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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1368490
審判番号 不服2020-2023  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-14 
確定日 2020-11-19 
事件の表示 特願2015-190201「発泡複合シート、多層発泡複合シート、及びこれらの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日出願公開、特開2017- 69278〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成27年9月28日の出願であって、平成30年12月27日付け拒絶理由通知に対する応答時、平成31年4月23日に手続補正がなされ、令和1年6月19日付け最後の拒絶理由通知に対する応答時、同年8月22日に手続補正がなされたが、当該手続補正について、同年11月29日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、令和2年2月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成31年4月23日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1,14、及び出願当初の特許請求の範囲の請求項2ないし13,15に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
熱伝導性フィラーを含有するゴム系発泡シートと、
前記ゴム系発泡シートの少なくとも一方の面に設けられ、金属、金属酸化物及び金属窒化物からなる群から選択される少なくとも1種の金属系材料から形成され、その付着量が10?1000μg/cm^(2)である金属系薄膜と
を備える発泡複合シート。」

3.引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-198173号公報(以下、「引用例1」という。)には、「電磁波遮蔽放熱シート」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】 柔軟性を有しゴム弾性を有する樹脂中に熱伝導性粉末を混合、分散させた熱伝導性シートで構成され、かつ前記熱伝導性シートの表面に金属蒸着層を積層した、熱伝導性および電磁波遮蔽効果の双方を兼ね備えたことを特徴とする電磁波遮蔽放熱シート。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項4】 前記金属蒸着層の膜厚が100オングストローム以上から1000オングストローム以下の範囲であることを特徴とする請求項1記載の電磁波遮蔽放熱シート。」

イ.「【0025】(実施の形態1)本発明の実施の形態による電磁波遮蔽放熱シートについて説明する。本発明の金属蒸着層に用いる金属としては、電磁波遮蔽シートとしての使用目的が異なるため特定できないが、一般的には高い遮蔽効果を得るためには、高い透磁率と導電率を有する材料が好ましい。また同時に、高い放熱効果を得るためには、高い熱伝導性を有する材料が好ましい。蒸着の厚さ、充填率等も目的の周波数特性に合わせて条件を決定する。
【0026】また、本発明の熱伝導性シートに使用する樹脂は、シリコーンゴム、エポキシ樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素樹脂など一般に電子材料として用いられる樹脂である。特に、電子部品などの発熱面及び放熱フィンの面との密着性が必要とされるので、柔軟性を有しゴム弾性を有する樹脂が好適である。
【0027】本発明で使用する熱伝導性粉末は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、アルミナ粉末、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、結晶シリカ、非結晶シリカなどが挙げられる。特に、熱伝導性の高いアルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、結晶シリカ、非結晶シリカが好ましい。」

ウ.「【0039】(実施例1)以下、本発明の実施例1による電磁波遮蔽放熱シートについて詳細に説明する。図1は、本発明の実施例1による電磁波遮蔽放熱シートの説明図である。金属蒸着層(図1中のa)について、離型性を有するPETフィルムの離型処理面に放熱効果と電磁波遮蔽効果を有するアルミの蒸着処理を行った。
【0040】熱伝導性シート(図1中のb)部についてシリコーン樹脂のジメチルシリコーン(SH200,東レダウンコーニングシリコーン株式会社製)150重量部に平均粒子径が18μm、平均粒子厚み1μmの窒化ホウ素(電気化学工業社製商品名「デンカボロンナイト」)を50重量部とシランカップリング剤としてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製KBM403)2重量部をボールミルを用いて混合・分散して得られた塗料を0039で得たアルミ蒸着処理済み離型性PETフィルムのアルミ蒸着面にコンマコーターにて厚さ60μmになるように塗布した。
【0041】乾燥後、離型性PETフィルムからアルミ蒸着処理層と熱伝導性シートが貼り付いた状態で剥離し、アルミ蒸着層と熱伝導性シートの積層シートを得た。これにより、表1に示すように、同時に放熱効果と電磁波遮蔽効果を得ることが可能となる。また、金属蒸着層の充填率は100重量%で、厚さは200オングストロームであった。熱伝導性シートの熱伝導性粉末充填率は60%で、実施例1の電磁波遮蔽放熱シートの膜厚は60μmであった。」

・上記引用例1に記載の「電磁波遮蔽放熱シート」は、上記「ア.」の【請求項1】、「イ.」、「ウ.」の記載事項、図1によれば、柔軟性を有しゴム弾性を有する樹脂中に熱伝導性粉末(例えば窒化ホウ素)を混合、分散させた熱伝導性シートで構成され、かつ前記熱伝導性シートの一方の表面に金属蒸着層を積層した電磁波遮蔽放熱シートに関するものである。
・上記「ア.」の【請求項4】、「イ.」、「ウ.」の記載事項によれば、金属蒸着層に用いる金属としては、高い透磁率と導電率を有する材料や、高い熱伝導性を有する材料が好ましく、例えば放熱効果と電磁遮蔽効果を有するアルミが用いられ、その厚さ(膜厚)は、100オングストローム以上1000オングストローム以下の範囲(実施例1では200オングストローム)である。

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「柔軟性を有しゴム弾性を有する樹脂中に熱伝導性粉末を混合、分散させた熱伝導性シートと、
前記熱伝導性シートの一方の表面に積層され、その厚さ(膜厚)が100オングストローム以上1000オングストローム以下の範囲であるアルミからなる金属蒸着層と、を備える電磁波遮蔽放熱シート。」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された特開2013-229590号公報(以下、「引用例2」という。)には、「電子機器用熱伝導性積層体」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
25%圧縮強度が200kPa以下であり、厚さが0.05?1.0mmである発泡体シートの少なくとも一方の面に、熱伝導率が200W/m・K以上である熱伝導性シートを有し、厚さが0.08?1.50mmである電子機器用熱伝導性積層体。
【請求項2】
前記発泡体シートを構成するエラストマー樹脂が、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、タルク、及び窒化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の熱伝導性フィラーを含有する請求項1に記載の電子機器用熱伝導性積層体。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項5】
前記熱伝導性シートが、銅、アルミニウム、及びグラファイトから選ばれる1種であるシートである請求項1?4のいずれかに記載の電子機器用熱伝導性積層体。」

イ.「【0005】
本発明は、上記従来の課題を鑑みてなされたものであって、電子機器の内部に好適に使用することができる薄さと柔軟性とを有し、かつ熱伝導性に優れる電子機器用熱伝導性積層体を提供することを目的とする。」

ウ.「【0013】
発泡体シートの熱伝導率は、0.01?10W/m・Kが好ましく、0.05?2W/m・Kがより好ましい。発泡体シートの熱伝導率が前記範囲内であれば、電子機器内部の熱を外部へ効率的に放熱することが可能となる」

エ.「【0018】
<熱伝導性フィラー>
本発明においては、前記エラストマー樹脂中に熱伝導性フィラーを含有させてもよい。熱伝導性フィラーとしては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、タルク、窒化アルミニウム、グラファイト、及びグラフェンが挙げられ、これらの中では、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムが好ましい。これらの熱伝導性フィラーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
前記熱伝導性フィラーの熱伝導率としては、5W/m・K以上が好ましく、20W/m・K以上がより好ましい。熱伝導率が前記範囲内であれば、発泡体シートの熱伝導率が十分に高いものになる。
【0019】
前記熱伝導性フィラーの含有量は、エラストマー樹脂100質量部に対して100?500質量部が好ましく、120?480質量部が好ましく、150?450質量部がより好ましい。熱伝導性フィラーの含有量が前記範囲内であれば、発泡体シートの柔軟性を低下させることなく、十分な熱伝導性を付与することができる。」

上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。
「所定のシートの少なくとも一方の面に、アルミニウムなどからなる熱伝導性シートを有する電子機器用熱伝導性積層体において、
前記所定のシートを、エラストマー樹脂で構成し、柔軟性を低下させることなく十分な熱伝導性(熱伝導率は例えば0.01?10W/m・Kが好ましい)を有するように、熱伝導率が所定の値以上の熱伝導性フィラーを所定の範囲の量含有する発泡体シートとしたこと。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明における「柔軟性を有しゴム弾性を有する樹脂中に熱伝導性粉末を混合、分散させた熱伝導性シートと」によれば、「熱伝導性粉末」は、本願発明でいう「熱伝導性フィラー」に相当する。また、当該熱伝導性粉末を混合、分散させて含有する「熱伝導シート」は、柔軟性を有しゴム弾性を有する樹脂からなるものであるから、「ゴム系」シートである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「熱伝導性フィラーを含有するゴム系シートと」を備えるものである点で共通する。
ただし、熱伝導性フィラーを含有するゴム系シートについて、本願発明ではゴム系「発泡」シートである旨特定するのに対し、引用発明ではシートが「発泡」ではない点で相違する。

(2)引用発明における「前記熱伝導性シートの一方の表面に積層され、その厚さ(膜厚)が100オングストローム以上1000オングストローム以下の範囲であるアルミからなる金属蒸着層と」によれば、アルミからなる「金属蒸着層」は薄膜であるといえ、本願発明でいう「金属」から形成された「金属系薄膜」に相当する。
また、アルミからなる「金属蒸着層」の厚さ(膜厚)は100オングストローム以上1000オングストローム以下の範囲であり、アルミ(アルミニウム)の比重は2.7g/cm^(3)であるから、その付着量(=厚さ(膜厚)×比重)は、2.7?27μg/cm^(2)であり、本願発明で特定する付着量の範囲である「10?1000μg/cm^(2)」とは部分的に重複する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記ゴム系シートの少なくとも一方の面に設けられ、金属から形成され、その付着量が10?27μg/cm^(2)である金属系薄膜と」を備えるものである点で一致する。

(3)そして、引用発明における「電磁波遮蔽放熱シート」は、ゴム弾性を有する樹脂中に熱伝導性粉末を混合、分散させた熱伝導性シートと、当該熱伝導性シートの一方の表面に積層された金属蒸着層とを備えるシートであることから、本願発明とは「複合シート」である点で共通するといえる。
ただし、複合シートについて、本願発明では「発泡」複合シートである旨特定するのに対し、引用発明ではシートが「発泡」ではない点で相違する。

よって、本願発明と引用発明とは、
「熱伝導性フィラーを含有するゴム系シートと、
前記ゴム系シートの少なくとも一方の面に設けられ、金属から形成され、その付着量が10?27μg/cm^(2)である金属系薄膜と
を備える複合シート。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
熱伝導性フィラーを含有するゴム系シートを備える複合シートについて、本願発明ではゴム系「発泡」シートを備える「発泡」複合シートである旨特定するのに対し、引用発明ではゴム系シートが「発泡」ではない点。

5.判断
上記[相違点]について検討する。
引用例2には、所定のシートの少なくとも一方の面に、アルミニウムなどからなる熱伝導性シートを有する電子機器用熱伝導性積層体において、前記所定のシートを、エラストマー樹脂で構成し、柔軟性を低下させることなく十分な熱伝導性(熱伝導率は例えば0.01?10W/m・Kが好ましい)を有するように、熱伝導率が所定の値以上の熱伝導性フィラーを所定の範囲の量含有する発泡体シートとした技術事項が記載(上記「3.(2)」を参照)されている。ここで、当該「発泡体シート」は、エラストマー樹脂で構成されることから、「ゴム系」発泡シートといえるものである。
そして、引用発明における一方の表面にアルミからなる金属蒸着層が積層され、熱伝導性粉末を混合、分散させてなる熱伝導性シートとしては、引用例1の段落【0026】に記載(上記「3.(1)イ.」を参照)のように、電子部品などの面との密着性が必要なため、柔軟性を有しゴム弾性を有する樹脂が用いられるものであるところ、当該熱伝導性シートに関する技術分野において、同様の性質の樹脂を用いた上記引用例2に記載のようなゴム系発泡シートを選択することも普通に行われていることであり、引用発明において、上記熱伝導性シートに代えて、引用例2に記載のゴム系発泡シートを採用し、相違点に係る構成とすることも当業者であれば容易になし得ることである。

なお、請求人は審判請求書において、「高い熱伝導率を達成し、しかもその達成を第一の課題・目的としている引用1発明において、引用文献2に「熱伝導性に優れる」と記載があるものの、引用文献2に記載の発明は熱伝導性だけでなく、柔軟性等も課題・目的とし、しかも気泡を含んだシートは気泡を含まないシートよりも熱伝導性が劣ることは技術常識であることを踏まえると、引用1発明の気泡を含まないシートに代えて、引用文献2に記載の気泡を含むシートを採用することには動機付けがないといえる。」などと主張している。
しかしながら、熱伝導性シートの熱伝導率は、発泡体か否か(気泡を含むか否か)だけでなく、引用例2の段落【0018】?【0019】に記載(上記「3.(2)エ.」を参照)に記載のように、含有させる熱伝導性フィラーの種類や量にも依存するものであり、さらに発泡の程度(気泡の量や大きさ)にも依存すると考えられ、引用例2に記載の発泡体シートの熱伝導率は、実施例では0.06?0.46W/m・Kであるものの、0.01?10W/m・Kが好ましいとされていることからも明らかなように、シートが発泡体であることのみをもって直ちに熱伝導性が劣るというものではない。なお、例えば特開2002-254456号公報には、熱伝導性材料を含む軟質樹脂発泡体からなる熱伝導性シートの熱伝導率が2.8W/m・Kのものも記載(段落【0034】の表1を参照)されている。
したがって、高い熱伝導性を確保しつつも、引用発明の熱伝導性シートに代えて、引用例2に記載のゴム系発泡シートを採用し得るものであるといえ、請求人の上記主張を採用することはできない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-09-11 
結審通知日 2020-09-15 
審決日 2020-09-29 
出願番号 特願2015-190201(P2015-190201)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木下 直哉  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 須原 宏光
井上 信一
発明の名称 発泡複合シート、多層発泡複合シート、及びこれらの製造方法  
代理人 田口 昌浩  

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