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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1368649
審判番号 不服2019-5671  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-26 
確定日 2020-11-26 
事件の表示 特願2017-236009「除菌フィルタの殺菌方法及び殺菌装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月24日出願公開、特開2019- 98118〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成29年12月8日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。

平成30年11月16日付け:拒絶理由通知
平成31年 1月25日 :意見書及び手続補正書の提出
平成31年 2月 1日付け:拒絶査定
平成31年 4月26日 :審判請求書及び手続補正書の提出

第2 平成31年 4月26日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成31年 4月26日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正における特許請求の範囲の補正は、請求項1についての次の補正事項を含む。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
供給されるエアを除菌する除菌フィルタに、ボイラー加熱水蒸気を熱源として、逆浸透膜を通した水を熱交換して得られる加熱水蒸気を供給し、前記除菌フィルタの下流から排出される前記加熱水蒸気の温度を所定時間ごとに測定しつつ、測定された温度によりF値を演算し、当該F値が目標値に達したときに前記除菌フィルタの殺菌を終了することを特徴とする除菌フィルタの殺菌方法。」

(2) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正前の、平成31年 1月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲のうち、請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
供給されるエアを除菌する除菌フィルタに加熱水蒸気を供給し、前記除菌フィルタの下流から排出される前記加熱水蒸気の温度を所定時間ごとに測定しつつ、測定された温度によりF値を演算し、当該F値が目標値に達したときに前記除菌フィルタの殺菌を終了することを特徴とする除菌フィルタの殺菌方法。」

2 補正の適否
本件補正の内、請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「加熱水蒸気」について、「ボイラー加熱水蒸気を熱源として、逆浸透膜を通した水を熱交換して得られる」との限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1) 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2) 引用文献の記載事項等
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2000-197882号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある。なお、下線は合議体で付したものである。

「【請求項1】超純水製造装置と、超純水製造装置で製造された超純水を貯蔵する貯蔵タンクと、貯蔵タンクから使用箇所に超純水を導く管路と、貯蔵タンクに接続された無菌フィルタと、貯蔵タンクおよび無菌フィルタに蒸気を供給する蒸気供給手段と、貯蔵タンクおよび無菌フィルタに圧縮空気を供給する圧縮空気供給手段とから構成された超純水供給装置において、(1)蒸気供給手段からの蒸気を、無菌フィルタの一次側に供給し、無菌フィルタの一次側に設けた第1のドレイン排出手段により排出するとともに、無菌フィルタの二次側に設けた第2のドレイン排出手段により排出するよう構成し、(2)蒸気供給手段からの蒸気を、貯蔵タンクに供給し、貯蔵タンクに設けた第3のドレイン排出手段により排出するよう構成し、(3)圧縮空気供給手段からの圧縮空気を、無菌フィルタの一次側に供給し、無菌フィルタの一次側に設けた第1のドレイン排出手段により排出するとともに、無菌フィルタの二次側に設けた第2のドレイン排出手段により排出するか、あるいは、無菌フィルタの二次側から貯蔵タンクを介して貯蔵タンクに設けた第3のドレイン排出手段により排出するよう構成し、たことを特徴とする超純水供給装置。
・・・
【請求項3】請求項1または2記載の超純水供給装置の滅菌方法であって、(1)圧縮空気供給手段からの圧縮空気を無菌フィルタを介して貯蔵タンクに供給し、貯蔵タンク内の超純水を第3のドレイン排出手段から抜き、(2)蒸気供給手段からの蒸気を、無菌フィルタの一次側に供給し、無菌フィルタの一次側に設けた第1のドレイン排出手段により排出するとともに、無菌フィルタの二次側に設けた第2のドレイン排出手段により排出して、無菌フィルタを滅菌し、(3)圧縮空気供給手段からの圧縮空気を、無菌フィルタの一次側に供給し、無菌フィルタの一次側に設けた第1のドレイン排出手段により排出するとともに、無菌フィルタの二次側に設けた第2のドレイン排出手段により排出して、無菌フィルタ内の蒸気を追い出し、(4)蒸気供給手段からの蒸気を、貯蔵タンクに供給し、貯蔵タンクに設けた第3のドレイン排出手段により排出して、貯蔵タンクを滅菌し、(5)圧縮空気供給手段からの圧縮空気を、無菌フィルタの一次側に供給し、無菌フィルタの一次側に設けた第1のドレイン排出手段により排出するとともに、無菌フィルタの二次側から貯蔵タンクを介して貯蔵タンクに設けた第3のドレイン排出手段により排出して、貯蔵タンク内の蒸気を追い出して冷却する、ことを特徴とする超純水供給装置の滅菌方法。」

「【0015】次に、上述した本発明の超純水供給装置における滅菌方法について説明する。まず、圧縮空気供給手段7からの圧縮空気を管路18、バルブV11、無菌フィルタ5を介して貯蔵タンク2に供給し、貯蔵タンク2内の超純水を第3のドレイン排出手段を構成する管路12、バルブV4、バルブV5を介して抜き取る(ステップ1)。次に、蒸気供給手段6からの蒸気を、管路13、バルブV6を介して無菌フィルタ5の一次側に供給し、無菌フィルタ5の一次側に設けた第1のドレイン排出手段を構成する管路14、オリフィス22により排出するとともに、無菌フィルタ5の二次側に設けた第2のドレイン排出手段を構成する管路15、バルブV7、バルブV8、オリフィス23により排出して、無菌フィルタ5を滅菌する(ステップ2)。次に、圧縮空気供給手段7からの圧縮空気を、管路13、バルブV6を介して無菌フィルタ5の一次側に供給し、無菌フィルタの5一次側に設けた上述した第1のドレイン排出手段により排出するとともに、無菌フィルタ5の二次側に設けた上述した第2のドレイン排出手段により排出して、無菌フィルタ内の蒸気を追い出す(ステップ3)。」

「【0017】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、滅菌蒸気の無菌フィルタ内での流れを一次側から二次側となるよう構成しているため、さらに、滅菌に使用した蒸気を排出すると同時に一次側からも排出するよう構成しているため、無菌フィルタにかかる圧力を減少させ、無菌フィルタの損傷を防止することができる。また、無菌フィルタの除菌と貯蔵タンクの除菌とを各別に実施できるよう構成しているため、貯蔵タンクの部分が温度上昇するまでの間無菌フィルタに蒸気を通す必要がなく、無菌フィルタの寿命を長くすることができるとともに、無菌フィルタの滅菌時間の制御が可能となる。」

「【図1】



イ 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、その請求項3において、超純粋製造装置の滅菌方法が記載されており、そのうち超純粋製造装置に備えられている圧縮空気供給手段からの圧縮空気が通過する無菌フィルタの滅菌方法として「圧縮空気供給手段からの圧縮空気が通過する無菌フィルタの滅菌方法であって、蒸気供給手段からの蒸気を、無菌フィルタの一次側に供給し、無菌フィルタの一次側に設けた第1のドレン排出手段から排出するとともに、無菌フィルタの二次側に設けた第2のドレン排出手段により排出する、滅菌方法。」が記載されている。
ここで、「蒸気供給手段からの蒸気」について、「本発明によれば、滅菌蒸気の無菌フィルタ内での流れを」(段落【0017】)との記載及び蒸気により滅菌を行っていることからみて、当該蒸気供給手段からの「蒸気」は、「加熱水蒸気」であるといえるから、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「圧縮空気供給手段からの圧縮空気が通過する無菌フィルタの滅菌方法であって、蒸気供給手段からの加熱水蒸気を、無菌フィルタの一次側に供給し、無菌フィルタの一次側に設けた第1のドレン排出手段から排出するとともに、無菌フィルタの二次側に設けた第2のドレン排出手段により排出する、滅菌方法。」

ウ 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2015-6921号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

「【請求項1】
複数個の充填ノズルへ同時にpH4.6以上の飲料を送る飲料供給系配管に熱水又は加熱蒸気を送り、この熱水又は加熱蒸気をすべての充填ノズルから吐出させながら、上記飲料供給系配管の所定個所及びすべての充填ノズルの温度を所定時間ごとに検知しつつF値を演算し、そのうち最小のF値が目標値に到達したところで、殺菌工程を終了する飲料供給系配管の殺菌方法であって、
F値は次式
【数1】

を用いて演算し、上式中、Tr=121.1、Z=10とすることを特徴とする飲料供給系配管の殺菌方法。」

「【0003】
従来、飲料充填経路内を通る飲料自体については、その飲料の殺菌値であるF値を測定し、その履歴情報に基づいて飲料の品質が保証できる程度に殺菌されているか否かを確認することが行われている(例えば、特許文献4参照。)。」

エ 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用された本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である国際公開第2014/103787号(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。

「請求の範囲
[請求項1] 加熱殺菌部を経て充填機内へと飲料を送る飲料供給系配管を備えた飲料充填装置の殺菌方法において、上記飲料供給系配管に熱水又は加熱蒸気を送り、飲料供給系配管の複数個所の温度を所定時間ごとに検知しつつF値を演算し、そのうち最小のF値が目標値に到達したところで、殺菌工程を終了することを特徴とする飲料充填装置の殺菌方法。
[請求項2] 請求項1に記載の飲料充填装置の殺菌方法において、飲料供給系配管の加熱殺菌部を経由する上流側配管部に対し上流側帰還路を設けて上流側循環路を形成し、上流側循環路には熱水を流しつつF値を演算し、上記上流側配管部より下流側から充填機内に至る下流側配管部に対し加熱蒸気を通しつつF値を演算し、各々の最小のF値が目標値に到達したところで、殺菌工程を終了することを特徴とする飲料充填装置の殺菌方法。
[請求項3] 請求項1又は請求項2に記載の飲料充填装置の殺菌方法において、F値は次式
[数1]

を用いて演算することを特徴とする飲料充填装置の殺菌方法。」

「[0003] 従来、飲料充填経路内を通る飲料自体については、その飲料の殺菌値であるF値を測定し、その履歴情報に基づいて飲料の品質が保証できる程度に殺菌されているか否かを確認することが行われている(例えば、特許文献4参照。)」

オ 引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用された本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特表2016-523598号公報(以下、「引用文献4」という。)には、次の記載がある。

「【0036】
いくつかの実施形態では、前記滅菌剤は蒸気である。蒸気を製品経路に供給する導管システム内に温度センサーを装備してもよい。前記プロセッサーはこの温度センサーと通信接続されており前記導管システム内の蒸気の温度をモニターすることが可能である。前記蒸気の温度は前記製品経路内に存在しうる菌類のタイプと製品経路の予測汚染レベルによって調整される。前記蒸気の温度は約110℃?約150℃、または約110℃?約130℃の範囲が目安である。一実施形態では、前記蒸気の温度は約121.1℃である。」

「【0045】
前記プロセッサーが図1の工程2に表される滅菌剤供給を終了する三つ目の判断基準として製品経路内のF_(0)値がある。この判断基準を使った実施形態として、滅菌剤が蒸気である場合がある。前記プロセッサーはF_(0)値の算出のために製品経路の計測温度を用いることが出来る。F_(0)は以下の式で定義され、
【0046】
【数1】

ここで、
Δt 連続したT値計測の間隔
T 加熱温度(製品経路の温度)
Tb 121℃(蒸気滅菌の場合)
Z 滅菌能力の対数変化の温度単位(一般的に、10℃が用いられる)
【0047】
F_(0)値は、前記滅菌工程によって製品経路内を121℃で滅菌したときの時間(分)と等価で表される。前記F_(0)値の算出には、z値として10℃が一般的に仮定される。z値は加熱致死所要時間曲線の傾きであり致死率を10倍にするのに必要な温度の変化の値で表される。前記F_(0)値は前記製品経路内で用いられる温度の変動によって変化する。
【0048】
F_(0)値を前記製品経路が求める滅菌状態に達したかの決定をするのに用いる実施形態では、前記F_(0)値、約50分?約70分、または約55分?約65分の範囲のとき前記製品経路への滅菌剤の供給を終了する。一実施形態として、蒸気が滅菌剤であり、前記製品経路への供給は前記F_(0)値が約60分に達すれば自動的に止まる。
【0049】
基準量の滅菌剤が製品経路に供給された後、または求められる度合いの滅菌状態が前記に述べた判断基準に沿って確かめられた後、図1の工程3に示されるように製品経路への滅菌剤の供給は終了させられる。」

カ 引用文献6の記載事項
本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2015-84795号公報(以下、「引用文献6」という。)には、次の記載がある。

「【背景技術】
【0002】
病院等で使用される医療用器具や医療用衣類等を滅菌する滅菌装置として、高温の飽和水蒸気を用いる蒸気滅菌装置がある。この種の蒸気滅菌装置は、被滅菌物を滅菌チャンバに収容して密閉し、この滅菌チャンバ内に、摂氏100度を超える過熱状態の飽和水蒸気(以下、単に蒸気という)を送り込み、この蒸気によって、被滅菌物に付着した細菌などを死滅させるものである。
【0003】
この種の蒸気滅菌装置では、蒸気の質によって滅菌効果や乾燥効果が左右されるため、良質な蒸気の供給が必要である。そこで近年は、逆浸透膜(RO膜)を用いて濾過された純水(RO水)を、通常の蒸気によって間接的に加熱して気化させることにより得られる、不純物を含まない清浄な蒸気(以下、クリーン蒸気という)を使用する装置が多く、蒸気の質に対する意識も高まっている。」

「【0024】
詳しくは、まずクリーン蒸気供給源2において、純水タンク21に貯留された純水Wが熱交換器22において不図示のボイラからの通常蒸気V1で加熱されることによって気化してクリーン蒸気V2を発生し、このクリーン蒸気V2は、熱交換器22の上部から、給蒸管P2、純水タンク21の上部気室21a及び給蒸管P3を介して本体容器1におけるジャケット12へ供給される。給蒸管P2などでクリーン蒸気V2の一部が凝縮することにより生じるドレンは、純水タンク21の上部気室21aを通る際に分離され、純水タンク21へ還流される。
【0025】
なお、純水タンク21に貯留される純水Wとしては、逆浸透膜(RO膜)を用いて濾過することによって得られる、不純物をほとんど含まないRO水などが好適に用いられる。
【0026】
ジャケット12へ供給されたクリーン蒸気V2の一部は、ジャケット12内を加温することで熱を放出するのに伴い凝縮してドレン(純水Wからなる水滴)Dとなるが、このドレンDはジャケット12内を落下して、その底部12aに開口したドレン回収管P4を介してクリーン蒸気供給源2内のドレン回収タンク23に回収される。そして、ジャケット12から回収されたドレンD(純水W)は、ドレン回収タンク23から給水管P5を介して純水タンク21へ還流されるので、再び熱交換器22においてクリーン蒸気V2となって滅菌槽11内へ供給されることになり、純水Wの使用量を節減することができる。
【0027】
そして、ジャケット12内のクリーン蒸気V2は、制御弁13が開かれることによってこの制御弁13及び給蒸管P6を介して滅菌槽11内へ供給される。そして、このクリーン蒸気V2は、上述のように、ジャケット12のドレンセパレータ機能によってドレンDが分離除去されるばかりでなく、ジャケット12はステンレス鋼からなるものであるため、クリーン蒸気V2がこのジャケット12内を経由する際に錆などの不純物によって汚染されることはない。このため、滅菌槽11には液体分や不純物をほとんど含まない良質のクリーン蒸気V2が供給されることになる。」

(3) 対比・判断
ア 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「圧縮空気供給手段からの圧縮空気が通過する無菌フィルタ」は、本件補正発明における「供給されるエアを除菌する除菌フィルタ」に相当する。
さらに、引用発明の「滅菌」は、本件補正発明の「殺菌」に相当する。

してみると、本件補正発明と引用発明は、
「供給されるエアを除菌する除菌フィルタに、加熱水蒸気を供給して行う、除菌フィルタの殺菌方法。」
で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
加熱水蒸気による除菌を終了するタイミングについて、本件補正発明は、「前記除菌フィルタの下流から排出される前記加熱水蒸気の温度を所定時間ごとに測定しつつ、測定された温度によりF値を演算し、当該F値が目標値に達したときに前記除菌フィルタの殺菌を終了する」と特定するのに対し、引用発明は、この点を特定しない点。
<相違点2>
加熱水蒸気に関し、本件補正発明は、「ボイラー加熱水蒸気を熱源として、逆浸透膜を通した水を熱交換して得られる」と特定するのに対し、引用発明は、この点を特定しない点。

イ 相違点についての判断
上記相違点について順次検討する。
・相違点1について
加熱水蒸気での殺菌を行う場合においてエネルギー効率向上のために殺菌対象の場所の温度を検出してF値を算出し、F値が所定値に達したときに殺菌を終了することは周知の技術(引用文献2ないし4、以下、「周知技術1」という。)である。
引用発明も、加熱水蒸気による殺菌処理であるから、そのエネルギー効率向上のために、周知技術1を適用することは容易であり、設ける温度センサの位置を除菌フィルタの下流側とすることは適宜なし得る設計事項といえる。そうすると、引用発明の加熱水蒸気での殺菌に関し、前記除菌フィルタの下流から排出される前記加熱水蒸気の温度を所定時間ごとに測定しつつ、測定された温度によりF値を演算し、当該F値が目標値に達したときに前記除菌フィルタの殺菌を終了するようにすることは、周知技術1から、当業者が容易に想到し得たことである。
・相違点2について
殺菌に利用される加熱水蒸気に関して、クリーン蒸気を、逆浸透膜を用いて濾過することによって得られる不純物をほとんど含まないRO水をボイラからの通常水蒸気V1で加熱することによって気化して得ることは従来周知の技術(以下、「周知技術2」という。要すれば、引用文献6の【0003】、【0024】?【0027】参照のこと)である。
そうすると、引用発明の殺菌に利用する加熱水蒸気についても、当該周知技術2の水蒸気を利用するようにすること、すなわち、ボイラー加熱水蒸気を熱源として、逆浸透膜を通した水を熱交換して得られたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 審判請求書における審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、引用文献1ないし5(審決注:引用文献5は拒絶査定に用いられていない文献。)には、除菌フィルタを殺菌する加熱水蒸気が、「ボイラー加熱水蒸気を熱源として、逆浸透膜を通した水を熱交換して得られる加熱蒸気」であること、また、除菌フィルタに加熱水蒸気を供給する加熱水蒸気供給手段が、「ボイラー加熱水蒸気を熱源として逆浸透膜を通した水と熱交換して加熱水蒸気を発生させる加熱水蒸気供給手段」であることは記載も示唆もなく、本願請求項1及び請求項5に係る発明は、引用文献1-5により当業者が容易に想到できたものではない旨主張する。
しかしながら、殺菌に利用する加熱水蒸気を、ボイラー加熱水蒸気を熱源として逆浸透膜を通した水と熱交換して加熱水蒸気を発生させる加熱水蒸気供給手段から得ることは、上記イの相違点2において検討したとおり、周知の技術であるから、引用文献1-5に記載がないからといって、当業者が容易に想到できたものではないとすることはできず、当該審判請求人の主張は採用できない。

エ 小括
上記アないしウのとおり、本件補正発明は、引用発明、すなわち引用文献1に記載された発明、周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4) 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
平成31年 4月26日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成31年 1月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明、引用文献2ないし4に記載の技術事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、との理由を含むものである。

引用文献1:特開2000-197882号公報
引用文献2:特開2015-6921号公報
引用文献3:国際公開第2014/103787号
引用文献4:特表2016-523598号公報

3 引用文献1ないし4の記載等
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし4の記載事項等は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「ボイラー加熱水蒸気を熱源として、逆浸透膜を通した水を熱交換して得られる」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記限定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明、周知技術1及び2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記限定事項が付加されていない本願発明は、同様に、引用文献1に記載された発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-09-25 
結審通知日 2020-09-29 
審決日 2020-10-12 
出願番号 特願2017-236009(P2017-236009)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61L)
P 1 8・ 121- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
細井 龍史
発明の名称 除菌フィルタの殺菌方法及び殺菌装置  
代理人 石橋 良規  
代理人 特許業務法人 インテクト国際特許事務所  

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