• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1368639
審判番号 不服2019-6262  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-14 
確定日 2020-11-25 
事件の表示 特願2016-554455「手首装着装置の傾斜に少なくとも部分的に基づいた動作の実行」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月 3日国際公開、WO2015/128539、平成29年 4月27日国内公表、特表2017-511932〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2015年(平成27年)2月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年2月27日,欧州)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 8月 4日付け:拒絶理由通知
平成30年 2月 8日: 意見書,手続補正
平成30年 6月 4日付け:拒絶理由通知(最後)
平成30年 9月11日: 意見書,手続補正
平成31年 1月16日付け:補正の却下の決定,拒絶査定
令和 元年 5月14日: 審判請求,手続補正

第2 令和元年5月14日の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

令和元年5月14日にされた手続補正を却下する。

[補正却下の理由]

1.手続補正の内容

令和元年5月14日の手続補正(以下,「本件補正」という)により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,本件補正前の(1)のとおりの記載から,本件補正後の(2)のとおりの記載に補正された(下線は補正により変更された部分を示す)。

(1)本件補正前の請求項1

「手首装着装置の上におけるソフトウェア・イベントの発生を決定するステップと,
通知が,前記ソフトウェア・イベントを表す情報を含むように,前記ソフトウェア・イベントに少なくとも部分的に基づいて,前記通知を決定するステップと,
前記通知のレンダリングをさせるステップと,
前記手首装着装置を,ユーザー対向方向から非ユーザー対向方向に傾斜させたと判断するステップであって,
該ユーザー対向方向は,ユーザーの頭部が前記手首装着装置に向かって方向付けられた状態において,該ユーザーの眼から観察可能となる該手首装着装置のディスプレイからの方向であり,
該非ユーザー対向方向は,該ユーザーの眼から観察不能となる該手首装着装置の該ディスプレイからの方向である,
ステップと,
前記手首装着装置を,前記ユーザー対向方向から前記非ユーザー対向方向に傾斜させたとの判断から,通知傾斜作動閾値持続時間内において,前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から前記ユーザー対向方向,または,前記ユーザー対向方向とは異なる別のユーザー対向方向に傾斜させたと判断するステップと,
前記手首装着装置を,前記ユーザー対向方向から前記非ユーザー対向方向に傾斜させたとの判断から,前記通知傾斜作動閾値持続時間内において,前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から,前記ユーザー対向方向,または,前記ユーザー対向方向とは異なる前記別のユーザー対向方向に傾斜させたとの前記判断に少なくとも部分的に基づいて,前記ソフトウェア・イベントと結びついた少なくとも1つの動作の実行をさせるステップと,
を含む方法。」

(2)本件補正後の請求項1

「手首装着装置の上におけるソフトウェア・イベントの発生を決定するステップと,
通知が,前記ソフトウェア・イベントを表す情報を含むように,前記ソフトウェア・イベントに少なくとも部分的に基づいて,前記通知を決定するステップと,
前記通知のレンダリングをさせるステップと,
前記手首装着装置を,ユーザー対向方向から非ユーザー対向方向に傾斜させたとユーザー対向方向閾値に基づいて判断するステップであって,
該ユーザー対向方向は,該ユーザー対向方向閾値内にあるものであって,ユーザーの頭部が前記手首装着装置に向かって方向付けられた状態において,該ユーザーの眼から観察可能となる該手首装着装置のディスプレイからの方向であり,
該非ユーザー対向方向は,該ユーザー対向方向閾値を超えるものであって,該ユーザーの眼から観察不能となる該手首装着装置の該ディスプレイからの方向である,
ステップと,
前記手首装着装置を,前記ユーザー対向方向から前記非ユーザー対向方向に傾斜させたとの判断から,通知傾斜作動閾値持続時間内において,前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から前記ユーザー対向方向,または,前記ユーザー対向方向とは異なる別のユーザー対向方向に傾斜させたと判断するステップと,
前記手首装着装置を,前記ユーザー対向方向から前記非ユーザー対向方向に傾斜させたとの判断から,前記通知傾斜作動閾値持続時間内において,前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から,前記ユーザー対向方向,または,前記ユーザー対向方向とは異なる前記別のユーザー対向方向に傾斜させたとの前記判断に少なくとも部分的に基づいて,前記ソフトウェア・イベントと結びついた少なくとも1つの動作の実行をさせるステップと,
前記ソフトウェア・イベントと結びついた前記動作は,前記ソフトウェア・イベントと結びついた補足情報を決定するステップと,
前記補足情報の少なくとも一部分のレンダリングをさせるステップと,
を含む方法。」

2.補正の適否

(1)本件補正の目的

本件補正は,本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記手首装着装置を,ユーザー対向方向から非ユーザー対向方向に傾斜させたと判断するステップ」について,「ユーザー対向方向閾値に基づいて」との限定を付加し,発明を特定するために必要な事項である「ユーザー対向方向」について,「ユーザー対向方向閾値内にあるものであ」る旨の限定を付加し,発明を特定するために必要な事項である「非ユーザー対向方向」について,「ユーザー対向方向閾値を超えるものであ」る旨の限定を付加し,発明を特定するために必要な事項である「ソフトウェア・イベントと結びついた少なくとも1つの動作の実行」について,「前記ソフトウェア・イベントと結びついた前記動作は,前記ソフトウェア・イベントと結びついた補足情報を決定するステップと,」「前記補足情報の少なくとも一部分のレンダリングをさせるステップと,」を含むとの限定を付加するものであって,その本件補正の前後で,請求項1に記載の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定された特許出願の際独立して特許を受けられるものであるか否かについて以下検討する。

(2)独立特許要件についての判断

ア 本件補正発明

本件補正発明は,上記1.(2)の記載により特定されるとおりのものである。

イ 引用文献1の記載事項および引用発明

引用文献1には,以下の記載がある(下線は,当審が付加した。以下同様。)。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,携帯可能な携帯型電子機器及びそのような携帯型電子機器を用いた機器制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
腕情報機器と,腕情報機器との通信を行うための通信アダプタを備えた携帯電話とから構成される機器制御システムにおいて,携帯電話への着呼及び着メールを腕情報機器に送信し,腕情報機器からのオンフック及びオフフックの指令を携帯電話に送信することができるシステムが知られている(例えば,特許文献1参照)。
【0003】
また,上記システムでは,腕情報機器に傾斜センサを設けて,腕情報機器を傾斜させることによってオンフック及びオフフックの指令を検出すること記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004-201081(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,腕情報機器を装着している使用者が,オンフックやオフフック等の指令を行う意思が全くないにもかかわらず,腕情報機器が,使用者の生活動作の動きにともなう腕の傾斜を検出して,意図しない指令が行われてしまうという問題があった。
【0006】
そこで,本発明は,上記課題を解決し,意図しないモーションコマンドの発生を防止することができる携帯型電子機器,及びそのような携帯型電子機器を用いた機器制御システムを提供することを目的とする。」

(イ)「【0032】
携帯型電子機器200は,ユーザの腕に装着可能な腕時計形状に構成されている。
【0033】
また,携帯型電子機器200は,第3アンテナ220,第3無線部222,及び第3変調処理部224を有しており,第3アンテナを介して,携帯電話100との間でBluetooth方式による短距離無線通信を行えるように構成されている。ここで,携帯電話100からデータを受信する場合には,第3無線部222は第3アンテナ220より受信した変調波に周波数変換処理等を施して受信変調波として第3変調処理部224へ出力し,第3変調処理部224は受信変調波に復調処理を施して得られたデータを後述する制御部210へ出力する。携帯電話100へデータを送信する場合には,制御部210から入力されたデータに変調処理を施して送信変調波を作成して第3無線部222へ出力し,第3無線部222は送信変調波を無線周波数に変換して第3アンテナ220から送信する。
【0034】
さらに,携帯型電子機器200は,CPU等を含んで構成される第2制御部210,RAM240,ROM242,バイブレータを含んで構成される振動発生部244,日時及び時刻調整用や発呼指示用の各種ボタン等を含んで構成される操作部246,日時及び時刻表示等のための液晶ディスプレイ等を含んで構成される表示部248,アラーム音等を出力するための及びスピーカ250,ユーザによる携帯型電子機器200の動作を検出するための傾斜センサ260,日時及び時刻表示のための表示データを作成する計時部270等を有している。第2制御部210は,ROM242に予め記憶されているプログラムに従い,携帯型電子機器200の各要素の制御及び各種処理を行い,処理中に生じるデータを一時的に保存するためにRAM240を利用する。」

(ウ)「【0038】
第2制御部210は,傾斜センサ260の出力に基づいて,携帯型電子機器200を所定の姿勢状態とすることによって携帯型電子機器200や携帯電話100の動作を制御するための操作指令であるモーションコマンド(以下MCとする)を検出する。また,第2制御部210は,MCを検出すると,検出したMCの種類に応じて,携帯型電子機器200の動作部である表示部248や第3変調処理部224及び第3無線部222などの動作を制御するための指示や,第3無線部222を介して,携帯電話100の動作を制御するための指示を生成する。すなわち,第2制御部210は,所定の操作指令を検出する操作指令検出部と,所定の操作指令に応じた指示データを生成する指示データ生成部として機能する。
【0039】
即ちモーションコマンドとは,傾斜センサ260の出力に基づいて,携帯電話100や携帯型電子機器200に所定の動作(保留,簡易返信,スクロールなど)を行わせる操作指令(使用者の操作目的の視点で見た操作指令)をいう。また指示データとは,各モーションコマンドを実行するために,検出されたモーションコマンドの種類に応じて,携帯型電子機器200の各動作部や携帯電話100に対して具体的な動作を実行させるための指示をいう。」

(エ)「【0041】
例えば,携帯電話100は待ち受け状態でユーザの鞄等にしまわれており,携帯型電子機器200がユーザの腕に装着されているものとする。携帯電話100は,着呼又はメール着信があった場合,着呼情報又は着メール情報を携帯型電子機器200へ送信し,携帯型電子機器200では着呼情報又は着メール情報の受信に対して,後述するモーションコマンドを利用して携帯電話100への指示を送信し,携帯電話100では携帯型電子機器200からの指示を実行する。このような連携動作を繰り返すことによって,ユーザは,指先を使わずに,鞄等の中にある携帯電話100に適切な指示を与えることができる。
【0042】
最初,携帯電話100は電源がONされた待ち受け状態に維持されており(S300),携帯型電子機器200も電源がONされ且つ表示部の電源をOFF,及びCPUを省電力モードとした省電力モード状態に維持されている(S310)。
【0043】
第1制御部110は,携帯電話100が着呼又はメールの着信を受けると(S301),着呼情報又は着メール情報を携帯型電子機器200へ送信する(S302)。
【0044】
第2制御部210は,携帯電話100から携帯型電子機器200が着呼情報又は着メール情報を受信すると(S311),省電力モードから通常モードへ移行させ(S312),表示部248に携帯電話への着呼又はメール着信があった旨を表示させ,振動発生部244を動作させてバイブレーションを発生させ,スピーカ250からアラーム音を出力させるように制御する(S313)。
【0045】
次に,第2制御部210は,ユーザがMCを有効にさせる動作(以下「MC有効動作」と言う)を行ったことを検出した場合には(S314),さらに,MCを検出して携帯電話への指示を特定し(S315),携帯電話100へ指示を送信する(S316)。このMC有効動作も携帯型電子機器200を第1の姿勢状態とすることによって携帯型電子機器200の動作を制御するMCである。その後,第2制御部210は,携帯型電子機器200を省電力モードへ移行させる(S317)。このMC有効動作を行うための具体的な姿勢状態,第3の姿勢状態とすることによって行われるMC無効動作,及び第1,第3とは異なる第2の姿勢状態とすることによって行われる,MC有効動作,MC無効動作以外の各MCについては後述する。
【0046】
第1制御部110は,携帯型電子機器200からの指示を受信すると(S303),指示に応じて携帯電話100の各要素の制御及び/又は処理を行う(S304)。」

(オ)「【0061】
図5に,携帯型電子機器200における制御フローの一例を示す。
【0062】
図5に示す制御フローは,主に第2制御部210がROM240に予め記憶されているプログラムに従って実行する。
【0063】
最初に,ユーザによって電源がONされると(S501),対応する携帯電話100とのリンク処理を行う(S502)。リンク処理によって,携帯電話への着呼及びメールの着信があった場合のデータの受信やモーションコマンドによる指示の送信等が,対応する携帯電話100との間で行えるようになる。
【0064】
次に,着呼情報が受信されたか否かが判断され(S503),着呼情報を受信した場合,第2制御部210は,図6に示す着呼処理(S504)を行う。また,メール情報が受信されたか否かが判断され(S505),着メール情報を受信した場合,第2制御部210は,図7に示す着メール処理(S506)を行う。
【0065】
着呼情報及び着メール情報の何れも受信しない場合には,省電力モードに携帯型電子機器200を移行させ,S503へ戻り,S503,S505及びS507を繰り返し,携帯電話100からの情報の受信を待つ待機状態となる。」

(カ)「【0094】
図7に,図5に示した携帯型電子機器200における着メール処理の制御フローの一例を示す。
【0095】
図7に示す着メール処理の制御フローは,主に第2制御部210がROM240に予め記憶されているプログラムに従って実行する。」

(キ)「【0107】
図15及び図16に,着メール処理の制御フローに利用されるMCの例を示す。
【0108】
図15(a)は,携帯電話100にメールの着信があり,それが携帯型電子機器200に送信されて表示部248にメールの着信があったことが表示された状況を示している。図15(a)に示すように表示部248には,メールの着信日時及び時刻,リファレンスが表示される。
【0109】
図15(b)は,その後,ユーザが携帯型電子機器200を水平状態のt秒間(例えば,3秒)維持した姿勢状態を取ることによって,MC有効動作が行われたと判断された状況を示している。図15(b)に示すように,MCが有効になったことが表示部248に表示される。
【0110】
図15(c)は,最初に携帯型電子機器200を上方向の垂直位置に一旦停止させ,その後水平位置まで戻す姿勢状態を取ることによってメール内容の表示指示のためのMCが確認された状況を示している。図15(c)に示すように,メール本文の一部が表示部248に表示される。
【0111】
図16(d)は,最初に携帯型電子機器200を水平状態に一旦停止させ,その後,腕を右に90°回転させる姿勢状態を取ることによって,スクロール指示のためのMCが確認された状況を示している。図16(d)に示すように,メール本文がスクロールされて表示部248に表示される。
【0112】
図16(e)は,最初に携帯型電子機器200を水平位置で一旦停止させ,その後下方向の垂直位置で停止させる姿勢状態を取ることによって,簡易返信選択指示のためのMCが確認された状況を示している。図16(e)に示すように,簡易返信の内容が表示部248に表示される。最初は,「OKです」が選択されており,もう一度図16(e)の動作を行うと,「NGです」が選択される。すなわち,図16(e)の動作を行うことにより,交互に選択される。
【0113】
図16(f)は,最初に携帯型電子機器200を水平状態に一旦停止させ,その後,腕を左に90°回転させる姿勢状態を取ることによって,簡易返信送信指示のためのMCが確認された状況を示している。図16(f)に示すように,簡易返信がなされたことが表示部248に表示される。
【0114】
このように,着メール処理の制御フローでは,携帯電話100から着メール情報を受信した場合,ユーザが携帯型電子機器200を装着した腕で所定の動作を行うことによって,各種の指示を携帯電話100に対して行うことができる。なお,上記の例では,4つのMCによって,メール内容表示指示,スクロール指示,簡易返信選択指示及び簡易返信送信指示の4種類の指示を行ったが,これらは一例であって,他の動作により前述した指示及び/又は他の指示を行わせることが可能である。
【0115】
上記の実施形態では,図2に示す傾斜センサ260を利用して携帯型電子機器200の姿勢状態を検出したが,傾斜センサ260の代わりに加速度センサ等を利用することも可能である。」

(ク)「【0121】
上記の実施形態では,装着部材であるリストバンドによって,携帯型電子機器200を手首に装着した場合について説明したが,携帯型電子機器200に,例えば把持部を設け,把持部を持ってMC操作を行うようにしても良い。」

(ケ)図15


(コ)図16


(サ) 引用発明

上記(ア)?(ク)の,特に下線を付加した記載,および,上記(ケ)の図15に着目すると,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「携帯型電子機器200は,ユーザの腕に装着可能な腕時計形状に構成されており,
携帯型電子機器200は,第3アンテナ220,第3無線部222,及び第3変調処理部224を有しており,第3アンテナを介して,携帯電話100との間でBluetooth方式による短距離無線通信を行えるように構成されており,
携帯型電子機器200は,CPU等を含んで構成される第2制御部210,RAM240,ROM242,バイブレータを含んで構成される振動発生部244,日時及び時刻調整用や発呼指示用の各種ボタン等を含んで構成される操作部246,日時及び時刻表示等のための液晶ディスプレイ等を含んで構成される表示部248,アラーム音等を出力するための及びスピーカ250,ユーザによる携帯型電子機器200の動作を検出するための傾斜センサ260,日時及び時刻表示のための表示データを作成する計時部270等を有しており,
第2制御部210は,ROM242に予め記憶されているプログラムに従い,携帯型電子機器200の各要素の制御及び各種処理を行い,処理中に生じるデータを一時的に保存するためにRAM240を利用しており,
第2制御部210は,傾斜センサ260の出力に基づいて,携帯型電子機器200を所定の姿勢状態とすることによって携帯型電子機器200や携帯電話100の動作を制御するための操作指令であるモーションコマンド(以下MCとする)を検出しており,
第2制御部210は,MCを検出すると,検出したMCの種類に応じて,携帯型電子機器200の動作部である表示部248や第3変調処理部224及び第3無線部222などの動作を制御するための指示や,第3無線部222を介して,携帯電話100の動作を制御するための指示を生成しており,
携帯電話100は待ち受け状態でユーザの鞄等にしまわれており,携帯型電子機器200がユーザの腕に装着されているものであり,
携帯電話100は,着呼又はメール着信があった場合,着呼情報又は着メール情報を携帯型電子機器200へ送信し,携帯型電子機器200では着呼情報又は着メール情報の受信に対して,モーションコマンドを利用して携帯電話100への指示を送信し,携帯電話100では携帯型電子機器200からの指示を実行し,このような連携動作を繰り返すことによって,ユーザは,指先を使わずに,鞄等の中にある携帯電話100に適切な指示を与えることができるものであり,
第2制御部210は,携帯電話100から携帯型電子機器200が着呼情報又は着メール情報を受信すると(S311),省電力モードから通常モードへ移行させ(S312),表示部248に携帯電話への着呼又はメール着信があった旨を表示させ,振動発生部244を動作させてバイブレーションを発生させ,スピーカ250からアラーム音を出力させるように制御し,
第2制御部210は,ユーザがMCを有効にさせる動作(以下「MC有効動作」と言う)を行ったことを検出した場合には(S314),さらに,MCを検出して携帯電話への指示を特定し(S315),携帯電話100へ指示を送信する
携帯型電子機器200における制御フローであって,
制御フローは,主に第2制御部210がROM240に予め記憶されているプログラムに従って実行しており,
最初に,ユーザによって電源がONされると,対応する携帯電話100とのリンク処理を行い,リンク処理によって,携帯電話への着呼及びメールの着信があった場合のデータの受信やモーションコマンドによる指示の送信等が,対応する携帯電話100との間で行えるようになり,
次に,着呼情報が受信されたか否かが判断され,着呼情報を受信した場合,第2制御部210は,着呼処理を行い,
また,メール情報が受信されたか否かが判断され,着メール情報を受信した場合,第2制御部210は,着メール処理を行っており,
携帯型電子機器200における着メール処理の制御フローにおいて,
着メール処理の制御フローは,主に第2制御部210がROM240に予め記憶されているプログラムに従って実行しており,
携帯電話100にメールの着信があり,それが携帯型電子機器200に送信されて表示部248にメールの着信があったことが表示された状況において,表示部248には,メールの着信日時及び時刻,リファレンスが表示され,
ユーザが携帯型電子機器200を水平状態のt秒間(例えば,3秒)維持した姿勢状態を取ることによって,MC有効動作が行われたと判断されて,MCが有効になったことが表示部248に表示され,
携帯型電子機器200を上方向の垂直位置に一旦停止させ,その後水平位置まで戻す姿勢状態を取ることによってメール内容の表示指示のためのMCが確認された状況において,メール本文の一部が表示部248に表示される着メール処理の制御フローであって,
着メール処理の制御フローでは,携帯電話100から着メール情報を受信した場合,ユーザが携帯型電子機器200を装着した腕で所定の動作を行うことによって,各種の指示を携帯電話100に対して行うことができ,
上記の例は一例であって,他の動作により前述した指示及び/又は他の指示を行わせることが可能であり,
携帯型電子機器200の姿勢状態の検出において,傾斜センサ260の代わりに加速度センサ等を利用することも可能であり,
携帯型電子機器200は,装着部材であるリストバンドによって,手首に装着したものである
携帯型電子機器200における制御フロー。」

ウ 引用文献4?6の記載事項と周知技術

(ア)引用文献4記載事項

原査定で周知技術を示す文献として引用された引用文献4には,以下の記載がある。

a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,操作ボタンを操作することなく予め用意されている機能を選択する等の処理を行うことが可能な携帯型情報処理装置および制御方法に関するものである。」

b「【0005】また,腕装着型の携帯型情報処理装置では,その装置を装着していない側の手でボタン操作をしなければならないので,手に荷物を持っている場合等においては,ボタン操作を行うことが極めて困難となる。また,暗くて操作ボタンを識別しにくい状況などでもボタン操作が困難である。特に,上記のように操作ボタンが小さいと,そのボタン操作はいっそう困難を極める。
【0006】そこで,本発明においては,手に荷物を持っている場合などのあらゆる状況下においても,機能の選択を簡単,且つ,確実に行うことができ,大きく見やすい表示が可能な携帯型情報処理装置,制御方法,および制御プログラムを記録した記録媒体を提供することを目的としている。また,誤ったスイッチング動作が行われることなく,操作性に優れ,スイッチング操作の信頼性が高い携帯型情報処理装置,制御方法,および制御プログラムが記録された記録媒体を提供することも目的としている。」

c「【0019】また,リスト型情報処理装置1は,装置全体の制御を司る制御部16を有しており,この制御部16によってLCD3の画面表示や磁気センサ部15の出力に基づいて所定のスイッチング動作であることを識別する処理等の制御が行われるようになっている。
【0020】図3には制御部16の概略構成をブロック図を用いて示してある。制御部16は,リスト型情報処理装置1のROM等に記憶された制御プログラムにしたがった処理動作を行うことが可能であり,磁気センサ部15の出力に基づいて4種類のスイッチング動作を判別可能なスイッチング動作判別部17を有している。スイッチング動作判別部17は,磁気センサ部15から得られるX成分の変化パターンに基づき第1および第2のスイッチング動作が行われたことを判断する第1のスイッチング動作判断部18と,磁気センサ部15から得られるY成分の変化パターンに基づき第3および第4のスイッチング動作が行われたことを判断する第2のスイッチング動作判断部19とを備えている。
【0021】第1のスイッチング動作判断部18は,X成分が少なくとも所定の時間ほぼ安定している準安定状態の値を記憶する第1の準安定値記憶部21と,X成分が準安定状態の値から単調に増加または減少したときに,準安定状態の値に対するX成分の相対的な変化量が所定の値を越えたか否かを判別する第1の変化量判別部22と,X成分が再び単調に減少または増加して準安定状態の値にほぼ戻ったか否かを判別する第1の復帰判別部23と,第1の変化量判別部22において変化量が所定の値を越え,第1の復帰判定部23で準安定状態の値にほぼ戻ったと判断されたときに増加または減少に対応して第1または第2のスイッチング動作が行われたと判断する第1の動作判定部24とを備えている。」

d「【0022】第2のスイッチング動作判別部19は,Y成分が少なくとも所定の時間ほぼ安定している準安定状態の値を記憶する第2の準安定値記憶部25と,Y成分が準安定状態の値から単調に増加または減少したときの準安定状態の値に対するY成分の相対的な変化量が所定の値を越えたか否かを判別する第2の変化量判別部26と,Y成分が再び単調に減少または増加して準安定状態の値にほぼ戻ったか否かを判別する第2の復帰判別部27と,第2の変化量判別部26において変化量が所定の値を越え,第2の復帰判定部27で準安定状態の値にほぼ戻ったと判断されたときに増加または減少に対応して第3または第4のスイッチング動作が行われたと判断する第2の動作判定部28とを備えている。」

e 上記a?dの特に下線部の記載に着目すると,引用文献4には以下の事項が記載されていると認められる。

「操作ボタンを操作することなく予め用意されている機能を選択する等の処理を行うことが可能な携帯型情報処理装置であって,
腕装着型の携帯型情報処理装置であり,
手に荷物を持っている場合などのあらゆる状況下においても,機能の選択を簡単,且つ,確実に行うことができ,大きく見やすい表示が可能な携帯型情報処理装置であり,
誤ったスイッチング動作が行われることなく,操作性に優れ,スイッチング操作の信頼性が高い携帯型情報処理装置であって,
リスト型情報処理装置1は,装置全体の制御を司る制御部16を有しており,この制御部16によってLCD3の画面表示や磁気センサ部15の出力に基づいて所定のスイッチング動作であることを識別する処理等の制御が行われるようになっており,
制御部16は,磁気センサ部15の出力に基づいて4種類のスイッチング動作を判別可能なスイッチング動作判別部17を有しており,
スイッチング動作判別部17は,磁気センサ部15から得られるX成分の変化パターンに基づき第1および第2のスイッチング動作が行われたことを判断する第1のスイッチング動作判断部18と,磁気センサ部15から得られるY成分の変化パターンに基づき第3および第4のスイッチング動作が行われたことを判断する第2のスイッチング動作判断部19とを備えており,
第1のスイッチング動作判断部18は,X成分が少なくとも所定の時間ほぼ安定している準安定状態の値を記憶する第1の準安定値記憶部21と,X成分が準安定状態の値から単調に増加または減少したときに,準安定状態の値に対するX成分の相対的な変化量が所定の値を越えたか否かを判別する第1の変化量判別部22と,X成分が再び単調に減少または増加して準安定状態の値にほぼ戻ったか否かを判別する第1の復帰判別部23と,第1の変化量判別部22において変化量が所定の値を越え,第1の復帰判定部23で準安定状態の値にほぼ戻ったと判断されたときに増加または減少に対応して第1または第2のスイッチング動作が行われたと判断する第1の動作判定部24とを備えており,
第2のスイッチング動作判別部19は,Y成分が少なくとも所定の時間ほぼ安定している準安定状態の値を記憶する第2の準安定値記憶部25と,Y成分が準安定状態の値から単調に増加または減少したときの準安定状態の値に対するY成分の相対的な変化量が所定の値を越えたか否かを判別する第2の変化量判別部26と,Y成分が再び単調に減少または増加して準安定状態の値にほぼ戻ったか否かを判別する第2の復帰判別部27と,第2の変化量判別部26において変化量が所定の値を越え,第2の復帰判定部27で準安定状態の値にほぼ戻ったと判断されたときに増加または減少に対応して第3または第4のスイッチング動作が行われたと判断する第2の動作判定部28とを備えている
リスト型情報処理装置1。」

(イ)引用文献5記載事項

原査定で周知技術を示す文献として引用された引用文献5には,以下の記載がある。

a「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,操作部による文字の入力操作に対応して,平仮名,片仮名,数字,及びアルファベット等のような,複数の種類の文字を表示部に出力させることができる携帯端末装置に関するものであって,表示部に出力させる文字の種類の切替え操作を簡単に行なうことができる携帯端末装置に関するものである。」

b「【0033】
次に,図3は,携帯電話機30の回路構成を示すブロック図である。この携帯電話機30は,アンテナを有する無線部34,データ処理部36,音声処理部38,スピーカー40,マイクロホン42,表示部4,操作部8,記憶部44,傾斜角検出部46,及びこれらを制御する制御部48を備えている。」

c「【0035】
傾斜角検出部46は、第2筐体10に内蔵されて、携帯電話機30の傾斜角を検出することができるようになっている。このような傾斜角検出部46としては、例えばピエゾ抵抗素子を用いた傾斜センサー等を用いることができる。
【0036】
また、傾斜角検出部46に用いることができる傾斜センサーは、このようなピエゾ抵抗素子を用いたものに制限されるものではなく、他の方式のものを用いるようにしてもよい。また、このような傾斜センサーに代えて、または傾斜センサーと共に、加速度センサーを傾斜角検出部46として用いるようにしてもよい。」

d「【0045】
そして、フローチャートの以後の各ステップ(ステップS7ないしステップS12)において、制御部48は、ユーザーが入力モードを切替えるための操作として、携帯電話機30を所定の角度を超えるように回動させた後、傾斜角を元の基準傾斜角に戻すという一連の動作を行なったかどうかを検出するようになっていると共に、この操作に基づいて入力モードの切替えについての制御動作を行なうようになっている。

e 上記a?dの特に下線部の記載に着目すると,引用文献5には以下の事項が記載されていると認められる。

「表示部に出力させる文字の種類の切替え操作を簡単に行なうことができる携帯端末装置であって,
携帯電話機30は,アンテナを有する無線部34,データ処理部36,音声処理部38,スピーカー40,マイクロホン42,表示部4,操作部8,記憶部44,傾斜角検出部46,及びこれらを制御する制御部48を備えており,
傾斜角検出部46は、第2筐体10に内蔵されて、携帯電話機30の傾斜角を検出することができるようになっており,
傾斜角検出部46に用いることができる傾斜センサーは、ピエゾ抵抗素子を用いたものに制限されるものではなく、他の方式のものを用いるようにしてもよく,また、このような傾斜センサーに代えて、または傾斜センサーと共に、加速度センサーを傾斜角検出部46として用いるようにしてもよく,
制御部48は、ユーザーが入力モードを切替えるための操作として、携帯電話機30を所定の角度を超えるように回動させた後、傾斜角を元の基準傾斜角に戻すという一連の動作を行なったかどうかを検出するようになっていると共に、この操作に基づいて入力モードの切替えについての制御動作を行なう
携帯電話機30。」

(ウ)引用文献6記載事項

原査定で周知技術を示す文献として引用された引用文献6には,以下の記載がある。

a「【要約】
【課題】操作性を良好に保ちつつ、簡単かつ確実にキーの割り当てを変更することができる携帯端末及び該携帯端末におけるキーの割り当て方法の提供。
【解決手段】携帯端末に携帯端末の傾斜角を検出する加速度センサ107を設置し、基準状態から携帯端末を傾斜させた時に、その基準状態に対する傾斜角が予め定めた閾値を越え、かつ、所定時間内に傾斜角が閾値以下になった場合に、キーの割り当てを変更する制御を行う。」

b 上記aの特に下線部の記載に着目すると,引用文献6には以下の事項が記載されていると認められる。

「操作性を良好に保ちつつ、簡単かつ確実にキーの割り当てを変更することができる携帯端末であって,
携帯端末に携帯端末の傾斜角を検出する加速度センサ107を設置し、基準状態から携帯端末を傾斜させた時に、その基準状態に対する傾斜角が予め定めた閾値を越え、かつ、所定時間内に傾斜角が閾値以下になった場合に、キーの割り当てを変更する制御を行う
携帯端末。」

(エ)周知技術

上記(ア)?(ウ)より,携帯端末の技術分野において,加速度センサや磁気センサ等の携帯端末の姿勢を検知できるセンサを有し,基準状態となる姿勢から,携帯端末を傾斜させたときに,基準状態となる姿勢に対する傾斜角等の変化量が予め定められた閾値を超えたり,所定時間内に,傾斜角等の変化量が閾値以下となったりした場合に,一連の姿勢変化の組み合わせを操作入力とする制御を行う技術は,本願の優先日前に周知であったと認められる。

エ 対比

本件補正発明と,引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「携帯型電子機器200は,ユーザの腕に装着可能な腕時計形状に構成されて」おり,「携帯型電子機器200は,装着部材であるリストバンドによって,手首に装着したものである」から,引用発明の「携帯型電子機器200」は「手首装着装置」であるといえる。

また,引用発明の「携帯型電子機器200における制御フロー」は,「第2制御部210がROM240に予め記憶されているプログラムに従って実行しており,」「制御フロー」において「対応する携帯電話100とのリンク処理を行」った「次に,着呼情報が受信されたか否かが判断され,着呼情報を受信した場合,第2制御部210は,着呼処理を行い,」「また,メール情報が受信されたか否かが判断され,着メール情報を受信した場合,第2制御部210は,着メール処理を行って」いる。

ここで,引用発明の「着呼情報」の「受信」または「メール情報」の「受信」は「ソフトウェア・イベント」といい得るものである。

すると,引用発明の「携帯型電子機器200」の「第2制御部210がROM240に予め記憶されているプログラムに従って」,「着呼情報が受信されたか否か」を「判断」したり,「メール情報が受信されたか否か」を「判断」したり,していることは,「手首装着装置」に相当する「携帯型電子機器200」上において,プログラムの処理ステップにより,「着呼情報」の「受信」という「ソフトウェア・イベント」が発生したのか,「着メール情報」の「受信」という「ソフトウェア・イベント」が発生したのかを,「決定」しているといえる。

したがって,本件補正発明と引用発明とは,「手首装着装置の上におけるソフトウェア・イベントの発生を決定するステップ」を備えている点で共通しているといえる。

(イ)引用発明において,「携帯電話100にメールの着信があり,それが携帯型電子機器200に送信されて表示部248にメールの着信があったことが表示された状況において,表示部248には,メールの着信日時及び時刻,リファレンスが表示され」る。

図15(a)の表示部248を参照するとその内容として「メール着信」「12月24日」「PM8:00」「RE:予定確認」が表示されていること認められる。図15(a)の表示部248に表示された「12月24日」「PM8:00」は,「メールの着信日時及び時刻」の例示であり,「RE:予定確認」は「リファレンス」の例示であるといえる。ここで,一般に,「RE:」という文字列は,返信メールの件名において,返信対象となる元メールの件名の先頭にメールプログラムが自動的に付加する文字列であることから,「リファレンス」である「RE:予定確認」は,返信メールの件名を示しているといえる。

つまり,「表示部248に」「表示される」「メール着信」は,「着メール情報」の「受信」という「ソフトウェア・イベント」の種別を表す情報であり,「メールの着信日時及び時刻」や「リファレンス」(メールの件名)も,「着メール情報」の「受信」という「ソフトウェア・イベント」に関連する情報であるから,「表示部248に」「表示される」「メール着信」や「メールの着信日時及び時刻」および「リファレンス」(メールの件名)は,いずれも,「着メール情報」の「受信」という「ソフトウェア・イベントを表す情報」に相当するといえる。

ここで,引用文献1の段落0056では,携帯電話100から携帯型電子機器200へ送信される「着メール情報には、メールを着信した旨、メールの送信元、メールの着信日時及び時間、サブジェクト(件名)、メール本文の内容が含まれる」旨記載されている。

すると,引用発明の「携帯型電子機器200」の「第2制御部210がROM240に予め記憶されているプログラムに従って」,「着メール情報の受信」に応じて,「メールを着信した旨、メールの送信元、メールの着信日時及び時間、サブジェクト(件名)、メール本文の内容が含まれる」「着メール情報」の内から,「メールの着信日時及び時刻」および「リファレンス」(メールの件名)という表示内容を選択(決定)することは,プログラムの処理ステップにより,「前記ソフトウェア・イベントに少なくとも部分的に基づいて」「通知」の内容を「決定」しているといえる。

したがって,本件補正発明と引用発明とは,「通知が,前記ソフトウェア・イベントを表す情報を含むように,前記ソフトウェア・イベントに少なくとも部分的に基づいて,前記通知を決定するステップ」を備えている点で共通しているといえる。

(ウ)引用発明の「携帯型電子機器200」の「第2制御部210は,携帯電話100から携帯型電子機器200が着呼情報又は着メール情報を受信すると(S311),省電力モードから通常モードへ移行させ(S312),表示部248に携帯電話への着呼又はメール着信があった旨を表示させ,振動発生部244を動作させてバイブレーションを発生させ,スピーカ250からアラーム音を出力させるように制御し」ている。

ここで,本願明細書の段落0103において,「通知のレンダリング」の例示として,「少なくとも1つの例示用の実施形態においては,通知のレンダリングの起動は,視覚通知の表示の起動,可聴通知の作動の起動,触覚通知の作動の起動,および/またはこれらに類似したものを有する。」と記載しているから,引用発明の「携帯型電子機器200」の「第2制御部210」が,「携帯型電子機器200が着呼情報又は着メール情報を受信すると」,「表示部248に携帯電話への着呼又はメール着信があった旨」(「メール着信」や,「メールの着信日時及び時刻」および「リファレンス」(メールの件名))「を表示させ,振動発生部244を動作させてバイブレーションを発生させ,スピーカ250からアラーム音を出力させるように制御」することは,前記「通知を決定するステップ」で内容が決定された「通知のレンダリング」をすることに他ならない。

また,「携帯型電子機器200における制御フロー」は「第2制御部210がROM240に予め記憶されているプログラムに従って実行して」いるから,「表示部248に携帯電話への着呼又はメール着信があった旨」(「メール着信」や,「メールの着信日時及び時刻」および「リファレンス」(メールの件名))「を表示させ,振動発生部244を動作させてバイブレーションを発生させ,スピーカ250からアラーム音を出力させる」「通知のレンダリング」も,「第2制御部210」がプログラムの処理ステップに従って実行しているものと認められる。

したがって,本件補正発明と引用発明とは,「前記通知のレンダリングをさせるステップ」を備えている点で共通しているといえる。

(エ)引用発明において,図15(b)に示される「ユーザが携帯型電子機器200を水平状態のt秒間(例えば,3秒)維持した姿勢状態を取ることによって,MC有効動作が行われたと判断されて,MCが有効になったことが表示部248に表示され」ている。ここで,当該表示は,「MCが有効になったこと」を告知するためのものであるから,ユーザは図15(b)に示される姿勢状態をとることで,当該表示内容が表示された「表示部248」を観察可能となっていることが想定されていると認められる。

そして,引用発明の「携帯型電子機器200」のような「腕時計形状」の携帯型電子機器において,「腕時計形状」の携帯型電子機器の表示画面を観察する際に,ユーザーの頭部が「腕時計形状」の携帯型電子機器に向かって方向付けられた状態で使用されることが一般的である。

また,本願明細書の段落0074には,「図4Aの例は,ユーザー402に対してユーザー対向方向において方向付けされた装置401を示している。装置のディスプレイは,ユーザー402が自身の頭部を解剖学的位置において有している際にディスプレイがユーザー402によって観察されえるように,ユーザーの手首から上向きに方向付けられていることがわかる。図3Bに関連して記述したものと同様に,手首装着装置がその上部において装着されている手首の向きは,水平方向の回内運動された向きにおいて方向付けされていることがわかる。」と「ユーザー対向方向」の例が記載されており,例示された本願の図4Aを参照すると,引用発明の図15(b)と同様に,手首装着装置を水平状態に維持した姿勢状態となっていることが認められる。

また,本願明細書の段落0072には,「ユーザー対向方向は,必ずしも,ユーザーの現時点の眼の位置に向かってディスプレイを方向付ける必要はないことを理解されたい。ユーザー対向方向は,ユーザーの頭部が解剖学的位置にある状態において,ユーザーの頭部が手首装着装置に向かって方向付けられた状態において,または,これらに類似した状態において,ユーザーの眼から観察可能となる装置のディスプレイからの方向により,特徴付けされえる。」と記載されており,「ユーザーの現時点での眼の位置に向かってディスプレイを方向付ける必要はない」とされている。

そして,本願明細書の段落0085には,「手首装着装置は,モーションセンサ,加速度計,ジャイロスコープ,および/またはこれらに類似したものなどの1つまたは複数センサを有することができる。このような一例においては,手首装着装置は,手首装着装置との関係における重力の方向を判定するべく,このようなセンサによって受け取られた情報を評価することができる。この結果,手首装着装置は,手首装着装置との関係における重力の方向に少なくとも部分的に基づいて,手首装着装置の向きを判定することができる。」と記載されており,本願補正発明の実施例では,「ユーザー対向方向」の判断において,手首装着装置の方向を重力方向に基づいて判定していることが認められ,ユーザーの頭部の向きや,ユーザーの目の向き等を検出しているものではない。

したがって,引用発明においても,ユーザーの頭部が携帯型電子機器200」に向かって方向付けられた状態において,ユーザーが図15(b)のような「携帯型電子機器200を水平状態のt秒間(例えば,3秒)維持した姿勢状態」を取ることにより,該ユーザーの眼から「携帯型電子機器200」の「表示部248」が観察可能となっているといえるから,引用発明において,ユーザが図15(b)のような「携帯型電子機器200を水平状態のt秒間(例えば,3秒)維持した姿勢状態」を取った「方向」は,「ユーザーの頭部が前記手首装着装置に向かって方向付けられた状態において,該ユーザーの眼から観察可能となる該手首装着装置のディスプレイからの方向であ」る「ユーザー対向方向」に相当するといえる。

(オ)引用発明の「携帯型電子機器200」のような「腕時計形状」の携帯型電子機器において,図15(c)の左側に示す「携帯型電子機器200を上方向の垂直位置に一旦停止させ」た状態では,ユーザーは,「携帯型電子機器200」の表示画面を観察することはできない。

ここで,本願明細書の段落0073には,「非ユーザー対向方向は,必ずしも,ユーザーの現時点の眼の位置から離れる方向にディスプレイを方向付けている必要はないことを理解されたい。非ユーザー対向方向は,ユーザーの頭部が解剖学的位置にある状態において,ユーザーの頭部が手首装着装置に向かって方向付けられた状態において,またはこれらに類似した状態において,ユーザーの眼から観察不能となる装置のディスプレイからの方向によって特徴付けされえる。」と,「非ユーザー対向方向」を説明しており,「非ユーザー対向方向は,必ずしも,ユーザーの現時点の眼の位置から離れる方向にディスプレイを方向付けている必要はない」とされている。

したがって,引用発明において,ユーザーが図15(c)の左側のような「携帯型電子機器200を上方向の垂直位置に一旦停止させ」た「方向」は,「手首装着装置」である「携帯型電子機器200を」「ユーザーの眼から観察不能となる該手首装着装置の該ディスプレイからの方向である」「ユーザー非対向方向」に相当するといえる。

(カ)「携帯型電子機器200を水平状態」から「垂直位置に」遷移する際には,必ず「携帯型電子機器200」を傾斜した状態を経由するから,引用発明において,「携帯型電子機器200を水平状態」に「維持した姿勢状態」から「携帯型電子機器200を上方向の垂直位置に一旦停止させ」る状態への遷移を判断する際には,「手首装着装置をユーザー対向方向から非ユーザー対向方向に傾斜させたと」判断することに対応するといえる。

そして,「着メール処理の制御フローは,主に第2制御部210がROM240に予め記憶されているプログラムに従って実行して」いるから,「携帯型電子機器200を水平状態」に「維持した姿勢状態」から「携帯型電子機器200を上方向の垂直位置に一旦停止させ」る状態への判断も,「携帯型電子機器200」の「第2制御部210」がプログラムの処理ステップに従って実行しているものと認められる。

したがって,本件補正発明と引用発明とは,「前記手首装着装置を,ユーザー対向方向から非ユーザー対向方向に傾斜させたと」「判断するステップであって,」「該ユーザー対向方向は,」「ユーザーの頭部が前記手首装着装置に向かって方向付けられた状態において,該ユーザーの眼から観察可能となる該手首装着装置のディスプレイからの方向であり,」「該非ユーザー対向方向は,」「該ユーザーの眼から観察不能となる該手首装着装置の該ディスプレイからの方向である,ステップ」を備えている点で共通しているといえる。

しかし,本件補正発明では,ユーザー対向方向から非ユーザー対向方向に傾斜させたと判断する際に,ユーザー対向方向閾値に基づいて,該ユーザー対向方向閾値内にある場合にユーザー対向方向と判断し,該ユーザー対向方向閾値を超える場合に非ユーザー対向方向と判断しているのに対して,引用発明では,ユーザー対向方向閾値に基づいて判断していない点で相違している。

(キ)引用発明において,「携帯型電子機器200を上方向の垂直位置に一旦停止させ,その後水平位置まで戻す姿勢状態を取ること」を判断することは,「前記手首装着装置を,前記ユーザー対向方向から前記非ユーザー対向方向に傾斜させたとの判断から,」「前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から前記ユーザー対向方向」「に傾斜させたと判断する」ことに対応するといえる。また,この判断も,「携帯型電子機器200」の「第2制御部210」がプログラムの処理ステップに従って実行しているものと認められる。

したがって,本件補正発明と引用発明とは,「前記手首装着装置を,前記ユーザー対向方向から前記非ユーザー対向方向に傾斜させたとの判断から,」「前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から前記ユーザー対向方向」「に傾斜させたと判断するステップ」を備えている点で共通しているといえる。

しかし,本願発明では,「前記手首装着装置を,前記ユーザー対向方向から前記非ユーザー対向方向に傾斜させたとの判断から,」「前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から前記ユーザー対向方向」「に傾斜させたと判断する」際に,「通知傾斜作動閾値持続時間内」かに基づいて判断しているのに対し,引用発明では,「通知傾斜作動閾値持続時間内」かに基づいて判断しているのか不明である点で相違している。

また,本願発明では,「前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から前記ユーザー対向方向」「に傾斜させたと判断する」際に,「前記ユーザー対向方向とは異なる別のユーザー対向方向」への傾斜も選択的に判断しているのに対し,引用発明では,そのような選択的判断を行っていない点でも相違している。

(ク)引用発明の「ユーザが携帯型電子機器200を水平状態のt秒間(例えば,3秒)維持した姿勢状態」から「携帯型電子機器200を上方向の垂直位置に一旦停止させ,その後水平位置まで戻す姿勢状態を取ることによってメール内容の表示指示のためのMCが確認された状況において,メール本文の一部が表示部248に表示される」ことにおいて,「メール本文の一部が表示部248に表示される」ことは「着メール情報」の「受信」という「ソフトウェア・イベント」を表す情報と結びついた表示動作であるといえる。
したがって,本件補正発明と引用発明とは,「前記手首装着装置を,前記ユーザー対向方向から前記非ユーザー対向方向に傾斜させたとの判断から,」「前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から,前記ユーザー対向方向」「に傾斜させたとの前記判断に少なくとも部分的に基づいて,前記ソフトウェア・イベントと結びついた少なくとも1つの動作の実行をさせるステップ」を備える点で共通しているといえる。


オ 一致点および相違点

本件補正発明と,引用発明とは,以下(ア)の点で一致し,以下(イ)の点で相違する。

(ア)一致点

「手首装着装置の上におけるソフトウェア・イベントの発生を決定するステップと,
通知が,前記ソフトウェア・イベントを表す情報を含むように,前記ソフトウェア・イベントに少なくとも部分的に基づいて,前記通知を決定するステップと,
前記通知のレンダリングをさせるステップと,
前記手首装着装置を,ユーザー対向方向から非ユーザー対向方向に傾斜させたと判断するステップであって,
該ユーザー対向方向は,ユーザーの頭部が前記手首装着装置に向かって方向付けられた状態において,該ユーザーの眼から観察可能となる該手首装着装置のディスプレイからの方向であり,
該非ユーザー対向方向は,該ユーザーの眼から観察不能となる該手首装着装置の該ディスプレイからの方向である,
ステップと,
前記手首装着装置を,前記ユーザー対向方向から前記非ユーザー対向方向に傾斜させたとの判断から,前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から前記ユーザー対向方向に傾斜させたと判断するステップと,
前記手首装着装置を,前記ユーザー対向方向から前記非ユーザー対向方向に傾斜させたとの判断から,前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から,前記ユーザー対向方向に傾斜させたとの前記判断に少なくとも部分的に基づいて,前記ソフトウェア・イベントと結びついた少なくとも1つの動作の実行をさせるステップと,
を含む方法。」

(イ)相違点

a 相違点1

本件補正発明では,ユーザー対向方向から非ユーザー対向方向に傾斜させたと判断する際に,ユーザー対向方向閾値に基づいて,該ユーザー対向方向閾値内にある場合にユーザー対向方向と判断し,該ユーザー対向方向閾値を超える場合に非ユーザー対向方向と判断しているのに対して,引用発明では,ユーザー対向方向閾値に基づいて判断していない点。

b 相違点2

本願発明では,「前記手首装着装置を,前記ユーザー対向方向から前記非ユーザー対向方向に傾斜させたとの判断から,」「前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から前記ユーザー対向方向」「に傾斜させたと判断する」際に,「通知傾斜作動閾値持続時間内」かに基づいて判断しているのに対し,引用発明では,「通知傾斜作動閾値持続時間内」かに基づいて判断しているのか不明である点。

c 相違点3

本願発明では,「前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から前記ユーザー対向方向」「に傾斜させたと判断する」際に,「前記ユーザー対向方向とは異なる別のユーザー対向方向前記ユーザー対向方向」への傾斜も選択的に判断しているのに対し,引用発明では,そのような選択的判断を行っていない点。

d 相違点4

本願発明では,「前記ソフトウェア・イベントと結びついた前記動作は,前記ソフトウェア・イベントと結びついた補足情報を決定するステップと,」「前記補足情報の少なくとも一部分のレンダリングをさせるステップと,」を含んでいるのに対し,引用発明では,補足情報を決定したりレンダリングしたりしているか明らかでない点。


相違点の判断

(ア)相違点1について

引用発明において,「携帯型電子機器200の姿勢状態の検出において,傾斜センサ260の代わりに加速度センサ等を利用することも可能である」とされている。

ここで,上記ウ(エ)で述べたように,携帯端末の技術分野において,加速度センサや磁気センサ等の携帯端末の姿勢を検知できるセンサを有し,基準状態となる姿勢から,携帯端末を傾斜させたときに,基準状態となる姿勢に対する傾斜角等の変化量が予め定められた閾値を超えたり,所定時間内に,傾斜角等の変化量が閾値以下となったりした場合に,一連の姿勢変化の組み合わせを操作入力とする制御を行う技術は,本願の優先日前に周知であったと認められるから,引用発明において,当該周知技術を適用して,ユーザー対向方向から非ユーザー対向方向に傾斜させたと判断する際に,予め定められた閾値であるユーザー対向方向閾値に基づいて,ユーザー対向方向閾値内にある場合にユーザー対向方向と判断し,該ユーザー対向方向閾値を超える場合に非ユーザー対向方向と判断する構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。

(イ)相違点2について

上記ウ(エ)で述べたように,携帯端末の技術分野において,加速度センサ等の携帯端末の姿勢を検知できるセンサを有し,基準状態となる姿勢から,携帯端末を傾斜させたときに,基準状態となる姿勢に対する傾斜角等が予め定められた閾値を超えたり,所定時間内に,傾斜角が閾値以下となったりした場合に,一連の姿勢変化を操作入力とする制御を行う技術は,本願の優先日前に周知であったと認められ,また,連続的な動作を一つのコマンドとして認識する際に,偶発的な動作と区別するために,所定時間内における連続的な動作とすることは,常套手段ともいえるから,引用発明において,上記周知技術を適用して,「前記手首装着装置を,前記ユーザー対向方向から前記非ユーザー対向方向に傾斜させたとの判断から,」「前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から前記ユーザー対向方向」「に傾斜させたと判断する」際に,所定時間内である「通知傾斜作動閾値持続時間内」かに基づいて判断する構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。

(ウ)相違点3について

引用文献1の段落0111(上記イ(キ))および図16(d)(上記イ(コ))には,「携帯型電子機器200」を水平の姿勢から,「携帯型電子機器200」を左手首に装着した場合に,表示画面を,左手親指側,すなわち,表示画面を観察しているユーザー側の方に傾けることにより,メール本文をスクロール表示させることが記載されている。
また,引用発明のモーションコマンド(MC)を構成する動作について「上記の例は一例であって,他の動作により前述した指示及び/又は他の指示を行わせることが可能であ」るとされている。

したがって,引用発明の「携帯型電子機器200」のような腕時計型電子機器において,図15(b)に示す水平の姿勢とともに,図16(d)に示す表示画面を手前側に傾けた姿勢は,表示画面を観察する際に用いられる姿勢の一つであるから,引用発明において,水平の姿勢の他に,表示画面をユーザー側に傾けた姿勢を,メール本文の一部を表示させるための姿勢として採用することにより,相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。

(エ)相違点4について

引用発明の「ユーザが携帯型電子機器200を水平状態のt秒間(例えば,3秒)維持した姿勢状態」から「携帯型電子機器200を上方向の垂直位置に一旦停止させ,その後水平位置まで戻す姿勢状態を取ることによってメール内容の表示指示のためのMCが確認された状況において,メール本文の一部が表示部248に表示される」ことにおいて,「メール本文の一部が表示部248に表示される」ことは,「メールの着信」(「着メール情報」の「受信」)という「ソフトウェア・イベント」を表す情報」と結びついた表示動作であるといえる。

ここで,本願明細書の段落0115において,「補足情報は、通知が示さなかったソフトウェア・イベントと関連付けられた情報である。この結果、通知は、補足情報を除外している。ソフトウェア・イベントがメッセージの受信である状況においては,補足情報は,通知から省略された情報でありえる。少なくとも1つの例示用の実施形態においては,補足情報は,メッセージの本文の少なくとも一部分である。」とされているから,本願発明において,「補足情報」とは,「通知が示さなかったソフトウェア・イベントと関連付けられた情報であ」り,「ソフトウェア・イベントと結びついた」「通知から省略された情報であ」るといえる。

引用発明において,「着メール情報」の「受信」という「ソフトウェア・イベント」の「通知」では,「メールの着信日時及び時刻」および「リファレンス」(メールの件名)を表示しているものの,「メール本文」は表示していないから,「メール本文」は,「通知が示さなかったソフトウェア・イベントと関連付けられた情報であ」り,「ソフトウェア・イベントと結びついた」「通知から省略された情報であ」る「補足情報」に相当するといえる。

そして,引用発明において,「メール本文の一部」を「表示部248に表示」することは,「補足情報の少なくとも一部分のレンダリングを」することに他ならない。

また,「メール本文の一部が表示部248に表示」するために,「メール本文」のどの部分を表示するか決定する処理も,「メール本文の一部」を「表示部248に表示」する処理も,「携帯型電子機器200」の「第2制御部210」がプログラムの処理ステップに従って実行しているものと認められる。

したがって,引用発明も,「前記手首装着装置を,前記ユーザー対向方向から前記非ユーザー対向方向に傾斜させたとの判断から,」「前記手首装着装置を,前記非ユーザー対向方向から,前記ユーザー対向方向」「に傾斜させたとの前記判断に少なくとも部分的に基づいて,前記ソフトウェア・イベントと結びついた少なくとも1つの動作の実行をさせるステップ」であって,「前記ソフトウェア・イベントと結びついた前記動作は,前記ソフトウェア・イベントと結びついた補足情報を決定するステップと,」「前記補足情報の少なくとも一部分のレンダリングをさせるステップと」を実質的に含んでいるといえるから,相違点4は実質的な相違点ではない。

(オ)請求人の主張について

請求人は,審判請求書の「2.独立特許要件について」において,「補正後の独立形式の請求項1は,発明特定事項「前記ソフトウェア・イベントと結びついた前記動作は,前記ソフトウェア・イベントと結びついた補足情報を決定するステップと,前記補足情報の少なくとも一部分のレンダリングをさせるステップと」を含むものです。」「引用文献はいずれも,この発明特定事項を,開示,示唆していません。」と主張している。

しかし,上記(エ)で述べたように,引用発明も,「前記ソフトウェア・イベントと結びついた前記動作は,前記ソフトウェア・イベントと結びついた補足情報を決定するステップと,」「前記補足情報の少なくとも一部分のレンダリングをさせるステップと」を実質的に含んでいると認められるから,上記請求人主張は採用できない。

(カ)作用効果について
また,引用発明において,上記相違点1ないし4に係る構成を採用することによる作用効果も,当業者が容易に想到しうる範囲内のものに過ぎない。

キ 小括

よって,本件補正発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明

上述のとおり,令和元年5月14日の本件手続補正は却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成30年2月8日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-18の記載により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という)は,上記第2の1.(1)に記載されたとおりのものである。

2.引用発明および周知技術

引用文献1の記載事項及び引用発明は,上記第2の2.(2)「イ(ク)引用発明」に記載したとおりであり,本願優先日前に周知の技術は,上記第2の2.(2)「ウ(エ)周知技術」に記載されたとおりである。

3.本願発明と引用発明との対比・判断

本願発明は,上記第2の2(1)で述べたように,本件補正発明から,本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記手首装着装置を,ユーザー対向方向から非ユーザー対向方向に傾斜させたと判断するステップ」について,「ユーザー対向方向閾値に基づいて」との限定を付加し,発明を特定するために必要な事項である「ユーザー対向方向」について,「ユーザー対向方向閾値内にあるものであ」る旨の限定を削除し,発明を特定するために必要な事項である「非ユーザー対向方向」について,「ユーザー対向方向閾値を超えるものであ」る旨の限定を削除し,発明を特定するために必要な事項である「ソフトウェア・イベントと結びついた少なくとも1つの動作の実行」について,「前記ソフトウェア・イベントと結びついた前記動作は,前記ソフトウェア・イベントと結びついた補足情報を決定するステップと,」「前記補足情報の少なくとも一部分のレンダリングをさせるステップと,」を含むとの限定を削除したものとなり,本願発明と引用発明との相違点は,上記第2の2.(2)オ(イ)「b 相違点2」のみとなる。

そして,上記相違点2は,上記第2の2.(2)カ「(イ)相違点2について」で述べたように,当業者が容易に想到し得たものであり,その作用効果についても,上記第2の2.(2)カ「(カ)作用効果について」で述べたように,当業者が容易に想到しうる範囲内のものに過ぎない。

したがって,本願発明は,引用発明に周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 むすび

以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,本願は,その余の請求項について論及するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-06-18 
結審通知日 2020-06-23 
審決日 2020-07-06 
出願番号 特願2016-554455(P2016-554455)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星野 昌幸野村 和史  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 野崎 大進
林 毅
発明の名称 手首装着装置の傾斜に少なくとも部分的に基づいた動作の実行  
代理人 南山 知広  
代理人 三橋 真二  
代理人 森 啓  
代理人 青木 篤  
代理人 鶴田 準一  
代理人 胡田 尚則  
代理人 渡辺 陽一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ