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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1368535
審判番号 不服2018-13263  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-04 
確定日 2020-11-18 
事件の表示 特願2017- 46148「複心曲線ナビゲーションカテーテル」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月21日出願公開、特開2017-164495〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年 3月10日(パリ条約による優先権主張 2016年3月14日 米国)の出願であって、その手続の経緯は、概略以下のとおりである。
平成29年 5月 9日 :翻訳文の提出
平成30年 1月26日付け:拒絶理由通知
平成30年 5月 1日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 5月30日付け:拒絶査定
平成30年10月 4日 :審判請求、同時に手続補正書の提出
令和 1年10月25日付け:拒絶理由通知
令和 1年12月27日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正 書による手続補正を「本件補正」という。 )の提出

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「管腔構造内におけるナビゲーションのためのカテーテルアセンブリであって、
近位端に隣接する近位部分および遠位端に隣接する遠位部分を含む可撓性カテーテルであって、前記可撓性カテーテルは、長手軸に沿ってそれを通して延在する管腔を画定し、前記管腔は、前記近位端から前記遠位端への器具の並進を可能にするように構成されている、可撓性カテーテルと、
前記可撓性カテーテルの近位端に配置された制御ハンドルであって、前記可撓性カテーテルを管腔構造内で前進および回転させるように構成された制御ハンドルと、
前記可撓性カテーテルの遠位部分上に形成された複心曲線であって、前記複心曲線は、
前記可撓性カテーテルの遠位部分を前記長手軸から偏向させるエルボー屈曲部であって、前記エルボー屈曲部は、第1の曲率半径を有する第1の円弧である、エルボー屈曲部と、
前記エルボー屈曲部から延在し、前記遠位部分を中心点の周りで偏向させる半径方向湾曲部分であって、前記エルボー屈曲部は、前記半径方向湾曲部分を前記長手軸から離れて側方に突出させ、前記半径方向湾曲部分は、第2の曲率半径を有する第2の円弧であり、前記第2の曲率半径は、前記第1の曲率半径とは異なる、半径方向湾曲部分と
を含む、複心曲線と
を備え、
前記半径方向湾曲部分が前記管腔構造内の所望の場所に設置された場合に、前記エルボー屈曲部は、前記半径方向湾曲部分のためのアンカとして作用する、カテーテルアセンブリ。」

第3 拒絶の理由
令和1年10月25日付けで当審が通知した拒絶理由は、次の理由を含むものである。

本願発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2015-66331号公報
引用文献2:特開2015-85197号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審において付与した。

A「【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテル、特にガイディングカテーテルに関する。特に、本発明は、バックアップ性に優れる湾曲形状を有するカテーテル、特にガイディングカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、経皮的冠動脈形成術(PCI)において、ガイドワイヤやマイクロカテーテル、バルーンカテーテルなどの治療デバイスを冠動脈内に導く目的で、冠動脈用ガイディングカテーテルが使用されている。このガイディングカテーテルは、通常、本体と先端部と、本体と先端部の間に設けられた湾曲部を有している。湾曲部は、ガイディングカテーテルを冠動脈の血管形状に対応させるためのものであり、例えば、ジャドキンス型やアンプラッツ型など、数多くの形状のものが知られている。
【0003】
ガイディングカテーテルに要求される重要な性能の一つとして、バックアップ性(保持性、バックアップ力)がある。ガイディングカテーテルのバックアップ性は、ガイディングカテーテルの太さ、大動脈弓壁と当接する角度といった形状的な要素の他、大動脈弓壁での摩擦力にも依存する。強いバックアップ性を実現するには、大動脈弓における摩擦力は高い方が好ましい。一方で、近年より低侵襲な手技として、大腿動脈からカテーテルを挿入する手技に代わり、腕の動脈、特に上腕動脈や橈骨動脈からカテーテルを挿入する手技が広まりつつある。より細い血管内においてカテーテルをスムーズに移動させるためには、デバイス表面の良好な潤滑性(表面潤滑性)が要求される。また、ガイディングカテーテルの操作時において、ガイディングカテーテルを冠動脈内に比較的深く挿入する手技(ディープエンゲージ)がしばしば行われるが、ガイディングカテーテル先端が冠動脈を傷つける虞が高くなるため、特に慎重な操作が求められている。このためガイディングカテーテル先端部は良好な潤滑性を有していることが好ましい。」

B「【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されるガイディングカテーテルのように、外表面を親水性潤滑物質で被覆した場合には、大動脈弓壁に対する摩擦力も低減してしまうため、強いバックアップ性は期待できなくなるという課題があった。特に、冠動脈等の心臓の拍動が伝達する生体管腔壁に留置する際には、バックアップ性が低下し、心臓の拍動によりデバイスが意図せぬ方向に動いてしまう可能性がある。
【0007】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、処置対象までのスムーズな送達を確保しつつ、良好なバックアップ性を達成できるカテーテルを提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、操作性および/または安全性の高いカテーテル、特にガイディングカテーテルを提供することである。」

C「【0015】
これに対して、本発明のカテーテルでは、生体管腔内に留置された際に生体管腔壁と接触する湾曲部の外側にある外側湾曲表面に、低潤滑部が設置される。このため、所定の生体管腔(例えば、血管)内の位置にカテーテルを留置した際に、当該低潤滑部が生体管腔壁と接触する。この際、当該低潤滑部の潤滑性は低いため、カテーテルは当該接触部でのカテーテルと生体管腔壁との高い摩擦力(即ち、高いバックアップ性)によって、そのままの位置に有効に保持されうる。一方、カテーテルを生体管腔内に挿入する場合には、外表面を被覆する表面潤滑性層の存在により、スムーズに所望の位置にまでカテーテルを導入できる。したがって、本発明のカテーテルを使用することによって、所望の位置までの導入時の操作性は良好に保ちつつ、所望の位置への留置性(バックアップ性)を向上できる。」

D「【0018】
[カテーテル]
本発明のカテーテルは、いずれの用途に使用されてもよいが、使用される際に生体内腔内に導入され、かつ、導入後に生体内腔壁と接触して少なくとも一時的に留置して用いられることが好ましい。具体的には、IVHカテーテル、サーモダイリューションカテーテル、血管造影用カテーテル、血管拡張用カテーテル(例えば、PCTAカテーテル)、ステント付きカテーテル、ガイディングカテーテル、マイクロカテーテル等の血管内に挿入ないし留置されるカテーテル類;胃管カテーテル、栄養カテーテル、;酸素カテーテル、気管内吸引カテーテル、等の経口または経鼻的に気道ないし気管内に挿入ないし留置されるカテーテル類;尿道カテーテル、導尿カテーテル、尿道バルーンカテーテル、等の尿道ないし尿管内に挿入ないし留置されるカテーテル類;吸引カテーテル、排液カテーテル、直腸カテーテル等の各種体腔、臓器、組織内に挿入ないし留置されるカテーテル類などが挙げられる。これらのうち、バックアップ性に対する要求が高いという面では、ガイディングカテーテル、特に血管(例えば、頭部、腹部、心臓の血管)等の生体管腔内で使用されるガイディングカテーテルであることが好ましい。
【0019】
以下では、本発明の好ましい形態であるガイディングカテーテルを例にとって、本発明を詳細に説明するが、本発明は下記に限定されるものではなく、他の生体管腔に導入・留置されるカテーテルに対しても同様にしてまたは適宜修飾して適用できる。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るカテーテル(ガイディングカテーテル)の概略図である。なお、図1に示されるカテーテルは、生体管腔に導入される前の自然状態(外力を加えない状態;以下、同様。)のカテーテルである。図1に示されるように、本発明に係るガイディングカテーテル1は、カテーテル本体部2およびハブ9を有する。また、カテーテル本体部2は、先端部3、本体部2’、および先端部3と本体部2’との間に設けられた湾曲部6から構成されている。
【0021】
先端部3は、湾曲部6から延伸された部分であり、従来公知の種々の構造を採用することができる。例えば、先端部3は、ループ状に湾曲した形状でもよいし、略直線状であってもよく、また、先端部3には、洗浄、吸引、照明、撮像等の機能を付与するための部材が取り付けられていてもよい。
【0022】
本体部2’は、カテーテル本体部2において湾曲部6とハブ9を繋ぐ部分であり、後述される湾曲部6を含まない領域である。
【0023】
湾曲部6は、カテーテル本体部2において先端部3及び本体部2’の間にあり、湾曲部の内側にある内側湾曲表面及び湾曲部の外側にある外側湾曲表面を有する。ここで、「湾曲部」とは、自然状態において、曲率半径(アール)が100mm以下の湾曲を有する部分を意味し、好ましくは曲率半径(アール)が5?100mmの湾曲を有する部分である。また、「湾曲部の内側にある内側湾曲表面」とは、湾曲部の断面において、湾曲した側(内側)の半円に対応するカテーテル本体部の表面の一部または全部を意味する。同様にして、「湾曲部の外側にある外側湾曲表面」とは、伸長した側(外側)の半円に対応するカテーテル本体部の表面の一部または全部を意味する。
【0024】
また、図1において、湾曲部6は、先端部3側の第1湾曲領域4、基端側の第2湾曲領域4’及び前記第1湾曲領域4と前記第2湾曲領域4’との間に設けられた第1中間領域5を有する。第1湾曲領域4及び第2湾曲領域4’は、同方向に湾曲した状態で設けられている。また、カテーテル本体部2の基端部には、治療用デバイス(例えば、PTCAカテーテル)や造影剤等を注入するための注入口としてのハブ9が形成されている。」

E「【0027】
カテーテル本体部2の少なくとも一部の外表面は、表面潤滑性層(図示せず)で被覆されている。このように表面潤滑性層が存在することによって、体液や血液などの水系液体中で潤滑性を発揮して、カテーテルを容易に生体管腔内に挿入できるなど、操作性を向上できる。また、表面潤滑性層による被覆により、カテーテルの導入操作中の組織粘膜の損傷を低減できる。ここで、本発明は、カテーテルを構成する基材(カテーテル本体部)の表面の一部あるいは全部が表面潤滑性を有する形態双方を包含する。カテーテルは、全ての表面(表面全体)が潤滑性を有する必要はないが、少なくとも体液や血液と接触する表面部分(一部の場合もあれば全部の場合もある)に表面潤滑性層が形成されることが好ましい。このため、表面潤滑性層は、例えば、カテーテルの基端部側には形成されなくてもよい。また、カテーテル本体部の外表面に加えて、カテーテルの内腔(ルーメンの内壁)に表面潤滑性層が形成されてもよい。なお、カテーテルが複数のルーメンを有する場合には、すべてのルーメン内腔に表面潤滑性層が設けられてもあるいは一部のルーメン内腔に表面潤滑性層が設けられてもよい。また、カテーテルの内腔(ルーメンの内壁)全面に表面潤滑性層が設けられる必要はなく、一部のみに表面潤滑性層が設けられてもよい。
【0028】
外側湾曲表面の少なくとも一部には、低潤滑部が設けられる。低潤滑部は、カテーテル本体部2の外表面に形成される表面潤滑性層よりも潤滑性の低い部分であり、生体管腔内に留置された際に生体管腔壁と接触するカテーテル本体部の外側湾曲表面に設置される。ここで、低潤滑部のバックアップ性を考慮すると、低潤滑部の摩擦係数は、好ましくは0.3?4、より好ましくは0.5?3である。これにより、所定の生体管腔(例えば、血管)内の所定の位置にカテーテルを留置した際に高いバックアップ性を発揮して、カテーテルを所定の位置にしっかりと保持することができる。本明細書において、「摩擦係数」は、下記方法によって測定された値である。」

F「【0030】
低潤滑部の外側湾曲表面上での形成位置は、特に制限されず、カテーテルの形状、導入位置、留置位置などによって異なる。例えば、図1のカテーテルを冠動脈の狭窄部に適用するための経皮経管的冠状動脈形成術(PTCA)カテーテル用のガイディングカテーテルとして使用する場合には、以下のような形態が挙げられる。すなわち、例えば、図3に示されるように、ガイディングカテーテル1を大腿動脈(図示せず)から大動脈弓14にまで挿入し、先端部3を左冠動脈12に係合させる場合には、第2湾曲領域4’の外側湾曲表面が、対側の大動脈弓壁と接触する。このため、第2湾曲領域4’の外側湾曲表面に低潤滑部7が設けられることが好ましい。また、例えば、図4に示されるように、ガイディングカテーテル1を右橈骨動脈(図示せず)から大動脈弓14にまで挿入し、先端部3を右冠動脈15に係合させる場合にも、第2湾曲領域4’の外側湾曲表面が、対側の大動脈弓壁と接触する。このため、第2湾曲領域4’の外側湾曲表面に低潤滑部7が設けられることが好ましい。」

G「【0032】
上述したように、低潤滑部は、湾曲領域および/または中間領域の外側湾曲表面に設けられることが好ましい。すなわち、湾曲部は、2つの湾曲領域及び前記2つの湾曲領域間に設けられた中間領域を有し、前記2つの湾曲領域は同方向に湾曲しており、前記低潤滑部は、前記2つの湾曲領域および前記中間領域から選択される少なくとも1つの領域の外側湾曲表面に設けられることが好ましい。
【0033】
低潤滑部の設置長さ(図4中の長さ「H」)は、所望のバックアップ性を達成できる限り、特に制限されない。低潤滑部の設置長さ(図4中の長さ「H」)は、生体管腔内に留置された際の生体管腔壁との接触長さに対して、0.5?10倍であることが好ましく、1?5倍であることがより好ましい。または、低潤滑部の設置長さ(図4中の長さ「H」)は、5?200mmであることが好ましく、10?100mmであることがより好ましい。このような設置長さであれば、生体管腔内に留置された際に低潤滑部がより効率よくかつより確実に生体管腔壁と接触するため、より高いバックアップ性が達成できる。なお、生体管腔内に留置された際の生体管腔壁との接触長さは、カテーテルの形状や留置する生体管腔部位の種類などに応じて当業者(医師や医療用具製造会社)であればおおよそ予想でき、当業者(医師や医療用具製造会社)が予想できる最大の長さを意味する。例えば、生体管腔内に留置された際の生体管腔壁との接触長さは、通常、5?250mmであり、10?200mmであることが好ましい。また、特に経皮経管的冠状動脈形成術(PTCA)カテーテル用のガイディングカテーテルとして大動脈弓に挿入し、カテーテル先端部を左または右冠動脈に係合する場合には、生体管腔内に留置された際の生体管腔壁との接触長さは、通常、5?100mmであり、10?50mmであることが好ましい。」

H「【0086】
実施例3
6Fr.のジャドキンス型ガイディングカテーテル(HeartrailII、JL-3.5、6Fr.テルモ社製、図1と同形状)(先端部長5mm、第1湾曲領域曲率半径5mm、第1中間領域長20mm、第2湾曲領域曲率半径10mm、全長1000mm)に対し、先端側400mmを4.5重量%のジメチルアクリルアミド-グリシジルメタクリレートブロック共重合体(ジメチルアクリルアミド:グリシジルメタクリレート=38:1)を含むN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液に浸漬し、15mm/秒の速度で引き上げディップコートした。その後、110℃で3時間加熱処理して、チューブ表面に厚さ(未膨潤時の厚さ)が3μmの表面潤滑性層を形成した。
【0087】
その後、第2湾曲領域の外側25mm長、幅1.5mmの領域以外をマスクし、実施例1と同様の紫外線照射装置を用いて紫外線を600秒間照射して、低潤滑部を形成した。上記操作の後マスクを取り外し、外表面に表面潤滑性層を有し、第2湾曲領域の外側湾曲表面に低潤滑部を有するガイディングカテーテル1を得た。尚、紫外光を照射していない領域の表面潤滑性層の摩擦係数及び紫外光を照射した領域(低潤滑部)の摩擦係数を上述の摩擦係数の測定方法に従って評価したところ、それぞれ0.055、及び2.5であった。
【0088】
得られたガイディングカテーテル1にガイドワイヤ(ラジフォーカスガイドワイヤM、直径0.89mm、テルモ社製)を挿入した。その状態でガイディングカテーテル1をヒトの血管形状を模したシリコーン製血管モデルの大腿動脈部位より挿入し、ガイディングカテーテル1の先端部位を左冠動脈入口に係合させた。この際、第2湾曲領域の外側湾曲表面が、対側の大動脈弓壁と接触した。ここまでのガイディングカテーテル1の操作は抵抗感が少なく、容易に操作することが可能であった。
【0089】
その後、ガイドワイヤを左冠動脈に挿入していき、ガイドワイヤを前後に動かす操作を繰り返したところ、ガイディングカテーテル1の係合は容易に外れることなく、良好なバックアップ性を示した。」

I「図1



J「図4



K 摘記事項Dの「カテーテル本体部2は、先端部3、本体部2’、および先端部3と本体部2’との間に設けられた湾曲部6から構成されている。」(【0020】)、「カテーテル本体部2の基端部には、治療用デバイス(例えば、PTCAカテーテル)や造影剤等を注入するための注入口としてのハブ9が形成されている。」(【0024】)の記載を踏まえつつ摘記事項Iの「図1」を参照すると、カテーテル本体部2は、基端に隣接する基端近傍部分および先端に隣接する先端近傍部分を含み、先端近傍部分に湾曲部6及び先端部3が設けられているものと看て取れる。

L 摘記事項Iの「図1」から、カテーテル本体部2(本体部2’)は長手方向の軸を有していることが看て取れる。
また、摘記事項Eの「カテーテルの内腔(ルーメンの内壁)に表面潤滑性層が形成されてもよい。なお、カテーテルが複数のルーメンを有する場合には、すべてのルーメン内腔に表面潤滑性層が設けられてもあるいは一部のルーメン内腔に表面潤滑性層が設けられてもよい。」(【0027】)の記載から、カテーテル本体部2は、ルーメンを有し、当然当該ルーメンは、カテーテル本体部2(本体部2’)の長手方向の軸に沿って、それを通して延在していると認められる。
さらに、摘記事項Dの「カテーテル本体部2の基端部には、治療用デバイス(例えば、PTCAカテーテル)や造影剤等を注入するための注入口としてのハブ9が形成されている。」(【0024】)の記載、及び、摘記事項Hの「得られたガイディングカテーテル1にガイドワイヤ(ラジフォーカスガイドワイヤM、直径0.89mm、テルモ社製)を挿入した。」(【0088】)、「ガイドワイヤを左冠動脈に挿入していき、ガイドワイヤを前後に動かす操作を繰り返した」(【0089】)の記載から、カテーテル本体部2の基端から注入される治療用デバイスも、ガイドワイヤ同様カテーテル本体部2の先端から体内器官に挿入され、前後に動かせると認められるから、カテーテル本体部2のルーメンは、基端から先端へのデバイスの前後動を可能にするように構成されていると認められる。

M 摘記事項Dの「図1において、湾曲部6は、先端部3側の第1湾曲領域4、基端側の第2湾曲領域4’及び前記第1湾曲領域4と前記第2湾曲領域4’との間に設けられた第1中間領域5を有する。」(【0024】)の記載を踏まえつつ、摘記事項Iの「図1」を参照すると、第2湾曲領域4’及び第1中間領域5は、カテーテル本体部2の先端近傍部分をカテーテル本体部2(本体部2’)の長手方向の軸から湾曲させ、長手方向の軸から異なる方向へ延在させて、第1湾曲領域4を前記長手方向の軸から離れて側方に突出させるものと看て取れる。

N 摘記事項Dの「図1において、湾曲部6は、先端部3側の第1湾曲領域4、基端側の第2湾曲領域4’及び前記第1湾曲領域4と前記第2湾曲領域4’との間に設けられた第1中間領域5を有する。」(【0024】)、摘記事項Hの「第1湾曲領域曲率半径5mm」(【0086】)の記載を踏まえつつ、摘記事項Iの「図1」を参照すると、第1湾曲領域4は、先端近傍部分を5mmの曲率半径で湾曲させるものと看て取れる。

(2)上記(1)の記載、及び、認定事項から、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「生体管腔内で使用されるガイディングカテーテル1であって、
基端に隣接する基端近傍部分および先端に隣接する先端近傍部分を含むカテーテル本体部2であって、前記カテーテル本体部2は、長手方向の軸に沿ってそれを通して延在するルーメンを有し、前記ルーメンが、前記基端から前記先端への治療用デバイスの前後動を可能にするように構成されている、カテーテル本体部2と、
前記カテーテル本体部2の先端近傍部分に設けられた湾曲部6であって、前記湾曲部6は、
前記カテーテル本体部2の先端近傍部分を前記長手方向の軸から湾曲させて、前記長手方向の軸から異なる方向へ延在させる第2湾曲領域4’及び第1中間領域5であって、前記第2湾曲領域4’及び第1中間領域5の第2湾曲領域4’は、10mmの曲率半径を有する第2湾曲領域4’及び第1中間領域5と、
前記第2湾曲領域4’との間に前記第1中間領域5を有し、前記先端近傍部分を5mmの曲率半径で湾曲させる第1湾曲領域4であって、前記第2湾曲領域4’及び第1中間領域5は、前記第1湾曲領域4を前記長手方向の軸から離れて側方に突出させる、第1湾曲領域4と、
を含む、湾曲部6と、
を備え、
生体管腔内の所定の位置にカテーテルが留置された際に、前記第2湾曲領域4’及び第1中間領域5の第2湾曲領域4’は、生体管腔壁と接触してカテーテルを所定の位置にしっかりと保持することができる、ガイディングカテーテル1。」

2 引用文献2
(1)引用文献2には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審において付与した。

A「【請求項1】
カテーテルガイド組立体であって、
近位端に隣接する近位部および遠位端に隣接する遠位部を含む拡張作業チャネルであって、前記拡張作業チャネルは、それを通じて器具の移動を可能にするように構成された内腔を有し、前記拡張作業チャネルは、前記遠位部上に形成される半径を画定し、前記拡張作業チャネルの遠位部は、器具がそれを通じて移動する際に前記遠位部の撓みを制限するのに十分なデュロメータ定格を有する材料で形成されている、拡張作業チャネルと、
前記拡張作業チャネルの近位端に配置され、かつ前記拡張作業チャネルに操作可能に接続され、それにより、前記拡張作業チャネルが前進および回転することを可能にする制御ハンドルと、
を備える、カテーテルガイド組立体。」

B「【0058】
カテーテルガイド組立体70は、拡張作業チャネル80に操作可能に接続された、制御ハンドル90、取手92および伸縮自在シャフト94を含む。取手92を回転させ、伸縮自在シャフト94を移動させることにより、使用者は、片手で、拡張作業チャネル80を標的組織68まで導くことができる。制御ハンドル90のこれらの移動により、使用者は、拡張作業チャネル80を、患者「P」の気道などの管腔網の蛇行した経路を通して誘導し、各分岐点において拡張作業チャネル80の進行を導くことができる。」

(2)上記(1)から、引用文献2には、以下の技術が記載されていると認められる。
「カテーテルガイド組立体70であって、
使用者が、片手で拡張作業チャネル80を標的組織68まで導くことができるために、
拡張作業チャネル80の近位端に配置された制御ハンドル90であって、前記拡張作業チャネル80を前進および回転することを可能にする制御ハンドル
を備えた、カテーテルガイド組立体70。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「生体管腔」は、その文言の意味、機能又は構成等からみて、本願発明の「管腔構造」に相当する。以下同様に、「ガイディングカテーテル1」は「ナビゲーションのためのカテーテルアセンブリ」及び「カテーテルアセンブリ」に、「生体管腔内で使用されるガイディングカテーテル1」は「管腔構造内におけるナビゲーションのためのカテーテルアセンブリ」に、「基端」は「近位端」に、「基端近傍部分」は「近位部分」に、「先端」は「遠位端」に、「先端近傍部分」は「遠位部分」に、「カテーテル本体部2」は「可撓性カテーテル」に、「ルーメン」は「管腔」に、「カテーテル本体部2は、ルーメンを有し」は「可撓性カテーテルは、長手軸に沿ってそれを通して延在する管腔を画定し」に、「治療用デバイス」は「器具」に、「ルーメンが、基端から先端への治療用デバイスの前後動を可能にする」は「管腔は、近位端から遠位端への器具の並進を可能にする」に、「先端近傍部分に設けられた」は「遠位部分上に形成された」に、「長手方向の軸」は「長手軸」に、それぞれ相当する。
引用発明の「前記カテーテル本体部2の先端近傍部分を前記長手方向の軸から湾曲させて、前記長手方向の軸から異なる方向へ延在させる第2湾曲領域4’及び第1中間領域5であって、前記第2湾曲領域4’及び第1中間領域5の第2湾曲領域4’は、10mmの曲率半径を有する第2湾曲領域4’及び第1中間領域5」に関し、第1中間領域5自体は湾曲しているか否か定かでないものの、第1中間領域5も「湾曲部6」の一部を成していることから、「第2湾曲領域4’及び第1中間領域5」は湾曲する部分といえる。さらに、「第2湾曲領域4’及び第1中間領域5」の「第2湾曲領域4’」は10mmの曲率半径を有する円弧であるといえる。そして、引用発明の「長手方向の軸から湾曲させて、前記長手方向の軸から異なる方向へ延在させる」は本願発明の「長手軸から偏向させる」に相当する。よって、引用発明の「第2湾曲領域4’及び第1中間領域5」は本願発明の「エルボー屈曲部」に相当し、以下同様に、「10mmの曲率半径」は「第1の曲率半径」に、「第2湾曲領域4’及び第1中間領域5の第2湾曲領域4’は、10mmの曲率半径を有する」は「エルボー屈曲部は、第1の曲率半径を有する第1の円弧である」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「第2湾曲領域4’との間に第1中間領域5を有し」は本願発明の「エルボー屈曲部から延在し」に相当し、引用発明の「先端近傍部分を5mmの曲率半径で湾曲させる第1湾曲領域4」は、5mmの曲率半径で湾曲させるとは、第1湾曲領域4が先端近傍部分を当該曲率の中心点の周りで偏向させるものといえることから、本願発明の「遠位部分を中心点の周りで偏向させる半径方向湾曲部分」に相当する。以下同様に、「第1湾曲領域4」は「半径方向湾曲部分」に、「5mmの曲率半径」は「第1の曲率半径とは異なる」「第2の曲率半径」に、「5mmの曲率半径で湾曲させる第1湾曲領域4」は「第2の曲率半径を有する第2の円弧」に、それぞれ相当する。
さらに、引用発明の「湾曲部6」は10mm及び5mmの曲率半径の箇所を有しているから、本願発明の「複心曲線」に相当し、以下同様に、「所定の位置」は「所望の場所」に、「留置された際に」は「設置された場合に」に、「生体管腔内の所定の位置にカテーテルが留置された際に」は「半径方向湾曲部分が管腔構造内の所望の場所に設置された場合に」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明の「第2湾曲領域4’及び第1中間領域5の第2湾曲領域4’は、生体管腔壁と接触してカテーテルを所定の位置にしっかりと保持することができる」は、第2湾曲領域4’及び第1中間領域5の第2湾曲領域4’がカテーテルをしっかりと保持することにより、第1中間領域5より先端側の第1湾曲領域4のための原点(アンカ点)として作用できるといえ、さらにいえば、引用文献1には、「第2湾曲領域4’及び第1中間領域5」の「第1中間領域5」にも生体管腔壁と接触してカテーテルを所定の位置にしっかりと保持するための「低潤滑部」を設けられることが記載されている(【0032】)。よって、引用発明の「第2湾曲領域4’及び第1中間領域5の第2湾曲領域4’は、生体管腔壁と接触してカテーテルを所定の位置にしっかりと保持することができる」は、本願発明の「エルボー屈曲部は、半径方向湾曲部分のためのアンカとして作用する」に相当する。

してみると、本願発明と引用発明とは、以下の点において一致する。
「管腔構造内におけるナビゲーションのためのカテーテルアセンブリであって、
近位端に隣接する近位部分および遠位端に隣接する遠位部分を含む可撓性カテーテルであって、前記可撓性カテーテルは、長手軸に沿ってそれを通して延在する管腔を画定し、前記管腔は、前記近位端から前記遠位端への器具の並進を可能にするように構成されている、可撓性カテーテルと、
前記可撓性カテーテルの遠位部分上に形成された複心曲線であって、前記複心曲線は、
前記可撓性カテーテルの遠位部分を前記長手軸から偏向させるエルボー屈曲部であって、前記エルボー屈曲部は、第1の曲率半径を有する第1の円弧である、エルボー屈曲部と、
前記エルボー屈曲部から延在し、前記遠位部分を中心点の周りで偏向させる半径方向湾曲部分であって、前記エルボー屈曲部は、前記半径方向湾曲部分を前記長手軸から離れて側方に突出させ、前記半径方向湾曲部分は、第2の曲率半径を有する第2の円弧であり、前記第2の曲率半径は、前記第1の曲率半径とは異なる、半径方向湾曲部分と
を含む、複心曲線と
を備え、
前記半径方向湾曲部分が前記管腔構造内の所望の場所に設置された場合に、前記エルボー屈曲部は、前記半径方向湾曲部分のためのアンカとして作用する、カテーテルアセンブリ。」

そして、本願発明と引用発明とは、以下の点において相違する。

[相違点1]
本願発明は、「可撓性カテーテルの近位端に配置された制御ハンドルであって、前記可撓性カテーテルを管腔構造内で前進および回転させるように構成された制御ハンドル」を備えているのに対し、引用発明は、そのようなものを備えているか不明である点。

第6 判断
上記相違点1について、検討する。
上記第4 2(2)のとおり、引用文献2には、以下の技術が記載されている。
「カテーテルガイド組立体70であって、
使用者が、片手で拡張作業チャネル80を標的組織68まで導くことができるために、
拡張作業チャネル80の近位端に配置された制御ハンドル90であって、前記拡張作業チャネル80を前進および回転することを可能にする制御ハンドル
を備えた、カテーテルガイド組立体70。」
そして、上記第4 1(1)の摘記事項Bのとおり、引用文献1には、「本発明の他の目的は、操作性および/または安全性の高いカテーテル、特にガイディングカテーテルを提供することである」(【0008】)と記載されているから、引用発明は、操作性の高いカテーテルの提供という課題を有している。
引用発明と引用文献2記載の技術とは、ガイドカテーテルという技術分野が関連し、操作性の高いカテーテルの提供という課題が共通する。よって、引用発明に引用文献2記載の技術を採用する動機付けは存在し、その採用により、上記相違点1に係る本願発明の構成を得るようにすることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載の技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-06-15 
結審通知日 2020-06-16 
審決日 2020-07-06 
出願番号 特願2017-46148(P2017-46148)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61B)
P 1 8・ 121- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 利充  
特許庁審判長 芦原 康裕
特許庁審判官 井上 哲男
倉橋 紀夫
発明の名称 複心曲線ナビゲーションカテーテル  
代理人 大塩 竹志  

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