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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C01F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C01F
管理番号 1368612
審判番号 不服2019-13733  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-15 
確定日 2020-12-15 
事件の表示 特願2015-106565「酸化イットリウム膜の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月22日出願公開、特開2016-216332、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年 5月26日の出願であって、平成30年 5月25日付けで手続補正書及び上申書が提出され、同年11月26日付けで拒絶理由通知がされ、平成31年 4月 2日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和 1年 7月 5日付けで拒絶査定(以下、原査定という)がされ、これに対し、同年10月15日付けで拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要

原査定の概要は次の通りである。

理由1(サポート要件)
平成31年 4月 2日付け手続補正書により補正された請求項1、2、4-8に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものでないから、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2(進歩性)
平成31年 4月 2日付け手続補正書により補正された請求項1-8に係る発明は、以下の引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.龍田宗孝、ミスト法による高誘電率酸化イットリウム薄膜の作製、2014年度高知工科大学環境理工学群卒業論文要旨、2015.03発行
2.ALARCON-FLORES. G. et al.、Optical and structural characteristics of Y_(2)O_(3) thin films synthesized from yttrium acetylacetonate、J. Mater. Sci.、2008発行、vol. 43、p. 3582-3588

第3 本願発明

本願の請求項1?7に係る発明は、令和 1年10月15日付けで提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次のとおりのものであると認める。

「 【請求項1】
イットリウムを含む金属ハロゲン化物または有機金属錯体の原料溶液を霧化または液滴化し、得られたミストまたは液滴を、不活性ガスであるキャリアガスで成膜室内に設置されている基体まで搬送し、ついで前記ミストまたは液滴を熱反応させて前記基体上に酸化イットリウム膜を膜厚が1μm以上になるまで成膜することを特徴とする酸化イットリウム膜の製造方法。
【請求項2】
原料溶液が有機金属錯体を含む請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
有機金属錯体がイットリウムアセチルアセトナート錯体である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
原料溶液の溶媒がアルコールと水との混合溶媒である請求項1?3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
アルコールが低級アルコールである請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
アルコールが混合溶媒中に1?10モル%含まれている請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
熱反応を、400℃?600℃の温度範囲内にて行う請求項1?6のいずれかに記載の製造方法。」

なお、当審決において、本願の請求項1乃至7に係る発明のうちいずれか一つ又は複数の発明を、単に「本願発明」ということがある。

第4 当審の判断

1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について

(1)発明の詳細な説明の記載事項
本願明細書の発明の詳細な説明には、下記の事項が記載されている。(下線は当審が付加した。「…」は当審による省略を表す。以下同様。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、耐プラズマ性部材または耐食性部材に有用な酸化イットリウム膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
…【0003】…
エアロゾルデポジション法では、複雑な装置や工程が必要であり、多大な手間や時間が必要であった。
【0004】
また特許文献3には大気開放型CVD法を用いて酸化イットリウム膜を成膜することが記載されている。…後処理に大型の設備や複雑な工程が必要になったりして、簡便な酸化イットリウム膜の成膜方法が待ち望まれていた。」

イ 「【0006】
本発明は、結晶性酸化イットリウムを含む酸化イットリウム膜を工業的有利に製造することができる製造方法を提供することを目的とする。」

ウ 「【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定の条件下でミストCVD法を用いて酸化イットリウム膜を成膜すると、良質な酸化イットリウム膜が簡便に得られることを見出した。また本発明者らは、このような製造方法が上記従来の問題を一挙に解決できるものであることを知見した。」

エ 「【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、結晶性酸化イットリウムを含む酸化イットリウム膜を工業的有利に製造することができる。」

オ 「【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の酸化イットリウム膜の製造方法は、イットリウムを含む金属ハロゲン化物または有機金属錯体の原料溶液を霧化または液滴化し(霧化・液滴化工程)、得られたミストまたは液滴をキャリアガスで成膜室内に設置されている基体まで搬送し(搬送工程)、ついで前記ミストまたは液滴を熱反応させて前記基体上に酸化イットリウム膜を成膜する(成膜工程)ことを特徴とする。

カ 「【0012】
原料溶液は、イットリウムを含む金属ハロゲン化物または有機金属錯体の原料溶液であれば特に限定されない。例えば、イットリウムの有機金属錯体(例えばアセチルアセトナート錯体等)やハロゲン化物(例えばフッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物等)の水溶液などが挙げられる。本発明においては、前記原料溶液が有機金属錯体を含むのが好ましく、イットリウムアセチルアセトナート錯体であることがより好ましい。」

キ 「【0017】(搬送工程)
搬送工程では、キャリアガスでもって前記ミストまたは前記液滴を成膜室内に搬送する。前記キャリアガスとしては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが好適な例として挙げられる。本発明においては、前記キャリアガスが不活性ガスであるのが好ましい。」

ク 「【0018】
(成膜工程)
成膜工程では、成膜室内で前記ミストまたは液滴を熱反応させることによって、前記基体上に前記酸化イットリウム膜を成膜する。熱反応は、熱でもって前記ミストまたは前記液滴が反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本工程においては、前記熱反応を、通常、溶媒の蒸発温度以上の温度で行うが、高すぎない温度(例えば1000℃)以下が好ましく、600℃以下がより好ましく、400℃?600℃が最も好ましい。また、熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、大気圧下で行われるのが好ましい。なお、膜厚は、成膜時間を調整することにより、1μm以上に設定することができる。」

ケ 「 【0027】
(実施例1)

【0028】
2.原料溶液の作製
水とメタノールとの混合溶媒(水:メタノール=5:95(体積比))に、イットリウムアセチルアセトナートを0.05モル/Lの濃度となるように混合して原料溶液を調整した。
【0029】
3.成膜準備
上記2.で得られた原料溶液4aをミスト発生源4内に収容した。次に、基板10として、サファイア基板、ガラス基板およびシリコン基板をそれぞれホットプレート8上に設置し、ホットプレート8を作動させて成膜室7内の温度を500℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁3a、3bを開いて、キャリアガス源であるキャリアガス供給手段2a、2bからキャリアガスを成膜室7内に供給し、成膜室7の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を5.0L/分に、キャリアガス(希釈)の流量を0.5L/分にそれぞれ調節した。なお、キャリアガスとして窒素を用いた。
【0030】
4.酸化イットリウム膜の形成
次に、超音波振動子6を2.4MHzで振動させ、その振動を、水5aを通じて原料溶液4aに伝播させることによって、原料溶液4aを霧化させてミスト4bを生成させた。このミスト4bが、キャリアガスによって、供給管9内を通って、成膜室7内に導入され、大気圧下、500℃にて、成膜室7内でミストが熱反応して、基板10上に酸化イットリウム膜が形成された。なお、膜厚は1.1μmであり、成膜時間は30分間であった。
【0031】
5.評価
上記4.にて得られた酸化イットリウム膜は、透明な連続膜であり、単層膜であった。また、X線回折装置を用いて膜の同定を実施したところ、得られた膜はいずれもY_(2)O_(3)膜であった。また、機械的に基板から剥離しようとしても全く剥離せず、良好な密着性を有していた。また、得られた酸化イットリウム膜の光透過率を測定したところ、図2の通り、波長350nm?800nmにおける光透過率が90%以上であった。また、原子間力顕微鏡(AFM)にて膜表面を観察したところ、図3の通り、サファイア基板上に形成された酸化イットリウム膜の10μm角における自乗平均粗さ(RMS)が27.38nmであった。また、図4の通り、ガラス基板上に形成された酸化イットリウム膜の1μm角における自乗平均粗さ(RMS)が46.02nmであった。また、図5の通り、シリコン基板上に形成された酸化イットリウム膜の10μm角における自乗平均粗さ(RMS)が34.83nmであった。」

コ 「【0032】
(実施例2)
成膜時間を100分間としたこと以外は、実施例1と同様にして透明な酸化イットリウム膜を得た。得られた膜が酸化イットリウム膜であることは上記実施例1と同様にして確認した。得られた酸化イットリウム膜の膜厚は、4.6μmであった。
【0033】
(実施例3)
キャリアガスの流量を3.0L/分としたこと、及び成膜時間を140分間としたこと以外は、実施例1と同様にして透明な酸化イットリウム膜を得た。得られた膜が酸化イットリウム膜であることは上記実施例1と同様にして確認した。また、得られた酸化イットリウム膜の膜厚は、4.1μmであった。
【0034】
(実施例4)
成膜条件を500℃30分および400℃30分としたこと以外は、実施例1と同様にして透明な酸化イットリウム膜を得た。得られた膜が酸化イットリウム膜であることは上記実施例1と同様にして確認した。また、得られた酸化イットリウム膜の膜厚は、1.7μmであった。
【0035】
(実施例5)
成膜温度を400℃とし、成膜時間を60分としたこと以外は、実施例1と同様にして透明な酸化イットリウム膜を得た。得られた膜が酸化イットリウム膜であることは上記実施例1と同様にして確認した。また、得られた酸化イットリウム膜の膜厚は、1.7μmであった。」

サ 「【0037】
実施例からわかる通り、本発明の酸化イットリウム膜は、いずれも膜厚が1μm以上であり、透明性も優れている。」

(2)本願発明の課題について
上記(1)イから、本願発明の課題は、「結晶性酸化イットリウムを含む酸化イットリウム膜を工業的有利に製造することができる製造方法を提供すること」であると認められる。

(3)サポート要件についての判断
(3-1)請求項1に係る発明について
ア 上記(1)ウ、オ、キ及びクに摘示されるように、本願明細書の発明の詳細な説明には、「イットリウムを含む金属ハロゲン化物または有機金属錯体の原料溶液を霧化または液滴化し、得られたミストまたは液滴を、不活性ガスであるキャリアガスで成膜室内に設置されている基体まで搬送し、ついで前記ミストまたは液滴を熱反応させて前記基体上に酸化イットリウム膜を膜厚が1μm以上になるまで成膜することを特徴とする酸化イットリウム膜の製造方法」という請求項1に記載の発明に係る製造方法により、良質な結晶性酸化イットリウム膜が簡便に得られるとの事項が記載されている。

イ また、上記(1)ケ?サに示されるように、上記アに示される事項は、請求項1に記載の発明に係る製造方法により実際に酸化イットリウム膜を製造したいくつかの実験結果により裏付けられている。

ウ ここで、請求項1に係る発明の個々の発明特定事項について検討するに、まず、原料溶液における「イットリウムを含む金属ハロゲン化物または有機金属錯体」については、イットリウムを含む有機金属錯体に該当する「イットリウムアセチルアセトナート」が、上記(1)カに示されるとおり好ましいものとして挙げられた化合物であるとともに、上記(1)ケ及びコに示されるように、実施例における実験において実際に用いられた化合物である。ここで、上記(1)クによれば、成膜室内で原料溶液のミストまたは液滴を熱反応させることによって、基体上に酸化イットリウム膜が成膜されるところ、金属ハロゲン化物や有機金属錯体を用いた成膜技術における技術常識を考慮すると、イットリウムアセチルアセトナートとは別の「イットリウムを含む金属ハロゲン化物または有機金属錯体」を用いることによっても、イットリウムアセチルアセトナートと同様の熱反応によって酸化イットリウム膜を成膜することができ、その際、イットリウムアセチルアセトナートと同様の熱反応により成膜を行っている以上、上記実施例と同様の作用機構により、良質な結晶性酸化イットリウム膜が簡便に得られる蓋然性が高いといえる。
また、「イットリウムを含む金属ハロゲン化物または有機金属錯体」以外の請求項1に係る発明の発明特定事項についても同様であり、実施例で用いられた具体的物質と異なる「原料溶液」や「不活性ガス」を用いたり、実施例と異なる熱反応温度を採用しても、技術常識を考慮すると、実施例と同様の作用機構により、良質な結晶性酸化イットリウム膜が簡便に得られる蓋然性が高いといえる。
よって、上記アに示される事項が実際には成り立たないと当業者が疑義を持つに至るといえる具体的な根拠は見あたらない。

エ 上記ア?ウのとおりであるから、発明の詳細な説明には、請求項1に係る発明により、良質な結晶性酸化イットリウム膜が簡便に得られるという事項が十分な裏付けとともに記載されている。
ここで、上記(1)ア、ウ及びエを参酌すると、請求項1に係る発明は、良質な結晶性酸化イットリウム膜が簡便に得られることにより、結晶性酸化イットリウムを含む酸化イットリウム膜を工業的有利に製造することができるものであると解される。してみれば、請求項1に係る発明は、当業者が本願発明の課題を解決することができるように記載されたものであるといえる。

(3-2)請求項2,4?7に係る発明について
請求項2,4?7に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項をすべて有する酸化イットリウム膜の製造方法の発明である。
そうすると、上記(3-1)と同様の検討により、請求項2,4?7に係る発明は、発明の詳細な説明において、当業者が本願発明の課題を解決することができるように記載されたものであるといえる。

(4)小括
以上のとおりであるから、原査定の理由1(サポート要件)を維持することはできない。

2 特許法第29条第2項(進歩性)について

引用文献等一覧

1.龍田宗孝、ミスト法による高誘電率酸化イットリウム薄膜の作製、2014年度高知工科大学環境理工学群卒業論文要旨、2015.03発行
2.ALARCON-FLORES. G. et al.、Optical and structural characteristics of Y_(2)O_(3) thin films synthesized from yttrium acetylacetonate、J. Mater. Sci.、2008発行、vol. 43、p. 3582-3588
3.特開2014-63973号公報
4.特開2014-72517号公報
5.特開2007-197296号公報
6.特開2004-75430号公報

(1)引用文献の記載事項及び引用発明

ア 引用文献1
(ア)本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、龍田宗孝、ミスト法による高誘電率酸化イットリウム薄膜の作製、2014年度高知工科大学環境理工学群卒業論文要旨、2015.03発行(以下、「引用文献1」という)には、次の記載がある。

a 「[実験方法]YO_(x)薄膜はメタノールと水の混合溶液にイットリウムアセチルアセトナートを溶解させた原料溶液をミスト化し、Si基板上で熱分解させることで形成した。また成膜基板温度を375?450℃まで変化させ、比誘電率と絶縁耐圧、屈折率を評価した。」

b 「[結果]非誘電率と屈折率の評価には膜厚200nmのYO_(x)を、絶縁耐圧の評価には膜厚50nmのYO_(x)を用いた。」

(イ)引用文献1に記載の技術的事項
上記(ア)から、引用文献1には、下記の技術的事項が記載されているものと認められる。

「水の混合溶液にイットリウムアセチルアセトナートを溶解させた原料溶液をミスト化し、成膜基板温度375?450℃でSi基板上で熱分解させることで、膜厚200nm又は50nmのYO_(x)薄膜を形成した。」

イ 引用文献2
(ア)本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、ALARCON-FLORES. G. et al.、Optical and structural characteristics of Y_(2)O_(3) thin films synthesized from yttrium acetylacetonate、J. Mater. Sci.、2008発行、vol. 43、p. 3582-3588(以下、「引用文献2」という)には、次の記載がある。

a 「Abstract Yttrium oxide thin films are deposited on silicon substrates using the ultrasonic spray pyrolysis technique from the thermal decomposition of a β-diketonate, yttrium acetylacetonate (Y(acac)_(3)).」(第3582頁左欄第1?4行)
(当審仮訳:概要 超音波スプレー熱分解法を用い、シリコン基板上に、βジケトネートであるイットリウムアセチルアセトナート(Y(acac)_(3))の熱分解による酸化イットリウムの堆積を行った。)

b 「Introduction
…Yttrium oxide (Y_(2)O_(3)), is considered an interesting material for different technological applications due to its unique properties such as a high melting point (2,410 ℃) [12], wide energy band gap (5.5 eV) [13], high resistivity of 10^(11)-10^(12) Ω-m, high dielectric strength, and high dielectric constant (up to 13) [9, 14]. Because of its transparency (in the ultraviolet and visible range of the electro magnetic spectrum), Y_(2)O_(3) is a prospective material to be used as antireflection and protective layer [15]. In addition, recent studies consider Y_(2)O_(3), as a good candidate to replace SiO_(2) in the microelectronic industry because of its high dielectric constant [16]. Furthermore, Y_(2)O_(3) has been studied as a host matrix to obtain high efficiency phosphors when doped with rare-earth elements [17].
In this work, we report the synthesis of Y_(2)O_(3) thin films by means of the ultrasonic spray pyrolysis technique from Y(acac)_(3) as source of yttrium. For this task, the study of the thermal decomposition of the latter reagent was carried out first by means of thermogravimetry, differential scanning calorimetry, mass and infrared spectroscopies. The information obtained by these studies led us to determine the deposition conditions for Y_(2)O_(3) thin films using the spray pyrolysis technique. Once the films were deposited they were physically characterized: the crystalline structure, the surface morphology, and some optical parameters were determined by X-ray diffraction, atomic force microscopy, infrared spectroscopy, and ellipsometry.」(第3582頁右欄第1行?第3583頁第16行)
(当審仮訳:イントロダクション
…酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))は、高い融点(2410℃)[12]、広いバンドギャップ(5.5eV)[13]、10^(11)-10^(12)Ω-mの高い抵抗率、高い絶縁耐力、及び(13に至るまでの)高い比誘電率といった、その特有の性質のために、異なる技術的応用のための興味深い材料として考えられている[9,14]。その(電磁スペクトルにおける紫外及び可視領域の)透明性のために、Y_(2)O_(3)は反射防止層及び保護層として用いられることが見込まれる材料である[15]。加えて、最近の研究において、Y_(2)O_(3)はその高い比誘電率のために、マイクロエレクトロニクス業界においてSiO_(2)を置換するための良い候補として考えられている[16]。さらに、Y_(2)O_(3)は、希土類元素でドープした際に高効率の蛍光体を得るためのホストマトリックスとして研究されてきた[17]。
本報告において、イットリウム源としてのY(acac)_(3)からの超音波スプレー熱分解法によるY_(2)O_(3)薄膜の形成を報告する。この報告のために、まず、熱質量分析、示差走査熱量分析、質量分析及び赤外スペクトル分析を用いて、後者の試料(当審注:Y(acac)_(3)のこと)の熱分解について研究した。これらの研究により得られた情報により、スプレー熱分解法によるY_(2)O_(3)薄膜の堆積条件を決定した。薄膜を堆積した後に物理的特性評価を行った。結晶評価、表面形状、いくつかの光学特性がX線回折、原子間力顕微鏡、赤外スペクトル及びエリプソメトリーにより決定された。)

c 「The Y_(2)O_(3) thin films were deposited with a 0.03 M solution of Y(acac)_(3) in N-N Dimetylformamide (NN-DMF). The deposition process was performed using the ultrasonic spray pyrolysis technique. In this technique a mist of the spraying solution is generated by means of ultrasonic vibrations. Figure 1 shows a diagram of the deposition set up. The mist is transported through a glass pipe to the heated substrate's surface where a thin solid film is obtained by means of a pyrolytic reaction. A commercial ultrasonic humidifier (operated at 0.8 MHz) was used for this purpose. The substrates were c-Si(100) and (111) wafers. The substrates were previously cleaned before being loaded into the deposition chamber [18]. The deposition substrate temperature was 400, 450, 500, and 550℃. Ultrapure air at 10 L/min was used as carrier gas. The index of refraction and thickness of the deposited films were measured by ellipsometry (Gaertner LSE stokes ellipsometer), at 632 nm. In general, the thickness of the Y_(2)O_(3) films was around 1,000 Å.」(第3583頁右欄第5?23行)
(当審仮訳:N-Nジメチルホルムアミド(NN-DMF)中のY(acac)_(3)の0.03M溶液を用いて、Y_(2)O_(3)薄膜を堆積した。堆積プロセスは超音波スプレー分解法を用いて行った。この方法において、超音波振動を用いてスプレー用溶液の霧を生成した。図1は堆積装置のダイアグラムを示す。ミストはガラス管を通して加熱した基板表面に搬送され、そこで熱分解反応により固体薄膜が得られる。市販の加湿器(0.8MHzで運転)をこの目的に用いた。基板はc-Si(100)及び(111)ウェハであった。基板は堆積チャンバに設置される前に清浄化された[18]。堆積基板の温度は400、450、500及び550℃であった。10L/分の高純度空気をキャリアガスとして用いた。堆積した薄膜の屈折率及び厚さは、632nmにおいてエリプソメトリー(Gaertner LSE stokesエリプソメーター)により測定した。一般的に、Y_(2)O_(3)膜の厚さは1,000Åであった。」

d 「The X-ray diffraction patterns of the films are shown in Fig. 10. It can be observed that as the deposition temperature is increased, the crystalline structure of the films is improved.」(第3587頁左欄第21?24行)
(当審仮訳:膜のX線回折パターンが図10に示される。堆積温度が高いほど、膜の結晶構造が向上することが観察できる。)

e 「Conclusions Thin films with good optical and structural characteristics were obtained with the spray pyrolysis technique from the decomposition of Y(acac)_(3).」(第3587頁右欄第1?4行)
(当審仮訳:結論 スプレー熱分解法を用いて、Y(acac)_(3)の分解により良好な光学的及び構造的特性を有する薄膜が得られた。)

(イ)引用文献2に記載の発明
上記(ア)a及びcから、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「イットリウムアセチルアセトナートのN-Nジメチルホルムアミド溶液を霧化し、得られたミストを、高純度空気であるキャリアガスで、堆積チャンバに設置されたシリコン基板まで搬送し、前記ミストを熱分解反応させて、前記基板上にY_(2)O_(3)薄膜を厚さ1,000Åになるまで堆積させる、Y_(2)O_(3)薄膜の製造方法。」

ウ 引用文献3
(ア)本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2014-63973号公報(以下、「引用文献3」という)には、次の記載がある。

a 「【0017】
本発明は、酸化亜鉛前駆体を含む原料溶液を霧化して発生したミストをキャリアガスによって基板上に搬送し、該基板上で熱化学反応させて酸化亜鉛層を形成するミスト化学気相成長法によって、表面の結晶面がa面又はm面であるサファイア基板上に酸化亜鉛を結晶成長させる酸化亜鉛結晶層の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称す場合がある。)に関する。」

b 「【0034】
<キャリアガス>
キャリアガスは、原料溶液を霧化して発生したミストをミストCVD装置の基板上に輸送するためのガスであり、酸化亜鉛前駆体及び溶媒の種類を勘案して適宜決定される。
キャリアガスとして具体的にはアルゴン等の不活性ガス、酸素、水蒸気等の酸化性ガス、窒素及びこれらのガスの混合ガスが用いられる。」

(イ)引用文献3に記載の技術的事項
上記(ア)によれば、引用文献3には、下記の技術的事項が記載されているものと認められる。

「酸化亜鉛前駆体を含む原料溶液を霧化して発生したミストを、アルゴン等の不活性ガス、酸素、水蒸気等の酸化性ガス、窒素及びこれらのガスの混合ガスであるキャリアガスにより基板上に搬送し、ミスト化学気相成長法により基板上に酸化亜鉛結晶層を成長させる。」

エ 引用文献4
(ア)本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2014-72517号公報(以下、「引用文献4」という)には、次の記載がある。

a 「【0006】
本発明は、コランダム型の結晶構造をもつ下地基板、半導体層および絶縁膜で形成されることを特徴とする半導体装置である。」

b 「【0022】
[半導体装置の製造方法、コランダム型結晶膜の成膜装置]
半導体装置の製造方法およびコランダム型結晶を成膜する際に使用する成膜装置10Aについて説明する。
【0023】
図6に示す成膜装置19はミストCVD装置であり、下記の構成を有している。すなわち、成膜装置19は、下地基板等の被成膜試料20と試料台21と、窒素源22、窒素源22から送り出される窒素の流量を調節するための流量調節弁23と、溶液24aが入れられたミスト発生源24と、水25aが入れられた容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、石英管あるいはステンレス等の金属、アルミナ等のセラミックスからなる成膜室27と、成膜室27の周辺部あるいは下部に設置されたヒータ28とを備えている。
【0024】
この成膜装置19を用いたコランダム型結晶膜の成膜においては、まず、ヒータ28によって成膜室27が所定温度(例えば、300?550℃)にまで昇温される。その後、下地基板等の被成膜試料20が成膜室27内の試料台21上に配置される。
【0025】
被成膜試料20の配置が完了すると、あらかじめ窒素源22から送られてきた窒素ガスによって成膜室内部の雰囲気が十分に置換され、その後、超音波振動子26の振動が開始される。超音波振動子26が所定周波数(例えば2.4MHz)で振動すると、その振動が水25aを介して溶液24aに伝播し、溶液24aからミストが発生する。発生したミストは、窒素源22から送られてきた窒素に押し出され、昇温後の成膜室27に導入される。
【0026】
成膜室27に導入されたミストは、高温により分解されながらコランダム型結晶膜を成膜すべき被成膜試料20の面に到達する。そして、被成膜試料20の表面においてCVD反応が起こり、コランダム型結晶膜が成膜される。その結果、ミストが到達した面の少なくとも一部分がコランダム型結晶膜によって覆われる。例えば、溶液24aが溶質としてのガリウムアセチルアセトナートと、溶媒としての超純水とからなる場合は、酸化ガリウム膜が成膜される。この他、成膜装置19では、下表に示すコランダム型結晶膜が成膜可能である。」

(イ)引用文献4に記載の技術的事項
上記(ア)から、引用文献4には、下記の技術的事項が記載されている。

「溶液からミストを発生させ、当該ミストを窒素により押し出して成膜室に導入し、当該ミストを高温により分解し、被成膜試料表面においてCVD反応させて被成膜試料の表面にコランダム型結晶膜を成膜する、コランダム型結晶膜を製造する。」

オ 引用文献5
(ア)本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2007-197296号公報(以下、「引用文献5」という)には、次の記載がある。

a 「【技術分野】
【0001】
本発明は金属酸化物微粒子の分散液およびその製造方法に関する。詳しくは粒子径が十分に小さく、均一かつ安定的に分散された金属酸化物微粒子の分散液およびその製造方法に関する。」

b 「【0009】
例えば、半導体のエッチングチャンバーでは、チャンバー内壁や内部の部材などが腐食性ガスのプラズマによるダメージに曝されることによるコンタミネーションが問題となっているが、本発明に係る金属酸化物分散液を用いれば、耐プラズマエロージョン性の高い酸化イットリウムの緻密な膜が容易に得られ、その緻密さから所定の性能を得るのに必要な膜厚が薄いことなどの利点がある。あるいは、液晶ディスプレイのバックライトに用いられる冷陰極管には紫外線の漏れを吸収するために酸化チタンや酸化亜鉛の膜が用いられているが、本発明に係る金属酸化物分散液を用いれば、その可視光透過率の高さから取り出される光のロスが少ないため効率を向上できる。」

c 「 【0058】
(実施例10)
実施例1で得られた4質量%のY_(2)O_(3)分散液を用いて、ディップコート法によって石英基板(寸法:幅50mm×長さ50mm×厚さ5mm)上にY_(2)O_(3)膜を形成した。ディップコーティング装置を用いて基板に塗布し(引き上げ速度:3cm/min)、空気雰囲気下室温で5分間乾燥して1-メトキシ-2-プロパノールを揮発させた。この基板を空気雰囲気下500℃で1時間焼成処理して基板表面にY_(2)O_(3)膜を形成した。この工程を繰り返すことによって膜厚を200nmとした(実施例10-1)。以上のようにして作製したY_(2)O_(3)膜の可視光透過率を測定したところ、青色領域の454nm、緑色領域の546nmおよび赤色領域の700nmのいずれの波長域においても90%以上の透過率が得られた。
【0059】
また、同様の方法で膜厚を1μm(実施例10-2)としたY_(2)O_(3)膜を形成し、得られたY_(2)O_(3)膜の可視光透過率を測定したところ、青色領域の454nm、緑色領域の546nmおよび赤色領域の700nmのいずれの波長域においても90%以上の透過率が得られた。また、走査型電子顕微鏡(SEM、日立製作所製 S-900)を用いてこのY_(2)O_(3)膜の観察を行った。断面SEM写真を図2に示す。Y_(2)O_(3)微粒子が均一かつ安定的に分散された分散液を用いて形成されたため、連続気孔などの欠陥ない緻密な膜となっていることがわかる。」

(イ)引用文献5に記載の技術的事項
上記(ア)から、引用文献5には、下記の技術的事項が記載されているものと認められる。

「Y_(2)O_(3)分散液を用いたディップコート法によって、基板上に耐プラズマエロージョン性の高い酸化イットリウム膜である膜厚1μmのY_(2)O_(3)膜を形成した。」

カ 引用文献6
(ア)本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2004-75430号公報(以下、「引用文献6」という)には、次の記載がある。

a 「【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、紫外線、可視光線及び近赤外線領域での光透過率が高い、透明な酸化イットリウム膜及びその製造方法に関する。」

b 「【0007】
本発明の透明な酸化イットリウム膜を形成する基材としては特に制限はなく、原料吹き付け時の加熱に耐えられる材料はいずれも使用することができる。 好ましい基材としては、石英ガラス、ガラス、プラスチック、金属酸化物の多結晶又は単結晶等の透明で硬質な材料が挙げられる。このような基材に透明な酸化イットリウム膜を形成した板状体は、プラズマを使用する各種の処理装置、CF_(4)等のフッ素ガスや腐食性ガスを使用する各種の処理装置の監視窓、或いは光学測定用装置等の透明性及び耐久性を必要とする材料として好適に使用される。」

c 「【0006】
【発明の実施の形態】
つぎに、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。本発明の透明な酸化イットリウム膜は、例えば図1にみられるような、キャリヤーガス供給源1、流量計2、原料気化器3、所定幅のスリット5を設けたノズル4、基材6の加熱台7を有する、通常の大気開放型CVD装置を使用して製造することができる。この装置の主要部は、扉9を有する防護チャンバー8により覆われている。」

d 「【0017】
大気開放型CVD法により酸化イットリウム膜を形成した場合には、膜を構成する結晶粒子の成長は膜厚が0.5μm以上になると顕著になり、それに伴なって膜が白色を帯びる。本発明の方法によれば、膜を構成する結晶粒子の成長を抑制して、平均粒子径0.01?μmの酸化イットリウム多結晶粒子又はアモルファス酸化イットリウムにより膜を構成することができ、透明な酸化イットリウム膜が得られる。
本発明によれば、膜厚が0.01?10μm程度の透明な酸化イットリウム膜を形成することができる。従来の方法では、0.5μm以上の膜厚を有する透明な酸化イットリウム膜を形成することはできなかったが、本発明によれば、膜厚が0.5μm以上、特に1μm以上の透明な酸化イットリウム膜を得ることができる。」

(イ)引用文献6に記載の技術的事項
上記(ア)から、引用文献6には、下記の技術的事項が記載されているものと認められる。

「大気開放型CVDにより、プラズマを使用する各種の処理装置に用いられる板状体である基材上に膜厚1μm以上の透明な酸化イットリウム膜を製造する。」

(2)対比・判断
(2-1)請求項1に係る発明について
ア 引用発明と請求項1に係る発明との対比
a 一致点及び相違点について
引用発明の「イットリウムアセチルアセトナート」、「溶液」、「堆積チャンバ」、「熱分解反応」、「Y_(2)O_(3)薄膜」及び「堆積」は、それぞれ、請求項1に係る発明の「イットリウムを含む金属ハロゲン化物または有機金属錯体」、「原料溶液」、「成膜室」、「熱反応」、「酸化イットリウム膜」及び「成膜」に相当する。

そうすると、引用発明は、「イットリウムを含む金属ハロゲン化物または有機金属錯体の原料溶液を霧化または液滴化し、得られたミストまたは液滴を、キャリアガスで成膜室内に設置されている基体まで搬送し、ついで前記ミストまたは液滴を熱反応させて前記基体上に酸化イットリウム膜を成膜することを特徴とする酸化イットリウム膜の製造方法。」である点で請求項1に係る発明と一致し、下記の点で相違する。

<相違点1>
引用発明におけるキャリアガスは「高純度空気」であるのに対し、請求項1に係る発明におけるキャリアガスは「不活性ガス」である点。

<相違点2>
引用発明においてはY_(2)O_(3)薄膜を「厚さ1,000Åになるまで」堆積させるのに対し、請求項1に係る発明においては酸化イットリウム膜を「膜厚が1μm以上になるまで」成膜する点。

b 相違点2について
(a) 事案に鑑み、相違点2について検討するに、引用文献2に記載の発明は、上記(1)イ(ア)b、d及びeからみて、最終的な目的としてY_(2)O_(3)薄膜の各種物理的特性を検討するためになされたものと解される。そうすると、引用文献1に接した当業者が、引用発明のY_(2)O_(3)薄膜を「膜厚が1μm以上になるまで」堆積するように変更する動機付けを見出すことはできない。
(b) また、引用文献1、3?6を検討するに、引用文献1には、上記(1)ア(イ)のとおり、膜厚200nm又は50nmのYO_(x)薄膜を形成することについて記載されているものの、膜厚を1μm以上とすることは記載されていない。引用文献3には、上記(1)ウ(イ)のとおり、酸化亜鉛結晶相について記載されているものの、膜厚が1μm以上のY_(2)O_(3)薄膜を形成することは記載されていない。引用文献4には、上記(1)エ(イ)のとおり、コランダム型結晶膜を製造する方法について記載されているものの、膜厚を1μm以上とすることは記載されていない。引用文献5には、上記(1)オ(イ)のとおり、Y_(2)O_(3)分散液を用いたディップコート法により膜厚1μmの酸化イットリウム膜を形成することが記載されているものの、原料溶液のミストを用いて酸化イットリウム膜を形成することは記載されていない。引用文献6には、上記(1)カ(イ)のとおり、膜厚1μm以上の透明な酸化イットリウム膜を製造することが記載されているものの、原料溶液のミストを用いて酸化イットリウム膜を形成することは記載されていない。そうすると、引用文献1、3?6のいずれの記載からも、引用発明において、引用発明のY_(2)O_(3)薄膜を「膜厚が1μm以上になるまで」堆積するように変更する動機付けを当業者が得るといえる根拠は見あたらない。
(c) そして、引用文献1、3?6の記載から、原料溶液のミストを用いて酸化イットリウム膜を形成するにあたって膜厚を1μm以上とすることが周知技術であるとは認められず、そのような周知技術に基づいて引用発明のY_(2)O_(3)薄膜を「膜厚が1μm以上になるまで」堆積するように変更する動機付けを当業者が得るともいえない。
(d) 仮に、上記(1)オ(イ)及び(1)カ(イ)に示される引用文献5及び6に記載の技術的事項からみて、耐プラズマ用であり膜厚1μm以上である酸化イットリウム膜が周知技術であったとしても、上記(a)に示したとおり、引用文献2に記載の発明は、最終的な目的としてY_(2)O_(3)薄膜の各種物理的特性を検討するためになされたものであると解される上、引用文献2中の上記(1)イ(ア)bに摘示した記載は、背景技術として、Y_(2)O_(3)薄膜が保護層を含む様々な用途に用いられうるという一般的な事実を挙げるものに過ぎず、引用文献2に記載の発明を保護層に適用することを意図する内容のものではないから、引用発明を、耐プラズマ用で膜厚1μm以上の酸化イットリウム膜に変更する動機付けを当業者が得るとはいえない。
(e) してみれば、相違点1について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、当業者であっても、引用発明及び引用文献1、3?6の記載に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-2)請求項2?7に係る発明について
請求項2?7に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項をすべて有する、酸化イットリウム膜の製造方法の発明である。
そうすると、上記(2-1)と同様に、請求項2?7に係る発明は、当業者であっても、引用発明及び引用文献1、3?6の記載に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから、原査定の理由2(進歩性)を維持することはできない。

3 小括
以上のとおり、原査定の理由1?2を維持することはできない。

第5 むすび

以上の通り、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論の通り審決する。


 
審決日 2020-11-24 
出願番号 特願2015-106565(P2015-106565)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (C01F)
P 1 8・ 121- WY (C01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 手島 理中田 光祐壷内 信吾安齋 美佐子  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 金 公彦
岡田 隆介
発明の名称 酸化イットリウム膜の製造方法  

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