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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C11B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C11B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C11B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C11B |
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管理番号 | 1368149 |
異議申立番号 | 異議2020-700631 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-08-24 |
確定日 | 2020-11-30 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6655213号発明「多湿水蒸気を用いる水蒸気蒸留法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6655213号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許権者である小川香料株式会社が保有する本件特許第6655213号の請求項1?6に係る特許についての出願は、令和元年7月12日に出願され、特願2019-129902号として審査され、令和2年2月4日に特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行された。 その後、当該特許掲載公報の発行の日から6月以内にあたる同年8月24日に、本件特許の全請求項に係る特許について、特許異議申立人である本間幹雄により、特許異議の申立てがされた。 第2 本件特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6の記載は、次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を項番号に合わせて「本件発明1」などといい、併せて「本件発明」という。また、これらの発明に対応する特許を「本件特許1」などということがある。)。 「【請求項1】 水蒸気蒸留によって天然素材から有用成分を留出させることにより分離又は精製する方法において、水蒸気として多湿水蒸気を用いることを特徴とする分離又は精製方法。 【請求項2】 多湿水蒸気を空間速度(SV)50?1600h^(-1)の流速で供給し、1?1.1気圧、95?105℃の条件下で、水蒸気蒸留を行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項3】 請求項1又は2に記載の水蒸気蒸留により、天然素材から分離又は精製された香味増強成分からなることを特徴とする香味増強剤。 【請求項4】 請求項3に記載の香味増強剤を添加したことを特徴とする飲食物。 【請求項5】 請求項3に記載の香味増強剤を添加したことを特徴とする香粧品。 【請求項6】 天然素材由来の香味増強成分からなる香味増強剤の製造方法において、多湿水蒸気を用いる水蒸気蒸留によって天然素材から香味増強成分を留出させることにより分離又は精製する工程を含むことを特徴とする、香味増強剤の製造方法。」 第3 特許異議申立理由についての当審の判断 1 特許異議申立理由の概要 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由は、おおむね以下のとおり、申立理由1?4として整理することができる。 なお、特許異議申立人は、申立理由1、2に係る証拠方法として、甲第1?7号証を提出しているが、以下では、これらの証拠を単に「甲1」などとした。 (1) 申立理由1(甲1?3に基づく新規性欠如) 本件発明1、3?6は、甲1?3に記載された周知技術に係る発明であるから、本件特許1、3?6は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号に該当)。 (2) 申立理由2(甲1?7に基づく進歩性欠如) 本件発明1?6は、(i)甲4及び甲7記載の周知技術に基づいて、(ii)甲1及び甲7の周知技術に基づいて、(iii)甲1?5記載の周知技術及び甲6記載の技術に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1?6は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号に該当)。 (3) 申立理由3(実施可能要件違反) 本件特許1?6は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号に該当)。 (4) 申立理由4(明確性要件違反) 本件特許1?6は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号に該当)。 2 申立理由1、2(新規性・進歩性欠如)について (1) 特許異議申立人が提出した証拠一覧 ・甲1:農商務省商工局、「香料の研究」、初版、丸善株式会社、大正7 年3月30日、p.81-96 ・甲2:米元俊一、“別府大学紀要=Memoirs of Beppu University”、2017年2月、Vol.58、p. 119-136 ・甲3:実用新案登録第3211577号公報 ・甲4:特開2013-123387号公報 ・甲5:特開2017-6020号公報 ・甲6:特開平1-193502号公報 ・甲7:特開2018-191606号公報 (2) 甲1?7の記載事項と周知技術の整理 ア 摘記は省略するが、甲1には、「二、蒸留法による香料製出」(項目タイトル、81?96頁)について、甲2には、「7.古式蒸留器の伝来と特徴について(第7図)」及び「8.アジアに現存する古式蒸留器と古い文献に記載のある蒸留器の構造比較」(いずれも項目タイトル、129?134頁)について、甲3には、「蒸留器」(考案の名称)について、甲4には、「蒸し茶葉香気成分入りの凝縮水製造方法及びその装置並びに製造される凝縮水」(発明の名称)について、甲5には、「茶類エキスの製造方法」(発明の名称)について、それぞれ記載されている。 そして、これらは、本件明細書の【0002】?【0007】においても背景技術として記載されている、古典的な水蒸気蒸留(甲1?3に記載されたものがこれに相当するものと解される。)、あるいは、ボイラーを用いた一般的な水蒸気蒸留(甲4、5に記載されたものがこれに相当するものと解される。)に関する技術であると理解され、香料の製造などにおける周知・慣用の「水蒸気蒸留」の技術(本件明細書の【0013】も参照した。)を開示するものということができる(以下、これらの証拠に記載された方法を、まとめて「甲1?5の周知の水蒸気蒸留」という。)。 イ また、甲6には、「蒸気気質変換器」(発明の名称)について、甲7には、「牡蠣エキス及びその製造方法」(発明の名称)について、それぞれ記載されており、甲6の「蒸気気質変換器」は、本件明細書の【0012】に記載された、一般にスチームチェンヂァー(スチームチェンジャー)と呼称される周知技術に関するものであり、甲7は、同段落に記載された、当該スチームチェンジャーを用いた蒸し装置の周知技術に関するものということができる(以下、それぞれ「甲6の周知のスチームチャンジャー」及び「甲7の周知のスチームチャンジャーによる蒸し技術」という。)。 (3) 本件発明1の新規性・進歩性について ア 本件発明1と「甲1?5の周知の水蒸気蒸留」との対比 本件発明1と「甲1?5の周知の水蒸気蒸留」とを対比すると、両者は、少なくとも、次の点で相違するものと認められる。 ・相違点:使用する水蒸気について、本件発明1は「水蒸気として多湿水蒸気を用いる」と特定しているのに対して、「甲1?5の周知の水蒸気蒸留」は、当該多湿水蒸気を用いるものではない点 イ 相違点の検討 (ア) あらかじめ、上記相違点に係る本件発明1の「多湿水蒸気」の定義について確認しておくと、本件明細書の【0011】、【0012】には、次のような記載がある。 「本発明でいう多湿水蒸気は、ボイラーで発生させた加圧高温の乾燥した水蒸気を、一度水に通し、そこから発生させた、圧力が1?1.1気圧、温度が95?105℃の湿気を含んだ水蒸気をいう。 具体的には、ボイラーで発生させた加圧高温乾燥水蒸気を、水蒸気蒸留に付される天然素材と接触させる前に水の層と接触させたときの水の沸騰による二次的に発生させた水蒸気である。 ・・・ こうした多湿水蒸気は、水蒸気蒸留装置の底部に水層を設け、そこにボイラー蒸気を吹き込むことで得られるが、市販の装置を用いて簡便に得ることもできる。例えば、業務用蒸し装置のスチームチェンヂャーは、高温高圧乾燥蒸気を低圧多湿蒸気に変換する湿式蒸気減圧装置であり、かまぼこ等の「蒸しもの」食品の製造や食品の殺菌に使用されている装置である。」 したがって、この記載によれば、本件発明1における「多湿水蒸気」とは、「ボイラーで発生させた加圧高温の乾燥した水蒸気を、一度水に通し、そこから発生させた、圧力が1?1.1気圧、温度が95?105℃の湿気を含んだ水蒸気」のことであって、当該「多湿水蒸気」を簡便に得るための装置として、業務用蒸し装置のスチームチェンヂャーを用いることができることを理解することができる。 なお、本件発明1における「水蒸気蒸留」は、本件明細書の【0013】に記載のとおり、香料の製造において周知・慣用技術であって、これ自体は、先行技術、すなわち、「甲1?5の周知の水蒸気蒸留」と特段相違するものではないといえる。 (イ) 上記のとおり確認した本件発明1の「多湿水蒸気」の定義に照らすと、本件発明1と「甲1?5の周知の水蒸気蒸留」とでは、使用する水蒸気が異なることは明らかであるから、上記相違点は、実質的な相違点であるというほかない。 したがって、本件発明1は、「甲1?5の周知の水蒸気蒸留」に対して新規性を欠如するものということはできない。 (ウ) また、上記相違点に係る「多湿水蒸気」に関連する技術として、上記「甲6の周知のスチームチャンジャー」及び「甲7の周知のスチームチャンジャーによる蒸し技術」があるが、これらは単に、スチームチャンジャー自体、あるいは、これを用いた蒸し技術自体が周知であることを教示するものであって、水蒸気蒸留と直接関係するものではないし、これらを水蒸気蒸留と関連づけるに足りる証拠も見当たらないから、これらを参酌しても、上記相違点に係る本件発明1の構成が容易想到の事項であるということはできない。 そして、本件発明1は、当該相違点に係る構成を具備することによりはじめて、本件明細書の【0010】などに記載された有利な効果を奏するものであって、そのことは、本件明細書記載の実施例と比較例の評価結果からも見て取れる。 したがって、上記「甲1?5の周知の水蒸気蒸留」を主たる引用発明として、本件発明1が進歩性を欠如するということもできない。 ウ 小括 以上の検討によれば、本件発明1の「多湿水蒸気」の定義に照らすと、本件発明1が新規性及び進歩性を欠如するものとは認められない。 (4) 本件発明2?6の新規性・進歩性について 本件発明2は、本件発明1に係る方法の構成をすべて具備するものであり、また、本件発明6は、実質的に、本件発明1の有用成分を限定したものと解されるから、これらの方法の発明は、上記(3)において検討した本件発明1と同様の理由により、「甲1?5の周知の水蒸気蒸留」に対して新規性及び進歩性を欠如するということはできない。 さらに、本件発明3?5に係る香味増強剤などの物の発明についてみても、これらは、本件発明1に係る方法により製造された有用成分を用いるものであるところ、当該有用成分は、加熱臭の付着がないなど従来の成分とは異なるものと解すべきであるから、上記「甲1?5の周知の水蒸気蒸留」により製造された物に対して新規性及び進歩性を欠如するということはできない。 (5) 小活 以上のとおりであるから、特許異議申立人が主張するように、本件発明1、3?6は、甲1?3に記載された発明であるとも、本件発明1?6は、(i)甲4及び甲7記載の周知技術、(ii)甲1及び甲7の周知技術、(iii)甲1?5記載の周知技術及び甲6記載の技術のいずれかに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由1、2には理由がない。 3 申立理由3、4(実施可能要件違反及び明確性要件違反)について 特許異議申立人が主張する実施可能要件違反及び明確性要件違反は、(i)本件発明における「多湿水蒸気」の定義が不明確であるとともに、その定義には非実際的な範囲が含まれる点、及び、(ii)本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明を実施するための空間速度やその数値の臨界的意義について十分に記載されていない点に依拠するものと解される。 そこで検討するに、(i)については、上記2(3)イ(ア)のとおり、本件発明における「多湿水蒸気」の定義は、本件明細書の【0011】の記載などに照らせば明確であるといえるし、当該段落に記載された「圧力が1?1.1気圧、温度が95?105℃の湿気を含んだ水蒸気」は、湿気を含んだものであって、単純な気液平衡状態のものではないから、特許異議申立人の指摘する非実際的な範囲に関する主張は当たらない。そして、仮に当該水蒸気の定義に物理的に不可能な領域が含まれているとしても、その領域は、本件発明の範囲からは当然に排除された領域であるというべきであるから、上記(i)に係る記載不備は認められない。 また、(ii)についてみても、空間速度(略称SV)は、一般に、流通系の反応装置の反応時間や滞留時間を表す概念で、反応装置容積と原料供給速度との関係を示すものとして知られた公知のパラメータであるから、これ自体に不明確なところはないし、その計測や制御も普通に行われており、これが本件発明において困難であるというに足りる証拠は見当たらない。そして、実際、本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例として、その実測値が具体的に記載されているのであるから、例えば、本件発明2が特定する数値範囲を実現することができないとまでいうことはできないし、このことは、その数値範囲に臨界的な意義が存するか否かに左右される事項でもない。したがって、上記(ii)に係る記載不備についても認めることはできない。 以上のとおり、本件特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載に、特許異議申立人が指摘するような実施可能要件及び明確性要件に係る記載不備は見当たらないから、上記申立理由3、4には、理由がない。 第4 むすび 以上の検討のとおりであるから、特許異議申立人が主張する特許異議申立理由によっては、本件特許1?6を取り消すことはできない。 また、ほかにこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-11-17 |
出願番号 | 特願2019-129902(P2019-129902) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(C11B)
P 1 651・ 121- Y (C11B) P 1 651・ 113- Y (C11B) P 1 651・ 537- Y (C11B) |
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
宮澤 尚之 |
特許庁審判官 |
村岡 一磨 日比野 隆治 |
登録日 | 2020-02-04 |
登録番号 | 特許第6655213号(P6655213) |
権利者 | 小川香料株式会社 |
発明の名称 | 多湿水蒸気を用いる水蒸気蒸留法 |
代理人 | 横堀 芳徳 |
代理人 | 竹沢 荘一 |
代理人 | 竹林 則幸 |
代理人 | 新井 信輔 |
代理人 | 結田 純次 |