「2mm」と訂正する。

(4)訂正事項4
訂正事項2のとおり書き下した特許請求の範囲の請求項2に「前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように、前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、を備え、前記狭ピッチ部品群は、前記プリント基板の一方の面に実装され、前記発熱部品群および前記ファンは、前記プリント基板の前記一方の面の反対面側に設けられている」とあるのを「前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、を備え、前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れるのを遮る遮蔽部材を設けなくても、前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れることを防止するために、前記狭ピッチ部品群を前記プリント基板の一方の面のみに実装し、前記発熱部品群および前記ファンを前記プリント基板の前記一方の面の反対面側のみに設けた」と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に「請求項2に記載のモータ駆動装置であって」とあるのを「複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が所定距離以下の複数の狭ピッチ部品からなる狭ピッチ部品群と、前記狭ピッチ部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と、前記発熱部品群に風を送風して、前記発熱部品群を冷却するファンと、前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように、前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、を備え、前記狭ピッチ部品群は、前記プリント基板の一方の面に実装され、前記発熱部品群および前記ファンは、前記プリント基板の前記一方の面の反対面側に設けられ」との記載に書き下す。

(6)訂正事項6
訂正事項5のとおり書き下した特許請求の範囲の請求項3に「所定距離」とあるのを「2mm」と訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置であって」とあるのを「複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が所定距離以下の複数の狭ピッチ部品からなる狭ピッチ部品群と、前記狭ピッチ部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と、前記発熱部品群に風を送風して、前記発熱部品群を冷却するファンと、前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように、前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、を備え、前記狭ピッチ部品群は、前記プリント基板の一方の面に実装され、前記発熱部品群および前記ファンは、前記プリント基板の前記一方の面の反対面側に設けられ」との記載に書き下す。

(8)訂正事項8
訂正事項7のとおり書き下した特許請求の範囲の請求項4に「所定距離」とあるのを「2mm」と訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項4に「前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れるのを遮り、且つ、前記ファンから送風された風を前記発熱部品群に誘導するための誘導部が設けられた」とあるのを「前記プリント基板は、前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れるのを遮り、且つ、前記ファンから送風された風を前記発熱部品群に誘導するために、前記ファンまで延びている」と訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか1項に記載のモータ駆動装置であって」とあるのを「複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が所定距離以下の複数の狭ピッチ部品からなる狭ピッチ部品群と、前記狭ピッチ部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と、前記発熱部品群に風を送風して、前記発熱部品群を冷却するファンと、前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように、前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、を備え」との記載に書き下す。

(11)訂正事項11
訂正事項10のとおり書き下した特許請求の範囲の請求項5に「所定距離」とあるのを、「2mm」と訂正する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか1項に記載のモータ駆動装置であって」とあるのを「請求項3?5のいずれか1項に記載のモータ駆動装置であって」と訂正する。

2.訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし6について、請求項2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし6に対応する訂正後の請求項1ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して請求項1の記載を引用しないものとして独立形式の請求項へ改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
そして、訂正事項2は上述のとおり、独立形式の請求項へ改めただけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、令和1年9月6日付けで通知した取消理由のうちの「理由B(明確性要件)」で指摘した記載不備を解消するために、訂正事項2のとおり独立形式の請求項へ改めた請求項2の「所定距離」との記載を「2mm」と訂正することにより不明瞭さを正し、訂正後の請求項2に係る発明を明確なものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0013】には「・・狭ピッチ部品とは、複数の端子を有し(図示略)、複数の端子の間隔が所定距離(例えば、2mm)以下の部品である。・・」と記載されていることから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項3は上述のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的として訂正前の不明瞭さを正すものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ.訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項2には「前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように、前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、を備え・・」とあるものの、如何にして「前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように」しているのか、特に「前記狭ピッチ部品群は、前記プリント基板の一方の面に実装され、前記発熱部品群および前記ファンは、前記プリント基板の前記一方の面の反対面側に設けられている」こととの関係が不明瞭であり、「前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように」するための手段が必ずしも特定されているわけではないとも解されるものであったのを、「前記狭ピッチ部品群」を前記プリント基板の一方の面「のみ」に実装し、「前記発熱部品群および前記ファン」を前記プリント基板の前記一方の面の反対面側「のみ」に設けられることの限定し、これによって、「前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れるのを遮る遮蔽部材を設けなくても、前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れることを防止する」ものであることを明確にすることによって上記不明瞭さを正すとともに、ファンによって狭ピッチ部品群に風が送風されないようにするための手段を具体的に特定して限定するものであるといえ、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるとみることができる。
そして、本件特許明細書の例えば段落【0015】には「狭ピッチ部品群14は、プリント基板12の一方の面12aに実装されており、発熱部品群16は、プリント基板12の一方の面とは反対側の面(反対面)12b側に設けられている。」と記載され、段落【0017】には「ファン18は、プリント基板12の裏面12b側に設けられている。これにより、・・・・ファン18から送風された風が狭ピッチ部品群14に流れることを防止することができる。」と記載されている。また、図1等には、遮蔽部材は設けられておらず、狭ピッチ部品群14がプリント基板12の一方の面(表面)12aのみに実装され、発熱部品群16およびファン18がプリント基板12の一方の面の反対面(裏面)12b側のみに設けられてなるものが示されている。したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項4は上述のとおり、訂正前の請求項2に係る発明について、「狭ピッチ部品群」、「発熱部品群およびファン」についての限定、及びファンによって狭ピッチ部品群に風が送風されないようにするための手段についての限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するとともに、明瞭でない記載の釈明を目的として不明瞭さを正すものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

オ.訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項3が請求項2を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して請求項2及び請求項2が引用する請求項1の記載を引用しないものとして独立形式の請求項へ改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
そして、訂正事項5は上述のとおり、独立形式の請求項へ改めただけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

カ.訂正事項6について
訂正事項6は、令和1年9月6日付けで通知した取消理由のうちの「理由B(明確性要件)」で指摘した記載不備を解消するために、訂正事項5のとおり独立形式の請求項へ改めた請求項3の「所定距離」との記載を「2mm」と訂正することにより不明瞭さを正し、訂正後の請求項3に係る発明を明確なものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0013】には「・・狭ピッチ部品とは、複数の端子を有し(図示略)、複数の端子の間隔が所定距離(例えば、2mm)以下の部品である。・・」と記載されていることから、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項6は上述のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的として訂正前の不明瞭さを正すものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

キ.訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項4が請求項1?3のいずれかを引用する記載であったものを、請求項1及び請求項3の引用を削除するととも、請求項2を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して請求項2及び請求項2が引用する請求項1の記載を引用しないものとして独立形式の請求項へ改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
そして、訂正事項7は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに独立形式の請求項へ改めただけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ク.訂正事項8について
訂正事項8は、令和1年9月6日付けで通知した取消理由のうちの「理由B(明確性要件)」で指摘した記載不備を解消するために、訂正事項7のとおり独立形式の請求項へ改めた請求項4の「所定距離」との記載を「2mm」と訂正することにより不明瞭さを正し、訂正後の請求項4に係る発明を明確なものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0013】には「・・狭ピッチ部品とは、複数の端子を有し(図示略)、複数の端子の間隔が所定距離(例えば、2mm)以下の部品である。・・」と記載されていることから、訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項8は上述のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的として訂正前の不明瞭さを正すものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ケ.訂正事項9について
訂正事項9は、訂正前の請求項4に係る発明における「誘導部」について、プリント基板のファンまで延びた部分からなる旨の限定を実質的に付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0017】には「・・図3に示すように、プリント基板12を、ファン18の上方まで延ばすことによって、ファン18から送風された風が狭ピッチ部品群14に流れるのを遮り、ファン18から送風される風が発熱部品群16に流れるように誘導することができる。この場合は、ファン18の上方まで延ばされた部分19が誘導部として機能する。・・」と記載されていることから、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項9は上述のとおり、訂正前の請求項4に係る発明における「誘導部」についての限定を実質的に付加することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

コ.訂正事項10について
訂正事項10は、訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれかを引用する記載であったものを、請求項2ないし4の引用を削除するととも、請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して請求項1の記載を引用しないものとして独立形式の請求項へ改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
そして、訂正事項10は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに独立形式の請求項へ改めただけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

サ.訂正事項11について
訂正事項11は、令和1年9月6日付けで通知した取消理由のうちの「理由B(明確性要件)」で指摘した記載不備を解消するために、訂正事項10のとおり独立形式の請求項へ改めた請求項5の「所定距離」との記載を「2mm」と訂正することにより不明瞭さを正し、訂正後の請求項5に係る発明を明確なものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0013】には「・・狭ピッチ部品とは、複数の端子を有し(図示略)、複数の端子の間隔が所定距離(例えば、2mm)以下の部品である。・・」と記載されていることから、訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項11は上述のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的として訂正前の不明瞭さを正すものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

シ.訂正事項12について
訂正事項12は、訂正前の請求項6が請求項1?5のいずれかを引用する記載であったものを、請求項1及び請求項2の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項12は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するだけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
訂正事項1、4、7、9、10、12については「特許請求の範囲の減縮」を目的として含むものであるが、本件においては、訂正前の請求項1ないし6の全請求項について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1、2、4ないし6に係る訂正事項1、4、7、9、10、12に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。そして、特許権者から、訂正後の請求項2?6について訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項1、2、〔3?6〕について一群の請求項ごとに訂正することを認める。

第3 当審の判断

1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】
複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が2mm以下の複数の狭ピッチ部品からなる狭ピッチ部品群と、
前記狭ピッチ部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と、
前記発熱部品群に風を送風して、前記発熱部品群を冷却するファンと、
前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、
を備え、
前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れるのを遮る遮蔽部材を設けなくても、前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れることを防止するために、前記狭ピッチ部品群を前記プリント基板の一方の面のみに実装し、前記発熱部品群および前記ファンを前記プリント基板の前記一方の面の反対面側のみに設けた、モータ駆動装置。
【請求項3】
複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が2mm以下の複数の狭ピッチ部品からなる狭ピッチ部品群と、
前記狭ピッチ部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と、
前記発熱部品群に風を送風して、前記発熱部品群を冷却するファンと、
前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように、前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、
を備え、
前記狭ピッチ部品群は、前記プリント基板の一方の面に実装され、
前記発熱部品群および前記ファンは、前記プリント基板の前記一方の面の反対面側に設けられ、
前記発熱部品群は、前記プリント基板と予め決められた所定の距離だけ離間して配置されている、モータ駆動装置。
【請求項4】
複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が2mm以下の複数の狭ピッチ部品からなる狭ピッチ部品群と、
前記狭ピッチ部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と、
前記発熱部品群に風を送風して、前記発熱部品群を冷却するファンと、
前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように、前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、
を備え、
前記狭ピッチ部品群は、前記プリント基板の一方の面に実装され、
前記発熱部品群および前記ファンは、前記プリント基板の前記一方の面の反対面側に設けられ、
前記プリント基板は、前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れるのを遮り、且つ、前記ファンから送風された風を前記発熱部品群に誘導するために、前記ファンまで延びている、モータ駆動装置。
【請求項5】
複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が2mm以下の複数の狭ピッチ部品からなる狭ピッチ部品群と、
前記狭ピッチ部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と、
前記発熱部品群に風を送風して、前記発熱部品群を冷却するファンと、
前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように、前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、
を備え、
前記狭ピッチ部品群は、前記プリント基板の予め決められた方向の一端側に配置され、
前記発熱部品群は、前記プリント基板の前記予め決められた方向の他端側に配置され、
平面視で、前記狭ピッチ部品群が配置される第1領域と前記発熱部品群が配置される第2領域とは、前記予め決められた方向に沿って所定の間隔をあけて離間しており、
前記ファンは、平面視で、前記予め決められた方向と直交する方向に風を送風して前記発熱部品群を冷却する、モータ駆動装置。
【請求項6】
請求項3?5のいずれか1項に記載のモータ駆動装置であって、
前記モータ駆動装置は、各軸のモータを駆動させるものであり、
前記狭ピッチ部品群、前記発熱部品群、および、前記ファンは、各軸のモータ毎に設けられている、モータ駆動装置。」

2.取消理由通知(決定の予告)等に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
令和2年1月30日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び令和1年9月6日付け取消理由通知に記載したその他の取消理由の概要は、次のとおりである。

(1-1)令和2年1月30日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由
請求項2に係る発明は、下記の引用例1に記載された発明及び周知の技術事項(引用例2に記載の技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
請求項6(請求項2を引用する場合)に係る発明は、下記の引用例1に記載された発明及び周知の技術事項(引用例2に記載の技術事項、引用例3,4に記載の技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項2,6に係る特許は、特許法29条第2項の規定に違反してなされたものである。

引用例1:特開2009-277707号公報(甲第2号証)
引用例2:特開2005-86921号公報(甲第7号証)
引用例3;特開平8-205556号公報(甲第12号証)
引用例4:特開2006-262636号公報(甲第13号証)

(1-2)令和1年9月6日付け取消理由通知に記載した上記(1-1)以外の取消理由
A.請求項1,4に係る発明は、下記の引用例1に記載された発明及び周知の技術事項(引用例2に記載の技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
請求項6(請求項1,4を引用する場合)に係る発明は、下記の引用例1に記載された発明及び周知の技術事項(引用例2に記載の技術事項、引用例3,4に記載の技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1,4,6に係る特許は、特許法29条第2項の規定に違反してなされたものである。

引用例1:特開2009-277707号公報(甲第2号証)
引用例2:特開2005-86921号公報(甲第7号証)
引用例3;特開平8-205556号公報(甲第12号証)
引用例4:特開2006-262636号公報(甲第13号証)

B.請求項1?6に係る特許は、特許請求の範囲が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

請求項1において、「複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が所定距離以下の複数の狭ピッチ部品からなる狭ピッチ部品群と」とあるが、端子の間隔がどの程度以下の距離をもって「狭ピッチ」の部品というのかが不明確である。
よって、この点において請求項1及び請求項1に従属する請求項2?6に係る発明は明確なものでない。

(2)引用例1の記載事項
引用例1(特開2009-277707号公報、甲第2号証)には、「電源装置」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
筐体の底面を形成する底板と、前記底板にスペーサを介して設けられ電子部品が取り付けられたプリント基板と、前記底板に近接し前記筐体の側面側に設けられて前記プリント基板の前記電子部品に向かって送風する冷却用のファンを有した電源装置において、
前記プリント基板の端部に形成された開口部と、前記開口部に取り付けられ前記底板と前記プリント基板間の空間と前記ファンとの間を仕切る遮蔽部材とを備え、前記遮蔽部材により、前記プリント基板と前記底板の間に送られる前記ファンからの風が遮断されることを特徴とする電源装置。」

イ.「【0014】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1?図4はこの発明の一実施形態を示すもので、この実施形態の電源装置10は、筐体の底部を形成する底板12がほぼ水平に設けられ、底板12の上側面12bにはスペーサ14を介して底板12に対してほぼ平行にプリント基板16が設けられている。プリント基板16の底板12側にはチップ部品等の複数の電子部品18が取り付けられ、底板12と反対側の上側面16cには、トランスやパワートランジスタ等の比較的大きな電子部品18が設けられている。そして、底板12の一方の端部12a近傍の筐体側面側には、大きな電子部品18の発熱を冷却するファン20が設けられている。」

ウ.「【0017】
プリント基板16の端部16aには、遮蔽部材26が取り付けられている。遮蔽部材26は、絶縁性の合成樹脂で一体成形され、プリント基板16に対してほぼ直角に位置する遮蔽板28が設けられている。遮蔽板28は、プリント基板16の端部16aに対して平行な方向に長細い矩形であり、遮蔽板28の一方の長辺である下端部28aは、底板12の上側面12bにほぼ直角に当接し、他方の長辺である上端部28bは、プリント基板16の上側面16cよりも上方に突出するものである。遮蔽板28の下端部28aと上端部28bに対して直角な一対の側端部28c,28dは、プリント基板16の、端部16aに対して直交する一対の端部16b付近に達し、プリント基板16の両側縁より僅かに内側に位置している。」

エ.「【0020】
この実施形態の電源装置10によれば、簡単な構造で遮蔽部材26の位置決めが簡単で、取付工程も容易で作業効率が良好である。遮蔽部材26の遮蔽板28が、プリント基板16と底板12の間の空間に隙間なく取付けられるため、ファン20の風の流入を確実に遮断し、風とともに吹き込まれる導電性の異物の侵入を防ぎ、短絡事故を防ぐことができる。また、コーティングされた部品の皮膜が剥離されることもない。」

・引用例1に記載の「電源装置」は、上記「ア.」、「ウ.」、「エ.」の記載事項、及び図1によれば、筐体の底面を形成する底板12と、底板12にスペーサ14を介して設けられ電子部品18が取り付けられたプリント基板16と、底板12に近接し筐体の側面側に設けられてプリント基板16の電子部品18に向かって送風する冷却用のファン20を有した電源装置10に関するものであり、プリント基板16の端部に取り付けられ底板12とプリント基板16間の空間とファン20との間を仕切る遮蔽部材26を備え、遮蔽部材26により、プリント基板16と底板12の間に送られるファン20からの風が遮断されるようにしてなるものである。
・上記「イ.」の記載事項、及び図1によれば、プリント基板16は、スペーサ14を介して底板12に対してほぼ水平に設けられている。また、プリント基板16の底板12側にはチップ部品等の複数の電子部品18が取り付けられ、底板12と反対側の上側面16cにはトランスやパワートランジスタ等の比較的大きな電子部品18が設けられてなるものである。
・図1によれば、ファン20は、底板12の端部近傍から比較的大きな電子部品18の上面を超えて延在してなるものである。

したがって、上記記載事項及び図面(特に図1)を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「筐体の底面を形成する底板と、
前記底板にスペーサを介して当該底板に対してほぼ水平に設けられたプリント基板と、
前記プリント基板の前記底板側に取り付けられたチップ部品等の複数の電子部品と、
前記プリント基板の前記底板とは反対側の上側面に設けられた、トランスやパワートランジスタ等の比較的大きな電子部品と、
前記底板に近接し前記筐体の側面側に設けられ、前記底板の端部近傍から前記比較的大きな電子部品の上面を超えて延在して、前記比較的大きな電子部品に向かって送風して当該電子部品の発熱を冷却するファンと、
前記プリント基板の端部に取り付けられ、前記底板と前記プリント基板間の空間と前記ファンとの間を仕切る遮蔽部材とを備え、
前記遮蔽部材により、前記プリント基板と前記底板の間に送られる前記ファンからの風が遮断される、電源装置。」

(3)取消理由についての当審の判断
(3-1)令和2年1月30日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(進歩性)について
ア.本件発明2について
本件発明2と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明における「筐体の底面を形成する底板と、前記底板にスペーサを介して当該底板に対してほぼ水平に設けられたプリント基板と、前記プリント基板の前記底板側に取り付けられたチップ部品等の複数の電子部品と」によれば、本件発明2でいう「狭ピッチ部品」について、本件特許明細書の段落【0013】には、例えばICであり、発熱量が所定量より小さい電子部品である旨記載されていることを踏まえると、本件発明2と引用発明とは、「複数の電子部品からなる電子部品群と」、「前記電子部品群が実装されたプリント基板と」を備えるものである点で共通するといえる。
ただし、複数の電子部品について、本件発明では、「複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が2mm以下」の「狭ピッチ」部品である旨特定するのに対し、引用発明では、「チップ部品」であるものの、そのような明確な特定がなされていない点で相違する。

(イ)引用発明における「前記プリント基板の前記底板とは反対側の上側面に設けられた、トランスやパワートランジスタ等の比較的大きな電子部品と、・・・前記比較的大きな電子部品に向かって送風して当該電子部品の発熱をを冷却するファンと」によれば、「比較的大きな電子部品」は、ファンで冷却する必要があるような「所定量以上の熱」を発生する部品であることから、本件発明2でいう「所定量以上の熱を発生する発熱部品」に相当する。
したがって、本件発明2と引用発明とは、「前記電子部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する発熱部品と」を備えるものである点で共通する。
ただし、発熱部品について、本件発明2では、「複数」であり、発熱部品「群」を構成している旨特定するのに対し、引用発明では、比較的大きな電子部品が複数設けられていることの明確な特定がない点で相違する。

(ウ)引用発明における「・・前記比較的大きな電子部品に向かって送風して当該電子部品の発熱を冷却するファンと」によれば、「ファン」は、比較的大きな電子部品に送風して当該電子部品を冷却するためのものであり、本件発明2でいう「ファン」に相当する。
したがって、本件発明2と引用発明とは、「前記発熱部品に風を送風して、前記発熱部品を冷却するファンと」を備えるものである点で共通する。

(エ)引用発明における「前記プリント基板の前記底板側に取り付けられたチップ部品等の複数の電子部品と、前記プリント基板の前記底板とは反対側の上側面に設けられた、トランスやパワートランジスタ等の比較的大きな電子部品と、前記底板に近接し前記筐体の側面側に設けられ、前記底板の端部近傍から前記比較的大きな電子部品の上面を超えて延在して、前記比較的大きな電子部品に向かって送風して当該電子部品の発熱をを冷却するファンと、前記プリント基板の端部に取り付けられ、前記底板と前記プリント基板間の空間と前記ファンとの間を仕切る遮蔽部材とを備え、前記遮蔽部材により、前記プリント基板と前記底板の間に送られる前記ファンからの風が遮断される・・」によれば、引用発明にあっても、チップ部品等の「複数の電子部品」が取り付けられ得るプリント基板の面としては「底板側」の面と「底板とは反対側」の面の2つだけであるところ、そのうちの「底板側」に取り付けられる旨をあえて特定していることに加えて、引用例1の図1も参照すると、当該「複数の電子部品」はプリント基板の底板側の面(本件発明2でいう「一方の面」)のみに取り付けられてなるものであると解釈することができる。同様に、トランスやパワートランジスタ等の「比較的大きな電子部品」についても、「底板とは反対側」の上側面に設けられる旨をあえて特定していることに加えて、引用例1の図1を参照すると、当該「比較的大きな電子部品」はプリント基板の底板とは反対側の上側面(本件発明2でいう「一方の面の反対面」)側のみに設けられてなるものであると解釈することができる。
また、「ファン」については、底板に近接し筐体の側面側に設けられ、底板の端部近傍から比較的大きな電子部品の上面を超えて延在してなるものであり、比較的大きな電子部品に向かって冷却のための送風がなされるように、少なくとも比較的大きな電子部品が設けられているプリント基板の底板側とは反対面側(上面側)に設けられてなるものである。
したがって、本件発明2と引用発明とは、「前記電子部品群を前記プリント基板の一方の面のみに実装し、前記発熱部品を前記プリント基板の前記一方の面の反対面側のみに設け、前記ファンを前記プリント基板の前記一方の面の反対面側に設けた」点で共通するといえる。
ただし、ファンについて、本件発明2では、「前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れるのを遮る遮蔽部材を設けなくても、前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れることを防止するために」、プリント基板の一方の面の反対面側「のみ」に設けた旨特定するのに対し、引用発明では、ファンは底板に近接して設けられ、底板の端部近傍から比較的大きな電子部品の上面を超えて延在し、ファンからの風がチップ部品等の複数の電子部品に送られるのを遮断する遮蔽部材を備えるものである点で相違する。

(オ)そして、本件発明2は「モータ駆動」装置であるのに対し、引用発明は「電源」装置である点で相違する。

よって、本件発明2と引用発明とは、
「複数の電子部品からなる電子部品群と、
前記電子部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する発熱部品と、
前記発熱部品に風を送風して、前記発熱部品を冷却するファンと、
前記電子部品群が実装されたプリント基板と、
を備え、
前記電子部品群を前記プリント基板の一方の面のみに実装し、前記発熱部品を前記プリント基板の前記一方の面の反対面側のみに設け、前記ファンを前記プリント基板の前記一方の面の反対面側に設けた、装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
複数の電子部品について、本件発明2では、「複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が2mm以下」の「狭ピッチ」部品である旨特定するのに対し、引用発明では、引用発明では、「チップ部品」であるものの、そのような明確な特定がなされていない点。

[相違点2]
発熱部品について、本件発明2では、「複数」であり、発熱部品「群」を構成している旨特定するのに対し、引用発明では、比較的大きな電子部品が複数設けられていることの明確な特定がない点。

[相違点3]
ファンについて、本件発明2では、「前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れるのを遮る遮蔽部材を設けなくても、前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れることを防止するために」、プリント基板の一方の面の反対面側「のみ」に設けた旨特定するのに対し、引用発明では、ファンは底板に近接して設けられ、底板の端部近傍から比較的大きな電子部品の上面を超えて延在し、ファンからの風がチップ部品等の複数の電子部品に送られるのを遮断する遮蔽部材を備えるものである点。

[相違点4]
本件発明2は「モータ駆動」装置であるのに対し、引用発明は「電源」装置である点。

そこで、まず上記[相違点3]について検討する。
引用例1の段落【0002】には背景技術に関して「・・電源装置1の図示しない筐体の側面側であって底板2の近傍には、冷却用のファン6が設けられている。・・」と記載され、また、段落【0013】には「本発明の電源装置は、遮蔽部材の位置決めが簡単で取付工程も容易で作業効率が高く、プリント基板と筐体の底板の間にファンの風が流入することを確実に遮断し、風による導電性の異物等の侵入を防ぎ、短絡事故を防ぐことができる。さらに、・・・電子部品との間の放電によるショートを防ぐことができ、安全性の高い装置を提供することができる。」との記載があり、遮蔽部材を設けたことによって、当該遮蔽部材を挟んで対向するファンとチップ部品等の電子部品との間のショートを防ぐことができる効果があるとしていることからも、引用発明における「ファン」は、底板に近接して(底板の近傍に)設けられていることを前提とするものであり、そして、引用発明は「遮蔽部材」を設けることを必須とするものであると解される。したがって、引用発明において、ファンを比較的大きな電子部品が設けられているプリント基板の底板側とは反対面側(上面側)「のみ」に設け、遮蔽部材を設けなくてもファンからの風がチップ部品等の複数の電子部品に流れるのを防止するようにすることには動機付けがなく、むしろ阻害要因があるといえ、相違点3に係る構成を導き出すことはできない。
なお、引用例2(段落【0008】、【0023】?【0031】、図1)には、トランスやパワートランジスタ(パワー半導体素子)を備える電源装置を交流モータを駆動制御する装置として用いるという周知の技術事項が記載されているにすぎない。

よって、上記[相違点1]、[相違点2]、及び[相違点4]について検討するまでもなく、本件発明2は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件発明6について
本件訂正請求による訂正により、請求項6は請求項2を引用しないものとなったことから、本件発明6は当該取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の対象外のものとなった。
本件発明6(請求項3ないし5のいずれかを引用するもの)についての進歩性の判断は後述する。

(3-2)令和1年9月6日付け取消理由通知に記載した上記(1-1)以外の取消理由
(3-2-1)理由A(進歩性)について
ア.本件発明1について
本件訂正請求による訂正により、請求項1は削除された。したがって、当該取消理由はもはや存在しない。

イ.本件発明4について
本件発明4と引用発明とを対比する。
上記「(3-1)ア.本件発明2について」の(イ)、(ウ)、(オ)については本件発明4の場合も同様である。そして、
(カ)引用発明における「前記プリント基板の前記底板側に取り付けられたチップ部品等の複数の電子部品と」によれば、本件発明4でいう「狭ピッチ部品」について、本件特許明細書の段落【0013】には、例えばICであり、発熱量が所定量より小さい電子部品である旨記載されていることを踏まえると、本件発明4と引用発明とは、「複数の電子部品からなる電子部品群と」を備えるものである点で共通するといえる。
ただし、複数の電子部品について、本件発明4では、「複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が2mm以下」の「狭ピッチ」部品である旨特定するのに対し、引用発明では、「チップ部品」であるものの、そのような明確な特定がなされていない点で相違する。

(キ)引用発明における「筐体の底面を形成する底板と、前記底板にスペーサを介して当該底板に対してほぼ水平に設けられたプリント基板と、前記プリント基板の前記底板側に取り付けられたチップ部品等の複数の電子部品と、・・・・前記プリント基板の端部に取り付けられ、前記底板と前記プリント基板間の空間と前記ファンとの間を仕切る遮蔽部材とを備え、前記遮蔽部材により、前記プリント基板と前記底板の間に送られる前記ファンからの風が遮断される・・」によれば、チップ部品等の複数の電子部品が取り付けられた「プリント基板」にあっても、その端部に、底板とプリント基板間の空間とファンとの間を仕切る遮蔽部材が取り付けられることによって、チップ部品等の複数の電子部品にファンからの風が送風されないようにしてなるものである。
したがって、本件発明4と引用発明とは、「前記ファンによって前記電子部品群に風が送風されないように、前記電子部品群が実装されたプリント基板と」を備えるものである点で共通するといえる。
ただし、プリント基板について、本件発明4では、「前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れるのを遮り、且つ、前記ファンから送風された風を前記発熱部品群に誘導するために、前記ファンまで延びている」旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点で相違する。

(ク)引用発明における「前記プリント基板の前記底板側に取り付けられたチップ部品等の複数の電子部品と、前記プリント基板の前記底板とは反対側の上側面に設けられた、トランスやパワートランジスタ等の比較的大きな電子部品と、前記底板に近接し前記筐体の側面側に設けられ、前記底板の端部近傍から前記比較的大きな電子部品の上面を超えて延在して、前記比較的大きな電子部品に向かって送風して当該電子部品の発熱を冷却するファンと」によれば、チップ部品等の「複数の電子部品」はプリント基板の底板側の面(本件発明4でいう「一方の面」)に取り付けられ、トランスやパワートランジスタ等の「比較的大きな電子部品」はプリント基板の底板とは反対側の上側面(本件発明4でいう「一方の面の反対面」)側に設けられてなるものである。
また、「ファン」については、底板に近接し筐体の側面側に設けられ、底板の端部近傍から比較的大きな電子部品の上面を超えて延在してなるものであり、比較的大きな電子部品に向かって冷却のための送風がなされるように、少なくとも当該比較的大きな電子部品が設けられているプリント基板の底板とは反対面側(上面側)に設けられてなるものである。
したがって、本件発明4と引用発明とは、「前記電子部品群は、前記プリント基板の一方の面に実装され、前記発熱部品及び前記ファンは、前記プリント基板の前記一方の面の反対面側に設けられ」ている点で共通するといえる。

したがって、本件発明4と引用発明とは、上記「(3-1) ア.本件発明2について」で検討した[相違点1]、[相違点2]及び[相違点4]に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

[相違点5]
プリント基板について、本件発明4では、「前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れるのを遮り、且つ、前記ファンから送風された風を前記発熱部品群に誘導するために、前記ファンまで延びている」旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

そこで、上記[相違点5]について検討する。
特許異議申立人が令和1年12月24日に提出の意見書において提示した甲第15号証(特開2001-111274号公報、段落【0011】?【0013】、図1を参照)、甲第16号証(特開平1-95599号公報、2頁右下欄12行?3頁右上欄2行、第1図を参照)、及び甲第17号証(特開2002-353679号公報、段落【0018】?【0021】、図2を参照)には、ファンまで延在する板状部材を用いて、板状部材の一方の面側だけに位置する前記ファンによって発生する風を、前記板状部材の前記一方の面側に誘導してなる技術事項が記載されているといえる。しかしながら、これら板状部材は「放熱板」や「隔壁」であり、「プリント基板」ではないし、そもそも引用発明は、「ファン」が底板の端部付近から比較的大きな電子部品の上面を超えて延在して設けられており、「遮蔽部材」を設けることを特徴とする発明であることを踏まえると、引用発明において、「遮蔽部材」を設けることに代えて上記甲第15?17号証に記載の技術事項を適用すべき動機付けはなく、むしろ阻害要因があるといえる。

したがって、上記[相違点1]、[相違点2]及び[相違点4]について検討するまでもなく、本件発明4は、引用発明及び甲第15?17号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件発明6について
モータ駆動装置を各軸のモータ毎に設けることは、例えば上記引用例3(特開平8-205556号公報、甲第12号証)の段落【0002】?【0003】や上記引用例4(特開2006-262636号公報、甲第13号証)の段落【0002】、【0004】に記載のように周知の技術事項である。
しかしながら、本件発明6(請求項4を引用するもの)は、本件発明4の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明4についての判断と同様の理由により、本件発明6は、引用発明、甲第15?17号証に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3-2-2)理由B(明確性要件)について
上記(1-2)の「B.」のとおりの記載不備の指摘に対して、本件訂正請求による訂正により、独立形式でそれぞれ記載された請求項2ないし5の各請求項において、狭ピッチ部品の端子の間隔は「2mm以下」であることが明確なものとなった。
したがって、取消理由で指摘した不備な点は解消され、請求項2ないし5に係る特許、及び請求項3ないし5のいずれかを引用する請求項6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
上述のとおり、本件訂正請求による訂正により、請求項1は削除された。したがって、請求項1に対して、特許異議申立人 藤本信男がした特許異議申立てについてはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
一方、請求項2ないし6について、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。

ア.取消理由1(新規性)
請求項2,4,5に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項3号に該当し、請求項2,4,5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。
請求項2,4,5に係る発明は、下記の甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項3号に該当し、請求項2,4,5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。

イ.取消理由2(進歩性)
請求項2ないし6に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、または、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項3,5,6に係る発明は、下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、または、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3,5,6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:特開2011-249495号公報
甲第2号証:特開2009-277707号公報

ウ.取消理由3(明確性要件)
請求項2ないし6に係る特許は、特許請求の範囲が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

エ.取消理由4(実施可能要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項2ないし6に係る発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、請求項2ないし6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

オ.取消理由5(サポート要件)
請求項2ないし6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないから、請求項2ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(2)甲第1号証、甲第2号証の記載事項
(2-1)甲第1号証
甲第1号証(特開2011-249495号公報)には、「電源装置」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
複数の電子部品と、
ファンとを備え、
上記ファンから吐出された空気が送り込まれる送り込み口を有する長手状の風路が形成され、
上記風路を流れる空気によって上記複数の電子部品が冷却されるように構成された電源装置であって、
上記送り込み口は、上記風路の長手方向に移動可能であることを特徴とする、電源装置。」

イ.「【0056】
図8?図15を用いて、本発明の第2実施形態について説明する。図8は、本実施形態にかかる電源装置の正面図である。図9は、図8に示した電源装置の右側面図である。図10は、図8のX-X線に沿う要部断面図である。図11は、図9、図10のXI-XI線に沿う要部断面図である。図12は、図9、図10のXII-XII線に沿う要部断面図である。図13は、図9、図10のXIII-XIII線に沿う要部断面図である。図14は、図9、図10のXIV-XIV線に沿う要部断面図である。図15は、本実施形態にかかる電源装置の機能ブロック図である。図8、図9、図11においては、一部の構成を透視化して示している。これらの図に示した電源装置A2は、上述の実施形態にかかる電源装置A1の風路を上下に分けた構造をもつものである。
【0057】
電源装置A2は、ケース1と、複数の電子部品2と、複数の電子部品2’と、ヒートシンク3と、第1のファン4と、第2のファン4’と、スライド部材5,5’と、ガイドレール7,7’と、複数の温度センサ81,81’と、送込口移動部82とを備える。
【0058】
図10?図12に示すように、ケース1は、ベース部材11と、カバー12と、仕切板16,17,18,19とを含む。ベース部材11およびカバー12の具体的構成は、第1実施形態と略同様であるから説明を省略する。仕切板16は、矩形状であり、ベース部材11に立設されている。仕切板16の縁は、ベース部材11およびカバー12に当接する。仕切板16には、矩形状の開口160が形成されている。仕切板17は、断面L字状であり、図10の奥方に向かって延びる。仕切板17の縁は、ベース部材11と仕切板16とカバー12とに当接する。仕切板17には、開口170が形成されている。
【0059】
仕切板18は、矩形状であり、仕切板17に対し立設されている。仕切板18の縁は、仕切板17とカバー12とに当接する。仕切板18には、開口180が形成されている。仕切板19は、矩形状であり、ベース部材11と平行に配置されている。仕切板19の縁は、仕切板16,18と、カバー12とに当接する。 ・・・・・(中 略)・・・・・
【0060】
図10によく表れているように、電源装置A2には、ベース部材11と、カバー12と、仕切板17,18,19とに囲まれた空間B3が形成されている。空間B3には、吸気孔120が臨む。そのため、吸気孔120を通り、空間B3と電源装置A2の外部との間を空気が流通可能となっている。また、電源装置A2には、仕切板16,17,18,19と、カバー12とに囲まれた第1の風路6が形成されている。また、電源装置A2には、ベース部材11と、カバー12と、仕切板16,17とに囲まれた第2の風路6’が形成されている。さらに、電源装置A2には、ベース部材11と、カバー12と、仕切板16,19とに囲まれた空間B4が形成されている。
【0061】
空間B3と第1の風路6とは、仕切板18により仕切られている。空間B3と第2の風路6’とは、仕切板17により仕切られている。第1の風路6と、第2の風路6’とは仕切板17により仕切られている。空間B4と第1の風路6とは、仕切板16に仕切られている。空間B4と第2の風路6’とは仕切板16に仕切られている。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0063】
複数の電子部品2’は、第2の風路6’に臨むように、仕切板16に配置されている。本実施形態においては、複数の電子部品2’はそれぞれ、電子部品2に比べ発熱しやすい、トランスやリアクトルといった素子である。また、電子部品2’は、電子部品2に比べ表面積および体積が大きい。各電子部品2’は、コイル部2Aと、端子部2Bとを含む。コイル部2Aは、比較的発熱しやすい部分であり、その表面の大部分が第2の風路6’に臨む。一方、端子部2Bは、空間B4内に配置されている。すなわち、各電子部品2’は、仕切板16を貫通して第2の風路6’と空間B4とにまたがるように配置されている。電子部品2’は、第2の風路6’の長手方向に沿って配置されている。なお、コイル部2Aは、巻線が露出していてもよく、あるいは巻線がモールド樹脂により封止されていてもよい。」

ウ.「【0070】
図10、図11、図14に示すように、第2のファン4’は、吸込口41’と吐出口42’とを有し、吸込口41’から吸込んだ空気を吐出口42’から吐出する。第2のファン4’としては、たとえば、軸流式のファン、シロッコファンが挙げられる。本実施形態においては、第2のファン4’は軸流式のものである。このような軸流式の第2のファン4’は、プロペラ43’と、プロペラ43’を所定の軸を中心に回転させる図示しない電動機とを含む。この軸方向の両端側に、吸込口41’と吐出口42’とが位置する。図10、図14によく表れているように、本実施形態において第2のファン4’は、空間B3に収容されている。第2のファン4’は、支持板51’に搭載および固定されている。第2のファン4’は、吐出口42’が支持板51’に形成された開口510’と、仕切板17に形成された開口170とに重なるように配置されている。
【0071】
第2のファン4’が作動すると、電源装置A2の外部の空気が吸気孔120を通り空間B3に導かれ、吸込口41’に吸い込まれる。吸込口41’に吸い込まれた空気は、吐出口42’から吐出され、開口170を通り、第2の風路6’に送り込まれる。すなわち、本実施形態においては、第2の風路6’のうち吐出口42’につながる領域が、空気の第2の風路6’への送り込み口である。
【0072】
第2の風路6’は、第2のファン4’が吐出した空気を流通させ、流通する空気に電子部品2’の熱を効率良く放出させるためのものである。図14に示すように、第2の風路6’には電子部品2’の表面の大部分が臨む。第2のファン4’から吐出され電子部品2’に当たった空気は、電子部品2’から熱を奪いつつ、第2の風路6’の長手方向両端へと流れる。第2の風路6’内の長手方向両端に流れた空気は、排気孔122を通って電源装置A2の外部に出る。」

エ.「【0073】
図11に示すように、ガイドレール7’は、たとえばステンレスなどの金属よりなり、スライド部材5’をガイドするためのものである。ガイドレール7’は、仕切板17およびカバー12に沿う形状である。ガイドレール7’に沿ってスライド部材5’がスライドすることにより、第2のファン4’が第2の風路6’の長手方向に移動可能となっている。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0076】
図15に示す送込口移動部82は、上述の実施形態と同様に、電子部品2の温度が上昇しすぎないように、各温度センサ81に計測された各電子部品2の温度に基づき、第1のファン4から吐出された空気の送り込み口の位置(以下、送り込み位置という)を変化させるものである。本実施形態ではさらに、送込口移動部82は、電子部品2’の温度が上昇しすぎないように、各温度センサ81’に計測された各電子部品2’の温度に基づき、第2のファン4’から吐出された空気の送り込み位置を変化させるものである。送込口移動部82は、制御部821および移動機構822,822’を含む。
【0077】
制御部821は、たとえばICチップであり、図12、図13に示すように、ヒートシンク3もしくは仕切板16に搭載されている。制御部821は、温度センサ81から受けた温度情報Tsに基づき、複数の電子部品2のうちの特定のものの温度が過度に上昇することを抑制するのに最適な空気の送り込み位置を計算する。制御部821は、このような最適な空気の送り込み位置に関する信号を移動機構822に送る。本実施形態ではさらに、制御部821は、温度センサ81’から受けた温度情報Tsに基づき、複数の電子部品2’のうちの特定のものの温度が過度に上昇することを抑制するのに最適な空気の送り込み位置を計算する。制御部821は、このような最適な空気の送り込み位置に関する信号を移動機構822’に送る。
【0078】
図11、図15に示す移動機構822は、制御部821から空気の送り込み位置に関する信号を受け、第1のファン4およびスライド部材5を、移動させる機構である。移動機構822’は、制御部821から空気の送り込み位置に関する信号を受け、第2のファン4’およびスライド部材5’を、移動させる機構である。移動機構822は、モータ831と、ボールネジ832と、ナット833とを含む。同様に、移動機構822’は、モータ831’と、ボールネジ832’と、ナット833’とを含む。移動機構822,822’の具体的構成は上述の実施形態の移動機構822の構成と同様であるから説明を省略する。」

・甲第1号証に記載の「電源装置」は、上記「ア.」の記載事項、及び図8?15によれば、複数の電子部品2’と、第2のファン4’とを備え、第2のファン4’から吐出された空気が送り込まれる送り込み口を有する長手状の風路が形成され、上記風路を流れる空気によって複数の電子部品2’が冷却されるように構成された電源装置A2であって、上記送り込み口は、上記風路の長手方向に移動可能である電源装置A2に関するものである。
・上記「イ.」の記載事項、及び図8?15によれば、電源装置A2は、ベース部材11と、カバー12と、仕切板16,17,19等を含むケース1を備え、仕切板16はベース部材11に立設されてその縁はベース部材11とカバー12に当接し、仕切板17の縁はベース部材11と仕切板16とカバー12とに当接し、仕切板19の縁は少なくとも仕切板16とカバー12とに当接してなるものである。そして、ベース部材11と、カバー12と、仕切板16,17とに囲まれた第2の風路6’が形成され、さらに、ベース部材11と、カバー12と、仕切板16,19とに囲まれた空間B4が形成され、空間B4と第2の風路6’とは仕切板16に仕切られてなるものである。
・上記「イ.」の段落【0063】の記載事項、及び図14によれば、複数の電子部品2’は、トランスやリアクトルといった発熱しやすい素子であり、各電子部品2’は、コイル部2Aと端子部2Bとを含み、コイル部2Aが第2の風路6’に臨み、端子部2Bは空間B4に配置されるように、仕切板16を貫通して第2の風路6’と空間B4とにまたがるように当該仕切板16に配置されてなるものである。
・上記「ウ.」の記載事項、及び図11?15によれば、第2のファン4’は、仕切板17に形成された開口170に重なるように配置されており、第2のファン4’が作動すると、電源装置A2の外部の空気が開口170を通り、第2の風路6’に送り込まれ、電子部品2’に当たった空気は、電子部品2’から熱を奪いつつ、第2の風路6’の長手方向両端へと流れるようになっている。
・上記「エ.」の記載事項、及び図11?15によれば、電源装置A2は、例えばICチップである制御部821と移動機構822’とを含む送込口移動部82を備え、移動機構822’は制御部821からの信号を受けて第2のファン4’を第2の風路6’の長手方向に移動させるようにしてなるものである。ここで、上記「エ.」の段落【0077】の記載事項、及び図13によれば、制御部821は、空間B4内の仕切板16上に搭載されている。

したがって、特に図8?15に示される第2実施形態に係るものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「ベース部材と、カバーと、仕切板16,17,19等を含むケースと、
トランスやリアクトルといった発熱しやすい素子である複数の電子部品と、
第2のファンと、
ICチップである制御部と移動機構とを含む送込口移動部と、を備える電源装置であって、
前記仕切板16は前記ベース部材に立設されてその縁は前記ベース部材と前記カバーに当接し、前記仕切板17の縁は前記ベース部材と前記仕切板16と前記カバー12とに当接し、前記仕切板19の縁は少なくとも前記仕切板16と前記カバー12とに当接し、前記ベース部材と、前記カバーと、前記仕切板16,17とに囲まれた第2の風路が形成され、さらに、前記ベース部材と、前記カバーと、前記仕切板16,19とに囲まれた空間B4が形成され、前記空間B4と前記第2の風路とは前記仕切板16に仕切られてなるものであり、
前記複数の電子部品はそれぞれコイル部と端子部とを含み、前記コイル部が前記第2の風路に臨み、前記端子部は前記空間B4に配置されるように、前記仕切板16を貫通して前記第2の風路と前記空間B4とにまたがるように前記仕切板16に配置され、
前記ICチップである制御部は、前記空間B4内の前記仕切板16上に搭載され、
前記第2のファンは、前記仕切板17に形成された開口に重なるように配置されており、前記第2のファンが作動すると、当該電源装置の外部の空気が前記開口を通り、前記第2の風路に送り込まれ、前記複数の電子部品に当たった空気は、前記複数の電子部品から熱を奪いつつ、前記第2の風路の長手方向両端へと流れるようになっており、前記移動機構が前記ICチップである制御部からの信号を受けて前記第2のファンを前記第2の風路の長手方向に移動させるようにしてなる、電源装置。」

(2-2)甲第2号証
甲第2号証の記載事項、及び甲第2号証に記載された発明は、上記「2.(2)引用例1の記載事項」に記載したとおりである。

(3)申立理由についての当審の判断
(3-1)取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について
(3-1-1)甲第1号証が主引用例の場合
ア.本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「前記ICチップである制御部は、前記空間B4内の前記仕切板16上に搭載され」によれば、ICチップが複数の端子を有するは自明なことであり、また、本件発明2でいう「狭ピッチ部品」について、本件特許明細書の段落【0013】には、例えばICであり、発熱量が所定量より小さい電子部品である旨記載されていることを踏まえると、本件発明2と甲1発明とは、「複数の端子を有するICチップ部品と」、前記ICチップ部品が実装された板状部材と」を備えるものである点で共通するといえる。
ただし、ICチップ部品について、本件発明2では、「複数」であり、さらに、「複数の端子の間隔が2mm以下」の「狭ピッチ」部品「群」である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点で相違する。
また、板状部材について、本件発明2では、「プリント基板」であるのに対し、甲1発明では、仕切板16である点で相違する。

(イ)甲1発明における「トランスやリアクトルといった発熱しやすい素子である複数の電子部品と、・・・第2のファンが作動すると、当該電源装置の外部の空気が前記開口を通り、前記第2の風路に送り込まれ、前記複数の電子部品に当たった空気は、前記複数の電子部品から熱を奪いつつ・・」によれば、「複数の電子部品」は、第2のファンで冷却する必要があるような「所定量以上の熱」を発生する部品であることから、本件発明2でいう「所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群」に相当する。
したがって、本件発明2と甲1発明とは、「前記ICチップ部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と」を備えるものである点で共通する。

(ウ)甲1発明における「第2のファンと、・・・前記第2のファンは、前記仕切板17に形成された開口に重なるように配置されており、第2のファンが作動すると、当該電源装置の外部の空気が前記開口を通り、前記第2の風路に送り込まれ、前記複数の電子部品に当たった空気は、前記複数の電子部品から熱を奪いつつ、前記第2の風路の長手方向両端へと流れるようになっており・・」によれば、「第2のファン」は、複数の電子部品に送風して当該複数の電子部品を冷却するためのものであり、本件発明2でいう「ファン」に相当する。
したがって、本件発明2と甲1発明とは、「前記発熱部品群に風を送風して、前記発熱部品群を冷却するファンと」を備えるものである点で一致する。

(エ)甲1発明における「ベース部材と、カバーと、仕切板16,17,19等を含むケースと、・・・前記ベース部材と、前記カバーと、前記仕切板16,17とに囲まれた第2の風路が形成され、さらに、前記ベース部材と、前記カバーと、前記仕切板16,19とに囲まれた空間B4が形成され、前記空間B4と前記第2の風路とは前記仕切板16に仕切られてなるものであり、・・・前記複数の電子部品はそれぞれコイル部と端子部とを含み、前記コイル部が前記第2の風路に臨み、前記端子部は前記空間B4に配置されるように、前記仕切板16を貫通して前記第2の風路と前記空間B4とにまたがるように前記仕切板16に配置され、前記ICチップである制御部は、前記空間B4内の仕切板16上に搭載され、前記第2のファンは、前記仕切板17に形成された開口に重なるように配置されており、第2のファンが作動すると、当該電源装置の外部の空気が前記開口を通り、前記第2の風路に送り込まれ、前記複数の電子部品に当たった空気は、前記複数の電子部品から熱を奪いつつ、前記第2の風路の長手方向両端へと流れるようになっており・・」によれば、「ICチップである制御部」は仕切板16上のに空間B4側の面(本件発明2でいう「一方の面」)のみに搭載され、「第2のファン」は仕切板16をはさんで空間B4とは反対の第2の風路側のみに配置されているといえ、そして、空間B4と第2の風路とは仕切板16に仕切られていることから、第2のファンから送風された風は仕切板16によって遮られ、別個の遮蔽部材を設けなくても、ICチップである制御部に流れることはないということができる。
一方、「複数の電子部品」については、仕切板16を貫通して第2の風路と空間B4とにまたがるように仕切板16に配置されてなるものであり、その一部(コイル部)については仕切板16の第2の風路側(本件発明2でいう「一方の面の反対面側」)に設けられるものの、他の一部(端子部)は空間B4側に設けられていることから、第2の風路側「のみ」に設けられてなるものではない。
したがって、本件発明2と甲1発明とは、「前記ファンから送風された風が前記ICチップ部品に流れるのを遮る遮蔽部材を設けなくても、前記ファンから送風された風が前記ICチップ部品に流れることを防止するために、前記ICチップ部品を前記板状部材の一方の面のみに実装し、前記発熱部品群を前記板状部材の少なくとも前記一方の面の反対側に設け、前記ファンを前記板状部材の前記一方の面の反対面側のみに設けた」点で共通するといえる。
ただし、発熱部品群について、本件発明2では、プリント基板の一方の面の反対面側「のみ」に設けた旨特定するのに対し、甲1発明では、仕切板16を貫通して配置され、その一部(コイル部)が仕切板16の第2の風路側に設けられている点で相違する。

(オ)そして、本件発明2は「モータ駆動」装置であるのに対し、甲1発明は「電源」装置である点で相違する。

よって、本件発明2と甲1発明とは、
「複数の端子を有するICチップ部品と、
前記ICチップ部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と、
前記発熱部品群に風を送風して、前記発熱部品群を冷却するファンと、
前記ICチップ部品が実装された板状部材と、
を備え、
前記ファンから送風された風が前記ICチップ部品に流れるのを遮る遮蔽部材を設けなくても、前記ファンから送風された風が前記ICチップ部品に流れることを防止するために、前記ICチップ子部品を前記板状部材の一方の面のみに実装し、前記発熱部品群を前記板状部材の少なくとも前記一方の面の反対面側に設け、前記ファンを前記板状部材の前記一方の面の反対面側のみに設けた、装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
電子部品について、本件発明2では、「複数」であり、さらに、「複数の端子の間隔が2mm以下」の「狭ピッチ」部品「群」である旨特定するのに対し、甲1発明では、そのような特定がなされていない点。

[相違点2]
板状部材について、本件発明2では、「プリント基板」であるのに対し、甲1発明では、仕切板16である点。

[相違点3]
発熱部品群について、本件発明2では、プリント基板の一方の面の反対面側「のみ」に設けた旨特定するのに対し、甲1発明では、仕切板16を貫通して配置され、その一部(コイル部)が仕切板16の第2の風路側に設けられている点。

[相違点4]
本件発明2は「モータ駆動」装置であるのに対し、甲1発明は「電源」装置である点。

上記のとおり相違点があるから、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明ではない。

次に、まず上記[相違点2]の容易性について検討する。
甲1発明における「仕切板16」には、ICチップである制御部が搭載され、複数の電子部品が貫通して保持されているものの、そもそも当該仕切板16は空間B4と第2の風路とを仕切るためのものであって、ベース部材に立設されてケースの一部を構成するものである。このことを踏まえると、異議申立人が特許異議申立書において述べているように、電子部品をプリント基板上に搭載すること自体は例えば甲第2号証(特開2009-277707号公報)の段落【0014】、図1や甲第3号証(実願平2-42432号(実開平4-2050号)のマイクロフィルム)の4頁20行?5頁10行、第1図に記載のように周知の技術事項であるものの、甲1発明にかかる周知の技術事項を適用した場合、仕切板16とは別途、例えば複数の電子部品の各端子部が接続されるプリント基板が設けられることは想定され得るとしても、ケースの一部を構成する仕切板16に代えてプリント基板を採用すべき積極的な動機付けはなく、当業者が容易になし得るものとは認められない。

よって、上記[相違点1]、[相違点3]及び[相違点4]について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件発明3について
本件発明3と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記「ア.本件発明2について」で認定した[相違点2]で相違することは明らかであり、さらに以下の点でも相違する。

[相違点5]
発熱部品について、本件発明3では、「前記プリント基板と予め決められた所定の距離だけ離間して配置されている」旨特定するのに対し、甲1発明では、そのような特定を有していない点。

そこで、上記[相違点2]、[相違点5]について検討する。
[相違点2]について
上記「ア.本件発明2について」で検討したのと同様であり、ケースの一部を構成する仕切板16に代えてプリント基板を採用すべき積極的な動機付けはなく、当業者が容易になし得るものとは認められない。

[相違点5]について
甲第1号証には複数の電子部品を、仕切板16と予め決められた所定の距離だけ離間して配置することについては記載も示唆もない。また、発熱部品を基板の表面から所定の距離だけ離間して配置することは周知の技術事項であることの証拠として特許異議申立人が提示した甲第3号証(実願平2-42432号(実開平4-2050号)のマイクロフィルム、4頁20行?5頁10行、第1図、第2図を参照)、甲第8号証(特開2017-22337号公報、段落【0015】?【0016】、図2を参照)、及び甲第9号証(特開2013-69756号公報、段落【0017】、【0034】、図1?4を参照)にはいずれも、パワーICや半導体素子といった発熱部品が素子本体とリード端子とで構成され、リード端子が基板に接続されていることが記載されているのみである。ここで、素子本体だけでなくリード端子を含めて「発熱部品」というべきものであり、リード端子が基板に接続されている以上、「発熱部品」は基板にくっついた状態であるといえ、プリント基板と予め決められた所定の距離だけ離間して配置されたものではない。
したがって、本件発明3における、発熱部品群をプリント基板と予め決められた所定の距離だけ離間して配置するという発明特定事項については、甲第1号証、及び甲第3,8,9号証のいずれからも導き出すことはできない。

よって、本件発明3は、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件発明4について
本件発明4と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記「ア.本件発明2について」で認定した[相違点2]で相違することは明らかであり、さらに以下の点でも相違する。

[相違点6]
本件発明4では、「前記プリント基板は、前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れるのを遮り、且つ、前記ファンから送風された風を前記発熱部品群に誘導するために、前記ファンまで延びている」旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

上記のとおり相違点があるから、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明ではない。

次に、上記[相違点2]、[相違点6]の容易性について検討する。
[相違点2]について
上記「ア.本件発明2について」で検討したのと同様であり、ケースの一部を構成する仕切板16に代えてプリント基板を採用すべき積極的な動機付けはなく、当業者が容易になし得るものとは認められない。

[相違点6]について
上記[相違点2]に係る構成を当業者が容易になし得るものではない以上、当然、相違点6に係る構成についても当業者が容易になし得るものではない。

よって、本件発明4は、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.本件発明5について
本件発明5と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記「ア.本件発明2について」で認定した[相違点2]で相違することは明らかであり、さらに以下の点でも相違する。

[相違点7]
本件発明5では、「前記狭ピッチ部品群は、前記プリント基板の予め決められた方向の一端側に配置され、前記発熱部品群は、前記プリント基板の前記予め決められた方向の他端側に配置され、平面視で、前記狭ピッチ部品群が配置される第1領域と前記発熱部品群が配置される第2領域とは、前記予め決められた方向に沿って所定の間隔をあけて離間しており、前記ファンは、平面視で、前記予め決められた方向と直交する方向に風を送風して前記発熱部品群を冷却する」旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

上記のとおり相違点があるから、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明ではない。

次に、上記[相違点2]、[相違点7]の容易性について検討する。
[相違点2]について
上記「ア.本件発明2について」で検討したのと同様であり、ケースの一部を構成する仕切板16に代えてプリント基板を採用すべき積極的な動機付けはなく、当業者が容易になし得るものとは認められない。

[相違点7]について
特許異議申立人は特許異議申立書において、「甲1発明の『仕切板16』の厚さ方向(甲第1号証の記載事項iに示される図14の左右方向)は、本件特許発明5の『予め決められた方向』に相当する。甲1発明の『仕切板16』の側面の平面視は、本件特許発明5の『平面視』に相当する。」などと主張し、そのうえでさらに甲1発明は、本件特許発明5の「前記ファンは、平面視で、前記予め決められた方向と直交する方向に風を送風」する構成を有している旨主張している。
しかしながら、請求項5の記載全体からみて、ここでいう「平面視」とは、プリント基板の平面(上面あるいは下面)に直交する方向から視ることを意味すると解するのが技術常識であるといえ、プリント基板の側面から視ることを「平面視」とは言わない。このことは、本件特許明細書の段落【0030】?【0032】の記載や図7からも明らかである。したがって、本件発明5でいう「予め決められた方向」とは、プリント基板上における方向(プリント基板の平面に平行な方向)を意味し、プリント基板の厚さ方向ではない。以上のことから、特許異議申立人の主張は前提において誤りであり、甲第1号証からは上記相違点7に係る構成を導き出すことはできない。

よって、本件発明5は、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ.本件発明6について
モータ駆動装置を各軸のモータ毎に設けることは、例えば甲第12号証(特開平8-205556号公報)の段落【0002】?【0003】や、甲第13号証(特開2006-262636号公報)の段落【0002】、【0004】に記載のように周知の技術事項である。
しかしながら、本件発明6は、本件発明3ないし5のいずれかの発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明3ないし本件発明5についての判断と同様の理由により、本件発明6は、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3-1-2)甲第2号証(引用例1)が主引用例の場合
ア.本件発明2について
上記「2.(3-1)ア.本件発明2について」に記載したとおり、本件発明2と引用発明(甲第2号証に記載された発明)とは相違するところがあるから、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明ではない。

イ.本件発明3について
本件発明3と引用発明(甲第2号証に記載された発明)とを対比する。
上記「(3-1)ア.本件発明2について」の(イ)、(ウ)、(オ)については本件発明3の場合も同様である。そして、
(カ)引用発明における「前記プリント基板の前記底板側に取り付けられたチップ部品等の複数の電子部品と」によれば、本件発明3でいう「狭ピッチ部品」について、本件特許明細書の段落【0013】には、例えばICであり、発熱量が所定量より小さい電子部品である旨記載されていることを踏まえると、本件発明3と引用発明とは、「複数の電子部品からなる電子部品群と」を備えるものである点で共通するといえる。
ただし、複数の電子部品について、本件発明3では、「複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が2mm以下」の「狭ピッチ」部品である旨特定するのに対し、引用発明では、「チップ部品」であるものの、そのような明確な特定がなされていない点で相違する。

(キ)引用発明における「筐体の底面を形成する底板と、前記底板にスペーサを介して当該底板に対してほぼ水平に設けられたプリント基板と、前記プリント基板の前記底板側に取り付けられたチップ部品等の複数の電子部品と、・・・・前記プリント基板の端部に取り付けられ、前記底板と前記プリント基板間の空間と前記ファンとの間を仕切る遮蔽部材とを備え、前記遮蔽部材により、前記プリント基板と前記底板の間に送られる前記ファンからの風が遮断される・・」によれば、チップ部品等の複数の電子部品が取り付けられた「プリント基板」にあっても、その端部に、底板とプリント基板間の空間とファンとの間を仕切る遮蔽部材が取り付けられることによって、チップ部品等の複数の電子部品にファンからの風が送風されないようにしてなるものである。
したがって、本件発明3と引用発明とは、「前記ファンによって前記電子部品群に風が送風されないように、前記電子部品群が実装されたプリント基板と」を備えるものである点で共通するといえる。

(ク)引用発明における「前記プリント基板の前記底板側に取り付けられたチップ部品等の複数の電子部品と、前記プリント基板の前記底板とは反対側の上側面に設けられた、トランスやパワートランジスタ等の比較的大きな電子部品と、前記底板に近接し前記筐体の側面側に設けられ、前記底板の端部近傍から前記比較的大きな電子部品の上面を超えて延在して、前記比較的大きな電子部品に向かって送風して当該電子部品の発熱を冷却するファンと」によれば、チップ部品等の「複数の電子部品」はプリント基板の底板側の面(本件発明3でいう「一方の面」)に取り付けられ、トランスやパワートランジスタ等の「比較的大きな電子部品」はプリント基板の底板とは反対側の上側面(本件発明3でいう「一方の面の反対面」)側に設けられてなるものである。
また、「ファン」については、底板に近接し筐体の側面側に設けられ、底板の端部近傍から比較的大きな電子部品の上面を超えて延在してなるものであり、比較的大きな電子部品に向かって冷却のための送風がなされるように、少なくとも当該比較的大きな電子部品が設けられているプリント基板の底板とは反対面側(上面側)に設けられてなるものである。
したがって、本件発明3と引用発明とは、「前記電子部品群は、前記プリント基板の一方の面に実装され、前記発熱部品及び前記ファンは、前記プリント基板の前記一方の面の反対面側に設けられ」ている点で共通するといえる。
ただし、発熱部品(群)について、本件発明3では、「前記プリント基板と予め決められた所定の距離だけ離間して配置されている」旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点で相違する。

したがって、本件発明3と引用発明とは、上記「(3-1) ア.本件発明2について」で検討した[相違点1]及び[相違点4]に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

[相違点6]
発熱部品について、本件発明3では、「複数」であり、発熱部品「群」を構成し、さらに「前記プリント基板と予め決められた所定の距離だけ離間して配置されている」旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

そこで、上記[相違点6]について検討する。
引用発明における「比較的大きな電子部品」は、トランスやパワートランジスタ等であるところ、甲第2号証(引用例1)の図1では当該電子部品は符号18で示される1つだけであるものの、図1は概略図にすぎず、電源装置においては、実際にはトランス、パワートランジスタといった複数の発熱する電子部品が設けられ、発熱部品「群」を構成していることについては技術常識であるといえる。
しかしながら、甲第2号証(引用例1)には、そのような発熱部品あるいは発熱部品群を、プリント基板と予め決められた所定の距離だけ離間して配置することについては記載も示唆もない。また、発熱部品を基板の表面から所定の距離だけ離間して配置することは周知の技術事項であることの証拠として特許異議申立人が提示した甲第3号証(実願平2-42432号(実開平4-2050号)のマイクロフィルム、4頁20行?5頁10行、第1図、第2図を参照)、甲第8号証(特開2017-22337号公報、段落【0015】?【0016】、図2を参照)、及び甲第9号証(特開2013-69756号公報、段落【0017】、【0034】、図1?4を参照)にはいずれも、パワーICや半導体素子といった発熱部品が素子本体とリード端子とで構成され、リード端子が基板に接続されていることが記載されているのみである。ここで、素子本体だけでなくリード端子を含めて「発熱部品」というべきものであり、リード端子が基板に接続されている以上、「発熱部品」は基板にくっついた状態であるといえ、プリント基板と予め決められた所定の距離だけ離間して配置されたものではない。
したがって、本件発明3における、発熱部品群をプリント基板と予め決められた所定の距離だけ離間して配置するという発明特定事項については、甲第2号証(引用例1)、及び甲第3,8,9号証のいずれからも導き出すことはできない。

よって、上記[相違点1]及び[相違点4]について検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件発明4について
上記「2.(3-2-1)イ.本件発明4について」に記載したとおり、本件発明4と引用発明(甲第2号証に記載された発明)とは相違するところがあるから、本件発明4は、甲第2号証に記載された発明ではない。

エ.本件発明5について
本件発明5と引用発明(甲第2号証に記載された発明)とを対比する。
上記「(3-1)ア.本件発明2について」の(イ)、(ウ)、(オ)については本件発明5の場合も同様である。そして、
(カ)引用発明における「前記プリント基板の前記底板側に取り付けられたチップ部品等の複数の電子部品と」によれば、本件発明5でいう「狭ピッチ部品」について、本件特許明細書の段落【0013】には、例えばICであり、発熱量が所定量より小さい電子部品である旨記載されていることを踏まえると、本件発明5と引用発明とは、「複数の電子部品からなる電子部品群と」を備えるものである点で共通するといえる。
ただし、複数の電子部品について、本件発明5では、「複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が2mm以下」の「狭ピッチ」部品である旨特定するのに対し、引用発明では、「チップ部品」であるものの、そのような明確な特定がなされていない点で相違する。

(キ)引用発明における「筐体の底面を形成する底板と、前記底板にスペーサを介して当該底板に対してほぼ水平に設けられたプリント基板と、前記プリント基板の前記底板側に取り付けられたチップ部品等の複数の電子部品と、・・・・前記プリント基板の端部に取り付けられ、前記底板と前記プリント基板間の空間と前記ファンとの間を仕切る遮蔽部材とを備え、前記遮蔽部材により、前記プリント基板と前記底板の間に送られる前記ファンからの風が遮断される・・」によれば、チップ部品等の複数の電子部品が取り付けられた「プリント基板」にあっても、その端部に、底板とプリント基板間の空間とファンとの間を仕切る遮蔽部材が取り付けられることによって、チップ部品等の複数の電子部品にファンからの風が送風されないようにしてなるものである。
したがって、本件発明5と引用発明とは、「前記ファンによって前記電子部品群に風が送風されないように、前記電子部品群が実装されたプリント基板と」を備えるものである点で共通するといえる。

(ク)本件発明5では、「前記狭ピッチ部品群は、前記プリント基板の予め決められた方向の一端側に配置され、前記発熱部品群は、前記プリント基板の前記予め決められた方向の他端側に配置され、平面視で、前記狭ピッチ部品群が配置される第1領域と前記発熱部品群が配置される第2領域とは、前記予め決められた方向に沿って所定の間隔をあけて離間しており、前記ファンは、平面視で、前記予め決められた方向と直交する方向に風を送風して前記発熱部品群を冷却する」旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点で相違している。

したがって、本件発明5と引用発明とは、上記「(3-1) ア.本件発明2について」で検討した[相違点1]、[相違点2]及び[相違点4]に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

[相違点7]
本件発明5では、「前記狭ピッチ部品群は、前記プリント基板の予め決められた方向の一端側に配置され、前記発熱部品群は、前記プリント基板の前記予め決められた方向の他端側に配置され、平面視で、前記狭ピッチ部品群が配置される第1領域と前記発熱部品群が配置される第2領域とは、前記予め決められた方向に沿って所定の間隔をあけて離間しており、前記ファンは、平面視で、前記予め決められた方向と直交する方向に風を送風して前記発熱部品群を冷却する」旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

上記のとおり相違点があるから、本件発明5は、甲第2号証に記載された発明ではない。

次に、上記[相違点7]の容易性について検討する。
特許異議申立人は、「甲2発明の『プリント基板16』の厚さ方向(甲第2号証の記載事項jに示される図1の上下方向)は、本件特許発明5の『予め決められた方向』に相当する。甲2発明の『プリント基板16』の側面の平面視は、本件特許発明5の『平面視』に相当する。」などと主張し、そのうえでさらに甲2発明は、本件特許発明5の「前記ファンは、平面視で、前記予め決められた方向と直交する方向に風を送風」する構成を有している旨主張している。
しかしながら、請求項5の記載全体からみて、ここでいう「平面視」とは、プリント基板の平面(上面あるいは下面)に直交する方向から視ることを意味すると解するのが技術常識であるといえ、プリント基板の側面から視ることを「平面視」とは言わない。このことは、本件特許明細書の段落【0030】?【0032】の記載や図7からも明らかである。したがって、本件発明5でいう「予め決められた方向」とは、プリント基板上における方向(プリント基板の平面に平行な方向)を意味し、プリント基板の厚さ方向ではない。以上のことから、特許異議申立人の主張は前提において誤りであり、甲第2号証からは上記相違点7に係る構成を導き出すことはできない。

よって、上記[相違点1]、[相違点2]及び[相違点4]について検討するまでもなく、本件発明5は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ.本件発明6について
モータ駆動装置を各軸のモータ毎に設けることは、例えば甲第12号証(特開平8-205556号公報)の段落【0002】?【0003】や、甲第13号証(特開2006-262636号公報)の段落【0002】、【0004】に記載のように周知の技術事項である。
しかしながら、本件発明6(請求項3、5のいずれかを引用するもの)は、本件発明3、5のいずれかの発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明3や上記本件発明5についての判断と同様の理由により、本件発明6は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3-2)取消理由3(明確性要件)について
ア.特許異議申立人は、訂正前の請求項1に係る発明について、「・・所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と」とあるが、本件特許明細書にも「発熱部品」を規定する「所定量以上の熱」を一義的に定義しておらず、訂正前の請求項1に係る発明の「所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品」がどのくらいの以上の発熱量を有する部品をいうのかが不明確である旨主張している。
しかしながら、訂正後の請求項2ないし5に係る発明において、各請求項の記載全体からみれば、ここでいう「所定量以上の熱」とは、ファンで風を送風して冷却する必要があるような熱であり、「所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品」とは、ファンで風を送風して冷却される部品であると把握することができ、「所定量以上の熱」の具体的な数値などの定義がないからといって、訂正後の請求項2ないし5に係る発明、及び請求項3ないし5のいずれかを引用する請求項6に係る発明が明確なものでないとまではいえない。

イ.特許異議申立人は、訂正前の請求項3に係る発明について、「前記発熱部品群は、前記プリント基板と予め決められた所定の距離だけ離間して配置されている」とあるが、本件特許明細書にも「予め決められた所定の距離」を一義的に定義しておらず、訂正前の請求項3に係る発明の「予め決められた所定の距離」の離間がどのくらいの距離の離間をいうのかが不明確である旨主張している。
しかしながら、訂正後の請求項3の記載全体、及び本件特許明細書の段落【0026】の「このような構成にすることで、ファン18の設置位置もプリント基板12から離すことができるので、ファン18から送風された風を発熱部品群16に流すことができるとともに、ファン18から送風される風(ミストを含む)が狭ピッチ部品群14に流れることを防止することができる。したがって、ファン18による送風によって狭ピッチ部品が故障することを確実に防止することができる。」なる記載を参照するに、ここでいう「予め決められた所定の距離」だけ離間というのは、ファンから送風された風が狭ピッチ部品群に流れることがより防止できればよいという程度の意味であり、結局は、単にプリント基板にくっついていないことを意味しているものと解され、「予め決められた所定の距離」の具体的な数値などの定義がないからといって、訂正後の請求項3に係る発明、及び請求項3を引用する請求項6に係る発明が明確なものでないとまではいえない。

ウ.特許異議申立人は、訂正前の請求項5に係る発明について、「・・前記狭ピッチ部品群が配置される第1領域と前記発熱部品群が配置される第2領域とは、前記予め決められた方向に沿って所定の間隔をあけて離間しており」とあるが、本件特許明細書にも「所定の間隔」を一義的に定義しておらず、訂正前の請求項5に係る発明の「所定の間隔」をあけた離間がどのくらいの間隔をいうのかが不明確である旨主張している。
しかしながら、訂正後の請求項5の記載全体からみて、ここでいう「所定の間隔」をあけた離間というのは、「前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように」狭ピッチ部品群が配置される第1領域が発熱部品群が配置される第2領域から離れていることを意味しているものと把握することができ、「所定の間隔」の具体的な数値などの定義がないからといって、訂正後の請求項5に係る発明、及び請求項5を引用する請求項6に係る発明が明確なものでないとまではいえない。

(3-3)取消理由4(実施可能要件)及び取消理由5(サポート要件)について
異議申立人は、「本件特許明細書等において、上記課題を解決することができるものとして示されている全ての実施の形態(第1?第4の実施の形態及びそれらの変形例)では、プリント基板12は、ハウジング20内の空間を完全に仕切っていない。そのため、切削液ミストを含む風の一部は、必然的に、狭ピッチ部品群に当たる。」と主張したうえで、本件特許明細書等の記載並びに本件特許の出願時における技術常識を併せ考慮しても、当業者が過度な負担なしに、本件特許明細書に記載された上記課題を解決し得るものを実施(製造及び使用)することができないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定される実施可能要件に適合せず、また、特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないうえ、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定されるサポート要件に適合しないと主張している。
しかしながら、技術常識に照らせば、本件特許請求の範囲に記載された発明は、従来技術(先行技術)のものに比べて、ファンによって切削液ミストを含む風が狭ピッチ部品群に極力送風されないようにできていればよく、100%送風されないようにすることまで求められるものでもないと解されるべきである。よって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできず、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項2ないし6に係る発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとまではいえず、また、請求項2ないし6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないとまではいえない。

第4 むすび

以上のとおり、本件発明2ないし6に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件発明2ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件の請求項1に係る特許については訂正により削除され、本件特許の請求項1に対して特許異議申立人 藤本信男がした特許異議申立てについてはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が2mm以下の複数の狭ピッチ部品からなる狭ピッチ部品群と、
前記狭ピッチ部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と、
前記発熱部品群に風を送風して、前記発熱部品群を冷却するファンと、
前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、
を備え、
前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れるのを遮る遮蔽部材を設けなくても、前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れることを防止するために、前記狭ピッチ部品群を前記プリント基板の一方の面のみに実装し、前記発熱部品群および前記ファンを前記プリント基板の前記一方の面の反対面側のみに設けた、モータ駆動装置。
【請求項3】
複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が2mm以下の複数の狭ピッチ部品からなる狭ピッチ部品群と、
前記狭ピッチ部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と、
前記発熱部品群に風を送風して、前記発熱部品群を冷却するファンと、
前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように、前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、
を備え、
前記狭ピッチ部品群は、前記プリント基板の一方の面に実装され、
前記発熱部品群および前記ファンは、前記プリント基板の前記一方の面の反対面側に設けられ、
前記発熱部品群は、前記プリント基板と予め決められた所定の距離だけ離間して配置されている、モータ駆動装置。
【請求項4】
複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が2mm以下の複数の狭ピッチ部品からなる狭ピッチ部品群と、
前記狭ピッチ部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と、
前記発熱部品群に風を送風して、前記発熱部品群を冷却するファンと、
前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように、前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、
を備え、
前記狭ピッチ部品群は、前記プリント基板の一方の面に実装され、
前記発熱部品群および前記ファンは、前記プリント基板の前記一方の面の反対面側に設けられ、
前記プリント基板は、前記ファンから送風された風が前記狭ピッチ部品群に流れるのを遮り、且つ、前記ファンから送風された風を前記発熱部品群に誘導するために、前記ファンまで延びている、モータ駆動装置。
【請求項5】
複数の端子を有し、前記複数の端子の間隔が2mm以下の複数の狭ピッチ部品からなる狭ピッチ部品群と、
前記狭ピッチ部品以外の部品であって、所定量以上の熱を発生する複数の発熱部品からなる発熱部品群と、
前記発熱部品群に風を送風して、前記発熱部品群を冷却するファンと、
前記ファンによって前記狭ピッチ部品群に風が送風されないように、前記狭ピッチ部品群が実装されたプリント基板と、
を備え、
前記狭ピッチ部品群は、前記プリント基板の予め決められた方向の一端側に配置され、
前記発熱部品群は、前記プリント基板の前記予め決められた方向の他端側に配置され、
平面視で、前記狭ピッチ部品群が配置される第1領域と前記発熱部品群が配置される第2領域とは、前記予め決められた方向に沿って所定の間隔をあけて離間しており、
前記ファンは、平面視で、前記予め決められた方向と直交する方向に風を送風して前記発熱部品群を冷却する、モータ駆動装置。
【請求項6】
請求項3?5のいずれか1項に記載のモータ駆動装置であって、
前記モータ駆動装置は、各軸のモータを駆動させるものであり、
前記狭ピッチ部品群、前記発熱部品群、および、前記ファンは、各軸のモータ毎に設けられている、モータ駆動装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-29 
出願番号 特願2017-77498(P2017-77498)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H02M)
P 1 651・ 536- YAA (H02M)
P 1 651・ 537- YAA (H02M)
P 1 651・ 113- YAA (H02M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 麻生 哲朗  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 井上 信一
須原 宏光
登録日 2018-11-16 
登録番号 特許第6434559号(P6434559)
権利者 ファナック株式会社
発明の名称 モータ駆動装置  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 関口 亨祐  
代理人 山野 明  
代理人 宮寺 利幸  
代理人 大内 秀治  
代理人 坂井 志郎  
代理人 仲宗根 康晴  
代理人 千馬 隆之  
代理人 山野 明  
代理人 坂井 志郎  
代理人 宮寺 利幸  
代理人 仲宗根 康晴  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 大内 秀治  
代理人 千馬 隆之  
代理人 関口 亨祐  

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